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特許7499159グラウト充填式スリーブ継手及びそのシール部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】グラウト充填式スリーブ継手及びそのシール部材
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/18 20060101AFI20240606BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
E04C5/18 102
E04G21/12 105E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020190024
(22)【出願日】2020-11-16
(65)【公開番号】P2022079070
(43)【公開日】2022-05-26
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390026723
【氏名又は名称】東京鐵鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彬人
(72)【発明者】
【氏名】島野 真圭
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3222686(JP,U)
【文献】特開平11-280207(JP,A)
【文献】特開2001-191113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/18
E04G 21/12
E04B 1/58
E04G 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋を接合するためのグラウト充填式スリーブ継手の少なくとも一方の端部に装着され、上記スリーブ継手の内周と、上記スリーブ継手に挿入される鉄筋の外周との間を封止するシール部材であって、
弾性材料により環状に形成され、上記スリーブ継手の軸線方向の内側及び外側をそれぞれ向く裏側及び表側の端面を有する本体部を備え、
この本体部は、上記スリーブ継手に定着される外周部と上記鉄筋を挿通させる貫通孔が形成された内周部とを有し、
上記本体部の表側の端面には、識別表示が周方向に複数施されていることを特徴とするグラウト充填式スリーブ継手のシール部材。
【請求項2】
上記識別表示は周方向に等間隔で配置されていることを特徴とする請求項1に記載のシール部材。
【請求項3】
上記識別表示は上記本体部の表側の端面における上記外周部側に偏倚して配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のシール部材。
【請求項4】
上記識別表示は、互いに重ならないように配置された第1識別表示と第2識別表示とを有することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のシール部材。
【請求項5】
上記第1識別表示と上記第2識別表示は、周方向に交互に配置されていることを特徴とする請求項4に記載のシール部材。
【請求項6】
上記第1識別表示は、上記本体部の外周部が定着される上記スリーブ継手のサイズを表し、
上記第2識別表示は、上記内周部の貫通孔が上記スリーブ継手に対応した標準サイズの鉄筋とは異なるサイズの鉄筋の挿通用に形成されていることを表すことを特徴とする請求項4又は5に記載のシール部材。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載のシール部材が少なくとも一方の端部に装着されていることを特徴とするグラウト充填式スリーブ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2本の鉄筋を接合するためのグラウト充填式スリーブ継手及びこの継手と鉄筋の間を封止するシール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
グラウト充填式スリーブ継手は、細長く中空に形成され両端に開口部を有する金属製のスリーブを備え、スリーブ両端の開口部にはそれぞれ鉄筋の端部が挿入される。スリーブの内部にはグラウト材が充填され、グラウト材が硬化することにより2本の鉄筋がグラウト材及びスリーブを介して接合される。グラウト充填式鉄筋継手は、場所打ちコンクリート工法の鉄筋の接合、及びプレキャスト鉄筋コンクリート部材の部材間鉄筋の接合等に使用されている。
【0003】
下記特許文献1に開示のグラウト充填式スリーブ継手は、場所打ちコンクリート工法の鉄筋の接合に使用されるものであって、鋼管からなる継手金具(スリーブ)の両端の開口部に鉄筋を挿入した後、継手金具に形成された注入口からグラウト材が継手金具の内部に注入される。継手金具の両端の開口部には、環状のシール材が取り付けられており、継手金具の内周と鉄筋の外周の間を封止している。これにより、グラウト材が継手金具の内部から流出することを防いでいる。
【0004】
下記特許文献2に開示のグラウト充填式スリーブ継手は、上下のプレキャスト鉄筋コンクリート部材間の鉄筋の接合に使用されるものである。上方のプレキャスト鉄筋コンクリート部材(以下、上方部材と略称する)には、その下端部にグラウト充填式スリーブ継手のスリーブ本体が鉛直に埋設され、スリーブ本体の下端開口部が上方部材の下端面に開口している。上方部材を製造するためには、スリーブ本体の上端開口部に上方部材の鉄筋の下端部を挿入して、コンクリート型枠内に横向きに配置した状態でコンクリートを打設している。
【0005】
このとき、スリーブ本体の上端開口部には、環状のコンクリート流入防止部材(シール部材)が取り付けられており、スリーブ本体の内周と鉄筋の外周の間を封止している。これにより、打設されるコンクリートがスリーブ本体の内部に流入することを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-324112号公報
【文献】特開昭63-7453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に開示の種類のグラウト充填式スリーブ継手では、種々のサイズのスリーブが用意されており、スリーブのサイズごとに標準使用されるサイズの鉄筋がある。スリーブには、標準サイズの鉄筋が挿入される場合もあれば、標準サイズとは異なるサイズの鉄筋が挿入される場合もある。
【0008】
シール部材は、スリーブのサイズに応じて用意されており、シール部材には、使用される鉄筋のサイズに応じて鉄筋を挿通させる穴が形成されている。そのため、シール部材には、スリーブのサイズや鉄筋を挿通させる穴の大きさを見分けるための識別表示を施す必要がある。
【0009】
シール部材に施される識別表示は、シール部材の穴への鉄筋の挿通の前後において、すなわち、スリーブへの鉄筋の挿入の前後において、視認できることが求められる。例えば、識別表示が鉄筋に遮られてある位置からは視認できなくなったり、識別表示が挿通鉄筋によりスリーブ内側に屈曲した部位に配置されることにより、識別表示が視認できなくなったりすることは、避ける必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は上記課題の少なくとも1つを解決するためになされたものであって、この発明の一態様に係る、グラウト充填式スリーブ継手のシール部材は、
鉄筋を接合するためのグラウト充填式スリーブ継手の少なくとも一方の端部に装着され、上記スリーブ継手の内周と、上記スリーブ継手に挿入される鉄筋の外周との間を封止するシール部材であって、
弾性材料により環状に形成され、上記スリーブ継手の軸線方向の内側及び外側をそれぞれ向く裏側及び表側の端面を有する本体部を備え、
この本体部は、上記スリーブ継手に定着される外周部と上記鉄筋を挿通させる貫通孔が形成された内周部とを有し、
上記本体部の表側の端面には、識別表示が周方向に複数施されていることを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、本体部の表側の端面に識別表示が周方向に複数施されることにより、貫通孔に鉄筋を挿通させた後に、ある識別表示が鉄筋に遮られて、ある位置から視認できなくなったとしても、他の識別表示を視認できるようになる。したがって、識別表示の視認性を向上させることができる。
【0012】
好ましくは、上記識別表示は周方向に等間隔で配置されている。
上記構成によれば、あらゆる方向から識別表示を視認できるようになり、識別表示の視認性をより向上させることができる。
【0013】
好ましくは、上記識別表示は上記本体部の表側の端面における上記外周部側に偏倚して配置されている。
上記構成によれば、本体部の内周部側において貫通孔への鉄筋の挿通によりスリーブ継手の内側に屈曲させられて隠れてしまう範囲が生じても、この隠れる範囲を避けて識別表示を設けたり、隠れる範囲にかかる識別表示の度合いを小さくしたりできる。これにより、識別表示を視認できなくなることを避けることができる。
【0014】
好ましくは、上記識別表示は、互いに重ならないように配置された第1識別表示と第2識別表示とを有する。
上記構成によれば、シール部材に施された識別表示が第1、第2識別表示を有していることにより、シール部材に関する2つの属性項目に基づいて、シール部材を識別することができる。
【0015】
好ましくは、上記第1識別表示と上記第2識別表示は、周方向に交互に配置されている。
上記構成によれば、第1識別表示と第2識別表示の視認性を向上させることができる。
【0016】
好ましくは、上記第1識別表示は、上記本体部の外周部が定着される上記スリーブ継手のサイズを表し、上記第2識別表示は、上記内周部の貫通孔が上記スリーブ継手に対応した標準サイズの鉄筋とは異なるサイズの鉄筋の挿通用に形成されていることを表す。
【0017】
この発明の他の態様は、グラウト充填式スリーブ継手であって、上記シール部材が少なくとも一方の端部に装着されていることを特徴とする。
上記構成によれば、装着されたシール部材の識別表示の視認性を向上させたグラウト充填式スリーブ継手を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、シール部材に設けられる識別表示の視認性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の第1実施形態に係るシール部材を装着し鉄筋を挿入した状態を示すグラウト充填式スリーブ継手の断面図である。
図2】同シール部材を示す拡大図であって、(A)は正面図、(B)は背面図である。
図3】(A)図2(A)のIIIA矢視側面図である。(B)グラウト充填式スリーブ継手の要部拡大断面図である。(C)図2(A)のIIIC-IIIC線に沿う要部拡大断面図である。
図4】同シール部材に設けられる識別表示の一例を示す図であって、識別表示の一部を隠した状態を示す。
図5】同シール部材を装着したグラウト充填式スリーブ継手によるプレキャスト鉄筋コンクリート部材と他の部材との接合を示す断面図である。
図6】この発明の第2実施形態に係るシール部材を示す正面図である。
図7】(A)~(D)は、識別表示の変形例を示すシール部材の正面図である。
図8】識別表示の変形例を示すシール部材の正面図である。
図9】(A)、(B)は、識別表示の変形例を示すシール部材の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1実施形態]
以下、この発明の第1実施形態に係るシール部材及びこのシール部材を装着したグラウト充填式スリーブ継手について、図1図5を参照して説明する。
【0021】
グラウト充填式スリーブ継手1(以下、スリーブ継手と略称する)は、2本の鉄筋を接合するためのものであって、図5に示すように、上下のプレキャスト鉄筋コンクリート部材(以下、プレキャスト部材と略称する)2,3間の上下の鉄筋4,5の接合に使用される。
【0022】
鉄筋4,5は、縦リブと横フシを有する異形鉄筋である。鉄筋4,5は、ネジフシを有するネジ鉄筋でもよい。
【0023】
スリーブ継手1はスリーブ10を有し、スリーブ10には、シール部材20が装着される。
スリーブ10は、図1に示すように、金属製で細長い円筒形状をなしており、その両端に、鉄筋4,5をそれぞれ挿通させるための開口部11,12を有している。尚、本実施形態の鉄筋4は、スリーブ10のスリーブサイズに対して、標準使用されるサイズの鉄筋である。
【0024】
スリーブ10の一端部(図1において左側の端部)の側面には排出口13が形成され、他端部の側面にはグラウト注入口14が形成されている。スリーブ10の一端部には、環状の収容溝15が形成されている。この収容溝15は、図3(B)に示すように、スリーブ10の内周面から周方向、内方向に突出する一対の環状のフランジ15a,15bにより形成されている。スリーブ10の開口端側のフランジ15aより奥側のフランジ15bの内径は小さく形成されている。
【0025】
上記シール部材20は、スリーブ10の収容溝15に装着される。
シール部材20は、スリーブ10と鉄筋4の間を封止するものであって、図2図3(A)に示すように、ゴム(弾性材料)により平らな円環形状に形成された本体部21により構成されており、本体部21は、表側端面21aと裏側端面21bを有している。表側端面21aは裏側端面21bより径が小さく形成されている。
【0026】
本体部21は、図2図3(A),(C)に示すように、その径方向において内周部21iと外周部21oとにより構成されている。内周部21iには、鉄筋4を挿通させるための貫通孔22が形成されている。
【0027】
外周部21oは、スリーブ10に定着される部分であって、図3(A)に示す外周部21oの大径部分(裏側端面21b側の部分)は収容溝15に嵌め込まれ、外周部21oの小径部分(表側端面21a側の部分)はフランジ15aの内側に嵌め込まれる。このとき、表側端面21a及び裏側端面21bは、それぞれ、スリーブ10の軸線方向の外側及び内側を向いている。
【0028】
図3(A)に示すように、外周部21oの大径部分の外周面21xには、スリーブ10の奥側に向かって広がるテーパが形成され、軸方向中間部に断面半円形の環状溝21yが形成されている。
また、図2(B)に示すように、外周部21oにおける裏側端面21bには、円環形状をなす環状溝21zが形成され、本体部21の軸線方向、裏側端面21b側に向かうにしたがって幅が広くなっている。
【0029】
図3(A),(B)に示すように、本実施形態では、スリーブ10へ収容される前の自然状態(弾性変形していない状態)の本体部21において、裏側部分の外径は、収容溝15の内径より大きく形成されている。
【0030】
図2図3(C)に示すように、外周部21oの内周面21sには、上記内周部21iを構成するシール幕23が円環形状をなして形成されており、シール幕23に上記貫通孔22が形成されている。
【0031】
シール幕23は、本体部21の軸線方向に複数形成され等間隔で離間している(本実施形態では4つ形成されるが表側と裏側の2つのみ図示する)。これらシール幕23は、同一形状、同一内径を有し、径方向外側の基端部が厚く、径方向内側の先端部が薄くなっており、外周部21oより弾性変形しやすく形成されている。尚、各シール幕23の形状を互いに異ならせてもよい。
【0032】
複数のシール幕23のうち、図3(C)に示す本体部21の軸線方向外側のシール幕23は、その外側面が外周部21oと面一に形成されており、表側端面21aを構成している。シール幕23の貫通孔22の内径は、上記鉄筋4のリブやフシを除いた直径より小さい。
【0033】
次に、上記シール部材20の上記スリーブ継手1への装着について説明する。
図3(A)に示すシール部材20の外周部21oを図3(B)に示すスリーブ継手1の収容溝15に嵌め込むとき、外周部21oは、外周面21xの環状溝21y(図2(B))と、裏側端面21bの環状溝21zとにより、変形を助長される。装着されたシール部材20では、本体部21の裏側部分は、その外径がスリーブ10の収容溝15の内径より大きいため、収容溝15により強く接している。
【0034】
次に、上記スリーブ継手1への上記鉄筋4の挿入について説明する。
図1に示すように、鉄筋4の端部を、スリーブ継手1に装着したシール部材20のシール幕23の貫通孔22に挿通し、スリーブ10の内部に挿入する。貫通孔22の内径が鉄筋4におけるリブやフシを除いた直径より小さいため、シール幕23は弾性をもって鉄筋4の外周面に接している。これにより、シール部材20は、スリーブ継手1の内周と鉄筋4の外周との間を封止している。尚、シール幕23の径方向内側の先端部は、挿通する鉄筋4の移動方向に、大概の場合スリーブ10の奥側に、屈曲した状態に弾性変形している。
【0035】
次に、上記スリーブ継手1を用いた、上記プレキャスト部材2,3間の鉄筋4,5の接合について説明する。
図5に示すように、プレキャスト部材2の下端部には、シール部材20を装着したスリーブ継手1が鉛直に埋設され、スリーブ10下端の開口部12がプレキャスト部材2の下端面に開口している。スリーブ10上端部のシール部材20には、鉄筋4の下端部が挿通され所定長さスリーブ10内に挿入されている。スリーブ10の排出口13及びグラウト注入口14は、ぞれぞれ、プレキャスト部材2の外面に開口する確認孔2x及び供給孔2yに連通している。
【0036】
プレキャスト部材2をプレキャスト部材3の上方に建て入れるとき、プレキャスト部材3から上方に延びる鉄筋5の上端部がスリーブ10内に開口部12を通って収容される。その後、グラウト材が供給孔2yから供給され、グラウト注入口14を通ってスリーブ10内に充填される。グラウト材は、排出口13及び確認孔2xを通って外部に漏れ出たとき、供給を停止される。グラウト材の固化により、鉄筋4,5は、グラウト材及びスリーブ10を介して接合され、ひいてはプレキャスト部材2,3が接合される。
【0037】
次に、プレキャスト部材2の製造について説明する。
図示しない型枠内に、鉄筋4とスリーブ継手1を配置する。鉄筋4の一端部(下端部)はシール部材20を介してスリーブ10に挿入されている。スリーブ10の排出口13及びグラウト注入口14には、それぞれ確認孔2x用及び供給孔2y用のロッドが設けられる。
【0038】
型枠内には、コンクリートが打設される。このとき、コンクリートがスリーブ10の開口部11と鉄筋4との間の隙間からスリーブ10の内部に流入することは、シール部材20によって阻止されている。
【0039】
次に、上記シール部材20に施される識別表示について説明する。
上述のように、シール部材20は、スリーブ10と、そのスリーブサイズに対して標準使用されるサイズの鉄筋4との間を封止するシール部材(同径用のシール部材)であるが、上記スリーブ継手1には、種々のサイズのスリーブ10が用意されており、スリーブ10のサイズに応じて種々のシール部材20が用意されている。そのため、シール部材20には、これを見分けるための識別表示を施す必要がある。
【0040】
図2(A)に示すように、シール部材20を構成する本体部21の表側端面21aには、識別表示30(第1識別表示)が施されている。識別表示30は、スリーブ10のサイズに由来するシール部材20のサイズを表すものであり、数字『11』で表示されている。識別表示30は、図3(C)に示すように、表側端面21aからわずかに突き出た状態で本体部21と一体に形成されている。
【0041】
識別表示30は、周方向に複数(本実施形態では6つ)施されている。これにより、シール部材20の貫通孔22に鉄筋4を挿通させた後に、ある識別表示30が鉄筋4に遮られて、ある位置から視認できなくなったとしても、他の識別表示30を視認できるようになっている。
【0042】
また、識別表示30の配置は、周方向に等間隔になされている。これにより、あらゆる方向からの識別表示30の視認を可能にしており、視認性がより高められている。尚、視認性の点から識別表示30の配置数は、3つ以上が好ましい。識別表示30の配置は等間隔でなくてもよい。
【0043】
識別表示30の配置は、図2(A)、図3(C)に示すように、表側端面21aの径方向においては、外周部21o側に偏倚してなされている。これにより、貫通孔22への鉄筋2aの挿通時に弾性変形して不可視となりうるシール幕23の径方向内側の先端部(表側端面21aの内周部21i側)の領域を避けて、識別表示30を配置したり、その領域にかかる識別表示30の度合いを小さくしたり、することができる。
さらに、識別表示30は、表側端面21aの外周縁から隙間(例えば、1mm以上の隙間)を空けて配置されている。
【0044】
特に、日本工業規格(JIS S 2135)で規定される鉄筋の公称直径をdとすると、同径用のシール部材20では、鉄筋を挿通させたとき本体部21の軸線を中点とする直径1.05d~1.17dの範囲の領域が不可視となる。そのため、この不可視領域を避けて識別表示30を配置すれば、鉄筋4を挿通させたときにも識別表示30を確実に視認することができる。
【0045】
図4に示すように、数字の上部3分の1を隠したとき、各数字を識別することは可能である。そこで、図2(A)に示すように、識別表示30を数字として、数字の上部を表側端面21aの中心側に向けて配置する。このとき、数字の上部が鉄筋4の挿通時の弾性変形で不可視となりうるシール幕23先端部の領域に配置される場合がある。この場合であっても、その不可視領域への配置が数字の上部3分の1であれば、識別表示30の数字を識別することができる。
【0046】
本実施形態のシール部材20及びこのシール部材20を装着したスリーブ継手1によれば、上述のように、シール部材20の表側端面21aに、識別表示30が周方向に複数施されているから、識別表示30の視認性を向上させることができる。
【0047】
次に、この発明の他の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態については、上記実施形態と異なる構成だけを説明することとし、同様な構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0048】
[第2実施形態]
この発明の第2実施形態について、図6を参照して説明する。
上記第1実施形態のシール部材20は、スリーブ10と、そのスリーブサイズに対して標準使用されるサイズの鉄筋4との間を封止する、いわゆる同径用のシール部材である。これに対し、スリーブ10に、標準使用されるサイズとは異なるサイズの鉄筋が挿入される場合には、その異なるサイズの鉄筋に対応して貫通孔22を形成したシール部材(異径用のシール部材)が用いられる。
【0049】
本実施形態では、スリーブ10には、そのスリーブサイズに対して標準使用されるサイズより小さいサイズの鉄筋(図示しないが、説明の便宜上符号4Aを付す)が挿入される。そのため、スリーブ10と鉄筋4Aの間を封止するために、異径用のシール部材20Aが用いられ、その貫通孔22は鉄筋4Aのサイズにあわせて形成され上記第1実施形態の貫通孔22より小さく形成されている。
【0050】
シール部材20Aの表側端面21aには、シール部材20Aのサイズを表す識別表示30(第1識別表示)のほかに、識別表示40(第2識別表示)が施されている。識別表示40は、円弧形をなす図形であり、表側端面21aからわずかに突き出た状態で本体部21と一体に形成されている。識別表示30と識別表示40は、互いに重ならないように配置されている。
【0051】
識別表示40は、シール部材20Aが異径用シール部材であること、より具体的には、貫通孔22がスリーブ10のサイズに対応する標準サイズの鉄筋4より小さいサイズの鉄筋4Aの挿通用に形成されていること、を表している。
【0052】
識別表示40は、周方向に複数(本実施形態では6つ)施されている。識別表示40の配置は、周方向に等間隔になされている。また、識別表示30と識別表示40は、周方向に交互に配置されている。これにより、識別表示30,40の視認性を向上させている。
【0053】
尚、上記公称直径をdとすると、異径用のシール部材20Aでは、鉄筋を挿通させたとき本体部21の軸線を中点とする直径1.06d~1.20dの範囲の領域が不可視となる。そのため、この不可視領域を避けて識別表示30,40を配置すれば、鉄筋4Aを挿通させたときにも識別表示30,40を確実に視認することができる。
【0054】
本実施形態のシール部材20A及びこのシール部材20Aを装着したスリーブ継手1によれば、シール部材20Aに識別表示30,40が施されることにより、シール部材20Aのサイズ、及び、シール部材20Aが異径用であること、というシール部材20Aに関する2つの属性項目に基づいて、シール部材20Aを識別することができる。
【0055】
[変形例]
次に、識別表示の変形例について説明する。なお、以下の変形例については、上記識別表示と異なる構成だけを説明することとする。
【0056】
図7図8は、識別表示をなす図形の変形例を示している。
識別表示40は、図7(A)では三角形に形成され、図7(B)では四角形に、図7(C)では円形に、図7(D)では角丸長方形に、それぞれ形成されている。図8では、識別表示40は、複数の図形の組合せからなり、3つの円を径方向に一列に並べたものにより構成されている。
【0057】
図9(A),(B)は、識別表示の配置の変形例を示しており、第2識別表示である識別表示40の内部に第1識別表示である識別表示30が配置されている。
図9(A)では識別表示40をなす円形の図形の内側に、図9(B)では識別表示40をなす四角形の図形の内側に、それぞれ、識別表示30をなす数字『11』が配置されている。
【0058】
図9(A),(B)の識別表示40では、各図形の外形線41が所定の太さを有して表側端面21aからわずかに突き出た状態で、本体部21と一体に形成されており、外形線41と重ならないように、識別表示30は配置されている。
【0059】
なお、この発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
上記実施形態では、識別表示をシール部材と一体に形成しているが、別体に形成した識別表示をシール部材に付してもよい。
上記実施形態では、第1、第2識別表示をそれぞれ数字(文字)、図形で表しているが、これらは一例である。識別表示を、文字、図形、記号又は色彩で表すことができ、これらを結合したもので表すこともできる。
上記実施形態では、識別表示の表示内容は、シール部材が装着されるスリーブのサイズや、シール部材が異径用シール部材であること、であるが、これらに限定されない。
上記実施形態では、シール部材を、プレキャスト部材用のスリーブ継手の一端の開口部に装着しているが、場所打ちコンクリート工法用のスリーブ継手の両端の開口部に装着してもよい。これにより、スリーブ継手内部からのグラウト材の流出を防止してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
この発明は、2本の鉄筋を接合するためのグラウト充填式スリーブ継手及びこの継手と鉄筋の間を封止するシール部材に適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 グラウト充填式スリーブ継手
2,3 プレキャスト鉄筋コンクリート部材
2x 確認孔
2y 供給孔
4,5 鉄筋
10 スリーブ
11,12 開口部
13 排出口
14 グラウト注入口
15 収容溝
15a,15b フランジ
20,20A シール部材
21 本体部
21a 表側端面
21b 裏側端面
21i 内周部
21o 外周部
21s 外周部の内周面
21x 外周面
21y,21z 環状溝
22 貫通孔
23 シール幕
30 識別表示(第1識別表示)
40 識別表示(第2識別表示)
41 外形線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9