(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】着色眼鏡レンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/10 20060101AFI20240606BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20240606BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20240606BHJP
G02C 7/02 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
G02C7/10
G02B1/18
G02B5/22
G02C7/02
(21)【出願番号】P 2023511704
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2022016499
(87)【国際公開番号】W WO2022211022
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2021061645
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野澤 吉之輔
(72)【発明者】
【氏名】坂田 周作
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/105593(WO,A1)
【文献】特開昭56-149016(JP,A)
【文献】特開2015-148673(JP,A)
【文献】特開2019-94468(JP,A)
【文献】特開2010-256895(JP,A)
【文献】特開2011-186292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10 - 1/18
G02B 5/22
G02C 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤を含有する基材(X)と、前記基材(X)の少なくとも一方の面側に存在する吸水性防曇層(Z)と、を有する着色眼鏡レンズであって、
前記基材(X)と前記吸水性防曇層(Z)との間に、中間層(Y)を有
し、
前記吸水性防曇層(Z)が、下記の成分(A)~(D)を含む防曇層組成物の硬化物であり、
前記吸水性防曇層(Z)の厚さは、3μm以上である、着色眼鏡レンズ。
成分(A):下記一般式(1)で表されるモノマー(a-1)に由来する構成単位、下記一般式(2)で表されるモノマー(a-2)に由来する構成単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a-3)に由来する構成単位、及び、下記一般式(3)で表されるモノマー(a-4)に由来する構成単位を有する(メタ)アクリル系樹脂
成分(B):ポリオール化合物(B)
成分(C):多官能イソシアネート化合物(C)
【化1】
[一般式(1)中、R
1
は水素原子又はメチル基であり、R
2
及びR
3
はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。]
【化2】
[一般式(2)中、R
4
は水素原子又はメチル基であり、mは1~5の整数である。]
【化3】
[一般式(3)中、R
5
は水素原子又はメチル基であり、R
6
は2価の有機基であり、nは0又は1以上の整数である。]
【請求項2】
前記吸水性防曇層(Z)の100mgf荷重におけるインデンテーション硬さIZに対する、前記中間層(Y)の100mgf荷重におけるインデンテーション硬さIYの差(IY-IZ)が、0mgf/μm
2超である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記IZに対する前記IYの比(IY/IZ)が、1.1以上である、請求項
2に記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記基材(X)と、前記中間層(Y)とが直接接する、請求項1~3のいずれか1項に記載の着色眼鏡レンズ。
【請求項5】
前記中間層(Y)と、前記吸水性防曇層(Z)とが直接接する、請求項1~4
のいずれか1項に記載の着色眼鏡レンズ。
【請求項6】
波長450~650nmの光における前記中間層(Y)の光学膜厚が0.2λ~0.3λである、請求項1~5のいずれか1項に記載の着色眼鏡レンズ。
【請求項7】
前記中間層(Y)が、熱硬化性樹脂を含む組成物の硬化物である、請求項1~6のいずれか1項に記載の着色眼鏡レンズ。
【請求項8】
前記吸水性防曇層(Z)が最外層である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、着色眼鏡レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズの曇り防止(防曇)のために、レンズ基材の表面に防曇層を形成する技術は従来知られている。
例えば、レンズ基材の表面に、界面活性剤を被覆する技術が知られている。
また、レンズ記載の表面に吸水性樹脂層及び撥水層を形成する技術も知られている。例えば、特許文献1には、ガラス又はプラスチック基材の表面に、特定のポリオキシエチレン鎖を有するウレタン又はアクリル樹脂を主成分とする吸水層を形成し、同吸水層の表面にアミノ変性シリコーン又はメルカプト変性シリコーンの少なくとも一方を主成分とする撥水層を形成する防曇性光学物品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レンズ基材の表面に界面活性剤からなる防曇層を形成してなる眼鏡レンズは、界面活性剤を水で拭くと当該界面活性剤が容易にレンズ表面から剥離してしまうため、防曇層の耐久性が十分ではなく、また防曇性能が十分なものではなかった。
また、特許文献1に記載の吸水性防曇層は、界面活性剤からなる防曇層に比べ、防曇性や防曇耐久性に優れるものであるが、着色された基材に吸水性防曇層を形成すると、基材から吸水性防曇層へ着色剤が移行し、その後眼鏡レンズから着色剤が脱離し、眼鏡レンズが脱色されるという問題があった。
本開示の一実施形態は、基材から吸水性防曇層へ着色剤が移行し、移行した着色剤が着色眼鏡レンズから離脱することを抑制することを課題とする。すなわち、着色眼鏡レンズの脱色を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の実施形態は、以下の[1]~[9]に関する。
[1]着色剤を含有する基材(X)と、前記基材(X)の少なくとも一方の面側に存在する吸水性防曇層(Z)と、を有する着色眼鏡レンズであって、
前記基材(X)と前記吸水性防曇層(Z)との間に、中間層(Y)を有する、着色眼鏡レンズ。
[2]前記吸水性防曇層(Z)の100mgf荷重におけるインデンテーション硬さIZに対する、前記中間層(Y)の100mgf荷重におけるインデンテーション硬さIYの差(IY-IZ)が、0mgf/μm
2超である、上記[1]に記載の眼鏡レンズ。
[3]前記IZに対する前記IYの比(IY/IZ)が、1.1以上である、上記[1]又は[2]に記載の眼鏡レンズ。
[4]前記基材(X)と、前記中間層(Y)とが直接接する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の着色眼鏡レンズ。
[5]前記中間層(Y)と、前記吸水性防曇層(Z)とが直接接する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の着色眼鏡レンズ。
[6]波長450~650nmの光における前記中間層(Y)の光学膜厚が0.2λ~0.3λである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の着色眼鏡レンズ。
[7]前記中間層(Y)が、熱硬化性樹脂を含む組成物の硬化物である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の着色眼鏡レンズ。
[8]前記吸水性防曇層(Z)が、下記の成分(A)~(D)を含む防曇層組成物の硬化物である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の着色眼鏡レンズ。
成分(A):下記一般式(1)で表されるモノマー(a-1)に由来する構成単位、下記一般式(2)で表されるモノマー(a-2)に由来する構成単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a-3)に由来する構成単位、及び、下記一般式(3)で表されるモノマー(a-4)に由来する構成単位を有する(メタ)アクリル系樹脂
成分(B):ポリオール化合物(B)
成分(C):多官能イソシアネート化合物(C)
【化1】
[一般式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基であり、R
2及びR
3はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。]
【化2】
[一般式(2)中、R
4は水素原子又はメチル基であり、mは1~5の整数である。]
【化3】
[一般式(3)中、R
5は水素原子又はメチル基であり、R
6は2価の有機基であり、nは0又は1以上の整数である。]
[9]前記吸水性防曇層(Z)が最外層である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一実施形態によれば、基材から吸水性防曇層への着色剤の移行が抑制され、着色剤が着色眼鏡レンズから離脱することが抑制された眼鏡レンズを提供することができる。すなわち、脱色が抑制された、吸水性防曇層を有する着色眼鏡レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は実施例1の着色眼鏡レンズの分光反射率の測定結果を示す。
【
図2】
図2は比較例1の着色眼鏡レンズの分光反射率の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態及び実施例について説明する。同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。以下に説明する実施の形態及び実施例において、個数、量等に言及する場合、特に記載がある場合を除き、本開示の範囲は必ずしもその個数、量等に限定されない。以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本開示の実施の形態及び実施例にとって必ずしも必須のものではない。
【0009】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含する。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)、及び、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)を包含する。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタアクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書中、モノマー(a-1)に由来する構成単位を「構成単位(a-1)」、モノマー(a-2)に由来する構成単位を「構成単位(a-2)」、モノマー(a-3)に由来する構成単位を「構成単位(a-3)」、モノマー(a-4)に由来する構成単位を「構成単位(a-4)」と称することがある。
【0010】
組成物における「固形分量」とは、溶媒以外の成分の量を意味する。
置換基を有する基についての「炭素数」とは、該置換基を除く部分の炭素数をいうものとする。
【0011】
[眼鏡レンズ]
本開示の実施形態に係る眼鏡レンズは、着色剤を含有する基材(X)と、上記基材(X)の少なくとも一方の面側に存在する吸水性防曇層(Z)と、を有する。そして、上記基材(X)と上記吸水性防曇層(Z)との間に、中間層(Y)を有する。
一般的に、吸水性防曇層は、水分を吸水する必要があることから、水分を吸収するための空間を有する。そのため、吸水性防曇層は、空間の自由度が高く、比較的膜硬度が低い。基材(X)と吸水性防曇層(Z)との間に、中間層(Y)が存在しない場合、基材(X)が含有する着色剤は、より自由度が高く膜硬度が低い吸水性防曇層(Z)へと移行し、さらには、着色眼鏡レンズから着色剤が脱離することとなり、着色眼鏡レンズは脱色される。
本開示の実施形態に係る眼鏡レンズは、基材(X)と吸水性防曇層(Z)との間に、中間層(Y)を有することで、基材(X)が含有する着色剤が、吸水性防曇層(Z)へ移行することを抑制する。すなわち、着色眼鏡レンズの脱色が抑制される。
なお、本開示において、吸水性防曇層(Z)を単に防曇層(Z)と称することが有る。
【0012】
<基材(X)>
本開示の実施形態に係る基材(X)は、着色剤を含有する。
着色剤は、特に限定されるものではないが、例えば、分散染料、及び油溶性染料等の疎水性染料;反応染料、酸性染料、及び直接染料等の水溶性染料;フォトクロミック染料;偏向染料;カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、及び金属塩化物等の無機顔料;アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、及びキノフタロン顔料等の有機顔料、二色性色素等が挙げられる。これらの中でも、分散染料を含む基材(X)に対して、脱色抑制がより発揮される。
【0013】
基材(X)としては、様々な種類の原料からなる樹脂を用いることができる。
基材(X)を形成する樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ウレタンウレア樹脂、(チオ)ウレタン樹脂、ポリスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリルアリル樹脂、アリルカーボネート樹脂等が挙げられる。(チオ)ウレタン樹脂とは、チオウレタン樹脂、及びウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種を意味する。これらの中でも(チオ)ウレタン樹脂、ポリスルフィド樹脂が好ましい。
【0014】
また、本実施形態の眼鏡レンズに用いる基材(X)は、屈折率1.50以上であることが好ましく、屈折率1.60以上のプラスチック製基材であることがより好ましい。
好ましいプラスチック製基材の市販品としては、アリルカーボネート系プラスチックレンズ「HILUX1.50」(HOYA株式会社製、屈折率1.50)、チオウレタン系プラスチックレンズ「MERIA」(HOYA株式会社製、屈折率1.60)、チオウレタン系プラスチックレンズ「EYAS」(HOYA株式会社製、屈折率1.60)、チオウレタン系プラスチックレンズ「EYNOA」(HOYA株式会社製、屈折率1.67)、ポリスルフィド系プラスチックレンズ「EYRY」(HOYA株式会社製、屈折率1.70)、ポリスルフィド系プラスチックレンズ「EYVIA」(HOYA株式会社製、屈折率1.74)等が挙げられる。
【0015】
基材(X)の厚さ及び外径は、特に限定されるものではないが、厚さは通常0.5~30mm程度例えば1~30mm、外径は通常50~100mm程度である。
基材(X)としては、フィニッシュレンズ、セミフィニッシュレンズのいずれであってもよい。
基材(X)の表面形状は特に限定されず、平面、凸面、凹面等のいずれであってもよい。
本開示の眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等のいずれであってもよい。累進屈折力レンズについては、通常、近用部領域(近用部)及び累進部領域(中間領域)が、前述の下方領域に含まれ、遠用部領域(遠用部)が上方領域に含まれる。
【0016】
<中間層(Y)>
中間層(Y)は、基材(X)と防曇層(Z)との間に存在する層である。
中間層(Y)は、基材(X)に直接接してもよく、接しなくてもよいが、より脱色を抑制する観点から、直接接することが好ましい。
また、中間層(Y)は、防曇層(Z)に直接接してもよく、接しなくてもよいが、より脱色を抑制する観点から、直接接することが好ましい。
【0017】
中間層(Y)は、100mgf荷重におけるインデンテーション硬さIYが、脱色を抑制する観点から、13.3mgf/μm2以上であることが好ましく、より好ましくは14.0mgf/μm2以上、更に好ましくは14.5mgf/μm2以上、より更に好ましくは15.0mgf/μm2以上である。
なお、本開示において、「インデンテーション硬さ」とは、ナノインデンター装置により、国際規格ISO 14577に準拠して測定された値である。なお、当該「インデンテーション硬さ」は、中間層(Y)の少なくとも一つの面に対する測定値を意味する。
【0018】
より脱色を抑制する観点から、中間層(Y)は、防曇層(Z)より高い膜硬度を有することが好ましく、防曇層(Z)の100mgf荷重におけるインデンテーション硬さIZに対する、中間層(Y)の100mgf荷重におけるインデンテーション硬さIYの差(IY-IZ)が、0mgf/μm2超であることがより好ましく、更に好ましくは1.0mgf/μm2以上、より更に好ましくは2.0mgf/μm2以上である。
また、防曇層(Z)の100mgf荷重におけるインデンテーション硬さIZに対する中間層(Y)の100mgf荷重におけるインデンテーション硬さIYの比(IY/IZ)は、1.05以上であることが好ましく、より好ましくは1.10倍以上、更に好ましくは1.15倍以上、より更に好ましくは1.20倍以上である。
【0019】
中間層(Y)の厚さは、より脱色を抑制する観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは60nm以上であり、製造容易性及びコストの観点から、好ましくは6μm以下、より好ましくは5μm以下である。
【0020】
中間層(Y)は、より脱色を抑制する観点から、熱硬化性樹脂を含む組成物の硬化物であることが好ましい。このような硬化物であると、基材(X)から防曇層(Z)へ着色剤が移行することをより抑制できる。
【0021】
中間層(Y)は、特に限定されるものではないが、好ましくは中間層(Y-1)~(Y-3)から選ばれる少なくとも1種である。
【0022】
〔中間層(Y-1)〕
中間層(Y-1)は、波長λが450~650nmの光における光学膜厚が0.2λ~0.3λである層である。すなわち、中間層(Y-1)の光学膜厚は、450~650nmの光にわたり0.2λ~0.3λである。中間層(Y-1)が、このような光学膜厚を有することで、基材(X)から防曇層(Z)へ着色剤が移行し、移行した着色剤が眼鏡レンズから離脱することを抑制できるだけでなく、眼鏡レンズに発生する干渉縞も抑制することができる。
【0023】
中間層(Y-1)は、樹脂と水系溶媒を含有する水系樹脂組成物を塗工して得られる中間層(Y-1-1)であってもよく、また、金属酸化物粒子及び樹脂を少なくとも含有する分散液を塗工して得られる中間層(Y-1-2)であってもよい。
【0024】
(中間層(Y-1-1))
中間層(Y-1-1)は、樹脂と水系溶媒を含有する水系樹脂組成物を塗工して得られる層である。
水系樹脂組成物に含まれる水系溶媒は、例えば、水、水と極性溶媒等との混合溶媒であり、好ましくは水である。水系樹脂組成物中の固形分濃度は、液安定性及び製膜性の観点から、好ましくは1~60質量%であり、より好ましくは5~40質量%である。水系樹脂組成物は、樹脂成分のほかに、必要に応じて、酸化防止剤、分散剤、可塑剤等の添加剤を含むことも可能である。また、市販されている水系樹脂組成物を、水、アルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)等の溶媒で希釈して使用してもよい。
【0025】
水系樹脂組成物は、水系溶媒に溶解した状態又は微粒子(好ましくはコロイド粒子)として分散した状態で樹脂成分を含むことができる。中でも、水系溶媒中(好ましくは水中)に樹脂成分が微粒子状に分散した分散液であることが望ましい。この場合、上記樹脂成分の粒径は、組成物の分散安定性の観点から、0.3μm以下であることが好ましい。また、上記水系樹脂組成物のpHは、25℃において、5.5~9.0程度であることが安定性の点から好ましい。25℃での粘度は、塗布適性の点から、5~500mPa・sであることが好ましく、10~50mPa・sであることがより好ましい。また、形成される水系樹脂層の物性を考慮すると、以下の膜特性を有する水系樹脂組成物が好ましい。厚さ1mmとなるようにガラス板上に塗布し、これを120℃で1時間乾燥させた後に得られる塗布膜が、ガラス転移温度Tgが-58℃~7℃、鉛筆硬度が4B~2H、JIS K 7113に準じて測定される引っ張り強度が15~69MPaである。
【0026】
中間層(Y-1-1)の樹脂としては、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等から選ばれる少なくとも一種が挙げられ、好ましくはポリウレタン樹脂であり、より好ましくはポリウレタン樹脂を含有する水系樹脂組成物、すなわち、水系ポリウレタン樹脂組成物である。水系ポリウレタン樹脂組成物は、例えば高分子量ポリオール化合物と有機ポリイソシアネート化合物とを、必要に応じて鎖延長剤とともに、反応に不活性で水との親和性の大きい溶媒中でウレタン化反応させてプレポリマーとし、このプレポリマーを中和後、鎖延長剤を含有する水系溶媒に分散させて高分子量化することにより調製することができる。そのような水系ポリウレタン樹脂組成物及びその調製方法については、例えば、特許第3588375号明細書段落[0009]~[0013]、特開平8-34897号公報段落[0012]~[0021]、特開平11-92653号公報段落[0010]~[0033]、特開平11-92655号公報段落[0010]~[0033]等を参照できる。また、上記水系ポリウレタン樹脂組成物としては、市販されている水性ウレタンをそのまま、又は必要に応じて水系溶媒で希釈して使用することも可能である。市販されている水性ポリウレタンとしては、例えば、日華化学株式会社製の「エバファノール」シリーズ、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス」シリーズ、株式会社ADEKA製の「アデカボンタイター」シリーズ、三井化学株式会社製の「オレスター」シリーズ、大日本インキ化学工業株式会社製の「ボンディック」シリーズ、「ハイドラン」シリーズ、バイエル製の「インプラニール」シリーズ、日本ソフラン株式会社製の「ソフラネート」シリーズ、花王株式会社製の「ポイズ」シリーズ、三洋化成工業株式会社製の「サンプレン」シリーズ、保土谷化学工業株式会社製の「アイゼラックス」シリーズ、ゼネカ株式会社製の「ネオレッツ」シリーズ等を用いることができる。
【0027】
(中間層(Y-1-2))
中間層(Y-1-2)は、金属酸化物粒子及び樹脂を少なくとも含有する分散液を塗工して得られる。
金属酸化物粒子は、中間層(Y-1-2)の屈折率を調整する観点から用いられ、例えば、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化チタニウム(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化アンチモン(Sb2O5)等の粒子が挙げられ、単独又は2種以上の金属酸化物粒子を併用することができる。また、二種以上の金属酸化物の複合酸化物粒子を用いることもできる。金属酸化物粒子の粒径は、光学特性の観点から、5~30nmの範囲であることが好ましい。
【0028】
分散液が含む樹脂としては、上述の中間層(Y-1-1)に用いられる樹脂と同様のものが好ましい例として挙げられる。
【0029】
分散液は水系溶媒を含んでいてもよい。水系溶媒は、例えば、水、水と極性溶媒等との混合溶媒であり、好ましくは水である。水系樹脂組成物中の固形分濃度は、液安定性及び製膜性の観点から、好ましくは1~60質量%であり、より好ましくは5~40質量%である。水系樹脂組成物は、樹脂成分のほかに、必要に応じて、酸化防止剤、分散剤、可塑剤等の添加剤を含むことも可能である。また、市販されている水系樹脂組成物を、水、アルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)等の溶媒で希釈して使用してもよい。
【0030】
〔中間層(Y-2)〕
中間層(Y-2)は、樹脂と水系溶媒を含有する水系樹脂組成物から形成される水系樹脂層である。
水系樹脂組成物に含まれる水系溶媒は、例えば、水、水と極性溶媒等との混合溶媒であり、好ましくは水である。水系樹脂組成物中の固形分濃度は、液安定性及び製膜性の観点から、好ましくは1~60質量%であり、より好ましくは5~40質量%である。水系樹脂組成物は、樹脂成分のほかに、必要に応じて、酸化防止剤、分散剤、可塑剤等の添加剤を含むことも可能である。また、市販されている水系樹脂組成物を、水、アルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)等の溶媒で希釈して使用してもよい。
【0031】
水系樹脂組成物は、水系溶媒に溶解した状態又は微粒子(好ましくはコロイド粒子)として分散した状態で樹脂成分を含むことができる。中でも、水系溶媒中(好ましくは水中)に樹脂成分が微粒子状に分散した分散液であることが望ましい。この場合、上記樹脂成分の粒径は、組成物の分散安定性の観点から、0.3μm以下であることが好ましい。また、上記水系樹脂組成物のpHは、25℃において、5.5~9.0程度であることが安定性の点から好ましい。25℃での粘度は、塗布適性の点から、5~500mPa・sであることが好ましく、10~50mPa・sであることがより好ましい。また、形成される水系樹脂層の物性を考慮すると、以下の膜特性を有する水系樹脂組成物が好ましい。厚さ1mmとなるようにガラス板上に塗布し、これを120℃で1時間乾燥させた後に得られる塗布膜が、ガラス転移温度Tgが-58℃~7℃、鉛筆硬度が4B~2H、JIS K 7113に準じて測定される引っ張り強度が15~69MPaである。
【0032】
樹脂としては、上述の中間層(Y-1-1)に用いられる樹脂と同様のものが好ましい例として挙げられる。
【0033】
中間層(Y-2)の厚さは、より脱色を抑制する観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上であり、製造容易性及びコストの観点から、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下である。
【0034】
〔中間層(Y-3)〕
中間層(Y-3)は、無機酸化物とケイ素化合物とを含む硬化性組成物による硬
化膜である。
【0035】
無機酸化物としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ベリリウム、酸化アンチモン、これらのうち2 種以上の無機酸化物による複合酸化物が挙げられる。これらは、1 種を単独又は2 種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの無機酸化物の中でも、酸化ケイ素が好ましい。なお、無機酸化物として、コロイダルシリカを用いてもよい。
【0036】
無機酸化物の含有量は、硬化性組成物の固形分中、好ましくは20質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは25質量%以上70質量%以下であり、更に好ましくは25質量%以上50質量%以下である。
【0037】
ケイ素化合物は、例えば、アルコキシ基などの加水分解性基を有するケイ素化合物が挙げられる。ケイ素化合物は、好ましくは、ケイ素原子に結合する有機基と加水分解性基とを有するシランカップリング剤である。ケイ素原子に結合する有機基は、好ましくは、グリシドキシ基などのエポキシ基、ビニル基、メタアクリルオキシ基、アクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、フェニル基等の官能基を有する有機基であり、より好ましくはエポキシ基を有する有機基である。なお、ケイ素化合物は、ケイ素に結合するアルキル基を有していてもよい。
【0038】
上述のシランカップリング剤の市販品としては、例えば、信越化学工業株式会社製、商品名、KBM-303、KBM-402、KBM-403、KBE402、KBE403、KBM-1403、KBM-502、KBM-503、KBE-502、KBE-503、KBM-5103、KBM-602、KBM-603、KBM-903、KBE-903、KBE-9103、KBM-573、KBM-575、KBM-9659、KBE-585、KBM-802、KBM-803、KBE-846、KBE-9007等が挙げられる。
【0039】
ケイ素化合物の含有量は、硬化性組成物の固形分中、好ましくは20質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上75質量%以下であり、更に好ましくは50質量%以上75質量%以下である。
【0040】
硬化性組成物は、多官能エポキシ化合物を更に含んでもよい。
上述の硬化性組成物は、以上説明した成分の他、必要に応じて、有機溶剤、レベリング剤、硬化触媒等の任意成分を混合して調製することができる。
【0041】
中間層(Y-3)の厚さは、より脱色を抑制する観点から、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.8μm以上、更に好ましくは1.0μm以上であり、製造容易性及びコストの観点から、好ましくは6μm以下、より好ましくは5μm以下、更に好ましくは4μm以下である。
【0042】
<吸水性防曇層(Z)>
防曇層(Z)は、吸水性を有する層である。ここで、防曇層(Z)が吸水性を有するとは、防曇層(Z)を構成する材料が水分を取り込む特性を示すことを意味し、また、防曇層(Z)が形成された透明基材を室温下で保管した後、当該防曇層付き透明基材を40℃の温水の水面から35mm離れた位置に設置して温水からの蒸気を15秒間当てたときに、細かい水滴による防曇層(Z)表面の乱反射が無く、かつ、蒸気を接触させた後の防曇層付き透明基材を通して見た像に結露による歪みが無いことを意味する。
防曇層(Z)は、基材(X)の少なくとも一方の面側に存在するが、両面に存在してもよい。
吸水性防曇層(Z)は、防曇性を十分に発揮する観点から、眼鏡レンズの最外層であることが好ましい。
吸水性防曇層(Z)は、中間層(Y)と直接接していてもよいし、他の層を介して設けられてもよいが、中間層(Y)と直接接することが好ましい。
【0043】
防曇層(Z)の厚さは、製造容易性の観点から、好ましくは1~100μm、より好ましくは3~60μm、さらに好ましくは6~50μm、よりさらに好ましくは8~40μm、よりさらに好ましくは8~40μm、よりさらに好ましくは12~30μmである。
【0044】
防曇層(Z)の厚さは、防曇性向上の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは6μm以上、よりさらに好ましくは8μm以上、よりさらに好ましくは12μm以上であり、製造容易性の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは60μm以下、さらに好ましくは50μm以下、よりさらに好ましくは40μm以下、よりさらに好ましくは30μm以下である。
【0045】
防曇層(Z)は、撥水性能を有することが好ましい。これにより、防曇性能がより向上する。
【0046】
〔塗布組成物〕
上記防曇層(Z)は、好ましくは下記の成分(A)~(C)を含む塗布組成物の硬化膜からなる。
成分(A):下記一般式(1)で表されるモノマー(a-1)に由来する構成単位、下記一般式(2)で表されるモノマー(a-2)に由来する構成単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a-3)に由来する構成単位、及び、下記一般式(3)で表されるモノマー(a-4)に由来する構成単位を有する(メタ)アクリル系樹脂
成分(B):ポリオール化合物(B)
成分(C):多官能イソシアネート化合物(C)
【化4】
[一般式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基であり、R
2及びR
3はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。]
【化5】
[一般式(2)中、R
4は水素原子又はメチル基であり、mは1~5の整数である。]
【化6】
[一般式(3)中、R
5は水素原子又はメチル基であり、R
6は2価の有機基であり、nは0又は1以上の整数である。]
【0047】
成分(A)((メタ)アクリル系樹脂とも言う。)に含まれる構成単位(a-1)はアミド基を有しており、親水性が大きく、水分を抱え込みやすい。このため、塗布組成物を硬化することにより得られる防曇層(Z)の表面に付着した水分は、硬化内部へと吸収されやすくなると考えられる。また、ポリオール化合物(B)を配合することで、防曇層(Z)として必要な架橋密度を保ちつつ、水分が十分に吸収されるような隙間を存在させることができると考えられる。これらの理由で、防曇性が付与されると考えられる。
【0048】
また、樹脂(A)に含まれる構成単位(a-2)はポリカプロラクトン構造を有する構成単位であり、その柔軟な化学骨格により防曇層(Z)の柔軟性及び弾力性の向上に寄与する。加えて、構成単位(a-2)よりも剛直な構成単位(a-3)を含むことにより、柔軟性と弾力のバランスが確保される。一方で、構成単位(a-4)が有するポリジメチルシロキサン鎖は、防曇層(Z)に対して滑り性の向上に寄与する。このため、防曇層(Z)に外力が加わった際には、防曇層(Z)の柔軟性・弾力性によって外力を吸収しつつ、滑り性によって外力を防曇層(Z)外へ逃がすという、上記の2つの効果が相乗的に発現し、結果として防曇層(Z)には傷が付きにくくなると考えられる。
【0049】
塗布組成物は、成分(A)を構成する全構成単位100質量%に対し、モノマー(a-1)に由来する構成単位の割合が20質量%以上65質量%以下、モノマー(a-2)に由来する構成単位の割合が10質量%以上40質量%以下、モノマー(a-4)に由来する構成単位の割合が1質量%以上10質量%以下、であり、成分(C)に含まれるイソシアネート基の数(NCO)と、成分(A)に含まれる水酸基の数及び成分(B)に含まれる水酸基の数を足し合わせた総量(OH)との比(NCO)/(OH)が、0.15以上0.55以下であることが好ましい。
塗布組成物の組成をこのようにすると、成分(A)中の、水酸基を有する構成単位(a-2)及び構成単位(a-3)のバランス(量比)を取りつつ、当量比(NCO/OH)が1よりも小さい特定の範囲に設定され、摩擦抵抗が向上する程度にまで防曇層(Z)の硬さを高めることができると考えられる。加えて、成分(A)中の、水酸基を有する構成単位(a-2)及び構成単位(a-3)の構成バランスを取りつつ、かつ、当量比(NCO/OH)が1よりも小さい特定の範囲に設定され、防曇層(Z)の架橋密度が高くなり、防曇層(Z)の耐溶剤性が向上すると考えられる。
【0050】
本実施形態の塗布組成物の含有成分について、以下説明する。
(成分(A):(メタ)アクリル系樹脂)
本実施形態の塗布組成物は、成分(A)である(メタ)アクリル系樹脂、すなわち、一般式(1)で表されるモノマー(a-1)に由来する構成単位、一般式(2)で表されるモノマー(a-2)に由来する構成単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a-3)に由来する構成単位、及び、一般式(3)で表されるモノマー(a-4)に由来する構成単位を有する(メタ)アクリル樹脂を含むことが好ましい。
【0051】
前述したように、構成単位(a-1)が主として水(湿気)の吸収に関与しているものと考えられる。
(メタ)アクリル系樹脂は、典型的には、モノマー(a-1)、モノマー(a-2)、モノマー(a-3)及びモノマー(a-4)を重合させることで得ることができる。重合方法の詳細については後に述べる。
【0052】
なお、本実施形態においては、(メタ)アクリル系樹脂を構成する構成単位の100%が、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構成単位でなくてもよい。すなわち、(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系ではないモノマーに由来する構成単位を一部(全部ではない)含んでいてもよい。
(メタ)アクリル構造に由来する効果を十二分に得るためには、(メタ)アクリル系樹脂は、全構成単位中の50質量%以上が、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構成単位であることが好ましい。より好ましくは、(メタ)アクリル系樹脂の全構成単位中の80質量%以上が、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構成単位である。更に好ましくは、(メタ)アクリル系樹脂の全て(100%)の構成単位が、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構成単位である。
【0053】
モノマー(a-1)は、前述の一般式(1)の構造を持つものであれば特に限定されない。具体的には、(メタ)アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0054】
モノマー(a-1)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、上記に挙げたモノマーのうち2種以上を用いて重合反応を行うことで(メタ)アクリル系樹脂を得てもよい。
【0055】
モノマー(a-1)は、防曇性能向上の観点から、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドを含むことが特に好ましい。
【0056】
本実施形態において、(メタ)アクリル系樹脂中のモノマー(a-1)に由来する構成単位は、当該樹脂の全構成単位に対して、20~65質量%含むことが好ましい。より好ましくは35~60質量%、更に好ましくは40~55質量%である。モノマー(a-1)に由来する構成単位が20質量%以上であれば、実用に適した防曇性能を発揮する防曇層(Z)を形成しやすくなり、65質量%以下であれば、相対的に他のモノマーに由来する構成単位の比率が低下することが回避され、組成物全体としてのバランスを保ちやすくなる。
【0057】
モノマー(a-2)は、前述の一般式(2)の構造を持つものであれば特に限定されない。
本実施形態において、(メタ)アクリル系樹脂は、モノマー(a-2)に由来する構成単位を、当該樹脂の全構成単位に対して、好ましくは10~40質量%、より好ましくは20~38質量%、更に好ましくは25~35質量%含む。
【0058】
モノマー(a-2)に由来する構成単位が10質量%以上であれば、防曇層(Z)の柔軟性が確保されやすくなり、40質量%を以下であれば、防曇層(Z)の弾力性を確保しやすくなる。
(メタ)アクリル系樹脂は、モノマー(a-2)に由来する繰り返し単位を複数種含んでいてもよい。
【0059】
モノマー(a-3)はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートである。この具体例としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。本実施形態においては、これらの中でもヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
本実施形態において、(メタ)アクリル系樹脂中のモノマー(a-3)に由来する構成単位は、(メタ)アクリル系樹脂の全構成単位に対して、好ましくは1~30質量%、より好ましくは2~20質量%、更に好ましくは3~15質量%含まれる。
【0060】
なお、モノマー(a-3)は、モノマー(a-2)と同様に水酸基を有し、後述する多官能イソシアネート化合物と架橋反応を起こし、防曇層(Z)を形成する。
本実施形態においては、モノマー(a-2)だけで架橋反応を生じさせ、防曇層(Z)を形成するのではなく、モノマー(a-3)とともに多官能イソシアネート化合物と架橋反応を生じさせることで種々の物性を兼ね備えた防曇層(Z)とすることができる。
【0061】
前述したように、(メタ)アクリル系樹脂は、モノマー(a-2)及びモノマー(a-3)に由来する構成単位を含むため、全体として水酸基を有する、すなわち水酸基価を有する樹脂である。このため、後述のポリオール化合物とともに、後述の多官能イソシアネート化合物と反応し、架橋構造を形成することができる。
【0062】
(メタ)アクリル系樹脂の水酸基価は、40~150mgKOH/gであることが好ましく、70~140mgKOH/gであることがより好ましく、90~130mgKOH/gであることがさらに好ましい。
この数値範囲とすることで、ポリオール化合物(後述)とともに、多官能イソシアネート化合物(後述)と反応し、架橋構造が適切に制御されやすくなる。そのため、防曇層(Z)の柔軟性・弾力性を維持しつつ、防曇層(Z)を硬くすることが可能となる。よって、防曇層(Z)の耐擦傷性、摩擦抵抗の低減、及び耐溶剤性とのより高度な両立を図りやすくなる。
なお、水酸基価とは、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数を意味する。
【0063】
モノマー(a-4)は、前述の一般式(3)の構造を持つものであれば特に限定されない。
【0064】
(メタ)アクリル系樹脂は、モノマー(a-4)に由来する繰り返し単位を複数種含んでいてもよい。例えば、上記に挙げたモノマーのうち2種以上を用いて重合反応を行うことで(メタ)アクリル系樹脂を得てもよい。
本実施形態において、(メタ)アクリル系樹脂中のモノマー(a-4)に由来する構成単位は、当該樹脂の全構成単位に対して、好ましくは1~10質量%、より好ましくは2~8質量%、更に好ましくは3~7質量%含まれる。
【0065】
モノマー(a-4)に由来する構成単位が1質量%以上であれば、耐擦傷性を満足する吸水性防曇層(Z)を得やすくなる。10質量%以下であれば、均質な(メタ)アクリル系樹脂を合成しやすくなる。
【0066】
(メタ)アクリル系樹脂は、構成単位(a-1)、構成単位(a-2)、構成単位(a-3)、及び構成単位(a-4)以外の任意の構成単位(構成単位(a-5))を含んでもよいし、含まなくてもよい。構成単位(a-5)としては、例えば、以下で表されるモノマーに由来する構成単位が挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂にこのような構成単位を含めることで、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度や、防曇層(Z)の物性(硬さ、柔らかさ等)の調整・最適化をすることができる。
【0067】
構成単位(a-5)としては、一般式CH2=CR-COO-R’において、Rが水素原子又はメチル基であり、R’が、アルキル基、単環又は多環のシクロアルキル基、アリール基、又はアラルキル基であるモノマー由来の構成単位であることが挙げられる。
このモノマーの具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、R’が炭素数1~8のアルキル基であるものが好ましく、R’が1~6のアルキル基であるものがより好ましく、R’が1~4のアルキル基であるものが更に好ましい。
【0068】
(メタ)アクリル系樹脂は、構成単位(a-5)に該当する繰り返し単位を複数種含んでいてもよい。例えば、上記で具体例として挙げられたモノマーのうち2種以上を用いて重合反応を行うことで(メタ)アクリル系樹脂を得てもよい。
(メタ)アクリル系樹脂が構成単位(a-5)を含む場合、その含有量は、(メタ)アクリル系樹脂の全構成単位に対して、好ましくは1~40質量%、より好ましくは3~30質量%、更に好ましくは5~20質量%である。
【0069】
(メタ)アクリル系樹脂の質量平均分子量(Mw)は、特に限定はされないが、10,000~100,000であることが好ましく、20,000~70,000であることがより好ましく、30,000~60,000であることが更に好ましい。質量平均分子量が10,000以上であれば得たい防曇性能を得られやすく、100,000以下であれば眼鏡レンズ等の被塗物に塗装する際の塗装適性に優れる傾向がある。
なお、質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準物質としてポリスチレンを用いることで求めることができる。
【0070】
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は、特に限定されないが、好ましくは20~120℃、より好ましくは30~110℃、更に好ましくは35~100℃である。
なお、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は、種々の方法で求めることが可能であるが、例えば以下のフォックス(Fox)の式に基づいて求めることができる。
1/Tg=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+(W3/Tg3)+・・・+(Wn/Tgn)
〔式中、Tgは、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(K)、W1、W2、W3・・・Wnは、それぞれのモノマーの質量分率、Tg1、Tg2、Tg3・・・Tgnは、それぞれ各モノマーの質量分率に対応するモノマーからなる単独重合体のガラス転移温度(K)を示す。〕
【0071】
本明細書において、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(防曇層のガラス転移温度ではなく、(メタ)アクリル系樹脂単独のガラス転移温度)は、上記式に基づいて求められたガラス転移温度を意味する。なお、特殊モノマー、多官能モノマー等のようにガラス転移温度が不明のモノマーについては、ガラス転移温度が判明しているモノマーのみを用いてガラス転移温度が求められる。
【0072】
(メタ)アクリル系樹脂は、典型的には重合反応により得ることができる。重合反応としては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合等の各種方法であればよく、この中でもラジカル重合が好ましい。また、重合は、溶液重合、懸濁重合、及び乳化重合等のいずれであってもよい。これらのうち、重合の精密な制御等の観点から、溶液重合が好ましい。
【0073】
ラジカル重合の重合開始剤としては、公知のものを用いることができる。例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、及び2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシオクタノエート、ジイソブチルパーオキサイド、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシピバレート、デカノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、及びt-ブチルパーオキシベンゾエート等の過酸化物系開始剤、過酸化水素と鉄(II)塩、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウム等、酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の配合量は、特に限定されないが、重合するモノマーの混合液全体を100質量部とした場合に0.001~10質量部とすることが好ましい。
【0074】
また、重合反応に際しては、適宜、公知の連鎖移動剤、重合禁止剤、分子量調整剤等を用いてもよい。更に、重合反応は、1段階で行ってもよいし、2段階以上で行ってもよい。重合反応の温度は特に限定されないが、典型的には50℃~200℃、好ましくは80℃~150℃の範囲内である。
【0075】
(成分(B):ポリオール化合物)
本実施形態の塗布組成物は、ポリオール化合物を含むことが好ましい。ポリオール化合物を含むことにより、(メタ)アクリル系樹脂とともに後述の多官能イソシアネート化合物と反応し、より防曇耐久性に優れた防曇層(Z)を形成することが可能となる。ポリオール化合物が1分子中に有する水酸基の個数は2以上で、好ましくは2~6、より好ましくは2~4である。
【0076】
ポリオール化合物は、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオールからなる群より選択される少なくとも1種以上のポリオール化合物を含むことが好ましい。これらの化学構造は、適度に柔軟で、かつ弾力性を有している。このため、硬化膜の柔軟性・弾力性をより高めることができる。
【0077】
ポリカプロラクトンポリオールは、一分子中に、カプロラクトンの開環構造及び2以上の水酸基を有する化合物であれば特に制限なく使用可能である
【0078】
ポリカーボネートポリオールは、一分子中に、-O-(C=O)-O-で表されるカーボネート基及び2以上の水酸基を有する化合物であれば、特に制限なく使用可能である。ポリカーボネートポリオールは、1種以上のポリオール原料(多価アルコール)と、炭酸エステルやホスゲンとを反応させることにより得ることができる。
ポリオール原料としては、特に制限されないが、例えば、脂肪族ポリオール、脂環構造を有するポリオール、芳香族ポリオール等が挙げられる。本実施形態においては、硬化膜の柔軟性の観点から、脂環構脂を有しない脂肪族ポリオールが好ましい。
炭酸エステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の脂肪族炭酸エステル、ジフェニルカーボネート等の芳香族炭酸エステル、エチレンカーボネート等の環状炭酸エステルが挙げられる。中でも、入手や製造のしやすさから、脂肪族炭酸エステルが好ましく、ジメチルカーボネートが特に好ましい。
【0079】
ポリエーテルポリオールは、一分子中に、エーテル結合(-O-)及び2個以上の水酸基を有する化合物であれば特に制限なく使用可能である。
具体的な化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールA、ビス(β-ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の低分子ポリオール類、又はエチレンジアミン、プロピレンジアミン、トルエンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、キシリレンジアミン等の低分子ポリアミン類等のような活性水素基を2個以上、好ましくは2~3個有する化合物を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のようなアルキレンオキサイド類を付加重合させることによって得られるポリエーテルポリオール、或いはメチルグリシジルエーテル等のアルキルグリシジルエーテル類、フェニルグリシジルエーテル等のアリールグリシジルエーテル類、テトラヒドロフラン等の環状エーテルモノマーを開環重合することで得られるポリエーテルポリオールを挙げることができる。
【0080】
なお、本実施形態において、ポリオール化合物は、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオールのうち、複数に該当する化合物であってもよい。例えば、ポリオール化合物は、エーテル結合とエステル結合とを有するポリエーテルポリエステルポリオール等であってもよい。
また、ポリオール化合物は、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオールのうち、複数種を含んでいてもよい。
【0081】
ポリオール化合物の水酸基価は、好ましくは50~500mgKOH/g、より好ましくは100~350mgKOH/g、更に好ましくは150~250mgKOH/gである。適度な水酸基の量とすることで、下記の多官能イソシアネート化合物との反応による架橋構造が制御され、硬化膜の柔軟性・弾力性等を一層高めやすくなる。
【0082】
本実施形態において、ポリオール化合物の質量平均分子量(Mw)としては、好ましくは450~2,500、より好ましくは、500~1,500、更に好ましくは500~700である。適度な分子量とすることで、柔軟性・弾力性向上による硬化膜の外観変化の抑制と、ガソリン耐性等の硬化膜の耐久性とのより高度に両立しやすくなる。
【0083】
塗布組成物中のポリオール化合物の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂100質量部に対して、好ましくは5~200質量部、より好ましくは15~180質量部、更に好ましくは20~150質量部、より更に好ましくは20~100質量部、より、更に好ましくは20~50質量部、より、更に好ましくは20~40質量部である。この数値範囲とすることで、ポリオール化合物に由来する性能を得やすくなり、他成分とのバランスを取りやすくなる。
【0084】
本実施形態において、ポリオール化合物としては、前述したポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオールのうち、ポリカプロラクトンポリオールを含むことが好ましく、ポリカプロラクトンポリオールの中でもポリカプロラクトンジオール(カプロラクトン構造を持ち、かつ、2つの水酸基を持つ化合物)を含むことが特に好ましい。
これは、成分(A)である(メタ)アクリル系樹脂が前述の一般式(2)の構造、すなわちカプロラクトン構造を持つため、ポリオール化合物としては当該樹脂との相溶性が良好となりやすい傾向があるということと、架橋密度を上げ過ぎずに防曇性能を向上させやすい傾向があるためである。
【0085】
(成分(C):多官能イソシアネート化合物)
本実施形態の塗布組成物は、成分(C)として、多官能イソシアネート化合物を含むことが好ましい。塗布組成物が、多官能イソシアネート化合物を含むことにより、成分(A)である(メタ)アクリル系樹脂に含まれる構成単位(a-2)及び構成単位(a-3)が有する水酸基、並びに成分(B)であるポリオール化合物の水酸基と多官能イソシアネート化合物が架橋反応を起こし、防曇耐久性に優れる防曇層(Z)となる。
多官能イソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基(脱離性基で保護されたイソシアネート基を含む)を有する化合物である。好ましくは、多官能イソシアネート化合物は、その官能基数は、より好ましくは1分子あたり2~6個、更に好ましくは1分子あたり2~4個である。
【0086】
多官能イソシアネート化合物としては、リジンイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びトリメチルヘキサンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン-2,4-(又は2,6)-ジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)及び1,3-(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の環状脂肪族ジイソシアネート、並びに、リジントリイソシアネート等の3官能以上のイソシアネートが挙げられる。
【0087】
成分(C)である多官能イソシアネート化合物は、上記のものに加え、その多量体である、ビウレット型、イソシアヌレート型、アダクト型等のものを用いてもよい。中でも、適度な剛直性を有するビウレット型の多官能イソシアネート化合物が好ましい。
【0088】
本実施形態において、塗布組成物中における多官能イソシアネート化合物の含有量は、後述する当量比(NCO)/(OH)に従って配合されれば特に制限はないが、通常、(メタ)アクリル系樹脂100質量部に対して5~100質量部、好ましくは7~75質量部、より好ましくは10~60質量部、更に好ましくは10~50質量部、より更に好ましくは15~40質量部、より更に好ましくは20~30質量部である。この数値範囲とすることで、硬化膜内で必要十分な架橋がなされると考えられる。
【0089】
(メタ)アクリル系樹脂およびポリオール化合物が有する水酸基に対する、多官能イソシアネート化合物が含有するイソシアネート基(ブロックイソシアネート基を含む)のモル量(すなわち、当量比(NCO)/(OH))は、好ましくは0.15~0.55の範囲である。当量比(NCO)/(OH)が当該範囲内であると、架橋密度が十分に高くなり、その結果、硬化膜としての防曇性や耐溶剤性などの機能が十分なものとなる。
当該観点から、当該当量比(NCO)/(OH)は、好ましくは0.25~0.50、より好ましくは0.35~0.45である。
【0090】
塗布組成物の固形分濃度は、好ましくは10.0~40.0質量%である。10.0質量%以上であると、吸水性防曇層(Z)の膜厚を厚くすることができる。40.0質量%以下であると、均一膜厚の吸水性防曇層(Z)を得ることができる。当該観点から、塗布組成物の固形分濃度は、より好ましくは12.0~30.0質量%、さらに好ましくは15.0~30.0質量%、よりさらに好ましくは16.5~24.5質量%である。
【0091】
(塗布組成物の形態)
本実施形態の塗布組成物は、1液型、すなわち、溶剤以外の全成分が、溶剤に実質的に均一に混合(溶解又は分散)された状態であってよい。多官能イソシアネート化合物がブロックイソシアネートである場合には、1液型が好ましい。
また、別の態様として、本実施形態の塗布組成物は、2液型であってもよい。2液型にすることで、塗布組成物の保存性を高めることができる。
例えば、本実施形態の塗布組成物は、(1)(メタ)アクリル系樹脂及び/又はポリオール化合物を含み、多官能イソシアネート化合物を含まないA液と、(2)多官能イソシアネート化合物を含み、(メタ)アクリル系樹脂及びポリオール化合物を含まないB液とから構成され、A液とB液は別々の容器で保存され、使用(塗工)直前にA液とB液を混合する形態であってもよい。
この場合、(メタ)アクリル系樹脂、ポリオール化合物、及び多官能イソシアネート化合物以外の成分(添加剤等)は、A液に含まれていても、B液に含まれていても、あるいはその他の容器で準備されていてもよい。
特に、多官能イソシアネート化合物が、ブロックイソシアネートではない場合(すなわち、系中でイソシアネート基が-NCOの形で存在している場合)には、塗布組成物は2液型であることが好ましい。
【0092】
(溶剤)
本実施形態の塗布組成物は、溶剤を含んでもよい。溶剤を用いることにより、塗布組成物の粘度及び固形分量の調整が容易となる。
溶剤としては、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、t-ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、及び酢酸イソブチル等のエステル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系溶剤等が挙げられる。
これらの中でも、イソシアネートとの反応性が低く、溶解性及び乾燥性等の観点から、t-ブタノール、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン、酢酸エチル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。
【0093】
塗布組成物中の溶剤の含有量は、防曇層(Z)の膜厚を制御する観点から、好ましくは20~90質量%であり、より好ましくは30~85質量%、さらに好ましくは35~80質量%である。
【0094】
塗布組成物の固形分は、より防曇性に優れる眼鏡レンズを得る観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であり、外観に優れる眼鏡レンズを得る観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
塗布組成物の固形分中における、成分(A)、(B)及び(C)の合計含有量は、防曇性及び耐擦傷性を向上させる観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、好ましくは100質量%以下であり、例えば100質量%である。
【0095】
(その他の添加剤)
塗布組成物は、必要に応じて、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤等の添加剤を含んでもよい。
添加剤の含有量は、例えば、塗布組成物の全質量に対して、好ましくは0.001~5質量%、より好ましくは0.01~4質量%、更に好ましくは0.1~3質量%である。
【0096】
塗布組成物は、必要に応じて用いられる上記各成分を、溶媒に溶解又は分散させることにより調製することができる。
各成分は、同時に、又は、任意の順序で順次、溶媒に溶解又は分散させることすることができる。具体的な溶解又は分散させる方法には、特に制限はなく、公知の方法を何ら制限なく採用することができる。
【0097】
<他の層>
眼鏡レンズには、防曇層(Z)及び中間層(Y)以外の機能層が設けられていてもよい。
上記機能層としては、ハードコート層、反射防止層、プライマー層等が挙げられる。
上記機能層は、レンズ基材の第1主面上に設けられていてもよいし、レンズ基材の第2主面上に設けられていてもよいし、レンズ基材の第1主面及び第2主面の両方の上に設けられていてもよい。また、レンズ基材上に上記機能層を設けた後、上記機能層上に防曇層(Z)を設けてもよく、レンズ基材上に防曇層を設けた後に、上記機能層を設けてもよい。
【0098】
[着色眼鏡レンズの製造方法]
本実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法は、中間層(Y)を形成する工程1と、防曇層(Z)を形成する工程2を含むことが好ましい。
【0099】
<工程1>
中間層(Y)を形成するために用いられる中間層(Y)用組成物(組成物y)は、必要に応じて用いられる上記各成分を、以上説明した成分の他、必要に応じて、有機溶剤、レベリング剤、硬化触媒等の任意成分を混合して調製する。
続いて、得られた組成物yを着色剤を有する基材(X)もしくは着色剤を有する基材(X)上に形成された他の層上に塗工し、好ましくは70~150℃、より好ましくは75~140℃、さらに好ましくは80~130℃で、好ましくは10~60分、より好ましくは15~50分、さらに好ましくは20~40分、プレキュアを行うことが好ましい。
組成物yの塗工方法は特に限定されず、例えばエアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法、ロールコーター法、フローコーター法、スピンコート法、ディッピング法等が挙げられる。生産性の観点から、ディッピング法が好ましい。
【0100】
続いて、20~160℃で10~140分間、好ましくは60~130℃で20~150分間乾燥・硬化する。なお、乾燥・硬化の温度や時間は、溶剤の種類やレンズ基材の耐熱性等を考慮して適宜調整すればよい。
また、必要に応じて、上述した機能層(ハードコート層、プライマー層、反射防止層等)を、基材上に設けた後、機能層上に中間層(Y)を設けてもよく、基材上に中間層(Y)を設けた後、中間層(Y)上に機能層を設けてもよい。
【0101】
<工程2>
まず、必要に応じて用いられる上述した各成分を、溶媒に溶解又は分散させることにより、防曇層(Z)用塗布組成物(塗布組成物z)を調製する。
続いて、塗布組成物zを、基材上に形成された中間層(Y)上、もしくは中間層(Y)を有する基材上に形成された他の層上に塗工し、続いて、好ましくは70~120℃、より好ましくは75~110℃、さらに好ましくは80~100℃で、好ましくは10~60分、より好ましくは15~50分、さらに好ましくは20~40分、プレキュアを行うことが好ましい。
なお、当該塗工及びプレキュアは、1回行っても良く、2回以上行っても良い。2回以上行うことにより、防曇層(Z)の厚さを厚くすることが容易となる。
【0102】
塗布組成物zの塗工方法は特に限定されず、例えばエアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法、ロールコーター法、フローコーター法、スピンコート法、ディッピング法等が挙げられる。生産性の観点から、ディッピング法が好ましい。
塗工方法としてディッピング法を用いる場合、通常、ディッピング槽(塗布組成物槽)から、先に引き上げられた部分の膜厚は薄くなり、最も遅くディッピング槽から引き上げられた部分の膜厚は厚くなる。したがって、1回目の塗工の後、2回目の塗工をする際には、1回目に塗工した際とは、基材の上下方向を180℃回転させてディッピングすることが好ましい。このようにすることで、防曇層(Z)の膜厚が均一な眼鏡レンズを得られ易くなる。
【0103】
続いて、20~160℃で10~140分間、好ましくは60~130℃で20~150分間乾燥・硬化することが好ましい。なお、乾燥・硬化の温度や時間は、溶剤の種類やレンズ基材の耐熱性等を考慮して適宜調整すればよい。
また、必要に応じて、上述した機能層(ハードコート層、プライマー層、反射防止層等)を、レンズ基材上に設けた後、機能層上に防曇層(Z)を設けてもよく、レンズ基材上に防曇層(Z)を設けた後、防曇層(Z)に機能層を設けてもよい。
【0104】
本開示は、上記各成分の例、含有量、各種物性については、発明の詳細な説明に例示又は好ましい範囲として記載された事項を任意に組み合わせてもよい。
また、実施例に記載した組成に対し、発明の詳細な説明に記載した組成に調整を行えば、クレームした組成範囲全域にわたって実施例と同様に実施することができる。
【実施例】
【0105】
次に、本開示を実施例により更に詳細に説明するが、本開示は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0106】
[測定評価]
以下の実施例及び比較例で得られた防曇層(Z)用塗布組成物と眼鏡レンズについて、以下の項目の測定評価を行った。これらの測定評価結果を表1に示す。
【0107】
<水酸基価>
JIS K 0070:1992「化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」の、「7.1 中和滴定法」に規定された方法に準じて測定及び算出した。
なお、水酸基価の算出に用いる酸価の値は、上記JIS規格の「3.1 中和滴定法」に規定された方法に準じて測定及び算出した。
【0108】
<数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)、多分散度(Mw/Mn)>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定、算出した。用いた装置、条件等は以下の通りである。
・使用機器:HLC8220GPC(株式会社東ソー製)
使用カラム:TSKgel SuperHZM-M、TSKgel GMHXL-H、TSKgel G2500HXL、TSKgel G5000HXL(株式会社東ソー製)
・カラム温度:40℃
標準物質:TSKgel 標準ポリスチレンA1000、A2500、A5000、F1、F2、F4、F10(株式会社東ソー製)
・検出器:RI(示差屈折)検出器
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:1ml/min
【0109】
<中間層(Y)及び防曇層(Z)の膜厚測定>
得られた眼鏡レンズの防曇層(Z)の膜厚はオリンパス株式会社製 顕微分光測定機「USPM-RU」を用いて測定した。
【0110】
<インデンテーション硬さ測定>
中間層(Y)のインデンテーション硬さにおいては、防曇層(Z)形成前の中間層(Y)が形成された着色基材の表面から、超微小押し込み硬さ試験機「ENT-2100」(株式会社エリオニクス製)を用いて押し込み荷重100mgfでインデンテーション硬さを測定した。
防曇層(Z)のインデンテーション硬さにおいては、中間層(Y)上に防曇層(Z)が形成された着色基材の表面から、中間層(Y)のインデンテーション硬さの測定と同様にして測定した。
なお、インデンテーション硬さは、中間層(Y)においては中間層(Y)上の任意の7点、防曇層(Z)においては防曇層(Z)上の任意の7点のインデンテーション硬さをそれぞれ測定し、それらの平均値とした。
インデンテーション硬さ測定で得られた値から、防曇層(Z)の100mgf荷重におけるインデンテーション硬さIZ(任意の7点の測定値の平均値)に対する、前記中間層(Y)の100mgf荷重におけるインデンテーション硬さIY(任意の7点の測定値の平均値)の差(IY-IZ)と、前記IZに対する前記IYの比(IY/IZ)を算出した。
【0111】
<脱色性評価>
実施例及び比較例で得られた着色眼鏡レンズの視感透過率(I)を測定した。次に、視感透過率を測定した着色眼鏡レンズを、40℃の水に30分浸漬した後、再度視感透過率(II)を測定した。なお、視感透過率は分光光度計「U-4100」(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 測定波長:380~780nm)を用いて測定した。
得られた視感透過率(I)、視感透過率(II)と、その差(視感透過率(II)-視感透過率(I))を表1に示す。視感透過率(I)と視感透過率(II)との差が小さい程、脱色が抑制されていることを示す。
【0112】
<干渉縞評価>
分光光度計「U-4100」(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、380~780nmの光波長において、分光反射率の測定を行い、その結果から干渉縞を確認した。
【0113】
[中間層(Y)用組成物の作製]
(組成物y-1の調製)
水系ポリウレタン樹脂組成物「エバファノールHA50C」(日華化学株式会社製)3.47質量%、水22.77質量%、エタノール72.25質量%、レベリング剤「Y-7006」(東レ・ダウコーニング株式会社製)0.05質量%を混合したものを調製し、組成物y-1を得た。
【0114】
(組成物y-2の調製)
γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン100質量部を攪拌しながら、0.01モル/L濃度塩酸1.4質量部、水23質量部を添加し、24時間攪拌してγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物を得た。次に、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化珪素を主体とする複合体微粒子ゾル200質量部とエチルセロソルブ100質量部、シリコーン系界面活性剤0.5質量部及びアルミニウムアセチルアセトネート3.0質量部とを混合し、前述のγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物に加え、十分攪拌した後にろ過し、組成物y-2を得た。
【0115】
(組成物y-3の調製)
γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン100質量部を攪拌しながら、0.1モル/L濃度塩酸31質量部を添加し、3.5時間攪拌してγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物を得た。前記γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物100質量部に対し、ポリエーテル変性シリコーンオイル1.1質量部、「オプトレイク 1120Z 8RU-25 A17 P1」(日揮触媒化成工業株式会社製)1.1質量部、「デナコール EX-421」(ナガセケムテックス株式会社製)9.7質量部、アルミニウムアセチルアセトネート1.1質量部、鉄アセチルアセトネート0.4質量部、マンガンアセチルアセトネート0.4質量部、「ANTAGE クリスタル」(川口化学工業株式会社)0.5質量部加え、十分攪拌した後にろ過し、組成物y-3を得た。
【0116】
[吸水性防曇層(Z)用塗布組成物の作製]
((メタ)アクリル系樹脂Aの合成)
撹拌器、温度計、コンデンサー及び窒素ガス同入管を備えた500ml形のフラスコにプロピレングリコールモノメチルアセテート(PGMAC)150質量部を仕込み、110℃まで昇温した。
これとは別に、ジメチルアクリルアミド(DMAA)25質量部、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート(株式会社ダイセル製、プラクセルFA2D)35質量部、2-ヒドロキシルエチルメタクリレート(HEMA)10質量部、片末端メタクリレート変性ポリジメチルシロキサン(JNC株式会社製、サイラプレーンFM-0721、分子量5000)5質量部、メタクリル酸メチル25質量部、及び、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)(和光純薬工業株式会社製、V-40)1質量部を混合した。この混合モノマーを撹拌しながら2時間かけて、上記の500ml形のフラスコに滴下し、5時間反応させた。
加熱を止めて室温まで冷却し、(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂溶液(固形分比率:40質量%)を得た。
得られた(メタ)アクリル系樹脂の水酸基価は57mgKOH/gであり、数平均分子量(Mn)は12,000であり、質量平均分子量(Mw)は44,000であり、多分散度(Mw/Mn)は3.67であった。また、前述のフォックス(Fox)の式に基づいて、使用したモノマーの配合比から計算した(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は32.8℃であった。
【0117】
(塗布組成物1の調製)
上記で得た(メタ)アクリル系樹脂、ポリカプロラクトンジオール(株式会社ダイセル製、プラクセル205U、分子量530、水酸基価207~217mgKOH/g)、多官能イソシアネート化合物(旭化成株式会社製、24A-100、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレットタイプ、イソシアネート基含有率23.5質量%、固形分100質量%)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン、t-ブタノール、及び酢酸エチルを混合し、混合物を得た。なお、得られた混合物中のそれぞれの含有量は下記のとおりである。
(メタ)アクリル系樹脂:14.7質量%
ポリカプロラクトンジオール:4.4質量%
多官能イソシアネート化合物:3.4質量%
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート:28.5質量%
ジアセトンアルコール:18.5質量%
メチルエチルケトン:13.5質量%
t-ブタノール:8.5質量%
酢酸エチル:8.5質量%
そして、粘度が35.0mPa・s、固形分が22.5質量%となるように、酢酸エチル、メチルエチルケトン、及びジアセトンアルコールを混合物に添加、混合して調整し、塗布組成物1を得た。
なお、(メタ)アクリル系樹脂の量は、樹脂溶液(固形分量:質量%)としての量ではなく、樹脂溶液中に含まれる樹脂(固形分)の量を表し、多官能イソシアネート化合物の量も固形分としての量を表している。
また、上記(メタ)アクリル系樹脂とポリオール化合物とを、上記の量で均一に混合したときの混合物の水酸基価の測定値は93mgKOH/gであった。
【0118】
(塗布組成物2の調製)
塗布組成物1の調製において、酢酸エチル、メチルエチルケトン、及びジアセトンアルコールを用いて粘度が24.5mPa・s、固形分が18.5質量%となるように調製したこと以外は同様の操作により、塗布組成物2を得た。
【0119】
(塗布組成物3の調製)
塗布組成物1の調製において、酢酸エチル、メチルエチルケトン、及びジアセトンアルコールを用いて粘度が18.0mPa・s、固形分が16.5質量%となるように調製したこと以外は同様の操作により、塗布組成物3を得た。
【0120】
(塗布組成物4の調製)
塗布組成物1の調製において、酢酸エチル、メチルエチルケトン、及びジアセトンアルコールを用いて粘度が34.7mPa・s、固形分が22.5質量%となるように調製したこと以外は同様の操作により、塗布組成物4を得た。
【0121】
[実施例1]
ビーカーに入れた1リットルの純水をスターラーで撹拌しながら、間接槽を用いて95℃に保温した。そして、保温したビーカー内の純水に、染色キャリアとしてシンナミルアルコール5mL、界面活性剤として2-エチルヘキシル硫酸ナトリウム(40質量%水溶液)「シントレッキスEH-R」(日油株式会社製)5mLと、ポリオキシエチレンステアリルフェノールエーテルスルホン酸エステル(35質量%水溶液)「ネオノール20」(正研化工株式会社製)1.5mLを添加した。そして、グレー系に染色されるように、分散染料として青色染料「FSP Blue AUL-S」(双葉産業株式会社製 アントラキノン系分散染料)2.80g、赤色染料「FSP Red E-A」(双葉産業株式会社製 アントラキノン系分散染料)0.35g、黄色染料「FSP Yellow FL」(双葉産業株式会社製)0.22g、茶色染料「FSP Red S-N」(双葉産業株式会社製)0.75g添加した。そして、スターラーを用いてビーカー内の水溶液を60分以上撹拌して、各添加物を均一に分散及び溶解させ、染色液を作製した。なお、染色液の調合の間、液温が常に95℃の一定温度を保つように保温し続けた。
95℃の染色液に、チオウレタン系プラスチックレンズ基材「EYNOA」(HOYA株式会社製、屈折率1.67、度数S-0.00D)を600秒浸漬して、染色を行った。
【0122】
次に、得られた着色基材を、アルカリ水溶液で前処理した。続いて、前処理した着色基材に、ディッピング法(引き上げ速度:20cm/分)を用いて塗布組成物y-1を塗布した後、温度100℃で30分加熱し、放冷して、中間層(Y)を有する着色基材を得た。なお、中間層(Y)の膜厚は、波長λが450~650nmの光における光学膜厚が0.2λ~0.3λであった。
次に、中間層(Y)を有する着色基材に、ディッピング法(引き上げ速度:5mm/秒)を用いて塗布組成物1を塗布した後、温度100℃で20分加熱し、その後放冷した。
その後、120℃で120分加熱し、上記着色基材上に防曇層(Z)を有する着色眼鏡レンズを製造した。得られた着色眼鏡レンズの評価結果を表1に、また分光反射率の測定結果を
図1に示す。
【0123】
[実施例2]
実施例1において、チオウレタン系プラスチックレンズ基材「EYNOA」(HOYA株式会社製、屈折率1.67、度数S-0.00D)を用いて、同様の操作により、着色基材を得た。
次に、得られた着色基材を、アルカリ水溶液で前処理した。続いて、前処理した着色基材に、ディッピング法(引き上げ速度:5mm/秒)を用いて塗布組成物y-2を塗布した後、温度80℃で30分加熱し、放冷した後、110℃で60分加熱し、中間層(Y)を有する着色基材を得た。
次に、中間層(Y)を有する着色基材に、ディッピング法(引き上げ速度:5mm/秒)を用いて塗布組成物2を塗布した後、温度100℃で20分加熱し、その後放冷した。
その後、120℃で120分加熱し、上記着色基材上に防曇層(Z)を有する着色眼鏡レンズを製造した。
【0124】
[実施例3]
実施例1において、チオウレタン系プラスチックレンズ基材「EYNOA」(HOYA株式会社製、屈折率1.67、度数S-0.00D)を用いて、同様の操作により、着色基材を得た。
次に、得られた着色基材を、アルカリ水溶液で前処理した。続いて、前処理した着色基材に、ディッピング法(引き上げ速度:5mm/秒)を用いて塗布組成物y-3を塗布した後、温度80℃で30分加熱し、放冷した後、110℃で60分加熱し、中間層(Y)を有する着色基材を得た。
次に、中間層(Y)を有する着色基材に、ディッピング法(引き上げ速度:5mm/秒)を用いて塗布組成物4を塗布した後、温度100℃で20分加熱し、その後放冷した。
その後、120℃で120分加熱し、上記着色基材上に防曇層(Z)を有する着色眼鏡レンズを製造した。
【0125】
[比較例1]
実施例1において、中間層(Y)を形成しなかったこと、また塗布組成物1の代わりに塗布組成物3を用いたこと以外は同様の操作により、着色眼鏡レンズを製造した。得られた着色眼鏡レンズの評価結果を表1に、また分光反射率の測定結果を
図2に示す。
【0126】
【0127】
実施例及び比較例の表1に記載の結果から、実施例に係る着色眼鏡レンズは、脱色が抑制されていることが分かる。
また、
図1及び
図2から、波長λが450~650nmの光における光学膜厚が0.2λ~0.3λである中間層(Y)を形成した着色眼鏡レンズ(実施例1)のリップルの振幅は、中間層(Y)を有しない着色眼鏡レンズ(比較例1)のリップルの振幅に比べ、大きく低減していることがわかる。以上の結果より、波長λが450~650nmの光における光学膜厚が0.2λ~0.3λである中間層(Y)を形成した着色眼鏡レンズは、脱色が抑制され、かつ干渉縞も抑制されることが分かる。
【0128】
最後に、本開示の実施の形態を総括する。
本開示の実施の形態である着色眼鏡レンズは、
着色剤を含有する基材(X)と、前記基材(X)の少なくとも一方の面側に存在する吸水性防曇層(Z)と、を有する着色眼鏡レンズであって、
前記基材(X)と前記吸水性防曇層(Z)との間に、中間層(Y)を有する。
上述した実施の態様によれば、基材から吸水性防曇層への着色剤の移行が抑制され、着色剤が着色眼鏡レンズから離脱することが抑制された眼鏡レンズを提供される。すなわち、脱色が抑制された、吸水性防曇層を有する着色眼鏡レンズを提供される。
【0129】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
本開示は、上記各成分の例、含有量、各種物性については、発明の詳細な説明に例示又は好ましい範囲として記載された事項を任意に組み合わせてもよい。
また、実施例に記載した組成に対し、発明の詳細な説明に記載した組成となるように調整を行えば、クレームした組成範囲全域にわたって実施例と同様に開示の実施の形態を実施することができる。