(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】エチニルエストラジオール-β-シクロデキストリン複合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/69 20170101AFI20240606BHJP
A61K 31/565 20060101ALI20240606BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20240606BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20240606BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20240606BHJP
A61P 5/30 20060101ALI20240606BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240606BHJP
C08B 37/16 20060101ALN20240606BHJP
【FI】
A61K47/69
A61K31/565
A61K47/40
A61K31/573
A61K31/519
A61P5/30
A61P15/00
C08B37/16
(21)【出願番号】P 2021534321
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(86)【国際出願番号】 EP2019084591
(87)【国際公開番号】W WO2020120548
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-12-09
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521258496
【氏名又は名称】ラボラトリオス、レオン、ファルマ、ソシエダッド、アノニマ
【氏名又は名称原語表記】LABORATORIOS LEON FARMA, S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】アンドレサ、マリア、リベイロ
(72)【発明者】
【氏名】マリア、ドロレス、モジャ、オルテガ
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-518656(JP,A)
【文献】米国特許第04727064(US,A)
【文献】国際公開第2000/037109(WO,A1)
【文献】特表2015-536353(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0368197(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00- 47/69
A61K 31/00- 33/44
A61P 1/00- 43/00
C08B 37/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
97%超のエチニルエストラジオールが非晶質複合体に結合している、非晶質のエチニルエストラジオール-β-シクロデキストリン複合体を調製するための製造方法であって、以下の工程:
a) β-シクロデキストリンを水に溶解して、β-シクロデキストリン溶液を形成する工程;
b) 水、C1-C4アルコール、C2-C4ケトン、C2-C6エステルまたはそれら
の混合物からなる群から選択される溶媒にエチニルエストラジオールを溶解して、エチニルエストラジオール溶液を形成する工程;
c) β-シクロデキストリン溶液とエチニルエストラジオール溶液を混ぜ合わせて、複合溶液を形成する工程;および
d) 噴霧乾燥により溶媒を除去し、それにより非晶質形態のエチニルエストラジオール-β-シクロデキストリン複合体を得る工程;
を含む製造方法。
【請求項2】
エチニルエストラジオールとβ-シクロデキストリンとのモル比が約1:1~1:5である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程a)~c)のうち少なくとも一つにおいて加熱が行われ、前記加熱が、工程a)において30~40℃、工程b)において20~50℃、かつ/または工程c)において30~50℃で行われる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程b)において、溶媒が、アセトン、メチルエチルケトン、およびメチルイソブチルケトン;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、およびブタノールなどのアルコール;酢酸エチルおよび酢酸プロピルなどのエステル;または水とエタノールの混合物から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
97%超のエチニルエストラジオールが非晶質複合体に結合している、非晶質エチニルエストラジオール-β-シクロデキストリン複合体。
【請求項6】
有効成分として、請求項
5に記載の非晶質エチニルエストラジオール-β-シクロデキストリン複合体と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤および/または補助剤と、を含む投薬形態。
【請求項7】
さらなる有効成分として、プロゲストゲンをさらに含む、請求項
6に記載の投薬形態。
【請求項8】
前記プロゲストゲンが、ドロスピレノン、レボノルゲストレル、プロゲステロン、ジドロゲステロン、メドロゲストン、メドロキシプロゲステロンアセテート、メゲストロール、クロルマジノン、シプロテロン、ノメゲストロール、プロメゲストン、トリメゲストン、ノルエチステロンアセテート、ノルゲスチメート、デソゲストレル、3-ケトデソゲストレル、ノルゲスチメート、ゲストデン、チボロン、シプロテロンアセテート、ジエノゲスト、エチノジオールジアセテート、ノレチノドレル、アリルエストレノール、リネストレノール、キンゲスタノールアセテート、ノルゲストリエノン、ジメチステロン、および
エチステロンから選択される、請求項
7に記載の投薬形態。
【請求項9】
さらなる有効成分として、葉酸またはテトラヒドロ葉酸誘導体をさらに含み、前記葉酸または前記テトラヒドロ葉酸誘導体が、(6S)-テトラヒドロ葉酸、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸、5-ホルミル-(6S)-テトラヒドロ葉酸、10-ホルミル-(6R)-テトラヒドロ葉酸、5,10-メチレン-(6R)-テトラヒドロ葉酸、5,10-メテニル-(6R)-テトラヒドロ葉酸、5-ホルムイミノ-(6S)-テトラヒドロ葉酸、およびそれらの薬学的に許容可能な塩類からなる群から選択される、請求項
7に記載の投薬形態。
【請求項10】
請求項
6~
9のいずれか一項に記載の投薬形態を調製するための製造方法であって、以下:
i)
97%超のエチニルエストラジオールが非晶質複合体に結合している、粒子状の非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体を調製する工程;
ii)工程i)の粒子を、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤および/または補助剤と混合する工程;を含む、製造方法。
【請求項11】
iii)工程i)の粒子または工程ii)の混合物のいずれかを、さらなる有効成分と混合する工程;
含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
ホルモン補充療法(HRT)における薬剤として使用するための、請求項
5に記載の非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体を含む医薬製剤。
【請求項13】
避妊薬として使用するための、請求項
5に記載の非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体を含む医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体の新たな製造方法、およびこの方法によって得られる非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体、ならびにそれを含む医薬組成物および製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロデキストリン(CD)は、シクログリコシルトランスフェラーゼと呼ばれる酵素を用いて酵素的環化によってデンプンから得られる環状のオリゴ糖である。無置換のシクロデキストリンにはいくつかの種類があり、最もよく知られているのはα-シクロデキストリン(6-シクロ-α-(1,4)-無水グルコース単位)、β-シクロデキストリン(7-シクロ-α-(1,4)-無水グルコース単位)、またはγ-シクロデキストリン(8-シクロ-α-(1,4)-無水グルコース単位)である。しかしながら、これまでのところ、β-シクロデキストリンとその誘導体のみが、医薬品分野において重要な産業用途を有している。
【0003】
材料の複合化剤としてシクロデキストリンの使用が知られている。シクロデキストリン複合体は、活物質がエストロゲンの場合に特に望ましい。シクロデキストリン複合体は、活物質を含み、使用しやすい、安定で標準化された粉末を提供する。粉末であるため、シクロデキストリン複合体は、計量、取り扱い、および保管が容易である。
【0004】
エチニルエストラジオールは、緊急時避妊薬や性交後避妊薬を含む各種経口ホルモン避妊薬およびホルモン補充療法(HRT)において、異なるプロゲスターゲン類と組み合わせて広く使用されている合成エストロゲンである。
【0005】
エチニルエストラジオールを含む医薬品は、単回投与あたりに必要な低用量の有効成分tらなることが多く、10μg~50μgの範囲であることが多く、そのため、1バッチ内でまたはバッチ間で変動しない、確実に一定量の活性成分を有する単位用量製剤を製造することは問題がある。
【0006】
上述の製品におけるエチニルエストラジオールの安定性と溶解性は、これらの製品の製造において最も重要な問題の1つである。エストロゲンをシクロデキストリンと複合化することにより、エストロゲンは、熱、光、および/または酸素や他の化合物との反応により誘発される反応による分解から保護され、長期間安定な複合体を提供する。安定性の向上のおかげで、エストロゲン含有量は時間が経過しても一定に保たれており、エストロゲン測定量はより正確である。
【0007】
米国特許5,798,338には、β-シクロデキストリンと17-α-エチニルエストラジオールの間で包接体(複合体)を形成する際に、17-α-エチニルエストラジオールの酸化分解が低減されることが記載されている。複合体は、水または水-エタノール溶液からエチニルエストラジオールとβ-シクロデキストリンを共沈させて得られる。
【0008】
米国特許4,727,064には、シクロデキストリン誘導体を含む医薬製剤の製造が記載されている。表1には、エストラジオール、エストリオール、およびエチニルエストラジオール-3-メチルエステル(メストラノール)と、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとの複合体が記載されている。エストラジオールについては、カルボキサミドメチル-β-シクロデキストリンおよびカルボキシメチル-β-シクロデキストリンとの複合体も記載されている。この文献は、非晶質エチニルエストラジオール-β-シクロデキストリン複合体については言及していない。
【0009】
欧州特許1,353,700には、エチニルエストラジオールを含む医薬品の製造が記載されており、エストロゲンをシクロデキストリンと複合化することにより、エストロゲンの安定性が従来の製品よりも改善されている。複合体は、水-エタノールまたは水-アセトン溶液からエチニルエストラジオールとβ-シクロデキストリンを共沈させることにより、結晶形態で得られる。共沈法の工程は比較的長時間であり、溶媒シクロデキストリン空洞競争を促進する可能性がある。同じ工程を再現しているにもかかわらず、形成された複合体に結合したエチニルエストラジオールの量は90.1~98.7%まで変化し、ほとんどの場合、97%未満である。
【0010】
従来技術の工程に関連するもう一つのデメリットは、複合体を生成するための共沈法が比較的長時間であり(平衡が起こるために数時間または数日)、活性化合物の分解(加水分解)のリスクがあることである。大量の溶媒を使用する必要がある。さらに、得られる結晶は粒子サイズおよび形状も変化する可能性があり、得られる粒子の粒子サイズ分布の制御が不十分なので、適切な溶解を保証するために、後で製品を微粉化する必要がある。
【0011】
したがって、エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体、ならびにそれを含む医薬組成物および製剤を製造するための新たな効率的な製造方法が依然として必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、驚くべきことに、エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体を噴霧乾燥により製造すると、複合体中に97%を超えるエチニルエストラジオールが結合したシクロデキストリン-エストロゲン複合体が得られることを見出した。さらに、複合体は非晶質形態で得られる。
【0013】
本発明は、上記の従来技術に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、溶解性および安定性が向上したエチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体を提供することである。複合体は、エチニルエストラジオールとβ-シクロデキストリンの二成分系である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この問題を解決するために、本発明は、第1の態様において、非晶質形態で得られるエチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体を提供する。
【0015】
本明細書で定義される非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体は、他の結晶形態よりも溶解性が高く、化学的および物理的に安定である。非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体は、溶解性の増加、バイオアベイラビリティの改善、化学処理の容易さ、および/または医薬製剤の容易さなどの医薬組成物の製造において有利な特性を有する。本発明の非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体は、プロゲストゲン、葉酸、およびテトラヒドロ葉酸誘導体などの有効成分と適合性が高い。これらの特性により、本発明による非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体を含む投薬形態を調製することができる。
【0016】
他の態様では、本発明の非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体は、複合体形成効率を改善することが可能な製造方法によって得られる。
【0017】
驚くべきことに、この製造方法は、非晶質複合体中のエチニルエストラジオールの97%超、好ましくは98%超を複合化することができる。
【0018】
有利なことに、この製造方法は、製造時間を短縮し、特定の多形体や賦形剤の存在を必要とせずに本発明の複合体を得ることが可能なので、その製造のための時間と原材料を削減することができる。
【0019】
本発明の他の態様は、本明細書で定義される非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体と、薬学的に許容可能な賦形剤および/または補助剤を含む医薬組成物である。薬学的に許容可能な賦形剤および/または補助剤は、意図される投与経路および標準的な薬務に即して選択することができる。
【0020】
本発明の非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体は、従来の投薬形態に処方することができる。
【0021】
したがって、本発明の他の態様は、本発明の非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体を含む投薬形態を調製するための製造方法である。この態様では、製造方法は、本発明の非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体を、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤および/または補助剤と混合し、次いで混合物を処理して投薬形態を調製する工程を含む。一実施形態では、混合物は、カプセルに充填するか、または圧縮して錠剤を得ることによって処理される。
【0022】
本発明の非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体は、単独で、または他の有効成分と組み合わせて使用することができる。有効成分は、プロゲストゲン、葉酸またはテトラヒドロ葉酸誘導体からなる群から選択することができる。
【0023】
したがって、非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体は、他の有効成分、ならびに意図される投与経路に即して選択された少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤および/または補助剤と混合することができる。
【0024】
本発明の他の態様は、ホルモン補充療法(HRT)における薬剤として使用するための、本発明の非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体を含む医薬組成物である。
【0025】
本発明の他の態様は、避妊薬として使用するための、本発明の非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体を含む医薬組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、実施例1により得られる非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体のXPRDパターン(
図1.1)、および実施例2により得られる非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体のXPRDパターン(
図1.2)を示す。
【
図2】
図2は、実施例2により得られる非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体のDSCサーモグラムを示す。
【
図3】
図3は、実施例2により得られる非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体のDSCサーモグラムを、エチニルエストラジオールおよびエチニルエストラジオールとβ-シクロデキストリンの物理的な混合物の個々のサーモグラムと比較して示す。
【
図4】
図4は、実施例1により得られる非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体(
図4.1)の統合されたDSC曲線、および実施例2により得られる非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体(
図4.2)の統合されたDSC曲線を示す。
【
図5】
図5は、実施例1により得られるEEβCD複合体の赤外スペクトルを示す。
【
図6】
図6は、実施例1により得られる包接非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体のSEM写真を示す。
【
図7】
図7は、実施例2により得られる包接非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体のSEM写真を示す。
【発明の具体的説明】
【0027】
本出願において本明細書で使用されるすべての用語は、特に明記されていない限り、当技術分野で知られている通常の意味として理解される。本出願で使用する特定の用語に対して他のより具体的な定義を以下に記載するが、他の明示的な定義がより広い定義を提供しない限り、明細書および特許請求の範囲全体にわたって一様に適用されることを意図する。
【0028】
本明細書および特許請求の範囲を通じて、「含む(comprise)」という語およびその語のバリエーションは、他の技術的特徴、添加物、構成成分、または工程を除外することを意図しない。
【0029】
さらに、「含む(comprise)」という語は、「からなる(consisting of)」の場合を包含する。本発明の追加の目的、利点、および特徴は、本明細書を通じて当業者に明らかになるか、または本発明の実施によって理解できる。以下の実施例および図面は、例証として提供されるものであり、本発明を限定することを意図するものではない。さらに、本発明は、本明細書に記載された特定の実施形態および好ましい実施形態のすべての可能な組み合わせをカバーする。
【0030】
「エチニルエストラジオール-β-シクロデキストリン複合体」という用語は、エチニルエストラジオールとβ-シクロデキストリン間の複合体を意味することを意図しており、エストロゲン分子は、少なくとも部分的にシクロデキストリン分子の空洞に挿入される。
【0031】
本明細書で使用される場合、「非晶質エチニルエストラジオール-β-シクロデキストリン複合体」という用語は、特に明記しない限り、エチニルエストラジオール-β-シクロデキストリン複合体が非結晶状態にあることを意味する。
【0032】
一態様によれば、本発明は、エチニルエストラジオール-β-シクロデキストリン複合体を調製するための製造方法を提供し、該製造方法は、以下の工程:
a) 必要に応じて加熱しながら、β-シクロデキストリンを水に溶解して、β-シクロデキストリン溶液を形成する工程;
b) 必要に応じて加熱しながら、水、C1-C4アルコール、C2-C4ケトン、C2-C6エステル、またはそれらの混合物からなる群から選択される溶媒にエチニルエストラジオールを溶解して、エチニルエストラジオール溶液を形成する工程;
c) 必要に応じて加熱しながら、β-シクロデキストリン溶液とエチニルエストラジオール溶液を混ぜ合わせて、複合溶液を形成する工程;および
d) 噴霧乾燥により溶媒を除去し、それにより非晶質形態のエチニルエストラジオール-β-シクロデキストリン複合体を得る工程;
を含む。
【0033】
本発明の好ましい実施形態において、エチニルエストラジオールとβ-シクロデキストリンとのモル比は、約1:1~1:5であり、好ましくは1:2である。
【0034】
噴霧乾燥工程および噴霧乾燥装置は、Perry’s Chemical Engineers’ Handbook, page 20-54 to 20-57 (Sixth Edition 1984)に一般的に記載されている。噴霧乾燥工程および装置の詳細は、Marshall, “Atomization and Spray-Drying,” 50 Chem. Eng. Prog. Monogr. Series 2 (1954)、およびMasters, Spray Drying Handbook (Fourth Edition 1985)にレビューされている。
【0035】
好ましくは、工程a)において、得られた水溶液または懸濁液を30~40℃で加熱し、より好ましくは35~39℃で加熱する。最も好ましい実施形態では、溶液は37℃で加熱する。
【0036】
好ましくは、工程b)において、得られた水溶液または懸濁液を20~50℃で加熱し、より好ましくは21~35℃で加熱する。最も好ましい実施形態では、溶液は25~30℃で加熱する。
【0037】
好ましくは、工程c)において、30~50℃で加熱を行い、より好ましくは35~45℃で加熱を行う。
【0038】
工程b)で使用される好適な溶媒は、C1-C4アルコール、C2-C4ケトン、C2-C6エステルまたはそれらの混合物からなる群から選択される。好適な溶媒としては、これらに限定されないが、アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルiso-ブチルケトン;メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノールおよびブタノールなどのアルコール類;酢酸エチルおよび酢酸プロピルなどのエステルから選択される。好ましくは、使用される溶媒は、水、エタノールまたはそれらの混合物である。
【0039】
通常、工程b)で使用される溶媒はエタノールである。
【0040】
好ましくは、工程a)および/またはb)で使用される溶媒は、水:エタノールの量が99:1である水とエタノールの混合物である。
【0041】
噴霧乾燥工程d)において、得られた粒子は非晶質であることが見出される。
【0042】
本明細書で使用される場合、非晶質という用語は、非晶質形態が、最大20重量%、好ましくは最大10重量%、より好ましくは最大5重量%、さらに好ましくは最大2重量%、最も好ましくは最大1重量%の任意の結晶形態を含むことを意味する。非晶質形態のエチニルエストラジオールの量は、X線回折および示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。
【0043】
本発明者らは、エチニルエストラジオールの溶解度が、本発明の非晶質複合体によって実質的に増加することを見出した。有利なことに、噴霧乾燥工程で得られた粒子状の非晶質複合体は急速に溶解し、このことは、5分間でその内容物の少なくとも50%を放出し、その内容物の少なくとも80%を放出するはずであることを意味する。
【0044】
本発明の製造方法により得られた粒子の平均粒径(D50)は、典型的には50マイクロメートル未満であり、好ましくは30マイクロメートル未満であり、より好ましくは20マイクロメートル未満であり、さらに好ましくは10マイクロメートル未満である。さらに、本発明の製造方法により得られた粒子のD90は、典型的には20マイクロメートル未満であり、好ましくは12マイクロメートル未満である。
【0045】
本発明は、非晶質エチニルエストラジオール-β-シクロデキストリン複合体に関する。
【0046】
別の態様において、本発明は、非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体を提供し、これは、上記定義された製造方法により得られる。
【0047】
驚くべきことに、得られる非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体は、97%超のエチニルエストラジオールが非晶質複合体に結合しており、好ましくは98%超である。
【0048】
別の態様において、本発明は、投薬形態を提供する。
【0049】
投薬形態は、以下:
-本明細書に記載の非晶質エチニルエストラジオール-β-シクロデキストリン複合体、ならびに
-少なくとも1以上の薬剤的に許容可能な賦形剤および/または補助剤
を含む。
【0050】
投薬形態は、経口投与、頬投与、膣内投与、直腸投与、局所的もしくは粘膜投与、皮下投与のためのインプラント、または他の移植された薬物送達システムのためのものが含まれる。本発明の好適な経口投薬形態は、限定されるものではないが、顆粒、ペレット、多粒子、タブレット、カプレット、カプセル(ソフトおよびハード)、トローチ、サシェ、散剤(dispensable powder)などが含まれる。好ましい実施形態において、本発明の投薬形態はタブレットである。
【0051】
非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体は、投薬形態の総重量の0.01重量%~10重量%、好ましくは約0.01重量%~5重量%、より好ましくは約0.01重量%~2重量%の量で製剤中に存在することができる。
【0052】
投薬形態中のエチニルエストラジオールの量は、ホルモン補充療法(HRT)または避妊薬に通常使用される量であり、例えば100~10マイクログラム、好ましくは50~10マイクログラムである。
【0053】
本発明の単位固形投薬形態は、所望により、さらなる有効成分を含んでもよい。有効成分は、プロゲストゲン、葉酸またはテトラヒドロ葉酸誘導体からなる群から選択することができる。
【0054】
好ましい実施形態では、前記さらなる活性成分は、プロゲストゲンである。
【0055】
好適なプロゲストゲンとしては、限定されるものではないが、ドロスピレノン、レボノルゲストレル、プロゲステロン、ジドロゲステロン、メドロゲストン、メドロキシプロゲステロンアセテート、メゲストロール、クロルマジノン、シプロテロン、ノメゲストロール、プロメゲストン、トリメゲストン、ノルエチステロンアセテート、ノルゲスチメート、デソゲストレル、3-ケトデソゲストレル、ノルゲスチメート、ゲストデン、チボロン、シプロテロンアセテート、ジエノゲスト、エチノジオールジアセテート、ノレチノドレル、アリルエストレノール、リネストレノール、キンゲスタノールアセテート、ノルゲストリエノン、ジメチステロンおよびエチステロンが挙げられる。好ましい実施形態において、プロゲストゲンは、ドロスピレノンである。
【0056】
プロゲストゲンは、投薬形態の総重量の約0.1重量%~60重量%、好ましくは約0.2重量%~40重量%、より好ましくは0.3重量%~30重量%の量で存在してもよい。
【0057】
プロゲストゲンの量は、避妊薬やホルモン補充療法(HRT)で通常使用される量であり、例えば、ドロスピレノン0.5~5mg、レボノルゲストレル30~250mg、ノルゲスチメート180~250mg、ジエノゲスト2~3mg、ノルエチステロン(ノルエチンドロン)アセテート0.5~1mg、デソゲストレル20~150g、チボロン2~4mgである。ドロスピレノンの好ましい量は、1~4mgであり、好ましくは2~3mgである。
【0058】
他の好ましい実施形態において、前記さらなる有効成分は、葉酸、または、(6S)-テトラヒドロ葉酸、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸、5-ホルミル-(6S)-テトラヒドロ葉酸、10-ホルミル-(6R)-テトラヒドロ葉酸、5,10-メチレン-(6R)-テトラヒドロ葉酸、5,10-メテニル(methenyl)-(6R)-テトラヒドロ葉酸、5-ホルムイミノ-(6S)-テトラヒドロ葉酸、およびそれらの薬学的に許容可能な塩からなる群から選択される1以上のテトラヒドロ葉酸成分である。
【0059】
葉酸およびテトラヒドロ葉酸化合物は、組成物の総重量の約0.1重量%~60重量%、好ましくは約0.2重量%~40重量%、より好ましくは0.3重量%~30重量%の量で存在してもよい。
【0060】
好ましくは、本発明による投薬形態は、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸を含む。より好ましくは、本発明による投薬形態は、5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸のカルシウム塩を含む。欧州特許出願1044975 Aに記載の5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸のカルシウム塩の結晶形、および国際公開2014/146975 A1に記載の5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸のカルシウム塩の安定化非晶質形態が特に好ましい。
【0061】
典型的には、本発明の投薬形態における5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸カルシウムの使用量は0.1~10mgであり、好ましくは0.2~1mgであり、特に好ましくは0.451mgである。本発明の最も好ましい態様において、本発明の単位投薬形態は、3mgのドロスピレノン、20~30μgのエチニルエストラジオール、および0.1mg~1mgの5-メチル-(6S)-テトラヒドロ葉酸カルシウムを含む。
【0062】
本発明の投薬形態は、適当な機械的特性および放出特性を与えるために適当な工程間で添加されてもよい、少なくとも1以上のさらなる補助剤を含んでもよい。このような補助剤はすべて、投薬形態の他の成分と適合性があり、ヒトに害をもたらさないものでなければならない。
【0063】
補助剤は、希釈剤、結合剤、潤滑剤、ならびに崩壊剤、付着防止剤、着色剤、甘味料、香味料、および/またはそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0064】
好適には、本発明による投薬形態は、希釈剤を含む。好適な希釈剤としては、コーンスターチ、微結晶セルロース、粉末セルロース、ケイ酸化セルロース(silicified cellulose)、ラクトース一水和物、無水ラクトース、マンニトール、ソルビトール、スクロース、フルクトース、デキストロース、および/またはそれらの混合物が挙げられる。好ましくは、ラクトース一水和物および微結晶セルロースが使用される。
【0065】
希釈剤は、組成物の総重量の約20重量%~約95重量%、好ましくは35重量%~90重量%、より好ましくは30重量%~85重量%の量で存在してもよい。
【0066】
好適には、本発明による投薬形態は、結合剤を含む。結合剤は、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、および/またはそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0067】
希釈剤は、組成物の総重量の約20重量%~約95重量%、好ましくは35重量%~90重量%、より好ましくは30重量%~85重量%の量で存在してもよい。
【0068】
本発明による投薬形態はまた、崩壊剤を含むことができる。崩壊剤は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、および/またはそれらの混合物からなる群から選択することができる。好ましくは、クロスカルメロースナトリウムが使用される。
【0069】
崩壊剤は、組成物の総重量の約10重量%~約50重量%、好ましくは約15重量%~約45重量%、より好ましくは20重量%~40重量%の量で存在してもよい。
【0070】
潤滑剤および付着防止剤は、粒子間の摩擦を減らし、薬剤粒子の付着を防ぎ、粒状または粉末状の組成物の流動性を改善する賦形剤である。
【0071】
潤滑剤は、タルク、ステアリン酸のアルカリ土類金属塩、特に、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、パルミトステアリン酸グリセリン、フマル酸ステアリル、および/またはそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0072】
潤滑剤は、組成物の総重量に基づいて、約0重量%~5重量%、好ましくは約0重量%~約3重量%の量で存在してもよい。
【0073】
付着防止剤は、組成物の総重量に基づいて、約0重量%~5重量%、好ましくは約0重量%~約3重量%の量で存在してもよい。
【0074】
本発明による投薬形態はまた、界面活性剤を含むことができる。好適な界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウム、リン脂質、モノオレイン酸グリセロール、ドキュセートナトリウム等のイオン性界面活性剤、またはポリソルベート80、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンステアレート、ポロキサマー、ポロキサミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン性界面活性剤からなる群から選択することができる。
【0075】
界面活性剤は、組成物の総重量に基づいて、約0重量%~10重量%、好ましくは約0重量%~約5重量%の量で存在してもよい。
【0076】
本発明の投薬形態はまた、患者にとって許容可能な官能的性質(風味および味)を提供するために、甘味料および香味料を含んでもよい。好適な甘味料としては、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、マンニトール、キシリトール、スクロース、ソルビトール、およびグリチルリジン酸アンモニウムが挙げられる。好適な香味料としては、オレンジ、アニス、ミントなどのフルーツおよび植物フレーバーが挙げられる。本発明の投薬形態に配合してもよい好適な着色剤は、経口使用が承認されているものから選択することができる。
【0077】
投薬形態は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th 10 Edition, Philadelphia, Lippincott, Williams & Wilkins, 2000 [ISBN 0 683 306472]に記載されているような、当業者に公知の従来の方法を使用してコーティングしてもよい。錠剤をコーティングするために使用されるフィルム形成剤の中には、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒプロメロース、固体ポリエチレングリコール、およびポリビニルアルコールを含むことができる。
【0078】
補助剤の特性の情報は、当業者が入手可能な参照ハンドブック、例えば、Handbook of Pharmaceutical Excipients, 4th Edition, London, Pharmaceutical Press, 2003 [ISBN 0 85369 472 9]に記載されており、さらに、市販の補助剤の商品名が含まれている。
【0079】
さらに別の態様によれば、本発明は、投薬形態を調製するための製造方法を提供し、該製造方法は、以下:
i)粒子状の非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体を調製する工程;
ii)工程i)の粒子を、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤および/または補助剤と混合する工程;ならびに
iii)必要に応じて、工程i)の粒子または工程ii)の混合物のいずれかを、さらなる有効成分と混合する工程;
を含む。
【0080】
本発明による投薬形態は、工程ii)または工程iii)で得られた混合物から、以下:カプセルに混合物を充填する(filing)こと;混合物を直接圧縮すること;または投薬形態に組み込むための顆粒を形成するための混合物の湿式造粒もしくは乾式造粒することによって調製することができる。
【0081】
好ましい実施形態において、工程i)は、上記工程a)~工程d)を含み、次いで上記工程ii)およびiii)を行う。
【0082】
好ましい実施形態において、投薬形態を調製するための製造方法は、以下:
a) 必要に応じて加熱しながら、β-シクロデキストリンを水に溶解して、β-シクロデキストリン溶液を形成する工程;
b) 必要に応じて加熱しながら、水、C1-C4アルコール、C2-C4ケトン、C2-C6エステルまたはそれらの混合物からなる群から選択される溶媒にエチニルエストラジオールを溶解して、エチニルエストラジオール溶液を形成する工程;
c) β-シクロデキストリン溶液とエチニルエストラジオール溶液を混ぜ合わせて、複合溶液を形成する工程;
d) 噴霧乾燥により溶媒を除去して、粒子状の非晶質エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体を得る工程;
e) 工程d)の粒子を、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤と混合する工程:および
f) 必要に応じて、工程d)の粒子または工程e)の混合物のいずれかをさらなる有効成分と混合する工程;
を含む。
【0083】
有効成分は、前述と同じ意味である。
【0084】
さらに別の態様では、本発明は、更年期症状の治療、またはホルモン補充療法(HRT)に適した医薬組成物の製造のための、本発明の投薬形態の使用に関する。
【0085】
本発明の投薬形態は、避妊レジメンと組み合わせて避妊薬として使用することができる。本明細書で使用する場合、避妊レジメンとは、一相性、二相性、多相性、拡張性または柔軟性のある避妊レジメンのいずれかを指す。以下の実施例により、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0086】
A.物理的な混合物
EEとβCD(モル比 1:2)で混合して、物理的な混合物(PM)を調製した。PMは、ガラス瓶に入れて保管した。
【0087】
B.エチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体
実施例1および2の複合体を製造するために使用したβ-シクロデキストリンは、Kleptose(登録商標) 7%-βCD(Roquette - France)であった。
【0088】
理論量10gの複合体を得るためのEEとβCD(モル比 1:2)の量を、38±2℃、総量2.875mLのエタノール(1%)と精製水(99%)に溶解して混合した。混合物を透明な溶液が得られるまで約1時間撹拌した。最終的に得られた透明な溶液を38±2℃に維持し、Mini Spray Dryer B-290を用いて、入口温度150℃、出口温度77℃、溶液の流量370mL/h、空気の流量35m3/h、噴霧空気圧0.5barの条件で噴霧乾燥した。
【0089】
【0090】
各複合体中のEEの量(EEβCD)は、固体複合体から得られた最終重量により決定した。EE分析は、11.55mgの薬剤を含む固体複合体(100mgの複合体)(表1)を用いて決定した、すなわち11.55%のEEを含む複合体が分析試料100%を提示する。十分な量の溶媒(100ml)に適切に希釈した後、EE濃度はHPLCにより220nmで測定した。
【0091】
1.示差走査熱量計(DSC)の測定
純物質および二元系のDSC測定を行った。熱的挙動は、穴あきアルミニウムパンの中で、30℃から250℃まで、10℃/分の速度で、かつ20cm3/分の窒素流下で、試料(2mg)を加熱して検討した。空のパンは密閉して(穴を開けて)、参照として使用する必要がある。
【0092】
DSCを行うために、ゲストの融点または沸点は、CDが分解する温度である300℃未満でなけらばならない。DSC分析では、ゲストが複合体を形成する場合、ゲストの融点ではエネルギー吸収は観測されない。エチニルエストラジオールおよび物理的な混合物の個々のサーモグラムと比較した、実施例2で得られた複合体のサーモグラムを
図3に示し、ここで、(-)はエチニルエストラジオールを指し、(---)はβ-シクロデキストリナを指し、(・・・)はEEとBCDの物理的な混合物を指し、(-・-・-)はEE-BDC\実施例2を指す。
図2は、実施例2で得られた複合体のサーモグラムを示す。EEの熱曲線は、183.05℃に吸熱ピークを示しており、これは薬剤の融点180~186℃に相当する。βCDのDSC曲線は、結晶水の損失に関連する30~150℃の間で典型的な幅広い影響を示す。1:2の複合体でのEEとβCDの融点の消失は、これらの複合体における薬剤とCD間のより安定した強い相互作用を指し示す、真の包接複合体の形成を示す。
【0093】
図4.1および
図4.2は、実施例1および2で得られた複合体の統合されたDSC曲線を示す。
図4.1では、参照数字1は:積分値90.57mJ、正規化36.08Jg
-1、開始温度312.61℃、ピーク336.77℃を示し;参照数字2は:積分値-163.43mJ、正規化-65.11Jg
-1、開始温度302.88℃、ピーク312.55℃を示し;参照数字3は:積分値-517.18mJ、正規化-206.05Jg
-1、開始温度39.17℃、ピーク93.27℃を示す。
図4.2では、参照数字1は:積分値154.65mJ、正規化49.41Jg
-1、開始温度323.47℃、ピーク335.76℃を示し;参照数字2は:積分値-208.93mJ、正規化-66.75Jg
-1、開始温度302.17℃、ピーク313.01℃を示し、参照数字3は:積分値-658.23mJ、正規化-210.30Jg
-1、開始温度42.37℃、ピーク97.91℃を示す。どちらのDSC曲線も同様の熱的事象を示す。最初のピークは、おそらく製品の脱水により生じる、おおよそ室温から160℃近くまでの間の幅広い吸熱ピークである。この仮説は、この熱的事象がTGA曲線で見られる重量損失と同様の温度範囲で起こるという事実によっても裏付けられる(以下の熱重量分析のセクションを参照)。
【0094】
次に、他の2つの熱的事象は、おおよそ280~320℃の間の不規則で幅広い吸熱ピークと、それに続くおおよそ312.6~323.5℃の間に開始温度を有する幅広い発熱ピークである。これらの2つの熱的事象は、いくつかの個々のプロセスの合計のようである。
【0095】
2. 粉末X線回折
実施例1および2(
図1.1および
図1.2)で得られたエチニルエストラジオール β-シクロデキストリン複合体の回折測定は、周囲条件(22~24℃/28~33%RH)で、CuKα線とPIXcel検出器を備えた、半径240mmのPANalytical X’Pert PRO θ-θ回折計(反射型)で行い、45kVおよび40mAで動作させた。試料は、バックロード式のスチール製試料ホルダー(直径16mm)に据え付け、データ収集中に0.25回転/秒で回転させた。測定角度範囲を3.0~40.0°(2θ)、ステップサイズを0.013°とした。スキャン速度を0.00513°/秒(652.80秒/ステップ)とした。回折像に見られる3~4°2θの範囲の肩は、装置上の理由によるものであり、結晶性の内容物に起因するものではない。
【0096】
回折像の一般的な分析結果は、各サンプルの主に非晶質の含有物に典型的なものである。測定された回折像には、EE APIまたはβCDシグナルのサインは検出されない。回折像の15.6°付近に見られる1つの幅広いピークは、EE APIの回折像の1つの顕著なピークの位置とほぼ一致する。しかし、同じ試料の回折像に、EE APIの回折像からの他の強いピークに関連する可能性がある他のシグナルがないことは、このピークが結晶性エチニルエストラジオールの存在によって引き起こされるものではないことを指し示す。
【0097】
3. IR
一般に、複合体が形成されると、原材料のバンドと比較して、吸収バンドがより低周波数にシフトし、強度が増減し、水素結合の形成に関与するバンドの広がりに変化がある。IRを使用してCD複合体を特徴づけると、複合体が形成されているかどうかを判断するために、特定のバンドについての情報を使用することができる。CDは本来、エネルギーを多く含む水分子をその空洞に保持し、溶液状態で複合体を形成すると、これらの水分子は空洞から放出され、極性の低い分子に置き換えられる。包接複合体が形成されたことの確認として、IR研究は、水のバンドの強度やシフトの変化を観察するために使用することができる。
図5は、EEβCD複合体(1:2)の赤外線スペクトルを示す。1,021cm
-1のβCDの特徴的なバンドは、SD系では1,027.62cm
-1に存在している。噴霧乾燥(SD)系で薬剤バンドを示した場合でも、EEバンドは検出されない。SD製品のFTIRスペクトルは、特徴的なEEバンドが強い減少または完全に消失しており、薬剤とCDの強い相互作用および薬剤の包接複合化を示しており、DSC、SEM、およびラマンで以前に得られた結果を実質的に確認するものである。SDサンプルのFTIRスペクトルで観察された変化(ピークのシフトやほぼほぼ完全に消失するまでの強度の低下など)は、その調製条件によって異なる。
【0098】
4. SEM
SEMは、原材料と、CDとの複合化によって得られた製品と、の構造的態様を検討するために使用される定性的な方法である。
図6および
図7は、実施例1および2で得られた包接複合体のSEM写真を示す。このタイプの系に特徴的な特定の態様である、独特の形態の球状粒子の非晶質で均質な集合体の存在が観察される。
【0099】
分析の前に、サンプルを生体接着テープに据え付け、Emitech K950Xエバポレーターを用いて電気伝導性を高めるためにカーボンでコーティングした。顕微鏡写真は、2000倍および10000倍の倍率で二次電子検出器を用い、高真空条件下でJ-7100電解放出電子顕微鏡(JEOL)を用いて観察した。
【0100】
5. 安定性
薬剤複合体の安定性を決定するために、ICHガイドラインに従って安定性試験を3ヶ月間実施した。実施例1および2で得られた複合体を、以下の表2に示す間隔時間に従って取り出し、外観、含水量、および分析試料を評価した。
【0101】
【0102】
表2.1は、実施例1のEEβCDの安定性の結果を示す。
【0103】
【0104】
上の表からわかるように、複合体のエチニルエストラジオール含有量は、試験したすべての条件で3ヵ月後も一定のままである。