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特許7499211発電機点検装置、発電機点検方法、および発電機点検プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】発電機点検装置、発電機点検方法、および発電機点検プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/95 20060101AFI20240606BHJP
   G01N 21/84 20060101ALI20240606BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
G01N21/95 Z
G01N21/84 A
H02K15/02 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021077501
(22)【出願日】2021-04-30
(65)【公開番号】P2022171093
(43)【公開日】2022-11-11
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】599041606
【氏名又は名称】三菱電機プラントエンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡
(72)【発明者】
【氏名】今井 彦徳
(72)【発明者】
【氏名】上野 修
(72)【発明者】
【氏名】大迎 真一
(72)【発明者】
【氏名】大佐賀 猛
【審査官】三宅 克馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-203613(JP,A)
【文献】特開2010-271177(JP,A)
【文献】特開2010-193689(JP,A)
【文献】特開2001-264260(JP,A)
【文献】特開2017-125843(JP,A)
【文献】特開2009-085718(JP,A)
【文献】特開2018-118733(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0188187(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/95
G01N 21/84
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電機の固定子コイルの表面の画像を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置による撮像結果に基づいて前記固定子コイルの表面における状態を検査する検査部と
を備え、
前記検査部は、固定子コアのダクト毎に、前記撮像装置を前記固定子コイルの表面に沿って移動させながら撮像された時系列画像データに対して画像処理を施すことで前記固定子コイルの表面の前記状態を定量的に判定する
発電機点検装置。
【請求項2】
前記撮像装置は、ファイバースコープカメラまたは小型カメラであり、
前記ファイバースコープカメラに装着され、ファイバースコープカメラを前記固定子コイルの表面に沿って移動させる際に、前記表面と前記ファイバースコープカメラの撮像面との距離を一定に保つ治具
をさらに備える請求項1に記載の発電機点検装置。
【請求項3】
前記検査部は、
前記時系列画像データに対して画像処理を施すことで前記状態の検査領域を特定した前記固定子コイルの内部の画像を検査画像データとして再構成し、
再構成した前記検査画像データに対して画像処理を施すことで、前記固定子コイルの表面の前記状態を定量的に判定する
請求項1または2に記載の発電機点検装置。
【請求項4】
前記検査部は、前記画像処理として2値化処理またはカラー画像処理を施し、前記固定子コイルの表面の部分放電防止材の消失箇所を識別することで前記状態を定量的に判定する
請求項1から3のいずれか1項に記載の発電機点検装置。
【請求項5】
前記検査部は、前記消失箇所の画素数に応じて消失度合をレベル分けし、前記前記状態を定量的に判定する
請求項4に記載の発電機点検装置。
【請求項6】
前記検査部は、判定した前記状態と前記固定子コアのスロット番号とを関連付けた点検履歴データを生成する
請求項1から5のいずれか1項に記載の発電機点検装置。
【請求項7】
前記検査部は、
固定子コアのダクト毎に、前記撮像装置を前記固定子コイルの表面に沿って移動させる際に作業員が発声するスロット番号を音声認識して識別する音声認識機能を有し、
判定した前記状態と音声認識した前記スロット番号とを関連付けて前記点検履歴データを生成する
請求項6項に記載の発電機点検装置。
【請求項8】
前記検査部は、
前記状態を定量的に判定する検査を実施した点検日をさらに関連付けて前記点検履歴データを生成し、
最新の点検日における点検履歴データと、前記最新の点検日よりも過去の点検日における点検履歴データとの比較に基づいて、前記状態の推移を定量的に判定する
請求項6または7に記載の発電機点検装置。
【請求項9】
撮像装置により撮像された発電機の固定子コイルの表面の画像に基づいて前記固定子コイルの表面における状態を検査するコンピュータで実行される発電機点検方法であって、
固定子コアのダクト毎に、前記撮像装置を前記固定子コイルの表面に沿って移動させることで撮像された時系列画像データを取得するステップと、
前記時系列画像データに対して画像処理を施すことで前記固定子コイルの表面の前記状態を定量的に判定するステップ
を有する発電機点検方法。
【請求項10】
撮像装置により撮像された発電機の固定子コイルの表面の画像に基づいて前記固定子コイルの表面における状態を検査する発電機点検プログラムであって、
コンピュータを、
固定子コアのダクト毎に、前記撮像装置を前記固定子コイルの表面に沿って移動させることで撮像された時系列画像データを取得する手段と、
前記時系列画像データに対して画像処理を施すことで前記固定子コイルの表面の前記状態を定量的に判定する手段と
して機能させる発電機点検プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発電機の固定子コイル表面(部分放電防止層)の劣化状態を、画像処理を用いて定量的に評価する発電機点検装置、発電機点検方法、および発電機点検プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空冷タービン発電機などの固定子コイル表面に施している部分放電防止材は、経年劣化により消失することで、コイルのフレッティング事象が発生し地絡などの障害につながる。このような障害が発生することを予知するために、画像処理技術を用いた点検作業が行われている。
【0003】
ロータ、ステータなどを構成する金属板における絶縁皮膜の剥がれを、画像処理技術を用いて検査する従来技術がある(例えば、特許文献1参照)。また、組み上がって製品化された発電機の固定子コイル表面の状態を、撮像画像を用いて検査する手法としては、定期点検的に回転子を抜き、固定子のコアダクトからファイバースコープカメラを挿入し、撮像された映像を作業員が目視でチェックすることで、コイル表面の劣化状態を判定するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-054115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ファイバースコープカメラの映像を目視により評価するため、評価結果に個人差が生じる。また、目視点検箇所は、最大で約10000箇所にわたり、摩耗状態を目視により判定するためには長時間を要し、長時間作業に伴う誤判断、判定精度のばらつき等の懸念があった。
【0006】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、発電機の固定子コイル表面の劣化状態を点検する際に、点検作業の効率化を図るとともに、均一な基準での劣化状態の評価を実現することのできる発電機点検装置、発電機点検方法、および発電機点検プログラムを得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る発電機点検装置は、発電機の固定子コイルの表面の画像を撮像する撮像装置と、撮像装置による撮像結果に基づいて固定子コイルの表面における状態を検査する検査部とを備え、検査部は、固定子コアのダクト毎に、撮像装置を固定子コイルの表面に沿って移動させながら撮像された時系列画像データに対して画像処理を施すことで固定子コイルの表面の状態を定量的に判定するものである。
【0008】
本開示に係る発電機点検方法は、撮像装置により撮像された発電機の固定子コイルの表面の画像に基づいて固定子コイルの表面における状態を検査するコンピュータで実行される発電機点検方法であって、固定子コアのダクト毎に、撮像装置を固定子コイルの表面に沿って移動させることで撮像された時系列画像データを取得するステップと、時系列画像データに対して画像処理を施すことで固定子コイルの表面の状態を定量的に判定するステップを有するものである。
【0009】
また、本開示に係る発電機点検プログラムは、撮像装置により撮像された発電機の固定子コイルの表面の画像に基づいて固定子コイルの表面における状態を検査する発電機点検プログラムであって、コンピュータを、固定子コアのダクト毎に、撮像装置を固定子コイルの表面に沿って移動させることで撮像された時系列画像データを取得する手段と、時系列画像データに対して画像処理を施すことで固定子コイルの表面の状態を定量的に判定する手段として機能させるものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、画像処理技術を用いて、作業員による個人差をなくし、劣化状態を定量的にかつ効率的に評価できる構成を備えた発電機点検装置となっている。この結果、発電機の固定子コイル表面の劣化状態を点検する際に、点検作業の効率化を図るとともに、均一な基準での劣化状態の評価を実現することのできる発電機点検装置、発電機点検方法、および発電機点検プログラムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の実施の形態1に係る発電機点検装置の全体構成を示した説明図である。
図2】本開示の実施の形態1に係る発電機点検装置の機能ブロック図である。
図3】本開示の実施の形態1に係る発電機点検装置の治具を示した説明図である。
図4】本開示の実施の形態1における画像再構成手順を示した説明図である。
図5】本開示の実施の形態1における画像再構成手順の一連処理を示したフローチャートである。
図6】本開示の実施の形態1における2枚の画像間の平行移動量を示した説明図である。
図7】本開示の実施の形態1に係る検査画像再構成部によって生成された、固定子コイル3の表面の平面画像の一例を示した図である。
図8】本開示の実施の形態1に係る検査画像再構成部によって実行されるエッジ検出処理、中間ライナー検出処理、および上口コイル/下口コイルの判定処理に関する説明図である。
図9】本開示の実施の形態1における部分放電防止材の消失率算出手順の一連処理を示したフローチャートである。
図10】本開示の実施の形態1に係るコイル表面良否判定部によって実行される部分放電防止材消失領域の抽出処理に関する説明図である。
図11】本開示の実施の形態1において、色情報に基づいて部分放電防止材消失領域であるか否かを判別する手法の説明図である。
図12】本開示の実施の形態1に係るコイル表面良否判定部122によって色情報に基づいて実行される部分放電防止材消失領域の抽出処理に関する説明図である。
図13】本開示の実施の形態1に係るコイル表面良否判定部によって、平面画像から部分放電防止材の消失領域を白画像として抽出した状態を示した説明図である。
図14】本開示の実施の形態1に係る点検履歴データ生成部によって生成された点検履歴データの一例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の発電機点検装置、発電機点検方法、および発電機点検プログラムの好適な実施の形態につき、図面を用いて説明する。
【0013】
実施の形態1.
まず始めに、本実施の形態1に係る発電機点検装置の動作概要について、図1に基づいて説明する。図1は、本開示の実施の形態1に係る発電機点検装置の全体構成を示した説明図である。作業員は、撮像装置であるファイバースコープカメラ10とパソコン(PC)100とを接続し、さらに、ファイバースコープカメラ10に治具11を装着する。その後、作業員は、点検対象となる固定子1のコアダクト2の中に、ファイバースコープカメラ10を挿入する。
【0014】
なお、以下の説明では、撮像装置の具体例として、ファイバースコープカメラ10を用いる場合について説明するが、本開示に係る撮像装置は、ファイバースコープカメラ10に限定されるものではない。本開示に係る撮像装置は、点検対象となる固定子コイル3の表面の映像を撮影できればよく、小型カメラなど、他の機器を適用することも可能である。
【0015】
コアダクト2内を撮影する際には、作業員は、コアダクト2のスロット番号を入力した後、ファイバースコープカメラ10を、固定子コイル3の表面に沿ってコアダクト2の入り口に引き寄せながら、固定子コイル3の表面の映像を撮影する。
【0016】
または、ファイバースコープカメラ10を、固定子コイル3の表面に沿ってコアダクト2の入り口から差し込みながら、固定子コイル3の表面の映像を撮影する。引き寄せによる撮影と差し込みによる撮影の両方を可能にすることによって、コアダクト2内の撮影を順次行う際に、撮影時間の短縮を図ることができる。
【0017】
ファイバースコープカメラ10により撮影された映像は、デジタル化された信号として、PC100内に伝送される。PC100内では、デジタル化された信号に基づいて、固定子コイル3の表面の状態を定量的に判定する。ここで、固定子コイル3の表面の状態とは、固定子コイル3の表面において、部分放電防止材が消失した状態、コイルが摩耗した状態、コイル表面に異物等が付着して絶縁性能の劣化要因となる状態などに相当する。なお、以下の説明では、固定子コイル3の表面の状態のことを、単にコイル表面の状態と称することとする。
【0018】
次に、本実施の形態1に係る発電機点検装置が有する各機能について、概要を説明する。
【0019】
図2は、本開示の実施の形態1に係る発電機点検装置の機能ブロック図である。本実施の形態1における発電機点検装置は、ファイバースコープカメラ10およびパソコン100を備えて構成されている。特に、この図2では、パソコン100の内部を各機能ブロックに分けて示しており、各機能の概要を以下に説明する。
【0020】
本実施の形態1に係るパソコン100は、画像メモリ110、検査部120、および点検履歴データベース130を備えている。画像メモリ110は、撮像装置に相当するファイバースコープカメラ10により撮像された画像を、順次、時系列データとして記憶できるように、複数フレーム分の画像メモリとして構成されている。
【0021】
例えば、60fpsまたは30fpsで撮像された映像フレームが、順次、時系列データとして画像メモリ110に記憶されることとなる。1フレーム分の画像は、複数の画素から構成される。
【0022】
また、検査部120は、検査画像再構成部121、コイル表面良否判定部122、および点検履歴データ生成部123を含んで構成されている。ここで、検査部120は、発電機の固定子コイル表面の劣化状態を点検するためのプログラムを実行するコンピュータに相当する。検査画像再構成部121は、画像メモリ110に順次記憶された映像フレームを切り出し、レンズ歪を補正して、平行移動量を計算し、合成画像を生成する。
【0023】
検査画像再構成部121は、撮像されたすべての映像フレームの合成が完了すると、合成画像に対してエッジ検出を行い、コイルの上口と下口の中間にある中間ライナーを認識して、上口/下口を分離し、検査領域に相当するコイル領域を特定する。これらの一連処理により、検査画像再構成部121は、劣化状態の検査対象となるコイル領域を、検査画像データとして再構成する。
【0024】
次に、コイル表面良否判定部122は、検査画像再構成部121により特定されたコイル領域の検査画像データについて、部分放電防止材の消失部を検出する。コイル表面良否判定部122は、コイル領域全体の面積と、部分放電防止材の消失部の面積との割合から、部分放電防止材の消失率を算出し、消失率の大きさから補修の要否を決定する。ここで、面積とは、画像上の画素数に相当する。
【0025】
次に、点検履歴データ生成部123は、コイル表面良否判定部122によって全てのコアダクト2のスロットに対する消失率の算出が完了すると、スロットに対するダクト毎に消失率を書き込んだ点検履歴データを作成する。さらに、点検履歴データ生成部123は、絶縁劣化診断を行った点検日と関連付けた点検履歴データを点検履歴データベース130に記憶させることで、データベース化を行う。
【0026】
従って、コイル表面良否判定部122は、データベース化された点検履歴データに基づいて、最新の点検日における点検履歴データと、最新の点検日よりも過去の点検日における点検履歴データとの比較から、コイル表面の状態を定量的に判定し、補修の要否を決定することができる。ただし、コイル表面良否判定部122は、上述したように、最新の点検日における点検履歴データだけを用いて、コイル表面の状態を定量的に判定し、補修の要否を決定することもできる。
【0027】
次に、作業員による実際の点検作業手順に即して、各々の処理の詳細を説明する。作業員は、最初に、撮影する固定子コアのスロット番号を入力する。スロット番号は、キーボードによる入力、または、作業員がマイクを介して発声する音声入力、または、発電機の固定子コアにスロット番号を貼り、ヘルメット等に装着したカメラで撮像したスロット番号を画像認識することによって、スロット番号を入力することも考えられる。
【0028】
キーボードによる入力に関しては、PC100で実行可能である。また、音声入力に関しては、ファイバースコープカメラ10あるいはPC100に音声認識機能を持たせることで、スロット番号を音声認識することが可能となる。
【0029】
図3は、本開示の実施の形態1に係る発電機点検装置の治具を示した説明図である。作業員は、例えば、図3に示したように、治具11にファイバースコープカメラ10を装着し、固定子コアのダクト内に治具11と一体化されたファイバースコープカメラ10を挿入しながら、または、手前に引きながら、固定子1の表面を撮影する。
【0030】
治具11にスコープ台を装着することで、撮影の際に、固定子コイルの表面とファイバースコープカメラ10の撮像面との距離を一定に保つことが容易となる。また、ファイバースコープカメラ10の移動が等速になるようにするためには、図3に示すステッピングモータから回転ローラを等速に回転させ、一定速度でファイバースコープカメラ10を手前に引いたり、押し込んだりして、撮影を行うことが可能になる。
【0031】
ファイバースコープカメラ10で撮影した映像は、デジタル化され、一例として、256階調の濃淡値の映像データとしてPC100に伝送される。なお、RGBの映像データを用いることも可能である。PC100は、ファイバースコープカメラ10から転送された映像データをリアルタイムで読み取る。読み取った映像データは、一連の時系列画像データとしてPC100上の画像メモリ110に記憶される。
【0032】
検査画像再構成部121は、画像メモリ110に順次記憶された時系列画像データを読み出し、画像間に合成処理を施すことで、検査対象となる固定子コイル3の表面の画像を検査画像データとして再構成する。
【0033】
次に、検査画像データの再構成の具体的な手法について、図面を用いて詳細に説明する。図4は、本開示の実施の形態1における画像再構成手順を示した説明図である。図4に示したように、作業員は、固定子のコアダクト2内に挿入された、治具11と一体化されたファイバースコープカメラ10を引き出しながら、検査対象である固定子コイル3の表面の映像を撮影する。撮影結果は、時系列画像データとして画像メモリ110に記憶される。
【0034】
図4中に概略を示したように、画像メモリ110に時系列画像データとして記憶されたそれぞれのフレーム画像に対して合成処理を繰り返すことで、検査対象となる固定子コイル3の表面の画像が検査画像データとして再構成される。そこで、図5のフローチャートを用いて、再構成手順を詳細に説明する。
【0035】
図5は、本開示の実施の形態1における画像再構成手順の一連処理を示したフローチャートである。まず、検査画像再構成部121は、コアダクト2を撮影した映像フレームを画像メモリ110から順次取り出し、レンズによる歪を補正する(ステップS501~ステップS503参照)。
【0036】
次に、検査画像再構成部121は、時系列的に隣接した2枚の画像に対して平行移動量を計算し、計算結果に基づいて2枚の画像の合成処理を行う(ステップS504、ステップS505参照)。
【0037】
平行移動量は、画像から求めてもよいし、等速で動作する治具の速度と撮影距離から求めてもよい。画像から求める場合には、時刻tの映像フレームと時刻t+Δtの映像フレームとを用いて求める。
【0038】
適切な平行移動量は、例えば、画像の相関値が最小になる値、または画像間の距離が最小となる値を基にして計算する。画像間の距離を基に計算した場合には、下式(1)に従って求めることができる。
【0039】
【数1】
【0040】
ここで、Dt(xi,yj)は、時刻tにおける画像の座標xi,yjの画素の濃淡値である。
【0041】
治具の速度から求める場合には、撮影距離に応じた1画素当たりの長さを計算することによって、時刻Δtの間に進む距離を求めることができる。
【0042】
そして、検査画像再構成部121は、例えば、上式(1)が成立するyjとyj+Δyを取り出し、平行移動量とする。
【0043】
図6は、本開示の実施の形態1における2枚の画像間の平行移動量を示した説明図である。検査画像再構成部121は、上式(1)に基づく照合を行うことで算出した平行移動量に基づいて2枚の映像フレームを合成することで、図6に示したような合成画像を生成することができる。
【0044】
検査画像再構成部121は、上述した手法により、2枚の映像フレームを合成し、合成した画像と次の映像フレームとの間で、同様の処理を繰り返し、平行移動量の計算、画像合成を行っていくことで、全フレームの合成処理を行う(ステップS506参照)。
【0045】
この結果、検査画像再構成部121は、最終的に、撮影した映像データから合成した、固定子コイル3の表面の平面画像を生成することができる。図7は、本開示の実施の形態1に係る検査画像再構成部121によって生成された、固定子コイル3の表面の平面画像の一例を示した図である。
【0046】
次に、検査画像再構成部121は、全フレームの合成処理後に得られた図7の平面画像に対して、エッジ検出を行い、上口コイルおよび下口コイルの判定を行う(ステップS507、ステップS508参照)。
【0047】
検査画像再構成部121は、例えば、hough変換、sobelフィルタなどを用いて上口コイルおよび下口コイルの境界の候補のエッジを検出する。さらに、検査画像再構成部121は、検出したエッジのうち、最も適切なエッジを選択する。また、検査画像再構成部121は、エッジの選択方法として、コイルの長さあるいは中間ライナーのテクスチャを用いてエッジを判定する。
【0048】
または、コイル境界付近の画像を学習させ、コイル境界付近で検出されたエッジをコイル境界位置とする判定モデルを事前に作成しておくことによっても、エッジを判定することができる。
【0049】
図8は、本開示の実施の形態1に係る検査画像再構成部121によって実行されるエッジ検出処理、中間ライナー検出処理、および上口コイル/下口コイルの判定処理に関する説明図である。
【0050】
合成処理によって生成された256階調の平面画像に対して、例えばHough変換処理を施すことで、図8に示したように、上口コイル端、中間ライナー、および下口コイル端には、白い線状の画像が残る。そこで、検査画像再構成部121は、平面画像に対してHough変換処理を施すことで生成された画像に対してエッジ検出処理を実行することで白い線状部分を特定する。
【0051】
この結果、検査画像再構成部121は、固定子1の表面の中間部分に存在する中間ライナー、および固定子1の表面の両端部分に存在する上口コイル端、下口コイル端を分離することができ、検査対象となる上口コイル領域および下口コイル領域を抽出することができる。
【0052】
次に、図9のフローチャートを用いて、抽出された上口コイル領域および下口コイル領域のそれぞれに対して、部分放電防止材の消失領域を判定し、消失率を算出する手順を詳細に説明する。
【0053】
図9は、本開示の実施の形態1における部分放電防止材の消失率算出手順の一連処理を示したフローチャートである。消失率の算出に基づく部分放電防止材の良否判定は、コイル表面良否判定部122によって行われる。
【0054】
まず、コイル表面良否判定部122は、合成画像から抽出された上口コイル領域、下口コイル領域のそれぞれに対して、部分放電防止材の消失領域を抽出する(ステップS901~ステップS904参照)。
【0055】
具体的には、コイル表面良否判定部122は、上口コイル領域および下口コイル領域として特定されるコイル領域の256階調の画像に対して2値化処理を施すことで、部分放電防止材の消失領域を白画像として抽出する。
【0056】
図10は、本開示の実施の形態1に係るコイル表面良否判定部122によって実行される部分放電防止材消失領域の抽出処理に関する説明図である。コイル表面良否判定部122は、部分放電防止材の消失領域を抽出するためにグレースケール化した画像に対して2値化処理を施すことで、図10に示したように、部分放電防止材の消失領域を白画像として抽出し、部分放電防止材が消失した領域を識別することができる。
【0057】
また、コイル表面良否判定部122は、色情報に基づいて部分放電防止材消失領域を抽出することもできる。図11は、本開示の実施の形態1において、色情報に基づいて部分放電防止材消失領域であるか否かを判別する手法の説明図である。図11では、色情報として、色相と彩度を用いた場合を例示している。なお、色情報の1つに明度があるが、明度は位置によって大きく変化するため、除外した。
【0058】
2値化処理の代わりに、図11に示したように、部分放電防止材の正常領域から取得した複数のサンプリング点における色情報(色相と彩度)と、消失領域から取得した複数のサンプリング点における色情報をプロットすることで、正常クラスと消失領域クラスとを識別する境界面をあらかじめ求めておくことができる。
【0059】
図12は、本開示の実施の形態1に係るコイル表面良否判定部122によって色情報に基づいて実行される部分放電防止材消失領域の抽出処理に関する説明図である。コイル表面良否判定部122は、判定したい領域の色情報が、あらかじめ求めておいた境界面のどちらのクラスに位置するかを識別することで、その領域が正常領域であるか消失領域であるかを判定することができる。
【0060】
上述したように、本開示に係る検査部120は、画像処理として2値化処理、または、色情報に関するカラー画像処理を施し、固定子コイルの表面の部分放電防止材の消失箇所を識別することで、部分放電防止材の状態を定量的に判定することができる。
【0061】
図13は、本開示の実施の形態1に係るコイル表面良否判定部122によって、平面画像から部分放電防止材の消失領域を白画像として抽出した状態を示した説明図である。コイル表面良否判定部122は、上口コイル領域、下口コイル領域として認識された領域の画素数全体と、部分放電防止材の消失領域として抽出された画素数との比から、消失率を計算することができる(ステップS905参照)。
【0062】
消失率の計算は、コイル表面良否判定部122によって、それぞれのスロットにおいて、上口コイル、下口コイル毎に別々に算出される。コイル表面良否判定部122は、消失率が、あらかじめ設定された閾値に相当するα%を超えることで、部分放電防止材の劣化が発生した箇所を特定し、部分放電防止材の補修が必要であると判断することができる。
【0063】
次に、点検履歴データについて説明する。点検履歴データ生成部123は、コイル表面良否判定部122によって上口コイル、下口コイル毎に算出された消失率に基づいて点検履歴データを生成する。
【0064】
一例として、点検履歴データ生成部123は、消失率に応じて5段階に分けて点検履歴データを生成することができる。すなわち、部分放電防止材の消失箇所の画素数の割合に応じて、消失度合をレベル分けする。
【0065】
点検履歴データ生成部123は、消失率によってレベル分けされたデータを指標として、コアダクト2のスロット番号と関連付けて、上口コイル、下口コイル毎に個別の点検履歴データを生成することができる。
【0066】
図14は、本開示の実施の形態1に係る点検履歴データ生成部123によって生成された点検履歴データの一例を示した説明図である。図14では、上口コイルにおいて、コアダクトの番号およびスロット番号と、5段階にレベル分けされた部分放電防止材の消失劣化レベルとが関連付けられた点検履歴データの一例が示されている。
【0067】
なお、図14では、レベル1~レベル5を、丸数字として示している。また、消失劣化レベルに関しては、上述したような5段階には限定されず、2以上のN段階に区分けすることも可能である。また、点検履歴データ生成部123は、レベル分けせずに、消失率の値自身を、部分放電防止層の状態を示す指標として用い、点検履歴データを作成することも可能である。
【0068】
また、点検履歴データ生成部123は、点検日と関連付けて点検履歴データを作成し、点検履歴データベース130に記憶させることができる。この場合、コイル表面良否判定部122は、点検日と関連付けられた点検履歴データを用いて、時系列的に部分放電防止層の劣化状態の推移を管理することができる。
【0069】
具体的には、コイル表面良否判定部122は、最新の点検日における点検履歴データと、最新の点検日よりも過去の点検日における点検履歴データとの比較から、部分放電防止材の劣化状態の推移を定量的に判定し、補修の要否を決定することができる。
【0070】
なお、図5および図9のそれぞれのフローチャートで示した各ステップは、本開示に係る発電機点検装置において実行される発電機点検方法に相当する。また、コンピュータに相当する検査部120を、このような発電機点検方法による各ステップに相当する手段として機能させるような発電機点検プログラムを用いることで、定量的な劣化診断を実現できる。
【0071】
以上のように、実施の形態1によれば、固定子コイル表面の部分放電防止材の撮像結果に基づいて生成された平面画像に対して画像処理を施すことで、部分放電防止材の消失率を定量的に算出することができる構成を備えている。この結果、発電機固定子コイルの部分放電防止材の劣化状態を点検する際に、点検作業の効率化を図るとともに、均一な基準での劣化状態の評価を実現することのできる発電機点検装置を得ることができる。
【符号の説明】
【0072】
1 固定子、2 コアダクト、3 固定子コイル、10 ファイバースコープカメラ(撮像装置)、11 治具、100 パソコン、110 画像メモリ、120 検査部、121 検査画像再構成部、122 コイル表面良否判定部、123 点検履歴データ生成部、130 点検履歴データベース。
図1
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