(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】プラスチック射出成形工具及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20240607BHJP
B22D 23/10 20060101ALI20240607BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240607BHJP
C22C 38/46 20060101ALI20240607BHJP
B29C 45/17 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
C21D9/00 M
B22D23/10 590
C22C38/00 301H
C22C38/46
B29C45/17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019055812
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2022-03-22
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519103850
【氏名又は名称】エー. フィンクル アンド ソンス シーオー.
【氏名又は名称原語表記】A. Finkl & Sons Co.
【住所又は居所原語表記】United States Illinois 60619 Chicago 1355 E. 93rd St.
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ルイス‐フィリッペ ラピエッレ
(72)【発明者】
【氏名】アルガーダス アンダリス
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0226605(US,A1)
【文献】特開2000-303140(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0144233(US,A1)
【文献】特開2013-163848(JP,A)
【文献】国際公開第2017/142455(WO,A1)
【文献】特表2011-518957(JP,A)
【文献】特開2010-138454(JP,A)
【文献】特開2005-344194(JP,A)
【文献】特開2003-138342(JP,A)
【文献】特開2000-017384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00
B22D 23/06-23/10
C22C 38/00-38/60
B29C 45/17、33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20インチ以上の大きさの断面における焼入硬化能の優れたプラスチック射出成形工具の製造方法であって:
(1) 加熱ユニット中で全粉末合金成分のうちの一部を有する鋼鉄溶解物を形成させる工程;
(2) 該溶解物をレセプタクルに移し、それによって加熱物を形成させる工程;
(3) 加熱し、合金組成物を仕様までさらに合金化し、かつアルゴンによるパージ、磁気撹拌、又は何らかの他の混合法を使用して撹拌することにより該加熱物を精錬する工程;
(4) 該加熱物を真空脱気し、下注ぎ法により鋳型に注ぎ、かつ成形してインゴットを形成させる工程;
(5) 該インゴットを再溶解させる工程;
(6) 該インゴットを熱間加工して20インチ以上の大きさの均一な焼入硬化能の横断面を有する鋳型及びダイブロックを形成させる工程であって、該鋳型及びダイブロックが重量パーセントにして以下の組成:
【表1】
を有する、前記工程;
(7) 急冷及び焼戻しによって該鋳型及びダイブロックを熱処理する工程;並びに
(8) 該急冷及び焼戻しをしたブロックからプラスチック射出成形工具を形成させる工程、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記インゴットを再溶解させる工程が、真空アーク再溶解(VAR)によって該インゴットを再溶解させることを含む、請求項1記載のプラスチック射出成形工具の製造方法。
【請求項3】
前記インゴットを再溶解させる工程が、エレクトロスラグ再溶解(ESR)によって該インゴットを再溶解させることを含む、請求項1記載のプラスチック射出成形工具の製造方法。
【請求項4】
前記加熱ユニットが電弧炉である、請求項1記載のプラスチック射出成形工具の製造方法。
【請求項5】
前記加熱ユニットが真空誘導炉である、請求項1記載のプラスチック射出成形工具の製造方法。
【請求項6】
前記鋳型及びダイブロックが、さらに重量パーセントにして以下の組成:
【表2】
を有することを特徴とする、請求項1記載のプラスチック射出成形工具の製造方法。
【請求項7】
前記鋳型及びダイブロックが、さらに重量パーセントにして以下の組成:
【表3】
を有することを特徴とする、請求項1記載のプラスチック射出成形鋳型及びダイブロック工具の製造方法。
【請求項8】
焼入硬化能が均一で高いプラスチック射出成形工具の製造方法であって:
(1) 全粉末合金成分のうちの一部を有する鋼鉄溶解物を形成させる工程;
(2) 該溶解物をレセプタクルに移し、それによって加熱物を形成させる工程;
(3) 加熱し、合金組成物を仕様までさらに合金化し、かつアルゴンによるパージ、磁気撹拌、又は何らかの他の混合法を使用して撹拌することにより該加熱物を精錬する工程;
(4) 該加熱物を真空脱気し、下注ぎ法により鋳型に注ぎ、かつ成形してインゴットを形成させる工程;
(5) 該インゴットを再溶解させる工程;
(6) 該インゴットを熱間加工して20インチ以上の大きさの均一な焼入硬化能の横断面を有する鋳型及びダイブロックを形成させる工程であって、該鋳型及びダイブロックが重量パーセントにして以下の組成:
【表4】
を有する、前記工程;
(7) 急冷及び焼戻しによって該鋳型及びダイブロックを熱処理する工程;並びに
(8) 該急冷及び焼戻しをしたブロックから該プラスチック射出成形工具を形成させる工程、を含む、前記方法。
【請求項9】
前記インゴットを再溶解させる工程が、該インゴットを真空アーク再溶解(VAR)によって再溶解することを含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記インゴットを再溶解させる工程が、該インゴットをエレクトロスラグ再溶解(ESR)によって再溶解することを含む、請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記鋼鉄溶解物を形成させる工程が、電気アーク溶解によって該鋼鉄溶解物を形成させることを含む、請求項8記載の方法。
【請求項12】
前記鋼鉄溶解物を形成させる工程が、真空誘導溶解によって該鋼鉄溶解物を形成させることを含む、請求項8記載の方法。
【請求項13】
前記鋳型及びダイブロックが、重量パーセントにして以下の組成:
【表5】
を有している、請求項8記載の方法。
【請求項14】
前記鋳型及びダイブロックが、重量パーセントにして以下の組成:
【表6】
を有している、請求項8記載の方法。
【請求項15】
20インチ以上の大きさの断面における焼入硬化能の優れたプラスチック射出成形工具の製造方法であって:
(1) 加熱ユニット中で全粉末合金成分のうちの一部を有する鋼鉄溶解物を形成させる工程;
(2) 該溶解物をレセプタクルに移し、それによって加熱物を形成させる工程;
(3) 加熱し、合金組成物を仕様までさらに合金化し、かつアルゴンによるパージ、磁気撹拌、又は何らかの他の混合法を使用して撹拌することにより該加熱物を精錬する工程;
(4) 該加熱物を真空脱気し、下注ぎ法により鋳型に注ぎ、かつ成形してインゴットを形成させる工程;
(5) 該インゴットを再溶解させる工程;
(6) 該インゴットを熱間加工して20インチ以上の大きさの均一な焼入硬化能の横断面を有する鋳型及びダイブロックを形成させる工程であって、該鋳型及びダイブロックが0.05~0.20重量%のバナジウムを含む、前記工程;
(7) 急冷及び焼戻しによって該鋳型及びダイブロックを熱処理する工程;並びに
(8) 該急冷及び焼戻しをしたブロックからプラスチック射出成形工具を形成させる工程、を含む、前記方法。
【請求項16】
前記インゴットを再溶解させる工程が、真空アーク再溶解(VAR)及びエレクトロスラグ再溶解(ESR)のうちの1つによって該インゴットを再溶解させることを含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記鋳型及びダイブロックが、重量パーセントにして以下の元素:
【表7】
をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記鋳型及びダイブロックが、重量パーセントにして以下の組成:
【表8】
を有している、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記鋳型及びダイブロックが、重量パーセントにして以下の組成:
【表9】
を有している、請求項16記載の方法。
【請求項20】
前記加熱ユニットが電弧炉である、請求項16記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、米国特許法第120条に従う2016年2月5日に出願された米国特許出願第14/998,701号の一部継続である。
【0002】
(開示の分野)
本発明は、プラスチック射出成形工具、及びまた現在入手可能な市販製品と対比して、大きな断面における硬化特性及び焼入硬化能特性が著しく増加した低炭素鋳型鋼から形成された大型鍛造物に関する。上記の特質は、同等の又はより優れた機械加工性及び金型分割線における摩耗の改善とともに得られる。二重溶解プロセスと組合わせて製造する場合、本発明により、工具セット中の鋳造された部分の研磨特性及び他の特質を顕著に改善することができる。
【背景技術】
【0003】
(開示の背景)
プラスチックは未来の高性能低燃費自動車に重要であるため、自動車産業におけるプラスチックの地位は非常に高まっている。プラスチックは軽量かつ多目的のデザイン並びに製造費用の低下をもたらすことにより、設計者及び技術者に多くの用途における複数の利点を提供する。プラスチックの多機能性は、多岐にわたる形状及び表面仕上げが現在可能であることにより表すことができる。しかしながら、この多機能性は、高品質のプラスチック射出成形鋳型鋼なくしては可能でないだろう。低燃費自動車への需要の増加により、設計者はより空気力学的な自動車を創造するように後押しされており、それにはバンパー、ダッシュボード、及びドアパネルなどのより大きく複雑なプラスチック部品が要求される。他の産業でも、屋外家具などのプラスチック部品が同様に求められている。プラスチック射出成形は高速の生産に使用され、工具鋼をこの用途に使用する。高品質プラスチック射出成形鋳型鋼の特性は、鋳型製造業者からエンドユーザにわたって異なっている。機械加工性に優れていること並びに優れた表面仕上げを提供できることは、鋳型製造業者にとって重要な特徴である。しかしながら、硬さが均一であることは、エンドユーザにとって形状の歪みなく部品を生産するのに重要となる。部品のサイズが大きくなるにつれ、鋳型をより大きくしなくてはならず、それでも断面の全体にわたってこれらの特性が提示されなくてはならない。
【発明の概要】
【0004】
(開示の概要)
本件開示の一態様に従って、20インチ以上の大きさの断面におけるきわめて優れた焼入硬化能を有するプラスチック射出成形工具の製造方法を開示する。この方法は:(1) 加熱ユニット中で全合金成分のうちの一部を有する鋼鉄溶解物を形成させる工程;(2) 該溶解物をレセプタクルに移し、それによって加熱物を形成させる工程;(3) 加熱し、合金組成物を仕様までにさらに合金化し、かつアルゴンによるパージ、磁気撹拌、又は何らかの他の混合法を使用して撹拌することにより該加熱物を精錬する工程;(4) 該加熱物を真空脱気し、下注ぎ法により鋳型に注ぎ、かつ成形してインゴットを形成させる工程;(5) 該インゴットを再溶解させる工程;並びに(6) 該インゴットを熱間加工して20インチ以上の大きさの横断面を有する鋳型及びダイブロックを形成させる工程を含み得る。該鋳型及びダイブロックが重量パーセントにして以下の組成:
【表1】
を有し得る。
【0005】
この方法は:(7) 急冷及び焼戻しによって該鋳型及びダイブロックを熱処理する工程;並びに(8) 該急冷及び焼戻しをしたブロックからプラスチック射出成形工具を形成させる工程、をさらに含み得る。
【0006】
別の方策において、該インゴットを再溶解させる工程は、該インゴットを真空アーク再溶解(VAR)によって再溶解することを含み得る。
【0007】
別の方策において、該インゴットを再溶解させる工程は、該インゴットをエレクトロスラグ再溶解(ESR)によって再溶解することを含み得る。
【0008】
別の方策において、該加熱ユニットは電弧炉である。
【0009】
別の方策において、該加熱ユニットは真空誘導炉である。
【0010】
別の方策において、該鋳型及びダイブロックは、重量パーセントにして以下の組成:
【表2】
を有している。
【0011】
別の方策において、該鋳型及びダイブロックは、重量パーセントにして以下の組成:
【表3】
を有している。
【0012】
本件開示の別の態様に従って、20インチ以上の大きさの断面における焼入硬化能が均一であるプラスチック射出成形工具を開示する。プラスチック射出成形工具は:(1) 全合金成分のうちの一部を有する鋼鉄溶解物を形成させる工程;(2) 該溶解物をレセプタクルに移し、それによって加熱物を形成させる工程;(3) 加熱し、合金組成物を仕様までさらに合金化し、かつアルゴンによるパージ、磁気撹拌、又は何らかの他の混合法を使用して撹拌することにより該加熱物を精錬する工程;(4) 該加熱物を真空脱気し、下注ぎ法により鋳型に注ぎ、かつ成形してインゴットを形成させる工程;(5) 該インゴットを再溶解させる工程;並びに(6) 該インゴットを熱間加工して20インチ以上の大きさの横断面を有する鋳型及びダイブロックを形成させる工程、を含む方法によって製造することができる。該鋳型及びダイブロックは、重量パーセントにして以下の組成:
【表4】
を有し得る。
【0013】
この方法は:(7) 急冷及び焼戻しによって該鋳型及びダイブロックを熱処理する工程;並びに(8) 該急冷及び焼戻しをしたブロックからプラスチック射出成形工具を形成させる工程、をさらに含み得る。
【0014】
別の方策において、該インゴットを再溶解させる工程は、真空アーク再溶解(VAR)によって該インゴットを再溶解することを含む。
【0015】
別の方策において、該インゴットを再溶解させる工程は、エレクトロスラグ再溶解(ESR)によって該インゴットを再溶解することを含む。
【0016】
別の方策において、該鋼鉄溶解物を形成させる工程は、電気アーク溶解によって該鋼鉄溶解物を形成することを含む。
【0017】
別の方策において、該鋼鉄溶解物を形成させる工程は、真空誘導溶解によって該鋼鉄溶解物を形成させることを含む。
【0018】
別の方策において、該鋳型及びダイブロックは、重量パーセントにして以下の組成:
【表5】
を有する。
【0019】
別の方策において、該鋳型及びダイブロックは、重量パーセントにして以下の組成:
【表6】
を有する。
【0020】
本件開示の別の態様に従って、20インチ以上の大きさの断面における焼入硬化能のきわめて優れたプラスチック射出成形工具の製造方法を開示する。この方法は、(1) 加熱ユニット中で全合金成分のうちの一部を有する鋼鉄溶解物を形成させる工程;(2) 該溶解物をレセプタクルに移し、それによって加熱物を形成させる工程;(3) 加熱し、合金組成物を仕様までさらに合金化し、かつアルゴンによるパージ、磁気撹拌、又は何らかの他の混合法を使用して撹拌することにより該加熱物を精錬する工程;(4) 該加熱物を真空脱気し、下注ぎ法により鋳型に注ぎ、かつ成形してインゴットを形成させる工程;(5) 該インゴットを再溶解させる工程;並びに(6) 該インゴットを熱間加工して20インチ以上の大きさの横断面を有する鋳型及びダイブロックを形成させる工程、を含み得る。該鋳型及びダイブロックは、0.05~0.20重量パーセントのバナジウムを含み得る。この方法は:(7) 急冷及び焼戻しによって該鋳型及びダイブロックを熱処理する工程;並びに(8) 該急冷及び焼戻しをしたブロックからプラスチック射出成形工具を形成させる工程、をさらに含み得る。
【0021】
別の方策において、該インゴットを再溶解させる工程は、真空アーク再溶解(VAR)及びエレクトロスラグ再溶解(ESR)のうちの1つによって該インゴットを再溶解させることを含み得る。
【0022】
別の方策において、該鋳型及びダイブロックは、重量パーセントにして以下の元素:
【表7】
をさらに含み得る。
【0023】
別の方策において、該鋳型及びダイブロックは、重量パーセントにして以下の組成:
【表8】
を有し得る。
【0024】
別の方策において、該鋳型及びダイブロックは、重量パーセントにして以下の組成:
【表9】
を有し得る。
【0025】
別の方策において、該加熱ユニットは、電弧炉である。
【0026】
他の目的及び利点は以下の説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
(図面の簡単な説明)
【
図1】
図1は本件開示の方法に従って、プラスチック射出成形工具の製造に関与し得る一連の工程のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(開示の詳細な説明)
炭素は要求される硬度及び耐摩耗性を提供するのに必要である。炭素が0.40%よりも有意に高い場合、鋳型ブロックは低い機械加工性及び研磨特性を示す。好ましくは、優れた機械加工性を保証するために最大0.35%の炭素を使用する。実質的に0.15%を下回る炭素を使用する場合、耐摩耗性及び機械特性は、鋳型ブロックが付される供給時の条件に適さないであろう。好ましくは、許容し得る耐摩耗性、硬度、及び機械特性を保証するために最低0.20%の炭素を使用する。最も好ましくは、0.30%とすることを目的として、0.25%~.035%の範囲の炭素を使用する。
【0029】
マンガンは焼入硬化能に、かつ製鋼プロセスにおける還元剤として不可欠である。また、マンガンは鍛造作業において他の合金元素との組合わせにより硫化物を抑制するように働く。1.10%より有意に高く存在すると、保持されているオーステナイトが存在するリスクが存在する。実質的に0.60%を下回るマンガンが存在すると、鋳型ブロックの焼入硬化能は低下することとなる。さらに、確実に硫黄を抑制するためには、マンガン含有物は硫黄含有量の少なくとも20倍の量だけ存在するべきである。また、他の炭化物形成物質と比較して程度は低いものの、マンガンは耐摩耗性にも寄与する。好ましくは、マンガンは0.70%~1.10%、最も好ましくは0.80%~1.10%の範囲で存在する。
【0030】
ケイ素は製鋼プロセスにおけるその還元能を特徴とする。実質的に0.60%を上回る量で存在すると、最終製品が脆化しやすくなる。
【0031】
クロムは炭化物形成、焼入硬化能、及び耐摩耗性に必要である。クロムが最大2.00%を実質的に上回って存在する場合、通常の生産熱処理プロセスのための焼入温度は高くなりすぎる。1.00%の指定された最低限度を下回ると、耐摩耗性に負の影響が及ぼされることとなる。好ましくは、クロムは1.10%~2.00%、最も好ましくは1.20%~2.00%の量で存在する。
【0032】
ニッケルはフェライトを強化し、鋳型ブロックに硬度を与えるのに要求される。1.00%を実質的に上回る量だけ存在すると、オーステナイトが保持され、機械加工性が減少するリスクが存在する。また、過剰のニッケルにより高温での毛割れが促進され、これにより鍛造プロセスの間のスカーフィング及び/又は精整が必要となり得る。ニッケルが0.30%の指定された最低限度を実質的に下回ると、鋳型ブロックは焼入硬化能が低下し、供給の間の硬度が不足することとなる。ニッケルは好ましくは0.20%~0.90%の範囲、最も好ましくは0.30%~0.80%の範囲で存在するべきである。
【0033】
モリブデンは強力な炭化物形成物質であるという事実によって焼入硬化能及び耐摩耗性に寄与する重要な元素である。その有益な作用は0.20%~0.55%の範囲のモリブデンで有効であるが、好ましくは該作用は0.30%~0.55%の範囲のモリブデン、最も好ましくは0.35%~0.55%の範囲のモリブデンの上帯(upper band)に維持する。
【0034】
バナジウムは重要な元素であり、焼入硬化能、耐摩耗性、及び細粒化特性へのその影響が大きいことを特徴とする。適切な熱処理と組合わせて指定された0.05%~0.20%の範囲のバナジウムを添加することにより、特に少なくとも20インチの大きな断面での焼入硬化能を顕著に改善することができることが発見された。表1に示すバナジウムを除き、統計学的に一定である合金成分を含む鋼鉄試料の試験から、バナジウムの添加により焼入硬化能が有意に増加したことが示された。
表1
【表10】
【0035】
鋼鉄X0について、モリブデン及びマンガンを含む一種の炭化物が主として存在した。X20はバナジウムを含む第二種の炭化物が追加されていたことを除いて同一の炭化物を示した。炭化バナジウム族は炭化クロムと比較して経時変化に対してずっと安定である。全ての特性について最適な効果を得るために、バナジウムは好ましくは0.07%~0.20%の範囲、最も好ましくは図に示したように0.15%とすることを目的として0.10%~0.20%の範囲で存在する。また、バナジウムは耐摩耗性及び機械加工性に著しい影響を有する。
【0036】
アルミニウムは細粒化に望ましいが、望ましくない不純物であるアルミン酸塩の存在をもたらすことにより、鋼鉄の質に有害な作用を有し得る。従って、最終溶解組成物中のアルミニウムの添加を最大0.040%を限度に抑えることが重要である。最も好ましくは、アルミニウムを0.020%に合わせることにより、細粒化を達成することとなる。
【0037】
リンは機械加工性を増加させ得るが、工具鋼におけるこの元素の有害作用、例えば延性脆性遷移温度の増加があらゆる有益な作用を上回る。従って、リン含有量は指定された0.025%の最大量を上回るべきでなく、最も好ましくは0.015%未満とする。
【0038】
硫黄は機械加工性に重要な元素であり、工具鋼中の含有量を最大0.045%とすることにより、許容し得る機械加工性が与えられると一般に考えられている。しかしながらまた、硫黄はこの種の鋼鉄において加工中の熱脆性並びに研磨特性及び表面特性の低下を含むいくつかの有害作用を有する。炭化物のサイズへのバナジウムの作用は機械加工性に著しい影響を有するので、硫黄は0.025%未満、好ましくは0.015%未満、及び最も好ましくは0.005%未満の値に維持することが望ましい。
【0039】
鋳型及びダイブロックの20インチ以上の大きさの断面における心部対硬度の比較試験により、断片の焼入硬化能は、横断面の全体にわたって実質的に均一であることが開示された。このことは、そのような大きな断面の焼入硬化能が中心付近で低下する傾向がある、現在利用可能な鋼鉄から作製された工具セットを上回る著しい改善である。
【0040】
20インチ以上の大きさの断面における焼入硬化能が高いプラスチック射出成形工具の製造に含まれ得る一連の工程を
図1に示す。第1のブロック102では、鋼鉄溶解物を加熱ユニット、例えば電弧炉中で形成させ得る。溶解物は必要な合金の全てではないが大部分を含み得、その結果例えばアルミニウムはプロセスの終了時近くまで据え置かれる。鋼鉄溶解物を形成させるのに使用する加熱ユニットが当業者には明らかである他の種類の加熱ユニット、例えばこれらに限定はされないが、真空誘導炉又はレーザー溶解装置であってもよいことを理解されたい。従って、鋼鉄溶解物は様々な方法、例えばこれらに限定はされないが、電気アーク溶解、真空誘導溶解、レーザー溶解、及び当業者には明らかである他の好適な加熱法によって形成させることができる。例えば、いくつかの実施態様において、合金元素を粉末として供給し、レーザーで溶解させて鋼鉄溶解物を形成させることができる。
【0041】
溶解物を形成させた後、ブロック104に従ってそれをレセプタクル、例えば下注ぎ法取瓶に移し、それによって加熱物を形成させる。その後、加熱物を加熱し、合金が均一に分散し、加熱物の合金組成が仕様通りになるまで加熱物を混合することによりさらに合金化し、精錬する(ブロック106)。その後、ブロック108に従って加熱物を真空脱気に付し、続いてインゴット鋳型へと下注ぎ法により注ぐ。
【0042】
さらに、ブロック110に従って、インゴットを任意に第二の溶解プロセスとしての再溶解に付してもよい。再溶解により、インゴットの化学的及び/又は機械的均一性を増加させることにより、並びにインゴットの微細構造特性により高度な制御を提供することにより、インゴットの質を向上させることができる。再溶解は真空アーク再溶解(VAR)、エレクトロスラグ再溶解(ESR)、又は当業者には明らかである他の好適な再溶解法によって完遂することができる。
【0043】
凝固させた後、インゴットを熱間加工して結果として生じる低度合金化鋼鉄を20インチ以上の大きさの横断面を有する鋳型及びダイブロック中で形成させることができる(ブロック112)。その後、次のブロック114に従って鋳型及びダイブロックを好ましくは水中で急冷することにより熱処理し、焼戻すことができる。次のブロック116で、プラスチック射出成型工具を急冷し、焼戻した鋳型及びダイブロックから形成させることができる。
【0044】
本明細書には本発明の具体例が開示されているが、当業者には本発明の趣旨及び範囲内で変更を加えることができることが明白であろう。従って、関連する従来技術を考慮して解釈する際には、この後の添付の特許請求の範囲の範囲によってのみ本発明の範囲を限定すべきであることを意図するものである。
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
20インチ以上の大きさの断面における焼入硬化能の優れたプラスチック射出成形工具の製造方法であって:
(1) 加熱ユニット中で全合金成分のうちの一部を有する鋼鉄溶解物を形成させる工程;
(2) 該溶解物をレセプタクルに移し、それによって加熱物を形成させる工程;
(3) 加熱し、合金組成物を仕様までさらに合金化し、かつアルゴンによるパージ、磁気撹拌、又は何らかの他の混合法を使用して撹拌することにより該加熱物を精錬する工程;
(4) 該加熱物を真空脱気し、下注ぎ法により鋳型に注ぎ、かつ成形してインゴットを形成させる工程;
(5) 該インゴットを再溶解させる工程;
(6) 該インゴットを熱間加工して20インチ以上の大きさの横断面を有する鋳型及びダイブロックを形成させる工程であって、該鋳型及びダイブロックが重量パーセントにして以下の組成:
(表1)
を有する、前記工程;
(7) 急冷及び焼戻しによって該鋳型及びダイブロックを熱処理する工程;並びに
(8) 該急冷及び焼戻しをしたブロックからプラスチック射出成形工具を形成させる工程、を含む、前記方法。
(態様2)
前記インゴットを再溶解させる工程が、真空アーク再溶解(VAR)によって該インゴットを再溶解させることを含む、態様1記載のプラスチック射出成形工具の製造方法。
(態様3)
前記インゴットを再溶解させる工程が、エレクトロスラグ再溶解(ESR)によって該インゴットを再溶解させることを含む、態様1記載のプラスチック射出成形工具の製造方法。
(態様4)
前記加熱ユニットが電弧炉である、態様1記載のプラスチック射出成形工具の製造方法。
(態様5)
前記加熱ユニットが真空誘導炉である、態様1記載のプラスチック射出成形工具の製造方法。
(態様6)
前記鋳型及びダイブロックが、さらに重量パーセントにして以下の組成:
(表2)
を有することを特徴とする、態様1記載のプラスチック射出成形工具の製造方法。
(態様7)
前記鋳型及びダイブロックが、さらに重量パーセントにして以下の組成:
(表3)
を有することを特徴とする、態様1記載のプラスチック射出成形鋳型及びダイブロック工具の製造方法。
(態様8)
20インチ以上の大きさの断面における焼入硬化能が均一で高いプラスチック射出成形工具であって:
(1) 全合金成分のうちの一部を有する鋼鉄溶解物を形成させる工程;
(2) 該溶解物をレセプタクルに移し、それによって加熱物を形成させる工程;
(3) 加熱し、合金組成物を仕様までさらに合金化し、かつアルゴンによるパージ、磁気撹拌、又は何らかの他の混合法を使用して撹拌することにより該加熱物を精錬する工程;
(4) 該加熱物を真空脱気し、下注ぎ法により鋳型に注ぎ、かつ成形してインゴットを形成させる工程;
(5) 該インゴットを再溶解させる工程;
(6) 該インゴットを熱間加工して20インチ以上の大きさの横断面を有する鋳型及びダイブロックを形成させる工程であって、該鋳型及びダイブロックが重量パーセントにして以下の組成:
(表4)
を有する、前記工程;
(7) 急冷及び焼戻しによって該鋳型及びダイブロックを熱処理する工程;並びに
(8) 該急冷及び焼戻しをしたブロックから該プラスチック射出成形工具を形成させる工程、を含む方法によって製造される、前記プラスチック射出成形工具。
(態様9)
前記インゴットを再溶解させる工程が、該インゴットを真空アーク再溶解(VAR)によって再溶解することを含む、態様8記載のプラスチック射出成形工具。
(態様10)
前記インゴットを再溶解させる工程が、該インゴットをエレクトロスラグ再溶解(ESR)によって再溶解することを含む、態様8記載のプラスチック射出成形工具。
(態様11)
前記鋼鉄溶解物を形成させる工程が、電気アーク溶解によって該鋼鉄溶解物を形成させることを含む、態様8記載のプラスチック射出成形工具。
(態様12)
前記鋼鉄溶解物を形成させる工程が、真空誘導溶解によって該鋼鉄溶解物を形成させることを含む、態様8記載のプラスチック射出成形工具。
(態様13)
前記鋳型及びダイブロックが、重量パーセントにして以下の組成:
(表5)
を有している、態様8記載のプラスチック射出成形工具。
(態様14)
前記鋳型及びダイブロックが、重量パーセントにして以下の組成:
(表6)
を有している、態様8記載のプラスチック射出成形工具。
(態様15)
20インチ以上の大きさの断面における焼入硬化能の優れたプラスチック射出成形工具の製造方法であって:
(1) 加熱ユニット中で全合金成分のうちの一部を有する鋼鉄溶解物を形成させる工程;
(2) 該溶解物をレセプタクルに移し、それによって加熱物を形成させる工程;
(3) 加熱し、合金組成物を仕様までさらに合金化し、かつアルゴンによるパージ、磁気撹拌、又は何らかの他の混合法を使用して撹拌することにより該加熱物を精錬する工程;
(4) 該加熱物を真空脱気し、下注ぎ法により鋳型に注ぎ、かつ成形してインゴットを形成させる工程;
(5) 該インゴットを再溶解させる工程;
(6) 該インゴットを熱間加工して20インチ以上の大きさの横断面を有する鋳型及びダイブロックを形成させる工程であって、該鋳型及びダイブロックが0.05~0.20重量%のバナジウムを含む、前記工程;
(7) 急冷及び焼戻しによって該鋳型及びダイブロックを熱処理する工程;並びに
(8) 該急冷及び焼戻しをしたブロックからプラスチック射出成形工具を形成させる工程、を含む、前記方法。
(態様16)
前記インゴットを再溶解させる工程が、真空アーク再溶解(VAR)及びエレクトロスラグ再溶解(ESR)のうちの1つによって該インゴットを再溶解させることを含む、態様15記載の方法。
(態様17)
前記鋳型及びダイブロックが、重量パーセントにして以下の元素:
(表7)
をさらに含む、態様16記載の方法。
(態様18)
前記鋳型及びダイブロックが、重量パーセントにして以下の組成:
(表8)
を有している、態様16記載の方法。
(態様19)
前記鋳型及びダイブロックが、重量パーセントにして以下の組成:
(表9)
を有している、態様16記載の方法。
(態様20)
前記加熱ユニットが電弧炉である、態様16記載の方法。