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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】内燃機関の制御方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/02 20060101AFI20240606BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20240606BHJP
   F02D 41/06 20060101ALI20240606BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20240606BHJP
   F02P 5/145 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
F02D13/02 H
F02D13/02 J
F02D43/00 301Z
F02D43/00 301B
F02D43/00 301J
F02D41/06
F02D41/34
F02P5/145 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020192729
(22)【出願日】2020-11-19
(65)【公開番号】P2022081285
(43)【公開日】2022-05-31
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 晶
(72)【発明者】
【氏名】橋本 星二
(72)【発明者】
【氏名】横山 仁
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-243360(JP,A)
【文献】特開平10-009004(JP,A)
【文献】特開2004-176607(JP,A)
【文献】特開2002-039038(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0278005(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/02
F02D 43/00
F02D 41/06
F02D 41/34
F02P 5/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の制御方法であって、
始動時の第1のサイクルでは、吸気バルブの閉弁タイミングを圧縮上死点近傍まで遅角させ、遅くとも前記吸気バルブが閉弁する前までに筒内に直接燃料噴射を行い、前記吸気バルブが開弁する前に燃料噴射を完了し、前記筒内の混合気に点火をせず、
前記第1のサイクルに続く第2のサイクルでは、前記閉弁タイミングを始動後のアイドリング時の基準閉弁タイミングまで進角させ、前記筒内の混合気に点火をする、
ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項2】
請求項に記載の内燃機関の制御方法であって、
前記第1のサイクルでは、前記吸気バルブの開弁タイミングを前記第2のサイクルよりも遅角させる、
ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内燃機関の制御方法であって、
前記第2のサイクルでも前記筒内に直接燃料噴射を行う、
ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項4】
筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射装置と、前記燃料噴射装置から噴射された燃料が形成する混合気に火花点火する点火装置と、少なくとも吸気バルブの閉弁タイミングを調整し得る可変動弁装置と、を備える内燃機関の制御装置であって、
始動時の第1のサイクルでは、前記可変動弁装置は前記閉弁タイミングを圧縮上死点近傍まで遅角させ、前記燃料噴射装置は遅くとも前記吸気バルブが閉弁する前までに燃料噴射を行い、前記吸気バルブが開弁する前に燃料噴射を完了し、前記点火装置は点火をせず、
前記第1のサイクルに続く第2のサイクルでは、前記可変動弁装置は前記閉弁タイミングを始動後のアイドリング時の基準閉弁タイミングまで進角させ、前記点火装置は前記筒内の混合気に点火をする、
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クランキング中の圧縮圧力を低減させるためにクランキング開始時に吸気バルブ閉弁時期を通常時よりも遅くし、所定のエンジン回転速度になった後に通常の吸気バルブ閉弁時期に戻して燃料を噴射する内燃機関の制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-239461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の内燃機関の制御装置では、始動後の最初の燃焼時には、通常の吸気バルブ閉弁時期に戻すと共に燃料を通常よりも多く噴射する。そのため、気筒内壁への燃料付着によって、HC(ハイドロカーボン)及びPM(粒子状物質)の排出量が増加するおそれがある。
【0005】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、内燃機関の始動時に、燃料噴射量を多くすることなく良好な燃焼を行うことのできる混合気を筒内に形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、内燃機関の制御方法は、始動時の第1のサイクルでは、吸気バルブの閉弁タイミングを圧縮上死点近傍まで遅角させ、遅くとも前記吸気バルブが閉弁する前までに筒内に直接燃料噴射を行い、前記吸気バルブが開弁する前に燃料噴射を完了し、前記筒内の混合気に点火をせず、前記第1のサイクルに続く第2のサイクルでは、前記閉弁タイミングを始動後のアイドリング時の基準閉弁タイミングまで進角させ、前記筒内の混合気に点火をする。
【0007】
本発明の他の態様によれば、筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射装置と、前記燃料噴射装置から噴射された燃料が形成する混合気に火花点火する点火装置と、少なくとも吸気バルブの閉弁タイミングを調整し得る可変動弁装置と、を備える内燃機関の制御装置は、始動時の第1のサイクルでは、前記可変動弁装置は前記閉弁タイミングを圧縮上死点近傍まで遅角させ、前記燃料噴射装置は遅くとも前記吸気バルブが閉弁する前までに燃料噴射を行い、前記吸気バルブが開弁する前に燃料噴射を完了し、前記点火装置は点火をせず、前記第1のサイクルに続く第2のサイクルでは、前記可変動弁装置は前記閉弁タイミングを始動後のアイドリング時の基準閉弁タイミングまで進角させ、前記点火装置は前記筒内の混合気に点火をする。
【発明の効果】
【0008】
上記態様によれば、内燃機関の始動時に、燃料噴射量を多くすることなく良好な燃焼を行うことのできる混合気を筒内に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態を適用する内燃機関の燃焼室付近の概略構成図である。
図2図2は、内燃機関の停止動作時の制御を説明するフローチャートである。
図3図3は、内燃機関の始動時の制御を説明するフローチャートである。
図4図4は、内燃機関の始動時の制御におけるタイミングチャートである。
図5図5は、内燃機関の始動後の最初の燃焼における必要燃料噴射量について説明する図である。
図6図6は、内燃機関の始動後におけるHC排出量について説明する図である。
図7図7は、内燃機関の始動後におけるPM排出量について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
まず、図1を参照して、本発明の実施形態を適用する内燃機関(以下、「エンジン」ともいう。)1の構成について説明する。
【0012】
図1は、エンジン1の燃焼室周辺の概略構成図である。なお、図1はひとつの気筒についてのみ示しているが、本実施形態は多気筒エンジンにも適用可能である。
【0013】
エンジン1のシリンダブロック1Bは、シリンダ2を備える。シリンダ2には、ピストン3が収められている。
【0014】
ピストン3は、シリンダ2の軸線に沿うようにシリンダ2内を往復動する。ピストン3は冠面3A(以下、「ピストン冠面3A」ともいう。)に後述するキャビティ10を備える。
【0015】
エンジン1のシリンダヘッド1Aは、凹状の燃焼室11と、燃焼室11とエンジン外部とを連通する吸気通路4及び排気通路5と、を備える。燃焼室11は、いわゆるペントルーフ型に構成されており、吸気通路4の開口部には一対の吸気バルブ6が、排気通路5の開口部には一対の排気バルブ7がそれぞれ配置されている。そして、これら一対の吸気バルブ6及び一対の排気バルブ7に囲まれた燃焼室11の略中心位置に、点火装置としての点火プラグ8がシリンダ2の軸線に沿うように配置されている。
【0016】
また、シリンダヘッド1Aにおける一対の吸気バルブ6に挟まれた位置には、燃料噴射装置9が、燃焼室11に臨むように配置されている。
【0017】
吸気バルブ6及び排気バルブ7は、可変動弁装置20により駆動される。可変動弁装置20は、吸気バルブ6及び排気バルブ7のバルブタイミング、つまり開弁タイミング及び閉弁タイミングを変化させ得るものであれば足りる。なお、開弁タイミングとは、開弁動作を開始するタイミングであり、閉弁タイミングとは、閉弁動作を終了するタイミングである。
【0018】
本実施形態では、吸気バルブ6を駆動するカムシャフト及び排気バルブ7を駆動するカムシャフトの、クランクシャフト(図示省略)に対する回転位相を変化させる公知の可変動弁装置20を用いる。なお、回転位相だけでなく吸気バルブ6及び排気バルブ7の作動角も変化させ得る公知の可変動弁装置を用いてもよい。また、可変動弁装置20としては、吸気バルブ6と排気バルブ7のバルブタイミングの両方が調整できるものに限らず、少なくとも吸気バルブ6のバルブタイミングを調整できるものであればよい。
【0019】
可変動弁装置20は、吸気バルブ6及び排気バルブ7のバルブタイミングを電動で変化させるものである。これに代えて、吸気バルブ6及び排気バルブ7のバルブタイミングを油圧等の流体圧で変化させる可変動弁装置を適用してもよい。
【0020】
ピストン3は、上述したように、ピストン冠面3Aにキャビティ10を備える。キャビティ10は、ピストン冠面3Aにおいて吸気側に偏った位置に設けられている。そして、燃料噴射装置9は、ピストン3が圧縮上死点近傍にあるときに燃料噴射すれば燃料噴霧がこのキャビティ10を指向するように配置されている。キャビティ10は、衝突して跳ね返った燃料噴霧(図1中のB)が点火プラグ8の方向へ向かうような形状になっている。
【0021】
エンジン1の燃料噴射量、燃料噴射タイミング、及び点火タイミング等は、コントローラ100によりエンジン1の運転状態に応じて制御される。コントローラ100は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ100を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0022】
また、ここでいう燃料噴射タイミングとは、燃料噴射を開始するタイミングである。また、これらの制御を実行するために、エンジン1はクランクシャフト角度センサ31、冷却水温センサ32、吸入空気量を検出するエアフローメータ、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ、排気浄化触媒の温度を直接的に又は間接的に検出する触媒温度センサ等の各種検出装置を備える。
【0023】
次に、図2及び図3を参照して、上記のような構成のエンジン1の制御について説明する。
【0024】
図2は、エンジン1の停止動作時の制御を説明するフローチャートである。図3は、エンジン1の始動時の制御を説明するフローチャートである。コントローラ100は、図2及び図3に示すルーチンを実行するようにプログラムされている。
【0025】
まず、エンジン1の停止動作時の制御について説明する。コントローラ100は、図2に示すフローを、エンジン1を運転している状態で実行する。
【0026】
図2のステップS11では、コントローラ100は、エンジン1を停止させる要求があったか否かを判定する。エンジン1の停止要求は、運転者の操作に基づくものであってもよく、アイドリングストップ判定などのコントローラ100による判定に基づくものであってもよい。ステップS11にて、エンジン1を停止させる要求があったと判定された(ステップS11で「Yes」)場合には、ステップS12に移行する。一方、ステップS11にて、エンジン1を停止させる要求がなかったと判定された(ステップS11で「No」)場合には、再びステップS11の判定を繰り返す。
【0027】
ステップS12では、コントローラ100は、ステップS11におけるエンジン1を停止させる要求が、運転者の操作に基づくイグニッションOFFによるものか否かを判定する。ステップS12にて、イグニッションOFFではないと判定された(ステップS12で「No」)場合には、ステップS13に移行する。一方、ステップS12にて、イグニッションOFFであると判定された(ステップS12で「Yes」)場合には、ステップS14に移行する。
【0028】
ステップS13では、コントローラ100は、冷却水温センサ32からの電気信号に基づき取得したエンジン1の冷却水温が、設定温度よりも低いか否かを判定する。即ち、ステップS13では、エンジン1が充分に暖機されているか否かを判定する。ステップS13にて、エンジン1の冷却水温が設定温度よりも低いと判定された(ステップS13にて「Yes」)場合には、ステップS14に移行する。一方、ステップS13にて、エンジン1の冷却水温が設定温度よりも低くない、即ち設定温度以上であると判定された(ステップS13にて「No」)場合には、ステップS15に移行する。
【0029】
ステップS14では、コントローラ100は、可変動弁装置20に、吸気バルブ6のバルブタイミングを遅角させる。具体的には、可変動弁装置20は、吸気バルブ6の閉弁タイミングを圧縮上死点近傍まで遅角させる。なお、圧縮上死点近傍とは、圧縮上死点だけでなく、圧縮上死点の手前における圧縮上死点に近い範囲も含む概念である。なお、可変動弁装置20が吸気バルブ6の閉弁タイミングを遅角させると、吸気バルブ6の開弁タイミングも同じだけ遅角される。
【0030】
ステップS14の処理は、次のエンジン1の始動時に、エンジン1の冷却水温が設定温度よりも低い場合に実行される。そのため、コントローラ100は、ステップS13にてエンジン1の冷却水温が設定温度よりも低い、即ちエンジン1が充分に暖気されていないと判定された場合には、次のエンジン1の始動時にも冷却水温は設定温度よりも低いので、ステップS14の処理を実行する。また、コントローラ100は、ステップS12にてイグニッションOFFであると判定された場合には、次のエンジン1の始動時に冷却水温が低下している可能性が高いので、ステップS14の処理を実行する。
【0031】
一方、ステップS12にて、イグニッションOFFでないと判定され、ステップS13にて、エンジン1の冷却水温が設定温度よりも低くない、即ち設定温度以上であると判定された場合には、次のエンジン1の始動時に冷却水温が低下している可能性は低いので、ステップS13の処理を実行しない。
【0032】
ステップS15では、コントローラ100は、エンジン1を停止させる。このように、エンジン1では、停止要求があってから停止するまでの間に、吸気バルブ6のバルブタイミングを遅角させておく。これに代えて、後述するエンジン1の始動時に、クランキングを開始してから回転数が後述する設定回転数に達するまでの間に、吸気バルブ6のバルブタイミングを遅角させてもよい。
【0033】
続いて、エンジン1の始動時の制御について説明する。コントローラ100は、図3に示すフローを、エンジン1の始動要求があったときに実行する。第1のサイクルとは、エンジン1の始動時にクランキングが開始されて、混合気を燃焼させることが可能な最低限の回転数よりも高い回転数になって最初のサイクルであり、第2のサイクルとは、第1のサイクルに続くサイクルである。
【0034】
図3のステップS21では、コントローラ100は、セルモータ(図示省略)若しくは駆動用モータ(図示省略)によって、エンジン1のクランキングを開始する。
【0035】
ステップS22では、コントローラ100は、クランクシャフト角度センサ31からの電気信号に基づき、エンジン1の回転数(回転速度)Neを取得する。
【0036】
ステップS23では、コントローラ100は、エンジン1の回転数Neが設定回転数Ntrgtよりも高いか否かを判定する。設定回転数Ntrgtは、シリンダ2内に燃料噴射を行い、点火を行うことにより混合気を燃焼させることが可能な最低限の回転数に設定される。ステップS23にて、エンジン1の回転数Neが設定回転数Ntrgtよりも高いと判定された(ステップS23にて「Yes」)場合には、ステップS24に移行する。一方、エンジン1の回転数Neが設定回転数Ntrgtよりも高くないと判定された(ステップS23にて「No」)場合には、再びステップS23の判定を繰り返す。
【0037】
ステップS24では、コントローラ100は、エンジン1の第1のサイクルにて、燃料噴射装置9に燃料を噴射させる。燃料噴射装置9は、遅くとも吸気バルブ6が閉弁する前までに燃料噴射を行う。具体的には、燃料噴射装置9による燃料噴射は、シリンダ2内の負圧が最大になる前に完了する。燃料噴射装置9は、吸気バルブ6の開弁タイミングまでに、即ち吸気バルブ6が開弁する前に燃料噴射を完了させる。
【0038】
ステップS25では、コントローラ100は、エンジン1の第1のサイクルにて、吸気バルブ6の開閉が完了したか否かを判定する。ステップS25にて、吸気バルブ6の開閉が完了したと判定された(ステップS25にて「Yes」)場合には、ステップS26に移行する。一方、吸気バルブ6の開閉が完了していないと判定された(ステップS25にて「No」)場合には、再びステップS25の判定を繰り返す。
【0039】
ステップS26では、コントローラ100は、可変動弁装置20に、吸気バルブ6のバルブタイミングを基準バルブタイミングに進角させる。基準バルブタイミングとは、エンジン1の始動後のアイドリング時における開弁タイミング(基準開弁タイミング)及び閉弁タイミング(基準閉弁タイミング)である。
【0040】
ステップS27では、コントローラ100は、エンジン1の第2のサイクルにて、燃料噴射装置9に燃料を噴射させる。第2のサイクルでは、燃料噴射装置9は、第1のサイクルにおける燃料噴射量とあわせてシリンダ2内の混合気の空燃比がストイキ(理論空燃比)になるように燃料を噴射する。第1のサイクルと第2のサイクルとの2回に分けてシリンダ2内への燃料噴射を行うことで、1回あたりの燃料噴射量を少なくできる。よって、燃料噴霧のペネトレーションが小さくなるので、シリンダ2の壁面やピストン冠面3Aに燃料が付着することを抑制できる。なお、第2のサイクルにおける燃料噴射量は、第1の燃料噴射量よりも少なくなるように設定されている。
【0041】
第1のサイクルにおける燃料噴射により、シリンダ2内にストイキよりもリーンな均質混合気(図1中のA)が形成されており、そこに第2のサイクルにおける燃料噴射を行うことで、点火プラグ8近傍にストイキよりもリッチな混合気(図1中のB)を形成することができる。なお、第1のサイクルにおける燃料噴射(ステップS24)にてシリンダ2内の混合気の空燃比がストイキになるように燃料を噴射しておき、第2のサイクルにおける燃料噴射(ステップS27)を行わなくてもよい。また、第1のサイクルと第2のサイクルとで2回の燃料噴射を行うのに代えて、この間に3回以上の燃料噴射を行って、シリンダ2内に空燃比がストイキの混合気を形成してもよい。
【0042】
ステップS28では、コントローラ100は、点火プラグ8にシリンダ2内の混合気への点火を行わせる。これにより、エンジン1では、始動時にクランキングが開始されてから最初の燃焼が実行される。
【0043】
次に、図4から図7を参照して、上記のような構成のエンジン1の制御による作用について説明する。
【0044】
図4は、エンジン1の始動時の制御におけるタイミングチャートである。図4におけるTDCは上死点を意味し、BDCは下死点を意味する。図5は、エンジン1の始動後の最初の燃焼における必要燃料噴射量について説明する図である。図5では、横軸は、燃料噴射量[mg]であり、縦軸は、空気過剰率λである。図6は、エンジン1の始動後におけるHC(ハイドロカーボン)排出量について説明する図である。図6では、横軸は、時間[sec]であり、縦軸は、HC排出量の積算値である。図7は、エンジン1の始動後におけるPM(粒子状物質)排出量について説明する図である。図7では、横軸は、時間[sec]であり、縦軸は、PM排出量の積算値である。図5から図7では、本発明が適用されたエンジン1の場合を実線で示し、本発明が適用されない従来のエンジンの場合を破線で示す。
【0045】
図4の時刻T0において、エンジン1では、クランキングが開始される。クランキングが開始されて、エンジン1の回転数Neが設定回転数Ntrgtを超えると、燃料噴射装置9は、所定の燃料噴射タイミングである時刻T1にて1回目の燃料噴射を行う。このときのエンジン1のサイクルが、第1のサイクルである。
【0046】
時刻T2は、第1のサイクルにおける吸気バルブ6の開弁タイミングである。燃料噴射装置9は、時刻T2になる前、即ち吸気バルブ6が開く前に燃料噴射を完了する。第1のサイクルでは、吸気バルブ6の開弁タイミングは、基準開弁タイミングよりも下死点寄りに遅角されている。そのため、シリンダ2内は、吸気バルブ6が閉弁したままピストン3が移動することにより、減圧されて負圧になっている。よって、シリンダ2内に噴射された燃料は、減圧沸騰により気化が促進される。したがって、冷却水温度が低い状態であっても、シリンダ2の壁面やピストン冠面3Aに燃料が付着することを抑制できる。なお、第1のサイクルでは、点火プラグ8による点火は行われない。
【0047】
時刻T3は、第1のサイクルにおける吸気バルブ6の閉弁タイミングである。第1のサイクルでは、吸気バルブ6の閉弁タイミングは、圧縮上死点近傍(ここでは圧縮上死点)まで遅角されている。そのため、シリンダ2内で形成された混合気は、ピストン3の移動によって略全量が吸気通路4に戻される。可変動弁装置20は、時刻T3にて吸気バルブ6が閉弁された後であって次に吸気バルブ6が開弁する前に、吸気バルブ6のバルブタイミングを基準バルブタイミングに進角させる。
【0048】
時刻T4は、第1のサイクルにおける排気バルブ7の開弁タイミングである。時刻T5は、第1のサイクルにおける排気バルブ7の閉弁タイミングであり、排気上死点の直前である。このように排気バルブ7が開閉しても、第1のサイクルにて形成された混合気は吸気通路4内に戻っており、吸気バルブ6も閉じられているので、未燃の混合気が車外に放出されることはない。
【0049】
時刻T6は、第2のサイクルにおける吸気バルブ6の開弁タイミングであり、排気上死点である。このとき、吸気バルブ6のバルブタイミングは、可変動弁装置20によって基準バルブタイミングまで進角されている。時刻T6にて、吸気バルブ6が開弁すると、第1のサイクルにて吸気通路4に戻っていた混合気が、ピストン3の移動によってシリンダ2内に流入する。
【0050】
時刻T7では、燃料噴射装置9は、2回目の燃料噴射を行う。この燃料噴射のタイミングを点火プラグ8による点火のタイミングに近付ければ、成層燃焼を行うことが可能である。時刻T8では、燃料噴射装置9は、燃料噴射を完了する。このとき、シリンダ2内の混合気の空燃比は、1回目の燃料噴射と2回目の燃料噴射とを合わせてストイキになっている。
【0051】
時刻T9は、第2のサイクルにおける吸気バルブ6の閉弁タイミングである。このとき、既に、吸気バルブ6のバルブタイミングは、可変動弁装置20によって基準バルブタイミングに進角されている。
【0052】
時刻T10では、点火プラグ8は、シリンダ2内の混合気に点火を行う。これにより、エンジン1では、始動時にクランキングが開始されてから最初の燃焼が実行される。
【0053】
このとき、図5に示すように、エンジン1の始動後の最初の燃焼における必要燃料噴射量は、空燃比がストイキ(λ=1.0)の場合で比較すると、本発明が適用されない従来のエンジンに対して約半分に低減されている。これは、上述したように、シリンダ2内に噴射された燃料の気化が減圧沸騰によって促進され、シリンダ2と吸気通路4との間を混合気が流動することでミキシングが促進されるためである。これにより、冷却水温度が低い状態であっても、シリンダ2の壁面やピストン冠面3Aに燃料が付着することを抑制できるので、始動時に燃料を増量させなくてよい。
【0054】
また、シリンダ2の壁面やピストン冠面3Aに燃料が付着することを抑制できるので、図6に示すように、エンジン1におけるHCの排出量の積算値は、本発明が適用されない従来のエンジンよりも減少している。また、同様の理由により、図7に示すように、PMの排出量の積算値は、従来のエンジンよりも減少している。
【0055】
以上のように、第1のサイクルにて吸気バルブ6の閉弁タイミングを圧縮上死点近傍まで遅角させると、シリンダ2内で形成された混合気が吸気通路4に戻され、吸気通路4に戻された混合気は、第2のサイクルの吸気行程でシリンダ2内に吸入される。したがって、空気と燃料とが良好にミキシングされ、燃料噴射量を多くすることなく良好な燃焼が得られる混合気をシリンダ2内に形成することができる。
【0056】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0057】
エンジン1では、始動時の第1のサイクルでは、吸気バルブ6の閉弁タイミングを圧縮上死点近傍まで遅角させ、遅くとも吸気バルブ6が閉弁する前までにシリンダ2内に直接燃料噴射を行い、シリンダ2内の混合気に点火をせず、第1のサイクルに続く第2のサイクルでは、吸気バルブ6の閉弁タイミングを始動後のアイドリング時の基準閉弁タイミングまで進角させ、シリンダ2内の混合気に点火をする。
【0058】
具体的には、シリンダ2内に燃料を直接噴射する燃料噴射装置9と、燃料噴射装置9から噴射された燃料が形成する混合気に火花点火する点火プラグ8と、少なくとも吸気バルブ6の閉弁タイミングを調整し得る可変動弁装置20と、を備えるエンジン1の制御装置は、始動時の第1のサイクルでは、可変動弁装置20が吸気バルブ6の閉弁タイミングを圧縮上死点近傍まで遅角させ、燃料噴射装置9は遅くとも吸気バルブ6が閉弁する前までに燃料噴射を行い、点火プラグ8は点火をせず、第1のサイクルに続く第2のサイクルでは、可変動弁装置20は吸気バルブ6の閉弁タイミングを始動後のアイドリング時の基準閉弁タイミングまで進角させ、点火プラグ8はシリンダ2内の混合気に点火をする。
【0059】
この態様によれば、第1のサイクルにて吸気バルブ6の閉弁タイミングを圧縮上死点近傍まで遅角させると、シリンダ2内で形成された混合気が吸気通路4に戻され、吸気通路4に戻された混合気は、第2のサイクルの吸気行程でシリンダ2内に吸入される。したがって、空気と燃料とが良好にミキシングされ、燃料噴射量を多くすることなく良好な燃焼が得られる混合気を筒内に形成することができる。
【0060】
また、第1のサイクルでは、吸気バルブ6が開弁する前に燃料噴射を完了する。また、第1のサイクルでは、吸気バルブ6の開弁タイミングを第2のサイクルよりも遅角させる。
【0061】
これらの態様によれば、シリンダ2内は、吸気バルブ6が閉弁したままピストン3が移動することにより、減圧されて負圧になっている。よって、シリンダ2内に噴射された燃料は、減圧沸騰により気化が促進される。
【0062】
また、第2のサイクルでもシリンダ2内に直接燃料噴射を行う。
【0063】
この態様によれば、第1のサイクルと第2のサイクルとの2回に分けてシリンダ2内への燃料噴射を行うことで、1回あたりの燃料噴射量を少なくできる。よって、燃料噴霧のペネトレーションが小さくなるので、シリンダ2の壁面やピストン冠面3Aに燃料が付着することを抑制できる。
【0064】
本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0065】
1 エンジン(内燃機関)
2 シリンダ
3 ピストン
4 吸気通路
6 吸気バルブ
8 点火プラグ(点火装置)
9 燃料噴射装置
20 可変動弁装置
100 コントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7