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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】支援機構、及びこれを用いた移動装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/14 20060101AFI20240607BHJP
【FI】
A61G5/14 711
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021543084
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2020032762
(87)【国際公開番号】W WO2021040024
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019159109
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019159110
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019178827
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)2018年10月2日にInternational Conference on Intelligent Robots and Systems(IROS 2018)にて発表(2)Institute of Electrical and Electronics Engineers(IEEE),International Conference on Intelligent Robots and Systems(IROS 2018)講演予稿集、第5457項~第5462項、発行年月日:2018年10月1日(3)平成31年6月7日にロボティクス・メカトロニクス講演会2019にて発表(4)一般社団法人 日本機械学会 ロボティクス・メカトロニクス部門、ロボティクス・メカトロニクス講演会2019講演概要集、第2A2-A10頁、平成31年6月5日(5)令和元年7月12日、ジェームズダイソン財団ウェブサイト、https://www.jamesdysonaward.or g/ja-JP/2019/project/qolo-child/
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】パエズ グラナドス ディエゴ
(72)【発明者】
【氏名】門根 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】江口 洋丞
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 海
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-000570(JP,A)
【文献】特表2014-509543(JP,A)
【文献】特開2012-235839(JP,A)
【文献】国際公開第2011/151639(WO,A1)
【文献】特開2014-183977(JP,A)
【文献】特開平09-327485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
姿勢遷移を支援する機構であって、
姿勢変化しない第1リンクと、
前記第1リンクに回転可能に連結される第2リンクと、
前記第2リンクを前記第1リンクに対して回転させるアクチュエータと、
を有し、
ユーザの矢状面内で鉛直方向と直交する方向での足首関節と膝関節との相対的な位置関係に基づき、前記アクチュエータは、前記ユーザの上体姿勢の変化によって前記第2リンクと前記第1リンクの連結部の負荷が変化したときに、外部から操作されることなく、膝関節と上体重心との相対的な位置関係、または膝関節角度に応じて前記ユーザに対する支援モーメントを変えながら前記第2リンクを駆動し、
前記アクチュエータは、座位から立位への遷移時に、前記第2リンクを伸展する方向へ回転させ、前記立位から前記座位への遷移時に、前記第2リンクを屈曲する方向へ回転させ、
前記座位から前記立位への遷移時に、前記アクチュエータによって生成される支援モーメントが前記膝関節の伸展にともなって減少し、かつ、前記連結部の負荷モーメントを上回り、
前記立位から前記座位への遷移時に、前記支援モーメントが前記膝関節の屈曲にともなって増加し、かつ前記負荷を下回る、支援機構。
【請求項2】
前記アクチュエータは、動力供給を必要としない受動部品である、請求項1に記載の支援機構。
【請求項3】
ユーザの体形に応じて生成する支援モーメントを調整する支援モーメント調整機構、
をさらに有する請求項1または2に記載の支援機構。
【請求項4】
前記第2リンクに回転可能に連結される第3リンクと、
前記第2リンクと前記第3リンクの間で力を伝達する力伝達手段と、
を有し、
前記アクチュエータと前記力伝達手段は、前記第2リンクと前記第1リンクの前記連結部の負荷が変化したときに、前記支援モーメントを変えながら、前記第2リンクと前記第3リンクを駆動する、
請求項1~のいずれか1項に記載の支援機構。
【請求項5】
前記力伝達手段は、座位から立位への遷移時に前記第3リンクを伸展する方向へ回転させる、前記立位から前記座位への遷移時に前記第3リンクを屈曲する方向へ回転させる、請求項に記載の支援機構。
【請求項6】
前記力伝達手段は、複数のプーリと前記プーリの間に懸架されるワイヤの組み合わせ、または複数の伝達ロッドの組み合わせを有する、請求項またはに記載の支援機構。
【請求項7】
前記第2リンクに連結される第3リンクと、
前記第3リンクに接続される胴ベルトと、
を有し、
前記第2リンクは、前記第1リンクに連結される回転リンクと、前記回転リンクに連結されて姿勢変換時に前記ユーザの大腿部の後ろ側を支持する大腿サポートと、を有し、
前記大腿サポートと前記胴ベルトは、前記ユーザの臀部及び腰部を解放した状態で姿勢変換を支持する、
請求項1~のいずれか1項に記載の支援機構。
【請求項8】
前記第2リンクに連結される第3リンクと、
前記第2リンクに着脱可能に取り付けられる大腿ベルトと、
前記第3リンクに接続される胴ベルトと、
を有し、前記大腿ベルトは前記第2リンクに取り付けられたときに前記ユーザの臀部を解放した状態で前記ユーザの大腿部を支持し、前記胴ベルトは、前記ユーザの腰骨よりも高い位置で前記ユーザの上体を保持するように構成されている、
請求項1~のいずれか1項に記載の支援機構。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の支援機構と、
前記支援機構を移動させる車輪と、
を有する移動装置。
【請求項10】
前記ユーザから前記支援機構にかかる圧力分布を検知するセンサ、
をさらに有し、前記車輪は前記圧力分布に応じた方向に駆動される、
請求項に記載の移動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立位と座位の間の姿勢遷移を支援する支援機構と、これを用いた移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザの上体の体重移動に伴って、座位から立位、または立位から座位に遷移するユーザの動作を支援する機構を備えた姿勢可変立位式移動装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。この装置では、足首関節の動きに対応する第1の回動部材と、膝関節の動きに対応する第2の回動部材を用い、第1及び第2の回動部材を個別のアクチュエータで独立に駆動して、足首関節と膝関節の動きを支援している。
【0003】
ユーザの姿勢変換を要する一場面として、排泄がある。順次連結される複数の座板で車椅子の座面を構成し、排泄時に座面に開口が形成される排泄支援車椅子が提案されている(たとえば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6377888号公報
【文献】特開2009-172108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の機構では、複数の関節部を個別に駆動する機構で下肢を支援しており、構成が複雑である。また、下肢運動機能に障害のあるユーザに対して、起立動作または着座動作を迅速かつ効率的に支援することが難しい。また、臀部の近傍が固定されており、介助者なしに衣類の上げ下げをすることが難しい。特許文献2の車椅子には、姿勢変換の支援機構は設けられておらず、排泄時にユーザを車椅子から起立させ、車椅子の座面を開いて便座に対応する位置にユーザを座らせる一連の行為に、介助者の支援が必要である。
【0006】
本発明は、簡素化された構成で、下肢運動機能に制限のあるユーザに対して迅速かつ効率的に姿勢遷移を支援する支援機構と、これを用いた移動装置を提供することを目的とする。また、姿勢変換の一態様として、排泄行為を支援する支援機構を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一つの態様では、支援機構は、
姿勢変化しない第1リンクと、
前記第1リンクに回転可能に連結される第2リンクと、
前記第2リンクを前記第1リンクに対して回転させるアクチュエータと、
を有し、
ユーザの矢状面内で鉛直方向と直交する方向での足首関節と膝関節との相対的な位置関係に基づき、前記アクチュエータは、前記ユーザの上体姿勢の変化によって前記第2リンクと前記第1リンクの連結部の負荷が変化したときに、外部から操作されることなく、膝関節と上体重心との相対的な位置関係、または膝関節角度に応じて前記ユーザに対する支援モーメントを変えながら前記第2リンクを駆動し、
前記アクチュエータは、座位から立位への遷移時に、前記第2リンクを伸展する方向へ回転させ、前記立位から前記座位への遷移時に、前記第2リンクを屈曲する方向へ回転させ、
前記座位から前記立位への遷移時に、前記アクチュエータによって生成される支援モーメントが前記膝関節の伸展にともなって減少し、かつ、前記連結部の負荷モーメントを上回り、
前記立位から前記座位への遷移時に、前記支援モーメントが前記膝関節の屈曲にともなって増加し、かつ前記負荷を下回る

【発明の効果】
【0008】
簡素化された構成で、下肢運動機能に制限のあるユーザの姿勢遷移を迅速かつ効率的に支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】平坦面における実施形態の支援機構の動作原理を、従来構造と比較して示す図である。
図2】斜面における実施形態の支援機構の動作原理を、従来構造と比較して示す図である。
図3】第1実施形態の支援機構と、これを用いた移動装置の外観図である。
図4】座位姿勢と立位姿勢での移動装置の使用態様を示す図である。
図5】座位時の移動装置の側面図である。
図6】立位時の移動装置の側面図である。
図7】ユーザの座位姿勢および立位姿勢を説明する図である。
図8】膝関節周りに働くモーメントの種類と向きを説明する図である。
図9】ユーザによる負荷を推定するための人体モデルの図である。
図10】設計時に前提とする姿勢遷移モデルの図である。
図11】膝関節まわりに働く負荷モーメント推定値、および同推定値に基づく支援モーメントの設計目標値の一例を説明する図である。
図12】アクチュエータによる支援モーメントの生成を説明する図である。
図13】アクチュエータの配置検討を説明する図である。
図14】膝関節角度に応じた支援モーメントの特性の一例を示す図である。
図15】アクチュエータによる支援モーメント生成のための比較例を示す図である。
図16図15の構成による支援モーメントの特性を、図12の構成による支援モーメントの特性と比較して示す図である。
図17】ユーザの体形に応じた支援モーメントの大きさ調整機構の例を示す図である。
図18】第2実施形態の支援機構を用いた移動装置の模式図であり、座位姿勢のときの支援機構の状態を示す図である。
図19】第2実施形態の姿勢遷移の支援機構を用いた移動装置の模式図であり、立位姿勢のときの支援機構の状態を示す図である。
図20】立位姿勢での移動状態を示す図である。
図21】q2とq3の座標系を説明する図である。
図22】第2実施形態の人体モデルの図である。
図23】ユーザの姿勢遷移のサイクルを示す図である。
図24図23の姿勢遷移に応じた関節角度の変化を示す図である。
図25図23の姿勢遷移に応じた関節負荷モーメントの変化を示す図である。
図26】第2実施形態の支援機構のアクチュエータによる動力生成のモデルである。
図27】姿勢変換動作中の膝関節モーメントを示す図である。
図28】膝関節q2まわりのモーメントを説明する図である。
図29】力伝達システムの構成例を示す図である。
図30図29の力伝達システムを用いた移動装置の座位時の側面図である。
図31図29の力伝達システムを用いた移動装置の立位時の側面図である。
図32】力伝達システムの別の構成例を示す図である。
図33A図32の力伝達システムの伝達ロッドの構成例を示す図である。
図33B図32の力伝達システムの伝達ロッドの別の構成例を示す図である。
図34】第3リンクのセンサ配置例を示す図である。
図35】立位式の移動装置の移動制御を説明する図である。
図36】第3実施形態の支援機構の基本構想を説明する図である。
図37】第3実施形態の支援機構の基本構想を説明する図である。
図38】第3実施形態の支援機構の基本構想を説明する図である。
図39】第3実施形態の支援機構の斜視図であり、立位の状態を示す図である。
図40】第3実施形態の支援機構の斜視図であり、座位の状態を示す図である。
図41】立位状態での支援機構の正面図である。
図42】立位状態での支援機構の側面図である。
図43】支援機構の立位での使用状態を示す図である。
図44】支援機構の座位での使用状態を示す図である。
図45】第3実施形態の支援機構に適用される姿勢変換モデルの模式図である。
図46】膝関節まわりにフレーム構造体を回転させる受動アクチュエータの原理を説明する図である。
図47】第3実施形態の変形例の支援機構の斜視図である。
図48】第3実施形態の変形例の支援機構の側面図である。
図49】第3実施形態の変形例の支援機構の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態では、公知の構成と異なり、単一のアクチュエータを用いた受動機構により、ユーザの膝関節の動きに対応した姿勢変換の支援力を生成する。より具体的には、姿勢変換する際のユーザの上体の重心と膝関節との相対的な位置関係に応じて、支援モーメントを生成し変化させる。ここで、「上体」とは、人体の腰から上の部分をいい、胴体、上肢、首、及び頭部を含む。支援モーメントの特性には、矢状面内で鉛直方向と直交する方向でのユーザの膝関節と足首関節の相対的な位置関係が反映されている。
【0011】
図1は、平坦面における実施形態の支援機構の動作原理を、従来構造と比較して示す図である。図2は、傾斜面における実施形態の支援機構の動作原理を、従来構造と比較して示す図である。図1図2で、ユーザの進行方向をY方向、高さ方向をZ方向、Y方向とZ方向に直交する方向をX方向とする。矢状面はY-Z面に対応する。実施形態の支援機構は、座位から立位、あるいは立位から座位に遷移するときに、ユーザの足首関節が膝関節よりも-Y方向の所定位置に固定されることで、安定して姿勢変換できるという知見に基づいている。
【0012】
図1で、平坦面に位置するユーザが、たとえば座位から起立する場合、ユーザの足首関節と膝関節の回転、すなわち、足首関節と膝関節との相対的な位置関係PR2、及び膝関節と上体重心との相対的な位置関係RP1によって、必要な足首関節と膝関節の回転の発揮力が定まる。このとき、Y-Z面内で足首関節と膝関節の間のY方向の相対的な位置関係PR2が、足首関節の伸展に必要なエネルギーに影響する。足首関節が膝関節よりも-Y方向に位置することで、足首関節の動きに割り当てられるエネルギーが小さくなり、立位に遷移するための膝関節の回転力が発揮しやすくなる。立位から座位に遷移するときも、ユーザの足首関節が膝関節よりも-Y方向に位置することで、着座動作が安定かつ容易になる。1本のアクチュエータで足首関節と膝関節の両方を適切に伸展させる手段として、PR2を定めることで、アクチュエータの力を足首関節と膝関節へ適切に分配することができる。
【0013】
これに対し、従来構造ではユーザの膝関節と上体重心との相対的な位置関係PR1と、足首関節と上体重心との相対的な位置関係PR3を個別に考えて、膝関節の回転に応じた支援と、足首関節の回転に応じた支援を別々のアクチュエータで実現している。
【0014】
以下の実施形態では、上述した動作原理に基づいて、ユーザの姿勢遷移を支援する機構の具体的な構成を提供する。添付図面において、同じ構成要素には同じ符号を付けて重複する説明を省略する場合がある。
【0015】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態について図3図17を参照して説明する。第1実施形態では、たとえば座位から立位、または立位から座位への姿勢遷移を支援する支援機構において、単一のアクチュエータでユーザの膝関節の動きに対応した支援動作を実現する。この支援機構は受動機構であり、姿勢遷移支援のための動力の供給は不要である。座位と立位の間を遷移するユーザの姿勢変化に応じて、適切な支援力が生成される。
【0016】
<装置外観・概要>
図3は、姿勢遷移の支援機構10を有する移動装置1の外観を示す概略図である。支援機構10は、第1リンクLと、第1リンクLに回動可能に連結される第2リンクLを有する。第2リンクLは、リンク本体L2-aと、リンク本体L2-aに接続されるサポートリンクL2-bを有する。サポートリンクL2-bは、リンク本体L2-aと一体的に動いてユーザの大腿を支持する。第2リンクLは、後述するアクチュエータによって駆動され、第1リンクLとの連結部のまわりに回転して、ユーザの姿勢遷移を支援する。第2リンクLは、機械的に制限された80度程度の可動域をもつ。
【0017】
第1リンクLと第2リンクLの連結部は、ユーザの膝関節位置Pに相当する。第2リンクLのサポートリンクL2-bの端部は、ユーザの股関節位置Pに相当する。
【0018】
第1リンクLは、移動装置1または床上懸架台などに固定されて、ユーザの足部と下腿を支持する。第1リンクLに、ユーザの膝の位置を保持する膝関節サポート部材28が設けられていてもよい。また、第2リンクLに、ユーザの臀部を支持する支持帯16が接続されていてもよい。図示はしないが、必要に応じて、大腿部を支えるストラップまたは臀部から大腿部を覆う座面様の構造物等が第2リンクLに接続されていてもよい。
【0019】
支援機構10を有する移動装置1は、一対の前輪2と、一対の後輪3を有する。前輪2は、たとえば主輪であり、移動装置1を駆動する。後輪3は従輪であり、旋回可能に取り付けられている。後輪3を小径車輪とすることで、椅子、ベンチなど、ユーザが着座しようとする対象物に移動装置1を近接させることができる。前輪2と後輪3の間に、フットレスト4が配置されている。第1リンクLは、フットレスト4、前輪2と後輪3をつなぐフレーム、移動装置1のベース等に固定され得る。
【0020】
なお、必ずしも前輪2を主輪、後輪3を従輪とする必要はなく、前輪2を従輪、後輪3を駆動輪としてもよい。この場合、前輪2をキャスター式の従輪にしてもよい。
【0021】
図3の例では、支援機構10は移動装置1に組み込まれているが、移動装置1への適用に限定されず、モータ駆動システムとの組み合わせが可能である。支援機構10に床上懸架台などを取り付け、ユーザの姿勢遷移を支援することも可能である。たとえば、リハビリテーション室、ユーザの居室などに支援機構10を配置して、リハビリテーション、エクササイズ、移乗や入浴等の日常生活の支援等に用いることができる。
【0022】
図4は、座位と立位で支援機構10と移動装置1を組み合わせた使用態様を示す図である。図4(A)で、たとえばユーザは、椅子、ベンチ等の所望の席に座っている。ユーザは、移動装置1に固定された第1リンクLを両足で挟んだ状態で着座している。後輪3は、椅子のシートの下に入り込むことができ、ユーザは所望の深さで着席することができる。ユーザの大腿部を支える第2リンクLは、床とほぼ水平な角度に倒れている。
【0023】
図4(B)で、ユーザが起立すると、ユーザの膝関節は、床に対して約80度まで伸展する。ユーザは、第1リンクLを両足で挟んだ状態のまま起立する。このとき、ユーザの大腿部を支える第2リンクLは、床面から80度近くの角度に立ち上がる。第2リンクLのうち、ユーザの大腿部に相当するサポートリンクL2-b図3参照)は、たとえばY字型のリンクである。Y字の2つの分岐部は、ユーザの両側の大腿部に向かって延びている。第2リンクLのサポートリンクL2-bの形状はユーザ前方に配置されたY字型構造に限定されず、U字型、アーチ型などであってもよいし、ユーザの大腿部を支えることができれば、必ずしも分岐していなくてもよく、ユーザ後方に座面様に配置してもよい。
【0024】
支援機構10は受動機構であり、駆動力の供給は不要であるが、移動装置1には、前輪2を駆動する駆動機構と、移動制御のためのコントローラが設けられている。たとえば、前輪2に内蔵されたモータで前輪2を駆動するインホイールモータが設けられていてもよい。
【0025】
起立したユーザの上体姿勢によって、前輪2の回転方向が変わって、ユーザは立位のまま、所望の方向に移動することができる。また、一対の前輪2の左右の回転速度差によって、旋回、その場での回転等が可能になる。
【0026】
<機構説明>
図5図6は、移動装置1の構造を側面から説明する図であり、それぞれ座位時と立位時の様子を表している。移動装置1は、支援機構10でユーザの姿勢を支援しながら、所望の場所にユーザを移動させる。
【0027】
支援機構10に設けられる第2リンクLは、回転節15によって第1リンクLに連結されている。第2リンクLは、アクチュエータ14によって着座位置と起立位置の間を遷移するが、第1リンクLは固定である。アクチュエータ14の固定端は、第1リンクL上の適切な箇所に固定されており、他端は、第2リンクLのリンク本体L2-aに固定されている。第2リンクLは、回転節15の回転によってその姿勢が変化する。第2リンクLの姿勢変化によってアクチュエータ14の他端の位置が変化する。この意味で、アクチュエータ14の他端を「可動端」と呼んでもよい。
【0028】
アクチュエータ14は、ユーザの上体姿勢の変化により第1リンクLと第2リンクLを連結する回転節15にかかる負荷に応じて、支援機構10における姿勢変換支援のための動作を効果的に誘起できる位置に設置されている。アクチュエータ14の可動端は、第2リンクLを回動させてユーザの姿勢遷移を支援できる適切な位置に固定される。アクチュエータ14の固定端は、第1リンクL上に設定されてもよいし、ベース13やその他の箇所に固定されてもよい。
【0029】
図5、及び図6の例では、アクチュエータ14として、3本一組のガススプリングを用いているが、液圧を利用した粘弾性ダンパー、コイルスプリング、ゴムバネなど、適切な弾性部材を用いることができる。また、アクチュエータ14として回転節15付近にぜんまいバネやねじりコイルバネ等を用いてもよい。一組のガススプリングを用いる場合でも、第2リンクLを第1リンクLに対して駆動するアクチュエータという意味で、単一のアクチュエータである。この点は、足首関節に相当する第1部分と、膝関節に相当する第2部分をそれぞれ複数のアクチュエータで駆動する公知技術と大きく異なる。
【0030】
図5の座位の状態で、第2リンクLは基準面RPに対して平行に近い角度に保持される。支援機構10の回転節15は、第1リンクLに対して第2リンクLが直線または直線に近い姿勢となるよう回動させて、ユーザの起立動作を支援する。その結果、第2リンクLは基準面RPに対して垂直に近い角度に持ち上がり、図6の起立状態へ遷移する。ユーザの股関節位置Pに対応する位置に、臀部の支持帯16が取り付けられていてもよい。
【0031】
図5の状態で、アクチュエータ14は圧縮され、基準面RPからほぼ垂直な方向への付勢力をもっているが、アクチュエータ14は任意の伸長でロックすることができる。ユーザが起立するためにロックを解除すると、アクチュエータ14の付勢力が解放され、第2リンクLを押し上げて、ユーザの姿勢を起立する方向に支援する。図6の立位の状態では、アクチュエータ14の付勢力は最小になっており、ユーザから第1リンクLと第2リンクLの連結部にかかる負荷も最小となっている。この状態で、アクチュエータ14をロックすれば上体の姿勢に関わらず起立姿勢を維持することが可能である。
【0032】
図6の状態から着座するときは、アクチュエータ14のロックを解除し、ユーザが着座のために上体を後傾させることで、第1リンクLと第2リンクLの連結部にかかる負荷が増加する。着座の全過程で、アクチュエータ14の付勢力が、着座しようとするユーザからの負荷を若干下回るようにシステムを設計することで、ユーザの着座の動作を安定して支援することができる。アクチュエータ14からの支援力と、ユーザからの負荷の関係については、以下でより詳細に説明する。
【0033】
図7は、ユーザの座位姿勢および立位姿勢を説明する図である。図7の例では、座位姿勢と立位姿勢でユーザの足首関節の角度にはほとんど変化がないが、足首関節のまわりにある程度の回転の余裕をもたせるようこれに対応する第1リンクLがベース13に対して回動してもよい。ユーザの足首関節と膝関節を結ぶ線分と、基準面RPとが成す角度(足首関節の角度θ)は、約100度で一定である。一方、ユーザの膝関節と股関節を結ぶ線分と、基準面RPとが成す角度(膝関節角度θ)は、約0度と約80度の間で変化する。ここで、それぞれの角度は正確にその角度ちょうどを意味するのではなく、おおよその角度を意味し、例えば膝関節の場合には90度近くまで伸びる場合も含むものとする。実施形態の支援機構10は、足首関節の角度θ、または足首関節と膝関節との相対的な位置関係PR2(図1参照)に基づいて、ユーザの膝関節の動きを効率的に支援する。
【0034】
図5における着座位置では、膝関節に対応する回転節15と股関節位置Pを結ぶ線分は、基準面RPと平行である。ユーザの起立動作にともなって回転節15が回転し、第2リンクLは伸展する方向に動く。回転節15と股関節位置Pを結ぶ線分と、基準面RPとが成す膝関節角度θ図7参照)は、0度から80度までの範囲内で増大する。ここで、「伸展」とは第1リンクLと第2リンクLが直線または直線に近い姿勢となるための姿勢変化をいう。
【0035】
ユーザの着座動作にともなって回転節15が回転すると、第2リンクLは屈曲して、基準面RPとほぼ平行になるまで、すなわちθが0度になるまで移動する。ここで、「屈曲」とは「伸展」と逆方向の姿勢変化をいう。アクチュエータ14は、ユーザから回転節15にかかる負荷モーメントに応じて第2リンクLを「伸展」させ、「屈曲」させることのできる任意の構成を取り得る。
【0036】
<原理説明>
図8は、ユーザの膝関節に作用するユーザ由来の負荷モーメントと支援モーメントの関係を説明する図である。膝関節まわりには、着座方向へ作用する負荷モーメントτHBMと、起立方向へ作用する支援モーメントτAGが同時に作用する。負荷モーメントτHBMは重力とユーザの姿勢により生じる。支援モーメントτAGはアクチュエータ14の作用により生じる。結果的に、負荷モーメントτHBMと支援モーメントτAGの合モーメントτが膝関節まわりに作用する。ユーザが起立動作または着座動作をするときに、ユーザからかかる負荷モーメントτHBMの変化によって合モーメントτの向きと大きさが変化し、回転節15が回転してユーザの動作を支援する。支援機構10は、このようなバランスの変化に応じて動作し、電源供給や制御装置を要しない。設計段階では、ユーザによる姿勢変換中の負荷モーメントτHBMを予測し、これに基づいて適切な支援モーメントτAGが発生するようにアクチュエータ14の特性、配置等が計算される。
【0037】
<負荷モーメントτHBMの見積り>
図9は、ユーザによる負荷モーメントτHBMを推定するための人体モデルである。基準面RPと平行な面PL1を参照して膝関節角度θ、同じくPL2を参照して股関節角度θをとり、膝関節および股関節を節として下腿、大腿および上体に相当するリンクにより人体をモデル化する。ここで、股関節角度θは、ユーザの股関節と肩峰を結ぶ線分と基準面RPまたは面PL2とが成す角度とする。大腿および上体に相当するリンクにはそれぞれの重心位置を示し、重力およびこれら重心位置の関係により膝関節に生じる負荷モーメントτHBMを示す。
【0038】
図10は、設計時に前提とするユーザ姿勢遷移モデルを示す。図11は、姿勢遷移の型と膝関節まわりに働く負荷モーメントτHBMの推定値、および負荷モーメント推定値に基づく支援モーメントの設計目標値の一例を説明する図である。図10のグラフは図9で定義した膝関節角度θ、及び股関節角度θの起立動作および着座動作中の遷移を示す。この遷移特性に基づき、図9の人体モデルを用いて負荷モーメントτHBMを求めた結果を、図11のグラフに示す。負荷モーメントの推定値は、適用対象や装置質量などの設計要件によって変わり得る。図11は、図9のモデルに基づくひとつの設計例であるが、負荷モーメントτHBMと支援モーメントτAGの関係と変化の傾向は、図11に示されるようになる。実施例の設計にあたっては、支援モーメントτAGの特性目標値を起立動作時および着座動作時それぞれの負荷モーメントの平均値とするが、図8に示すモーメントの釣り合いに応じた姿勢遷移支援が可能であれば、どのような支援モーメント特性目標値を設定してもよい。
【0039】
<τAG生成機構の設計>
図12は、アクチュエータ14による支援モーメントの生成を説明する図である。図12では、アクチュエータとして弾性体141を用いる。支援機構10は、基準面RPに対して姿勢が固定される第1リンクL、回転節15によって第1リンクLに対して回転可能に連結される第2リンクL、及び、第2リンクLを駆動する弾性体141によって模式化される。
【0040】
弾性体141は第1リンクLおよび第2リンクLに対して反発力を伝え、回転節15まわりに第2リンクLを伸展させる方向へ支援モーメントτAGを生成する。
【0041】
この支援モーメントτAGは、第1リンクLに対する第2リンクLの姿勢に応じてその大きさが決まる。
【0042】
着座状態から起立しようとする遷移開始相において、膝関節におけるユーザ負荷モーメントτHBMが最も大きくなる。これは、図9で、膝関節まわりの負荷モーメントτHBMは、膝関節に対する大腿の重心(CM1)および上体の重心(CM2)との水平方向の距離で決まるところ、着座位置で重心位置までの距離が最大になるからである。
【0043】
弾性体141は、この負荷と釣り合うような支援モーメントτAGを生成するよう仕様を選定し取り付け位置が設計されるので、理想的な支援モーメントτAGの大きさは着座状態からの起立動作開始時に最も大きくなる。ユーザが立ち上がって身体全体が鉛直方向に伸びるにつれて、すなわち、膝関節に対する大腿の重心(CM1)および上体の重心(CM2)との水平方向の距離が小さくなるにつれて、膝関節まわりの負荷モーメントτHBMが小さくなり、この負荷と釣り合うような支援モーメントτAGを生成するよう設計されるので支援モーメントτAGも小さくなる。
【0044】
立位から着座しようとするときは、着座のための膝の屈曲が大きくなるほど膝関節に作用する負荷モーメントτHBMが大きくなる。弾性体141は、この負荷と釣り合うような支援モーメントτAGを生成するので、理想的な支援モーメントτAGは着座の直前で最も大きくなる。
【0045】
図13は、アクチュエータ14の配置検討を説明する図である。ユーザが着座する椅子など外部環境に依存する拘束条件や、装置内の他部品との配置関係を満たすため、アクチュエータ14の固定端の位置は、固定端の配置可能領域A1の範囲内で適切に設計される。同様にアクチュエータ14の可動端は、第2リンクL上の配置可能領域A2の範囲内に固定されている。図11で設定した支援モーメント特性目標値に近い特性が得られるよう、配置可能領域A1およびA2におけるアクチュエータ14の固定端および可動端の固定位置、ならびにアクチュエータ14のばね定数などの特性を組み合わせて検討する。
【0046】
図14は、実施例の設計検討の結果として得られた膝関節角度に応じた支援モーメントの特性の一例を示す図である。横軸は膝関節角度θ(度)、縦軸は弾性体141が回転節15まわりに生成する支援モーメントτAGである。膝関節角度θ=0度のときが座位に対応し、膝関節角度θ=80度のときが立位に対応する。膝関節角度θが大きくなるほど支援モーメントτAGは減少する。
【0047】
弾性体141の固定端および可動端の位置およびばね定数などの特性は、図10及び図11の検討で得られた目標の支援モーメントと生成される支援モーメントτAGとの各膝関節角度θにおける差分(たとえば目標値に対する誤差の二乗和)が最小となるように決められる。図14の支援モーメント特性は図11の支援モーメント(τAG)設計目標値とは完全に一致しないが、ユーザが起立動作や着座動作を行う際に胴体角度を微調整することにより補完される。
【0048】
図15は、アクチュエータ14による支援モーメント生成の参考例を示す。参考例では、アクチュエータとしてぜんまいバネ142を用いる。支援機構10Aは、基準面RPに固定される第1リンクL、回転節15によって第1リンクLに対して回転可能に連結される第2リンクL、及び、回転節15に設けられるぜんまいバネ142によって模式化される。
【0049】
回転節15にぜんまいバネ142を内蔵し、膝関節角度θに応じて、膝関節支援のための支援モーメントτAZを発生させる。
【0050】
図16は、図15の構成による支援モーメントτAZの特性を、図12の構成による支援モーメントτAGの特性とともに示す。回転節15に内蔵されるぜんまいバネを用いると、支援モーメントτAZの変化率は支援モーメントτAGと比較して小さくなるが、姿勢遷移するユーザの膝関節に生じる負荷モーメントτHBMの変化に追従して支援モーメントを生成することは、なおも可能である。図12の構成では、ユーザの膝関節に生じる負荷モーメントτHBMに基づき、理想的な支援モーメントとの誤差が最小になるように弾性体141が取り付けられているので、膝関節にかかる負荷モーメントτHBMに応じた支援モーメントτAGの生成が可能である。
【0051】
図15の構成でも、図16のτAGのように座位時に大きな支援モーメントが得られ、立位時に小さな支援モーメントが得られるように、ぜんまいばね142のばね力を設計することで、支援モーメントτAZをユーザの負荷モーメントの変化により追従させて生成することができる。ここで、図16のグラフは、膝関節角度θに対する支援モーメントの傾向を表したものであり、実際の大きさの比を表すものではない。
【0052】
これにより、ユーザは自身の意思で上体を動かし、膝関節に作用する負荷モーメントτHBMと、支援機構10による支援モーメントτAG(またはτAZ)との平衡状態を制御して、起立動作と着座動作を行うことができる。この性質を利用して、ユーザは姿勢変換動作中に、任意の姿勢で動作の停止と再開を任意にすることも可能である。
【0053】
下肢を随意に制御できないユーザであっても、ユーザ自らが上体を動かして座位と立位の間で姿勢を変えることができる。ユーザの上体の動きに基づいて姿勢変換を支援するため、脊髄損傷、脳卒中、脳性麻痺等により下肢運動機能に制限のあるユーザのリハビリテーション訓練での起立動作、着座動作の支援にも好適である。
【0054】
設計例では、図14の支援モーメント特性で、身長180cm、体重72kgのユーザに対する支援に最適化されているが、ユーザの身長、体重、下肢の状態等に応じて、アクチュエータ14によって生成されるモーメント特性を最適化することができる。以下で説明する支援モーメント調整機構を設けることで、たとえば身長145cm~180cm、体重40kg~100kgの範囲でユーザの体格に適した支援モーメントを生成することができる。
【0055】
図17は、ユーザの体形に応じた支援モーメント調整機構40の構成例を示す。支援モーメント調整機構40は、第2リンクLを第1リンクLに対して回転させるアクチュエータ14の可動端の取り付け位置を配置可能領域A2内で可変にする。これにより、身長や体重の異なるユーザに最適な支援モーメントを提供する。
【0056】
アクチュエータ14の固定端は、配置可能領域A1(図13参照)内で、第1リンクLに固定されている。アクチュエータ14の可動端の取り付け位置は、y1とy2の間で変更可能である。たとえば、y1とy2の間に取り付け部を複数個設けて、複数段階に切替可能にしてもよいし、可動端の取り付け位置を連続的に変化可能にして、所望の位置でロックする構成にしてもよい。体形の小さいユーザには、アクチュエータ14の可動端の位置を取り付け点y1、またはその近傍に設定する。体形の大きなユーザには、アクチュエータ14の可動端の位置を取り付け点y2、またはその近傍に設定する。取り付け点y2を選択したときは、取り付け点y1と比較して膝関節(回転軸)からのモーメントアームが長くなり、より大きな支援モーメントを生成することができる。
【0057】
一例として、想定するユーザの最小体形を身長145cm、体重40kgと想定し、最大体形を身長190cm、体重100kgと想定する。まず、最大体形について第1リンクL上での固定端取り付け点、第2リンクL上での可動端取り付け点y2、アクチュエータ14の仕様を決定する。次に、アクチュエータ14の固定端取り付け点の位置と仕様を前記で求めたものとして、最小体形について第2リンクL上での取り付け点y1を決定する。y1とy2を結ぶ線分(直線でも曲線でもよい)上に複数の取り付け点を設け、アクチュエータ14の可動端の取り付け位置を変更可能にする。これにより、支援機構10のユーザの体形が広範囲にばらついても、ユーザの姿勢遷移を支援することができる。
【0058】
以上述べたように、実施形態の支援機構10において、単一のアクチュエータ14は、起立動作の全範囲にわたって、ユーザから支援機構10にかかる負荷モーメントτHBMを上回る支援モーメントτAGを生成し、かつ、膝関節の伸展に応じて支援モーメントτAGを変化させる。
【0059】
アクチュエータ14は、着座動作の全範囲にわたって、ユーザから支援機構10にかかる負荷モーメントτHBMよりも小さい支援モーメントτAGを生成し、かつ、膝関節の屈曲に応じて、支援モーメントτAGを変化させる。
【0060】
支援機構10に移動装置1を組み合わせて用いることで、座位姿勢で使用する既存の車椅子の代替として立位式の移動支援装置が提供される。
【0061】
実施形態の支援機構で、座位で曲げていた膝が伸び始めてから起立状態に達するまでにかかる時間は約2.5秒であり、個別アクチュエータを用いてそれぞれ足首関節と膝関節の回転を支援する従来構成と比較して、起立時間を約1/4から1/5に短縮することができる。着座動作では、着座のために膝を曲げ始めてから着座状態に達するまでの時間は、約2.3秒であり、従来構成と比較して約1/4に短縮することができる。これにより、迅速かつ効率的に姿勢遷移を支援することができる。
【0062】
<使用例の説明>
1.装置の着脱
支援機構10の本体から支持帯16を取り外し、椅子やベッドなど腰掛けられる座面上に敷く。ユーザはその上に腰掛けるようにして支持帯16を装着する。座位姿勢をとらせた支援機構10をユーザの脚前方から接近させ、フットレスト4に両足を収める。支援機構10を更に接近させると、ユーザの膝関節が膝関節サポート部材28に収まり、同時に支持帯16が支援機構10の第2リンクLとの接続位置へ達する。支持帯16と第2リンクLの連結操作を行い装着操作が完了する。装置を取り外す際には、座位姿勢をとり装着操作を逆の順序で行う。
【0063】
2.起立着座動作
姿勢を変更する際には、アクチュエータ14のロックを解除して膝関節可動状態とする。起立動作はユーザが上体を前方へ傾けることにより、着座動作は後方へ傾けることにより誘起され、上体の姿勢を調整することにより姿勢遷移動作を任意に停止または反転させることが可能である。所望の姿勢に到達し膝関節の動作が停止した後にアクチュエータ14をロックして膝関節を固定状態とする。この操作により安全に装置を脱着したり、立位または座位姿勢を維持したまま自由な上体姿勢をとったりすることが可能となる。
【0064】
<第2実施形態>
第2実施形態では、第1リンクLと第2リンクLに加えて、第3リンクLを用いて姿勢遷移中のユーザの胴体を安定化し、膝関節の動きと胴体の動作を連動させる。
【0065】
図18、及び図19は、姿勢遷移の支援機構110を有する移動装置101の側面図である。図18は、座位時の支援機構110の状態を示し、図19は、立位時の支援機構110の状態を示す。
【0066】
支援機構110は、移動装置101のベース13に固定される第1リンクLと、第1リンクLに回動可能に連結される第2リンクLと、第2リンクLを第1リンクLに対して回動させるアクチュエータ14を有する。第1リンクLと第2リンクLは、回転節15によって連結されている。
【0067】
支援機構110はまた、第2リンクLに連結される第3リンクLと、第3リンクLを第2リンクLに対して回転可能に連結する回転節17とを有する。後述するように、第3リンクLと第2リンクLの間に力伝達システムを設けることで、単一のアクチュエータ14を用い、かつ、膝関節q2の動作と腰関節q3の動作を同期させて、ユーザの姿勢遷移を支援することができる。
【0068】
アクチュエータ14は、ユーザの上体姿勢変化により第1リンクLと第2リンクLを連結する回転節15にかかる負荷が変動したときに、支援機構110における姿勢変換支援のための動作を誘起する。アクチュエータ14によって第2リンクLに働く力をFaとする。
【0069】
第3リンクLは、ユーザの上体を支えており、姿勢遷移中においては、ユーザの上体から第3リンクL経由で第2リンクLへ伝達される力が、後述する力伝達システムによって線形化される。ここで、伝達される力を「線形化」するとは、膝関節q2の角度に対する、膝関節q2にかかる腰関節q3由来の力を単調増減させることを指す。腰関節q3の動きに由来する力を線形化することで、ユーザの起立及び着座動作がスムーズになる。この支援機構110は、動力供給を必要としない受動式の支援機構である。
【0070】
図18、及び図19の例では、アクチュエータ14として一組のガススプリングを用いているが、液圧を利用した粘弾性ダンパー、コイルスプリング、ゴムバネなど、適切な弾性部材を選択することができる。一組のガススプリングを用いる場合でも、第2リンクLを第1リンクLに対して駆動するアクチュエータという意味で、単一のアクチュエータである。この点は、足首関節に相当する第1部分と、膝関節に相当する第2部分を個別のアクチュエータで駆動する公知技術と大きく異なる。
【0071】
第1リンクLは、ベース13に固定されて、ユーザの足部と下腿を支持する。第1リンクLに、ユーザの膝の位置を保持する部品18が設けられていてもよい。実際の使用時に、部品18の外側にユーザとのインターフェースとなる膝サポートが配置され得る。第2リンクLは、ユーザの大腿に相当し、回転節15によって第1リンクLと接続されている。第2リンクLは、機械的に制限された90度程度の可動域をもつ。第3リンクLは、ユーザの腰関節q3に相当する回転節17で第2リンクLに連結されて、ユーザの腹部周辺で胴体を支える。回転節17には、ユーザの臀部を支持する支持帯16が接続されていてもよい。また、第2リンクLに、大腿部を支えるストラップ19を接続されていてもよい。
【0072】
図18の座位状態で、第2リンクLはベース13または移動面に対して水平に近い角度に保持される。第3リンクLは、座位から起立しようとするユーザの腹部周辺で胴体を支えるために、第2リンクLから斜め上方に向かって位置する。ユーザが座位から立位に姿勢を変えるときに、膝関節q2は矢印q2の方向に動き、腰関節q3は矢印q3の逆方向に動く。膝関節q2に相当する回転節15は、矢印q2の方向に回転して、ユーザの起立動作を支援する。この支援動作は、アクチュエータ14によって起立方向に作用するモーメントと、ユーザの上体姿勢によって着座方向に作用するモーメントの釣り合いまたは合力に基づく。
【0073】
回転節15が矢印q2の方向に回転するとき、第2リンクLと第3リンクLを連結する回転節17は、矢印q3と逆の方向に角度が変化し、第3リンクLを紙面の上方に向かって押し上げ、起立しつつあるユーザの上体を安定して支える。この動作の詳細については、後述する。
【0074】
図19の立位で、第2リンクLはベース13または移動面に対して垂直に近い角度に持ち上がる。第3リンクLは、起立したユーザの胴体を支持するために、第2リンクLが起き上がった方向とほぼ平行に位置する。
【0075】
支援機構110を有する移動装置101には、一対の前輪2と、一対の後輪3が設けられている。前輪2は主輪であり、移動装置101を駆動する。起立したユーザの上体姿勢によって、ベース13に対する前輪2の回転方向が変わって、ユーザは立位のまま、所望の方向に移動することができる。また、一対の前輪2の左右の回転速度差により、旋回、その場での回転等が可能になる。
【0076】
後輪3は従輪として旋回可能に取り付けられていてもよい。後輪3を旋回可能な車輪とすることで、椅子、ベンチなど、ユーザが着座しようとする対象物に移動装置1を近接させることができる。
【0077】
図20は、立位での搭乗状態を示す図である。ユーザは、ベース13に固定された第1リンクLを両足で挟んで起立している。この例では、膝関節サポート部材28が使用されている。膝関節サポート部材28は、図18及び図19に示した部品18を内側に収容していてもよい。回転節15で第1リンクLに連結される第2リンクLは、たとえばY字型のリンクである。Y字の2つの分岐は、ユーザの腰の両側に向かって延び、分岐端のそれぞれで、回転節17によって第3リンクLに連結されている。第3リンクLは、たとえばU字型のリンクである。
【0078】
ユーザが座位から起立するときは、ユーザからかかる負荷の変化に応じて支援モーメントとの大小関係が変化することにより回転節15が回転して、ユーザの起立動作を支援する。このとき、第3リンクLは第2リンクLと同期して、ユーザの胴体下部を安定して支える。
【0079】
図20のように、Y字型の第2リンクを用いる場合、Y字の分岐のそれぞれにアクチュエータ14が接続されていてもよいし、分岐点に一つのアクチュエータが設けられていてもよい。第2リンクLの形状はY字型に限定されず、U字型、アーチ型などであってもよいし、かならずしも分岐していなくてもよい。
【0080】
ユーザの姿勢変換を支援する支援機構110は、アクチュエータ14(図18参照)による支援モーメントとユーザからの負荷モーメントのバランスの変化に応じて動作し、電源供給や外部からの制御を要しない。膝関節q2の姿勢によって一意に決まる支援モーメントと、それに対抗するユーザからの負荷モーメントの和が、起立する方向を向くか着座する方向を向くかによって、その方向への支援動作が誘起される。なお、設計段階では、ユーザによる負荷モーメントを予測し、これに基づいて適切な支援モーメントが発生するようにアクチュエータ14の種類、配置等が計算される。
【0081】
一方、移動装置101には、図示はしないが、前輪2を駆動する駆動機構と、移動制御のためのコントローラが設けられている。一例として、前輪2の近傍に設けられたモータで直接前輪2を駆動するインホイールモータが設けられていてもよい。
【0082】
支援機構110は、図20の構成の移動装置101だけではなく、標準的な車いす用のインホイールモータシステムと組み合わせることができる。第1リンクLは、ベース13に固定される替わりに、適用される移動体の支持体(シャーシなど)に固定されてもよい。支援機構110は、必ずしも移動体に適用される必要はなく、移動しない台等に固定されて支援動作を行ってもよい。この場合も、ユーザの姿勢遷移により支援機構110にかかる負荷に対応して、最適な支援力をユーザに伝達する。
【0083】
図21は、支援機構110におけるq2とq3の座標系を説明する図である。q2は、ユーザの膝関節に相当し、回転節15の回転軸とみなしてもよい。q3はユーザの腰関節に相当し、回転節17の回転軸とみなしてもよい。
【0084】
以下の説明で「q2の角度」というときは、第2リンクL上でq2とq3を結ぶ線分が、水平ラインに対して成す角度をいい、第1実施形態の膝関節角度θに対応する。「q3の角度」というときは、q2とq3を結ぶ線分に対する垂直線と、第3リンクLによって保持されるユーザの体幹中心線の成す角度をいう。
【0085】
図21の(A)の座位の場合、支援機構110の第2リンクLは、水平ラインまたは移動面とほぼ水平になっており、第3リンクLは、水平ラインからほぼ垂直に立ち上がっている。座っているユーザの体幹中心線または胴体がほぼ垂直だと仮定して、q2の角度θq2は0度、q3の角度θq3は0度である。
【0086】
図21の(B)の立位の場合、支援機構110の第2リンクLは、水平ラインまたは移動面からほぼ垂直に立ち上がり、第3リンクLも、水平ラインからほぼ垂直に位置する。立っているユーザの体幹中心線または胴体がほぼ垂直だと仮定して、q2の角度θq2は90度、q3の角度θq3は-90度である。
【0087】
図22は、実施形態の支援機構110の原理を説明する人体モデルである。図22(A)は、座位から立位、または立位から座位に遷移するときの足首関節q1、膝関節q2、腰関節q3、及び肩関節q4と、これらをつなぐリンクl1、l2、l3を示す。図22(B)は、各リンクの重心(m1~m3)と各関節に働くモーメント(τ1HBM~τ3HBM)を示す。
【0088】
一般的に、下肢が麻痺しているユーザの起立動作または着座動作の支援には、足首関節q1、膝関節q2、及び腰関節q3の動きに焦点があてられている。これに対し、実施形態では、足首関節q1を固定とし、膝関節q2よりも上側の体の動きを考慮する。
【0089】
図23は、ユーザの姿勢遷移のサイクルを示す。図24図25は、図23の姿勢遷移に応じた関節角度と関節まわりの負荷モーメントの変化をそれぞれ示す。図23で、ユーザの姿勢は、座位(ST1)、座位から立位への遷移1(TR1)、立位(STD)、立位から座位への遷移2(TR2)、座位(ST2)と遷移する。図24では、公知技術と異なり、足首関節q1の角度は考慮に入れず、姿勢遷移に対応する膝関節q2と腰関節q3の角度変化を考える。
【0090】
図23、及び図24を参照すると、座位(ST1とST2)ではユーザの膝関節と腰関節を結ぶ線分と水平ラインが成す角度はほぼ0度であり、ユーザの体幹中心は水平面に対してほぼ垂直である。図21の座標系によると、q2の角度は0度、q3の角度は0度である。
【0091】
座位から起立しようとするとき(TR1)、ユーザの上体は前傾するが、初期の相では膝関節q2と腰関節q3を結ぶ線分の角度は変わらない(q2は一定)。一方、ユーザの体幹中心線は、垂直ラインと前傾角度(30度まで)の間で変化し、q3の角度は変化する。
【0092】
立位(STD)では、ユーザの上体(体幹中心線)はほぼ垂直である。第2リンクLはほぼ垂直に立ち上がり、q2の角度は90度、q3の角度は-90度である。
【0093】
立位から着座しようとするとき(STD2)、ユーザの上体はまず後傾し、体幹中心線は後傾角度(後ろへ15度まで)と垂直ラインの間で変化する。このとき、q3の角度は-90度からさらにマイナス方向に変化する。一方、膝関節q2と腰関節q3の位置に変化はないので、q2の角度は90度のままである。続いて(TR2)、膝を曲げて着座に向かうため、q2の角度は90度から減少し、q3の角度はプラス方向に変化する。
【0094】
完全に着座すると(ST2)、姿勢遷移サイクルの初期状態に戻り、q2の角度は0度、q3の角度は0度になる。
【0095】
図25では、足首関節まわりのモーメントτ1HBMと、膝関節まわりのモーメントτ2HBMはほぼ同等とみなして、膝関節まわりのモーメントτ2HBMに注目する。ユーザが座位から起立しようとするとき、遷移1(TR1)の前半で、膝関節q2まわりのモーメントτ2HBMは、いったん極大に向かう。その後、膝関節q2が伸びるにつれてモーメントτ2HBMは減少する。一方、腰関節q3まわりのモーメントτ3HBMは、立位に向かうにつれて少しずつゼロへ向かって増加する。立位(STD)では、モーメントτ2HBMとモーメントτ3HBMは、ほぼゼロである。
【0096】
着座しようとするとき、膝を曲げる動作につれて、モーメントτ2HBMは増加する。一方、腰関節まわりのモーメントτ3HBMは、緩やかに負方向へ変化する。
【0097】
実施形態では、起立に必要な全モーメントを低減するために、起立動作時に、胴体の前傾角度を利用し、着座動作時に、胴体の後傾角度を利用する。
【0098】
図26は、支援機構110のアクチュエータ14による動力生成のモデルである。アクチュエータ14は、支援機構110に姿勢変換を支援するための動力を供給する。図中のτ2Mは、ユーザの膝関節への支援モーメントであり、τ3Mは、ユーザの腰関節への支援モーメントである。アクチュエータ14の実効的な力Faは、バネのバネ係数Kaと、ダンパーの減衰係数Daによって決まる。
【0099】
アクチュエータ14が生成するモーメントと、ユーザからの負荷のバランスが変動すると、第2リンクLが回動する。これにともなって、第3リンクLが回動する。
【0100】
アクチュエータ14は、図25の起立動作の間(時間t3~t6の遷移1)ユーザが起立するために、アクチュエータ14が生成する実効的なモーメントτaが、ユーザによる負荷モーメントよりも大きくなるように設計されている。また、着座動作に入るために後傾姿勢をとる間(時間t13~t20)も、アクチュエータ14で生成されるモーメントτaは、ユーザ由来の負荷モーメントよりも小さくなる。この実効的なモーメントτaを「支援モーメント」と呼んでもよい。
【0101】
ユーザの起立動作を誘起するために、アクチュエータ14はユーザから支援機構110にかかる負荷モーメントτloadを超える支援モーメントを、第1リンクLと第2リンクLの連結部に生じさせる(τa>τload)。
【0102】
一方、起立するための前傾姿勢に入る前(時間t0)と、着座動作中(t15~t20)は、アクチュエータ14による支援モーメントτaが、ユーザから支援機構110にかかる負荷モーメントτloadよりも小さくなるように設計されている(τload>τa)。これにより、ユーザは自分自身の意思で、起立動作と着座動作に入ることができる。
【0103】
図27は、姿勢変換動作中の膝関節におけるモーメントの大小関係を示す。横軸は、q3の角度θq3であり、縦軸は、膝関節にかかるモーメント(Nm)である。上述のように、θq3は、膝関節q2と腰関節q3を結ぶ線分への垂直線とユーザの体幹中心線とが成す角度である。実線はユーザ由来のモーメントτloadを表わし、破線はアクチュエータ14による実効的な支援モーメントτaを表わす。
【0104】
1サイクルで、座位(ST1)から立位(STD)に遷移する全区間(TR1)において、アクチュエータ14による支援モーメント(τa)は、ユーザ由来の負荷モーメントτloadよりも大きく、膝関節q2の角度に応じて変化している。ユーザが起立のための前傾姿勢をとる過程で、角度θq3は30度から0度に変化し、膝を伸ばして立ち上がる過程で、θq3は0度からマイナス方向に変化する。
【0105】
ユーザが完全に起立すると(STD)、角度θq3は-90度になる。起立状態から着座動作に入るためにユーザが後傾する過程で、角度θq3は-90度から-105度に向かって変化する。後傾の角度が鉛直から後方へ15度傾くまでは、支援モーメント(τa)は、ユーザ由来の負荷モーメントτloadよりも大きい。
【0106】
ユーザの上体が後方へ15度傾斜して、角度θq3が-105度に達すると、ユーザ由来の負荷モーメント(τload)が、アクチュエータ14による支援モーメント(τa)を上回って、立位から座位(ST2)へ遷移する間、全区間でτload>τaの関係が保たれ、支援モーメントτaはユーザの膝関節q2の角度に応じて変化する。
【0107】
これにより、起立動作と着座動作で、ユーザは自身の意思で上体を動かし、膝関節に作用する負荷モーメントと、支援機構110による支援モーメントとの平衡状態を制御して、姿勢変換を行うことができる。ユーザは姿勢変換動作中に、任意の姿勢で動作の停止と再開が可能である。
【0108】
下肢を随意に制御できないユーザ、あるいは体幹下部に障害があるユーザであっても、ユーザ自らが上体を動かして座位と立位の間で姿勢を変えることができる。この支援機構110は、電源供給や制御装置が不要であり、ユーザの上体の動きに基づいて姿勢変換を支援するので、脳卒中、脳性麻痺等により下肢運動機能に制限のあるユーザのリハビリテーション訓練での起立動作、着座動作の支援にも好適である。
【0109】
設計例では、ユーザは座位において鉛直から前方へ30度の自由度をもち、立位において鉛直から後方へ15度の自由度を持つが、この例に限定されない。図27のモーメント特性で、身長180cm、体重80kgのユーザに対する支援が可能であるが、ユーザの身長、体重、下肢の状態等に応じて、アクチュエータ14によって生成されるモーメント特性を最適化することができる。その場合、第1実施形態で用いた図17の構成を用いてもよい。
【0110】
図28は、アクチュエータ14が発生させるモーメントτaを説明する図である。各棒グラフはモーメントτaを捉える種別ごとに表示され、縦軸は、q2まわりのモーメントの大きさである。横軸の左端の「τ2HBM」は、健常者が立ち上がる、または座るときに膝関節に必要なモーメントである。横軸中央の「τe」は、外骨格質量や摩擦影響を考慮し、これらの要因E1を相殺したのちに、τ2HBM相当のモーメントが得られるようにアクチュエータ14が膝関節まわりに発生させるべきモーメントである。
【0111】
横軸の右端の「Mload」は、ユーザから支援機構110にかかる負荷を考慮して、アクチュエータ14が発生すべきトータルのモーメントである。ユーザが第3リンクLに寄りかかることで腰関節q3に発生するモーメントは、q2のモーメントに影響を与える。後述する力伝達システムによって、q2とq3の間で力の伝達が行われるからである。そこで、第3リンクLとの間で生じるモーメント影響τ2Tをさらに加味して、システム全体で必要とされるモーメント(Mload)を発生する。
【0112】
ここで、図28中のτ2HBM、τe、Mloadを表す棒グラフの大きさは、実施例における実際の大きさの比を表すものではない。またE1およびτ2Tは、動作の状況によって負値をとってもよく、τe>Mloadのような大小関係となってもよい。
【0113】
loadは、図27の支援モーメントτaに相当する。支援モーメントτaと同様に、膝関節q2の角度に対して、τ2Tが単調増加または単調減少(線形化)するように、支援機構110は設計される。τ2Tは、
(a)q2(膝関節)の角度が0度から90度の間で変化する間に、q3(腰関節)がどのような姿勢変化または角度変化するか、及び
(b)ユーザが第3リンクLにもたれかかることによって発生するq3まわりのモーメントτ3HBMをどのようにq2に伝えるか、
という2つの要素に影響を受ける。
【0114】
要素(a)は、図23図24図26図27を参照して説明したとおりである。アクチュエータ14が生成する支援モーメントτaは、ユーザの膝関節への支援モーメント(これをτ2Mとする)と、腰関節への支援モーメント(これをτ3Mとする)と、装置自重等よる損失等の要因E1とに分配される。腰関節への支援モーメントτ3Mは、分配されたモーメントに対して第2リンクLと第3リンクLの間の力伝達機構の倍率が掛かって伝達される。アクチュエータ14に作用する負荷モーメントτloadは、膝関節負荷モーメントτ2HBMと、腰関節由来の負荷モーメント(これをτ2Tと呼ぶ)と、装置自重による損失等の要因E1の合計である。腰関節負荷モーメントτ3HBMは、第2リンクLと第3リンクLとの間の力伝達機構の倍率を介して、τ2Tとしてアクチュエータ14に作用する。以下では、力の伝達について説明する。
【0115】
<力伝達システム>
図29は、実施形態の支援機構110Aの力伝達システム20Aの構成例を示す。この例では、複数のプーリPとワイヤW1、及びW2を用いて力伝達システム20Aを構成する。姿勢変換のための動力は、ガススプリング等のアクチュエータ14によって、第2リンクLに供給される。姿勢遷移中に、アクチュエータ14により膝関節q2まわりに生じるモーメントは、ワイヤ伝達により第3リンクLに伝達され、膝関節と胴体の動作が同期する。
【0116】
図20のようにY字型の第2リンクLを用いる場合は、第2リンクLのうち、右大腿骨に対応する部分に2本のワイヤW1、W2が配置され、左大腿骨に対応する部分に別の2本のワイヤW1、W2が配置され、合計4本のワイヤが用いられる。2組のワイヤは、Y字の対応する分岐部に左右対称に配置されている。
【0117】
一組のワイヤW1、W2に着目して説明すると、2本のワイヤのうちの一本(たとえばW1)は、第3リンクLを時計回りに回転させ、他の一本(たとえばW2)は、第3リンクLを反時計回りに回転させる。
【0118】
図29(A)の起立動作時に、第2リンクLは反時計回りに回転して伸展する。ここで「伸展」とは、第1リンクLと第2リンクLが直線または直線に近い姿勢となるための姿勢変化をいう。ワイヤW1の固定点XとプーリP13の間の距離、及びプーリP10とプーリP12の間の距離は、第1リンクLと第2リンクLの角度に依存する。第2リンクLが伸展すると、ワイヤ固定点XとプーリP13の間のワイヤ距離は短くなり、プーリP10とプーリP12の間のワイヤ距離は長くなる。第2リンクL内でワイヤW1が変位する結果、第3リンクL(及び腰関節q3に相当する回転軸)が時計回りに動く。
【0119】
ここで、X-P13間のワイヤ経路と、P10-P12間のワイヤ経路は、第3リンクLを、第2リンクLの長手軸の法線に対して前方へ30度(q3=30度)、後方へ90度(q3=-90度)の範囲で動かすように設定されている。
【0120】
図29(B)の着座動作時に、第2リンクLは、時計回りに回転して屈曲する。ここで「屈曲」とは、伸展と逆方向の姿勢変化をいう。ワイヤW2のワイヤ固定点XとプーリPの間の距離は、第1リンクLと第2リンクLの角度に依存する。第2リンクLの屈曲によって、ワイヤ固定点XとプーリPの間の距離は長くなる。第2リンクL内でワイヤW2が変位する結果、第3リンクL(及び腰関節q3に相当する回転軸)が反時計回りに動く。
【0121】
-P間のワイヤ経路は、膝関節q2の角度が90度(立位姿勢)から0度(座位姿勢)に遷移するのに伴って、腰関節q3の後方リミッタ-105度(鉛直から後方へ15度、q3=105度かつq2=90度)から0度(座位姿勢による鉛直、q3=0度、かつq2=0度)までの間、ユーザの胴体を完全に支持しながら連続的に変化する。
【0122】
q3を駆動するためにワイヤW1、W2を保持するq3軸上のプーリ円周上の溝は、ワイヤごとに異なる半径が設定されていてもよい。この場合、起立動作と着座動作で非対称な姿勢支援が可能になる。q3まわりに発生するモーメントτ3HBMが同じであっても、ワイヤW1、W2の配索経路によって、膝関節q2に影響するτ2T図28参照)の大きさが異なる。そのため、q3に相当する位置に設けられるプーリの径は最適に設計されている。
【0123】
力伝達システム20Aにより、第3リンクLにかかる使用者由来の力によるq2への影響(τ2T)を線形化するとともに(腰関節q3の角度変化に対して負荷変動が単調増減する)、アクチュエータ14にかかる負荷を最小化する。力伝達システム20Aを用いることで、単一のアクチュエータに作用する負荷モーメントを線形化し、かつ、ユーザの膝関節と腰関節の動きを同期させることができる。
【0124】
図30図31は、図29の力伝達システム20Aを有する移動装置101Aの模式図である。図30は座位の状態、図31は立位での移動時の状態である。
【0125】
図30において、力伝達システム20Aは、支援機構110の第1リンクL、第2リンクLの内部を通って、第3リンクLに結合されている。ユーザが座位から起立する場合、第3リンクLは、ワイヤW1のX-P13間の経路とP-P12間の経路を通じて、膝関節を駆動するアクチュエータ14の作用を受ける。
【0126】
図31において、立位から座位へ遷移する場合、第3リンクLは、ワイヤW2のX-P間の経路を通じて、アクチュエータ14の作用を受ける。これにより、姿勢遷移時に、膝関節と胴体の動作が同期される。
【0127】
図32は、実施形態の力伝達システム20Bを用いた支援機構110Bの構成例を示す。この例では、複数の伝達ロッド21、22、23を用いて力伝達システム20Bを構成する。姿勢変換のための支援力は、ガススプリング等のアクチュエータ14によって、第2リンクLに供給される。姿勢遷移中に、アクチュエータ14により膝関節q2まわりに作用する力は、伝達ロッド21,22、23により、第2リンクLから第3リンクLに伝達され、膝関節と胴体の動作が同期する。
【0128】
伝達ロッド21の一方の端部は、第1リンクL上に取り付けられている。伝達ロッド22は、第2リンクLの長軸方向と平行にスライドするように拘束されており、伝達ロッド22は、伝達ロッド21を介して第1リンクLに接続されている。伝達ロッド23の一端は、第3リンクLに取り付けられており、伝達ロッド22は、伝達ロッド23を介して、第3リンクLに接続されている。伝達ロッド21、22、及び23を用いた力伝達システム20Bによって、膝関節に相当するq2の角度変化に応じて第3リンクLが駆動される。
【0129】
図20のようにY字型の第2リンクLを用いる場合は、力伝達システム20Bを構成する伝達ロッド21~23の少なくとも一部を分岐させて、右大腿に対応する部分と左大腿に対応する部分にそれぞれ伝達リンクを設ける。
【0130】
図33Aでは、伝達ロッド21と伝達ロッド22を共通に連結し、伝達ロッド23-1と伝達ロッド23-2で、第2リンクLの分岐部分に対応させる。図33Bでは、伝達ロッド21を共通に用いて、伝達ロッド22-1及び23-1と、伝達ロッド22-2及び23-2で、第2リンクLの分岐部分に対応させる。
【0131】
各伝達ロッドの長さと、支点及び力点の位置は、第3リンクLに付加されるユーザ由来の負荷を線形化して、アクチュエータ14が担う負荷モーメントを単調増減させ、かつアクチュエータ14にかかる負荷を最小化するように設定されている。
【0132】
力伝達システムの構成は、図29のワイヤ-プーリ構成、及び図32の伝達ロッド構成に限定されない。たとえば、傘歯車を用いてモーメントを伝達してもよい。この場合、傘歯車のギア比を適切に選択することで、第3リンクLにかかる使用者由来の力によるq2への影響(または図28のτ2T)を線形化するように、腰関節q3まわりのモーメントτ3HBMと、q3からq2へ伝わるモーメントの関係を調整することができる。
【0133】
<移動装置の制御>
図34は、第3リンクLに配置される圧力センサ31の配置例を示す。第3リンクLのたとえば内側(ユーザとの接触側)に、圧力センサ311~31nを配置して、第3リンクLを操縦インターフェースとして用いる。
【0134】
第3リンクLの主要な役割は、姿勢変換時、及び立位で、ユーザの上体を安定して支えることである。そのため、第3リンクLは、ユーザの上体、特に腹部まわりと接触しやすい形状となっている。第3リンクLとユーザの上体との接触を利用して、移動装置101の進行方向と速さを制御する。
【0135】
立位での移動時に、図20に示すように、ユーザの下肢と胴体は、支援機構110の第1リンクL、第2リンクL、及び第3リンクLによって支えられ、ユーザは体重移動により、ハンズフリーで移動装置101を操縦することができる。
【0136】
図35に示すように、圧力センサ311~31nで得られる圧力分布に基づいて、進路の方向と速度を制御できる。たとえば、移動装置1のベース13にコントローラまたはプロセッサを配置して、圧力センサ311~31nの出力を収集・処理して、圧力分布を得る。圧力分布に基づいて進路方向と速度を計算し、前輪2の回転数を制御することができる。
【0137】
図35の(A)で、ユーザの腹部領域が第3リンクLに対して片寄りなく位置するときは、複数の圧力センサ31で得られる圧力分布は、極大値を持つ山型になる。この場合、コントローラまたはプロセッサは、ユーザの推定意思を「前進」と判断して、前輪2を等しい速さで回転させる。また、圧力分布のピーク高さによって、ユーザが意図する移動速度を推定することができる。
【0138】
図35の(B)で、ユーザの胴体が左へねじれている場合は、圧力分布が全体に右側にシフトする。この場合、コントローラまたはプロセッサは、ユーザの推定意思を「左へターン」と判断して、左の前輪2に対して右の前輪2を速く回転させることでベース13の進行方向を左に向ける。また、圧力分布のピーク偏り(シフト量)によって、ユーザが意図するターンの大きさを推定することができる。
【0139】
図35の(C)で、ユーザの胴体が右へねじれている場合は、圧力分布が全体に左側にシフトする。この場合、コントローラまたはプロセッサは、ユーザの推定意思を「右へターン」と判断して、右の前輪2に対して左の前輪2を速く回転させることでベース13の進行方向を右に向ける。また、圧力分布のピーク偏り(シフト)によって、ユーザが意図するターンの大きさを推定することができる。
【0140】
図35の(D)で、ユーザの横腹付近のごく一部だけが第3リンクLに接している場合、すなわち圧力分布が、ごく狭い領域に限られている場合、コントローラまたはプロセッサは、ユーザの推定意思を「後退」と判断する。このような圧力分布のときは、ユーザは一般に、後方を振り返りながら後退しようとしている。この場合、前輪2の回転方向が切り替えられる。
【0141】
用いられる圧力センサ31の数、間隔等は、ユーザの体型に応じて適宜決定される。ユーザの立位姿勢における胴体のねじれを活用した直感的な操作が可能になる。
【0142】
第2リンクLと第3リンクLに角度センサが設けられて、角度センサの出力がコントローラまたはプロセッサに入力されてもよい。第2リンクLと第3リンクLが立位位置にない場合に、制動機構が働くようにしてもよい。
【0143】
第2実施形態の力伝達システム20A、及び20Bは、単一のアクチュエータ14で単一の関節(膝関節)の動作を支援する際に、ユーザの膝関節姿勢に対してユーザの上体からアクチュエータにかかる負荷τ2Tを線形化する。
【0144】
アクチュエータ14は、起立動作の全範囲にわたって、ユーザから支援機構110にかかる負荷を上回る支援モーメントτaを生成し、かつ、膝関節q2の伸展に応じて支援モーメントτaを変化させる。
【0145】
アクチュエータ14は、着座動作の全範囲にわたって、ユーザから支援機構110にかかる負荷よりも小さい支援モーメントτaを生成し、かつ、膝関節q2の屈曲に応じて、支援モーメントτaを変化させる。
【0146】
q2、q3間の力伝達システムを設けることで、第2リンクLと第3リンクLを同期することでユーザの膝関節と腰関節を自然に連動させることができる。
【0147】
起立動作では、ユーザの上体姿勢を所定の前傾角度θ1まで許容し、着座動作では、ユーザの状態を、所定の後傾角度θ2まで許容する。起立のために許容される前傾角度の大きさと、着座のために許容される後傾角度の大きさは異なることもある。
【0148】
実施形態の支援機構110(支援機構110A、及び110Bを含む)は、座位から立位、立位から座位等の姿勢遷移の間、ユーザの上体を安定して支えることができる。
【0149】
支援機構110を用いることで、座位姿勢で使用する既存の車椅子の代替として立位式の移動装置101が提供される。移動装置101はハンズフリーの操作が可能である。実施形態の支援機構110は、脳卒中、下肢疾患などからの回復過程にある患者のリハビリテーション機器としても好適である。
【0150】
<第3実施形態>
第3実施形態では、単一の受動的なアクチュエータを用いて姿勢変換を支援するとともに、ユーザの排泄を支援する。第1実施形態、及び第2実施形態と同様に、座位と立位の間のユーザの姿勢変換を支援するために、ユーザの重心移動に伴う膝関節への負荷モーメントの変化を利用して、受動アクチュエータで適切な支援モーメントを発生させる。従来構成と異なり、単一の受動アクチュエータで、ユーザの膝関節の動きに相当する支援モーメントだけを生成するので、構成が簡素化され、機器の重量が軽減され搬送性が高まる。また、姿勢変換時のユーザの負担が軽減される。
【0151】
排泄を支援する支援機構は、ユーザの下肢を主として支持する構造体を有する。構造体は複数のリンクを含み、その一部は、ユーザの膝関節の伸屈に対応して、受動アクチュエータによって駆動される。構造体は、ユーザの大腿部の後ろ側を支持し、かつ、臀部まわりに十分な空間が形成されるように設計されている。ユーザの臀部の周辺、さらには腰骨の周辺の拘束を最大限に取り除いた設計により、第3実施形態の支援機構を使用するユーザは、立位のまま介護者の援助なしに自身でズボンを着脱することができる。
【0152】
実施形態では、成人のみならず、小児、思春期のユーザも支援の対象とする。下肢に運動機能障害を患う小児の身体発達を促す観点からも、座位と立位の間の姿勢変換を伴う排泄支援は重要である。動力の供給を要しない受動アクチュエータを用いることで、一定範囲でユーザの身長や体重の変化に対応可能である。
【0153】
図36図38は、第3実施形態の支援機構の基本構想を説明する図である。図36図38で、支援機構210は、前輪2、及び後輪3と組み合わせて移動装置201として構成されているが、支援機構210を単独で用いてもよい。支援機構210を、図36図38の構成の移動装置201として構成する場合、ユーザは立位で移動することが想定されている。ただし、支援機構210を標準的な車椅子と組み合わせることも可能である。
【0154】
図36のように、男性ユーザの場合、移動中と同じ立位の姿勢で排尿することができる。前輪2として、補助輪またはキャスターホイールが用いられる場合、支援機構210を前向きのまま容易に男性用便器に近づけることができる。
【0155】
図37のように、便座を使用する場合、支援機構210を使用するユーザは、立位で後ろ向きのまま便器の近傍に移動する。後輪3はコントローラ、センサ出力、マイクロプロセッサ等の制御に基づいて、回転方向や向きが制御されてもよい。後ろ向きで便座に近づいたユーザは、支援機構210の姿勢変換機能により、支援機構210に搭乗したまま、便座に座ることができる。
【0156】
一般的な車椅子と異なり、ユーザは車いすの座面と便座の間を移動する必要がない。また、支援機構210のリンク構造により、ユーザは排泄の前後で、自分自身でズボンの上げ下ろしをすることができる。この詳細については、後述する。
【0157】
図38のように、ユーザは支援機構210の姿勢変換機能を用いて立位から座位に遷移するときには、後傾姿勢になり、座位から立位に遷移するときは、前傾姿勢になる。このときの重心の変化により、受動アクチュエータから適切な支援モーメントを受けることができる。
【0158】
図39図40は、第3実施形態の姿勢変換機能付きの支援機構210の斜視図である。図39は立位の状態、図40は座位の状態を示す。支援機構210は、固定状態の第1リンクLと、第1リンクLに対して回転可能に連結される第2リンクLと、第2リンクLに連結される第3リンクLと、第3リンクLに接続される胴ベルト26と、第2リンクLを第1リンクLに対して回転させるアクチュエータ14とを有する。
【0159】
第1リンクLは、回転、揺動、開閉などの姿勢変化のない静止リンクである。第2リンクLは、回転節15によって第1リンクLに対して所定の角度範囲で回動可能である。回転節15は、たとえば回転軸として形成されており、ユーザの膝関節の動きに対応して回転する。
【0160】
第2リンクLは、回転リンクL2-cと、大腿サポートL2-dを含む。回転リンクL2-cは、第1リンクLに連結されている。また、回転リンクL2-cには、アクチュエータ14の一端側が接続されており、アクチュエータ14から姿勢変換のための支援モーメントを受ける。アクチュエータ14には、モーメントの調整と衝撃吸収のためのダンパー25が設けられていてもよい。ダンパー25を設けることで、滑らかな駆動が可能になる。
【0161】
大腿サポートL2-dは、回転リンクL2-cに接続されて、ユーザが立位と座位の間で姿勢変換するときに、ユーザの大腿部の後ろ側を支持する。この例では、大腿サポートL2-dは、回転リンクL2-cの両端から延びる一対のウィング121、及び122として形成されている。ウィング121、及び122は、大腿部の形状に即して、膝の裏側から臀部の直下に向かって徐々に幅が広くなるように形成されており、立位と座位の間を遷移するときに、ユーザの大腿部の裏側を安定して支える。
【0162】
一対のウィング121及び122は、これらの間に十分な空間11が形成されるように配置されている。空間11が設けられることで、臀部とその周辺は、拘束がほとんどない状態で解放される。
【0163】
臀部まわりの拘束なしに、姿勢変換中のユーザを安定して支えるために、第3リンクLに胴ベルト26が接続されている。第3リンクLは、大腿サポートL2-dに連結されて大腿の後ろ側から側方に延びる基部L3-aと、基部L3-aから胴体の側方に沿って上方に延びる端部L3-bを有する。胴ベルト26は、端部L3-bに接続され、ユーザの腰骨よりも高い位置、仕様によっては、臍よりも高い位置で、ユーザの胴体を固定する。この構成により、腰回りの拘束を最小限にすることができる。
【0164】
第3リンクLと胴ベルト26により、ユーザは姿勢を崩さずに安定して姿勢変換することができる。胴ベルト26を腰骨よりも高い位置に設けることで、排泄時のズボンの着脱または下着の上げ下ろしが容易になる。ユーザは、上体が胴ベルト26でしっかりと支えられた状態で、ズボンを下げて便座に腰かけ、その後立ち上がってズボンを上げるという一連の行為を円滑に行うことができる。
【0165】
第1リンクLに、ユーザの前膝を支える膝関節サポート部材28が設けられていてもよい。また、第1リンクLの両側に、フットレスト27が設けられていてもよい。ユーザが下肢麻痺者など自力で立位姿勢をとることが困難な場合は、膝関節サポート部材28は必要であるが、高齢者など足腰が幾分弱った程度のユーザには、膝関節サポート部材28を省略してもよい。フットレスト27を設けることで、支援機構210の使用時の立ち位置の把握が容易になり、足元を安定させることができる。フットレスト27も、ユーザの障害の程度によっては省略してもよい。
【0166】
図40の座位の状態では、回転リンクL2-cと大腿サポートL2-dを有する第2リンクLの全体が、支援機構210が置かれている基準面に対して垂直に近い方向から、水平な角度まで倒れている。
【0167】
第2リンクLは、アクチュエータ14の受動的な動作によって回転する。ユーザが立位と座位の間を遷移するために上体の姿勢を変えると、重心位置が変化して、第1リンクLと第2リンクLを連結する回転節15にかかる負荷が変動する。アクチュエータ14は、ユーザからの負荷の変動を契機として、負荷の変動に応じた支援モーメントを生成する。アクチュエータ14は、バネ等の力を利用して、動力の供給なしに支援モーメントを生成する。
【0168】
図39図40では、アクチュエータ14として一組のガススプリングが用いられているが、液圧を利用した粘弾性ダンパー、コイルスプリング、ゴムバネなど、適切な弾性部材を用いてもよい。一組のガススプリングを用いる場合でも、第2リンクLを第1リンクLに対して回動させるアクチュエータという意味で、単一のアクチュエータである。この点は、足首関節に相当する第1部分と、膝関節に相当する第2部分を、個別のアクチュエータで駆動する公知技術と大きく異なる。
【0169】
図39図40では、第1リンクL、第2リンクL、第3リンクLの間の連結関係をわかりやすくするために第2リンクLをグレイの模様で示しているが、第1リンクL、第2リンクL、第3リンクLのすべてを同じ材料で形成してもよい。たとえば、機械的強度と耐久性の高い樹脂材料で射出成型されたプラスチックで形成されていてもよい。
【0170】
図41は支援機構210の正面図、図42は支援機構210の側面図である。図41図42ともに、図39に対応する立位の状態を示す。ユーザが支援機構210を使用する場合、第1リンクLの両側にまたがる。ユーザの下肢(脚部)は、膝関節サポート部材28と大腿サポートL2-dの間に位置する。
【0171】
図41において、大腿サポートL2-dを構成するウィング121及び122は、ユーザの姿勢変換中に大腿の裏側を支えることができ、かつ臀部のまわりに十分な空間11が設けられるかぎり、どのような形状であってもよい。すなわち、ユーザの大腿の裏側を保持し、排泄を可能にする任意の形状をとることができる。たとえば、平面形状がU字型、扇型、Y字型、ロート型など、適切な形状をとることができる。ウィング121及び122のユーザの大腿部と接するサポート面に、ユーザの大腿の形に添った湾曲面が形成されていてもよい。
【0172】
第3リンクLの基部L3-aは、大腿サポートL2-dのサポート面の妨げにならないように、大腿サポートL2-dの外側の端部に連結されている。第3リンクLの端部L3-bは、基部L3-aに対して回転可能に連結されている。端部L3-bを基部L3-aに対して回転可能とすることで、ユーザが姿勢変換するときに、胴ベルト26に固定されたユーザの上体の傾き角度が変わっても、圧迫感や不快感を与えることなく、ユーザの上体を保持することができる。
【0173】
胴ベルト26は、たとえば、前側で留めるワンタッチのはめ込み式のベルトであるが、この例に限定されない。ユーザの上体を確実に保持できるかぎり、留め金式、フック式、マジックテープ(登録商標)など、適切な留め具を用いてもよい。胴ベルト26は、第3リンクLの端部L3-bに対して取り外し可能に接続されていてもよい。
【0174】
アクチュエータ14は、必ずしも複数本のガススプリングを用いる必要はない。一本のガススプリングで支援機構210に必要とされる支援モーメントを生成できる場合は、一本のガススプリングでアクチュエータ14を構成してもよい。
【0175】
図42に明確に示されるように、第2リンクLの角度は、立位の上体で、水平面に対して80度±5度の角度で立ち上がっている。膝関節の80度の角度は、通常の立位姿勢に限りなく近く、かつ、特に力学的な観点から立位から座位への姿勢遷移を容易に実施できる角度である。発明者らは、80度±5度の角度で試作機を設計・作製し、利用者が自然な姿勢で立ち、立位から座位へ容易に姿勢遷移できることを確認している。第2リンクLは、アクチュエータ14によって、0度から80度の角度範囲で回転駆動される。
【0176】
図43は、支援機構210の立位での使用状態を示す。図44は、支援機構210の座位での使用状態を示す。図43で、ユーザは、第1リンクLを両足で挟んで起立している。ユーザの上体は第3リンクLと、これに接続される胴ベルト26によって固定されている。ユーザの両腕は自由であり、介護者の援助なしに、自身でズボンを上げ下ろしすることができる。上述したように、胴ベルト26の位置は、腰骨または臍よりも高い位置にある。ユーザの腰回りの拘束は最小限であり、ユーザ自身によるズボンの上げ下げが容易である。
【0177】
図44で、ユーザは、支援機構210にまたがったまま着座できる。座位に至るまでは、アクチュエータ14で生成される支援モーメントによって水平方向へ回転する大腿サポートL2-dで支えられている。ユーザの臀部まわりの拘束は最小限であり、便座に座った後は、そのまま排泄することができる。
【0178】
支援機構210は、アクチュエータ14(図41等を参照)による支援モーメントとユーザからの負荷モーメントのバランスの変化に応じて動作し、電源供給や外部からの制御を要しない。膝関節に対応する回転節15の姿勢によって決まる支援モーメントと、それに対抗するユーザからの負荷モーメントの和が、起立する方向を向くか(支援モーメントの方が大きい場合)、着座する方向を向くか(ユーザからの負荷モーメントの方が大きい場合)によって、その方向への支援動作が誘起される。設計段階で、ユーザの身長、体重等から負荷モーメントを予測し、これに基づいて適切な支援モーメントが発生するようにアクチュエータ14の種類、配置等を計算してもよい。
【0179】
図36図38のように、支援機構210を移動体と組み合わせるときは、後輪3を駆動する駆動機構と、移動制御のためのコントローラが設けられてもよい。移動体は、必ずしも後輪駆動である必要はなく、排泄の妨げにならないならば、前輪駆動にして、後輪を補助輪としてもよい。
【0180】
図45は、支援機構210に適用される姿勢変換モデルの模式図である。立位では、ユーザの足首関節は、ユーザが位置する基準面に対して110度の角度をなし、膝関節は基準面に対して80度の角度をなす。ユーザの上体は基準面に対してほぼ垂直である。
【0181】
立位から座位への姿勢変換を開始するときに、ユーザの上体が後方に20度程度、傾くことがある。第3リンクLの端部L3-bの回転のしやすさを、例えばダンパーを用いて回転方向に応じて調整可能にしておく、あるいは回転できる角度に制限を設けることで、着座動作の開始時にユーザの上体が多少後傾しても、ユーザの上体は胴ベルト26によって安定して支持される。
【0182】
その後、ユーザが臀部を徐々に落とすときに、膝関節は徐々に折れ曲がり、基準面に対する膝関節の角度は80度から減少する方向に変化する。座位に向かって姿勢を変換する間、ユーザの膝関節、すなわち、第1リンクLと第2リンクLを連結する回転節15にかかる負荷は、徐々に増大する。この間、アクチュエータ14は、ユーザからの負荷モーメントよりもわずかに小さい支援モーメントを生成し続け、第2リンクLを基準面と水平になる方向に屈曲させる。
【0183】
座位では、膝関節の角度は0度になり、大腿を支持する第2リンクLは基準面とほぼ水平になる。ユーザの足首角度は、立位と同じ110度である。
【0184】
座位から立位への姿勢変換を開始するときは、ユーザは、上体を前方に30度ほど傾ける。このとき、膝関節の角度は0度、足首関節の角度は110度である。その後、立位に向けて、臀部を徐々に浮かせるときに、膝関節は徐々に伸展し、基準面に対する膝関節の角度が大きくなる。立位に向かって姿勢を変換する間、ユーザの膝関節、すなわち、第1リンクLと第2リンクLを連結する回転節15にかかる負荷は、減少する方向の変化が支配的になる。アクチュエータ14は、ユーザからの負荷モーメントよりもわずかに大きい支援モーメントを生成し続け、第2リンクLを垂直に近づく方向に伸展させる。
【0185】
ここで、「伸展」とは、支援機構210が置かれる基準面に対して、第2リンクLが垂直方向へ立ち上がる姿勢変化をいう。「屈曲」とは、伸展と逆方向の姿勢変化、あるいは基準面に対して水平な方向への姿勢変化をいう。
【0186】
図46は、膝関節まわりに構造体(第2リンクL)を回転させる受動アクチュエータの原理を説明する図である。第1リンクLと、第2リンクL(より具体的には回転リンクL2-c)が模式的に描かれている。実際の支援機構210では、図44に示すように回転リンクL2-cに大腿サポートL2-dが連結されてユーザの大腿部の裏側へ延びているが、図46では大腿サポートL2-dは省略されている。
【0187】
回転リンクL2-cは、回転節15によって第1リンクLに連結されている。アクチュエータ14の固定端は、第1リンクL上、または支援機構210が配置されるベースの適切な箇所に固定される。アクチュエータ14の他端は、回転リンクL2-cに固定されている。回転リンクL2-cは、回転節15のまわりに回転して、姿勢が変化する。回転リンクL2-cの姿勢変化により、アクチュエータ14の他端の位置が変化する。この意味で、アクチュエータ14の他端を「可動端」と呼んでもよい。
【0188】
回転節15の回転中心と可動端の間の長さはLM、回転中心と固定端の長さはLF、アクチュエータの長さはLactである。アクチュエータの反力と、回転リンクL2-cの長手軸がなす角度がφである。
【0189】
アクチュエータ14は、ユーザの排泄動作の妨げにならない位置に設けられる。アクチュエータ14の固定端の位置は、固定端の配置可能領域A1の範囲内で適切に設計され、アクチュエータ14の可動端は、配置可能領域A2の範囲内で固定されている。配置可能領域A1およびA2におけるアクチュエータ14の固定端および可動端の位置、アクチュエータ14のばね定数などは、ユーザの姿勢変換に必要な支援モーメントが生成されるように決定される。たとえば、膝関節の角度ごとに、図45の動作遷移を可能にする目標の支援モーメントと、アクチュエータ14によって実際に生成される支援モーメントとの差分(たとえば目標値に対する誤差の二乗和)が最小となるように計算される。
【0190】
支援機構210により、6~7秒程度で、座位から立位への姿勢変換、または立位から座位への姿勢変換を完了することができる。また、臀部及び腰回りの拘束が最小となるように設計されているので、ユーザは立位でズボンを下ろして、そのまま便座に腰かけ、排泄終了後に立ち上がって、ズボンを上げることができる。車椅子等の座面から便座への位置移動が不要なので、排泄動作の負担が大幅に軽減される。
【0191】
図47は、第3実施形態の変形例の支援機構220の斜視図、図48は、支援機構220の側面図、図49は背面図である。図39~44に示した支援機構210と同様に、支援機構220は姿勢変換機能を有する。
【0192】
支援機構210では、臀部まわりの拘束を最小限にしつつ、ユーザの姿勢変換動作を支援するために、一対のウィング121及び122で形成される大腿サポートL2-dを用いた。変形例では、第2リンクLに懸架される大腿ベルト131で、姿勢変換するユーザの大腿部の後ろ側を支える。
【0193】
支援機構220は、第1リンクLと、第1リンクLに対して回転可能に連結される第2リンクLと、第2リンクLに懸架される大腿ベルト131と、第2リンクLに連結される第3リンクLと、第3リンクLに接続される胴ベルト26と、第2リンクLを第1リンクLに対して回転させるアクチュエータ14と、を有する。
【0194】
第1リンクLは、回転、揺動、開閉などの姿勢変化のない静止フレームである。第2リンクLは、回転節15によって第1リンクLに対して所定の角度範囲で回動可能である。所定の角度範囲は、第1実施形態と同様に、0度から80度までの範囲である。
【0195】
第2リンクLは、回転フレーム221と、回転フレーム221の両側に延びる懸架フレーム222及び223を有する。回転フレーム221と、懸架フレーム222及び223は別部材として形成される必要はなく、一体的に形成されていてもよい。
【0196】
図49の背面図に示されるように、大腿ベルト131は、懸架フレーム223の端部に設けられたピン224に懸架されていてもよい。ピン224に替えて、懸架フレーム223の端部で懸架フレーム223から延びる棒状の突起が一体的に形成されていてもよい。
【0197】
大腿ベルト131の他方の端部は、たとえば、懸架フレーム222の裏側の図示しないフック等に、取り外し可能に掛けられる。ユーザは、2本の大腿ベルト131に足を入れた状態で、第1リンクLにまたがる。大腿ベルト131を取り外し可能にすることで、ユーザは、第1リンクLにまたがって胴ベルト26を締めた後に、ピン224に懸架された大腿ベルト131を大腿の後ろ側から内側に回して、懸架フレーム222のフックに掛けることができる。あるいは、大腿ベルト131を大腿の後ろ側から内側に回してフックに掛けた後に、第1リンクLにまたがって胴ベルト26を締めてもよい。大腿ベルト131と胴ベルト26の装着の順序は任意である。
【0198】
胴ベルト26は、バックル等により取り外し可能に作製されている。胴ベルト26のバックルを背面側に配置することで、ユーザは支援機構220の後ろ側から装置に移動して、容易に胴ベルト26を装着することができる。
【0199】
ユーザは支援機構220の後ろ側から第1リンクLにまたがって、大腿ベルト131と胴ベルト26を含む機器を装着することができる。これは第2実施形態の大きな特徴であり、支援機構210と比べて、機器の装着と着脱がより容易になる。たとえば、下肢麻痺者の場合、支援機構210を用いる場合、支援機構210を座位状態にして、ベッドや椅子から両足を動かして、第2リンクLと第3リンクLを避けながら第1リンクLにまたがることになるが、変形例の構成ではこのような負担が大幅に軽減される。
【0200】
懸架フレーム223の端部側に設けられるピン224または突起を「第1懸架部」、懸架フレーム222に設けられるフックを「第2懸架部」とすると、第1懸架部と第2懸架部の少なくとも一方で、大腿ベルト131を取り外し可能にしてもよい。大腿ベルト131を取り外し可能、または交換可能とすることで、大腿ベルト131の幅、長さ、色合い、素材などを選択可能にしてもよい。大腿ベルト131の一端側だけを取り外し可能にする場合は、大腿ベルト131に長さ調整部を設けてもよい。
【0201】
大腿ベルト131が装着されると、大腿ベルト131はユーザの大腿部の後ろ側から、大腿部に沿って内側へと延び、2本の大腿ベルト131の間に十分な空間11が維持される。空間11により、ユーザの臀部まわりと腰まわりの拘束が最小化され、ズボンの上げ下ろしが容易になる。大腿部に巻きついた大腿ベルト131により、立位と着座の間の姿勢変換時に、ユーザの体重移動が支えられる。ユーザは、支援機構220を使用したまま便座に腰かけて、排泄することができる。
【0202】
第2リンクLの回転フレーム221は、回転節15によって第1リンクLに対して回転可能に連結されている。回転フレーム221にはアクチュエータ14の一端側が接続されており、アクチュエータ14から姿勢変換のための支援モーメントを受ける。アクチュエータ14の機能と動作は、第1実施形態と同じであり、重複する説明を省略する。
【0203】
ユーザが立位から座位に遷移するときは、懸架フレーム223は、支援機構220が置かれた基準面と水平になる方向に動く。このとき、大腿ベルト131は、ユーザの大腿部の後ろ側に巻きついて、ユーザの着座を確実に支持する。大腿ベルト131は、布、半合成繊維、合成繊維などで形成される。プラスチック成型された大腿サポートと比較して、フレキシブルで大腿部へのフィット感が良好である。
【0204】
臀部まわりの拘束なしに、姿勢変換中のユーザを安定して支えるために、第1実施形態と同様に、第3リンクLに胴ベルト26が接続されている。胴ベルト26は、ユーザの腰骨よりも高い位置、あるいは、臍よりも高い位置で、ユーザの胴体を固定する。
【0205】
第3リンクLと胴ベルト26により、ユーザは姿勢を崩さずに安定して姿勢変換することができる。胴ベルト26を腰骨よりも高い位置に設けることで、排泄時の着脱または下着の上げ下ろしが容易になる。ユーザは、上体が胴ベルト26でしっかりと支えられた状態で、ズボンを下げて便座に腰かけ、その後立ち上がってズボンを上げるという一連の行為を円滑に行うことができる。
【0206】
第3実施形態を通して、第1リンクL、第2リンクL、第3リンクLを含むフレーム構造体は、ユーザがズボンを上げ下ろしする動作と抵触せず、かつ臀部のまわりに十分な空間が確保される。大腿サポートL2-dまたは大腿ベルト131によって、ユーザの臀部まわりと腰回りの拘束を最小限にして、立位と座位の間の姿勢遷移を支持することができる。
【0207】
第3実施形態の支援機構は上述した特定の構成例に限定されない。大腿サポートまたは大腿ベルトは、ユーザの臀部と腰部を解放した状態で立位と座位の間の姿勢変換を支持することのできる任意の形態をとり得る。たとえば、大腿サポートまたは大腿ベルトのうち、ユーザの大腿部と接触するサポート面にシリコーン、エラストマーなどの弾性体の層を設けてもよい。
【0208】
アクチュエータ14をロック式にしてもよい。この場合、ロックを解除することで、膝関節に相当する回転節15を動作可能な状態にしてもよい。起立動作は、ユーザが上体を前方へ傾けることにより、着座動作は上体を後方へ傾けることにより誘起され得る。上体の姿勢を調整することで、姿勢遷移の動作を任意に停止または反転させることができる。所望の姿勢に遷移して膝関節の動作が停止した後に、アクチュエータ14をロックして膝関節を固定状態にしてもよい。ロック操作により、支援機構210または220を安全に使用することができる。
【0209】
本件出願は、2019年8月30日に出願された日本国特許出願第特願第2019-159109号、2019年8月30日に出願された日本国特許出願第2019-159110号、及び2019年9月30日に出願された日本国特許出願第2019-178827号に基づき、その優先権を主張するものであり、上記3つの日本国特許出願の全内容は本件出願中に含まれる。
【符号の説明】
【0210】
1、101、101A、201 移動装置
2 前輪
3 後輪
4、27 フットレスト
10、10A、110、110A、210、220 支援機構
13 ベース
14 アクチュエータ
141 弾性体
15 回転節
16 支持帯
17 回転節
26 胴ベルト
28 膝関節サポート部材
31、31~31 圧力センサ
40 支援モーメント調整機構
131 大腿ベルト
221 回転フレーム
222、223 懸架フレーム
224 ピン
A1 アクチュエータ14の固定端配置可能領域
A2 アクチュエータ14の可動端配置可能領域
CM1 ユーザの大腿重心
CM2 ユーザの上体重心
第1リンク
第2リンク
2-a リンク本体
2-b サポートリンク
2-c 回転リンク
2-d 大腿サポート
第3リンク
3-a 基部
3-b 端部
膝関節位置
股関節位置
PL1 膝関節回転中心を通るRPに平行な参照面
PL2 股関節回転中心を通りRPに平行な参照面
RP 基準面
RP1 膝関節と上体重心との相対的な位置関係
RP2 足首関節と膝関節との相対的な位置関係
θ 足首関節角度(ユーザの足首関節と膝関節を結ぶ線分と、基準面RPとが成す角度)
θ 膝関節角度(ユーザの膝関節と股関節を結ぶ線分と、基準面RPとが成す角度)
θ 股関節角度(ユーザの股関節と肩峰を結ぶ線分と、基準面RPとが成す角度)
τ 膝関節における支援モーメントと負荷モーメントの合モーメント
τ 支援モーメント
τAG 支援機構により生成される膝関節支援モーメント
τAZ 参考例の機構により生成される膝関節支援モーメント
τHBM ユーザ由来の負荷モーメント
τ2M ユーザの膝関節への支援モーメント
τ3M ユーザの腰関節への支援モーメント
図1
図2
図3
図4
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図30
図31
図32
図33A
図33B
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47
図48
図49