(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】積層造形システムの制御方法、積層造形システム、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20240606BHJP
B23K 9/29 20060101ALI20240606BHJP
B23K 9/032 20060101ALI20240606BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20240606BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20240606BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240606BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240606BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/29 A
B23K9/032 Z
B23K9/095 510D
B23K31/00 K
B33Y10/00
B33Y30/00
(21)【出願番号】P 2021124721
(22)【出願日】2021-07-29
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-268098(JP,A)
【文献】特開2021-024260(JP,A)
【文献】特開2007-237213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B23K 9/29
B23K 9/032
B23K 9/095
B23K 31/00
B33Y 10/00
B33Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチを移動させながら溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層することにより積層造形物を造形する積層造形システムの制御方法であって、
前記積層造形物の積層計画から積層パスの軌跡を抽出する抽出ステップと、
前記軌跡に基づいて、前記溶接トーチが通過する移動空間の座標情報と、既に積層された前記溶着ビードが当該溶接トーチの侵入を排除する排除空間の座標情報とを演算する演算ステップと、
前記排除空間の座標情報と前記移動空間の座標情報とに基づいて、当該移動空間と当該排除空間との空間的な重なりがあるかどうかを判定する判定ステップと、
前記空間的な重なりがあると判定された場合に、前記溶接トーチの口径がより小さくなるように当該溶接トーチ又は溶接トーチ部品の交換作業を行う命令を生成する生成ステップと
を含むことを特徴とする、積層造形システムの制御方法。
【請求項2】
前記交換作業の回数を減少させるために前記積層パスの順序を修正する修正ステップを更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の積層造形システムの制御方法。
【請求項3】
前記溶接トーチを移動させながら、既に積層された前記溶着ビードの形状を計測する計測ステップと、
計測された前記形状に基づいて、前記排除空間の座標情報を変更する変更ステップと
を更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の積層造形システムの制御方法。
【請求項4】
前記演算ステップでは、前記軌跡に、前記溶接トーチの傾斜角、当該溶接トーチの口径、及び当該軌跡の配置の少なくとも1つに基づく予め用意したモデル図形を当てはめることにより、前記移動空間を演算することを特徴とする、請求項1に記載の積層造形システムの制御方法。
【請求項5】
前記演算ステップでは、前記軌跡に、前記溶着ビードの幅、当該溶着ビードの高さ、当該軌跡のなす角度、及び当該軌跡の配置の少なくとも1つに基づく予め用意したモデル図形を当てはめることにより、前記排除空間を演算することを特徴とする、請求項1に記載の積層造形システムの制御方法。
【請求項6】
溶接トーチを移動させながら溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層することにより積層造形物を造形する積層造形システムの制御方法であって、
前記溶接トーチを移動させながら前記溶着ビードを積層するように制御する第1の制御ステップと、
前記溶接トーチと積層された前記溶着ビードとが干渉する場合に、当該溶接トーチの口径がより小さくなるように当該溶接トーチ又は溶接トーチ部品の交換作業を行うように制御する第2の制御ステップと
を含むことを特徴とする、積層造形システムの制御方法。
【請求項7】
溶接トーチを移動させながら溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層することにより積層造形物を造形する積層造形システムであって、
前記積層造形物の積層計画から積層パスの軌跡を抽出する抽出手段と、
前記軌跡に基づいて、前記溶接トーチが通過する移動空間の座標情報と、既に積層された前記溶着ビードが当該溶接トーチの侵入を排除する排除空間の座標情報とを演算する演算手段と、
前記排除空間の座標情報と前記移動空間の座標情報とに基づいて、当該移動空間と当該排除空間との空間的な重なりがあるかどうかを判定する判定手段と、
前記空間的な重なりがあると判定された場合に、前記溶接トーチの口径がより小さくなるように当該溶接トーチ又は溶接トーチ部品の交換作業を行う命令を生成する生成手段と
を備えたことを特徴とする、積層造形システム。
【請求項8】
溶接トーチを移動させながら溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層することにより積層造形物を造形する積層造形システムを制御するコンピュータに、
前記積層造形物の積層計画から積層パスの軌跡を抽出する機能と、
前記軌跡に基づいて、前記溶接トーチが通過する移動空間の座標情報と、既に積層された前記溶着ビードが当該溶接トーチの侵入を排除する排除空間の座標情報とを演算する機能と、
前記排除空間の座標情報と前記移動空間の座標情報とに基づいて、当該移動空間と当該排除空間との空間的な重なりがあるかどうかを判定する機能と、
前記空間的な重なりがあると判定された場合に、前記溶接トーチの口径がより小さくなるように当該溶接トーチ又は溶接トーチ部品の交換作業を行う命令を生成する機能と
を実現させるための、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチを移動させながら積層造形物を造形する積層造形システムの制御方法、その積層造形システム、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、溶接トーチを整備するシステムであって、溶接トーチの部品を保持および解放する把持モジュールであって、把持モジュールの軸に沿って移動可能であり、把持モジュールの軸を中心に回転可能である把持モジュールと、把持モジュールの動きに自由度を与えて、部品の取り外しまたは交換のときに溶接トーチの嵌合部品間にかかる力を制御または低減する制御システムとを備えるシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶接トーチを移動させながら積層造形物を造形する積層造形システムにおいて、積層造形物の形状によっては溶接トーチと積層造形物とが干渉して装置エラーが発生し、装置のメンテナンスや復旧作業等が必要となってしまう。干渉を少なくするために溶接トーチの口径は比較的小さくすることが望ましいが、例えば溶接トーチのノズルの口径を小さくすると、造形中に生じるスパッタがノズル内に堆積して内部が閉塞するまでのサイクルが短くなり、結果として造形効率の低下を引き起こす場合がある。
【0005】
本発明の目的は、積層造形物を造形する積層造形システムにおいて溶接トーチ又は溶接トーチ部品の交換頻度を最適化させつつ積層造形物を造形できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本発明は、溶接トーチを移動させながら溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層することにより積層造形物を造形する積層造形システムの制御方法であって、積層造形物の積層計画から積層パスの軌跡を抽出する抽出ステップと、軌跡に基づいて、溶接トーチが通過する移動空間の座標情報と、既に積層された溶着ビードが溶接トーチの侵入を排除する排除空間の座標情報とを演算する演算ステップと、排除空間の座標情報と移動空間の座標情報とに基づいて、移動空間と排除空間との空間的な重なりがあるかどうかを判定する判定ステップと、空間的な重なりがあると判定された場合に、溶接トーチの口径がより小さくなるように溶接トーチ又は溶接トーチ部品の交換作業を行う命令を生成する生成ステップとを含む、積層造形システムの制御方法を提供する。
【0007】
積層造形システムの制御方法は、交換作業の回数を減少させるために積層パスの順序を修正する修正ステップを更に含む、ものであってよい。
【0008】
積層造形システムの制御方法は、溶接トーチを移動させながら、既に積層された溶着ビードの形状を計測する計測ステップと、計測された形状に基づいて、排除空間の座標情報を変更する変更ステップとを更に含む、ものであってよい。
【0009】
積層造形システムの制御方法は、演算ステップで、軌跡に、溶接トーチの傾斜角、溶接トーチの口径、及び軌跡の配置の少なくとも1つに基づく予め用意したモデル図形を当てはめることにより、移動空間を演算する、ものであってよい。
【0010】
積層造形システムの制御方法は、演算ステップで、軌跡に、溶着ビードの幅、溶着ビードの高さ、軌跡のなす角度、及び軌跡の配置の少なくとも1つに基づく予め用意したモデル図形を当てはめることにより、排除空間を演算する、ものであってよい。
【0011】
また、本発明は、溶接トーチを移動させながら溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層することにより積層造形物を造形する積層造形システムの制御方法であって、溶接トーチを移動させながら溶着ビードを積層するように制御する第1の制御ステップと、溶接トーチと積層された溶着ビードとが干渉する場合に、溶接トーチの口径がより小さくなるように溶接トーチ又は溶接トーチ部品の交換作業を行うように制御する第2の制御ステップとを含む、積層造形システムの制御方法も提供する。
【0012】
更に、本発明は、溶接トーチを移動させながら溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層することにより積層造形物を造形する積層造形システムであって、積層造形物の積層計画から積層パスの軌跡を抽出する抽出手段と、軌跡に基づいて、溶接トーチが通過する移動空間の座標情報と、既に積層された溶着ビードが溶接トーチの侵入を排除する排除空間の座標情報とを演算する演算手段と、排除空間の座標情報と移動空間の座標情報とに基づいて、移動空間と排除空間との空間的な重なりがあるかどうかを判定する判定手段と、空間的な重なりがあると判定された場合に、溶接トーチの口径がより小さくなるように溶接トーチ又は溶接トーチ部品の交換作業を行う命令を生成する生成手段とを備えた、積層造形システムも提供する。
【0013】
更にまた、本発明は、溶接トーチを移動させながら溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層することにより積層造形物を造形する積層造形システムを制御するコンピュータに、積層造形物の積層計画から積層パスの軌跡を抽出する機能と、軌跡に基づいて、溶接トーチが通過する移動空間の座標情報と、既に積層された溶着ビードが溶接トーチの侵入を排除する排除空間の座標情報とを演算する機能と、排除空間の座標情報と移動空間の座標情報とに基づいて、移動空間と排除空間との空間的な重なりがあるかどうかを判定する機能と、空間的な重なりがあると判定された場合に、溶接トーチの口径がより小さくなるように溶接トーチ又は溶接トーチ部品の交換作業を行う命令を生成する機能とを実現させるための、プログラムも提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、積層造形物を造形する積層造形システムにおいて溶接トーチ又は溶接トーチ部品の交換頻度を最適化させつつ積層造形物を造形できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態が適用可能な金属積層造形システムの概略構成例を示した図である。
【
図2】本発明の実施の形態における制御装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における積層計画装置の機能構成例を示した図である。
【
図4】(a)は層形状データの一例を示した図であり、(b)はこの層形状データに対する積層パスの一例を示した図である。
【
図5】(a)は領域が追加される前の排除空間を示した図であり、(b)は領域が追加された後の排除空間を示した図である。
【
図6】溶接トーチによる干渉の一例を示した図である。
【
図7】積層パスのパス順序の変更について説明するための図である。
【
図8】本発明の実施の形態における制御装置の機能構成例を示した図である。
【
図9】本発明の実施の形態における積層計画装置の動作例を示したフローチャートである。
【
図10】本発明の実施の形態における積層計画装置が行うノズル交換判定処理の流れを示したフローチャートである。
【
図11】本発明の実施の形態における制御装置の動作例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
[金属積層造形システムの構成]
図1は、本実施の形態における金属積層造形システム1の概略構成例を示した図である。
【0018】
図示するように、金属積層造形システム1は、溶接ロボット(マニピュレータ)10と、CAD装置20と、積層計画装置30と、制御装置50とを備える。また、積層計画装置30は、溶接ロボット10を制御する制御プログラムを、例えばメモリカード等のリムーバブルな記録媒体70に書き込み、制御装置50は、記録媒体70に書き込まれた制御プログラムを読み出すことができるようになっている。
【0019】
溶接ロボット10は、複数の関節を有する腕(アーム)11を備え、制御装置50が読み込んだ制御プログラムに従って動作することで溶接作業を行う。また、溶接ロボット10は、腕11の先端に手首部12を介して、積層造形物100を造形するための溶接トーチ13を有している。そして、金属積層造形システム1の場合、溶接ロボット10は、軟鋼製の溶加材(ワイヤ)14を溶融しながら、溶接トーチ13を移動させて、積層造形物100を製造する。具体的には、溶接トーチ13は、溶加材14を供給しつつ、シールドガスを流しながらアークを発生させて溶加材14を溶融及び固化し、母材90上に複数層の溶接ビード(以下、単に「ビード」という)を積層して積層造形物100を製造する。尚、ここでは、溶加材14を溶融する熱源としてアークを用いるが、レーザやプラズマを用いてもよい。また、溶接ロボット10は、この他に、溶加材14を送給する送給装置等も含むが、これについては説明を省略する。
【0020】
また、溶接ロボット10は、腕11の先端に形状センサ15を備える。形状センサ15は、溶接ロボット10により実際に積層されたビードの断面形状を計測する。形成直後のビードは高温であるため、ビードの形状の計測方法としては、レーザ計測等、非接触式の計測方法を用いるのが好ましい。本実施の形態では、既に積層された溶着ビードの形状を計測する計測手段の一例として、形状センサ15を設けている。
【0021】
CAD装置20は、コンピュータを用いて造形物の設計を行うと共に、設計によって得られた三次元データ(以下、「三次元CADデータ」という)を保持する機能を有している。
【0022】
積層計画装置30は、CAD装置20が保持する三次元CADデータに基づいて積層造形物100の積層計画を作成する。つまり、溶接トーチ13の軌道を決定すると共に、溶接ロボット10が溶接する際の溶接条件を決定する。そして、この決定した軌道に沿って決定した溶接条件でビードを形成するように溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成し、この制御プログラムを記録媒体70に出力する。本実施の形態では、積層造形システムを制御するコンピュータの一例として、積層計画装置30を設けている。
【0023】
制御装置50は、記録媒体70から制御プログラムを読み込んで保持する。そして、この制御プログラムを動作させることにより、積層計画装置30で作成された積層計画に従って、つまり、積層計画装置30で決定された軌道に沿って、積層計画装置30で決定された溶接条件でビードを形成するよう、溶接ロボット10を制御する。
【0024】
[積層計画装置のハードウェア構成]
図2は、積層計画装置30のハードウェア構成例を示す図である。
【0025】
図示するように、積層計画装置30は、例えば汎用のPC(Personal Computer)等により実現され、演算手段であるCPU31と、記憶手段であるメインメモリ32及び磁気ディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)33とを備える。ここで、CPU31は、OS(Operating System)やアプリケーションソフトウェア等の各種プログラムを実行し、積層計画装置30の各機能を実現する。また、メインメモリ32は、各種プログラムやその実行に用いるデータ等を記憶する記憶領域であり、磁気ディスク装置33は、各種プログラムに対する入力データや各種プログラムからの出力データ等を記憶する記憶領域である。
【0026】
また、積層計画装置30は、外部との通信を行うための通信I/F34と、ビデオメモリやディスプレイ等からなる表示機構35と、キーボードやマウス等の入力デバイス36と、記録媒体70に対してデータの読み書きを行うためのドライバ37とを備える。尚、
図2は、積層計画装置30をコンピュータシステムにて実現した場合のハードウェア構成を例示するに過ぎず、積層計画装置30は図示の構成に限定されない。
【0027】
また、
図2に示したハードウェア構成は、制御装置50のハードウェア構成としても捉えられる。但し、制御装置50について述べるときは、
図2のCPU31、メインメモリ32、磁気ディスク装置33、通信I/F34、表示機構35、入力デバイス36、ドライバ37をそれぞれ、CPU51、メインメモリ52、磁気ディスク装置53、通信I/F54、表示機構55、入力デバイス56、ドライバ57と表記するものとする。
【0028】
[本実施の形態の背景及び概要]
このような構成を備えた金属積層造形システム1において、溶接トーチ13を移動させながらビードを積層する際、既設のビードの形状によっては溶接トーチ13の侵入が妨げられる場合がある。
【0029】
そこで、本実施の形態では、積層計画から得られた積層パスの軌跡に基づいて、溶接トーチ13が通過する移動空間と、既設のビードが溶接トーチ13の侵入を排除する排除空間とを演算する。そして、これらの空間に重複部分がある場合に、溶接トーチ13の口径がより小さくなるように制御する。また、溶接トーチ13の口径をより小さくしても重複部分が解消しない場合には、積層パスの順序を変更するように制御する。
【0030】
[本実施の形態の詳細]
以下、このような概要を実現する金属積層造形システム1について、積層計画装置30及び制御装置50の構成及び動作を中心に詳細に説明する。尚、ここでは、溶接トーチ13の口径をより小さくすることの一例として、溶接トーチ部品の一例である溶接トーチ13のノズルを口径がより小さなものに交換する場合について説明する。特に、溶接トーチ13のノズルとして、2つのサイズの口径のノズルが用意されている場合を例にとって説明する。
【0031】
(積層計画装置の機能構成)
図3は、本実施の形態における積層計画装置30の機能構成例を示した図である。図示するように、本実施の形態における積層計画装置30は、CADデータ取得部41と、CADデータ分割部42と、積層計画部43と、ノズル交換判定部44と、制御プログラム生成部45と、制御プログラム出力部46とを備える。
【0032】
CADデータ取得部41は、CAD装置20から、積層造形物100の三次元形状を表す三次元CADデータを取得する。
【0033】
CADデータ分割部42は、CADデータ取得部41が取得した三次元CADデータを複数の層に分割(スライス)することで、各層の形状をそれぞれが表す複数の層形状データを生成する。その際、CADデータ分割部42は、三次元CADデータを複数の層に分割し易い内部形式に変換してもよい。
【0034】
積層計画部43は、CADデータ分割部42が生成した複数の層形状データの各層の高さ及び幅に合ったビードを溶着する際の溶接トーチ13の位置や溶接条件を含む積層計画を生成する。このような積層計画を生成するには、ビードの高さや幅の他、ビードの断面形状を近似するモデルが必要である。これらは測定実験の実測値や、溶着金属量の断面積から計算して推定したものでもよい。例えば、溶接速度やワイヤ送給速度を数条件振って溶着量を変えつつ、ビードオンプレート溶接や鉛直に数層の積層を行い、各々の条件にて1層当たりの高さや幅を測定した結果をデータベース化する。そして、積層する際に積層する所望の高さや幅を満たす溶接速度と溶着量を選択し、測定した結果から各層の推定形状を随時計算し、溶接トーチ13の位置を決める。尚、溶着断面の計算は溶加材14の材質や、既に積層した部位の形状の状態によって計算方法を変えるようにしてもよい。この計算方法によって造形物を内包する積層を計画していく。
【0035】
また、積層計画部43は、後述するように積層パスのパス順序の修正が重複判定部443により指示された場合に、積層パスの順序を修正して積層計画を再度生成する。本実施の形態では、交換作業の回数を減少させるために積層パスの順序を修正する修正手段の一例として、積層計画部43のこの機能を設けている。
【0036】
ノズル交換判定部44は、積層計画部43が生成した積層計画に基づいて、溶接トーチ13のノズルを口径がより小さなものに交換する必要があるかどうかを判定する処理等を行う。
【0037】
具体的には、ノズル交換判定部44は、軌跡抽出部441と、空間生成部442と、重複判定部443とを備える。
【0038】
軌跡抽出部441は、積層計画部43が生成した積層計画から各積層パスの軌跡を抽出する。ここで、各積層パスの軌跡は、例えば、各積層パスが通る点の座標情報の集合とすればよい。本実施の形態では、積層造形物の積層計画から積層パスの軌跡を抽出する抽出手段の一例として、軌跡抽出部441を設けている。
【0039】
図4(a)に層形状データ(スライスデータ)の一例を示し、
図4(b)にこの層形状データに対する積層パスの一例を示す。
図4(a)の層形状データは、壁部110と、壁部110から側方に突出したオーバーハング部120,130とからなる。壁部110とオーバーハング部120,130とに囲まれた部分は中空部140となっている。また、
図4(b)の積層パスは、壁部110を形成するための積層パス111a~111eと、オーバーハング部120,130をそれぞれ形成するための積層パス121a~121d,131a~131fと、壁部110のオーバーハング部120,130に挟まれた部分を形成するための積層パス141とを含む。ここで、積層パス111a~111e,121a~121d,131a~131f,141は、例えばこの順序で積層されるものとする。また、積層パス111a~111e,121a~121d,131a~131fの軌跡は既設ビードの軌跡であり、積層パス141の軌跡はこれから溶接トーチ13が移動する軌跡であるとする。このことは、前者を実線矢印で示し、後者を破線矢印で示すことで表している。
【0040】
空間生成部442は、軌跡抽出部441が抽出した各積層パスの軌跡から、積層時に溶接トーチ13が通過する移動空間と、既設ビードが溶接トーチ13の侵入を排除する排除空間とを、演算により生成する。本実施の形態では、軌跡に基づいて移動空間の座標情報と排除空間の座標情報とを演算する演算手段の一例として、空間生成部442を設けている。
【0041】
例えば、空間生成部442は、溶接トーチ13の移動空間及び既設ビードの排除空間を、
図4に示したスライスデータや積層パスの軌跡に、三次元形状を描画する機能を有するソフトウェアを用いて、ビードを模擬した図形を当てはめることにより、生成するとよい。
【0042】
また、空間生成部442は、溶接トーチ13の移動空間については、積層時の溶接トーチ13の傾斜角やノズルの口径に対応する幅を溶接トーチ13の軌跡に付加することにより、簡易的に生成してもよい。加えて、空間生成部442は、この生成された移動空間に更にクリアランスを付加することにより、溶接トーチ13の移動空間を生成してもよい。
【0043】
また、空間生成部442は、既設ビードの排除空間については、計画されたビードの幅や高さに応じた楕円や台形等の簡単なビードのモデル形状をビードの軌跡に付加することにより、簡易的に生成してもよい。
【0044】
更に、空間生成部442は、
図5に示すように、ビードの軌跡がなす角度に応じた領域を追加することにより、既設ビードの排除空間を生成してもよい。
図5(a)に、領域が追加される前の排除空間152を示す。排除空間152は、排除空間112eと排除空間132fとを含む。ここで、排除空間112eは、積層パス111eにビードのモデル形状を付加することにより生成された排除空間とし、排除空間132fは、積層パス131fにビードのモデル形状を付加することにより生成された排除空間とする。そして、積層パス111eと積層パス131fとは、鋭角θで交差しているとする。
図5(b)に、領域が追加された後の排除空間162を示す。排除空間162は、排除空間112eと排除空間132fとがなす鋭角θの部分に領域133が追加されたものである。
【0045】
更にまた、空間生成部442は、積層パスの軌跡同士の間隔に基づいて溶接トーチ13の軌跡や既設ビードの軌跡に与える幅を設定してもよい。また、空間生成部442は、複数の積層パスの軌跡に対して予め用意したビード積層体の要素形状モデルを与えてもよい。ここで、ビード積層体の要素形状モデルは、例えば、複数のビードからなる壁、ブロック、オーバーハング等のモデルであってよい。
【0046】
重複判定部443は、溶接トーチ13の移動空間と既設ビードの排除空間との重複を判定することで、溶接トーチ13と積層造形物100とが干渉しそうな積層パスを抽出する。例えば、重複判定部443は、移動空間及び排除空間の両方に属する点の有無を座標情報から調べることで、移動空間及び排除空間の重複を判定すればよい。その際、重複判定部443は、積層パスの積層順に重複を判定することで、造形中に起こり得る干渉を網羅的に調べることができる。本実施の形態では、排除空間の座標情報と移動空間の座標情報とに基づいて移動空間と排除空間との空間的な重なりがあるかどうかを判定する判定手段の一例として、重複判定部443を設けている。
【0047】
図6に、溶接トーチ13による干渉の一例を示す。
図6には、壁部110における既設ビードの排除空間112a~112eと、オーバーハング部120における既設ビードの排除空間122a~122dと、オーバーハング部130における既設ビードの排除空間132a~132fとを示している。また、
図5では、排除空間112eと排除空間132fとがなす鋭角の部分に領域133が追加されることしか示さなかったが、
図6では、排除空間112eと排除空間122dとがなす鈍角の部分に領域123が追加されることも示している。更に、
図6には、これから溶接トーチ13が移動する移動空間142も示している。この場合、移動空間142と領域123とは重複しないが、移動空間142と領域133とは重複している。つまり、溶接トーチ13と積層造形物100とは、溶接トーチ13が積層パス141を移動する際に、領域133において干渉している。
【0048】
重複判定部443は、溶接トーチ13と積層造形物100との干渉が発生する積層パスについて、干渉を回避するためにその積層パスの前で溶接トーチ13のノズルを口径がより小さなものに交換するノズル交換命令の設定を制御プログラム生成部45に指示する。尚、重複判定部443は、ノズルを交換した後に干渉が回避できるかを確認するために、交換後のノズルの口径を用いて空間生成部442による空間生成及び重複判定部443による重複判定を再度行うように制御してもよい。このようにノズルを交換して溶接トーチ13と積層造形物100との干渉を回避することにより、軌跡やビードの溶接条件を修正することなく装置エラーや造形中の欠陥発生を抑制することができる。
【0049】
更に、重複判定部443は、ノズルの交換回数が増えると生産性が下がるため、ノズルの交換回数が減少するように、積層パスのパス順序の修正を積層計画部43に指示してもよい。その際、重複判定部443は、ノズルを交換しても干渉が回避できなかった場合に、積層パスのパス順序の修正を積層計画部43に指示するとよい。
【0050】
例えば、重複判定部443は、複数の積層パスを予め用意したビード積層体の要素形状モデルに当てはめて重複を判定する場合には、そのビード積層体の要素形状モデルを単位として積層順序を決めてよい。ここで、ビード積層体の要素形状モデルは、上記と同様、例えば、複数のビードからなる壁、ブロック、オーバーハング等のモデルであってよい。ビード積層体の要素形状モデルを単位として積層順序を設定すれば、積層造形物100の積層パスの数が多い場合に順序の組合せ総数が減って、適切な積層順序が効率的に探索可能となる。尚、重複判定部443は、ビード積層体の要素形状モデル内の複数の積層パスについては積層順序を固定してもよい。
【0051】
図7を参照して、積層パスのパス順序の変更について説明する。当初の積層計画においては、積層パス111a~111e,121a~121d,131a~131f,141がこの順序で積層されるようになっていたとする。この場合、積層パス131a~131fが積層された後に積層パス141が積層されるので、移動空間142と領域133とが重複する。そこで、積層パス141が積層された後に積層パス131a~131fが積層されるように、積層パスのパス順序を変更するとよい。
【0052】
或いは、重複判定部443は、小さい口径のノズルが必要となる複数の積層パスがある場合には、これらの積層パスを連続して積層した後、通常サイズの口径のノズルを用いて積層パスを積層するようにしてもよい。このようにすれば、ノズルの交換の頻度が低減される。
【0053】
制御プログラム生成部45は、積層計画部43が生成した積層計画に従って溶接を行うように溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成する。本実施の形態では、溶接トーチを移動させながら溶着ビードを積層するように制御する第1の制御手段の一例として、制御プログラム生成部45のこの機能を設けている。
【0054】
また、制御プログラム生成部45は、干渉が発生する積層パスの前で溶接トーチ13のノズルを口径がより小さなものに交換するノズル交換命令の設定が重複判定部443により指示された場合に、制御プログラムにノズル交換命令を設定する。本実施の形態では、空間的な重なりがあると判定された場合に溶接トーチの口径がより小さくなるように溶接トーチ部品の交換作業を行う命令を生成する生成手段の一例として、制御プログラム生成部45のこの機能を設けている。また、本実施の形態では、溶接トーチと積層された溶着ビードとが干渉する場合に、溶接トーチの口径がより小さくなるように溶接トーチ部品の交換作業を行うように制御する第2の制御手段の一例としても、制御プログラム生成部45のこの機能を設けている。
【0055】
制御プログラム出力部46は、制御プログラム生成部45が生成した制御プログラムを記録媒体70に出力する。
【0056】
(制御装置の機能構成)
図8は、本実施の形態における制御装置50の機能構成例を示した図である。図示するように、本実施の形態における制御装置50は、制御プログラム取得部61と、制御プログラム記憶部62と、形状データ受信部63と、制御プログラム実行部64とを備える。
【0057】
制御プログラム取得部61は、記録媒体70に記録された制御プログラムを取得する。
【0058】
制御プログラム記憶部62は、制御プログラム取得部61が取得した制御プログラムを記憶する。
【0059】
形状データ受信部63は、積層されたビードの形状を計測する形状センサ15から、逐次、計測された形状を示す形状データを受信する。
【0060】
制御プログラム実行部64は、制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出して実行する。これにより、制御プログラム実行部64は、積層計画部43が生成した積層計画に従ってビードを形成するよう、溶接ロボット10を制御する。特に、制御プログラム実行部64は、溶接トーチ13のノズルを口径がより小さなものに交換するノズル交換命令が設定されている場合に、図示しないノズル交換ステーションでノズルを口径がより小さなものに交換するよう、溶接ロボット10を制御する。その場合、制御プログラムには、ノズルを口径がより小さなものに交換することを決定する根拠となった移動空間及び排除空間の座標情報を付加しておくとよい。また、制御プログラム実行部64は、形状データ受信部63が受信した形状データに基づいて、その排除空間を変更するようにしてもよい。本実施の形態では、計測された形状に基づいて排除空間の座標情報を変更する変更手段の一例として、制御プログラム実行部64のこの機能を設けている。
【0061】
(積層計画装置の動作)
図9は、本実施の形態における積層計画装置30の動作例を示したフローチャートである。
【0062】
積層計画装置30では、まず、CADデータ取得部41が、CAD装置20から三次元CADデータを取得する(ステップ301)。
【0063】
次に、CADデータ分割部42が、ステップ301で取得された三次元CADデータを複数の層に分割して、層形状データを生成する(ステップ302)。
【0064】
次に、積層計画部43が、ステップ302で生成された層形状データから積層計画を生成する(ステップ303)。
【0065】
次に、ノズル交換判定部44は、溶接トーチ13のノズルを口径がより小さなものに交換すべきかどうかを判定するノズル交換判定処理を実行する(ステップ304)。このノズル交換判定処理の詳細については、後述する。
【0066】
次に、積層計画部43は、ステップ303で生成した積層計画において、ノズル交換判定処理でパス順序を修正すべきかどうかを示すパス順序修正フラグがONに設定された2つの積層パスのパス順序を修正する(ステップ305)。
【0067】
次に、制御プログラム生成部45が、ステップ303で生成された積層計画、又は、ステップ303で生成されステップ305で修正された積層計画に基づいて、制御プログラムを生成する(ステップ306)。具体的には、積層計画に従ってビードを形成するように溶接ロボット10を制御する制御プログラムを生成する。
【0068】
次に、制御プログラム生成部45は、ステップ306で生成した制御プログラムにおいて、ノズル交換判定処理でノズルを口径がより小さなものに交換すべきかどうかを示すノズル交換フラグが切り替わった積層パスに対してノズル交換命令を設定する(ステップ307)。具体的には、制御プログラム生成部45は、ノズル交換フラグがOFFからONに切り替わった積層パスに対してノズルを口径がより小さなものに交換するノズル交換命令を設定する。また、制御プログラム生成部45は、ノズル交換フラグがONからOFFに切り替わった積層パスに対してノズルを口径がより大きなものに交換するノズル交換命令を設定する。
【0069】
或いは、制御プログラム生成部45は、ノズル交換フラグがONからOFFに切り替わった積層パスであっても、ノズルを口径がより大きなもの交換する、つまり、ノズルを元に戻す作業を行わなくてもよい。制御プログラム生成部45は、ノズルを元に戻す積層パスとして、作業者が積層計画から任意に決定した積層パスを用いてもよいし、以下に示すようにノズルを元に戻さない場合の作業負荷とノズルを元に戻す場合の作業負荷とを比較して決定した積層パスを用いてもよい。
【0070】
ノズルを元に戻さない場合の作業負荷と、ノズルを元に戻す場合の作業負荷とは、次の式により算出される。
(ノズルを元に戻さない場合の作業負荷)=(口径がより小さなノズルの見込み清掃回数)×(口径がより小さなノズルの清掃1回にかかる所要時間)
(ノズルを元に戻す場合の作業負荷)=(ノズルの交換1回にかかる所要時間)+(口径がより大きなノズルの見込み清掃回数)×(口径がより大きなノズルの清掃1回にかかる所要時間)
【0071】
ここで、ノズルの見込み清掃回数は、残りの積層パス数や過去のノズル交換頻度実績に基づいて見積もってよい。また、ノズルの清掃1回にかかる所要時間やノズルの交換1回にかかる所要時間は、過去の実績値を参照することで求めてよい。
【0072】
このようにノズルを元に戻すタイミングを柔軟に決定する場合は、清掃と交換の作業負荷を比較しているので、ノズル部品の徒な消耗を抑制することができる。
【0073】
最後に、制御プログラム出力部46が、ステップ306で生成された制御プログラム、又は、ステップ306で生成されステップ307でノズル交換命令が設定された制御プログラムを、記録媒体70に出力する(ステップ308)。
【0074】
図10は、
図9のステップ304のノズル交換判定処理の流れを示したフローチャートである。尚、初期状態において、ノズル交換フラグFn(i)及びパス順序修正フラグFp(i,j)は、何れもOFFに設定されているものとする。
【0075】
ノズル交換判定処理では、まず、軌跡抽出部441が、
図9のステップ303で生成された積層計画から、積層パスの軌跡を抽出する(ステップ351)。
【0076】
次に、軌跡抽出部441は、積層パスのインデックスiを2に設定する(ステップ352)。つまり、2つ目の積層パスに着目する。
【0077】
次に、軌跡抽出部441は、積層パスのインデックスiを積層パスの個数nまで1ずつ増加させながら、各インデックスiについてステップ353~ステップ361の処理を行う。
【0078】
即ち、空間生成部442が、まず、ステップ351で抽出された積層パスの軌跡に基づいて、移動空間St(i)と、排除空間Sb(1)~Sb(i-1)とを生成する(ステップ353)。ここで、移動空間St(i)とは、i番目の積層パスにビードを形成する際に溶接トーチ13が通過する移動空間である。排除空間Sb(j)(j=1,2,…,i-1)とは,j番目の積層パスに既に形成されたビードが溶接トーチ13の侵入を排除する排除空間である。尚、排除空間Sb(1)~Sb(i-1)の中には、
図6に示した領域123,133のような、各積層パスにおける排除空間がなす角度の部分に特別に追加された領域も含まれるものとする。また、空間生成部442は、排除空間Sb(1)~Sb(i-2)として、これまでのインデックスiについての処理で生成されたものを用いてもよいが、ここでは、排除空間Sb(1)~Sb(i-1)の中に上記の領域を含めるために改めて生成している。
【0079】
次に、重複判定部443が、既にビードが形成された積層パス(以下、「ビード形成パス」という)のインデックスjを1に設定する(ステップ354)。つまり、1つ目のビード形成パスに着目する。
【0080】
次に、重複判定部443は、ビード形成パスのインデックスjをビード形成パスの個数i-1まで1ずつ増加させながら、各インデックスjについてステップ355~ステップ359の処理を行う。
【0081】
即ち、重複判定部443は、ステップ353で生成された移動空間St(i)と排除空間Sb(j)とが重複しているかどうかを判定する(ステップ355)。
【0082】
ステップ355で移動空間St(i)と排除空間Sb(j)とが重複していると判定されれば、空間生成部442は、ノズルを口径がより小さなものに交換した後の移動空間St(i)を生成する(ステップ356)。尚、これまでのインデックスjについての処理で、ノズルを口径がより小さなものに交換した後の移動空間St(i)を既に生成している場合は、この処理はスキップしてもよい。
【0083】
次に、重複判定部443は、ステップ356で生成された移動空間St(i)と、ステップ353で生成された排除空間Sb(j)とが重複しているかどうかを判定する(ステップ357)。つまり、ステップ355で判定された重複が解消していないかを判定する。
【0084】
ステップ357で移動空間St(i)と排除空間Sb(j)とが重複していないと判定されれば、つまり、重複が解消したと判定されれば、重複判定部443は、ノズル交換フラグFn(i)をONに設定する(ステップ358)。ここで、ノズル交換フラグFn(i)は、ONである場合に、i番目の積層パスの溶接トーチ13がi-1番目までの積層パスの既設ビードの何れかと干渉するために、溶接トーチ13のノズルを口径がより小さなものに交換すべきことを示す。尚、これまでのインデックスjについての処理で、ノズル交換フラグFn(i)が既にONとなっている場合は、この処理はスキップしてもよい。
【0085】
ステップ357で移動空間St(i)と排除空間Sb(j)とが重複していると判定されれば、つまり、重複が解消しなかったと判定されれば、重複判定部443は、例えばパス順序修正フラグFp(i,j)をONに設定する(ステップ359)。ここで、パス順序修正フラグFp(i,j)は、ONである場合に、i番目の積層パスの溶接トーチ13がj番目の積層パスの既設ビードと干渉し、ノズルを交換しても干渉を回避できないために、i番目の積層パスとj番目の積層パスとのパス順序を修正すべきことを示す。
【0086】
その後、重複判定部443は、ビード形成パスのインデックスjに1を加算する(ステップ360)。つまり、次のビード形成パスに着目する。そして、ビード形成パスのインデックスjがビード形成パスの個数i-1を超えたかどうかを判定する(ステップ361)。
【0087】
その結果、ビード形成パスのインデックスjがビード形成パスの個数i-1を超えていないと判定すれば、重複判定部443は、処理をステップ355へ戻す。
【0088】
一方、ビード形成パスのインデックスjがビード形成パスの個数i-1を超えたと判定すれば、重複判定部443は、処理をステップ362へ進める。
【0089】
その後、軌跡抽出部441は、積層パスのインデックスiに1を加算する(ステップ362)。つまり、次の積層パスに着目する。そして、積層パスのインデックスiが積層パスの個数nを超えたかどうかを判定する(ステップ363)。
【0090】
その結果、積層パスのインデックスiが積層パスの個数nを超えていないと判定すれば、軌跡抽出部441は、処理をステップ353へ戻す。
【0091】
一方、積層パスのインデックスiが積層パスの個数nを超えたと判定すれば、軌跡抽出部441は、処理を
図9へ戻す。
【0092】
(制御装置の動作)
制御装置50では、まず、制御プログラム取得部61が、記録媒体70から制御プログラムを取得して制御プログラム記憶部62に記憶する。この状態で、溶接ロボット10を用いて実際に積層造形物100を造形する際には、形状データ受信部63が形状センサ15からビードの形状を示す形状データを受信しながら、制御プログラム実行部64が制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出してこれを実行する。
【0093】
図11は、この制御プログラム実行部64の動作例を示したフローチャートである。尚、ここでは、i番目の積層パスで溶接トーチ13を移動させてビードを形成する時点での制御プログラム実行部64の動作例を示す。また、制御プログラムには、溶接トーチ13のノズルを口径がより小さなものに交換することを決定する根拠となった移動空間及び排除空間の座標情報が付加されているものとする。
【0094】
制御プログラム実行部64は、まず、制御プログラムから、移動空間St(i)と、排除空間Sb(1)~Sb(i-1)とを取得する(ステップ501)。ここで、移動空間St(i)とは、i番目の積層パスにビードを形成する際に溶接トーチ13が通過する移動空間である。排除空間Sb(j)(j=1,2,…,i-1)とは,j番目の積層パスに既に形成されたビードが溶接トーチ13の侵入を排除する排除空間である。尚、排除空間Sb(1)~Sb(i-1)の中には、
図6に示した領域123,133のような、各積層パスにおける排除空間がなす角度の部分に特別に追加された領域も含まれるものとする。
【0095】
次に、制御プログラム実行部64は、既にビードが形成された積層パスであるビード形成パスのインデックスjを1に設定する(ステップ502)。つまり、1つ目のビード形成パスに着目する。
【0096】
次に、制御プログラム実行部64は、ビード形成パスのインデックスjをビード形成パスの個数i-1まで1ずつ増加させながら、各インデックスjについてステップ503~ステップ510の処理を行う。
【0097】
即ち、制御プログラム実行部64は、まず、形状データ受信部63から排除空間Sbr(j)を取得したかどうかを判定する(ステップ503)。ここで、排除空間Sbr(j)は、形状データ受信部63から取得したj番目のビード形成パスにおける既設ビードの形状であってよい。溶接トーチ13でビードを形成する際に、全てのビード形成パスにおける既設ビードの形状を取得できるわけではないので、このような判定を行っている。
【0098】
ステップ503で排除空間Sbr(j)を取得したと判定すれば、制御プログラム実行部64は、この排除空間Sbr(j)が、ステップ501で取得した排除空間Sb(j)から乖離しているかどうかを判定する(ステップ504)。つまり、制御プログラム実行部64は、実際に計測した排除空間Sbr(j)が計画上の排除空間Sb(j)から乖離しているかどうかを判定する。
【0099】
ステップ504で排除空間Sbr(j)が排除空間Sb(j)から乖離していると判定すれば、制御プログラム実行部64は、ステップ501で取得した移動空間St(i)とステップ503で取得した排除空間Sbr(j)とが重複しているかどうかを判定する(ステップ505)。
【0100】
ステップ505で移動空間St(i)と排除空間Sbr(j)とが重複していると判定すれば、制御プログラム実行部64は、溶接トーチ13のノズルが交換可能であるか判定する(ステップ506)。つまり、制御プログラム実行部64は、溶接トーチ13に現在取り付けられているノズルが、用意された2種類のノズルのうちの口径が小さい方のノズルであるかを判定する。
【0101】
ステップ506で溶接トーチ13のノズルが交換可能であると判定すれば、制御プログラム実行部64は、ノズルを口径がより小さなものに交換した後の移動空間St(i)を生成する(ステップ507)。
【0102】
次に、制御プログラム実行部64は、ステップ507で生成された移動空間St(i)と、ステップ503で取得された排除空間Sbr(j)とが重複しているかどうかを判定する(ステップ508)。つまり、ステップ505で判定された重複が解消していないかを判定する。
【0103】
ステップ508で移動空間St(i)と排除空間Sbr(j)とが重複していないと判定すれば、つまり、重複が解消したと判定すれば、制御プログラム実行部64は、溶接トーチ13のノズルを口径がより小さなものに交換し(ステップ509)、処理をステップ511へ進める。
【0104】
ステップ503で排除空間Sbr(j)を取得しなかったと判定した場合も、制御プログラム実行部64は、処理をステップ511へ進める。ステップ504で排除空間Sbr(j)が排除空間Sb(j)から乖離していないと判定した場合も、制御プログラム実行部64は、処理をステップ511へ進める。ステップ505で移動空間St(i)と排除空間Sbr(j)とが重複していないと判定した場合も、制御プログラム実行部64は、処理をステップ511へ進める。
【0105】
一方、ステップ506で溶接トーチ13のノズルが交換可能でないと判定すれば、制御プログラム実行部64は、エラーを出力し(ステップ510)、処理を終了する。ステップ508で移動空間St(i)と排除空間Sbr(j)とが重複していると判定した場合、つまり、重複が解消しなかったと判定した場合も、制御プログラム実行部64は、エラーを出力し(ステップ510)、処理を終了する。
【0106】
その後、制御プログラム実行部64は、ビード形成パスのインデックスjに1を加算する(ステップ511)。つまり、次のビード形成パスに着目する。そして、ビード形成パスのインデックスjがビード形成パスの個数i-1を超えたかどうかを判定する(ステップ512)。
【0107】
その結果、ビード形成パスのインデックスjがビード形成パスの個数i-1を超えていないと判定すれば、制御プログラム実行部64は、処理をステップ503へ戻す。
【0108】
一方、ビード形成パスのインデックスjが積層パスの個数i-1を超えたと判定すれば、制御プログラム実行部64は、i番目の積層パスのビードを形成するように溶接ロボット10を制御し(ステップ513)、処理を終了する。
【0109】
[変形例]
上記では、2つのサイズの口径のノズルを用意し、大きい方の口径のノズルを用いると溶接トーチ13と積層造形物100とが干渉する場合に、小さい方の口径のノズルに交換するようにしたが、この限りではない。複数のサイズの口径のノズルを用意し、大きい口径のノズルを用いると溶接トーチ13と積層造形物100とが干渉する場合に一段階小さい口径のノズルに交換する、という処理を繰り返すようにしてもよい。
【0110】
また、上記では、溶接トーチ13の口径をより小さくするために、溶接トーチ13のノズルを口径がより小さなものに交換することとしたが、この限りではない。溶接トーチ13の口径をより小さくするために、タンデムアーク溶接用のトーチをシングルアーク溶接用のトーチに交換する等、溶接トーチ13を交換することとしてもよい。
【0111】
[本実施の形態の効果]
以上述べたように、本実施の形態では、溶接トーチ13が通過する移動空間と、既設のビードが溶接トーチ13の侵入を排除する排除空間とに重複部分がある場合に、溶接トーチ13のノズルを口径がより小さなものに交換するようにした。これにより、積層造形物100を造形する金属積層造形システム1において、溶接トーチ13のノズルとして口径が小さなノズルを必要最低限用いて積層造形物100を造形できるようになった。
【符号の説明】
【0112】
1…金属積層造形システム、10…溶接ロボット、15…形状センサ、20…CAD装置、30…積層計画装置、41…CADデータ取得部、42…CADデータ分割部、43…積層計画部、44…ノズル交換判定部、441…軌跡抽出部、442…空間生成部、443…重複判定部、45…制御プログラム生成部、46…制御プログラム出力部、50…制御装置、61…制御プログラム取得部、62…制御プログラム記憶部、63…形状データ受信部、64…制御プログラム実行部、70…記録媒体