(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート部材と梁部材との接合における型枠設置方法
(51)【国際特許分類】
E04G 9/00 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
E04G9/00 101
(21)【出願番号】P 2020038778
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】石井 大吾
(72)【発明者】
【氏名】仁田脇 雅史
(72)【発明者】
【氏名】飯岡 哲也
(72)【発明者】
【氏名】兼光 知巳
(72)【発明者】
【氏名】西川 裕
(72)【発明者】
【氏名】石橋 章夫
(72)【発明者】
【氏名】細川 洋一
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-142062(JP,A)
【文献】特開2002-294858(JP,A)
【文献】特開2009-249982(JP,A)
【文献】特開平10-219999(JP,A)
【文献】特開昭51-084812(JP,A)
【文献】特開平02-210156(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1105836(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0210669(US,A1)
【文献】特開平06-129043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 9/00 -19/00
E04B 1/18 - 1/30
E04B 1/38 - 1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート部材に形成された凹部から突出する梁部材と前記凹部との間の開口を塞ぐように形成された型枠を前記鉄筋コンクリート部材に接着する工程と、
前記凹部にコンクリートを充填して前記鉄筋コンクリート部材と前記梁部材とを一体化する工程と、
前記型枠を撤去する工程と、を備え、
前記型枠を前記鉄筋コンクリート部材に接着する工程において、前記鉄筋コンクリート部材と前記型枠との間
に接着剤を挟み、前記型枠を位置決めする工程を備え、
前記型枠を位置決めする工程の後、前記接着剤を加熱して溶融させる工程を備えることを特徴とする、
鉄筋コンクリート部材と梁部材との接合における型枠設置方法。
【請求項2】
前記型枠を前記鉄筋コンクリート部材に接着する工程において、シート状に形成された接着剤を前記鉄筋コンクリート部材に貼付する工程を備える、
請求項1に記載の鉄筋コンクリート部材と梁部材との接合における型枠設置方法。
【請求項3】
前記型枠を撤去する工程において、硬化した前記接着剤を加熱して溶融させる工程を備える、
請求項1または2に記載の鉄筋コンクリート部材と梁部材との接合における型枠設置方法。
【請求項4】
前記型枠を前記鉄筋コンクリート部材に接着する工程の後、前記型枠が前記鉄筋コンクリート部材から離間する方向への移動を規制するように前記梁部材に固定部材を固定する工程を備える、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート部材と梁部材との接合における型枠設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート部材と梁部材との接合における型枠設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートにより形成された部材に鉄骨により形成された梁を一体化して複合部材を形成する構法が知られている。この構法によれば、柱状の鉄筋コンクリート部材を予めプレキャスト部材(PCaRC部材)として形成し、この部材にH形鋼梁を接合する。PCaRC部材とH形鋼梁の接合部においては、PCaRC部材とH形鋼梁との間に生じた開口を塞ぐ塞ぎ用の型枠を設置した後、PCaRC部材とH形鋼梁との間の隙間にコンクリートを充填し、PCaRC部材とH形鋼梁とを一体化する。PCaRC部材とH形鋼梁との間に生じた開口に設置される塞ぎ用の型枠は、H形鋼梁の形に合わせて加工されている。
【0003】
この塞ぎ用の型枠は、上記の開口にセパレータや番線で固定される。塞ぎ用の型枠を固定する工程において、作業者は、狭隘な場所で作業しなければならず、効率が低下する。また、塞ぎ用の型枠の設置においてPCaRC部材を損傷させないように、桟木などで養生する必要があり、手間を要する。この複合部材を用いた建物の施工において、塞ぎ用の型枠を設置するための工数は、全体の工数の約1/4となる場合もある。
【0004】
これに関連して、特許文献1には、複合部材の接合部分のコンクリートの充填に用いられる塞ぎ用の型枠が記載されている。型枠は、鉄骨梁及び鉄骨梁と一体に形成された鉄筋コンクリート柱により形成されたプレキャストコンクリート部材の下端部と、鉄筋コンクリートにより形成された柱体の上端部との間に生じる隙間を覆うように形成されている。型枠は、例えば、隙間を塞ぐように形成された塞ぎ板部と、鉄骨梁の下側のフランジに係合するフック部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術によれば、多数のボルト及びナットを用いて塞ぎ用の型枠が取り付けられるため、手間がかかる。また、狭隘な場所において取り付ける場合、作業性が低下する虞がある。発明者らは、鉄筋コンクリート複合部材の施工における塞ぎ用の型枠や型枠の設置方法について改良を重ねてきた。
【0007】
本発明は、施工を簡略化することができる鉄筋コンクリート部材と梁部材との接合における型枠設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、本発明は、鉄筋コンクリート部材に形成された凹部から突出する梁部材と前記凹部との間の開口を塞ぐように形成された型枠を前記鉄筋コンクリート部材に接着する工程と、前記凹部にコンクリートを充填して前記鉄筋コンクリート部材と前記梁部材とを一体化する工程と、前記型枠を撤去する工程と、を備え、前記型枠を前記鉄筋コンクリート部材に接着する工程において、前記鉄筋コンクリート部材と前記型枠との間に接着剤を挟み、前記型枠を位置決めする工程を備え、前記型枠を位置決めする工程の後、前記接着剤を加熱して溶融させる工程を備えることを特徴とする、鉄筋コンクリート部材と梁部材との接合における型枠設置方法である。
【0009】
本発明によれば、鉄筋コンクリート部材と梁部材との間の開口を塞ぐ型枠を鉄筋コンクリート部材に接着することで、簡便に凹部にコンクリートを充填する工程における塞ぎ用の型枠を設置する作業効率を向上することができる。
また、シート状に形成された接着剤を鉄筋コンクリート部材と型枠との間に挟むので、鉄筋コンクリート部材に対して型枠を簡便に位置決めできる。
さらに、型枠を鉄筋コンクリート部材に対して位置決めした後に接着剤を溶融して型枠を接着するため、型枠がずれることなく鉄筋コンクリート部材に正確に接着できる。
【0010】
また、本発明は、前記型枠を前記鉄筋コンクリート部材に接着する工程において、シート状に形成された接着剤を前記鉄筋コンクリート部材に貼付する工程を備えるように構成されていてもよい。
【0011】
本発明によれば、型枠と鉄筋コンクリート部材とを接着する接着剤がシート状に形成されているので、接着剤の垂れを防止することができる。
【0016】
また、本発明は、前記型枠を撤去する工程において、硬化した前記接着剤を加熱して溶融させる工程を備えるように構成されていてもよい。
【0017】
本発明によれば、接着剤に、加熱して溶融する種類のものを用いることにより、接着だけでなく、離型時にも加熱して型枠を取り外しでき、作業効率を向上することができる。
【0018】
また、本発明は、型枠を前記鉄筋コンクリート部材に接着する工程の後、前記型枠が前記鉄筋コンクリート部材から離間する方向への移動を規制するように前記梁部材に固定部材を固定する工程を備えるように構成されていてもよい。
【0019】
本発明によれば、複数の固定部材を用いることにより、コンクリートの圧力により型枠が外側に膨らむことを防止できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、鉄筋コンクリート部材と梁部材との接合における型枠の設置を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る鉄筋コンクリート複合部材を形成する過程を示す斜視図である。
【
図2】柱体の凹部に第2梁部材を設置した状態を示す図である。
【
図3】凹部の開口の周囲に接着剤を貼付した状態を示す図である。
【
図4】凹部の開口に型枠を取り付ける過程を示す図である。
【
図5】凹部の開口に型枠を取り付けた状態を示す図である。
【
図6】型枠を補強する複数の固定部材を取り付けた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る鉄筋コンクリート複合部材を形成するための型枠及び鉄筋コンクリート部材と梁部材との接合における型枠設置方法の実施形態について説明する。
【0025】
鉄筋コンクリート複合部材は、例えば、プレキャスト工法により予め形成された複合部材である。鉄筋コンクリート複合部材が上下方向に接着剤やコンクリートにより接合されることにより、建物等の構造物が構築される。
【0026】
図1に示されるように、鉄筋コンクリート複合部材は、鉄筋コンクリートにより形成された鉄筋コンクリート部材10と、鉄骨により形成された第2梁部材20をコンクリートにより接合することにより形成される。
【0027】
鉄筋コンクリート部材10は、鉄筋コンクリートにより形成された柱体11と、柱体11に一体に接合された第1梁部材15とを備える。第1梁部材15は、例えば、H型鋼により形成された梁部材である。
【0028】
柱体11は、建物の鉛直方向の圧縮荷重を受ける柱に用いられる部材である。柱体11は、例えば、矩形断面の柱状に形成されている。柱体11は、鉛直方向に延在して形成されている。柱体11の内部には、鉄筋12が配置されている。柱体11には、水平方向に沿って配置された第1梁部材15が柱体11を貫通するように一体に形成されている。第1梁部材15は、柱体11を形成するコンクリートの打設前に配置され、コンクリートの打設後に柱体11と一体化される。第1梁部材15は、柱体11の一側面11A側にオフセットされて配置されている。
【0029】
柱体11には、凹状に窪んだ凹部13が形成されている。凹部13は、立方体状の空間に形成されている。凹部13により、柱体11の他側面11Bと上面11Cとに連続した開口が形成される。凹部13は、他側面11B側から見て後述の第2梁部材20の断面形状が収容可能な大きさに形成されている。凹部13には、後述のように第2梁部材20の端部が挿入される。凹部13に挿入された状態において、第2梁部材20と凹部13との間には、隙間が生じる。第2梁部材20と凹部13との間に生じた隙間には、コンクリートが充填される。コンクリートが硬化すると、第2梁部材20は、柱体11と一体化される。即ち、第2梁部材20は、硬化したコンクリートを介して柱体11と接合される。
【0030】
次に、鉄筋コンクリート複合部材1の形成方法について説明する。
【0031】
図2に示されるように、鉄筋コンクリート部材10に形成された凹部13に第2梁部材20の端部21を配置する。第2梁部材20は、凹部13において他側面11B側から水平方向に沿って突出した状態で配置される。凹部13と第2梁部材20との間には、隙間Tが生じている。鉄筋コンクリート部材10を他側面11B側から見て、凹部13の開口13Aには、第2梁部材20が収容されている。凹部13の開口13Aは、後述のように、型枠により塞がれる。
【0032】
図3に示されるように、他側面11Bにおいて開口13Aに沿った所定幅の領域11Rは、後述のように、型枠の接着面となる。領域11Rは、接着剤Sの接着力を向上させるために清掃される。領域11Rには、接着剤Sが仮止めされる。接着剤Sは、所定幅のシート状に形成されている。接着剤Sは、例えば、加熱により溶融するホットメルト系の接着剤である。
【0033】
図4に示されるように、開口13Aは、一対の型枠K1,K2により塞がれる。一対の型枠K1,K2は、第2梁部材20の断面形状を型抜きした形状に形成されている。型枠K1,K2は、凹部13から突出する第2梁部材20と凹部13との間の隙間Tを塞ぐように形成されている。型枠K1,K2は、例えば、コンクリートパネル等の合板により板状に形成されている。
【0034】
型枠K1,K2には、例えば、第2梁部材20の上側のフランジ部22が収容される第1切欠き部K1A,K2Aが形成されている。第1切欠き部K1A,K2Aは、水平方向に沿って矩形に切り欠かれている。K1,K2には、例えば、第2梁部材20の下側のフランジ部23が収容される第2切欠き部K1B,K2Bが形成されている。第2切欠き部K1B,K2Bは、水平方向に沿って矩形に切り欠かれている。
【0035】
型枠K1,K2には、例えば、第2梁部材20のウェブ24が収容される第3切欠き部K1C,K2Cが形成されている。第3切欠き部K1C,K2Cは、鉛直方向に沿って矩形に切り欠かれている。型枠K1,K2は、隙間Tよりも大きく形成されている。型枠K1,K2は、周囲が領域11Rに重なるように形成されている。
【0036】
領域11Rには、シート状に形成された接着剤Sが貼付される。接着剤Sは、領域11Rに接着されてもよい。型枠K1,K2は、隙間Tを塞ぐように第2梁部材20の端部21の両側に嵌め込まれる。接着剤Sは、柱体11の他側面11Bと型枠K1,K2との間に挟まれる。この状態において、型枠K1,K2が位置決めされる。
【0037】
型枠K1,K2が位置決めされた後、接着剤Sを加熱して溶融させる。接着剤Sには、型枠K1,K2の表面側から領域11Rの位置に沿ってヒータ(不図示)を用いて熱が与えられる。接着剤Sは、ヒータにより加熱され溶融する。
【0038】
ヒータによる加熱が停止され、接着剤Sが冷えて硬化すると、型枠K1,K2は、鉄筋コンクリート部材10に確実に接着される。
【0039】
型枠K1,K2との間の接合面には、当て板K3,K4が釘等を用いて取り付けられ、養生される。当て板K3,K4により、後述のように、凹部13にコンクリートを打設した際に型枠K1,K2との間の接合面からコンクリートが噴き出すことが防止される。
【0040】
図6に示されるように、第2梁部材20のフランジ部22,23には、型枠K1,K2が柱体11から離間する方向に移動することを規制するように複数の固定部材Yが固定される。固定部材Yは、例えば、C型クランプである。
【0041】
複数の固定部材Yが固定された後、型枠K1,K2により塞がれた凹部13(
図1参照)には、コンクリートが充填される。固定部材Yにより、コンクリートの圧力により型枠K1,K2が外側にはらむことが防止される。凹部13に充填されたコンクリートが硬化すると、凹部13と第2梁部材20の端部21との間に充填された鉄筋コンクリート接合部が形成される。これにより、柱体11(鉄筋コンクリート部材10)と第2梁部材20とが一体化した鉄筋コンクリート複合部材1が形成される。
【0042】
コンクリートが硬化した後、固定部材Y、当て板K3,K4を撤去する。その後、型枠K1,K2の外側(コンクリートの打設面と反対側の面)において接着面(領域11R)に対応する位置にヒータをあて、交流磁界を与えて接着剤Sを溶融する。接着剤Sが溶融した後、型枠K1,K2を柱体11から撤去する。上記の各工程により、鉄筋コンクリート部材10に第2梁部材20が接合され、鉄筋コンクリート複合部材1が形成される。
【0043】
上述したように、鉄筋コンクリート部材と梁部材との接合における型枠設置方法によれば、柱体11に形成された凹部13と第2梁部材20との間の空間を塞ぐ型枠K1,K2の取り付け、取り外しに係る工程を低減することができる。鉄筋コンクリート部材と梁部材との接合方法によれば、狭隘な場所においても簡便に型枠K1,K2が取り付けられるため、作業効率を向上することができる。
【0044】
鉄筋コンクリート部材と梁部材との接合における型枠設置方法によれば、型枠K1,K2と柱体11との接着にシート状の接着剤Sを用いることにより、作業性が向上する。鉄筋コンクリート部材と梁部材との接合における型枠設置方法によれば、接着剤Sは、加熱後、所定温度に冷えれば硬化するので、作業時間が短縮される。鉄筋コンクリート部材と梁部材との接合方法によれば、コンクリートの充填後、型枠K1,K2の表面から接着剤Sを加熱すると接着剤Sが溶融するので、鉄筋コンクリート部材10を傷つけずに型枠K1,K2を離型できる。
【0045】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、接着剤は、領域11Rにホットメルトを塗布して型枠K1,K2の取り付け後に熱を加えて溶融してもよい。接着剤は、ホットメルト以外の他の接着剤が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 鉄筋コンクリート複合部材、10 鉄筋コンクリート部材、11 柱体、11A 一側面、11B 他側面、11C 上面、11R 領域、12 鉄筋、13 凹部、13A 開口、15 第1梁部材、20 第2梁部材、21 端部、22、23 フランジ部、24 ウェブ、K1、K2 型枠、K1A、K2A 第1切欠き部、K1B、K2B 第2切欠き部、K1C、K2C 第3切欠き部、K3、K4 当て板、S 接着剤、T 隙間、Y 固定部材