(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】液状化強度の評価方法
(51)【国際特許分類】
E02D 1/04 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
E02D1/04
(21)【出願番号】P 2020114255
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】周 友昊
(72)【発明者】
【氏名】浅香 美治
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-088557(JP,A)
【文献】特開2005-248493(JP,A)
【文献】特開平09-195287(JP,A)
【文献】特開2001-147188(JP,A)
【文献】特開2016-156209(JP,A)
【文献】特開2020-069452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00-3/115
G01N 1/00-3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴミ混じり地盤の液状化強度を評価する方法であって、
評価対象地盤から地盤試料を採取するステップと、採取した地盤試料をふるい分けして、所定の大きさ以上のゴミを含有しない土単体の供試体と、ゴミを含有するゴミ混じりの供試体とを作成するステップと、各供試体について
、土の繰返し非排水三軸試験を実施するステップと、
前記試験
により得られた液状化強度曲線に基づいて、評価対象地盤の液状化強度を評価するステップとを有することを特徴とする液状化強度の評価方法。
【請求項2】
40mmふるいを通過した地盤試料をゴミ混じりの供試体の作成に用いるとともに、9.5mmふるいを通過した地盤試料を土単体の供試体の作成に用いることを特徴とする請求項1に記載の液状化強度の評価方法。
【請求項3】
前記試験により得られたゴミ混じりの供試体の液状化強度
比、ゴミ混じりの供試体と土単体の供試体の液状化強度
比の平均値、または、
建築基礎構造設計指針に基づいて補正N値より算定される液状化抵抗比をゴミ混じりの供試体と土単体の供試体の液状化強度
比の
比で補正した液状化
抵抗比に基づいて、評価対象地盤の液状化強度
を評価することを特徴とする請求項1または2に記載の液状化強度の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴミ混じり地盤の液状化強度の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、湾岸の埋立地盤はゆるく堆積しており、地震時に液状化する可能性が高いことが知られている。このため、液状化の可能性とその影響を十分に検討した上で建物の設計を行うことが重要である(例えば、特許文献1を参照)。一方、ゴミを焼却せずにそのまま埋め立てた埋立地盤もあり、こういったゴミ混じりの地盤については、液状化強度の評価方法が確立されていない。
【0003】
地盤内のゴミが液状化強度に与える影響を模式的に
図6に示す。
図6(a)に示すように、ゴミが混じっていない地盤では、土粒子が地下水位以下にゆるく堆積しており、地震力を受けて水圧が上昇することで土粒子同士が離れて液状化に至る。一方、ゴミ混じりの地盤では、
図6(b)に示すように、土に混じっているゴミが土粒子に対して拘束効果を発揮し、いわば繊維補強のような役目を果たして液状化を防止する効果があると考えられる。すなわち、地盤内のゴミの影響を正確に評価することによって、液状化強度が上昇し、地盤に建て込む杭の杭径を小さくできるなどコストダウン効果が見込める可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現地地盤の液状化強度を直接調べる方法として、土質サンプルを採取して供試体を作成し、繰返し三軸試験を行う方法が地盤工学会によって規定されている。しかしながら、この液状化強度試験は土単体を対象とすることを前提としており、異物が混じった土については試験方法が提供されていない。このため、現行の設計では、ゴミを取り除いた状態で粒度分析を行い、建築基礎構造設計指針に基づいてFL値(液状化に対する安全率)を算定するという簡易判定に頼っている。しかしながら、この方法では地盤内に混じっているゴミの影響を無視しており、液状化の影響を正確に評価できているとはいえない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ゴミ混じり地盤の液状化強度を評価するのに好適な液状化強度の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る液状化強度の評価方法は、ゴミ混じり地盤の液状化強度を評価する方法であって、評価対象地盤から地盤試料を採取するステップと、採取した地盤試料をふるい分けして、所定の大きさ以上のゴミを含有しない土単体の供試体と、ゴミを含有するゴミ混じりの供試体とを作成するステップと、各供試体について液状化試験を実施するステップと、液状化試験の結果に基づいて、評価対象地盤の液状化強度を評価するステップとを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他の液状化強度の評価方法は、上述した発明において、40mmふるいを通過した地盤試料をゴミ混じりの供試体の作成に用いるとともに、9.5mmふるいを通過した地盤試料を土単体の供試体の作成に用いることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の液状化強度の評価方法は、上述した発明において、ゴミ混じりの供試体の液状化強度、ゴミ混じりの供試体と土単体の供試体の液状化強度の平均値、または、ゴミ混じりの供試体と土単体の供試体の液状化強度の比を液状化抵抗比で補正した液状化強度を、評価対象地盤の液状化強度として評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る液状化強度の評価方法によれば、ゴミ混じり地盤の液状化強度を評価する方法であって、評価対象地盤から地盤試料を採取するステップと、採取した地盤試料をふるい分けして、所定の大きさ以上のゴミを含有しない土単体の供試体と、ゴミを含有するゴミ混じりの供試体とを作成するステップと、各供試体について液状化試験を実施するステップと、液状化試験の結果に基づいて、評価対象地盤の液状化強度を評価するステップとを有するので、ゴミ混じり地盤の液状化強度を評価することができるという効果を奏する。
【0011】
また、本発明に係る他の液状化強度の評価方法によれば、40mmふるいを通過した地盤試料をゴミ混じりの供試体の作成に用いるとともに、9.5mmふるいを通過した地盤試料を土単体の供試体の作成に用いるので、各供試体について液状化試験を適切に実施することができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る他の液状化強度の評価方法によれば、ゴミ混じりの供試体の液状化強度、ゴミ混じりの供試体と土単体の供試体の液状化強度の平均値、または、ゴミ混じりの供試体と土単体の供試体の液状化強度の比を液状化抵抗比で補正した液状化強度を、評価対象地盤の液状化強度として評価するので、評価対象地盤のゴミの混入状況等を考慮して液状化強度を評価することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る液状化強度の評価方法の実施の形態を示す図である。
【
図2】
図2は、ふるい分け状況の写真図であり、(1)は40mmふるい分け状況、(2)は40mmふるい分け残留分、(3)は40mmふるい通過分(乾燥済)、(4)は9.5mmふるい分け状況、(5)は9.5mmふるい通過分である。
【
図3】
図3は、供試体の写真図であり、(1)は土単体供試体、(2)はゴミ混じり供試体である。
【
図4】
図4は、繰返し三軸試験装置の概要図であり、(1)は小型の装置、(2)は大型の装置である。
【
図6】
図6は、地盤内のゴミが液状化強度に与える影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る液状化強度の評価方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る液状化強度の評価方法は、ゴミ混じり地盤の液状化強度を評価する方法である。本方法では、まず、供試体作成の指標として、評価対象のゴミ混じり地盤において、現場密度測定を行う(ステップS1)。
【0016】
続いて、このゴミ混じり地盤から地盤試料を採取する(ステップS21、S22)。
試料採取の過程を
図2(1)~(5)に示す。まず、ふるい分け機械によって掘削した土を40mmのふるいにかけることで、過大なゴミを取り除く(
図2(1)~(3))。40mmふるいを通過した試料はゴミ混じりの供試体作成に用いる(
図2(2))。次に、40mmふるいを通過した試料を、さらに人力で9.5mmふるいにかける(
図2(4))。9.5mmふるいを通過した試料は土単体の供試体作成に用いる(
図2(5))。
【0017】
次に、供試体として、土単体の供試体とゴミ混じりの供試体の2種類を作成する(ステップS22、S32)。
供試体の仕様と必要土量を以下に示す。
【0018】
a.土単体の供試体
・採取した試料を9.5mmのふるいにかけたものを使用。
・供試体寸法:直径φ5cm,高さh10cm
・供試体数:1試料4供試体+予備1供試体=5供試体分
・必要土量:2.5×2.5×10×π=200cc/体,200×5=1000cc=1リットル×2=2リットル程度
【0019】
b.ゴミ混じりの供試体
・採取した試料から40mm以上の混入物を取り除いたものを使用。
・供試体寸法:直径φ30cm,高さh60cm
・供試体数:1試料4供試体+予備1供試体=5供試体分
・必要土量:15×15×60×π=42411cc/体=43リットル/体,43×5=215リットル×1.5=323リットル
【0020】
土単体の供試体は、地盤工学会が規定する液状化強度試験と同じく、φ5cm、h10cmの小型供試体を用いる。ゴミ混じりの供試体は、通常と同じサイズの供試体では混入物の寸法比率が大きく、正常に試験できないと考えられることからφ30cm、h60cmの大型供試体を用いる。
作成した供試体の例を
図3(1)、(2)に示す。
【0021】
次に、各供試体について液状化試験を実施する(ステップS23、S33)。
液状化試験は、「土の繰返し非排水三軸試験」(地盤工学会基準JGS0541-2009)に基づいて実施する。試験には、1試料当たり4供試体を用いる。試験装置は、例えば
図4(1)および(2)に示す応力制御方式の繰返し三軸試験装置を用い、土単体供試体では
図4(1)の小型繰返し三軸試験装置を、ゴミ混じり供試体では
図4(2)の大型繰返し三軸試験装置を用いる。
【0022】
試験結果の一例を
図5に示す。図の液状化強度曲線の例では、繰返し載荷回数N=15における液状化強度比は、土単体でR
L15,土単体=0.21、ゴミ混じりでR
L15,ゴミ混じり=0.26となっており、ゴミが混入することで液状化強度が上がっていることが確認できる。
【0023】
次に、この試験結果に基づいて、ゴミ混じり地盤の液状化強度を評価する(ステップS4)。ゴミ混じり地盤の液状化強度は、例えば以下の方法1~3のいずれかで評価することができる。なお、本発明はこれらの方法に限るものではなく、試験結果に基づいて液状化強度を評価するものであればいかなる方法でもよい。
【0024】
(方法1)
R
L15,ゴミ混じりを直接使用する方法である。
図5に示す例では0.26となる。
【0025】
(方法2)
ゴミが評価対象の敷地内で均一に混入していない可能性を考慮し、R
L15,土単体とR
L15,ゴミ混じりの平均値を用いる方法である。
図5に示す例ではavg[0.21,0.26]=0.235となる。
【0026】
(方法3)
液状化試験に基づき、建築基礎構造設計指針の簡易判定で算定する液状化抵抗比R=τL/σz’の補正を行う方法である。補正式を式(1)に示す。
【0027】
R’=(RL15,ゴミ混じり/RL15,土単体)・R ・・・(1)
ここで、R’はゴミ混じり地盤における補正液状化抵抗比、Rは建築基礎構造設計指針に基づいて補正N値Naより算定される液状化抵抗比である。
【0028】
図5に示す例では、R’=[0.26/0.21]・R=1.24Rとなり、1.24倍の液状化強度上昇効果が得られる。
【0029】
本実施の形態によれば、上記の方法に基づいてゴミ混じり地盤の液状化強度を評価することができる。
【0030】
なお、本発明の効果を検証するため、実際のゴミ混じり地盤において液状化試験を行う前の簡易判定法による液状化判定を適用したところ、レベル1の地震動でも地表10m以上の範囲にわたって液状化が発生し、杭を補強する必要があることが判明した。この地盤に対し、本実施の形態によって液状化強度を評価したところ、レベル1の地震動ではほどんど液状化が起きなくなることが予想され、杭の補強コストを削減できることが判明した。このように、ゴミ混じり地盤については、本実施の形態を適用して液状化強度を評価することにより、建て込む杭のコストダウンを図ることができる。
【0031】
以上説明したように、本発明に係る液状化強度の評価方法によれば、ゴミ混じり地盤の液状化強度を評価する方法であって、評価対象地盤から地盤試料を採取するステップと、採取した地盤試料をふるい分けして、所定の大きさ以上のゴミを含有しない土単体の供試体と、ゴミを含有するゴミ混じりの供試体とを作成するステップと、各供試体について液状化試験を実施するステップと、液状化試験の結果に基づいて、評価対象地盤の液状化強度を評価するステップとを有するので、ゴミ混じり地盤の液状化強度を評価することができる。
【0032】
また、本発明に係る他の液状化強度の評価方法によれば、40mmふるいを通過した地盤試料をゴミ混じりの供試体の作成に用いるとともに、9.5mmふるいを通過した地盤試料を土単体の供試体の作成に用いるので、各供試体について液状化試験を適切に実施することができる。
【0033】
また、本発明に係る他の液状化強度の評価方法によれば、ゴミ混じりの供試体の液状化強度、ゴミ混じりの供試体と土単体の供試体の液状化強度の平均値、または、ゴミ混じりの供試体と土単体の供試体の液状化強度の比を液状化抵抗比で補正した液状化強度を、評価対象地盤の液状化強度として評価するので、評価対象地盤のゴミの混入状況等を考慮して液状化強度を評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明に係る液状化強度の評価方法は、建物の設計における地盤の液状化検討に有用であり、特に、ゴミ混じり地盤の液状化強度を評価するのに適している。