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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】薬剤放出制御剤形
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/36 20060101AFI20240606BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20240606BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240606BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240606BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240606BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240606BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240606BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 31/606 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 31/58 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 9/28 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 9/32 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 9/36 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240606BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20240606BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
A61K47/36
A61P1/12
A61P1/04
A61P35/00
A61P31/04
A61P29/00
A61P37/02
A61P37/06
A61K31/606
A61K31/58
A61K31/573
A61K31/7068
A61K31/513
A61K31/4745
A61K31/282
A61K39/395 N
A61K9/28
A61K9/32
A61K9/36
A61K47/32
A61K47/14
A61K47/02
A61K47/20
A61K47/12
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021513266
(86)(22)【出願日】2019-09-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-27
(86)【国際出願番号】 EP2019073462
(87)【国際公開番号】W WO2020048979
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-07-13
(31)【優先権主張番号】18192852.4
(32)【優先日】2018-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】18212186.3
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521092845
【氏名又は名称】ファハホーホシューレ ノルドヴェストシュヴァイツ
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イマンディス,ゲオルギオス
(72)【発明者】
【氏名】ランツ,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】リップス,ゲオルグ
(72)【発明者】
【氏名】パレデス,ヴァレリア
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0000740(US,A1)
【文献】MI KYONG YOO; ET AL,DRUG RELEASE FROM XYLOGLUCAN BEADS COATED WITH EUDRAGIT FOR ORAL DRUG DELIVERY,ARCHIVES OF PHARMACAL RESEARCH,2005年06月,VOL:28,NR:6,PAGE(S):736-742,http://dx.doi.org/10.1007/BF02969366
【文献】Arun R. RAJ,Formulation and evaluation of prednisolone tablets using biodegradable natural polysaccharides as a carrier in colon targeted drug delivery,INTERNATIONAL JOURNAL OF PHARMACEUTICALSCIENCES AND RESEARCH,2013年,No: 26
【文献】DEEPALI GAWALE,Formulation and in-vitro characterization of multiple unit sustained release matrix pellets of lornoxicam using natural gums,Indian Journal of Novel Drug delivery,2013年,5(4),pp. 208-220
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのシェル(3)によってカプセル化され、かつ少なくとも1つの医薬品有効成分(4)を含むコア(2)を有するコアシェル型錠剤(1)であって、
前記少なくとも1つの医薬品有効成分(4)は、前記コアシェル型錠剤(1)の前記コア(2)に埋め込まれているか、又は、前記コアシェル型錠剤(1)の前記コア(2)を形成しており、
前記シェル(3)は、6.5を超えるpHでのみ溶解するpH応答性コーティングを含み、
前記コア(2)は、天然の精製された、冷水可溶性タイプの、脱ガラクトシル化されていないキシログルカンを基材にしている、前記コアシェル型錠剤。
【請求項2】
前記少なくとも1つの医薬品有効成分(4)が、前記コアシェル型錠剤(1)の前記コア(2)に埋め込まれており、前記コア(2)は、前記医薬品有効成分(4)を含有する、天然の精製された、冷水可溶性タイプの、脱ガラクトシル化されていないキシログルカン(5)を基材とするマトリックスによって形成され、
及び/又は、前記コアは、少なくとも0.7の相対密度を有する単一の固体圧縮成形コアであり;
及び/又は、前記コア及び/又は前記コアシェル型錠剤全体の、最小直径の方向での平均直径が、少なくとも3mmであり;
及び/又は、前記コア及び/又は前記コアシェル型錠剤全体は、少なくとも25Nの破砕力を有する、請求項1に記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項3】
前記コアは、少なくとも0.75若しくは少なくとも0.8の相対密度を有する単一の固体圧縮成形コアであり;
及び/又は、前記コア及び/又は前記コアシェル型錠剤全体の、最小直径の方向での平均直径が、少なくとも4mm、あるいは、少なくとも4.5mm又は5mmであり;
及び/又は、前記コア及び/又は前記コアシェル型錠剤全体は、少なくとも40N又は少なくとも100Nの破砕力を有する、請求項1又は2に記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項4】
前記シェル(3)が、前記キシログルカン(5)を基材にしているか又は前記キシログルカン(5)を含まない、6.5を超えるpHでのみ溶解するpH応答性コーティングの形態の少なくとも1つの外層と、並びに、前記外層が前記キシログルカン(5)を含まない場合は、前記キシログルカン(5)を基材とする少なくとも1つの内層とを含む、請求項1~3のいずれかに記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項5】
前記コアシェル型錠剤が、経口投与及び結腸における前記医薬品有効成分の標的放出に適合され、前記シェル(3)が、少なくとも6.7のpH、又は、少なくとも6.8のpHでのみ溶解するpH応答性コーティングを少なくとも1つ含むか、又は、当該pH応答性コーティングからなる、請求項1~4のいずれかに記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項6】
前記シェル(3)、すなわちその前記少なくとも1つのpH応答性コーティングが、合成ポリマー及び/又は生体高分子、又はそれらの混合物を基材にしている、請求項1~5のいずれかに記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項7】
前記シェル(3)、すなわちその前記少なくとも1つのpH応答性コーティングが、合成ポリマー及び/又は生体高分子、又はそれらの混合物を基材にしているか、又は、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸を基材とするアニオン性コポリマーを含む、アニオン性アクリレートコポリマーを基材にしており、遊離カルボキシル基のエステル基に対する比率が1:5~1:10であるか、又は、1:10であり、前記アニオン性アクリレートコポリマーの重量平均モル質量(Mw)が200,000~400,000g/mol、又は、250,000~300,000g/molである、請求項1~6のいずれかに記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項8】
前記シェル(3)、すなわちその前記少なくとも1つのpH応答性コーティングが、アニオン性アクリレートコポリマーと25%未満の割合のさらなる添加との混合物からなる、請求項1~7のいずれかに記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項9】
前記アニオン性アクリレートコポリマーが、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸を基材とするアニオン性コポリマーであり、遊離カルボキシル基のエステル基に対する比率が1:5~1:10であるか、又は、1:10であり、前記アニオン性アクリレートコポリマーの重量平均モル質量(Mw)が、200,000~400,000g/mol、又は、250,000~300,000g/molであり、
及び/又は、前記さらなる添加剤が、ポリオキシエチレン及びその誘導体、ラウリル硫酸ナトリウムを含むアニオン性界面活性剤、タルク、酸化鉄(III)を含む染料、クエン酸トリエチルを含む安定剤からなる群から選択される、請求項8に記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項10】
前記少なくとも1つのpH応答性コーティング又は前記シェル(3)全体の乾燥コーティングの量が、1~10mg/cmである、請求項1~9のいずれかに記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項11】
前記少なくとも1つのpH応答性コーティング又は前記シェル(3)全体の乾燥コーティングの量が、2.5~6mg/cmである、請求項1~10のいずれかに記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項12】
前記シェル(3)を形成する1つだけの単一のカプセル化pH応答性コーティング(3)が供される、請求項1~11のいずれかに記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項13】
前記コア(2)の前記マトリックスが、本質的又は完全に前記キシログルカン(5)からなり、前記キシログルカン(5)が、タマリンドゥス・インディカ種子から得ることができ、及び/又は、非晶質であり、
及び/又は、出発物質として使用される前記キシログルカンが、少なくとも70μm、又は70~150μm、又は80~110μmの粒径(d50%)を有し、
及び/又は、前記キシログルカンが、400,000~500,000g/molの重量平均モル質量(Mw)を有する、請求項1~12のいずれかに記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項14】
前記コア(2)が、下記(A)~(C):
(A)前記キシログルカン 25~90重量%、又は40~90重量%;
(B)少なくとも1つの医薬品有効成分 10~60重量%;
(C)希釈剤、結合剤、付着防止剤、潤滑剤、流動促進剤、及びそれらの組合せからなる群から選択される、1種以上の薬学的に許容される賦形0~20重量%、又は5~10重量%;からなり、
又は、前記コア(2)が、下記(A)~(C):
(A)前記キシログルカン 25~90重量%、又は40~90重量%;
(B)少なくとも1つの医薬品有効成分 10~60重量%;
(C)希釈剤、結合剤、潤滑剤、流動促進剤、及びそれらの組合せからなる群から選択される、1種以上の薬学的に許容される賦形0~20重量%、又は5~10重量%;からなる顆粒からなり、
前記顆粒は、圧縮されてコア(2)を形成している、請求項1~13のいずれかに記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項15】
前記薬学的に許容される賦形剤が、本質的に結合剤からなるか、又は、
前記薬学的に許容される賦形剤が、結合剤及び付着防止剤からなり、前記結合剤がPVPであり、前記付着防止剤がステアリン酸マグネシウムである、請求項14に記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項16】
前記結合剤がPVPであり、前記付着防止剤がステアリン酸マグネシウムである、請求項15に記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項17】
前記コア(2)の前記マトリックスの、前記少なくとも1つの医薬品有効成分に対する重量比が、少なくとも1:2、又は少なくとも1:1、又は少なくとも2:1である、請求項1~16のいずれかに記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項18】
結腸内のマイクロバイオーム集団の均衡若しくは下部消化管の生理機能を確立、再確立、及び/又は、改変させる目的のための、又は免疫調節若しくは免疫抑制のための、又は、潰瘍性大腸炎及び/又はクローン病を含む炎症性腸疾患、クロストリジウム・ディフィシル感染症、結腸がん、結腸外科処置後の状態のうちの少なくとも1つの状態の処置のための、請求項1~17のいずれかに記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項19】
前記医薬品有効成分が、メサラジン、ブデソニド、カペシタビン、フルオロウラシル、イリノテカン、オキサリプラチン、UFT、セツキシマブ、パニツムマブ、インターロイキン、サイトカイン、ケモカイン、タクロリムス、シクロスポリン、結腸内のマイクロバイオーム集団の平衡を確立、再確立、又は、改変することを目的とする材料、又はそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1~18のいずれかに記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項20】
前記医薬品有効成分が、免疫抑制性グルココルチコイドからなる群から選択される、請求項1~18のいずれかに記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項21】
少なくとも1週間、又は少なくとも2週間、又は少なくとも2か月、又は少なくとも1年、又はさらには生涯の期間にわたって、少なくとも1日1回、又は1日2回、経口投与される、請求項1~20のいずれかに記載のコアシェル型錠剤(1)。
【請求項22】
請求項1~21のいずれかに記載のコアシェル型錠剤を製造する方法であって、
第1のステップでは、天然の精製された、冷水可溶性タイプの、脱ガラクトシル化されていないキシログルカン、及び少なくとも1つの医薬品有効成分を、混合しその後圧縮して前記コアを形成するか、又は、これらを混合し処理して顆粒を形成し、続いて、圧縮して前記コアを形成し
の後、第2のステップで、前記コアを、シェルを形成する少なくとも1つのコーティングによりコーティングする、方法。
【請求項23】
請求項1~21のいずれかに記載のコアシェル型錠剤を製造する方法であって、
第1のステップでは、天然の精製された、冷水可溶性タイプの、脱ガラクトシル化されていないキシログルカン、少なくとも1つの医薬品有効成分、及び1種以上の薬学的に許容される賦形剤を、混合しその後圧縮して前記コアを形成するか、又は、これらを混合し処理して顆粒を形成し、続いて、最初に前記顆粒をさらなる処理剤と混合し、圧縮して前記コアを形成し、
ここで、前記の両方の場合における混合は、流動床造粒機又は高剪断ミキサーを使用して行われ、
その後、第2のステップで、前記コアを、シェルを形成する少なくとも1つのコーティングによりコーティングし、ここで、前記コーティングの形成には、分散液が供され、ドラム塗工機内で施される、方法。
【請求項24】
前記コアが、少なくとも0.7、又は少なくとも0.75、又は少なくとも0.8の相対密度を有し、及び/又は、最小直径の方向での平均直径が、少なくとも3mm、又は少なくとも4mm、又は少なくとも4.5mm又は5mmである単一のコアである、請求項22又は23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に結腸に選択的に送達される医薬品有効成分の経口投与のための医薬製剤剤形、並びにそのような医薬製剤剤形を製造するための方法及び対応する剤形に好適な投薬レジメンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、腸障害の処置に有用である、キシログルカンと植物タンパク質又は動物タンパク質との相乗的組合せを含む組成物を開示している。下痢の処置のための錠剤が、キシログルカン、エンドウ豆タンパク質又はゼラチンをベースにして提案されている。
【0003】
特許文献2は、旅行者の下痢、過敏性腸症候群、及び肝性脳症の処置に使用される抗生物質であるリファキシミンτを調製する方法、前記リファキシミン形態、並びに微結晶性セルロース、HPMC、ステアリン酸グリセリル、デンプングリコール酸ナトリウムなどの典型的な製剤成分を含む医薬組成物、並びに炎症及び感染症を処置するためのその使用について記載している。
【0004】
特許文献3は、デンプン;アミロース;アミロペクチン;キトサン;コンドロイチン硫酸;シクロデキストリン;デキストラン;プルラン;カラギーナン;スクレログルカン;キチン;カードラン、及びレバン、から選択される第1の材料と、約pH5以上のpH閾値を有する第2の材料との混合物を含む遅延放出コーティングを使用してコアからの薬剤の放出を腸、特に結腸に標的化することを開示している。
【0005】
特許文献4は、経口投与後に医薬化合物を結腸内に放出する医薬微粒子を開示している。粒子は、医薬化合物を含むコア、コアを取り囲む内側コーティングを含み、内側コーティングは、結腸ミクロフローラに存在する1種以上の酵素による酵素消化を受けやすい薬学的に許容される多糖、及び内側コーティングを取り囲む外側コーティングを含み、外側コーティングは、上部消化管pHで安定であるが、pH>6で溶解することができるポリマーを含む。微粒子であるコアは、希釈剤、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、流動促進剤、又はそれらの組合せなどの賦形剤をさらに含むことができる。微粒子は、クロストリジウム・ディフィシル感染症、潰瘍性大腸炎、結腸がん、及びクローン病などの結腸疾患を処置するための医薬化合物を含むことができる。
【0006】
非特許文献1において、中空マイクロカプセルを、セルロースナノフィブリル及びキシログルカン-アミロイド、又はセルロースナノフィブリル、キシログルカン-アミロイド及びリンゴペクチンを個々の層の材料として使用して、層ごとのプロセスで構築する、という研究が示されている。対応する壁構造は、電解質濃度に応じて、デキストランなどの系に対して選択的に透過性であることが見出され、製薬目的のための対応するマイクロカプセルの使用が将来の用途として想定されている。
【0007】
非特許文献2には、錠剤マトリックスとしてのタマリンドシード多糖の使用について記載されており、インビトロ試験でイブプロフェンの放出が検討されている。イブプロフェンの放出は、ラット盲腸内容物の存在下で加速される。
【0008】
非特許文献3において、ジイソシアネートによって架橋されたラムノガラクツロナン-Iベースのマイクロカプセルを製造する方法が開示されており、対応するマイクロカプセルがモデルシステムを取り込むことができるという証拠、及びマイクロカプセルが対応する酵素条件下で放出されるという証拠を提供する。
【0009】
非特許文献4には、インドメタシンの持続放出のための脱ガラクトシル化キシログルカンの使用について記載されている。キシログルカンをベータガラクトシダーゼで処理することにより、末端のガラクトース残基が除去され、これによりポリマーのレオロジー特性及びコロイド特性が変化する。脱ガラクトシル化キシログルカンは、未修飾キシログルカンでは観察されない特性、すなわち熱可逆性ゾル-ゲル転移を呈する(非特許文献5)。脱ガラクトシル化キシログルカンをインドメタシンと混合し、ヒドロゲルを形成させた。ヒドロゲルビーズを乾燥させ、EudragitL100でコーティングした。得られた製剤は、胃の通過をシミュレートするインビトロ実験によって示されたように、主に小腸でインドメタシンを放出した。
【0010】
特許文献5は、1.5~4.0の間のpH値でリファキシミンの放出を阻害し、5.0~7.5の間のpH値での放出が可能になることを特徴とする胃耐性微小顆粒によって得られる、リファキシミンを含む胃耐性錠剤、それらの取得するための方法、並びに炎症性腸疾患に直接又は間接的に由来する疾患の処置及び予防におけるそれらの使用を開示している。医薬品有効成分は、シリカ、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、タルク、二酸化チタン、酸化鉄、微結晶性セルロース、ステアリン酸マグネシウムなどを含む種々の成分のマトリックスに埋め込まれている。錠剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び二酸化チタンがベースのフィルムコーティングを備えている場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2015/158771号
【文献】米国特許出願公開第2017/088557号明細書
【文献】国際公開第2007/122374号
【文献】米国特許出願公開第2018/000740号明細書
【文献】国際公開第2012/038898号
【非特許文献】
【0012】
【文献】Paulrajら「Bioinspired capsules based on nano-cellulose, xyloglucan and pectin - The influence of capsule wall composition on permeability properties」(ActaBiomaterialia 69(2018)196~205頁)
【文献】Mishraら(Int J Pharm Sci、3(1)、139~142頁)
【文献】Svaganら「Rhamnogalacturonan-I Based Microcapsules for Targeted Drug Release」(PLOS ONE、2016年12月19日)
【文献】Yooら(Arch Pharm Res Vol 28、6、p736~742)
【文献】Brun-Graeppi、Amanda K.Andriola Silvaら、2010年「Study on the Sol-Gel Transition of Xyloglucan Hydrogels.」Carbohydrate Polymers 80(2):555~62頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、免疫調節若しくは免疫抑制、或いは結腸内のマイクロバイオーム集団の平衡又は下部消化管の生理機能の確立、再確立、及び/若しくは改変を目的とする状況を含んで、特に結腸において、医薬品有効成分(API)の標的放出を可能にする、(経)口投与用の新しい医薬製剤剤形を提供及び提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
提案された医薬製剤剤形は、少なくとも1つのシェルによってカプセル化されたコア及び少なくとも1つの医薬品有効成分を含むコアシェル型錠剤であり、前述した少なくとも1つの医薬品有効成分は、医薬製剤剤形の前記コアに埋め込まれている。
【0015】
本発明によれば、前記コア及び前記シェルの少なくとも1つは、少なくとも部分的に、キシログルカンを基材にしている。好ましくは、前記コアは、キシログルカンを基材にした、又はキシログルカンから本質的になる、前記医薬品有効成分を含むマトリックスによって形成される。その結果、キシログルカンは、経口(oral)/経口(per-oral)投与用の固体医薬剤形において、結腸を含む消化管における局所治療作用のための医薬品有効成分の送達を制御及び標的化するための、賦形剤及び/又は添加剤として作用しており、前記固体医薬剤形としては、錠剤、例えば、圧縮成形錠剤又はモールド成形錠剤を包含し、これらは非コーティングであってもよく、フィルムコーティングされていてもよく、又は糖コーティングされていてもよい。
【0016】
さらに、前記シェルはpH応答性コーティングであり、好ましくは、キシログルカンは、シェルのみに存在する場合、pH応答性コーティングを形成する層内に存在するか、又はpH応答性コーティングの内側に存在するコーティング層内に存在するはずである。
【0017】
したがって、本発明は、医薬品有効成分(API)が物理的に埋め込まれている錠剤などの固体剤形を製造するためのマトリックス形成材料としてのキシログルカンの使用を必然的に伴う。腸液と接触すると、キシログルカンマトリックス又はコーティングは崩壊せず、代わりに、APIの放出を妨げる、高い粘性を有するゲル状の溶液又は粘着性の塊をゆっくりと形成する。剤形が結腸に到着すると、キシログルカンはミクロフローラによって消化され、これによってAPIの放出が引き起こされる。このようにして、API又は薬剤の結腸への特異的な送達が達成され、効率的なAPI標的化を誘発する。
【0018】
キシログルカンは、植物の細胞壁由来の多糖である。タマリンドゥス・インディカ(Tamarindus indica)種子から精製されたキシログルカン品質が使用されるが、他の植物源の材料が適用されることもある。キシログルカンは、腸内マイクロバイオームにおいて最も豊富な属であるいくつかのバクテロイデス種によって消化されることが示された。
【0019】
キシログルカンが結腸に到達する前に腸液と接触するのを最小限に抑え、APIの早期放出をさらに減少させるために、剤形を、少なくともpH6.8のpHで溶解するpH応答性フィルムでコーティングする。
【0020】
API用の埋め込みマトリックス材料として使用されるキシログルカンとpH感受性フィルムコーティングとの組合せにより、APIの治療指数を最適化することを目的とする放出制御機構の冗長性が生じる。コーティングは、小腸におけるあらゆる環境下で発生する、わずかに酸性のpH~中性のpHで溶解するように設計されており、剤形が結腸に到達する前に、確実にフィルムが除去されることを保証する。コーティングが溶解した後、以下の特性を有するキシログルカンを用いていなければ小腸で時期尚早に起こるであろうAPIの放出は、キシログルカンの特性、すなわち、崩壊せず、その代わりに高い粘着性を有する塊を形成するというキシログルカンの特性によって妨げられる。結腸マイクロバイオータによるキシログルカンの消化のみがAPIの放出を引き起こし、これにより、非常に効率的な、活性成分又は薬剤の標的化が提供される。
【0021】
pH感受性コーティングのみに依存する消化管内での制御放出は、非常にばらつきのある結果をもたらす。これは、腸内pHの個体内及び個体間のばらつき、食物の摂取に対するpHの依存性などによるものである。その結果として、大腸に剤形が到着する前にコーティングが早期に溶解すると、活性成分が全身に吸収され、したがってその結腸への特異的送達及び局所治療効果が失われ、全身的な副作用が発生し、つまり治療指数が悪化する。他方、コーティングが小腸内で溶解しないと、糞便中に無損傷の剤形が排泄される。
【0022】
小腸内での活性成分又は原薬の放出を防ぐ手段としてマトリックスの形成材料を使用するには、小腸の水性環境でのこれらの材料による効果的なバリア形成及び結腸のマイクロバイオームによるそれらの効率的な分解が求められる。
【0023】
従来技術は、胃での放出を防ぎ、腸での放出を向上させるために腸溶性コーティングのみ及びキシログルカンのみを使用したが、腸溶性コーティングとキシログルカンの二重での使用の組合せが結腸送達に有用であることを実証することはできなかった。提案された二重放出機構は、解決策がまだ提案されていない、消化管の状態の個体内及び個体間のばらつきにも具体的に対処する。
【0024】
経口投与による、結腸への効率的な活性成分又は薬剤の標的化がこのようにして、小腸における活性成分又は薬剤の最小の放出、それ故に全身循環への最小の吸収及び局所治療効果のための結腸への最大のAPI送達を伴って達成される。これは、炎症性腸疾患、結腸がん、クロストリジウム・ディフィシル感染症、及びさらには、全身というよりはむしろ局所的な活性成分又は薬剤の適用から利益を得る大腸の状態についての治療的処置に必要かつ有利であるだけでなく、免疫調節若しくは免疫抑制のために、又は結腸内のマイクロバイオーム集団の平衡若しくは下部消化管の生理機能を確立、再確立、及び/又は改変させる目的のために必要かつ有利である。
【0025】
したがって、新しい医薬品は、経口投与による特異的な結腸活性成分として又は薬剤送達のために利用可能になる。治療用領域としては、炎症性腸疾患及び結腸がんが挙げられるが、免疫調節又は免疫抑制も挙げられる。これらの症状に対する既存の医薬品有効成分(API)を主に使用してもよいが、新しい化学物質の利用も可能である。
【0026】
本出願において示される医薬品有効成分(API)は、従来の医薬化合物を含み、それは低分子でも高分子でもよく、例えば抗体に基づいた医薬品であり、特に錠剤による処置のための、又は免疫調節若しくは免疫抑制のためのものである。
【0027】
また一方、本出願における医薬品有効成分はまた、結腸内のマイクロバイオーム集団の平衡を確立、再確立、及び/又は改変させる目的のためのあらゆる種類の材料を含む。これらとしては、
1)胞子及び/又は菌株混合物を含む選択された細菌株;
2)発酵基質、窒素源、微量元素(Fe)などの結腸微生物のための栄養素;
3)ビタミン、ホルモン、抗生物質、毒素などを含む細菌増殖の修飾物質;
4)選択された菌株の増殖、生存、又はコロニー形成に有利に及び/又は不利に働くことにより、マイクロバイオームの組成に影響を与える化合物、
が挙げられる。
【0028】
したがって、APIという用語には、一般に、下部消化管の生理機能に有益な効果を与える化合物も含まれる。
【0029】
現在の送達様式は、治療効果の最大化又は免疫調節若しくは免疫抑制又はマイクロバイオーム集団の平衡の再確立及び/又は改変、並びに副作用の最小化を含む、活性成分又は薬剤の最良の治療指数に必要とされる結腸標的化の水準を達成しない。
【0030】
以下でさらに見られるように、錠剤の気孔率に応じて、短いバーストの後、API(5-ASA)がその後ゼロ次速度で放出される。錠剤がコーティングされているかどうかに関係なく、同じ放出速度が観測される。非コーティング錠剤は直ちに5-ASAを放出する。コーティング錠剤は、腸溶性コーティングが溶解するとすぐに放出する(pH、並びに使用する特定のコーティングの種類及び厚さに応じて)。
【0031】
腸溶性コーティングを有する錠剤は、コーティングを使用して錠剤を保護し、胃の通過中の崩壊及びAPI放出を防ぐ。市販の5-ASA錠は主にポリ(アクリレート-メタクリレート)コーティングが施されている。コーティングは組成が異なり、コーティングの溶解が開始されるpHに応じて、ある特定の時点で放出が特異的に引き起こされる。したがって、放出の時点は、pHに決定的に依存している。換言すれば、錠剤が意図する遅延は、腸内のpHに大きく影響を受け、腸内のpHはさらに複数の生理学的要因に影響を受ける。結果として、そのような製剤による確かな遅延放出は、特にクローン病及びIBDに罹患している患者では達成可能ではない。
【0032】
対照的に、本明細書で提案されている錠剤は、弱酸性からほぼ中性の条件下での放出を可能な限り防ぐように処方されている。これにより、原則として、錠剤が結腸内で崩壊せず、多かれ少なかれ無損傷で排泄されるリスクを負う。しかし、錠剤マトリックスとしてキシログルカンを含めると、植物細胞壁物質を特異的に消化するマイクロバイオームの作用により、結腸内で錠剤コアが不安定になる。したがって、本発明者らの技術の腸溶性コーティングの目的はまた、小腸に沿って錠剤を安定させることである。胃及び小腸通過中に、マトリックスコアが湿り、これにより常在する結腸マイクロバイオームによる結腸内のキシログルカンの消化が加速する可能性がある。
【0033】
腸溶性コーティングとキシログルカンとの組合せは、単純な相加効果を超えるものである。驚くべきことに、API(例えば、5-ASA)の放出に対して相乗効果がある。コーティング錠剤及び非コーティング錠剤は、微生物酵素の非存在下で、1時間あたりAPI(例えば5-ASA)の重さの3~4%を放出する(図4(非コーティング)、図3、トレース0U/mL、及び図5、トレース8及び9(コーティング))。対照的に、非コーティング錠剤は、同じ実験条件下であるが微生物酵素の存在下では、1時間あたりAPI(5-ASA)の7.5%を放出し、及びコーティング錠剤は、1時間あたり15%を放出する(図3、トレース1U/mL)。コーティング錠剤において観察されるこのより迅速な放出によって、より効率的な結腸送達が可能になる。
【0034】
医薬製剤剤形、典型的には錠剤は、好ましくは、経口投与及び結腸内での医薬品有効成分の標的放出に適合している。この目的のために、好ましくは、前記シェルは、6.5を超える、好ましくは少なくとも6.7、より好ましくは少なくとも6.8のpHでのみ溶解するpH応答性コーティングである。
【0035】
第1の好ましい実施形態によれば、前記少なくとも1つの医薬品有効成分は、医薬製剤剤形の前記コアに埋め込まれており、前記コアは、前記医薬品有効成分を含むキシログルカンを基材とするマトリックスによって形成される。そのため、シェルにはキシログルカンが含まれていないことがあり、その場合、APIは、キシログルカンを基材にしているか又は本質的にキシログルカンからなるマトリックスのコアに埋め込まれている。
【0036】
前記シェルは、代替的又は追加的に、キシログルカンを基材とする少なくとも1つの層を有して、pH応答性コーティングの形態の少なくとも1つの外層を含んでもよい。シェルが、キシログルカンを基材とする層を含む場合、典型的には、これは、コアのマトリックス成分としてキシログルカンを有する代わりになる。その場合、コアは、好ましくは、APIのみによって形成されるか、又はコアは、キシログルカンを含まないマトリックス中にAPIを含む。しかし、キシログルカンを基材とするシェル層とキシログルカンを基材とするコアマトリックスとを使用することもできる。
【0037】
キシログルカンを基材とするシェル層の場合、キシログルカンを基材とする前記シェル層又はさらなる追加のシェル層は、pH応答性を提供するためのさらなる成分を含む。特に、シェルのpH応答性の外側コーティングがキシログルカンを基材にしていない場合、例えば、コア内にAPIのマトリックスを形成するキシログルカンが存在しない場合、キシログルカンを基材とする少なくとも1つの内側シェル層が存在する可能性がある。
【0038】
医薬製剤剤形は、経口投与及び結腸内での医薬品有効成分の標的放出に適合させることができ、前記シェルは、6.5を超えるpH、好ましくは少なくとも6.7のpH、より好ましくは少なくとも6.8のpHでのみ溶解する、少なくとも1つのpH応答性コーティングを含み得るか、又は、1つのpH応答性コーティングからなり得る。
【0039】
前記シェル、特にその少なくとも1つのpH応答性コーティングは、アニオン性アクリレートコポリマー、好ましくはアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸を基材にしたアニオン性コポリマーなどの合成ポリマーを基材とすることができ、好ましくは、遊離カルボキシル基のエステル基に対する比は、1:5~1:10、好ましくは1:10であり、好ましくは、アニオン性アクリレートコポリマーの重量平均モル質量(Mw)は、200,000~400,000g/mol、好ましくは250,000~300,000g/molであり、以下の系、すなわち、遊離及びエステル化脂肪族ヒドロキシ酸及び/又は芳香族ヒドロキシ酸の混合物を含む、生体高分子、特に、非水溶性生体高分子、例えば、植物及び/又は動物由来の生体高分子の1つ又はそれらの混合物を有する。
【0040】
前記シェル、特にその少なくとも1つのpH応答性コーティングは、アニオン性アクリレートコポリマー、好ましくはアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸を基材にしたアニオン性コポリマーの混合物からなり得、好ましくは、遊離カルボキシル基のエステル基に対する比は、1:5~1:10、好ましくは1:10であり、好ましくは、アニオン性アクリレートコポリマーの重量平均モル質量(Mw)は、200,000~400,000g/mol、好ましくは250,000~300,000g/molであり、25%未満の割合のさらなる添加剤を含み、前記さらなる添加剤が、好ましくは、ポリオキシエチレン及びその誘導体、アニオン性界面活性剤、特にラウリル硫酸ナトリウム、タルク、染料、特に酸化鉄(III)、安定剤、特にクエン酸トリエチルからなる群から選択される。
【0041】
前述した少なくとも1つのpH応答性コーティング又はシェル全体の乾燥コーティング量は、1~10mg/cm、好ましくは2.5~6mg/cmであり得る。特に、シェル又はシェルの少なくとも1つの層がキシログルカンを基材にしている場合、乾燥コーティング量はまた、はるかに高くなる可能性がある。例えば、コアがAPI単独で構成されている場合、キシログルカンのシェル層は、最大でコアと同じ重量、例えば、コアの30~50重量%になる可能性がある。
【0042】
前記シェルを形成する1つだけの単一のカプセル化pH応答性コーティングを提供することができる。
【0043】
コアの前記マトリックスは、本質的又は完全にキシログルカンからなり得、好ましくは、前記キシログルカンは、タマリンドゥス・インディカ種子から得られ、及び/又は冷水溶性であり、及び/又は非晶質である。
【0044】
出発物質として使用されるキシログルカンは、少なくとも70μm、好ましくは70~150μm、より好ましくは80~110μmの粒径(d50%)を有することができる。
【0045】
キシログルカンは、400,000~500,000g/molの重量平均モル質量(Mw)を有することができる。
【0046】
好ましくは、前記キシログルカンは完全に冷水可溶性であり、これは、出発物質を室温にて蒸留水中、少なくとも1% w/v、好ましくは少なくとも1.5又は2% w/vの濃度で冷混合すると完全に溶解することを意味する。好ましくは、このタイプの前記キシログルカンは、さらに完全に非晶質であり、不純物を本質的に含まず、特にグルコース及び/又はデキストランを含まない、すなわち、出発物質の純度は、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%又は少なくとも99重量%である。そのようなタイプの前記キシログルカンが選択された場合、錠剤は崩壊の傾向が減少し、したがってより安定であり、結腸内におけるより一貫して制御された信頼性の高いAPI放出を提供する。特に、水中で室温にて4時間又は6時間放置した後でも崩壊しない錠剤を作製することができる(Ph.Eur.に従って測定)。
【0047】
驚くべきことに、キシログルカンの種類は、その効果及び適合性に大きな影響を及ぼす。本発明者らは、高度に精製されているが他の点では天然キシログルカンであるグリロイド2A(温水可溶性)及び3S(冷水可溶性)の2種類を使用した。温水可溶性品種のグリロイド2Aを、錠剤コアの製造用に処理した。錠剤コアは、迅速に崩壊した。温水可溶性キシログルカンは、室温又は体温でAPIをあまり効率的に放出しないと予想されたため、本発明者らは、温水可溶性キシログルカンは、冷水可溶性キシログルカンよりも好適であると予想した。したがって、温水可溶性品種は、生理学的pHで溶解せず、薬剤放出を妨げる固体マトリックスを形成するので、好ましいマトリックスであると予想されるが、冷水可溶性品種は、マトリックスが腸内で急速に溶解しきって、遅延又は結腸送達が不可能になるというかなりのリスクを伴う、ということが予想されるであろう。驚くべきことに、本発明者らは、温水可溶性タイプから製造された錠剤は、水中で比較的速く(1時間未満で)崩壊して小さな固体粒子になり、高表面積であるために、次いでAPIをかなり速く放出するが、対照的に、冷水可溶性キシログルカン錠剤は、薬剤放出を妨げる、粘性を有する粘着性の塊を周囲に形成し、その間、錠剤は少なくとも24時間無損傷のままであったことを見出した。
【0048】
したがって、好ましくは、キシログルカンは、脱ガラクトシル化されていない及び/又は天然である。好ましくは、キシログルカンは、天然の高度に精製されたキシログルカンであり、より好ましくは、冷水可溶性タイプのものである。
【0049】
前記コアは、下記(A)~(C)からなり得る。
(A)キシログルカン 25~90重量%、好ましくは40~90重量%;
(B)少なくとも1つの医薬品有効成分 10~60重量%;
(C)希釈剤、結合剤、付着防止剤、潤滑剤、流動促進剤、及びそれらの組合せからなる群から選択される、1種以上の薬学的に許容される賦形剤であって、好ましくは、結合剤又は結合剤及び付着防止剤、特に、PVPとして選択される結合剤及びステアリン酸マグネシウムとしての付着防止剤から本質的になる、薬学的に許容される賦形剤 0~20重量%、好ましくは5~10重量%
【0050】
コアはまた、下記(A)~(C)からなる顆粒からなり得る。
(A)キシログルカン 25~90重量%、好ましくは40~90重量%;
(B)少なくとも1つの医薬品有効成分 10~60重量%;
(C)希釈剤、結合剤、潤滑剤、流動促進剤、及びそれらの組合せからなる群から選択される、1種以上の薬学的に許容される賦形剤であって、好ましくは、結合剤、特にPVPとして選択される結合剤から本質的になる、薬学的に許容される賦形剤 0~20重量%、好ましくは5~10重量%
その顆粒は、前記シェルを適用する前に圧縮されてコアを形成し、好ましくは、圧縮する前に、前記顆粒は、付着防止剤、好ましくはステアリン酸マグネシウムの形態での付着防止剤と混合される。
【0051】
好ましくは、コアは、少なくとも0.7(70%)、好ましくは少なくとも0.75(75%)又は少なくとも0.8(80%)の相対密度を有する単一の固体圧縮成形コアである。
【0052】
見掛け密度は、錠剤の重量(室温、23℃、r.H.65%での秤量による)及び、幾何学的形状から幾何学的公式によって計算された錠剤の体積に基づいて決定される。
【0053】
相対密度(ρ)又は気孔率は、以下の式により算出される。
【0054】
【数1】
[式中、見掛け密度(ρsch)は、重量と体積から(上記のように)決定され、固体密度(ρsolid)は、ガスピクノメーター(ここで使用されるモデルはQuantachrome Instrumentsから入手可能なマルチピクノメーター)によって測定する。]
ガスピクノメーターを使用する方法は、例えば、欧州薬局方Ph.Eur.8(2.9.23、p324)に記載されている。
【0055】
好ましくは、コア及び/又は医薬製剤剤形全体は、少なくとも3mm、好ましくは少なくとも4mm、より好ましくは少なくとも4.5mm又は5mmの最小直径の方向での平均伸長を有する。好ましくは、コア及び/又は医薬製剤剤形全体は、少なくとも8mm、好ましくは少なくとも10mm、より好ましくは10~14mm又は12mmの最大直径の方向での平均伸長を有する。錠剤は、好ましくは圧縮成形又はモールド成形された錠剤であり、それらは円形、楕円形又は多角形であってもよく、特により大きな伸長の方向において隅丸形状(rounded edges shape)を有する長方形でもよく、それらは、単純平面(flat faced plain)、放射状縁を有する平面(flat faced radius edged)、縁傾斜平面(flat faced bevel edged)、標準凸面(standard convex face)、又はコンパウンドカット(compound cut)であってもよい。とりわけ、サイズに関してだけは、放出の遅延がある。半径1、活性成分含有量570(任意単位)の球状マトリックスからの放出は、140時間後に到達した総放出量を示す。半分のサイズの半径0.5のマトリックスは、活性成分の含有量が70であり(密度やその他のパラメーターが同一で、体積がより小さいため)、40時間で活性成分の総量を放出する。半径0.2のマトリックスは、活性成分の含有量が4.5であり、6時間で完全な放出を示す。これらは、拡散方程式に基づいてシミュレート(計算)された結果であり、活性成分が同じ総量に標準化されると、剤形(錠剤、ビーズなど)が(幾何学的に)大きくなるほど、放出プロセスが遅くなることを示している。
【0056】
好ましくは、コア及び/又は医薬製剤剤形全体は、 少なくとも25N、好ましくは少なくとも40N、より好ましくは少なくとも100Nの破砕力を有する。錠剤の破砕力を決定するための方法はまた、欧州薬局方Ph.Eur.8(2.9.8. p299)に記載されている。
【0057】
キシログルカンを基材とするのコアマトリックスのマトリックスの、少なくとも1つの医薬品有効成分に対する重量比は、好ましくは少なくとも1:2、好ましくは少なくとも1:1、より好ましくは少なくとも2:1である。
【0058】
マトリックスとしてキシログルカンを使用したコアの気孔率は、10~35%(空隙容量パーセント)であり得、気孔率の度合いを用いてAPIの放出特性を制御することができる。
【0059】
提案された医薬製剤剤形は、結腸内のマイクロバイオーム集団の平衡若しくは下部消化管の生理機能を確立、再確立、及び/又は改変させる目的で、免疫調節若しくは免疫抑制のために、又は以下の状態、すなわち炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎及び/又はクローン病、クロストリジウム・ディフィシル感染症、結腸がん、結腸外科処置後、のうちの少なくとも1つの状態の処置のために、使用することができる。
【0060】
医薬品有効成分は、メサラジン、ブデソニド、カペシタビン、フルオロウラシル、イリノテカン、オキサリプラチン、UFT、セツキシマブ、パニツムマブからなる群から選択することができる。UFTは、ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ阻害性フルオロピリミジン薬であり、DPDの競合阻害剤であるウラシルと5-フルオロウラシル(5-FU)プロドラッグであるテガフールを、4:1のモル比で組み合わせている。
【0061】
さらに可能であるのは、免疫抑制性グルココルチコイド、免疫抑制性細胞増殖抑制剤、免疫抑制性(ポリ又はモノクローナル)抗体、イムノフィリンに作用する免疫抑制剤、インターロイキン、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節性イミド薬を含む免疫調節性又は免疫抑制性成分である。例えば、特に、タクロリムス、シクロスポリンが可能である。
【0062】
また、可能な医薬品有効成分は、結腸内のマイクロバイオーム集団の平衡を確立、再確立、及び/又は改変することを目的とする材料、又は下部消化管の生理機能に有益な効果をもたらす化合物、又はそれらの組合せである。
【0063】
医薬製剤剤形は、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも2週間、又は少なくとも2か月若しくは少なくとも1年、又はさらには生涯の期間にわたって、少なくとも1日1回、好ましくは1日2回、経口投与することができる。
【0064】
さらに、本発明は、上記の医薬製剤剤形を作製するための方法であって、第1のステップでは、キシログルカン、少なくとも1つの医薬品有効成分、及び必要に応じて1種以上の薬学的に許容される賦形剤を混合し、その後圧縮して前記コアを形成するか、又はこれらを混合し処理して顆粒を形成し、その後、必要に応じて、最初に前記顆粒をさらなる処理剤と混合し、圧縮して前記コアを形成し、ここで、両方の場合における混合は、好ましくは流動床造粒機又は高剪断ミキサーを使用して行うことができ、その後、第2のステップで、前記コアを、シェルを形成する少なくとも1つのコーティングによりコーティングし、ここで好ましくは、前記コーティングの形成には、分散液が提供され、さらに好ましくはドラム塗工機内で、又は別の方法を使用して施される、方法に関する。
【0065】
本発明のさらなる実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0066】
本発明の好ましい実施形態は、図面を参照して以下に記載され、図面は、本発明の好ましい本実施形態を説明することを目的とするものであり、それを限定することを目的とするものではない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】作用機序の概略図を示す。
図2】メサラジンをAPI(5-ASA)として使用した状態での、マトリックス中のさまざまな濃度のAPIの放出プロファイルを経時的に示す。
図3】メサラジンをAPI(5-ASA)として使用した状態での、最終段階における溶液中のさまざまな濃度のキシログルカナーゼの存在下でのAPIの放出プロファイルを経時的に示す。
図4】非コーティング錠剤の気孔率に応じて、活性成分又は薬剤放出を遅らせるキシログルカンの特性を示す。
図5】メサラジンをAPI(5-ASA)として使用して、経時的に消化管を通過する状態をシミュレートする、コーティングの厚さ(量)が異なる溶液中のさまざまなタイプの錠剤の存在下でのAPIの放出プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0068】
図1は、提案された医薬剤形1の作用原理を概略的に示している。
剤形1は、シェル3内にカプセル化されたコア2を含む。コアは、マトリックス5、この特定の場合にはキシログルカンを含み、その中に医薬品有効成分4(API)が埋め込まれている。
【0069】
コア、特にそのマトリックスの材料、並びにシェルの材料は、結腸内におけるAPIの選択的放出に適合している。この点で、胃内では通常、pHが1.2であり、胃内における平均滞留時間は約2時間であることに注意すべきである。次に、近位小腸が続き、ここでも通常の滞留時間は2時間であり、pHは6.5に上昇する。これに遠位小腸が続き、ここでも通常の平均滞留時間は2時間であり、pHは6.8である。ここでようやく、結腸が続き、まず上行結腸、次に下行結腸が続き、ここでの滞留時間は種々の要因に依存し、pHは依然として6.8の範囲にある。
【0070】
提案された製剤剤形のシェル3は、pHが6.5を超えて上昇する場合、通常、少なくとも6.8の値に達する場合にのみ有意に溶解するように適合されている。それに対応して、錠剤のコア部分は小腸内でのみ溶解し始める。しかし、小腸は、まだAPIが放出されるべき場所ではない。この目的のために、キシログルカンはコアのマトリックスを形成している。小腸の生理学的条件下において、ここで本質的にコーティングされていないコア部分は膨潤し、高粘度の塊を形成するが、活性成分を有意な程度までは放出しない。まだAPIを含んでいるこの膨潤したマトリックスが、キシログルカンを消化する酵素を含むさまざまな微生物を含む結腸に入ると、その場合にのみマトリックスは消化されて崩壊し、次に、APIはまた、その効果を発揮する場所に標的化された形式で放出される。
【0071】
これは、図2に示されている放出プロファイルによって証明されている。インビトロ実験(詳細についてはさらに以下を参照のこと)では、最初の2時間、対応する錠剤を、胃の状態をシミュレートする1.2のpHにさらす。APIの放出を検出することはできない。次に、さらに2時間、近位小腸の状態をpH6.5によりシミュレートする。この場合も、APIの放出を検出することはできない。次に、さらに2時間、pH値を6.8に上昇させて遠位小腸の状態をシミュレートするが、酵素的環境は依然として変化していない。この時点で、まず、APIのごく一部が放出されていることがわかり、これは、pH依存性コーティングの溶解に関連している。その期間の後、開始から数えて6時間後、酵素的状態も結腸に存在する状態に適応し、特にキシログルカナーゼが培地に導入される。この時点から、APIの急激な標的放出が始まる。実際のところ、放出は、キシログルカンマトリックス中のAPIの濃度とはほとんど無関係である。
【0072】
材料及び方法
錠剤の製造
3工程プロセスを用いた。
1.造粒
造粒を、流動床造粒機又は高剪断ミキサーのいずれかで実施した。組成は、以下の通りであった:
グリロイド3S (93-X)%
5-ASA(API) X%
ポリビニルピロリドン(Kollidon30) 7%
Xが以下の値である3つの異なる組成、すなわち、33.3%;50%;66.7%、を使用した。
【0073】
600gのバッチサイズの流動床造粒では、最初の2つの成分をまずTurbulaミキサーで32rpmにて7分間混合し、3番目の成分を10% w/wの濃度で精製水中に溶解した。この溶液を、最初は14g/分の速度で流動床に噴霧し、速度を7.3g/分、次に9.7g/分に減速した。噴霧圧力は、1.3~1.5バールであった。空気流量は、最初は40m/hであったが、80m/hに増加した。入口温度は50℃であり、製品温度は、(造粒)液体の添加中はおよそ25℃であり、乾燥中は29℃に上昇した。総処理時間はおよそ65分であり、残留水分は6.8%であった。顆粒を1mmメッシュスクリーンに通した。
【0074】
300gのバッチサイズの高剪断造粒では、最初に、3つの成分すべてをTurbulaミキサーで32rpmにて7分間混合した。精製水を、6.5g/分の速度及び0.12バールの噴霧圧力でミキサー内に噴霧した。主インペラの回転速度は220rpmであり、チョッパの回転数は2200rpmであった。110~170gの水を加えると、主インペラの消費電力が82ワットから91~93ワットに増加した。顆粒を1mmメッシュスクリーンに通し、50℃のトレイ乾燥機内で乾燥させて、残留水分を5%未満まで減少させ、0.85mmメッシュスクリーンに再度通した。
【0075】
2.打錠
造粒組成物を、Turbulaミキサーで32rpmにて2分間、0.5%ステアリン酸マグネシウムと混合した。12mmの直径、9mmの曲率半径、及び50Nの直径方向破砕力を有する錠剤を、単発式偏心打錠機で毎分20錠の速度で製造した。錠剤重量を、造粒後に決定された組成物のAPI含有量に基づいて600~630mgの間に調整し、API含有量は1錠あたり200、300及び400mgに達した。上部パンチの圧縮力は10~13kNの間であった。
【0076】
3.コーティング
錠剤を、600gのバッチサイズのドラム塗工機にてEudragitFS-30-Dでコーティングした。コーティング分散液の組成は以下の通りであった:
Eudragit FS-30-D 43%
クエン酸トリエチル 0.65%
タルク 6.45%
染料(酸化鉄III) 0.2%
精製水 49.7%
【0077】
ドラム回転速度は20rpm、入口空気温度は50℃、製品温度は30~35℃、及び空気流量は25~30m/hであった。コーティング分散液を、4g/分の速度及び1.3バールの噴霧圧力で噴霧した。公称乾燥コーティング量はL=5mg/cmであり、実際の値はL=3.5~4mg/cmの間の値であった。
【0078】
材料特性
キシログルカン:
商標名:グリロイド3S及びグリロイド2A
(DSP GOKYO FOOD & CHEMICAL Co., Ltd.、Osaka、Japan)
一般名:タマリンド種子多糖又はタマリンドシードガム
化学物質:キシログルカン
FDAによるGrasステータス申告:GRN No.503;物質:タマリンド種子多糖;使用目的:ある特定の食品カテゴリーにおいて、増粘剤、安定剤、乳化剤、及びゲル化剤として使用する;通知人;DSP GOKYO FOOD & CHEMICAL Co., Ltd.;HERBIS OSAKA 20th Floor 2-5-25 Umeda Kita-ku、Osaka、530-0001 Japan;出願日:2014年3月5日
GRAS通知(開示可能な情報):503;終了日:2014年8月12日
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
5-ASA:メサラミン又は5-アミノサリチル酸としても知られているメサラジンは、潰瘍性大腸炎又は炎症を起こした肛門若しくは直腸を含む炎症性腸疾患を処置し、クローン病の寛解を維持するために使用されるアミノサリチル酸抗炎症薬である。
【0082】
Kollidon 30:ポリビニルピロリドン、平均分子量は、ヨーロッパ、アメリカ、及び日本の薬局方における検証と同様に、27.0~32.4の範囲の水中における相対粘度から計算されるK値で表される。
【0083】
Eudragit FS-30-D:アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸を基材にしたアニオン性コポリマーの水性分散液である。遊離カルボキシル基のエステル基に対する比は、およそ1:10である。それは、30%の乾燥物質を含む水性分散液として提供される。分散液は、固体物質に対して0.3%のラウリル硫酸ナトリウムPh.Eur./NF及び1.2%のポリソルベート80Ph.Eur./NFを乳化剤として含む。SEC法に基づいて、重量平均モル質量(Mw)はおよそ280,000g/molである。
【0084】
タルク 粒径:99.5% <75マイクロメートル、中央値19.3マイクロメートル、Ph.Eur.比表面積(BET) 3.5m/g、製造者:Imerys Talc,Italy SpA/Luzenac Pharma。
【0085】
実験方法:
薬剤放出は、USP2装置において37℃、パドル回転速度100rpmで測定した。容器ごとに1錠を使用した。以下の培地組成を用いて4段階試験を実施した。
【0086】
最初の2時間においては精製水を用いた、pH1.2の0.1N HCl溶液900mLで構成される培地を用いた。
【0087】
次の2時間においては、NaOHでpH6.5に調整された、900mLの100mMリン酸二水素カリウムで構成される培地を用いた。
【0088】
次の2時間において、培地のpHを、NaOHにより6.8に調整した。
【0089】
最終段階で、培地を、異なる濃度のキシログルカナーゼを含む、同じpH6.8のリン酸緩衝液200mLと交換した。キシログルカナーゼは、キシログルカンの消化に特異的であるパエニバシラス属(Paenibacillus sp.)の微生物酵素であった。単位力価は、タマリンドキシログルカンで較正されている。
【0090】
第1の試験段階(pH1.2)では胃の環境をシミュレートし、第2の試験段階(pH6.5)では上部小腸の通過をシミュレートする。pH6.8の段階は、錠剤の下部小腸への移動に対応し、液量を減少させて、微生物酵素を存在させた最後の段階では、放出が行われる結腸内の環境に対応する。
【0091】
結果及び考察
典型的な結果を図3の図に示す。胃及び上部小腸を反映した状態では薬剤は放出されず、これはポリマーコーティングによるものである。これらの環境のそれぞれにおける2時間の滞留時間は、シンチグラフィー及び他の方法によって見出された、軽食後の胃腸管内の固体剤形の通過時間を表すものである。
【0092】
コーティングフィルムは、pH6.8で溶解して錠剤の表面から除去されるように設計された。これにより、2時間で10%を超えないAPIの適度な放出がもたらされる。
薬剤放出の速度は、微生物酵素の存在下で濃度依存的に著しく加速し、これにより、開発された送達システムによる、制御された位置誘発薬剤放出の原理が証明された。
【0093】
ポリマーコーティングの溶解後、放出はキシログルカンによって阻害され、錠剤は崩壊することができず、代わりに拡散バリアとして機能する高い粘性を有するゲル又は粘着性の塊を形成する。遠位小腸では7.2という高いpH値が報告されているが、コーティングはより低いpHで溶解するように意図的に設計されており、その理由は、腸内のpH値及び滞留時間が変動し、個体間でばらつきを呈する場合があり、上行結腸内のpHは再び7未満になる場合があるからである。したがって、フィルムコーティングが小腸内で適時に溶解しない場合、他の実験システムですでに観察されているように、錠剤は無損傷で排便されることがある。
【0094】
本発明の送達システムでは、早期の、すなわち低pHでのコーティングの除去によっては、小腸内での薬剤の過剰放出は起こらず、したがって、結腸で局所作用するAPIの、このような望ましくない喪失は、キシログルカンマトリックスによって妨げられる。結腸に入ると、局在化したマイクロバイオームの特異的酵素の作用により、迅速な薬剤放出が保証される。したがって、2つの制御機構の相乗的な重なり合いによって、結腸への高度な標的送達が行われる。用いられた酵素濃度は、公表され、ヒトの大腸で見られると合理的に予想される濃度に対応している。
【0095】
薬剤放出を遅らせるキシログルカンの特性を図4に示す。APIの放出は、放出プロセスがほぼゼロ次速度に従う一方で、非コーティング錠剤の多孔度に応じて、24時間よりもはるかに長くかかるように適合させることができる。キシログルカンの酵素分解が薬剤放出に及ぼす促進効果を、図3に示す。
【0096】
図5は、コーティングを含まない(6)状況、及びコーティングを含む(7-10)状況での錠剤からの薬剤放出を、時間及びpHを種々の変更したときの関数としてを示す。錠剤のすべてのコアは、50Nの破砕力を有していた。錠剤表面の1平方センチメートルあたりのコーティング質量として定義されるコーティング厚さは、曲線7~10の場合、それぞれ2mg/cmから3.4mg/cmまで、2mg/cmから4.9mg/cmまで、2mg/cmから6.8mg/cmまで増加した。結果は、効果的な腸溶性コーティング及びコーティングの適時の溶解のための最適なコーティング厚さを示している。結果はまた、図4に示すような、同じpH(pH7)でコーティングを含まないものとは対照的に、コーティングがpH6.8で溶解した後、バースト放出がなく、したがってより良好な放出制御が行われることを示しており、コーティングとキシログルカンとの間の相乗効果を強調している。
【0097】
先行技術との区別:
上述のYooの刊行物との違いについては、以下の点に注意すべきである:Yooの刊行物における結果は、製造品(ビーズ)が本明細書で提案された錠剤のように作用しないことを証明している。Yooの図5では、活性物質の放出は、pH1.2の人工胃培地内で最初に測定され、次にpH7.4の人工腸培地内で測定されている。Yooのコーティングビーズは、pH1.2での最初の2時間で約10%、pH7.4での次の2時間で約50%の放出を示す。本明細書に記載の製剤は、pH1.2で2時間後に0%の放出、pH6.5で2時間後に0%の放出、及びpH6.8でさらに2時間後に約5%の放出を示す。目的は腸の状態下での放出をできるだけ少なくすることであるため、Yooの製品は本発明者らの要求を満たすには遠く及ばない。
【0098】
さらに、Yooの脱ガラクトシル化タイプの代わりに、本明細書で使用しているような、天然キシログルカンを使用して、Yooからの再現実験を以下のようにして行った。
- 2%キシログルカン水溶液(本明細書での試験におけるような3S品質)を、4℃の温度下で、プロペラ撹拌機で24時間撹拌して調製した。
- 植物油を、磁気撹拌下で40℃にて、及び80℃にて加熱した。
- 1mLのキシログルカン溶液を、注射針付き注射器(22Gに対応するID 0.71mm)から油に滴下した。
【0099】
結果を、写真により記録した。
どちらの温度でも、最初は約2mm~2.5mmの大きさの滴が形成される。40℃では、数分後に滴が共にウォームに流れる。80℃では、液滴内に気泡が形成され、液滴は表面に上昇し、ろ過中に一緒に流れた。
【0100】
これに基づいて、以下の解釈を引き出される:天然キシログルカン(脱ガラクトシル化されていない)はゲル化しない。脱ガラクトシル化キシログルカンは、ゲルを形成する。ゲル形成の温度は、脱ガラクトシル化(de galactolysis)の程度に依存する。これは、独立した研究によって確認されている(例えば、上述のBrun-Graeppiの刊行物)。Yooのキシログルカンには44%のガラクトース除去があり、40℃でゲル化する。天然キシログルカンは60℃まで何も示さない(Brun-Graeppiの図3)。本発明者らの場合、80℃まで上昇させたが、ここでもゲル化は見られなかった。ゲル化とは、滴が固化することを意味する。これにより、液滴が一緒に流れるのを防ぐ。Yooでは、液滴を40℃で30分間硬化させ、ろ過し、アセトンで洗浄し、続いて水とエタノールとの混合物で脱水する。このような処理は、天然キシログルカンを使用した滴では、一緒に流れて合着したため、不可能であった。違いは明らかに脱ガラクトシル化及びそれに伴うゲル化にあり、天然キシログルカンを使用した場合、Yooの方法は不可能である。
【0101】
Yooの小さなビーズは、少なくとも以下の理由のため、本明細書で与えられる圧縮成形錠剤とは根本的に異なる:コーティングを有しない、27.77%の薬剤担持のYooのビーズ(XGID100を充填、表1)は、pH7.4にて2時間で上記の70%の薬剤放出を示す(図2a)。薬剤担持が30%の本発明者らの錠剤(ビーズと比較できる)は、圧縮の強さに応じて、pH7で2時間以内に10~35%の間の値の薬剤放出を示す(こちらもビーズと比較できる、本明細書では図4に示されている)。高強度(134Nの破砕力)で強く圧縮成形された錠剤は、14.8%の気孔率、つまり0.852の相対密度(85.2%の空間充填)を有し、2時間でほぼ10%の放出を示す。わずかに圧縮成形された錠剤(破砕力=30N、相対密度=0.713)は、2時間で約35%の放出を示す。結果は、錠剤の体積及び/又は密度、並びに圧縮成形プロセスが、放出(コーティングを有しない)に大きな影響を与えることを明確に実証している。ビーズの密度は、その製造方法(上記の注射器法)により、70%を大幅に下回るはずである。2%キシログルカン溶液から始め、それに最大で2%の活性成分を加える。これにより、最後にビーズの固形分が70体積%に達することはあり得ない。これは、一般的に、ビーズと錠剤の間で放出量が非常に異なっていることから明らかである。
【0102】
コーティングを有する場合の放出も、Yooのビーズと本発明者らの錠剤とでは異なって作用する。Yooの図5は、コーティングを有する場合、pH1.2(胃の状態)で2時間後に、ほぼ10%の放出を示し、pH7.4(小腸の状態)でさらに2時間後に、合計50%の放出を示している。コーティングを有しない場合、同じ条件下で同じ期間において、ビーズからの放出は約65%である。これは、第1に、コーティングが比較的小さな差(50%対65%)をもたらすこと、及び第2に、小腸内で可能な限り少ない活性物質を放出するという目的が達成されないことを意味する。本発明者らの錠剤(本明細書では図3に示す)では、pH1.2で2時間後に0%の放出、pH6.5(小腸の上部の状態)で2時間後に0%の放出、pH6.8(小腸の状態)でさらに2時間後に約5%の放出がある。同じ状態下でコーティングを有しない場合、約32%の放出がある(本明細書では図5に示す)。これは、第1に、コーティングが重要である(5%対32%)こと、及び第2に、小腸で可能な限り少ない放出を行うという目的が達成されることを意味する(合計6時間の間)。
【0103】
さらに、コーティングの存在は、コーティングが溶解し、除去された後の放出、すなわちpH6.8での放出に影響を与える。図4のpH7での放出とさらに図5のpH6.8での放出とを比較すると、コーティングを有する場合、初めにバースト効果(急激な増加)が除外され、一方その後は、コーティングを有する場合、(コーティングを有しない場合よりも)放出速度がいくらか高くなることがわかる。後者は、微生物酵素の存在下でも見出される。これは、コーティングを有している間は、最初の4~6時間では錠剤の内部がまだ無損傷であり、水分を吸収し、キシログルカンが膨潤し始め、このことがその後の放出に影響を与えるという事実と関係がある。したがって、キシログルカンコアとコーティングとの間に相乗効果があり、このことが放出に影響を与える。
【0104】
対照的に、本明細書で与えられる処方を使用して、コア及びAPIを有する錠剤(直径、数mm)を調製し、後で腸溶性フィルムによりコアをコーティングする。APIの放出は、以下の通りである:低pH(胃通過)では、放出は予想されず、観察されず、又は微量の放出のみが予想され、観察される。中和する(小腸へ入る)と、腸溶性コーティングが溶解する。ここで水が錠剤を湿らせ、水が錠剤内に拡散する。錠剤コアの外表面では、キシログルカン(固体、空気を含まない)が高粘性の塊を形成し、APIの放出を妨げ、水の侵入を遅らせる。したがって、数時間にわたり、APIは微量しか放出されない(「遅延放出」)。
【0105】
多糖キシログルカンは、ヒトの消化酵素によって分解されない。その代わりに、キシログルカン及び他の植物細胞壁由来の多糖は、結腸のマイクロバイオームによって分解及び代謝される。キシログルカナーゼ(キシログルカンの分解を開始する酵素)の存在下で、API放出が加速することを実際に示すことができ、このAPI放出の加速は、おそらく酵素分解によるキシログルカンマトリックスの侵食の加速によってもたらされる。結腸マイクロバイオームによるキシログルカンの特異的分解は、本発明者らの技術の第2の制御機構を構成する。
【符号の説明】
【0106】
1 医薬製剤剤形、錠剤
2 コア
3 シェル
4 医薬品有効成分
5 マトリックス、キシログルカン
6 S-20-50N、総質量631mg、コーティングを含まない
7 S-20-50N、Eudragit FS30、L=2、総質量639mg、コーティングを有する
8 S-20-50N、Eudragit FS30、L=3.5、総質量651mg、コーティングを有する
9 S-19-50N、Eudragit FS30、L=4.9、総質量671mg、コーティングを有する
10 S-20-50N、Eudragit FS30、L=6.8、総質量661mg、コーティングを有する

図1
図2
図3
図4
図5