(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】極低温フィードスルー構造および極低温装置
(51)【国際特許分類】
H01R 9/16 20060101AFI20240607BHJP
【FI】
H01R9/16 101
(21)【出願番号】P 2019208783
(22)【出願日】2019-11-19
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】出村 健太
【審査官】濱田 莉菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-098014(JP,A)
【文献】実開平04-113023(JP,U)
【文献】特開2010-230318(JP,A)
【文献】実開昭52-006475(JP,U)
【文献】実開平06-029011(JP,U)
【文献】実公昭59-035958(JP,Y2)
【文献】実開昭50-063192(JP,U)
【文献】実開昭54-056188(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R9/15-9/28
H01R13/533
H01R13/74
C09J1/00-5/10
C09J9/00-201/10
H10N60/20-60/30
H10N60/355-60/81
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温圧力容器とともに
液体窒素温度またはそれより低い極低温冷却温度に極低温冷却される極低温フィードスルー構造であって、
極低温圧力容器の外側に隣接して周囲環境に配置され、前記極低温圧力容器に気密に装着される絶縁樹脂部材と、
前記絶縁樹脂部材を貫通して前記極低温圧力容器の中から外へと延びる1本の金属導体と、を備え、
前記1本の金属導体は、その外周面で前記絶縁樹脂部材に接合され、
液体窒素温度またはそれより低い前記極低温冷却温度に極低温冷却された状態で前記接合が保持され、
前記絶縁樹脂部材は、前記1本の金属導体のまわりに形成された複数の締結穴を有し、各締結穴には締結部材が締結可能であり、極低温用シール部材が前記周囲環境側で前記極低温圧力容器と前記絶縁樹脂部材との間に挟まれるようにして前記締結部材によって前記絶縁樹脂部材が前記極低温圧力容器に気密に締結され、
前記1本の金属導体が、前記絶縁樹脂部材の中心線に沿って延びる円柱状の形状をもつロッドであるとともに、前記絶縁樹脂部材が、前記中心線に沿って円筒状に延びる前記1本の金属導体との接合面を有
し、
前記絶縁樹脂部材には、前記極低温冷却温度に極低温冷却されるときの前記絶縁樹脂部材と前記1本の金属導体の熱収縮量を合わせるように微粉が配合されていることを特徴とする極低温フィードスルー構造。
【請求項2】
前記1本の金属導体の外周面には、前記絶縁樹脂部材と係合する離脱防止形状が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の極低温フィードスルー構造。
【請求項3】
前記1本の金属導体の外周面には、極低温冷却された状態で前記絶縁樹脂部材から圧縮応力が働くことを特徴とする請求項1または2に記載の極低温フィードスルー構造。
【請求項4】
前記絶縁樹脂部材の外周面は、極低温圧力容器の外に露出されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の極低温フィードスルー構造。
【請求項5】
前記絶縁樹脂部材は、円柱状または円板状の部材であり、前記極低温圧力容器の前記周囲環境側の壁面に接触する前記絶縁樹脂部材の第1端面と前記第1端面とは反対側にあり前記周囲環境に露出される前記絶縁樹脂部材の第2端面とが同径の円形形状を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の極低温フィードスルー構造。
【請求項6】
前記絶縁樹脂部材は、極低温に適合した接着剤を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の極低温フィードスルー構造。
【請求項7】
前記絶縁樹脂部材は、第1端面と第2端面を有し、前記1本の金属導体は、前記第1端面から前記第2端面へと前記絶縁樹脂部材を貫通し、
前記絶縁樹脂部材は、前記第1端面で高圧ガス源に気密に装着可能であり、前記第2端面でガスリーク検査装置に気密に装着可能であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の極低温フィードスルー構造。
【請求項8】
加圧された極低温冷媒とともに被冷却物を収容し、前記極低温冷媒によって極低温冷却される極低温圧力容器と、
前記極低温冷媒によって前記極低温圧力容器とともに
液体窒素温度またはそれより低い極低温冷却温度に極低温冷却される極低温フィードスルー構造と、を備え、
前記極低温フィードスルー構造は、
前記極低温圧力容器の外側に隣接して周囲環境に配置され、前記極低温圧力容器に気密に装着される絶縁樹脂部材と、
前記被冷却物に接続され、前記絶縁樹脂部材を貫通して前記極低温圧力容器の中から外へと延びる1本の金属導体と、を備え、
前記1本の金属導体は、その外周面で前記絶縁樹脂部材に接合され、
液体窒素温度またはそれより低い前記極低温冷却温度に極低温冷却された状態で前記接合が保持され、
前記絶縁樹脂部材は、前記1本の金属導体のまわりに形成された複数の締結穴を有し、各締結穴には締結部材が締結可能であり、極低温用シール部材が前記周囲環境側で前記極低温圧力容器と前記絶縁樹脂部材との間に挟まれるようにして前記締結部材によって前記絶縁樹脂部材が前記極低温圧力容器に気密に締結され、
前記1本の金属導体が、前記絶縁樹脂部材の中心線に沿って延びる円柱状の形状をもつロッドであるとともに、前記絶縁樹脂部材が、前記中心線に沿って円筒状に延びる前記1本の金属導体との接合面を有
し、
前記絶縁樹脂部材には、前記極低温冷却温度に極低温冷却されるときの前記絶縁樹脂部材と前記1本の金属導体の熱収縮量を合わせるように微粉が配合されていることを特徴とする極低温装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温フィードスルー構造および極低温装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気密容器の中から外へと容器内の気密を保ちながら配線や配管を引き出すために容器壁に取り付けられる部品は一般にフィードスルーと呼ばれ、例えば真空容器から周囲環境に配線を引き出す真空フィードスルーなど、様々な種類のものが利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば液体ヘリウム温度のような極低温に冷却され高圧に加圧された極低温冷媒を収容する極低温圧力容器に使用しうるフィードスルーの提案は、ほとんど例がないのが実情である。上記文献にはそうした僅かな例のひとつが開示されている。この構成では、低温高圧容器の貫通孔に絶縁筒が挿通され、絶縁筒の中心孔に電導部材が嵌挿され、インジウム製のシール用パッキンが絶縁筒と電導部材に挟み込まれ両者から押圧されることで、低温高圧容器の内外の気密が保持される。シール用パッキンを押圧すべく電導部材と絶縁筒はそれぞれ対応する特定の形状を有する。そのため、電導部材として一般的なリード線を使用しがたい等、実用上の制約がある。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、極低温圧力容器に適合しうる極低温フィードスルー構造およびこれを用いた極低温装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、極低温圧力容器とともに極低温冷却される極低温フィードスルー構造が提供される。極低温フィードスルー構造は、極低温圧力容器の外側に隣接して配置され、極低温圧力容器に気密に装着される絶縁樹脂部材と、絶縁樹脂部材を貫通して極低温圧力容器の中から外へと延びる金属導体と、を備える。金属導体は、その外周面で絶縁樹脂部材に接合され、極低温冷却された状態で前記接合が保持される。
【0007】
本発明のある態様によると、極低温装置は、加圧された極低温冷媒とともに被冷却物を収容し、極低温冷媒によって極低温冷却される極低温圧力容器と、極低温冷媒によって極低温圧力容器とともに極低温冷却される極低温フィードスルー構造と、を備える。極低温フィードスルー構造は、極低温圧力容器の外側に隣接して配置され、極低温圧力容器に気密に装着される絶縁樹脂部材と、被冷却物に接続され、絶縁樹脂部材を貫通して極低温圧力容器の中から外へと延びる金属導体と、を備える。金属導体は、その外周面で絶縁樹脂部材に接合され、極低温冷却された状態で前記接合が保持される。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、極低温圧力容器に適合しうる極低温フィードスルー構造およびこれを用いた極低温装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係る極低温フィードスルー構造を示す概略断面図である。
【
図2】実施の形態に係る極低温フィードスルー構造を示す概略斜視図である。
【
図3】
図3(a)は、実施の形態に係る極低温フィードスルー構造において金属導体と絶縁樹脂部材の界面に働く応力を示す模式図であり、
図3(b)は、比較例を示す図である。
【
図4】実施の形態に係る極低温フィードスルー構造に働きうる熱応力の計算結果の例を示すグラフである。
【
図5】実施の形態に係る極低温フィードスルー構造に使用されうるいくつかの材料について熱収縮を示すグラフである。
【
図6】
図1に示される極低温フィードスルー構造の他の使用例を示す概略断面図である。
【
図7】実施の形態に係る極低温フィードスルー構造のための気密試験装置を示す概略図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(c)は、極低温フィードスルー構造の変形例を概略的に示す図である。
【
図9】実施の形態に係る極低温装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0012】
図1は、実施の形態に係る極低温フィードスルー構造10を示す概略断面図である。
図2は、実施の形態に係る極低温フィードスルー構造10を示す概略斜視図である。
【0013】
極低温フィードスルー構造10は、金属導体12と絶縁樹脂部材14を備え、極低温圧力容器50に装着可能である。極低温フィードスルー構造10は、極低温圧力容器50とともに極低温冷却される。
【0014】
詳細は後述するが、金属導体12は、絶縁樹脂部材14を貫通して極低温圧力容器50の中から外へと延びる。絶縁樹脂部材14は、極低温圧力容器50の外側に隣接して配置され、極低温圧力容器50に気密に装着される。金属導体12は、その外周面で絶縁樹脂部材14に接合され、極低温冷却された状態でこの接合が保持される。
【0015】
極低温圧力容器50は、液体ヘリウム温度、または液体窒素温度、またはその他の冷却温度に冷却され、高圧に加圧された極低温冷媒を収容する。よって、極低温圧力容器50の内部には、極低温高圧環境58が保たれている。極低温冷媒の圧力は、例えば、大気圧より高く、または0.5MPa、または1MPa、または2MPaより高くてもよい。極低温冷媒の圧力は、3MPaまたは4MPaより低くてもよい。
【0016】
周囲環境18は、極低温圧力容器50内の圧力より低圧であり、例えば、真空環境、または大気圧環境である。周囲環境18の温度は、例えば、室温である。あるいは、周囲環境18も極低温に冷却されてもよい。
【0017】
金属導体12は、極低温高圧環境58に配置された例えば超伝導コイルなどの大電流機器またはその他の内部機器40を、周囲環境18に配置されたコイル電源またはその他の外部機器42に電気的に接続する。金属導体12は、極低温高圧環境58から極低温フィードスルー構造10を通じて周囲環境18へと引き出されている。
【0018】
金属導体12は、例えば円柱状またはその他の形状をもつロッドであり、その側面(外周面)の一部に絶縁樹脂部材14が接合される。金属導体12は、絶縁樹脂部材14の中心線に沿って延びている。金属導体12は、極低温圧力容器50の壁に形成されている導体挿通孔51を挿通するが、極低温圧力容器50の壁とは接触していない。
【0019】
取付を容易にするために、この実施の形態では、極低温圧力容器50の中に配置される金属導体12の端部には、内部配線取付部12aが設けられ、極低温圧力容器50の外に配置される金属導体12の端部には、外部配線取付部12bが設けられる。内部配線取付部12aには、内部機器40に接続される内部配線41が取り付けられる。内部機器40が超伝導コイルである場合、内部配線41は超伝導線材で形成される超伝導電流リードを含んでもよい。外部配線取付部12bには、外部機器42に接続される外部配線43が取り付けられる。
【0020】
内部配線取付部12aへの内部配線41の取付、また外部配線取付部12bへの外部配線43の取付は、例えば、ボルトやリベットなど締結部材16による機械的接合が用いられる。内部配線取付部12a、外部配線取付部12b、内部配線41、外部配線43には、締結部材16を取り付けるための締結穴17が形成されている。なお、内部配線41、外部配線43は溶接など他の適宜の接合手段により金属導体12に接合されてもよい。また、金属導体12の端部が内部機器40及び/または外部機器42に直接接続されてもよい。
【0021】
金属導体12は、例えば、黄銅、アルミニウム(またはアルミニウム合金)、銅、ステンレス鋼、鉄のいずれか、またはこれらの合金など、導電性金属材料で形成される。金属導体12は、使用される冷却温度(例えば、液体ヘリウム温度、または液体窒素温度)で低温脆性の起こらない(または起こりにくい)材料で形成されることが好ましい。
【0022】
なお、極低温フィードスルー構造10は、その他の機器間の接続に使用されてもよい。例えば、内部機器40は、温度センサまたはその他の計測器であってもよく、金属導体12を通じて外部機器42に、例えば給電及び/または通信のために電気的に接続されてもよい。
【0023】
絶縁樹脂部材14は、第1端面14aと、第2端面14bと、第1端面14aを第2端面14bにつなぐ外周面14cとを有する。絶縁樹脂部材14は、第1端面14aを極低温圧力容器50の外壁面に接触させた状態で極低温圧力容器50に気密に装着されている。第2端面14bは、第1端面14aとは反対側にあり極低温圧力容器50の外に配置されている。絶縁樹脂部材14の外周面14cは、第2端面14bと同様に、極低温圧力容器50の外に露出される。第2端面14bと外周面14cは、周囲環境18にさらされている。絶縁樹脂部材14は、例えば、円柱状または円板状の部材であり、第1端面14aと第2端面14bは、例えば、ともに円形の形状を有し、両者の直径は等しくてもよい。
【0024】
第1端面14aは、極低温圧力容器50の外壁面に接触する平坦面であり、第1端面14aと極低温圧力容器50の外壁面は面接触する。なお、必要とされる場合には、第1端面14aは、凹部及び/または凸部を有してもよい。例えば極低温圧力容器50の外壁面が何らかの凹部、凸部を有する場合、第1端面14aは、対応する凸部、凹部を有してもよい。第2端面14bは、例えば平坦面であり、必要に応じて、凹部及び/または凸部を有してもよい。
【0025】
また、絶縁樹脂部材14は、金属導体12との接合面14dを有する。接合面14dは、金属導体12と絶縁樹脂部材14との界面であり、絶縁樹脂部材14の中心線に沿って第1端面14aから第2端面14bへと円筒状に延びている。
【0026】
極低温フィードスルー構造10の製造工程において、絶縁樹脂部材14を形成する絶縁樹脂材料は、液体またはペーストとして用意され、金属導体12の周囲で成形され例えば室温または加熱下で硬化され、金属導体12に接着により接合される。こうして絶縁樹脂部材14は接合面14dを形成する。絶縁樹脂材料は、極低温下においても接着能力を有し、金属導体12と絶縁樹脂部材14との接合は極低温冷却された状態(例えば、液体ヘリウム温度、または液体窒素温度、またはその他の冷却温度)で保持される。絶縁樹脂部材14は、使用される冷却温度で低温脆性の起こらない(または起こりにくい)樹脂材料で形成されることが好ましい。
【0027】
絶縁樹脂部材14を形成する絶縁樹脂材料は、例えば、極低温に適合した接着剤である。絶縁樹脂部材14は、例えばセラミックスまたは他の材料の微粉を配合した樹脂材料(例えばエポキシ樹脂)または接着剤で形成されてもよい。こうした微粉は、極低温冷却されるときの絶縁樹脂部材14の熱収縮量を金属導体12のそれと同程度に合わせるために用いられる。絶縁樹脂部材14として使用可能な極低温用接着剤の代表例としては、Emerson&Cuming社製のSTYCAST(スタイキャスト)のような粒子分散型複合エポキシ樹脂接着剤(例えば、スタイキャスト2850)、日東シンコー社製のニトフィックス(登録商標)のような二液混合型エポキシ樹脂接着剤が挙げられる。
【0028】
絶縁樹脂部材14は、金属導体12のまわりに形成された複数の締結穴20を有し、各締結穴20には締結部材22が締結可能であり、締結部材22によって絶縁樹脂部材14が極低温圧力容器50に気密に締結される。締結穴20は、第2端面14bから第1端面14aへと絶縁樹脂部材14を貫通している。締結部材22は、例えばボルトであり、締結穴20は、例えばボルト穴である。
図2に示されるように、締結穴20は、例えば6個であるが、数はとくに限定されない。機械的な締結手段を用いるので、ろう付け、溶接、接着など他の接合手段を用いるのに比べて、極低温圧力容器50への極低温フィードスルー構造10の装着、取り外し、交換が容易である。
【0029】
第1端面14aにおける絶縁樹脂部材14の外径Doに対する接合面14dの直径Diの比(以下適宜、半径比n(=Di/Do)と称する)は、例えば、0.5以下であってもよい。言い換えれば、第1端面14aにおける絶縁樹脂部材14の外径Doが、接合面14dの直径Diの2倍以上であり、すなわち絶縁樹脂部材14は厚肉である。好ましくは、半径比nは、例えば0.3以下または0.2以下であってもよい。
【0030】
絶縁樹脂部材14をこのような寸法とすることにより、第1端面14aを極低温圧力容器50に接触させた状態で極低温圧力容器50に気密に装着することが容易になる。例えば、第1端面14aに締結穴20を形成することが容易になる。ろう付けなど他の接合手段を用いる場合においても、接触面積が増えるので、フィードスルー取付フランジ56への極低温フィードスルー構造10の接合が容易になる。また、絶縁樹脂部材14を比較的厚肉とすることにより、配線が薄肉管を挿通する典型的なフィードスルー部品と比較して、向上された耐圧性を有する。
【0031】
また、半径比nは、例えば、0.05以上であってもよい。好ましくは、半径比nは、例えば0.1以上であってもよい。このようにすれば、絶縁樹脂部材14が過剰に厚肉となること、および、接合面14dが小さくなりすぎる(すなわち金属導体12が細くなりすぎる)ことを避けることができる。
【0032】
極低温用シール部材24が、絶縁樹脂部材14と極低温圧力容器50の間に設けられている。極低温用シール部材24は、第1端面14aと極低温圧力容器50の壁面に挟まれ、極低温冷媒が周囲環境18に漏れ出さないようにシールする。極低温用シール部材24は、絶縁樹脂部材14が極低温圧力容器50に装着されたとき、締結穴20(すなわち締結部材22)の内側で接合面14dを囲むように配置される。極低温用シール部材24は、例えばメタルOリングであり、または極低温に適合したガスケットその他のシール部材であってもよい。極低温用シール部材24は、第1端面14aに装着されているが、これに代えて、極低温圧力容器50の壁面に装着されていてもよい。
【0033】
図3(a)は、実施の形態に係る極低温フィードスルー構造10において金属導体12と絶縁樹脂部材14の界面に働く応力を示す模式図であり、
図3(b)は、比較例を示す図である。
【0034】
極低温フィードスルー構造10が室温から極低温に冷却されるとき、金属導体12と絶縁樹脂部材14はそれぞれ熱収縮する。一般に、金属材料と樹脂材料では樹脂材料のほうが大きく収縮する。そのため、接合面14dには、
図3(a)に矢印で示すように、径方向の圧縮応力26が発生する。圧縮応力26は、接合面14dにおいて生じうる金属導体12と絶縁樹脂部材14の剥離を抑制するように作用する。したがって、金属導体12と絶縁樹脂部材14の接合が極低温冷却された状態で保持される。よって、実施の形態に係る極低温フィードスルー構造10によれば、金属導体12と絶縁樹脂部材14の剥離が抑制され、極低温フィードスルー構造10は気密性を維持できる。
【0035】
また、
図3(b)に示される比較例(後述)とは異なり、実施の形態に係る極低温フィードスルー構造10では、絶縁樹脂部材14の外周面14cが極低温圧力容器50の外に露出される。絶縁樹脂部材14の外側に金属筒など金属部材は接着されていない。
【0036】
図3(b)に示される比較例では、金属製のフィードスルー部材28が中心に貫通孔を有し、この貫通孔にリード線などの導線30が挿通されるとともに絶縁樹脂32が充填され、それにより導線30がフィードスルー部材28に固定される。この場合、金属製のフィードスルー部材28と絶縁樹脂32の界面34には、極低温冷却により熱収縮するとき絶縁樹脂32がフィードスルー部材28に比べて大きく収縮し、径方向の引張応力36が発生する。この熱応力よりも絶縁樹脂32の引張接着強度がもし低ければ、絶縁樹脂32はフィードスルー部材28から剥離し、気密性が損なわれうる。
【0037】
図4は、実施の形態に係る極低温フィードスルー構造10に働きうる熱応力σsの計算結果の例を示すグラフである。
図4に示される4つの曲線はそれぞれ、実施例1から実施例4について金属導体12と絶縁樹脂部材14との接合面14dに働く熱応力σsを計算し、上述の半径比n(=Di/Do)をパラメータとして描いたものである。
【0038】
実施例1から実施例4はそれぞれ、極低温フィードスルー構造10の形状と寸法は同じとしているが、金属導体12と絶縁樹脂部材14の材料が異なる。実施例1では、金属導体12がアルミニウムで形成され、絶縁樹脂部材14がニトフィックスで形成されている。実施例2では、金属導体12が銅で形成され、絶縁樹脂部材14がニトフィックスで形成されている。実施例3では、金属導体12がアルミニウムで形成され、絶縁樹脂部材14がスタイキャストで形成されている。実施例4では、金属導体12が銅で形成され、絶縁樹脂部材14がスタイキャストで形成されている。
【0039】
ここで、熱応力σsは、
σs=(Ao-Ai)B
により計算される。
【0040】
Aoは、絶縁樹脂部材14を形成する材料についての材料長さ比、Aiは、金属導体12を形成する材料についての材料長さ比を示す。「材料長さ比」とは、その材料のサンプルの300Kでの基準長さL300に対する0Kでの基準長さL0の比(すなわち、L0/L300)と定義しうる。室温から液体窒素温度に冷却されるときの熱収縮の大きさは、たいてい、室温から約0Kに冷却されるときの熱収縮の大きさのおよそ9割に達するので、0Kでの基準長さL0に代えて、「材料長さ比」は、液体窒素温度(77K)での基準長さL77を用いて、L77/L300と定義してもよい。すなわち、材料サンプルは300Kで基準長さL300を有し、この基準長さが77Kに冷却されたとき長さL77に縮小する。よって、材料長さ比は、材料サンプルの長さを室温と極低温で測定することにより、取得することができる。
【0041】
また、上式のBは、
【数1】
により計算される。ここで、Eo、νoはそれぞれ、絶縁樹脂部材14を形成する材料についてのヤング率とポアソン比を示し、Ei、νiはそれぞれ、金属導体12を形成する材料についてのヤング率とポアソン比を示す。これらの弾性定数が既知でない場合には、極低温下で材料サンプルの引張(圧縮)とひずみの関係を測定することによって得られる。
【0042】
図4において、応力が正の値である場合、接合面14dに引張応力が働くことを示し、応力が負の値である場合、接合面14dに圧縮応力が働くことを示す。
図4に示される計算結果によれば、実施例1(アルミニウム/ニトフィックス)、実施例2(銅/ニトフィックス)、実施例4(銅/スタイキャスト)については、接合面14dに圧縮応力が働くことがわかる。極低温フィードスルー構造10が室温から極低温冷却されるとき、実施例1では、半径比nが約0.1~約0.4の範囲で約5MPa~約4MPaの圧縮応力が接合面14dに働く。実施例2では、約6MPa~約5MPaの圧縮応力、実施例4では、約0.5MPaの圧縮応力が働く。
図3(a)を参照して説明したように、圧縮応力は金属導体12と絶縁樹脂部材14の剥離を抑制し、極低温フィードスルー構造10の気密性を維持することに役立つ。
【0043】
なお、これらの実施例で使用される絶縁樹脂材料の圧縮強度は数百MPaに達する。したがって、
図4に示されるように数MPaの圧縮応力が接合面14dに働いたとしても、それによる材料の破壊は起こり得ないと考えられる。
【0044】
一方、実施例3(アルミニウム/スタイキャスト)については、極低温フィードスルー構造10が室温から極低温冷却されるとき、金属導体12と絶縁樹脂部材14の接合面14dには、半径比nが約0.1~約0.4の範囲で約0.5MPaの引張応力が働く。しかし、一般に、剥離が発生するとき接合面に生じる引張応力は、100MPaのオーダである。実施例3における引張応力はこれの百分の一以下にすぎない。したがって、実施例3において剥離が発生する可能性はほとんどなく、実施例3も利用可能である。
【0045】
図5は、実施の形態に係る極低温フィードスルー構造10に使用されうるいくつかの材料について熱収縮を示すグラフである。
図5には、ある材料のサンプルが有する293K、TKでの基準長さをそれぞれL
293、L
Tと表記する(すなわち材料サンプルは293Kで基準長さL
293を有し、この基準長さがTKに冷却されたとき長さL
Tに縮小する)とき、(L
293-L
T)/L
293と表される熱収縮の大きさが示されている。
【0046】
図5から理解されるように、例えば100K以下の極低温領域において、スタイキャスト2850GTの熱収縮は、かなり大きい。アルミニウムの熱収縮は、スタイキャスト2850GTに比べて、やや大きい。したがって、実施例3のように、金属導体12がアルミニウムで形成され、絶縁樹脂部材14がスタイキャストで形成される場合には、極低温冷却による熱収縮は、絶縁樹脂部材14に比べて金属導体12のほうがやや大きく、接合面14dに引張応力が働くことになる。
【0047】
また、銅の熱収縮は、スタイキャスト2850GTに比べて小さい。したがって、実施例4のように、金属導体12が銅で形成され、絶縁樹脂部材14がスタイキャストで形成される場合には、金属導体12に比べて絶縁樹脂部材14のほうが大きく、接合面14dに圧縮応力が働くことになる。
図5によると、ステンレス鋼の熱収縮の大きさは、銅と同程度であるか、銅よりやや小さい。よって、金属導体12が例えばステンレス鋼で形成される場合にも、接合面14dに圧縮応力が働くことになる。
【0048】
図6は、
図1に示される極低温フィードスルー構造10の他の使用例を示す概略断面図である。
図6に示されるように、極低温フィードスルー構造10が装着される極低温圧力容器50は、圧力容器本体52と、圧力容器本体52から延び、フィードスルー取付フランジ56を有する高圧配管54とを有する。フィードスルー取付フランジ56は、高圧配管54の先端に設けられている。絶縁樹脂部材14がフィードスルー取付フランジ56に装着可能とされている。
【0049】
金属導体12は、極低温高圧環境58から、高圧配管54および極低温フィードスルー構造10を通じて、周囲環境18へと引き出されている。金属導体12は、高圧配管54およびフィードスルー取付フランジ56とは接触していない。絶縁樹脂部材14は、第1端面14aをフィードスルー取付フランジ56に接触させた状態で極低温圧力容器50に気密に装着されている。第1端面14aは、フィードスルー取付フランジ56の端面に接触する平坦面であり、第1端面14aとフィードスルー取付フランジ56は面接触する。第1端面14aは、金属導体12のまわりに形成された複数の締結穴20を有し、各締結穴20には締結部材22が締結可能であり、締結部材22によって絶縁樹脂部材14がフィードスルー取付フランジ56に気密に締結される。また、極低温用シール部材24が、絶縁樹脂部材14とフィードスルー取付フランジ56の間に設けられている。
【0050】
なお、絶縁樹脂部材14が円柱形状を有する場合を例として説明したが、これに限られない。絶縁樹脂部材14の2つの端面は異なる大きさであってもよく、例えば、第2端面14bが第1端面14aより直径が小さくてもよい。絶縁樹脂部材14には、第1端面14aを有するフランジ部が形成され、このフランジ部がフィードスルー取付フランジ56に取り付けられてもよい。
【0051】
あるいは、絶縁樹脂部材14は、円すい台状であってもよい。2つの端面が円形であることも、必須ではない。例えば、第2端面14bは、矩形その他の形状であってもよい。
【0052】
図7は、実施の形態に係る極低温フィードスルー構造10のための気密試験装置を示す概略図である。フィードスルー気密試験装置60は、高圧ガス源62、ガスリーク検査装置64、極低温冷却槽66を備える。金属導体12は、絶縁樹脂部材14の第1端面14aから第2端面14bへと絶縁樹脂部材14を貫通し、絶縁樹脂部材14は、第1端面14aで高圧ガス源62に気密に装着可能であり、第2端面14bでガスリーク検査装置64に気密に装着可能である。
【0053】
高圧ガス源62は、例えば、高圧ヘリウムガスのタンクであり、タンク出口に設けられたバルブなどの圧力調整器62a、安全弁62b、および高圧側取付フランジ62cを介して、極低温フィードスルー構造10に接続される。絶縁樹脂部材14の第1端面14aが高圧側取付フランジ62cに気密に装着される。すなわち、
図1に示される極低温圧力容器50の代わりに、高圧ガス源62および高圧側取付フランジ62cが絶縁樹脂部材14に装着されている。
【0054】
ガスリーク検査装置64は、例えば、ヘリウムリークディテクタであり、バルブ67および低圧側取付フランジ68を介して、極低温フィードスルー構造10に接続される。バルブ67と低圧側取付フランジ68の間で分岐した配管にポンプ69が接続されていてもよい。
【0055】
絶縁樹脂部材14は、第2端面14bでガスリーク検査装置64に気密に装着可能である。極低温圧力容器50に実際に装着した状態で極低温フィードスルー構造10の気密試験を行うのは、試験装置が大がかりになるため、容易でない。仮に、そうした大がかりな試験装置によってリークが発見されたとしても、すでに装着されているため、新たな極低温フィードスルー構造10との交換には手間がかかる。しかし、実施の形態によれば、極低温圧力容器50への装着前に極低温フィードスルー構造10の気密試験を単体で容易に行うことができ、都合がよい。気密試験に合格し、リークが発生しないことが保証された極低温フィードスルー構造10を選んで、実機に装着することができる。
【0056】
絶縁樹脂部材14は、第2端面14bを低圧側取付フランジ68に接触させた状態でガスリーク検査装置64に気密に装着されている。第2端面14bは、金属導体12のまわりに形成された複数の締結穴20を有し、各締結穴20には締結部材22が締結可能であり、締結部材22によって絶縁樹脂部材14が低圧側取付フランジ68に気密に締結される。締結穴20は、第1端面14aから第2端面14bへと絶縁樹脂部材14を貫通している。ただし、これは必須ではなく、第1端面14aの締結穴20と第2端面14bの締結穴20は、相互に接続されていなくてもよい。
【0057】
極低温冷却槽66は、例えば液体窒素などの極低温冷媒で満たされ、その中に極低温フィードスルー構造10が高圧側取付フランジ62cおよび低圧側取付フランジ68とともに浸されている。極低温フィードスルー構造10は、液体窒素温度または冷媒の冷却温度に冷却される。なお、極低温冷却槽66に代えて、極低温フィードスルー構造10は、例えばGM冷凍機などの極低温冷凍機によって冷却されてもよい。
【0058】
図8(a)から
図8(c)は、極低温フィードスルー構造10の変形例を概略的に示す図である。
図8(a)に示されるように、極低温フィードスルー構造10は、離脱防止形状70を備えてもよい。離脱防止形状70は、金属導体12の外周面に設けられ、絶縁樹脂部材14と係合する。離脱防止形状70は、金属導体12から径方向外向きに延びる少なくとも1つの円板状または多角形状の鍔状部分であってもよい。こうした鍔状部分は金属導体12の長手方向に間隔をあけて複数設けられてもよく、
図8(a)では、一例として、2枚の鍔状部分が設けられている。
【0059】
金属導体12には、極低温高圧環境58の圧力により第1端面14aから第2端面14bに向かう方向に力が作用する。そのため、もし、
図1に示されるように接合面14dが第1端面14aから第2端面14bまで一定の径を有する(つまり金属導体12が円柱である)場合には、接合面14dで金属導体12が絶縁樹脂部材14から万が一剥離したとき、金属導体12に働く力によって、金属導体12が第2端面14bから周囲環境18に離脱するリスクがある。極低温高圧環境58と周囲環境18の圧力差が大きい場合には、金属導体12が絶縁樹脂部材14から剥離した瞬間に高速で第2端面14bから飛び出すことになるかもしれない。
【0060】
しかしながら、
図8(a)に示されるように、金属導体12には離脱防止形状70が設けられ、接合面14dに凹凸が形成されているので、万が一、接合面14dで金属導体12が絶縁樹脂部材14から剥離したとしても、金属導体12は絶縁樹脂部材14と係合する。したがって、金属導体12が第2端面14bから周囲環境18に離脱する(飛び出す)のを避けることができる。
【0061】
金属導体12に設けられる離脱防止形状70は、種々の形状をとりうる。例えば、
図8(b)に示されるように、離脱防止形状70は、円錐状またはその他の錐状の形状など、円板状とは異なる形状を有してもよい。離脱防止形状70は、金属導体12の外周面に設けられるどのような突起でもよい。
図8(c)に示されるように、離脱防止形状70は、金属導体12の外周面に設けられる溝など凹部を有してもよい。
【0062】
図9は、実施の形態に係る極低温装置を示す概略図である。極低温冷却システム100は、冷却ガス(例えば、上述の極低温冷媒)を循環させることによって被冷却物、例えば超伝導コイル102を目的の温度に冷却するように構成された循環冷却システムである。冷却ガスは、例えばヘリウムガスがよく用いられるが、冷却温度に応じた適切なそのほかのガスが利用されることもありうる。
【0063】
極低温圧力容器であるコイルケース104は、加圧された極低温冷媒とともに超伝導コイル102を収容し、極低温冷媒によって極低温冷却される。コイルケース104は、フィードスルー取付フランジ56を有し、極低温フィードスルー構造10が装着されている。極低温フィードスルー構造10は、極低温冷媒によってコイルケース104とともに極低温冷却される。上述のように、絶縁樹脂部材14がフィードスルー取付フランジ56に装着されている。コイルケース104および極低温フィードスルー構造10は、真空容器106に収容されている。
【0064】
超伝導コイル102は、例えば超伝導電流リードなどの内部配線41に接続され、内部配線41は、金属導体12に接続される。金属導体12は、極低温フィードスルー構造10を通じてコイルケース104から引き出される。金属導体12は、外部配線43に接続され、外部配線43は、真空フィードスルー110を通じて真空容器106の外に引き出されている。
【0065】
極低温冷却システム100は、冷媒循環装置112と、コイルケース流路118を含む冷却ガス流路114と、極低温冷凍機122と、熱交換器130とを備える。冷却ガス流路114は、ガス供給ライン116、ガス回収ライン120、流量制御バルブ132、冷凍機供給ライン134、冷凍機回収ライン136をさらに備える。極低温冷凍機122は、冷凍機ステージ128を有するコールドヘッド126を備える。冷凍機ステージ128と熱交換器130は、コイルケース104と同様に、真空容器106の中に配置されている。
【0066】
冷媒循環装置112は、例えば、ヘリウムガスの圧縮機であり、コイルケース流路118と極低温冷凍機122の両方にガスを循環させる。冷媒循環装置112は、真空容器106の外に配置されている。冷媒循環装置112から送出された冷却ガスは、ガス供給ライン116を通じて真空容器106の内部に供給される。
【0067】
熱交換器130は、ガス供給ライン116とガス回収ライン120との間で、それぞれを流れる冷却ガスが互いに熱交換をするように構成されている。ガス供給ライン116を流れる冷却ガスは、ガス回収ライン120を流れる冷却ガスによって予冷される。熱交換器130は、極低温冷却システム100の冷却効率を向上するのに役立つ。
【0068】
熱交換器130によって予冷された冷却ガスは、冷凍機ステージ128によってさらに冷却され、コイルケース流路118へと流れる。コイルケース流路118は、超伝導コイル102の円環状の形状に合わせて円環状の流路となっている。コイルケース流路118を流れる冷却ガスは、超伝導コイル102を冷却し、ガス回収ライン120へと流れる。冷却ガスは、ガス回収ライン120から冷媒循環装置112に回収され、再びガス供給ライン116に送出される。
【0069】
この場合、流量制御バルブ132は、コイルケース流路118に流れる冷却ガス流量を制御するために設けられている。流量制御バルブ132は、真空容器106の外においてガス供給ライン116に設置されている。あるいは、流量制御バルブ132は、真空容器106の外においてガス回収ライン120に設置されてもよい。このようにすれば、汎用の流量制御弁を流量制御バルブ132として採用することができ、流量制御バルブ132を真空容器106の中に設置する場合に比べて製造コストの点で有利である。ただし、流量制御バルブ132は真空容器106の中に設置されてもよい。
【0070】
冷媒循環装置112から極低温冷凍機122に作動ガスを供給するために冷凍機供給ライン134が設けられ、極低温冷凍機122から冷媒循環装置112に作動ガスを回収するために冷凍機回収ライン136が設けられている。冷凍機供給ライン134は、真空容器106の外においてガス供給ライン116から分岐してコールドヘッド126に接続し、冷凍機回収ライン136は、真空容器106の外においてガス回収ライン120から分岐してコールドヘッド126に接続している。
【0071】
冷媒循環装置112とコールドヘッド126により作動ガスの循環回路すなわち極低温冷凍機122の冷凍サイクルが構成され、それにより冷凍機ステージ128が冷却される。極低温冷凍機122は、一例として、ギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機であるが、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかの極低温冷凍機であってもよい。
【0072】
冷媒循環装置112からコールドヘッド126に供給される作動ガスの圧力と、コールドヘッド126から冷媒循環装置112に回収される作動ガスの圧力は、ともに大気圧よりかなり高く、それぞれ第1高圧及び第2高圧と呼ぶことができる。説明の便宜上、第1高圧及び第2高圧はそれぞれ単に高圧及び低圧とも呼ばれる。典型的には、高圧は例えば2~3MPaである。低圧は例えば0.5~1.5MPaであり、例えば約0.8MPaである。したがって、冷媒循環装置112からコイルケース104に供給される冷却ガスの圧力も、大気圧よりかなり高く、例えば2~3MPaであってもよい。
【0073】
このようにして、超伝導コイル102を冷却する極低温冷却システム100を提供することができる。また、極低温フィードスルー構造10を使用して、超伝導コイル102に接続される電気配線をコイルケース104内からコイルケース104の外に引き出すことができる。
【0074】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0075】
上述の実施の形態では、極低温フィードスルー構造10は、1本の金属導体12が絶縁樹脂部材14に接合されている。しかし、極低温フィードスルー構造10は、複数本の金属導体12を備え、各金属導体12が絶縁樹脂部材14を貫通して極低温圧力容器50の中から外へと延びてもよい。複数本の金属導体12は、径方向に互いに間隔を空けて配置される。例えば、極低温フィードスルー構造10は、2本の金属導体12を有し、一方が正極側の電流リードに接続され、他方が負極側の電流リードに接続されてもよい。
【0076】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0077】
10 極低温フィードスルー構造、 12 金属導体、 14 絶縁樹脂部材、 14a 第1端面、 14b 第2端面、 14c 外周面、 20 締結穴、 22 締結部材、 26 圧縮応力、 32 絶縁樹脂、 50 極低温圧力容器、 62 高圧ガス源、 64 ガスリーク検査装置、 70 離脱防止形状。