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特許7499076吸着ノズル、線状物ハンドリングシステムおよび線状物ハンドリング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】吸着ノズル、線状物ハンドリングシステムおよび線状物ハンドリング方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/06 20060101AFI20240606BHJP
   B25J 13/08 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
B25J15/06 A
B25J13/08 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020100459
(22)【出願日】2020-06-09
(65)【公開番号】P2021194712
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167988
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 大介
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-220683(JP,A)
【文献】特開昭58-102692(JP,A)
【文献】特開2017-100248(JP,A)
【文献】国際公開第2018/193754(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/098074(WO,A1)
【文献】実開昭61-183327(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟な線状物の束から1本の柔軟な線状物の側面に真空吸着して、吸着した前記線状物を取り上げる吸着ノズルであって、
先端部の前面に溝が形成され
前記溝の断面形状が略U字状であり、
前記溝の深さが前記線状物の直径の1倍以上、3倍以下であって、前記線状物が前記溝に収まり、
前記溝の側壁部が剛性を有し、
前記側壁部の先端が楔型に形成されている、
吸着ノズル。
【請求項2】
前記溝の幅が前記線状物の直径の1.1倍以上、2倍未満である、
請求項1に記載の吸着ノズル。
【請求項3】
請求項1または2に記載された吸着ノズルと、
前記吸着ノズルが保持した前記線状物を把持するロボットハンドと、
を有する線状物ハンドリングシステム。
【請求項4】
前記吸着ノズルが保持した前記線状物を認識する3次元視覚センサをさらに有し、
前記ロボットハンドは、前記3次元視覚センサの認識結果に基づいて、前記吸着ノズルが保持した前記線状物を把持する、
請求項3に記載の線状物ハンドリングシステム。
【請求項5】
柔軟な線状物の束を所定位置に載置する工程と、
請求項1または2に記載された吸着ノズルに前記線状物の中の1本である第1線状物を吸着させる吸着工程と、
前記第1線状物を吸着させた吸着ノズルを移動させて、前記第1線状物を他の線状物から離す離間工程と、
を有する線状物ハンドリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟な線状物の束から1本の線状物を真空吸着して取り上げる吸着ノズルに関する。また、本発明は、かかる吸着ノズルとロボットを利用して線状物をハンドリングするシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線状物を3次元カメラ等で認識して自律的に把持するロボットの普及が進んでいる。例えば、特許文献1には、柔軟で形状が定まらない複数の線状物の3次元形状を計測し、そのうちの1本を他の線状物と干渉しないでロボットハンドで把持可能かを判定して、把持する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/098074号
【文献】実開昭61-183327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
線状物の数が例えば数十本あるいは数百本と増えると、特許文献1に記載された方法では3次元形状の計測のための計算負荷が重くなるため、予め多数の線状物から1本を抜き出しておいて、ロボットハンドで把持する方が効率的な場合があった。
【0005】
特許文献2には、パイプや丸棒などの長尺材料に関し、トレイ上に集積された銅管に対して、真空ポンプに接続された吸着パッドを降下させて真下に位置する銅管の表面に吸着させ、上昇させて一本の銅管を持ち上げる方法が記載されている。
【0006】
しかし剛直なパイプ等と異なり、柔軟で変形しやすい線状物は整然と積み上げることが難しく、隣り合う線状物が交差したり、極端な場合には絡み合ったりしやすい。そのため、線状物を吸着した吸着ノズルを上昇させて線状物を持ち上げるときに、隣接する線状物が干渉して、持ち上げようとする線状物に水平面内および垂直面内の回転モーメントが発生する。結果として、線状物が垂直面内で斜めになって吸着ノズルから脱落したり、線状物が短い場合には水平面内で回転したりするという問題があった。これに対して単に吸着ノズルの吸引力を大きくしても、水平面内の回転モーメントに対する効果は限定的であり、また、複数の線状物がノズルに吸着するという問題が生じた。
【0007】
本発明は上記を考慮してなされたものであり、柔軟な線状物の束から1本の線状物を吸着して、より確実に取り上げることが可能な吸着ノズルを提供することを目的とする。また、本発明は、かかる吸着ノズルとロボットを利用して当該線状物をハンドリングするシステムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の吸着ノズルは、柔軟な線状物の側面に真空吸着して保持する吸着ノズルであって、先端部の前面に溝が形成されている。ここで、真空とは、完全な真空であることは意味せず、減圧状態を含む大気よりも低い圧力のことをいう。また、先端部の前面とは、吸着しようとする線状物に相対する面をいう。この構成により、線状物が柔軟で変形しやすい場合でも、より確実に、線状物の束から1本の線状物を吸着して取り上げることが可能となる。なお、本明細書において線状物の束とは、長さ方向の向きがおおよそ揃えられた複数本の線状物の一かたまりのことをいい、複数本の線状物が結束されていることは意味しない。
【0009】
好ましくは、前記溝と前記先端部の外側面に挟まれた側壁部が剛性を有する。ここで、溝の側壁部とは、溝の側方にあって、溝と前記先端部の外側面に挟まれた部分のことをいう。これにより、線状物の束に吸着ノズルを強く押し付けても先端部が変形せず、一旦吸着した線状物が脱落することがない。
【0010】
より好ましくは、前記側壁部の先端が楔型に形成されている。これにより、線状物の束に吸着ノズルを近付けた際に隣り合う線状物間に側壁部が入り込みやすく、より確実に1本の線状物を取り上げることができる。
【0011】
好ましくは、前記溝の幅が前記線状物の直径の1倍以上、2倍未満である。これにより、柔軟で変形しやすい線状物であっても、線状物の束に吸着ノズルを近付けた際に線状物の1本が溝に嵌り込み、隣接する線状物の干渉による回転モーメントの影響を受けにくいので、より確実に、多数の線状物の束から1本の線状物を取り上げることができる。
【0012】
あるいは、好ましくは、前記溝の幅が前記線状物の直径の1倍以上、2倍未満であり、前記側壁部は、前記溝の幅方向から見て央部が凸に形成されている。これにより、線状物の束に吸着ノズルを近付けた際に隣り合う線状物間に側壁部がさらに入り込みやすく、吸着される線状物を隣接する線状物から幅方向に離間させて、より確実に1本の線状物を取り上げることができる。
【0013】
あるいは、好ましくは、前記溝の幅が前記線状物の直径未満である。これにより、溝の両側にある2つの側壁部のエッジを線状物の側面に当接させて線状物を吸着するので、隣接する線状物の干渉による回転モーメントの影響を受けにくい。
【0014】
好ましくは、前記線状物の直径が5mm以下である。本発明は、このように細くて軽量な線状物に適用するのに特に適している。
【0015】
本発明の線状物ハンドリングシステムは、上記いずれかの吸着ノズルと、前記吸着ノズルが保持した前記線状物を把持するロボットハンドとを有する。そして、好ましくは、前記吸着ノズルが保持した前記線状物を認識する3次元視覚センサをさらに有し、前記ロボットハンドは、前記3次元視覚センサの認識結果に基づいて、前記吸着ノズルが保持した前記線状物を把持する。
【0016】
本発明の他の線状物ハンドリングシステムは、上記いずれかの吸着ノズルと、前記吸着ノズルを備えるロボットアームとを有する。そして、好ましくは、前記吸着ノズルが保持した前記線状物を認識する3次元視覚センサをさらに有する。
【0017】
本発明の線状物ハンドリング方法は、柔軟な線状物の束を所定位置に載置する工程と、上記いずれかの吸着ノズルに前記線状物の中の1本である第1線状物を吸着させる吸着工程と、前記線状物を吸着させた吸着ノズルを移動させて、前記第1線状物を他の線状物から離す離間工程とを有する。線状物ハンドリング方法は、好ましくは、前記離間工程の後に、前記吸着ノズルに吸着された前記第1線状物の位置を3次元視覚センサで認識して、前記3次元視覚センサの認識結果に基づいて、前記第1線状物をロボットハンドで把持する把持工程をさらに有する。線状物ハンドリング方法は、あるいは、前記吸着ノズルはロボットアームに取り付けられており、前記離間工程の後に、前記吸着ノズルに吸着された前記第1線状物の位置を3次元視覚センサで認識し、前記3次元視覚センサの認識に基づいて、前記ロボットアームを動作させる移動工程をさらに有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の吸着ノズルによれば、柔軟で変形しやすい線状物であっても、より確実に、多数の線状物の束から1本の線状物を取り上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態の吸着ノズルと線状物の配置例を示す図である。
図2】第1実施形態の吸着ノズルの、A:斜視図、B:正面図、C:側面図、である。
図3】A~F:第1実施形態の吸着ノズルの変形例の正面図である。
図4】第1実施形態の他の吸着ノズルの正面図である。
図5】A,B:第1実施形態の他の吸着ノズルの側面図である。
図6】A~E:第1実施形態の吸着ノズルによる線状物の吸着動作を説明するための図である。
図7】第2実施形態の吸着ノズルの、A:斜視図、B:正面図、C:側面図、である。
図8】A,B:第2実施形態の他の吸着ノズルの正面図である。
図9】第1実施形態の吸着ノズルを含む線状物ハンドリングシステムの構成を示す図である。
図10】第1実施形態の吸着ノズルを含む他の線状物ハンドリングシステムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の吸着ノズルの第1実施形態を図1図6に基づいて説明する。本実施形態の線状物Sは、直径が10mm以下、好ましくは5mm以下、さらに好ましくは1mm以下であるような細く柔軟な線状物を想定している。本実施形態の吸着ノズルは、線状物を吸着する際に、当該線状物が先端部の前面の溝に収まることを特徴とする。
【0021】
図1を参照して、多数の柔軟な線状物Sが向きをおおよそ揃えて、断面が略V字のトレイ45に載置されている。吸着ノズル10は先端部12を下に向けて線状物Sの上方に配置されている。吸着ノズルは上下動可能であり、降下して線状物Sの1本を吸着し、再び上昇することによって吸着した線状物を持ち上げることができる。線状物Sを載置する台や容器は、図1に示したトレイ45には限定されず、線状物Sの束を載置可能で上方が開放された物であればよい。好ましくは、自重や上に積み重なる他の線状物の重量によって線状物が中央に集まりやすくなるため、略V字ように、線状物の載置面の長手方向から見て下に行くにつれて幅が狭くなるトレイ等を利用する。
【0022】
図2を参照して、吸着ノズル10は、真空ポンプ等の負圧源(図示せず)と接続されるノズル本体11と先端部12とを有する。先端部12の前面17には、ノズル本体11と連通する吸引口13から両側に、吸引方向(図の-Z方向)と略直交する方向(X方向)に延び、幅方向(Y方向)の断面がU字状の溝14が形成されている。溝14の長さ方向(X方向)の両端は開放されている。
【0023】
溝14は線状物Sの1本が嵌る幅を有する。溝14の幅Wは線状物Sの直径の1倍以上である。溝の幅Wは、好ましくは、線状物の直径の1.1倍以上である。線状物Sが曲がった状態でも溝に嵌り込みやすいからである。一方、溝の幅Wは、好ましくは線状物Sの直径の2倍未満である。溝に嵌る線状物を1本に制限するためである。また、溝に進入した線状物と溝の壁面との隙間を狭くすることで、当該隙間を抜ける気流の流速を大きくして、より大きな吸引力を得るためである。
【0024】
図3A~Fに、溝14の断面形状のいくつかの例を示す。溝14の断面形状は線状物Sの1本が嵌る略U字状であればよい。略U字状とは、吸引口13が位置する底面14aと両側壁面14bとに3方を囲まれた形状をいう。例えば、略U字状の底面14aの部分は線状物の側面に沿うようにアーチ状に形成されていてもよいし(図3A)、底面が平面に形成されて溝の断面形状がコの字状になっていてもよいし(図3B)、底面がV字状に形成されていてもよい(図3C)。また、溝の底面14aと側壁面14bの境界は明瞭でなくてもよい(図3D)。また、溝の幅が一定で両側壁面14bが平行であってもよいし(図3A~C)、溝の深さ方向で幅が変化していて底面14aから前面17に向かって幅が広がっていてもよいし(図3E)、底面から前面17に向かって幅が狭まっていてもよい(図3F)。図3Fに示した溝の断面形状では、溝の幅に対して吸引口を大きくできるので、吸気量を増やして吸引力を大きくすることができる点で好ましい。また、底面の形状は、吸着された線状物Sが吸引口13を塞ぐように形成されていてもよいし(図3A,B,D,F)、吸引口との間に隙間を残すように形成されていてもよい(図3C,F)。本明細書において、これらの形状はすべて略U字状に含まれる。なお、溝の幅が一定でない場合は、前面17における溝の幅を溝の代表幅Wとして、この代表幅を上記好ましい範囲とするのがよい(図3E,F)。
【0025】
図2に戻って、溝14の側壁部16は好ましくは板状に形成される。側壁部の厚さは、薄い方が好ましく、好ましくは線状物Sの直径の1倍以下とする。側壁部を薄く形成することで、後述するように、吸着動作時に隣り合う線状物間に側壁部が入り込んで、吸着される線状物とそれに隣接する線状物とを幅方向に離間させやすい。これにより、例えば線状物が密集しているような場合にも、より確実に1本の線状物を取り上げることができる。
【0026】
溝14の深さDは、好ましくは線状物Sの直径の0.5倍以上、より好ましくは1倍以上である。溝がこれより浅いと溝に嵌った線状物の姿勢が安定せず、吸着ノズル10を上昇させる際に線状物が脱落しやすいからである。一方、溝14の深さDは、好ましくは線状物Sの直径の3倍以下である。2本の線状物が上下に並んで溝14に進入しても、上側の線状物が吸引口13を塞いだ時点で下側の線状物に対する吸引力は失われる。しかし、溝が深すぎると、吸着ノズルを線状物の束に近づけて1本の線状物を吸着しようとする際に、吸引口から線状物までの距離が長くなるため、線状物の吸着力が下がるからである。
【0027】
溝の長さLは、線状物の長さに合わせて適宜設計すればよいが、回転を抑制するために好ましくは1mm以上、より好ましくは5mm以上とする。溝が短すぎると、吸着した線状物を持ち上げる際に、水平面内の回転モーメントによって線状物が回転しやすいからである。一方、溝の長さLは、好ましくは20mm以下、より好ましくは10mm以下である。溝が長いほど線状物の吸着力は向上するが、溝が長すぎると、後述するように、吸着しようとする線状物の一部を先端部12の前面17で押さえてしまい、当該線状物が溝14に嵌るのを妨げる確率が大きくなるからである。例えば、本発明者らの実験によれば、直径1mm、長さ100mmの線状物を吸着する場合、溝の長さLを5mmとした場合に良好な結果が得られた。
【0028】
先端部12には、前面17を線状物Sの束に押し付けたときに溝14の形状が変化しない材質および形状を採用する。載置された線状物Sの量に係わらず吸着ノズルの降下距離を一定にした場合、線状物の量が多いと、1本の線状物を吸着した後に吸着ノズルはさらに押し込まれる。このとき、溝が変形すると、吸着した線状物が脱離するおそれがあるからである。先端部は、少なくとも側壁部16をプラスチック、セラミック、金属などの剛性を有する材料で形成することが好ましい。これにより、側壁部を板状に薄く形成しても溝が変形しにくく、吸着動作時に隣り合う線状物間に側壁部が入り込みやすくできる。先端部は全部を、剛性を有する材料で形成することがより好ましい。加工が容易だからである。樹脂などの多少柔軟性がある材料の場合、溝がほぼ変形しない程度の厚みや固さで形成すればよい。
【0029】
次に、本実施形態の吸着ノズル10の使用方法を説明する。
【0030】
図6において、線状物S1を吸着される線状物、線状物S2~S6をそれに隣接する線状物とする。図6Aを参照して、線状物が所定位置に載置され、吸着ノズル10が線状物の上方に配置されている。図6Bを参照して、吸着ノズル10を垂直に降下させて線状物に近付けると、溝14に近い線状物S1、S2が気流によって引っ張られ、軽量な線状物は吸着ノズル直下の部分が溝14に引き寄せられる。図6Cを参照して、線状物S1が溝に嵌り込む一方、線状物S1が溝に嵌ることにより、他の線状物に働く吸引力は低くなるため、溝に引き込まれない。また、隣接する線状物S2は吸着ノズルの側壁部16によって押さえられている。また、線状物S3は、側壁部16によって外側に押し出されている。
【0031】
図6Dを参照して、線状物S1が吸着され、吸着ノズル10はさらに降下する。1本の線状物S1を吸着した時点で吸着ノズルの降下を停止することも可能であるが、ここでは吸着ノズルの降下距離を事前に一定に設定した場合について説明する。加工距離を一定にするには、例えばダンパー機構を用いて下降距離を一定にしたり、近接センサを設けて一定距離まで下降させたりすることができる。また、ロボットハンドの先端に吸着ノズルを設けている場合は、事前に下降距離をティーチングしておけばよい。このように、線状物の量の多少、したがって山積みされた線状物の高低によらず吸着ノズルの降下距離を一定にすることで、吸着ノズルの制御が簡単になる。吸着ノズルの側壁部16は線状物S2やS4を押し下げて、線状物S1から垂直方向に離間させる。また、側壁部は線状物S3を横に押し出して、線状物S1から水平方向に離間させる。吸着位置で線状物S1を他の線状物S2~S4から離間させることで、例えば吸着ノズルから離れたところで線状物S1が他の線状物の下に潜り込んでいるような場合にも、その重なりが解消されて、他の線状物の干渉を排して線状物S1を取り上げられる確率が高まる。
【0032】
図6Eを参照して、吸着ノズル10を上昇させる。このとき、線状物S1が溝14に嵌り込んだ状態で、他の線状物から見て吸引口13が線状物S1によって隠されているので、線状物S2その他の線状物が吸引口に引き寄せられることはない。また、溝14が深く溝に2本の線状物が嵌った場合、例えば図3Cにおいて線状物S1に続いて線状物S2が溝に嵌った場合でも、吸着ノズル10を上昇させると線状物S2は脱落する。
【0033】
図1に示したように線状物が短い場合は、吸着ノズルを上昇させることによって、線状物の全体が持ち上げられる。このとき隣接する線状物の干渉によって線状物S1に水平面内の回転モーメントが発生しても、線状物S1が溝14に嵌っているので線状物S1が回転することがない。また、線状物S1に垂直面内の回転モーメントが発生して線状物S1が垂直面内で斜めになろうとすると、吸引口13との間にできた隙間を通過する気流によって線状物S1が吸引されて、線状物S1が脱落することがない。
【0034】
また、線状物Sがもっと長い場合には、線状物の全体を持ち上げる必要はなく、吸着ノズル10で線状物S1を吸着して、吸着した部分を他の線状物から離間する高さまで持ち上げればよい。その後は、後述するように、持ち上げられた線状物S1の、他の線状物から離れた部分をロボットハンドで把持することができる。
【0035】
本実施形態の吸着ノズルの変形例として、側壁部16の先端が楔型に形成されていてもよい。図4を参照して、吸着ノズル20の溝14と先端部の外側面15とに挟まれた側壁部16は、溝の長さ方向(X方向)から見て先端が尖って、楔型に形成されている。この形状により、吸着ノズル20を線状物に向かって降下させたときに、隣り合う線状物間に側壁部16が入り込みやすく、吸着される線状物S1と隣接線状物S2とを幅方向に離間させやすくなる。
【0036】
図5Aを参照して、吸着ノズル21は、溝の幅方向(Y方向)から見て、側壁部16の前面17の央部が凸に形成されている。この形状によっても、吸着ノズル21を線状物に向かって降下させたときに、隣り合う線状物間に側壁部16が入り込みやすく、吸着される線状物S1と隣接線状物とを幅方向に離間させやすくなる。図5Aの吸着ノズル21のように溝の深さが一様でない場合は、その平均値を溝の代表深さDとして、この代表深さを線状物Sの直径の0.5倍以上、3倍以下とすることが好ましい。
【0037】
図5Bを参照して、吸着ノズル22は、図5Aに示した吸着ノズル21と同様に、溝の幅方向(Y方向)から見て、側壁部16の前面17の央部が凸に形成されている。吸着ノズル22も吸着ノズル21と同様の効果を奏する。図5Bの吸着ノズル22では、先端部12の長さ方向(X方向)の両端には溝がない。このように、溝の両端が明らかでない場合は、吸着されたときの線状物Sの中心を通る水平面での長さを溝の代表長さLとして、この代表長さは、線状物の長さに合わせて適宜設計すればよいが、回転を抑制するために好ましくは1mm以上、より好ましくは5mm以上であって、20mm以下、より好ましくは10mm以下とするのが好ましい。
【0038】
本実施形態の吸着ノズル10、20~22によれば、柔軟で変形しやすい線状物であっても、吸着ノズルを近付けた際に線状物が先端部前面の溝14に嵌り込み、より確実に、多数の線状物の束から1本の線状物を取り上げることができる。また、線状物の束に向かう吸着ノズルの降下距離を一定にした場合、従来の先端に吸盤を配した吸着ノズルでは、吸盤を線状物の束に押し付けた際に吸盤が変形してしまい線状物をうまく吸着できない。さらに、従来の吸盤を配した吸着ノズルは、吸盤を変形させて対象物形にならわせて真空吸着していたが、吸着対象が柔軟な線状物である場合、吸盤を変形しやすい線状物の形にならわせて真空吸着ができない。これに対して、本実施形態の吸着ノズルでは溝14が変形することがない。従来の吸盤型吸着ノズルはゴム製が多く、耐久性に問題があった。さらに、対象物の形にならう必要があるため、吸着する対象物に合わせて吸盤の大きさや形状を細かに設計する必要があった。これに対して、本発明は剛体で吸着ノズルを作成することができるため、耐久性がある。
【0039】
本実施形態の吸着ノズルは、柔軟な線状物の束から、隣接する線状物の干渉を排除して1本の線状物を取り上げることができるので、かかる干渉の影響を受けやすい細くて軽い線状物に適用することで大きな効果が得られる。このことから、線状物Sの直径は好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは1mm以下である。一方、線状物の直径が細くても特に問題なく適用できるが、吸着ノズルの加工の容易さ等から、線状物の直径は好ましくは0.1mm以上である。また、本実施形態の吸着ノズルは、癖がつきやすい、すなわち、変形しやすく、変形すると元に戻りにくい線状物に対しても好ましく適用することができる。本実施形態の吸着ノズルが対象とする線状物の例としては、電気・電子機器の配線に使用される電線、光ファイバーケーブル、医療機器やその材料となる樹脂チューブや金属線、花の茎などの植物などが挙げられる。
【0040】
次に、本発明の吸着ノズルの第2実施形態を図7図9に基づいて説明する。本実施形態の吸着ノズルは、溝の幅が線状物の直径未満である点で第1実施形態と異なる。
【0041】
図7を参照して、吸着ノズル30は、第1実施形態の吸着ノズル10と同様に、真空ポンプ等の負圧源(図示せず)と接続されるノズル本体11と先端部32とを有する。先端部32の前面37には、吸引口13から両側に、吸引方向(図の-Z方向)と略直交する方向(X方向)に延び、幅方向(Y方向)の断面がU字状の溝34が形成されている。溝34の長さ方向(X方向)の両端は開放されている。
【0042】
本実施形態の吸着ノズルでは溝34の幅Wが線状物Sの直径より狭いため、線状物Sは溝34には嵌らないが、線状物の長さ方向に延びる側壁部36の内側エッジ38が線状物Sの側面に2本当接することで、線状物を吸着したときに線状物の姿勢が定まる。溝34の幅Wは、線状物の直径の好ましくは0.3倍以上、より好ましくは0.5倍以上である。溝34の幅が狭すぎると、吸着した線状物の姿勢が安定しづらいからである。
【0043】
溝34の長さL、より正確には側壁部36の内側エッジ38の長さは、線状物の長さに合わせて適宜設計すればよいが、好ましくは1mm以上、より好ましくは5mm以上である。溝34が短すぎると、吸着した線状物を持ち上げる際に、水平面内の回転モーメントによって線状物が回転しやすいからである。一方、溝34の長さLは、好ましくは20mm以下、より好ましくは10mm以下である。溝34が長すぎると、吸着しようとする線状物の一部を先端部32の前面で押さえてしまい、側壁部36の内側エッジ38が線状物Sの側面にぴったりと当接しない確率が大きくなるからである。
【0044】
溝34の深さDは、好ましくは線状物Sの径の3倍以下である。溝34が深すぎると吸着力が弱くなるからである。
【0045】
溝34の断面形状は特に限定されず、線状物の長さ方向に延びる側壁部36の内側エッジ38が線状物Sの側面に2本当接する形状であればよい。例えば、図8Aを参照して、吸着ノズル40の先端部32の前面に形成された溝34は、幅方向(Y方向)の断面が、線状物Sの側面に沿うようにアーチ状に形成されている。
【0046】
先端部32は側壁部36を線状物の束に押し付けたときに溝34が変形しない材質および形状であること、側壁部36が好ましくは剛性を有すること、側壁部36の先端が楔型に形成されていてもよいことは第1実施形態と同様である。例えば、図8Bを参照して、吸着ノズル41の側壁部36は先端が楔型に形成されている。
【0047】
本実施形態の吸着ノズル30、40、41は、隣接する線状物の干渉による回転モーメントの影響を排除する効果が第1実施形態に劣るが、先端部32をより小型にできるので線状物の密集度が高い場合などに好ましく用いることができる。また、第1実施形態の吸着ノズルでは、溝の幅が線状物の直径より大きいので、線状物が溝に嵌り込んだ状態でも溝の側壁面と線状物の間を気流が通過する。そのため、線状物が非常に軽量である場合は、その気流によって隣接する線状物も吸着される可能性がゼロではない。これに対して、本実施形態では、溝の幅が線状物の直径より小さいので、線状物が非常に軽量であっても確実に1本の線状物だけを吸着できる。
【0048】
次に、上述した吸着ノズルを利用して、ロボットで線状物をハンドリングするシステムを説明する。
【0049】
図9を参照して、本実施形態の線状物ハンドリングシステム50は、吸着ノズル10と、ロボット51と、3次元視覚センサであるステレオカメラ55と、制御装置56とを有する。線状物Sは、図1と同様にトレイ45に載置されている。
【0050】
ロボット51としては、公知の多関節ロボットを好適に利用することができる。ロボットのアーム52の先端にはロボットハンド53が備えられ、ロボットハンドの把持部54、54で線状物Sを把持することができる。
【0051】
3次元視覚センサは必須ではない。例えば、吸着ノズル10に吸着された線状物Sの撓みが小さい場合など線状物Sの種類によっては、3次元視覚センサで線状物Sを認識することなく、吸着ノズル10の近傍の位置を把持位置として事前にロボットにティーチングおくことで、ロボットハンド53で吸着された線状物Sの吸着ノズルの直近の部分を把持できる。しかし、線状物ハンドリングシステム50が3次元視覚センサを有することによって、吸着ノズル10に吸着された線状物Sを認識してその3次元形状を計測し、ロボットハンドが線状物を把持する際の把持位置を正確に決定できる。3次元視覚センサとしてステレオカメラ以外の3次元計測可能なセンサを用いることもできるが、線状物の3次元形状を高速に計測できる点で、ステレオカメラを用いるのが好ましい。制御装置56は、吸着ノズル10、ロボット51、ステレオカメラ55の全体を制御する。
【0052】
線状物ハンドリングシステム50を用いた線状物ハンドリング方法は次のとおりである。まず、柔軟な線状物Sの束をトレイ45等の所定位置に載置する。次に、吸着ノズル10を降下させて線状物Sの1本を吸着し、上昇させて吸着した線状物Sを持ち上げる。持ち上げられた線状物Sをステレオカメラ55で認識して3次元形状を計測し、その結果に基づいて線状物S上の把持位置を決定して、当該把持位置をロボットハンド53で把持する。その後、作業の目的に応じてロボットを動作させて、線状物Sを所要の位置に移動したり、他の部材に接続したりすることができる。
【0053】
次に、線状物ハンドリングシステムの他の実施形態を説明する。
【0054】
図10を参照して、本実施形態の線状物ハンドリングシステム60は、吸着ノズル10がロボットアームの先端に装着されている点で上記実施形態と異なり、その余は同様である。線状物Sをさほど強く把持する必要がない場合は、吸着ノズル10に吸着された線状物Sをロボットハンドで把持し直すことなく、吸着ノズルに吸着された状態でロボットアーム52を動作させて、線状物Sを所要の位置に移動したり、他の部材に接続したりすることができる。
【0055】
本実施形態の線状物ハンドリングシステム60でも、3次元視覚センサを有することが好ましい。3次元視覚センサで線状物Sを認識することにより、吸着ノズル10が線状物Sの先端から何mmの位置を吸着しているかや、線状物Sの撓み形状を計測して、ロボットアーム52の次の動作に反映できるからである。
【0056】
本発明は上記実施形態に限られるものではなく、その技術思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0057】
例えば、線状物取出装置は、第1受部に受けた線状物の束の密集性を上げるために、線状物を載置している載置台を揺らせる揺動機構や、振動させる振動機構を備えていてもよい。また、線状物に曲がった癖がついている場合など、線状物が載置台の中央に集まり切らない場合、線状物の束をハンドで掴んで癖を矯正したり、ハンドで束を中心に寄せ集めたりしてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10、20~22 吸着ノズル
11 ノズル本体
12 先端部
13 吸引口
14 溝
14a 溝の底面
14b 溝の側壁面
15 先端部の外側面
16 側壁部
17 前面
30、40、41 吸着ノズル
32 先端部
34 溝
35 先端部側面
36 側壁部
37 先端部前面
38 側壁部の内側エッジ
45 トレイ
50、60 線状物把持システム
51 多関節ロボット
52 アーム
53 ロボットハンド
54 把持部
55 ステレオカメラ
56 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10