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特許7499533新規アドレノメデュリン類縁体、その製造方法及びその医薬用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】新規アドレノメデュリン類縁体、その製造方法及びその医薬用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20240607BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20240607BHJP
   C07K 1/02 20060101ALI20240607BHJP
   C07K 1/04 20060101ALI20240607BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20240607BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240607BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240607BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C07K14/00
C07K1/02
C07K1/04
A61P9/12
A61P3/10
A61K38/17
A61P25/28
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022511156
(86)(22)【出願日】2021-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2021014296
(87)【国際公開番号】W WO2021201271
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2020066608
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 和雄
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/043481(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/141819(WO,A1)
【文献】国際公開第2000/078339(WO,A1)
【文献】Endocrinology,1994年,Volume 135, Issue 6,Pages 2454-2458,https://academic.oup.com/endo/article/135/6/2454/3036288参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C07K 14/00-825
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記:
(a)配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、32又は33位のアミノ酸残基が置換又は欠失されているペプチド;
(b)(a)のペプチドにおいて、4位のシステイン残基と9位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(c)(b)のペプチドにおいて、前記ジスルフィド結合が、エチレン基によって置換されているペプチド
e)(a)~(c)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;並びに
(f)(a)~(c)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチド(但し、配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドは除く)である化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
【請求項2】
前記ペプチドが、下記:
(a)配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、32又は33位のアミノ酸残基が置換又は欠失されているペプチド;
(b)(a)のペプチドにおいて、4位のシステイン残基と9位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド
e)(a)又は(b)のペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;並びに
(f)(a)又は(b)のペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドである、請求項1に記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
【請求項3】
(a)のペプチドが、配列番号4~11のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1又は2に記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
【請求項4】
配列番号4~11のいずれかのアミノ酸配列からなり、C末端がアミド化されており、且つ4位のシステイン残基と9位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチドである、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
【請求項5】
固相系又は液相系のペプチド合成により、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物のアミノ酸配列を有するペプチド鎖を合成する、ペプチド鎖合成工程
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含有する医薬。
【請求項7】
心不全、急性心筋梗塞、不整脈、心房細動、肺高血圧症、末梢血管疾患、脳梗塞、認知症、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸管ベーチェット病、糖尿病、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、肺線維症、敗血症敗血症性ショック又はウイルス性感染症の予防又は治療に使用するための、請求項6に記載の医薬。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含有する、心不全、急性心筋梗塞、不整脈、心房細動、肺高血圧症、末梢血管疾患、脳梗塞、認知症、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸管ベーチェット病、糖尿病、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、肺線維症、敗血症、敗血症性ショック又はウイルス性感染症の予防又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規アドレノメデュリン類縁体、その製造方法及びその医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
アドレノメデュリン(adrenomedullin、以下、「AM」とも記載する)は、1993年に褐色細胞組織より単離及び同定された生理活性ペプチドである(非特許文献1)。発見当初、AMは、強力な血管拡張性の降圧作用を発揮することが判明した。例えば、特許文献1は、ヒトAMのアミノ酸配列を含む血圧降下作用を有するペプチドを記載する。
【0003】
その後の研究により、AMは、心血管保護作用、抗炎症作用、血管新生作用及び組織修復促進作用等の、多彩な薬理作用を発揮することが明らかになった。また、AMの薬理作用を、疾患治療に応用することを目指して、種々の疾患患者に対するAMの投与研究が行われてきた。なかでも、炎症性腸疾患、肺高血圧症、末梢血管疾患又は急性心筋梗塞の治療薬としてのAMの有用性が期待されている。
【0004】
例えば、特許文献2は、アドレノメデュリン若しくはその誘導体であって、非細菌性の炎症を抑制する活性を有するもの、又はそれらの塩であって非細菌性の炎症を抑制する活性を有するものを有効成分として含有する非細菌性の炎症性腸疾患の予防又は治療剤を記載する。
【0005】
特許文献3は、ステロイド製剤、免疫抑制剤又は生物学的製剤の使用が困難又は効果不十分な炎症性腸疾患の予防又は治療を必要とする患者における前記炎症性腸疾患の予防又は治療方法であって、有効量のアドレノメデュリン、その誘導体であって炎症を抑制する活性を有するもの、又は前記アドレノメデュリン若しくは前記誘導体の塩であって炎症を抑制する活性を有するものを前記患者に投与することを含む前記予防又は治療方法を記載する。
【0006】
AMは、ペプチドであるため、生体内(例えば血中)における代謝反応に起因して、生体内における半減期が短い。このため、AMを対象に投与する場合、持続静注のような持続的投与法を選択する必要がある。また、AMは、心血管保護作用、抗炎症作用、血管新生作用及び組織修復促進作用等の薬理作用に加えて、強力な血管拡張作用を有する。このため、AMを対象に投与する場合、強力な血管拡張作用に起因して過度の血圧低下のような望ましくない副作用を引き起こす可能性がある。これらの課題に鑑み、アドレノメデュリンの薬理作用を維持しつつ、望ましくない副作用を実質的に抑制し得る、長期間持続的なアドレノメデュリン誘導体が開発された(特許文献4~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第2774769号公報
【文献】特許第4830093号公報
【文献】特許第5954736号公報
【文献】国際公開第2015/141819号
【文献】国際公開第2017/047788号
【文献】国際公開第2018/181638号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Kitamura K, Kangawa K, Kawamoto M, Ichiki Y, Nakamura S, Matsuo H, Eto T. Adrenomedullin: a novel hypotensive peptide isolated from human pheochromocytoma. Biochem Biophys Res Commun, 1993年4月30日, 第192(2)巻, pp. 553-560
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記のように、生体内における持続性向上の観点からアドレノメデュリンの薬物動態を改善するために、種々のアドレノメデュリン誘導体が開発された。しかしながら、公知のアドレノメデュリン誘導体は、親化合物であるアドレノメデュリンと比較してアドレノメデュリン受容体に対する結合親和性が低下するという課題が存在した。アドレノメデュリン又はその誘導体の薬理作用は、これらの化合物がアドレノメデュリン受容体に結合することによって発現することから、アドレノメデュリンと比較して結合親和性が低いアドレノメデュリン誘導体は、薬理作用もアドレノメデュリンと比較して低下する可能性がある。
【0010】
それ故、本発明は、親化合物であるアドレノメデュリンの薬理作用を維持しつつ、対象へ投与する際に高い生物学的な安定性を示す新規アドレノメデュリン類縁体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、血中におけるアドレノメデュリンの分解産物の構造に基づき、天然型ヒトアドレノメデュリンの13~52位のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有するペプチドの一部のアミノ酸残基を置換又は欠失して得られる新規アドレノメデュリン類縁体を開発した。本発明者らは、この新規アドレノメデュリン類縁体は、親化合物であるアドレノメデュリンと実質的に同等の薬理作用を維持しつつ、アドレノメデュリンと比較して、例えば生物学的な安定性に関し顕著に優れた薬物動態を有することを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の態様及び実施形態を包含する。
(1) 下記:
(a)配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、1~3個のアミノ酸残基が置換又は欠失されているペプチド;
(b)(a)のペプチドにおいて、4位のシステイン残基と9位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(c)(b)のペプチドにおいて、前記ジスルフィド結合が、エチレン基によって置換されているペプチド;
(d)(a)~(c)のいずれかのペプチドにおいて、1~3個のアミノ酸残基が欠失又は付加されているペプチド;
(e)(a)~(d)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;並びに
(f)(a)~(d)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドである化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
(2) 前記ペプチドが、下記:
(a)配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、1~3個のアミノ酸残基が置換又は欠失されているペプチド;
(b)(a)のペプチドにおいて、4位のシステイン残基と9位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(d)(a)又は(b)のペプチドにおいて、1~3個のアミノ酸残基が欠失又は付加されているペプチド;
(e)(a)、(b)又は(d)のペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;並びに
(f)(a)、(b)又は(d)のペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドである、実施形態(1)に記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
(3) (a)のペプチドにおいて、1個のアミノ酸残基が置換又は欠失されている、実施形態(1)又は(2)に記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
(4) (a)のペプチドにおいて、32又は33位のアミノ酸残基が置換又は欠失されている、実施形態(3)に記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
(5) (a)のペプチドが、配列番号4~11のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドである、実施形態(1)~(4)のいずれかに記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
(6) 配列番号4~11のいずれかのアミノ酸配列からなり、C末端がアミド化されており、且つ4位のシステイン残基と9位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチドである、実施形態(1)~(5)のいずれかに記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
(7) 固相系又は液相系のペプチド合成により、実施形態(1)~(6)のいずれかに記載の化合物のアミノ酸配列を有するペプチド鎖を合成する、ペプチド鎖合成工程
を含む、実施形態(1)~(6)のいずれかに記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の製造方法。
(8) 実施形態(1)~(6)のいずれかに記載の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含有する医薬。
(9) 心不全、急性心筋梗塞、不整脈、心房細動、肺高血圧症、末梢血管疾患、脳梗塞、認知症、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸管ベーチェット病、糖尿病、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、肺線維症、敗血症、敗血症性ショック又はウイルス性感染症の予防又は治療に使用するための、実施形態(8)に記載の医薬。
(10) 実施形態(1)~(6)のいずれかに記載の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含有する、心不全、急性心筋梗塞、不整脈、心房細動、肺高血圧症、末梢血管疾患、脳梗塞、認知症、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸管ベーチェット病、糖尿病、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、肺線維症、敗血症、敗血症性ショック又はウイルス性感染症の予防又は治療剤。
(11) 実施形態(1)~(6)のいずれかに記載の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物と、1種以上の製薬上許容される担体とを含有する医薬組成物。
(12) 心不全、急性心筋梗塞、不整脈、心房細動、肺高血圧症、末梢血管疾患、脳梗塞、認知症、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸管ベーチェット病、糖尿病、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、肺線維症、敗血症、敗血症性ショック又はウイルス性感染症の予防又は治療に使用するための、実施形態(11)に記載の医薬組成物。
(13) 循環器疾患、脳・神経疾患、消化器疾患、内分泌代謝疾患、呼吸器系疾患及びその他の疾患からなる群より選択される一種以上の症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療を必要とする対象に、有効量の実施形態(1)~(6)のいずれかに記載の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を投与することを含む、前記症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療方法。
(14) 一種以上の症状、疾患及び/又は障害が、心不全、急性心筋梗塞、不整脈、心房細動、肺高血圧症、末梢血管疾患、脳梗塞、認知症、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸管ベーチェット病、糖尿病、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、肺線維症、敗血症、敗血症性ショック又はウイルス性感染症である、実施形態(13)に記載の方法。
(15) 一種以上の症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に使用するための、実施形態(1)~(6)のいずれかに記載の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物。
(16) 一種以上の症状、疾患及び/又は障害が、心不全、急性心筋梗塞、不整脈、心房細動、肺高血圧症、末梢血管疾患、脳梗塞、認知症、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸管ベーチェット病、糖尿病、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、肺線維症、敗血症、敗血症性ショック又はウイルス性感染症である、実施形態(15)に記載の使用のための化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物。
(17) 一種以上の症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療のための医薬の製造における、実施形態(1)~(6)のいずれかに記載の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物の使用。
(18) 一種以上の症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療のための、実施形態(1)~(6)のいずれかに記載の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物の使用。
(19) 一種以上の症状、疾患及び/又は障害が、心不全、急性心筋梗塞、不整脈、心房細動、肺高血圧症、末梢血管疾患、脳梗塞、認知症、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸管ベーチェット病、糖尿病、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、肺線維症、敗血症、敗血症性ショック又はウイルス性感染症である、実施形態(17)又は(18)に記載の使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、親化合物であるアドレノメデュリンの薬理作用を維持しつつ、対象へ投与する際に高い生物学的な安定性を示す新規アドレノメデュリン類縁体を提供することが可能となる。
【0014】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願第2020-066608号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実験Iにおいて、血清又は血漿の反応混合物の試料に含まれるAMの濃度の経時変化を示す。図中、横軸は、反応時間(分)であり、縦軸は、AMの濃度(μM)である。
図2図2は、実験IIにおいて、hAM(1-52)の分解産物の逆相高速液体クロマトグラフィー(逆相HPLC)による210 nmの波長のUVクロマトグラムを示す。図中、横軸は、逆相HPLCの保持時間(分)であり、縦軸は、210 nmの波長のUV吸収強度である。
図3図3は、実験IIにおいて、精製したペプチドのMALDI-TOFMSスペクトルを示す。図中、横軸は、質量電荷比(m/z)であり、縦軸は、イオン強度(a.u.)である。
図4図4は、実験IVにおいて、血清の反応混合物の試料に含まれるAM又はAM類縁体の濃度の経時変化を示す。図中、横軸は、反応時間(分)であり、縦軸は、AM又はAM類縁体の濃度(μM)である。
図5図5は、実験IVにおいて、AM又はAM類縁体の反応開始240分後の反応混合物における該AM又はAM類縁体の残存率を示す。図中、横軸は、AM又はAM類縁体の種類であり、縦軸は、AM又はAM類縁体の残存率(%)である。
図6図6は、実験Vにおいて、AM又はAM類縁体の添加濃度に対するHEK293細胞における細胞内cAMP産生量の用量反応曲線を示す。図中、Aは、hAM(1-52)(×)又はhAM(13-52)(○)を添加した実験の結果であり、Bは、hAM(13-52)(○)又は[D-Arg-44]hAM(13-52)(●)を添加した実験の結果であり、Cは、hAM(13-52)(○)又は[Ala-44]hAM(13-52)(●)を添加した実験の結果であり、Dは、hAM(13-52)(○)又は[Lys-44]hAM(13-52)(●)を添加した実験の結果である。また、図中、横軸は、AM又はAM類縁体の添加濃度の対数(M)であり、縦軸は、AM1受容体を安定発現しているHEK293細胞における細胞内cAMP産生量(fmol/ウェル)である。
図7図7は、実験VIにおいて、皮下投与後のラット血漿中のAM又はAM類縁体の量の経時変化を示す。図中、横軸は、皮下投与後の経過時間(時間)であり、縦軸は、AM又はAM類縁体の血漿中濃度(pM)である。
図8図8は、実験VIIIにおいて、血清の反応混合物の試料に含まれるAM又はAM類縁体の濃度の経時変化を示す。図中、横軸は、反応時間(時間)であり、縦軸は、反応開始時点(すなわち、反応開始0時間)のAM又はAM類縁体の濃度に対する相対値で示したAM又はAM類縁体の血清中濃度(%)である。
図9図9は、実験IXにおいて、10-9M又は10-8MのAM又はAM類縁体の添加に対するHEK293細胞における細胞内cAMP産生量を示す。図中、縦軸は、AM1受容体を安定発現しているHEK293細胞における細胞内cAMP産生量(fmol/ml)である。
図10図10は、実験IXにおいて、AM又はAM類縁体の添加濃度に対するHEK293細胞における細胞内cAMP産生量の用量反応曲線を示す。図中、Aは、hAM(1-52)を添加した実験の結果であり、Bは、[Gly-44]hAM(13-52)を添加した実験の結果であり、Cは、[des-Arg-44]hAM(13-52)を添加した実験の結果であり、Dは、[Phe-44]hAM(13-52)を添加した実験の結果である。また、図中、横軸は、AM又はAM類縁体の添加濃度の対数(M)であり、縦軸は、AM1受容体を安定発現しているHEK293細胞における細胞内cAMP産生量(fmol/ml)である。
図11図11は、実験Xにおいて、皮下投与後のラット血漿中のAM又はAM類縁体の量の経時変化を示す。図中、横軸は、皮下投与後の経過時間(時間)であり、縦軸は、AM又はAM類縁体の血漿中濃度(pM)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<1. アドレノメデュリン類縁体>
アドレノメデュリン(AM)は、1993年にヒト褐色細胞組織より単離及び同定された生理活性ペプチドである(配列番号1、非特許文献1)。配列番号1のアミノ酸配列からなり、C末端がアミド化されており、且つ該アミノ酸配列中の16位及び21位の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しているペプチドは、成熟した天然型ヒトアドレノメデュリンに相当する(以下、「hAM(1-52)」とも記載する)。配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドは、C末端アミド化及びシステイン残基のジスルフィド化の翻訳後修飾を受ける前の(すなわち未成熟な)形態の天然型ヒトアドレノメデュリンに相当する。
hAM(1-52) Y-R-Q-S-M-N-N-F-Q-G-L-R-S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-R-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号1)
【0017】
発見当初、AMは、強力な血管拡張性の降圧作用を発揮することが判明した。その後の研究により、AMは、心血管保護作用、抗炎症作用、血管新生作用及び組織修復促進作用等の、多彩な薬理作用を発揮することが明らかになった。また、AMの薬理作用を、疾患治療に応用することを目指して、種々の疾患患者に対するAMの投与研究が行われてきた。
【0018】
AMは、ペプチドであるため、生体内(例えば血中)における代謝反応に起因して、生体内における半減期が短い。また、AMは、心血管保護作用、抗炎症作用、血管新生作用及び組織修復促進作用等の薬理作用に加えて、強力な血管拡張作用を有する。このため、AMを対象に投与する場合、強力な血管拡張作用に起因して過度の血圧低下のような望ましくない副作用を引き起こす可能性がある。これらの課題に鑑み、種々の長期間持続的なAM誘導体が開発された(特許文献4~6)。しかしながら、公知のAM誘導体は、親化合物であるAMと比較してアドレノメデュリン受容体に対する結合親和性が低下するという課題が存在した。AM又はその誘導体の薬理作用は、これらの化合物がアドレノメデュリン受容体に結合することによって発現することから、AMと比較して結合親和性が低いAM誘導体は、薬理作用もAMと比較して低下する可能性がある。
【0019】
本発明者らは、血中におけるAMの分解産物を分析した結果、天然型ヒトAM(hAM(1-52))の13~44位のアミノ酸残基からなるペプチド(hAM(13-44)、配列番号2)が分解産物として生成することを見出した。本発明者らは、前記結果に基づき、天然型ヒトAMの13~52位のアミノ酸残基からなり、C末端がアミド化されており、且つ該アミノ酸配列中の16位及び21位の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しているペプチド(hAM(13-52)、配列番号3)の一部のアミノ酸残基を置換又は欠失して得られる新規AM類縁体を開発した。本発明者らは、この新規AM類縁体は、親化合物であるAMと実質的に同等の薬理作用を維持しつつ、AMと比較して、例えば生物学的な安定性に関し顕著に優れた薬物動態を有することを見出した。
hAM(13-44) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-R-COOH(配列番号2)
hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-R-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号3)
【0020】
それ故、本発明の一態様は、下記:
(a)配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、1~3個のアミノ酸残基が置換又は欠失されているペプチド;
(b)(a)のペプチドにおいて、4位のシステイン残基と9位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(c)(b)のペプチドにおいて、前記ジスルフィド結合が、エチレン基によって置換されているペプチド;
(d)(a)~(c)のいずれかのペプチドにおいて、1~3個のアミノ酸残基が欠失又は付加されているペプチド;
(e)(a)~(d)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;並びに
(f)(a)~(d)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドである化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物に関する。本明細書において、前記化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を、「アドレノメデュリン類縁体」又は「AM類縁体」と記載する場合がある。
【0021】
成熟したヒトAM(hAM(1-52))において、16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成した環状構造、及びC末端アミド構造は、いずれもアドレノメデュリン活性に必須であるのに対し、hAM(1-52)の1~12位のアミノ酸残基からなるペプチド構造は、アドレノメデュリン活性に必須ではない(Eguchi Sら, Endocrinology. 1994年12月, 第135(6)巻, p. 2454-8)。本態様の化合物において、(a)に包含されるペプチドは、環状構造を形成する16位及び21位のシステイン残基、並びにC末端アミド構造を形成する52位のチロシン残基を有し、且つ天然型ヒトAMと異なるアミノ酸配列を有する。また、(e)に包含されるペプチドは、アドレノメデュリン活性に必須の環状構造及びC末端アミド構造を有する。それ故、前記特徴を有することにより、本態様の化合物は、親化合物であるAMと実質的に同等の薬理作用を維持することができる。
【0022】
本態様の化合物において、前記ペプチドは、下記:
(a)配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、1~3個のアミノ酸残基が置換又は欠失されているペプチド;
(b)(a)のペプチドにおいて、4位のシステイン残基と9位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(d)(a)又は(b)のペプチドにおいて、1~3個のアミノ酸残基が欠失又は付加されているペプチド;
(e)(a)、(b)又は(d)のペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;並びに
(f)(a)、(b)又は(d)のペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドであることが好ましい。
【0023】
本態様の化合物において、前記ペプチドは、下記:
(a)配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、1~3個のアミノ酸残基が置換又は欠失されているペプチド;
(b)(a)のペプチドにおいて、4位のシステイン残基と9位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(d)(a)又は(b)のペプチドにおいて、1~3個のアミノ酸残基が欠失又は付加されているペプチド;並びに
(e)(a)、(b)又は(d)のペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドであることがより好ましい。
【0024】
本態様の化合物において、前記ペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、1~3個のアミノ酸残基が置換又は欠失されており;4位のシステイン残基と9位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しており;1~3個のアミノ酸残基が欠失又は付加されており;C末端がアミド化されているペプチドであることがさらに好ましい。
【0025】
(a)のペプチドにおいて、通常は1~3個のアミノ酸残基が置換又は欠失されており、1又は2個のアミノ酸残基が置換又は欠失されていることが好ましく、1個のアミノ酸残基が置換又は欠失されていることがより好ましい。但し、前記置換又は欠失されているアミノ酸残基は、4及び9位のシステイン残基ではない。本実施形態において、1~3及び10~40位のアミノ酸残基のうち前記個数のアミノ酸残基が置換又は欠失されていることが好ましく、29~35位のアミノ酸残基のうち前記個数のアミノ酸残基が置換又は欠失されていることがより好ましく、32又は33位のアミノ酸残基が置換されていることがさらに好ましい。プロテアーゼであるトロンビンは、アルギニンを含む数アミノ酸残基の配列を特異的に認識して該配列を選択的に切断することが知られている(Gallwitz M, Enoksson M, Thorpe M, Hellman L, The Extended Cleavage Specificity of Human Thrombin. PLoS ONE, 2012年, 第7(2)巻, e31756. doi:10.1371/journal.pone.0031756)。本実施形態の化合物は、前記個数及び位置のアミノ酸残基が置換又は欠失された場合であっても、アドレノメデュリン活性に必須の環状構造及びC末端アミド構造を有することができる。それ故、前記特徴を有することにより、本実施形態の化合物は、親化合物であるAMと実質的に同等の薬理作用を維持しつつ、AMと比較して、例えば生物学的な安定性に関し顕著に優れた薬物動態を有することができる。
【0026】
好ましくは、(a)のペプチドは、配列番号4~11のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドである。本実施形態において、配列番号4のアミノ酸配列(すなわち、配列番号3のアミノ酸配列の32位(hAM(1-52)の44位に相当する)のアルギニン残基がD-アルギニン(D-Arg)で置換されたアミノ酸配列)からなり、C末端がアミド化されており、且つ4位(hAM(1-52)の16位に相当する)のシステイン残基と9位(hAM(1-52)の21位に相当する)のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチドを、[D-Arg-44]hAM(13-52)と記載する。配列番号5のアミノ酸配列(すなわち、配列番号3のアミノ酸配列の32位(hAM(1-52)の44位に相当する)のアルギニン残基がL-リジン(Lys)で置換されたアミノ酸配列)からなり、C末端がアミド化されており、且つ4位(hAM(1-52)の16位に相当する)のシステイン残基と9位(hAM(1-52)の21位に相当する)のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチドを、[Lys-44]hAM(13-52)と記載する。配列番号6のアミノ酸配列(すなわち、配列番号3のアミノ酸配列の32位(hAM(1-52)の44位に相当する)のアルギニン残基がL-アラニン(Ala)で置換されたアミノ酸配列)からなり、C末端がアミド化されており、且つ4位(hAM(1-52)の16位に相当する)のシステイン残基と9位(hAM(1-52)の21位に相当する)のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチドを、[Ala-44]hAM(13-52)と記載する。配列番号7のアミノ酸配列(すなわち、配列番号3のアミノ酸配列の32位(hAM(1-52)の44位に相当する)のアルギニン残基がグリシン(Gly)で置換されたアミノ酸配列)からなり、C末端がアミド化されており、且つ4位(hAM(1-52)の16位に相当する)のシステイン残基と9位(hAM(1-52)の21位に相当する)のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチドを、[Gly-44]hAM(13-52)と記載する。配列番号8のアミノ酸配列(すなわち、配列番号3のアミノ酸配列の32位(hAM(1-52)の44位に相当する)のアルギニン残基を欠失したアミノ酸配列)からなり、C末端がアミド化されており、且つ4位(hAM(1-52)の16位に相当する)のシステイン残基と9位(hAM(1-52)の21位に相当する)のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチドを、[des-Arg-44]hAM(13-52)と記載する。配列番号9のアミノ酸配列(すなわち、配列番号3のアミノ酸配列の32位(hAM(1-52)の44位に相当する)のアルギニン残基がL-アスパラギン酸(Asp)で置換されたアミノ酸配列)からなり、C末端がアミド化されており、且つ4位(hAM(1-52)の16位に相当する)のシステイン残基と9位(hAM(1-52)の21位に相当する)のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチドを、[Asp-44]hAM(13-52)と記載する。配列番号10のアミノ酸配列(すなわち、配列番号3のアミノ酸配列の32位(hAM(1-52)の44位に相当する)のアルギニン残基がL-フェニルアラニン(Phe)で置換されたアミノ酸配列)からなり、C末端がアミド化されており、且つ4位(hAM(1-52)の16位に相当する)のシステイン残基と9位(hAM(1-52)の21位に相当する)のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチドを、[Phe-44]hAM(13-52)と記載する。配列番号11のアミノ酸配列(すなわち、配列番号3のアミノ酸配列の33位(hAM(1-52)の45位に相当する)のセリン残基がL-プロリン(Pro)で置換されたアミノ酸配列)からなり、C末端がアミド化されており、且つ4位(hAM(1-52)の16位に相当する)のシステイン残基と9位(hAM(1-52)の21位に相当する)のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチドを、[Pro-45]hAM(13-52)と記載する。本実施形態の化合物は、アドレノメデュリン活性に必須の環状構造及びC末端アミド構造を有し、且つ天然型ヒトAMと異なるアミノ酸配列を有する。それ故、前記特徴を有することにより、本実施形態の化合物は、親化合物であるAMと実質的に同等の薬理作用を維持しつつ、AMと比較して、例えば生物学的な安定性に関し顕著に優れた薬物動態を有することができる。
[D-Arg-44]hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-*R-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号4、「*R」はD-アルギニンを示す)
[Lys-44]hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-K-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号5)
[Ala-44]hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-A-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号6)
[Gly-44]hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-G-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号7)
[des-Arg-44]hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号8)
[Asp-44]hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-D-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号9)
[Phe-44]hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-F-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号10)
[Pro-45]hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-R-P-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号11)
【0027】
本態様の化合物において、前記ペプチドは、配列番号4~11のいずれかのアミノ酸配列からなり、C末端がアミド化されており、且つ4位のシステイン残基と9位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチドであることが特に好ましい。前記特徴を有することにより、本態様の化合物は、親化合物であるAMと実質的に同等の薬理作用を維持しつつ、AMと比較して、例えば生物学的な安定性に関し顕著に優れた薬物動態を有することができる。
【0028】
本明細書において、「C末端のアミド化」は、生体内におけるペプチドの翻訳後修飾の一態様を意味し、具体的には、ペプチドのC末端アミノ酸残基の主鎖カルボキシル基がアミド基の形態へ変換される反応を意味する。また、本明細書において、「システイン残基のジスルフィド結合の形成」又は「システイン残基のジスルフィド化」は、生体内におけるペプチドの翻訳後修飾の一態様を意味し、具体的には、ペプチドのアミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合(-S-S-)を形成する反応を意味する。生体内で産生される多くの生理活性ペプチドは、はじめ分子量のより大きな前駆体タンパク質として生合成され、これが細胞内移行の過程で、C末端アミド化及び/又はシステイン残基のジスルフィド化のような翻訳後修飾反応を受けて、成熟した生理活性ペプチドとなる。C末端のアミド化は、通常は、前駆体タンパク質に対し、C末端アミド化酵素が作用することによって進行する。C末端アミド基を有する生理活性ペプチドの場合、その前駆体タンパク質においては、アミド化されるC末端カルボキシル基にGly残基が結合しており、該Gly残基がC末端アミド化酵素によってC末端アミド基に変換される。また、前駆体タンパク質のC末端側プロペプチドには、例えばLys-Arg又はArg-Arg等の塩基性アミノ酸残基の組合せの繰返し配列が存在する(水野、生化学第61巻、第12号、1435~1461頁(1989))。システイン残基のジスルフィド化は、酸化的条件下で進行し得る。生体内においては、システイン残基のジスルフィド化は、通常は、前駆体タンパク質に対し、タンパク質ジスルフィド異性化酵素が作用することによって進行する。
【0029】
(b)のペプチドは、(a)のペプチドの2個のシステイン残基のチオール基を空気酸化するか、又は適切な酸化剤を用いて酸化してジスルフィド結合に変換することにより、形成させることができる。(b)のペプチドを用いることにより、本態様の化合物の立体構造を、天然型AMの立体構造に類似させることができる。これにより、本態様の化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型AMと実質的に略同等のものとすることができる。
【0030】
(c)のペプチドは、(b)のペプチドのジスルフィド結合をエチレン基に変換することにより、形成させることができる。ジスルフィド結合からエチレン基への置換は、当該技術分野で周知の方法により、行うことができる(O. Kellerら, Helv. Chim. Acta, 1974年, 第57巻, p. 1253)。(c)のペプチドを用いることにより、本態様の化合物の立体構造を安定化させることができる。これにより、本態様の化合物は、親化合物であるAMと実質的に同等の薬理作用を維持しつつ、AMと比較して、例えば生物学的な安定性に関し顕著に優れた薬物動態を有することができる。
【0031】
(d)のペプチドにおいて、欠失又は付加されているアミノ酸残基は、1~3個の範囲であることが好ましく、1又は2個であることがより好ましく、1個であることがさらに好ましい。但し、前記欠失されているアミノ酸残基は、4及び9位のシステイン残基ではない。また、前記欠失されているアミノ酸残基は、(a)のペプチドにおいて置換されているアミノ酸残基ではないことが好ましい。本実施形態において、好適な(d)のペプチドは、(a)~(c)のいずれかのペプチドにおいて、1~3及び10~40位のアミノ酸残基のうち前記個数のアミノ酸残基が欠失又は付加(好ましくは付加)されているペプチドであり、より好適な(d)のペプチドは、(a)~(c)のいずれかのペプチドにおいて、1~3及び29~35位のアミノ酸残基のうち前記個数のアミノ酸残基が欠失又は付加(好ましくは付加)されているペプチドである。前記好適なペプチドにおいて、1又は複数個(例えば1~3個、又は1若しくは2個)のアミノ酸残基がさらに欠失又は付加されていてもよい。(d)のペプチドを用いることにより、本実施形態の化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型AMと実質的に略同等のものとすることができる。また、(d)のペプチドを用いることにより、本実施形態の化合物は、親化合物であるAMと実質的に同等の薬理作用を維持しつつ、AMと比較して、例えば生物学的な安定性に関し顕著に優れた薬物動態を有することができる。
【0032】
(f)のペプチドは、C末端アミド化酵素の作用によってC末端のグリシン残基がC末端アミド基に変換されて、(e)のペプチドに変換されることができる。それ故、(f)のペプチドを対象に投与することにより、該対象の生体内において、一定時間経過後に、C末端アミド化された(e)のペプチドを形成させることができる。これにより、本態様の化合物は、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発現することができる。
【0033】
前記で例示した(a)~(f)のペプチドは、通常は、アドレノメデュリン活性を有する。(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、前記特徴を有し、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチドである本実施形態の化合物は、親化合物であるAMと実質的に同等の薬理作用を維持しつつ、AMと比較して、例えば生物学的な安定性に関し顕著に優れた薬物動態を有することができる。
【0034】
本発明の各態様において、「アドレノメデュリン活性」は、例えば、下記で例示する種々の生理作用を意味する。
【0035】
(1)心血管系:血管拡張作用、血圧降下作用、血圧上昇抑制作用、心拍出量増加・心不全改善作用、肺高血圧症改善作用、血管新生作用、リンパ管新生作用、血管内皮機能改善作用、血管透過性制御、内皮細胞間接着制御、血管内皮バリア保護作用、抗動脈硬化作用、心筋保護作用(例えば、虚血再灌流障害又は炎症における心筋保護作用)、心筋梗塞後のリモデリング抑制作用、心肥大抑制作用、及びアンジオテンシン変換酵素抑制作用。
(2)腎臓・水電解質系:利尿作用、ナトリウム利尿作用、抗利尿ホルモン抑制作用、アルドステロン低下作用、腎保護作用(例えば、高血圧又は虚血再灌流障害における心筋保護作用)、糖尿病性腎症抑制作用、C3腎症抑制作用、飲水行動抑制作用、及び食塩要求抑制作用。
(3)脳・神経系:神経保護・脳障害抑制作用、抗炎症作用、アポトーシス抑制作用(例えば、虚血再灌流障害又は炎症におけるアポトーシス抑制作用)、自動調節能維持作用、酸化ストレス抑制作用、認知症改善作用、及び交感神経抑制作用。
(4)泌尿生殖器:勃起改善作用、血流改善作用、及び着床促進作用。
(5)消化器系:抗潰瘍作用、組織修復作用、粘膜新生作用、腸管バリア保護作用、血流改善作用、抗炎症作用、及び肝機能改善作用。
(6)整形外科系:骨芽細胞刺激作用、及び関節炎改善作用。
(7)内分泌代謝系:脂肪細胞分化作用、脂肪分解制御作用、インスリン感受性改善作用、インスリン分泌制御作用、抗利尿ホルモン分泌抑制作用、及びアルドステロン分泌抑制作用。
(8)呼吸器系:気管支拡張作用、肺保護作用、肺気腫改善作用、肺線維化抑制、肺炎抑制、気管支炎抑制作用、及び呼吸改善作用。
(9)免疫系:C3bの分解促進作用。
(10)その他:抗ウイルス作用、循環改善作用、抗炎症作用、サイトカイン制御作用、臓器保護作用、酸化ストレス抑制作用、組織修復作用(例えば、抗褥瘡作用)、敗血症の改善作用、敗血症性ショックの改善作用、多臓器不全の抑制作用、自己免疫疾患の抑制作用、糖尿病性網膜症抑制作用、抗菌作用、育毛作用、及び養毛作用。
【0036】
前記血圧降下作用は、血管拡張性の降圧作用であることが好ましい。前記消化器系における抗炎症作用は、ステロイド抵抗性又はステロイド依存性の炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病又は腸管ベーチェット病)のような炎症性腸疾患の予防又は治療作用であることが好ましい。
【0037】
AMによって発現する前記で例示したアドレノメデュリン活性は、通常は、細胞内cAMPの濃度上昇を介して発現する。このため、細胞内cAMPの濃度上昇を、本態様の化合物のアドレノメデュリン活性の指標とすることができる。本発明の各態様において、細胞内cAMPの濃度上昇作用は、例えば、AMタイプ1受容体(AM1受容体)を安定発現させた培養細胞株(HEK293細胞株)に対象化合物を添加して、細胞内cAMPの産生量を測定することにより、評価することができる。本態様の化合物は、天然型AMと実質的に略同等の細胞内cAMPの濃度上昇作用を有する。それ故、本態様の化合物は、細胞内cAMPの濃度上昇を介して、天然型AMと実質的に略同等の生物活性(すなわち、アドレノメデュリン活性)を発現することができる。
【0038】
本発明の各態様において、本態様の化合物は、該化合物自体だけでなく、その塩も包含する。本態様の化合物が塩の形態である場合、製薬上許容される塩であることが好ましい。本態様の化合物の塩の対イオンとしては、限定するものではないが、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、若しくは置換若しくは非置換のアンモニウムイオンのようなカチオン、又は塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、過塩素酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、乳酸イオン、マレイン酸イオン、ヒドロキシマレイン酸イオン、メチルマレイン酸イオン、フマル酸イオン、アジピン酸イオン、安息香酸イオン、2-アセトキシ安息香酸イオン、p-アミノ安息香酸イオン、ニコチン酸イオン、ケイ皮酸イオン、アスコルビン酸イオン、パモ酸イオン、コハク酸イオン、サリチル酸イオン、ビスメチレンサリチル酸イオン、シュウ酸イオン、酒石酸イオン、リンゴ酸イオン、クエン酸イオン、グルコン酸イオン、アスパラギン酸イオン、ステアリン酸イオン、パルミチン酸イオン、イタコン酸イオン、グリコール酸イオン、グルタミン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、シクロヘキシルスルファミン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、イセチオン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、若しくはナフタレンスルホン酸イオンのようなアニオンが好ましい。本態様の化合物が前記の対イオンとの塩の形態である場合、該化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型AMと実質的に略同等のものとすることができる。
【0039】
本発明の各態様において、本態様の化合物は、前記化合物自体だけでなく、該化合物又はその塩の溶媒和物も包含する。本態様の化合物又はその塩が溶媒和物の形態である場合、製薬上許容される溶媒和物であることが好ましい。前記化合物又はその塩と溶媒和物を形成し得る溶媒としては、限定するものではないが、例えば、水、或いはメタノール、エタノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、酢酸、エタノールアミン、アセトニトリル又は酢酸エチルのような有機溶媒が好ましい。本態様の化合物又はその塩が前記の溶媒との溶媒和物の形態である場合、該化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型AMと実質的に略同等のものとすることができる。
【0040】
本発明の各態様において、本態様の化合物は、前記化合物自体だけでなく、その誘導体も包含する。本態様の化合物が誘導体の形態である場合、本態様の化合物の誘導体としては、限定するものではないが、例えば、国際公開第2015/141819号、国際公開第2017/047788号及び国際公開第2018/181638号等に開示される修飾基及び/又は連結基を有する化合物を挙げることができる。当業者であれば、前記文献に基づき、本態様の化合物を誘導体化することにより、該化合物を準備することができる。前記文献に開示されるAM誘導体は、望ましくない副反応を実質的に生じることなく、アドレノメデュリンの薬理効果を発現することができる。それ故、本態様の化合物が前記の誘導体の形態である場合、望ましくない副反応の発生を実質的に回避しつつ、AMと比較して、例えば生物学的な安定性に関し顕著に優れた薬物動態を有することができる。
【0041】
本発明の各態様において、本態様の化合物は、前記又は下記の化合物自体だけでなく、その保護形態も包含する。本明細書において、「保護形態」は、1個又は複数個の官能基(例えばリジン残基の側鎖アミノ基)に保護基が導入された形態を意味する。また、本明細書において、「保護基」は、望ましくない反応の進行を防止するために、特定の官能基に導入される基であって、特定の反応条件において定量的に除去され、且つそれ以外の反応条件においては実質的に安定、即ち反応不活性である基を意味する。前記化合物の保護形態を形成し得る保護基としては、限定するものではないが、例えば、t-ブトキシカルボニル(Boc)、2-ブロモベンジルオキシカルボニル(BrZ)、9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)、p-トルエンスルホニル(Tos)、ベンジル(Bzl)、4-メチルベンジル(4-MeBzl)、2-クロロベンジルオキシカルボニル(ClZ)、シクロヘキシル(cHex)、及びフェナシル(Pac);アミノ基の他の保護基として、ベンジルオキシカルボニル、p-クロロベンジルオキシカルボニル、p-ブロモベンジルオキシカルボニル、p-ニトロベンジルオキシカルボニル、p-メトキシベンジルオキシカルボニル、ベンズヒドリルオキシカルボニル、2-(p-ビフェニル)イソプロピルオキシカルボニル、2-(3,5-ジメトキシフェニル)イソプロピルオキシカルボニル、p-フェニルアゾベンジルオキシカルボニル、トリフェニルホスホノエチルオキシカルボニル、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル、t-アミルオキシオキシカルボニル、ジイソプロピルメチルオキシカルボニル、イソプロピルオキシカルボニル、エチルオキシカルボニル、アリルオキシカルボニル、2-メチルスルホニルエチルオキシカルボニル、2,2,2-トリクロロエチルオキシカルボニル、シクロペンチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、ベンゼンスルホニル、メシチレンスルフォニル、メトキシトリメチルフェニルスルホニル、2-ニトロベンゼンスルホニル、2-ニトロベンゼンスルフェニル、4-ニトロベンゼンスルホニル、及び4-ニトロベンゼンスルフェニル;カルボキシル基の他の保護基として、メチルエステル、エチルエステル、t-ブチルエステル、p-メトキシベンジルエステル、及びp-ニトロベンジルエステル;Argの他の側鎖保護基として、2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル、4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル、2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホニル、及び2-メトキシベンゼンスルホニル;Tyrの他の保護基として、2,6-ジクロロベンジル、t-ブチル、及びシクロヘキシル;Cysの他の保護基として、4-メトキシベンジル、t-ブチル、トリチル、アセトアミドメチル、及び3-ニトロ-2-ピリジンスルフェニル;Hisの他の保護基として、ベンジルオキシメチル、p-メトキシベンジルオキシメチル、t-ブトキシメチル、トリチル、及び2,4-ジニトロフェニル;並びに、Ser及びThrの他の保護基として、t-ブチル等を挙げることができる。本態様の化合物が前記の保護基による保護形態である場合、該化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型AMと実質的に略同等のものとすることができる場合がある。
【0042】
また、本発明の各態様において、本態様の化合物は、該化合物の個々のエナンチオマー及びジアステレオマー、並びにラセミ体のような、該化合物の立体異性体の混合物も包含する。
【0043】
前記特徴を有することにより、本態様の化合物は、親化合物であるAMと実質的に同等の薬理作用を維持しつつ、AMと比較して、例えば生物学的な安定性に関し顕著に優れた薬物動態を有することができる。
【0044】
<2. アドレノメデュリン類縁体の医薬用途>
本発明の一態様の化合物は、親化合物であるAMと実質的に同等の薬理作用を維持しつつ、AMと比較して顕著に優れた薬物動態を有することができる。それ故、本発明の別の一態様は、本発明の一態様の化合物を有効成分として含有する医薬に関する。
【0045】
本発明の一態様の化合物を医薬用途に適用する場合、該化合物を単独で使用してもよく、1種以上の製薬上許容される成分と組み合わせて使用してもよい。本態様の医薬は、所望の投与方法に応じて、当該技術分野で通常使用される様々な剤形に製剤されることができる。それ故、本態様の医薬はまた、本発明の一態様の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物と、1種以上の製薬上許容される担体とを含有する医薬組成物の形態で提供されることもできる。本実施形態の場合、医薬組成物は、前記成分に加えて、製薬上許容される1種以上の媒体(例えば、滅菌水のような溶媒又は生理食塩水のような溶液)、賦形剤、結合剤、ビヒクル、溶解補助剤、防腐剤、安定剤、崩壊剤、崩壊抑制剤、膨化剤、潤滑剤、界面活性剤、乳化剤、油性液(例えば、植物油)、懸濁剤、緩衝剤、無痛化剤、酸化防止剤、甘味剤及び香味剤等の添加剤を含んでもよい。
【0046】
本態様の医薬の剤形は、特に限定されず、非経口投与に使用するための製剤であってもよく、経粘膜(例えば、経鼻、舌下又は経口腔粘膜等)、経皮、経肛門(注腸)、又は経膣等の投与に使用するための製剤であってもよく、或いは経口投与に使用するための製剤であってもよい。また、本態様の医薬の剤形は、単位用量形態の製剤であってもよく、複数投与形態の製剤であってもよい。非経口投与に使用するための製剤としては、例えば、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る液体との無菌性溶液又は懸濁液等の注射剤を挙げることができる。注射剤に混和することができる添加剤としては、限定するものではないが、例えば、生理食塩水、ブドウ糖若しくはその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール若しくは塩化ナトリウム)を含む等張液のようなビヒクル、アルコール(例えばエタノール若しくはベンジルアルコール)、エステル(例えば安息香酸ベンジル)、ポリアルコール(例えばプロピレングリコール若しくはポリエチレングリコール)のような溶解補助剤、ポリソルベート80又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のような非イオン性界面活性剤、ゴマ油又は大豆油のような油性液、リン酸塩緩衝液又は酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝剤、塩化ベンザルコニウム又は塩酸プロカインのような無痛化剤、ヒト血清アルブミン又はポリエチレングリコールのような安定剤、保存剤、並びに酸化防止剤等を挙げることができる。調製された注射剤は、通常、適当な容器(例えば、バイアル又はアンプル)に充填され、使用時まで適切な環境下で保存される。
【0047】
経粘膜投与に使用するための製剤に含まれる添加剤としては、例えば、媒体、乳化剤、懸濁剤、抗菌剤(例えば、クロロブタノール)、等張剤(例えば、塩化ナトリウム)、pH調整剤及び浸透剤を挙げることができる。経皮投与に使用するための製剤に含まれる添加剤としては、例えば、媒体、抗掻痒剤、消泡剤、緩和剤、界面活性剤、乳化剤、増粘剤、懸濁剤、緩衝剤、粘度上昇剤、保湿剤、抗酸化剤、化学安定剤、着色剤及び脱色剤を挙げることができる。経肛門投与に使用するための製剤に含まれる添加剤としては、例えば、媒体、乳化剤及び固形脂肪基剤を挙げることができる。経膣投与に使用するための製剤に含まれる添加剤としては、例えば、媒体、緩衝剤、油性液、懸濁剤、湿潤剤、界面活性剤、抗酸化剤、抗菌剤及び等張剤を挙げることができる。
【0048】
経口投与に使用するための製剤としては、例えば、錠剤、丸薬、散剤、カプセル剤、軟カプセル剤、マイクロカプセル剤、エリキシル剤、液剤、シロップ剤、スラリー剤及び懸濁液等を挙げることができる。錠剤は、所望により、糖衣又は溶解性被膜を施した糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、口腔内崩壊錠(OD錠)又はフィルムコーティング錠の剤形として製剤してもよく、或いは二重錠又は多層錠の剤形として製剤してもよい。
【0049】
錠剤又はカプセル剤等に混和することができる添加剤としては、限定するものではないが、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、グルコース液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム及びアラビアゴムのような結合剤;結晶性セルロース、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、グルコース、尿素、澱粉、炭酸カルシウム、カオリン又はケイ酸のような賦形剤;乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、寒天末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉、乳糖又はポリビニルピロリドンのような崩壊剤;白糖、ステアリンカカオバター又は水素添加油のような崩壊抑制剤;コーンスターチ、ゼラチン又はアルギン酸のような膨化剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;第四級アンモニウム塩又はラウリル硫酸ナトリウムのような吸収促進剤;グリセリン又はデンプンのような保湿剤;澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト又はコロイド状ケイ酸のような吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩(例えばステアリン酸マグネシウム)、ホウ酸末又はポリエチレングリコールのような潤滑剤;ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤;及びペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤等を挙げることができる。製剤がカプセル剤の場合、さらに油脂のような液状担体を含有してもよい。
【0050】
本態様の医薬は、デポー製剤として製剤化することもできる。この場合、デポー製剤の剤形の本態様の医薬を、例えば皮下若しくは筋肉に埋め込み、又は筋肉注射により投与することができる。本態様の医薬をデポー製剤に適用することにより、本発明の一態様の化合物のアドレノメデュリン活性を、長期間に亘って持続的に発現することができる。
【0051】
すでに説明したように、本発明の一態様の化合物は、親化合物であるAMと実質的に同等の薬理作用を維持しつつ、AMと比較して、例えば生物学的な安定性に関し顕著に優れた薬物動態を有する。それ故、本態様の医薬は、単回投与形態の製剤として製剤化されることが好ましく、単回皮下投与形態の製剤として製剤化されることがより好ましい。
【0052】
本態様の医薬は、医薬として有用な1種以上の他の薬剤と併用することもできる。この場合、本態様の医薬は、本発明の一態様の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物と1種以上の他の薬剤とを含む単一の医薬の形態で提供されてもよく、本発明の一態様の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物と1種以上の他の薬剤とが別々に製剤化された複数の製剤を含む医薬組合せ又はキットの形態で提供されてもよい。医薬組合せ又はキットの形態の場合、それぞれの製剤を同時又は別々に(例えば連続的に)投与することができる。
【0053】
本発明の一態様の化合物を医薬用途に適用する場合、本発明の一態様の化合物は、該化合物自体だけでなく、該化合物の製薬上許容される塩、及びそれらの製薬上許容される溶媒和物も包含する。本発明の一態様の化合物の製薬上許容される塩、及びそれらの製薬上許容される溶媒和物としては、限定するものではないが、例えば、前記で例示した塩又は溶媒和物が好ましい。本発明の一態様の化合物が前記の塩又は溶媒和物の形態である場合、該化合物を所望の医薬用途に適用することができる。
【0054】
本発明の一態様の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含有する本態様の医薬は、AMによって予防又は治療される種々の症状、疾患及び/又は障害を、同様に予防又は治療することができる。前記症状、疾患及び/又は障害としては、限定するものではないが、例えば下記のものを挙げることができる。
【0055】
(1)循環器疾患:心不全、肺高血圧症、閉塞性動脈硬化症、バージャー病、心筋梗塞、リンパ浮腫、川崎病、心筋炎、不整脈(例えば、カテーテルアブレーション手術後の不整脈)、心房細動、大動脈炎、肺高血圧症、高血圧、高血圧による臓器障害、末梢血管疾患、及び動脈硬化症。
(2)腎臓・水電解質系疾患:腎不全、及び腎炎。
(3)脳・神経疾患:脳梗塞、認知症、脳血管性認知症、アルツハイマー病、及び脳炎。
(4)泌尿生殖器疾患:勃起不全(ED)。
(5)消化器疾患:炎症性疾患(例えば、炎症性腸疾患又はクローン病)、潰瘍性疾患(例えば、潰瘍性大腸炎)、腸管ベーチェット病、肝炎、肝線維症、肝硬変、及び肝不全。
(6)整形外科疾患:関節炎。
(7)内分泌代謝疾患:糖尿病及び糖尿病による臓器障害(例えば、糖尿病性腎症又は糖尿病性網膜症)、並びに原発性アルドステロン症。
(8)呼吸器系疾患:気管支喘、肺気腫、肺線維症、肺炎、急性気管支炎、慢性気管支炎、及び急性呼吸窮迫症候群(ARDS)。
(9)免疫疾患:補体系に関連する疾患(例えば、C3腎症)。
(10)その他の疾患:ウイルス性感染症、敗血症、敗血症性ショック、自己免疫疾患、多臓器不全、褥瘡、創傷治癒、及び脱毛症。
【0056】
本態様の医薬によって予防又は治療される循環器疾患は、特に、心不全、心筋梗塞(例えば、急性心筋梗塞)、不整脈(例えば、カテーテルアブレーション手術後の不整脈)、心房細動、肺高血圧症又は末梢血管疾患である。本態様の医薬によって予防又は治療される脳・神経疾患は、特に、脳梗塞又は認知症である。本態様の医薬によって予防又は治療される消化器疾患は、特に、炎症性疾患(例えば、炎症性腸疾患又はクローン病)、潰瘍性疾患(例えば、潰瘍性大腸炎)又は腸管ベーチェット病である。本態様の医薬によって予防又は治療される内分泌代謝疾患は、特に、糖尿病及び糖尿病による臓器障害(例えば、糖尿病性腎症又は糖尿病性網膜症)である。本態様の医薬によって予防又は治療される呼吸器系疾患は、特に、肺線維症である。本態様の医薬によって予防又は治療されるその他の疾患は、特に、敗血症、敗血症性ショック又はウイルス性感染症である。
【0057】
本態様の医薬において、ウイルス性感染症を引き起こすウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)、重症急性呼吸器症候群(以下、「SARS」とも記載する)コロナウイルス、中東呼吸器症候群(以下、「MERS」とも記載する)コロナウイルス、通常型ヒトコロナウイルス(229E、NL63、OC43及びHKU1)、RSウイルス、アデノウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルス、麻疹ウイルス、パラインフルエンザウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルス及びヒトメタニューモウイルスからなる群より選択される1種以上のウイルスを挙げることができ、特に、インフルエンザウイルス及びSARS-CoV-2からなる群より選択される1種以上のウイルスを挙げることができる。前記で例示したウイルスに起因するウイルス性感染症としては、限定するものではないが、例えば、ウイルス性肺炎、ウイルス性心筋炎、ウイルス性脳炎、ウイルス性出血熱、ウイルス性腎症、ウイルス性胃腸炎、ウイルス性血管炎、ウイルス性口内炎、ウイルス性角膜炎及びウイルス性神経炎を挙げることができ、特にウイルス性肺炎である。
【0058】
本態様の医薬は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害(例えば、循環器疾患、脳・神経疾患又は消化器疾患)の予防又は治療に使用するための医薬であることが好ましく、心不全、急性心筋梗塞、不整脈、心房細動、肺高血圧症、末梢血管疾患、脳梗塞、認知症、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸管ベーチェット病、糖尿病、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、肺線維症、敗血症、敗血症性ショック又はウイルス性感染症の予防又は治療に使用するための医薬であることがより好ましい。本態様の医薬を前記で説明した症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に使用することにより、AMと比較して顕著に優れた薬物動態で、AMと実質的に同等の予防又は治療効果を発現することができる。
【0059】
本明細書において、「予防」は、症状、疾患及び/又は障害の発生(発症又は発現)を実質的に防止することを意味する。また、本明細書において、「治療」は、発生(発症又は発現)した症状、疾患及び/又は障害を抑制(例えば進行の抑制)、軽快、修復及び/又は治癒することを意味する。
【0060】
本発明の一態様の化合物は、天然の生理活性ペプチドであるAMの類縁体ペプチドである。このため、本発明の一態様の化合物は、安全で低毒性である。それ故、本発明の一態様の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含有する本態様の医薬は、前記症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療を必要とする様々な対象に適用することができる。前記対象は、ヒト又は非ヒト哺乳動物(例えば、ブタ、イヌ、ウシ、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ヒツジ、ネコ、サル、マントヒヒ若しくはチンパンジー等の温血動物)の被験体又は患者であることが好ましく、ヒトの患者であることがより好ましい。前記対象に本態様の医薬を投与することにより、該対象における前記症状、疾患及び/又は障害を予防又は治療することができる。
【0061】
本態様の医薬を、対象、特にヒト患者に投与する場合、正確な用法及び用量は、対象の年齢、性別、予防又は治療されるべき症状、疾患及び/又は障害の正確な状態(例えば重症度)、並びに投与経路等の多くの要因を鑑みて、担当医が治療上有効な用法及び用量を最終的に決定すべきである。それ故、本態様の医薬において、有効成分である本発明の一態様の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物は、治療上有効な用法及び用量(例えば、投与量、投与回数及び投与経路)で、対象に投与される。例えば、本態様の医薬をヒト患者に投与する場合、有効成分として使用される本発明の一態様の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物の投与量は、通常は、0.01~1000 μg/kg体重/日の範囲であり、例えば、0.5~200 μg/kg体重/日の範囲である。
【0062】
本態様の医薬は、任意の投与回数及び投与経路で投与されてよい。すでに説明したように、本発明の一態様の化合物は、親化合物であるAMと実質的に同等の薬理作用を維持しつつ、AMと比較して、例えば生物学的な安定性に関し顕著に優れた薬物動態を有する。それ故、本態様の医薬は、単回投与されることが好ましい。また、本態様の医薬は、静脈投与、注腸投与、皮下投与、筋肉内投与又は腹腔内投与のような非経口的経路で投与されることが好ましく、皮下投与されることがより好ましい。前記用法及び用量(例えば、投与量、投与回数及び投与経路)で、AM又はアドレノメデュリン誘導体を有効成分として含有する本態様の医薬を使用することにより、対象における前記症状、疾患及び/又は障害を予防又は治療することができる。
【0063】
本発明の一態様の化合物は、AMによって予防又は治療される前記で説明した症状、疾患及び/又は障害を、同様に予防又は治療することができる。それ故、本発明の別の一態様は、本発明の一態様の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を有効成分として含有する、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療剤に関する。本発明の一態様の予防又は治療剤は、前記で説明した本態様の医薬と同様の特徴を有する。また、本態様の予防又は治療剤は、前記で説明した本態様の医薬と同様の症状、疾患及び/又は障害に対して、同様の用法及び用量で使用することができる。
【0064】
本発明の一態様の化合物は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害を有する対象において、該症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に使用することができる。それ故、本発明の別の一態様は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療を必要とする対象に、有効量の本発明の一態様の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を投与することを含む、前記症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療方法である。本態様の方法において、本発明の一態様の化合物等は、前記で説明した本態様の医薬と同様の用法及び用量で対象に投与され得る。前記症状、疾患及び/又は障害は、循環器疾患、脳・神経疾患、消化器疾患、内分泌代謝疾患、呼吸器系疾患又はその他の疾患であることが好ましく、心不全、急性心筋梗塞、不整脈、心房細動、肺高血圧症、末梢血管疾患、脳梗塞、認知症、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸管ベーチェット病、糖尿病、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、肺線維症、敗血症、敗血症性ショック又はウイルス性感染症であることがより好ましい。前記症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療を必要とする対象に、有効量の本発明の一態様の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を投与することにより、該症状、疾患及び/又は障害を予防又は治療することができる。
【0065】
本発明の別の一態様は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に使用するための、本発明の一態様の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物である。本発明のさらに別の一態様は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療のための医薬の製造における、本発明の一態様の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物の使用である。本発明のさらに別の一態様は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療のための、本発明の一態様の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物の使用である。本態様の化合物又はその使用において、本発明の一態様の化合物等は、前記で説明した本態様の医薬と同様の用法及び用量で対象に投与するために使用し得る。前記症状、疾患及び/又は障害は、循環器疾患、脳・神経疾患、消化器疾患、内分泌代謝疾患、呼吸器系疾患又はその他の疾患であることが好ましく、心不全、急性心筋梗塞、不整脈、心房細動、肺高血圧症、末梢血管疾患、脳梗塞、認知症、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸管ベーチェット病、糖尿病、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、肺線維症、敗血症、敗血症性ショック又はウイルス性感染症であることがより好ましい。本発明の一態様の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される溶媒和物を前記で説明した症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に使用することにより、該症状、疾患及び/又は障害を予防又は治療することができる。
【0066】
<3. アドレノメデュリン類縁体の製造方法>
本発明のさらに別の一態様は、本発明の一態様の化合物の製造方法に関する。
【0067】
本発明の一態様の化合物は、全体として、ポリペプチドの構造を有する。このため、本発明の一態様の化合物は、ポリペプチドを合成するために当該技術分野で使用される合成的手段又は培養的手段等の各種の手段に基づき、製造することができる。
【0068】
例えば、合成的手段に基づき本発明の一態様の化合物を製造する場合、固相系又は液相系のペプチド合成により、本発明の一態様の化合物のアミノ酸配列を有するペプチド鎖を合成し得る。それ故、合成的手段に基づく場合、本態様の方法は、固相系又は液相系のペプチド合成により、本発明の一態様の化合物のアミノ酸配列を有するペプチド鎖を合成する、ペプチド鎖合成工程を含む。本工程を実施することにより、(a)、(d)又は(f)のペプチドである本発明の一態様の化合物を得ることができる。また、本工程において、C末端のアミノ酸残基の原料として、予めC末端アミド構造を有するアミノ酸を用いることにより、(e)のペプチドである本発明の一態様の化合物を得ることができる。
【0069】
合成的手段に基づく本態様の方法において、ペプチド鎖合成工程によって得られたペプチド鎖のアミノ酸配列中の2個のシステイン残基のチオール基をジスルフィド化することにより、該アミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成している(b)のペプチドである本発明の一態様の化合物を得ることができる。また、ペプチド鎖合成工程によって得られたペプチド鎖のアミノ酸配列中の2個のシステイン残基の間で形成されたジスルフィド結合をエチレン基によって置換することにより、該ジスルフィド結合がエチレン基によって置換された(c)のペプチドである本発明の一態様の化合物を得ることができる。前記ジスルフィド化反応及びエチレン基による置換反応は、当該技術分野で通常使用される条件に基づき実施することができる。
【0070】
合成的手段に基づく本態様の方法において、ペプチド鎖合成工程によって得られたペプチド鎖又はその前駆体の少なくともいずれかがそれらの保護形態である場合、本態様の方法は、所望により、ペプチド鎖若しくはその前駆体に1種以上の保護基を導入する保護工程、並びに/又は、ペプチド鎖若しくはその前駆体の保護形態の少なくともいずれかの1種以上の保護基を脱保護する脱保護工程を含んでもよい。前記保護工程及び脱保護工程は、当該技術分野で通常使用される保護化反応及び脱保護化反応によって実施することができる。
【0071】
例えば、培養的手段に基づき本発明の一態様の化合物を製造する場合、本発明の一態様の化合物を産生し得る宿主細胞を作製し、次いで、該宿主細胞において目的の化合物を大量発現させる。それ故、培養的手段に基づく場合、本態様の方法は、本発明の一態様の化合物を産生し得る宿主細胞において、該化合物を大量発現させる、発現工程を含む。
【0072】
本発明の一態様の化合物を産生し得る宿主細胞は、本発明の一態様の化合物をコードする塩基配列を有する、単離された核酸を得て、次いで、この核酸を、ベクターと連結して大腸菌又は出芽酵母等の細胞に導入し、形質転換することにより、得ることができる。
【0073】
培養的手段に基づく本態様の方法は、当該技術分野で通常使用される遺伝子組換え及び遺伝子発現の手段を適用することにより、実施することができる。
【実施例
【0074】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0075】
<実験I:血漿及び血清におけるAMの分解>
[AMの分解反応]
AMとして、配列番号1のアミノ酸配列からなり、C末端がアミド化されており、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチドである成熟した天然型ヒトアドレノメデュリン(hAM(1-52))を用いた。0.2 mlの最終体積中、10 mM NaH2PO4緩衝液(pH 7.1)、10 mM NaCl及び100 μl血清又は血漿を含む反応混合物を調製した。反応混合物にhAM(1-52)を添加し、37℃で反応を開始した。所定の時間経過後、30 μlの反応液を取り、170 μlの0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液へ移し、分析まで-80℃で保存した。
【0076】
[蛍光免疫測定によるAMの定量分析]
前記で得られた血清又は血漿の反応混合物の試料に含まれるAMを、2種類の認識部位が異なる抗体を用いる特異的蛍光免疫測定(トーソー株式会社)を用いて、定量分析した。第一の抗体は、hAM(1-52)の16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成した環状構造に結合し、第二の抗体は、AMのC末端部分に結合する。これら2個の抗体を用いることで、活性を発現し得る成熟型AM(hAM(1-52))としてAMを定量分析することができる(Ohta Hら, One-step direct assay for mature-type adrenomedullin with monoclonal antibodies. Clin Chem., 1999年2月, 第45(2)巻, p. 244-51;Kubo Kら, Biological properties of adrenomedullin conjugated with polyethylene glycol. Peptides, 2014年7月, 第57巻, p. 118-21. doi: 10.1016/j.peptides.2014.05.005. Epub 2014 May 27.)。血清又は血漿の反応混合物の試料に含まれるAMの濃度の経時変化を図1に示す。図中、横軸は、反応時間(分)であり、縦軸は、AMの濃度(μM)である。
【0077】
図1に示すように、成熟型AMであるhAM(1-52)は、血清の反応混合物において反応時間経過に伴い急速に減少し、反応開始240分後に検出限界以下の濃度となった。これに対し、hAM(1-52)は、血漿の反応混合物において安定であった。例えば、反応開始240分後においても、反応開始時点の量に対して85%のhAM(1-52)が血漿の反応混合物において維持された。
【0078】
<実験II:血清において分解されたAMの分解産物の同定>
hAM(1-52)からの断片ペプチドの分離を、Bio-Sil ODS-SILカラム(4.0×150 mm、トーソー株式会社)を用いる逆相高速液体クロマトグラフィー(逆相HPLC)によって実施した。逆相HPLCの溶出は、0.1% TFAを含む6%~60%アセトニトリル水溶液の直線濃度勾配を用いて実施した。溶出液の検出は、210 nmの波長の紫外線(UV)吸収を記録することによって実施した。
【0079】
40 μgの合成hAM(1-52)を、血清中で4時間インキュベートした。得られた反応混合物に含まれるhAM(1-52)の分解産物を、逆相HPLCによって分離した。hAM(1-52)の分解産物の逆相HPLCによる210 nmの波長のUVクロマトグラムを図2に示す。図中、横軸は、逆相HPLCの保持時間(分)であり、縦軸は、210 nmの波長のUV吸収強度である。
【0080】
図2に示すように、いくつかのピークが検出された。これらのピークのうち、37.55分の保持時間のピーク(図中、矢印で示す)以外は、hAM(1-52)を含まないブランクの反応混合物の試料のUVクロマトグラムにおいても検出された(ブランクのUVクロマトグラムは示していない)。これらの結果から、37.55分の保持時間のピークを、hAM(1-52)の分解産物に相当すると判断した。このピークを含む画分は、全AMに対する免疫反応性を有していたが、成熟型AMに対する免疫反応性は有していなかった(データは示していない)。
【0081】
図2の矢印で示すピークを含む画分をさらに精製し、得られたペプチドを質量分析計(MALDI-TOF、正イオンモード、BRUKER autoflex III)で分析した。精製したペプチドのMALDI-TOFMSスペクトルを図3に示す。図中、横軸は、質量電荷比(m/z)であり、縦軸は、イオン強度(a.u.)である。
【0082】
図3に示すように、精製したペプチドのMALDI-TOFMSスペクトルにおいて、m/z 3671.830及びm/z 1836.380のイオンピークが検出され、これらのイオンピークは、それぞれ1価及び2価の電荷を有する分子イオン([M+H]+及び[M+2H]2+)に対応した。このMALDI-TOFMSスペクトルに基づき、精製したペプチドの分子量を3670.8と決定した。この分子量は、hAM(1-52)の12~43位のアミノ酸残基からなるペプチド(hAM(12-43))又はhAM(1-52)の13~44位のアミノ酸残基からなるペプチド(hAM(13-44))に相当し得る。hAM(12-43)及びhAM(13-44)は、同一のアミノ酸組成及び同一の精密理論分子量を有する。
【0083】
精製したペプチドを、気相ペプチドシークエンサー(装置:Applied Biosystems Procise 492HT、方法:Pulsed Liquid法)に供してN末端のアミノ酸配列解析を行った。精製したペプチドのN末端のアミノ酸配列解析の結果を表1に示す。表中、サイクルは、アミノ酸配列解析のサイクルであり、N末端からのアミノ酸残基の位置に対応する。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示すアミノ酸配列解析の結果から、アミノ末端のアミノ酸配列は、S-F-G-X-Rと決定され、Xは、システインと推測された。
【0086】
前記結果から、精製したペプチドは、hAM(13-44)(配列番号2)であると決定された。hAM(13-44)は、hAM(1-52)の12位のアルギニン残基及び13位のセリン残基の間、並びに44位のアルギニン残基及び45位のセリン残基の間で消化されることによって生成したと推測される。これらの結果は、hAM(1-52)がトリプシン様のプロテアーゼによって消化されたことを示している。
【0087】
<実験III:ペプチダーゼ耐性AM類縁体の合成(1)>
以下の通り、血清中で安定なAM類縁体ペプチドを設計した。hAM(1-52)の16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成した環状構造、及びhAM(1-52)のC末端アミド構造は、いずれもAM活性に必須であるのに対し、hAM(1-52)の1~12位のアミノ酸残基からなるペプチド構造は、AM活性に必須ではない(Eguchi Sら, Endocrinology. 1994年12月, 第135(6)巻, p. 2454-8)。それ故、hAM(1-52)の13~52位のアミノ酸残基からなり、C末端がアミド化されており、且つ4位(hAM(1-52)の16位に相当する)のシステイン残基と9位(hAM(1-52)の21位に相当する)のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド(hAM(13-52))(配列番号3)を、鍵となる分子として選択した。そして、hAM(13-52)の32位(hAM(1-52)の44位に相当する)のアルギニン残基を、D-アルギニン(D-Arg)、L-リジン(Lys)又はL-アラニン(Ala)で置換したAM類縁体ペプチドである[D-Arg-44]hAM(13-52)(配列番号4)、[Lys-44]hAM(13-52)(配列番号5)及び[Ala-44]hAM(13-52)(配列番号6)を設計した。
AM類縁体ペプチドのアミノ酸配列
hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-R-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号3)
[D-Arg-44]hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-*R-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号4、「*R」はD-アルギニンを示す)
[Lys-44]hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-K-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号5)
[Ala-44]hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-A-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号6)
【0088】
ABI 433A型ペプチド自動合成機(Applied Biosystems)を用いて、該合成機のプロトコールにしたがい、9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)法を用いて、Fmoc-Rink Amide樹脂(0.125 mmol)を出発原料として前記3種類のAM類縁体ペプチドのペプチド鎖を伸長して、AM類縁体ペプチドの保護ペプチド樹脂を得た。保護ペプチド樹脂をトリフルオロ酢酸で処理して脱樹脂及び脱保護し、前記3種類のAM類縁体ペプチドの還元型粗生成物を得た。還元型粗生成物を酸化して、ジスルフィド結合を形成した。分取HPLCを用いて反応生成物を精製して、ジスルフィド結合及びC末端アミド構造を有する前記3種類のAM類縁体ペプチドを凍結乾燥粉末として得た([D-Arg-44]hAM(13-52):201 mg、 [Lys-44]hAM(13-52):176 mg、[Ala-44]hAM(13-52):148 mg)。分析HPLC、アミノ酸分析及び質量分析により、AM類縁体ペプチドの構造及びアミノ酸配列を確認した。ESI-QMSによるAM類縁体ペプチドの質量分析の結果を表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
<実験IV:血清におけるAM類縁体の安定性(1)>
実験Iと同様の手順で、血清におけるhAM(13-52)、[D-Arg-44]hAM(13-52)、[Lys-44]hAM(13-52)及び[Ala-44]hAM(13-52)の安定性を評価した。対照として、成熟型AM(hAM(1-52))を用いた。前記AM類縁体は、実験Iの特異的蛍光免疫測定においてhAM(1-52)と同様の免疫活性を示すことから、当該特異的蛍光免疫測定を用いてhAM(1-52)と同様に定量分析することができる。血清の反応混合物の試料に含まれるAM又はAM類縁体の濃度の経時変化を図4に示す。図中、横軸は、反応時間(分)であり、縦軸は、AM又はAM類縁体の濃度(μM)である。
【0091】
図4に示すように、hAM(1-52)及びhAM(13-52)の反応混合物の場合、AM又はAM類縁体は、血清の反応混合物において反応時間経過に伴い急速に減少し、反応開始60分後には1 μM以下の濃度となり、反応開始240分後に検出限界以下の濃度となった。これに対し、[D-Arg-44]hAM(13-52)、[Lys-44]hAM(13-52)及び[Ala-44]hAM(13-52)の反応混合物の場合、これらAM類縁体は、血清の反応混合物において反応時間を経過してもほとんど減少しなかった又は僅かに減少しただけであり、反応開始240分後であっても一定量が残存した。
【0092】
前記結果において、反応開始時点(すなわち、反応開始0分)におけるAM又はAM類縁体の濃度に対する反応開始240分後における該AM又はAM類縁体の濃度の百分率を、残存率(%)として算出した。AM又はAM類縁体の反応開始240分後の反応混合物における該AM又はAM類縁体の残存率を図5に示す。図中、横軸は、AM又はAM類縁体の種類であり、縦軸は、AM又はAM類縁体の残存率(%)である。
【0093】
図5に示すように、hAM(1-52)及びhAM(13-52)の反応混合物におけるAM又はAM類縁体の残存率は、いずれも0.2%であった。これに対し、[D-Arg-44]hAM(13-52)、[Ala-44]hAM(13-52)及び[Lys-44]hAM(13-52)の反応混合物におけるAM類縁体の残存率は、それぞれ81.9、96.4及び51.8%であった。本実験の結果から、新規AM類縁体である[D-Arg-44]hAM(13-52)、[Ala-44]hAM(13-52)及び[Lys-44]hAM(13-52)は、天然型AMであるhAM(1-52)及びそのN末端欠損ペプチドであるhAM(13-52)と比較して顕著に高い血清中の安定性を有することが明らかとなった。
【0094】
<実験V:AM類縁体による細胞内cAMP濃度上昇作用(1)>
AMの生理作用は、細胞内cAMPの濃度の上昇を介して発現することが知られている(Kitamura Kら, Biochem Biophys Res Commun, 1993年4月30日, 第192(2)巻, pp. 553-560参照)。そこで、AMタイプ1受容体(AM1受容体)を安定発現させた培養細胞株(HEK293細胞株)にAM類縁体を添加して、細胞内cAMPの産生量を測定した。HEK293細胞を、フィブロネクチンで被覆された24ウェルプレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)において、ダルベッコ改変イーグル培地(10%ウシ胎仔血清、100 U/mlペニシリンG、100 mg/mlストレプトマイシン、0.25 mg/mlアムホテリシンB、100 mg/mlハイグロマイシンB及び250 mg/mlジェネテシン添加)中で培養した(37℃、加湿、5% CO2条件下)。3日間培養後、細胞内cAMPの蓄積が刺激された90%コンフルエントの細胞を実験に供した。20 mM 4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸及び0.1%ウシ血清アルブミンを含むハンクス平衡塩類溶液で培地を交換して、0.5 mMイソブチルメチルキサンチン(IBMX)の存在下、細胞にAM又はAM類縁体を添加して、37℃で15分間インキュベートした。細胞溶解緩衝液を添加することにより、反応を停止させた。その後、cAMP測定用ELISAキット(GEヘルスケアー、#RPN2251)を用いて、各ウェルのHEK293細胞における細胞内cAMP産生量を測定した。AM又はAM類縁体の添加濃度に対するHEK293細胞における細胞内cAMP産生量の用量反応曲線を図6に示す。図中、Aは、hAM(1-52)(×)又はhAM(13-52)(○)を添加した実験の結果であり、Bは、hAM(13-52)(○)又は[D-Arg-44]hAM(13-52)(●)を添加した実験の結果であり、Cは、hAM(13-52)(○)又は[Ala-44]hAM(13-52)(●)を添加した実験の結果であり、Dは、hAM(13-52)(○)又は[Lys-44]hAM(13-52)(●)を添加した実験の結果である。また、図中、横軸は、AM又はAM類縁体の添加濃度の対数(M)であり、縦軸は、AM1受容体を安定発現しているHEK293細胞における細胞内cAMP産生量(fmol/ウェル)である。
【0095】
図6に示すように、いずれのAM類縁体ペプチドも、hAM(1-52)又はhAM(13-52)と略同等の細胞内cAMP濃度上昇活性を有することが明らかとなった。
【0096】
<実験VI:AM及びAM類縁体の薬物動態の比較(1)>
8週齢の雄ウィスターラットを、日本チャールズリバーラボラトリーズ株式会社から購入した。ラットを、12時間明期及び12時間暗期のサイクル下で且つ特異的病原体非存在下、通常の飼料で飼育した。実験は、動物保護法に基づき、宮崎大学動物実験委員会からの承認(2014-507-4)を得て実施した。血漿AM濃度を決定するため、50 nmol/kgのAM又はAM類縁体を皮下投与した。末梢血液試料を、所定時間(投与後0、15、30、60及び120分)に尾静脈から試験管(21 μgアプロチニン及び0.3 mg EDTA-2Naを含む)へ採取した。試験管を1,700×gで遠心分離することにより、血漿を得た。実験Iと同様の手順で、特異的蛍光免疫測定によりラット血漿中のAM又はAM類縁体の量を測定した。皮下投与後のラット血漿中のAM又はAM類縁体の量の経時変化を図7に示す。図中、横軸は、皮下投与後の経過時間(時間)であり、縦軸は、AM又はAM類縁体の血漿中濃度(pM)である。また、皮下投与後のラット血漿中のAM又はAM類縁体の最高血中濃度(Cmax)、血中濃度-時間曲線下面積(AUC)及び血中半減期を表3に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
図7に示すように、hAM(1-52)及びhAM(13-52)は、ラット血漿中でほとんど検出されなかった。これに対し、AM類縁体である[D-Arg-44]hAM(13-52)、[Ala-44]hAM(13-52)及び[Lys-44]hAM(13-52)は、投与後15分においてラット血漿中で検出され、高いCmax及びAUCを示した。特に、[Ala-44]hAM(13-52)は、hAM(1-52)と比較して100倍以上のCmaxを示した(表3)。本実験の結果から、新規AM類縁体である[D-Arg-44]hAM(13-52)、[Ala-44]hAM(13-52)及び[Lys-44]hAM(13-52)は、単回投与において、天然型AMであるhAM(1-52)及びそのN末端欠損ペプチドであるhAM(13-52)と比較して、生物学的な安定性に関し顕著に優れた薬物動態を有することが明らかとなった。
【0099】
<実験VII:AM類縁体の合成(2)>
以下の通り、血清中で安定なAM類縁体ペプチドを設計した。hAM(13-52)(配列番号3)の32位(hAM(1-52)の44位に相当する)のアルギニン残基を、グリシン(Gly)、L-アスパラギン酸(Asp)又はL-フェニルアラニン(Phe)で置換したAM類縁体ペプチドである[Gly-44]hAM(13-52)(配列番号7)、[Asp-44]hAM(13-52)(配列番号9)及び[Phe-44]hAM(13-52)(配列番号10)、hAM(13-52)(配列番号3)の33位(hAM(1-52)の45位に相当する)のセリン残基を、L-プロリン(Pro)で置換したAM類縁体ペプチドである[Pro-45]hAM(13-52)(配列番号11)、並びにhAM(13-52)(配列番号3)の32位(hAM(1-52)の44位に相当する)のアルギニン残基を欠失したAM類縁体ペプチドである[des-Arg-44]hAM(13-52)(配列番号8)を設計した。hAM(1-52)は、ペプチド研究所(大阪、日本)から購入した。hAM(13-52)、[Ala-44]hAM(13-52)、[D-Arg-44]hAM(13-52)、[Lys-44]hAM(13-52)、[Gly-44]hAM(13-52)、[des-Arg-44]hAM(13-52)、[Asp-44]hAM(13-52)、[Phe-44]hAM(13-52)及び[Pro-45]hAM(13-52)は、ペプチド研究所に合成を依頼した。
AM類縁体ペプチドのアミノ酸配列
hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-R-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号3)
[Gly-44]hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-G-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号7)
[des-Arg-44]hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号8)
[Asp-44]hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-D-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号9)
[Phe-44]hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-F-S-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号10)
[Pro-45]hAM(13-52) S-F-G-C-R-F-G-T-C-T-V-Q-K-L-A-H-Q-I-Y-Q-F-T-D-K-D-K-D-N-V-A-P-R-P-K-I-S-P-Q-G-Y-CONH2(配列番号11)
【0100】
<実験VIII:血清におけるAM類縁体の安定性(2)>
以下の手順の他は実験Iと同様の手順で、血清におけるAM類縁体ペプチドの安定性を評価した。対照として、成熟型AM(hAM(1-52))を用いた。4 μLリン酸緩衝液、20 μLヒト血清(Sigma-Aldrich, USA)及び14 μL水を含む反応混合物を調製した。反応混合物に2 μL AM又はAM類縁体ペプチド(2×10-6 M、最終濃度10-7 M)を添加し、37℃で反応を開始した。反応開始0、1又は4時間後に、反応混合物に160 μL ELISA緩衝液を添加し反応を終了させた。血清の反応混合物の試料に含まれるAM又はAM類縁体ペプチドの濃度は、実験Iと同様の手順で、特異的蛍光免疫測定を用いて測定した。血清の反応混合物の試料に含まれるAM又はAM類縁体の濃度の経時変化を図8に示す。図中、横軸は、反応時間(時間)であり、縦軸は、反応開始時点(すなわち、反応開始0時間)のAM又はAM類縁体の濃度に対する相対値で示したAM又はAM類縁体の血清中濃度(%)である。
【0101】
図8に示すように、hAM(1-52)及びhAM(13-52)の反応混合物の場合、AM又はAM類縁体は、血清の反応混合物において、反応開始1時間後には実質的に消失した。これに対し、[Gly-44]hAM(13-52)、[des-Arg-44]hAM(13-52)、[Asp-44]hAM(13-52)及び[Phe-44]hAM(13-52)は、反応開始4時間後においても安定であった。[Pro-45]hAM(13-52)は、反応開始4時間後において、60%程度の濃度に減少した。
【0102】
<実験IX:AM類縁体による細胞内cAMP濃度上昇作用(2)>
実験Vと同様の手順で、AM類縁体による細胞内cAMP濃度上昇作用を評価した。10-9M又は10-8MのAM又はAM類縁体の添加に対するHEK293細胞における細胞内cAMP産生量を図9に示す。図中、縦軸は、AM1受容体を安定発現しているHEK293細胞における細胞内cAMP産生量(fmol/ml)である。
【0103】
図9に示すように、[Gly-44]hAM(13-52)、[des-Arg-44]hAM(13-52)及び[Phe-44]hAM(13-52)のAM類縁体ペプチドは、hAM(1-52)又はhAM(13-52)と略同等の細胞内cAMP濃度上昇活性を有することが明らかとなった。
【0104】
図9で、hAM(1-52)又はhAM(13-52)と略同等の細胞内cAMP濃度上昇活性を示した[Gly-44]hAM(13-52)、[des-Arg-44]hAM(13-52)及び[Phe-44]hAM(13-52)のAM類縁体ペプチドについて、細胞内cAMP産生量の用量反応を評価した。AM又はAM類縁体の添加濃度に対するHEK293細胞における細胞内cAMP産生量の用量反応曲線を図10に示す。図中、Aは、hAM(1-52)を添加した実験の結果であり、Bは、[Gly-44]hAM(13-52)を添加した実験の結果であり、Cは、[des-Arg-44]hAM(13-52)を添加した実験の結果であり、Dは、[Phe-44]hAM(13-52)を添加した実験の結果である。また、図中、横軸は、AM又はAM類縁体の添加濃度の対数(M)であり、縦軸は、AM1受容体を安定発現しているHEK293細胞における細胞内cAMP産生量(fmol/ml)である。
【0105】
図10に示すように、いずれのAM類縁体ペプチドも、添加濃度依存的に細胞内cAMP濃度が上昇した。また、いずれのAM類縁体ペプチドも、hAM(1-52)又はhAM(13-52)と略同等の細胞内cAMP濃度上昇の最大活性を有することが明らかとなった。細胞内cAMP濃度上昇活性に関して、50%効果濃度の対数値(pEC50)を算出したところ、hAM(1-52)は、8.37であったのに対し、[Gly-44]hAM(13-52)は、7.96であり、[des-Arg-44]hAM(13-52)は、8.71であり、[Phe-44]hAM(13-52)は、8.29であった。
【0106】
<実験X:AM及びAM類縁体の薬物動態の比較(2)>
以下の手順の他は実験VIと同様の手順で、AM及びAM類縁体(hAM(1-52)、[Ala-44]hAM(13-52)、[Gly-44]hAM(13-52)、[des-Arg-44]hAM(13-52)及び[Phe-44]hAM(13-52))の薬物動態を評価した。7週齢の雄ウィスターラットを準備し、通常の飼料で飼育した。血漿AM濃度を決定するため、50 nmol/kgのAM又はAM類縁体を皮下投与した。末梢血液試料を、所定時間(投与後0、15、30、60及び120分)に尾静脈からかんたんチューブ(登録商標)(ヘパリンNa含有、栄研、栃木、日本)へ採取した。チューブを2,000×gで遠心分離した。このチューブから血漿を回収し、試験管(21 μgアプロチニン及び0.3 mg EDTA-2Naを含む)へ移して保管した。実験Iと同様の手順で、特異的蛍光免疫測定によりラット血漿中のAM又はAM類縁体の量を測定した。皮下投与後のラット血漿中のAM又はAM類縁体の量の経時変化を図11に示す。図中、横軸は、皮下投与後の経過時間(時間)であり、縦軸は、AM又はAM類縁体の血漿中濃度(pM)である。また、皮下投与後のラット血漿中のAM又はAM類縁体の最高血中濃度(Cmax)を算出した。
【0107】
図11に示すように、hAM(1-52)は、ラット血漿中でほとんど検出されなかった。これに対し、AM類縁体である[Ala-44]hAM(13-52)、[Gly-44]hAM(13-52)、[des-Arg-44]hAM(13-52)及び[Phe-44]hAM(13-52)は、投与後15分においてラット血漿中で検出され、高いCmaxを示した。Cmaxを算出したところ、hAM(1-52)は、23.1 pMであったのに対し、[Ala-44]hAM(13-52)は、777.0 pMであり、[Gly-44]hAM(13-52)は、760.4 pMであり、[des-Arg-44]hAM(13-52)は、679.0 pMであり、[Phe-44]hAM(13-52)は、323.3 pMであった。本実験の結果から、新規AM類縁体である[Ala-44]hAM(13-52)、[Gly-44]hAM(13-52)、[des-Arg-44]hAM(13-52)及び[Phe-44]hAM(13-52)は、単回投与において、天然型AMであるhAM(1-52)と比較して、生物学的な安定性に関し顕著に優れた薬物動態を有することが明らかとなった。
【0108】
<実験XI:インフルエンザウイルス感染マウスに対するAM類縁体の効果>
AM類縁体ペプチドである[Ala-44]hAM(13-52)を用いてインフルエンザウイルス感染マウスに対する薬効試験を行い、インフルエンザウイルス感染マウスにおける臓器障害に対するAM類縁体の効果を評価した。
【0109】
[XI-1:試験薬]
有効成分として、[Ala-44]hAM(13-52)の凍結乾燥粉末を用いた。媒体として、3.75 w/v% マンニトール-0.5 w/v% グリシン水溶液を用いた。有効成分の入ったバイアルに、0.95 mLの媒体を加えて有効成分を溶解して、検体溶液を調製した。この検体溶液を40 μlずつ分注し、-20~-30℃で凍結保存した。この検体溶液を使用時に解凍し、媒体で希釈して、20 nmol/ml又は2 nmol/mlの検体溶液を調製した。検体溶液は、用時調製した。
【0110】
[XI-2:試験ウイルス株]
(a)ウイルス株及びその宿主細胞
試験に使用するウイルス株として、愛知医科大学医学部、感染・免疫学講座の保存株であるインフルエンザウイルスPR8(A/PR/8/34 (H1N1))を使用した。
【0111】
[XI-3:インフルエンザウイルス感染マウスに対する薬効試験]
5週齢の雌のSPFマウス(BALB/c系(BALB/c Cr Slc))を45匹購入した(日本エスエルシー)。5日間の予備飼育期間の後、AM類縁体非投与の対照群、低用量(10 nmol/kg)のAM類縁体投与群及び高用量(100 nmol/kg)のAM類縁体投与群に群分けを行った(各群8匹ずつ)。各群のマウスに、27G翼付静注針(テルモ株式会社)及び1.0 ml容のポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒(テルモ株式会社)を用いて、検体溶液を尾静脈内に接種した。検体溶液の投与液量は、投与日の体重値を基に、5 ml/kgとなるように算出した。検体溶液の投与時刻は、9時25分から11時27分の間に設定した。ただし、ウイルス接種日における検体溶液の投与は、接種前とした。検体溶液の投与期間は、ウイルス接種前日から接種4日後までとした。ウイルス接種日に、AM類縁体非投与の対照群及びAM類縁体投与群のマウスに、検体溶液の投与直後に、マイクロピペットを用いて接種ウイルス液を個体あたり0.05 mlずつ鼻腔へ滴下した(1×105 PFU/マウス)。なお、接種ウイルス液は、接種ごとに攪拌した。接種翌日を接種後1日目として、接種後5日目まで飼育した。飼育期間に亘り、以下の項目について評価した。
【0112】
(a)一般状態
一般状態は、群分け日以降、以下の表4に示す一般状態スコアに基づき、1日1回観察した。
【0113】
【表4】
【0114】
(b)肺の肉眼的病変検査
ウイルス接種後5日目に、イソフルランによる麻酔後、EDTA-2Na処理したシリンジ(テルモ)を用いて、後大静脈から約0.3 mL採血した。得られた血液を遠心分離(約4℃、3000 rpm、2150×g、10分間)して血漿を採取し、凍結保存した(-80℃)。採血した動物は、腹大動脈から放血して安楽死させた。以下の表5に示す評価方法に基づいて、肺の肉眼的検査を左右別に実施した。その後、左肺、右肺、腎臓及び心臓を摘出し、重量を電子天秤で測定した。摘出した心臓は、3分割に横断した。中心の心臓部分を、10%中性緩衝ホルマリンに浸漬して保存した。残りの上下の心臓部分を、別々のチューブに入れて凍結保存した(-80℃)。摘出した腎臓は、それぞれ3分割に横断した。右腎臓部分を、凍結保存した(-80℃)。左腎臓部分を、10%中性緩衝ホルマリンに浸漬して保存した。摘出した肝臓は、2分割に縦断し、さらに3分割にした。一方の肝臓部分を、凍結保存した(-80℃)。残り肝臓部分を、10%中性緩衝ホルマリンに浸漬して保存した。摘出した肺は、左肺の一部(約10~20 mg)を凍結保存した(-80℃)。残りの左肺部分を、10%中性緩衝ホルマリンに浸漬して保存した。右肺は、ウイルス学的検査に用いた。
【0115】
【表5】
【0116】
(c)ウイルス数測定
摘出した右肺を細片化した後、ハンクス平衡塩液(HBSS) 2 mlを加え、撹拌機(ホモジナイザー T10ベーシック、IKAジャパン)を用いてホモジネートした。得られたホモジネート液を、肺組織液として凍結保存した。肺組織液を解凍し、MEMを用いて適宜希釈液を調製した。MDCK細胞を播種した12ウェルプレートに、原液及び希釈した肺組織液を0.1 mlずつ1ウェルに添加し、細胞にウイルスを1時間吸着させた。プラーク数測定用の培地を1.5 mlずつ細胞に重層し、アガロースが凝固した後に炭酸ガス培養装置で2日間培養した。ニュートラルレッドを加えた培地を1.5 ml重層し、一晩培養後、形成されたウイルスプラーク数を測定した。プラーク数が測定可能な最大希釈倍率から算出されるプラーク数を採用して、ウイルス数を算出した。
【0117】
(d)病理組織学的検査
摘出した肺(左肺)を固定後、常法に従い、各群の全例においてパラフィン切片を作製した。パラフィン切片をHE染色した。光学顕微鏡学的検査を実施した。病理組織所見は、0:変化なし(-)、1:ごく軽度(±)、2:軽度(+)、3:中等度(++)、4:重度(+++)の5段階にスコア化した。
【0118】
(e)統計学的処理
一般状態スコア、肺の肉眼的所見、ウイルスプラーク数及び病理組織学的検査は、各群の平均値及び標準誤差を算出した。有意差検定は、対照群と低用量又は高用量のAM類縁体投与群との間で、一般状態スコア、肺の肉眼的所見、ウイルスプラーク数及び病理組織学的検査についてウィルコクソンの順位和検定を用いて実施した。危険率は5%とし、それぞれ5%満及び1%未満に分けて示した。
【0119】
[XI-4:結果]
各群のマウスの一般状態スコアを表6に示す。表中の値は、各群のマウスのスコアの平均値及び標準誤差である。表中、「*」は、対照群に対して有意な差があったことを示す(*:p<0.01)。
【0120】
【表6】
【0121】
各群の肺の肉眼的病変検査のスコアを表7に示す。表中の値は、各群のマウスにおける肺の肉眼的病変検査のスコアの平均値及び標準誤差である。表中、「*」は、対照群に対して有意な差があったことを示す(*:p<0.01)。
【0122】
【表7】
【0123】
各群の肺におけるウイルス濃度を表8に示す。表中の値は、各群のマウスの右肺におけるウイルス濃度(×104 PFU)の平均値及び標準誤差である。表中、「*」は、対照群に対して有意な差があったことを示す(*:p<0.01)。
【0124】
【表8】
【0125】
一般状態スコアに関して、高用量のAM類縁体投与群は、対照群と比較して、摂取2日後に有意な低値を示した(表6)。肺の肉眼的病変検査のスコアに関して、低用量及び高用量のAM類縁体投与群のいずれも、対照群と比較して、左右の肺とも有意な低値を示した(表7)。右肺のウイルス数に関して、低用量及び高用量のAM類縁体投与群のいずれも、対照群と比較して、有意な減少を示した(表8)。病理組織学的検査のスコアに関して、低用量及び高用量のAM類縁体投与群のいずれも、対照群と比較して、有意な有意な差は確認されなかった。
【0126】
本実験の結果から、[Ala-44]hAM(13-52)のようなAM類縁体ペプチドは、インフルエンザウイルスに起因するウイルス性感染症に対して、感染性の抑制及び症状の進行の抑制等の効果を有することが示唆された。
【0127】
なお、本発明は、前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除及び/又は置換をすることが可能である。
【0128】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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