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  • 特許-現像ロール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】現像ロール
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/08 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
G03G15/08 235
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022533693
(86)(22)【出願日】2021-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2021014307
(87)【国際公開番号】W WO2022004085
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2020114031
(32)【優先日】2020-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(74)【代理人】
【識別番号】100125335
【弁理士】
【氏名又は名称】矢代 仁
(72)【発明者】
【氏名】大浦 孝祐
(72)【発明者】
【氏名】池田 篤
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 憲司
【審査官】小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-344856(JP,A)
【文献】特開2001-356586(JP,A)
【文献】特開2018-180161(JP,A)
【文献】特開2021-89369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/08
G03G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真方式を利用する画像形成装置で使用される現像ロールであって、
金属製の芯材と、
前記芯材の周囲に配置されたゴム製の弾性層と、
前記弾性層の周囲に配置された表層とを備え、
前記表層の表面性状のアスペクト比Strが0.55以上である
ことを特徴とする現像ロール。
【請求項2】
前記表層の厚さが20μm以上、40μm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の現像ロール。
【請求項3】
前記弾性層の周方向での十点平均粗さRzが3μm以上、6μm以下である
ことを特徴とする請求項2に記載の現像ロール。
【請求項4】
前記表層の表面性状のアスペクト比Strが0.77以上であり、
前記表層の軸方向での十点平均粗さRzが7.6μm以上、10.4μm以下であり、
前記表層の周方向での十点平均粗さRzが7.5μm以上、9.7μm以下である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の現像ロール。
【請求項5】
前記表層の軸方向での表面の粗さ曲線要素の平均長さRSmが88μm以上、118μ
m以下であり、
前記表層の周方向での表面の粗さ曲線要素の平均長さRSmが74μm以上、103μ
m以下である
ことを特徴とする請求項4に記載の現像ロール。
【請求項6】
前記表層がシリコーンゴムから形成され、前記表層にはシリコーンゴム粒子が分散されている
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の現像ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を利用する画像形成装置における現像ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を利用する画像形成装置には、感光体ドラムに現像剤すなわちトナーを供給する現像装置が設けられている。現像装置は、トナー容器と、現像ロールを有する。現像ロールの外周面に付着したトナーは、現像ロールの回転に伴って、感光体ドラムに供給される。感光体ドラムには静電潜像が形成されており、静電潜像にトナー粒子が現像ロールから転移することによって、トナー顕像が生成される(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-372855号公報
【発明の概要】
【0004】
画像形成装置で印刷される画像の品質は、現像ロールによるトナーの搬送状態に依存する。印刷される画像のムラは少ないことが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、画像のムラを低減することができる現像ロールを提供する。
【0006】
本発明のある態様に係る現像ロールは、電子写真方式を利用する画像形成装置で使用される現像ロールであって、金属製の芯材と、前記芯材の周囲に配置されたゴム製の弾性層と、前記弾性層の周囲に配置された表層とを備える。前記表層の表面性状のアスペクト比Strが0.55以上である。
【0007】
この態様においては、表層の表面の粗さが方向にあまり依存しないため、表層の周方向の微細な粗さ変化に起因して画像に周期的に発生する微細なムラを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る現像ロールの使用状態を示す図である。
図2】実施形態に係る現像ロールの断面図である。
図3】実施形態に係る現像ロールの製造の一工程を示す模式図である。
図4】実施形態に係る現像ロールの拡大断面図である。
図5】現像ロールの複数のサンプルの表層の指標の測定結果と、これらのサンプルを用いた画像品質試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る実施形態を説明する。図面の縮尺は必ずしも正確ではなく、一部の特徴は誇張または省略されることもある。
【0010】
図1に示すように、電子写真方式を利用する画像形成装置は、感光体ドラム10と現像装置11を有する。感光体ドラム10は矢印の方向に回転する。現像装置11は、現像剤であるトナー粒子12を感光体ドラム10に供給する。感光体ドラム10の表面には、潜像形成装置(図示せず)によって静電潜像が形成されており、静電潜像にトナー粒子12が現像装置11から転移することによって、トナー粒子12によるトナー顕像が感光体ドラム10の外周面に生成される。
【0011】
現像装置11は、トナー粒子の集合14を貯蔵するトナー容器13、トナー容器13内に全部が配置された弾性ロール15、トナー容器13内に一部が配置された現像ロール20、およびトナー容器13に支持されたドクターブレード16(規制ブレード)を有する。弾性ロール15は現像ロール20に向けて押圧されており、現像ロール20は感光体ドラム10に向けて押圧されている。弾性ロール15と現像ロール20は、それぞれ矢印で示す方向に回転させられ、トナー容器13内のほぼ一定量のトナー粒子が現像ロール20に付着する。したがって、現像ロール20の外周面にトナー粒子の薄い層が形成される。現像ロール20の回転に伴って、現像ロール20に付着したトナー粒子は、感光体ドラム10に向けて搬送される。トナー容器13のトナー粒子の出口に配置されたドクターブレード16は、現像ロール20の外周面に押圧されており、現像ロール20に付着してトナー容器13から搬送されるトナー粒子の量を規制する。このように、現像ロール20は、感光体ドラム10、弾性ロール15、ドクターブレード16の各々に、ある程度の力で接触させられている。
【0012】
図示しないが、現像装置11には、トナー容器13内のトナー粒子の集合14を攪拌する部材、トナー容器13内のトナー粒子を搬送するスクリューなどを設けてもよい。
【0013】
図2に示すように、現像ロール20は、金属製の円柱形の芯材21と、芯材21の周囲に配置されたゴム製の均一な厚さの弾性層22と、弾性層22の周囲に配置されたゴム製の均一な厚さの表層23を備える。芯材21の直径は数mmであり、弾性層22の厚さは1~3mmであり、表層23の厚さは数μm~数十μmである。
【0014】
弾性層22と表層23の両方はゴムから形成されている。実施形態では、弾性層22と表層23の両方はシリコーンゴムから形成されている。但し、弾性層22は現像ロール20の弾性を確保するために設けられ、表層23は現像ロール20の表面の耐摩耗性を向上するために設けられている。したがって、表層23の材料の成分は、弾性層22の材料の成分と異なる。
【0015】
出願人は、現像ロール20の複数のサンプルを下記のようにして製造した。
【0016】
まず、外径が10mmの鉄製のシャフトを芯材21として準備した。
【0017】
芯材21の周囲に導電性シリコーンゴムを被覆して、弾性層22を形成した。導電性シリコーンゴムの体積抵抗率は10-6Ω・cmであり、デュロメータ(「JIS K 6253」および「ISO 7619」に準拠した「タイプA」)を用いて測定した導電性シリコーンゴムの硬度は40であった。
【0018】
次に、図3に示すように、弾性層22を円筒状研磨盤の砥石車30で研磨して、外径を16mmにした。したがって、弾性層22の厚さは3mmであった。研磨を行う主目的は、現像ロール20の外径を軸線方向において均一にするとともに真円度を改善し、現像ロール20の感光体ドラム10への接触幅、現像ロール20のドクターブレード16への接触幅を現像ロール20の軸線方向において均一にするためである。
【0019】
一方、表層23の材料であるコーティング液を作成した。まず、反応性シリコーンオイル、イソシアネート化合物、そのイソシアヌレート変性体およびこれらの各成分を溶解し得る希釈溶剤を反応容器内で混合した。次に、混合物を放置し、成分のプレポリマー化反応を行った。
【0020】
次いで、プレポリマー化反応で得られた溶液(固形分濃度50%)に、バインダーとしてイソシアネート化合物、そのイソシアヌレート変性体およびシリコーンゴム粒子を混合して、表層23の材料であるコーティング液(固形分濃度34%)を完成した。
【0021】
そして、コーティング液をビーズミルで高速で攪拌して、固形成分を分散させ、さらにコーティング液をスターラで1時間攪拌した。
【0022】
一方、弾性層22の周囲に、プライマーをスプレーでコートした。プライマーは、信越化学工業株式会社(日本国東京)で製造された「KBP-40」であった。
【0023】
次に、コーティング液を弾性層22の周囲にスプレーでコートして、160℃で40分間の加熱処理で乾燥させることで、表層23を形成した。
【0024】
図4は、実施形態に係る現像ロール20の拡大断面図である。表層23は、接着剤層であるプライマー層24を介して弾性層22に固着されている。表層23の内部には、シリコーンゴム粒子25が分散している。
【0025】
図5に示すように、出願人は、弾性層22の表面粗さ(JIS B 0601:1994に準拠する十点平均粗さ(ten point height of irregularities))R、表層23の厚さ、表層23の材料成分を調整し、表層23の性質が異なる複数のサンプルを製造した。図5の弾性層の周方向での十点平均粗さRは、上記の研磨の後に、弾性層22の周方向に沿って測定された値であり、研磨のムラを反映する。
【0026】
図4から明らかなように、弾性層22の粗さが大きければ、その外側の表層23の粗さも大きいといえる。但し、表層23の厚さが大きければ、表層23の粗さへの弾性層22の粗さの影響が緩和される。
【0027】
出願人は、現像ロール20の複数のサンプルについて、弾性層22の周方向での十点平均粗さR、表層23の表面性状のアスペクト比Str、表層23の軸方向での十点平均粗さR、表層23の軸方向での表面の粗さ曲線要素の平均長さ(mean length of a roughness curve element)RSm、表層23の周方向でのR、表層23の周方向でのRSmを測定した。測定結果を図5に示す。
【0028】
弾性層22と表層23の十点平均粗さRは、接触式の表面粗さ測定機を用いて測定した。測定器は、株式会社小坂研究所(日本国東京)製サーフコーダ「SE500」であった。SE500の触針の半径は2μm、触針の先端角度は60度、接触力は0.75mNであった。測定のカットオフ値λcは0.8mmであり、粗さの測定長さ(基準長さ)は4mmであり、触針の送り速度は0.5mm/secであった。測定箇所は、サンプルの長手方向中央部であった。
【0029】
StrとRSmの測定のため、各サンプルの長手方向中央部の表層23の表面を非接触式のレーザー顕微鏡を用いて撮影した。使用したレーザー顕微鏡は、株式会社キーエンス(日本国東京)製の「VK-X250」であった。倍率は400倍であり、対物レンズの倍率は20倍であった。
【0030】
次に、株式会社キーエンス製のマルチファイル解析アプリケーション「VK-H1XM」のVersion1.3.0.116で、撮影で得られた幾何学データの2次曲面補正を行った。2次曲面補正は、撮影で得られた幾何学データから、円柱状の表面における円柱面に相当するデータ成分を除去する処理である。換言すれば、撮影で得られた円柱表面の幾何学データを、仮想的な平面に対する幾何学データに変換する処理である。
【0031】
さらに、同じアプリケーションで、2次曲面補正で得られたデータに基づいて、撮影された視野において、表面性状のアスペクト比Strを計算した。
【0032】
また、同じアプリケーションで、撮影された視野において、軸方向と周方向のRSm値を計算した。カットオフ値λsの設定は「なし」であり、カットオフ値λcの設定は「なし」であった。
【0033】
表面性状のアスペクト比(texture aspect ratio of the surface)Strは、ISO 25178に規定されており、0~1の値である。Strが0に近いことは、表面の粗さに方向性がある(例えば、表面に平行に延びる複数の溝がある)ことを意味する。Strが1に近いことは、表面の粗さが方向に依存しないことを意味する。
【0034】
一方、十点平均粗さRは表面の凸の高さを表し、粗さ曲線要素の平均長さRSmは表面の凸のピッチを表す。
【0035】
出願人は、実際にこれらのサンプルをプリンターに装着して、紙のシートに画像を印刷し、画像の品質を調べる試験を行った。プリンターは、ブラザー工業株式会社(日本国愛知)製の「HL-L8360CDW」であり、紙のシートの一面全体に一様な濃度のハーフトーン画像を印刷した。
【0036】
画像品質の判定は、目視によって次の通りに行った。周期的な微細な濃淡ムラが大きい場合には、画像品質が悪いと判定した。周期的な微細な濃淡ムラが小さい場合には、画像品質が良いと判定した。周期的な微細な濃淡ムラが非常に小さい場合には、画像品質が非常に良いと判定した。
【0037】
周期的な微細な濃淡ムラは、表層23の周方向の微細な粗さ変化に起因すると考えられる。表層23すなわち現像ロール20の周方向での粗さ変化が大きい場合には、現像ロール20から感光体ドラム10に供給されるトナー粒子の量が感光体ドラム10の周方向において不均一になり、紙のシートに周期的な濃淡ムラが現れると考えられる。
【0038】
図5に画像品質の判定結果を示す。
【0039】
図5の結果から、アスペクト比Strが0.55以上であると画像品質が良好である。また、アスペクト比Strが1に近いほど画像品質は良好である。つまり、表層23の表面の粗さに方向性が少ないことが好ましい。一般的には、表層23の表面の粗さの方向性を減らすには、表層23の下の弾性層22の表面の粗さの方向性が小さく、表層23の厚さが大きいことが望ましい。
【0040】
特に画像品質が非常に良好であったサンプル8~13に着目する。表層23の厚さは20μm以上、40μm以下であることが好ましい。
【0041】
また、サンプル8~13によれば、アスペクト比Strが0.77以上であるだけでなく、表層23の軸方向での十点平均粗さRが7.6μm~10.4μm、表層23の周方向での十点平均粗さRが7.5μm~9.7μmであることが好ましい。また、表層23の軸方向での表面の粗さ曲線要素の平均長さRSmが88μm~118μm、表層23の周方向での表面の粗さ曲線要素の平均長さRSmが74μm~103μmであることが好ましい。
【0042】
以上、本発明の好ましい実施形態を参照しながら本発明を図示して説明したが、当業者にとって特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱することなく、形式および詳細の変更が可能であることが理解されるであろう。このような変更、改変および修正は本発明の範囲に包含されるはずである。
【符号の説明】
【0043】
20 現像ロール
21 芯材
22 弾性層
23 表層
24 プライマー層
25 シリコーンゴム粒子
図1
図2
図3
図4
図5