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特許7499264鉱物塗料層及び薄層の積層物で被覆されたガラスシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】鉱物塗料層及び薄層の積層物で被覆されたガラスシート
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/34 20060101AFI20240606BHJP
   C03C 17/36 20060101ALI20240606BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20240606BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C03C17/34 Z
C03C17/36
C03C27/12 L
C03C27/12 M
B32B17/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021549082
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-21
(86)【国際出願番号】 EP2020054477
(87)【国際公開番号】W WO2020169732
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】1901815
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン-ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】ジュリエット ジャマール
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0272338(US,A1)
【文献】特開平09-227819(JP,A)
【文献】実開昭62-000456(JP,U)
【文献】特表2018-508439(JP,A)
【文献】米国特許第05324374(US,A)
【文献】特表2017-500261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00-23/00
C03C 27/00-29/00
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスシートを含む材料であって、前記ガラスシートの面のうちの1つが、第1の領域及び第2の領域を含み、前記第1の領域のみが、顔料及びケイ酸アルカリの水溶液を含む水性塗料組成物から得られた不透明な鉱物塗料層で被覆され、前記鉱物塗料層及び前記ガラスシートの前記第2の領域が、少なくとも1つの導電性薄層を含む薄層の積層物で被覆されており前記第1の領域及び前記第2の領域は、一緒になって、前記ガラスシートの面のうちの1つの総面積を表す、材料。
【請求項2】
少なくとも1つの導電性薄層は、金属層、特には銀をベースとする金属層、又は導電性透明酸化物層である、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記不透明な鉱物塗料層は、黒色であり、ガラス側の反射において測定された明度L、5未満である、請求項1又は2に記載の材料。
【請求項4】
前記第1の領域は、前記ガラスシートの面の面積の、2%~25%、特には3%~20%を示す、請求項1~3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項5】
前記鉱物塗料層において、ケイ酸アルカリの重量含有量は、7%~60%であり、顔料及び鉱物充填剤の総重量含有量は、20%~90%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の材料。
【請求項6】
前記不透明な鉱物塗料層は、前記薄層の積層物の堆積の前に、少なくとも550℃の温度での予備焼成工程を経ている、請求項1~5のいずれか一項に記載の材料。
【請求項7】
積層グレージング、特には自動車のウィンドシールド又はサンルーフ用の積層グレージングであって、積層用中間層によって追加のガラスシートに接着的に結合された、請求項1~6のいずれか一項に記載の材料を含み、その結果、前記鉱物塗料層及び前記薄層の積層物が前記中間層の方に向けられる、積層グレージング。
【請求項8】
前記追加のガラスシートは、アルミノケイ酸ナトリウムガラスから作製され、該ガラスは、化学的に強化され、かつ、0.5~1.2mmの厚さを有する、請求項7に記載の積層グレージング。
【請求項9】
前記追加のガラスシートは、前記積層用中間層に向けられた面の反対側の面に、追加の薄層の積層物、特には、導電性透明酸化物を含む低放射率の積層物を担持している、請求項7に記載の積層グレージング。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の材料を得るための方法であって、以下の工程を含む、方法:
- ガラスシートを提供する工程であって、前記ガラスシートの面のうちの1つが、第1の領域及び第2の領域を含む、工程、次いで、
- 顔料及びケイ酸アルカリの水溶液を含む水性塗料組成物を前記第1の領域に堆積させる工程、次いで、
- 少なくとも200℃の温度で予備焼成して鉱物塗料層を得る工程、次いで、
- 前記鉱物塗料層及び前記ガラスシートの前記第2の領域に、少なくとも1つの導電性薄層を含む薄層の積層物を堆積する工程。
【請求項11】
前記予備焼成は、少なくとも550℃の温度で行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記塗料組成物を堆積する前記工程は、スクリーン印刷によって行われる、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記薄層の積層物を堆積する前記工程は、カソードスパッタリングによって行われる、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項7~9のいずれか一項に記載の積層グレージングを得るための方法であって、以下の工程を含む、方法:
- 請求項10~13のいずれか一項に記載の方法に従って得られた材料及び追加のガラスシートを提供する工程、次いで、
- 材料及び追加のガラスシートを、曲げ加工する、特には同時に曲げ加工する工程、次いで、
- 積層用中間層によって前記材料を前記追加のガラスシートと積層する工程であって、その結果、前記鉱物塗料層及び前記薄層の積層物が前記中間層の方に向けられる、工程。
【請求項15】
前記曲げ加工の工程の前に、前記材料を切断する工程が行われる、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グレージング、特に自動車のウィンドシールド又はサンルーフのグレージングなどの自動車用グレージングの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
このようなグレージングは、多くの場合、2枚のガラスのシートが積層用中間層によって接着的に結合されている、積層グレージングである。この中間層は、特に、破損した場合にガラスの破片が保持されることを可能にするが、他の機能性、特に、強制的な侵入に対する耐性又は音響特性の改善も提供する。
【0003】
このタイプのグレージングは、しばしば、異なる特性を付与することを意図する様々なタイプのコーティングを含む。
【0004】
一般的に黒色及び不透明であるエナメル層は、しばしば、グレージングの一部に、一般的には、グレージングを本体構造の開口部に固定及び配置するために役立つポリマーシールを隠蔽し、かつこのポリマーシールに紫外線放射の保護を提供することを意図した周辺バンドの形態で堆積される。積層グレージングにおいて、これらのエナメル層は、一般的に、面2に配置され、当該面は、従来、乗り物の外側に配置されることが意図される面から順に番号が付けられる。このように、面2は積層用中間層と接触する面である。乗り物の外側から見たエナメル層の審美的外観は、自動車の製造業者にとって特に重要である。エナメルは、一般的に、ガラスフリット及び顔料を含む組成物を500℃超で焼成することによって得られる。焼成工程は、一般的に、ガラスシートの曲げ加工と同時に行われる。
【0005】
コーティングは、一般的に薄層の積層物の形態で、積層グレージングのガラスシートの一方に存在してもよい。それらは、特に、2つのタイプの機能性を提供し得る、導電性層であってもよい。導電性層は、第1に、電流の供給が提供されるときに、ジュール効果によって熱を放散することができる。その結果、これらは加熱層であり、これらは、例えば、除氷又は曇り取りに有用である。これらの層は、第2に、赤外線放射の反射による、日射制御又は低放射率の特性を有する。そして、当該層は、暖房又は空調のための消費を減らすことで、熱的な快適性の向上、又はそれらがもたらすエネルギーの節約に関して評価される。これらの層の積層物は、一般的に、積層グレージングの面3に配置され、その結果、積層用中間層とも接触する。
【0006】
ある場合には、エナメル層及び薄層の積層物を同じガラスシートに、つまり考慮中のガラスシートの同じ面に配置して、これらのコーティングが積層グレージングの内側で保護されると有利な場合がある。エナメルは、薄層の積層物に堆積され得るが、エナメルの焼成中に2つのコーティングの間で起こり得る可能性のある相互作用は、エナメルの審美的外観を損なう場合がある。別の可能性は、薄層の積層物をエナメルに堆積させることである。この場合には、エナメルの予備焼成を行い、その粗さを厳密に制御することが必要である。しかしながら、焼成工程中のエナメルの再溶融及び次いで薄層の積層物と起こり得る相互作用は、エナメルの審美的外観及び/又は積層物の導電特性を劣化させる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、良好な審美性と良好な導電特性とを組み合わせることを可能にする解決策を提案することによって、これらの欠点を克服することである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
この目的のため、本発明の1つの主題は、ガラスシートを含む材料であって、その面のうちの1つが、第1の領域及び第2の領域を含み、第1の領域のみが、顔料及びケイ酸アルカリの水溶液を含む水性塗料組成物から得られた不透明な鉱物塗料層で被覆され、鉱物塗料層及びガラスシートの第2の領域が、少なくとも1つの導電性薄層を含む薄層の積層物で被覆されている、材料である。
【0009】
本発明の主題はまた、本発明による材料を得るための方法であって、以下の工程を含む:
- ガラスシートを提供する工程であって、その面のうちの1つが、第1の領域及び第2の領域を含む、工程、次いで、
- 顔料及びケイ酸アルカリの水溶液を含む水性塗料組成物を第1の領域に堆積させる工程、次いで、
- 少なくとも200℃の温度で予備焼成して鉱物塗料層を得る工程、次いで、
- 鉱物塗料層及びガラスシートの第2の領域に、少なくとも1つの導電性薄層を含む薄層の積層物を堆積する工程。
【0010】
本発明の別の主題は、積層グレージング、特には自動車のウィンドシールド又はサンルーフ用の積層グレージングであって、積層用中間層によって追加のガラスシートに接着的に結合された、前述のような材料を含み、その結果、鉱物塗料層及び薄層の積層物が前記中間層の方に向けられる、積層グレージングである。
【0011】
本発明の主題はまた、このような積層グレージングを得るための方法であって、以下の工程を含む:
- 前述の方法に従って得られた材料及び追加のガラスシートを提供する工程、次いで、
- 材料及び追加のガラスシートを、曲げ加工する、特には同時に曲げ加工する工程、次いで、
- 積層用中間層によって前記材料を追加のガラスシートと積層する工程であって、その結果、鉱物塗料層及び薄層の積層物が前記中間層の方に向けられる、工程。
【0012】
以下の本文において、鉱物塗料層及び薄層の積層物は、まとめて「コーティング」と呼ばれる。
【0013】
本発明による材料のガラスシートは、好ましくは、ソーダ石灰シリカガラスから作製される。それは、有利には、フローティングによって得られる。しかしながら、他のガラス組成としては、例えばホウケイ酸塩又はアルミノケイ酸塩のタイプの組成も可能である。
【0014】
ガラスシートは、透明なガラス又は着色されたガラス、好ましくは着色されたガラス、例えば、緑色、灰色又は青色で作製されていてもよい。これを行うために、ガラスシートの化学組成は、有利には、0.5%~2%の範囲の重量含有量で酸化鉄を含む。また、酸化コバルト、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化エルビウム又はセレンなどの他の着色剤を含んでもよい。
【0015】
ガラスシートは、好ましくは、0.7~5mm、特には1~4mm、又はさらには1.5~3mmの厚さを有する。
【0016】
ガラスシートの横方向の寸法は、それが一体化されることを意図した積層グレージングの寸法に応じて適合されるべきである。ガラスシートは、好ましくは、少なくとも1mの面積を有する。
【0017】
ガラスシートの寸法は、考慮中の方法の工程に依存し得る。第1の実施形態によれば、コーティングを堆積する工程は、「プライマリー」、すなわち、曲げ加工及び積層の前に切断工程を受ける必要がないような寸法を既に有するガラスシートに対して行われる。第2の実施形態によれば、コーティングを堆積する工程は、大きいサイズの(例えば、6~20m、特には約3×6m又は3×3mの面積を有する)ガラスシートに対して行われる。次いで、得られた材料からいくつかの積層グレージングを作製することができる。この場合、曲げ加工及び積層加工の前に切断工程が行われる。切断後、元のガラスシートは、n枚のガラスシートに細分され、ここでnは、典型的には、2~5、特には3又は4である。
【0018】
ガラスシートは、平坦であってもよく、又は曲げられていてもよい。それは、塗料組成物及び薄層の積層物を堆積させる工程の間、一般的には平坦である。次いで、それは、好ましくは、積層工程の前に曲げられ、その結果、最終的なグレージングにおいて曲げられた形状を有する。
【0019】
第1の領域は、鉱物塗料層で被覆された領域である。第1の領域は、好ましくは、被覆面の面積の、2%~25%、特には3%~20%、又はさらには5%~15%を示す。最終的な材料において、積層グレージングへの一体化の前又は積層グレージングに一体化されたときに、第1の領域は、好ましくは、周辺ストリップの形態である。用語「周辺ストリップ」とは、それ自体で閉ざされたストリップを意味し、これは、ガラスシートの周囲の各点から、ガラスシートの内部に向かってある幅、典型的には1~20cmのある幅にわたって延びる。
【0020】
この場合も、第1の領域の形状は、コーティングの堆積後及び曲げ加工前に切断工程が起こり得る限り、考慮される方法の工程に依存し得る。
【0021】
上述の第1の実施形態(プライマリーへの堆積)では、第1の領域は、コーティングの堆積中、好ましくは、周辺ストリップの形態である。
【0022】
上述の第2の実施形態(大きなシートへの堆積)では、第1の領域は、コーティングの堆積中、好ましくは、いくつかの、特にはn個の、それ自体で閉ざされた切断されたストリップを含み、ここでnは、典型的には2~5、特には3又は4である。切断後、n個の材料が得られ、各々は、周辺ストリップの形態の第1の領域を有し、これらの材料は、曲げられ、次いで、積層グレージングに一体化され得る。
【0023】
好ましくは、第1の領域及び第2の領域は、一緒になって、ガラスシートの面のうちの1つの総面積を表す。
【0024】
鉱物塗料層は、好ましくは、ガラスシートと接触している。
【0025】
塗料層は好ましくは黒色である。特に、ガラス側(すなわち、鉱物塗料層とは反対側)の反射において測定された明度Lは、好ましくは5未満、特には3未満である。測定は分光比色計を用いて行い、計算は光源D65とCIE 1964標準観測者(10°)を考慮に入れて行われる。
【0026】
鉱物塗料層の厚さは、好ましくは2~20μm、特には3~15μm、又はさらには4~10μmである。この場合、それは焼成後の最終的な層の厚さである。
【0027】
鉱物塗料層は、顔料及びケイ酸アルカリの水溶液を含む水性塗料組成物から得られる。
【0028】
少なくとも1つの顔料、特にはそれぞれの顔料は、好ましくは、鉄、クロム、銅、コバルト及び/又はマンガンの酸化物又は硫化物をベースとする。
【0029】
ケイ酸アルカリの水溶液は、好ましくは、少なくとも1つの、ナトリウム、カリウム及び/又はリチウムのケイ酸塩を含む。ケイ酸アルカリの水溶液は、異なるケイ酸アルカリの水溶液の混合物、例えば、少なくとも1つのナトリウム水溶液と、少なくとも1つのカリウム水溶液との混合物からなり得る。
【0030】
塗料組成物は、好ましくは、少なくとも1つの鉱物充填材、特にはコロイダルシリカ、長石、アルミナ及びラメラ充填材から選択される少なくとも1つの鉱物充填材を含む。ラメラ充填材は、好ましくはタルク、マイカ及びクレー、特にはケイ酸塩又はアルミノケイ酸塩をベースとするクレー、例えば、カオリナイト、イリナイト、モンモリロナイト及びセピオライトから選択される。塗料組成物は、有利には、これらの鉱物充填剤のいくつかの混合物を含む。
【0031】
鉱物充填剤及び顔料は、好ましくは、それらのd90が10μm未満であるような(体積による)粒度分布を有する。
【0032】
塗料組成物はまた、塩基、特にアルカリ性水酸化物を含み得る。
【0033】
塗料組成物はまた、種々の添加剤、例えば、少なくとも1つの分散剤、少なくとも1つの消泡剤、少なくとも1つの増粘剤、少なくとも1つの安定剤及び/又は少なくとも1つの硬化剤を含み得る。
【0034】
鉱物塗料層において、ケイ酸アルカリの重量含有量は、好ましくは7%~60%、特には15%~55%である。顔料及び鉱物充填剤の総重量含有量は、好ましくは20%~90%、特には30%~70%である。添加剤の総含有量は、好ましくは0.1%~5%である。
【0035】
これらの含有量は、水性塗料組成物(その場合は固形分に対する割合である)にも有効である。
【0036】
したがって、(予備焼成後の)鉱物塗料層は、ケイ酸アルカリ及び顔料、並びに必要に応じて鉱物充填剤を含む。
【0037】
鉱物塗料層は、好ましくはスクリーン印刷によって堆積される。そして、塗料組成物を堆積する工程は、スクリーン印刷によって行われる。スクリーン印刷は、スクリーン印刷のスクリーンのメッシュを通してガラスシートに流体組成物を堆積させる、特にはドクターブレードを用いて堆積させることを伴う。スクリーンのメッシュは、被覆することが望まれていない、ガラスシートの領域に対応する部分で閉ざされており、その結果、流体組成物は、予め規定されたパターンに従って、印刷すべき領域においてのみスクリーンを通過することができる。デジタル印刷技術のような他の堆積技術も可能である。
【0038】
予備焼成工程の前に乾燥工程が行われてもよい。しかしながら、この工程は、塗料に含まれる水が予備焼成中に蒸発し得るので、必須ではない。
【0039】
塗料組成物の堆積後、被覆されたガラスシートは、その上に薄層の積層物を堆積させることができるように、塗料層を硬化させることを意図する予備焼成工程を経る。ケイ酸アルカリをベースとする鉱物塗料は、通常、200~250℃のオーダーの適度な温度で硬化させることができる。
【0040】
しかしながら、このような温度は、塗料層の審美的外観及び薄層の積層物の電気的特性に関して、必ずしも良好な結果を得ることを可能にするとは限らないことが判明している。低温で硬化させる場合、2つのコーティング間の相互作用が曲げ加工中に起こるようである。一方、少なくとも550℃、特には少なくとも560℃での予備焼成は、その後の曲げ加工の間に有害な相互作用を生じない塗料層の形成を可能にする。したがって、好ましくは、不透明な鉱物塗料層は、薄層の積層物の堆積の前に、少なくとも550℃、特には少なくとも580℃、さらには少なくとも600℃の温度での予備焼成工程を経ている。この予備焼成温度は650℃以下であることが好ましい。この実施形態は、鉱物塗料層で被覆された第1の領域を含めて、高い導電性を達成する必要がある場合に特に有利である。
【0041】
あるいは、導電特性がそれほど重要でない場合、例えば、導電性薄層がその赤外線放射の反射特性のみに使用され、加熱層としては使用されない場合、予備焼成は、より低い温度、特には200~450℃、又はさらには250~400℃で行われてもよく、これにより、特に、ガラスシートの後続の切断を容易にすることが可能になる。これはまた、審美的検討事項があまり重要でない場合、例えば、積層グレージングの少なくとも1つのガラスシートが高度に着色され、塗料層と薄層の積層物との間の相互作用に関連するあらゆる着色をマスキングする場合にも当てはまる。
【0042】
予備焼成工程は、典型的には、放射型オーブン中又は対流型オーブン中で行われる。予備焼成時間は、好ましくは60~1000秒、特には100~600秒、又はさらには120~500秒である。
【0043】
薄層の積層物は、好ましくは、第1の領域において、鉱物塗料層と接触し、また、第2の領域において、ガラスシートと接触して堆積される。
【0044】
好ましくは、第2の領域の表面の全て、又は少なくとも90%が、薄層の積層物で被覆される。波が通過することを可能にする通信ウィンドウを作製するために、特定の領域は実際には被覆されない場合がある。
【0045】
薄層の積層物において、少なくとも1つの導電性薄層、特には、導電性薄層又は各導電性薄層は、好ましくは、金属層又は導電性透明酸化物層である。
【0046】
金属層は、好ましくは銀をベースとし、特には銀からなる。金又はニオブのような他の金属も可能である。積層物は、単一の金属層、又はいくつかの同一又は異なる金属層、例えば、銀をベースとする2層、3層又は4層を含むことができる。
【0047】
金属層の物理的厚さ、又は、必要に応じて金属層の厚さの合計は、好ましくは2~20nm、特には3~15nmである。
【0048】
導電性透明酸化物層は、好ましくは、混合インジウムスズ酸化物(ITO)、ドープスズ酸化物(特にフッ素又はアンチモンでドープされたもの)、及びドープ亜鉛酸化物(特にアルミニウム又はガリウムでドープされたもの)から選択される酸化物をベースとし、特にはこの酸化物からなる。
【0049】
導電性透明酸化物層の物理的厚さは、好ましくは20~700nm、特には30~500nmである。
【0050】
曲げ加工の工程中に、(金属であるか、又は導電性透明酸化物をベースにしているかにかかわらず)導電性薄層又は各導電性薄層を保護するために、これらの層のそれぞれは、少なくとも2つの誘電体層で囲まれていることが好ましい。誘電体層は、ケイ素、アルミニウム、チタン、亜鉛、ジルコニウム及びスズから選択される少なくとも1つの元素の酸化物、窒化物及び/又は酸窒化物をベースとすることが好ましい。薄層の積層物は、例えば、誘電体層と、金属層、特に銀をベースにした金属層との連続体を含む。
【0051】
薄層の積層物を堆積する工程は、好ましくは、カソードスパッタリング、特には磁場(マグネトロン法)によって補助されるカソードスパッタリングによって行われる。この技術では、ガラスシートは、真空チャンバを通過し、様々なターゲットに対向する。プラズマの影響下、原子はターゲットから引き抜かれ、ガラスシートに堆積される。この技術は、約10層以上の薄層を含む、特に複雑な層の積層物を堆積することを可能にする。
【0052】
上記積層物は、加熱機能(除氷、曇り取り)及び/又は断熱機能を提供するのに有用な導電特性及び赤外線反射特性を有する。
【0053】
薄層の積層物が加熱機能を与えることを意図する場合、電流供給が提供されなければならない。それらは特に、ガラスシートの対向する2つの端部において、薄層の積層物にスクリーン印刷によって堆積された銀ペーストのストリップであってもよい。
【0054】
積層グレージングは、好ましくは曲げられる。これを行うために、積層グレージングの2つのガラスシート、つまり本発明による材料及び追加のガラスシートは、曲げられ、一般的には一緒に曲げられる。
【0055】
曲げ加工は、特に、例えば、重力(ガラスは自重で変形する)によって、又はプレスによって、典型的には550~650℃の範囲の温度で行うことができる。曲げ加工中にガラスシートが互いに付着するのを回避するために、ガラスシートは、好ましくは、数十マイクロメートル、典型的には20~50μmの間隔を確保する層間粉末を、それらの間に配置することによって分離して保持される。層間粉末は、例えば、炭酸カルシウム及び/又は炭酸マグネシウムをベースとする。曲げ加工中、(客室の内部に位置することが意図される)内側のガラスシートは、通常、外側のガラスシートの上方に配置される。
【0056】
特に、上述した第2の実施形態の場合(大きなサイズのガラスシートへのコーティングの堆積)、曲げ加工の工程の前に切断工程が行われていることが好ましい。この工程は、積層グレージングを作製するための適切な寸法を有するガラスシートを得ることを可能にする。
【0057】
切断工程は、塗料層で被覆された第1の領域の端部で行われてもよく、又は、第1の領域内でも行われてもよい。切断工程の後に成形工程が続くことが好ましい。
【0058】
積層工程は、オートクレーブ処理、例えば、110~160℃の温度及び10~15バールの範囲の圧力下でのオートクレーブ処理によって行うことができる。オートクレーブ処理の前に、ガラスシートと積層用中間層との間に捕捉された空気は、カレンダー処理によって、又は減圧処理によって除去することができる。
【0059】
追加のシートは、好ましくは、積層グレージングの内側シート、すなわち、乗り物の客室の内部に配置されることが意図される、グレージングの凹面側のシートである。このようにして、コーティングは、積層グレージングの面2に配置される。
【0060】
追加のガラスシートは、ソーダ石灰シリカガラス、又はホウケイ酸塩若しくはアルミノケイ酸塩のガラスから作製することができる。それは透明又は着色されたガラスであってもよい。その厚さは、好ましくは0.5~4mm、特には1~3mmである。
【0061】
好ましい実施形態によれば、追加のガラスシートは、アルミノケイ酸ナトリウムガラスから作製され、これは、好ましくは化学的に強化され、0.5~1.2mmの厚さを有する。追加のガラスシートは、好ましくは、積層グレージングの内側シートである。本発明は、薄層の積層物を面3に配置することが難しい、このタイプの構成に特に有用である。(「イオン交換」としても知られる)化学強化は、ガラスの表面を溶融カリウム塩(例えば硝酸カリウム)と接触させて、ガラスのイオン(この場合はナトリウムイオン)をより大きなイオン半径のイオン(この場合はカリウムイオン)と交換することによってガラスの表面を強化することからなる。このイオン交換は、ガラスの表面及びある厚さにわたる圧縮拘束力の形成を可能にする。好ましくは、表面の拘束力は、少なくとも300MPaであり、特には、少なくとも400MPa及びさらには少なくとも500MPaであり、また、700MPa以下であり、圧縮領域の厚さは、少なくとも20μmであり、典型的には、20~50μmである。拘束プロファイルは、バビネット補償板を備えた偏光顕微鏡による公知の方法で決定することができる。化学的強化工程は、380~550℃の範囲の温度で、30分~3時間の範囲の時間行うことが好ましい。化学強化は、曲げ加工工程の後であるが、積層工程の前に行われることが好ましい。得られるグレージングは、好ましくは自動車のウィンドシールド、特には加熱されるウィンドシールドである。
【0062】
別の好ましい実施形態によれば、追加のガラスシートは、積層用中間層に向けられた面の反対側の面(好ましくは、追加のシートが内側シートである面4)に、追加の薄層の積層物、特には、導電性透明酸化物、特にはインジウムスズ酸化物を含む、低放射率の積層物を担持している。本発明はまた、同じガラスシートの2つの面(面3及び4)に薄層の積層物を配置することが困難である、このタイプの構成に特に有用である。この実施形態では、積層用中間層及び/又は追加のガラスシートは着色され、塗料層を担持するガラスシートは、場合によっては透明なガラスである。得られるグレージングは、好ましくは自動車のサンルーフである。
【0063】
積層用中間層は、好ましくはポリビニルアセタール、特にはポリビニルブチラール(PVB)の少なくとも1つのシートを含む。
【0064】
積層用中間層は、必要に応じて、グレージングの光学的又は熱的な特性を調節するために、着色されてもよいし、着色されなくてもよい。
【0065】
積層用中間層は、有利には、空中又は構造由来の音を吸収するように、音響吸収特性を有してもよい。この目的のために、それは、特に、外側シートの硬度よりも低い硬度を有する、任意にPVBから作製される、内側のポリマーシートを囲む2つの「外側」PVBシートを含む、3つのポリマーシートからなり得る。
【0066】
積層用中間層はまた、断熱特性、特に赤外線放射の反射特性を有してもよい。この目的のために、それは、低放射率の薄層コーティング、例えば、2つの外側PVBシートによって囲まれた内側PETシートに堆積された、銀の薄層又は異なる屈折率を有するコーティング交互誘電体層を含むコーティングを含むことができる。
【0067】
積層用中間層の厚さは、一般的に、0.3~1.5mm、特には0.5~1mmに及ぶ範囲内である。積層用中間層は、ヘッドアップディスプレイ(HUD)システムを使用する場合に二重像の形成を回避するように、グレージングの中央よりもグレージングの一方の端部でより小さい厚さを有することができる。
【0068】
以下の実施例は、本発明を例示するが、それに限定されるものではない。
【実施例
【0069】
厚さ2.1mmの透明ソーダ石灰シリカガラスのシートに不透明な黒色層を堆積させ(スクリーン印刷で、ウェット厚:20~25μm)、次いで、3分間の予備焼成の工程の後、(マグネトロンカソードスパッタリングで)誘電体薄層で囲まれた銀の3つの薄層を含む薄層の積層物を堆積させた。ガラスの曲げ加工(575~645℃、6分間)に用いる温度を代表する種々の温度で焼成した後、薄層の積層物のシート抵抗を測定した。工業的条件(ガラスの同時の焼成及び曲げ加工)にできるだけ近づけるために、ガラスシートの不透明な黒色層側に、厚さ2.1mmの第2の透明ガラスシートを配置して焼成を行った。
【0070】
第1の比較例Aでは、不透明な黒色層は、顔料と、さらにビスマスのガラスフリットとを含むエナメル組成物の堆積によって得られたエナメル層であった。予備焼成温度は610℃であった。
【0071】
本発明による例Bでは、不透明な黒色層は、CeramiGlass(商標)の名称でICD社によって販売され、米国特許第5510188号に記載されている組成物から得られたケイ酸塩の塗料層であった。予備焼成温度は610℃であった。
【0072】
本発明による例Cでは、不透明な黒色層は、例Bで使用したもののようなケイ酸塩の塗料層であったが、予備焼成温度は400℃であった。
【0073】
参考例Dでは、黒色層を堆積しなかった。したがって、薄層の積層物をガラスに直接的に堆積した。
【0074】
以下の表1は、第1の領域における、575℃、615℃及び645℃での焼成前及び焼成後の、それぞれの例について得られたシート抵抗(Ω)をまとめたものである。
【0075】
【表1】
【0076】
例AとDを比較すると、薄層の積層物に接触するエナメル層の存在は、シート抵抗を大きく増加させ、焼成温度が高いほどすべてでそうなるため、焼成後の積層物の導電特性に関して有害である。
【0077】
一方で、ケイ酸塩の塗料層(例B)を用いると、高温で予備焼成を行っている(例C)という条件で、黒色層がない場合(例D)に得られるものと同程度の有利な抵抗率を、保つことができる。しかしながら、例Cの場合のような低温の予備焼成は、塗料層を覆う領域における導電特性が重要でない場合、例えば、薄層の積層物をその赤外線放射の反射特性のために使用する場合には、不利にはならない。
本開示の実施態様の一部を以下の[項目1]-[項目15]に記載する。
[項目1]
ガラスシートを含む材料であって、その面のうちの1つが、第1の領域及び第2の領域を含み、前記第1の領域のみが、顔料及びケイ酸アルカリの水溶液を含む水性塗料組成物から得られた不透明な鉱物塗料層で被覆され、前記鉱物塗料層及び前記ガラスシートの前記第2の領域が、少なくとも1つの導電性薄層を含む薄層の積層物で被覆されている、材料。
[項目2]
少なくとも1つの導電性薄層は、金属層、特には銀をベースとする金属層、又は導電性透明酸化物層である、項目1に記載の材料。
[項目3]
前記不透明な鉱物塗料層は、黒色であり、ガラス側の反射において測定された明度L は、好ましくは5未満である、項目1又は2に記載の材料。
[項目4]
前記第1の領域は、前記被覆面の面積の、2%~25%、特には3%~20%を示す、項目1~3のいずれか一項に記載の材料。
[項目5]
前記鉱物塗料層において、ケイ酸アルカリの重量含有量は、好ましくは7%~60%であり、顔料及び鉱物充填剤の総重量含有量は、20%~90%である、項目1~4のいずれか一項に記載の材料。
[項目6]
前記不透明な鉱物塗料層は、前記薄層の積層物の堆積の前に、少なくとも550℃の温度での予備焼成工程を経ている、項目1~5のいずれか一項に記載の材料。
[項目7]
積層グレージング、特には自動車のウィンドシールド又はサンルーフ用の積層グレージングであって、積層用中間層によって追加のガラスシートに接着的に結合された、項目1~6のいずれか一項に記載の材料を含み、その結果、前記鉱物塗料層及び前記薄層の積層物が前記中間層の方に向けられる、積層グレージング。
[項目8]
前記追加のガラスシートは、アルミノケイ酸ナトリウムガラスから作製され、該ガラスは、好ましくは、化学的に強化され、かつ、0.5~1.2mmの厚さを有する、項目7に記載の積層グレージング。
[項目9]
前記追加のガラスシートは、前記積層用中間層に向けられた面の反対側の面に、追加の薄層の積層物、特には、導電性透明酸化物を含む低放射率の積層物を担持している、項目7に記載の積層グレージング。
[項目10]
項目1~6のいずれか一項に記載の材料を得るための方法であって、以下の工程を含む、方法:
- ガラスシートを提供する工程であって、その面のうちの1つが、第1の領域及び第2の領域を含む、工程、次いで、
- 顔料及びケイ酸アルカリの水溶液を含む水性塗料組成物を前記第1の領域に堆積させる工程、次いで、
- 少なくとも200℃の温度で予備焼成して鉱物塗料層を得る工程、次いで、
- 前記鉱物塗料層及び前記ガラスシートの前記第2の領域に、少なくとも1つの導電性薄層を含む薄層の積層物を堆積する工程。
[項目11]
前記予備焼成工程は、少なくとも550℃の温度で行われる、項目10に記載の方法。
[項目12]
前記塗料組成物を堆積する前記工程は、スクリーン印刷によって行われる、項目10又は11に記載の方法。
[項目13]
前記薄層の積層物を堆積する前記工程は、カソードスパッタリングによって行われる、項目10~12のいずれか一項に記載の方法。
[項目14]
項目7~9のいずれか一項に記載の積層グレージングを得るための方法であって、以下の工程を含む、方法:
- 項目10~13のいずれか一項に記載の方法に従って得られた材料及び追加のガラスシートを提供する工程、次いで、
- 材料及び追加のガラスシートを、曲げ加工する、特には同時に曲げ加工する工程、次いで、
- 積層用中間層によって前記材料を前記追加のガラスシートと積層する工程であって、その結果、前記鉱物塗料層及び前記薄層の積層物が前記中間層の方に向けられる、工程。
[項目15]
前記曲げ加工の工程の前に、前記材料を切断する工程が行われる、項目14に記載の方法。