(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】歯科用バリアフィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 31/06 20060101AFI20240606BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20240606BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20240606BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
A61L31/06
A61L31/04 120
A61L31/12
A61L31/14 400
A61L31/14 500
(21)【出願番号】P 2022178912
(22)【出願日】2022-11-08
【審査請求日】2022-11-08
(32)【優先日】2022-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】廖 ▲徳▼超
(72)【発明者】
【氏名】鐘 ▲敏▼帆
(72)【発明者】
【氏名】張 嘉融
(72)【発明者】
【氏名】袁 ▲敬▼堯
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/026857(WO,A1)
【文献】バリアフィルムについて, フィルム・テープ製品のプレス加工、ラミネート加工ならオーティス(OTIS) [オンライン], 2022.09.13 [検索日2023.12.08],インターネット:<URL:https://otis-group.com/blog/gyoukai/health/barrier_film/>
【文献】Acta Biomater.,2009年,5, [9],p.3394-3403
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性多孔質基層及び親水性物質を含む
歯科用遮蔽膜であって、
前記生分解性多孔質基層は、前記親水性物質が付いたポリ乳酸繊維を含み、
前記親水性物質は、前記生分解性多孔質基層に結合すると共に、
分子量が1万~70万のヒアルロン酸であり、
前記
歯科用遮蔽膜の外面に80°未満の水接触角を有することを特徴とする、
歯科用遮蔽膜。
【請求項2】
前記生分解性多孔質基層の厚みは、200μm~400μmである、請求項
1に記載の
歯科用遮蔽膜。
【請求項3】
前記
歯科用遮蔽膜は、前記生分解性多孔質基層を覆う外被覆層を更に含み、前記親水性物質は、前記外被覆層に存在する、請求項1に記載の
歯科用遮蔽膜。
【請求項4】
前記
歯科用遮蔽膜の25℃、絶対湿度50%の条件での引張強度は、0.5MPa~5MPaである、請求項1に記載の
歯科用遮蔽膜。
【請求項5】
前記
歯科用遮蔽膜のASTM D3121-2006の規格に基づいて測定された接着強度は、0.3N~0.7Nである、請求項1に記載の
歯科用遮蔽膜。
【請求項6】
生分解性多孔質基層を提供する工程と、
分子量が1万~70万のヒアルロン酸である親水性物質を含む水溶液を用いて前記生分解性多孔質基層を処理することによって、前記親水性物質を前記生分解性多孔質基層に結合する工程と、を含む、
歯科用遮蔽膜の製造方法であって、
生分解性多孔質基層を提供する工程において、静電紡糸でポリ乳酸繊維を提供すると共に、前記ポリ乳酸繊維で層状の前記生分解性多孔質基層を形成し、
また、前記親水性物質を含む水溶液を用いて前記生分解性多孔質基層を処理する工程を完了した後に、前記ポリ乳酸繊維に前記親水性物質が付いており、
前記
歯科用遮蔽膜の外面に80°未満の水接触角を有することを特徴とする、
歯科用遮蔽膜の製造方法。
【請求項7】
前記生分解性多孔質基層の厚みは、200μm~400μmである、請求項
6に記載の
歯科用遮蔽膜の製造方法。
【請求項8】
前記親水性物質を含む水溶液の総重量を100wt%として、前記親水性物質の含有量は、25wt%~40wt%である、請求項
6に記載の
歯科用遮蔽膜の製造方法。
【請求項9】
前記親水性物質を含む水溶液を用いて前記生分解性多孔質基層を処理する工程において、前記生分解性多孔質基層を前記親水性物質を含む水溶液に30秒~1分に含浸させることを含む、請求項
8に記載の
歯科用遮蔽膜の製造方法。
【請求項10】
前記親水性物質を含む水溶液を用いて前記生分解性多孔質基層を処理する工程を完了した後に、前記生分解性多孔質基層を覆う外被覆層が形成され、前記親水性物質が前記外被覆層に存在する、請求項
6に記載の
歯科用遮蔽膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用バリアフィルムに関し、特に、歯科用バリアフィルム及びその製造方法に関する。本発明に係る歯科用バリアフィルムは、歯科手術又はその他の人間の外科手術に用いられる。
【背景技術】
【0002】
歯科インプラント手術(dental implant)の前に、一般に骨手術として知られる誘導骨再生(guided bone regeneration,GBR)が通常行われ、インプラント領域の歯の長期的な欠如による歯槽骨(alveolar bone)萎縮の問題を解決する。
【0003】
図5に示すように、骨再生誘導法では、まず歯肉Gを開き、骨の欠損部に骨粉Bを充填することで、リッジ(tooth ridge)Rでの骨の生長を促進する。細胞増殖中に歯肉Gや口腔粘膜などの軟部組織が骨の成長空間を占めることを防ぐために、骨粉BをバリアフィルムFで覆うことで、歯槽骨と軟部組織とをバリアし、最後に歯肉Gを縫合する。このように、特定の空間で骨細胞を成長させ、リッジRを再構築するという目的を達成することができる。
【0004】
現在、業界で一般的に使用されているバリアフィルムはコラーゲン(以下、コラーゲンフィルム)で製造されており、コラーゲンの物理特性が弱く、インプラントを行った後に破れやすく、人工骨(artificial bone)の脱落に繋がる。また、コラーゲンフィルムには可塑性を有しない。傷を完全に覆うために、医者が縫合糸または他の方法でコラーゲンフィルムの形状を固定する必要がある。そのため、コラーゲンフィルムは、物理特性が不良で、使いやすさが悪いという問題がある。
【0005】
故に、従来のバリアフィルムをどのように改良してその物理特性を向上させ、且つ使いやすさを高めることで、上記の欠点を克服することは、この事業の解決しよとした重要な課題の一つとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明において、歯科用バリアフィルムの水濡れ性及び覆いフィット性の改良を着眼する。本発明において採用された技術手段は、フィルムの基層を多孔質構造として形成されると共に、分子量が小分子及び高分子との間にある親水性物質によって、フィルムの基層に対して親水性処理を行う。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用する一つの技術的手段は、歯科用バリアフィルムを提供する。歯科用バリアフィルムは、生分解性多孔質基層及び親水性物質を含む。前記親水性物質は、生分解性多孔質基層に結合すると共に、ヒアルロン酸又はその誘導体、及び水溶性ビタミンからなる群から選択される。歯科用バリアフィルムの外面に80°未満の水接触角を有する。
【0008】
本発明の一つの実施形態において、前記生分解性多孔質基層の材料はポリ乳酸を含み、前記親水性物質は、分子量が1万~70万のヒアルロン酸である。
【0009】
本発明の一つの実施形態において、前記生分解性多孔質基層の厚みは、200μm~400μmである。
【0010】
本発明の一つの実施形態において、前記生分解性多孔質基層は、前記親水性物質が付いたポリ乳酸繊維を含む。
【0011】
本発明の一つの実施形態において、前記歯科用バリアフィルムは、前記生分解性多孔質基層を覆う外被覆層を更に含み、前記親水性物質は、前記外被覆層に存在する。
【0012】
本発明の一つの実施形態において、前記歯科用バリアフィルムの25℃、絶対湿度50%の条件での引張強度は、0.3MPa~5MPaである。
【0013】
本発明の一つの実施形態において、前記歯科用バリアフィルムのASTM D3121-2006の規格に基づいて測定された接着強度は、0.3N~0.7Nである。
【0014】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用するもう一つの技術的手段は、歯科用バリアフィルムの製造方法を提供する。歯科用バリアフィルムの製造方法は、生分解性多孔質基層を提供する工程と、親水性物質を含む水溶液を用いて前記生分解性多孔質基層を処理することによって、前記親水性物質を前記生分解性多孔質基層に結合する工程と、を含む。前記親水性物質は、ヒアルロン酸又はその誘導体、及び水溶性ビタミンからなる群から選択される。製造された歯科用バリアフィルムの外面に80°未満の水接触角を有する。
【0015】
本発明の一つの実施形態において、前記親水性物質を含む水溶液の総重量を100wt%として、前記親水性物質の含有量は、25wt%~40wt%である。
【0016】
本発明の一つの実施形態において、前記親水性物質を含む水溶液を用いて前記生分解性多孔質基層を処理する工程において、前記生分解性多孔質基層に前記親水性物質を含む水溶液を30秒~1分に含浸させることを含む。
【0017】
本発明の一つの実施形態において、前記親水性物質を含む水溶液を用いて前記生分解性多孔質基層を処理する工程を完了した後に、前記生分解性多孔質基層を覆う外被覆層が形成され、前記親水性物質が前記外被覆層に存在する。
【0018】
本発明の一つの実施形態において、生分解性多孔質基層を提供する工程において、静電紡糸でポリ乳酸繊維を提供すると共に、前記ポリ乳酸繊維で前記生分解性多孔質基層を形成する。また、前記親水性物質を含む水溶液を用いて前記生分解性多孔質基層を処理する工程を完了した後に、前記ポリ乳酸繊維に前記親水性物質が付いている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の有利な効果として、本発明に係る歯科用バリアフィルム及びその製造方法は、「前記親水性物質は、生分解性多孔質基層に結合すると共に、ヒアルロン酸又はその誘導体、及び水溶性ビタミンからなる群から選択される」及び「前記歯科用バリアフィルムの外面に80°未満の水接触角を有する」といった技術特徴によって、本発明に係る歯科用バリアフィルムは、使用前(例えば、手術を行う前)の浸漬・濡れ時間を大幅に低減すると共に、十分に湿潤した歯科用バリアフィルムは、より優れた可塑性及び覆いフィット性を有する。
【0020】
更に説明すると、本発明に係る歯科用バリアフィルムは、五分内に吸水して可塑性を有する軟化状態に至って、異なる立体形状にフィットすることができる。また、本発明に係る歯科用バリアフィルムは、患部(骨欠損など)にしっかりと付着することができると共に、患部に十分な成長スペースを提供することで、患部の修復、再生、および統合を助けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る歯科用バリアフィルムの一つの構造を示す模式図である。
【
図2】本発明に係る歯科用バリアフィルムのもう一つの構造を示す模式図である。
【
図3】本発明に係る歯科用バリアフィルムの部分拡大図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る歯科用バリアフィルムの製造方法のフローチャートである。
【
図5】骨再生誘導法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の特徴及び技術内容がより一層分かるように、以下の本発明に関する詳細な説明と添付図面を参照されたい。しかし、提供される添付図面は参考と説明のために提供するものに過ぎず、本発明の請求の範囲を制限するためのものではない。
【0023】
以下、所定の具体的な実施態様によって「歯科用バリアフィルム及びその製造方法」を説明し、当業者は、本明細書に開示された内容に基づいて本発明の利点と効果を理解することができる。本発明は、他の異なる具体的な実施態様によって実行または適用でき、本明細書における各細部についても、異なる観点と用途に基づいて、本発明の構想から逸脱しない限り、各種の修正と変更を行うことができる。また、事前に説明するように、本発明の添付図面は、簡単な模式的説明であり、実際のサイズに基づいて描かれたものではない。また、本明細書において使用される「または」という用語は、実際の状況に応じて、関連して挙げられる項目におけるいずれか1つまたは複数の組み合わせを含むことがある。
【0024】
別段の定めがない限り、本発明で使用される用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。以下の実施形態で使用されている材料は、特に明記されていない限り、市販の材料である。以下の例で使用される操作または器具は、特に明記しない限り、当技術分野における一般的な操作または器具である。
【0025】
理解すべきことは、本明細書において、特定の順番に基づいて方法のフローチャートにおける複数の工程を説明するが、このような特定の順番に基づいてこれらの工程を行うことが要求又は示唆することがない。また、全ての工程を行うことのみで所望の結果を果たせるわけでもない。複数の工程を一つの工程に合わせて実行するか、若しくは、一つの工程を複数の工程を分解して実行してもよい。
【0026】
[第一実施形態]
図1及び
図2に示すように、本発明の第一実施形態は、歯科用バリアフィルム1を提供する。歯科用バリアフィルム1は、生分解性多孔質基層11及び生分解性多孔質基層11に結合する親水性物質12を含む。このように、歯科用バリアフィルム1の外面100に水接触角が80°未満の親水性を有して、使用前の浸漬・濡れ時間を大幅に低減した上で、十分に湿潤した歯科用バリアフィルムは、より優れた可塑性及び覆いフィット性を有する。本発明において、歯科用バリアフィルム1の外面100と水と水接触角は、60°未満であることが好ましく、30°未満であることがより好ましく、10°未満であることが最も好ましい。
【0027】
更に説明すると、本発明に係る歯科用バリアフィルム1は、生分解性多孔質基層11に親水化処理を行うことで形成される。その過程において、親水性物質12は、生分解性多孔質基層11の外面のみに付着するだけでなく、生分解性多孔質基層11の中に浸透させる。上記親水化処理は、親水性物質12を付加させ、即ち、親水性物質12と生分解性多孔質基層11とを一体化するように複合構造を形成する(即ち、親水性物質12と生分解性多孔質基層11との間にマイクロボンディングを有する)ことによって、生分解性多孔質基層11の親水性を改良し、外部又は内部はいずれも、高い親水性を有する。
【0028】
本発明に係る歯科用バリアフィルム1において、親水性物質12は、ヒアルロン酸又はその誘導体、及び水溶性ビタミン(例えば、ビタミンC及びビタミンB群)からなる群から選択され、好ましくは、ヒアルロン酸である。それによって、本発明に係る歯科用バリアフィルム1は、より低い時間で吸水して可塑性を有する軟化状態を至ることができる。しかしながら、発明の効果を著しく損なうことがない状況で、一つの実施形態として、他の親水性基を含む物質を用いて親水化処理を行うこともでき、例えば、水酸基を含む物質、カルボキシル基を含む物質、スルホン酸基を含む物質、エーテル基を含む物質、エポキシ基を含む物質、アミノ基を含む物質などが挙げられる。
【0029】
本発明に係る歯科用バリアフィルム1の親水性物質12として、ヒアルロン酸の分子量が特に限られないが、1万~100万であることが好ましく、1万~70万であることがより好ましい。ヒアルロン酸の分子量が1万未満であると、ヒアルロン酸を生分解性多孔質基層11に結合することには不利となる。ヒアルロン酸の分子量が100万を超えると、ヒアルロン酸が生分解性多孔質基層11の中に浸透することに不利となる。
【0030】
更に説明すると、前記親水化処理は、親水性物質を含む水溶液を用いて生分解性多孔質基層11を処理することによって、親水性物質12を生分解性多孔質基層11に結合させることである。親水性物質を含む水溶液は、親水性物質12(例えば、ヒアルロン酸)及び水を含むと共に、親水性物質を含む水溶液の総重量を100wt%として、親水性物質12の含有量は、25wt%~40wt%であってもよい。実際に応用する際に、前記親水化処理は、生分解性多孔質基層11に、親水性物質を含む水溶液を30秒~1分に含浸させることを含む。しかしながら、上述した内容は、使用可能な実施形態であり、本発明はこれに制限されるものではない。
【0031】
図2に示すように、本発明に係る歯科用バリアフィルム1は、外被覆層13を更に含んでもよい。外被覆層13は、生分解性多孔質基層11の一部又は全てを覆うことができると共に、外被覆層13に親水性物質12が存在する。
【0032】
本発明に係る歯科用バリアフィルム1は、歯の移植前の土台を作り直す骨置換手術(骨再生手術)に用いられる。骨再生が必要する箇所(骨粉を充填する箇所)と、軟部組織とを分離させることによって、軟部組織の成長で骨の再生に悪影響を与えることがない。特筆すべきことは、本発明に係る歯科用バリアフィルム1は、人体で分解されて吸収されることができるため、フィルムをテイクアウトするための二次手術を行う必要がない。また、従来のバリアフィルムに比べて、本発明に係る歯科用バリアフィルム1は、より優れた水濡れ性及び覆いフィット性を有するため、手術の操作及び骨欠損の修復、再生および統合に有利となる。
【0033】
具体的に説明すると、本発明に係る歯科用バリアフィルム1の25℃、絶対湿度50%の条件での引張強度(初期粘度)は、0.3MPa~5MPaである。また、本発明に係る歯科用バリアフィルム1のASTM D3121-2006の規格に基づいて測定された接着強度は、0.3N~0.7Nである。
【0034】
説明すべきことは、本文において、誘導骨再生を例として本発明に係る歯科用バリアフィルム1の特徴を説明するが、本発明に係る歯科用バリアフィルム1は、他の人体の手術に用いられる。
【0035】
本発明に係る歯科用バリアフィルム1において、生分解性多孔質基層11は主に、操作に必要な特性(例えば機械強度、人体による吸収代謝など)を提供する、という役割を果たせる。生分解性多孔質基層11の材料は、生分解性高分子を含む、その分子量は、100,000g/mol~600,000g/molであり、150,000g/mol~350,000g/molであることが好ましい。生体適合性の点から、生分解性高分子は、ポリ乳酸(PLA)であることが好ましい。一つの実施形態において、生分解性多孔質基層11の材料の総重量を100wt%として、ポリ乳酸の含有量は、50wt%以上であり、100wt%であることが好ましい。
【0036】
また、機械強度の点から、生分解性多孔質基層11の厚みは、200μm~400μmであってもよい。特筆すべきことは、この厚みの範囲において、生分解性多孔質基層11の機械強度は、PLA/PCLの二層バリアフィルム構造の機械強度に相当する。一つの実施形態において、生分解性多孔質基層11の厚みは、200μm、210μm、220μm、230μm、240μm、250μm、260μm、270μm、280μm、290μm、300μm、310μm、320μm、330μm、340μm、350μm、360μm、370μm、380μm、390μm又は400μmである。
【0037】
生分解性多孔質基層11の内部の構造を示す
図3に併せて参考する。
図3に示すように、生分解性多孔質基層11は、静電紡糸で製造されると共に、複数条のポリ乳酸繊維111を含む。前記親水化処理を行った後に、複数条のポリ乳酸繊維111にはいずれも、親水性物質12が付いている。説明すべきことは、生分解性多孔質基層11の内部構造は、水分及び養分を通過できれば、特に限られない。
【0038】
[第二実施形態]
図4に示すように、本発明の第二実施形態は、第一実施形態の歯科用バリアフィルムを製造できる、歯科用バリアフィルムの製造方法を提供する。本発明の歯科用バリアフィルムの製造方法は、生分解性多孔質基層を提供する工程S100と、親水性物質を含む水溶液を用いて前記生分解性多孔質基層を処理することによって、前記親水性物質を前記生分解性多孔質基層に結合する工程S102とを、少なくとも含む。以下にて、
図1~3を参酌しながら、各工程の具体的な実施方法を説明する。
【0039】
工程S100において、静電紡糸で複数のポリ乳酸繊維111を提供すると共に、複数条のポリ乳酸繊維111で生分解性多孔質基層11を形成する。
【0040】
前記静電紡糸で用いられたエレクトロスピニング溶液は、ポリ乳酸及び溶媒を含んでもよい。その中、ポリ乳酸は、エレクトロスピニング溶液の総重量の1wt%~50wtを占め、溶媒は、エレクトロスピニング溶液の総重量の50wt%~99wtを占める。実際に応用する際に、溶媒は、アセトン、ブタノン、エチレングリコール、イソプロパノール、脱アセチル化キチン(DAC)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びジエチルエーテルからなる群から選択されてもよい。
【0041】
前記静電紡糸において、エレクトロスピニング溶液が電界の作用でノズルから吐出・硬化されて、コレクタ板に沈積したポリ乳酸繊維111を形成する。その過程において、ノズルの移動を制御することによって、ポリ乳酸繊維が所定の方向で緊密に積み重ねられたり、ねじれたり、織り交ぜられたりし、均一な厚さを有する生分解性多孔質基層11を形成する。
【0042】
工程S102において、親水性物質を含む水溶液を用いて前記生分解性多孔質基層11を処理する。親水性物質を含む水溶液は、親水性物質12及び水を含むことによって、前記親水性物質12を前記生分解性多孔質基層11に結合する。具体的に説明すると、親水性物質12は、生分解性多孔質基層11の外面のみに付着するだけでなく、生分解性多孔質基層11の中に浸透させる。それによって、ポリ乳酸繊維111にいずれも、親水性物質12が付いている。
【0043】
更に説明すると、親水性物質を含む水溶液の総重量を100wt%として、親水性物質12の含有量は、25wt%~40wt%であってもよい。親水性物質12は、ヒアルロン酸又はその誘導体、及び水溶性ビタミンからなる群から選択され、ヒアルロン酸であることが好ましい。実際に応用する際に、前記親水化処理は、生分解性多孔質基層に前記親水性物質を含む水溶液を30秒~1分に含浸させることを含むが、上述した例はあくまでも一つの実施形態に過ぎなく、本発明はこれに制限されるものではない。
【0044】
図2に示すように、工程S102を完了した後に、生分解性多孔質基層11を覆うための外被覆層13を更に形成してもよい。また、外被覆層13に親水性物質12が存在する。
【0045】
第一実施形態に記載された関連する技術内容は、本実施形態にも用いられるため、ここで重複に説明しない。同様に、本実施形態に記載された関連する技術内容も、第一の実施形態に用いられる。
【0046】
本発明に係るバリアフィルムと、市販の従来のバリアフィルムとの比較結果は、下表1に示す通りである。
【0047】
【表1】
表1における異なるボール番号は、異なる鋼球のサイズを示す。ボール番号が多いほど、粘度が高い。
【0048】
表1において、引張応力(乾燥)とは、可塑性医用膜/従来のバリアフィルムの、温度25℃、絶対湿度50%で測定された引張応力である。引張応力(湿)とは、可塑性医用膜又は従来のバリアフィルムを37℃の生理食塩水に30分浸した後の引張応力である。初期粘度(接着強度)は、ASTM D3121-2006の測定標準に基づいて測定される。
【0049】
[実施形態による有利な効果]
本発明の有利な効果として、本発明に係る歯科用バリアフィルム及びその製造方法は、「前記親水性物質は、生分解性多孔質基層に結合すると共に、ヒアルロン酸又はその誘導体、及び水溶性ビタミンからなる群から選択される」及び「前記歯科用バリアフィルムの外面に80°未満の水接触角を有する」といった技術特徴によって、本発明に係る歯科用バリアフィルムは、使用前(例えば、手術を行う前)の浸漬・濡れ時間を大幅に低減すると共に、十分に湿潤した歯科用バリアフィルムは、より優れた可塑性及び覆いフィット性を有する。
【0050】
更に説明すると、本発明に係る歯科用バリアフィルムは、五分内に吸水して可塑性を有する軟化状態に至って、異なる立体形状にフィットすることができる。また、本発明に係る歯科用バリアフィルムは、患部(骨欠損など)にしっかりと付着することができると共に、患部に十分な成長スペースを提供することで、患部の修復、再生、および統合を助けることができる。
【0051】
以上に開示された内容は、ただ本発明の好ましい実行可能な実施態様であり、本発明の請求の範囲はこれに制限されない。そのため、本発明の明細書及び図面内容を利用して成される全ての等価な技術変更は、いずれも本発明の請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1…歯科用バリアフィルム
100…外面
11…生分解性多孔質基層
111…ポリ乳酸繊維
12…親水性物質
13…外被覆層
S100、S102…製造工程
G…歯肉
B…骨粉
R…リッジ
F…バリアフィルム