(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】シラン化合物およびタンパク質変性剤を含んでなるシランカップリング剤組成物、ならびにそれを含むゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20240606BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240606BHJP
C08K 5/16 20060101ALI20240606BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C08L7/00
B60C1/00 A
C08K5/16
C08K5/54
(21)【出願番号】P 2021526065
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2020022284
(87)【国際公開番号】W WO2020250822
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2019107806
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】知野 圭介
(72)【発明者】
【氏名】芦浦 誠
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0161458(US,A1)
【文献】国際公開第2016/009776(WO,A1)
【文献】特開2014-133827(JP,A)
【文献】特開2016-125017(JP,A)
【文献】特開2008-174618(JP,A)
【文献】特開2013-224407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00
C08K 5/54
C08K 5/16
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
[式中、
R
1は、水素原子または最大18の炭素原子を含む一価の炭化水素基であり、
R
2は、最大12の炭素原子を含む二価の炭化水素基であり、
X
1は、R
3O-およびR
3C(=O)O-からなる群より選択され(式中、R
3は、水素原子、または最大18の炭素原子を含む一価の炭化水素基、または最大18の炭素原子および少なくとも一つの酸素原子を含む一価の炭化水素基である)、
X
2およびX
3の各々は、独立してR
4およびX
1で挙げられている要素からなる群より選択される(式中、R
4は、最大6の炭素原子の一価の炭化水素基である)。]
で表されるシラン化合物および/またはその縮合物ならびにタンパク質変性剤を含んでなり、前記タンパク質変性剤が、
尿素、ドデシル硫酸ナトリウム、グルタルアルデヒド、およびスベルイミド酸ジメチル二塩酸塩からなる群から選択される少なくとも1種である、シランカップリング剤組成物。
【請求項2】
前記シラン化合物が、トリエトキシシリルメチルチオホルマート、2-トリエトキシシリルエチルチオアセテート、3-トリエトキシシリルプロピルチオプロパノエート、3-トリエトキシシリルプロピルチオヘキサノエート、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン(3-トリエトキシシリルプロピルチオオクタノエート)、3-ジエトキシメチルシリルプロピルチオオクタノエート、3-エトキシジメチルシリルプロピルチオオクタノエート、3-トリエトキシシリルプロピルチオドデカノエート、3-トリエトキシシリルプロピルチオオクタデカノエート、3-トリメトキシシリルプロピルチオオクタノエート、3-トリアセトキシシリルプロピルチオアセテート、3-ジプロポキシメチルシリルプロピルチオプロパノエート、4-オキサ-ヘキシルオキシジメチルシリルプロピルチオオクタノエート、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載のシランカップリング剤組成物。
【請求項3】
前記シラン化合物が、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン(3-トリエトキシシリルプロピルチオオクタノエート)、3-ジエトキシメチルシリルプロピルチオオクタノエート、および3-エトキシジメチルシリルプロピルチオオクタノエートからなる群より選択される、請求項1に記載のシランカップリング剤組成物。
【請求項4】
前記シラン化合物が、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン(3-トリエトキシシリルプロピルチオオクタノエート)である、請求項1に記載のシランカップリング剤組成物。
【請求項5】
前記縮合物が、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン(3-トリエトキシシリルプロピルチオオクタノエート)と3-メルカプトプロピルトリエトキシシランの縮合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載のシランカップリング剤組成物。
【請求項6】
前記式(1)で表される化合物以外のシラン化合物をさらに含んでなる、請求項1~
5のいずれか一項に記載のシランカップリング剤組成物。
【請求項7】
前記式(1)で表される化合物以外のシラン化合物が、式(3):
【化2】
[式中、
tおよびvは、それぞれ独立して、0~10の整数であり、
uは、2~10の整数であり、
qおよびrは、それぞれ独立して、1~3の整数であり、
wおよびzは、それぞれ独立して、0か1の整数であり、
L
2およびL
3は、それぞれ独立して、窒素、酸素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基であり、
R
21およびR
23は、それぞれ独立して、アルコキシ基または1以上のアルキル基で置換されたアミノ基であり、
R
22およびR
24は、それぞれ独立して、水素またはアルキル基である。]
で表されるシラン化合物である、請求項
6に記載のシランカップリング剤組成物。
【請求項8】
前記シランカップリング剤組成物における前記シラン化合物の含有量の総量に対する、前記シランカップリング剤組成物における前記式(1)で表される化合物以外のシラン化合物の含有量の割合が、質量基準で0.1~0.9である、請求項
6または
7に記載のシランカップリング剤組成物。
【請求項9】
天然ゴムまたは脱タンパク質天然ゴムに用いられる、請求項1~
8のいずれか一項に記載のシランカップリング剤組成物。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載のシランカップリング剤組成物、天然ゴムおよび脱タンパク質天然ゴムからなる群より選択される少なくとも1種のガラス転移点が25℃以下のエラストマー、ならびに無機材料を含んでなる、ゴム組成物。
【請求項11】
前記ゴム組成物における前記シラン化合物の含有量の総量が、前記エラストマー100質量部に対して、0.1~30質量部である、請求項
10に記載のゴム組成物。
【請求項12】
請求項
10または
11に記載のゴム組成物を製造する方法であって、前記シラン化合物、前記タンパク質変性剤、前記エラストマー、および前記無機材料を混練する工程を含んでなる、方法。
【請求項13】
前記シラン化合物、前記タンパク質変性剤、前記エラストマー、および前記無機材料を混練する工程の前に、前記タンパク質変性剤および前記エラストマーを予備混練する工程をさらに含んでなる、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
さらに加硫剤を混練する工程を含んでなる、請求項
12または
13に記載の方法。
【請求項15】
請求項
10または
11に記載のゴム組成物の架橋物。
【請求項16】
請求項
10または
11に記載のゴム組成物を押出す工程、押し出された組成物を成形する工程、および成形された組成物を架橋する工程を含んでなる、架橋物の製造方法。
【請求項17】
請求項
15に記載の架橋物を含んでなる、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン化合物およびタンパク質変性剤を含んでなるシランカップリング剤組成物、ならびにそれを含むゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、反応性官能基および加水分解性基を有するシラン化合物は、ゴム組成物中において、ゴム等の有機高分子材料とシリカ等の無機材料との分散性を向上させるために、シランカップリング剤の構成成分として用いられてきた。また、このようなシラン化合物は、接着剤組成物やシーリング材組成物において、ガラス等の無機材料への接着性を改善するための接着助剤として用いられてきた。
【0003】
通常、このようなシラン化合物は、ゴム等の有機高分子材料との反応性が高い反応性官能基として、メルカプト基、ポリスルフィド基、アミノ基やエポキシ基等の置換基を有し、かつシリカやガラス等の無機材料との反応性が高い加水分解性基として、アルコキシシリル基等の置換基を有する。例えば、特許文献1には、ポリスルフィド系のシランカップリング剤を含有するゴム組成物が開示されている。また、特許文献2には、反応性官能基としてアミノ基、加水分解性基としてメトキシ基を有するシラン化合物が提案されている。
【0004】
また、天然ゴムに含まれる不純物がシランカップリング剤の反応を阻害するという課題(非特許文献1)に対して、特許文献3には、特定の比表面積を有するシリカ、および特定のグリセリンモノ脂肪酸エステルを特定量で配合するゴム組成物が開示されている。また、特許文献4には、タンパク分解酵素によって酵素処理した後、さらに脂質分解酵素および/またはリン脂質分解酵素で酵素処理して得られる改質天然ゴムを用いたタイヤ用ゴム組成物が開示されている。さらに、特許文献5には、天然ゴムラテックスに尿素系化合物およびNaClOからなる群から選択されたタンパク質変性剤を添加し、ラテックス中のタンパク質を変性処理した後に除去することを特徴とする脱タンパク質化天然ゴムラテックスの製造方法が開示されている。さらに、特許文献6には、天然ゴムラテックスに、尿素系化合物を添加することにより、前記天然ゴムラテックス中のゴム粒子からタンパク質を遊離させ、その遊離したタンパク質を含むように乾燥する改質天然ゴムの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-259736号公報
【文献】特開平11-335381号公報
【文献】特開2016-113515号公報
【文献】特開2016-74844号公報
【文献】特開2004-99696号公報
【文献】特開2010-111722号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Sarkawi S.S. et al., European Polymer Journal vol.49 p.3199 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2において提案されるシラン化合物が有する反応性官能基は、極性が高く、混合する有機高分子材料が低極性である場合、シラン化合物と有機高分子材料とは親和性が低く、分散不良や混合不良が生じてしまう傾向にあった。そのため、このようなシラン化合物をゴム組成物に含有させた場合、このゴム組成物を成形等して得られるタイヤ等のゴム組成物の成形品の硬度、引張特性および粘弾性を十分に改善することができない傾向にあった。また、このようなシラン化合物を接着剤やシーリング材に添加した場合、シラン化合物と低極性の有機高分子材料との親和性が低下し、無機材料との接着性が低下する傾向があった。一方、低極性の有機高分子材料との親和性を高めるために、極性が低い反応性官能基を有する従来のシラン化合物を添加した場合、有機高分子材料との反応性が低く、シランカップリング剤や接着助剤としての性能が不十分であった。
【0008】
また、特許文献3に記載された、特定の比表面積を有するシリカ、および特定のグリセリンモノ脂肪酸エステルを特定量で配合するゴム組成物には、モジュラス等の引張特性のさらなる改善の余地があった。また、特許文献4に記載されたタンパク分解酵素によって酵素処理した後、脂質分解酵素および/またはリン脂質分解酵素で酵素処理して得られる改質天然ゴムを用いたタイヤ用ゴム組成物は、工程が複雑になるとともにコストアップの要因となる懸念があった。
【0009】
さらに、特許文献5では、タンパク質変性剤を使用しているが、液状の天然ゴムラテックスの製造に関する技術であり、ドライラバー状の天然ゴムについての言及はない。また、特定のシランカップリング剤の記載もない。特許文献6では、天然ゴムラテックス中にタンパク質変性剤を投入したのち、特殊な装置を用いた固体天然ゴムの製造に関するものであるが、特定のシランカップリング剤の記載はない。
【0010】
本発明者らは、天然ゴムの不純物(タンパク質やリン脂質等)がカップリング反応を阻害し、これが天然ゴム等を含む有機高分子材料とシリカ等の無機材料との混合不良、分散不良を引き起こすといった課題に対し、これを解決する手段を鋭意検討した結果、特定の構造を有し、かつそれ自体がカップリング剤としての機能を有するシラン化合物およびタンパク質変性剤をゴム組成物等に配合することにより、カップリング反応が促進され、その結果、シリカ等の無機材料の分散性が向上して、該ゴム組成物等から得られるゴム製品等の粘弾性特性が改良されることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0011】
従って、本発明の目的は、天然ゴム由来の有機高分子材料とシリカ等の無機材料との混合不良や分散不良等が生じ難く、優れた粘弾性特性を発揮するゴム組成物およびそれに用いるシランカップリング剤組成物等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の発明を包含する。
[1]式(1):
【化1】
[式中、
R
1は、水素原子または最大18の炭素原子を含む一価の炭化水素基であり、
R
2は、最大12の炭素原子を含む二価の炭化水素基であり、
X
1は、R
3O-およびR
3C(=O)O-からなる群より選択され(式中、R
3は、水素原子、または最大18の炭素原子を含む一価の炭化水素基、または最大18の炭素原子および少なくとも一つの酸素原子を含む一価の炭化水素基である)、
X
2およびX
3の各々は、独立してR
4およびX
1で挙げられている要素からなる群より選択される(式中、R
4は、最大6の炭素原子の一価の炭化水素基である)。]
で表されるシラン化合物および/またはその縮合物ならびにタンパク質変性剤を含んでなる、シランカップリング剤組成物。
[2]前記シラン化合物が、トリエトキシシリルメチルチオホルマート、2-トリエトキシシリルエチルチオアセテート、3-トリエトキシシリルプロピルチオプロパノエート、3-トリエトキシシリルプロピルチオヘキサノエート、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン(3-トリエトキシシリルプロピルチオオクタノエート)、3-ジエトキシメチルシリルプロピルチオオクタノエート、3-エトキシジメチルシリルプロピルチオオクタノエート、3-トリエトキシシリルプロピルチオドデカノエート、3-トリエトキシシリルプロピルチオオクタデカノエート、3-トリメトキシシリルプロピルチオオクタノエート、3-トリアセトキシシリルプロピルチオアセテート、3-ジプロポキシメチルシリルプロピルチオプロパノエート、4-オキサ-ヘキシルオキシジメチルシリルプロピルチオオクタノエート、およびそれらの混合物からなる群より選択される、[1]に記載のシランカップリング剤組成物。
[3]前記シラン化合物が、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン(3-トリエトキシシリルプロピルチオオクタノエート)、3-ジエトキシメチルシリルプロピルチオオクタノエート、および3-エトキシジメチルシリルプロピルチオオクタノエートからなる群より選択される、[1]に記載のシランカップリング剤組成物。
[4]前記シラン化合物が、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン(3-トリエトキシシリルプロピルチオオクタノエート)である、[1]に記載のシランカップリング剤組成物。
[5]前記縮合物が、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン(3-トリエトキシシリルプロピルチオオクタノエート)と3-メルカプトプロピルトリエトキシシランの縮合物である、[1]~[4]のいずれかに記載のシランカップリング剤組成物。
[6]前記タンパク質変性剤が、カルバミド類化合物、グアニジン類化合物および界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載のシランカップリング剤組成物。
[7]前記カルバミド類化合物が尿素である、[6]に記載のシランカップリング剤組成物。
[8]前記グアニジン類化合物がグアニジン塩酸塩およびジフェニルグアニジンからなる群から選択される少なくとも1種である、[6]に記載のシランカップリング剤組成物。
[9]前記界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムである、[6]に記載のシランカップリング剤組成物。
[10]前記式(1)で表される化合物以外のシラン化合物をさらに含んでなる、[1]~[9]のいずれかに記載のシランカップリング剤組成物。
[11]前記式(1)で表される化合物以外のシラン化合物が、式(3):
【化2】
[式中、
tおよびvは、それぞれ独立して、0~10の整数であり、
uは、2~10の整数であり、
qおよびrは、それぞれ独立して、1~3の整数であり、
wおよびzは、それぞれ独立して、0か1の整数であり、
L
2およびL
3は、それぞれ独立して、窒素、酸素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基であり、
R
21およびR
23は、それぞれ独立して、アルコキシ基または1以上のアルキル基で置換されたアミノ基であり、
R
22およびR
24は、それぞれ独立して、水素またはアルキル基である。]
で表されるシラン化合物である、[10]に記載のシランカップリング剤組成物。
[12]前記シランカップリング剤組成物における前記シラン化合物の含有量の総量に対する、前記シランカップリング剤組成物における前記式(1)で表される化合物以外のシラン化合物の含有量の割合が、質量基準で0.1~0.9である、[1]~[11]のいずれかに記載のシランカップリング剤組成物。
[13]天然ゴムまたは脱タンパク質天然ゴムに用いられる、[1]~[12]のいずれかに記載のシランカップリング剤組成物。
[14][1]~[13]のいずれかに記載のシランカップリング剤組成物、天然ゴムおよび脱タンパク質天然ゴムからなる群より選択される少なくとも1種のガラス転移点が25℃以下のエラストマー、ならびに無機材料を含んでなる、ゴム組成物。
[15]前記ゴム組成物における前記シラン化合物の含有量の総量が、前記エラストマー100質量部に対して、0.1~30質量部である、[14]に記載のゴム組成物。
[16][14]または[15]に記載のゴム組成物を製造する方法であって、前記シラン化合物、前記タンパク質変性剤、前記エラストマー、および前記無機材料を混練する工程を含んでなる、方法。
[17]前記シラン化合物、前記タンパク質変性剤、前記エラストマー、および前記無機材料を混練する工程の前に、前記タンパク質変性剤および前記エラストマーを予備混練する工程をさらに含んでなる、[16]に記載の方法。
[18]さらに加硫剤を混練する工程を含んでなる、[16]または[17]に記載の方法。
[19][14]または[15]に記載のゴム組成物の架橋物。
[20][14]または[15]に記載のゴム組成物を押出す工程、押し出された組成物を成形する工程、および成形された組成物を架橋する工程を含んでなる、架橋物の製造方法。
[21][19]に記載の架橋物を含んでなる、タイヤ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、天然ゴム等に含まれる不純物が存在してもカップリング反応が阻害されず、その結果、シリカ等の無機材料との混合不良や分散不良等が生じ難くい、シランカップリング剤として有用なシラン化合物およびタンパク質変性剤を含む組成物を提供できる点で有利である。また、本発明の組成物に当該シラン化合物およびタンパク質変性剤を使用することにより、天然ゴム等に含まれる不純物が存在する組成物から得られる架橋物の粘弾性特性を向上させることができる。また、本発明によれば、ゴム組成物の未加硫粘度を低減できる。また、本ゴム組成物から得られる架橋物の引張特性(100%モジュラス)を向上させることができる点で有利である。また、本発明によれば、ゴム組成物から得られる架橋物の低燃費性能を向上させることができる点で有利である。さらに、本発明によれば、先行技術と比較して、より簡易な工程変更で課題解決できる点で有利である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.定義
本明細書において、配合を示す「部」、「%」等は特に断らない限り質量基準である。
【0015】
2.シランカップリング剤組成物およびゴム組成物
本発明のシランカップリング剤組成物は、下記式(1)で表されるシラン化合物およびタンパク質変性剤を含むことを特徴とする。また、本発明のゴム組成物は、下記式(1)で表されるシラン化合物、タンパク質変性剤、ガラス転移点が25℃以下のエラストマーおよび無機材料を含むことを特徴とする。
(1)シラン化合物
(i)シラン化合物の化学構造
本発明のシランカップリング剤組成物およびゴム組成物に含まれるシラン化合物は、下記の式(1):
【化3】
[式中、
R
1は、水素原子または最大18の炭素原子を含む一価の炭化水素基であり、
R
2は、最大12の炭素原子を含む二価の炭化水素基であり、
X
1は、R
3O-およびR
3C(=O)O-からなる群より選択され(式中、R
3は、水素原子、または最大18の炭素原子を含む一価の炭化水素基、または最大18の炭素原子および少なくとも一つの酸素原子を含む一価の炭化水素基である)、
X
2およびX
3の各々は、独立してR
4およびX
1で挙げられている要素からなる群より選択される(式中、R
4は、最大6の炭素原子の一価の炭化水素基である)。]
で表される化合物である。
【0016】
上記式(1)において、R1の代表的な、限定されない例示は、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ヘキシル、2-エチルヘキシル、オクチル、デシル、オクタデシル、シクロヘキシル、フェニル、ベンジルおよびフェネチルを含む。
【0017】
上記式(1)において、R2の代表的な、限定されない例示は、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、ヘキシレン、オクチレン、デシレン、シクロヘキシレンおよびフェニレンを含む。
【0018】
上記式(1)において、R3の代表的な、限定されない例示は、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ヘキシル、2-エチルヘキシル、オクチル、デシル、オクタデシル、シクロヘキシル、フェニル、ベンジル、フェネチル、3-オキサブチルおよび4,7-ジオキサオクチルを含む。
【0019】
上記式(1)において、R4の代表的な、限定されない例示は、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルおよびフェニルを含む。
【0020】
上記式(1)において、X1の代表的な、限定されない例示は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、フェノキシ、ベンジルオキシ、ヒドロキシおよびアセトキシを含む。X2およびX3の代表的な例示は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、sec-ブチル、フェニル、ビニルおよびシクロヘキシルに加えて、上記に挙げられたX1の代表的な例示を含む。
【0021】
本発明の更に他の実施態様において、R1は、5~9の炭素原子を含むアルキル基であって、第一級炭素原子を介してカルボニル基に結合し、R2は、メチレン、エチレンまたはプロピレンであり、X1は、メトキシ、エトキシまたはプロポキシであり、そして、X2およびX3は、個々に、X1の代表的な例示およびメチルを含む。
【0022】
本発明のシランカップリング剤組成物およびゴム組成物に含まれるシラン化合物の代表的な例示は、トリエトキシシリルメチルチオホルメート、2-トリエトキシシリルエチルチオアセテート、3-トリエトキシシリルプロピルチオプロパノエート、3-トリエトキシシリルプロピルチオヘキサノエート、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン(3-トリエトキシシリルプロピルチオオクタノエート)、3-ジエトキシメチルシリルプロピルチオオクタノエート、3-エトキシジメチルシリルプロピルチオオクタノエート、3-トリエトキシシリルプロピルチオドデカノエート、3-トリエトキシシリルプロピルチオオクタドデカノエート、3-トリメトキシシリルプロピルチオオクタノエート、3-トリアセトキシシリルプロピルチオアセテート、3-ジプロポキシメチルシリルプロピルチオプロパノエート、4-オキサ-ヘキシルオキシジメチルシリルプロピルチオオクタノエート、およびそれらの混合物を含むが、限定はされない。
【0023】
これらの中で、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン(3-トリエトキシシリルプロピルチオオクタノエート)、3-ジエトキシメチルシリルプロピルチオオクタノエート、および3-エトキシジメチルシリルプロピルチオオクタノエートが好ましく、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン(3-Octanoylthio-1-propyltriethoxysilane)(3-トリエトキシシリルプロピルチオオクタノエート)がより好ましい。
【0024】
(ii)式(1)で表されるシラン化合物の製造方法
本発明のシランカップリング剤組成物およびゴム組成物に含まれる式(1)で表される化合物の製造方法は、炭素―炭素二重結合におけるチオ酸のフリーラジカル付加によって、チオエステル基をアルケン官能性シランに直接組み込むことを含む。該反応は、紫外線、熱、または適切なフリーラジカル開始剤によって触媒される。該反応は、高温で、または、アルケン官能性シランおよびチオ酸の混合物を還流することにより、行うことが出来る。該反応の種々の態様は、米国特許番号3,692,812およびG.A.Gornowiczら、J.Org.Chem.(1968),33(7),2918-24に記載されている。無触媒反応は、温度105℃以上で進行し、温度に伴って反応速度が増加し、160℃以上が好適である。反応は、UV照射もしくは触媒を用いることにより、より効率的になる。触媒を用いる事で、反応は90℃以下でも進行するようになる。適切な触媒は、たとえば、空気、過酸化物、特に有機化酸化物、およびアゾ化合物のような、フリーラジカル開始剤である。過酸化物開始剤の例は、過安息香酸および過酢酸のような過酸;過酸のエステル;t-ブチルヒドロペルオキシドのようなヒドロペルオキシド;ジ-t-ブチル過酸化物のような過酸化物;ならびに、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンのような過酸化アセタールおよびケタール、もしくは任意の他の過酸化物を含む。アゾ開始剤の例は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、1,1-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(VAZO、DuPont製);およびアゾ-tert-ブタンを含む。
【0025】
反応はアルケン官能性シランとチオ酸反応体との混合物を最適な触媒と共に加熱する事によって実施される。最も高い転換を得るために、等モル基準かもしくは等モルに近い基準において、反応全般が実施されることが好ましい。反応は発熱し、急速に進行する。後に激しい還流へと至る、急速に温度が上昇する傾向にある。一般に、一つの反応体の部分量を他の反応体へ加え、触媒と共に反応を開始し、おおむね完全になるまで反応を進行させ、そして残りの反応体を、一回の添加によってか、または複数回の添加によって、添加する事によって、反応は効果的に制御できる。最初の濃度ならびに添加の速度および欠乏した試薬の添加回数は、用いられる触媒のタイプおよび量、反応のスケール、開始物質の性質、ならびに、装置の熱を吸収し放散する能力に依存する。
【0026】
さらに他の製造方法において、チオ酸のアルカリ金属塩と、ハロアルキルシランと反応させる。第一ステップは、チオ酸の塩の調製である。アルカリ金属誘導体が好ましく、ナトリウム誘導体がさらに好ましい。これらの塩は溶媒中の溶液で作成され、ここで塩はかなり可溶性であるが、溶媒中に塩が固体で懸濁していて、ここで塩がわずかに可溶性であるものも、実行可能な選択肢である。アルカリ金属塩がそれらにわずかに溶解するため、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール等のアルコール、および好ましくは、メタノールおよびエタノール、が特に有用である。目的の生成物がアルコキシシランである場合、ケイ素エステルのエステル交換を妨げるために、シランアルコキシ基に対応するアルコールを使用することが好ましい。あるいは、非プロトン性溶媒が使用される。好適な溶媒の例示は、グリム、ジグリム、ジオキサン等のエーテルまたはポリエーテル;N,N-ジメチルホルムアミド;N,N-ジメチルアセトアミド;ジメチルスルフォキシド;N-メチルピロリジノン;およびヘキサメチルホスホルアミドである。
【0027】
チオ酸の塩の溶液、懸濁液もしくはそれらの組み合わせが作成されると、塩を選択されたハロアルキルシランと反応させる。これはハロアルキルシランとチオ酸の塩の溶液、懸濁液もしくはそれらの組み合わせとの混合物を、溶媒の液体範囲に対応する温度において、反応が実質的に完結するのに充分な時間、攪拌することによって達成され得る。好ましい反応温度は、塩が溶媒中にかなり可溶性であり、反応が過剰な副反応無しに、許容できる速度で進むようなものである。反応が、塩素原子がアリルでもベンジルでもないクロロアルキルシランから開始する時、好ましい温度は60℃~160℃の範囲である。反応時間は、1時間もしくは数時間から数日間までの範囲であり得る。アルコールが4つもしくはそれ以下の炭素原子を有するアルコール溶媒に対し、もっとも好ましい温度は還流、もしくは還流に近いものである。もし、ジグリムが溶媒として用いられた場合、好ましい温度は、用いられるチオ酸塩に依存して、70℃~120℃の範囲である。もしハロアルキルシランが、塩素原子がアリルもしくはベンジルであるブロモアルキルシランもしくはクロロアルキルシランである場合、ブロモ基のより高い反応性のため、30℃~60℃の反応温度の低下が適切なものとなる。チオカルボン酸エステルエトキシシランを生成する、直鎖クロロアルキルエトキシシランとチオカルボン酸ナトリウムとの間の反応にとって、反応産物中に5~20重量%のメルカプトシランの存在が許容できるなら、10~20時間の還流においてエタノールを用いることが好ましい。さもなければ、溶媒としてジグリムを使用することが好ましく、その場合、反応は、80℃~120℃の範囲で1~3時間行われる。反応が完結すると塩および溶媒は通常に取り除かれ、その後、高い純度を得るために反応産物の蒸留を行う。
【0028】
さらに他の製造方法において、式(1)で表される化合物は、チオ酸のアルカリ金属塩とハロアルキルシラン間の二相反応によって得られる。アルカリ金属塩は水層に可溶である一方、ハロアルキルシランは水層に僅かな溶解度しかもたないため、有機層を形成する。反応は、15℃~95℃の範囲の温度で大気圧下で、或いは、水層の沸騰を防ぐために圧力を上げる場合は、より高い温度で進められる。有機層中のアルカリ金属チオ酸塩の溶解度を上げるために、臭化n-ブチルアンモニウムまたはヘキサエチルグアニジン等の相間移動触媒を用いることができ、それが、反応速度を上げ、反応時間を短縮し、そして、アルコキシシリル基の加水分解を最小限にし得る。
【0029】
(iii)式(1)で表されるシラン化合物の縮合物
本発明のシランカップリング剤組成物およびゴム組成物は、上記式(1)で表されるシラン化合物に替えて、あるいは上記式(1)で表されるシラン化合物と共に、式(1)で表されるシラン化合物の縮合物を含んでなることができる。式(1)で表されるシラン化合物の縮合物は、式(1)で表されるシラン化合物単独で、もしくは式(2):
【化4】
[式中、
R
2は、最大12の炭素原子を含む二価の炭化水素基であり、
X
1は、R
3O-およびR
3C(=O)O-からなる群より選択され(式中、R
3は、水素原子、または最大18の炭素原子を含む一価の炭化水素基、または最大18の炭素原子および少なくとも一つの酸素原子を含む一価の炭化水素基である)、
X
2およびX
3の各々は、独立してR
4およびX
1で挙げられている要素からなる群より選択される(式中、R
4は、最大6の炭素原子の一価の炭化水素基である)。]
で表される化合物との共存下において、シリル基を部分的に加水分解した後、他の分子のシリル基と脱エタノールもしくは脱水を伴いながら重縮合させて、単独縮合物もしくは共縮合物として調製することができる。ただし、重縮合を起こすためには、X
1、X
2およびX
3のうち、少なくとも2つ以上はR
3O-もしくはR
3C(=O)O-でなければならない。
【0030】
(2)タンパク質変性剤
本発明のシランカップリング剤組成物およびゴム組成物に含まれるタンパク質変性剤としては、当業者に知られたタンパク質変性剤を使用することができる。タンパク質変性剤は、天然ゴム中のタンパク質の高次構造の安定性を低下させ得るものであればいかなるものであってもよい。代表的なタンパク質変性剤としては、尿素誘導体、チオ尿素等のカルバミド類化合物;グアニジン塩酸塩、チオシアン酸グアニジウム、グアニジン、ジフェニルグアニジン等のグアニジン類化合物;ドデシル硫酸ナトリウム等の界面活性剤;グルタルアルデヒド、スベルイミド酸ジメチル二塩酸塩、βメルカプトエタノール、ジチオスレイトール等が挙げられる。これらのタンパク質変性剤は、いずれか1種類を使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、カルバミド類化合物、グアニジン類化合物、および界面活性剤を用いることが好ましく、尿素誘導体、グアニジン塩酸塩、ジフェニルグアニジン、およびドデシル硫酸ナトリウムを用いることがより好ましい。尿素誘導体としては、例えば尿素、メチル尿素、エチル尿素、プロピル尿素、ブチル尿素、ペンチル尿素、ヘキシル尿素、シクロヘキシル尿素、N,N’-ジメチル尿素、N,N’-ジエチル尿素、N,N,N’,N’-テトラメチル尿素、N,N-ジメチル-N’,N’-ジフェニル尿素、ジエチル尿素、ジプロピル尿素、ジブチル尿素、ジペンチル尿素、ジヘキシル尿素およびそれらの塩等が挙げられる。これらの中でも、尿素が好ましい。
【0031】
タンパク質変性剤の使用量は、タンパク質変性剤の種類により異なるが、タンパク質の高次構造の安定性を低下させるものであれば、いかなる量であってもよい。ゴム組成物におけるタンパク質変性剤の含有量は、エラストマー100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部であり、より好ましくは0.05~5質量部であり、さらに好ましくは0.1~3.0質量部であり、さらにより好ましくは0.5~2.5質量部である。なお、タンパク質変性剤が2種以上含まれる場合には、その合計含有量が、上記数値範囲内であるのがよい。また、例えば、タンパク質変性剤として尿素を用いる場合、エラストマー100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.05~5質量部、さらに好ましくは0.1~3質量部含有させることでよい。また、例えば、タンパク質変性剤としてグアニジン塩酸塩を用いる場合、エラストマー100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.05~5質量部、さらに好ましくは0.1~3質量部含有させることでよい。さらに、例えば、タンパク質変性剤としてドデシル硫酸ナトリウムを用いる場合、エラストマー100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.05~5質量部、さらに好ましくは0.1~3質量部含有させることでよい。
【0032】
(3)エラストマー
本発明のゴム組成物におけるエラストマーは、天然ゴムおよび脱タンパク質天然ゴムからなる群より選択される少なくとも1種以上のガラス転移点が25℃以下のエラストマーである(2種以上のポリマーからなる場合は、それらの混合物である)。ここで、脱タンパク質天然ゴムは、脱タンパク処理を施した天然ゴムであるが、通常の天然ゴムと比較してタンパク質含量が少なくなっているものの、完全に除去されたわけではない。天然ゴムまたは脱タンパク質天然ゴムには、天然ゴム由来の不純物(タンパク質、リン脂質等)が含まれており、これがシランカップリング剤のカップリング反応を阻害し、配合されたシリカ等の無機材料がエラストマー中で十分に分散しないという問題が生じていた。本発明はかかる課題を解決するためのものであり、本発明のゴム組成物におけるエラストマーは、全部もしくは少なくとも一部として天然ゴムまたは脱タンパク質天然ゴムを含んでなるものである。
【0033】
本発明のゴム組成物におけるエラストマーのガラス転移点(Tg)は、25℃以下であり、0℃以下であることが好ましい。エラストマーのガラス転移点(Tg)がこの範囲であると、ゴム組成物が室温でゴム状弾性を示すため好ましい。なお、本発明において、ガラス転移点(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC-Differential Scanning Calorimetry)により測定したガラス転移点である。昇温速度は10℃/minにするのが好ましい。
【0034】
場合により、天然ゴムおよび脱タンパク質天然ゴム以外に含まれていてもよいエラストマーとしては、ガラス転移点が25℃以下である公知の天然高分子または合成高分子が挙げられ、それは液状または固体状であってもよい。その具体的な例としては、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレン-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ハロゲン化イソプレンゴム、ハロゲン化イソブチレンコポリマー、クロロプレンゴム、ブチルゴムおよびハロゲン化イソブチレン-p-メチルスチレンゴムからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。なお、これらは天然ゴムまたは脱タンパク質天然ゴムとの任意のブレンドとして使用することができる。
【0035】
上述した天然ゴムおよび脱タンパク質天然ゴム以外に含まれていてもよいエラストマーは、上述したポリマーの中でも、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ブチルゴムおよびハロゲン化イソブチレン-p-メチルスチレンゴムより選択される1種以上のポリマーであることが好ましい。
【0036】
本発明のゴム組成物におけるエラストマーは、天然ゴムおよび/または脱タンパク質天然ゴムからなるものであることが好ましい。
【0037】
本発明のゴム組成物におけるエラストマーの重量平均分子量は、1,000~3000,000であることが好ましく、10,000~1000,000であることがさらに好ましい。なお、本発明において、重量平均分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィー(Gel permeation chromatography(GPC))により測定した重量平均分子量(ポリスチレン換算)である。測定にはテトラヒドロフラン(THF)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、クロロホルムを溶媒として用いるのが好ましい。
【0038】
本発明のゴム組成物における式(1)で表される化合物の含有量は、エラストマー100質量部に対し、好ましくは0.1~30質量部であり、より好ましくは0.3~20質量部、さらに好ましくは0.4~15質量部、さらにより好ましくは0.7~10質量部、特に好ましくは0.7~6.9質量部、特により好ましくは1~5.0質量部、特にさらに好ましくは1~3.4質量部である。また、式(1)で表される化合物の含有量は、ゴム組成物に含まれる無機材料の総量100質量部に対し、好ましくは0.1~30質量部であり、より好ましくは0.5~20質量部、さらに好ましくは1.0~15質量部である。
【0039】
また、上記式(1)で表される化合物およびタンパク質変性剤を本発明のゴム組成物に含有させることにより、エラストマーの機械強度、低燃費性を向上させることができる。また、混練工程を短縮させることができるため、コストを低減させることもできる。
【0040】
(4)式(1)で表される化合物以外のシラン化合物
本発明のシランカップリング剤組成物およびゴム組成物は、式(1)で表される化合物以外のシラン化合物(本明細書において、「その他のシラン化合物」と称することもある)をさらに含んでいてもよい。式(1)で表される化合物以外のシラン化合物を含んでなるゴム組成物を加硫反応させると、式(1)で表される化合物以外のシラン化合物が加硫反応に組み込まれるため、シランカップリング剤として機能する式(1)で表される化合物以外のシラン化合物と式(1)で表される化合物が反応する。この反応によって、カップリング効率が高まるという相乗効果が生まれると考えられる。本発明のシランカップリング剤組成物およびゴム組成物において、式(1)で表される化合物以外のシラン化合物は、好ましくは、式(1)で表される化合物以外の含硫黄シラン化合物(その他の含硫黄シラン化合物)である。
【0041】
式(1)で表される化合物以外のシラン化合物の含有量は、エラストマー100質量部に対し、好ましくは0.01~27質量部であり、より好ましくは0.03~18質量部である。また、式(1)で表される化合物以外のシラン化合物の含有量は、ゴム組成物に含まれる無機材料の総量100質量部に対し、好ましくは0.01~27質量部であり、より好ましくは0.05~18質量部、さらに好ましくは0.1~13.5質量部である。
【0042】
本発明のゴム組成物において、式(1)で表される化合物の含有量および式(1)で表される化合物以外のシラン化合物の含有量の合計が、エラストマー100質量部に対し、好ましくは0.1~30質量部であり、より好ましくは0.3~20質量部、さらに好ましくは0.4~15質量部、さらにより好ましくは0.7~10質量部、特に好ましくは0.7~6.9質量部、特により好ましくは1~5.0質量部、特にさらに好ましくは1~3.4質量部である。また、式(1)で表される化合物の含有量および式(1)で表される化合物以外のシラン化合物の含有量の合計が、ゴム組成物に含まれる無機材料の総量100質量部に対し、好ましくは0.1~30質量部であり、より好ましくは0.5~20質量部、さらに好ましくは1.0~15質量部である。
【0043】
本発明のシランカップリング剤組成物およびゴム組成物において、式(1)で表される化合物の含有量および式(1)で表される化合物以外のシラン化合物の含有量の合計に対する、式(1)で表される化合物以外のシラン化合物の含有量の割合は、好ましくは質量基準で0.1~0.9であり、さらに好ましくは0.2~0.8である。
【0044】
式(1)で表される化合物以外のシラン化合物として、例えば、式(3):
【化5】
[式中、
tおよびvは、それぞれ独立して、0~10の整数であり、
uは、2~10の整数であり、
qおよびrは、それぞれ独立して、1~3の整数であり、
wおよびzは、それぞれ独立して、0か1の整数であり、
L
2およびL
3は、それぞれ独立して、窒素、酸素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基であり、
R
21およびR
23は、それぞれ独立して、アルコキシ基または1以上のアルキル基で置換されたアミノ基であり、
R
22およびR
24は、それぞれ独立して、水素またはアルキル基である。]
で表される化合物を使用することができる。
【0045】
上記式(3)中、tおよびvは、それぞれ独立して、0~10の整数であり、好ましくは0~5の整数であり、より好ましくは1~3の整数であり、さらに好ましくは2である。
また、uは、2~10の整数であり、より好ましくは、2~8の整数である。
また、qおよびrは、それぞれ独立して、1~3の整数であり、好ましくは2~3の整数、より好ましくは3である。
また、wおよびzは、それぞれ独立して、0か1の整数であり、好ましくは0である。
また、L2およびL3は、それぞれ独立して、窒素、酸素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基であり、好ましくは、窒素、酸素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含んでいてもよい、炭素数1~30の炭化水素基、より好ましくは、窒素、酸素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含んでいてもよい、炭素数1~20の炭化水素基、さらに好ましくは、窒素、酸素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含んでいてもよい、炭素数1~10の炭化水素基である。
また、R21およびR23は、それぞれ独立して、加水分解性基であり、アルコキシ基、より好ましくは炭素数1~30のアルコキシ基、さらに好ましくは炭素数1~20のアルコキシ基、または1以上のアルキル基で置換されたアミノ基、より好ましくは1以上の炭素数1~30のアルキル基で置換されたアミノ基、より好ましくは1以上の炭素数1~20のアルキル基で置換されたアミノ基である。具体的には、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基およびイソブトキシ基等が挙げられ、これらの中でも、メトキシ基またはエトキシ基が好ましい。また、1以上のアルキル基で置換されたアミノ基としては、N-メチルアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、N-エチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基およびN-イソプロピルアミノ基等が挙げられ、これらの中でも、N-メチルアミノ基またはN-エチルアミノ基が好ましい。なお、アルコキシ基およびアミノ基は、窒素、酸素および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基からなる連結基を介してケイ素(Si)と結合してもよい。
また、R22およびR24は、それぞれ独立して、水素またはアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~30のアルキル基、さらに好ましくは炭素数1~20のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、へキシル基およびシクロへキシル基等が挙げられ、これらの中でも、メチル基およびエチル基が好ましい。
【0046】
本発明のゴム組成物における上記式(3)で表される化合物の含有量は、エラストマー100質量部に対し、好ましくは0.01~27質量部であり、より好ましくは0.03~18質量部である。また、本発明のゴム組成物における上記式(3)で表される化合物の含有量は、ゴム組成物に含まれる無機材料の総量100質量部に対し、好ましくは0.01~27質量部であり、より好ましくは0.05~18質量部、さらに好ましくは0.1~13.5質量部である。
【0047】
式(1)で表される化合物以外のシラン化合物として、上記式(3)で表される化合物以外にも、以下のような構造を有するシラン化合物を使用することができる。
【化6】
【化7】
【0048】
(5)無機材料
本発明のゴム組成物に含まれる無機材料としては、例えば、シリカ、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化チタン、クレイおよびタルク等が挙げられ、これらをそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、機械的特性および耐熱性をより向上させることができることから、シリカ、またはカーボンブラックを用いることが好ましい。無機材料の添加量は、エラストマー100質量部に対し、0.1~500質量部であることが好ましく、1~300質量部であることがより好ましい。
【0049】
シリカとしては、特に限定されないが、例えば、乾式法シリカ、湿式法シリカ、コロイダルシリカ、および沈降シリカ等が挙げられる。これらの中でも、含水ケイ酸を主成分とする湿式法シリカが好ましい。これらのシリカは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。シリカの添加量は、エラストマー100質量部に対し、好ましくは1~300質量部であり、より好ましくは5~200質量部であり、さらに好ましくは10~150質量部である。これらシリカの比表面積は、特に制限されないが、窒素吸着比表面積(BET法)で通常10~400m2/g、好ましくは20~300m2/g、更に好ましくは120~190m2/gの範囲であるときに、補強性、耐摩耗性および発熱性等の改善が十分に達成され好適である。ここで、窒素吸着比表面積は、ASTM D3037-81に準じ、BET法で測定される値である。
【0050】
カーボンブラックは、用途に応じて適宜選択使用される。一般に、カーボンブラックは粒子径に基づいて、ハードカーボンとソフトカーボンとに分類される。ソフトカーボンはゴムに対する補強性が低く、ハードカーボンはゴムに対する補強性が高い。本発明のゴム組成物では、特に補強性の高いハードカーボンを用いるのが好ましい。カーボンブラックの添加量は、エラストマー100質量部に対して、好ましくは1~300質量部、より好ましくは5~200質量部、さらに好ましくは10~150質量部含んでいるのがよい。なお、カーボンブラックは、ゴム組成物に加えてもよいし、シランカップリング剤組成物に加えてもよい。
【0051】
(6)その他の加工助剤
本発明のゴム組成物は、その機能を損なわない範囲で、硫黄等の加硫剤、架橋剤、加硫促進剤、架橋促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、軟化剤、各種オイル、酸化防止剤、老化防止剤、充填剤および可塑材等のその他の加工助剤を含んでいてもよい。
【0052】
老化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、脂肪族および芳香族のヒンダードアミン系等の化合物が挙げられ、エラストマー100質量部に対して0.1~10質量部、より好ましくは1~5質量部添加するのがよい。また、酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられる。エラストマー100質量部に対して0.1~10質量部、より好ましくは1~5質量部添加するのがよい。
【0053】
着色剤としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料、アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料等が挙げられる。エラストマー100質量部に対して0.1~10質量部、より好ましくは1~5質量部添加するのがよい。
【0054】
加硫剤としては、粉末硫黄、沈降性硫黄、高分散性硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイド等の硫黄系加硫剤や酸化亜鉛、酸化マグネシウム、リサージ、p-キノンジオキサム、p-ジベンゾイルキノンジオキシム、テトラクロロ-p-ベンゾキノン、ポリ-p-ジニトロベンゼン、メチレンジアニリン、フェノール樹脂、臭素化アルキルフェノール樹脂、塩素化アルキルフェノール樹脂等が挙げられる。
【0055】
加硫促進助剤としては、アセチル酸、プロピオン酸、ブタン酸、ステアリン酸、アクリル酸、マレイン酸等の脂肪酸、アセチル酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、ブタン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、マレイン酸亜鉛等の脂肪酸亜鉛、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0056】
加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)等のチウラム系、ヘキサメチレンテトラミン等のアルデヒド・アンモニア系、ジフェニルグアニジン等のグアニジン系、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアジルジサルファイド(DM)等のチアゾール系、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアマイド(CBS)、N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアマイド(BBS)等のスルフェンアミド系、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnPDC)等のジチオカルバミン酸塩系の加硫促進剤が挙げられる。
【0057】
本発明では、その他の加工助剤は、公知のゴム用混練機、例えば、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー等で混練し、任意の条件で加硫してゴム組成物として使用することができる。これらその他の加工助剤の添加量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0058】
(7)ゴム組成物を製造する方法
本発明のゴム組成物を製造する方法は、上記シラン化合物、上記タンパク質変性剤、上記ガラス転移点が25℃以下のエラストマーおよび上記無機材料を混練する工程を含んでなるものである。ここで、上記シラン化合物、上記タンパク質変性剤、上記エラストマー、および上記無機材料を混練する工程の前に、上記タンパク質変性剤および上記エラストマーを予備混練する工程をさらに含んでいてもよい。かかる上記シラン化合物には、式(1)で表される化合物以外のシラン化合物が含まれていてもよい。本発明のゴム組成物を製造する方法は、好ましくは、該シラン化合物、該タンパク質変性剤、該ガラス転移点が25℃以下のエラストマー、該無機材料および上記加硫促進助剤を混練する工程を含んでなるものである。
【0059】
上述のゴム組成物を製造する方法は、好ましくは、さらに上記加硫剤を混練する工程を含んでなるものであってもよい。より好ましくは、さらに該加硫剤と上記加硫促進剤を混練する工程を含んでなるものであってもよい。
【0060】
ここで、該ゴム組成物における式(1)で表される化合物の含有量および式(1)で表される化合物以外のシラン化合物の含有量の合計が、該エラストマー100質量部に対して、好ましくは0.1~30質量部であり、より好ましくは0.3~20質量部、さらに好ましくは0.4~15質量部、さらにより好ましくは0.7~10質量部、特に好ましくは0.7~6.9質量部、特により好ましくは1~5.0質量部、特にさらに好ましくは1~3.4質量部である。また、該ゴム組成物が式(1)で表される化合物以外のシラン化合物を含む場合、式(1)で表される化合物の含有量および式(1)で表される化合物以外のシラン化合物の含有量の合計に対する、式(1)で表される化合物以外のシラン化合物の含有量の割合は、質量基準で0.1~0.9であることが好ましく、0.2~0.8であることがさらに好ましい。
【0061】
また、上述の各工程において、ゴム組成物の機能を損なわない範囲で、上述のその他の加工助剤を適宜配合することができる。
【0062】
(8)本発明のゴム組成物の架橋物
本発明のゴム組成物を用いて、従来公知の方法および当業者に広く知られた技術常識に従い、ゴム組成物の架橋物を製造することができる。例えば、上記ゴム組成物を押し出し、次いで、成型機を用いて成形した後、加硫機を用いて加熱・加圧することにより架橋が形成され、架橋物を製造することができる。
【0063】
(9)タイヤ
上記ゴム組成物を用いて、従来公知の方法および当業者に広く知られた技術常識によりタイヤを製造することができる。例えば、上記ゴム組成物を押し出し、次いで、タイヤ成型機を用いて成形した後、加硫機を用いて加熱・加圧することにより架橋が形成され、タイヤを製造することができる。一つの実施態様としては、本発明のタイヤは、上記架橋物を含んでなるタイヤとされる。
【0064】
本発明のゴム組成物を用いてタイヤを製造することにより、タイヤ性能におけるウェットグリップ性と低燃費性のバランスのとれた向上が可能となる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
1.使用したシラン化合物
以下の実施例におけるシラン化合物1およびシラン化合物2は、以下のものを使用した。
【0067】
(1)シラン化合物1
シラン化合物1は、式(4):
【化8】
で表される化合物(化学名:3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン(3-octanoylthio-1-propyltriethoxysilane))である。実施例におけるシラン化合物1は、商品名NXTシランとして、モメンティブ社より市販されているものを使用した。
【0068】
(2)シラン化合物2
シラン化合物2は、式(5):
【化9】
[式中、x:yは、1:99~99:1である。]
で表される化合物である。実施例におけるシラン化合物2は、商品名NXT Z45シランとして、モメンティブ社より市販されているものを使用した。また、シラン化合物2は、シラン化合物1単独で、もしくは3-メルカプトプロピルトリエトキシシランとの共存下において、トリエトキシシリル基を部分的に加水分解した後、他の分子のトリエトキシシリル基と脱エタノールもしくは脱水を伴いながら重縮合させて、単独縮合物もしくは共縮合物として調製することができる。
【0069】
2.実施例1:シラン化合物1、尿素ならびに天然ゴムを含むゴム組成物およびゴムシートの調製と評価
(1)実施例1-1
ゴム組成物およびゴムシートの作製
以下の各成分について、100mLニーダー(東洋精機社製ラボプラストミル)を用いて混練し、ゴム組成物を得た。このゴム組成物について150℃、25分間のプレス加硫を行い、ゴム組成物からなる厚さ2mmのゴムシートを得た。
・天然ゴム(タイ製、RSS#3) 100質量部
・タンパク質変性剤1(和光純薬工業社製、商品名:尿素) 1質量部
・シラン化合物1(式(4)の化合物)(モメンティブ社製:商品名NXTシラン) 3.2質量部
・シリカAQ(東ソー社製、商品名:ニップシールAQ) 40質量部
・酸化亜鉛3号(東邦亜鉛社製、商品名:銀嶺R) 3質量部
・ステアリン酸(新日本理化製、商品名:ステアリン酸300) 1質量部
・老化防止剤(大内新興化学社製、商品名:ノクラック6C) 1質量部
・硫黄(細井化学社製、5%油処理硫黄) 2質量部
・加硫促進剤(大内新興化学社製、商品名:ノクセラーCZ) 1質量部
・加硫促進剤(大内新興化学社製、商品名:ノクセラーD) 0.5質量部
【0070】
(2)実施例1-2
尿素の添加量を2質量部にした以外は実施例1-1と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0071】
(3)比較例1-1
尿素を含有させず、シラン化合物1(式(4)の化合物)を含有させず、その他のシラン化合物(Si69)の添加量を3.2質量部にした以外は実施例1-1と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0072】
(4)比較例1-2
尿素を含有させない以外は実施例1-1と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0073】
(5)比較例1-3
シラン化合物1(式(4)の化合物)を含有させず、その他のシラン化合物(Si69)の添加量を3.2質量部にした以外は実施例1-1と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0074】
(6)物性評価
上記実施例1-1~1-2および比較例1-1~1-3で得られたゴム組成物およびゴムシートの物性を下記の方法により評価した。
【0075】
(粘度)
実施例1-1~1-2および比較例1-1~1-3で得られたゴム組成物のムーニー粘度をJIS K6300に準拠して、ムーニー粘度計にてL型ロータ(38.1mm径、5.5mm厚)を使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間4分、100℃、2rpmの条件で測定した。測定結果が小さいほど粘度が小さく加工性が優れることを意味する。
【0076】
(硬度)
実施例1-1~1-2および比較例1-1~1-3で得られたゴムシート(厚さ2mm)を3枚重ね、JIS K6353(2012年発行)に準拠して、JIS-A強度を測定した。測定結果が大きいほど、ゴムシートの硬度が高く、タイヤとしての操縦安定性に優れることを意味する。
【0077】
(粘弾性)
粘弾性測定装置(UBM社製REOGEL E-4000)を用い、JIS K 63
94に準拠して、歪約0.1%、周波数10Hzの条件下において、実施例1-1~1-3および比較例1-1~1-3で得られたゴムシートの、測定温度0℃および60℃におけるtanδを求め、この値からtanδバランス(=tanδ(0℃)/tanδ(60℃))を算出した。tanδバランスが大きいほど、ゴムシートの粘弾性特性が優れ、タイヤとしてのウェットグリップ性と低燃費性のバランス特性に優れることを意味する。
【0078】
(引張強度)
実施例1-1~1-2および比較例1-1~1-3で得られたゴムシートから3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251(2010年発行)に準拠して行い、100%モジュラス[MPa]を室温(25℃)にて測定した。測定結果が大きいほど、ゴムシートの引張強度が高く、タイヤとしての性能に優れることを意味する。
【0079】
以上の測定結果および算出結果(tanδバランス)を表1に表す。なお、各測定値および各算出値は、比較例1-1における各値を100とする指数で表わした。
【0080】
【0081】
実施例1-1~1-2の結果は、尿素を添加しない比較例1-2に比べて、粘度が低く、tanδバランスに優れ、引っ張り強度(100%モジュラス)が高い。また、実施例1-1~1-2の結果は、尿素を添加しその他のシラン化合物を含有させた比較例1-3に比べて、粘度が低く、tanδバランスに優れ、引っ張り強度(100%モジュラス)が高い。また、実施例1-1~1-2において、尿素の添加量が増えるにしたがって、tanδバランスの改善、引っ張り強度(100%モジュラス)の増大がみられる。よって、本発明のゴム組成物を用いると、実用上ウェットグリップ性と低燃費性のバランス特性に優れたタイヤが製造できることが判明した。
【0082】
3.実施例2:シラン化合物1、タンパク質変性剤ならびに天然ゴムを含むゴム組成物およびゴムシートの調製と評価(その2:各種タンパク質変性剤の評価)
(1)実施例2-1
ゴム組成物およびゴムシートの作製
以下の各成分について、100mLニーダー(東洋精機社製ラボプラストミル)を用いて混練し、ゴム組成物を得た。その後、得られたゴム組成物を金型(150mm×150mm×2mm)に入れて、150℃25分間、加熱加圧して、厚さ2mmのゴムシートを得た。
・天然ゴム(NZ社製、RSS#3) 100質量部
・タンパク質変性剤2(東京化成工業社製、商品名:グルタルアルデヒド50%水溶液) 2質量部
・シラン化合物1(式(4)の化合物)(モメンティブ社製:商品名NXTシラン) 3.2質量部
・シリカAQ(東ソー社製、商品名:ニップシールAQ) 40質量部
・酸化亜鉛3号(東邦亜鉛社製、商品名:銀嶺R) 3質量部
・ステアリン酸(新日本理化製、商品名:ステアリン酸300) 1質量部
・老化防止剤(大内新興化学社製、商品名:ノクラック6C) 1質量部
・硫黄(細井化学社製、5%油処理硫黄) 2.00質量部
・加硫促進剤(大内新興化学社製、商品名:ノクセラーCZ) 1質量部
・加硫促進剤(大内新興化学社製、商品名:ノクセラーD) 0.5質量部
【0083】
(2)実施例2-2
2質量部のグルタルアルデヒド50%水溶液の添加を、1質量部のタンパク質変性剤3(スベルイミド酸ジメチルニ塩酸塩(東京化成工業))の添加にした以外は実施例2-1と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0084】
(3)実施例2-3
2質量部のグルタルアルデヒド50%水溶液の添加を、1質量部のタンパク質変性剤4(ドデシル硫酸ナトリウム(東京化成工業))の添加にした以外は実施例2-1と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0085】
(4)実施例2-4
2質量部のグルタルアルデヒド50%水溶液の添加を、1質量部のタンパク質変性剤5(グアニジン塩酸塩(東京化成工業))の添加にした以外は実施例2-1と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0086】
(5)比較例2-1
シラン化合物1(式(4)の化合物)を含有させず、3.2質量部のその他のシラン化合物(Si69)(デグサ社製)を添加した以外は実施例2-1と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0087】
(6)比較例2-2
シラン化合物1(式(4)の化合物)を含有させず、3.2質量部のその他のシラン化合物(Si69)(デグサ社製)を添加した以外は実施例2-2と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0088】
(7)比較例2-3
シラン化合物1(式(4)の化合物)を含有させず、3.2質量部のその他のシラン化合物(Si69)(デグサ社製)を添加した以外は実施例2-3と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0089】
(8)比較例2-4
シラン化合物1(式(4)の化合物)を含有させず、3.2質量部のその他のシラン化合物(Si69)(デグサ社製)を添加した以外は実施例2-4と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0090】
(9)比較例2-5
シラン化合物1(式(4)の化合物)を含有させず、3.2質量部のその他のシラン化合物(Si69)(デグサ社製)を添加し、グルタルアルデヒド50%水溶液を含有させなかった以外は実施例2-1と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0091】
(10)物性評価
上記実施例2-1~2-4および比較例2-1~2-5で得られたゴム組成物およびゴムシートの物性を、上述の2.実施例1(6)物性評価に記載された方法により評価した。
【0092】
以上の測定結果および算出結果(tanδバランス)を表2に表す。なお、各測定値および各算出値は、比較例2-5における各値を100とした場合の相対値として記載した。
【0093】
【0094】
実施例2-1~2-4の結果は、tanδバランスの改善、引っ張り強度(100%モジュラス)の増大がみられる。よって、本発明のゴム組成物を用いると、実用上ウェットグリップ性と低燃費性のバランス特性に優れたタイヤが製造できることが判明した。また、タンパク質変性剤として、実施例1で使用した尿素のかわりに、グルタルアルデヒド、スベルイミド酸ジメチル二塩酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム、グアニジン塩酸塩を使用しても、同様の効果が得られることが判明した。
【0095】
4.実施例3:シラン化合物、尿素ならびに天然ゴムを含むゴム組成物およびゴムシートの調製と評価(その3:シラン化合物2の評価)
(1)実施例3-1
ゴム組成物およびゴムシートの作製
以下の各成分を、実施例1-1と同様に100mLニーダー(東洋精機社製ラボプラストミル)を用いて混練し、ゴム組成物を得た。
その後、得られたゴム組成物を金型(150mm×150mm×2mm)に入れて、150℃25分間、加熱加圧して、厚さ2mmのゴムシートを得た。
・天然ゴム(NZ社製、RSS#3) 100質量部
・タンパク質変性剤1(和光純薬工業社製、商品名:尿素) 1質量部
・シラン化合物2(式(5)の化合物)(モメンティブ社製:商品名NXT Z45シラン) 3.2質量部
・シリカAQ(東ソー社製、商品名:ニップシールAQ) 40質量部
・酸化亜鉛3号(東邦亜鉛社製、商品名:銀嶺R) 3質量部
・ステアリン酸(新日本理化製、商品名:ステアリン酸300) 1質量部
・老化防止剤(大内新興化学社製、商品名:ノクラック6C) 1質量部
・硫黄(川越化学社製) 2.00質量部
・加硫促進剤(大内新興化学社製、商品名:ノクセラーCZ) 1質量部
・加硫促進剤(大内新興化学社製、商品名:ノクセラーD) 0.5質量部
【0096】
(2)実施例3-2
尿素を含有させず、1質量部のタンパク質変性剤4(ドデシル硫酸ナトリウム)を添加した以外は実施例3-1と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0097】
(3)実施例3-3
尿素を含有させず、1質量部のタンパク質変性剤5(グアニジン塩酸塩)を添加した以外は実施例3-1と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0098】
(4)実施例3-4
3.2質量部のシラン化合物2(式(5)の化合物)の添加を、1.6質量部のシラン化合物2および1.6質量部のその他のシラン化合物(Si69)(デグサ社製)の添加に替えた以外は実施例3-1と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0099】
(5)比較例3-1
シラン化合物2(式(5)の化合物)を含有させず、3.2質量部のその他のシラン化合物(Si69)(デグサ社製)を添加した以外は実施例3-1と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0100】
(6)比較例3-2
シラン化合物2(式(5)の化合物)を含有させず、3.2質量部のその他のシラン化合物(Si69)(デグサ社製)を添加した以外は実施例3-2と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0101】
(7)比較例3-3
シラン化合物2(式(5)の化合物)を含有させず、3.2質量部のその他のシラン化合物(Si69)(デグサ社製)を添加した以外は実施例3-3と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0102】
(8)比較例3-4
尿素を含有させない以外は実施例3-4と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0103】
(9)比較例3-5
尿素を含有させない以外は実施例3-1と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0104】
(10)比較例3-6
尿素を含有させない以外は比較例3-1と同様にしてゴム組成物およびゴムシートを得た。
【0105】
(11)物性評価
上記実施例3-1~3-4および比較例3-1~3-6で得られたゴム組成物およびゴムシートの物性を、上述の2.実施例1(6)物性評価に記載された方法により評価した。
【0106】
以上の測定結果および算出結果(tanδバランス)を表3に表す。なお、各測定値および各算出値は、比較例3-6における各値を100とした場合の相対値として記載した。
【0107】
【0108】
実施例3-1~3-4の結果は、tanδバランスの改善、引っ張り強度(100%モジュラス)の増大がみられる。よって、本発明のゴム組成物を用いると、実用上ウェットグリップ性と低燃費性のバランス特性に優れたタイヤが製造できることが判明した。また、シラン化合物として、実施例1で使用したシラン化合物1のかわりに、シラン化合物2、シラン化合物2とその他のシラン化合物の混合物を使用しても、同様の効果が得られることが判明した。