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  • 特許-眼鏡レンズ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/02 20060101AFI20240606BHJP
   G02B 1/18 20150101ALI20240606BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
G02C7/02
G02B1/18
G02B5/22
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023511700
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2022016492
(87)【国際公開番号】W WO2022211018
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2021061557
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星 雄治
(72)【発明者】
【氏名】小島 健治
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-94468(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143329(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/262658(WO,A1)
【文献】特開昭50-137557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10 - 1/18
G02C 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に最外層として設けられた吸水性防曇層とを有し、
前記吸水性防曇層は紫外線吸収剤を含み、
前記吸水性防曇層は、少なくとも350~370nmにおける光透過率が5%未満であり、光透過率が5%以上になる波長が370nm以上である分光特性を有し、
前記紫外線吸収剤が、下記一般式(4)で表される化合物及び下記一般式(5)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、眼鏡レンズ。
【化1】

[式(4)において、n1は2又は3である。]
【化2】

[式(5)において、n2は2又は3であり、n3は2又は3である。]
【請求項2】
前記吸水性防曇層が、下記の成分(A)~(C)を含む塗布組成物の硬化膜からなる請求項1に記載の眼鏡レンズ。
成分(A):下記一般式(1)で表されるモノマー(a-1)に由来する構成単位、下記一般式(2)で表されるモノマー(a-2)に由来する構成単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a-3)に由来する構成単位、及び、下記一般式(3)で表されるモノマー(a-4)に由来する構成単位を有する(メタ)アクリル系樹脂(A)
成分(B):ポリオール化合物(B)
成分(C):多官能イソシアネート化合物(C)
【化3】

[一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。]
【化4】

[一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、mは1~5の整数である。]
【化5】

[一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは2価の有機基であり、nは0又は1以上の整数である。]
【請求項3】
前記基材が着色剤によって染色されている、請求項1又は2に記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記基材が灰色に染色されている、請求項に記載の眼鏡レンズ。
【請求項5】
前記基材が樹脂製である、請求項1~4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は眼鏡レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズの曇り防止のために、レンズ基材上に防曇層を設けることが提案されている。例えば、特許文献1には、眼鏡レンズに吸水層からなる防曇層を設けることが記載されている。
一方、眼鏡レンズが様々な環境で長期間使用されることを考慮して、防曇層を定期的に形成し直す手間を省くことができるような耐久性の高い防曇層を設けることも要請されている。このため、防曇層に吸水成分と滑り成分とを配合することによって吸水性と撥水性とを併せ持つものとし、耐擦傷性や低摩擦抵抗性を付与することが考えられる。
このような機能を防曇層に付与すると、防曇層の耐久性が高くなる結果、防曇層にも耐光性が求められるようになる。このため、防曇層に紫外線吸収剤を配合することにより、防曇層の光劣化を抑制することが考えられる。なお、上記特許文献1には、基材の劣化が懸念される場合には、吸水層に紫外線吸収剤を含有させることが好ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2013/005710号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上のように耐久性を高くした防曇層を有する眼鏡レンズの場合、単に紫外線吸収剤を配合するだけでは、光照射を受けることにより視感透過率及び色調に経時変化が生じるという問題のあることが判明した。この問題はレンズ基材が灰色などの無彩色に染色されたものである場合に顕著である。
【0005】
本開示は、上記問題に鑑みて、防曇性を有し、耐光性に優れ、色味の変化が少ない眼鏡レンズを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、吸水性防曇層に特定の特性を有する紫外線吸収剤を含ませることで上記課題を解決し得ることを見出し、本開示を完成した。
すなわち、本開示は、以下の[1]~[7]を提供するものである。
[1]基材と、上記基材上に最外層として設けられた吸水性防曇層とを有し、
前記吸水性防曇層は紫外線吸収剤を含み、
前記吸水性防曇層は、少なくとも350~370nmにおける光透過率が5%未満であり、光透過率が5%以上になる波長が370nm以上である分光特性を有する、眼鏡レンズ。
[2]前記吸水性防曇層が、下記の成分(A)~(C)を含む塗布組成物の硬化膜からなる上記[1]に記載の眼鏡レンズ。
成分(A):下記一般式(1)で表されるモノマー(a-1)に由来する構成単位、下記一般式(2)で表されるモノマー(a-2)に由来する構成単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a-3)に由来する構成単位、及び、下記一般式(3)で表されるモノマー(a-4)に由来する構成単位を有する(メタ)アクリル系樹脂(A)
成分(B):ポリオール化合物(B)
成分(C):多官能イソシアネート化合物(C)
【化1】

[一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。]
【化2】

[一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、mは1~5の整数である。]
【化3】

[一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは2価の有機基であり、nは0又は1以上の整数である。]
[3]前記紫外線吸収剤が、下記一般式(4)で表される化合物を含む、上記[1]又は[2]に記載の眼鏡レンズ。
【化4】

[式(4)において、n1は2又は3である。]
[4]前記紫外線吸収剤が、下記一般式(5)で表される化合物を含む、上記[1]又は[2]に記載の眼鏡レンズ。
【化5】

[式(5)において、n2は2又は3であり、n3は2又は3である。]
[5]前記基材が着色剤によって染色されている、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
[6]前記基材が灰色に染色されている、上記[5]に記載の眼鏡レンズ。
[7]前記基材が樹脂製である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、防曇性を有し、耐光性に優れ、色味の変化が少ない眼鏡レンズを提供する眼鏡レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、眼鏡レンズ10の断面模式図及び部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態及び実施例について説明する。同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。以下に説明する実施の形態及び実施例において、個数、量等に言及する場合、特に記載がある場合を除き、本開示の範囲は必ずしもその個数、量等に限定されない。以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本開示の実施の形態及び実施例にとって必ずしも必須のものではない。
【0010】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含する。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)、及び、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)を包含する。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタアクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書中、モノマー(a-1)に由来する構成単位を「構成単位(a-1)」、モノマー(a-2)に由来する構成単位を「構成単位(a-2)」、モノマー(a-3)に由来する構成単位を「構成単位(a-3)」、モノマー(a-4)に由来する構成単位を「構成単位(a-4)」と称することがある。
【0011】
[眼鏡レンズ]
本開示の実施形態に係る眼鏡レンズは、基材と、該基材上に最外層として設けられた吸水性防曇層とを有し、上記吸水性防曇層は紫外線吸収剤を含み、また、上記吸水性防曇層は、少なくとも350~370nmにおける光透過率が5%未満であり、光透過率が5%以上になる波長が370nm以上である分光特性を有する。
【0012】
図1は、眼鏡レンズの一例である眼鏡レンズ10の断面模式図及び部分拡大図である。眼鏡レンズ10の構成について図1を参照して説明する。眼鏡レンズ10は、レンズ本体を備えている。レンズ本体は後述するレンズ基材11によって構成される。
図1に示すように、眼鏡レンズ10は、レンズ本体を構成する基材である眼鏡用レンズ基材11(以下単に「レンズ基材」ともいう)を有する。レンズ基材11は第1主面111、第2主面112及びコバ面113を有する。レンズ基材11の第1主面111上には吸水性防曇層20が設けられている。レンズ基材11の第2主面112上にも吸水性防曇層21が設けられている。
吸水性防曇層20、21は眼鏡レンズ10の最外層であり、吸水性防曇層20、21が外部空間に曝されている。
【0013】
レンズ基材11は、図1の部分拡大図に示すように、第1主面111付近に染色層11aが形成され、第2主面112付近に染色層11bが形成されている。
染色層11a、11bは、所定の染料により染色された層である。レンズ基材が上記染色層を有することにより、眼鏡レンズを任意の色(例えば灰色)に着色したものとすることができる。
【0014】
吸水性防曇層はいずれか一方の主面のみに設けられていてもよい。例えば、図1の第1主面111上の吸水性防曇層20のみが設けられた態様でもよいし、図1の第2主面112上の吸水性防曇層21のみが設けられた態様でもよい。
また、レンズ基材を形成する際の原料に着色剤を混合しておくことにより、レンズ基材全体に染料を分散させてもよい。
【0015】
眼鏡レンズが、後述する塗布組成物の硬化物のような、吸水性と撥水性とを併せ持つ防曇層を備えることにより、優れた防曇性に加えて、耐擦傷性や低摩擦抵抗性が付与される。また、上記防曇層が特定の物性を有する紫外線吸収剤を含むことにより、防曇層が耐光性に優れたものとなり、かつ、耐光性に優れ、眼鏡レンズを長期間使用しても色味の変化が少ない。したがって、レンズ基材が染色されており、特に灰色のような無彩色に着色されていたとしても、色味が変化しづらい。
【0016】
<レンズ基材>
レンズ基材は、例えば、眼鏡レンズ基材である。レンズ基材は好ましくは樹脂製である。レンズ基材は、上述したように着色剤によって染色されたものであってもよく、例えば灰色に染色されたものであってもよい。
レンズ基材を形成する樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ウレタンウレア樹脂、アクリルアリル樹脂、(チオ)ウレタン樹脂、ポリスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。(チオ)ウレタン樹脂とは、チオウレタン樹脂、及びウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種を意味する。これらの中でも(チオ)ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルフィド樹脂が好ましい。
【0017】
また、本実施形態の眼鏡レンズに用いるレンズ基材は、屈折率1.50以上であることが好ましく、屈折率1.60以上のプラスチック製レンズ基材であることがより好ましい。
好ましいプラスチック製レンズ基材の市販品としては、アリルポリカーボネート系プラスチックレンズ「HILUX1.50」(HOYA株式会社製、屈折率1.50)、チオウレタン系プラスチックレンズ「MERIA」(HOYA株式会社製、屈折率1.60)、チオウレタン系プラスチックレンズ「EYAS」(HOYA株式会社製、屈折率1.60)、チオウレタン系プラスチックレンズ「EYNOA」(HOYA株式会社製、屈折率1.67)、ポリスルフィド系プラスチックレンズ「EYRY」(HOYA株式会社製、屈折率1.70)、ポリスルフィド系プラスチックレンズ「EYVIA」(HOYA株式会社製、屈折率1.74)等が挙げられる。
【0018】
(着色剤)
レンズ基材を染色するための着色剤は、レンズ基材に染色処理を行うための溶液に添加して用いられる。
基材を染色するための着色剤としては、分散染料や油溶染料等の染料や、顔料が挙げられる。これらの染料や顔料を1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を併用してもよい。
基材が灰色に着色されている場合、黄変による色味の変化が人間の眼に感じられやすいため、上記吸水性防曇層を設けることによる黄変抑制の効果が顕著である。基材を灰色に着色する染料としては、アゾ系の分散染料、アントラキノン系の分散染料等が挙げられる。
【0019】
<基材のサイズ・光学物性等>
基材の厚さ及び直径は、特に限定されるものではないが、厚さは通常1~30mm程度、直径は通常50~100mm程度である。
基材の屈折率neは、好ましくは1.50以上、より好ましくは1.53以上、更に好ましくは1.55以上、更により好ましくは1.58以上、更により好ましくは1.60以上、特に好ましくは1.67以上であり、好ましくは1.80以下、より好ましくは1.70以下である。
レンズ基材としては、フィニッシュレンズ、セミフィニッシュレンズのいずれであってもよい。
レンズ基材の表面形状は特に限定されず、平面、凸面、凹面等のいずれであってもよい。
本開示の眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等のいずれであってもよい。累進屈折力レンズについては、通常、近用部領域(近用部)及び累進部領域(中間領域)が、前述の下方領域に含まれ、遠用部領域(遠用部)が上方領域に含まれる。
【0020】
<吸水性防曇層>
吸水性防曇層は眼鏡レンズの最外層に位置しており、少なくとも350~370nmにおける光透過率が5%未満であり、光透過率が5%以上になる波長が370nm以上である分光特性を有する。
吸水性防曇層が眼鏡レンズの最外層に位置することで、外部環境に存在する水分によって眼鏡レンズが曇ることを防止する。また、吸水性防曇層が上記の分光特性を有することにより、外部から眼鏡レンズに向かう光に含まれる紫外線がレンズ基材に進入することが抑制され、眼鏡レンズが長時間紫外線に曝された場合に、吸水性防曇層の黄変が防止されるとともに、レンズ基材に染色を施した場合の染料の退色を抑制することができる。
【0021】
吸水性防曇層は、少なくとも350~370nmにおける光透過率が5%未満であり、光透過率が5%以上になる波長が、好ましくは375nm以上、より好ましくは380nm以上、更に好ましくは382nm以上であり、また、好ましくは420nm以下であり、より好ましくは400nm以下である分光透過率を有する。
吸水性防曇層の350nm未満の波長における光透過率は、好ましくは1%以下である。
【0022】
吸水性防曇層は吸水性を有する層である。ここで吸水性とは、材料が水分を取り込む特性を示すことを意味し、上記防曇層が形成された透明基材を室温下で保管した後、当該防曇層付き透明基材を40℃の温水の水面から35mm離れた位置に設置して温水からの蒸気を15秒間当てたときに、細かい水滴による防曇層表面の乱反射が無く、かつ、蒸気を接触させた後の防曇層付き透明基材を通して見た像に結露による歪みが無いことを意味する。
【0023】
吸水性防曇層は、撥水性能を有することが好ましい。これにより、防曇性能がより向上する。
上記吸水性防曇層は、吸水性を有する樹脂材料からなる単層のものであって、水に対する接触角が85°~120°の単層のものであることが好ましい。
吸水性防曇層が上記の特性を有するものであると、吸水性を有することに加えて、耐擦傷性、低摩擦抵抗性、耐溶剤性等の特性を付与しやすくなり、吸水性防曇層が眼鏡レンズの最外層に位置していても高い耐久性を発揮するようになる。
防曇層の水に対する接触角は、20℃において、測定対象である平坦な防曇層の表面に20μlの純水の水滴を接触させて着滴し、着滴から30秒後における水滴と防曇層表面とのなす角度で表される。
【0024】
(吸水性防曇層の厚さ)
吸水性防曇層の厚さは、製造容易性の観点から、好ましくは1~100μm、より好ましくは3~60μm、更に好ましくは6~50μm、より更に好ましくは8~40μm、より更に好ましくは8~40μm、より更に好ましくは12~30μmである。
前記吸水性防曇層の厚さは、防曇性向上の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは6μm以上、より更に好ましくは8μm以上、より更に好ましくは12μm以上であり、製造容易性の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは60μm以下、更に好ましくは50μm以下、より更に好ましくは40μm以下、より更に好ましくは30μm以下である。
【0025】
(塗布組成物)
吸水性防曇層は、シロキサン化合物に由来する構成単位及びアクリルアミドに由来する構成単位を含む塗布組成物の硬化膜であることが好ましい。
吸水性防曇層がシロキサン化合物に由来する構成単位を有することにより、吸水性防曇層の滑り性が向上し、その結果、吸水性防曇層の耐擦傷性が向上する。また、吸水性防曇層がアクリルアミドに由来するアミド基を有することにより、吸水性防曇層の親水性が大きくなり、これにより吸水性能が向上し、その結果、防曇性が向上する。
【0026】
上記吸水性防曇層は、好ましくは下記の成分(A)~(C)を含む塗布組成物の硬化膜からなる。
成分(A):下記一般式(1)で表されるモノマー(a-1)に由来する構成単位、下記一般式(2)で表されるモノマー(a-2)に由来する構成単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a-3)に由来する構成単位、及び、下記一般式(3)で表されるモノマー(a-4)に由来する構成単位を有する(メタ)アクリル系樹脂
成分(B):ポリオール化合物(B)
成分(C):多官能イソシアネート化合物(C)
【化6】

[一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。]
【化7】

[一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、mは1~5の整数である。]
【化8】

[一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは2価の有機基であり、nは0又は1以上の整数である。]
【0027】
樹脂(A)((メタ)アクリル系樹脂ともいう。)に含まれる構成単位(a-1)はアミド基を有しており、親水性が大きく、水分を抱え込みやすい。このため、塗布組成物を硬化することにより得られる吸水性防曇層の表面に付着した水分は、硬化内部へと吸収されやすくなると考えられる。また、ポリオール化合物(B)を配合することで、吸水性防曇層として必要な架橋密度を保ちつつ、水分が十分に吸収されるような隙間を存在させることができると考えられる。これらの理由で、上記塗布組成物の硬化膜に防曇性が付与されると考えられる
【0028】
また、樹脂(A)に含まれる構成単位(a-2)はポリカプロラクトン構造を有する構成単位であり、その柔軟な化学骨格により吸水性防曇層の柔軟性及び弾力性の向上に寄与する。加えて、構成単位(a-2)よりも剛直な構成単位(a-3)を含むことにより、柔軟性と弾力のバランスが確保される。一方で、構成単位(a-4)が有するポリジメチルシロキサン鎖は、吸水性防曇層に対して滑り性の向上に寄与する。このため、吸水性防曇層に外力が加わった際には、吸水性防曇層の柔軟性・弾力性によって外力を吸収しつつ、滑り性によって外力を吸水性防曇層外へ逃がすという、上記の2つの効果が相乗的に発現し、結果として吸水性防曇層には傷が付きにくくなると考えられる。
【0029】
塗布組成物は、成分(A)を構成する全構成単位100質量%に対し、モノマー(a-1)に由来する構成単位の割合が20質量%以上65質量%以下、モノマー(a-2)に由来する構成単位の割合が10質量%以上40質量%以下、モノマー(a-4)に由来する構成単位の割合が1質量%以上10質量%以下、であり、成分(C)に含まれるイソシアネート基の数(NCO)と、成分(A)に含まれる水酸基の数及び成分(B)に含まれる水酸基の数を足し合わせた総量(OH)との比(NCO)/(OH)が、0.15以上0.55以下であることが好ましい。
塗布組成物の組成をこのようにすると、成分(A)中の、水酸基を有する構成単位(a-2)及び構成単位(a-3)のバランス(量比)を取りつつ、当量比(NCO/OH)が1よりも小さい特定の範囲に設定され、摩擦抵抗が向上する程度にまで吸水性防曇層の硬さを高めることができると考えられる。加えて、成分(A)中の、水酸基を有する構成単位(a-2)及び構成単位(a-3)の構成バランスを取りつつ、かつ、当量比(NCO/OH)が1よりも小さい特定の範囲に設定され、吸水性防曇層の架橋密度が高くなり、吸水性防曇層の耐溶剤性が向上すると考えられる。
【0030】
本実施形態の塗布組成物の含有成分について、以下説明する。
(成分(A):(メタ)アクリル系樹脂)
本実施形態の塗布組成物は、成分(A)である(メタ)アクリル系樹脂、すなわち、下記一般式(1)で表されるモノマー(a-1)に由来する構成単位、下記一般式(2)で表されるモノマー(a-2)に由来する構成単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a-3)に由来する構成単位、及び、下記一般式(3)で表されるモノマー(a-4)に由来する構成単位を有する(メタ)アクリル樹脂を含むことが好ましい。
【0031】
前述したように、構成単位(a-1)が主として水(湿気)の吸収に関与しているものと考えられる。
(メタ)アクリル系樹脂は、典型的には、モノマー(a-1)、モノマー(a-2)、モノマー(a-3)及びモノマー(a-4)を重合させることで得ることができる。重合方法の詳細については後に述べる。
【0032】
なお、本実施形態においては、(メタ)アクリル系樹脂を構成する構成単位の100%が、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構成単位でなくてもよい。すなわち、(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系ではないモノマーに由来する構成単位を一部(全部ではない)含んでいてもよい。
(メタ)アクリル構造に由来する効果を十二分に得るためには、(メタ)アクリル系樹脂は、全構成単位中の50質量%以上が、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構成単位であることが好ましい。より好ましくは、(メタ)アクリル系樹脂の全構成単位中の80質量%以上が、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構成単位である。更に好ましくは、(メタ)アクリル系樹脂の全て(100%)の構成単位が、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構成単位である。
【0033】
モノマー(a-1)は、前述の一般式(1)の構造を持つものであれば特に限定されない。具体的には、(メタ)アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0034】
モノマー(a-1)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、上記に挙げたモノマーのうち2種以上を用いて重合反応を行うことで(メタ)アクリル系樹脂を得てもよい。
【0035】
モノマー(a-1)は、防曇性能向上の観点から、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドを含むことが特に好ましい。
【0036】
本実施形態において、(メタ)アクリル系樹脂中のモノマー(a-1)に由来する構成単位は、当該樹脂の全構成単位に対して、20~65質量%含むことが好ましい。より好ましくは35~60質量%、更に好ましくは40~55質量%である。モノマー(a-1)に由来する構成単位が20質量%以上であれば、実用に適した防曇性能を発揮する吸水性防曇層を形成しやすくなり、65質量%以下であれば、相対的に他のモノマーに由来する構成単位の比率が低下することが回避され、組成物全体としてのバランスを保ちやすくなる。
【0037】
モノマー(a-2)は、前述の一般式(2)の構造を持つものであれば特に限定されない。
本実施形態において、(メタ)アクリル系樹脂は、モノマー(a-2)に由来する構成単位を、当該樹脂の全構成単位に対して、好ましくは10~40質量%、より好ましくは20~38質量%、更に好ましくは25~35質量%含む。
【0038】
モノマー(a-2)に由来する構成単位が10質量%以上であれば、吸水性防曇層の柔軟性が確保されやすくなり、40質量%を以下であれば、吸水性防曇層の弾力性を確保しやすくなる。
(メタ)アクリル系樹脂は、モノマー(a-2)に由来する繰り返し単位を複数種含んでいてもよい。
【0039】
モノマー(a-3)はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートである。この具体例としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。本実施形態においては、これらの中でもヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
本実施形態において、(メタ)アクリル系樹脂中のモノマー(a-3)に由来する構成単位は、(メタ)アクリル系樹脂の全構成単位に対して、好ましくは1~30質量%、より好ましくは2~20質量%、更に好ましくは3~15質量%含まれる。
【0040】
なお、モノマー(a-3)は、モノマー(a-2)と同様に水酸基を有し、後述する多官能イソシアネート化合物と架橋反応を起こし、吸水性防曇層を形成する。
本実施形態においては、モノマー(a-2)だけで架橋反応を生じさせ、吸水性防曇層を形成するのではなく、モノマー(a-3)とともに多官能イソシアネート化合物と架橋反応を生じさせることで種々の物性を兼ね備えた吸水性防曇層とすることができる。
【0041】
前述したように、(メタ)アクリル系樹脂は、モノマー(a-2)及びモノマー(a-3)に由来する構成単位を含むため、全体として水酸基を有する、すなわち水酸基価を有する樹脂である。このため、後述のポリオール化合物とともに、後述の多官能イソシアネート化合物と反応し、架橋構造を形成することができる。
【0042】
(メタ)アクリル系樹脂の水酸基価は、40~150mgKOH/gであることが好ましく、70~140mgKOH/gであることがより好ましく、90~130mgKOH/gであることが更に好ましい。
この数値範囲とすることで、ポリオール化合物(後述)とともに、多官能イソシアネート化合物(後述)と反応し、架橋構造が適切に制御されやすくなる。そのため、吸水性防曇層の柔軟性・弾力性を維持しつつ、吸水性防曇層を硬くすることが可能となる。よって、吸水性防曇層の耐擦傷性、摩擦抵抗の低減、及び耐溶剤性とのより高度な両立を図りやすくなる。
なお、水酸基価とは、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数を意味する。
【0043】
モノマー(a-4)は、前述の一般式(3)の構造を持つものであれば特に限定されない。
【0044】
(メタ)アクリル系樹脂は、モノマー(a-4)に由来する繰り返し単位を複数種含んでいてもよい。例えば、上記に挙げたモノマーのうち2種以上を用いて重合反応を行うことで(メタ)アクリル系樹脂を得てもよい。
本実施形態において、(メタ)アクリル系樹脂中のモノマー(a-4)に由来する構成単位は、当該樹脂の全構成単位に対して、好ましくは1~10質量%、より好ましくは2~8質量%、更に好ましくは3~7質量%含まれる。
【0045】
モノマー(a-4)に由来する構成単位が1質量%以上であれば、耐擦傷性を満足する吸水性防曇層を得やすくなる。10質量%以下であれば、均質な樹脂(A)を合成しやすくなる。
【0046】
(メタ)アクリル系樹脂は、構成単位(a-1)、構成単位(a-2)、構成単位(a-3)、及び構成単位(a-4)以外の任意の構成単位(構成単位(a-5))を含んでもよいし、含まなくてもよい。構成単位(a-5)としては、例えば、以下で表されるモノマーに由来する構成単位が挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂にこのような構成単位を含めることで、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度や、吸水性防曇層の物性(吸水性防曇層の硬さ、柔らかさ等)の調整・最適化をすることができる。
【0047】
構成単位(a-5)としては、一般式CH2=CR-COO-R’において、Rが水素原子又はメチル基であり、R’が、アルキル基、単環又は多環のシクロアルキル基、アリール基、又はアラルキル基であるモノマー由来の構成単位であることが挙げられる。
このモノマーの具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、R’が炭素数1~8のアルキル基であるものが好ましく、R’が1~6のアルキル基であるものがより好ましく、R’が1~4のアルキル基であるものが更に好ましい。
【0048】
(メタ)アクリル系樹脂は、構成単位(a-5)に該当する繰り返し単位を複数種含んでいてもよい。例えば、上記で具体例として挙げられたモノマーのうち2種以上を用いて重合反応を行うことで(メタ)アクリル系樹脂を得てもよい。
(メタ)アクリル系樹脂が構成単位(a-5)を含む場合、その含有量は、(メタ)アクリル系樹脂の全構成単位に対して、好ましくは1~40質量%、より好ましくは3~30質量%、更に好ましくは5~20質量%である。
【0049】
(メタ)アクリル系樹脂の質量平均分子量(Mw)は、特に限定はされないが、10,000~100,000であることが好ましく、20,000~70,000であることがより好ましく、30,000~60,000であることが更に好ましい。質量平均分子量が10,000以上であれば得たい防曇性能を得られやすく、100,000以下であれば眼鏡レンズ等の被塗物に塗布する際の塗布適性に優れる傾向がある。
なお、質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準物質としてポリスチレンを用いることで求めることができる。
【0050】
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は、特に限定されないが、好ましくは20~120℃、より好ましくは30~110℃、更に好ましくは35~100℃である。
なお、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は、種々の方法で求めることが可能であるが、例えば以下のフォックス(Fox)の式に基づいて求めることができる。
1/Tg=(W/Tg)+(W/Tg)+(W/Tg)+・・・+(W/Tg
〔式中、Tgは、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(K)、W、W、W・・・Wは、それぞれのモノマーの質量分率、Tg、Tg、Tg・・・Tgは、それぞれ各モノマーの質量分率に対応するモノマーからなる単独重合体のガラス転移温度(K)を示す。〕
【0051】
本明細書において、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(吸水性防曇層のガラス転移温度ではなく、(メタ)アクリル系樹脂単独のガラス転移温度)は、上記式に基づいて求められたガラス転移温度を意味する。なお、特殊モノマー、多官能モノマー等のようにガラス転移温度が不明のモノマーについては、ガラス転移温度が判明しているモノマーのみを用いてガラス転移温度が求められる。
【0052】
(メタ)アクリル系樹脂は、典型的には重合反応により得ることができる。重合反応としては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合等の各種方法であればよく、この中でもラジカル重合が好ましい。また、重合は、溶液重合、懸濁重合、及び乳化重合等のいずれであってもよい。これらのうち、重合の精密な制御等の観点から、溶液重合が好ましい。
【0053】
ラジカル重合の重合開始剤としては、公知のものを用いることができる。例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、及び2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシオクタノエート、ジイソブチルパーオキサイド、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシピバレート、デカノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、及びt-ブチルパーオキシベンゾエート等の過酸化物系開始剤、過酸化水素と鉄(II)塩、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウム等、酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の配合量は、特に限定されないが、重合するモノマーの混合液全体を100質量部とした場合に0.001~10質量部とすることが好ましい。
【0054】
また、重合反応に際しては、適宜、公知の連鎖移動剤、重合禁止剤、分子量調整剤等を用いてもよい。更に、重合反応は、1段階で行ってもよいし、2段階以上で行ってもよい。重合反応の温度は特に限定されないが、典型的には50℃~200℃、好ましくは80℃~150℃の範囲内である。
【0055】
(成分(B):ポリオール化合物)
本実施形態の塗布組成物は、ポリオール化合物を含むことが好ましい。ポリオール化合物を含むことにより、(メタ)アクリル系樹脂とともに後述の多官能イソシアネート化合物と反応し、より防曇耐久性に優れた吸水性防曇層を形成することが可能となる。ポリオール化合物が1分子中に有する水酸基の個数は2以上で、好ましくは2~6、より好ましくは2~4である。
【0056】
ポリオール化合物は、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオールからなる群より選択される少なくとも1種以上のポリオール化合物を含むことが好ましい。これらの化学構造は、適度に柔軟で、かつ弾力性を有している。このため、吸水性防曇層の柔軟性・弾力性をより高めることができる。
【0057】
ポリカプロラクトンポリオールは、一分子中に、カプロラクトンの開環構造及び2以上の水酸基を有する化合物であれば特に制限なく使用可能である。
【0058】
ポリカーボネートポリオールは、一分子中に、-O-(C=O)-O-で表されるカーボネート基及び2以上の水酸基を有する化合物であれば、特に制限なく使用可能である。ポリカーボネートポリオールは、1種以上のポリオール原料(多価アルコール)と、炭酸エステルやホスゲンとを反応させることにより得ることができる。
ポリオール原料としては、特に制限されないが、例えば、脂肪族ポリオール、脂環構造を有するポリオール、芳香族ポリオール等が挙げられる。本実施形態においては、硬化膜の柔軟性の観点から、脂環構脂を有しない脂肪族ポリオールが好ましい。
炭酸エステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の脂肪族炭酸エステル、ジフェニルカーボネート等の芳香族炭酸エステル、エチレンカーボネート等の環状炭酸エステルが挙げられる。中でも、入手や製造のしやすさから、脂肪族炭酸エステルが好ましく、ジメチルカーボネートが特に好ましい。
【0059】
ポリエーテルポリオールは、一分子中に、エーテル結合(-O-)及び2個以上の水酸基を有する化合物であれば特に制限なく使用可能である。
具体的な化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールA、ビス(β-ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の低分子ポリオール類、又はエチレンジアミン、プロピレンジアミン、トルエンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、キシリレンジアミン等の低分子ポリアミン類等のような活性水素基を2個以上、好ましくは2~3個有する化合物を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のようなアルキレンオキサイド類を付加重合させることによって得られるポリエーテルポリオール、あるいはメチルグリシジルエーテル等のアルキルグリシジルエーテル類、フェニルグリシジルエーテル等のアリールグリシジルエーテル類、テトラヒドロフラン等の環状エーテルモノマーを開環重合することで得られるポリエーテルポリオールを挙げることができる。
【0060】
なお、本実施形態において、ポリオール化合物は、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオールのうち、複数に該当する化合物であってもよい。例えば、ポリオール化合物は、エーテル結合とエステル結合とを有するポリエーテルポリエステルポリオール等であってもよい。
また、ポリオール化合物は、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオールのうち、複数種を含んでいてもよい。
【0061】
ポリオール化合物の水酸基価は、好ましくは50~500mgKOH/g、より好ましくは100~350mgKOH/g、更に好ましくは150~250mgKOH/gである。適度な水酸基の量とすることで、下記の多官能イソシアネート化合物との反応による架橋構造が制御され、吸水性防曇層の柔軟性・弾力性等を一層高めやすくなる。
【0062】
本実施形態において、ポリオール化合物の質量平均分子量(Mw)としては、好ましくは450~2,500、より好ましくは、500~1,500、更に好ましくは500~700である。適度な分子量とすることで、柔軟性・弾力性向上による吸水性防曇層の外観変化の抑制と、ガソリン耐性等の吸水性防曇層の耐久性とのより高度に両立しやすくなる。
【0063】
塗布組成物中のポリオール化合物の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂100質量部に対して、好ましくは5~200質量部、より好ましくは15~180質量部、更に好ましくは20~150質量部、より更に好ましくは20~100質量部、より、更に好ましくは20~50質量部、より、更に好ましくは20~40質量部である。この数値範囲とすることで、ポリオール化合物に由来する性能を得やすくなり、他成分とのバランスを取りやすくなる。
【0064】
本実施形態において、ポリオール化合物としては、前述したポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオールのうち、ポリカプロラクトンポリオールを含むことが好ましく、ポリカプロラクトンポリオールの中でもポリカプロラクトンジオール(カプロラクトン構造を持ち、かつ、2つの水酸基を持つ化合物)を含むことが特に好ましい。
これは、成分(A)である(メタ)アクリル系樹脂が前述の一般式(2)の構造、すなわちカプロラクトン構造を持つため、ポリオール化合物としては当該樹脂との相溶性が良好となりやすい傾向があるということと、架橋密度を上げ過ぎずに防曇性能を向上させやすい傾向があるためである。
【0065】
(成分(C):多官能イソシアネート化合物)
本実施形態の塗布組成物は、成分(C)として、多官能イソシアネート化合物を含むことが好ましい。塗布組成物が、多官能イソシアネート化合物を含むことにより、成分(A)である(メタ)アクリル系樹脂に含まれる構成単位(a-2)及び構成単位(a-3)が有する水酸基、並びに成分(B)であるポリオール化合物の水酸基と多官能イソシアネート化合物が架橋反応を起こし、防曇耐久性に優れる吸水性防曇層となる。
多官能イソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基(脱離性基で保護されたイソシアネート基を含む)を有する化合物である。好ましくは、多官能イソシアネート化合物は、その官能基数は、より好ましくは1分子あたり2~6個、更に好ましくは1分子あたり2~4個である。
【0066】
多官能イソシアネート化合物としては、リジンイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びトリメチルヘキサンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン-2,4-(又は2,6)-ジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)及び1,3-(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の環状脂肪族ジイソシアネート、並びに、リジントリイソシアネート等の3官能以上のイソシアネートが挙げられる。
【0067】
成分(C)である多官能イソシアネート化合物は、上記のものに加え、その多量体である、ビウレット型、イソシアヌレート型、アダクト型等のものを用いてもよい。中でも、適度な剛直性を有するビウレット型の多官能イソシアネート化合物が好ましい。
【0068】
本実施形態において、塗布組成物中における多官能イソシアネート化合物の含有量は、後述する当量比(NCO)/(OH)に従って配合されれば特に制限はないが、通常、(メタ)アクリル系樹脂100質量部に対して5~100質量部、好ましくは7~75質量部、より好ましくは10~60質量部、更に好ましくは10~50質量部、より更に好ましくは15~40質量部、より更に好ましくは20~30質量部である。この数値範囲とすることで、吸水性防曇層内で必要十分な架橋がなされると考えられる。
【0069】
(メタ)アクリル系樹脂およびポリオール化合物が有する水酸基に対する、多官能イソシアネート化合物が含有するイソシアネート基(ブロックイソシアネート基を含む)のモル量(すなわち、当量比(NCO)/(OH))は、好ましくは0.15~0.55の範囲である。当量比(NCO)/(OH)が当該範囲内であると、架橋密度が十分に高くなり、その結果、吸水性防曇層としての防曇性や耐溶剤性などの機能が十分なものとなる。
当該観点から、当該当量比(NCO)/(OH)は、好ましくは0.25~0.50、より好ましくは0.35~0.45である。
【0070】
(塗布組成物の形態)
本実施形態の塗布組成物は、1液型、すなわち、溶剤以外の全成分が、溶剤に実質的に均一に混合(溶解又は分散)された状態であってよい。多官能イソシアネート化合物がブロックイソシアネートである場合には、1液型が好ましい。
また、別の態様として、本実施形態の塗布組成物は、2液型であってもよい。2液型にすることで、塗布組成物の保存性を高めることができる。
例えば、本実施形態の塗布組成物は、(1)(メタ)アクリル系樹脂及び/又はポリオール化合物を含み、多官能イソシアネート化合物を含まないA液と、(2)多官能イソシアネート化合物を含み、(メタ)アクリル系樹脂及びポリオール化合物を含まないB液とから構成され、A液とB液は別々の容器で保存され、使用(塗工)直前にA液とB液を混合する形態であってもよい。
この場合、(メタ)アクリル系樹脂、ポリオール化合物、及び多官能イソシアネート化合物以外の成分(添加剤等)は、A液に含まれていても、B液に含まれていても、あるいはその他の容器で準備されていてもよい。
特に、多官能イソシアネート化合物が、ブロックイソシアネートではない場合(すなわち、系中でイソシアネート基が-NCOの形で存在している場合)には、塗布組成物は2液型であることが好ましい。
【0071】
(溶剤)
本実施形態の塗布組成物は、溶剤を含んでもよい。溶剤を用いることにより、塗布組成物の粘度及び固形分量の調整が容易となる。
溶剤としては、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、t-ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、及び酢酸イソブチル等のエステル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系溶剤等が挙げられる。
これらの中でも、イソシアネートとの反応性が低く、溶解性及び乾燥性等の観点から、t-ブタノール、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン、酢酸エチル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。
【0072】
塗布組成物中の溶剤の含有量は、吸水性防曇層の膜厚を制御する観点から、好ましくは20~90質量%であり、より好ましくは30~85質量%、更に好ましくは35~80質量%である。
【0073】
塗布組成物の固形分は、より防曇性に優れる眼鏡レンズを得る観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、外観に優れる眼鏡レンズを得る観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
塗布組成物の固形分中における、成分(A)、(B)及び(C)の合計含有量は、防曇性及び耐擦傷性を向上させる観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、好ましくは100質量%以下であり、例えば100質量%である。
【0074】
塗布組成物は、上記各成分及び紫外線吸収剤と、必要に応じて用いられる他の添加剤とを、溶媒に溶解又は分散させることにより調製することができる。このような他の添加剤としては、硬化触媒、、光安定剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤等が挙げられる。上記添加剤の含有量は、例えば、塗布組成物の全質量に対して、好ましくは0.001~5質量%、より好ましくは0.01~4質量%、更に好ましくは0.1~3質量%である。
各成分は、同時に、又は、任意の順序で順次、溶媒に溶解又は分散させることすることができる。具体的な溶解又は分散させる方法には、特に制限はなく、公知の方法を何ら制限なく採用することができる。
【0075】
(紫外線吸収剤)
上記吸水性防曇層に含まれる紫外線吸収剤は、吸水性防曇層に添加されたときに、少なくとも350~370nmにおける光透過率が5%未満であり、光透過率が5%以上になる波長が370nm以上である分光透過率を当該吸水性防曇層に与える紫外線吸収剤である。
上記吸水性防曇層が、上記紫外線吸収剤を含むことにより、眼鏡レンズが長時間紫外線に曝された場合に、防曇層の黄変が防止されるとともに、レンズ基材に染色を施していた場合の染料の退色を抑制することができる。
【0076】
上記紫外線吸収剤としては、下記式(4)で表される化合物や、下記式(5)で表される化合物が挙げられる。
【化9】

[式(4)において、n1は2又は3である。]
【化10】

[式(5)において、n2は2又は3であり、n3は2又は3である。]
【0077】
式(4)で表される化合物は、ベンゼン環に結合する複数のヒドロキシ基が互いにメタ位又はパラ位の関係にあることが好ましく、少なくとも一つのヒドロキシ基が、ベンソトリアゾール骨格が結合する炭素に対してオルト位の炭素に結合していることが好ましく、ベンソトリアゾール骨格が結合する炭素に対してオルト位及びパラ位の炭素にそれぞれヒドロキシ基が結合していることがより好ましく、ベンソトリアゾール骨格が結合する炭素に対してオルト位の炭素にヒドロキシ基が結合し、かつ、n1が2であることがより好ましい。
式(4)で表される化合物の具体例としては、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(CAS番号:22607-31-4)が挙げられる。
【0078】
式(5)で表される化合物は、左右のベンゼン環のそれぞれにおいて、ベンゼン環に結合する複数のヒドロキシ基が互いにメタ位又はパラ位の関係にあることが好ましく、少なくとも一つのヒドロキシ基が、カルボニル基が結合する炭素に対してオルト位の炭素に結合していることが好ましく、カルボニル基が結合する炭素に対してオルト位及びパラ位の炭素にそれぞれヒドロキシ基が結合していることがより好ましく、カルボニル基が結合する炭素に対してオルト位の炭素にヒドロキシ基が結合し、かつ、n2及びn3がともに2であることがより好ましい。
式(5)で表される化合物の具体例としては、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン(CAS番号:131-55-5)が挙げられる。
【0079】
上記紫外線吸収剤は、長波長側で高い吸収性能を有するとともに、上述した特定の塗布組成物を用いて構成される吸水性防曇層に用いられた場合に、高い耐光性を発揮し、吸水性防曇層を有する眼鏡レンズの色味が変化することを抑制し、特に灰色に着色された眼鏡レンズが黄変することを抑制することができる。
2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールは、イソシアネート等のモノマー種類に関わらず反応性が過剰に高くなることがなく、紫外線吸収効果が低下しにくく、また、ポットライフが短くなりにくいという利点がある。
紫外線吸収剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0080】
前記塗布組成物における紫外線吸収剤の含有量は、レンズ基材の保護及び紫外線吸収剤の溶解性のうち少なくとも一方の観点から、塗布組成物の全質量に対して、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.1~4.5質量%、更に好ましくは0.5~3質量%である。
【0081】
(その他の添加剤)
吸水性防曇層には、紫外線吸収剤以外の添加剤が含まれていてもよい。このような他の添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤等が挙げられる。
その他の添加剤の含有量は、例えば、塗布組成物の全質量に対して、好ましくは0.001~5質量%、より好ましくは0.01~4質量%、更に好ましくは0.1~3質量%である。
紫外線吸収剤及び紫外線吸収剤以外の添加剤は、塗布組成物中にこれらの成分を添加して溶解又は分散させた上で、塗布組成物を基材に塗工して吸水性防曇膜を形成することにより、吸水性防曇膜中に配合することができる。
【0082】
<他の層>
眼鏡レンズには、吸水性防曇層以外の機能層が設けられていてもよい。
上記機能層としては、ハードコート層、反射防止層、プライマー層等が挙げられる。
上記機能層は、レンズ基材の第1主面上に設けられていてもよいし、レンズ基材の第2主面上に設けられていてもよいし、レンズ基材の第1主面及び第2主面の両方の上に設けられていてもよい。
【0083】
<眼鏡レンズの製造方法>
プラスチック製眼鏡レンズの製造方法の一態様は、少なくとも、下記の工程(1)~工程(3)を含む。
・工程(1):重合性組成物の重合物からなるレンズ基材を準備する。
・工程(2):上記レンズ基材の表面に着色剤を含む溶液を付与して、上記レンズ基材を染色する。
・工程(3):染色された基材の少なくとも一方の主面に吸水性防曇層を形成する。
以下、各工程について説明する。
【0084】
(工程(1):レンズ基材の準備)
工程(1)においては、重合性組成物の重合することにより、当該重合性組成物の重合物からなるレンズ基材を準備する。光学部材用重合性組成物の重合条件は、重合性組成物に応じて、適宜設定することができる。
重合開始温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上であり、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下である。重合開始温度から昇温し、その後、加熱して硬化形成することが好ましい。例えば、昇温最高温度は、通常110℃以上130℃以下である。
重合終了後、眼鏡レンズを離型して、アニール処理を行ってもよい。アニール処理の温度は、好ましくは100~150℃である。
重合方法には特に制限はなく公知の各種の重合方法を採用できるが、注型重合法であることが好ましい。眼鏡レンズは、例えば、重合性組成物を、ガラス又は金属製のモールドと、テープ又はガスケットとを組み合わせたモールド型に注入して重合を行うことで得られる。
【0085】
(工程(2):染色処理)
工程(2)においては、上記レンズ基材の表面に着色剤を含む溶液を付与して、上記レンズ基材を染色する。好ましくは、着色剤を含む溶液に上記基材を浸漬して上記基材を染色する。
着色剤を含む溶液に浸漬し、所定時間加熱することで染色を促進させることができる。
【0086】
(工程(3):吸水性防曇層の形成)
染色処理を施して得られるレンズ基材の、第1主面及び第2主面のうち少なくともいずれかの主面上に吸水性防曇層を形成する。
上記吸水性防曇層は、上記各成分を溶媒に溶解又は分散させた塗布組成物(2液型の場合は、2液を混合したもの)をレンズ基材上に塗工し、塗布膜を所定温度で乾燥・硬化することによって形成される。
塗工方法は特に限定されず、例えばエアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法、ロールコーター法、フローコーター法、スピンコート法、ディップ引き上げ法などが挙げられる。
塗工後、20~160℃で10~120分間、好ましくは60~120℃で20~90分間乾燥・硬化し、更に常温で放冷することで、吸水性防曇層となる硬化膜が得られる。なお、乾燥・硬化の温度や時間は、溶剤の種類やレンズ基材の耐熱性等を考慮して適宜調整すればよい。
なお、必要に応じて、上述した機能層(ハードコート層、プライマー層、反射防止層等)を形成してもよい。
【0087】
(加工工程)
レンズ基材の第1主面及び第2主面のうちの少なくともいずれかに吸水性防曇層が形成される前、又は、レンズ基材の第1主面及び第2主面のうちの少なくともいずれかに吸水性防曇層が形成された後、必要に応じて、レンズ周縁の切断や研削等の加工が行われる。こうして、眼鏡レンズが作製される。
【実施例
【0088】
次に、本開示を実施例により更に詳細に説明するが、本開示は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0089】
以下、本開示を実施例により具体的に説明する。以下の実施例で得られた成分の水酸基価、数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)及び多分散度(Mw/Mn)は、以下の方法により求めた。また、実施例及び比較例で得られた眼鏡レンズの、吸水性防曇層の厚さの測定、及び、耐光性試験は以下の手順で行った。
【0090】
(水酸基価)
JIS K 0070「化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」の、「7.1 中和滴定法」に規定された方法に準じて測定及び算出した。
なお、水酸基価の算出に用いる酸価の値は、上記JIS規格の「3.1 中和滴定法」に規定された方法に準じて測定及び算出した。
【0091】
(数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)、多分散度(Mw/Mn))
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定、算出した。用いた装置、条件等は以下の通りである。
・使用機器:HLC8220GPC(株式会社東ソー製)
使用カラム:TSKgel SuperHZM-M、TSKgel GMHXL-H、TSKgel G2500HXL、TSKgel G5000HXL(株式会社東ソー製)
・カラム温度:40℃
標準物質:TSKgel 標準ポリスチレンA1000、A2500、A5000、F1、F2、F4、F10(株式会社東ソー製)
・検出器:RI(示差屈折)検出器
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:1ml/min
【0092】
(吸水性防曇層の厚さ)
吸水性防曇層の厚さは株式会社システムロード製 非接触膜厚測定システムFF8を用いて測定した。
【0093】
(吸水性防曇層の分光透過率)
測定用基材として、350~460nmの光透過率が85%以上である内部添加の紫外線吸収剤を含まないチオウレタン系プラスチックレンズMERIA(HOYA株式会社製、屈折率1.60、度数S-4.00D、厚さ1.0mm、外径75mm)を測定用基材として使用し、当該測定用基材上に、後述する実施例又は比較例に示す手順で吸水性防曇層を形成した。そして、株式会社日立ハイテクサイエンス製 紫外可視近赤外分光光度計 UH4150を用いてそれぞれの吸水性防曇層付き測定用基材の分光透過率を測定することにより、吸水性防曇層の分光透過率とした。
【0094】
(耐光性試験)
JIS T7333 6.5及び7.7に定められる耐放射性試験に従って、各サンプルに50時間の光照射を行い、光照射前後の視感透過率を、株式会社日立ハイテクサイエンス製 紫外可視近赤外分光光度計 UH4150を用いて測定した。また、後述する実施例1及び比較例2については、光照射前後の色度及び明度を、株式会社日立ハイテクサイエンス製 紫外可視近赤外分光光度計 UH4150の測定結果より算出した。
【0095】
[実施例1]
((メタ)アクリル系樹脂の合成)
撹拌器、温度計、コンデンサーおよび窒素ガス同入管を備えた500ml形のフラスコにプロピレングリコールモノメチルアセテート(PGMAC)150質量部を仕込み、110℃まで昇温した。
これとは別に、ジメチルアクリルアミド(DMAA)25質量部、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート(株式会社ダイセル製、プラクセルFA2D)35質量部、2-ヒドロキシルエチルメタクリレート(HEMA)10質量部、片末端メタクリレート変性ポリジメチルシロキサン(JNC株式会社製、サイラプレーンFM-0721、分子量5000)5質量部、メタクリル酸メチル25質量部、及び、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)(和光純薬工業株式会社製、V-40)1質量部を混合した。この混合モノマーを撹拌しながら2時間かけて、上記の500ml形のフラスコに滴下し、5時間反応させた。
加熱を止めて室温まで冷却し、(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂溶液(固形分比率:約40質量%)を得た。
得られた(メタ)アクリル系樹脂の水酸基価は57mgKOH/gであり、数平均分子量(Mn)は12,000であり、質量平均分子量(Mw)は44,000であり、多分散度(Mw/Mn)は3.67であった。また、前述のフォックス(Fox)の式に基づいて、使用したモノマーの配合比から計算した(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は32.8℃であった。
【0096】
(塗布組成物の調製)
上記で得た(メタ)アクリル系樹脂100質量部、ポリカプロラクトンジオール(株式会社ダイセル製、プラクセル205U、分子量530、水酸基価207~217mgKOH/g)30質量部、及び、多官能イソシアネート化合物(旭化成株式会社製、24A-100、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレットタイプ、イソシアネート基含有率23.5質量%、固形分100質量%)23.5質量部を混合した。そして、PGMACで固形分濃度を調整し、固形分30質量%の組成物を調製した。
なお、(メタ)アクリル系樹脂の量は、樹脂溶液(固形分比率:約40質量%)としての量ではなく、樹脂溶液中に含まれる樹脂(固形分)の量を表し、多官能イソシアネート化合物の量も固形分としての量を表している。
また、上記(メタ)アクリル系樹脂とポリオール化合物とを、上記の量で均一に混合したときの混合物の水酸基価の測定値は93mgKOH/gであった。
【0097】
上記組成物に、紫外線吸収剤:2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(CAS番号:22607-31-4)を、塗布組成物の全質量に対して2質量%となるように添加して混合することにより、紫外線吸収剤を含む塗布組成物を調製した。
【0098】
(吸水性防曇層の形成)
チオウレタン系プラスチックレンズMERIA(HOYA株式会社製、屈折率1.60、度数S-4.00D、厚さ1.0mm、外径75mm)を基材として用い、以下の手順で着色した。まず、純水1000mlに、(i)青色染料(双葉産業株式会社製AUL-S)2.15g、赤色染料(双葉産業株式会社製BL)0.38g、茶色染料(双葉産業株式会社製SN)0.31g、及び黄色染料(紀和化学工業株式会社製YLSE)0.18gと、(ii)キャリア材としてジオキシベンゾン(CAS番号:131-53-3)78gを純水10Lで希釈したもの100mlとを加えて混合することにより、染色用浸漬液を準備した。この染色用浸漬液に上記プラスチックレンズを浸漬し、92℃で、60分染色処理を行った後、115℃ 30分の条件でアニールを行うことにより、上記プラスチックレンズを灰色に着色した。
こうして灰色に着色したプラスチックレンズを基材として用い、上記塗布組成物をこの基材上にディップ引き上げ法によって塗布し、120℃で2時間加熱して塗膜を硬化することにより、上記基材上に単層の吸水性防曇層を形成した。吸水性防曇層の厚さは11.3μmであった。
吸水性防曇層の形成された基材は、350~370nmの光透過率が5%未満であり、光透過率が5%に達する波長は373.7nmであった。
【0099】
[実施例2]
紫外線吸収剤として、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン(CAS番号:131-55-5)を使用し、その配合量を塗布組成物の全質量に対して3質量%とした以外は実施例1と同様の手順で単層の吸水性防曇層を形成し、眼鏡レンズを作製した。
吸水性防曇層の厚さは12.6μmであった。
吸水性防曇層は、350~370nmの光透過率が5%未満であり、光透過率が5%に達する波長は382.1nmであった。
【0100】
[比較例1]
紫外線吸収剤として、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン(CAS番号:131-53-3)を使用し、その配合量を塗布組成物の全質量に対して3質量%とした以外は実施例1と同様の手順で眼鏡レンズを作製した。
吸水性防曇層の厚さは12.8μmであった。
吸水性防曇層は、350~360nmの光透過率は5%未満であり、光透過率が5%に達する波長は363.1nmであった。
【0101】
[比較例2]
紫外線吸収剤を添加する前の上記組成物を塗布組成物として用いたこと以外は実施例1と同様の手順で眼鏡レンズを作製した。
吸水性防曇層の厚さは12.4μmであった。
350~420nmにおける吸水性防曇層の光透過率は80%超であった。
【0102】
実施例1、2及び比較例1、2の耐光性試験の結果を表1に示す。また、実施例1と比較例2について、耐光性試験前後の明度と色度を測定した結果を表2に示す。なお、比較例2の吸水性防曇層は少なくとも350~420nmにおいて吸水性防曇層の光透過率は常に5%を超えているため、表1及び表2の「光透過率が5%に達する波長」欄には「-」と記載している。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
表1から明らかなように、実施例1、2のレンズでは、光照射後の視感透過率の上昇が比較例1、2に比べて抑えられており、染色されたレンズが退色しづらくなっていることが判る。特に、実施例2は視感透過率の上昇が低く抑えられていることが判る。
【0106】
また、表2から明らかなように、実施例1のレンズは光照射後も色度(a及びbの値)に大きな変化はなく、色味には大きな変化がないことが判る。それに対して、比較例2のレンズは、紫外線吸収剤を含有していないことにより、光照射後のbの値が大きく上昇しており、光照射によってレンズが黄みを帯びていることが判る。
【0107】
最後に、本開示の実施の形態を総括する。
本開示の実施の形態である眼鏡レンズは、第1及び第2の主面を有する基材と、前記基材の第2の主面側に形成された単一の層からなる吸水性防曇層と、前記基材の第1の主面上に形成された光透過性硬質層と、前記光透過性硬質層上に形成された、親水性防曇層と、を有する。
上述した実施の態様によれば、防曇性及び耐擦傷性に優れた眼鏡レンズを提供することができる。
【0108】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
本開示は、上記各成分の例、含有量、各種物性については、発明の詳細な説明に例示又は好ましい範囲として記載された事項を任意に組み合わせてもよい。
また、実施例に記載した組成に対し、発明の詳細な説明に記載した組成となるように調整を行えば、クレームした組成範囲全域にわたって実施例と同様に開示の実施の形態を実施することができる。
【符号の説明】
【0109】
10:眼鏡レンズ
11:基材
11a、11b:染色領域
20、21:吸水性防曇層

図1