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特許7499414熱伝導性組成物、熱伝導性シート及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】熱伝導性組成物、熱伝導性シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20240606BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20240606BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240606BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20240606BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20240606BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/22
C08K3/28
C08K9/04
C08J5/18 CFH
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023530708
(86)(22)【出願日】2022-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2022037639
(87)【国際公開番号】W WO2023162323
(87)【国際公開日】2023-08-31
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2022025596
(32)【優先日】2022-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237422
【氏名又は名称】富士高分子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 克之
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/190233(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/131486(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/179115(WO,A1)
【文献】特許第6246986(JP,B2)
【文献】特開2017-210518(JP,A)
【文献】特開2013-147600(JP,A)
【文献】特開2010-168558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08K 3/00-13/08
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加硬化型ポリオルガノシロキサン(A)及び熱伝導性無機フィラー(B)を含む熱伝導性組成物であって、
前記付加硬化型ポリオルガノシロキサン(A)100質量部に対して、前記熱伝導性無機フィラー(B)を500~5000質量部含み、
前記付加硬化型ポリオルガノシロキサン(A)は、下記ベースポリマー(A1)と下記架橋成分(A2)と下記触媒成分(C)とからなり、

前記熱伝導性無機フィラー(B)は、平均粒子径1μm以上10μm未満の球状アルミナ(B1)と、平均粒子径0.01μm以上1μm未満の破砕状アルミナ(B2)を含み、
前記付加硬化型ポリオルガノシロキサン(A)100質量部に対して、前記平均粒子径1μm以上10μm未満の球状アルミナ(B1)の割合は0質量部を超え1500質量部以下、前記平均粒子径0.01μm以上1μm未満の破砕状アルミナ(B2)の割合は0質量部を超え1000質量部以下であり、
平均粒子径1μm以上10μm未満の非球状かつ破砕状アルミナは含まない、ことを特徴とする熱伝導性組成物。
(A1)ベースポリマー:1分子中に平均2個以上かつ分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状オルガノポリシロキサン
(A2)架橋成分:1分子中に平均2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、A2成分中のSiH基がA1成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、0.1モル以上3モル未満の量
(C)触媒成分:白金系触媒が前記A1成分に対して金属原子重量で0.01~1000ppm
【請求項2】
前記熱伝導性無機フィラー(B)は、さらに平均粒子径10μm以上150μm以下の球状アルミナ(B3)を、0質量部を超え3500質量部以下含む請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
前記熱伝導性無機フィラー(B)は、さらに平均粒子径10μm以上100μm以下の破砕状窒化アルミニウム(B4)を、0質量部を超え500質量部以下含む請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
前記熱伝導性無機フィラー(B)は、さらに、平均粒子径10μm以上150μm以下の球状アルミナ(B3)と、平均粒子径10μm以上100μm以下の破砕状窒化アルミニウム(B4)とを含み、
前記付加硬化型ポリオルガノシロキサン(A)100質量部に対して、
前記(B2)は0質量部を超え800質量部以下、
前記(B3)は0質量部を超え3000質量部以下、
前記(B4)は0質量部を超え300質量部以下である請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
前記熱伝導性無機フィラーは、シラン化合物、チタネート化合物、アルミネート化合物、もしくはその部分加水分解物により表面処理されている請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の前記熱伝導性組成物がシート状に成形され、硬化された、熱伝導性シート。
【請求項7】
ASTM D575-91:2012に従った圧縮荷重の測定方法による、直径28.6mm、初期厚み2mmの前記熱伝導性シートの50%圧縮時の瞬間荷重値が300N以下である、請求項6に記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
ASTM D575-91:2012に従った圧縮荷重の測定方法による、直径28.6mm、初期厚み2mmの前記熱伝導性シートの50%圧縮時の定常荷重値が80N以下である請求項6に記載の熱伝導性シート。
【請求項9】
請求項6に記載の熱伝導性シートの製造方法であって、請求項1~5のいずれか1項に記載の前記熱伝導性組成物のコンパウンドをシート状に成形し、加熱硬化することを含む、熱伝導性シートの製造方法。
【請求項10】
前記加熱硬化の条件は、温度90~120℃、時間5~180分である請求項9に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性組成物、熱伝導性シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のCPU等の半導体の性能向上はめざましくそれに伴い発熱量も膨大になっている。そのため発熱するような電子部品には放熱体が取り付けられ、例えば半導体等の発熱体と放熱体との密着性を改善する為に熱伝導性シートが使われている。しかし近年、機器の小型化、高性能化に伴い熱伝導性シートには高い熱伝導率及び定常荷重値が低く柔らかい特性が求められている。特許文献1には、硬化前の熱伝導性シリコーン組成物の粘度を23℃において800Pa・s以下とし、圧縮性、絶縁性、熱伝導性などを改良することが提案されている。特許文献2には、熱伝導性フィラーの平均粒子径を特定なものとすることにより、電子部品への密着性、追従性を向上させることが提案されている。特許文献3には、熱伝導性シート表面に凹凸を形成して柔軟性を上げ、電子部品への追従性を向上させることが提案されている。本出願人は、特許文献4において、架橋反応後のポリマー粘度の低いマトリックス樹脂を使用することにより、定常荷重値が低い熱伝導性シートを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-147600号公報
【文献】特開2003-253136号公報
【文献】特開2001-217360号公報
【文献】WO2020-179115号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の熱伝導性組成物は、硬化前のコンパウンド(混合原料)の粘度が高く、成形性に問題があり、かつ硬化後の熱伝導性シートの定常荷重値が高く、さらなる改善が求められていた。
【0005】
本発明は前記従来の問題を解決するため、硬化前のコンパウンド(混合物)の粘度が低く、成形性を向上させ、かつ硬化後の熱伝導性シートの定常荷重値が低い熱伝導性組成物、熱伝導性シート及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の熱伝導性組成物は、硬化性ポリオルガノシロキサン(A)及び熱伝導性無機フィラー(B)を含む熱伝導性組成物であって、前記硬化性ポリオルガノシロキサン(A)100質量部に対して、前記熱伝導性無機フィラー(B)を500~5000質量部含む。前記熱伝導性無機フィラー(B)は、平均粒子径1μm以上10μm未満の球状アルミナ(B1)と、平均粒子径0.01μm以上1μm未満の破砕状アルミナ(B2)を含む。前記硬化性ポリオルガノシロキサン(A)100質量部に対して、前記平均粒子径1μm以上10μm未満の球状アルミナ(B1)の割合は0質量部を超え1500質量部以下、前記平均粒子径0.01μm以上1μm未満の破砕状アルミナ(B2)の割合は0質量部を超え1000質量部以下である。
【0007】
本発明の熱伝導性シートは、前記熱伝導性組成物がシート状に成形され、硬化された、熱伝導性シートである。
【0008】
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、前記熱伝導性組成物のコンパウンドをシート状に成形し、加熱硬化することを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱伝導性組成物は、硬化性ポリオルガノシロキサン(A)及び熱伝導性無機フィラー(B)を含む熱伝導性組成物であって、前記硬化性ポリオルガノシロキサン(A)100質量部に対して、前記熱伝導性無機フィラー(B)を500~5000質量部含み、前記熱伝導性無機フィラー(B)は、平均粒子径1μm以上10μm未満の球状アルミナ(B1)と、平均粒子径0.01μm以上1μm未満の破砕状アルミナ(B2)を含み、前記硬化性ポリオルガノシロキサン(A)100質量部に対して、前記平均粒子径1μm以上10μm未満の球状アルミナ(B1)の割合は0質量部を超え1500質量部以下、前記平均粒子径0.01μm以上1μm未満の破砕状アルミナ(B2)の割合は0質量部を超え1000質量部以下であることにより、硬化前のコンパウンド(混合原料)の粘度が低く、成形性を向上させ、かつ硬化後の熱伝導性シートの瞬間及び定常荷重値が低い熱伝導性組成物、熱伝導性シート及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本発明の一実施形態における熱伝導性シートの使用方法を示す模式的断面図である。
図2図2は本発明の一実施形態の球状アルミナ(B1)の走査電子顕微鏡(SEM)写真(倍率10,000倍)である。
図3図3は本発明の球状アルミナ(B1)には含まれない多角形状あるいは丸み状アルミナの走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図4図4は本発明の一実施例で使用する圧縮荷重測定装置の模式的側面断面図である。
図5図5A-Bは本発明の一実施例で使用する熱伝導率の測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、硬化性ポリオルガノシロキサン(A)及び熱伝導性無機フィラー(B)を含む熱伝導性組成物である。硬化性ポリオルガノシロキサン(A)は、ベースポリマーと架橋成分と触媒成分からなり、付加硬化型シリコーンポリマーであるのが好ましい。熱伝導性組成物は、例えば下記が好ましい。
(A1)ベースポリマー:1分子中に平均2個以上かつ分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状オルガノポリシロキサン。
(A2)架橋成分:1分子中に平均2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、A2成分中のSiH基がA1成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、0.1モル以上3モル未満の量。
(B)熱伝導性無機フィラー(B):硬化性ポリオルガノシロキサン(A)100質量部に対して500~5000質量部であり、好ましくは500~4000質量部であり、より好ましくは500~3000質量部である。これにより、熱伝導性シートの熱伝導率は2.0W/m・K以上となり、TIM(Thermal Interface Material)として好適となる。
(C)触媒成分:A1成分に対して金属原子重量で0.01~1000ppm。触媒は白金系触媒が好ましい。
【0012】
熱伝導性無機フィラー(B)は、平均粒子径1μm以上10μm未満の球状アルミナ(B1)と、平均粒子径0.01μm以上1μm未満の破砕状アルミナ(B2)を含み、硬化性ポリオルガノシロキサン(A)100質量部に対して、平均粒子径1μm以上10μm未満の球状アルミナ(B1)の割合は0質量部を超え1500質量部以下である。好ましい球状アルミナ(B1)の割合は硬化性ポリオルガノシロキサン(A)100質量部に対して0質量部を超え1000質量部以下であり、より好ましくは0質量部を超え800質量部以下である。これにより、硬化前のコンパウンド(混合原料)の粘度が低く、成形性を向上させ、かつ硬化後の熱伝導性シートの瞬間及び定常荷重値が低い熱伝導性組成物、当該熱伝導性組成物から形成される熱伝導性シートが得られる。なお、平均粒子径1μm以上10μm未満の非球状(破砕状)アルミナは含まないのが好ましい。また、本明細書において「球状アルミナ」とは、溶融法で得られた真球状アルミナをいう。
硬化性ポリオルガノシロキサン(A)100質量部に対して、平均粒子径0.01μm以上1μm未満の破砕状アルミナ(B2)は0質量部を超え1000質量部以下であり、好ましくは0質量部を超え800質量部以下、より好ましくは0質量部を超え700質量部以下である。
【0013】
熱伝導性無機フィラー(B)は、さらに平均粒子径10μm以上150μm以下の球状アルミナ(B3)を、0質量部を超え3500質量部以下含むのが好ましく、より好ましくは0質量部を超え3000質量部以下、さらに好ましくは0質量部を超え2000質量部以下である。これにより、さらに硬化前のコンパウンド(混合原料)の粘度が低く、成形性を向上させ、かつ硬化後の熱伝導性シートの瞬間及び定常荷重値が低い熱伝導性組成物、熱伝導性シートが得られる。
【0014】
熱伝導性無機フィラー(B)は、さらに平均粒子径10μm以上100μm以下の破砕状窒化アルミニウム(B4)を、0質量部を超え500質量部以下含むのが好ましく、より好ましくは0質量部を超え300質量部以下、さらに好ましくは0質量部を超え150質量部以下である。これにより、さらに硬化前のコンパウンド(混合原料)の粘度が低く、成形性を向上させ、かつ硬化後の熱伝導性シートの瞬間及び定常荷重値が低い熱伝導性組成物、熱伝導性シートが得られる。
【0015】
なお、前記以外の熱伝導性無機フィラーを加えてもよい。例えば窒化ホウ素、酸化亜鉛,酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭化ケイ素、シリカなどである。これらは単独でもよいし、組み合わせて添加してもよい。これらは、平均粒子径10~150μmが好ましく、形状は破砕状、球状、丸み状、針状などいかなる形状でもよく、硬化性ポリオルガノシロキサン(A)100質量部に対して、0~3,000質量部添加できる。
【0016】
熱伝導性無機フィラーは、シラン化合物、チタネート化合物、アルミネート化合物、もしくはその部分加水分解物により表面処理されていてもよい。これにより、硬化触媒や架橋剤の失活を防止でき、貯蔵安定性を向上できる。
【0017】
熱伝導性組成物は、シート成形され、硬化されて、本発明の熱伝導性シートとなる。当該熱伝導性シートは汎用性が高く、TIM(Thermal Interface Material)として好適である。熱伝導性シートの厚みは0.2~10mmの範囲が好ましい。
【0018】
本発明の熱伝導性シリコーンシートは、ASTM D575-91:2012に従った圧縮荷重の測定方法による、直径28.6mm、初期厚み2mmのシートの50%圧縮時の瞬間荷重値が、300N以下であるのが好ましく、より好ましくは1~270Nであり、さらに好ましくは1~250Nである。また、ASTM D575-91:2012に従った圧縮荷重の測定方法による、直径28.6mm、初期厚み2mmのシートの50%圧縮時の定常荷重値は80N以下が好ましく、より好ましくは1~80Nであり、さらに好ましくは1~50Nである。
【0019】
本発明において、硬化性ポリオルガノシロキサン(A)は、シリコーンポリマーとも呼ばれ、耐熱性が高く、柔らかさもあり、放熱シートの材料として良好な特性を有する。シリコーンポリマーは付加硬化型、過酸化物硬化型、縮合型など使用できるが、この中でも付加硬化型シリコーンポリマーが好ましい。
【0020】
本発明の熱伝導性シートは、硬化性ポリオルガノシロキサン(A)と熱伝導性無機フィラー(B)とを含む、下記組成のコンパウンドをシート成形し、架橋して得るのが好ましい。硬化性ポリオルガノシロキサン(A)は、ベースポリマーと架橋成分と触媒成分とからなる。
(A1)ベースポリマー:1分子中に平均2個以上かつ分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状オルガノポリシロキサン。
(A2)架橋成分:1分子中に平均2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、A2成分中のSiH基がA1成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、0.1モル以上3モル未満の量。
(B)熱伝導性無機フィラー:硬化性ポリオルガノシロキサン(A)100質量部に対して500~5000質量部であり、好ましくは500~4000質量部であり、より好ましくは500~3000質量部である。これにより熱伝導性シートの熱伝導率は2.0W/m・K以上となる。
(C)触媒成分:A1成分に対して金属原子重量で0.01~1000ppm。触媒は白金系触媒が好ましい。
【0021】
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、前記熱伝導性組成物のコンパウンドを真空脱泡し、圧延し、シート成形した後に加熱硬化させることを含む。シート状に成形され、加熱硬化された熱伝導性組成物は熱伝導性シートとなる。真空脱泡では、前記熱伝導性組成物(コンパウンド)を、例えば-0.08~-0.1MPaの圧力下に、5~10分間程度置いて、脱泡する。圧延方法としては、ロール圧延加工、プレス加工などがあるが、ロール圧延加工は、連続生産が可能であることから好ましい。ロール圧延加工では、一例として前記コンパウンドを2枚の合成樹脂フィルムで挟み、その上からロールで圧延する。前記成形シートの加熱硬化条件は、温度90~120℃、時間5~180分が好ましい。本明細書において、硬化と架橋は同じである。
【0022】
以下、各成分について説明する。
(1)ベースポリマー(A1成分)
ベースポリマーは、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサンであり、アルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサンは本発明の熱伝導性組成物における主剤である。このオルガノポリシロキサンは、ビニル基、アリル基等の炭素原子数2~8、好ましくは2~6の、ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に2個以上有する。ベースポリマーの粘度は25℃で10~100,000mPa・s、特に100~10,000mPa・sであることが作業性、硬化性などの観点から望ましい。
【0023】
具体的には、例えば、ベースポリマーとして、下記一般式(化1)で表される1分子中に平均2個以上かつ分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンを使用する。側鎖はアルキル基で封鎖された直鎖状オルガノポリシロキサンである。ベースポリマーの25℃における粘度は10~100,000mPa・sであることが、作業性、硬化性などの観点から望ましい。なお、この直鎖状オルガノポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【化1】

式中、Rは互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、Rはアルケニル基であり、kは0又は正の整数である。ここで、Rの脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換の一価炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、並びに、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基、シアノエチル基等が挙げられる。Rのアルケニル基としては、例えば炭素原子数2~6、特に2~3のものが好ましく、具体的にはビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。一般式(1)において、kは、一般的には0≦k≦10000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦k≦2000、より好ましくは10≦k≦1200を満足する整数である。
【0024】
A1成分のオルガノポリシロキサンとしては一分子中に例えばビニル基、アリル基等の炭素原子数2~8、特に2~6のケイ素原子に結合したアルケニル基を3個以上、通常、3~30個、好ましくは、3~20個程度有するオルガノポリシロキサンを、上記一般式(化1)で表されるオルガノポリシロキサンと併用しても良い。分子構造は直鎖状、環状、分岐状、三次元網状のいずれの分子構造のものであってもよい。好ましくは、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、25℃での粘度が10~100,000mPa・s、特に100~10,000mPa・sの直鎖状オルガノポリシロキサンである。
【0025】
アルケニル基は分子のいずれかの部分に結合していればよい。例えば、分子鎖末端、あるいは分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合しているものを含んでも良い。なかでも下記一般式(化2)で表される分子鎖両末端のケイ素原子にそれぞれ1~3個のアルケニル基を有し(但し、この分子鎖末端のケイ素原子に結合したアルケニル基が、両末端合計で3個未満である場合には、分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合したアルケニル基を、(例えばジオルガノシロキサン単位中の置換基として)少なくとも1個有する直鎖状オルガノポリシロキサンであって)、上記でも述べた通り25℃における粘度が10~100,000mPa・sのものが作業性、硬化性などから望ましい。なお、この直鎖状オルガノポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【化2】

式中、Rは互いに同一又は異種の非置換又は置換一価炭化水素基であって、少なくとも1個がアルケニル基である。Rは互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、Rはアルケニル基であり、l,mは0又は正の整数である。ここで、Rの一価炭化水素基としては、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基やシアノエチル基等が挙げられる。
【0026】
また、Rの一価炭化水素基としても、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、上記R1の具体例と同様のものが例示できるが、但しアルケニル基は含まない。Rのアルケニル基としては、例えば炭素数2~6、特に炭素数2~3のものが好ましく、具体的には前記式(化1)のRと同じものが例示され、好ましくはビニル基である。
【0027】
l,mは、一般的には0<l+m≦10000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦l+m≦2000、より好ましくは10≦l+m≦1200で、かつ0<l/(l+m)≦0.2、好ましくは、0.0011≦l/(l+m)≦0.1を満足する整数である。
【0028】
(2)架橋成分(A2成分)
本発明のA2成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは架橋剤として作用するものであり、この成分中のSiH基とA1成分中のアルケニル基とが付加反応(ヒドロシリル化)することにより硬化物を形成するものである。かかるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を2個以上有するものであればいずれのものでもよく、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、一分子中のケイ素原子の数(即ち、重合度)は2~1000、特に2~300程度のものを使用することができる。
【0029】
水素原子が結合するケイ素原子の位置は特に制約はなく、分子鎖の末端でも非末端(途中)でもよい。また、水素原子以外のケイ素原子に結合した有機基としては、前記一般式(化1)のRと同様の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基が挙げられる。
【0030】
A2成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては下記構造のものが例示できる。
【化3】
【0031】
上記の式中、Rは互いに同一又は異種の水素、アルキル基、フェニル基、エポキシ基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アルコキシ基であり、少なくとも2つは水素である。Lは0~1,000の整数、特には0~300の整数であり、Mは1~200の整数である。
【0032】
(3)触媒成分(C成分)
C成分の触媒成分は、本組成物の一段階目の硬化を促進させる成分である。C成分としては、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒を用いることができる。例えば白金黒、塩化第2白金酸、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類やビニルシロキサンとの錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属触媒が挙げられる。C成分の配合量は、硬化に必要な量であればよく、所望の硬化速度などに応じて適宜調整することができる。A1成分に対して金属原子重量で0.01~1000ppm添加するのが好ましい。
【0033】
(4)熱伝導性無機フィラー(B成分)
B成分の熱伝導性無機フィラーは前記したとおりである。なお、アルミナは、純度99.5%以上のα-アルミナが好ましい。平均粒子径は、レーザー回折光散乱法により測定される、体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)である。この測定器としては、例えば堀場製作所社製のレーザー回折/散乱式無機フィラー分布測定装置LA-950S2がある。
【0034】
熱伝導性無機フィラーは、RSi(OR’)4-a(Rは炭素数1~20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるシラン化合物、もしくはその部分加水分解物で表面処理するのが好ましい。RSi(OR’)4-a(Rは炭素数1~20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるアルコキシシラン化合物(以下単に「シラン」という。)は、一例としてメチルトリメトキシラン,エチルトリメトキシラン,プロピルトリメトキシラン,ブチルトリメトキシラン,ペンチルトリメトキシラン,ヘキシルトリメトキシラン,ヘキシルトリエトキシシラン,オクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシラン,ドデシルトリメトキシシラン,ドデシルトリエトキシシラン,ヘキサデシルトリメトキシシラン,ヘキサデシルトリエトキシシシラン,オクタデシルトリメトキシシラン,オクタデシルトリエトキシシシラン等のシラン化合物がある。前記シラン化合物は、一種又は二種以上混合して使用することができる。表面処理剤として、上記アルコキシシラン化合物と片末端シラノールシロキサンを併用してもよい。ここでいう表面処理とは共有結合のほか吸着なども含む。
【0035】
(5)その他の成分
本発明の組成物には、必要に応じて前記以外の成分を配合することができる。例えばベンガラなどの無機顔料、フィラーの表面処理等の目的でアルキルトリアルコキシシランなどを添加してもよい。フィラーの表面処理などの目的で添加する材料として、アルコキシ基含有シリコーンを添加しても良い。
【0036】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。図1は本発明の一実施形態における熱伝導性シートを放熱構造体30に組み込んだ模式的断面図である。熱伝導性シート31bは、半導体素子等の電子部品33の発する熱を放熱するものであり、ヒートスプレッダ32の電子部品33と対峙する主面32aに固定され、電子部品33とヒートスプレッダ32との間に挟持される。また、熱伝導シート31aは、ヒートスプレッダ32とヒートシンク35との間に挟持される。そして、熱伝導シート31a,31bは、ヒートスプレッダ32とともに、電子部品33の熱を放熱する放熱部材を構成する。ヒートスプレッダ32は、例えば方形板状に形成され、電子部品33と対峙する主面32aと、主面32aの外周に沿って立設された側壁32bとを有する。ヒートスプレッダ32の側壁32bに囲まれた主面32aに熱伝導シート31bが設けられ、また主面32aと反対側の他面32cに熱伝導シート31aを介してヒートシンク35が設けられる。電子部品33は、例えば、BGA等の半導体素子であり、配線基板34に実装されている。
【0037】
図2は本発明の一実施形態の球状アルミナ(B1)の走査電子顕微鏡(SEM)写真(倍率10,000倍)である。この球状アルミナは溶融法によって製造され、市販されている(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル社製、商品名”AZ2-75”、平均粒子径2μm)。図3は本発明の球状アルミナ(B1)には含まれない多角形状あるいは丸み状アルミナの走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【実施例
【0038】
以下実施例を用いて説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。
<圧縮荷重>
圧縮荷重の測定方法はASTM D575-91:2012に従った。図4は本発明の一実施形態で使用する圧縮荷重測定装置の模式的側面断面図である。この圧縮荷重測定装置1は、試料台2とロードセル6を備え、アルミプレート3と5の間に熱伝導性シート試料4を挟持し、図4のように取り付け、ロードセル6により規定の厚みまで熱伝導性シート試料4を圧縮する。試料の厚みの50%圧縮時における荷重値の最大荷重値(瞬間荷重値)と、その圧縮を1分間保持後の荷重値(定常荷重値)を記録する。
測定条件
試料:円形(直径28.6mm、厚さ2mm)
圧縮率:50%
アルミプレートサイズ:円形(直径28.6mm)(圧縮面)
圧縮速度:5mm/min
圧縮方式:TRIGGER方式(荷重2Nを感知した点を測定開始位置とする方式)
測定装置:アイコーエンジニアリング製、MODEL-1310NW(ロードセル 200kgf)
<熱伝導率>
熱伝導性シートの熱伝導率は、ホットディスク(ISO 22007-2:2008準拠)により測定した。この熱伝導率測定装置11は図5Aに示すように、ポリイミドフィルム製センサ12を2個の熱伝導性シート試料13a,13bで挟み、センサ12に定電力をかけ、一定発熱させてセンサ12の温度上昇値から熱特性を解析する。センサ12は先端14が直径7mmであり、図5Bに示すように、電極の2重スパイラル構造となっており、下部に印加電流用電極15と抵抗値用電極(温度測定用電極)16が配置されている。熱伝導率は以下の式(数1)で算出した。
【0039】
【数1】

<加工性>
未硬化コンパウンドが粘土状の固形物であるため、加工性の可否をシート成形時のロール圧延成形性で判断した。評価基準は下記のとおりである。
A:良好な圧延成形性を有する。
B:圧延加工は困難であるが成形は可能である。
C;圧延成形不可である。
<硬さ>
硬化シートの硬さは、ASTM D2240:2021に規定されているShore 00に準拠して測定した。
【0040】
(実施例1)
(1)マトリックス樹脂成分
マトリックス樹脂成分として市販の二液室温硬化シリコーンポリマーを使用した。この二液室温硬化シリコーンポリマーのA液にはベースポリマーと白金系金属触媒が予め添加されており、B液にはベースポリマーと架橋成分が予め添加されている。使用した市販の二液室温硬化シリコーンポリマーは、付加反応シリコーンポリマーである。
(2)熱伝導性無機フィラー
付加反応シリコーンポリマー100gに対し、熱伝導性無機フィラーを1890gとした。
付加反応シリコーンポリマー100gに対する熱伝導性無機フィラーの内訳は次のとおりである。
(i)破砕状アルミナ(B2)、平均粒子径0.4μmを290g
(ii)球状アルミナ(B1)、平均粒子径4μmを330g
(iii)球状アルミナ(B3)、平均粒子径75μmを1200g
(iv)破砕状窒化アルミニウム(B4)、平均粒子径14μmを70g
(3)熱伝導性シート成形
前記未硬化の二液室温硬化シリコーンポリマーと熱伝導性無機フィラーを均一に混合しコンパウンドとし、このコンパウンドは-0.1MPaの圧力下(減圧状態)で5分間脱泡した。次に、2枚のポリエステル(PET)フィルムに挟んで厚み2mmにロール圧延し、100℃で120分間硬化処理した。
得られた熱伝導性シートの物性は表1に示すとおりである。
【0041】
(実施例2~5、比較例1~6)
表1及び表2に示す以外は実施例1と同様に実施した。実施例2、3、5、6の球状アルミナは図2の写真に示す形状である。比較例7、9の丸み状アルミナは図3の写真に示す形状である。
以上の条件と結果を表1及び表2にまとめて示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1及び表2から明らかなとおり、各実施例は、熱伝導率は高く、瞬間及び定常荷重値は低く、圧縮緩和は大きく、ゆっくりと圧縮することで、低荷重で挟持可能であり、挟持体へのダメージが小さく、荷重値が低く柔らかいことから電子部品の凹凸への追従性が良く、初期荷重値もあることによりシートの取り扱い性が良好であることが確認できた。実施例6~7は平均粒子径が1~10μmの球状アルミナと平均粒子径が1μm未満の破砕状アルミナのみであり、大きい粒子径のフィラーを使わない場合の実施例であるが、同様に本発明の効果が確認できた。
これに対して、比較例8は平均粒子径が1μm未満の破砕状アルミナを含まない場合であり、フィラー合計重量を合わせるため、割合が変わらないように他のフィラーを増やした。その結果、うまくまとまらず加工性(成形性)が大きく低下した。
また、比較例9は平均粒子径が1~10μmの丸み状アルミナと平均粒子径が1μm未満の破砕状アルミナのみであったので、50%圧縮荷重値(瞬間及び定常)は高かった。比較例10は平均粒子径が1~10μmの破砕状アルミナと平均粒子径が1μm未満の破砕状アルミナのみであったので、加工性は良くなく、50%圧縮荷重値(瞬間及び定常)は高く、好ましくなかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の熱伝導性シートは、半導体、LED、家電などの電子部品、光通信機器を含む情報通信モジュール、車載用途などの発熱部と放熱部との間の放熱体として有用である。
【符号の説明】
【0046】
1 圧縮荷重測定装置
2 試料台
3,5 アルミプレート
4 熱伝導性シート試料
6 ロードセル
11 熱伝導率測定装置
12 センサ
13a,13b 熱伝導性シート試料
14 センサの先端
15 印加電流用電極
16 抵抗値用電極(温度測定用電極)
30 放熱構造体
31a,31b 熱伝導性シート
32 ヒートスプレッダ
32b ヒートスプレッダ側壁
33 電子部品
34 配線基板
35 ヒートシンク
図1
図2
図3
図4
図5