(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】摩擦伝動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 15/52 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
F16H15/52 Z
(21)【出願番号】P 2022505856
(86)(22)【出願日】2021-02-10
(86)【国際出願番号】 JP2021005066
(87)【国際公開番号】W WO2021182001
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2020043419
(32)【優先日】2020-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】南雲 稔也
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特公昭39-006259(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軌道輪と、前記入力軌道輪の回転軸周りに配置され前記入力軌道輪に接触する遊星転動体と、前記遊星転動体と接触し出力軸と連結され
、前記入力軌道輪からの回転を変速して出力可能である出力軌道輪と、前記遊星転動体に接触する第1支持軌道輪および第2支持軌道輪と、を備えた摩擦伝動装置であって、
前記第1支持軌道輪および第2支持軌道輪は、それぞれ前記出力軌道輪に対して相対的に回転可能であり、
前記遊星転動体と前記各軌道輪との接触点における法線ベクトルの延長線により四角形が形成されるように構成されていることを特徴とする摩擦伝動装置。
【請求項2】
入力軌道輪と、前記入力軌道輪の回転軸周りに配置され前記入力軌道輪に接触する遊星転動体と、前記遊星転動体と接触し出力軸と連結され
、前記入力軌道輪からの回転を変速して出力可能である出力軌道輪と、前記遊星転動体に接触する第1支持軌道輪および第2支持軌道輪と、を備えた摩擦伝動装置であって、
前記第1支持軌道輪および第2支持軌道輪は、それぞれ前記出力軌道輪に対して相対的に回転可能であり、
前記遊星転動体は、軸部材により支持されることなく、前記入力軌道輪、前記出力軌道輪、前記第1支持軌道輪および前記第2支持軌道輪により支持されることを特徴とする摩擦伝動装置。
【請求項3】
前記第1支持軌道輪は、前記入力軌道輪と相対回転可能であることを特徴とする請求項1
または2に記載の摩擦伝動装置。
【請求項4】
入力軌道輪と、前記入力軌道輪の回転軸周りに配置され前記入力軌道輪に接触する遊星転動体と、前記遊星転動体と接触し出力軸と連結される出力軌道輪と、前記遊星転動体に接触する第1支持軌道輪および第2支持軌道輪と、を備えた摩擦伝動装置であって、
前記遊星転動体は、軸部材により支持されることなく、前記入力軌道輪、前記出力軌道輪、前記第1支持軌道輪および前記第2支持軌道輪により支持され、
前記入力軌道輪、前記出力軌道輪、前記第1支持軌道輪および前記第2支持軌道輪の相対位置を変更する相対位置変更機構を有
し、
前記相対位置変更機構として、前記入力軌道輪および前記第1支持軌道輪を一体的に軸方向に移動させる移動機構を有することを特徴とす
る摩擦伝動装置。
【請求項5】
入力軌道輪と、前記入力軌道輪の回転軸周りに配置され前記入力軌道輪に接触する遊星転動体と、前記遊星転動体と接触し出力軸と連結される出力軌道輪と、前記遊星転動体に接触する第1支持軌道輪および第2支持軌道輪と、を備えた摩擦伝動装置であって、
前記遊星転動体と前記各軌道輪との接触点における法線ベクトルの延長線により四角形が形成されるように構成されており、
前記入力軌道輪、前記出力軌道輪、前記第1支持軌道輪および前記第2支持軌道輪の相対位置を変更する相対位置変更機構を有し、
前記相対位置変更機構として、前記入力軌道輪および前記第1支持軌道輪を一体的に軸方向に移動させる移動機構を有することを特徴とす
る摩擦伝動装置。
【請求項6】
前記移動機構は、モータ軸の中空部内で進退する直動軸を有することを特徴とする請求項5に記載の摩擦伝動装置。
【請求項7】
前記出力軌道輪と前記出力軸の間の位置ずれを吸収するカップリングを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の摩擦伝動装置。
【請求項8】
前記各軌道輪は平坦面で、前記遊星転動体の前記各軌道輪と対向する面は曲面であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の摩擦伝動装置。
【請求項9】
前記遊星転動体の軸方向断面において、軌道輪との接触部が円弧であることを特徴とする請求項8に記載の摩擦伝動装置。
【請求項10】
前記第1支持軌道輪と前記第2支持軌道輪のいずれか一方の軌道輪は、径方向から見て前記入力軌道輪と重なる位置に配置され、
前記遊星転動体と前記入力軌道輪の接触点と、前記遊星転動体と前記一方の軌道輪の接触点とが軸方向にずれていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の摩擦伝動装置。
【請求項11】
入力軌道輪と、前記入力軌道輪の回転軸周りに配置され前記入力軌道輪に接触する遊星転動体と、前記遊星転動体と接触し出力軸と連結される出力軌道輪と、前記遊星転動体に接触する第1支持軌道輪および第2支持軌道輪と、を備えた摩擦伝動装置であって、
前記遊星転動体と前記各軌道輪との接触点における法線ベクトルの延長線により四角形が形成されるように構成されており、
前記遊星転動体は、中心部に凹部を有することを特徴とす
る摩擦伝動装置。
【請求項12】
入力軌道輪と、前記入力軌道輪の回転軸周りに配置され前記入力軌道輪に接触する遊星転動体と、前記遊星転動体と接触し出力軸と連結される出力軌道輪と、前記遊星転動体に接触する第1支持軌道輪および第2支持軌道輪と、を備えた摩擦伝動装置であって、
前記遊星転動体は、軸部材により支持されることなく、前記入力軌道輪、前記出力軌道輪、前記第1支持軌道輪および前記第2支持軌道輪により支持され、
前記遊星転動体は、中心部に凹部を有することを特徴とする摩擦伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IVT(Infinitely Variable Transmission)と呼ばれ、無限大の変速比が可能な無段変速機が知られている。例えば、特許文献1には、軸線周りに角度を付けて配置された複数の遊星アセンブリを有する変速機が記載されている。この変速機は、遊星アセンブリに接する回転不能な第1の牽引リングと、遊星アセンブリに接して動力を伝達する第2の牽引リングと、遊星アセンブリの軸心の一端に結合された第1のキャリア部材と、遊星アセンブリの軸心の他端に結合された第2のキャリア部材と、遊星アセンブリの傾斜角を調整するシフト制御機構とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
変速機は、ロボットや自走台車など多くのアプリケーションで使用されることが期待される。変速機が多くのアプリケーションで使用されるためには、その製造コストを削減することが望ましい。しかし、特許文献1に記載の変速機は、遊星アセンブリの自転を支持するために多数の部材が複雑に組み合わされているため、製造コストを削減することが難しい。
【0005】
本発明の目的は、このような課題に鑑みてなされたもので、製造コストを削減することが可能な摩擦伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の摩擦伝動装置は、入力軌道輪と、入力軌道輪の回転軸周りに配置され入力軌道輪に接触する遊星転動体と、遊星転動体と接触し出力軸と連結される出力軌道輪と、遊星転動体に接触する第1支持軌道輪および第2支持軌道輪と、を備えた摩擦伝動装置であって、遊星転動体と各軌道輪との接触点における法線ベクトルの延長線により四角形が形成されるように構成されている。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造コストを削減することが可能な摩擦伝動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る摩擦伝動装置の一例を概略的に示す正面図である。
【
図2】
図1の摩擦伝動装置のA-A線に沿った断面を示す断面図である。
【
図3】
図1の摩擦伝動装置のカップリングの周辺を示す側面図である。
【
図4】
図1の摩擦伝動装置の動作を説明する説明図である。
【
図5】
図1の遊星転動体の支持構成を説明する説明図である。
【
図6】第2実施形態に係る摩擦伝動装置の遊星転動体の周辺を示す断面図である。
【
図7】
図6の摩擦伝動装置の軌道輪と転動体との関係を示す模式図である。
【
図8】
図6の摩擦伝動装置の転動体の直径の誤差が入力軸の中心位置に与える影響を概念的に示す図である。
【
図9】
図6の摩擦伝動装置の転動体の数と入力軸の中心位置のずれ量との関係を示す図である。
【
図10】第1変形例の摩擦伝動装置を示す断面図である。
【
図11】第2変形例の摩擦伝動装置を示す断面図である。
【
図12】第3変形例の摩擦伝動装置を示す断面図である。
【
図13】第4変形例の摩擦伝動装置を示す断面図である。
【
図14】第5変形例の摩擦伝動装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0012】
[第1実施形態]
図1を参照して、本開示の第1実施形態に係る摩擦伝動装置100の構成を説明する。
図1は、本実施形態に係る摩擦伝動装置100の一例を概略的に示す正面図である。
図2は、摩擦伝動装置100を概略的に示す断面図である。この図は、
図1のA-A線に沿った断面を示している。
【0013】
摩擦伝動装置100は、入力軌道輪を回転させることにより遊星転動体に自転と公転とを生じさせ、その生じた回転成分を出力軌道輪と連結される出力軸から被駆動装置(不図示)に出力するように構成される。
【0014】
摩擦伝動装置100は、主に、伝達機構10と、相対位置変更機構60と、カップリング70とを含む。伝達機構10は、モータ50から入力された回転を変速してカップリング70に伝達する機構である。相対位置変更機構60は、伝達機構10の各軌道輪の相対位置を変更する機構である。カップリング70は、伝達機構10の出力軌道輪と出力軸の間の位置ずれを吸収する機構である。
【0015】
(伝達機構)
伝達機構10を説明する。伝達機構10は、入力軸12と、入力軌道輪14と、入力軸軸受18と、遊星転動体20と、第1支持軌道輪26と、第2支持軌道輪28と、出力軌道輪30と、出力軸32と、主軸受34と、オイルシール36と、第1、第2ケーシング40、42とを主に備える。以下、入力軸12の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。入力軌道輪14、第1支持軌道輪26、第2支持軌道輪28および出力軌道輪30を単に軌道輪ということがあり、遊星転動体20を単に転動体ということがある。
【0016】
入力軸12は、モータ50の回転が入力されると、中心軸線La周りに回転する。本実施形態の入力軸12は、軸方向に延びる円筒状の部材である。入力軸12の外周には入力軌道輪14が固定されており、これらは一体的に回転する。入力軸12の反入力側は入力軸軸受18の内輪に接続されている。入力軸軸受18の外輪は第1支持軌道輪26を支持する。入力軸12は、隙間を介して第1支持軌道輪26に環囲される。入力軸12と第1支持軌道輪26とは、相対的に回転可能に配置される。
【0017】
入力軸12の入力側の端部は、相対位置変更機構60に連結される。入力軸12は、相対位置変更機構60の駆動により軸方向に移動する。入力軸12の入力側の外周部は、モータ50の回転子52に環囲される。入力軸12は、回転子52によって軸方向に移動可能に支持される。入力軸12の外周面に設けられたスプライン溝12sと、回転子52の内周面に設けられたスプライン溝51sとは、隙間を介して噛み合っている。
【0018】
入力軌道輪14は、入力軸12と一体的に中心軸線Laを回転軸としてその周りに回転する。入力軌道輪14は、遊星転動体20と接触し、入力軌道輪14が回転するにつれて遊星転動体20に自転と公転とを生じさせる。入力軌道輪14は、入力軸12と別体に形成されてもよいが、この例では、入力軸12と一体的に形成されている。入力軌道輪14は、略円板状の部材で、反入力側に転動面14hを有する。転動面14hは、遊星転動体20が転動する面であり、遊星転動体20と実質的に点接触する。転動面14hは、軸方向および径方向に対して傾斜している。転動面14hは、反入力側に向かって縮径するテーパー面を含む。転動面14hは、凸面や凹面などの曲面であってもよいが、この例では平坦面である。
【0019】
入力軸軸受18は、入力軸12の反入力側の端部と第1支持軌道輪26との間に設けられる。軸受の種類に限定はないが、本実施形態の入力軸軸受18は、球状の転動体を有する転がり軸受である。入力軸軸受18は、入力軸12に取り付けられた内輪と、第1支持軌道輪26に固定された外輪とを有する。
【0020】
第1支持軌道輪26および第2支持軌道輪28は、遊星転動体20の姿勢および位置を一定の範囲に保持する。第1支持軌道輪26と、第2支持軌道輪28とは、遊星転動体20を挟んで離隔され、対向配置される。第1支持軌道輪26は、第2支持軌道輪28の反入力側であって、径方向内側に配置される。
【0021】
第1支持軌道輪26は、入力軸12を隙間を介して環囲するリング形状を有する。第1支持軌道輪26は、入力側に転動面26hを有する。転動面26hは、遊星転動体20が転動する面であり、遊星転動体20と実質的に点接触する。転動面26hは、軸方向および径方向に対して傾斜している。転動面26hは、入力側に向かって縮径するテーパー面を含む。転動面26hは、凸面や凹面などの曲面であってもよいが、この例では平坦面である。第1支持軌道輪26は、入力軸12および遊星転動体20に対して自由に回転可能であり、遊転軌道輪と称されることがある。
【0022】
第2支持軌道輪28は、入力軸12および遊星転動体20を環囲するリング形状を有する。第2支持軌道輪28は、反入力側に転動面28hを有する。転動面28hは、遊星転動体20が転動する面であり、遊星転動体20と実質的に点接触する。転動面28hは、軸方向および径方向に対して傾斜している。転動面28hは、入力側に向かって縮径するテーパー面を含む。転動面28hは、凸面や凹面などの曲面であってもよいが、この例では平坦面である。第2支持軌道輪28の転動面28hは、遊星転動体20を挟んで、第1支持軌道輪26の転動面26hと略対向する。
【0023】
第2支持軌道輪28は、第2ケーシング42の内周側に固定される。第2支持軌道輪28は、第2ケーシング42と別体に形成されてもよいが、この例では、第2ケーシング42と一体的に形成されている。
【0024】
出力軌道輪30は、遊星転動体20と接触し、遊星転動体20が回転するにつれて中心軸線La周りに回転する。出力軌道輪30は、カップリング70を介して出力軸32と連結されており、出力軌道輪30が回転するにつれてカップリング70および出力軸32が回転する。
【0025】
出力軌道輪30は、入力軸12および遊星転動体20を環囲するリング形状を有する。出力軌道輪30は、入力側に転動面30hを有する。転動面30hは、遊星転動体20が転動する面であり、遊星転動体20と実質的に点接触する。転動面30hは、軸方向および径方向に対して傾斜している。転動面30hは、反入力側に向かって縮径するテーパー面を含む。転動面30hは、凸面や凹面などの曲面であってもよいが、この例では平坦面である。出力軌道輪30の転動面30hは、遊星転動体20を挟んで、入力軌道輪14の転動面14hと略対向する。
【0026】
遊星転動体20は、周方向に所定の間隔で複数(例えば、6個)配置される。複数の遊星転動体20を所望の位置に保持するためにリテーナを備えてもよいが、本実施形態では、リテーナを備えていない。リテーナを有しない構成は、製造コスト、装置の大きさ、装置の質量等の点で有利である。なお、遊星転動体20の個数は特に限定されず、6個より少なくても多くてもよいが、6~12個が好ましい。
【0027】
以下、出力軌道輪30の転動面30h、入力軌道輪14の転動面14h、第1支持軌道輪26の転動面26hおよび第2支持軌道輪28の転動面28hを総称するときは単に「転動面」ということがある。
【0028】
遊星転動体20は、4つの転動面に接触することにより軸方向位置、径方向位置および姿勢が規制される。遊星転動体20の形状は、4つの転動面に接触することにより姿勢が決定され、4つの転動面に接触しながら転動可能である限り、どのような形状であってもよい。本実施形態の遊星転動体20は、短軸を中心として楕円または長円を回転させることにより得られる回転体(以下、「長球」という)である。また、本明細書では、遊星転動体20の短軸の中心を通り、自転軸Lbに直交する平面と遊星転動体20の外周面とが交わってできる円を「赤道」という。この例では、赤道は、自転軸Lbに直交する平面と遊星転動体20の外周面とが交わってできる大円である。
【0029】
遊星転動体20の自転軸Lbの中心軸線Laに対する傾斜は、4つの転動面の相対位置によって変化する。つまり、自転軸Lbは、中心軸線Laと平行な場合と、中心軸線Laに対して傾斜する場合とがある。
【0030】
遊星転動体20の自転軸Lbが中心軸線Laと平行な状態で、遊星転動体20の径方向寸法に対する軸方向寸法の比率Ra(=軸方向寸法/径方向寸法)を説明する。比率Raが大きいと、遊星転動体20が本来の自転軸Lbに直交する疑似自転軸を中心に回転する現象が発生する可能性がある。この現象を抑える観点から、比率Raは1以下が好ましく、0.8以下がより好ましく、0.6以下がさらに好ましい。比率Raは0.1以上にされてもよい。
【0031】
図3も参照して、カップリング70を説明する。
図3は、カップリング70の周辺を示す側面図である。この図は一部を破断して示している。出力軌道輪30と出力軸32との間にはカップリング70が設けられる。カップリング70は、出力軌道輪30と出力軸32の間の位置ずれを吸収する。カップリング70は、入力側と反入力側との芯ずれを吸収可能である限り、どのような構成であってもよい。
【0032】
本実施形態のカップリング70は、円板部72と、円板部72の入力側に配置された複数(例えば2個)の第1ローラ74と、円板部72の反入力側に配置された複数(例えば2個)の第2ローラ76とを有する。2つの第1ローラ74の中心軸は径方向に延びており、これらのローラは中心軸線Laを挟んで対称に配置されている。2つの第2ローラ76の中心軸は径方向に延びており、これらのローラは中心軸線La挟んで対称に配置されている。第1ローラ74の中心軸と第2ローラ76の中心軸とは互いに直交する。以下、第1ローラ74と、第2ローラ76とを総称するときは単に「ローラ」という。
【0033】
円板部72の入力側には、第1ローラ74を収容する第1凹部74dが設けられ、反入力側には、第2ローラ76を収容する第2凹部76dが設けられる。出力軌道輪30の反入力側には、第1凹部74dに対応する位置に、第1ローラ74を収容する軌道輪側凹部30dが設けられる。出力軸32の入力側には、第2凹部76dに対応する位置に、第2ローラ76を収容する出力軸側凹部32dが設けられる。以下、第1凹部74d、第2凹部76d、軌道輪側凹部30dおよび出力軸側凹部32dを総称するときは「ローラ凹部」という。
【0034】
図3に示すように、ローラ凹部の底部は、周方向の中央が最も深くなる傾斜面で構成されており、径方向に見た断面はV字状を呈する。各ローラの側面はV字状の傾斜面に接触している。ローラはローラ凹部に径方向の遊びをもって支持される。ローラ凹部は、ローラの回転を許容し、ローラの径方向の移動を隙間の範囲に制限している。ローラが隙間の範囲で径方向に移動することにより、径方向のミスアライメントを吸収できる。ローラ凹部の底部がローラの側面に沿って移動することにより、傾斜方向のミスアライメントを吸収できる。
【0035】
円板部72は、軸方向に撓むばねとして機能する。このため、円板部72をばねとして利用することにより、各軌道輪にかかる与圧を調整できる。また、カップリング70にトルクが作用すると、底部のV字状の傾斜の作用により出力軌道輪30に加わるアキシアル荷重が増加する。このため、カップリング70は、伝達トルクに応じて、各軌道輪と遊星転動体との間の接触荷重を増減できる。このように、カップリング70は、出力軌道輪30と出力軸32との位置ずれ(芯ずれ)を吸収しつつ、出力軌道輪30の回転を出力軸32に伝達する。
【0036】
出力軸32は、カップリング70を介して出力軌道輪30と連結されており、出力軌道輪30が回転するにつれて回転する。出力軸32は、出力フランジと称されることがある。本実施形態の出力軸32は、略円板状を有し、主軸受34を介して第1ケーシング40に回転可能に支持される。出力軸32の反入力側に被駆動装置が連結される。
【0037】
図2に示すように、主軸受34は、出力軸32と第1ケーシング40との間に設けられ、出力軸32を第1ケーシング40に対して回転可能に支持する。軸受の種類に限定はないが、本実施形態の主軸受34は、円筒形のコロを転動体とするクロスローラベアリングである。主軸受34の内輪は、出力軸32と一体に設けられ、主軸受34の外輪は、第1ケーシング40と一体に設けられている。
【0038】
図2に示すように、オイルシール36は、主軸受34の反入力側において出力軸32と第1ケーシング40との間に設けられる。オイルシール36は、主軸受34からの潤滑材の漏れ出しを抑制し、主軸受34への異物の侵入を低減する。
【0039】
図2に示すように、第1、第2ケーシング40、42は、中空の略円筒状の部材で、摩擦伝動装置100の外殻として機能する。第1、第2ケーシング40、42は、主に出力軸32を環囲する第1ケーシング40と、第1ケーシング40の入力側に連結され、主にカップリング70および伝達機構10を環囲する第2ケーシング42とを含む。第1ケーシング40は、第2ケーシング42にボルトB2によって連結される。第2ケーシング42の内周側には第2支持軌道輪28が設けられている。第2ケーシング42の外周側にはフランジ部42fが設けられている。第2ケーシング42は、フランジ部42fが後述するモータケーシング54にボルトB1で連結されることによって、モータ50と接続される。
【0040】
図2を参照して、モータ50を説明する。モータ50の種類に限定はないが、本実施形態のモータ50は、モータ軸51を有するインナーロータ型ブラシレスモータである。モータ50は、モータ軸51と、回転子52と、固定子53と、モータケーシング54と、第1カバー部56と、第2カバー部57と、一対のモータ軸受58とを主に含む。モータ軸51は、後述する直動軸66が進退するための中空部51cを有する中空軸である。モータ軸51は、軸方向に離れた配置された一対のモータ軸受58によって、第1カバー部56および第2カバー部57に支持される。回転子52は、モータ軸51の外周に一体的に形成された本体部52bと、本体部52bの外周に固定され、所定の磁極を有する円筒状のマグネット52mとを有する。
【0041】
固定子53は、マグネット52mを磁気的空隙を介して対向するステータコア53sと、ステータコア53sに設けられる電機子コイル53cとを有する。モータケーシング54は、ステータコア53sの外周に固定される円筒部材である。第1カバー部56は、モータケーシング54の反入力側を塞ぐ円板状の部材である。第2カバー部57は、モータケーシング54の入力側を塞ぐ円板状の部材である。第1カバー部56、モータケーシング54および第2カバー部57は、ボルトB1によって一体化されるとともに、フランジ部42fに連結される
【0042】
図2を参照して、相対位置変更機構60を説明する。上述したように、相対位置変更機構60は、入力軌道輪14、出力軌道輪30、第1支持軌道輪26および第2支持軌道輪28の相対位置を変更する機構である。相対位置変更機構60は、これら4つの軌道輪の1つ以上の軌道輪と残りの軌道輪との間の相対位置を変更するものであればよい。本実施形態の相対位置変更機構60は、入力軌道輪14および第1支持軌道輪26を一体的に軸方向に相対移動させる移動機構62を有する。
【0043】
移動機構62は、モータ軸51の中空部51c内で進退する直動軸66と、直動軸66に軸方向の駆動力を発生させるアクチュエータ本体64とを有する直動アクチュエータである。直動軸66は、軸方向に延びる円形の棒形状を有する。アクチュエータ本体64の一部は、モータ軸51の中空部51cに収納される。移動機構62は、直動軸66を進退駆動可能なものであれば構成に限定はない。例えば、直動軸66は、ステッピングモータにより駆動されてもよいし、ボイスコイルモータなどにより非回転で軸方向に駆動されてもよい。本実施形態の移動機構62は、ボールねじ機構により回転運動を直線運動に変換し、直動軸66を軸方向に駆動する。
【0044】
アクチュエータ本体64には径方向で外側に延出する延出部62fが設けられる。延出部62fがボルトB3で第2カバー部57に固定されることにより、アクチュエータ本体64は、モータ50に連結される。
【0045】
入力軸12の入力側の端部には、反入力側に凹んだ連結孔12hが設けられる。直動軸66の先端は連結孔12hに収容される。直動軸66と連結孔12hの間には連結軸受68が設けられる。連結軸受68の外輪は連結孔12hに固定され、連結軸受68の内輪は直動軸66の先端に固定される。この構成により、入力軸12と直動軸66とは互いに回転可能に連結される。なお、直動軸66が非回転で移動する場合は、直動軸66と入力軸12とは、連結軸受68を介さずに連結されてもよい。
【0046】
直動軸66が軸方向に移動すると入力軸12も軸方向に移動し、これにつれて入力軌道輪14および第1支持軌道輪26が入力側または反入力側に移動し、これらと出力軌道輪30および第2支持軌道輪28との相対関係が変更される。これらの相対関係が変更されることにより、伝達機構10の変速比Rsが変更される。このように、本実施形態においては、入力軸12を軸方向に移動させるという簡易な構成で変速比Rsを変更できる。また、直動軸66をモータ軸51の中空部51cに配置させているため、装置の小型化が可能となる。
【0047】
図4を参照して、伝達機構10の動作を説明する。
図4は、伝達機構10の動作を説明する説明図である。この図では、各転動面を曲面状に描いているが、各転動面は、遊星転動体20との接触領域において平坦である。入力軌道輪14が回転すると、遊星転動体20が自転軸Lb周りに自転しながら公転軸周りに公転する。この例では、遊星転動体20の公転軸は中心軸線Laと一致しているため、以下では中心軸線Laを公転軸として説明する。
【0048】
遊星転動体20と、入力軌道輪14、第1支持軌道輪26、第2支持軌道輪28および出力軌道輪30との接触点を、入力接触点14c、第1支持接触点26c、第2支持接触点28cおよび出力接触点30cとする。
図4に示すように、接触点14c、26c、28c、30cの自転半径を、Rbg、Rbh、Rbm、Rbnとし、接触点14c、26c、28c、30cの公転半径を、Rg、Rh、Rm、Rnとする。
【0049】
第1支持軌道輪26が自由回転し、第2支持軌道輪28が非回転で静止している場合、入力軌道輪14の回転速度ω1に対する出力軌道輪30の回転速度ω2の比(以下、「変速比Rs」という)は、下記の数式1によって示される。
【数1】
【0050】
図4の状態では、遊星転動体20は、自転軸Lbの入力側が中心軸線Laに近づく姿勢を有する。相対位置変更機構60により入力軌道輪14および第1支持軌道輪26の位置が入力側に変更されると、遊星転動体20の姿勢は、自転軸Lbの反入力側が中心軸線Laに近づくように変更される。この結果、各接触点の自転半径および公転半径が変更され、変速比Rsも変更される。このように、各軌道輪の相対位置を変更して遊星転動体20の姿勢を変更することによって伝達機構10の変速比Rsを変更できる。逆にいうと、遊星転動体20の姿勢を一定に支持することにより、変速比Rsは一定に保たれる。
【0051】
遊星転動体20の姿勢の変動を抑制するために、一例として、特許文献1に記載の変速機のように、自転軸Lbに沿って遊星転動体20に軸部材を設け、その軸部材を軸受で支持する構成を備えてもよい。この場合、遊星転動体20は、軸部材により支持される。本実施形態では、遊星転動体20は、軸部材により支持されることなく、入力軌道輪14、出力軌道輪30、第1支持軌道輪26および第2支持軌道輪28により支持される。
【0052】
図5を参照して、各軌道輪により遊星転動体20を支持する構成を説明する。
図5は、遊星転動体20が各軌道輪により支持される構成を説明する説明図である。この図は、中心軸線Laおよび自転軸Lbを含む平面における各ベクトルの延長線を示している。
図5に示すように、本実施形態では、遊星転動体と各軌道輪との接触点における法線ベクトルの延長線により四角形が形成される。遊星転動体20の形状によっては、延長線による四角形が形成されず、遊星転動体20の姿勢が不安定になる。
【0053】
図5に示すように、入力接触点14cにおける法線ベクトル14vと、第1支持接触点26cにおける法線ベクトル26vと、第2支持接触点28cにおける法線ベクトル28vと、出力接触点30cにおける法線ベクトル30vについて、これらの法線ベクトルの延長線14m、26m、28m、30mは互いに交差して四角形20sを形成する。この構成により、遊星転動体20の姿勢は一義的に定まり、遊星転動体20の姿勢は軸部材により支持されることなく維持される。なお、この四角形20sが凸四角形(内角が180度以上の角部を有さない四角形)であれば、姿勢の安定性がより向上する。
【0054】
遊星転動体20の形状によっては、四角形20sの面積が過小になることがある。四角形20sの面積が小さすぎると、遊星転動体20の姿勢が不安定化する可能性がある。姿勢を安定させる観点から、四角形20sの面積は、遊星転動体20の断面積の4%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。四角形20sの面積は、遊星転動体20の断面積の15%以上にされてもよい。
【0055】
遊星転動体20の形状によっては、四角形20sの対向する辺の法線ベクトルの向きが同じになることがある。四角形20sの対向する辺の法線ベクトルの向きが同じ場合、遊星転動体20の姿勢が不安定化する可能性がある。そこで、本実施形態では、四角形の対向する辺の法線ベクトルが反対向きになるように構成される。具体的には、法線ベクトル14vと法線ベクトル30vとは反対向きであり、法線ベクトル26vと法線ベクトル28vとは反対向きである。この場合、各軌道輪によって遊星転動体20の位置と向きが拘束されるため、遊星転動体20の姿勢はさらに安定する。また、四角形20sの隣接する二辺の法線ベクトルの両方が角部に向かうか、または角部から離れる方向を向いている場合、姿勢はさらに安定する。
【0056】
各軌道輪および遊星転動体20の接触面が共に平坦面だと、接触面積が増えて機械的な損失が増え、この接触面が共に曲面だと製造の手間が増える。このため、本実施形態では、入力接触点14c、第1支持接触点26c、第2支持接触点28cおよび出力接触点30cの接触面に関し、各軌道輪は平坦面であり、遊星転動体20の各軌道輪と対向する面は曲面である。この場合、機械的な損失の増加を抑えることができ、部材の製造が容易になる。この遊星転動体20の曲面は限定されないが、この例では、この曲面はインボリュート曲線の輪郭を有する。
【0057】
以上のように構成された摩擦伝動装置100の動作を説明する。モータ軸51から入力軸12に回転動力が伝達されると、入力軌道輪14が中心軸線La周りに回転する。入力軌道輪14が回転することにより遊星転動体20に自転と公転とを生じさせる。遊星転動体20の回転は出力軌道輪30に伝達され、出力軌道輪30は上述の変速比Rsにより回転する。出力軌道輪30の回転は、カップリング70を介して出力軸32に出力される。相対位置変更機構60により入力軌道輪14および第1支持軌道輪26の位置が変更されると、変速比Rsが変更される。
【0058】
摩擦伝動装置100の特徴を説明する。摩擦伝動装置100では、遊星転動体20と各軌道輪との接触点における法線ベクトルの延長線により四角形が形成されるように構成されているため、延長線による四角形が形成されない場合に比べて、遊星転動体20の姿勢が安定する。遊星転動体20の姿勢を維持するための構成が簡単であるため、製造コストを削減できる。
【0059】
摩擦伝動装置100では、遊星転動体20は、軸部材により支持されることなく、入力軌道輪14、出力軌道輪30、第1支持軌道輪26および第2支持軌道輪28により支持されるため、軸部材とその周辺部材の製造コストを削減できる。
【0060】
[第2実施形態]
図6~
図9を参照して本開示の第2実施形態に係る摩擦伝動装置100を説明する。第2実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。本実施形態の摩擦伝動装置100は、第1実施形態に対して、転動体の形状と、転動体と各軌道輪との接触部分の形状が異なる点で相違し、他の構成は同様である。したがって、これらの相違点を重点的に説明する。
【0061】
図6は、実施形態の摩擦伝動装置100の遊星転動体20の周辺を示す断面図である。第1実施形態の説明では、遊星転動体20の曲面がインボリュート曲線の輪郭を有する例を示したが、本実施形態では、遊星転動体20の軸方向断面において、軌道輪との接触部が円弧である。この例では、遊星転動体20の軸方向断面において、各軌道輪14、26、28、軌道輪30との接触部の曲面が円弧曲線の輪郭を有する。この場合、遊星転動体20の軌道面の輪郭が円弧になっているため、転動体の加工、加工後の輪郭の測定およびそれらの管理が容易になり、低コスト化や品質安定化の点で有利である。
【0062】
図6を参照して、転動体の接触点の位置を説明する。
図6の破線で示すように、遊星転動体20における内側の軌道輪との接触点と、外側の軌道輪との接触点の位置が重なっていると、そこに応力が集中して疲労が蓄積し、遊星転動体20の寿命が短くなる可能性がある。そこで、本実施形態では、径方向から見て重なり合う位置に配置される内側の軌道輪および外側の軌道輪の遊星転動体20との各接触点は、軸方向にずれている。
【0063】
具体的には、
図6に示すように、入力軌道輪14と第2支持軌道輪28は径方向から見て重なる位置に配置されており、遊星転動体20と入力軌道輪14の接触点14cと、遊星転動体20と第2支持軌道輪28の接触点28cとは軸方向にずれている。例えば、この構成を実現するために、入力軌道輪14の転動面14h(
図6で実線で示す)の接触角θ1が、第2支持軌道輪28の転動面28hの接触角θ2と異なる構成としてもよい。
【0064】
また、出力軌道輪30と第1支持軌道輪26は径方向から見て重なる位置に配置されており、遊星転動体20と出力軌道輪30の接触点30cと、遊星転動体20と第1支持軌道輪26の接触点26cとは軸方向にずれている。例えば、この構成を実現するために、第1支持軌道輪26の転動面26h(
図6で実線で示す)の接触角θ3が、出力軌道輪30の転動面30hの接触角θ4と異なる構成としてもよい。
【0065】
このように、内輪側と外輪側の軌道面が異なる接触角を持ち、内輪側の軌道輪の接触点と、外輪側の軌道輪の接触点とを軸方向にずらすことにより、転動体の応力を分散して疲労の蓄積を減らし、寿命を延長できる。
【0066】
図6を参照して、転動体の凹部を説明する。転動体の形状や寸法は、製造ばらつきを有する。遊星転動体の寸法ばらつきが大きく、遊星転動体の剛性が高い場合、接触部の面圧が部分的に過大になり寿命が短くなることが考えられる。そこで、本実施形態の遊星転動体20は、中心部に凹部22を有する。凹部22は、有底穴であってもよいが、この例の凹部22は貫通孔である。中心部に凹部22を有することにより、軌道面に作用する接触荷重に応じて遊星転動体20を撓ませることができるので、転動体の寸法ばらつきの影響が抑制され、寿命を延長できる。
【0067】
図7、
図8、
図9を参照して、転動体の直径のばらつきが入力軸12の中心位置のずれに与える影響を説明する。
図7は、軌道輪と転動体との関係を示す模式図である。この図は、理解を容易にするため、軌道輪と転動体とを2次元で表している。この図では、径方向外側の軌道輪を外輪と、径方向内側の軌道輪を内輪として円で示している。全ての転動体(転動体1~6)は、外輪および内輪と接触している。外輪の直径をD1で示し、入力軸12の中心位置をP0で示す。
【0068】
図8は、転動体の直径の誤差が入力軸12の中心位置に与える影響を概念的に示す図である。この図では、転動体1と外輪の接触点をP1で示し、転動体1の反対側にある転動体4と外輪の接触点をP4で示し、転動体1~6が全て同径の場合の入力軸12の中心位置をP0で示している。
図8に示すように、転動体1の直径が他の転動体2~6よりもd1だけ大きい場合、入力軸12の中心位置はP0dで示すようにP0からずれる。つまり、入力軸12の中心位置のずれ量は
図8の幾何学的関係により計算で求めることができる。
【0069】
図9は、転動体の数と入力軸12の中心位置のずれ量の関係を示す図である。この図は、
図8の幾何学的関係を用いて、転動体の数から入力軸12の中心位置のずれ量を算出した結果を示す。この図では、横軸は、転動体の数を示し、縦軸は、入力軸12の中心位置のずれ量を所定の単位量で除した相対値で示す。
図9の検討から、転動体の数が奇数である場合、転動体の数が偶数である場合よりも転動体の直径のばらつきによる入力軸12の中心位置のずれ量が小さいことが判った。この結果に基づき、本実施形態は、遊星転動体20を奇数個(例えば、7個)有する構成としており、転動体の直径のばらつきによる影響を低減している。
【0070】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用と効果を奏する。加えて、本実施形態は、遊星転動体の接触部が円弧であるため製造が容易である。また、本実施形態は、内外の接触点が軸方向にずれているため転動体の応力を分散できる。また、本実施形態は、中心部に凹部を有するため転動体の寸法ばらつきの影響を抑制できる。また、本実施形態は、転動体を奇数個有するため転動体の直径のばらつきの影響を抑制できる。
【0071】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0072】
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0073】
[第1変形例]
図10は、第1変形例に係る摩擦伝動装置200を示す断面図であり、
図2に対応する。本変形例は、主に、遊星転動体20と、各軌道輪の形状が異なる点で実施形態と相違し、他の構成は同様である。したがって、相違する構成について説明する。本変形例の遊星転動体20は、角Rを有する矩形を回転させることにより得られる回転体である。遊星転動体20は、角Rが回転することにより形成される曲面部20hを有する。転動面14h、26h、28h、30hは、曲面部20hに接する。摩擦伝動装置200は、実施形態と同様に動作する。
【0074】
[第2変形例]
図11は、第2変形例の摩擦伝動装置300を示す断面図であり、
図2に対応する。本変形例は、主に、遊星転動体20と、各軌道輪の形状が異なる点で実施形態と相違し、他の構成は同様である。したがって、相違する構成について説明する。本変形例の遊星転動体20は、三角形の頂点側の2辺の交点近傍に曲線部を有する図形を、他の1辺を中心に回転させることにより得られる回転体である。遊星転動体20は、略菱形の断面を有する。遊星転動体20は、この曲線部が回転することにより形成される曲面部20hを有する。各軌道輪は、遊星転動体20の曲面部20hと接触する形状を有する。転動面14h、26h、28h、30hは、曲面部20hに接する。摩擦伝動装置300は、実施形態と同様に動作し、同様の特徴を有する。
【0075】
[第3変形例]
図12は、第3変形例の摩擦伝動装置400を示す断面図であり、
図2に対応する。本変形例は、主に、遊星転動体20と、各軌道輪の形状が異なる点で実施形態と相違し、他の構成は同様である。したがって、相違する構成について説明する。本変形例の遊星転動体20は、半円と、この半円の円弧の中央から半円の弦とは反対側に突出する5角形とからなり、この5角形の頂点側の2辺に曲線部を有する図形を、この半円の弦を中心に回転させることにより得られる回転体である。遊星転動体20は、赤道が凸型に突出して周状凸部20cを有する。遊星転動体20は、5角形の曲線部が回転することにより形成される曲面部20hを有する。転動面14h、26hは、半円の円弧に対応する領域に接し、転動面28h、30hは、曲面部20hに接する。摩擦伝動装置400は、実施形態と同様に動作し、同様の特徴を有する。
【0076】
[第4変形例]
図13は、第4変形例の摩擦伝動装置500を示す断面図であり、
図2に対応する。本変形例は、主に、遊星転動体20と、各軌道輪と、出力軌道輪30と、円板部72と、出力軸32の形状が異なる点で実施形態と相違し、他の構成は同様である。したがって、相違する構成について説明する。本変形例の遊星転動体20は、半円の円弧の中央から半円の弦に向かって凹み、その凹みに曲線部を有する図形を、この半円の弦を中心に回転させることにより得られる回転体である。遊星転動体20は、球体の赤道が周状に凹んだ周状凹部20dを有し、周状凹部20dには曲面部20hが形成される。転動面14h、26hは、遊星転動体20の半円の円弧に対応する領域に接し、転動面28h、30hは、曲面部20hに接する。
【0077】
第1ローラ74および第1凹部74dは、円板部72の反入力側に設けられ、第2ローラ76および第2凹部76dは、円板部72の入力側に設けられる。出力軌道輪30は、円板部72の反入力側に隙間を介して配置される円盤状部30bと、円盤状部30bの外周から入力側に延出する筒状延出部30eとを有する。筒状延出部30eの入力側の端部に転動面30hが設けられ、円盤状部30bの入力側に軌道輪側凹部30dが設けられる。
【0078】
出力軸32は、出力軸本体部32bと、出力軸本体部32bの入力側の端面から入力側に延出する管状延出部32eと、管状延出部32eの入力側の端部から径方向に張出すフランジ部32fとを有する。フランジ部32fは、円板部72の入力側に隙間を介して配置されるディスク形状を有する。フランジ部32fの反入力側に出力軸側凹部32dが設けられる。摩擦伝動装置500は、実施形態と同様に動作し、同様の特徴を有する。
【0079】
[第5変形例]
図14は、第5変形例の摩擦伝動装置600を示す断面図であり、
図13に対応する。本変形例は、主に、遊星転動体20と、各軌道輪の形状が異なる点で第4変形例と相違し、他の構成は同様である。したがって、相違する構成について説明する。本変形例の遊星転動体20は、V字状に凹んだ一辺を有する矩形を、その凹んだ辺の反対側の辺を中心に回転させることにより得られる回転体である。遊星転動体20は、赤道が周状に凹んだ周状凹部20dを有し、周状凹部20dには曲面部20hが形成される。転動面14h、26h、28h、30hは、曲面部20hに接する。摩擦伝動装置600は、実施形態と同様に動作し、同様の特徴を有する。
【0080】
[その他の変形例]
実施形態の説明では、2つの支持軌道輪26、28を有する例を示したが、本発明はこれに限定されず、3つ以上の支持軌道輪が設けられてもよい。
【0081】
実施形態の説明では、第1支持軌道輪26が自由に回転し、第2支持軌道輪28が静止する例を示したが、本発明はこれに限定されない。第1支持軌道輪26が静止し、第2支持軌道輪28が自由に回転してもよい。
【0082】
実施形態の説明では、遊星転動体20の自転軸に対して、入力軌道輪14が径方向内側に配置され、出力軌道輪30が径方向外側に配置されていた。しかし、これに限定されるものではなく、入力軌道輪14が外側で、出力軌道輪30が内側に配置されてもよいし、両方が内側に配置されたり、両方が外側に配置されたりしてもよい。
【0083】
上述の各変形例は実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0084】
上述した実施形態の構成要素と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、摩擦伝動装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0086】
10 伝達機構、 12 入力軸、 14 入力軌道輪、 18 入力軸軸受、 20 遊星転動体、 26 第1支持軌道輪、 28 第2支持軌道輪、 30 出力軌道輪、 32 出力軸、 34 主軸受、 40 第1ケーシング、 42 第2ケーシング、 50 モータ、 60 相対位置変更機構、 62 移動機構、 66 直動軸、 70 カップリング、 100 摩擦伝動装置。