(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】延焼防止材、組電池及び自動車
(51)【国際特許分類】
C03C 25/1095 20180101AFI20240606BHJP
C03C 25/42 20060101ALI20240606BHJP
D21H 13/36 20060101ALI20240606BHJP
D21H 17/68 20060101ALI20240606BHJP
D21H 21/34 20060101ALI20240606BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20240606BHJP
【FI】
C03C25/1095
C03C25/42
D21H13/36 Z
D21H17/68
D21H21/34
H01M10/658
(21)【出願番号】P 2023123559
(22)【出願日】2023-07-28
【審査請求日】2023-11-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】假屋 航平
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 洋光
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘樹
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/270359(WO,A1)
【文献】大高武士ら,ケイ酸ナトリウムを混合させた高含水耐火材の遮熱性能,日本火災学会論文集,2006年,56巻, 1号,p. 9-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 25/00-25/70,
D21H 11/00-27/42,
H01M 10/658,50/204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
延焼防止材であって、
無機繊維を含有する無機繊維基材と、
前記無機繊維基材に担持されたケイ酸ナトリウムとを備え、
前記ケイ酸ナトリウムは、100℃での含水率が15質量%以上35質量%以下である、延焼防止材。
【請求項2】
請求項1に記載の延焼防止材において、
前記ケイ酸ナトリウムは、30℃から100℃での含水率の減少割合が0.75質量%/℃以下である、延焼防止材。
【請求項3】
請求項1に記載の延焼防止材において、
前記無機繊維の構成材料は、シリカ(SiO
2)及びアルミナ(Al
2O
3)からなる群より選択される少なくとも1種を含む、延焼防止材。
【請求項4】
請求項1に記載の延焼防止材において、
前記無機繊維基材は、湿式抄造シートである、延焼防止材。
【請求項5】
請求項1に記載の延焼防止材において、
前記無機繊維基材は、多孔質構造を有し、
前記延焼防止材は、前記ケイ酸ナトリウム
が前記無機繊維基材に含浸され
てなる1層構造の延焼防止材本体を有している、延焼防止材。
【請求項6】
請求項1に記載の延焼防止材において、
前記無機繊維基材と前記ケイ酸ナトリウムとの全体での厚さは、5mm以下である、延焼防止材。
【請求項7】
請求項1に記載の延焼防止材において、
さらに、前記無機繊維基材と前記ケイ酸ナトリウムとを収容する外装体を備える、延焼防止材。
【請求項8】
請求項
7に記載の延焼防止材において、
前記外装体は、その40℃且つ90%RHでの水蒸気透過率が15g/m
2/day以下であり、厚さが250μm以下である、延焼防止材。
【請求項9】
請求項1に記載の延焼防止材において、
2つ以上の電池セルを備える組電池の隣り合う2つの前記電池セルの間に配置して使用される、延焼防止材。
【請求項10】
組電池であって、
2つ以上の電池セルと、
隣り合う前記電池セルの間に配置された、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の延焼防止材とを備える、組電池。
【請求項11】
自動車であって、
自動車本体と、
前記自動車本体に搭載された、請求項10に記載の組電池とを備える、自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延焼防止材、組電池及び自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の電動化の普及に伴い、自動車用の組電池及びこれに用いられる電池セルの開発が進められている。自動車用の組電池の中でも、特に高エネルギー密度を有するリチウムイオン電池(LiB)セルを用いた組電池では、熱暴走等の異常が発生するリスクがある。このため、電池セルの安全性を高めるための技術の開発が進められている。
例えば、特許文献1では、リチウムイオン電池の内部短絡等による急激な温度上昇と熱暴走(熱逸走)状態を回避することを目的として用いられる、吸熱シートが提案されている。しかしながら、かかる吸熱シートは、延焼防止性が必ずしも充分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明では上記事情に鑑み、充分な延焼防止を有する延焼防止材、この延焼防止材を用いた組電池、及びこの組電池を備える自動車を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、延焼防止材が提供される。この延焼防止材は、無機繊維を含有する無機繊維基材と、無機繊維基材に担持されたケイ酸ナトリウムとを備える。ケイ酸ナトリウムは、100℃での含水率が15質量%以上35質量%以下である。
【0006】
かかる態様によれば、充分な延焼防止性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、ケイ酸ナトリウム中に存在する水分子の状態を示す模式図である。
【
図2】
図2は、延焼防止材の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、延焼防止材の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4(a)は、外装体を備える延焼防止材の実施形態を模式的に示す平面図である。
図4(b)は、外装体を備える延焼防止材の実施形態を模式的に示す側面図及び端部の断面を示す拡大図である。
【
図5】
図5は、温度変化に伴うケイ酸ナトリウムの含水率変化(減少割合)を示グラフである。
【
図6】
図6は、模擬燃焼試験用の電池セル組立体の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を用いて本開示の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
なお、本明細書において、X中のYの含有量とは、Xの全質量を基準してYが占める割合(質量%)を意味し、ケイ酸ナトリウムの含水率とは、ケイ酸ナトリウムの全質量を基準して水分が占める割合(質量%)を意味する。
図1は、ケイ酸ナトリウム中に存在する水分子の状態を示す模式図である。
図2及び
図3は、それぞれ延焼防止材の実施形態を模式的に示す断面図である。
本発明の延焼防止材は、2つ以上の電池セルを備える組電池の隣り合う2つの電池セルの間に配置して使用される。
ここで、延焼防止材には、異常時における隣の電池セルへの熱伝達を抑制する断熱性(延焼防止性)が求められる。
【0009】
本発明の延焼防止材は、無機繊維を含有する無機繊維基材と、無機繊維基材に担持されたケイ酸ナトリウムとを備える。そして、ケイ酸ナトリウムは、100℃での含水率が15質量%以上35質量%以下である。なお、ケイ酸ナトリウムは、Na2O・nSiO2・mH2O(mは、0又は正の数を示す)で表される化合物である。
かかる延焼防止材では、ケイ酸ナトリウムが100℃であっても十分な水分を含有するため、異常時において、水分の蒸発潜熱による断熱性(断熱効果)が良好に発揮される。このため、異常時において、1つの電池セルが仮に発火した場合でも、隣り合う電池セルへの延焼を防止又は遅延させることができる。
【0010】
また、延焼防止材の延焼防止性は、延焼防止材を一方の面から650℃で120秒間加熱し、そのときの延焼防止材の他方の面の表面温度(120秒経過時の表面温度)によって評価することができる。
延焼防止材の他方の面の120秒経過時の表面温度は、150℃以下程度であることが好ましく、140℃以下程度であることがより好ましく、120℃以下程度であることがさらに好ましい。表面温度の下限値は、例えば、25℃程度である。上記範囲の表面温度を示す延焼防止材であれば、延焼防止性に優れると判断することができる。
なお、表面温度は、実施例の方法で測定することができる。
【0011】
さらに、組電池の充放電時において、電池セルは、膨張収縮を繰り返すため、延焼防止材は、電池セルの膨張収縮に追従し得る柔軟性を有することが好ましい。この場合、ケイ酸ナトリウムを担持した無機繊維基材と、例えばポリウレタン製のシート材とを組み合わせることにより、延焼防止材に良好な柔軟性を付与することができる。これにより、電池セルの膨張収縮に追従して、電池セルに対する機械的負荷が生じるのを低減し得る結果、組電池を繰り返し安定的に動作(充放電)することができる。
また、本発明の延焼防止材では、100℃未満においてケイ酸ナトリウムがより多量の水分を含有する。このため、延焼防止材は、延焼防止材の製造時、延焼防止材の保管時、組電池の製造時等においても、高い柔軟性を維持することができる。その結果、延焼防止材及び組電池の生産性を高めることもできる。
【0012】
ケイ酸ナトリウムの100℃での含水率は、15質量%以上35質量%以下程度であればよいが、18質量%以上32質量%以下程度であることが好ましく、21質量%以上29質量%以下程度であることがより好ましい。この場合、延焼防止材の上記効果をより向上させることができる。なお、ケイ酸ナトリウムの含水率(含水率変化)は、実施例に記載の方法で測定する(求める)ことができる。
ケイ酸ナトリウムは、30℃から100℃での含水率の減少割合が0.75質量%/℃以下程度であることが好ましく、0.65質量%/℃以下程度であることがより好ましく、0.55質量%/℃以下程度であることがより好ましい。この場合、延焼防止材が30℃以上100℃以下の温度範囲で十分な水分を含有するため、延焼防止材及び組電池の生産性の向上、組電池の安定動作に寄与することができる。なお、上記含水率の減少割合(質量%/℃)は、下記式1により計算することができる。
式1:含水率の減少割合(質量%/℃)=([ケイ酸ナトリウムの30℃での含水率]-[ケイ酸ナトリウムの100℃での含水率])/[ケイ酸ナトリウムの30℃での含水率]×100
【0013】
ここで、ケイ酸ナトリウム中に存在する水分子の状態は、
図1に示すように、I:自由水、II:OHと水素結合している水分子、III:Naに吸着している水分子、IV:OHとして存在する水分子に分類される。水分子として蒸発する順序は、I→II→III→IVの順であると考えられる(ただし、同時に進行する場合がある)。
このため、ケイ酸ナトリウムのより高温領域での含水率を高める観点からは、ケイ酸ナトリウムに含まれるNa
2Oの比率を大きくすること(すなわち、SiO
2/Na
2Oモル比を低くすること)が好ましい。具体的には、SiO
2/Na
2Oモル比は、3.7以下程度であることが好ましく、1以上3.5以下程度であることがより好ましく、1.5以上3以下程度であることがさらに好ましく、2以上2.3以下であることが特に好ましい。かかるケイ酸ナトリウムを使用することにより、延焼防止材の延焼防止性がより向上するとともに、延焼防止材及び組電池の生産性をより高めることもできる。
【0014】
ケイ酸ナトリウムと無機繊維基材との全体に占めるケイ酸ナトリウムの割合は、60質量%以上98質量%以下程度であることが好ましく、70質量%以上95質量%以下程度であることがより好ましく、75質量%以上90質量%以下程度であることがさらに好ましい。この場合、より優れた延焼防止性を延焼防止材に付与し易くなるとともに、延焼防止材の軽量化を図ることもできる。
ケイ酸ナトリウムと無機繊維基材との全体に占める無機繊維基材の割合は、1質量%以上40質量%以下程度であることが好ましく、1質量%以上35質量%以下程度であることがより好ましく、5質量%以上35質量%以下程度であることがさらに好ましく、8質量%以上30質量%以下程度であることが特に好ましく、10質量%以上20質量%以下程度であることが最も好ましい。この場合、より優れた延焼防止性を延焼防止材に付与し易くなる。
【0015】
無機繊維基材は、無機繊維を主成分として構成される基材(例えば、シート)である。かかる無機繊維基材には、無機繊維の間に複数の空隙(細孔)が形成されている。すなわち、無機繊維基材は、多孔質構造を有する。例えば、比較的高粘度のケイ酸ナトリウムの水溶液を調製し、無機繊維基材の一方の面に塗布した後、乾燥することにより、無機繊維基材の一方の面にケイ酸ナトリウムを含有する層を偏在させて形成することができる。また、例えば、比較的低粘度のケイ酸ナトリウムの水溶液を調製し、無機繊維基材に含浸させた後、乾燥することにより、無機繊維基材の空隙内にケイ酸ナトリウムを充填することができる。
【0016】
本明細書において、無機繊維は、長さが1mm以上程度であり、アスペクト比(長さ/幅)が100以上程度である繊維状の物質である。無機繊維の長さ(繊維長)は、3mm以上12mm以下程度であることが好ましい。無機繊維の幅(繊維径)は、3μm以上10μm以下程度であることが好ましい。無機繊維基材を構成する無機繊維が上記繊維長及び繊維径を有する場合、無機繊維基材の製造工程において、乾燥前の形状加工性に優れる傾向がある。同様の観点から、無機繊維の平均繊維径は、5μm以上10μm程度であることが好ましい。ここで、平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡等の顕微鏡観察により測定される値である。
【0017】
無機繊維基材を構成する無機繊維は、1種であっても複数種であってもよい。
無機繊維基材を構成する無機繊維の構成材料としては、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、炭素、炭化ケイ素(SiC)等が挙げられる。これらの中でも、無機繊維の構成材料は、シリカ(SiO2)及びアルミナ(Al2O3)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、より高い延焼防止性を延焼防止材に付与し得るとともに、無機繊維基材の製造工程において、乾燥前の形状加工性に優れる傾向がある。
このような無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナシリカ繊維、アルミナ繊維、バサルト繊維、ロックウール等が挙げられる。これらの中でも、無機繊維基材が、ガラス繊維、シリカ繊維及びアルミナシリカ繊維のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、上記効果をより向上させることができる。
【0018】
無機繊維基材中の無機繊維の含有量は、60質量%以上100質量%以下程度であることが好ましく、70質量%以上98質量%以下程度であることがより好ましく、80質量%以上95質量%以下程度であることがさらに好ましく、85質量%以上93質量%以下程度であることが特に好ましい。この場合、延焼防止材により優れた延焼防止性を付与することができる。
無機繊維基材は、さらに、有機バインダーを含有してもよい。有機バインダーは、例えば、無機繊維同士を結合する有機材料であり、1種を単独で使用しても複数種を併用してもよい。
有機バインダーとしては、例えば室温(例えば25℃)以下のガラス転移点を有する樹脂、水溶性樹脂等を用いることができる。有機バインダーの具体例としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂(ビニロン等)、エポキシ系樹脂、セルロースミクロフィブリルのようなセルロース、ポリ塩化ビニル樹脂等が挙げられる。
【0019】
ここで、アクリル系樹脂とは、アクリル酸及びその誘導体(アクリル酸エステル等)、並びに、メタクリル酸及びその誘導体(メタクリル酸エステル等)からなる群より選択される少なくとも1種をモノマー単位として含む重合体である。また、セルロースミクロフィブリルとは、ミクロフィブリル化したセルロース繊維を言う。
中でも、有機バインダーは、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びエポキシ系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、より高い延焼防止性を有する延焼防止材が得られる傾向にある。
無機繊維基材中の有機バインダーの含有量は、0質量%以上40質量%以下程度であることが好ましく、2質量%以上30質量%以下程度であることがより好ましく、5質量%以上20質量%以下程度であることがさらに好ましく、7質量%以上15質量%以下程度であることが特に好ましい。この場合、より優れた延焼防止性を有する延焼防止材が得られ易くなる。
【0020】
無機繊維基材は、さらに、無機粒子を含んでいてもよい。無機粒子の構成材料としては、例えば、シリカ、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。
シリカを含む粒子としては、例えば、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ等が挙げられる。なお、沈降シリカは、湿式法の一種である沈降法で得られる非晶質のシリカ粒子であり、多孔質構造を有する。
無機粒子の平均粒子径は、0.1μm以上100μm以下程度であることが好ましく、0.5μm以上80μm以下程度であることがより好ましく、1μm以上50μm以下程度であることがさらに好ましい。ここで、無機粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度測定機によって測定される、体積累積粒径D50の値である。かかる平均粒子径を有する無機粒子は、取り扱い性が良好であり、無機繊維基材においてより均一に分布させ易い。
【0021】
無機繊維基材中の無機粒子の含有量は、20質量%以上50質量%以下程度であることが好ましく、25質量%以上45質量%以下程度であることがより好ましく、30質量%以上40質量%以下程度であることがさらに好ましい。かかる含有量で無機粒子を含有することにより、断熱性が高まり、より優れた延焼防止性を有する延焼防止材が得られる。また、より軽量で機械的強度の高い無機繊維基材(ひいては、延焼防止材)を得ることもできる。
なお、無機繊維基材の機械的強度を高める観点から、無機繊維基材は沈降シリカを含まないことが好ましく、無機粒子を含まないことがより好ましい。
【0022】
無機繊維基材は、ポリアミジン系高分子のような凝集剤を含んでいてもよい。無機繊維基材中の凝集剤の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下程度であることが好ましく、0.3質量%以上4質量%以下程度であることがより好ましく、0.5質量%以上3質量%以下程度であることがさらに好ましい。
無機繊維基材は、ケイ酸ナトリウム(100℃での含水率が15質量%以上35質量%以下であるケイ酸ナトリウム以外のケイ酸ナトリウム)を含んでいてもよく、かかるケイ酸ナトリウムを含まなくてもよい。
かかるケイ酸ナトリウムを含む場合、無機繊維基材中のケイ酸ナトリウムの含有量は、10質量%以下程度であることが好ましく、5質量%以下程度であることがより好ましく、3質量%以下程度であることがさらに好ましい。
【0023】
無機繊維基材としては、例えば、ケイ酸ナトリウムの保持性(担持性)に優れる基材を用いることが好ましい。無機繊維基材は、不織布であることが好ましく、湿式抄造法により形成されるシート(湿式抄造シート)であることがより好ましい。湿式抄造シートは、ケイ酸ナトリウムの保持性に特に優れる観点から好ましい。
湿式抄造法では、材料(無機繊維、有機バインダー等)を水に分散させて得られた分散液を抄紙用スクリーンに抄造し、乾燥することにより無機繊維基材(不織布)を製造する。かかる方法によれば、略均一に分散した空隙を有する無機繊維基材(不織布)を容易に得ることができる。そのため、湿式抄造シートは、略均一に分散した空隙を有し易く、ケイ酸ナトリウムの保持性に優れる傾向がある。
無機繊維基材の見かけ密度は、0.08g/cm3以上0.2g/cm3以下程度であることが好ましい。無機繊維基材の目付量は、厚さ1mmの場合、100g/m2以下170g/m2以下程度であることが好ましい。
無機繊維基材の厚さは、0.2mm以上3mm以下であることが好ましい。
【0024】
ケイ酸ナトリウムは、無機繊維基材の一方の面側に偏在してもよく、無機繊維基材に含浸されていてもよい。すなわち、延焼防止材1は、
図2に示すように、無機繊維基材2とケイ酸ナトリウムSSを含有する層3との2層構造であってもよく、
図3に示すように、無機繊維基材2にケイ酸ナトリウムSSが含浸された1層構造であってもよい。
2層構造の延焼防止材1は、例えば、比較的高粘度のケイ酸ナトリウムSSの水溶液を調製し、無機繊維基材2の一方の面に塗布した後、乾燥することにより、無機繊維基材2の一方の面にケイ酸ナトリウムSSを含有する層3を偏在させて形成することができる。この塗布には、グラビアコート法、スロットダイコート法、ナイフコート法、ブレードコート法、コンマコート法、リバースロールコート法、インクジェット法等が好適に使用される。
【0025】
一方、1層構造の延焼防止材1は、例えば、比較的低粘度のケイ酸ナトリウムSSの水溶液を調製し、無機繊維基材2に含浸させ、必要に応じて加圧した後、乾燥することにより、無機繊維基材2の空隙内にケイ酸ナトリウムSSを充填して製造することができる。
上記いずれの延焼防止材1も、ロール状に巻き取られた無機繊維基材2を送り出し、ケイ酸ナトリウムSSの水溶液を供給及び乾燥した後、ロール状に巻き取るロール・ツー・ロールにより好適に製造される。上述したように、延焼防止材1は、延焼防止材1の製造時においても、高い柔軟性を維持することができる。このため、延焼防止材1をロール状に巻き取る操作を良好に行なうことができ、ロール状に巻き取った後も延焼防止材1にひび割れ等が生じ難い。
【0026】
図2の構成例では層3及び
図3の構成例では延焼防止材1(以下、「ケイ酸ナトリウム含有部分」と記載する。)は、100℃以上300℃以下の温度範囲で吸熱することが好ましい。また、ケイ酸ナトリウム含有部分を100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率は15質量%以上であることが好ましい。
ケイ酸ナトリウム含有部分の吸熱は、ケイ酸ナトリウム含有部分中の水分(例えば、ケイ酸ナトリウム中の水分子)が100℃以上300℃以下の温度範囲で吸熱反応を起こすことにより生じると考えられる。一方、ケイ酸ナトリウム含有部分の質量減少は、この吸熱反応によって生じると考えられる。
したがって、ケイ酸ナトリウム含有部分を100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率は、ケイ酸ナトリウム含有部分に含まれる水分量及び吸熱量と相関している。このため、ケイ酸ナトリウム含有部分の質量減少率が15質量%以上であることで、上記温度範囲における吸熱量が大きくなり、延焼防止材において充分な延焼防止性が得られると推察される。
なお、ケイ酸ナトリウム含有部分の吸熱は、例えば、熱重量-示差熱分析(TG-DTA)測定を行い、100℃以上300℃以下の温度範囲内の吸熱ピークの有無によって確認することができる。
【0027】
ケイ酸ナトリウム含有部分を100℃から300℃まで50℃/分で加熱したときの質量減少率は、15質量%以上30質量%以下程度であることが好ましく、17質量%以上28質量%以下程度であることがより好ましく、20質量%以上25質量%以下程度であることがさらに好ましく、23質量%以上25質量%以下程度であることが特に好ましく、23.5質量%以上25質量%以下程度であることが最も好ましい。より優れた延焼防止性を有する延焼防止材が得られ易い。なお、上記質量減少率は、下記式2により算出することができる。
式2:質量減少率(質量%)=[ケイ酸ナトリウム含有部分の質量減少量]/[ケイ酸ナトリウム含有部分の100℃での質量]×100
ここで、ケイ酸ナトリウム含有部分の質量減少量とは、ケイ酸ナトリウム含有部分の100℃での質量とケイ酸ナトリウム含有部分の300℃での質量の差である。ケイ酸ナトリウム含有部分が複数存在する場合、各ケイ酸ナトリウム含有部分の質量減少率が上記範囲であってよく、全てのケイ酸ナトリウム含有部分の質量減少率の合計が上記範囲であってもよい。
【0028】
延焼防止材は、絶縁性を有することが好ましい。この場合、例えば、ケイ酸ナトリウムを担持した無機繊維基材の両側面を樹脂製のシート材で保護したり、ケイ酸ナトリウムを担持した無機繊維基材を後述する外装体5に収容することにより、延焼防止材により高い絶縁性を付与することができる。ここで、絶縁性を有するとは、体積抵抗率測定により測定される電気抵抗率が108Ω・cm以上であることを意味する。
延焼防止材は、シート状(例えば、平板状)であってもよく、所定の形状に加工されていてもよい。所定の形状は、延焼防止材の設置箇所の形状に応じて適宜設定されてよい。
所定の形状は、例えば、延焼防止材の設置箇所の形状(延焼防止材と対向配置される部材の表面形状等)に沿う形状であってよい。形状の具体例としては、表面に凹凸を有するシート状、90°以上の角度の曲部を有するシート状等が挙げられる。凹凸の形状(凸部及び凹部の形状)は、特に限定されず、断面矩形状、断面V字状、断面U字状等であってよい。
所定の形状に加工された延焼防止材は、後述の製造方法によって製造されることで、無機繊維基材とケイ酸ナトリウムとに分離及び破断等の発生を防止することができる。延焼防止材に分離及び破断が発生していないことは、例えば、延焼防止材の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することにより確認することができる。
【0029】
所定の形状に加工された延焼防止材は、その形状を保持することができる。延焼防止材が所定の形状を保持可能であることは、延焼防止材の三点曲げ強度により定量化することができる。
具体的には、JIS K 7171に従って測定される延焼防止材の三点曲げ強度は、0.5MPa以上5MPa以下程度であることが好ましく、0.8MPa以上4MPa以下程度であることがより好ましく、1MPa以上3MPa以下程度であることがさらに好ましい。かかる三点曲げ強度の延焼防止材は、所定の形状を保持するために充分な強度を有すると言うことができる。
無機繊維基材とケイ酸ナトリウムとの全体での厚さ(
図2及び
図3の構成例では、延焼防止材1の厚さ)は、5mm以下程度であることが好ましく、1mm以上5mm以下程度であることが好ましく、1.2mm以上4mm以下程度であることがより好ましく、1.5mm以上3mm以下程度であることがさらに好ましい。この場合、より高い延焼防止性を有する延焼防止材が得られるとともに、組電池内の延焼防止材の配置スペースが大きくなるのを抑制することができる。
【0030】
図4に示すように、延焼防止材1は、さらに、無機繊維基材2とケイ酸ナトリウムSSとを収容する外装体5を備えていてもよい。換言すれば、延焼防止材1は、ケイ酸ナトリウムSSを担持した無機繊維基材2である延焼防止材本体と、この延焼防止材本体を収容する外装体5とを備えると言うこともできる。外装体5内にケイ酸ナトリウムSSを収容することにより、延焼防止材1から散逸する水分の量を調整(低減)することができる。
図4(a)は、外装体を備える延焼防止材の実施形態を模式的に示す平面図である。
図4(b)は、外装体を備える延焼防止材の実施形態を模式的に示す側面図及び端部の断面を示す拡大図である。
外装体5の40℃且つ90%RHでの水蒸気透過率は、15g/m
2/day以下程度であることが好ましく、10g/m
2/day以下程度であることがより好ましく、5g/m
2/day以下程度であることがさらに好ましく、1g/m
2/day以下程度であることが特に好ましい。なお、外装体の40℃での水蒸気透過率の下限値は、0.01g/m
2/day程度である。外装体5の水蒸気透過率を上記範囲に設定することにより、延焼防止材1から散逸する水分の量をより確実に調整(低減)することができ、よって、延焼防止性がより向上する。
なお、水蒸気透過率(水蒸気透過度)は、JIS K 7129-2:2019に従った方法により測定される。
【0031】
外装体5は、2つのシート材5a、5bの外周をシール部50でシールすることにより、その内側に無機繊維基材2とケイ酸ナトリウムSSとの複合体を収容している。シール部50は、融着(超音波融着、高周波融着、熱融着)等の方法で、2つのシート材5a、5bの外周を接合することにより形成されている。なお、1つのシート材を2つ折りにし、その外周をシール部でシールすることにより、その内側に無機繊維基材2とケイ酸ナトリウムSSとの複合体を収容するように構成することもできる。
本実施形態では、各シート材5a、5bは、基材層51と、基材層51の内面側に設けられたシール層52と、基材層51の外面側に設けられた保護層53とを有する積層体である。
【0032】
基材層51は、シート材5a、5bに機械的強度を付与する機能、及び水分(水蒸気)の透過を調整(阻止)する機能等を有する。
基材層51は、金属箔で構成してもよい。この金属箔の構成材料としては、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金、ニッケル又はニッケル合金、ステンレス鋼等が挙げられる。
基材層51の厚さは、特に限定されないが、5μm以上100μm以下程度であることが好ましく、8μm以上80μm以下程度であることがより好ましく、12μm以上60μm以下程度であることがさらに好ましい。この場合、シート材5a、5bの適度な水蒸気透過性、及び十分な柔軟性を確保することができる。
【0033】
シール層52は、融着されることにより外装体5をシールする機能等を有する。
シール層52の構成材料(融着可能な材料)としては、例えば、ポリエチレン(LDPE、LLPDE)、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリメチルペンテン等が挙げられる。シール層52の構成材料としては、ポリプロピレンがより好ましく、無延伸ポリプロピレンがさらに好ましい。
シール層52の厚さは、特に限定されないが、5μm以上200μm以下程度であることが好ましく、10μm以上100μm以下程度であることがより好ましく、20μm以上120μm以下程度であることがさらに好ましく、30μm以上80μm以下程度であることが特に好ましい。これにより、各シート材5a、5bの柔軟性を確保しつつ、シール性を高めることができる。
【0034】
保護層53は、基材層51を保護(基材層51の腐食等を防止)する機能等を有する。
保護層53の構成材料には、比較的硬質な樹脂材料が用いられる。かかる硬質な樹脂材料としては、例えば、ポリアミド系樹脂(ナイロン)、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
保護層53の厚さは、特に限定されないが、5μm以上100μm以上程度であることが好ましく、10μm以上50μm以上程度であることがより好ましく、15μm以上30μm以上程度であることがさらに好ましい。
【0035】
外装体の厚さは、特に限定されないが、250μm以下程度であることが好ましく、200μm以下程度であることがより好ましく、100μm以下程度であることがさらに好ましい。この場合、外装体5の水蒸気透過率を上記範囲に設定し易くなる。その結果、延焼防止材1から散逸する水分の量を好適に調整(低減)することができ、よって、延焼防止性がより向上する。
なお、シート材5a、5bは、3層構成に限らず、必要な特性に応じて、単層(1層)構成であってもよく、2層構成であってもよく、4層以上の構成であってもよい。
以上、一実施形態に係る延焼防止材について説明したが、本発明の延焼防止材は、上記実施形態に限定されない。
本発明の他の一実施形態として、2つ以上の電池セルと、隣り合う電池セルの間に配置された、上記延焼防止材とを備える組電池を提供する。この組電池は、例えば、リチウムイオン電池である。
本発明の他の一実施形態として、自動車本体と、自動車本体に搭載された、上記組電池とを備える自動車を提供する。
さらに、次に記載の各態様で提供されてもよい。
【0036】
(1)延焼防止材であって、無機繊維を含有する無機繊維基材と、前記無機繊維基材に担持されたケイ酸ナトリウムとを備え、前記ケイ酸ナトリウムは、100℃での含水率が15質量%以上35質量%以下である、延焼防止材。
【0037】
(2)上記(1)に記載の延焼防止材において、前記ケイ酸ナトリウムは、30℃から100℃での含水率の減少割合が0.75質量%/℃以下である、延焼防止材。
【0038】
(3)上記(1)又は(2)に記載の延焼防止材において、前記無機繊維の構成材料は、シリカ(SiO2)及びアルミナ(Al2O3)からなる群より選択される少なくとも1種を含む、延焼防止材。
【0039】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の延焼防止材において、前記無機繊維基材は、湿式抄造シートである、延焼防止材。
【0040】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の延焼防止材において、前記ケイ酸ナトリウムは、前記無機繊維基材の一方の面側に偏在しているか、又は前記無機繊維基材に含浸されている、延焼防止材。
【0041】
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の延焼防止材において、前記無機繊維基材と前記ケイ酸ナトリウムとの全体での厚さは、5mm以下である、延焼防止材。
【0042】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つに記載の延焼防止材において、さらに、前記無機繊維基材と前記ケイ酸ナトリウムとを収容する外装体を備える、延焼防止材。
【0043】
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つに記載の延焼防止材において、前記外装体は、その40℃且つ90%RHでの水蒸気透過率が15g/m2/day以下であり、厚さが250μm以下である、延焼防止材。
【0044】
(9)上記(1)~(8)のいずれか1つに記載の延焼防止材において、2つ以上の電池セルを備える組電池の隣り合う2つの前記電池セルの間に配置して使用される、延焼防止材。
【0045】
(10)組電池であって、2つ以上の電池セルと、隣り合う前記電池セルの間に配置された、上記(1)~(9)のいずれか1つに記載の延焼防止材とを備える、組電池。
【0046】
(11)自動車であって、自動車本体と、前記自動車本体に搭載された、上記(10)に記載の組電池とを備える、自動車。
もちろん、この限りではない。
【0047】
最後に、本開示に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0048】
以下、本発明について以下の実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
1.材料の準備
<ケイ酸ナトリウム>
SS1:SiO2/Na2Oモル比=2.1
SS2:SiO2/Na2Oモル比=3.2
SS3:SiO2/Na2Oモル比=3.7
【0050】
<無機繊維>
F1:ガラス繊維(平均繊維径10μm)
<有機バインダー>
B1:ビニロン繊維(平均繊維径5μm)
【0051】
2.ケイ酸ナトリウムの含水率変化及び結果
各ケイ酸ナトリウムSS1~SS3につき、熱重量測定装置(NETZSCH Japan製、「高感度差動型示差熱天秤STA 2500 Regulus」)を使用して、1000℃までの質量変化を測定した。1000℃での測定値を「各ケイ酸ナトリウムSS1~SS3に含まれる固形分量」と規定し、この固形分量の値と熱重量測定の測定値とから、各ケイ酸ナトリウムSS1~SS3における含水率変化を求めた。
図5は、温度変化に伴うケイ酸ナトリウムの含水率変化(減少割合)を示グラフである。
【0052】
ケイ酸ナトリウムSS1は、その30℃での含水率が55質量%であり、100℃での含水率が26質量%であり、30℃から100℃での含水率の減少割合が0.53質量%/℃であった。
ケイ酸ナトリウムSS2は、その30℃での含水率が61質量%であり、100℃での含水率が19質量%であり、30℃から100℃での含水率の減少割合が0.69質量%/℃であった。
ケイ酸ナトリウムSS3は、その30℃での含水率が61質量%であり、100℃での含水率が13質量%であり、30℃から100℃での含水率の減少割合が0.79質量%/℃であった。
このように、ケイ酸ナトリウムSS1、ケイ酸ナトリウムSS2及びケイ酸ナトリウムSS3は、それらの含水率の大小関係の順序が30℃と100℃とで逆転していた。
【0053】
3.無機繊維基材(湿式抄造シート)の作製
6.5質量部の無機繊維F1と0.7質量部の有機バインダーB1とを純水100質量部に加え、特殊機化工業社製ホモミキサーで2時間混合して分散液を得た。この分散液を抄紙用スクリーンに抄造し、ヤンキードライヤーで乾燥することにより、厚さの異なる湿式抄造シート(不織布)A及び湿式抄造シート(不織布)Bを作製した。
なお、湿式抄造シートAの厚さは1.5mm、目付量は73g/m2であった。また、湿式抄造シートBの厚さは1.5mm、2mm及び3mm、目付量は120g/m2であった。
【0054】
4.延焼防止材の作製
(実施例1)
所定の固形分含有量に調製したケイ酸ナトリウムSS1の水溶液を、湿式抄造シート(無機繊維基材)Aの上面に、スロットダイコート法により供給した後、30℃で乾燥させた。これにより、湿式抄造シートとケイ酸ナトリウムSS1を含有する上層とを備える2層構造の延焼防止材(総厚:3mm)を作製した。
(実施例2)
ケイ酸ナトリウムSS1をケイ酸ナトリウムSS2に変更した以外は、実施例1と同様にして、2層構造の延焼防止材を作製した。
(比較例1)
ケイ酸ナトリウムSS1をケイ酸ナトリウムSS3に変更した以外は、実施例1と同様にして、2層構造の延焼防止材を作製した。
【0055】
(実施例3)
所定の固形分含有量に調製したケイ酸ナトリウムSS1の水溶液を、湿式抄造シート(無機繊維基材)Bに含浸させるとともに、ローラで圧縮した後、30℃で乾燥させた。これにより、湿式抄造シートの空隙内にケイ酸ナトリウムSS1が充填された1層構造の延焼防止材(総厚:1.5mm、2mm及び3mm)を作製した。
(実施例4)
ケイ酸ナトリウムSS1をケイ酸ナトリウムSS2に変更した以外は、実施例3と同様にして、1層構造の延焼防止材を作製した。
(比較例2)
ケイ酸ナトリウムSS1をケイ酸ナトリウムSS3に変更した以外は、実施例3と同様にして、1層構造の延焼防止材を作製した。
【0056】
5.測定及び評価
5-1.吸熱ピークの確認
まず、得られた延焼防止材の一部を採取し、粉砕することにより測定サンプルを得た。次いで、熱重量-示差熱分析装置(TG-DTA)を用いて、上記測定サンプルのDTA測定を行い、10℃/分の速度で室温から300℃まで昇温した際の示差熱曲線を求めた。
得られた示差熱曲線において、100℃から300℃までの温度範囲に吸熱ピークが存在するか否かを確認した。
【0057】
5-2.延焼防止性の評価
650℃に加熱したホットプレート(MSAファクトリー社製、「PA8015」)上に、厚さ3mmの延焼防止材と、K熱電対と、アルミブロック(500g)とをこの順で積層配置した。そして、120秒経過後の延焼防止材の裏面温度(ホットプレートと反対側の表面温度)を測定し、以下の基準に従って延焼防止性を評価した。
【0058】
A:延焼防止材の裏面温度が150℃以下であった。
B:延焼防止材の裏面温度が150℃より高く、190℃以下であった。
C:延焼防止材の裏面温度が190℃より高かった。
なお、上記基準で「B」である場合に、延焼防止材が充分な延焼防止性を有すると評価し、「A」である場合に、延焼防止材が優れた延焼防止性を有すると評価した。
その結果を、以下の表1及び表2に示す。
【0059】
【0060】
【0061】
実施例3、実施例4及び比較例2の延焼防止材(厚さ3mm)のそれぞれを、2枚の外装シート(凸版印刷社製、「GX-P-F」、厚さ200μm、水蒸気透過率0.05g/m2/day(40℃、90%RH))で挟み、その外周部をシールして外装体を作製した。これにより、外装体を備える延焼防止材を得た。この外装体を備える延焼防止材について、「5-2.延焼防止性の評価」で記載した方法に従って、延焼防止性について評価した。
この結果を、以下の表3に示す。
【0062】
【0063】
6.模擬燃焼試験
図6は、模擬燃焼試験用の電池セル組立体の構成を示す模式図である。
(試験例1)
まず、4つの電池セル(「ラミネート型」、「容量約80Ah」)を用意した。なお、1つの電池セルのサイズは、全長545mm、幅98mm、厚さ9mmであり、重量は、1.1kgであった。隣り合う電池セルの間にそれぞれ1枚の実施例3の延焼防止材(厚さ1mm)を配置した。すなわち、電池セル間隔を1mmとした。この積層体の上下にベークライト板を配置した状態で、拘束治具により固定した。これにより、電池セル組立体を作製した。
なお、下側のベークライト板には、第1の電池セルに接触するように、ヒータを設けた。
【0064】
(試験例2)
次のように変更した以外は、試験例1と同様にして、電池セル組立体を作製した。
第1の電池セルと第2の電池セルとの間に1枚の実施例3の延焼防止材(厚さ1.5mm)、第2の電池セルと第3の電池セルとの間に1枚の実施例3の延焼防止材(厚さ1.5mm)、第3の電池セルと第4の電池セルとの間に1枚の実施例3の延焼防止材(厚さ2mm)を配置した。すなわち、電池セル間隔を下側から、それぞれ1.5mm、1.5mm、2mmとした。
(参考例)
第1の電池セルと第2の電池セルとの間には何も配置せず、第2の電池セルと第3の電池セルとの間及び第3の電池セルと第4の電池セルとの間には、それぞれ厚さ1mmのアルミナ繊維基材(デンカ株式会社製、「アルセンペーパー」)を配置した以外は、試験例1と同様にして、電池セル組立体を作製した。
【0065】
各電池セル組立体のヒータに800Wの電力を入力し、第1の電池セルが発火した後、第2の電池セル、第3の電池セル、第4の電池セルが発火するまでの時間を測定した。なお、第1の電池セルが発火するまでに、約12秒を要した。
この結果を、以下の表4に示す。
【表4】
【0066】
なお、ガラス繊維に代えて、シリカ繊維、アルミナ繊維又はアルミナシリカ繊維を使用しても、上記と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0067】
1 :延焼防止材
2 :無機繊維基材
3 :層
5 :外装体
5a :シート材
5b :シート材
50 :シール部
51 :基材層
52 :シール層
53 :保護層
SS :ケイ酸ナトリウム
【要約】
【課題】充分な延焼防止を有する延焼防止材、この延焼防止材を用いた組電池、及びこの組電池を備える自動車を提供する。
【解決手段】本発明の一態様によれば、延焼防止材が提供される。この延焼防止材は、無機繊維を含有する無機繊維基材と、無機繊維基材に担持されたケイ酸ナトリウムとを備える。ケイ酸ナトリウムは、100℃での含水率が15質量%以上35質量%以下である。
【選択図】
図1