(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】鍋蓋
(51)【国際特許分類】
A47J 36/06 20060101AFI20240607BHJP
【FI】
A47J36/06 Z
(21)【出願番号】P 2023101872
(22)【出願日】2023-06-21
【基礎とした実用新案登録】
【原出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】501095576
【氏名又は名称】株式会社大慶
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 義久
【審査官】土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3179050(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0172345(US,A1)
【文献】実開平04-021319(JP,U)
【文献】特開平04-201879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 36/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体の内面に、該本体の中心を取り巻く複数の円形状突起又は前記本体の中心を取り巻く複数の周回突起からなる螺旋状突起が設けられており、
前記複数の円形状突起又は前記複数の周回突起には、それぞれ2以上24以下の切れ目が形成されて
おり、
前記複数の円形状突起又は前記複数の周回突起に形成されている切れ目のうち、隣接する円形状突起又は隣接する周回突起に形成されている切れ目が、前記本体の中心から延びる放射線上に並んでおらず、
前記本体の中央に穴が設けられ、前記本体の上面に前記穴の周囲を取り巻く把手が形成されているとともに、前記把手の上面を覆う小蓋を有しており、
前記小蓋は、前記把手の上面に載置される円板部及び該円板部の下面側に形成され外径が前記把手の内径より小さい円環部からなる
ことを特徴とする鍋蓋。
【請求項2】
前記複数の円形状突起又は前記複数の周回突起に形成されている切れ目のうち、隣接する円形状突起又は隣接する周回突起に形成されている切れ目が、前記本体の中心から延びる放射線上に並んでいない
ことを特徴とする請求項1に記載の鍋蓋。
【請求項3】
前記本体の中央に穴が設けられ、前記本体の上面に前記穴の周囲を取り巻く把手が形成されているとともに、前記把手の上面を覆う小蓋を有している
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の鍋蓋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理用の鍋に被せて使用する鍋蓋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
調理用の鍋に被せて使用する鍋蓋において、内面に結露した水滴を料理材料に滴下するための突起を設けたものが知られている。
例えば、特許文献1(実開昭57-94426号公報)には、内面に同心円状の突起を設けた鍋蓋が開示され(特に、第1図及び第2図を参照)、特許文献2(実公平4-30984号公報)には、内面に下向き頂角が鈍角の逆不等辺三角形断面形状を成す複数個の突状帯を断続的に列設した鍋蓋が開示され(特に、第2頁左欄第28~32行及び第1図を参照)、特許文献3(実用新案登録第3200806号公報)には、内面に3本の同心円に沿って突状の水滴誘導部を多数形成した鍋蓋が開示されている(特に、段落0034~0035及び
図1、3を参照)。
【0003】
しかし、特許文献1に開示されている鍋蓋の突起は同心円状であるため、鍋蓋の内面に発生した水滴を確実に鍋の内側に滴下させることができるが、鍋蓋が少しでも傾いていると、同心円状の突起に沿って一方向に水滴が集まってしまい、滴下する位置が集中してしまうという問題があり、特許文献2に開示されている複数個の突状帯は一重しかなく、特許文献3に開示されている多数の水滴誘導部の形成位置はまばらであるため、鍋蓋の内面に発生した水滴の一部は突状帯や水滴誘導部を通り抜けて鍋蓋の縁に達し、鍋の内側に滴下しないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭57-94426号公報
【文献】実公平4-30984号公報
【文献】実用新案登録第3200806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題を解決し、鍋蓋の内面に発生した水滴を確実に鍋の内側に滴下させることができ、かつ、鍋蓋が傾いていても水滴の滴下位置が偏在しないようにすることを第1の課題とする。
また、調理中に発生する蒸気の抜けを適切に制御し、鍋の中の気流の動きを均一化して、各種の食材を美味しく調理できるようにすることを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明の鍋蓋は、
本体の内面に、該本体の中心を取り巻く複数の円形状突起又は前記本体の中心を取り巻く複数の周回突起からなる螺旋状突起が設けられており、
前記複数の円形状突起又は前記複数の周回突起には、それぞれ2以上12以下の切れ目が形成されており、
前記複数の円形状突起又は前記複数の周回突起に形成されている切れ目のうち、隣接する円形状突起又は隣接する周回突起に形成されている切れ目が、前記本体の中心から延びる放射線上に並んでおらず、
前記本体の中央に穴が設けられ、前記本体の上面に前記穴の周囲を取り巻く把手が形成されているとともに、前記把手の上面を覆う小蓋を有しており、
前記小蓋は、前記把手の上面に載置される円板部及び該円板部の下面側に形成され外径が前記把手の内径より小さい円環部からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明の鍋蓋は、本体の内面に、本体の中心を取り巻く複数の円形状突起又は本体の中心を取り巻く複数の周回突起からなる螺旋状突起が設けられており、複数の円形状突起又は複数の周回突起には、それぞれ2以上12以下の切れ目が形成されているので、鍋蓋の内面に発生した水滴を鍋の内側に滴下させることができ、かつ、鍋蓋が傾いていても水滴の滴下位置の偏在を抑制することができる。
そして、複数の円形状突起又は複数の周回突起に形成されている切れ目のうち、隣接する円形状突起又は隣接する周回突起に形成されている切れ目が、本体の中心から延びる放射線上に並んでいないので、本体の内面を周辺に向かって流れ落ちる水滴が切れ目を通り抜けて本体の縁まで達することがほとんどなくなり、鍋蓋の内面に発生した水滴を確実に鍋の内側に滴下させることができる。また、鍋蓋が傾いている場合における水滴の滴下位置の偏在をより良く抑制することができる。
さらに、本体の中央に穴が設けられ、本体の上面に穴の周囲を取り巻く把手が形成されているとともに、把手の上面を覆う小蓋を有しているので、外蓋を用いることなく噴き出す蒸気の飛散を防止でき、鍋蓋のコストを低く抑えることができる。
加えて、小蓋は把手の上面に載置される円板部及び円板部の下面側に形成され外径が把手の内径より小さい円環部からなっているため、噴き出した蒸気が周囲に飛び散ることがなく把手の内側に溜まった水滴は穴から鍋の中に戻り煮汁の減少を抑えることができる。
また、調理中に発生する蒸気の抜けが適切に制御され、鍋の中の気流の動きが中央から立ち上がり周辺部に下降することとなって均一化する。そのため、各種の食材を美味しく調理できる。特に、ご飯を炊飯する場合に、非常に良い炊き上がり状態が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1に係る鍋蓋の断面図及び内面の平面図。
【
図2】実施例1に係る小蓋の断面図及び内面の平面図。
【
図3】実施例2に係る鍋蓋の断面図及び内面の平面図。
【
図4】実施例3に係る鍋蓋の断面図及び内面の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施例によって本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は実施例1に係る鍋蓋1の断面図及び内面の平面図であり、
図2は実施例1に係る小蓋2の断面図及び内面の平面図である。
図1(A)及び(B)に示すとおり、実施例1に係る鍋蓋1は、直径15~30cmで弧状の断面を有する本体3、本体3の内面に、その中心を取り巻くように同心円状に設けられている4本の円形状突起4、本体3の中心に設けられている直径2~5mmの穴5、本体3の上面に穴5の周囲を取り巻くように形成されている直径5~10cm、高さ2~4cmの略円筒状の把手6、把手6の上面を覆う直径6~11cmの小蓋2を有している。
4本の円形状突起4は、最も内側の直径が4~8cm、最も外側の直径が14~28cmで、ほぼ等間隔に配置されており、いずれも幅3~6mm、高さ3~6mmで下面側ほど幅が小さくなっている。そして、円形状突起4には、中心から十字状に延びる線に沿って切れ目7が形成され、それぞれ4つの弧状部に分割されている。
また、
図2(A)及び(B)に示すとおり、実施例1に係る小蓋2は、直径6~11cm、厚さ6~15mmの円板部8と、外径が把手6の内径より少し小さく、高さが6~15mmの円環部9を有している。そして、円板部8の下面側で円環部9の外側には、幅2~5mm、深さ1~3mmの溝10が2箇所設けられている。
なお、実施例1における本体3及び小蓋2は、いずれも粘土に各種の粉末を混ぜて成形、焼成して製造される磁器又は陶器であるが、本発明の鍋蓋は、陶磁器に限定されるものではなく、各種金属の鋳物又はガラスや耐熱性樹脂を成形したものであっても良い。
【0015】
実施例1に係る鍋蓋1を用いると、調理中に発生した蒸気は本体3の内面で結露して水滴となるが、水滴がある程度の大きさになると、重力によって本体3の周辺側に移動し、4本の円形状突起4のいずれかにぶつかり、ぶつかった円形状突起4の側面を伝わって、その下面側から鍋の内側に滴下され、調理中の材料等の上に落ちる。
そして、鍋蓋1の本体3が、例えば
図1(B)の右側に傾いていたとしても、左側にある円形状突起4にぶつかった水滴が、上下に延びる線に沿って形成されている切れ目7を越えて、右側にある円形状突起4に伝わってくることはないので、水滴の滴下位置が右側に偏ってしまうことがない。
また、本体3の中央には穴5が設けられているため、鍋の調理材料が沸騰して蒸気圧が高くなると、蒸気が穴5から噴き出すが、穴5の周囲を取り巻く把手6の上面は小蓋2で覆われているため、噴き出した蒸気が周囲に飛び散ることがなく、把手6の内側に溜まった水滴は穴5から鍋の中に戻るので、煮汁の減少を抑えることができる。
そして、小蓋2の下面外側には浅い溝10が2箇所設けられているため、噴き出した蒸気が狭い隙間を通って適度に抜けていくので、小蓋2が安定した状態に保たれ、上下動による異音を抑制できるとともに、蒸気の抜ける位置が限定されるので安全である。
さらに、鍋の中の気流は中央から立ち上がり周辺部に下降して動きが均一な状態となるので、調理中の食材に均一に熱が回り、各種の食材を美味しく調理することができる。
【実施例2】
【0016】
図3は実施例2に係る鍋蓋11の断面図及び内面の平面図である。
実施例2に係る鍋蓋11は、実施例1では本体3の内面に同心円状に4本の円形状突起4が設けられているのに対して、本体13の中心を取り巻く4回転強の周回突起からなる螺旋状突起14が設けられている点及び実施例1では中心から十字状に延びる線に沿って切れ目7が形成されているのに対して、螺旋状突起14の内側の末端から80度ずつずれた位置付近に切れ目17が形成されている点で、実施例1に係る鍋蓋1と相違している。
そして、鍋蓋11、本体13、螺旋状突起14及び切れ目17以外の実施例1と同じ構成要素に対して、
図3では
図1に示す番号に10を足した番号を付し、それらの構成要素については説明を省略する。
【0017】
実施例2に係る鍋蓋11を用いると、実施例1に係る鍋蓋1を用いた時の効果に加え、隣接する螺旋状突起14に形成されている切れ目17が、本体13の中心から延びる放射線上に並ぶことがないので、本体13の内面を周辺に向かって流れ落ちる水滴が切れ目17を通り抜けて本体の縁まで達することがほとんどなくなる。
そのため、本体13の内面に発生した水滴を確実に鍋の内側に滴下させることができ、また、鍋蓋11が傾いている場合においても、多数の切れ目17がばらばらに配置されていることから、螺旋状突起14を伝わってくる水滴の滴下位置が偏ってしまうのを、実施例1の鍋蓋1以上に抑えることができる。
【実施例3】
【0018】
図4は実施例3に係る鍋蓋21の断面図及び内面の平面図である。
実施例3に係る鍋蓋21は、実施例1では本体3が弧状の断面を有しているのに対して、本体23が平板状である点、実施例1では本体3の内面に同心円状に4本の円形状突起4が設けられているのに対して、本体23の内面に同心円状に8本の円形状突起24、24’が設けられている点、実施例1では全ての円形状突起4の高さが同じであるのに対して、最も内側及び最も外側の円形状突起24’の高さが他の円形状突起24の高さより高い点及び実施例1では中心から十字状に延びる線に沿って切れ目7が形成されているのに対して、中心から放射状に延びる16本の線に沿って、切れ目27が放射方向に隣接せず、かつ、周方向に放射状の線を跨がず隣接しないように形成されている点で、実施例1に係る鍋蓋1と相違している。
そして、鍋蓋21、本体23、円形状突起24、24’及び切れ目27以外の実施例1と同じ構成要素に対して、
図4では
図1に示す番号に20を足した番号を付し、それらの構成要素については説明を省略する。
【0019】
実施例3に係る鍋蓋21による効果は、実施例1に係る鍋蓋1による効果及び実施例2に係る鍋蓋11による効果と同じであるが、本体23が平板状であることから、水滴を効率よく滴下させるため、円形状突起24、24’が実施例1より多く設けてある。
また、最も内側及び最も外側の円形状突起24’の高さを、他の円形状突起24の高さより高くしてある理由は、本体23を平板状とするために、円形状突起24、24’を下面側にした状態で窯に入れて焼く必要があるためである。
なお、円形状突起24、24’の高さを全て同じにしても良いが、そうした場合、全ての円形状突起24、24’の下面に凹凸ができてしまい、見栄えが悪くなってしまう。
【0020】
実施例1~3の変形例を列記する。
(1)実施例1の説明においては、各構成要素の寸法の範囲を示しているが、寸法は用途に応じて適宜決定されるため、説明で示した寸法の範囲に限定されるものではない。
(2)実施例1~3の本体3、13、23は、平面図の形状が円形であるが、楕円形や角の丸い多角形であっても良い。そうした場合、円形状突起4、24、24’や螺旋状突起14を構成する周回突起も、楕円形や角の丸い多角形の突起とした方が良い。
(3)実施例1の本体3の内面には中心を取り巻く同心円状の4本の円形状突起4、実施例2の本体13の内面には本体13の中心を取り巻く4回転強の周回突起からなる螺旋状突起14、実施例3の本体23の内面には本体23の中心を取り巻く同心円状の8本の円形状突起24、24’が設けられているが、円形状突起は同心円状でなくても良く、円形状突起の本数や周回突起の回転数は適宜選択可能である。
すなわち、鍋蓋本体の内面に、中心を取り巻く複数の円形状突起又は中心を取り巻く複数の周回突起からなる螺旋状突起が設けてあれば良い。
【0021】
(4)実施例1の円形状突起4には4つの切れ目7、実施例2の螺旋状突起14には2周回あたり9つの切れ目17、実施例3の内側2本の円形状突起24、24’には4つの切れ目27、実施例3の外側6本の円形状突起24、24’には8つの切れ目27が形成されているが、切れ目の形成数は適宜選択可能である。
ただし、切れ目の形成数が多すぎると、水滴が鍋蓋の縁に達し易くなるので、複数の円形状突起又は複数の周回突起には、それぞれ2以上24以下の切れ目が形成されていれば良く、3以上12以下の切れ目が形成されていればより良い。
(5)実施例2の螺旋状突起14には内側の末端から80度ずつずれた位置付近に切れ目17が形成され、実施例3の円形状突起24、24’には中心から放射状に延びる16本の線に沿って、切れ目27が放射方向に隣接せず、かつ、周方向に放射状の線を跨がず隣接しないように形成されているが、要するに、本体13又は23の内面を周辺に向かって流下する水滴が、複数の切れ目17又は27を通り抜けにくければ良いので、隣接する円形状突起又は隣接する周回突起に形成されている切れ目が、本体の中心から延びる放射線上に並んでいなければ良い。
【0022】
(6)実施例1~3においては、本体3、13、23の中央に穴5、15、25が設けられ、上面に略円筒状の把手6、16、26が形成されているとともに、把手6、16、26の上面を覆う小蓋2、12、22を有しているが、これらは無くても良い。
また、把手6、16、26は、穴5、15、25の周囲を取り巻くように形成されていれば、略円筒状に限らず楕円筒状や角筒状等どのような形状でも良く、そうした場合、小蓋2、12、22及び円環部9も適当な形状に変更した方が良い。
(7)実施例1~3においては、小蓋2、12、22の下面側に、把手6、16、26の内径より少し小さい外径の円環部が形成されているが、円環部は無くても良く、また、把手6、16、26の外径より少し大きい内径の円環部を形成しても良い。
(8)実施例1~3においては、小蓋2、12、22の下面側で円環部9の外側に溝10が2箇所設けられているが、これらは無くても良く、また、1箇所又は3か所以上設けても良い。
【符号の説明】
【0023】
1、11、21 鍋蓋 2、12、22 小蓋 3、13、23 本体
4、24 円形状突起 14 螺旋状突起 5、15、25 穴
6、16、26 把手 7、17、27 切れ目
8 円板部 9 円環部 10 溝