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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】熱安定性銀合金コーティング
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/46 20060101AFI20240606BHJP
   C25D 3/66 20060101ALI20240606BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20240606BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C25D3/46
C25D3/66
C25D7/00 H
C22C5/06 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021518469
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2019078475
(87)【国際公開番号】W WO2020083799
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】102018126174.8
(32)【優先日】2018-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513151152
【氏名又は名称】ウミコレ・ガルファノテフニック・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ベルント・ヴェイミュラー
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/067985(WO,A1)
【文献】特開2013-249514(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157713(WO,A1)
【文献】特開平02-043393(JP,A)
【文献】特開2018-009227(JP,A)
【文献】特開平07-252684(JP,A)
【文献】米国特許第05514261(US,A)
【文献】特表昭58-500289(JP,A)
【文献】特表2016-529400(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108350592(CN,A)
【文献】特開昭57-076196(JP,A)
【文献】特開2018-120698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/46
C25D 3/66
C25D 7/00
C22C 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金コーティング全体に対して60at%超の銀、0.1~30at%のパラジウム、及び20at%以下のテルルを含む、銀を主に含有する電解析出された銀パラジウム合金コーティングであって、
金属Biを追加的に含み、
前記金属Biが、前記合金コーティング中に0.5at%~2at%未満の量で存在することを特徴とする、合金コーティング。
【請求項2】
テルルが、前記合金コーティング中に0.1~10at%の量で存在することを特徴とする、請求項に記載の合金コーティング。
【請求項3】
250Hv超の硬度を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の合金コーティング。
【請求項4】
銀を主に含有し、合金コーティング全体に対して60at%超の銀、0.1~30at%のパラジウム、20at%以下のテルル、及び0.5at%~2at%未満の金属Biを有する、銀-パラジウム合金コーティングの電解析出のための方法であって、
以下の組成:
a)可溶性銀塩
b)可溶性パラジウム塩、
c)テルルが酸化状態+4又は+6を有する可溶性テルル塩、
d)金属Biの可溶性塩、
e)アラニン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、リジン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、フェニルグリシン、プロリン、セリン、チロシン、バリンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸
を有する水性、酸性、及びシアン化物非含有電解質が使用されることを特徴とする、方法。
【請求項5】
前記電解析出中の前記電解質のpH値が、2未満であることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記電解質の密度が、23℃で1.0~1.5であることを特徴とする、請求項又はに記載の方法。
【請求項7】
前記電解析出中の電流密度が、前記コーティング方法及び施設技術に応じて、0.1~100A/dmであることを特徴とする、請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記電解析出が、30℃~90℃の温度で実施されることを特徴とする、請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
電気接触材料の耐食性を向上させるために、端部コーティングとして又は中間コーティングとしての、前記電気接触材料における、請求項1~のいずれか一項に記載の合金コーティングの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀を主に含有する合金の電解析出に関する。析出された合金層の更なる成分は、パラジウム、テルル、及び金属Ce、Dy、Pb、Bi、Al、Ga、Ge、Fe、In Co、Ni、Cu、Sn、Sb、Rh、Ru、Ir、Pt、Auのうちの1つ以上である。本発明はまた、適切な電解質を使用する、対応するコーティングの電解析出のための方法にも関する。電解析出された合金コーティングの使用も同様に特許請求される。
【背景技術】
【0002】
今日では、実質上全ての電気器具に電気接触が用いられている。これらの用途は、自動車産業用又は航空宇宙技術用の通信部門における、単純なプラグコネクタから安全性に関係する、洗練された接触のスイッチ切り替えの範囲に及ぶ。ここで、接触面は、良好な導電性、長期安定性を有する低接触抵抗、可能な限り低い挿入力での良好な耐食性及び耐摩耗性、並びに熱応力に対する良好な抵抗を有することが求められる。電気工学において、プラグ接点は多くの場合、金-コバルト、金-ニッケル、又は金-鉄からなる硬質金合金コーティングでコーティングされる。これらのコーティングは、良好な耐摩耗性、良好なはんだ付け性、長期間安定性を備えた低接触抵抗、及び良好な耐食性を有する。金の価格の上昇により、さほど高価でない代替物が求められている。
【0003】
硬質金めっきの代用品として、銀リッチ銀合金(硬質銀)によるコーティングが有利であることが証明されている。銀及び銀合金は中でも、電気工学において最も重要な接触材料であるが、電気伝導率の高さ及び良好な耐酸化性の理由だけによるものではない。これらの銀-合金コーティングは、合金に添加される金属に応じて、現在使用されている硬質金コーティング及びコーティングの組み合わせ(金フラッシュしたパラジウム-ニッケルなど)のものに類似するコーティング特性を有する。更に、銀の価格は他の貴金属、特に硬質金合金と比べて相対的に低い。
【0004】
銀を使用することにおける制限の1つは、例えば、硫黄又は塩素含有雰囲気において、銀が硬質金よりも低い耐食性を有するという事実である。目に見える表面の変化とは別に、硫化銀は半導体性であり柔らかく、接触力が十分に強い場合には、挿入プロセス中に容易に拭き取れるので、硫化銀の膜を変色させることは、大部分の場合において、いかなる重大な危険をも示さない。一方、塩化銀の膜を変色させることは非導電性で硬質であり、容易に取り除けない。したがって、変色層において塩化銀の割合が相対的に大きいと、接触特性の問題を引き起こす(文献:Marjorie Myers:Overview of the use of silver in connector applications;Interconnect & Process Technology,Tyco Electronics,Harrisburg,February 2009)(特許文献1)。
【0005】
他の金属が、耐食性を高めるために銀に合金化されてもよい。この関係における銀の可能な合金化パートナーは、金属パラジウムである。銀-パラジウム合金は、例えば、パラジウム含量がそれに対応して高い場合(独国特許出願公開第DE2914880号)(特許文献2)、耐イオウ性である。
【0006】
パラジウム-銀合金は、展伸合金の形態の接触材料として長期間にわたって成功裏に使用されてきた。リレースイッチング接触では、60/40パラジウム-銀合金がインレイとして使用されることが好ましい。最近では、貴金属系の電気接触材料のこれらのコーティングもまた、電流的に製造されることが好ましい。大部分のアルカリ性電解質のパラジウム-銀合金コーティングの電気化学析出は既に十分に研究されてきたが、一つには、析出されたパラジウム-銀合金コーティングが品質及び組成要件を満たさないという理由で、実用的な電解質を開発することは未だ可能ではなかった。文献及び特許に記載されている酸性電解質の以前の使用は、主として、チオシアネート、スルホン酸塩、硫酸塩、スルファミン酸塩、又は硝酸塩電解質に基づく。しかしながら、多数の電解質は多くの場合、電解質系の安定性の欠如に依然として悩まされる(Edelmetallschichten、H.Kaiser、2002、p.52、Eugen G.Leuze Verlag)(特許文献3)。
【0007】
独国特許第DE102013215476号(特許文献4)は、銀を主に含有する合金の電解析出を説明する。更に合金化成分は、パラジウム、テルル、又はセレンである。ここに説明される合金コーティングは、特に高温での経時変化を示し、これは、ひび割れの増加をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】Marjorie Myers:Overview of the use of silver in connector applications;Interconnect & Process Technology,Tyco Electronics,Harrisburg,February 2009
【文献】独国特許出願公開第2914880号明細書
【文献】Edelmetallschichten、H.Kaiser、2002、p.52、Eugen G.Leuze Verlag
【文献】独国特許第102013215476号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、単純に電解析出によって製造することができ、先行技術の対応する合金よりも優れた新規かつ温度安定性の合金コーティングを提供することにある。特に、製造に至った場合、本発明による合金コーティングは、銀を主に含有し、更に、構成成分としてパラジウム及びテルルを含む既知の合金コーティングに勝る利点を有するものとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
先行技術に基づいて当業者には明らかなこれら及び他の課題は、本特許請求項1及び7の特徴を有する合金コーティング及びその製造のための対応する方法によって解決される。これらの請求項に従属する従属請求項は、本発明の好ましい実施形態に関連する。請求項11は、好ましい用途を対象とする。
【0011】
本課題は、非常に驚くべきことには、銀を主に含有し、かつ合金コーティング全体に対して20at%以下のテルルを有する電解析出された銀-パラジウム合金コーティングを製造することによって解決され、この合金コーティングは、金属Ce、Dy、Pb、Bi、Al、Ga、Ge、Fe、In、Co、Ni、Cu、Sn、Sb、Rh、Ru、Ir、Pt、Auのうちの1つ以上を更に含む。このような合金コーティングは、高い耐食性を有する。また、本発明による合金の電解析出の間、温度安定性が向上し、対応する電解質は、高電流密度でさえも、ひび割れを生じない(表1参照)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
銀を主に含有し、テルルを含む電解析出された銀-パラジウム合金コーティングは、当業者によく知られている(AgPdTe合金)。しかしながら、銀を主に含有し、合金コーティング全体に対して20at%以下のテルルを有する電解製造された銀-パラジウム合金コーティングは、金属Ce、Dy、Pb、Bi、Al、Ga、Ge、Fe、In、Co、Ni、Cu、Sn、Sb、Rh、Ru、Ir、Pt、Auのうちの1つ以上を更に含み、これは、当業者にとって新規である。好ましくは、このようなAgPdTe合金コーティングは、金属Ce、Dy、Pb、Bi、In、Sn及び/又はFeを更に含む。この文脈において、追加の金属として使用するためのBi、Pb、Ce基に属する金属が特に好ましいものとする。Biは、この文脈において非常に特に好ましい。
【0013】
有利な実施形態では、追加の金属又は複数の金属が、AgPdTe合金コーティング中に40at%以下の量で存在するべきである。好ましくは、1つの追加の金属のみがこの量で存在する。追加金属の特に好ましい量は、0.1~20at%であり、より好ましくは0.5~10at%であり、非常に特に好ましくは0.5~5at%である。個々の場合では、2%未満のより少ない量も十分である。
【0014】
銀は、この電解製造される合金の主要成分である。本発明に従って析出された合金は、約50~95at%の銀(好ましくは、単独の残部:パラジウム及びテルル並びに追加の金属)を有する組成を有する。本発明に従うと、析出する金属の電解質中における濃度は、銀リッチ合金がもたらされるように、上述の枠組み内で設定される。析出される合金中の銀濃度に影響を及ぼす析出する金属の濃度だけでなく、使用される電流密度、使用されるスルホン酸の量、及び添加されるテルル化合物の量でもあることに留意されたい。しかしながら、当業者は、所望のターゲット合金を得るために、どのように対応するパラメータを設定するかを理解している、又は日常的な実験によりこのパラメータを決定することができる。好ましいターゲット合金は、銀が60at%超、より好ましくは70~99at%、更に好ましくは75~97at%、最も好ましくは85~95at%の濃度を有する合金である。
【0015】
好ましくは、本発明による合金コーティングは、0.1~30at%パラジウムを有する。しかしながら、十分なパラジウムが、対応する耐食性のために存在するべきである。一般に、1~20at%、より好ましくは2~15at%、最も好ましくは3~12at%のパラジウム含有量を有する合金コーティングが好適である。
【0016】
本発明による合金の更なる成分は、テルルである。それは、合金中、好ましくは0.1~10at%、好ましくは1~5at%、及び非常に好ましくは2~4at%の濃度で表される。
【0017】
本発明による合金コーティングは、耐摩耗性及び硬度(DIN EN ISO 6507-1:2018に従って測定)に関して、既知の電解析出されたAgPdTe合金よりも優れている。請求項による合金コーティングは、合金組成に応じて、250Hv超、好ましくは260Hv超、及び非常に好ましくは270Hv超の硬度を有する。
【0018】
更なる実施形態では、本発明は、合金コーティング全体に対して、20at%以下のテルルを含有する銀を主に含有する銀-パラジウム合金コーティングの電解析出のための方法に関する。本方法は、以下の組成:
a)好ましくはスルホン酸塩としての可溶性銀塩、
b)好ましくは硫酸塩としての可溶性パラジウム塩、
c)テルルが酸化状態+4又は+6を有する可溶性テルル塩、
d)好ましくはスルホン酸塩としての追加金属Ce、Dy、Pb、Bi、Al、Ga、Ge、Fe、In Co、Ni、Cu、Sn、Sb、Rh、Ru、Ir、Pt、Auのうちの1つ以上の可溶性塩、
e)アラニン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、リジン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、フェニルグリシン、プロリン、セリン、チロシン、バリンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸
を有する水性、酸性、及びシアン化物非含有の電解質が使用されることを特徴とする。
【0019】
本発明に従って使用される電解質は、銀、パラジウム及びテルルの塩、並びに同様に塩の形態で更に金属Ce、Dy、Pb、Bi、Al、Ga、Ge、Fe、In、Co、Ni、Cu、Sn、Sb、Rh、Ru、Ir、Pt、Auのうちの1つ以上を含有する。これらは、好ましくは、追加の金属Ce、Dy、Pb、Bi、In、Sn及び/又はFeの塩である。この文脈において、追加の金属として使用するためのBi、Pb、Ce基に属する金属が特に好ましいものとする。Biは、この文脈において非常に特に好ましい。
【0020】
本発明に従った電解質を、酸性のpH範囲内で使用する。最適な結果は、電解質のpH値が2未満で得ることができる。当業者は、電解質のpH値をどのように設定できるかを理解するであろう。好ましくは、強酸範囲にあり、より好ましくは1未満である。pH値が0.8未満であり、場合によっては0.1、又は例外的な場合において0.01までも到達し得る、非常に強い酸性の析出条件を選択することが最も有利である。理想的には、pH値は約0.6である。場合によっては、電解中に電解質のpH値の変化が生じ得る。それ故、本方法の好ましい一実施形態では、当業者は電解中にpH値を監視するステップを設け、必要であれば、pH値を整定値に調節する。
【0021】
原則的に、pH値は、当業者の知識に従って調整され得る。しかしならが、当業者は、問題の合金の析出に影響を及ぼし得る追加の物質を、電解質中に可能な限り少なく導入するという考えに従うであろう。したがって、特に好ましい実施形態では、pH値は、スルホン酸を添加することによってのみ調整される。添加された遊離スルホン酸は、十分な濃度の0.25~4.75mol/Lで使用される。濃度は好ましくは0.5~3mol/Lであり、最も好ましくは0.8~2.0mol/Lである。スルホン酸はまず、電解質の適切なpH値を確立させる役割を果たす。次に、少なくとも一種のスルホン酸を使用することで、本発明に従った電解質の更なる安定化がもたらされる。スルホン酸の濃度の上限は、あまりに濃度が高いと銀のみが析出する、という事実によるものである。原則として、電気めっき技術での使用に関して当業者に既知のスルホン酸を使用することができる。スルホン酸は、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、及びメタンスルホン酸からなる群から選択されるのが好ましい。プロパンスルホン酸及びメタンスルホン酸が、本文脈でとりわけ好まれる。最も特別に好まれるのはメタンスルホン酸である。
【0022】
本発明による方法で使用される電解質は、当業者が単独の裁量で選択され得る特定の電解質の密度を有する。好ましくは、23℃で1.0~1.5である。1.0~1.3、最も好ましくは1.0~1.2の密度が特に好ましい。密度は、重量測定法で測定した。
【0023】
本発明に従う合金の析出中に優位的となる温度は、当業者により所望されるように選択することができる。当業者は、一方では、十分な析出速度及び適用可能な電流密度範囲に、そして他方では、コストの側面又は電解質の安定性に従うであろう。電解質において30℃~90℃の温度を設定することが有利である。45℃~75℃、非常に特に好ましくは50℃~70℃、最も好ましくは60℃超の温度での電解質の使用が、特に好ましく見受けられる。
【0024】
析出方法中の、陰極と陽極との間にある電解質で確立される電流密度は、析出効率及び析出の質に従って、当業者により選択されることができる。用途、及びコーティング施設の種類に応じて、電解質中の電流密度が、有利には0.1~100A/dmに設定される。必要であれば、システムのパラメータ、例えばコーティングセルの設計、流速、陽極又は陰極の組み立てなどを調節することにより、電流密度を増加又は低下させることができる。0.25~50A/dm、好ましくは0.5~20A/dm、より好ましくは1~15A/dmの電流密度が有利である。最も好ましくは、電流密度は2~12A/dmである。
【0025】
当業者は概して、電解質に添加可能な金属化合物に通暁している。好ましくは、電解質に可溶性である銀の塩を電解質に添加する銀化合物として用いることができる。銀メタンスルホン酸塩、銀炭酸塩、硫酸銀、リン酸銀、ピロリン酸銀、硝酸銀、酸化銀、乳酸銀からなる群から塩を選択することが非常に特に好ましい。ここでも、当業者は、電解質に添加する追加の物質はできる限り少なくてはならないという原則に従わなければならない。したがって、当業者は、添加される銀塩として、スルホン酸塩、より好ましくはメタンスルホン酸塩を選択することが好ましい。用いる銀化合物の濃度に関して、当業者は、合金組成について上述の値の制限に従わなければならない。好ましくは、銀化合物は、銀が0.01~2.5mol/L、より好ましくは銀が0.02~1mol/L、最も好ましくは銀が0.05~0.2mol/Lの濃度で電解質中に存在する。
【0026】
用いるパラジウム化合物はまた、電解質に可溶性である塩、又は可溶性錯体であることが好ましい。本明細書で使用されるパラジウム化合物は、好ましくは、水酸化パラジウム、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、ピロリン酸パラジウム、硝酸パラジウム、リン酸パラジウム、臭化パラジウム、パラジウムP塩(ジアミンジニトリトパラジウム(II)アンモニア性溶液)パラジウムグリシナート、酢酸パラジウム、パラジウムEDA錯体、テトラアンミンパラジウム炭酸水素塩からなる群から選択される。パラジウム化合物は、十分な析出が合金コーティング中で起こるような濃度で電解質に添加される。パラジウム化合物は電解質中で、好ましくは0.001~0.75mol/Lのパラジウム濃度で、非常に好ましくは0.01~0.2mol/Lのパラジウム濃度で使用される。
【0027】
電解質に使用するテルル化合物は、所望の濃度の枠組みの中で、当業者により適切に選択されることができる。0.05~80mmol/Lのテルル及び非常に特に好ましくは0.5~40mmol/Lのテルルの濃度を、好ましい濃度範囲として選択することができる。+4及び+6の酸化状態の元素を有するテルルの化合物は、電解質が提供され得る化合物と見なすことができる。その元素が酸化状態+4を有する化合物が特に好ましい。この文脈において、テルル、亜テルル酸、テルル酸、テルル酸、及びテルル酸塩からなる群から選択されるものが非常に特に好ましい。テルル酸の塩の形態で、テルルを電解質に添加することが最も好ましい。
【0028】
アミノ酸は、本電解質中の錯化剤として使用される。ここで使用されるアミノ酸は、可変性残基にアルキル基のみを有するものであることが好ましい。アラニン、グリシン、及びバリンなどのアミノ酸の使用が更に好ましい。グリシン及び/又はアラニンを使用するのが最も好ましい。上記の濃度についての枠組み内で、当業者は、使用するアミノ酸についての最適な濃度を自由に選択することができる。当業者は、アミノ酸の量が少なすぎると、所望の安定化効果を生み出せないが、濃度が高すぎるとパラジウム及び他の合金金属の析出を阻害する可能性があるという事実に従う。したがって、パラジウムが、対応するパラジウムアミノ酸錯体として直接電解質に添加される場合、特に有利であることが証明されている。
【0029】
電解質の使用時には、様々な陽極を用いることができる。可溶性又は不溶性陽極は、可溶性及び不溶性の陽極の組み合わせと同様に適切である。可溶陽極を使用する場合、銀陽極が特に好ましい。
【0030】
好ましい不溶性陽極としては、白金めっきチタン、グラファイト、イリジウム-遷移金属混合酸化物、及び特種な炭素材(DLC若しくはダイヤモンドライクカーボン)からなる群から選択される材料から作製されるもの、又はこれらの陽極の組み合わせがある。白金めっきチタン又はイリジウムタンタル混合酸化物は、本発明を実施するために特に好ましく使用される。更なる情報は、Cobley,A.J et al.(The use of insoluble anodes in acid sulphate copper electrolytic deposition solutions、Trans IMF、2001、79(3)、pp.113及び114)で見出すことができる。
【0031】
本発明による電解質では、用途に応じて、湿潤剤としてアニオン性及び非イオン性界面活性剤、例えば、ポリエチレングリコール付加物、脂肪アルコール硫酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アリールスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ヘテロアリール硫酸塩、ベタイン、フッ素系界面活性剤、並びにこれらの塩及び誘導体を典型的には使用することができる(Kanani,N:Galvanotechnik;Hanser Verlag、Munich Vienna、2000;pp.84 ffも参照されたい)。メタンスルホン酸塩、特にカリウム塩の使用が好ましい。
【0032】
更なる実施形態では、本発明は、接触材料の耐食性を高めるために、端部コーティングとして又は中間コーティングとしての電気接触材料における本発明に従う合金コーティングの使用に関する。合金コーティングの好ましい実施形態は、その使用にも準用する。
【0033】
Bi、Pb、Ce又はInなどの特定の追加の金属をAgPdTe合金に添加することにより、電解析出において認識可能な利点が得られる。電解質の作用範囲は、著しく増加する。ひび割れなしの析出物は、著しく高い電流密度で、かつ著しく高いコーティング厚さで、同じ析出条件下で析出させることができる。同時に、これらのコーティングの合金組成は、当然のことながら、高速析出のための著しい利点である大きな動作範囲にわたって安定している。合金自体は、著しく硬質であり、したがって、接触材料での使用のために予め定められている。これは、優先日に当業者には明らかではなかった。
実施例:
【実施例
【0034】
析出条件、ビーカー試験、DE102013215476B3による水性電解質:
100mL/Lメタンスルホン酸70%
2g/Lアミノ酸
20g/L銀(可溶性銀塩として)
12g/Lパラジウム(可溶性パラジウム塩として)
500mg/Lテルル(テルル酸の塩として)
30g/Lメタンスルホン酸塩
65℃/300rpm 6cm/PtTi陽極
【0035】
析出条件、ビーカー試験、本発明による電解質:
100mL/Lメタンスルホン酸70%
2g/Lアミノ酸
20g/L銀(可溶性銀塩として)
12g/Lパラジウム(可溶性パラジウム塩として)
300mg/L合金金属(セリウム、ビスマス、鉛、インジウム)(可溶性塩として)
500mg/Lテルル(テルル酸の塩として)
30g/Lメタンスルホン酸塩
【0036】
1未満のpHの電解質の両方を最初に65℃で帯電させた。攪拌速度は6cmの電磁攪拌器を用いて300rpmであった。6cm/秒の速度での生成物の動きを使用した。実験は、1Lスケールのビーカー内で実施した。PtTi陽極を使用した。使用した基材は、Ni及び金で予めコーティングされたCu基材であった。電解質の密度は1.1g/cm(23℃)であった。様々な電流密度で電解させた(表1を参照されたい)。
【0037】
析出結果:
【0038】
【表1】
【0039】
例えば、銀を主に含有するAgPdTe合金の析出のためにBi、Ce、Pb、又はIn塩を電解質に添加することにより、電解質の作用範囲は著しく増加する。ひび割れなしの析出物は、著しく高い電流密度で、かつ著しく高いコーティング厚さで、同じ析出条件下で析出させることができる。同時に、これらのコーティングの合金組成は、高速析出に有意な利点である大きな動作範囲にわたって安定している。更に、本発明に従う合金は、改善された耐摩耗性及び硬度特性を示す。硬度は、例えば、1.5at%Biを添加するとき、250Hv~300Hvまで増加する。