(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】経口投与用錠剤型吸着剤
(51)【国際特許分類】
A61K 33/44 20060101AFI20240606BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240606BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240606BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240606BHJP
A61P 39/00 20060101ALI20240606BHJP
A61K 31/775 20060101ALN20240606BHJP
【FI】
A61K33/44
A61K9/20
A61K47/36
A61K47/42
A61P39/00
A61K31/775
(21)【出願番号】P 2020067562
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】浅原 亮介
(72)【発明者】
【氏名】西垣 秀治
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-042210(JP,A)
【文献】国際公開第2012/121202(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170764(WO,A1)
【文献】特開2019-073480(JP,A)
【文献】特開2014-095556(JP,A)
【文献】特開2016-117650(JP,A)
【文献】特開2006-036734(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106038595(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 39/00-39/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着剤としての活性炭と、少なくとも1種類の結合剤としての添加剤とを含む経口投与用の錠剤型吸着剤であって、
前記活性炭のBET比表面積が1200m
2/g以上であり、
前記活性炭の下記の(i)式に規定するミクロ孔容積(V
mic)に対するメソ孔容積(V
met)の容積比(V
m)が5.0以下であり、
前記添加剤がアラビアゴム又はペクチンの少なくともいずれか一方である
ことを特徴とする経口投与用錠剤型吸着剤。
【数1】
【請求項2】
前記活性炭がフェノール樹脂の樹脂炭化物であることを特徴とする請求項1に記載の経口投与用錠剤型吸着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤型の経口投与用吸着剤に関し、特に、毒性物質の吸着性能に優れた活性炭を吸着剤とする経口投与用錠剤型吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腎疾患又は肝疾患の患者は、血液中に毒性物質が蓄積し、その結果として尿毒症や意識障害等の脳症を引き起こす。これらの患者数は年々増加する傾向にある。患者の治療には、毒性物質を体外へ除去する血液透析型の人工腎臓等が使用される。しかしながら、このような人工腎臓は、安全管理上から取り扱いに専門技術者を必要とし、また血液の体外への取り出しに際し、患者の肉体的、精神的、及び経済的負担を要することが問題視されており、必ずしも満足すべきものではない。
【0003】
人工臓器に代わる方法として、経口で摂取し体内で毒性物質を吸着し、体外に排出する経口投与用吸着剤が開発されている(特許文献1、特許文献2等参照)。そして、石油系炭化水素(ピッチ)等を原料物質とし、比較的粒径が均一となるように調整し、炭化、賦活させた抗ネフローゼ症候群剤が報告されている(例えば、特許文献3参照)。また、活性炭自体の粒径を比較的均一化するとともに、当該活性炭における細孔容積等の分布について調整を試みた経口投与用吸着剤が報告されている(特許文献4参照)。このように、薬用活性炭は、比較的粒径を均一にすることに伴い、腸内の流動性の悪さを改善し、またこれと同時に細孔を調整することにより当該活性炭の吸着性能の向上を図った。そこで、多くの軽度の慢性腎不全患者に服用されている。
【0004】
薬用活性炭には、尿毒症の原因物質やその前駆物質に対する迅速かつ効率的な吸着が要求される。しかしながら、既存の薬用活性炭では、形状を球形のまま粒径を小さくすることは難しい。また、従来の薬用活性炭における細孔の調整は良好とはいえず、吸着性能は必ずしも十分ではないので、一日当たりの服用量を多くしなければならない。特に、慢性腎不全患者は水分の摂取量を制限されているため、少量の水分により嚥下することは患者にとって大変な苦痛となっていた。
【0005】
そして、薬用活性炭を錠剤型とし、服用しやすい錠剤型の経口投与用組成物が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。薬用活性炭は服用量が多いため服用体積は大きくなり、また、活性炭は水に溶解しないため、細粒型であれば口腔内の不快感が残り、決して服用しやすいとはいえない。また、カプセル型とするとデッドボリュームができるため服用体積がさらに大きくなり嚥下しにくいきらいがある。
【0006】
前掲の錠剤型の経口投与用組成物は、患者の服用負担の軽減を目的とするものの、結合剤が活性炭表面の細孔を閉塞して吸着性能が低下するきらいがあり、吸着性能の低下から服用量を増加させなければならないおそれがある。このため、結果的には服用負担はあまり変わらないか、逆に負担が大きくなってしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3835698号公報
【文献】特開2008-303193号公報
【文献】特開平6-135841号公報
【文献】特開2002-308785号公報
【文献】特許第5701971号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、前掲の状況に鑑み提案されたものであり、結合剤としての添加剤により吸着剤としての活性炭を服用しやすい錠剤型に成形する場合においても、活性炭の毒性物質の吸着性能の低下を抑制することができ、患者の服用負担の軽減を図ることができる経口投与用錠剤型吸着剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、第1の発明は、吸着剤としての活性炭と、少なくとも1種類の結合剤としての添加剤とを含む経口投与用の錠剤型吸着剤であって、前記活性炭のBET比表面積が1200m2/g以上であり、前記活性炭の下記の(i)式に規定するミクロ孔容積(Vmic)に対するメソ孔容積(Vmet)の容積比(Vm)が5.0以下であり、前記添加剤がアラビアゴム又はペクチンの少なくともいずれか一方であることを特徴とする経口投与用錠剤型吸着剤に係る。
【0010】
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記活性炭がフェノール樹脂の樹脂炭化物である経口投与用錠剤型吸着剤に係る。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明に経口投与用錠剤型吸着剤によると、吸着剤としての活性炭と、少なくとも1種類の結合剤としての添加剤とを含む経口投与用の錠剤型吸着剤であって、前記活性炭のBET比表面積が1200m2/g以上であり、前記活性炭の上記の(i)式に規定するミクロ孔容積(Vmic)に対するメソ孔容積(Vmet)の容積比(Vm)が5.0以下であり、前記添加剤がアラビアゴム又はペクチンの少なくともいずれか一方であるため、結合剤としての添加剤により吸着剤としての活性炭を服用しやすい錠剤型に成形する場合においても、活性炭の毒性物質の吸着性能の低下を抑制することができ、患者の服用負担の軽減を図ることができる。
【0013】
第2の発明に係る経口投与用錠剤型吸着剤によると、第1の発明において、前記活性炭がフェノール樹脂の樹脂炭化物であるため、錠剤型に成形した際の毒性物質の吸着性能の低下を抑制することが可能な活性炭とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の経口投与用錠剤型吸着剤は、活性炭を吸着剤とし、活性炭を結合剤としての添加剤により錠剤型に成形されてなる。成形された錠剤型吸着剤の硬度は、おおよそ10Nよりも高いことが望ましく、10Nよりも硬度が低くなると運搬時や包装時における錠剤の破損や摩耗が生じやすく、剤形を維持できないおそれがある。
【0015】
また、活性炭はフェノール樹脂の樹脂炭化物とするのがよい。活性炭の原料をフェノール樹脂とすることによって、賦活を高めて比表面積を大きくしながらも、ミクロ孔容積に対するメソ孔容積の割合(容積比)を高めることができ、毒性物質の吸着性能を向上させやすいためである。本発明においては、後述の実施例により示される通り、フェノール樹脂由来の活性炭であって、比表面積が1200m2/g以上であり、上記の(i)式により求められるミクロ孔容積(Vmic)に対するメソ孔容積(Vmet)の容積比(Vm)が5.0以下とすることにより、添加剤を用いて錠剤型としたときに活性炭由来の吸着性能の低下を抑制することができる。
【0016】
フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型やレゾール型のほか両者の複合フェノール樹脂等の公知のものが挙げられる。フェノール樹脂は、平均粒子径が20~1000μmの範囲の粒状ないし球状の活性炭となる範囲とすることが好ましい。
【0017】
フェノール樹脂は、円筒状レトルト電気炉等の焼成炉内に収容され、炉内を窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下とし、300~1000℃、好ましくは450~700℃において1~20時間かけて炭化され樹脂炭化物となる(「炭化工程」)。
【0018】
炭化工程の後、樹脂炭化物はロータリー式外熱炉等の加熱炉に収容され、750~1000℃、好ましくは800~1000℃、さらには、850~950℃において水蒸気賦活される(「賦活工程」)。賦活時間は生産規模、設備等によるものの、0.5~50時間である。あるいは、二酸化炭素等のガス賦活も用いられる。賦活時間は、目的の活性炭の物性により適宜調整される。賦活後の活性炭は、希塩酸によって洗浄される。希塩酸洗浄後の活性炭は、例えば、JIS K 1474(2014)に準拠したpHの測定によりpH5~7になるまで水洗される。
【0019】
希塩酸の洗浄後、必要により活性炭吸着剤は、酸素及び窒素の混合気体中において加熱処理、水洗浄され、灰分等の不純物が取り除かれる。加熱処理により残留する塩酸分等は取り除かれる。そして、各処理を経ることにより活性炭吸着剤の表面酸化物量は調整される。酸洗浄後、賦活済みの樹脂炭化物に対する加熱処理を通じて、活性炭吸着剤の表面酸化物量は増加する。当該処理時の酸素濃度は0.1~21体積%である。また、加熱温度は150~1000℃、好ましくは400~800℃であり、15分~2時間である。
【0020】
賦活処理後、又は賦活処理に続く加熱処理後の樹脂炭化物(活性炭吸着剤)は、篩別により平均粒子径20~1000μm、より好ましくは150~350μmの粒状物ないし球状物の活性炭に選別されるのがよい。粒子径の調整及び分別により、活性炭吸着剤の吸着速度の一定化と吸着能力の安定化が図られる。粒子径の範囲特に限定されるものではないが、前記の範囲とすると、活性炭吸着剤の表面積を確保することができる。また、粒子径が揃えられると、消化管内での吸着性能は安定することができる。しかも、粒子の硬さを維持して経口投与後(服用後)の消化管内でさらに粉化することも抑制される。ゆえに、経口投与用吸着剤の活性炭の形状は好ましくは球状物である。ただし、製造に起因する真球度のばらつき等も許容されるため、粒状物も含められる。
【0021】
フェノール樹脂は分子中に芳香環構造を有しているため、炭化収率は高まる。さらに賦活により表面積の大きな活性炭が生じる。賦活後の活性炭は、従来の木質やヤシ殻、石油ピッチ等の活性炭と比較しても、細孔径は小さく充填密度は高い。そのため、比較的小さい分子量(分子量が数十ないし数百の範囲)のイオン性有機化合物の吸着に適する。また、フェノール樹脂は従来の活性炭原料の木質等と比較して窒素、リン、ナトリウム、マグネシウム等の灰分が少なく単位質量当たりの炭素の比率は高い。このため、不純物の少ない活性炭を得ることができる。
【0022】
前述の活性炭には、後記する実施例に掲げる肝機能障害や腎機能障害の原因物質を極力速やかに吸着すること、また比較的少ない服用量で十分な吸着性能を発揮することが求められる。具備すべき性質の調和範囲を見いだすべく、活性炭は、水銀細孔容積値やBET比表面積等の指標で規定される。そして、後記する実施例の傾向等から明らかなとおり、各指標のうち、BET比表面積の値が一定以上かつミクロ孔容積に対するメソ孔容積の容積比が一定以下であると、錠剤型としたときに吸着性能の低下が抑制されることがわかった。
【0023】
BET比表面積は、前述したとおり、1200m2/g以上に規定される。1200m2/gよりも小さくなると、経口投与用吸着剤としての毒性物質の吸着力が不足してしまうためである。また、ミクロ孔容積に対するメソ孔容積の容積比(Vm)は、前述したとおり、5.0以下に規定される。該容積比が5.0より大きくとなると、添加剤を用いて錠剤型としたときに、比較的大きな分子である添加剤がメソ孔を閉塞することにより、毒性物質のミクロ孔への到達を阻害してしまい毒性物質の吸着性能が低下すると考えられるためである。BET比表面積が1200m2/g以上であるとともに、ミクロ孔容積に対するメソ孔容積の容積比(Vm)が5.0以下である場合、毒性物質の吸着性能の低下が抑制される。
【0024】
充填密度は0.3~0.8g/mLとするのがよい。充填密度が0.3g/mL未満の場合、服用量が増加し経口投与時に嚥下しづらくなる。充填密度が0.8g/mLを超える場合、フェノール樹脂由来の活性炭としての所望の選択吸着性のバランスを欠くおそれがある。
【0025】
また、先に述べたように、活性炭は細孔の孔径によっても規定される。活性炭のような吸着剤の場合、ミクロ孔、メソ孔、マクロ孔のいずれの細孔も存在している。その中で、いずれの範囲の細孔をより多く発達させるかにより、活性炭の吸着対象、性能は変化する。本発明において所望される活性炭は、尿毒症の原因物質やその前駆物質に代表されるインドキシル硫酸、アミノイソ酪酸、トリプトファン等の窒素を含有する低分子量のイオン性有機化合物の吸着を想定する。そして、本発明の経口投与用錠剤型吸着剤の活性炭は、前記の吸着対象の分子を従前の活性炭吸着剤よりも効果的に吸着することである。
【0026】
マクロ孔及びメソ孔側の割合が相対的に高められることにより、吸着対象は活性炭内部へ容易に侵入できる。また、比較的大きな分子である添加剤がメソ孔に吸着されたとしても、ミクロ孔への毒性物質の到達が阻害されにくい。そして、吸着対象はマクロ孔及びメソ孔に接続したミクロ孔に補足され、吸着は速く進む。通常、摂食から排泄までのうち、食物が消化により分解されて小腸内を流動する時間はおよそ6~10時間と考えられる。つまり、小腸内を流動する間に経口投与用錠剤型吸着剤(の活性炭)が目的の吸着対象である窒素を含有する低分子を吸着する必要がある。そこで、腸管内における効率良い吸着を勘案すると、短時間の吸着が望ましいといえる。これらのことから、活性炭のマクロ孔側の細孔を多く発達させることには意味がある。
【0027】
これらの指標に加えて、平均細孔直径も加えられる。そこで、平均細孔直径は1.5~2.5nmの範囲とするのがよい。活性炭吸着剤の平均細孔直径が当該範囲内に調整されることにより、分子量数十ないし数百の比較的低分子のイオン性有機化合物の吸着は良好となる。同時に、活性炭は分子量数千ないし数万の酵素、多糖類等の生体に必要な高分子化合物の吸着を抑制できる。活性炭の平均細孔直径が2.5nmを越える場合、酵素、多糖類等の高分子を吸着する細孔が多く存在してしまうため好ましくない。また、活性炭の平均細孔直径が1.5nm未満であると、細孔容積自体が減少し、吸着力を低下させるおそれがある。
【0028】
前述の活性炭は、経口投与を目的とした薬剤として用いられるのであって、腎疾患又は肝疾患の治療剤又は予防剤となる。活性炭の表面に発達した細孔内に疾患、慢性症状の原因物質が吸着、保持され、体外へ排出されることにより、症状悪化は抑制され、病態改善につながる。さらに、先天的あるいは後天的に代謝異常又はそのおそれのある場合、予め活性炭を内服することにより、疾患、慢性症状の原因物質の体内濃度は下げられる。そこで、症状悪化を防ぐ予防としての服用も考えられる。
【0029】
腎疾患として、例えば、慢性腎不全、急性腎不全、慢性腎盂腎炎、急性腎盂腎炎、慢性腎炎、急性腎炎症候群、急性進行型腎炎症候群、慢性腎炎症候群、ネフローゼ症候群、腎硬化症、間質性腎炎、細尿管症、リポイドネフローゼ、糖尿病性腎症、腎血管性高血圧、高血圧症候群、あるいは前記の原疾患に伴う続発性腎疾患、さらに、透析前の軽度腎不全を挙げることができる。肝疾患として、例えば、劇症肝炎、慢性肝炎、ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、肝線維症、肝硬変、肝癌、自己免疫性肝炎、薬剤アレルギー性肝障害、原発性胆汁性肝硬変、振戦(しんせん)、脳症、代謝異常、機能異常を挙げることができる。
【0030】
活性炭を経口投与用吸着剤として使用する際の投与量は、年齢、性別、体格又は病状等に影響されるため一律の規定は難しい。しかし、一般にヒトを対象とする場合、活性炭の重量換算で1日当り1~20g、2~4回の服用が想定される。体積にすると2~6cm3を一度に服用する必要があり、患者にとっては苦痛が大きい。そこで、錠剤型にすることにより、少しでも服用しやすくし患者の負担の軽減を図ることとした。
【0031】
活性炭は、その性質上、従来の製法によっては打錠成形が不可能であるため、水等の溶媒を介した結合剤の結着力により錠剤型へと成形を行う。結合剤としての添加剤を用いて錠剤型へ成形すると、添加剤が活性炭表面の細孔を覆うことにより、細孔が閉塞して活性炭の吸着性能を低下させるきらいがある。そして、錠剤型への成形に起因して活性炭の吸着性能が低下すると、服用量がかえって増加してしまうおそれがあり、患者の服用負担が増えてしまう。つまり、錠剤型の成形に際し、活性炭の吸着性能の低下を抑制する必要がある。
【0032】
そこで、前述のとおりフェノール樹脂由来の活性炭の比表面積を一定以上としつつ、ミクロ孔容積に対するメソ孔容積の容積比(Vm)を一定以下とするとともに、結合剤としての添加剤をアラビアゴム又はペクチンとすることにより、錠剤型に成形した場合における活性炭の吸着性能の低下を抑制する。また、添加剤をアラビアゴム又はペクチンとすると、添加剤の量を減らすことができ、錠剤型吸着剤のうち90%以上を活性炭とすることが可能となるため、細粒型の吸着剤と比較して服用量ないし服用体積の増加を抑制することができる。
【実施例】
【0033】
[活性炭の調製]
試作例の経口投与用錠剤型吸着剤の作成に際し、下記の活性炭1~7を使用した。試作例に対応するフェノール樹脂由来の活性炭2~5を、原料のフェノール樹脂を炭化し、賦活して調製した。また、活性炭6として、原料のセルロースを炭化し、賦活して調製した。
【0034】
<活性炭1>
活性炭1として、「マイラン」(登録商標、マイラン製薬株式会社製「球形吸着炭細粒マイラン」)を使用した。なお、活性炭1はフェノール樹脂由来の活性炭である。
【0035】
<活性炭2>
1Lのセパラブルフラスコ内に90%フェノール300.0重量部に、37%ホルムアルデヒド163.0重量部、酸性触媒としてのシュウ酸1.4重量部、乳化剤としてのアラビアゴム2.7重量部、水132.3重量部を加えて95℃以上に加熱して適宜重合させた。次に、ホルムアルデヒド93.2重量部、塩基性触媒としてのヘキサメチレンテトラミン18.9重量部とトリエチレンテトラミン8.1重量部、水40.6重量部を同セパラブルフラスコ内に投入し、60℃を維持しながら1時間加熱して反応を進めた。その後、95℃以上に加熱し4時間還流してフェノール樹脂を得た。該フェノール樹脂100gを円筒状レトルト電気炉に入れて窒素を封入した後、100℃/1時間で昇温し、600℃を1時間維持して炉内のフェノール樹脂を炭化した。その後、炭化物を900℃に加熱し炉内に水蒸気を注入して900℃で3.5時間維持して水蒸気を添加して賦活化し、活性炭2を得た。
【0036】
<活性炭3>
1Lのセパラブルフラスコ内に90%フェノール180.0重量部に、37%ホルムアルデヒド125.7重量部、酸触媒としてのシュウ酸0.8重量部、乳化剤としてのアラビアゴム3.5重量部、水218.0重量部を加えて95℃以上に加熱して適宜重合させた。次に、90%フェノール185.0重量部、37%ホルムアルデヒド113.4重量部、塩基性触媒としてのヘキサメチレンテトラミン23.0重量部とトリエチレンテトラミン9.9重量部、水49.3重量部を同セパラブルフラスコ内に投入し、60℃を維持しながら1時間加熱して反応を進めた。その後、95℃以上に加熱し4時間還流してフェノール樹脂を得た。該フェノール樹脂を用い、賦活時間を2時間とした以外は活性炭2と同様とし、活性炭3を得た。
【0037】
<活性炭4>
1Lのセパラブルフラスコ内に90%フェノール180.0重量部に、37%ホルムアルデヒド125.7重量部、酸性触媒としてのシュウ酸0.8重量部、乳化剤としてのアラビアゴム2.6重量部、水216.8重量部を加えて95℃以上に加熱して適宜重合させた。次に、90%フェノール185.0重量部、37%ホルムアルデヒド113.4重量部、塩基性触媒としてのヘキサメチレンテトラミン23.0重量部とトリエチレンテトラミン9.9重量部、水49.3重量部を同セパラブルフラスコ内に投入し、60℃を維持しながら1時間加熱して反応を進めた。その後、95℃以上に加熱し4時間還流してフェノール樹脂を得た。該フェノール樹脂を用い、賦活時間を2時間とした以外は活性炭2と同様とし、活性炭4を得た。
【0038】
<活性炭5>
原料としてフェノール樹脂(リグナイト株式会社製、「LPS-1046」)80gを用い、賦活時間を0.5時間とした以外は活性炭2と同様とし、活性炭5を得た。
【0039】
<活性炭6>
単位重量当たりα-セルロースが90重量%の溶解パルプ(日本製紙ケミカル株式会社製、「LNDP」)2kgと水酸化ナトリウム溶液(濃度18.5%)を55℃で15分浸漬し、その後、圧搾を行い余剰の水酸化ナトリウム分を除去してセルロース濃度33.5重量%のアルカリセルロース(AC)を作製した。アルカリセルロースを40℃にて7時間老成し、同アルカリセルロース5kgと純度97%以上の二硫化炭素436mLを70分間反応させて、40℃にて粘度0.055Pa・s(55cP)のセルロースザンテートを得た。
【0040】
反応終了後、セルロースザンテートに希薄な水酸化ナトリウム溶液を約13L添加し、100分間攪拌してビスコースを得た。さらに脱泡、熟成、濾過の工程を経てセルロース濃度9.0%のビスコースを調製した。該ビスコースを水によりビスコース濃度75%まで希釈し、希釈したビスコースを、導入管を通じて側面に多孔面を設けた回転体に供給し、遠心噴霧により滴下させることで、下方に設置した希硫酸浴に液滴を捕捉し、セルロース(いわゆる再生セルロース)の球状物を得た。このとき、セルロースの球状物を30分間以上、希硫酸浴に浸漬した。セルロースの球状物を大過剰の水にて水洗し希硫酸を除去後、希水酸化ナトリウム水溶液に1時間以上浸漬した。再度大過剰の水にて水洗し球状物中の水酸化ナトリウム分を除去した後、100℃で乾燥して球状セルロースを得た。
【0041】
該球状セルロース420gに塩化アンモニウム水溶液(濃度1%、400mL)と臭化アンモニウム水溶液(濃度1%、400mL)の混合液を800mL加え、2時間静置した。その後、水分をきり、静置乾燥機(株式会社アドバンテック製、「DRN620DB」)により100℃で一晩乾燥した。その後、球状セルロース400gを円筒状レトルト電気炉に入れて窒素を封入した後、50℃/1時間で昇温し、250℃を1時間維持して炉内の球状セルロースを炭化した。その後、炭化物を900℃に加熱し炉内に水蒸気を注入して900℃で3時間維持して水蒸気を添加して賦活化し、活性炭6を得た。
【0042】
<活性炭7>
活性炭7として、「クレメジン」(登録商標、株式会社クレハ「クレメジン細粒」)を使用した。なお、活性炭7は石油ピッチ由来の活性炭である。
【0043】
[使用添加剤]
発明者は、各試作例の経口投与用錠剤型吸着剤を得るため、下記の添加剤を用いた。
・ペクチン:(和光純薬株式会社製、かんきつ類由来)
・アラビアゴム:(三栄薬品貿易株式会社製)
・プルラン:(株式会社林原製)
・ポリビニルアルコール:(三菱ケミカル株式会社製、「ゴーセノールEG-05P」)
【0044】
<試作例1>
活性炭1を0.333gと添加剤であるペクチン(5.1%)0.0179gと水0.381gとを混和して練合物とし、直径13mm、深さ6mmの金型(成形型)に充填して成形した。金型を乾燥機内に静置したのち、機内温度100℃で30分以上加熱乾燥し、金型から取り出して試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0045】
<試作例2>
活性炭2を0.313gとし、ペクチン(5.1%)0.0168gと水0.244gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例2の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0046】
<試作例3>
活性炭3を0.284gとし、ペクチン(5.1%)0.0153gと水0.293gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例3の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0047】
<試作例4>
活性炭4を0.350gとし、ペクチン(5.1%)0.0188gと水0.274gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例4の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0048】
<試作例5>
活性炭5を0.522gとし、ペクチン(5.1%)0.0281gと水0.363gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例5の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0049】
<試作例6>
活性炭6を0.541gとし、ペクチン(5.1%)0.0291gと水0.376gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例6の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0050】
<試作例7>
活性炭7を0.408gとし、ペクチン(5.1%)0.0219gと水0.389gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例7の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0051】
<試作例8>
活性炭1を0.333gとし、添加剤をアラビアゴム(4.8%)0.0168gとし、水0.316gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例8の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0052】
<試作例9>
活性炭2を0.313gとし、添加剤をアラビアゴム(4.8%)0.0158gとし、水0.181gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例9の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0053】
<試作例10>
活性炭3を0.284gとし、添加剤をアラビアゴム(4.8%)0.0144gとし、水0.235gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例10の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0054】
<試作例11>
活性炭4を0.350gとし、添加剤をアラビアゴム(4.8%)0.0177gとし、水0.202gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例11の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0055】
<試作例12>
活性炭5を0.522gとし、添加剤をアラビアゴム(4.8%)0.0264gとし、水0.265gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例12の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0056】
<試作例13>
活性炭6を0.541gとし、添加剤をアラビアゴム(4.8%)0.0274gとし、水0.274gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例13の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0057】
<試作例14>
活性炭7を0.408gとし、添加剤をアラビアゴム(4.8%)0.0206gとし、水0.286gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例14の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0058】
<試作例15>
活性炭1を0.333gとし、添加剤をプルラン(4.8%)0.0168gとし、水0.316gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例15の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0059】
<試作例16>
活性炭2を0.313gとし、添加剤をプルラン(4.8%)0.0158gとし、水0.181gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例16の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0060】
<試作例17>
活性炭3を0.284gとし、添加剤をプルラン(4.8%)0.0144gとし、水0.255gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例17の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0061】
<試作例18>
活性炭4を0.350gとし、添加剤をプルラン(4.8%)0.0177gとし、水0.202gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例18の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0062】
<試作例19>
活性炭5を0.522gとし、添加剤をプルラン(4.8%)0.0264gとし、水0.265gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例19の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0063】
<試作例20>
活性炭6を0.541gとし、添加剤をプルラン(4.8%)0.0274gとし、水0.274gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例20の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0064】
<試作例21>
活性炭7を0.408gとし、添加剤をプルラン(4.8%)0.0206gとし、水0.286gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例21の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0065】
<試作例22>
活性炭1を0.333gとし、添加剤をポリビニルアルコール(4.8%)0.0168gとし、水0.316gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例22の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0066】
<試作例23>
活性炭2を0.313gとし、添加剤をポリビニルアルコール(4.8%)0.0158gとし、水0.181gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例23の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0067】
<試作例24>
活性炭3を0.284gとし、添加剤をポリビニルアルコール(4.8%)0.0144gとし、水0.203gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例24の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0068】
<試作例25>
活性炭4を0.350gとし、添加剤をポリビニルアルコール(4.8%)0.0177gとし、水0.202gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例25の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0069】
<試作例26>
活性炭5を0.522gとし、添加剤をポリビニルアルコール(4.8%)0.0264gとし、水0.265gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例26の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0070】
<試作例27>
活性炭6を0.541gとし、添加剤をポリビニルアルコール(4.8%)0.0274gとし、水0.274gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例27の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0071】
<試作例28>
活性炭7を0.408gとし、添加剤をポリビニルアルコール(4.8%)0.0206gとし、水0.286gとした以外は試作例1の経口投与用錠剤型吸着剤と同様とし、試作例28の経口投与用錠剤型吸着剤を得た。
【0072】
[測定項目・測定方法]
各試作例に対応する活性炭1~7の物性に関し、充填密度(g/mL)、BET比表面積(m2/g)、ミクロ孔容積(Vmic)(cm3/g)、メソ孔容積(Vmet)(ml/g)、容積比(Vm)、マクロ孔容積(ml/g)、平均細孔直径(nm)、平均粒子径(μm)を測定した。
【0073】
〔充填密度〕
活性炭1~7の充填密度(g/ml)は、JIS K 1474(2014)に準拠して測定した。
【0074】
〔BET比表面積〕
活性炭1~7のBET比表面積(m2/g)は、77Kにおける窒素吸着等温線を「BELSORP mini」(日本ベル株式会社製)により測定し、BET法により求めた。
【0075】
〔ミクロ孔容積〕
活性炭1~7のミクロ孔容積(Vmic)(cm3/g)は、Gurvitschの法則を適用し、「BELSORP mini」(日本ベル株式会社製)を使用し、相対圧0.953における液体窒素換算した窒素吸着量(Vads)を(ii)式から液体状態の窒素体積(Vmic)に換算し、ミクロ孔容積として求めた。同方法は細孔直径0.42~2.0nmの範囲を対象とした。(ii)式において、Mgは吸着質の分子量(窒素:28.020)、ρg(g/cm3)は吸着質の密度(窒素:0.808)である。
【0076】
【0077】
〔メソ孔容積〕
活性炭1~7のメソ孔容積(Vmet)(ml/g)は、「オートポア9500」(株式会社島津製作所製)を使用し、接触角130°、表面張力484ダイン/cm(4.84mN/m)に設定し、細孔直径2~50nmの水銀圧入法による細孔容積値をメソ孔容積(ml/g)として求めた。
【0078】
〔容積比〕
活性炭1~7の容積比(Vm)は、ミクロ孔容積(Vmic)(cm3/g)をメソ孔容積(Vmet)(ml/g)で除した値であって、上記(i)式から算出した。
【0079】
〔マクロ孔容積〕
活性炭1~7のマクロ孔容積(ml/g)は、「オートポア9500」(株式会社島津製作所製)を使用し、接触角130°、表面張力484ダイン/cm(4.84mN/m)に設定し、細孔直径50~15000nmの水銀圧入法による細孔容積値をマクロ孔容積(ml/g)として求めた。
【0080】
〔平均細孔直径〕
活性炭1~7の平均細孔直径(nm)は、細孔の形状を円筒形と仮定し、細孔容積(ml/g)及び比表面積(m2/g)の値を用いて下記の(iii)式より求めた。
【0081】
【0082】
〔平均粒子径〕
活性炭1~7の平均粒子径(μm)は、レーザー光散乱式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製、「SALD3000S」)を使用して測定し、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%における粒径とした。
【0083】
[吸着性能評価]
発明者は、尿毒症等の原因となり得る窒素を含有する化合物の吸着率を測定する吸着試験を行った。そこで、含窒素低分子化合物から毒性物質として「インドール」及び「トリプトファン」の2種類の物質を選択し、粒状の活性炭1~7について、当該2種の分子の吸着率(%)を測定した。
【0084】
インドール及びトリプトファンの2種類の吸着率については、pH7.4のリン酸緩衝液に前記の物質をそれぞれ溶解して0.1g/Lの濃度の標準溶液を調製した。
インドールの標準溶液50mLに、予め静置乾燥機内120℃で15分以上加熱乾燥させた粒状の活性炭1~7をそれぞれ0.01g添加し、37℃の温度で3時間接触振とうした。
トリプトファンの標準溶液50mLに、予め静置乾燥機内120℃で15分以上加熱乾燥させた活性炭1~7をそれぞれ0.01g添加し、37℃の温度で3時間接触振とうした。
【0085】
その後、濾過して得た濾液について、分光光度計(株式会社島津製作所、「UVmini-1240」)を用い、吸光光度法により279nmの吸光度を測定した。各被吸着物質の吸着率(%)は(iv)式より求めた。
【0086】
【0087】
活性炭1~7の上記の物性及びそれぞれの標準物質の吸着率を表1に示した。
【0088】
【0089】
また、各試作例の経口投与用錠剤型吸着剤について、当該2種の分子の吸着率(%)も測定した。そして、経口投与用錠剤型吸着剤の吸着率を粒状の活性炭の吸着率で除して吸着性能の低下の程度を吸着比として算出した。添加剤にペクチンを使用した試作例1~7の結果を表2、アラビアゴムを使用した試作例8~14の結果を表3、プルランを使用した試作例15~21の結果を表4、ポリビニルアルコールを使用した試作例22~28の結果を表5に示す。
【0090】
各試作例の経口投与用錠剤型吸着剤の吸着率については、経口投与用錠剤型吸着剤をスパーテルを用いて適度に解砕した後、静置乾燥機内120℃で15分以上加熱乾燥させた。その後、添加剤を除いた実質活性炭総量で0.01gの解砕した経口投与用錠剤型吸着剤をインドール又はトリプトファンの標準溶液50mlに添加し、37℃の温度で3時間接触振とうした。その後、濾過して得た濾液について、分光光度計(株式会社島津製作所、「UVmini-1240」)を用い、吸光光度法により279nmの吸光度を測定した。各被吸着物質の吸着率(%)は上記(iv)式より求めた。
【0091】
さらに、各試作例について、硬度(N)を計測し、表2~5に示した。硬度(N)は、デジタル硬度計(アズワン株式会社製、「KHT-40N」)を用い、経口投与用錠剤型吸着剤が破壊された時点での破壊強度を硬度として測定した。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
[吸着試験の結果・考察]
表2に示されるように、フェノール樹脂を原料とする活性炭よりなり、添加剤にペクチンを使用した試作例1~5において、比表面積が高く、容積比が小さい試作例1~4は、錠剤型とする以前の元炭におけるトリプトファンの吸着性能の7割程度以上の吸着性能が発揮されることが示された。また、インドールの吸着比について9割以上の吸着率となり、吸着性能の低下を抑制することができた。セルロース由来の活性炭よりなる試作例6は、元炭の賦活の程度が同等で容積比が小さい試作例3と比較してトリプトファンの吸着性能の低下が大きかった。石油ピッチ由来の活性炭よりなる試作例7はインドールの吸着性能の低下が大きかった。
【0097】
表3に示されるように、フェノール樹脂由来の活性炭よりなり、添加剤にアラビアゴムを使用した試作例8~12において、ペクチンを使用した試作例1~4と同様に、比表面積の大きく容積比(Vm)の小さい活性炭を使用した試作例8~11は、インドールの吸着率の低下はなく、トリプトファンの吸着性能の低下を抑制することができた。試作例12はインドールの吸着性能が少し低下した。試作例13については、インドールの吸着性能が元炭の8割程度となり、試作例14については7割程度にまで低下した。
【0098】
表4に示されるように、添加剤をプルランとした試作例15~21については、試作例15、試作例17及び試作例18(特に比表面積の大きい活性炭1、容積比(Vm)の小さい活性炭3及び活性炭4を使用した例)以外の試作例16、試作例19~21はトリプトファンの吸着性能の低下が大きかった。
【0099】
表5に示されるように、添加剤をポリビニルアルコールとした試作例22~28については、どの試作例においてもインドール及びトリプトファンの吸着性能の低下が大きく、経口投与用錠剤型吸着剤に用いる添加剤としてポリビニルアルコールが適していないことがわかった。
【0100】
[まとめ]
以上、各試作例で示されたように、賦活を高め比表面積が大きく、かつ容積比が小さい活性炭を元炭とし、添加剤としてペクチン又はアラビアゴムを使用することによって、錠剤型に成形された錠剤型吸着剤としたときの毒性物質の吸着性能の低下を抑制することが可能であることがわかった。また、元炭の比表面積を大きくするのみでなく、ミクロ孔容積に対するメソ孔容積の容積比を小さくすることにより、添加剤がメソ孔に吸着されたとしても毒性物質のミクロ孔への到達が阻害されにくくなり、経口投与用錠剤型吸着剤の吸着性能の低下の抑制に寄与することが理解された。容積比が同程度の活性炭においては、活性炭の比表面積と吸着性能の低下の抑制はおおよそ比例しており、活性炭の比表面積は大きい方が、錠剤型吸着剤としたときの吸着性能をより抑制することができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の経口投与用錠剤型吸着剤は、毒性物質の吸着性能の高い吸着剤としての活性炭の吸着性能の低下を抑制することができることから、服用しやすくなるとともに服用量や体積の増加を抑え、患者の服用負担の軽減を図ることができる。また、服用が容易になることから、経口投与により消化器官に達し、尿毒症、腎機能、肝機能障害等の原因となる窒素を含有する化合物を迅速に吸着でき、治療剤又は予防剤として有望である。