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  • 特許-炭素質材料分散体からの異物除去方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】炭素質材料分散体からの異物除去方法
(51)【国際特許分類】
   B07B 1/00 20060101AFI20240606BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20240606BHJP
   B03C 1/30 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
B07B1/00 B
B07B1/00 A
B03C1/00 B
B03C1/30 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020152275
(22)【出願日】2020-09-10
(65)【公開番号】P2022046307
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】593053335
【氏名又は名称】リファインホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100196276
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】竹山 友潔
(72)【発明者】
【氏名】中條 勝
(72)【発明者】
【氏名】深澤 健佑
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇夫
【審査官】安島 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-161268(JP,A)
【文献】特開2000-017188(JP,A)
【文献】特開2000-269171(JP,A)
【文献】特開2003-200347(JP,A)
【文献】特開2012-086357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B07B 1/00
B03C 1/00
B03C 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒中に炭素質材料粒子を分散させた炭素質材料分散体からの異物除去方法であって、
分散体を少なくとも1つのフィルター装置からなる一次フィルターに適用した後、当該一次フィルターを通過した分散体を再び当該一次フィルターに適用する循環方式にて、規定回数当該一次フィルターに分散体を適用する第一工程と
第一工程において処理された分散体を、少なくとも2つのフィルター装置を直列的に配してなる二次フィルターを単回通過させる第二工程とを有し、
炭素質材料粒子の粒度分布で累積頻度が99.8%以上となる粒子径を基準粒子径とし、この基準粒子径より5μm以上大きい値を閾値粒子径として設定した場合に、
各フィルター装置として、
(a) 炭素質材料分散体を通過させた前後における基準粒子径に対する積算ふるい下分布(cumulative undersize distribution)Q [%]および不揮発分の変動が、0.1%以下であり、かつ
(b)閾値粒子径の粒子の除去率が20%以上である
ものを用いることを特徴とする異物除去方法。
【請求項2】
閾値粒子径以上の粒子径の異物粒子を99.99%以上捕集することを特徴とする請求項1に記載の異物除去方法。
【請求項3】
各フィルター装置として、
(a) 炭素質材料分散体を通過させた前後における基準粒子径に対する積算ふるい下分布Q [%]および不揮発分の変動が、0.1%以下であり、かつ
(b1)閾値粒子径の粒子の除去率が50%以上である
ものを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の異物除去方法。
【請求項4】
一次フィルターのフィルター装置として、
(a) 炭素質材料分散体を通過させた前後における基準粒子径に対する積算ふるい下分布Q [%]および不揮発分の変動が、0.1%以下であり、かつ
(b2)閾値粒子径の粒子の除去率が50%以上80%以下である
ものを用い、
二次フィルターのフィルター装置として
(a) 炭素質材料分散体を通過させた前後における基準粒子径に対する積算ふるい下分布Q [%]および不揮発分の変動が、0.1%以下であり、かつ
(b2)閾値粒子径の粒子の除去率が80%以上90%以下である
ものを用いるものである請求項1~3のいずれか1つに記載の異物除去方法。
【請求項5】
各フィルター装置がデプスフィルターである請求項1~4のいずれか1つに記載の異物除去方法。
【請求項6】
炭素質材料分散体は前記第一工程に先立ち、磁気フィルターを通過させる湿式磁選処理されているものである請求項1~5のいずれかに記載の異物除去方法。
【請求項7】
炭素質材料分散体に用いられる炭素質材料は、分散媒に分散させるに先立ち乾式磁選処理されているものである請求項1~6のいずれかに記載の異物除去方法。
【請求項8】
炭素質材料がカーボンブラックである請求項1~7のいずれか1つに記載の異物除去方法。
【請求項9】
分散媒中に所期粒径以下の目的粒子を分散させた分散体からの異物除去方法であって、
分散体を少なくとも1つのフィルターからなる一次フィルターに適用した後、当該一次フィルターを通過した分散体を再び当該一次フィルターに適用する循環方式にて規定回数当該一次フィルターに分散体を適用する第一工程と
第一工程において処理された分散体を、少なくとも2つのフィルターを直列的に配してなる二次フィルターを単回通過させる第二工程とを有し、
目的粒子の粒度分布で累積頻度が99.8%以上となる粒子径を基準粒子径とし、また閾値粒子径として目的粒子の粒度分布で累積頻度が90%である粒子径D90の3倍以上となる粒子径を設定した場合に、
各フィルター装置として、
(a) 分散体を通過させた前後における基準粒子径に対する積算ふるい下分布(cumulative undersize distribution)Q [%]および不揮発分の変動が、0.1%以下であり、かつ
(b)閾値粒子径の粒子の除去率が20%以上である
ものを用いることを特徴とする異物除去方法。
【請求項10】
前記分散体中の目的粒子の粒度分布のスパンSが5以下である請求項9に記載の異物除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物除去方法に関する。詳しく述べると本発明は、例えば、炭素質材料分散体中に混入する異物、特に非磁性の異物を効率良く除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー、及びフラ一レン等の炭素質材料は、黒色顔料、黒色充填剤、遮光材料、導電材料等として、トナー、印刷インキ、インクジェットインキ、筆記具用インキ、塗料、ゴム組成物、プラスチック組成物、あるいは電池分野、半導体分野等における電極形成材料、導電層形成材料等の幅広い分野で使用されている。
【0003】
上記した炭素質材料のうちカーボンブラックを例にとると、カーボンブラックには、(a)油やガスを高温ガス中で不完全燃焼させてカーボンブラックを得るファーネス法により得られるファーネスブラック、(b)天然ガスを燃焼させ、チャンネル鋼に析出させたものを掻き集めて得るチャンネル法により得られるチャンネルブラック、(c)アセチレンガスを熱分解してカーボンブラックを得るアセチレン法によるアセチレンブラック、(d)蓄熱した炉の中でガスの燃焼と分解を繰り返してカーボンブラックを製造するサーマル法によるサーマルブラックなどが知られている。これらのカーボンブラックの原料にはFe、Cuなどの金属成分が含まれている。これらの金属成分はカーボンブラックの製造工程で濃縮され、さらに冷却水や製造設備などからの金属成分やその他の不純物の混入もあるため、カーボンブラックは種々の金属成分やその他の不純物を含有するものとなる。
【0004】
そのため、例えば電池分野、半導体分野の如く金属成分やその他の不純物の混入を極端に嫌う用途では、それらの金属成分を除去し炭素質材料を高純度とすることが求められる。
【0005】
例えば、リチウムイオン二次電池の電極形成用の導電助剤である炭素質材料中における金属異物の存在は、デンドライト状態のリチウム金属析出の発生要因であり、内部短絡の原因となるため、その除去はリチウムイオン二次電池全般に望まれることである。
【0006】
このような炭素質材料中に含まれる金属成分やその他の不純物のうち、磁性成分に関してはマグネットフィルター等の磁石を用いて除去することが可能である。例えば、炭素物質を対象とするものではないが、特許文献1には、非導電性粒子を含むスラリー中より磁性物質を除去する上で、当該スラリーの流束中にマグネットフィルター等の磁石を配して磁性物質を除去する方法が提案されており、また特許文献2においては、所定粒度のカーボン粒子、粒子状結着剤及び分散媒を含む二次電池用スラリー組成物の粘度を分散処理によって所定粘度とする分散工程、および前記分散工程により分散処理が行われた前記二次電池用スラリー組成物中の、Fe、NiおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む粒子状金属成分を、ビッカース硬度が10GPa以上25GPa未満のマグネットカバーを有するマグネットにより除去する方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、炭素質材料中に含まれる金属成分やその他の不純物のうち非磁性成分に関しては、当然ながら、上記したような磁石を用いて除去することはできず、別途の方法により除去する必要がある。
【0008】
炭素質材料分散体からの金属成分の除去方法としては、例えば、特許文献3に示されるようにカーボンブラックの水性分散液を各種水溶性キレート剤と接触させ、カーボンブラックに含まれる金属成分を溶出させると共にキレート剤に捕捉して液相へ移行させた後、固液分離する方法、特許文献4に示されるようにカーボンブラック水性分散液と陽イオン交換樹脂とを接触させて金属を除去する工程を設ける方法などといった、金属成分の磁性に依らずに除去する方法も提案されている。
【0009】
しかし、特許文献3および4に示されるような方法は、金属イオンが捕捉対象となる異物であり、このようなキレート化剤やイオン交換樹脂では除去できない固体粒子を対象とするものではなかった。また、特許文献3に示されるようにキレート剤を用いる化学的除去法では、添加したキレート剤をカーボンブラックから分離するような処理工程がさらに必要となって、処理が煩雑となり、製造コストがかかるものであった。また、キレート剤を添加できる分散系としては実質的に水系のみに限られ、水分の存在を嫌うような固体電解質リチウム二次電池用途の非水系分散体の処理としては不適であった。また特許文献4に示されるようなイオン交換樹脂を用いる場合でも、添加したイオン交換樹脂とカーボンブラックから分離するような処理工程がさらに必要となって、処理が煩雑となり、またイオン交換樹脂が粒子形状であるためその除去の際これに同伴して系外へ取り除かれてしまうカーボンブラックの量が多くなり、歩留まりが悪いものとなる虞れがあった。
【0010】
また、一般的な原水や溶液の濾過にデプスフィルターを用いることで濾過効率を向上させることが提案されている(例えば特許文献5)。さらに特許文献6には、水性エマルジョン中に含まれる粗大粒子を選択的に除去する上でデプスフィルターを用いることも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2015-065097号公報
【文献】特開2015-191756号公報
【文献】特開2005-113091号公報
【文献】特開2009-138054号公報
【文献】国際公開番号WO2013/099106号
【文献】特開2011-241324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このため炭素質材料分散体からの非磁性不純物の除去方法としても、このようなデプスフィルターなどのフィルターを用いて物理的に濾過することが検討できる。
【0013】
しかし、被処理媒体が炭素質材料分散体などである場合、被処理液自体が所期粒径の目的粒子を含むものであるため、例えば原水の濾過といった場合とは異なり、この目的粒子が捕捉されないような比較的目の粗いフィルターを用いて混入する異物を除去する必要がある。しかし、目の粗いフィルターを用いた場合捕捉対象となる異物粒子の除去率も悪くなるため、除去率を高める上からは多段処理や循環方式で行う必要が生じる。
【0014】
例えば、効率よく短時間で除去しようと多段にフィルターを配して1パス処理(単回通過処理)で濾過を行おうとすると系内での圧力損失が大幅に上昇して通液操作が困難となる。またフィルター全通過後に製品となるため、全通過後にしか品質確認ができず、例えば、製品品質が所定の目標値より逸脱した場合のやり直しの手間が発生することや、また更なる除去率の向上の要求がある場合に、システムの追加工事が発生するといった問題が生じる。
【0015】
一方で、通液性を重視して圧力損失が大きく上昇しないように循環方式にてフィルターを用いた場合、循環回数を調整することで任意の除去率を達成することが可能となるが、循環方式では、循環回数が多く通液に時間がかかるため、非生産的であるという問題が生じるものであった。
【0016】
従って本発明は、上記の問題を解決してなる異物除去方法を提供することを課題とする。
本発明は、また炭素質材料分散体中に混入する異物、特に非磁性の異物を効率良く除去する異物除去方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために本発明者らは、鋭意検討および研究を進めた結果、分散媒中に炭素質材料粒子を分散させた炭素質材料分散体のような、分散媒中に所期粒径以下の目的粒子を分散させた分散体からの異物除去方法において、循環方式の濾過工程と、多段フィルターを用いた1パス方式の濾過工程とを組み合わせることで、異物の除去率を高くかつ比較的短時間で効率良く処理が可能となることを見出し本発明に至ったものである。
【0018】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、
分散媒中に炭素質材料粒子を分散させた炭素質材料分散体からの異物除去方法であって、
分散体を少なくとも1つのフィルター装置からなる一次フィルターに適用した後、当該一次フィルターを通過した分散体を再び当該一次フィルターに適用する循環方式にて、規定回数当該一次フィルターに分散体を適用する第一工程と
第一工程において処理された分散体を、少なくとも2つのフィルター装置を直列的に配してなる二次フィルターを単回通過させる第二工程とを有し、
炭素質材料粒子の粒度分布で累積頻度が99.8%以上となる粒子径を基準粒子径とし、この基準粒子径より5μm以上大きい値を閾値粒子径として設定とした場合に、
各フィルター装置として、
(a) 炭素質材料分散体を通過させた前後における基準粒子径に対する積算ふるい下分布(cumulative undersize distribution)Q [%]および不揮発分の変動が、0.1%以下であり、かつ
(b)閾値粒子径の粒子の除去率が20%以上である
ものを用いることを特徴とする異物除去方法である。
【0019】
本発明に係る異物除去方法の一実施形態においては、閾値粒子径以上の粒子径の異物粒子を99.99%以上捕集することが示される。
【0020】
本発明に係る異物除去方法の一実施形態においては、各フィルター装置として、
(a) 炭素質材料分散体を通過させた前後における基準粒子径に対する積算ふるい下分布Q [%]および不揮発分の変動が、0.1%以下であり、かつ
(b1)閾値粒子径の粒子の除去率が50%以上である
ものを用いることが示される。
【0021】
本発明に係る異物除去方法の一実施形態においては、一次フィルターのフィルター装置として、
(a) 炭素質材料分散体を通過させた前後における基準粒子径に対する積算ふるい下分布Q [%]および不揮発分の変動が、0.1%以下であり、かつ
(b2)閾値粒子径の粒子の除去率が50%以上80%以下である
ものを用い、
二次フィルターのフィルター装置として
(a) 炭素質材料分散体を通過させた前後における基準粒子径に対する積算ふるい下分布Q [%]および不揮発分の変動が、0.1%以下であり、かつ
(b2)閾値粒子径の粒子の除去率が80%以上90%以下である
ものを用いることが示される。
【0022】
本発明に係る異物除去方法の一実施形態においては、各フィルター装置がデプスフィルターであることが示される。
【0023】
本発明に係る異物除去方法の一実施形態においては、炭素質材料分散体は前記第一工程に先立ち、磁気フィルターを通過させる湿式磁選処理されているものであることが示される。
【0024】
本発明に係る異物除去方法の一実施形態においては、炭素質材料分散体に用いられる炭素質材料は、分散媒に分散させるに先立ち乾式磁選処理されているものであることが示される。
【0025】
本発明に係る異物除去方法の一実施形態においては、炭素質材料がカーボンブラック、特にアセチレンブラックであることが示される。
【0026】
上記課題を解決する本発明はまた、分散媒中に所期粒径以下の目的粒子を分散させた分散体からの異物除去方法であって、
分散体を少なくとも1つのフィルターからなる一次フィルターに適用した後、当該一次フィルターを通過した分散体を再び当該一次フィルターに適用する循環方式にて規定回数当該一次フィルターに分散体を適用する第一工程と
第一工程において処理された分散体を、少なくとも2つのフィルターを直列的に配してなる二次フィルターを単回通過させる第二工程とを有し、
目的粒子の粒度分布で累積頻度が99.8%以上となる粒子径を基準粒子径とし、また閾値粒子径として目的粒子の粒度分布で累積頻度が90%である粒子径D90の3倍以上となる粒子径を設定した場合に、
各フィルター装置として、
(a) 分散体を通過させた前後における基準粒子径に対する積算ふるい下分布(cumulative undersize distribution)Q [%]および不揮発分の変動が、0.1%以下であり、かつ
(b)閾値粒子径の粒子の除去率が20%以上である
ものを用いることを特徴とする異物除去方法である。
【0027】
本発明に係る異物除去方法の一実施形態においては、前記分散体中の目的粒子の粒度分布のスパンSが5以下であることが示される。なお、スパンSは、
スパンS=(D90-D10)/D50
(式中、D90とD10とD50はそれぞれ、粒子の体積基準の粒子径ヒストグラムにおける累積頻度が90%と10%と50%になるときの粒子径ある。)で定義される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、分散媒中に炭素質材料粒子を分散させた炭素質材料分散体のような、分散媒中に目的粒子を分散させた分散体から除去率高くかつ比較的短時間で効率良く、異物を非磁性のものであっても除去することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明に係る異物除去方法の一実施形態を実施する上で用いられ得る装置構成を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。なお、以下において、被処理物である分散体として、分散媒中に炭素質材料粒子を分散させた炭素質材料分散体を対象とした態様を中心として、本発明を説明するが、本発明に係る異物除去方法は、被処理物がこのような炭素質材料分散体に特に限定されるものではなく、分散媒中に所期粒径以下の目的粒子を分散させた分散体であればいずれに対しても適用可能である。
【0031】
本発明の第一の観点に係る異物除去方法は、分散媒中に炭素質材料粒子を分散させた炭素質材料分散体からの異物除去方法であって、
分散体を少なくとも1つのフィルター装置からなる一次フィルターに適用した後、当該一次フィルターを通過した分散体を再び当該一次フィルターに適用する循環方式にて、規定回数当該一次フィルターに分散体を適用する第一工程と
第一工程において処理された分散体を、少なくとも2つのフィルター装置を直列的に配してなる二次フィルターを単回通過させる第二工程とを有し、
炭素質材料粒子の粒度分布で累積頻度が99.8%以上となる粒子径を基準粒子径とし、この基準粒子径より5μm以上大きい値を閾値粒子径として設定とした場合に、
各フィルター装置として、
(a) 炭素質材料分散体を通過させた前後における基準粒子径に対する積算ふるい下分布(cumulative undersize distribution)Q [%]および不揮発分の変動が、0.1%以下であり、かつ
(b)閾値粒子径の粒子の除去率が20%以上である
ものを用いることを特徴とする異物除去方法である。
【0032】
このように本発明においては、循環方式でフィルターに炭素質材料分散体を適用する工程(第一工程)と、多段的に配列された複数のフィルターに単回通過させる工程(第二工程)とを組み合わせることによって、分散媒中に炭素質材料粒子を分散させた炭素質材料分散体のような、分散媒中に目的粒子を分散させた分散体から除去率高くかつ比較的短時間で効率良く、異物を除去することができるものである。
【0033】
本発明の異物除去方法において、第一工程および第二工程で使用するフィルターとしてはいずれも、メンブレンフィルターのようなサーフェスフィルターであっても、デプスフィルターであっても良いが、被処理物が分散媒中に炭素質材料粒子のような目的粒子を分散させた分散体であり、フィルターにより異物粒子が捕捉されることはあっても目的粒子が実質的に捕捉されるものとする上から、デプスフィルターであることが望ましい。
【0034】
デプスフィルターは、サーフェスフィルター(流体中の粒子状物質を主にフィルター表面で捕捉するフィルター)と異なり、流体中の粒子状物質を主に濾材内部で捕捉するフィルターであり、粒子保持性能が高く目詰まりしにくいという特徴を有する。デプスフィルターを用いることで、分散体中の異物粒子をより選択的に除去することができる。
デプスフィルターの製造には様々な材料を使用することができ、一例を挙げれば、例えば、メルトブロー又はスパンボンド法フィラメントの不織媒体である。デプスフィルターは、チューブ状スリーブの形態又は平坦なシートの形態などで提供される。例えば、繊維をコアに巻き付けたもの、不織布をコアに巻き付けたもの、繊維を熱溶着したもの、繊維を押出し成形したもの等が例示できるが、本発明において、用いられるデプスフィルターの形態等に関しては特に限定されるものではない。
【0035】
デプスフィルターの素材としても特に限定されるものではなく、例えば、合成繊維としては、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、或いはナイロンやエチレンビニルアルコール共重合体などの熱溶融性ポリマー又はポリビニルアルコールやポリアクリロニトリルなどのポリマーが用いられる。
【0036】
本発明において、第一工程および第二工程で用いるフィルター、特に上記したようなデプスフィルターを選定する上では、その濾過精度が重要である。
すなわち、被処理物となる炭素質材料分散体中の異物を除去する上で、除去率を高める上ではフィルターの孔径がより小さなものを用いることが考慮できるが、孔径を必要以上に小さなものとすると、炭素質材料分散体中の炭素質材料もフィルターに捕捉されたり、フィルターの孔を通過する際に作用されて炭素質材料の粒径分布に変動を生じてしまったり、あるいはフィルターが目詰まりを生じて濾過操作時の圧力損出が大きくなり、フィルターに適用する上でポンプ等の圧送装置の増設が必要となったり、あるいは操作不能に陥る可能性がある。
【0037】
このため、本発明においては、
各フィルター装置として、
炭素質材料粒子の粒度分布で累積頻度が99.8%以上となる粒子径を基準粒子径とし、この基準粒子径より5μm以上大きい値を閾値粒子径として設定とした場合に、
(a) 炭素質材料分散体を通過させた前後における基準粒子径に対する積算ふるい下分布(cumulative undersize distribution)Q [%]および不揮発分の変動が、0.1%以下であり、かつ
(b)閾値粒子径の粒子の除去率が20%以上である
ものを使用する。
この条件を満たすフィルターを用い、循環方式の第一工程と、多段の単回通過の第二工程とを設けることによって、分散媒中に炭素質材料粒子を分散させた炭素質材料分散体から除去率高くかつ比較的短時間で効率良く、閾値粒子径以上の異物を除去できるものである。
【0038】
この条件において、基準粒子径としては、分散体中の目的粒子の種類等によって変動するために特に限定されないが、一例を挙げると例えば、目的粒子がカーボンブラックであるような場合、0.05~10μmの範囲内の値、代表的には例えば、0.5μm程度である。
【0039】
ここで、粒度分布で累積頻度が99.8%以上となる粒子径とは、以下の式で表されるように、粒子径d(iは1からkの自然数、i≦k)を有する粒子の総体積を粉体に含まれる全粒子の総体積で除すことで粒子径dを有する粒子の頻度Fが得られる。この頻度Fを累積し、99.8%以上となるときの粒子径である。因みに粒度分布で累積頻度が50%となる粒子径D50、いわゆるメジアン径が、本明細書において言う体積基準の平均粒子径である。
【0040】
【数1】
(式中、Vは粒子径dを有する粒子の体積であり、nは粒子径dを有する粒子の個数である。)
なお、粒子径dは、粉体を光学顕微鏡や電子顕微鏡などの顕微鏡で観察したときに得られる個々の粒子の像を内接する最小円の直径、あるいは最小長方形の長辺として得られる。例えば、粒子径dは、電子顕微鏡像中に観測される複数(例えば、100~10000個程度、代表的には100個、500個または1000個等)の粒子を目視、または画像解析ソフトを用いて決定することができる。また粒子の体積Vは上述した最小円の直径、あるいは最小長方形の長辺を直径として有する球の体積である。
【0041】
また、閾値粒子径は、この基準粒子径より5μm以上大きい値であって、除去しようとする異物粒子のうち下限の粒子径に相当するものであり、具体的には、例えば、基準粒子径が10μmであった場合に、これより5μm大きい15μm、これより10μm大きい20μm等の値が設定できるが、好ましくは、基準粒子径よりも5~15μm大きい値の範囲内の数値とされる。
【0042】
さらに(a) 炭素質材料分散体を通過させた前後における基準粒子径に対する積算ふるい下分布(cumulative undersize distribution)Q [%]および不揮発分の変動に関しては、より好ましくは、0.1%以下とすることが望ましい。
【0043】
また(b)閾値粒子径の粒子の除去率としては、(b1)閾値粒子径の粒子の除去率が50%以上である条件を満たすものであることがより望ましい。
【0044】
さらに、一実施形態においては、一次フィルターのフィルター装置として、
(a) 炭素質材料分散体を通過させた前後における基準粒子径に対する積算ふるい下分布Q [%]および不揮発分の変動が、0.1%以下であり、かつ
(b2)閾値粒子径の粒子の除去率が50%以上80%以下である
ものを用い、
二次フィルターのフィルター装置として
(a) 炭素質材料分散体を通過させた前後における基準粒子径に対する積算ふるい下分布Q [%]および不揮発分の変動が、0.1%以下であり、かつ
(b2)閾値粒子径の粒子の除去率が80%以上90%以下である
ものを用いるものとすることができる。循環方式の一次フィルターにおいては、比較的目の粗いフィルターを用いることで、目詰まりや圧力損失の増大を抑制し、単回通過の二次フィルターにおいてはより目の小さなフィルターを用いることで異物の除去率を向上させることができる。
【0045】
なお、この一実施形態におけるように、一次フィルターのフィルター装置と二次フィルターのフィルター装置との孔径条件を異なるものとせず、同じものとしても、循環方式か単回処理方式かの違いによって、それぞれの工程での異物除去に関する作用の相違は生じ、所期の効果は得られるため、一次フィルターのフィルター装置と二次フィルターのフィルター装置との孔径条件は共通のものとする実施形態であっても良い。
【0046】
また、二次フィルターの複数のフィルター装置に関して、それぞれのフィルター装置の孔径条件は共通のものとすることも異なるものとすることも可能である。異なるものとする場合には、上流側に位置する、特に最も上流側に位置するフィルター装置の孔径条件を下流側のものより目の粗いものに設定する実施形態が好ましい。また一次フィルターを複数のフィルター装置で構成する場合にも同様である。
【0047】
一次フィルターにおけるフィルター装置の個数としては、1個であってもまたは複数のものであっても良いが、個数が必要以上に増えると循環方式とすることの意味合いが薄れるため、フィルター装置の形式や大きさ等にも左右されるが、例えば、3個以内とすることが望ましい。
【0048】
さらに、循環方式での第一工程での循環回数は、使用するフィルター装置の特性、個数等によっても左右されるが、例えば、20回以下、より好ましくは10回以下の循環回数で、炭素質材料分散体中に含まれる異物の98.2%~99.98%程度、特に99.960%~99.95%程度を捕捉除去できるようなものとすることが好ましい。
【0049】
ここで第一工程での「循環回数」とは、上流側より一次フィルターを通過した分散液が再び同じ一次フィルターの上流側に戻る循環流路(閉流路)を形成した場合に、同じ分散液が一次フィルターを通過する回数を指す。例えば、図1に示す実施形態において説明すると、前工程(この例においてはマグネットフィルター210での処理)から第一工程300に導かれた被処理物である分散液は、一旦分散処理後タンク310に入り、ここから、一次フィルター(2段のデプスフィルター330)を通過後、再び分散処理後タンク310へ戻るという循環回路(閉流路)において循環処理されるが、分散処理後タンク310からの処理する分散液の液量分(初期液量)と実質的同量が一次フィルター330を通過した時点を1循環として計数し、以降、循環回路を介して分散処理後タンク310に戻った分散液の液量分と、実質的同量が一次フィルター330を再び同様にして通過した時点ごとに循環回数を1つずつ増やしていくかたちである。なお、ここで「実質的」同量としたのは、一次フィルターで捕捉された濾物に拠る減少量および循環流路を通過する上での壁面付着等による不可避的な減少量を考慮したものである。従って、この減少量を考慮した「実質的」同量については、当業者であれば上記説明に基づき容易に理解でき、また、実際に使用する装置構成に応じて容易に具体化できるものであると思料する。
【0050】
また、二次フィルターにおけるフィルター装置の個数としては、少なくとも2つ以上の複数であれば良いが、個数が必要以上に増えると、循環方式の第一工程と組み合わせとすることの意味合いが薄れるため、フィルター装置の形式や大きさ等にも左右されるが、例えば、3個以内、より好ましくは2個以内とすることが望ましい。
【0051】
次に本発明の第一の観点に係る炭素質材料分散体からの異物除去方法を、図1に示す炭素質材料分散体の精製システムの一実施形態において実施する場合を例にとり、より具体的に説明する。
本発明に係る異物除去方法の一実施形態を実施する上で用いられ得る装置構成を模式的に示すブロック図である。
【0052】
本発明の第一の観点に係る炭素質材料分散体の異物除去方法において、被処理物である炭素質材料分散体に含まれる炭素質材料Cとしては、導電性を有する炭素質材料であり、粉粒状の形態を呈し得るものであれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック(CB)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンファイバー(CF)、フラーレン、天然黒鉛等が挙げられ、これらを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。炭素質材料としては、特にCBが好ましい。さらにCBとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等が挙げられ、そのいずれを用いることが可能である。このうち例えば、アセチレンブラックは、その製法上で金属成分含有量が本来的に低いものとなるため好ましい。
【0053】
ここで本明細書において炭素質材料の「粉粒状」の形態とは、分散媒中に分散処理することで均一な分散液を形成可能なものであれば特に限定されない。例えば、平均粒子径10~60nm程度の粒子径を呈している一次粒子、このような一次粒子が凝集等して平均粒子径1~1000μm程度の二次粒子を呈しているもの、あるいはさらに圧縮処理や造粒処理により平均粒子径0.5~5mm程度の加工された粒子とされたものなどが含まれ得る。さらに、その形状としても、特に限定されるものではなく、概略球状のものに限られず、楕円状、薄片状、針状ないし短ファイバー状、不定形等が含まれ得る炭素質材料の平均粒子径としては、0.5mm以上~5mm以下程度がより好ましい。なお、分散媒中に分散処理して炭素質材料分散体中を調製した後においては、分散媒中で炭素質材料の平均粒子径が10μm以下程度となっているものであることが望ましい。
【0054】
なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定された、体積基準の平均粒子径D50(いわゆるメジアン径)を意味する。
【0055】
(分散体調製工程)
図1に示す炭素質材料分散体の精製システムにおいては、まず被処理物となる炭素質材料分散体を、少なくとも、炭素質材料と分散媒とを攪拌装置100で攪拌混合して調製する。
【0056】
使用される分散媒としては、特に限定されるものではなく、得られる炭素質材料分散体の使用目的等に応じて適宜選択され得、各種の水もしくは有機溶媒のいずれとすることもできる。さらに、使用される分散媒は、得られる炭素質材料分散体の使用温度域、特に限定されるわけではないが、例えば、0℃~100℃程度、少なくとも20℃~50℃程度の温度域において液体のものである。
【0057】
例えば、本発明によって得られる炭素質材料分散体をリチウムイオン二次電池用途に用いる場合においては、有機溶媒を用いることが望ましい。
【0058】
特に限定されるわけではないが、具体的には例えば、有機溶媒としては、乾燥によって除去できる媒体であれば特に限定されないが、例えば、ジブチルエーテル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸ペンチル、プロピオン酸ヘキシル、プロピオン酸ヘプチル、プロピオン酸オクチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル、酪酸ペンチル、酪酸ヘキシル、酪酸ヘプチル、酪酸オクチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、吉草酸ブチル、吉草酸アミル、吉草酸ヘキシル、吉草酸ヘプチル、吉草酸オクチル、カプロン酸エチル、カプロン酸プロピル、カプロン酸ブチル、カプロン酸ペンチル、カプロン酸ヘキシル、カプロン酸ヘプチル、カプロン酸オクチル、ヘプタン酸エチル、ヘプタン酸プロピル、ヘプタン酸ブチル、ヘプタン酸ペンチル、ヘプタン酸ヘキシル、ヘプタン酸ヘプチル、ヘプタン酸オクチル等のエステル系溶媒;メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン(アノン)等のケトン系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒;ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘプタン、オクタン、シクロオクタン、ノナン、デカン等のアルカン系溶媒;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート;トルエン、キシレン、ベンゼン、メシチレン、パラフィン、四塩化炭素等が挙げられ、これらは単独であるいは複数種組み合わせて用いることができる。
【0059】
また調製しようとする炭素質材料分散体中には、例えば、炭素質材料の粉粒体の上記分散媒体中での分散性を向上させるための分散剤、バインダー成分、その他の添加剤を含み得る。なお、これらの成分は、後述する磁気選別工程における処理後において、炭素質材料分散体中に配合されることも当然可能である。例えば、全固体リチウムイオン二次電池用途に用いる場合には、これらの成分あるいは固体電解質、正極活物質又は負極活物質等は、後述する第二磁気選別工程における処理後において、炭素質材料分散体中に配合され得る。
【0060】
炭素質材料分散体を調製する上での攪拌装置100としては特に限定されるものではなく、ビーズミル等のメディアミル以外にも、機械的な攪拌機構を有する攪拌機、ディスパライザー、ホモジナイザーなどのメディアレスミル、ディスパ―翼やせん断翼を備えた分散用ホモミキサー、超音波攪拌機、流路構造による静的攪拌機等のいずれを用いて行うことも可能である。
【0061】
このようにして調製される炭素質材料分散体の粘度としては、特に限定されるものではないが、後述する磁気選別工程において、分散媒体中に存在する金属成分の分散媒体中での移動を良好なものとする上で、例えば、25℃条件下で粘度が10~1000mPa・s、好ましくは10~500mPa・s、より好ましくは10~300mPa・s程度であることが望ましい。
【0062】
また、炭素質材料分散体における炭素質材料の含有量としては、分散媒体として使用する溶媒の種類によっても左右されるが、当該炭素質材料分散体の総質量に対し、例えば、炭素質材料は10~25質量%程度であることが望ましい。
【0063】
(磁気選別工程)
本発明に係る炭素質材料分散体の異物除去方法の一実施形態においては、上記したような分散体調製工程の後に、得られた炭素質材料分散体中に磁石体を配して当該炭素質材料分散体中より磁性金属成分を除去する湿式磁気選別工程を設けても良い。例えば、図1に示す精製システムにおいては、循環方式の濾過工程である第一工程300より上流側に2段の磁気フィルター210が、また単回通過の濾過工程である第二工程400における複数のデプスフィルター410より上流側に1つの磁気フィルター220が、さらに複数のデプスフィルター410の下流側に確認用の1つの磁気フィルター230が設置されている。
【0064】
なお、本発明に係る異物除去方法において、このような湿式磁気選別工程は、任意のものであり、またサーフェスフィルターないしデプスフィルターを用いた循環方式の濾過工程である第一工程および多段のフィルターをサーフェスフィルターないしデプスフィルターを用いた単回通過の濾過工程である第二工程とは、独立して工程を組み込むことが可能であり、上述した図1に示す実施形態においても示されるように、例えば、第一工程に先立ち湿式磁気選別工程を設けるものに限られず、第一工程と第二工程との間に湿式磁気選別工程を設けることや、第二工程の後に湿式磁気選別工程を設けること、さらにはこれらの位置の複数において湿式磁気選別工程を設けることが可能である。
【0065】
また、本発明に係る炭素質材料分散体の異物除去方法において、炭素質材料分散体を調製する上で用いられる炭素質材料は、前記したような湿式磁気選別工程による磁性金属の除去処理とは別途に、予め乾式磁気選別による磁性金属の除去処理を施されたものであってもよい。本発明者らは先に、特願2020-102342号において、炭素質材料に対する好適な乾式磁気選別方法およびこれと湿式磁気選別方法とを組み合わせ好適な炭素質材料分散体の精製方法を提案している。そして、本発明に係る炭素質材料分散体の異物除去方法において、同特許出願に開示される磁気選別方法を適用することは、好ましい実施形態の1つである。なお、特願2020-102342号の明細書、特許請求の範囲および図面において開示される全内容はその関連により、本明細書に援用される。
【0066】
(非磁性異物除去の第一工程)
図1に示す精製システムにおいては、攪拌装置100で調製された炭素質材料分散体が、必要に応じて2段の磁気フィルター210にて処理された後に、循環方式の濾過工程である第一工程300においてまず処理される。すなわち、2段の磁気フィルター210を通過した炭素質材料分散体は、一旦分散処理後タンク310に入り、ここから2段のデプスフィルター330を通り分散処理後タンク310へ戻るという循環ラインを介して、所定の循環回数だけ循環処理される。この際循環ライン上の切替バルブ340は開かれ、一方、第一工程300から後述する第二工程400へと至る接続ライン上の切替バルブ350は閉じた状態とされて第一工程の循環ラインが確保され、圧送ポンプ320を駆動させることで所定流量で循環処理を行う。なお、この循環処理の際の流量としては、比較的高めに設定し、循環効率を上げることが望ましい。
【0067】
(非磁性異物除去の第二工程)
第一工程300で所定の循環回数に達した後に、処理された炭素質材料分散体は第二工程400に移り単回通過の濾過処理を施される。図1に示す精製システムにおいては、第一工程300で所定の循環回数に達すると、切替バルブ340を閉じ、一方、切替バルブ350を開くことで、第一工程での循環ラインから、第二工程400への接続ラインへと切り替え、第一工程で処理された炭素質材料分散体を、第二工程400の前処理後タンク410へと供給する。そして、ここから炭素質材料分散体を、圧送ポンプ420によって、単回通過にて、2段のデプスフィルター430へと流して濾過処理を行う。なお、図1に示す精製システムにおいては、上述したように2段のデプスフィルター430の上流側に磁気フィルター220を配しているが、磁気フィルターの配置は任意である。第二工程400におけるフィルター(2段のデプスフィルター430)へ炭素質材料分散体の供給は、炭素材料分散体中に未だに残存する異物を単回通過にてフィルターで確実に捕捉するために、第一工程におけるものと比較して、流量を落として行うことが望ましい。
【0068】
なお、図1に示す精製システムにおいては、このように第二工程において濾過処理した後に、炭素質材料分散体を、最後に品質確認用の磁気フィルター230とメッシュストレーナー500を通して、製品600としているが、本発明に係る異物除去方法において、このような品質確認用の磁気フィルターやメッシュストレーナー等の配置は任意のものである。また、図1に示す精製システムにおいては、第一工程300および第二工程400のいずれにおいても、フィルターとして2段のデプスフィルター330、430を配置しているが、第一工程および第二工程で用いられるフィルターの数および種類に関しては、この図1に例示される実施形態に何ら限定されるものではなく、前述したような条件のもとで種々変更可能である。
【0069】
以上は、本発明に係る異物除去方法を、被処理物が炭素質材料分散体である一実施形態の場合を例にとり説明したが、本発明の異物除去方法は、非磁性体である異物を被処理物中より除去する方法であるため、被処理物として炭素質材料分散体に特に限定されるわけではなく、種々の分散体に対して適用可能である。
【0070】
すなわち、本発明の第二の観点は、分散媒中に所期粒径以下の目的粒子を分散させた分散体からの異物除去方法であって、
分散体を少なくとも1つのフィルターからなる一次フィルターに適用した後、当該一次フィルターを通過した分散体を再び当該一次フィルターに適用する循環方式にて規定回数当該一次フィルターに分散体を適用する第一工程と
第一工程において処理された分散体を、少なくとも2つのフィルターを直列的に配してなる二次フィルターを単回通過させる第二工程とを有し、
目的粒子の粒度分布で累積頻度が99.8%以上となる粒子径を基準粒子径とし、また閾値粒子径として目的粒子の粒度分布で累積頻度が90%である粒子径D90の3倍以上となる粒子径を設定した場合に、
各フィルター装置として、
(a) 分散体を通過させた前後における基準粒子径に対する積算ふるい下分布(cumulative undersize distribution)Q [%]および不揮発分の変動が、0.1%以下であり、かつ
(b)閾値粒子径の粒子の除去率が20%以上である
ものを用いることを特徴とする異物除去方法である。
【0071】
このように本発明に係る異物除去方法において、分散体中に分散させる目的粒子に関して上述した第一の観点におけるように炭素質材料に特定しない場合には、閾値粒子径に関しては、粒度分布で累積頻度が90%である粒子径D90の3倍以上の値と設定することが可能である。
【0072】
特に限定されるわけではないが、本発明の対象とする分散体中の目的粒子の粒度分布としては、概して、比較的狭く、粒子径のばらつきに関する指数であるスパンSが5以下程度、具体的には例えば3.1~4.2程度となることが想定される。
【0073】
ここでスパンSは、
スパンS=(D90-D10)/D50
(式中、D90とD10とD50はそれぞれ、粒子の体積基準の粒子径ヒストグラムにおける累積頻度が90%と10%と50%になるときの粒子径である。)で定義される。
【0074】
この場合、異物として除去すべき粒子の閾値粒子径としては、目的粒子の粒度分布における累積頻度が99.8%以上となる粒子径(基準粒子径)よりも十分に大きなものとなる値であり、前記したように粒子径D90の3倍以上の値と設定すればよい。ちなみに、炭素質材料分散体に関しては、閾値粒子径を粒子径D90の3倍以上の値と設定すれば、上述したように閾値粒子径を基準粒子径より5μm以上大きい値と設定することと実質的に同じこととなる。
【0075】
さらに、本発明の第二の観点の異物除去方法において、分散体中の目的粒子の粒度分布のスパンSは5以下であることが、より適切な異物除去を行う上から望まれる。
【0076】
なお、この第二の観点に係る異物除去方法において、上述した閾値粒子径の規定に関する点以外についての好適条件や詳細な条件等は、上述した第一の観点に係る異物除去方法において述べたものを適用可能であるので、重複を避けるためにここでの説明は省略する。
【実施例
【0077】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。
【0078】
(試験用炭素質材料分散体の調製)
以下の実施例および参考例において用いる被処理物として、試験用炭素質材料分散体を次のようにして調製した。
まずアセチレンブラック20質量部、分散媒体としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)79質量部および分散剤がカルボキシメチルセルロース1質量部を、ビーズミルにて分散処理を行い、アセチレンブラック分散体10kg(予め磁性成分は磁気処理によってアセチレンブラックに対して質量分率で4×10-8に除去されている)を調製し、これに20μmのメッシュでふるいをかけてメッシュに捕捉された粒径20μm以上の金属粉末(銅粉末)を10mg(20μmの球形粒子で換算して、266442.43個)を添加して十分に混合して、試験用炭素質材料分散体とした。なお、この試験用炭素質材料分散体においてアセチレンブラック粒子の粒度分布で累積頻度が99.8%以上となる粒子径(基準粒子径)は、8.81μmであった。また、試験用炭素質材料分散体の粘度は25℃にて263mPa・sであった。
【0079】
(フィルター装置の事前選定)
フィルター装置としてはポリプロピレン不織布デプスフィルターを採用し、試験用炭素質材料分散体中のアセチレンブラックには、影響を与えないフィルターを選定した結果、粒子径10μm以下の粒子には効果がない、2つのフィルターを選定した。
【0080】
すなわち、(1)不揮発分、(2)粒度分布および(3)B型粘度計の数値でアセチレンブラック分散液の物性に変化がないフィルターを選定した。詳細には、(1)主材料である炭素質材料(アセチレンブラック)の質量変化がないことを不揮発分濃度から確認した。不揮発分の分析方法は、フィルター通過前後の分散液10g分取し、140℃で5時間かけて乾固し、不揮発分変化が、元の不揮発分値に対して0.5質量%以上変化がない事を確認した。また、(2)粒度分布に変化のないことは、粒度分布測定において、基準粒子径(8.81μm)に対する積算ふるい下分布(cumulative undersize distribution)Qの変化が0.1%以下であることで確認した。さらに(3)またB型粘度計の数値で変化のないことは、常温(25℃)での粘度変化がフィルターを通過した前後で、測定の平均値から±10mPa・s以内であることで確認した。なお、フィルターを10パスごとにサンプルをとり、50パスまでフィルターを通した後に、上記のようにしてサンプルの不揮発分、粘度、粒度分布を測定し、5つのサンプルの平均値に対して、上記評価を行った。
これによって、上記(1)~(3)の点でアセチレンブラック分散液の物性に変化がなく、かつ、閾値粒子径である20μmの粒子に対する除去率が74%であるデプスフィルター(以下、Aフィルターと称する)と、除去率が86%であるデプスフィルター(以下、Bフィルターと称する)を選定した。なお、除去率は、「ISO 12103-1(2016) [Road vehicles-Test contaminants for filter evaluation Part 1: Arizona test dust]の中でA4(Coarse)として規定されたACダスト(自動車用Air Cleaner Test Dust)を試験粒子とし、264ppmの濃度で、10インチカートリッジに対して11.4リットル/分の流速で流して測定した際の値である。
【0081】
参考例1
フィルター装置を直列的に多段に配した流路に、試験用炭素質材料分散体10kgを単回通過させる1パス方式にて異物除去処理を行った。なお、1段目のフィルター装置としては、除去率が74%であるAフィルターを配置し、2段目以降のフィルター装置としては、除去率が86%であるBフィルターを配置した。得られた結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
多段フィルターを5段以上とし、試験用炭素質材料分散体を単回通過させることで、分散体中の異物粒子(銅粒子)の捕集質量が1μg以下となり、除去率が99.99%以上となったことが確認できた。
【0084】
ただし流路系内での圧力損失の問題で、フィルター装置2段おきにポンプの設置が必要となり、計3台のポンプを運用した。100kg/hで処理し、1時間かかった。
【0085】
参考例2
除去率が74%であるAフィルターと除去率が86%であるBフィルターとを直列に配した循環流路にて、試験用炭素質材料分散体10kgを循環させて異物除去処理を行った。得られた結果を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
9回循環させることで、分散体中の異物粒子(銅粒子)の捕集質量が1μg以下となり、除去率が99.99%以上となったことが確認できた。循環路に配するポンプは1台で済んだが、100kg/hの流量で、10時間かかった。
【0088】
実施例1
第一工程として、除去率が74%であるAフィルターと除去率が86%であるBフィルターとを直列に配した循環流路にて、試験用炭素質材料分散体10kgを循環処理し、また、第二工程として、除去率が74%であるAフィルターと除去率が86%であるBフィルターとを直列に配した流路で、第一工程で処理後の試験用炭素質材料分散体を単回処理した。
第一工程での循環回数を6回として循環濾過し、その後第二工程で多段(2段)の単回処理した結果、分散体中の異物粒子(銅粒子)の捕集質量が0.47μgとなり、除去率が99.995%以上となったことが確認できた。捕集質量は、参考例1および2と比較して最も低く抑えることができた。またフィルター本数を4本に抑えることができ、処理時間は7時間必要であった。
【0089】
実施例2
実施例1において、第一工程での循環回数を7回として循環濾過し、その後第二工程で多段(2段)の単回処理した結果、分散体中の異物粒子(銅粒子)の捕集質量が0.16μgとなり、除去率が99.998%以上とさらに除去が可能となったことが確認できた。また処理時間は8時間必要であった。
【0090】
なお上記実施例、比較例および参考例において示した平均粒径、分散体の粘度、分散体における金属成分含有量、分散体におけるアセチレンブラック(カーボンブラック)収率は、以下の基準により測定したものである。
【0091】
(粒子径)
レーザー回折散乱式粒度分布装置((株)堀場製作所製、LA-960)を用いて、粒度分布を測定した。
【0092】
(分散体の粘度)
B型粘度計(TVB-15、東機産業社製)によって、温度25℃、(ローターNo.21、60rpm)の条件下に測定して得られた値である。
【0093】
(分散体における非磁性金属成分(Cu)含有量)
アセチレンブラック分散体中に含まれるCu濃度を調べるため、まず、アセチレンブラック分散液を秤量し、分散媒であるNMPを蒸発乾固した後、硝酸を加え加熱分解する前処理を施す。次いで、アセチレンブラックと酸分解液を濾紙で分離し、分離した酸分解液を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)(装置名:SPECTRO ACROS MV130 FHM22、スペクトロ社製)により測定した。
測定結果の濃度は、酸分解液での濃度となるため、元の秤量したアセチレンブラック分散液の質量から換算して、捕集したCu質量に換算した。
【符号の説明】
【0094】
100 撹拌装置
300 第一工程
330 デプスフィルター
400 第二工程
430 デプスフィルター
図1