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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】キャスター
(51)【国際特許分類】
   B60B 33/00 20060101AFI20240606BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
B60B33/00 S
B60B33/00 R
F16F7/00 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020115619
(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2022013209
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】織奥 豊
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-029205(JP,A)
【文献】実開昭59-027341(JP,U)
【文献】特開昭60-110588(JP,A)
【文献】特開2006-088891(JP,A)
【文献】特開2001-347801(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106347025(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0238016(US,A1)
【文献】特開平06-099874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 33/00
F16F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に第1回転軸を中心として回転可能に取り付けられる台座部と、
前記第1回転軸に直交する方向に平行な第2回転軸を中心として前記台座部に回転可能に支持される一端と、前記第1回転軸に直交する方向に平行な第3回転軸を中心として車輪を回転可能に支持する他端とを有し、前記第1回転軸に対して前記第2回転軸を中心として傾斜する方向に延在する第1連結部材と、
前記第1連結部材の他端に前記第回転軸を中心として回転可能に支持され、前記第1回転軸に対して前記第回転軸を中心として傾斜する方向に延在するシャフトであって、前記シャフトの長手方向に延在する柱状の本体部と、前記本体部の外周面から前記長手方向に直交する方向に張り出す環状の受部と、を有するシャフトと、
前記受部と前記本体部の一部とを収容し、前記長手方向に延在する筒状のハウジングと、
前記台座部と前記ハウジングの一端とに連結され、前記第1回転軸に直交する方向に平行な第4回転軸を中心として当該一端を回転可能に支持する第2連結部材と、
前記ハウジングに収容され前記ハウジングのうち前記長手方向に直交する内面と、前記受部との間に配置される衝撃吸収部材と
を具備し、
前記衝撃吸収部材は、
前記本体部の一部を包囲し、前記内面と前記受部との間に配置されるスプリングと、
前記スプリングに収容され、前記本体部のうち前記ハウジングの一端側に位置する端部と前記内面との間に配置される、緩衝材および弾性部材とを有し、
前記緩衝材は、前記端部に対向する第1端面を有し、
前記弾性部材は、前記第1端面から前記端部側に突出する第1突起部を有し、
前記シャフトと前記内面とが接近する過程において、前記本体部の前記端部は、前記第1端面に間隔をあけた状態で前記第1突起部を押圧し、前記シャフトと前記内面とがさらに接近することで前記第1端面を押圧する
キャスター。
【請求項2】
前記緩衝材は、前記第1端面とは反対側の第2端面を有し、
前記弾性部材は、前記第2端面から前記内面側に突出する第2突起部を有し、
前記シャフトと前記内面とが接近する過程において、前記内面は、前記第2端面に間隔をあけた状態で前記第2突起部を押圧し、前記シャフトと前記内面とがさらに接近することで前記第2端面を押圧する
請求項1のキャスター。
【請求項3】
前記弾性部材は、前記緩衝材を貫通する貫通部を含み、
前記貫通部は、前記第1突起部と前記第2突起部とを連結する
請求項2のキャスター。
【請求項4】
前記第1端面には第1凹部が形成され、
前記第1突起部は、前記第1凹部に収容され、当該第1突起部の一部が前記第1端面から前記端部側に突出する
請求項1から請求項3の何れかのキャスター。
【請求項5】
前記第1端面には第1凹部が形成され、
前記第1突起部は、前記第1凹部に収容され、当該第1突起部の一部が前記第1端面から前記端部側に突出し、
前記第2端面には第2凹部が形成され、
前記第2突起部は、前記第2凹部に収容され、当該第2突起部の一部が前記第2端面から前記内面側に突出する
請求項2または請求項3のキャスター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャスターに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、例えばスーツケースやオフィス用チェアなどの被移動体には、キャスターが設けられる。近年では、このような被移動体において、キャスターの静粛性を確保するために、当該キャスターの衝撃吸収性を向上させることが求められている。そこで、例えば、特許文献1および特許文献2では、衝撃吸収性を向上させるためのキャスターの部品として、弾性部材が採用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-59110号公報
【文献】特開2010-149653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載されたキャスターにおいては、所望の衝撃吸収性を確保するために被移動体の高さ方向における弾性部材の寸法をある程度大きくする必要がある。当該寸法を大きくすると、キャスターが搭載された被移動体全体の高さ方向の寸法が大きくなってしまうことから、例えば飛行機などに当該被移動体を持ち込む際に、持ち込み制限を超えてしまうなどの不都合が生じる場合がある。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明は、キャスターの衝撃吸収性が確保され、当該キャスターが搭載された被移動体の高さ方向のサイズが抑えられることを解決課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの態様に係るキャスターは、被移動体に取り付けられるキャスターであって、前記被移動体に第1回転軸を中心として回転可能に取り付けられる台座部と、前記第1回転軸に直交する方向に平行な第2回転軸を中心として前記台座部に回転可能に支持される一端と、前記第1回転軸に直交する方向に平行な第3回転軸を中心として車輪を回転可能に支持する他端とを有し、前記第1回転軸に対して前記第2回転軸を中心として傾斜する方向に延在する第1連結部材と、前記第1連結部材の他端に前記第2回転軸を中心として回転可能に支持され、前記第1回転軸に対して前記第2回転軸を中心として傾斜する方向に延在するシャフトであって、前記シャフトの長手方向に延在する柱状の本体部と、前記本体部の外周面から前記長手方向に直交する方向に張り出す環状の受部と、を有するシャフトと、前記受部と前記本体部の一部とを収容し、前記長手方向に延在する筒状のハウジングと、前記台座部と前記ハウジングの一端とに連結され、前記第1回転軸に直交する方向に平行な第4回転軸を中心として当該一端を回転可能に支持する第2連結部材と、前記ハウジングに収容され、前記本体部の一部を包囲する衝撃吸収部材であって、前記ハウジングのうち前記長手方向に直交する内面と、前記受部との間に配置される衝撃吸収部材とを具備する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、キャスターの衝撃吸収性が確保され、当該キャスターが搭載された被移動体の高さ方向のサイズが抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係るキャスターの正面図である。
図2】上記キャスターの側面図である。
図3】上記キャスターの背面図である。
図4図1のX-X線の断面図である。
図5】車輪に荷重が加えられている状態における図1のX-X線の断面図である。
図6図5の領域Eを拡大して示す図である。
図7】従来のキャスターの構成例を示す模式図である。
図8】従来のキャスターの構成例を示す図である。
図9】本実施形態に係るキャスターと従来のキャスターの段差量と下方向力の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A:実施形態
図1図4は、本実施形態に係るキャスター100の構成例を示す図である。図1図2図3は、それぞれ、キャスター100の正面図、キャスター100の側面図、キャスター100の背面図である。また、図4は、図1のX-X線の断面図である。
【0010】
キャスター100は、被移動体(図示略)の底部に取り付けられ、台座部10と、第1連結部材20と、第2連結部材30と、衝撃吸収部材40と、シャフト60と、ハウジング70とを有する。「被移動体」とは、例えばスーツケースなどの筐体であり、キャスター100を介してユーザにより移動させられる物品である。台座部10、第1連結部材20、第2連結部材30、シャフト60およびハウジング70は、典型的にはプラスチックなどの合成樹脂から構成されるが、他の材料から構成されてもよい。
【0011】
台座部10は、本体部11と、一対の突出部12とを有する。本体部11は、円盤状の構造体であり、被移動体に回転軸Aを中心として回転可能に取り付けられる。回転軸Aは、「第1回転軸」に相当する。突出部12は、本体部11の底面から突出し、本体部11と一体的に形成される。なお、「一体的」とは、要素aと要素bとが連続して不可分に形成された構成のみならず、要素aとは別体で製造された要素bが要素aに対して例えば接着されて一体化された構成も含む。
【0012】
第1連結部材20は、本体部11とシャフト60とを連結する。第1連結部材20は、突出部12に連結される一端20aと、一対の車輪50を支持する他端20bとを有する。車輪50は、典型的にはゴム製であるが、プラスチックなどの合成樹脂から構成されてもよい。本実施形態では、車輪50がゴム製である場合、車輪50と弾性部材40とが二重構造の系となるため、特に高い周波数帯の領域で、振動低減効果が大きくなる。第1連結部材20の一端20aは、ピン22を有する。ピン22は、第1連結部材20の一端20aから突出し、突出部12を貫通する。第1連結部材20の一端20aは、ピン22を介して、回転軸Aに直交する方向に平行な回転軸Cを中心として突出部12に回転可能に支持される。回転軸Cは、「第2回転軸」に相当する。
【0013】
ピン21は、第1連結部材20の他端20bとシャフト60(本体部61)の他端61bとを貫通する棒状部材であり、当該他端20bよりも一対の車輪50側に突出する。ピン21は、回転軸Aに直交する方向に平行な回転軸Bを中心として、一対の車輪50を回転可能に支持する。つまり、第1連結部材20の他端20bは、ピン21を介して、回転軸Bを中心として一対の車輪50を回転可能に支持する。回転軸Bは、「第3回転軸」に相当する。第1連結部材20は、図4に示すように、回転軸Aに対して回転軸Bを中心として第2連結部材30側に傾斜する方向に延在する。
【0014】
第2連結部材30は、台座部10とハウジング70とを連結する。第2連結部材30は、図1および図3に示すように、一対の平板材を有する。平板材31は、図4に示すように、本体部11の底面からハウジング70の一端70a側に延在し、本体部11と一体的に形成される。
【0015】
シャフト60は、図4に示すように、本体部61と、受部62とを有する。本体部61は、第1連結部材20の他端20bに連結される他端61bを有する。本体部61は、回転軸Aに対して回転軸Bを中心としてハウジング70側に傾斜する方向(シャフト60の長手方向)に延在する柱状の構造体である。本体部61の他端61bは、ピン21を介して、回転軸Bを中心として第1連結部材20の他端20bに回転可能に支持される。受部62は、本体部61の外周面から、シャフト60の長手方向に直交する方向に沿ってハウジング70側に張り出し、環状に構成される。受部62は、本体部61と一体的に形成される。
【0016】
ハウジング70は、シャフト60の長手方向に延在する筒状の構造体である。ハウジング70は、図4に示すように、衝撃吸収部材40と本体部61の一部とを収容する。ピン71は、一対の平板材31の一端31aとハウジング70の一端70aとを貫通する棒状部材であり、当該一端31aに支持される。ハウジング70の一端70aは、ピン71を介して、回転軸Aに直交する方向に平行な回転軸Dを中心として一対の平板材31の一端31aに回転可能に支持される。回転軸Dは、「第4回転軸」に相当する。
【0017】
衝撃吸収部材40は、図4に示すように、スプリング41と、緩衝材42と、弾性部材43とを有する。スプリング41は、本体部61のうち受部62から内面70S側の本体部61の外周面を包囲する。スプリング41は、図4に示すように、シャフト60の長手方向において、受部62と内面70Sとの間に設けられる。スプリング41は、受部62と、内面70Sと、ハウジング70の内周面とに当接し、受部62をピン21側に付勢する。なお、前述した内面70Sとは、ハウジング70の内部空間を画定する内面のうちシャフト60の長手方向に直交する面である。
【0018】
緩衝材42は、図4に示すように、スプリング41に収容される構造体であり、柱状に構成される。緩衝材42の径は、スプリング41の内径よりも若干小さい。緩衝材42は、図4に示すようにスプリング41の内周面に支持され、スプリング41に収容されている状態において、スプリング41の長手方向に移動可能である。緩衝材42は、本体部61の一端61aと内面70Sとの衝突を緩衝する。一端61aは、本体部61のうちハウジング70の一端70a側に位置する端部である。緩衝材42は、スプリング41の長手方向において、本体部61の一端61aと内面70Sとの間に配置される。
【0019】
緩衝材42は、図4に示すように、本体部61の一端61aに対向する端面42Sと、内面70Sに対向する端面42Sと、凹部421と、凹部422とを有する。凹部421は、42Sから内面70S側に窪んでいる。凹部422は、端面42Sから一端61a側に窪んでいる。緩衝材42は、典型的には樹脂製であるが、他の材料から構成されてもよい。
【0020】
弾性部材43は、図4に示すように、貫通部431と、鍔状部432と、鍔状部433とを有する。貫通部431は、緩衝材42をシャフト60の長手方向に貫通する柱状体である。鍔状部432は、貫通部431のうちシャフト60側に位置する端部と一体的に形成され、凹部421に収容される。鍔状部432は、端面42Sよりも本体部61の一端61a側(シャフト60側)に突出している。鍔状部433は、貫通部431のうち内面70S側に位置する端部と一体的に形成され、凹部422に収容される。鍔状部433は、端面42Sよりも内面70S側に突出している。弾性部材43は、例えば、熱硬化性又は熱可塑性のエラストマーからなるゴムである。あるいは、弾性部材43は、加硫ゴムであってもよい。
【0021】
次に、図4図6を参照して、キャスター100の動作について説明する。図5は、車輪50に荷重が加えられている状態の図1のX-X線の断面図である。図6は、図5の領域Eを拡大して示す図である。なお、後述する動作の説明では、図4図6に示すキャスター100を基準に説明する。
【0022】
本実施形態に係るキャスター100においては、車輪50が段差Sに当接し、車輪50に対して、車輪50と段差Sとが当接する作用点からピン21側に向かう方向(図4に示す矢印方向)に荷重が加えられると、第1連結部材20が回転軸Cを中心として反時計回りに回転し、シャフト60が回転軸Bを中心として時計回りに回転し、ハウジング70が回転軸Dを中心として時計回りに回転する。これにより、車輪50が図4に示す矢印方向に変位し、シャフト60がハウジング70に対して内面70S側に向かって相対的に移動することで、受部62がスプリング41を収縮させる。
【0023】
続いて、車輪50と段差Sとが当接する作用点から車輪50に対して荷重が加え続けられると、シャフト60は、スプリング41を収縮させながら鍔状部432に当接し、鍔状部433が内面70Sに当接するまで、緩衝材42および弾性部材43を移動させる。ここで、本実施形態では、鍔状部432が端面42Sよりもシャフト60側に突出していることから、鍔状部433と内面70Sとが当接している状態では、図6に示すように、本体部61の一端61aと端面42Sとの間に隙間Dが形成される。従って、鍔状部433と内面70Sとが当接している状態において、車輪50と段差Sとが当接する作用点から車輪50に対して荷重が加え続けられると、シャフト60は、弾性部材43を押圧してから、緩衝材42を押圧する。この際、本体部61の一端61aが鍔状部432および端面42Sを押圧し、内面70Sが鍔状部433および端面42Sから押圧される。つまり、本実施形態に係る緩衝材42は、ハウジング70に対するシャフト60の相対的な移動を規制するストッパーとして機能する。これにより、弾性部材43がシャフト60から過剰に収縮されることが抑制され、弾性部材43が劣化しにくくなる。
【0024】
図7は従来のキャスター200の構成例を示す模式図であり、図8は従来のキャスター300の構成例を示す図である。キャスター200は、図7に示すように、回転部材210と、フォーク220と、スプリング240と、ピン250とを有する。回転部材210、フォーク220、スプリング240、ピン250は、それぞれ、本実施形態の台座部10、第1連結部材20、スプリング41、ピン21に相当する。また、キャスター300は、図8に示すように、台座部310と、本体部320と、スプリング340と、ピン350とを有する。台座部310、本体部320、スプリング340、ピン350は、それぞれ、本実施形態の台座部10、第1連結部材20、スプリング41、ピン21に相当する。
【0025】
従来のキャスター200およびキャスター300においては、図7および図8に示すように、キャスターの衝撃吸収性を向上させるための部品としてスプリング240およびスプリング340が採用されるが、所望の衝撃吸収性を確保するためにはスプリング240およびスプリング340を長くする必要がある。このため、キャスター200またはキャスター300が搭載された被移動体全体の高さ方向のサイズが大きくなってしまい、例えば飛行機などに当該被移動体を持ち込む際に、持ち込み制限を超えてしまうなどの不都合が生じるおそれがある。
【0026】
一方、本実施形態のキャスター100では、図4に示すように、車輪50を支持し、台座部10(突出部12)に連結される第1連結部材20の全体が、回転軸Aに対して回転軸Bを中心として傾斜している。これにより、車輪50と台座部10(本体部11)との間の距離が従来のキャスター200およびキャスター300と比較して小さくなる。従って、キャスター100が搭載された被移動体全体の高さ方向のサイズは、従来のキャスター200またはキャスター300が搭載された被移動体全体の高さ方向のサイズよりも小さくなり、上述したような不都合が解消される。また、本実施形態のキャスター100においては、図4に示すように、ハウジング70に衝撃吸収部材40が収容されることから、車輪50に衝撃が加わったとしても、この衝撃が衝撃吸収部材40により吸収され、さらには、微振幅の振動に対しても振動低減効果が発揮される。従って、キャスター100が搭載された被移動体が例えばスーツケースなどの筐体である場合、キャスター100が段差に衝突することで、キャスター100および当該スーツケースが破壊してしまうことが防止される。以上のことから、本実施形態に係るキャスター100によれば、従来のキャスター200およびキャスター300よりも被移動体全体の高さ方向のサイズが抑えられ、且つ、衝撃吸収性が確保される。
【0027】
特に、本実施形態のキャスター100においては、図4に示すように、本体部61の一端61aと内面70Sとの間に緩衝材42および弾性部材43が配置される。これにより、鍔状部433と内面70Sとが当接している状態(図5に示す状態)において、車輪50と段差とが当接する作用点から車輪50に対して荷重が加えられると、当該荷重がスプリング41のみならず、緩衝材42および弾性部材43により吸収される。従って、ハウジング70にスプリング41のみが収容される場合と比較して、キャスター100の衝撃吸収性が向上する。
【0028】
ところで、一般的に、キャスターが段差を乗り越える際に、当該段差に対する追従性を向上させるためには、キャスターの剛性を小さくすることが求められる。このような剛性は、キャスターの剛性をKとし、車輪50の上方向への変位量をtとし、ピン21からシャフト60に対して上方向に加えられる荷重をRとすると、下記式(1)により表される。なお、前述の「上方向」とは、回転軸Bに直交し回転軸Aに平行な方向であり、回転軸Bから台座部10に向かう方向である。
【0029】
K=R/t・・・(1)
【0030】
式(1)におけるtは、上方向とシャフト60の長手方向とのなす角度をθ1とし、スプリング41の縮み量をxとすると、下記式(2)により表される。
【0031】
t=x/cosθ1・・・(2)
【0032】
従って、キャスターの剛性Kは、式(1)および式(2)により、下記式(3)としても表される。
【0033】
K=cosθ1・R/x・・・(3)
【0034】
式(3)を参照すると、Rおよびxが定数である場合に、θ1が大きくなると、剛性Kが小さくなることがわかる。ここで、本実施形態に係る衝撃吸収部材40は、上述したように、第1連結部材20が回転軸Cを中心として回転可能であり、シャフト60が回転軸Bを中心として回転可能であり、ハウジング70が回転軸Dを中心として回転可能であることから、上方向とシャフト60の長手方向とのなす角θ1(図4参照)を、従来のキャスター300における上方向Qとスプリング340の長手方向Dとのなす角θ2(図8参照)よりも大きくすることができる。従って、本実施形態のキャスター100は、従来のキャスター300よりも剛性を小さくすることができる。よって、本実施形態に係るキャスター100と従来のキャスター300とで段差を乗り越える際の追従性を比較すると、キャスター300よりもキャスター100のほうが、段差に対して高い追従性を得ることができる。これにより、キャスター100が搭載された被移動体が例えばスーツケースなどの筐体である場合、スーツケースを牽引するユーザの手に伝達される振動が低減される。なお、前述の「追従性」とは、キャスターの車輪が段差の表面に対して当接し続ける特性である。
【0035】
図9は、本実施形態に係るキャスター100と従来のキャスター300の段差量と下方向力の関係を表すグラフである。図9に示すDは「下方向力」を示す。キャスター100における「下方向力」とは、上方向にピン21からシャフト60に加えられた荷重に対して衝撃吸収部材40がシャフト60を介して下方向(「上方向」に対して反対の方向)にピン21を押し返す反力である。また、図20のキャスター300における「下方向力」とは、上方向にピン350からスプリング340に加えられた荷重に対して当該スプリング340が下方向にピン350を押し返す反力である。なお、図9におけるキャスター100のスプリング41とキャスター300のスプリング340は同一のバネである。
【0036】
図9を参照すると、キャスター100とキャスター300とで同じ高さの段差を乗り越える際の下方向力を比較すると、キャスター100に生じる下方向力のほうが、キャスター300に生じる下方向力よりも小さい。これは、キャスター100とキャスター300とで乗り越える段差の高さが同じであっても、ピン350から上方向にスプリング340に対して加えられる荷重よりも、ピン21から上方向にシャフト60に対して加えられる荷重のほうが小さいことを意味する。即ち、キャスター100とキャスター300とでは、乗り上げる段差の高さ、つまり、車輪の上方向への変位量が同じであっても、ピン21からシャフト60に対して上方向にかけられる荷重のほうが、ピン350からスプリング340に対して上方向にかけられる荷重よりも小さい。これにより、本実施形態に係るキャスター100は、式(1)に基づいて、従来のキャスター300よりも剛性が小さいと言える。よって、キャスター100は、キャスター300よりも段差に対して高い追従性が得られる、という前述の作用効果が得られる。
【0037】
図9に示す点Pは、キャスター100が8mmの段差に乗り上げることによって鍔状部433が内面70Sに当接したときの下方向力がプロットされた点である。図9を参照すると、キャスター100が乗り上げる段差が8mm以上であると、当該段差が8mm未満である場合と比較して、下方力が大きく上昇していることがわかる。これは、鍔状部433と内面70Sとが当接している状態(図5に示す状態)において、衝撃吸収部材40がシャフト60を介して下方向にピン21を押し返す反力が、鍔状部433と内面70Sとが当接していない場合と比較して、大きく上昇することを意味する。従って、図5に示すキャスター100においては、ピン21からシャフト60に対して上方向に荷重が加えられると、シャフト60を介してピン21を下方向に押し返す反力が衝撃吸収部材40に十分に生じ、減衰効果が得られることで、車輪50が上方向に過剰に変位することが抑制される。これにより、前述のユーザの手に伝達される振動が低減される、という作用効果が得られる。
【0038】
D:補足
前述の態様のキャスターは、典型的にはスーツケースなどの筐体に取り付けられる。ただし、本発明の用途は特に限定されず、前述の態様のキャスターが使用可能な機器全般に適用されてもよい。このような機器としては、例えば、オフィス用チェアや机などの事務用品が挙げられる。
【0039】
加えて、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本発明は、上記の効果とともに、または上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0040】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0041】
台座部…10、第1連結部材…20、第2連結部材…30、衝撃吸収部材…40、スプリング…41、緩衝材…42、弾性部材…43、シャフト…60、シャフトの本体部…61、受部…62、ハウジング…70、キャスター…100、鍔状部…432,433。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9