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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】堰装置、堰部材の設置構造
(51)【国際特許分類】
   E02B 13/02 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
E02B13/02 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020215932
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022101402
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000243803
【氏名又は名称】未来工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100203460
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 肇
(72)【発明者】
【氏名】堀 信夫
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-004803(JP,A)
【文献】登録実用新案第3030436(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 13/02
A01G 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
用水路に設置され前記用水路を流れる用水の流量を調整可能な堰装置であって、
板状の堰部材と、
前記用水路に架設可能な架設部材と、
前記堰部材の上方側と前記架設部材とを連結する接続部材と、を備え、
前記架設部材を前記用水路に架け渡し、前記堰部材の幅方向を前記用水路を横切る方向として、前記堰部材を前記用水路内に配置した状態で、
前記堰部材が下方から上方に向かうにつれて前記用水路の下流側へ向けて傾斜し、且つ、前記堰部材の下端が前記用水路の底部に当接可能であり、
前記用水路に対する前記堰部材の姿勢を維持した状態で、前記用水路の延在方向に対する前記架設部材の角度を変更可能である、堰装置。
【請求項2】
前記接続部材を捩じることで、前記用水路の前記延在方向における、前記堰部材と前記用水路に架設した前記架設部材との相対角度を変更可能である、請求項1に記載の堰装置。
【請求項3】
前記堰部材は、水に浮くことが可能である、請求項1又は2に記載の堰装置。
【請求項4】
用水路に設置され前記用水路を流れる用水の流量を調整可能な堰装置であって、
板状であり、水に浮くことが可能な堰部材と、
前記用水路に架設可能な架設部材と、
前記堰部材の上方側と前記架設部材とを連結する接続部材と、を備え、
前記架設部材を前記用水路に架け渡し、前記堰部材の幅方向を前記用水路を横切る方向として、前記堰部材を前記用水路内に配置した状態で、
前記堰部材が下方から上方に向かうにつれて前記用水路の下流側へ向けて傾斜し、且つ、前記堰部材の下端が前記用水路の底部に当接可能である、堰装置。
【請求項5】
前記接続部材を捩じることで、前記架設部材の、前記堰部材の幅方向に対する相対角度を変更可能である、請求項4に記載の堰装置。
【請求項6】
前記接続部材を前記架設部材に巻き付けることで、前記架設部材と前記堰部材との距離を変更可能である、請求項1~5のいずれか1項に記載の堰装置。
【請求項7】
前記堰部材は、上下の一方の側の両角が直角であり、 上下の他方の側の両角が面取りされており、
前記接続部材は、前記堰部材の前記他方の側よりも前記一方の側に近い位置と、前記一方の側よりも前記他方の側に近い位置とのいずれかに、選択的に取り付け可能である、請求項1~のいずれか1項に記載の堰装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用水路に設置されその用水路を流れる用水の流量を調整可能な堰装置、及び、堰部材の用水路に対する設置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用水路に堰を設置して用水路の水位を調節することが、広く一般的に行われている。用水路の水位の調節を目的とした堰としては、特許文献1~3に記載の堰がある。特許文献1~3に記載の堰では、堰を構成する板の下側を用水が通過するようにしているとともに、堰の水路に対する角度を変更することで、用水路からの取水量を調節可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-004803号公報
【文献】特開平9-163880号公報
【文献】特開2019-024401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3に記載の堰では、用水の水圧に耐えうる構造が必須であるため、堰を支持する構造物を水路の周囲に設ける必要がある。そして、堰を支持する構造物については、用水の水量や流速が増大した場合にも耐えうる程度に堅牢とする必要がある。したがって、堰全体の構成が複雑化、大型化し、設置場所に対しては強固に固定する必要があり、位置の変更が容易ではないという問題も生ずる。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、簡易な構成により堰としての機能を発揮しつつ、設置場所の変更も容易であり、用水の水量や流速の増大にも対応可能な堰装置、及び、堰部材の設置構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の構成は、用水路に設置され用水路を流れる用水の流量を調整可能な堰装置であって、板状の堰部材と、用水路に架設可能な架設部材と、堰部材の上方側と架設部材とを連結する接続部材と、を備え、架設部材を用水路に架け渡し、堰部材の幅方向を用水路を横切る方向として、堰部材を用水路内に配置した状態で、堰部材が下方から上方に向かうにつれて用水路の下流側へ向けて傾斜し、且つ、堰部材の下端が用水路の底部に当接可能である。
【0007】
第1の構成では、用水により堰部材に印加される水圧は、堰部材の傾斜により、堰部材を下流側へと押す力と、堰部材の下端を用水路の底部に押し付ける力及び架設部材を用水路に押し付ける力とに分解される。したがって、用水の水圧を堰部材の位置の維持に使用することができるため、水圧に抵抗するための装置等を別途用意することなく、簡易な構成で用水の流量を調節することが可能である。加えて、用水の流量や流速が増加した場合には、増加した流量や流速に比例して、堰部材の下端を用水路の底部に押し付ける力及び架設部材を用水路に押し付ける力が増加するため、簡易な構成で流量や流速の増加にも対応することができる。
【0008】
第2の構成は、第1の構成に加えて、接続部材と堰部材との相対角度、及び、接続部材と架設部との相対角度の少なくとも一方は、変更可能である。
【0009】
第2の構成では、堰部材の傾斜角度を変更することができるため、用水路に対してより好適な傾斜角度で堰装置を設置することができる。
【0010】
第3の構成は、第1又は第2の構成に加えて、接続部材は長さを調整可能である。
【0011】
第3の構成では、用水路の深さに応じて、架設部材と堰部材との距離を変更したり、堰部材の傾斜角度を変更したりすることができる。
【0012】
第4の構成は、第1~第3のいずれかの構成に加えて、架設部材の、堰部材の幅方向に対する相対角度を変更可能である。
【0013】
U字溝等により構成される用水路の脇には、構造物が設置されていたり、盛土が設けられていたりする場合がある。第4の構成では、堰部材を幅方向が用水路の延在方向に直交するように配置しつつ、架設部材を構造物や盛土等との干渉を避けるように配置することができる。
【0014】
第5の構成は、第1~第4のいずれかの構成に加えて、接続部材は、堰部材の用水路の上流側を向く面に接続されている。
【0015】
第5の構成では、接続部材が堰部材の上端と接触しないため、接続部材の破損をより好適に抑制することができる。また、堰部材の重量や比重等によっては、水量が少なくなって水圧が低下した場合に、用水に浮く場合がある。この場合に、第5の構成では、接続部材が、堰部材の用水路の上流側を向く面において、堰部材の上方に接続されているため、用水路の上流側を向く端部は、用水路の下流側を向く端部よりも下方に位置することになる。すなわち、堰部材が用水に浮いたとしても、下方から上方に向かうにつれて用水路の下流側へ向けて傾斜する姿勢は維持されることとなる。この状態で水量が増加すれば、堰部材は傾斜した姿勢で水圧を受けることとなるため、その水圧により堰部材の下端が用水路の底部に当接する状態へと復帰する。したがって、第5の構成により、用水の流量が低減した状態から流量が増加した状態へと遷移した場合においても、堰部材による流量の調整効果を得ることができる。
【0016】
第6の構成は、第1~第5のいずれかの構成に加えて、堰部材は、上下の一方の側の両角が直角であり、 上下の他方の側の両角が面取りされており、接続部材は、堰部材の他方の側よりも一方の側に近い位置と、一方の側よりも他方の側に近い位置とのいずれかに、選択的に取り付け可能である。
【0017】
用水路を構成するU字溝は、下端の両角が直角に形成されているものもあれば、弧状に形成されているものもある。下端の両角が弧状であるU字溝に、下端の両角が直角である堰部材を配置すれば、堰部材の両脇に隙間が生ずる。一方、下端の両角が直角であるU字溝に、下端の両角が面取りされている堰部材を配置すれば、下端の両角近傍に隙間が生ずる。第6の構成では、堰部材の上下を入れ替えれば、下端の両角が直角のU字溝及び下端の両角が弧状のU字溝のいずれにも対応可能であるため、形状の異なる堰部材を用意することなく、様々な形状の用水路に設置することができる。
【0018】
第7の構成は、第1~第6のいずれかの構成に加えて、堰部材は、接続部材と接続可能な接続部を有し、表面が上流側に向けられる板状の基部と、基部の表裏面のうち一方の面と重畳して接続され、可動部の一方の面に沿わせて移動させることで、基部の幅方向の一端縁からの張り出し幅を変更可能である可動部と、を備える。
【0019】
第7の構成では、堰部材の幅が可変であるため、異なる幅の堰部材を複数用意することなく、様々な幅の用水路に対して設置可能である。
【0020】
第8の構成は、第7の構成に加えて、可動部の基部からの張り出し幅は、上方と下方で異ならせることが可能である。
【0021】
第8の構成では、水路の両側面の角度に応じて可動部の張り出し幅を調節することができるため、異なる幅の堰部材を複数用意することなく、様々な形状の用水路に対して設置可能である。
【0022】
第9の構成は、用水路を流れる用水の流量を調整可能な堰部材の設置構造であって、用水路の両側に、一対の載置部がそれぞれ載置され、当該載置部と連結された板状の堰部材が、下方から上方に向かうにつれて用水路の下流側へ向けて傾斜し、且つ、下端が用水路の底部に当接して、用水路内に配置されている。
【0023】
第9の構成では、第1の構成と同等の効果を奏する堰部材の設置構造を提供することができる。
【0024】
第10の構成は、第9の構成に加えて、載置部は、用水路を架け渡し可能な長さの架設部材の両端側に設けられており、架設部材が用水路の流路方向に対して傾斜して架け渡されている。
【0025】
第10の構成では、第4の構成に準ずる効果を得ることができる。
【0026】
第11の構成は、第9又は第10の構成に加えて、載置部と堰部材とは、接続部材を介して接続されており、その接続部材は、堰部材の用水路の上流側を向く面において、堰部材の重心よりも上方に接続されている。
【0027】
第11の構成では、第5の構成に準ずる効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】用水路に設置した堰装置の斜視図である。
図2】用水路に設置した堰装置の正面図である。
図3】用水路に設置した堰装置の背面図である。
図4】用水路に設置した堰装置の平面図である。
図5】用水路に設置した堰装置の側面図である。
図6】水路の幅が狭い場合、及び、水路の両脇に障害物などがある場合の平面図である。
図7】堰装置にかかる力を説明する図である。
図8】堰装置が浮いた場合にかかる力を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<実施形態>
本実施形態に係る堰装置10は、図1~5に示すように、1又は複数のU字溝で構成されている水路100に設置されて用いられるものである。水路100を構成するU字溝は、断面が均一な略U字型であり、内側の両側面と底面との境は円弧状に形成されている。以下の説明では、水路100の天地方向を上下方向とし、水路の幅方向を左右方向とし、水路の延在方向(流路方向)を前後方向と定義して説明する。また、水路の上流側を前側とし、水路の下流側を後側と定義して説明する。また、堰装置10を構成する各部材は、硬質の金属又は硬質の樹脂により形成されている。
【0030】
堰装置10は、水路100の上端に架設されて用いられる架設部材20を備えている。この架設部材20の形状は断面が長方形の四角柱であり、用水路100の幅よりも長く形成されている。この架設部材20に対して、接続部材30を介して堰部材40が接続されている。接続部材30は、複数のリングが連結されたチェーンであり、架設部材20に対しては巻き付けられて接続されている。この接続部材30の架設部材20への巻き付け量等を変更することで、架設部材20と堰部材40との距離を変更することができる。
【0031】
堰部材40は、3枚の板状の部材である基部50、不動部60、可動部70により構成されている。基部50は、外径が略長方形状であり、厚みは略均一であり、ひとつの角がC面取りされている。基部50の一方の面において、基部50の長手方向の両端側近傍のそれぞれには、接続部51,52が設けられている。すなわち、接続部51,52が設けられている位置は、基部50の重心から離間し、長手方向の端部のそれぞれに寄った位置に設けられていると言える。この接続部51,52は、略半円弧状のリングであり、接続部材30を接続可能となっている。基部50の他方の面には、隆起した突出部53が設けられている。この突出部53は、基部50の長辺に対して平行に延びており、C面取りがなされている長辺とは反対側の長辺の近傍に設けられており、高さ及び幅は略一定である。基部50の両端側のそれぞれにおいて、接続部51,52と短辺との間には、接続部51,52及び短辺と平行となるように延びる長方形状の孔54,55が設けられている。この孔54,55は、基部50のC面取りがなされている長辺の近傍から、突出部53に若干至らない位置まで延びている。
【0032】
不動部60は、外径が略長方形状であり、厚みは略均一であり、ひとつの角がC面取りされている。この不動部60は、一方の面が、基部50の突出部53が設けられている側の面に一部が当接するように、重畳されて複数のネジ61により固定されている。このとき、不動部60の面取りされていない側の長辺が、基部50の突出部53に対して長手方向に亘って当接しており、且つ、不動部60の面取りされている側の短辺と、基部50の面取りされている側の短辺とは、同じ側に位置するように接続されている。
【0033】
可動部70も、外径が略長方形状であり、厚みは略均一であり、ひとつの角がC面取りされている。この可動部70は、一方の面が、基部50の突出部53が設けられている側の面に一部が当接するように重畳されおり、基部50の孔54,55及び可動部70に設けられた孔(図示略)を貫通する蝶ネジ71と、その蝶ネジ71に螺合するナット72とにより接続されている。このとき、可動部70の面取りされていない側の長辺が、基部50の突出部53に対して間隔を空けて対向しており、且つ、可動部70の面取りされている側の短辺と、基部50の面取りされている側の短辺とは、同じ側に位置するように接続されている。
【0034】
以上説明した堰装置10を水路100に設置する場合、水路100の断面形状に応じていずれの接続部51,52に接続部材30を接続するかを決定する。具体的には、水路100の断面形状について、下側の両隅が弧状であれば、基部50の面取りされていない側の接続部51に接続部材30を接続する。一方、水路100の下側の両角が矩形または矩形に近い形状であれば、基部50の面取りされている側の接続部52に接続部材30を接続する。続いて、蝶ネジ71とナット72との螺合状態を緩め、可動部70を基部50の面に沿わせて移動させ、可動部70の基部50からの張り出し量を調節することで、堰部材40の幅を水路100の幅に合わせて調節する。このとき、水路100の幅が上下方向で一定であるのであれば、可動部70の張り出し量を一定とすればよい。また、水路100の幅が下方から上方に向かうにつれ拡幅しているのであれば、可動部70の張り出し量について一方の端部側と他方の端部側とで異なるものとなるようにすればよい。
【0035】
以上のようにして堰部材40の形状が決定されれば、接続部材30の長さを調節する。この場合、架設部材20を水路の上端に架け渡し、堰部材40の幅方向を用水路100を横切る方向として堰部材40を用水路100内に配置した状態で、堰部材40が下方から上方に向かうにつれて用水路100の下流側へ向けて傾斜し、且つ、堰部材40の下端が用水路100の底部に当接するように、接続部材30の長さを調節する。また、架設部材20を用水路100の上端に架け渡すうえで、障害物等が存在する場合には、図6に示すように、接続部材30を捩じり、堰部材40の姿勢を維持した状態で、架設部材20を用水路100に対して斜めに架け渡す。
【0036】
堰装置10が用水路100に設置されれば、堰装置10により用水の流れがせき止められ、堰装置10の上流側に用水が貯留される。このとき、堰部材40の両脇や、下端の両角から、一部の用水が下流側へと漏れる場合がある。そして、用水の流入が継続して用水路100の上流側の水位が上昇し、水位が堰部材40の上端を越えた場合に、用水は堰装置10の下流側へと流入する。このとき、用水路100を流れる用水により堰装置10に対して印加される力について、図7を参照して説明する。
【0037】
用水路100を流れる用水による水圧Pが角度θで傾斜している堰部材40に印加される場合、その水圧Pは、堰部材40を下流側へと流そうとする力である水平圧力P_h(=P*sinθ)と、堰部材40を下方へ押し付ける圧力である垂直圧力P_v(=P*P*cosθ)とに分解される。そして、垂直圧力P_vは、堰部材40の下端を用水路100の底部に押し付ける力である底部圧力P_v1と、堰部材40が接続部材30を引っ張り架設部材20を用水路100の上端に押し付ける力である上部圧力P_v2とに分解される。また、堰部材40から用水路100の底部には、堰部材40の自重により生ずる応力である底部自重w1が印加され、架設部材20から用水路100の上部へは、架設部材20の自重及び堰部材40の自重により生ずる応力である上部自重w2が印加される。
【0038】
このとき、底部圧力P_v1と底部自重w1の合計値に、堰部材40の下端と用水路100の底部との静止摩擦係数μ1をかけ合わせた力と、上部圧力P_v2と上部自重w2との合計値に、架設部材20と用水路100の上端との静止摩擦係数μ2をかけ合わせた力との合計が、水平圧力P_hよりも大きければ、堰装置10が流されることなく、堰としての機能を発揮することができる。また、角度θを小さくすれば、水平圧力P_hが小さく、且つ、垂直圧力P_vが大きくなり、角度θを大きくすれば、その逆となる。すなわち、用水路100が平滑で静止摩擦係数μ1,μ2が小さければ角度θをより小さく、すなわち堰部材40をより寝かせた姿勢とすればよく、静止摩擦係数μ1,μ2が大きければ角度θをある程度大きなものとすることができる。
【0039】
加えて、可動部70の張り出し量を調節し、堰部材40の左右幅を用水路100の左右幅と略等しくしているため、堰部材40の両側縁が用水路100の側壁内面に当接する。このとき、垂直圧力P_vの一部は堰部材40の両側縁を用水路100の側壁内面に圧接する力としても機能するため、堰部材40の位置をより好適に維持可能である。
【0040】
また、水平圧力P_h及び垂直圧力P_vは共に水圧Pに比例するため、静止摩擦係数μ1,μ2に応じて余裕を持って角度θを設定しておけば、流速の増加に伴い水圧Pが増加した場合においても、堰装置10は流されることなく、堰としての機能を維持することができる。
【0041】
一方、用水路100の水量が少なくなった場合、図8に示すように、堰部材40の重量や比重等によっては、用水に浮く場合がある。この場合には、接続部材30が堰部材40の重心よりも上方に接続されているため、堰部材40の下端に生ずる自重W1は堰部材40の上端に生ずる自重W2よりも大きくなり、堰部材40の下端は上端よりも下方に位置することになる。すなわち、堰部材40が用水に浮いたとしても、下方から上方に向かうにつれて用水路100の下流側へ向けて傾斜している姿勢は維持されることとなる。この状態で水量が増加すれば、堰部材40は傾斜した姿勢で水圧を受けることとなるため、その水圧により堰部材40の下端が用水路100の底部に当接する状態へと復帰する。
【0042】
上記構成により、本実施形態に係る堰装置10は、以下の効果を奏する。
【0043】
・用水路100を流れる用水の水圧を堰部材40の位置の維持に使用することができるため、水圧に抵抗するための装置等を別途用意することなく、堰装置10の設置が可能である。
【0044】
・用水の流量や流速が増加した場合には、増加した流量や流速に比例して、堰部材40の下端を用水路100の底部に押し付ける力及び架設部材20を用水路100に押し付ける力が増加するため、簡易な構成で流量や流速の増加に対応することができる。
【0045】
・堰部材40の傾斜角度、及び、架設部材20と堰部材40との距離を変更することができるため、用水路100の深さや形状等に応じて、架設部材20と堰部材40との距離を変更したり、堰部材40の傾斜角度を変更したりすることができる。
【0046】
・用水路100の脇に構造物が設置されていたり、盛土が設けられていたりしても、接続部材30を捩じることで、堰部材40を幅方向が用水路100の延在方向に直交するように配置しつつ、架設部材20を構造物や盛土等との干渉を避けるように配置することができる。
【0047】
・接続部材30を接続部51,52に接続し、その接続部51,52が水路の上流側を向くように配置しているため、接続部材30が堰部材40の上端と接触せず、接続部材30の破損をより好適に抑制することができる。
【0048】
・堰部材40の上下を入れ替えることで、下端の両角が直角である状態と、下端の両角が面取りされている状態とを選択することができるため、下端の両角が直角のU字溝及び下端の両角が弧状のU字溝のいずれにも対応可能であり、形状の異なる堰部材40を用意することなく、様々な形状の用水路100に設置することができる。
【0049】
・可動部70の張り出し量を調節することで堰部材40全体の幅を変更することができるため、異なる幅の堰部材40を複数用意することなく、様々な幅の用水路100に対して設置可能である。
【0050】
・可動部70の張り出し幅を上下方向で異ならせることができるため、異なる幅の堰部材40を複数用意することなく、側面の角度が異なる用水路100に対して設置可能である。
【0051】
・接続部材30を堰部材40の重心よりも上方に接続しているため、用水の流量が低減した状態においても堰部材40の姿勢を一定程度維持することができ、用水の流量が増加に転じた場合には、水圧により堰部材40の下端が用水路100の底部に当接し、元の姿勢へと復帰することができる。
【0052】
<変形例>
・実施形態では、チェーンである接続部材30により架設部材20と堰部材40とを接続し、架設部材20と堰部材40との相対角度や離間距離、及び、用水路100の流路方向に対する架設部材20の角度を可変とした。この点、架設部材20と堰部材40とを可撓性を有さない棒状の接続部材により接続し相対角度に限り変更可能としてもよい。この場合でも、用水路100の深さ等に応じて堰部材40の傾斜角を変更することができる。また、架設部材20と堰部材40の相対角度も変更できないものとしてもよい。この場合には、所定の規格で製造された用水路100に対する専用品となるように、各部位の寸法等を決定すればよい。
【0053】
・実施形態では、堰部材40の接続部51,52を用水路100の上流側を向く面に設けているが、堰部材40の上端に接続部材30を接続するものとしてもよく、用水路100の下流側を向く面に接続部51,52を設けるものとしてもよい。これらの場合においても、実施形態に係る堰装置10が奏する効果の一部を奏することができる。
【0054】
・実施形態では、堰部材40の接続部51,52を2つ設けるものとしたが、ひとつだけ設けるものとしてもよい。この場合には、堰部材40を上下逆にしての使用ができない場合があるが、実施形態に係る堰装置10が奏する効果の一部を奏することができる。また、堰部材40の中央にひとつの接続部を設けるものとしてもよく、この場合には、上下逆にしての使用も可能であり、実施形態に係る堰装置10が奏する効果の一部を奏することができる。
【0055】
・実施形態では、基部50、不動部60、可動部70について、直線状のC面取りの処理を行っているが、弧状のR面取りの処理を行うものとしてもよい。
【0056】
・実施形態では、基部50と不動部60とをネジ61により接続固定しているが、基部50と不動部60とを一体に形成してもよい。
【0057】
・実施形態では可動部70を設けているが、可動部70等を設けず、堰部材40全体を一枚の板により構成してもよい。この場合には、幅の調節ができないが、用水路100の規格に合わせて専用の形状とすることで。実施形態に係る堰装置10が奏する効果の一部を奏することができる。
【0058】
・実施形態では、可動部70の張り出し量を上下方向で異ならせるものとしているが、可動部70の張り出し量を上下方向で一定としてもよい。
【0059】
・実施形態では、基部50の一方の側方に可動部70を設けるものとしたが、基部50の両脇に可動部70を設け、両脇の張り出し量をそれぞれ調節できるようにしてもよい。
【0060】
・実施形態では、堰部材40の左右幅を変更可能としているが、上下方向の高さも変更可能としてもよい。用水路100の深さと接続部材30の長さによっては、接続部材30による高さ調整等のみでは堰部材40の傾斜角が垂直に近くなり、位置の維持が困難となる場合がある。この点、用水路100の深さに応じて堰部材40の高さを調節することがで、堰部材40の傾斜角を適切な角度とすることができる。また、用水路100の上流側の水位をより高い状態に維持する必要がある場合には、上下方向の高さを変更することで、用水路100の上流側の水位を必要な水位に維持しつつ、堰部材40の傾斜角を位置の維持に必要な角度とすることができる。
【0061】
・実施形態では、用水路100の水位が下がった場合に堰部材40が浮く場合も想定しているが、堰部材40に錘を取り付け、水位が下がっても浮かないようにしてもよい。
【0062】
・実施形態では、堰部材40の底部のみが用水路100の底に当接するものとしているが、堰部材40の下流側を向く面に下方に突出する部材を設け、底部に加えてその突出する部材も用水路100の底に当接するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0063】
堰装置…10,架設部材…20,接続部材…30,堰部材…40、基部…50,接続部…51,52、孔…54,55、不動部…60,可動部…70、用水路…100
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図8