(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】発光装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/62 20100101AFI20240606BHJP
H01L 33/48 20100101ALI20240606BHJP
H01L 23/02 20060101ALI20240606BHJP
H01L 23/20 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
H01L33/62
H01L33/48
H01L23/02 F
H01L23/20
(21)【出願番号】P 2019222029
(22)【出願日】2019-12-09
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東山 鼓
【審査官】東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-180066(JP,A)
【文献】特開2001-203392(JP,A)
【文献】特開2005-175458(JP,A)
【文献】特開2015-220330(JP,A)
【文献】特開2009-140835(JP,A)
【文献】特開2016-219505(JP,A)
【文献】特開2017-059617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
H01L 23/02
H01L 23/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の1の面に配され、紫外光を放射する出光面を有し、前記出光面に炭化水素または炭素からなる物質を含む炭素層を有する発光素子と、
前記紫外光を透過する材料からなりかつ前記発光素子の前記出光面と対向して配置され、前記基板と共に前記発光素子を収容して封止する収容空間を形成する収容部材と、を有する発光装置であって、
前記炭素層を有することによって、前記発光装置からの前記紫外光の光出力が減少することを特徴とする発光装置。
【請求項2】
1の面に金属配線が形成された基板と、
前記基板の前記1の面に配され、紫外光を放射する出光面を有し、前記出光面に炭化水素または炭素からなる物質を含む炭素層を有する発光素子と、
前記紫外光を透過する材料からなりかつ前記発光素子の前記出光面と対向して配置され、前記基板と共に前記発光素子を収容して封止する収容空間を形成する収容部材と、を有する発光装置であって、
前記発光素子は前記金属配線に有機物のフラックスを含む揮発性ソルダーペーストを用いて接合され、
前記炭素層は、前記揮発性ソルダーペーストに含まれる前記フラックスが炭化することで形成されていることを特徴とする発光装置。
【請求項3】
前記炭素層は、グラファイト、アモルファスカーボン又はダイヤモンドライクカーボンの何れかを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記収容空間には、窒素ガスが充填されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載の発光装置。
【請求項5】
前記収容空間には、アルゴン、キセノン又はクリプトンガスが充填されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載の発光装置。
【請求項6】
前記基板と前記収容部材とが金属層によって接合されることで、前記収容空間が気密態様で封止されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載の発光装置。
【請求項7】
前記基板の前記1の面には、凹部が形成されており、前記凹部と前記収容部材とによって前記収容空間が形成されていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1に記載の発光装置。
【請求項8】
前記収容部材の前記基板の前記1の面に対向する面には、凹部が形成されており、前記基板と前記収容部材の凹部とによって前記収容空間が形成されていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1に記載の発光装置。
【請求項9】
前記基板は板状であり、前記基板の前記1の面には、前記発光素子が接合されている金属配線が形成されており、前記発光素子及び前記金属配線と離間されかつ、前記発光素子及び前記金属配線を取り囲む枠状の側壁部材が配されており、前記基板と前記側壁部材及び前記収容部材とによって前記収容空間が形成されていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1に記載の発光装置。
【請求項10】
1の面に金属配線が形成されている基板の前記金属配線上に揮発性ソルダーペーストを塗布する工程と、
前記金属配線上に塗布された揮発性ソルダーペースト上に、紫外光を放射する出光面を有する発光素子を載置する工程と、
前記揮発性ソルダーペーストを加熱して前記金属配線と前記発光素子を接合する工程と、
前記基板の前記1の面に前記紫外光を透過する透光部を有する収容部材を載置して、前記収容部材と前記基板とによって前記発光素子を封止する且つ収容空間を形成する工程と、
前記発光素子に前記金属配線を介して通電を行い、前記発光素子の前記出光面に炭化水素または炭素からなる物質を含む炭素層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項11】
前記発光装置の製造方法は、前記揮発性ソルダーペーストが加熱された後に、前記揮発性ソルダーペーストに残留したフラックスを追揮発する工程と、
前記基板及び前記発光素子の表面に付着した前記フラックスの残渣をエキシマ光で洗浄する工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の発光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線を照射する発光素子を含む発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
400nm以下の発光波長を有する紫外線は、蛍光インクによる紙幣等の偽造検出、樹脂硬化や水又は大気の滅菌といった多様な分野に応用されている。近年、紫外線を照射する発光装置として、従来の水銀蒸気を光源とした発光装置に置き換わり、紫外線発光ダイオード(Light Emitting diode:以下、LEDと称する)などの半導体発光素子を有する発光装置が普及している。また、普及に伴いさまざまな問題も明らかになり、それらの解決方法が開示されている。
【0003】
例えば、引用文献1には、パッケージ内部に酸素を含む封止ガスを充填して封止することで、パッケージ内に存在する水素による半導体層の抵抗増加の影響から及ぼされる発光素子の特性劣化を防止する技術が開示されている。
【0004】
また、例えば、引用文献2には、気密封止されたパッケージ内に水素吸蔵材を設けることで、パッケージ内に存在する酸素と炭化水素の重合反応による発光素子の特性劣化を防止する技術が開示されている。
【0005】
また、例えば、引用文献3には、パッケージ封止時に酸素を含む第1ガスから酸素濃度を低下させる第2ガスに切り替えることで、接合材の酸化による加熱溶融の阻害をさせずに信頼性の高い封止を可能とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-67373号公報
【文献】特開2000-133868号公報
【文献】特開2018-93137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体発光素子は、1つのウェハから複数の発光素子の製造を行う。1つのウェハから複数の発光素子を製造すると、所定の印加電圧に対して発光出力が高い素子から低い素子まで出力が分布する。しかしながら、発光素子を用いた発光装置においては、出荷される発光装置の発光出力は一定であることが求められる。それ故、製造された発光素子の発光出力に応じて選別を行い、所望する発光出力を有する発光素子のみを発光装置に用いることとなる。よって、1つのウェハから得られる発光素子の有効利用数量が低下し、コストの増加を招く問題がある。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、1つのウェハから得られる複数の発光素子の各々の発光出力の差異によらず、所望の発光出力を有する発光装置及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る発光装置は、基板と、前記基板の1の面に配され、紫外光を放射する出光面を有し、前記出光面に炭化水素または炭素からなる物質を含む炭素層を有する発光素子と、前記紫外光を透過する材料からなりかつ前記発光素子の前記出光面と対向して配置され、前記基板と共に前記発光素子を収容して封止する収容空間を形成する収容部材と、を有することを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る発光装置の製造方法は、1の面に金属配線が形成されている基板の金属配線上に揮発性ソルダーペーストを塗布する工程と、金属配線上に塗布された揮発性ソルダーペースト上に、紫外光を放射する出光面を有する発光素子を載置する工程と、記揮発性ソルダーペーストを加熱して金属配線と発光素子を接合する工程と、基板の1の面に紫外光を透過する透光部を有する収容部材を載置して、収容部材と基板とによって発光素子を封止する且つ収容空間を形成する工程と、発光素子に金属配線を介して通電を行い、発光素子の出光面に炭化水素または炭素からなる物質を含む炭素層を形成する工程と、を含むことを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】本発明の実施例1に係る発光装置10の上面図である。
【
図1B】
図1AのA-A線に沿った発光装置10の断面図である。
【
図2】本発明の実施例1に係る発光装置10の製造工程を示すフロー図である。
【
図3A】本発明の実施例1に係る発光装置10の製造工程を示す説明図である。
【
図3B】本発明の実施例1に係る発光装置10の製造工程を示す説明図である。
【
図3C】本発明の実施例1に係る発光装置10の製造工程を示す説明図である。
【
図3D】本発明の実施例1に係る発光装置10の製造工程を示す説明図である。
【
図3E】本発明の実施例1に係る発光装置10の製造工程を示す説明図である。
【
図4】本発明の実施例に係る発光装置10の通電後における発光素子30の出光面のTOF-SIMSスペクトルを示すグラフである。
【
図5】本発明の実施例に係る発光装置10の通電時間と光出力維持率との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の変形例に係る発光装置10の通電時間と光出力維持率との関係を示すグラフである。
【
図7A】本発明の発光装置の封止構造の例を示した断面図である。
【
図7B】本発明の発光装置の封止構造の例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。尚、以下の説明及び添付図面においては、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符号を付している。
【実施例1】
【0013】
図1Aは、発光装置10の模式的な上面図を示している。
図1Bは、
図1AのA-A線に沿った断面図を示している。
【0014】
尚、
図1Aは窓部材40がない場合での仮想上面図であり、窓部材40は
図1Aの一点鎖線の位置に配置されている。
【0015】
発光装置10は、一方の面に凹形状のキャビティが形成されている基板20を有する。また、発光装置10は、基板20のキャビティ内に格納された発光素子30及び保護素子31を有する。また、発光装置10は、基板20のキャビティを覆うように固定された窓部材40を有する。
【0016】
基板20は、矩形状の平面形状を有する基板であり、例えば、窒化アルミニウム(AlN)等の高い熱伝導率と気密性を備えたセラミックスからなる。本実施例においては、AlNを基板20として用いた場合を説明する。
【0017】
基板20の一方の面である上面21には、底面23及び側面24を有する凹形状のキャビティが形成されている。言い換えれば、基板20には、基板20の一方の面の周辺に延在する枠状の側壁部22によって囲まれた底面23を有する凹状のキャビティが形成されている。
【0018】
キャビティの底面23の中央には、例えば、金属等の導電層上にタングステン(W)/ニッケル(Ni)/金(Au)等のめっきが施された平面形状が矩形の素子載置部25が形成されている。
【0019】
発光素子30は、例えば、紫外光を放射する発光ダイオード(LED)等の上面形状が矩形の半導体発光素子であり、素子載置部25上に載置されている。
図1Bに示すように本実施例においては、発光素子30は、支持基板30a及び支持基板30aに支持され、発光層を含む半導体層30bを有する。支持基板30aは、例えば、導電性のシリコン(Si)等の基板からなる。
【0020】
また、半導体層30bは、支持基板30a側から順に、例えば、p型半導体層、発光層及びn型半導体層からなり、発光層から波長410nm以下の紫外光を放射する窒化ガリウム(GaN)系の半導体層である。本実施例においては、波長365nmの紫外光を放射する発光層を含む半導体層30bを用いた場合を説明する。
【0021】
発光素子30は、例えば、支持基板30a、支持基板30aの上面上に形成された半導体層30b、支持基板30aの下面に形成された第1の電極(図示せず)、及び半導体層30bの上面上に形成された第2の電極(図示せず)を有する。
【0022】
また、発光素子30は、基板20のキャビティ内に形成された素子載置部25上に素子接合層50を介して接合されている。また、支持基板30aの下面に備えられている第1の電極は、素子接合層50を介して素子載置部25と電気的に接続される。
【0023】
素子接合層50は、例えば、金錫合金(AuSn合金)である。また、素子接合層50は、例えば、AuSn合金粒子と、AuSn合金の融点付近に沸点を有するフラックスからなる揮発性ソルダーペーストが溶融して形成されたものである。フラックスは、例えば、揮発した気体状態において、紫外光で炭化するロジン類、アルコール類、糖類、エステル類、脂肪酸類、油脂類、重合油類、界面活性剤又は有機酸等からなる。
【0024】
また、発光素子30の上面に備えられている第2の電極は、例えば、金(Au)ワイヤ等のボンディングワイヤBWによって第2の配線27と電気的に接続される。
【0025】
第1及び第2の配線26及び27は、キャビティの底面23及び基板20の下面28に形成された金属配線である。第1及び第2の配線26及び27は、例えば、金属等の導電層上にタングステンW/Ni/Au等のめっきが施されて形成されている。第1及び第2の配線26及び27は、基板20に設けられた貫通電極THを介して、キャビティの底面23に形成された金属配線と基板20の下面28に形成された金属配線とが電気的に接続されている。
【0026】
また、第1及び第2の配線26及び27は、キャビティの底面23において、互いに離間しかつ素子載置部25と離間して形成されており、例えば、底面23の中央領域、具体的には素子載置部25及び発光素子30を囲繞するように形成される。第1の配線26は、素子載置部25の1つの辺において素子載置部25と接続されるように素子載置部25と連続して形成されており、素子載置部25と電気的に接続されている。
【0027】
また、第1の配線26と素子載置部25との接続部分には、素子載置部25の1つの辺に沿って伸張するアライメントスリットASが形成されている。発光素子30を素子載置部25に載置する際に、このアライメントスリットAS及び素子載置部25の上記配線26及び27と離間している各辺によって、発光素子30の位置及び配向のセルフアライメントがなされる。
【0028】
また、基板20の側壁部22の上面21には、環状の基板枠縁層29が形成されている。基板枠縁層29は、例えば、W/Ni/Au等のめっきが施された金属層である。尚、基板枠縁層29は、基板20のキャビティ内の側面24まで延在してもよい。
【0029】
保護素子31は、例えば、ツェナーダイオード等の逆電圧保護素子である。保護素子31は、発光素子30に供給される電圧を一定にするよう動作する。また、保護素子31は、例えば、第1の配線26と第2の配線27との上に載架され、揮発性ソルダーペーストによって素子両端に形成されている電極と第1及び第2の配線26及び27と接合される。尚、保護素子31は、キャビティの底面23に接合され、第1及び第2の配線26及び27の接続はワイヤボンディングによって接続されてもよい。
【0030】
収容部材としての窓部材40は、発光素子30の放射する紫外光を透過する透光部材からなる。窓部材40は、例えば、石英ガラスや硼珪酸ガラスである。
【0031】
窓部材40は、基板20のキャビティを覆うように基板20に保持されている。また、窓部材40の基板20の上面21と向かい合う下面には、窓部材40の縁に沿って環状の窓枠縁層41が設けられている。窓枠縁層41は、例えば、クロム(Cr)/ニッケル(Ni)/金(Au)からなる金属層である。
【0032】
基板20と窓部材40は、窓接合層60を介して接合されている。窓接合層60は、例えば、フラックスを含まない環状のAuSn合金シートからなる。AuSn合金シートを溶融させ、基板枠縁層29及び窓枠縁層41と共晶接合させることで、基板20のキャビティ内を気密に封止させた収容空間HSを形成する。
【0033】
換言すれば、基板20の上面21には、凹形状のキャビティが形成されており、キャビティと窓部材40とによって収容空間HSが形成されている。また、基板20と窓部材40とは、有機物を含まない金属層によって接合されて収容空間HSが気密態様で封止されている。
【0034】
収容空間HSには、紫外光で変質しない封止ガスが充填されている。充填される封止ガスは、例えば、1気圧で充填された窒素(N2)ガスである。
【0035】
また、炭素層として、発光素子30の出光面には、紫外光で変質しない且つ紫外光の一部を吸光する炭素膜70が形成されている。炭素膜70は、例えば、炭素を主成分とした炭化水素又は炭素からなる物質を含む膜である。具体的には、例えば、グラファイト、アモルファスカーボン又はダイヤモンドライクカーボン(DLC)を含む無機質な炭素膜の層である。なお、グラファイト、アモルファスカーボン及びDLC等の無機質な炭素においては、末端の炭素や格子欠陥付近の炭素が、例えば、ダングリングボンド等の未結合手と水素とが結合することで安定化している。
【0036】
炭素膜70は、素子接合層50である揮発性ソルダーペーストに含まれるフラックス残渣が収容空間HS内で再揮発し、発光素子30の放射する紫外光によって炭化されて発光素子30の出光面に堆積したものである。
【0037】
換言すれば、実施例1の発光装置10は、基板20と、基板20のキャビティの底面23に配され、紫外光を放射する出光面を有し、出光面に炭化水素または炭素からなる物質を含む炭素膜70を有する発光素子30と、紫外光を透過する材料からなりかつ発光素子30の出光面と対向して配置され、基板20と共に発光素子30を収容して封止する収容空間HSを形成する窓部材40と、を有する。
【0038】
炭素膜70によって、発光素子30の出光面から放射される紫外光は減衰される。すなわち、例えば、炭素膜70の膜厚等の状態を制御することにより、所定の電流が供給された発光素子30から放射される紫外光の光出力を調整することが可能となる。
【0039】
また、本実施例においては、発光装置10、基板20、基板20のキャビティ、素子載置部25又は発光素子30は、発光装置10の実装面に垂直な方向から見たときに矩形(本実施例においては正方形)の上面形状を有する場合について説明した。しかし、上記したそれぞれの上面形状は、矩形に限定されず、例えば円形状、楕円形状及び長方形状等、種々の形状であってもよい。
【0040】
図2は、本実施例の発光装置10の製造工程を示すフローである。
図3A-3Eは、
図2の各工程を示した発光装置10の断面図である。
図2及び
図3A-3Eを参照して上記で説明した発光装置10の製造方法について説明する。
【0041】
まず、実装基板として、一方の面である上面21に凹形状に形成されたキャビティと、キャビティの底面23と基板20の下面28に形成された第1及び第2の配線26及び27と、キャビティの底面23から基板20の下面28側の表面まで貫通して金属配線を接続する貫通電極THと、基板20の側壁部22の上面21に形成された環状の基板枠縁層29を備えたAlN基材の基板20を用意する。
【0042】
図2及び
図3Aに示すように、第1の配線26の素子載置部25上に素子接合層50の原料である揮発性ソルダーペーストを塗布する(ステップS11)。素子載置部25上に揮発性ソルダーペーストを塗布する際は、揮発性ソルダーペーストを充填したディスペンサーを用いて塗布するとよい。
【0043】
次いで、
図3Bに示すように、揮発性ソルダーペーストが塗布された素子載置部25上に発光素子30を載置する(ステップS12)。具体的には、発光素子30の下面に設けられた第1の電極(図示せず)が揮発性ソルダーペーストと接するように載置する。
【0044】
この状態の基板20を、例えば、窒素雰囲気中で300℃まで加熱し揮発性ソルダーペースト内のAuSn合金粒子を溶融させ、素子接合層50で第1の配線26と発光素子30を固定させる(ステップS13)。この時、第1の配線26と発光素子30はAuSn合金により共晶接合され且つ、電気的に接続される。また、発光素子30の固定される位置及び配向は、第1の配線26の素子載置部25上で溶融されたAuSn合金及び第1の配線26に形成されたアライメントスリットAS及び素子載置部25の上記配線26及び27と離間している各辺によってセルフアライメントされる。
【0045】
尚、揮発性ソルダーペーストを加熱溶融させた際に、揮発性ソルダーペーストに含まれるフラックスの殆どは揮発する。
【0046】
次いで、
図3Cに示すように、発光素子30が実装された基板20をワイヤボンディング装置セットし、発光素子30の上面に形成された第2の電極(図示せず)と第2の配線27をAuワイヤ等のボンディングワイヤBWで接続する(ステップS14)。尚、Auワイヤの接続順序は発光素子30の第2の電極と第2の配線27のどちらが先でもよい。これにより、発光素子30の第2の電極と第2の配線27は電気的に接続される。
【0047】
次いで、ワイヤボンディングされた基板20を、例えば、大気雰囲気中で330℃にて20秒間加熱し、素子接合層50に残留したフラックスを追揮発させる(ステップS15)。尚、残留したフラックスを追揮発する温度の下限値は、残留したフラックスが揮発するAuSn合金粒子の溶融温度(本実施例においては300℃)以上が好ましい。また、残留したフラックスを追揮発する温度の上限値は、発光素子30の半導体層30bの素子特性が劣化する温度(例えば、330℃)以下が好ましい。
【0048】
次いで、残留したフラックスの追揮発を実施した基板20に、例えば、エキシマ光を照射して基板20及び発光素子30の表面に付着したフラックス残渣を洗浄する(ステップS16)。本実施例においては、発光波長172nmのエキシマ光を2000mJ/cm2の出力で10分間照射して基板20及び発光素子30の表面の洗浄を実施した。尚、基板20及び発光素子30の表面の洗浄はエキシマ光による洗浄に限定されない。例えば、他の洗浄方法としては、プラズマ洗浄やオゾンガスによる洗浄又は溶剤による洗浄等、基板20及び発光素子30の表面に付着した有機物のフラックス残渣を除去できればよい。
【0049】
次いで、フラックス残渣の洗浄を実施した基板20を、所定の雰囲気下(本実施例においては、大気圧の窒素ガス)にて、基板枠縁層29上に環状のAuSnシートである窓接合層60を載置する。さらに、予め窓枠縁層41が形成された窓部材40を、窓枠縁層41の面を基板20に対向する面とする向きで窓接合層60上に載置する。すなわち、窓接合層60及び窓部材40は、基板20の基板枠縁層29と、窓接合層60と、及び窓枠縁層41が重なるような位置で載置される。
【0050】
この状態において、基板20に窓部材40を押圧して密着させる。そして、窓部材40を押圧したまま、例えば、300℃まで
加熱して窓接合層60を溶融させて基板20と窓部材40を接合させる(ステップS17)。この時、
図3Dに示すように、基板20の基板枠縁層29及び窓枠縁層41は、窓接合層60のAuSn合金によって共晶接合され、気密に封止された収容空間HSが形成される。
【0051】
次いで、気密封止された基板20の第1及び第2の配線26及び27を介して発光素子30に所定の電流を供給して、発光素子30のエージングを行うと共に、
図3Eに示すように発光素子30の出光面に炭素膜70を形成する(ステップS18)。
【0052】
発光素子30は、エージング中に発光駆動することで自己発熱を起こす。発光素子30の自己発熱により、素子接合層50に残留したフラックスが収容空間HS内に再揮発する。再揮発されたフラックスは、出光面近傍で発光素子30が放射する紫外光を受け炭化する。炭化したフラックスは、発光素子30の出光面に炭素を主成分とした炭素膜70として堆積される。
【0053】
尚、ステップS18において、発光装置10を加熱しながら電流を供給してもよい。
【0054】
また、炭素膜70は、再揮発したフラックスが発光素子30の高い光出力密度で紫外光を放射する出光面近傍又は出光面表面でのみ炭化する故、発光素子30の出光面に選択的に炭素膜70として堆積される。上記したグラファイト等の炭素膜は、導電性を有しているが上記理由により発光素子30の出光面に選択的に堆積するため、発光素子30の第1及び第2の電極間又は基板20の第1及び第2の配線26及び27間で短絡等の不具合は発生しない。
【0055】
以上の工程により、本実施例の発光装置10を製造する。
【実施例2】
【0056】
実施例2として、
図2の製造フローにおけるフラックス追揮発工程(ステップS15)及びエキシマ光洗浄工程(ステップS16)を実施しない発光装置10を製造した。実施例2においては、上記以外の製造工程は、実施例1と同様の工程にて発光装置10を製造した。
【実施例3】
【0057】
実施例3として、
図2の製造フローにおけるフラックス追揮発工程(ステップS15)及びエキシマ光洗浄工程(ステップS16)を実施しないことに加え、窓部材接合(ステップS17)時のガス雰囲気を、窒素ガスを充填した後真空ポンプで1.0kPaまで減圧した雰囲気で窓部材40を接合した発光装置10を製造した。実施例3の上記以外の製造工程は、実施例1と同様の工程にて発光装置10を製造した。
【実施例4】
【0058】
実施例4として、
図2の製造フローにおけるフラックス追揮発工程(ステップS15)及びエキシマ光洗浄工程(ステップS16)を実施しないことに加え、窓部材接合(ステップS17)時のガス雰囲気を、大気圧で酸素ガスと窒素ガスの混合ガス(酸素ガス20体積%、窒素80体積%)とした雰囲気で窓部材40を接合した発光装置10を製造した。実施例4の上記以外の製造工程は、実施例1と同様の工程にて発光装置10を製造した。
【実施例5】
【0059】
実施例5として、
図2の製造フローにおけるフラックス追揮発工程(ステップS15)及びエキシマ光洗浄工程(ステップS16)を実施しないことに加え、窓部材接合(ステップS17)時のガス雰囲気を、大気圧で酸素ガスと窒素ガスの混合ガス(酸素ガス1体積%、窒素99体積%)とした雰囲気で窓部材40を接合した発光装置10を製造した。実施例5の上記以外の製造工程は、実施例1と同様の工程にて発光装置10を製造した。
【0060】
換言すれば、実施例1~5の発光装置10の製造方法は、キャビティの底面23に金属の配線26及び27が形成されている基板20の第1の配線26上に揮発性ソルダーペーストを塗布する工程と、第1の配線26上に塗布された揮発性ソルダーペースト上に、紫外光を放射する出光面を有する発光素子30を載置する工程と、揮発性ソルダーペーストを加熱して第1の配線26と発光素子30を接合する工程と、基板20の上面21に紫外光を透過する透光部を有する窓部材40を載置して、窓部材40と基板20とによって発光素子30を封止する且つ収容空間HSを形成する工程と、発光素子30に第1及び第2の配線26及び27を介して通電を行い、発光素子30の出光面に炭化水素または炭素からなる物質を含む炭素膜70を形成する工程と、を含む。
【0061】
また、実施例1~5の発光装置10の製造方法は、揮発性ソルダーペーストが加熱された後に、揮発性ソルダーペーストに残留したフラックスを追揮発する工程と、基板20及び発光素子30の表面に付着したフラックスの残渣をエキシマ光で洗浄する工程と、をさらに含む。
【0062】
尚、実施例1~3の封止ガス及び実施例4~5において酸素ガスと混合するガスに窒素ガスを用いた事例について説明したが、このガスは窒素ガスに限定されない。封止ガス及び酸素ガスと混合するガスは、例えば、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)又はクリプトン(Kr)ガス等の不活性ガスを用いてもよい。また、窒素、アルゴン、キセノン又はクリプトンガスは、一種又は二種以上のガスを混合して用いてもよい。
【0063】
また、実施例1~5の封止ガスの封止圧において、大気圧又は減圧して封止ガスを充填した発光装置10について説明したが、封止圧を増圧した封止ガスを用いてもよい。
【0064】
[評価]
表1に、上述した実施例1~5の発光装置10の連続点灯の評価を示す。
【0065】
【0066】
実施例1~5の評価として、連続点灯を実施した後の発光装置10の炭素膜70の堆積確認、電気特性の確認及び初期光出力に対する光出力維持率の確認を実施した。
【0067】
炭素膜70の堆積確認は、例えば、肉眼及び光学顕微鏡を用いて、連続点灯を実施した後に発光素子30の出光面表面に炭素膜70が堆積されているかを確認した。発光素子30の出光面表面の変色を確認することで炭素膜70が堆積しているかを判定した。
【0068】
電気特性の確認は、連続点灯を実施した後の発光装置10の電圧-電流特性(V-I特性)、順方向リーク電圧(Vf)、及び逆方向リーク電圧(Vr)を確認した。V-I特性の確認を行うことにより、発光素子30の半導体層30bの抵抗率が変異しているかを判定した。また、Vf及びVrの確認を行うことにより、導電性を有する炭素膜70が発光素子30の第1及び第2の電極間又は基板20の第1及び第2の配線26及び27間で異常堆積しているかを判定した。
【0069】
光出力維持率の確認は、点灯開始時の発光装置10の光出力に対する連続点灯を100時間実施した後の発光装置10の光出力の変異率である。
【0070】
実施例1の発光装置10は、連続点灯後において発光素子30の出光面表面に変色はみられなかった。また、V-I特性、Vf、及びVrに異常を認められる値はみられなかった。また、光出力維持率は90.9%であり、点灯開始時の光出力から約1割程度の出力減衰が確認された。
【0071】
実施例2の発光装置10は、連続点灯後において発光素子30の出光面表面に灰色~黒色の変色がみられ、炭素膜70の堆積が確認された。また、V-I特性、Vf、及びVrに異常を認められる値はみられなかった。また、光出力維持率は58.7%であり、点灯開始時の光出力から約4割程度の出力減衰が確認された。
【0072】
実施例3の発光装置10は、連続点灯後において発光素子30の出光面表面に黒色の変色がみられ、炭素膜70の堆積が確認された。また、V-I特性、Vf、及びVrに異常を認められる値はみられなかった。また、光出力維持率は9.7%であり、点灯開始時の光出力から約9割程度の出力減衰が確認された。
【0073】
実施例4の発光装置10は、連続点灯後において発光素子30の出光面表面に変色はみられなかった。また、V-I特性、Vf、及びVrに異常を認められる値はみられなかった。また、光出力維持率は96.4%であり、点灯開始時の光出力からほぼ減衰はみられず、発光素子30の通常のエージング量の範囲であった。
【0074】
実施例5の発光装置10は、連続点灯後において発光素子30の出光面表面に灰色~黒色の変色がみられ、炭素膜70の堆積が確認された。また、V-I特性、Vf、及びVrに異常を認められる値はみられなかった。また、光出力維持率は54.0%であり、点灯開始時の光出力から半分程度の出力減衰が確認された。
【0075】
実施例1及び2の結果から、収容空間HSに窒素ガスを充填させた発光素子30において、フラックス追揮発工程及びエキシマ光洗浄工程(
図2のステップS15及び16)の有無によって、光出力を約1割~約4割の幅で減衰することが確認された。すなわち、追揮発工程の処理温度並びに処理時間及びエキシマ光洗浄工程の処理条件並びに処理時間を調整することによって、発光素子30の光出力を、初期の光出力から約1割~約4割の幅で調整することが可能となる。
【0076】
実施例2及び3の結果から、フラックス追揮発工程及びエキシマ洗浄工程を実施しない発光装置10において、封止ガスである窒素ガスを減圧することによって、光出力を約4割~約9割の幅で減衰することが確認された。すなわち、窓部材接合工程(
図2のステップS17)時の窒素ガス雰囲気の圧力を調整することによって、発光素子30の光出力を、初期の光出力から約4割~約9割の幅で調整することが可能となる。
【0077】
実施例4及び5の結果から、フラックス追揮発工程及びエキシマ洗浄工程を実施しない発光装置10において、封止ガスである窒素ガスと酸素ガスの混合ガスの酸素濃度を1体積%~20体積%まで変異させることによって、光出力をエージング範囲の発光出力から約半分の幅で減衰することが確認された。すなわち、窓部材接合工程時の封止ガスの酸素濃度を調整することによって、発光素子30の光出力を、初期の光出力から約半分の幅で調整することが可能となる。
【0078】
次に、
図4を参照して、発光素子30の出光面に堆積した堆積物について説明する。
【0079】
図4は、光出力維持率がほぼ減衰しなかった実施例4及び光出力維持率が半分程度となった実施例5の発光素子30の出光面表面における飛行時間型二次イオン質量分析法(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:TOF-SIMS)の測定結果のスペクトル図である。
図4の上段のスペクトルは実施例4の測定結果を示し、
図4の下段のスペクトルは実施例5の測定結果を示す。
【0080】
図4の横軸(m/z)は2次イオンの質量電荷比を示し、縦軸(Intensity)は検出強度を示す。また、
図4の左側、中央及び右側のスペクトルは、検出されたピークの2次イオンの質量電荷比近傍を抽出して図示している。
【0081】
炭素膜70の堆積及び光出力維持率の減衰がほぼみられなかった実施例4の測定結果においては、酸化珪素(SiO2)に由来するピークが検出された。実施例4の発光素子30の表面から検出されたSiO2は発光素子30の半導体層30bを皮膜する保護膜(図示せず)に起因している。また、実施例4においては、炭素に由来するピークは検出されず、炭素膜70の堆積がなかったことを示している。
【0082】
炭素膜70の堆積及び光出力維持率の減衰がみられた実施例5の測定結果においては、炭素(C2)に由来するピークが検出された。すなわち、実施例5において炭素膜70の堆積があったことを示している。また、検出されたピークから、堆積された膜は、グラファイト、アモルファスカーボン又はDLCであることが同定された。
【0083】
すなわち、製造工程のステップS18後に発光素子30の出光面に変色及び堆積物がみられた実施例1~3及び5において、発光素子エージング及び炭素膜形成工程(
図2のステップS18)時に、収容空間HS内に再揮発されたフラックスが発光素子30の放射する紫外光により炭化され、発光素子30の出光面に炭素を主成分とした炭素膜70として堆積されたことを示す。
【0084】
図5は、実施例1~5の発光装置10の連続点灯時の通電時間と光出力の経時変化を示すグラフである。
【0085】
実施例1~3及び4においては、通電開始時から光出力が急峻に減衰していく領域と、その後緩やかに減衰していく2つの領域を有している。
【0086】
光出力が急峻に減衰していく領域は発光素子30の出光面に炭素膜70が堆積していることを示す。また、緩やかに減衰していく領域は、発光素子30の半導体層30bがエージングされていることを示す。
【0087】
光出力が急峻に減衰していく領域では、収容空間HS内に素子接合層50に残留したフラックスが再揮発して発光素子30の紫外光を受け炭化し、発光素子30の出光面に炭素膜70として堆積する。炭素膜70が発光素子30の出光面に堆積していくことにより、出光面から放射される紫外光が炭素膜70に阻まれ急激に光出力が減衰していく。
【0088】
炭素膜70の堆積による急峻な光出力の減衰は、
図5に示すように、通電時間が約30時間程度で消失し、その後発光素子30のエージングによる緩やかな減衰に移行する。尚、炭素膜70による光出力の減衰量は、素子接合層50内に残留したフラックス量に由来する。
【0089】
すなわち、追揮発処理及びエキシマ光洗浄処理を実施した実施例1は残留フラックス量が少ないため炭素膜70の堆積量も少なくなり、光出力の減衰量も小さい。
【0090】
また、追揮発処理及びエキシマ光洗浄処理を実施していない実施例2は残留フラックス量が多いため炭素膜70の堆積量が多くなり、光出力の減衰量も大きくなる。
【0091】
また、追揮発処理及びエキシマ光洗浄処理を実施していない且つ収容空間を減圧状態にした実施例3は、減圧により素子接合層50から残留フラックスが再揮発しやすい故、炭素膜70の堆積量が非常に多くなり、光出力の減衰量も極めて大きくなる。
【0092】
実施例4は、急峻な光出力の減衰がみられない。これは、封止ガスに酸素ガスを20体積%混合することにより、炭素膜70の堆積を防止する効果があるためである。
【0093】
また、実施例5のように、酸素ガスを1体積%混合に変化させると炭素膜70が堆積されて光出力が減衰することを示す。
【0094】
本発明によれば、実施例1~3のように、封止ガスを窒素ガスとし、残留フラックスの追揮発処理条件、エキシマ光洗浄条件及び封止ガス圧力を調整することにより、発光素子エージング及び炭素膜形成工程後に、初期の光出力に対して任意の光出力を有する発光装置10を得ることが可能となる。
【0095】
また、本発明によれば、実施例4~5のように、封止ガスを窒素ガスと酸素ガスの混合ガスとした場合においても、酸素ガス濃度及び封止ガス圧力を調整することにより、発光素子エージング及び炭素膜形成工程後に、初期の光出力に対して任意の光出力を有する発光装置10を得ることが可能となる。
【0096】
これによれば、所望の光出力以上の出力を有する発光素子においても、所望の光出力を有する発光装置10を製造することが可能となる。また、1つのウェハから得られる発光素子の有効利用数量を多くすることが可能となり、紫外光を放射する発光装置10のコスト低減をすることが可能となる。
【0097】
尚、発光素子30の初期の光出力については、ウェハ上で複数の発光素子を製造した後のプローブテストにて確認される。この際、複数の発光素子は、発光素子のそれぞれが有する光出力によって、いくつかの光出力ごとに選別され、所望の光出力に対して初期の光出力からの減衰量を判定される。選別された発光素子は、フラックス追揮発工程並びにエキシマ光洗浄工程の工程条件及び封止ガス種並びに封止ガス圧条件でそれぞれ製造される。
【0098】
これにより、光出力に差異を有する複数の発光素子においても、所望の光出力を有する発光装置10を製造することが可能となる。
【0099】
上述の実施例1~5においては、発光波長365nmの紫外光を放射する発光素子30を用いた発光装置10について説明した。しかし、発光素子30が放射する紫外光の発光波長はこれに限定されない。
【0100】
変形例として、発光波長275nmの深紫外光を放射する発光素子30を用いた発光装置10について以下に説明する。
【0101】
変形例1として、フラックス追揮発工程及びエキシマ光洗浄工程を実施し、封止ガスに大気圧の窒素ガスを用いた発光装置10を製造した。変形例1は、発光素子30に深紫外光を放射する発光素子30を用いたこと以外は実施例1と同様の製造部材及び製造方法である。
【0102】
変形例2として、フラックス追揮発工程及びエキシマ光洗浄工程を実施しない発光装置10を製造した。変形例2は、発光素子30に深紫外光を放射する発光素子30を用いたこと以外は実施例2と同様の製造部材及び製造方法である。
【0103】
変形例3として、フラックス追揮発工程及びエキシマ光洗浄工程を実施しないことに加え、封止ガスに大気圧の酸素ガスと窒素ガスの混合ガス(酸素ガス20体積%、窒素80体積%)を用いた発光装置10を製造した。変形例3は、発光素子30に深紫外光を放射する発光素子30を用いたこと以外は実施例4と同様の製造部材及び製造方法である。
【0104】
尚、本変形例の深紫外光を放射する発光素子30のエージング時間は240時間である。
【0105】
表2に、上述した変形例1~3の発光装置10の連続点灯の評価を示す。
【0106】
【0107】
尚、本変形例の光出力維持率は、連続点灯240時間後の発光装置10の光出力の変異率である。
【0108】
変形例1の発光装置10は、連続点灯後において発光素子30の出光面表面に変色はみられなかった。また、V-I特性、Vf、及びVrに異常を認められる値はみられなかった。また、光出力維持率は76.0%であり、点灯開始時の光出力から出力減衰が確認された。
【0109】
変形例2の発光装置10は、連続点灯後において発光素子30の出光面表面に灰色~黒色の変色がみられ、炭素膜70の堆積が確認された。また、V-I特性、Vf、及びVrに異常を認められる値はみられなかった。また、光出力維持率は51.9%であり、点灯開始時の光出力から半分程度の出力減衰が確認された。
【0110】
変形例3の発光装置10は、100時間連続点灯後において発光素子30の出光面表面に変色はみられなかった。また、V-I特性、Vf、及びVrに異常を認められる値はみられなかった。また、光出力維持率は79.8%であり、点灯開始時の光出力から約2割程度の出力減衰が確認された。しかし、この光出力維持率は、本変形例で用いた深紫外光を放射する発光素子30の通常のエージング量の範囲である。
【0111】
図6は、変形例1~3の発光装置10の連続点灯時の通電時間と光出力の経時変化を示すグラフである。
【0112】
まず、変形例3においては、上記の実施例4と同様に、発光素子30の出光面表面に炭素膜70の堆積はみられなかった。すなわち、変形例3において、通電時間120時間程度までに見られる光出力の減衰は、発光素子30のエージングによるものである。
【0113】
変形例1は、変形例3と同様の挙動を示しているが、光出力維持率の減衰量が若干大きい。変形例1は、追揮発処理及びエキシマ光洗浄処理を実施している故、素子接合層50内に含まれる残留フラックス量が少ないためである。それ故、変形例1では炭素膜70の堆積量も少なくなり、光出力の減衰量も小さい。
【0114】
変形例2は、追揮発処理及びエキシマ光洗浄処理を実施していない故、素子接合層50内に含まれる残留フラックス量が多い。それ故、変形例2では炭素膜70の堆積量も多くなり、光出力の減衰量も大きくなる。
【0115】
変形例1~3によれば、深紫外光を放射する発光素子30を用いた発光装置10においても、封止ガス種、残留フラックスの追揮発処理条件、エキシマ光洗浄条件及び封止ガス圧力を調整することにより、実施例1~5と同様の効果を得ることが可能となる。
【0116】
すなわち、深紫外光を放射する発光素子30を用いた発光装置10においても、エージング及び炭素膜形成工程(
図2のステップS18)時に炭素膜70を堆積することで、初期の光出力に対して任意の光出力を有する発光装置10を得ることが可能となる。
【0117】
実施例1~5及び変形例1~3においては、キャビティを有する基板20と平板状の窓部材40を組み合わせて収容空間HSを形成した発光装置10について説明したが、発光装置10の構成はこれに限定されない。
【0118】
図7A及び
図7Bは、発光装置10の他の封止構造の例を示す断面図である。上述の発光装置10と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0119】
図7Aは、平板状の基板20aと、発光素子30の周囲を囲むように配された枠体80と、発光素子30を覆うように枠体80によって保持されている窓部材40aで構成された発光装置10Aの断面図である。
【0120】
側壁部材としての枠体80は、例えば、コバール(Kovar:鉄(Fe)-ニッケル(Ni)-コバルト(Co)合金)等の材料からなる。
【0121】
また、枠体80の上面(基板20aと向き合う面と逆の面、符号なし)には、窓部材40aが枠体80に挿嵌されるように接合される接合部(符号なし)を有する。枠体80と窓部材40aは、例えば、900℃で枠体80の接合部にガラスである窓部材40aを気密融着させて枠体付き窓部材として予め準備する。
【0122】
枠体付き窓部材は、窓部材接合工程(
図2のステップS17)において、窓接合層60によって基板枠縁層29と共晶接合される。
【0123】
換言すれば、
図7Aの発光装置10Aは、基板20が板状であり、基板20の1の面には、発光素子30及び第1及び第2の配線26及び27と離間されかつ、発光素子30及び第1及び第2の配線26及び27を取り囲む枠状の枠体80が配されており、基板20と枠体80及び窓部材40aとによって収容空間HSが形成されている。
【0124】
図7Aの発光装置10Aのような構成とすることで、平板状の基板20aを採用することが可能となる。これにより、素子接合工程(
図2のステップS13)及びフラックス追揮発工程(
図2のステップS15)において、発光装置10のように素子接合層50から揮発するフラックスが基板20のキャビティ内に滞留せず、キャビティの側面24等にフラックス残渣を付着しづらくすることが可能となる。また、基板20aが平板状である故、エキシマ光洗浄工程(
図2のステップS16)において、フラックス残渣の洗浄性を良好にすることが可能となる。それ故、発光装置10Aは、発光素子エージング及び炭素膜形成工程(
図2のステップS18)において、収容空間HS内の残留フラックス量の制御が容易となり、炭素膜70の膜厚をより精密に制御することが可能となる。
【0125】
図7Bは、平板状の基板20aと、下面にキャビティ構造を有する窓部材40bで構成された発光装置10Bの断面図である。
【0126】
発光装置10Bは、基板20aが平板状であること及び窓部材40bがキャビティ構造を有する点を除いては、発光装置10と同様の構成を有する。
【0127】
窓部材40bは、基板20aに対向する面にキャビティを有する。窓部材40bのキャビティは、例えば、厚板のガラスをフッ化水素(HF)等でエッチングして形成される。また、窓部材40bは、例えば、平板状のガラスと枠状のガラスを圧着溶接して形成される。
【0128】
換言すれば、
図7Bの発光装置10Bは、窓部材40の基板20に対向する面は、凹部が形成されており、基板20と窓部材40の凹部とによって収容空間HSが形成されている。
【0129】
図7Bの発光装置10Bのような構成とすることで、発光装置10Aと同様に、フラックス残渣の洗浄性及び炭素膜70の膜厚制御を容易にすることが可能となる。
【0130】
加えて、発光装置10Bは、気密接合部を基板20a及び窓部材40bの1箇所にすることができる。それ故、発光装置10Bは、収容空間HSの気密性を向上することができ、収容空間HSへの水分侵入を防ぎ信頼性の低下を防止することが可能となる。
【0131】
また、本発明は、支持基板30a、支持基板30aの上面上に形成された半導体層30b、支持基板30aの下面に形成された第1の電極、及び半導体層30bの上面上に形成された第2の電極を備えた発光素子30を例として説明したが、発光素子30の構成はこれに限定されない。
【0132】
例えば、発光素子30は、半導体層30bの結晶成長に用いられる成長基板を有していてもよい。この場合、例えば、発光素子30は、成長基板、当該成長基板上に成長された半導体層30b、当該半導体層30b上に形成された第1の電極及び第2の電極を有する。また、この場合、発光素子30は、成長基板が基板20のキャビティの底面23に接合される。また、第1及び第2の電極は、ボンディングワイヤを介して基板20のキャビティの底面23に設けられた第1及び第2の配線26及び27に接続される。
【0133】
また、発光素子30の他の構成として、発光素子30は、透光性の支持基板30a又は成長基板、当該支持基板30a又は30bの下面に配置された半導体層30b、当該半導体層30bの下面に形成された第1の電極及び第2の電極を有した構成としてもよい。この場合、第1及び第2の電極は、素子接合層50を介して第1及び第2の配線26及び27に接続される(フリップチップ実装ともいう)。
【0134】
発光素子30の構成においては、発光素子30の上面である、発光素子30における基板20のキャビティの底面23とは反対側の表面が、光取り出し面として機能すればよい。
【0135】
また、上述した実施例における種々の数値、寸法、材料等は、例示に過ぎず、用途及び製造される発光装置に応じて、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0136】
10 発光装置
20 基板
25 素子載置部
26 第1の配線
27 第2の配線
29 基板枠縁層
30 発光素子
40 窓部材
41 窓枠縁層
50 素子接合層
60 窓接合層
70 炭素膜
80 枠体