(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】分析方法および分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/046 20180101AFI20240606BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
G01N23/046
G01N33/38
(21)【出願番号】P 2021011538
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 礼子
(72)【発明者】
【氏名】大脇 英司
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-504452(JP,A)
【文献】特開2013-019900(JP,A)
【文献】特開2017-026357(JP,A)
【文献】特表2015-531480(JP,A)
【文献】特開2016-051576(JP,A)
【文献】特開2019-163947(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0108483(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0058592(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
H01J 37/00-H01J 37/36
A61B 6/00-A61B 6/58
G01B 15/00-G01B 15/08
G06T 7/00-G06T 7/90
G01N 33/00-G01N 33/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線CT法により、試料の複数の観察断面の各点における材料
を複数種類の属性に分類する第1ステップと、
前記観察断面と交差するように前記試料を複数の切断面において切断し、2次元元素分析法により、前記各切断面の各測定点における、1または複数種類の元素の第1含有量を測定する第2ステップと、
前記第1ステップの分類の結果、および、前記第2ステップの測定の結果に基づいて、前記試料中の前記観察断面の各点における、1または複数種類の元素の第2含有量を推定する第3ステップとを実行する分析方法。
【請求項2】
前記第3ステップにて、n番目の前記切断面と前記観察断面との交線上にある前記測定点としての第n測定点、および、n+1番目の前記切断面と前記観察断面との交線上にある前記測定点としての第n+1測定点を用意し、
前記第n測定点および前記第n+1測定点を結ぶ計算区間の各点における前記第2含有量を、前記第n測定点における前記属性と前記第n+1測定点における前記属性の組み合わせに基づいて推定する請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記試料は、セメント系試料であり、
前記第1ステップにて、前記材料をセメント、骨材、空隙のいずれかの属性に分類する請求項2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記第1ステップにて、前記X線CT法により、前記切断面と同じ面を観察する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項5】
前記X線CT法で得られるX線CT画像と前記2次元元素分析法で得られる測定結果を、前記X線CT画像の位置座標と前記測定結果の位置座標を統合して3次元仮想空間に表示し、前記試料の立体形状を再現する第4ステップを実行する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項6】
試料の複数の観察断面におけるX線CT画像に基づいて、前記観察断面の各点における材料
を複数種類の属性に分類する分類部と、
前記分類部の分類の結果、および、前記観察断面と交差するように前記試料を切断したときの複数の切断面に対する2次元元素分析法の測定結果である、前記各切断面の各測定点における、1または複数種類の元素の第1含有量に基づいて、前記試料中の前記観察断面の各点における、1または複数種類の元素の第2含有量を推定する推定部とを備える分析装置。
【請求項7】
前記X線CT画像と前記測定結果を、前記X線CT画像の位置座標と前記測定結果の位置座標を統合して3次元仮想空間に表示し、前記試料の立体形状を再現する再現部を備える請求項
6に記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析方法および分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリートの耐久性を評価する技術の開発が盛んに進められている。耐久性の評価には、コンクリートに浸入する劣化因子(例:海水または海水を構成する元素、二酸化炭素など)の移動経路の観察が必要となる。従来では、例えば、EPMA(Electron probe micro analyzer)によるコンクリート中の元素の面分析方法がある(非特許文献1参照)。また、従来の面分析方法は、EPMAによる方法に限らず、SEM-EDX(Scanning Electron Microscope - Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)による方法もある。しかし、従来の面分析方法は、特定の観察面を対象とした2次元分析にすぎない。このため、従来では、劣化因子の観察面上の移動は観察できるが、観察面以外から観察面への移動については分析できないという問題がある。このような問題に対して、劣化因子の移動経路を3次元で分析したいという要望がある。
従来の3次元の分析法としては、例えば、FIB-SEM(Focused Ion Beam - Scanning Electron Microscope)による方法がある。しかし、分析対象のコンクリートの試料は、センチメートル(cm)オーダの寸法であるのに対し、FIB-SEMによる方法は、対象範囲がマイクロメートル(μm)オーダであるため、測定に多大な時間と労力を要する。また、従来の3次元の分析法として、例えば、センチメートルオーダのコンクリートの試料を少しずつ研磨しながら2次元分析を逐次的に行い、分析結果から3次元像を再構築する方法がある。この方法によれば、センチメートルオーダの試料に対する3次元分析は可能になるものの、コンクリートの場合、材料が不均質であることから、やはり測定に多大な時間(1年程度)と労力を要する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】2013年制定 コンクリート標準示方書[規準編]、土木学会(JSCE-G574-2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような観点から、本発明は、試料の3次元分析に要する時間を短縮できる分析方法および分析装置を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は、X線CT法により、試料の複数の観察断面の各点における材料を1または複数種類の属性に分類する第1ステップと、前記観察断面と交差するように前記試料を複数の切断面において切断し、2次元元素分析法により、前記各切断面の各測定点における、1または複数種類の元素の第1含有量を測定する第2ステップと、前記第1ステップの分類の結果、および、前記第2ステップの測定の結果に基づいて、前記試料中の前記観察断面の各点における、1または複数種類の元素の第2含有量を推定する第3ステップとを実行する分析方法である。
また、本発明は、試料の複数の観察断面におけるX線CT画像に基づいて、前記観察断面の各点における材料を1または複数種類の属性に分類する分類部と、前記分類部の分類の結果、および、前記観察断面と交差するように前記試料を切断したときの複数の切断面に対する2次元元素分析法の測定結果である、前記各切断面の各測定点における、1または複数種類の元素の第1含有量に基づいて、前記試料中の前記観察断面の各点における、1または複数種類の元素の第2含有量を推定する推定部とを備える分析装置である。
かかる分析方法および分析装置によれば、例えば、試料がコンクリート試料の場合、第1ステップにおいて、X線CT法によりコンクリート試料内部の密度を例えばグレースケールの画像で表示できる。このため、密度の大小によりコンクリート試料内部の材料をセメント、骨材、空隙のいずれかの属性に分類できる。また、第2ステップにおいて、測定対象の元素を予め絞り込むことができる。例えば、セメントについては、Na, K, Mg, Ca, Si, Al, Fe, Sを測定対象に絞り込むことができる。また、外来の劣化因子の侵入を考慮する場合には、CやClを測定対象に追加してもよい。2次元元素分析法は、例えば、蛍光X線元素分析法、EPMA、または、SEM-EDXによる方法とすることができるが、これらに限定されない。これらの2次元元素分析法を3次元分析に導入できる。また、第3ステップにて、試料中の観察断面において、2次元元素分析法による測定点の元素の含有量から、測定点以外の点の元素の含有量を推定できる。このとき、第1ステップにより、属性の分類がなされているため、推定の精度を向上できるとともに当該推定に要する計算量を低減でき、計算に要する時間を短縮できる。X線CT法の観察断面は任意に設定できるため、3次元の試料内部全体を網羅する観察断面群を設定できる。このため、試料内部の各点における元素の含有量を測定または推定できる。特に、観察断面以外から観察断面への劣化因子の浸入経路を分析でき、試料の耐久性を適切に評価できる。
したがって、試料の3次元分析に要する時間を短縮できる。
【0006】
また、前記第3ステップにて、n番目の前記切断面と前記観察断面との交線上にある前記測定点としての第n測定点、および、n+1番目の前記切断面と前記観察断面との交線上にある前記測定点としての第n+1測定点を用意し、前記第n測定点および前記第n+1測定点を結ぶ計算区間の各点における前記第2含有量を、前記第n測定点における前記属性と前記第n+1測定点における前記属性の組み合わせに基づいて推定するとよい。
かかる構成によれば、2つの測定点間の点の元素の含有量を、2つの測定点の属性に基づいて、高い精度で推定できる。
【0007】
また、前記試料は、セメント系試料であり、前記第1ステップにて、前記材料をセメント、骨材、空隙のいずれかの属性に分類するとよい。
かかる構成によれば、試料がセメント系試料であるときの3次元分析に要する時間を短縮できる。
【0008】
また、前記分析装置が、前記第1ステップにて、前記X線CT法により、前記切断面と同じ面を観察するとよい。
かかる構成によれば、切断面に対する2次元元素分析法の分析結果の妥当性を、切断面と同じ面に対するX線CT法の観察結果により評価できる。また、かかる構成によれば、切断面と同じ面に対するX線CT法によるコンクリート試料内部の材料をセメント、骨材、空隙のいずれかの属性に分類した妥当性を、同じ面となる2次元元素分析法の分析結果により評価できる。つまり、セメント、骨材、空隙の化学組成による判定および確認が可能である。
【0009】
また、前記X線CT法で得られるX線CT画像と前記2次元元素分析法で得られる測定結果を、前記X線CT画像の位置座標と前記測定結果の位置座標を統合して3次元仮想空間に表示し、前記試料の立体形状を再現する第4ステップを実行するとよい。
また、前記X線CT画像と前記測定結果を、前記X線CT画像の位置座標と前記測定結果の位置座標を統合して3次元仮想空間に表示し、前記試料の立体形状を再現する再現部を備えるとよい。
かかる構成によれば、試料内部全体の材料の分布を容易に把握できる。
【0010】
また、本発明は、X線CT法により、試料の複数の観察断面の各点における材料を1または複数種類の属性に分類する第1ステップと、前記観察断面と交差するように前記試料を複数の切断面において切断し、2次元元素分析法により、前記各切断面の各測定点における、1または複数種類の元素の第1含有量を測定する第2ステップと、前記X線CT法で得られるX線CT画像と前記2次元元素分析法で得られる測定結果を、前記X線CT画像の位置座標と前記測定結果の位置座標を統合して3次元仮想空間に表示し、前記試料の立体形状を再現する第3ステップを実行する分析方法である。
また、本発明は、試料の複数の観察断面におけるX線CT画像に基づいて、前記観察断面の各点における材料を1または複数種類の属性に分類する分類部と、前記X線CT法で得られるX線CT画像、および、前記観察断面と交差するように前記試料を切断したときの複数の切断面に対する2次元元素分析法の測定結果である、前記各切断面の各測定点における、1または複数種類の元素の第1含有量を、前記X線CT画像の位置座標と前記測定結果の位置座標を統合して3次元仮想空間に表示し、前記試料の立体形状を再現する再現部を備える分析装置である。
かかる構成によれば、試料内部全体の材料の分布を容易に把握できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、試料に対してX線CT法による観察断面上での材料の分類と、2次元元素分析法による測定結果を用いて、測定点以外の点の元素の含有量を推定できる。このため、試料の3次元分析に要する時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図6】試料片に対する2次元元素分析の測定結果についての説明図である。
【
図7】2次元元素分析の測定結果を配置した図である。
【
図8】2次元元素分析の測定結果とX線CT画像を座標統合した図である。
【
図9】対象のZX断面上における2次元元素分析の測定結果の図である。
【
図11】マスターカーブの類型[1]の説明図である。
【
図12】マスターカーブの類型[2]の説明図である。
【
図13】マスターカーブの類型[3]の説明図である。
【
図14】マスターカーブの類型[4]の説明図である。
【
図15】マスターカーブの類型[5]の説明図である。
【
図16】マスターカーブの類型[6]の説明図である。
【
図17】本実施形態の分析方法のフローチャートである。
【
図18】マスターカーブ作成処理のフローチャートである。
【
図19】比較例による、元素の含有率の推定に関するグラフである。
【
図20】本発明による、元素の含有率の推定に関するグラフ(その1)である。
【
図21】本発明による、元素の含有率の推定に関するグラフ(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
本実施形態の分析対象は、コンクリートの試料である。
【0014】
[構成]
図1に示す分析装置100は、所定の演算処理をするコンピュータである。分析装置100は、入力部、出力部、制御部、および、記憶部といったハードウェアを備える。例えば、制御部がCPU(Central Processing Unit)から構成される場合、その制御部を含むコンピュータによる情報処理は、CPUによるプログラム実行処理で実現される。また、そのコンピュータに含まれる記憶部は、CPUの指令により、そのコンピュータの機能を実現するためのさまざまなプログラムを記憶する。これによりソフトウェアとハードウェアの協働が実現される。前記プログラムは、記録媒体に記録したり、ネットワークを経由したりすることで提供可能となる。出力部は、画面表示をする表示部の機能を含めてもよい。
【0015】
また、
図1に示すX線CT装置200は、放射線などを利用して試料を走査し、所定の演算処理をすることで、試料の内部構造を画像で構成する装置である。X線CT装置200は、X線CT法により、所定の観察断面で撮影した試料の内部構造のX線CT画像を生成できる。X線CT装置200の機能は周知であり、説明を省略する。
【0016】
また、
図1に示す2次元元素分析装置300は、所定の2次元分析方法(面分析方法)を行い、試料に含まれる元素の種類および含有量を測定する装置である。2次元分析法には、例えば、EPMA法、SEM-EDXがあるが、これらに限定されない。2次元元素分析装置300は、試料の表面または切断面の各点における、1または複数種類の元素の含有量(第1含有量)を測定できる。本実施形態の2次元分析法自体は周知であり、説明は省略する。
【0017】
図1に示すように、分析装置100は、分類部1と、推定部2と、再現部3を備えている。また、分析装置100は、X線CT画像DB4と、測定結果DB5を記憶している。
分類部1は、試料の複数の観察断面におけるX線CT画像に基づいて、観察断面の各点(任意の観察点)における材料を1または複数種類の属性に分類する。試料がコンクリートである場合、分類部1は、各点における材料の密度の大小で、材料をセメント、骨材(セメントの密度と異なる)、空隙(密度:0)の3種類の属性に分類できる。
推定部2は、分類部1の分類の結果、および、2次元元素分析装置300の測定の結果に基づいて、試料中の各点(任意の測定点)における、1または複数種類の元素の含有量を推定する。推定部2は、分類部1の分類の結果、および、観察断面と交差するように試料を切断したときの複数の切断面に対する2次元元素分析法の測定結果である、各切断面の各測定点における、1または複数種類の元素の含有量(第1含有量)に基づいて、試料中の観察断面の各点における、1または複数種類の元素の含有量(第2含有量)を推定できる。
再現部3は、X線CT装置200からのX線CT画像と、2次元元素分析装置300の測定の結果を用いて、試料の立体形状を再現する。再現部3は、X線CT法で得られるX線CT画像と2次元元素分析法で得られる測定結果を、X線CT画像の位置座標と測定結果の位置座標を統合して3次元仮想空間に表示し、試料の立体形状を再現できる。
【0018】
X線CT画像DB4は、X線CT装置200が生成したX線CT画像を記憶するデータベースである。
測定結果DB5は、2次元元素分析装置300の測定結果を記憶するデータベースである。
【0019】
本実施形態の分析装置100による試料の3次元分析は、以下の手順(1)~手順(5)に分けることができる。
[手順(1):試料準備]
図2に示すように、コンクリートの試料10を1~10cm程度の立方体に加工する。説明の便宜上、3次元のX方向、Y方向、Z方向を
図2に示す通りに定める。
[手順(2):X線CT観察]
X線CT装置200が、試料10に対してX線CT法の撮影をし、X線CT画像を生成する。本実施形態では、
図3に示すように、試料10を横断する観察断面11(XZ平面に平行な面)をY方向に間隔をあけて複数設定する。X線CT装置200は、観察断面11の位置および向きを任意に設定できる。X線CT装置200は、観察断面11の各々で撮影した試料10の内部構造のX線CT画像の集合を生成する。生成したX線CT画像12の例を
図4に示す。
図4に示すように、X線CT画像12にて、密度の大小に起因する白黒濃淡表示によりセメント12aと、複数種類の骨材12bと、空隙12cを確認できる。分析装置100の分類部1は、セメント12aと、骨材12bと、空隙12cを区別し、分類できる。また、分析装置100は、所定の3次元仮想空間に、
図4のX線CT画像12を表示できる。骨材12bは複数種類あり、骨材の種類ごとに密度が異なる場合、白黒濃淡表示に差異が生じる。なお、
図4のX線CT画像12の左下隅の領域Rについては後記する。
[手順(3):試料切断]
図5に示すように、試料10をYZ平面に沿って切断し複数枚の試料片13を用意する。例えば、試料片13の各々の板厚が約1ミリメートル(mm)となり、隣り合う試料片13の間隔(切りしろ)が約1mmとなるように切断することが好ましいが、切断の方法はこれに限定されない。また、観察断面11(
図3)は、試料の切断面と直交することが好ましいが、観察断面11の向きはこれに限定されない。
[手順(4):2次元元素分析]
2次元元素分析装置300が、それぞれの試料片13の両面または片面を対象に2次元元素分析を行う。本実施形態では、試料片13の両面を2次元元素分析の対象とする。その結果、
図6に示すように、1枚の試料片13に対し、2次元元素分析装置300の2つの測定結果14、14が得られる。また、他の試料片13に対しても測定結果14、14が得られる。なお、図の見やすさを優先するため、
図6では、測定結果14,14が試料片13の両面から少し離間するように図示している。
測定結果14は、YZ平面(正確にはYZ平面に平行な平面)上の各測定点における測定値の集合である。測定点は、2次元元素分析装置300の測定条件に従い、当該YZ平面上に任意の位置に適宜設定される。測定値は、当該測定点に存在する元素の種類ごとの含有量である。測定値に、測定点の位置座標や、当該測定点におけるX線CT画像12から得られる濃淡(密度)を含めてもよい。測定結果14のYZ平面は、XZ平面に平行な観察断面11と直交する。
[手順(5):3次元の元素分布の推定]
分析装置100の推定部2は、X線CT画像12(
図4)および測定結果14(
図7)に基づいて、試料中の各点における、1または複数種類の元素の含有量を推定する。手順(5)の詳細は後記する。
【0020】
[位置座標の統合]
X線CT装置200の処理と、2次元元素分析装置300の処理が独立していることに鑑みて、分析装置100は、X線CT画像12の位置座標と測定結果14の位置座標を統合する。分析装置100は、すべての試料片13の測定結果14を、コンピュータ内の3次元仮想空間に配置する。配置した結果を
図7に示す。分析装置100は、所定の3次元仮想空間に、
図7の測定結果14を表示できる。また、分析装置100は、配置された測定結果14に対し、X線CT画像12を生成したときの観察断面11の位置に当該X線CT画像12を配置する。配置した結果を
図8に示す。図示の便宜上、
図8ではX線CT画像12を1つだけ示すが、生成したX線CT画像12の数だけ配置可能である。よって、分析装置100の再現部3は、X線CT画像12と測定結果14を、X線CT画像12の位置座標と測定結果14の位置座標を統合して3次元仮想空間に表示し、試料10の立体形状を再現できる。かかる再現により、試料の3次元内部構造を一部ではあるが、試料の全空間に亘って表示でき、劣化因子の浸入の分析を支援できる。
【0021】
[手順(5)の詳細]
分析装置100は、2次元元素分析の測定結果14をX方向に並べる(
図7参照)。ここで、2次元元素分析装置300の仕様上、試料片13の表面に対する2次元元素分析装置300の走査方向に対し、試料片13の裏面(表面よりも+X方向にある面)の走査方向がY方向に対して対称になっている場合がある(鏡像)。この場合、裏面の測定結果14をY方向に関して対称変換することで、すべての測定結果14に対する2次元元素分析装置300の走査方向を同じにできる。よって、測定結果14を並べる際、試料片13の裏面の測定結果14を上記対称変換することで、2次元元素分析装置300の仕様によらず、測定結果14の各々に対する分析装置100の処理を同じにできる。
なお、試料片13の表面および裏面の両面のうち、1面だけを用いて本方法に適用することもできる。例えば、試料片13が十分薄くなる程度に試料10を切断できる場合、1面のみの観察とすることで、試料10の反転、再測定、測定結果14の対称移動操作が不要となる。その結果、試料の3次元分析に要する時間をより短縮できる。
【0022】
次に、分析装置100は、X方向に並べた複数の測定結果14,14,・・・とXZ平面に平行な断面(以下「XZ断面」と称する。)とが交差する位置において測定結果14を抽出する。XZ断面に現れた測定結果14を
図9に示す。
図9に示すように、XZ断面に現れる複数の測定結果14,14,・・・は、それぞれZ方向の直線(縦線)となる。なお、分析装置100は、当該抽出を、XZ断面をY方向に所定量ずらして複数回行うことができる。当該XZ断面は、
図3に示す観察断面11(または当該観察断面11で撮影されたX線CT画像12)と同じ位置になる場合もあるし、ならない場合もある。同じ位置になる場合、測定結果14とXZ断面との位置関係は、
図8に示すものと同じになる。本実施形態では、XZ断面は、観察断面11と同じ位置になるとして説明を続ける。
図9は、外来の劣化因子を構成する元素(例えば、海水のCl)の含有率(含有量の具体例)を示したものである。劣化因子を構成する元素の含有率は、破線のピッチの大小で表現している。破線のピッチが大きいほど元素の含有率が大きくなり、ピッチ0の部分は含有率0である。
図9によれば、最左の試料片13において劣化因子の含有率が大きく、左から2番目以降の試料片13は、所々で劣化因子の含有率が大きく、左から10枚目以降の試料片13では、劣化因子の含有率はほぼ0または0になっていることが確認できる。また、左から10枚目までの試料片13について、
図4と照らし合わせると、劣化因子は、セメントの領域内を浸入し、骨材および空隙の領域内には浸入しないことが確認できる。本実施形態では、骨材には劣化因子は浸入しない(劣化因子によって骨材の化学組成は変化しない)こととして説明を続けるが、骨材に含まれる劣化因子を構成する元素の含有率が所定値(>0)であることを妨げない。
【0023】
次に、分析装置100は、
図9のXZ断面において、X方向の直線を計算区間15として設定する。計算区間15を描いたXZ断面を
図10に示す。計算区間15は、1または複数種類の元素の含有量を推定するための計算を行う区間である。
図10に示すように、計算区間15は、Z方向の任意の位置に複数設定できる。計算区間15上の各点(試料が存在する空間からはみ出ている線分の点は除く)は、測定結果14との交点と、それ以外の点に区別される。計算区間15と測定結果14との各交点は、2次元元素分析による試料10の各切断面上の測定点である。推定部2は、計算区間15の隣り合う2つの測定点間における第2含有量を推定する。具体的には、推定部2は、第n測定点と第n+1測定点との間において第2含有量を推定する。ここで、第n測定点は、最左の試料片13の表面(基準面)からn番目の切断面と観察断面との交線上にある測定点であり、第n+1測定点は、n+1番目の切断面と観察断面との交線上にある測定点である。また、推定部2は、第n測定点および第n+1測定点を結ぶ計算区間15の各点における第2含有量を、第n測定点における属性と第n+1測定点における属性の組み合わせに基づいて推定する。推定部2の推定結果は、マスターカーブとして作成される。
なお、説明の便宜上、
図10に示すように、計算区間15と測定結果14との交点である測定点のX座標をそれぞれ、測定結果14の左から順にX1,X2,X3,X4,・・・,Xn,Xn+1,・・・とする。試料片13の両面を2次元元素分析の測定対象とする場合、X2k-1(kは自然数)が試料片13の表面の測定点のX座標であり、X2kが試料片13の裏面の測定点のX座標である。
【0024】
[マスターカーブの詳細]
先述した通り、試料がコンクリートであるときの属性は、セメント、骨材、空隙の3種類である。本実施形態では、骨材は、劣化因子が浸入しない材料としているため、骨材と空隙を同一視できる。よって、同じ計算区間15上の、第n測定点(X座標は、Xn)における属性と第n+1測定点(X座標は、Xn+1)における属性の組み合わせは、(セメント,セメント)、(セメント,骨材または空隙)、(骨材または空隙,セメント)、(骨材または空隙,骨材または空隙)の4通り存在する。ここで、第n測定点と第n+1測定点との間の第2含有量を推定する際、第n測定点の左隣りの点(つまり、第n-1測定点)の測定値と第n+1測定点の右隣りの点(つまり、第n+2測定点)の属性および測定値を用いることがある。その結果、マスターカーブを作成する際、第n測定点と第n+1測定点との間の第2含有量の推定結果は、以下の類型[1]~類型[6]に分類できる。
【0025】
{類型[1]}
図11に示すように、第n測定点の属性がセメントであり、第n+1測定点の属性がセメントである場合、推定部2は、第n,第n+1測定点の元素の含有率(図中のプロット●の値)を用いて、第n,第n+1測定点間の元素の含有率を線形近似する。
{類型[2]}
図12に示すように、第n測定点の属性が骨材または空隙であり、第n+1測定点の属性が骨材または空隙である場合、推定部2は、第n,第n+1測定点間の元素の含有率の値無し(またはゼロを代入してもよい)とする。
【0026】
{類型[3]}
図13に示すように、第n測定点の属性がセメントであり、第n+1測定点の属性が骨材または空隙である場合、第n-1測定点(X座標は、Xn-1)の属性がセメントであるとき、推定部2は、第n測定点の元素の含有率(図中のプロット●の値)に対し、第n-1測定点の元素の含有率(図中のプロット○の値)から外挿して、第n,第n+1測定点間の元素の含有率を線形近似(本実施形態では、二つのプロットを通る直線上の値として算出)する。
{類型[4]}
図14に示すように、第n測定点の属性が骨材または空隙であり、第n+1測定点の属性がセメントである場合、第n+2測定点(X座標は、Xn+2)の属性がセメントであるとき、推定部2は、第n+1測定点の元素の含有率(図中のプロット●の値)に対し、第n+2測定点の元素の含有率(図中のプロット○の値)から外挿して、第n,第n+1測定点間の元素の含有率を線形近似(本実施形態では、二つのプロットを通る直線上の値として算出)する。
【0027】
{類型[5]}
図15に示すように、第n測定点の属性がセメントであり、第n+1測定点の属性が骨材または空隙である場合であって、第n-1測定点の属性が骨材または空隙であるときは、推定部2は、第n,第n+1測定点間の元素の含有率を、第n測定点の元素の含有率(図中のプロット●の値)と同じ値とする。
{類型[6]}
図16に示すように、第n測定点の属性が骨材または空隙であり、第n+1測定点の属性がセメントである場合であって、第n+2測定点の属性が骨材または空隙であるときは、推定部2は、第n,第n+1測定点間の元素の含有率を、第n+1測定点の元素の含有率(図中のプロット●の値)と同じ値とする。
推定部2は、第n,第n+1測定点間の元素の含有率を上記類型[1]~類型[6]に当てはめるようにして推定する。推定部2は、この当てはめを基準面から順に行う(nをインクリメント)ことで、マスターカーブを作成でき、計算区間15全体に亘る元素の濃度分布を推定できる。
【0028】
[処理]
図17を参照して、本実施形態の分析方法について説明する。
まず、X線CT装置200が試料に対してX線CT法を行う(ステップA1)。分析装置100は、X線CT装置200が生成したX線CT画像を、当該X線CT画像の取得位置の位置座標とともにX線CT画像DB4に格納する。また、2次元元素分析装置300が試料に対して2次元元素分析を行う(ステップA2)。分析装置100は、2次元元素分析装置300の測定結果(測定位置の座標を含む)を測定結果DB5格納する。
次に、分析装置100は、座標統合処理をする(ステップA3)。具体的には、分析装置100は、所定の3次元仮想空間内でX線CT画像の位置座標と測定結果の位置座標を同じにする(すなわち、座標系を揃える)。
次に、分析装置100は、測定値格納処理をする(ステップA4)。具体的には、分析装置100は、3次元仮想空間にて統合した位置座標の各測定点に測定値を格納する。測定値は、例えば、測定点の3次元位置座標と、X線CT法から求められた測定点における濃淡と、測定点に含有するn種類の元素の濃度を並べたデータ構造を有する。つまり、測定値DをD(x,y,z,ρ,a1,a2,a3,…,an)と表現できる。ここで、x,y,zは位置座標である。ρはX線CT法の濃淡である。a1,a2,a3,…,anは、n個の元素種の濃度である。元素種は、例えば、Na,K,Ca,Mg,Si,Al,Fe,S,Clなどがあるがこれらに限定されない。
次に、分析装置100の推定部2は、マスターカーブ作成処理をする(ステップA5)。マスターカーブ作成処理の詳細は後記する。
次に、分析装置100は、特定値設定処理をする(ステップA6)。具体的には、分析装置100は、試料に含まれる骨材および空隙の元素の種類および濃度を予め設定する。例えば、分析装置100は、試料に含まれる第m骨材(mは、骨材の種類数)については、X線CT法の濃淡ρmがρm1≦ρm<ρm2を満たすとし、含有元素の濃度(a1,a2,a3,…,an)に、(a1,a2,a3,…,an)=(k1m,k2m,k3m,…,knm)という特定値を設定する。また、分析装置100は、試料に含まれる空隙については、含有元素の濃度(a1,a2,a3,…,an)に、(a1,a2,a3,…,an)=(0,0,0,…,0)という特定値を設定する。なお、分析装置100は、試料に含まれるセメントについては、X線CT法の濃淡ρcがρc1≦ρc<ρc2を満たすとし、含有元素の濃度については、マスターカーブに従うとする。
【0029】
次に、分析装置100は、分析対象の元素種を初期化する(ステップA7)。分析装置100で分析する元素の種類および分析順番は予め決めてあり、その分析順番を1番目にする。次に、分析装置100は、分析対象の元素を次の元素に切り替える(ステップA8)。つまり、分析する元素の分析順番をインクリメントする。ただし、分析装置100が、ステップA7の初期化直後にステップA8を処理する場合、「次の元素」は、初期化された元素種の元素であるとする。
次に、分析装置100は、試料の3次元仮想空間の分析位置のZ座標を初期化する(ステップA9)。つまり、分析位置のZ座標を0にする。次に、分析装置100は、分析位置のZ座標を次のZ座標に切り替える(ステップA10)。ここで、次のZ座標とは、3次元仮想空間のZ軸に割り振られたZ座標値を+1増大したときのZ座標をいう。また、分析装置100が、ステップA9の初期化直後にステップA10を処理する場合、「次のZ座標」は、0であるとする。
次に、分析装置100は、試料の3次元仮想空間の分析位置のY座標を初期化する(ステップA11)。つまり、分析位置のY座標を0にする。次に、分析装置100は、分析位置のY座標を次のY座標に切り替える(ステップA12)。ここで、次のY座標とは、3次元仮想空間のY軸に割り振られたY座標値を+1増大したときのY座標をいう。また、分析装置100が、ステップA11の初期化直後にステップA12を処理する場合、「次のY座標」は、0であるとする。
次に、分析装置100は、試料の3次元仮想空間の分析位置のX座標を初期化する(ステップA13)。つまり、分析位置のX座標を0にする。次に、分析装置100は、分析位置のX座標を次のX座標に切り替える(ステップA14)。ここで、次のX座標とは、3次元仮想空間のX軸に割り振られたX座標値を+1増大したときのX座標をいう。また、分析装置100が、ステップA13の初期化直後にステップA14を処理する場合、「次のX座標」は、0であるとする。
【0030】
次に、分析装置100の分類部1は、試料の3次元仮想空間の対象分析位置にある材料の属性を判定する(ステップA15)。分類部1は、X線CT画像の対象分析位置の濃淡を参照して属性を判定できる。属性がセメントである場合(ステップA15で「セメント」)、分析装置100は、対象分析位置に含有する分析対象元素の含有率として、マスターカーブ作成処理(ステップA5)で得られるマスターカーブの値を代入する(ステップS16)。属性が空隙である場合(ステップA15で「空隙」)、分析装置100は、対象分析位置に含有する分析対象元素の含有率として、特定値設定処理(ステップA6)で設定した0を代入する(ステップS17)。属性が骨材である場合(ステップA15で「骨材」)、分析装置100は、対象分析位置に含有する分析対象元素の含有率として、特定値設定処理(ステップA6)で設定した特定値を代入する(ステップS18)。骨材に関しては、X線CT画像の濃淡に応じて骨材の種類を規定しており(ステップA6参照)、骨材の種類に応じた特定値を代入できる。
【0031】
次に、分析装置100は、試料の3次元仮想空間のすべてのX座標(2次元元素分析の測定点のX座標および当該測定点以外の点のX座標)(X軸)について、分析対象元素の含有率の代入が完了したか否か判定する(ステップA19)。完了していない場合(ステップA19でNo)、ステップA14に戻り、分析装置100は、次のX座標について処理を続ける。
完了した場合(ステップA19でYes)、分析装置100は、試料の3次元仮想空間のすべてのY座標(2次元元素分析の測定点のY座標および当該測定点以外の点のY座標)(Y軸)について、分析対象元素の含有率の代入が完了したか否か判定する(ステップA20)。完了していない場合(ステップA20でNo)、ステップA12に戻り、分析装置100は、次のY座標について処理を続ける。
完了した場合(ステップA20でYes)、分析装置100は、試料の3次元仮想空間のすべてのZ座標(2次元元素分析の測定点のZ座標および当該測定点以外の点のZ座標)(Z軸)について、分析対象元素の含有率の代入が完了したか否か判定する(ステップA21)。完了していない場合(ステップA21でNo)、ステップA10に戻り、分析装置100は、次のZ座標について処理を続ける。
完了した場合(ステップA21でYes)、分析装置100は、分析対象の全元素種を分析したか否かを判定する(ステップA22)。具体的には、分析順番が最後の元素種についてステップA21までの処理を完了したか否か判定する。全元素種を分析していない場合(ステップA22でNo)、ステップA8に戻り、分析装置100は、次の元素について処理を続ける。全元素種を分析した場合(ステップA22でYes)、
図17の処理を終了する。
【0032】
次に、
図18を参照して、マスターカーブ作成処理(ステップA5)の詳細について説明する。なお、マスターカーブ作成処理(ステップA5)の処理対象となる測定点を、「対象測定点」と呼ぶ場合がある。また、試料の3次元仮想空間の原点は、測定点であるとする。
まず、分析装置100は、分析対象の元素種を初期化する(ステップB1)。分析装置100で分析する元素の種類および分析順番は予め決めてあり、その分析順番を1番目にする。次に、分析装置100は、分析対象の元素を次の元素に切り替える(ステップB2)。つまり、分析する元素の分析順番をインクリメントする。
次に、分析装置100は、対象測定点のY座標を初期化する(ステップB3)。つまり、分析装置100は、Y座標が0となる対象測定点を選択する。次に、分析装置100は、対象測定点のY座標を次のY座標に切り替える(ステップB4)。ここで、次のY座標とは、対象測定点の+Y方向に隣に位置する測定点のY座標をいう。
次に、分析装置100は、対象測定点のZ座標を初期化する(ステップB5)。つまり、分析装置100は、Z座標が0となる対象測定点を選択する。次に、分析装置100は、対象測定点のZ座標を次のZ座標に切り替える(ステップB6)。ここで、次のZ座標とは、対象測定点の+Z方向に隣に位置する測定点のZ座標をいう。
次に、分析装置100は、対象測定点のX座標を初期化する(ステップB7)。つまり、分析装置100は、X座標が0となる対象測定点を選択する。次に、分析装置100は、対象測定点のX座標を次のX座標に切り替える(ステップB8)。ここで、次のX座標とは、対象測定点の+X方向に隣に位置する測定点のX座標をいう。
【0033】
次に、分析装置100は、対象測定点としての第n測定点(X座標は、Xn)における材料の属性を判定する(ステップB9)。属性の判定は、すでに説明した通り分類部1で行う。属性がセメントである場合(ステップB9で「セメント」)、分析装置100は、対象測定点の+X方向に隣に位置する測定点としての第n+1測定点(X座標は、Xn+1)の材料の属性を判定する(ステップB10)。属性がセメントである場合(ステップB10で「セメント」)、分析装置100は、XnからXn+1までの計算区間に対して類型[1](
図11)を適用し、マスターカーブを作成する(ステップB14)。具体的には、第n,n+1測定点にある分析対象元素の濃度をCn,Cn+1とした場合、分析装置100は、傾きをa(=(Cn+1 - Cn)/(Xn+1 - Xn))とし、X=0における元素濃度軸の切片をb(=Cn - a・Xn)とする1次関数を計算区間:[Xn,Xn+1]に作成する。
また、属性がセメント以外(つまり、属性が骨材または空隙)である場合(ステップB10で「他」)、分析装置100は、対象測定点の-X方向に隣に位置する測定点としての第n-1測定点(X座標は、Xn-1)の材料の属性を判定する(ステップB11)。属性がセメントである場合(ステップB11で「セメント」)、分析装置100は、XnからXn+1までの計算区間に対して類型[3](
図13)を適用し、マスターカーブを作成する(ステップB15)。具体的には、第n-1,n測定点にある分析対象元素の濃度をCn-1,Cnとした場合、分析装置100は、傾きをa(=(Cn - Cn-1)/(Xn - Xn-1))とし、X=0における元素濃度軸の切片をb(=Cn - a・Xn)とする1次関数を計算区間:[Xn,Xn+1]に作成する。
また、属性がセメント以外(つまり、属性が骨材または空隙)である場合(ステップB11で「他」)、分析装置100は、XnからXn+1までの計算区間に対して類型[5](
図15)を適用し、マスターカーブを作成する(ステップB16)。具体的には、傾き0とし、X=0における元素濃度軸の切片をb(=Cn)とする横線を計算区間:[Xn,Xn+1]に作成する。
【0034】
一方、ステップB9の判定で、属性がセメント以外である場合(ステップB9で「他」)、分析装置100は、対象測定点の+X方向に隣に位置する測定点としての第n+1測定点(X座標は、Xn+1)の材料の属性を判定する(ステップB12)。属性がセメント以外である場合(ステップB12で「他」)、分析装置100は、XnからXn+1までの計算区間に対して類型[2](
図12)を適用し、マスターカーブを作成する(ステップB17)。具体的には、計算区間:[Xn,Xn+1]における、傾きaの値無し、また、X=0における元素濃度軸の切片をbの値無しとする。
また、属性がセメントである場合(ステップB12で「セメント」)、分析装置100は、対象測定点の+X方向にさらに隣に位置する測定点としての第n+2測定点(X座標は、Xn+2)の材料の属性を判定する(ステップB13)。属性がセメントである場合(ステップB13で「セメント」)、分析装置100は、XnからXn+1までの計算区間に対して類型[4](
図14)を適用し、マスターカーブを作成する(ステップB18)。具体的には、第n+1,n+2測定点にある分析対象元素の濃度をCn+1,Cn+2とした場合、分析装置100は、傾きをa(=(Cn+2 - Cn+1)/(Xn+2 - Xn+1))とし、X=0における元素濃度軸の切片をb(=Cn+1 - a・Xn+1)とする1次関数を計算区間:[Xn,Xn+1]に作成する。
また、属性がセメント以外である場合(ステップB13で「他」)、分析装置100は、分析装置100は、XnからXn+1までの計算区間に対して類型[6](
図16)を適用し、マスターカーブを作成する(ステップB19)。具体的には、傾き0とし、X=0における元素濃度軸の切片をb(=Cn+1)とする横線を計算区間:[Xn,Xn+1]に作成する。
なお、ステップB10~B13の判定処理において、n=1,n-1,nの場合、Xnが存在しない場合がある。この場合、存在しないXnに対する判定子は「他」とする。
【0035】
ステップB14~B19のいずれかの処理が済んだ後、分析装置100は、試料の3次元仮想空間のすべての測定点のX座標(X軸)について、類型[1]~[6]のいずれかの適用が完了したか否か判定する(ステップB20)。完了していない場合(ステップB20でNo)、ステップB8に戻り、分析装置100は、次のX座標について処理を続ける。
完了した場合(ステップB20でYes)、分析装置100は、試料の3次元仮想空間のすべての測定点のZ座標(Z軸)について、類型[1]~[6]のいずれかの適用が完了したか否か判定する(ステップB21)。完了していない場合(ステップB21でNo)、ステップB6に戻り、分析装置100は、次のZ座標について処理を続ける。
完了した場合(ステップB21でYes)、分析装置100は、試料の3次元仮想空間のすべての測定点のY座標(Y軸)について、類型[1]~[6]のいずれかの適用が完了したか否か判定する(ステップB22)。完了していない場合(ステップB22でNo)、ステップB4に戻り、分析装置100は、次のY座標について処理を続ける。
完了した場合(ステップB22でYes)、分析装置100は、分析対象の全元素種を分析したか否かを判定する(ステップB23)。具体的には、分析順番が最後の元素種についてステップB22までの処理を完了したか否か判定する。全元素種を分析していない場合(ステップB23でNo)、ステップB2に戻り、分析装置100は、次の元素について処理を続ける。全元素種を分析した場合(ステップB23でYes)、
図18の処理を終了する。
【0036】
[比較例]
試料に浸入する劣化因子の分析の従来手法は、2次元元素分析の測定結果のみに基づいて行われるものであった。端的にいえば、
図10に示す測定結果14のみに対して、計算区間15に亘って、対象分析元素の含有率を推定するものであった。比較例による推定結果を
図19に示す。
図19のグラフは、
図10に示す最下部の計算区間15のうち、測定点のX座標であるX1(試料表面)からX14までの部分計算区間における劣化因子の元素の含有率を示すグラフである。X1~X14の測定点は、●:測定値として示す。
図19に示すように、従来手法は、隣接する測定値間を直線(
図19では破線)で補間することで、測定点以外の各点における元素の含有率を推定するものであった。試料内部が均質な材料でできている場合には劣化因子の浸入距離と元素の含有率との間に一定の関係があると概ね認められるため、このような従来手法の推定は概ね正しいといえる。しかし、コンクリートの試料内部は、セメント内に骨材や空隙が存在する不均質な材料でできている。このため、劣化因子の浸入距離と元素の含有率との間に一定の関係があるとは認められず、隣接する測定値間を直線で補間する推定は、劣化因子の移動を適切に評価できているとはいえない。
【0037】
[本発明の具体例1]
そこで、試料内部の評価を、劣化因子の移動に関わる部分(つまりセメント)と関わらない部分(つまり骨材または空隙)に分けて行うことが望ましい。本発明の具体例1による推定結果を
図20に示す。
図20のグラフの作成条件は、
図19のグラフの上述の作成条件と同じである。
図20に示すように、本発明の具体例1では、隣接する測定値間を、マスターカーブ作成処理(
図18)で作成したマスターカーブで補間することで、測定点以外の各点における元素の含有率を推定する。マスターカーブは太線で示す。参考までに、
図20のグラフに、
図19の破線を描いている。
図19の破線と比較して、
図20に描かれているマスターカーブは、劣化因子が浸入しない骨材や空隙(X3~X6、X11,X12)での測定値0の影響をほとんど受けない。このため、マスターカーブは、劣化因子により化学組成が変化する部分(つまりセメント)内を移動する劣化因子の移動を適切に評価できている。なお、区間[X3,X6]、区間[X11,X12]については類型[2](
図12)が適用されるため、マスターカーブは描かれない。
【0038】
[本発明の具体例2]
また、骨材や空隙などの、化学組成に変化が無く劣化因子の移動に関わらない部分をより適切に評価することで、劣化因子の移動をより適切に評価できる。本発明の具体例2による推定結果を
図21に示す。
図21のグラフの作成条件は、
図19、
図20のグラフの上述の作成条件と同じである。本発明の具体例2の推定値を太線で示す。
図21に示すように、本発明の具体例2では、X線CT画像12(
図4)の部分画像Rを用いて、セメントと、骨材または空隙との境界を明確にし、
図19のマスターカーブを修正する。
図21の部分画像Rに描かれている横線は、すでに説明した部分計算区間と同じである。また、
図21の部分画像Rに描かれている縦線は、部分計算区間における、セメント(Cem)と骨材(Agg1, Agg2)の境界線である。この縦線は、
図21のグラフ中にも位置を合わせた状態で描いてある。
図20のマスターカーブと比較して、
図21に描かれている推定値は、骨材(Agg1, Agg2)の区間に該当する部分については、劣化因子の元素の含有率が0(特定値)になるように修正されている(
図17のステップA18参照)。骨材(Agg1, Agg2)の区間は、区間[X2,X3]のおよそ右半分、区間[X3,X6]、区間[X6,X7]のおよそ左半分、区間[X10,X11]のおよそ右半分、区間[X11,X12]、区間[X12,X13]のおよそ左半分である。上記修正により、セメント内の劣化因子の移動を表現するマスターカーブの特性を残すとともに、X線CT画像から把握できる骨材または空隙について誤りなく、劣化因子の元素の含有率の特性値(または0)を代入できる。よって、劣化因子による化学組成の変化が予想されない部分の評価を適切に評価できる。
【0039】
本実施形態によれば、試料に対してX線CT法による観察断面上での材料の分類と、2次元元素分析法による測定結果を用いて、測定点以外の点の元素の含有量を推定できる。このため、試料の3次元分析に要する時間を短縮できる。
【0040】
[変形例]
(a):試料は、コンクリートに限らず、セメント系試料、岩石、岩盤、繊維と樹脂との複合材料、多孔体などでもよい。より一般的には、内部が不均質な1または複数種類の材料でできている試料に本発明を適用できる。また、有機繊維や鋼繊維などの補強材料を含む材料(例:ファイバーコンクリート)でできた試料にも本発明を適用できる。
(b):本発明で測定または推定する値の単位は、含有率に限らず、濃度、重量、モル数などでもよい。より一般的には、含有量を測定したり推定したりすることができる。
(c):X線CT法による観察断面は、試料片の切断面と直交していなくてもよい。つまり、観察断面と交差するように試料を複数の切断面で切断してもよい。
(d)
:X線CT法により、切断面と同じ面を観察してもよい。
これにより、切断面に対する2次元元素分析法の分析結果の妥当性を、切断面と同じ
面に対するX線CT法の観察結果(濃淡)により評価できる(バリデーション)。また、
切断面と同じ面に対するX線CT法によるコンクリート試料内部の材料をセメント、骨材、空隙のいずれかの属性に分類した妥当性を、同じ面となる2次元元素分析法の分析結果により評価できる。つまり、セメント、骨材、空隙の化学組成による判定および確認が可能である。
(e):
図17の処理では、ステップA9~A14に示すように、3次元仮想空間の原点から+X方向、+Y方向、+Z方向に沿って順次各点の属性の判定(ステップA15)を行った。しかし、判定の順序は上記に限らず、任意の順序でよい。
(f):
図18の処理では、ステップB3~B8に示すように、3次元仮想空間の原点から+X方向、+Y方向、+Z方向に沿って順次各測定点の類型適用(ステップB14~B19)を行った。しかし、類型適用の順序は上記に限らず、任意の順序でよい。
【0041】
(g):本実施形態で説明した種々の技術を適宜組み合わせた技術を実現することもできる。
(h):本実施形態で説明したソフトウェアをハードウェアとして実現することもでき、ハードウェアをソフトウェアとして実現することもできる。
(i):その他、ハードウェア、ソフトウェア、フローチャートなどについて、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0042】
100 分析装置
200 X線CT装置
300 2次元元素分析装置
1 分類部
2 推定部
3 再現部
4 X線CT画像DB
5 測定結果DB
10 試料
11 観察断面
12 X線CT画像
13 試料片
14 測定結果
15 計算区間