(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】ポリエステルを調整するための方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/84 20060101AFI20240606BHJP
C08G 63/16 20060101ALI20240606BHJP
C08G 63/85 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C08G63/84
C08G63/16
C08G63/85
(21)【出願番号】P 2020502186
(86)(22)【出願日】2017-07-17
(86)【国際出願番号】 EP2017068057
(87)【国際公開番号】W WO2019015745
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2020-04-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】519461761
【氏名又は名称】テクニップ ツィマー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110003579
【氏名又は名称】弁理士法人山崎国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【氏名又は名称】朴 志恩
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【氏名又は名称】今井 千裕
(72)【発明者】
【氏名】ザイデル,エックハルト
(72)【発明者】
【氏名】リンケ,ライナー
【合議体】
【審判長】細井 龍史
【審判官】海老原 えい子
【審判官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-310902(JP,A)
【文献】特開昭52-75684(JP,A)
【文献】特開2017-193687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下でジカルボン酸をブタンジオールと反応させる
工程を含む、ポリエステルを調製するためのプロセスであって、
前記工程において、アルミノケイ酸塩が存在し、
前記アルミノケイ酸塩は、4A型ゼオライトである、プロセス。
【請求項2】
エステル化、予備重縮合、重縮合の工程を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記アルミノケイ酸塩は、孔径が約4Åである、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記アルミノケイ酸塩は、粒径d
50が0.1~0.5μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記アルミノケイ酸塩は、合成アルミノケイ酸塩および/または結晶性アルミノケイ酸塩である、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記触媒は、オルトチタン酸テトラブチルである、請求項1~5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記ジカルボン酸は、1つまたは2つの芳香環を有する芳香族ジカルボン酸であるか、2~16個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸である、請求項1~6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記触媒の濃度の前記アルミノケイ酸塩の濃度に対する関係は、2:1から1:40である、請求項1~7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記エステル化は、以下のパラメーターの少なくとも1つを適用することにより実施することができる、請求項1~8のいずれか1項に記載のプロセス:
ジカルボン酸とブタンジオールとのモル比が0.5~1.5である;
エステル化温度が165℃~260℃であるが、前記ジカルボン酸の熱劣化温度よりも低い;
圧力が1200mbar~200mbarである;
触媒の濃度が最終生成物を基準として25ppm~200ppmである;及び
前記アルミノケイ酸塩の濃度が最終生成物を基準として100~1000ppmである。
【請求項10】
前記予備重縮合は、以下のパラメーターすなわち、
温度が230℃~260℃であるが、前記ジカルボン酸の熱劣化温度よりも低い、
圧力が600mbar~20mbarである、
うちの少なくとも1つを適用することにより実施することができる、請求項2~9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記重縮合は、以下のパラメーターの少なくとも1つを適用することにより実施することができる、請求項2~10のいずれか1項に記載のプロセス:
温度が235℃~265℃であるが、前記ジカルボン酸の熱劣化温度よりも低い;
圧力が1mbar未満である。
【請求項12】
触媒の存在下でジカルボン酸をブタンジオールと反応させることを含む、請求項1~11のいずれか1項に規定するポリエステルを調製するためのプロセスにおける、4A型ゼオライトの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミノケイ酸塩を用いた、特にジカルボン酸およびブタンジオールからポリエステルを調製するための方法ならびに、そのようなプロセスにおけるアルミノケイ酸塩の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
欧州特許出願公開第0698050号は、テトラヒドロフラン(THF)およびゼオライト触媒を用いた、ポリテトラヒドロフランを調製するための方法に関する。
【0003】
ドイツ特許出願公開第19638549号には、テレフタル酸ポリエチレンの重縮合のためのゼオライト触媒の使用が開されている。しかしながら、この文献では、ブタンジオール(BD)およびジカルボン酸をベースにしたポリエステルが扱われていない。
【0004】
Devroede, J. (2007), Study of the THF formation during TPA-based synthesis of PBT, Eindhoven: Technische Universitaet Eindhoven DOI: 10.6100/IR630627には、テレフタル酸ポリブチレン(PBT)についての試験結果が提示されている。ここでは、テレフタル酸(TPA)のエステル化やテレフタル酸ジメチル(DMT)とBDとのエステル交換において、アルミノケイ酸塩がオルトチタン酸テトラブチルに対する共触媒として機能した。アルミノケイ酸塩は、エステル交換において効率的な触媒効果を示し、THFの削減も認められたが、エステル化反応では触媒活性が見られず、大量のTHFが発生した。触媒の存在下でジカルボン酸とBDとを用いたポリエステルの合成は通常、エステル化、予備重縮合、重縮合のプロセス工程で行われ、その後にポリマーの溶融排出と造粒が行われる。
【0005】
エステル化の際、触媒の存在下でジカルボン酸とBDによってエステルが形成される。これらの前生成物を、上述したような後続のプロセス工程で最終ポリマーに変換する。
【0006】
プロセス全体を通して、特にエステル化反応では、副反応としてBDからTHFが形成される。この反応は酸によって触媒されるため、特にまだ大量の遊離ジカルボン酸が存在しているエステル化の初期段階で、エステル化と並行する反応として効果的である。THFが形成されると、ポリエステル製造時のBDの消費量が増し、凝縮水からの分離、市場性のある製品への加工または廃棄のために追加で費用が発生することになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の根底にある技術的課題は、上記の欠点を回避する、ジカルボン酸とブタンジオールを使用してポリエステルを調製するためのプロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これは、独立請求項の主題によって達成される。従属請求項には、好ましい実施形態が定義されている。
【0009】
ポリエステルを調製するための本発明によるプロセスは、触媒の存在下でジカルボン酸をブタンジオールと反応させることを含み、前記プロセスでは、アルミノケイ酸塩が存在する。触媒の存在下でのジカルボン酸とブタンジオールとの反応により、ポリエステルが形成される。ポリエステルを調製するための前記プロセスにおいてアルミノケイ酸塩を使用することにより、ブタンジオールからのTHFの形成およびそれに付随する欠点を減らすことができる。ポリエステルを調製するための反応に、初期段階からアルミノケイ酸塩が存在していてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一実施形態において、ポリエステルを調製するためのプロセスは、エステル化、予備重縮合、重縮合の工程を含み、その後、ポリマーの溶融排出と造粒を続けてもよい。いずれもジカルボン酸とブタンジオールからのポリエステルの調製における通常の工程であるため、当業者であれば、これらの工程を実施するための材料およびパラメーターを知っている。アルミノケイ酸塩は、特にエステル化工程、例えばエステル化工程の開始点で存在していてもよい。
【0011】
上述したように、ポリエステルを調製するためのプロセスには、アルミノケイ酸塩が存在する。アルミノケイ酸塩は、様々な量のAl2O3およびSiO2を含む化合物である。ケイ素は、4つの酸素原子に囲まれた四面体構造であるのに対し、Alは八面体構造をとる。アルミノケイ酸塩は、Siの位置もAlが占め、4つの酸素原子を配位子とした化合物である。アルミノケイ酸塩の一例がゼオライトであり、一実施形態では、アルミノケイ酸塩は4A型ゼオライトであってもよい。
【0012】
アルミノケイ酸塩は、式Na2O・Al2O3・2SiO2・nH2Oで表すことができる。
【0013】
さらに別の実施形態では、アルミノケイ酸塩は、孔径が約4Åであってもよいおよび/またはアルミノケイ酸塩は、粒径d50が0.1~0.5μmであってもよい。孔径と粒径は、アルミノケイ酸塩/ゼオライトの分野では通常のパラメーターであるため、この技術分野では、通常のプロセスで決定することができる。
【0014】
一実施形態では、アルミノケイ酸塩は、合成アルミノケイ酸塩および/または結晶性アルミノケイ酸塩であってもよい。
【0015】
アルミノケイ酸塩を粉末の形態で提供してもよく、特に、ポリエステルを調製するための反応混合物に粉末の形態で添加してもよい。
【0016】
上記のアルミノケイ酸塩を使用すると、ジカルボン酸とブタンジオールからポリエステルを調製するためのプロセスで形成されるTHFの量を効果的に減らすことができる。
【0017】
上述したように、このポリエステル調製プロセスでは、ジカルボン酸とブタンジオールとの間の反応を触媒するために触媒を使用する。特に、触媒はオルトチタン酸テトラブチルであってもよい。
【0018】
ポリエステルを調製するための上記プロセスでは、ジカルボン酸を使用する。このとき、1種類のジカルボン酸を使用してもよいし、互いに異なる2種類以上のカルボン酸の混合物を使用してもよい。
【0019】
一実施形態において、ジカルボン酸は、1つまたは2つの芳香環を有する芳香族ジカルボン酸、特にテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸であってもよい。ジカルボン酸は、2~16個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸、特にコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸であってもよい。
【0020】
アルミノケイ酸塩の量は、最終ポリマー生成物を基準にして100~1000ppmとすることができる。
【0021】
触媒の濃度とアルミノケイ酸塩の濃度との関係は、ppm換算で2:1から1:40であればよい。
【0022】
上述したように、ジカルボン酸とブタンジオールとの反応からポリエステルを調製するためのプロセスは、エステル化、予備重縮合、重縮合の工程で実行することができる。
【0023】
一実施形態において、以下のパラメーターすなわち、
ジカルボン酸とブタンジオールとのモル比が0.5~1.5である、
エステル化温度が165℃~260℃であるが、ジカルボン酸の熱劣化温度よりも低い、
圧力が1200mbar~200mbarである、
触媒濃度が最終生成物を基準として25ppm~200ppmである、
アルミノケイ酸塩の濃度が最終生成物を基準として100~1000ppmである、
うちの少なくとも1つを適用することにより、エステル化を実施することができる。
【0024】
エステル化は、特に上記のすべてのパラメーターを適用することにより実施することができる。
【0025】
一実施形態では、以下のパラメーターすなわち、
温度が230℃~260℃であるが、ジカルボン酸の熱劣化温度よりも低い、
圧力が600mbar~20mbarである、
うちの少なくとも1つを適用することにより、予備重縮合を実施することができる。
【0026】
予備重縮合は、特に上記のパラメーターを一緒に適用することにより実施することができる。
【0027】
一実施形態では、以下のパラメーターすなわち、
温度が235℃~265℃であるが、ジカルボン酸の熱劣化温度よりも低い、
圧力が1mbar未満であればよい、
うちの少なくとも1つを適用することにより、重縮合を実施することができる。
【0028】
特に、重縮合は、上記のパラメーターを一緒に適用することにより実行することができる。
【0029】
本発明は、触媒の存在下でジカルボン酸をブタンジオールと反応させることを含むポリエステルを製造するためのプロセスにおけるアルミノケイ酸塩の使用にも関する。本プロセスならびに、本プロセスで使用される化合物は、先に定義した通りである。
【0030】
本発明、特に上述の実施形態を用いることで、いくつかの利点を達成することができる。アルミノケイ酸塩、特に上記で定義したようなアルミノケイ酸塩を使用すると、触媒や、エステル化、予備重縮合、重縮合に対する触媒活性への影響を生じることなく、THFの形成が大幅に低減される。これによって、THFの形成とBDの枯渇が原因で重縮合プロセスが早期に終了してポリマーの目標粘度に達しないおそれがない状態で、THFの形成とBDの枯渇に対するモル比を大幅に抑えてジカルボン酸を用いることができる。エステル化プロセスについては、ポリエステル鎖の構築においてかなり高い反応性を示すとともにプロセスを大幅に加速させる多数のジカルボン酸BDモノエステルおよびオリゴマーモノエステルが形成されるように、最初から制御することができる。対照的に、BD過剰量を高めて形成されたジカルボン酸-BDジエステルまたはオリゴマージエステルは、余分なBDの除去に多くのエステル交換工程を必要とする。
【0031】
さらに、テレフタル酸ポリブチレン(PBT)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、コハク酸ポリブチレン(PBS)について、BDの消費量を最適化することができる。副産物の量が減り、プロセスをより迅速に実行でき、プラント柔軟性も高い。
【0032】
以下、実施例および比較例により本発明を説明するが、実施例および比較例は本発明を限定するものと解釈されるべきではないことに留意されたい。
【実施例】
【0033】
実施例1
テレフタル酸(TPA)1265.5g、アジピン酸1352.8g、ブタンジオール266.1g、触媒であるTyzor TnBT(Dorf Ketal)すなわち、市販のオルトチタン酸テトラブチル触媒(最終生成物に関連してTiが50ppm)1.29g-式Na2O・Al2O3・2SiO2・nH2Oで表され、例えばKOESTROLITH(登録商標)4AP-TRから調製された、粒径d500.1~0.5μm(最終生成物に関連して500ppm)のアルミノケイ酸塩粉末すなわち孔径4Åの4Aタイプのゼオライト粉末1.82gを、エステル化段階で55分間処理し、開始から10分後に目標圧力の600mbarに達した。水の分離であるエステル化反応を温度173℃(留出液の最初の一滴)で開始し、エステル化終了までの間に220℃まで上昇させた。
【0034】
エステル化の際、83.7gの量のTHFを含む727.9gの量の留出物が得られた。
【0035】
理論的なポリマー構造と統計的なモノマー分布を考慮して、モノマーから最終生成物を計算する。実施例1では、3645gの最終生成物に基づいた。
【0036】
比較例1
アルミノケイ酸塩を使用しなかったこと以外、実施例1と同じ手順を実施した。
【0037】
留出物の量は996gであり、278.2gの量のTHFを含有していた。
【0038】
実施例1のTHF量を比較例1のTHF量と比較すると、ジカルボン酸とブタンジオールからポリエステルを調製するプロセスでアルミノケイ酸塩を使用することにより、形成されるTHFの量を大幅に減らすことができることがわかる。