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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】耐震補強構造
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20240606BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240606BHJP
   E01D 19/02 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
E01D22/00 B
E04G23/02 D
E04G23/02 F
E01D19/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023088183
(22)【出願日】2023-05-29
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】507194017
【氏名又は名称】株式会社高速道路総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505398941
【氏名又は名称】東日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】武田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】後藤 源太
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-124958(JP,A)
【文献】特開平09-013695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
E04G 23/02
E01D 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐震補強の対象となる鉄筋コンクリート部を既設部とし、該既設部にあらたな鉄筋コンクリート部を新設部として巻き立てた耐震補強構造において、
前記新設部を構成する新設側軸方向鉄筋のうち、一部又は全部を、それらが各々個別の鋼管に独立して挿通された状態でなおかつ該各鋼管内に同一鉄筋のみが配置された形で前記新設部を構成する新設側コンクリートに埋設されるように配置したことを特徴とする耐震補強構造。
【請求項2】
前記既設部を構成する既設側軸方向鉄筋のうち、該既設部を構成する既設側コンクリートに露出した状態で該既設側コンクリートに埋設された鉄筋の断面積割合を既設側ボンド鉄筋比率として該既設側ボンド鉄筋比率を70%以上とするとともに、前記新設側軸方向鉄筋のうち、前記鋼管に挿通された状態で前記新設側コンクリートに埋設された鉄筋の断面積割合を新設側アンボンド鉄筋比率として該新設側アンボンド鉄筋比率を70%以上とした請求項1記載の耐震補強構造。
【請求項3】
前記既設側ボンド鉄筋比率を90%以上、前記新設側アンボンド鉄筋比率を90%以上とした請求項2記載の耐震補強構造。
【請求項4】
前記既設部をRCフーチングから立設されたRC柱部材の脚部とし、前記新設側軸方向鉄筋を前記RCフーチングとの境界面を越えて該RCフーチングに延びるように配置するとともに、前記鋼管を前記境界面近傍に位置決めされ少なくとも前記新設側コンクリートの側に延設されるように配置した請求項1乃至請求項3のいずれか一記載の耐震補強構造。
【請求項5】
前記鋼管の上端に前記新設側軸方向鉄筋が挿通される形で環状の縁切り材を当接配置することにより、前記新設側コンクリートから前記鋼管に圧縮荷重が伝達しないように構成した請求項4記載の耐震補強構造。
【請求項6】
所定横断面における曲げモーメントMが曲げ耐力Muに達したときの該横断面におけるせん断力Qがせん断ひび割れ耐力Qcより小さくなるように構成した請求項1、請求項2又は請求項3記載の耐震補強構造。
【請求項7】
所定横断面における曲げモーメントMが曲げ耐力Muに達したときの該横断面におけるせん断力Qがせん断ひび割れ耐力Qcより小さくなるように構成した請求項5記載の耐震補強構造。
【請求項8】
所定横断面における曲げモーメントMが曲げ耐力Muに達したときの該横断面におけるせん断力Qがせん断ひび割れ耐力Qcより小さくなるように構成した請求項4記載の耐震補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート部材を耐震補強する際に適用される耐震補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
柱や橋脚といった鉄筋コンクリート部材(以下、RC柱部材)を耐震補強するにあたっては、これを既設部として該既設部の回りにあらたな鉄筋コンクリートを新設部として巻き立て、場合によってはその周囲をさらに鋼板で拘束することで、柱や橋脚の耐力あるいは靭性を高める方法が広く知られている。
【0003】
ここで、繰り返し地震荷重によって新設部の軸方向鉄筋が座屈すると、側方への孕み出し、さらにはかぶりコンクリートの剥落、ひいてはRC柱部材の破壊へと進行するおそれがある。
【0004】
かかる事態は、鉄筋コンクリートの巻立てによる耐震補強作用が発揮されない結果となるため、これを防止すべく、PC鋼棒等で構成された中間貫通鋼材をRC柱部材に貫通させた上、該中間貫通鋼材の各端を、新設部の軸方向鉄筋近傍あるいはその周囲に巻回されるせん断補強筋近傍に定着させる対策が講じられる(特許文献1の図8,9)。
【0005】
かかる対策によれば、中間貫通鋼材によって新設部に配置された軸方向鉄筋の座屈が防止されるため、鉄筋コンクリートの巻立てによる上述の耐力向上作用あるいは靭性向上作用が確実に発揮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-332750号公報
【文献】特開2022-76500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記対策では、中間貫通鋼材を貫通配置するための挿通孔を既設部であるRC柱部材に削孔する際、該RC柱部材に埋設された鉄筋を傷付けてしまうおそれがあるとともに、それを避けるべく何度も削孔位置を変更すると、RC柱部材を傷める、工事が遅れる、コストがかさむといった問題を生じていた。
【0008】
加えて、例えば橋脚の場合、フーチングに接合される脚部近傍で曲げモーメントが最大となるため、地盤面以下での作業となって周辺地盤を一定深さまで掘り下げる必要が生じるとともに、削孔された挿通孔に壁厚相当長さの中間貫通鋼材を水平に挿通させるためには、水平方向にも相当の余堀りが必要になるという問題も生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、中間貫通鋼材を用いることなく、なおかつ短工期かつ低コストで耐力あるいは靭性を高めることが可能な耐震補強構造を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る耐震補強構造は請求項1に記載したように、耐震補強の対象となる鉄筋コンクリート部を既設部とし、該既設部にあらたな鉄筋コンクリート部を新設部として巻き立てた耐震補強構造において、
前記新設部を構成する新設側軸方向鉄筋のうち、一部又は全部を、それらが各々個別の鋼管に独立して挿通された状態でなおかつ該各鋼管内に同一鉄筋のみが配置された形で前記新設部を構成する新設側コンクリートに埋設されるように配置したものである。
【0011】
また、本発明に係る耐震補強構造は、前記既設部を構成する既設側軸方向鉄筋のうち、該既設部を構成する既設側コンクリートに露出した状態で該既設側コンクリートに埋設された鉄筋の断面積割合を既設側ボンド鉄筋比率として該既設側ボンド鉄筋比率を70%以上とするとともに、前記新設側軸方向鉄筋のうち、前記鋼管に挿通された状態で前記新設側コンクリートに埋設された鉄筋の断面積割合を新設側アンボンド鉄筋比率として該新設側アンボンド鉄筋比率を70%以上としたものである。
【0012】
また、本発明に係る耐震補強構造は、前記既設側ボンド鉄筋比率を90%以上、前記新設側アンボンド鉄筋比率を90%以上としたものである。
【0013】
また、本発明に係る耐震補強構造は、前記既設部をRCフーチングから立設されたRC柱部材の脚部とし、前記新設側軸方向鉄筋を前記RCフーチングとの境界面を越えて該RCフーチングに延びるように配置するとともに、前記鋼管を前記境界面近傍に位置決めされ少なくとも前記新設側コンクリートの側に延設されるように配置したものである。
【0014】
また、本発明に係る耐震補強構造は、前記鋼管の上端に前記新設側軸方向鉄筋が挿通される形で環状の縁切り材を当接配置することにより、前記新設側コンクリートから前記鋼管に圧縮荷重が伝達しないように構成したものである。
【0015】
また、本発明に係る耐震補強構造は、所定横断面における曲げモーメントMが曲げ耐力Muに達したときの該横断面におけるせん断力Qがせん断ひび割れ耐力Qcより小さくなるように構成したものである。
【0016】
本発明に係る耐震補強構造においては、従来と同様、耐震補強の対象となる鉄筋コンクリート部を既設部とし、該既設部にあらたな鉄筋コンクリート部を新設部として巻き立てて構成するが、本発明では、新設部を構成する新設側軸方向鉄筋のうち、一部又は全部を、それらが各々個別の鋼管に独立して挿通された状態で新設側コンクリートに埋設されるように配置してある。
【0017】
このようにすると、新設側軸方向鉄筋のうち、鋼管に挿通された鉄筋は、鋼管に挿通された範囲においてそれらの曲げ変形が鋼管によって拘束されるため、軸圧縮力による座屈が防止される。
【0018】
ここで、新設側軸方向鉄筋は、鋼管に挿通された範囲においてコンクリートと付着しない形となるため、コンクリートとの間で荷重伝達が行われないが、既設側軸方向鉄筋が既設側コンクリートとの間で荷重伝達を行うので、新設側コンクリートを既設側コンクリートに連続一体化させておけば、既設側軸方向鉄筋によって新設側コンクリートに生じるひび割れが分散され、それゆえ新設側コンクリートの鋼管付近で割れが集中するおそれはない。
【0019】
このように、鋼管の曲げ拘束による新設側軸方向鉄筋の座屈防止作用と、既設側軸方向鉄筋による新設側コンクリートのひび割れ抑制作用とが相俟って、新設部では、圧縮引張に伴う履歴減衰によるエネルギー吸収作用が確実に発揮されることとなり、かくして巻立てが行われた部位の靭性を大幅に向上させることが可能となる。
【0020】
耐震補強は、柱、梁、壁といった部材全体を対象とする場合のほか、部材の脚部や頂部といった部分領域に限定されることも多いため、本願では、全体のみならず、部分領域も含める主旨で、耐震補強の対象を鉄筋コンクリート部と呼ぶ。
【0021】
新設側軸方向鉄筋は、鉄筋コンクリートを柱や梁として扱う際にそれらの材軸方向に沿って配置された鉄筋という意味で一般的に用いられているが、本願においては、かかる意味を含め、広く曲げ補強を目的とした鉄筋という意味で用いるものとし、せん断補強筋は除外されるものとする。
【0022】
耐震補強の対象となる既設部は、曲げモーメントが大きくなる部位に広く適用することが可能であって、RC柱部材の脚部や頂部、RC壁の脚部や頂部、RC梁の端部などが該当するが、RC柱部材の脚部、特に横断面の縦横比が大きい壁状をなすRC柱部材の脚部が典型例となり、より具体的には、RCフーチングから立設された橋脚の脚部が該当する。
【0023】
この場合、新設側軸方向鉄筋をRCフーチングとの境界面を越えて該RCフーチングに延びるように配置するとともに、鋼管を境界面近傍に位置決めされ少なくとも上記脚部の側に延設されるように配置したならば、橋脚等のRC柱部材の脚部を適切に耐震補強することが可能となる。
【0024】
新設側軸方向鉄筋を鋼管に挿通するにあたり、該鋼管は、曲げ補強が必要となる断面位置の範囲に応じて、新設側軸方向鉄筋の所定長さにわたり該新設側軸方向鉄筋に被せられれば足りるものであって、新設側軸方向鉄筋の全長にわたって被せる必要はない。
【0025】
なお、以下の記載においては、新設側軸方向鉄筋のうち、鋼管に挿通された長さ範囲を、鋼管を含めた概念として座屈拘束鉄筋と呼ぶ。
【0026】
本発明においては、必ずしも新設側軸方向鉄筋の全てを鋼管に挿通する必要はなく、それらの一部を鋼管に挿通し、残りを通常の鉄筋、すなわちコンクリートに露出する形で該コンクリートに埋設された鉄筋(以下、ボンド鉄筋と呼ぶ)としてもかまわないし、既設側軸方向鉄筋もその一部にアンボンド鉄筋(コンクリートとの付着が切れる形で該コンクリートに埋設された鉄筋。本発明の座屈拘束鉄筋もこれに含まれる)が含まれていてもかまわないが、既設部においては、既設側軸方向鉄筋全体に対するボンド鉄筋の断面積割合(既設側ボンド鉄筋比率)を70%以上とするとともに、新設側においては、新設側軸方向鉄筋全体に対する座屈拘束鉄筋の断面積割合(新設側アンボンド鉄筋比率)を70%以上とした構成が望ましく、これらに代えて、それぞれ90%以上とした構成がさらに望ましい。
【0027】
これは、既設側でボンド鉄筋の割合が90%未満、新設側で座屈拘束鉄筋の割合が90%未満になると、上述した既設側軸方向鉄筋によるひび割れ抑制作用及び座屈拘束鉄筋による座屈防止作用が若干不足して、巻立てが行われた部位の靭性を十分に向上させることができないおそれがあるからであり、それぞれ70%未満になると、上記2つの作用が大幅に不足して、巻立て部位の靭性向上が困難になるからである。
【0028】
ちなみに、本発明は、耐震補強の対象となる既設部の既設側軸方向鉄筋が実質的にほぼすべてボンド鉄筋であることから、新設部のひび割れ抑制作用についてはこれらのボンド鉄筋に委ねることができるとともに、それによって新設側軸方向鉄筋のほぼすべてを所定長さ範囲にわたって座屈拘束鉄筋で構成することが可能になり、それによって新設側軸方向鉄筋の座屈を確実に防止することができるものであって、言い換えれば、既設部を耐震補強するにあたって該既設部自体の性能を積極的に有効利用することにより、座屈拘束鉄筋の作用を最大限に発揮させることができる点に特徴があるものであり、通常の鉄筋(ボンド鉄筋)と座屈拘束鉄筋とを当初から混在させて新規の鉄筋コンクリート部を構築する特許文献2記載の発明とは一線を画する。
【0029】
既設側軸方向鉄筋による新設側コンクリートのひび割れ抑制作用と新設側軸方向鉄筋の座屈防止作用との相乗作用によって巻立て部位の靭性を大幅に向上させることができるという上述の効果を得るためには、鋼管がせん断力によって破損する事態を可能な限り回避可能な構成とするのが望ましいが、所定横断面における曲げモーメントMが曲げ耐力Muに達したときの該横断面におけるせん断力Qがせん断ひび割れ耐力Qcより小さくなるように構成したならば、鋼管による座屈防止作用が発揮される前にせん断ひび割れが生じて該せん断ひび割れに沿ったせん断すべりで鋼管が破損する事態を未然に回避することができる。
【0030】
鋼管は、それに挿通される新設側軸方向鉄筋の座屈を防止するための部材であるため、自ら座屈しないように厚みや径を適宜設定する必要があるとともに、周囲に拡がる新設側コンクリートから圧縮荷重が作用しないようにすることが望ましく、具体的には、鋼管の上端に新設側軸方向鉄筋が挿通される形で環状の縁切り材を当接配置する構成を採用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本実施形態に係る耐震補強構造11とそれが適用された壁式橋脚1の図であり、(a)は側面図、(b)はA-A線に沿う水平断面図、(c)はB-B線に沿う水平断面図。
図2】耐震補強構造の図であり、(a)は従来構成に係る耐震補強構造11´の水平断面図、(b)は本実施形態に係る耐震補強構造11の水平断面図、(c)はC-C線に沿う鉛直断面図。
図3】座屈拘束鉄筋を示した図であり、(a)は材軸を含む鉛直断面図、(b)はD-D線に沿う水平断面図。
図4】耐震補強構造11の施工手順を示した説明図。
図5】変形例に係る耐震補強構造の説明図。
図6】別の変形例に係る耐震補強構造の詳細鉛直断面図。
図7】正負交番載荷実験の結果を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る耐震補強構造の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0033】
本実施形態に係る耐震補強構造11は図1に示すように、RC柱部材である壁式橋脚1の脚部2を本発明の既設部としてこれを耐震補強の対象となる鉄筋コンクリート部とし、該脚部にあらたな鉄筋コンクリート部12を新設部として巻き立てて構成してある。
【0034】
壁式橋脚1は、その脚部2でRCフーチング3に立設してあるとともに、頂部4で上部工5に連結してあり、該上部工からの鉛直荷重及び水平荷重を、RCフーチング3を介して地盤6に伝達するようになっている。
【0035】
一方、壁式橋脚1のうち、脚部2を除く高さ範囲、その代表である頂部4についても、鉄筋コンクリート12´を巻き立てることで耐震補強構造11´を構成してある。
【0036】
図2は、耐震補強構造11´及び耐震補強構造11を示したものであり、同図(a)でわかるように、頂部4は、コンクリート21、該コンクリートに埋設された軸方向鉄筋22及びこれを取り囲むせん断補強筋23からなり、該頂部に、同じくコンクリート24、該コンクリートに埋設された軸方向鉄筋25及びこれを取り囲むせん断補強筋26からなる鉄筋コンクリート12´を巻き立てるとともに、PC鋼棒等で構成された中間貫通鋼材27を頂部4に貫通させた上、該中間貫通鋼材の各端を、軸方向鉄筋25の近傍あるいはその周囲に巻回されるせん断補強筋26近傍に定着させることで耐震補強構造11´を構成してあるが、鉄筋コンクリート12´は従来公知の構成であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0037】
一方、耐震補強構造11は同図(b)及び同図(c)に示すように、既設側コンクリート31、該既設側コンクリートに埋設された既設側軸方向鉄筋32及びこれを取り囲むせん断補強筋33からなる脚部2に、新設側コンクリート34、該新設側コンクリートに埋設された新設側軸方向鉄筋37及びこれを取り囲むせん断補強筋36からなる鉄筋コンクリート部12を巻き立てて構成してある。
【0038】
ここで、新設側軸方向鉄筋37は、それらが各々個別の鋼管38に独立して挿通された状態で新設側コンクリート34に埋設配置してあり、鋼管38に挿通された長さ範囲において、それぞれ座屈拘束鉄筋35として機能する。
【0039】
既設側軸方向鉄筋32は、その全てをボンド鉄筋として既設側コンクリート32に露出した状態で該既設側コンクリートに埋設してあり、既設側軸方向鉄筋全体に対するボンド鉄筋の断面積割合(既設側ボンド鉄筋比率)は本実施形態では100%となっている。
【0040】
一方、新設側軸方向鉄筋37は、その全てを鋼管38に挿通した状態で新設側コンクリート34に埋設してあり、新設側軸方向鉄筋全体に対する座屈拘束鉄筋の断面積割合(新設側アンボンド鉄筋比率)は本実施形態では100%となっている。
【0041】
また、新設側軸方向鉄筋37は、鉄筋コンクリート部12とRCフーチング3との境界面を越えて、該RCフーチングに延びるように配置してあるとともに、鋼管38は、その下端がRCフーチング3に埋め込まれた状態で鉄筋コンクリート部12の側に延設されるように上述の境界面近傍に位置決めしてある。
【0042】
鋼管38は、橋軸方向に沿った脚部2の幅にその両側に設けられる鉄筋コンクリート部12の厚みを加えた全体幅をDとしたとき(図2(b)参照)、上記境界面から該鋼管の上端までの高さL1を、0.25D以上、望ましくは0.5D以上、さらに望ましくはD以上とするのがよい。
【0043】
このようにすれば、新設側軸方向鉄筋37に対する鋼管38の座屈防止作用がより確実となる。
【0044】
新設側軸方向鉄筋37は図3に示すように、鋼管38の曲げ剛性による座屈防止機能を享受できないような空隙が該鋼管との間に形成されることがないよう、該新設側軸方向鉄筋の外周面と鋼管38の内周面との間に充填材41を充填してある。
【0045】
鋼管38は、新設側軸方向鉄筋37や新設側コンクリート34から圧縮力が作用して自ら座屈することがないよう、内周面及び外周面に凹凸がない構造用鋼管を用いるのがよい。
【0046】
充填材41は、新設側軸方向鉄筋37と鋼管38との付着が切れるようにすることで、新設側軸方向鉄筋37からの圧縮力が鋼管38に実質的に伝達しないようにするのが望ましく、例えばモルタル又はセメントペーストで構成することができる。
【0047】
モルタル又はセメントペーストは、標準よりも水量を多くした配合とすればよい。
【0048】
本実施形態に係る耐震補強構造11を構築するには、鉄筋コンクリート部12の巻立てに先立ち、まず、図4(a)に示すように、本発明の既設部である脚部2の表面に複数の凹部51を格子状に離間形成する。凹部51は、例えば円筒体の先端側周縁に刃先が設けられたコアビット(コアドリル)を用いて形成すればよい。
【0049】
凹部51を穿孔するにあたっては、その深さが脚部2に埋設されている既設側軸方向鉄筋32のかぶり厚さ未満となるように設定する。
【0050】
次に、図4(b)に示すように、脚部2の周囲に新設側軸方向鉄筋37を配置するとともに、所定長さ範囲では該新設側軸方向鉄筋を鋼管38に挿通して座屈拘束鉄筋35とした上、それらの回りにせん断補強筋36を巻回する。
【0051】
次に、新設側コンクリート34の厚みに相当する位置に型枠(図示せず)を立て込んだ後、該型枠の内側にコンクリートを打設する。
【0052】
なお、適当なタイミング、遅くとも上記コンクリート打設の前に新設側軸方向鉄筋37の外周面と鋼管38の内周面との間に充填材41を充填しておく。
【0053】
上述のようにコンクリート打設を行うと、脚部2と型枠との間に新設側コンクリート34が構築されるとともに、該コンクリートが脚部2の凹部51に流入し、該凹部に嵌合する凸部52が新設側コンクリート34に形成される。
【0054】
そして、突設形成された凸部52は、該凸部が嵌合される凹部51との協働作用によってシヤキーとして機能するので、脚部2の既設側コンクリート31と新設側コンクリート34とを一体化させることができる。
【0055】
鋼管38は、新設側軸方向鉄筋37を配筋した後、それに被せるように配置してもよいし、新設側軸方向鉄筋37を挿通した状態で一括配置するようにしてもよい。
【0056】
以上説明したように、本実施形態に係る耐震補強構造11によれば、新設側軸方向鉄筋37を、それらが各々個別の鋼管38に独立して挿通された状態で新設側コンクリート34に埋設されるように配置したので、新設側軸方向鉄筋37のうち、鋼管38に挿通された長さ範囲では、それらの曲げ変形が鋼管38によって拘束されるため、軸圧縮力による座屈が防止される。
【0057】
ここで、新設側軸方向鉄筋37は、鋼管38に挿通された範囲において新設側コンクリート34と付着しない形となるため、該新設側コンクリートとの間で荷重伝達が行われないが、新設側コンクリート34を既設側コンクリート31に連続一体化させてあるので、既設側軸方向鉄筋32によって新設側コンクリート34に生じるひび割れが分散され、それゆえ鋼管38の付近で新設側コンクリート34の割れが集中するおそれはない。
【0058】
このように、鋼管38の曲げ拘束による新設側軸方向鉄筋37の座屈防止作用と、既設側軸方向鉄筋32による新設側コンクリート34のひび割れ抑制作用とが相俟って、新設部である鉄筋コンクリート部12では、圧縮引張に伴う履歴減衰によるエネルギー吸収作用が確実に発揮されることとなり、かくして、従来のように中間貫通鋼材を用いずとも、巻立てが行われた部位の靭性を大幅に向上させることが可能となる。
【0059】
本実施形態では、壁式橋脚1の脚部2を既設部としてこれを耐震補強の対象としたが、本発明の耐震補強構造は、曲げモーメントが大きくなる部位に広く適用することが可能であって、壁式橋脚1の脚部2に代えて、RC柱部材の脚部や頂部、RC壁の脚部や頂部、RC梁の端部などに広く適用することができる。
【0060】
また、本実施形態では、既設部である脚部2の既設側コンクリート31にせん断補強筋33が埋設され、新設部である新設側コンクリート34にせん断補強筋36が埋設されるものとしたが、これらのせん断補強筋については適宜省略することが可能である。
【0061】
また、本実施形態では、鋼管38をその下端がRCフーチング3に根入れされるように、なおかつ該RCフーチングとの境界面からの高さL1が全体幅Dの0.25D以上、望ましくは0.5D以上、さらに望ましくはD以上としたが、鋼管を根入れするかどうか、あるいはその高さ(長さ)をどのように設定するかは、座屈防止による曲げ補強がどの断面位置で必要になるのか等を勘案しながら適宜決定すればよい。
【0062】
また、本実施形態では、既設側軸方向鉄筋32の全てをボンド鉄筋として既設側コンクリート32に露出した状態で該既設側コンクリートに埋設した構成(既設側ボンド鉄筋比率が100%)とするとともに、新設側軸方向鉄筋37の全てを鋼管38に挿通した状態で新設側コンクリート34に埋設した構成(新設側アンボンド鉄筋比率が100%)としたが、必ずしも既設側軸方向鉄筋の全てがボンド鉄筋である必要はなく、その一部にアンボンド鉄筋が含まれていてもかまわないし、新設側軸方向鉄筋の全てが鋼管に挿通されている必要もなく、その一部がボンド鉄筋であってもかまわない。
【0063】
但し、既設側ボンド鉄筋比率や新設側アンボンド鉄筋比率が70%未満の場合には、上述した既設側軸方向鉄筋によるひび割れ抑制作用及び座屈拘束鉄筋による座屈防止作用が大幅に不足して巻立て部位の靭性向上が困難になるため、上記各比率を70%以上とするのが望ましく、巻立て部位の靭性を確実に高めるためには、90%以上とするのがさらに望ましい。
【0064】
また、本実施形態では、脚部2に予め凹部51を設けた上、該凹部に嵌合する凸部52を新設側コンクリート34に形成することにより、脚部2の既設側コンクリート31と新設側コンクリート34とを一体化させるようにしたが、既設側コンクリート31と新設側コンクリート34とを一体化させる具体的な手段は任意であって、例えばチッピングによって既設側コンクリート31の表面を目荒らしするようにしてもかまわない。
【0065】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、既設側軸方向鉄筋による新設側コンクリートのひび割れ抑制作用と新設側軸方向鉄筋の座屈防止作用との相乗作用によって巻立て部位の靭性を大幅に向上させることができるという上述の効果を得るためには、鋼管がせん断力によって破損する事態を可能な限り回避可能な構成とするのが望ましい。
【0066】
ここで、所定横断面における曲げモーメントMが曲げ耐力Muに達したときの該横断面におけるせん断力Qがせん断ひび割れ耐力Qcより小さくなるように構成したならば、鋼管による座屈防止作用が発揮される前にせん断ひび割れが生じて該せん断ひび割れに沿ったせん断すべりで鋼管が破損する事態を未然に回避することができる。
【0067】
例えば壁式橋脚の場合であれば、図5に示したように、その脚部における曲げ耐力をMu、せん断ひび割れ耐力をQcとすると、曲げモーメントMが曲げ耐力Muに達したときのせん断力Qが、
Q<Qc
となるように断面を設計する。
【0068】
ここで、壁式橋脚の場合、図5に示すように、上部工に作用する水平力をQ´、その作用位置とRCフーチングの天端位置までの距離(せん断スパン)をaとすると、
M=a・Q´
であるから、中間荷重がないとすれば、
Q´=Q
であるので、
M=a・Q
となる。したがって、MがMuに達したときのせん断力Qは、
Q=Mu/a
となるから、
u/a<Qc
となるように断面を設計すればよい。
【0069】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、図6に示すように、鋼管38の上端に新設側軸方向鉄筋37が挿通される形で環状の縁切り材61を当接配置するようにしてもよい。
【0070】
縁切り材61は、圧縮剛性がコンクリートよりも格段に小さい材料、例えばスポンジやゴムなどで構成する。
【0071】
かかる構成によれば、新設側コンクリート34から鋼管38に圧縮荷重が伝達しないため、鋼管38が自ら座屈するのを未然に防ぐことが可能となる。
【0072】
次に、座屈拘束鉄筋により曲げ補強された壁式橋脚の変形性能を確認すべく、正負交番載荷実験を行ったので、以下にその概略を説明する。
【0073】
試験体は、図1及び図2で説明した形状の壁式橋脚を実構造物の1/5程度のスケールで2つ製作し、一方を鋼管なし、もう一方を鋼管ありとした。
【0074】
既設側軸方向鉄筋及び新設側軸方向鉄筋はいずれの試験体もD10とし、鋼管ありとした試験体では、外径が15mm、厚みが1.2mmの構造用鋼管を用いた。
【0075】
図7は、上記試験の結果を示したスケルトンカーブであり、実線が鋼管あり、破線が鋼管なしの結果であり、鋼管ありの試験体では、鋼管なしの試験体に比べ、変形性能が大幅に向上していることがわかる。
【符号の説明】
【0076】
1 壁式橋脚(RC柱部材)
2 脚部(既設部)
3 RCフーチング
11 耐震補強構造
12 鉄筋コンクリート部
31 既設側コンクリート
32 既設側軸方向鉄筋
34 新設側コンクリート
35 座屈拘束鉄筋
37 新設側軸方向鉄筋
38 鋼管
61 縁切り材
【要約】

【課題】中間貫通鋼材を用いることなく、なおかつ短工期かつ低コストで耐力あるいは靭性を高めることが可能な耐震補強構造を提供する。
【解決手段】本発明に係る耐震補強構造11は、RC柱部材である壁式橋脚1の脚部2を本発明の既設部としてこれを耐震補強の対象となる鉄筋コンクリート部とし、該脚部にあらたな鉄筋コンクリート部12を新設部として巻き立てて構成してあり、鉄筋コンクリート部12は、新設側コンクリート34、該新設側コンクリートに埋設された新設側軸方向鉄筋37及びこれを取り囲むせん断補強筋36からなる。ここで、新設側軸方向鉄筋37は、それらが各々個別の鋼管38に独立して挿通された状態で新設側コンクリート34に埋設配置してあり、鋼管38に挿通された長さ範囲において、それぞれ座屈拘束鉄筋35として機能する。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7