(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】粒子、およびその製造方法、並びにその粒子を用いた標的物質の検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/545 20060101AFI20240607BHJP
G01N 21/82 20060101ALI20240607BHJP
C08L 83/10 20060101ALI20240607BHJP
C08G 77/442 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
G01N33/545 B
G01N21/82
C08L83/10
C08G77/442
(21)【出願番号】P 2019188786
(22)【出願日】2019-10-15
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】掛川 法重
(72)【発明者】
【氏名】小林 本和
(72)【発明者】
【氏名】山内 文生
(72)【発明者】
【氏名】金崎 健吾
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-516006(JP,A)
【文献】特表2016-501286(JP,A)
【文献】特開2006-007203(JP,A)
【文献】国際公開第2005/100426(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 -33/98
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
G01N 21/82
C08L 83/10
C08G 77/442
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーを含むコア粒子の表面において、式(5)で示される化合物
に含まれるOH基を重合することでコア-シェル構造を有する粒子を得、さらに、
カルボキシ基を有するシランカップリング剤を前記コア-シェル構造を有する粒子の表面に導入することによって得られる粒子。
【化1】
(式(5)中、
A3は、置換基を有していてもよい炭素数2から4の直鎖状または分岐状のアルケニル基を表し、
Y4は、置換基を有していてもよい炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、およびヒドロキシ基からなる群から選ばれる。)
【請求項2】
前記ポリマーがポリスチレンである、請求項1に記載の粒子。
に記載の粒子。
【請求項3】
前記シェル構造の厚さが10nm以下である、請求項1または2に記載の粒子。
【請求項4】
前記シェル構造の厚さが3nm以上である、請求項3に記載の粒子。
【請求項5】
純水中での沈降速度が3.9×10
-3μm/秒以上である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の粒子と、前記粒子を分散させる分散媒とを有する分散液。
【請求項7】
前記粒子の平均直径が、100nm以上300nm以下である請求項6に記載の分散液。
【請求項8】
前記粒子の粒度分布の変動係数が5%以下である請求項6または7に記載の分散液。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の粒子とリガンドが結合しているアフィニティー粒子。
【請求項10】
前記リガンドが、抗体、抗原、および核酸からなる群から選ばれるいずれか1つであることを特徴とする請求項9に記載のアフィニティー粒子。
【請求項11】
請求項9または10に記載のアフィニティー粒子と、前記アフィニティー粒子を分散させる分散媒と、を有することを特徴とする体外診断用の検査試薬。
【請求項12】
凝集法用の請求項11に記載の検査試薬。
【請求項13】
請求項11または12に記載の検査試薬と、前記検査試薬を内包する筐体とを有する体外診断用の検査キット。
【請求項14】
請求項11または12に記載の検査試薬に、検体を混合する工程を有する検体中の標的物質の検出方法。
【請求項15】
請求項11または12に記載の検査試薬に、検体を混合して混合液を得る工程と、
前記混合液に、光を照射する工程と、
前記混合液に照射された光の、透過光または散乱光の少なくともいずれかを検出する工程と、
を有する凝集法による検体中の標的物質の検出方法。
【請求項16】
ポリマーを含むコア粒子を含む分散液を調製する工程と、
前記コア粒子の表面において、式(5)で示される化合物
に含まれるOH基を重合することでコア-シェル構造を有する粒子を得る工程と、
カルボキシ基を有するシランカップリング剤を前記コア-シェル構造を有する粒子の表面に導入する工程
を有する粒子の製造方法。
【化2】
(式(5)中、
A3は、置換基を有していてもよい炭素数2から4の直鎖状または分岐状のアルケニル基を表し、
Y4は、置換基を有していてもよい炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、およびヒドロキシ基からなる群から選ばれる。)
【請求項17】
前記ポリマーがポリスチレンである請求項16に記載の粒子の製造方法。
【請求項18】
前記式(5)で示される化合物のA3が、ビニル基である請求項16または17に記載の粒子の製造方法。
【請求項19】
前記コア-シェル構造を有する粒子を得る工程において、式(7)で示される化合物を重合することをさらに含む、請求項16乃至18のいずれか1項に記載の粒子の製造方法。
【化3】
(式(7)中、Y5およびY6は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、およびヒドロキシ基からなる群から選ばれる。)
【請求項20】
前記式(7)で示される化合物中のY4およびY5の少なくとも1つが、エトキシ基である請求項19に記載の粒子の製造方法。
【請求項21】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の粒子にリガンドを結合する工程を有するアフィニティー粒子の製造方法。
【請求項22】
前記リガンドが、抗体、抗原、および核酸のいずれかであることを特徴とする請求項21に記載のアフィニティー粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子、およびその製造方法、並びにその粒子を用いた標的物質の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医学、特に臨床検査の分野において、血液や採取された臓器の一部などから微量な生体成分を高感度で検出することは、病気の原因を追究するために必要である。生体成分の検出手法の中でも、免疫分析法が広く利用されている。免疫分析法の一つに、抗原抗体反応を利用した免疫ラテックス凝集測定法が知られている。この方法では、リガンドとして抗体または抗原を化学固定して成る粒子(以後、「アフィニティー粒子」と称する。)の分散液と、測定対象物質(抗原または抗体)を含有する可能性のある検体とを混合する。このとき、検体中に測定対象物質(抗体または抗原)が含有されていれば、アフィニティー粒子が凝集反応を生じるため、この凝集反応を、散乱光強度、透過光強度、吸光度などの変化量として光学的に検出することで測定対象物質の有無を特定および/または定量することができる。
【0003】
免疫ラテックス凝集測定法に用いられる粒子について、感度向上と非特異的吸着の抑制が課題となっている。検出感度の向上には、粒子上のリガンドの量を増やすことが提案されている。例えば、特許文献1には、粒子の比表面積を増加させることで、抗体感作量を増やしている。粒子上のリガンドの量が増えることで、検出できる抗原または抗体の量が増加する。非特異的吸着の抑制には、検体中の夾雑物質の粒子への吸着を回避するために、アルブミンや親水性ポリマーでアフィニティー粒子をポストコートする方法が、特許文献2に開示されている。特許文献1のリガンドの量を増大させた粒子についても、特許文献2ではアルブミンでポストコートして、非特異的吸着を抑制している。
【0004】
ところで、近年、標的物質に対して親和性を有するリガンドを粒子に化学固定して成るアフィニティー粒子を使用した標的物質の精製や定量について広く研究がされている。粒子表面にリガンドを化学固定する場合、カルボキシ基、アミノ基、チオール基などの反応性官能基を導入する工程を経た後、この反応性官能基とリガンドとを化学反応させる方法が一般的である。中でもカルボキシ基を反応性官能基として導入した粒子は、粒子表面にリガンドを化学固定する上で最も汎用性があり、好ましい。
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に記載された粒子では、検出感度の向上と非特異的吸着の抑制を両立させることは困難であった。すなわち、粒子上のリガンドの量を増やすことで感度の向上は達成できるが、非特異的吸着を抑制するためにポストコートが必要である。また、ポストコートの領域を確保するために、粒子に対するリガンド固定量が制限を受ける。さらに、ポストコートは粒子表面の親水化には有効であるが、物理吸着に基づく一時的な表面修飾であるため、ポストコートが不要な非特異的吸着が抑制された粒子が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-266970号公報
【文献】国際公開第2017/138608号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題を解決するために、本発明者らはポリマーを含むコア構造の表面に、シロキサンの重合体からなるシェル構造を設けた粒子を見出した。この粒子は、粒子表面がシロキサン由来のシラノール基を有するために、粒子表面の親水性を高くすることができ、非特異的吸着を抑制する効果が高い粒子であった。
【0008】
しかしながら、上記粒子を用いた免疫ラテックス凝集測定法は予想に反して、粒子上へのリガンドの導入量が低いものであった。
【0009】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、免疫ラテックス凝集測定法において、非特異的吸着が抑制された粒子、およびその製造方法、並びにその粒子を用いた標的物質の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態は、ポリマーを含むコア構造と、式(1)で示される構造を含むシェル構造と、を含む粒子である。
【化1】
式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、末端に少なくとも1つのカルボキシ基を有する炭素数6から30の直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、該アルキル基の炭素鎖中に-NHCO-、-OCO-、-NH-、-O-、-S-、および-CO-から選ばれる少なくとも一つを含んでもよく、A1は、置換基を有していてもよい炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2から4の直鎖状または分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2から4の直鎖状または分岐状のアルキニル基、アミノ基、カルボキシ基、グリシジル基、およびチオール基からなる群から選ばれる基を表し、X1、X2、X3、X4、およびX5は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、およびシリカ構造からなる群から選ばれ、X3、X4、およびX5の少なくとも1つはヒドロキシ基である。
【0011】
本発明の別の実施形態は、上記粒子と該粒子を分散させる分散媒とを有する分散液である。
本発明のさらに別の実施形態は、上記粒子とリガンドが結合しているアフィニティー粒子、および該アフィニティー粒子を分散させる分散媒を有する検査試薬である。
本発明の別の実施形態は、上記検査試薬と、該検査試薬を内包する筐体とを有する体外診断用の検査キットである。
本発明の別の実施形態は、上記検査試薬を用いた検体中の標的物質の検出方法である。
【0012】
本発明の別の実施形態は、ポリマーを含むコア粒子を含む分散液を調製する工程と、前記コア粒子の表面において、式(5)で示される化合物を重合することでコア-シェル構造を有する粒子を得る工程と、式(6)で示される化合物を前記コア-シェル構造を有する粒子の表面に導入する工程を有する粒子の製造方法である。
【化2】
式(5)中、A3は、置換基を有していてもよい炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2から4の直鎖状または分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2から4の直鎖状または分岐状のアルキニル基、アミノ基、カルボキシ基、グリシジル基、およびチオール基からなる群から選ばれる基を表し、Y4は、置換基を有していてもよい炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、およびヒドロキシ基からなる群から選ばれる。
【化3】
式(6)中、R3およびR4は、それぞれ独立に、末端に少なくとも1つのカルボキシ基を有する炭素数6から30の直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、該アルキル基の炭素鎖中に-NHCO-、-OCO-、-NH-、-O-、-S-、および-CO-から選ばれる少なくとも一つを含んでもよく、X6、X7、X8、およびX9は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、およびシリカ構造からなる群から選ばれ、X6、X7、X8、およびX9の少なくとも2つはヒドロキシ基である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の粒子によれば、粒子表面と反応性官能基が一定の距離を有するため、粒子上へのリガンドの導入が効率的に行われる。また、粒子表面の親水性が高いため、非特異的吸着が抑制される。これらの効果が相乗的に発揮されることにより、本発明の粒子にリガンドを導入したアフィニティー粒子は、免疫ラテックス凝集測定法で用いられる場合に高い感度を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0015】
(粒子の詳細な説明)
本実施形態に係る粒子の一例について以下に詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係る粒子は、ポリマーを含むコア構造と、式(1)で示される構造を含むシェル構造と、を含む粒子であり、シェル構造が少なくともコア構造の一部を被覆していることが好ましい。
【0017】
(コア構造)
本実施形態の粒子のコア構造は、ポリマーを含む。ポリマーは、熱可塑性樹脂でもよく、熱硬化性樹脂でもよい。好ましくは、ポリマーはポリスチレンまたはポリ(メタ)アクリレートであり、より好ましくはポリスチレンである。ポリマーがポリスチレンである場合、コア構造は、その強度を向上させるために、ジビニルベンゼン由来の部位を含んでいてもよい。さらに、スチレンを重合してポリスチレンを含むコア構造としての粒子(以下、「コア粒子」とも称する。)を得る場合、コア粒子の直径を厳密に制御してスチレンを重合するために添加剤などを加えても良い。そのような添加剤としては、ドデシル硫酸ナトリウムやパラスチレンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。そのため、コア構造はドデシル硫酸ナトリウムやパラスチレンスルホン酸ナトリウムなどの添加剤由来の構造を有していてもよい。
【0018】
コア構造の直径は、免疫ラテックス凝集測定法に用いる観点から、100nm以上300nm以下であることが好ましい。また、コア構造の粒度分布の変動係数、すなわちコア構造の平均直径を標準偏差で割った数値が5%以下であることが好ましい。好適には、コア構造は、直径150nm以上250nm以下、粒度分布の変動係数が3%以下である。
コア構造の直径および粒度分布の変動係数は、後述するように、コア粒子を走査型電子顕微鏡などで観察することにより求めることができる。
【0019】
(シェル構造)
本実施形態の粒子のシェル構造は、式(1)で示される構造を含む。
【化4】
式(1)中、
R1およびR2は、それぞれ独立に、末端に少なくとも1つのカルボキシ基を有する炭素数6から30の直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、該アルキル基の炭素鎖中に-NHCO-、-OCO-、-NH-、-O-、-S-、および-CO-から選ばれる少なくとも一つを含んでもよく、A1は、置換基を有していてもよい炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2から4の直鎖状または分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2から4の直鎖状または分岐状のアルキニル基、アミノ基、カルボキシ基、グリシジル基、およびチオール基からなる群から選ばれる基を表し、X1、X2、X3、X4、およびX5は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、およびシリカ構造からなる群から選ばれ、X3、X4、およびX5の少なくとも1つはヒドロキシ基である。
【0020】
また、本実施形態の粒子のシェル構造は、式(2)で示される構造を含んでいてもよい。
【化5】
式(2)中、
Y1は、置換基を有していてもよい炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、ヒドロキシ基、およびシリカ構造からなる群から選ばれる基を表し、A2は、置換基を有していてもよい炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2から4の直鎖状または分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2から4の直鎖状または分岐状のアルキニル基、アミノ基、カルボキシ基、グリシジル基、およびチオール基からなる群から選ばれる基を表す。
【0021】
またさらに、本実施形態の粒子のシェル構造は、式(3)で示される構造を含んでいてもよい。
【化6】
式(3)中、Y2およびY3は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、ヒドロキシ基、およびシリカ構造からなる群から選ばれる。
【0022】
本実施形態において、シリカ構造とは、SiとOが交互に結合することで2次元状、または3次元状にネットワーク構造をなしたものである。また、シリカ構造は、Siに結合したOがHと結合した部分構造を有していても良い。具体的には、シリカ構造は式(1)~(3)で示される構造が繰り返される構造である。式(2)および式(3)で示される構造は、シリカ構造が2次元状にネットワーク構造をなしていることを示しているが、式(2)で示される構造においては、Y1が式(1)~(3)で示される構造である場合に3次元状の、すなわち複数層のシリカ構造からなるネットワーク構造をなす。また、式(3)で示される構造においては、Y2および/またはY3が式(1)~(3)で示される構造である場合に3次元状のネットワーク構造をなす。
【0023】
式(1)で示される構造中のR1およびR2は、本実施形態の粒子におけるリンカー部に相当し、末端に少なくとも1つのカルボキシ基を有する炭素数6から30の直鎖状または分岐状のアルキル基である。R1およびR2は、カルボキシ基を2以上有していてもよい。カルボキシ基を2以上有する場合、複数のカルボキシ基は、同一の直鎖上に結合していてもよいし、複数の分岐鎖のそれぞれが一つのカルボキシ基を有していてもよい。2以上のカルボキシ基のそれぞれが、異なる分岐鎖の末端の炭素に結合した構造であることが好ましい。さらに、R1およびR2において、Si原子と結合する炭素からカルボキシ基が結合する炭素までの鎖長のうち、最も短いものが6以上であることが好ましい。ここで、アルキル基の炭素鎖中に-NHCO-、-OCO-、-NH-、-O-、-S-、および-CO-を含むとは、-NHCO-および-OCO-であれば、それぞれがアルキル鎖中のエチレン基と置換することを意味する。また、-NH-、-O-、-S-、および-CO-であれば、アルキル鎖中のメチレン基と置換することを意味する。
【0024】
R1およびR2が、アルキル基の炭素鎖中に-NHCO-、-OCO-、-NH-、-O-、-S-、および-CO-から選ばれる少なくとも一つを含む場合、式(1)で示される構造の親水性を増すことができ、免疫ラテックス凝集測定法における非特異的吸着が、より抑制されるために好ましい。
【0026】
式(1)で示される構造中のA1および式(2)で示される構造中のA2で示される、炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、およびイソブチル基があげられる。
式(1)で示される構造中のA1および式(2)で示される構造中のA2で示される、炭素数2から4の直鎖状または分岐状のアルケニル基としては、ビニル基、1-メチルビニル基、1-エチルビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基などがあげられる。
式(1)で示される構造中のA1および式(2)で示される構造中のA2で示される、炭素数2から4の直鎖状または分岐状のアルキニル基としては、エチニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基などがあげられる。
これらアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基の置換基としては、アミノ基、カルボキシ基、チオール基、並びにフッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子などのハロゲン原子などがあげられる。
A1およびA2が、ビニル基、3-メルカプトプロピル基、および3-アミノプロピル基からなる群から選ばれる基であると、シェル構造の厚さが均一なコア-シェル構造を有する粒子となり好ましい。
【0027】
式(1)で示される構造中のX1、X2、X3、X4、およびX5、式(2)で示される構造中のY1、並びに式(3)で示される構造中のY2およびY3で示される、置換基を有していてもよい炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、およびイソブトキシ基があげられる。直鎖状または分岐状のアルコキシ基の置換基としては、アミノ基、カルボキシ基、チオール基、並びにフッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子などのハロゲン原子などがあげられる。
【0028】
式(1)で示される構造中、X3、X4、およびX5の少なくとも1つはヒドロキシ基であると、R1およびR2が有するカルボキシ基がシェル構造から十分な距離をとることができ、本実施形態の粒子にリガンドを導入したアフィニティー粒子が免疫ラテックス凝集測定法で用いられる場合に、高い感度を奏することが可能となり好ましい。X3、X4、およびX5の全てがヒドロキシ基であるとより好ましい。
【0029】
本実施形態の粒子において、コア構造の平均直径が100nm以上300nm以下である場合、リンカー部を含むシェル構造の厚さが10nm以下であることが好ましい。コア構造の平均直径とリンカー部を含むシェル構造の厚さがこの範囲である場合、温度25℃における純水中での粒子の沈降速度を3.9×10-3μm/秒以下とすることができる。なお、リンカー部を含むシェル構造の厚さが3nm以上であると、温度25℃における純水中での粒子の沈降速度を1.1×10-3μm/秒以上とすることができ、さらに好ましい。純水中での粒子の沈降速度がこの範囲であると、免疫ラテックス凝集測定法において、検体を捕捉したアフィニティー粒子の凝集体に光を照射し、その光の透過光や散乱光を検出するための時間を十分に確保することができ、免疫ラテックス凝集測定法の感度を高くすることができる。
【0030】
本実施形態の粒子において、リンカー部を含むシェル構造の厚さは、走査型透過電子顕微鏡(STEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)で粒子を観察し、観察した像においてコア構造とシェル構造のコントラスト差を確認し、リンカー部を含むシェル構造部分の厚さを直接計測することが可能である。また、コア構造、シェル構造、およびリンカー部の化学組成はエネルギー分散型X線分光器(EDX)を用いて決定することが可能である。
【0031】
(粒子の製造方法)
本実施形態に係る粒子の製造方法は、以下の各工程を有する。
【0032】
(コア粒子を含む分散液の調製工程)
コア構造となる粒子は、市販のポリマー粒子を用いてもよい。また、各モノマーを重合することにより得てもよい。コア粒子の粒度分布の変動係数を5%以下とするために、乳化重合を行うことが好ましい。例えば、コア構造としてポリスチレン粒子を製造する場合、スチレンを水中で乳化重合することで、所定の平均直径および粒度分布を有するポリスチレン粒子を得ることができる。乳化重合の開始剤には過硫酸カリウムや2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩などを用いることができる。この場合、コア構造の強度を向上させるために、重合時にジビニルベンゼンなどを加えても良い。また、ポリスチレン粒子の直径を厳密に制御するために、ドデシル硫酸ナトリウムやパラスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドンなどの添加剤を加えてもよい。乳化重合で得たコア粒子は、常法により洗浄することができ、例えば、コア粒子を遠心分離および沈殿物を溶媒に再分散することで精製することができる。生成後のコア粒子を分散媒に分散することにより、コア粒子を含む分散液の調製することができる。分散媒としては、コア粒子が凝集、沈殿せずに分散する限り、如何なる分散媒を用いることができるが、好ましくは水である。
【0033】
(シェル構造の製造工程)
シェル構造は、コア粒子の存在下、以下の式(5)で示される化合物を重合することで得ることができる。
【化8】
式(5)中、A3は、置換基を有していてもよい炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2から4の直鎖状または分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2から4の直鎖状または分岐状のアルキニル基、アミノ基、カルボキシ基、グリシジル基、およびチオール基からなる群から選ばれる基を表し、
Y4は、置換基を有していてもよい炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、およびヒドロキシ基からなる群から選ばれる。
【0034】
また、シェル構造は、式(5)で示される化合物と以下の式(7)で示される化合物を重合することで得てもよい。
【化9】
式(7)中、Y5およびY6は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、およびヒドロキシ基からなる群から選ばれる。
【0035】
式(5)で示される化合物中のA3で示される、炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、およびイソブチル基があげられる。
式(5)で示される化合物中のA3で示される、炭素数2から4の直鎖状または分岐状のアルケニル基としては、ビニル基、1-メチルビニル基、1-エチルビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基などがあげられる。
式(5)で示される化合物中のA3で示される、炭素数2から4の直鎖状または分岐状のアルキニル基としては、エチニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基などがあげられる。
これらアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基の置換基としては、アミノ基、カルボキシ基、チオール基、並びにフッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子などのハロゲン原子などがあげられる。
中でも、A3がビニル基、3-メルカプトプロピル基、および3-アミノプロピル基からなる群から選択される基である場合、コア粒子と式(5)で示される化合物との親和性が高くなり、シェル構造の厚さが均一なコア-シェル構造を有する粒子を得ることができるため好ましい。
【0036】
式(5)で示される化合物中のY4、並びに式(7)で示される化合物中のY5およびY6で示される、置換基を有していてもよい炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、およびイソブトキシ基があげられる。直鎖状または分岐状のアルコキシ基の置換基としては、アミノ基、カルボキシ基、チオール基、並びにフッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子などのハロゲン原子などがあげられる。
【0037】
コア-シェル構造を有する粒子を得る工程において、式(5)で示される化合物および式(7)で示される化合物を重合する方法としては、酸性条件下、塩基性条件下のいずれで行ってもよい。しかし、pH2付近の酸性条件で、形成されたシェル構造のゼータ電位がゼロに近づくので、pH2以下の強酸性条件下では、コア-シェル構造を有する粒子が凝集する可能性がある。
【0038】
具体的には、上記で製造したコア粒子の水性媒体の分散液に式(5)で示される化合物、必要であれば式(7)で示される化合物を添加し、分散媒のpHを塩基性、好ましくはpHを11以上とする。このとき、反応温度を条件に応じて0℃~80℃程度の間で制御するとよい。式(5)で示される化合物および式(7)で示される化合物を重合することにより、コア-シェル構造を有する粒子を得ることができる。
【0039】
式(5)で示される化合物は、対応するシラン化合物(以下、「3官能シラン」とも称する。)を加水分解することで得てもよい。このようなシラン化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどを好適に用いることができる。また、式(7)で示される化合物も、対応するシラン化合物(以下、「4官能シラン」とも称する。)を加水分解することで得てもよい。このようなシラン化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどを好適に用いることができる。これらシラン化合物の加水分解は高pHの水溶媒で行うことができる。そのため、コア構造の分散液にシラン化合物を添加し、加水分解と重合をワンポットで行ってもよい。加水分解の速度は、水性媒体の液性および溶媒の添加により調節することができる。液性が高塩基性であれば加水分解は早くなり、添加する溶媒の極性が低ければ加水分解は遅くなる。水性媒体として用いることのできる溶媒は、水、メタノールやエタノールなどのアルコール、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン、アセトニトリルなどのニトリルがあげられる。コア-シェル構造を有する粒子の洗浄は常法で行うことができるが、例えば、得られたコア-シェル構造を有する粒子を遠心分離し、沈殿物を溶媒に再分散することで洗浄することができる。
【0040】
コア-シェル構造を有する粒子の調製後に、式(6)で示される化合物を導入し、リンカー部の導入を行う。
【化10】
【0041】
式(6)中、R3およびR4は、それぞれ独立に、末端に少なくとも1つのカルボキシ基を有する炭素数6から30の直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、該アルキル基の炭素鎖中に-NHCO-、-OCO-、-NH-、-O-、-S-、および-CO-から選ばれる少なくとも一つを含んでもよく、X6、X7、X8、およびX9は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、およびシリカ構造からなる群から選ばれ、X6、X7、X8、およびX9の少なくとも2つはヒドロキシ基である。
【0042】
式(6)で示される化合物中のR3およびR4は、末端に少なくとも1つのカルボキシ基を有する炭素数6から30の直鎖状または分岐状のアルキル基である。R3およびR4は、カルボキシ基を2以上有していてもよい。カルボキシ基を2以上有する場合、複数のカルボキシ基は、同一の直鎖上に結合していてもよいし、複数の分岐鎖のそれぞれが一つのカルボキシ基を有していてもよい。2以上のカルボキシ基のそれぞれが、異なる分岐鎖の末端の炭素に結合した構造であることが好ましい。さらに、R3およびR4において、Si原子と結合する炭素からカルボキシ基が結合する炭素までの鎖長のうち、最も短いものが6以上であることが好ましい。ここで、アルキル基の炭素鎖中に-NHCO-、-OCO-、-NH-、-O-、-S-、および-CO-を含むとは、-NHCO-および-OCO-であれば、それぞれがアルキル鎖中のエチレン基と置換することを意味する。また、-NH-、-O-、-S-、および-CO-であれば、アルキル鎖中のメチレン基と置換することを意味する。
【0043】
コア-シェル構造を有する粒子へのリンカー部の導入は、式(6)で示される化合物をコア-シェル構造を有する粒子の酸性の水性媒体の分散液に添加することで、コア-シェル構造を有する粒子の表面に存在するシラノール基を足場として式(6)で示される化合物がシロキサン結合を形成することにより行う。また、カップリング剤をコア-シェル構造を有する粒子の水性媒体の分散液中で加水分解することで、式(6)で示される化合物を反応系中で調製し、コア-シェル構造を有する粒子の表面に式(6)で示される化合物由来のリンカー部を導入してもよい。最初から2、3nm程度のダイマー、トライマーまたはオリゴマーになっている、式(6)で示される化合物を用いることで、効率的にリンカー部を導入することが可能となる。リンカー部はシェル構造を部分的に被覆していればよく、リンカー部の末端に存在するカルボキシ基がリガンドと結合できれば、免疫ラテックス凝集測定法において、非特異的吸着を抑制し、かつ高感度であるという効果を奏する。
【0044】
(分散液)
本実施形態に係る粒子を分散媒に分散させることにより分散液を調製することができる。分散媒として水溶媒を用いると、本実施形態に係る粒子は水溶媒への分散性が高いため、沈降の少ないコロイド溶液を得ることができる。また、分散した液の安定性を増すために、水溶媒中に、界面活性剤、防腐剤や増感剤なども添加してもよい。さらに、水溶媒として緩衝液を用いることも可能である。
【0045】
分散液に含まれる粒子の平均直径は、100nm以上300nm以下であることが好ましく、150nm以上250nm以下であるがさらに好ましい。また、分散液に含まれる粒子の粒度分布の変動係数が5%以下であることが好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。したがって、本実施形態に係る粒子を水溶媒に分散したコロイド液は免疫ラテックス凝集測定法を含む凝集法用の抗体検査試薬として利用することができる。
【0046】
(アフィニティー粒子)
本実施形態の粒子に各種の抗体などのリガンドを結合させることで、免疫ラテックス凝集測定法を含む凝集法用の検体検査粒子として利用することができるアフィニティー粒子を提供できる。リガンドは、式(1)で示される構造のR1およびR2の末端に存在するカルボキシ基に結合することができる。カルボキシ基とリガンドとを結合する方法は、本発明の目的を達成可能な範囲において、従来公知の方法を適用することができる。また、1-[3-(ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド]などの触媒を適宜用いることができる。
【0047】
本実施形態において、リガンドとは、特定の標的物質が有する受容体に特異的に結合する化合物のことである。リガンドが標的物質と結合する部位は決まっており、選択的または特異的に高い親和性を有する。例えば、抗原と抗体、酵素タンパク質とその基質、ホルモンや神経伝達物質などのシグナル物質とその受容体、核酸などが例示されるが、本実施形態におけるリガンドはこれらに限定されない。核酸としてはデオキシリボ核酸などが挙げられる。本実施形態におけるアフィニティー粒子とは、標的物質に対して選択的または特異的に高い親和性(アフィニティー)を有する。本実施形態におけるリガンドが、抗体、抗原、および核酸のいずれかであることが好ましい。
【0048】
アフィニティー粒子のリガンドとして抗体(抗原)、標的物質として抗原(抗体)を用いることで、本実施形態におけるアフィニティー粒子を臨床検査、生化学研究などの領域において広く活用されている免疫ラテックス凝集測定法に好ましく適用できる。
【0049】
(体外診断用の検査試薬)
本実施形態の体外診断用の検査試薬、すなわち体外診断による検体中の標的物質の検出に用いるための検査試薬は、本発明のアフィニティー粒子と、アフィニティー粒子を分散させる分散媒を有する。本実施形態における検査試薬中に含有されるアフィニティー粒子の量は、0.001質量%から20質量%が好ましく、0.01質量%から10質量%がより好ましい。本実施形態に係る検査試薬は、本発明の目的を達成可能な範囲において、アフィニティー粒子および分散媒の他に、ブロッキング剤などを含んでも良い。分散媒やブロッキング剤などを2種類以上組み合わせて用いてもよい。本実施形態の検査試薬に用いられる分散媒の例としては、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、グッド緩衝液、トリス緩衝液、アンモニア緩衝液などの各種緩衝液があげられるが、これらに限定されない。
【0050】
(検査キット)
本実施形態の検査キットは、体外診断による検体中の標的物質の検出に用いるための上記試薬と、上記試薬を内包する筐体とを有する。本実施形態のキットには、免疫ラテックス凝集測定法用の増感剤を含有させても良い。このような増感剤としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアルギン酸などがあげられるが、これらに限定されない。また、本実施形態に係る検査キットは、陽性コントロール、陰性コントロール、血清希釈液などを備えていても良い。陽性コントロール、陰性コントロールの媒体として、測定しうる標的物質が含まれていない血清、生理食塩水の他、溶剤を用いても良い。本実施形態に係るキットは、通常の体外診断による検体中の標的物質の検出に用いるためのキットと同様にして、本実施形態に係る標的物質の検出方法に使用できる。また、従来公知の方法によって標的物質の濃度も測定することができ、特に、免疫ラテックス凝集測定法による検体中の標的物質の検出に用いることが好適である。
【0051】
(検体中の標的物質の検出方法)
本実施形態における体外診断による検体中の標的物質の検出方法は、アフィニティー粒子と、標的物質を含む可能性のある検体とを混合する工程を有する。アフィニティー粒子と検体との混合は、pH3.0からpH11.0の範囲で行われることが好ましい。また、混合温度は20℃から50℃の範囲であり、混合時間は1分から20分の範囲である。本実施形態に係る検出方法は、分散液中で行われることが好ましく、アフィニティー粒子の濃度は、好ましくは0.001質量%から5質量%、より好ましくは0.01質量%から1質量%である。
【0052】
本実施形態に係る検出方法は、アフィニティー粒子と検体との混合の結果として生じる凝集反応を光学的に検出する免疫ラテックス凝集測定法により検出することが好ましい。具体的には、上記検査試薬に検体を混合して混合液を得る工程と、混合液に光を照射する工程と、混合液に照射された光の透過光または散乱光の少なくともいずれかを検出する工程を有する。
混合液において生じる上記凝集反応を光学的に検出することで、検体中の標的物質が検出され、さらに標的物質の濃度も測定することができる。前記凝集反応を光学的に検出する方法としては、散乱光強度、透過光強度、吸光度などを検出可能な光学機器を用い、これらの値の変化量を測定することがあげられる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0054】
(1)コア粒子の作製
乳化重合法によってコア粒子を作製した。具体的には、丸底四ツ口のセパラブルフラスコ(500mL)に純水(200g)、スチレンモノマー(12.00g)、パラスチレンスルホン酸ナトリウムを加え、メカニカルスターラーを用いて窒素バブリングをしながら30分間撹拌した。次に、オイルバスにて試料を撹拌した状態のまま70度まで加熱した後、触媒の過硫酸カリウム(0.40g)を加え、窒素雰囲気で8時間、スチレンの重合反応を行った。重合反応を行った試料を冷却した後、遠心分離にて沈殿物を回収し、純水を用いて生成物の洗浄を行った。洗浄して得られた試料は純水に分散しコア粒子の懸濁液を得た。コア粒子について、電子顕微鏡で粒子の直径と粒度分布を測定し、得られたコア粒子の平均直径および懸濁液中のコア粒子の粒度分布の変動係数を求めた。上記反応において、0.021gのパラスチレンスルホン酸ナトリウムを用いた場合、得られたコア粒子の平均直径は210nm、粒度分布の変動係数は3%であった。一方、0.019gのパラスチレンスルホン酸ナトリウムを用いた場合、得られたコア粒子の平均直径は215nm、粒度分布の変動係数は3%であった。
【0055】
(実施例1)
(1)で作製した平均直径215nmのコア粒子の懸濁液(42.5wt%、0.26mL)を純水(26.3mL)に添加した。得られた懸濁液に、28wt%のアンモニア水(1.32mL)を加え、pHが11.7となるように調整した。懸濁液を30分間撹拌した後、ビニルトリメトキシシラン(0.100mL)を添加してさらに10時間撹拌した。撹拌後、懸濁液を遠心分離(18000rpm、30分間)し、純水に再分散してpH約7のコア-シェル構造を有する粒子の分散液を得た。
コア-シェル構造を有する粒子(0.11g)を含む分散液(50g)にシランカップリング剤(商品名:X12-1135、信越化学製、0.01mL)および分散剤(商品名:Tween20、東京化成工業製、0.005g)を加えて12時間撹拌し、リンカー部を導入し、本実施形態の粒子を製造した。リンカー部の導入後、反応液を遠心分離(18000rpm、30分間)し、粒子を純水に再分散した。本実施形態の粒子を水分計(エーアンドディー社製:MX-50)で秤量した後、純水で希釈して濃度0.1wt%の粒子の分散液を得た。
【0056】
(粒子の評価)
実施例1の分散液から溶媒を揮発および乾固させ、固形分を走査型電子顕微鏡(商品名:S-5500、日立ハイテクノロジー社製)で観察した。具体的には、製造した粒子を、少なくとも150個以上観察して平均直径、標準偏差、粒度分布の変動係数を求めた。同様に(1)で作製したコア粒子の平均直径を求めた。実施例1で製造した粒子の平均直径から(1)で作製したコア粒子の平均直径を差し引き、リンカー部を含むシェル構造の厚さの平均値を求めた。以下の実施例2~3および比較例1~5で製造した粒子に関しても、実施例1の粒子と同様に、粒子の平均直径およびリンカー部を含むシェル構造の厚さの平均値、並びに分散液中の粒子の標準偏差および粒度分布の変動係数を求めた。
なお、走査型電子顕微鏡で観察したところ、全ての粒子が均一な粒子表面を有していた。
【0057】
(沈降速度の算出)
実施例1の濃度0.1wt%の粒子の分散液における粒子の沈降速度はルミサイザー(ルフト社製:ルミサイザー612)を用いて評価した。分散液には他の添加物は加えずに評価を行った。温度25℃、回転数4000rpm、測定インターバル40秒の条件で100点測定した。得られた沈降速度を相対遠心力で割って、自然沈降速度(μm/秒)を算出した。以下の実施例2~3および比較例1~5で製造した分散液に関しても、実施例1の分散液と同様に、沈降速度を算出した。
【0058】
(実施例2)
(1)で作製した平均直径210nmのコア粒子を用いる以外は実施例1と同じ方法で0.1wt%の粒子の分散液を得た。
【0059】
(実施例3)
純水(78.9mL)に(1)で作製した平均直径210nmのコア粒子の懸濁液(42.5wt%、0.78mL)を添加した。得られた懸濁液に、アンモニア水(3.96mL)を加え、pHが11.7となるように調整した。懸濁液を30分間撹拌した後、ビニルトリメトキシシラン(0.52mL)を添加してさらに10時間撹拌した。撹拌後、懸濁液を遠心分離(18000rpm、30分間)し、純水に再分散してpH約7のコア-シェル構造を有する粒子の分散液を得た。
【0060】
コア-シェル構造を有する粒子(0.33g)を含む分散液(50g)にシランカップリング剤(商品名:X12-1135、信越化学製、0.01mL)および分散剤(商品名:Tween20、東京化成工業製、0.05g)を加えて12時間撹拌し、リンカー部を導入し、本実施形態の粒子を製造した。リンカー部の導入後、懸濁液を遠心分離(18000rpm、30分間)し、粒子を純水に再分散した。本実施形態の粒子を水分計(エーアンドディー社製:MX-50)で秤量した後、純水で希釈して濃度0.1wt%の粒子の分散液を得た。
【0061】
(比較例1)
(1)で作製した平均直径210nmのコア粒子の懸濁液(42.5wt%)の濃度を調整して、濃度0.1wt%のコア粒子の分散液とした。
【0062】
(比較例2)
チオール基で修飾された直径209nmのシリカ粒子分散液(古河電工アドバンストエンジニアリング製、濃度0.1wt%)をそのまま用いた。
【0063】
(比較例3)
(1)で作製した平均直径215nmのコア粒子の懸濁液(42.5wt%、0.26mL)を純水(26.3mL)に添加した。得られた懸濁液に、28wt%のアンモニア水(1.32mL)を加え、pHが11.7となるように調整した。懸濁液を30分間撹拌した後、ビニルトリメトキシシラン(0.100mL)を添加してさらに10時間撹拌した。撹拌後、懸濁液を遠心分離(18000rpm、30分間)し、純水に再分散してpH約7のコア-シェル構造を有する粒子の分散液を得た。
【0064】
コア-シェル構造を有する粒子(0.11g)を含む分散液(50g)に[(3-トリエトキシシリル)プロピル]こはく酸(東京化成工業製、0.01mL)および分散剤(商品名:Tween20、東京化成工業製、0.005g)を加えて12時間撹拌した。撹拌後、反応液を遠心分離(18000rpm、30分間)し、純水に再分散した。本実施形態の粒子を水分計(エーアンドディー社製:MX-50)で秤量した後、純水で希釈して濃度0.1wt%の粒子の分散液を得た。
【0065】
(比較例4)
(1)で作製した平均直径215nmのコア粒子の懸濁液(42.5wt%、0.26mL)を純水(26.3mL)に添加した。得られた懸濁液に、アンモニア水(1.32mL)を加え、pHが11.7となるように調整した。懸濁液を30分間撹拌した後、ビニルトリメトキシシラン(0.600mL)を添加してさらに10時間撹拌した。撹拌後、懸濁液を遠心分離(18000rpm、30分間)し、純水に再分散してpH約7のコア-シェル構造を有する粒子の分散液を得た。
【0066】
コア-シェル構造を有する粒子(0.11g)を含む分散液(50g)にシランカップリング剤(商品名:X12-1135、信越化学製、0.01mL)および分散剤(商品名:Tween20、東京化成工業製、0.005g)を加えて12時間撹拌し、リンカー部を導入し、本実施形態の粒子を製造した。リンカー部の導入後、反応液を遠心分離(18000rpm、30分間)し、粒子を純水に再分散しした。本実施形態の粒子を水分計(エーアンドディー社製:MX-50)で秤量した後、純水で希釈して濃度0.1wt%の粒子の分散液を得た。
【0067】
(比較例5)
純水(78.9mL)に(1)で作製した平均直径210nmのコア粒子の懸濁液(42.5wt%、0.78mL)を添加した。得られた懸濁液に、アンモニア水(3.96mL)を加え、pHが11.7となるように調整した。懸濁液を30分間撹拌した後、ビニルトリメトキシシラン(0.700mL)を添加してさらに10時間撹拌した。撹拌後、懸濁液を遠心分離(18000rpm、30分間)し、純水に再分散してpH約7のコア-シェル構造を有する粒子の分散液を得た。
【0068】
(性能評価)
実施例1~3および比較例1~5で製造した粒子のリンカー部を含むシェル構造の厚さ、粒度分布の変動係数、分散液中の沈降速度を表1に示す。
【0069】
【0070】
実施例1~3並びに比較例1および比較例3~5で製造した粒子の粒度分布の変動係数は比較例2以外では約3%であった。比較例2の粒子の粒度分布の変動係数は13.7%であった。また、比較例2および3は一晩静置しただけで凝集し沈降した。よって、比較例2および3の粒子は免疫ラテックス凝集測定法用の抗体検査粒子には適していないと考えられる。
【0071】
リンカー部を含むシェル構造の厚さと沈降速度とを比較すると、リンカー部を含むシェル構造の厚さが11nmを超えた比較例4および比較例5の粒子の沈降速度が4.0μm/secを超えていた。比較例4および5のサンプルも、分散液を4週間程度静置することで容器の底に粒子が沈降した。これは、リンカー部を含むシェル構造の厚さが増したために、粒子の密度が大きくなり、分散液中での常温での分散安定性が悪化したものと考えられる。そのため、比較例4および5の粒子も、免疫ラテックス凝集測定法用の抗体検査粒子には適していないと考えられる。
【0072】
実施例1、2、および3の分散液は、4週間以上常温で静置しても粒子が沈降せず、安定であった。
【0073】
(8)非特異的吸着の抑制能力を評価する試験
実施例1~3および比較例1で製造した分散液を用いて非特異的吸着の抑制の能力の評価を行った。
【0074】
実施例1~3および比較例1で製造した分散液(2.5mL)をそれぞれ遠心分離に掛け、沈殿物をろ過し、実施例1~3および比較例1の粒子をそれぞれ得た。実施例1~3および比較例1の粒子をそれぞれ25mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩水溶液(1.0mL)に再分散し、さらにヒト正常血清を加えて、検体検査システム(東芝メディカル社製:TBA-120FR)で評価した。検出光の波長は570nmを用い、それぞれの粒子に対してヒト正常血清を16サンプル用いた。
【0075】
上記の結果、実施例1、2、および3の粒子の、検出光の強度の経時変化は、比較例1の粒子に比べて小さかった。また、実施例1、2、および3の粒子は、正常血清との混合後10分間で起きる検出光の強度変化が101~103%となり、自己凝集が起きていないことを確認した。
【0076】
以上のことから、実施例1~3の粒子は、非特異的吸着能を有し、沈降速度が一定の範囲にあることが明らかとなった。
【0077】
実施例および比較例の結果から、シェル構造の厚さが10nm以下であることによって、粒子の沈降速度を一定の範囲にできることがわかった。また、実施例の粒子は、シェル構造のシラノール基が、粒子に十分な親水性を付与するために、非特異的吸着を抑制する能力が高いと考えられる。
【0078】
以上のことから、本発明の実施態様に係る粒子を用いると、検出感度が高い、免疫ラテックス凝集測定法用の粒子を提供することができる。特に、検出信号のノイズを小さくする効果に優れているため、低濃度の抗原の検出に適している。また、非特異的吸着を抑制できるため、免疫ラテックス凝集測定法以外の凝集法や、凝集法以外に用いる粒子としても利用することができる。