(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】空調システム制御装置、空調システム、空調システム制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
F24F 11/46 20180101AFI20240607BHJP
F24F 5/00 20060101ALI20240607BHJP
F24F 11/62 20180101ALI20240607BHJP
F24F 11/74 20180101ALI20240607BHJP
F24F 11/76 20180101ALI20240607BHJP
F24F 11/77 20180101ALI20240607BHJP
F24F 11/83 20180101ALI20240607BHJP
F24F 110/70 20180101ALN20240607BHJP
F24F 110/20 20180101ALN20240607BHJP
F24F 140/20 20180101ALN20240607BHJP
F24F 140/50 20180101ALN20240607BHJP
F24F 140/60 20180101ALN20240607BHJP
【FI】
F24F11/46
F24F5/00 101Z
F24F5/00 102C
F24F11/62
F24F11/74
F24F11/76
F24F11/77
F24F11/83
F24F110:70
F24F110:20
F24F140:20
F24F140:50
F24F140:60
(21)【出願番号】P 2020009393
(22)【出願日】2020-01-23
【審査請求日】2022-10-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 仁意
(72)【発明者】
【氏名】大谷 雄一
(72)【発明者】
【氏名】山口 徹
(72)【発明者】
【氏名】松尾 実
(72)【発明者】
【氏名】崔 林日
(72)【発明者】
【氏名】星野 徹
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-053127(JP,A)
【文献】特開2013-053836(JP,A)
【文献】特開2008-256258(JP,A)
【文献】特開2004-069134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 1/00-13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源機が作製する冷水の送水温度を設定する設定部と、
被空調空間を含む負荷における全負荷量を取得する全負荷取得部と、
前記送水温度をある候補値とした場合に、前記冷水が流れる冷却コイルにて交換される熱交換量と、室内目標温度と、前記全負荷量とを参照して室内への供給空気量を算出する第1演算部と、
前記送水温度の候補値と、前記全負荷量とを参照して、熱源機の送水流量を算出する第2演算部と、
前記送水温度、前記室内への供給空気量および前記送水流量に応じた熱源機側および負荷側の総消費電力を推定する推定部と、
を備え、
前記設定部は、前記推定された総消費電力が最小となる送水温度を設定し、
前記全負荷量は、前記被空調空間への外気導入に伴って生じる負荷である外気導入負荷と、前記被空調空間内に存在する負荷である室内負荷との総和であり、
前記全負荷取得部は、前記被空調空間内のCO2濃度に応じた外気導入量と、外気の温湿度とに基づいて外気導入負荷を算出し、また、少なくとも前記被空調空間の入退室管理情報を参照して室内負荷を算出する、
空調システム制御装置。
【請求項2】
前記第1演算部は、CO2濃度が規定上限値を超えない範囲で室内への供給空気量を算出する
請求項1に記載の空調システム制御装置。
【請求項3】
前記第1演算部は、室内空気の相対湿度が規定上限値を超えない範囲で室内への供給空気量を算出する
請求項1または請求項2に記載の空調システム制御装置。
【請求項4】
前記推定部は、前記負荷側の消費電力として少なくとも室内への供給空気量に応じたファンの消費電力を算出し、前記熱源機側の消費電力として少なくとも前記送水流量に応じた補機の消費電力を算出する
請求項1から
請求項3のいずれかに記載の空調システム制御装置。
【請求項5】
請求項1から
請求項4のいずれか一項に記載の空調システム制御装置を備え、
熱源機側を構成する機器として、前記熱源機に加えて蓄熱槽を含む、
空調システム。
【請求項6】
熱源機が作製する冷水の送水温度を設定するステップと、
被空調空間を含む負荷における全負荷量を取得するステップと、
前記送水温度をある候補値とした場合に、前記冷水が流れる冷却コイルにて交換される熱交換量と、室内目標温度と、前記全負荷量とを参照して室内への供給空気量を算出するステップと、
前記送水温度の候補値と、前記全負荷量とを参照して、熱源機の送水流量を算出するステップと、
前記送水温度、前記室内への供給空気量および前記送水流量に応じた熱源機側および負荷側の総消費電力を推定するステップと、
を有し、
前記熱源機の送水温度を設定するステップでは、前記推定された総消費電力が最小となる送水温度を設定
し、
前記全負荷量は、前記被空調空間への外気導入に伴って生じる負荷である外気導入負荷と、前記被空調空間内に存在する負荷である室内負荷との総和であり、
前記全負荷量を取得するステップでは、さらに、前記被空調空間内のCO2濃度に応じた外気導入量と、外気の温湿度とに基づいて外気導入負荷を算出し、また、少なくとも前記被空調空間の入退室管理情報を参照して室内負荷を算出する、
空調システム制御方法。
【請求項7】
空著システム制御装置のコンピュータに、
熱源機が作製する冷水の送水温度を設定するステップと、
被空調空間を含む負荷における全負荷量を取得するステップと、
前記送水温度をある候補値とした場合に、前記冷水が流れる冷却コイルにて交換される熱交換量と、室内目標温度と、前記全負荷量とを参照して室内への供給空気量を算出するステップと、
前記送水温度の候補値と、前記全負荷量とを参照して、熱源機の送水流量を算出するステップと、
前記送水温度、前記室内への供給空気量および前記送水流量に応じた熱源機側および負荷側の総消費電力を推定するステップと、
を実行させるプログラムであって、
前記熱源機の送水温度を設定するステップでは、前記推定された総消費電力が最小となる送水温度を設定
し、
前記全負荷量は、前記被空調空間への外気導入に伴って生じる負荷である外気導入負荷と、前記被空調空間内に存在する負荷である室内負荷との総和であり、
前記全負荷量を取得するステップでは、さらに、前記被空調空間内のCO2濃度に応じた外気導入量と、外気の温湿度とに基づいて外気導入負荷を算出し、また、少なくとも前記被空調空間の入退室管理情報を参照して室内負荷を算出する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空調システム制御装置、空調システム、空調システム制御方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱源側は負荷側で要求される負荷量を満足しつつ、送水温度設定値に合わせた温度の冷温水を供給するように制御を行うにあたって、外気温度・湿度見合いで変化する熱源機の特性に合わせて、熱源側機器(熱源機、補機(冷水ポンプ、冷却水ポンプ、冷却塔))の合計の消費電力が最小となるように制御を行っている。
【0003】
特許文献1には、外気温度・湿度に基づいて送水温度設定値を変更する空気調和システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
負荷側はそれぞれのエリアで必要となる負荷に合わせてローカルの制御を行っており、負荷状況による成り行きの制御となっている。このため、例えば、負荷側や熱源側機器のうち補機の動力が支配的な場合に、熱源機のCOPを落とした運転を行った方がいい場合であっても、そのような制御を行うことはできない。
即ち、熱源側、負荷側を統合して全体として最適となる制御は行われていない。
【0006】
本開示の目的は、負荷側で生じる消費電力を考慮した最適な熱源機の運転を実現可能な空調システム制御装置、空調システム、空調システム制御方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様によれば、空調システム制御装置は、熱源機の送水温度を設定する設定部と、前記送水温度に応じた負荷側機器における室内への供給空気量を算出する第1演算部と、前記送水温度に応じた熱源機の送水流量を算出する第2演算部と、前記送水温度、前記室内への供給空気量および前記送水流量に応じた熱源機側および負荷側の総消費電力を推定する推定部と、を備える。前記設定部は、前記推定された総消費電力が最小となる送水温度を設定する。
【発明の効果】
【0008】
上述の発明の各態様によれば、負荷側で生じる消費電力を考慮した最適な熱源機の運転を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係る空調システムの概要を示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る空調システムの負荷の構成を示す図である。
【
図3】第1の実施形態に係る空調システムの負荷の構成を示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係る熱源機制御装置の処理フローを示す図である。
【
図5】他の実施形態に係る空調システムの概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態に係る熱源機制御装置(空調システム制御装置)およびこれを備える空調システムについて、
図1~
図4を参照しながら説明する。
【0011】
(空調システムの概要)
図1は、第1の実施形態に係る空調システムの概要を示す図である。
第1の実施形態に係る空調システム1は、複数台の大型冷凍機(熱源機1a)及びエアハンドリングユニット(AHU)、ファンコイルユニット(FCU)(
図2で詳しく説明)で構成されるセントラル空調システムである。
【0012】
図1に示すように、空調システム1は、並列接続された複数の熱源機1aと、負荷2と、冷却塔3とを有してなる。また、空調システム1は、複数の熱源機1aの運転を統括制御する熱源機制御装置10を備えている。
【0013】
各熱源機1aは、一般的なヒートポンプの構成(圧縮機、凝縮器、膨張弁および蒸発器)を備える。各熱源機1aは、負荷2との間で巡る冷水の熱を奪い(冷水を冷却し)、所定温度の冷水を作る。
熱源機1aは、例えばターボ冷凍機である。この場合、熱源機1aは、2段圧縮2段膨張サブクールサイクルにて冷媒を冷却し、冷却された冷媒にて冷水を冷却する。
ターボ圧縮機は遠心式の2段圧縮機であり、ガス状の冷媒を圧縮する。凝縮器は、ターボ圧縮機によって圧縮された高温高圧のガス冷媒を凝縮して液化させる。サブクーラーは、凝縮器の冷媒流れ下流側に設けられ、凝縮器にて凝縮された液冷媒に対して過冷却を与える。冷却伝熱管は、凝縮器及びサブクーラーに挿通され、管内を流れる冷却水により冷媒を冷却する。この、冷却伝熱管を流れる冷却水は、冷媒を冷却した後、冷却塔において外部へと排熱され、再び冷却伝熱管を流れる。
高圧膨張弁および低圧膨張弁は、サブクーラーからの液冷媒を膨張させる。中間冷却器は、高圧膨張弁によって膨張させられた液冷媒を冷却する。蒸発器は、低圧膨張弁によって膨張させられた液冷媒を蒸発させる。冷水伝熱管は、蒸発器に挿通される。冷水伝熱管を流れる冷水は、冷媒が蒸発する際に気化熱を吸熱されることにより冷却される。
このようにして、熱源機1aは冷水を冷却して負荷2に供給する。
また、熱源機1aの負荷制御は、圧縮機が可変速制御可能な冷凍機の場合、ターボ圧縮機の回転数制御と、入口案内翼およびホットガスバイパス管による容量制御とにより行われる。
電動モータは、ターボ圧縮機を駆動する。インバータは、電動モータの回転数を制御することによりターボ圧縮機の回転数制御を行う。
入口案内翼は、ターボ圧縮機の冷媒吸入口に設けられ、吸入冷媒流量を制御することにより、熱源機1aの容量制御を行う。
ホットガスバイパス管は、凝縮器の気相部と蒸発器の気相部との間に設けられ、冷媒ガスをバイパスする。ホットガスバイパス弁は、ホットガスバイパス管内を流れる冷媒の流量を制御する。ホットガスバイパス弁がホットガスバイパス流量を調整することにより、入口案内翼による容量制御よりも詳細な容量制御を行える。
なお、圧縮機が固定速制御である冷凍機の場合、入口案内翼及びホットガスバイパス管による容量制御により負荷制御を行う。
【0014】
ポンプP1は、空調システム1における熱源機側の補機の一つであって、冷水の流量を調節可能な送水ポンプである。ポンプP1による冷水の流量は、後述する熱源機制御装置10によって制御される。本実施形態においては、ポンプP1は、熱源機1aの送出側流路及び還流側流路の両方に設けられているが、他の実施形態においてはこれに限られず、いずれか片方のみに設けられる態様であってもよい。
【0015】
ポンプP2は、空調システム1における熱源機側の補機の一つであって、冷却水の流量を調節可能な送水ポンプである。ポンプP2による冷却水の流量も、ポンプP1と同様に、熱源機制御装置10によって制御される。
【0016】
熱源機制御装置10は、並列接続された複数の熱源機1aの動作を統括制御する。既知の熱源制御装置は、負荷の大きさに応じて、熱源機のCOP(Coefficient Of Performance)が最大となる動作点で運転するが、本実施形態にかかる熱源制御装置10は、必ずしも熱源機1aのCOPが最大となる動作点で運転するとは限らない。本実施形態に係る熱源機制御装置10の具体的な機能及び処理の内容については後述する。
【0017】
(負荷の構成)
図2は、第1の実施形態に係る空調システムの負荷の構成を示す図である。
以下、
図2を参照しながら、負荷2の構成について詳しく説明する。
【0018】
図2に示すように、本実施形態に係る負荷2は、例えば、ビルのオフィスルームである被空調空間Rと、被空調空間Rの換気および空調を行うエアハンドリングユニット20(以下、AHU20とも記載する。)と、このAHU20を制御するAHUコントローラ21と、各種ファンF1、F2とを備える。また、負荷2は、被空調空間Rの空調を行うファンコイルユニット30(以下、FCU30とも記載する。)と、このFCU30を制御するFCUコントローラ31と、ファンF11とを備える。
被空調空間Rには、人、OA機器、照明などの室内負荷が存在する。また、被空調空間Rでは、CO2濃度が規定上限値を上回らないようにすることが求められており、現在のCO2濃度に応じた外気導入管理が行われている。
【0019】
AHU20は、内部に冷却コイルCCを備える。AHU20は、室内空気の循環および外気の導入を行いながら、これらの空気を冷却コイルCCで冷却し、被空調空間Rに供給する。冷却コイルCCには熱源機1aによって所定温度に冷却された冷水が循環している。AHU20が室内空気を循環させることにより、この冷却コイルCCを介して空気と冷水との間で熱交換が行われる。これにより、冷却された空気が室内に供給される。
【0020】
AHUコントローラ21は、AHU20を通じて、被空調空間RのCO2(二酸化炭素)濃度が規定上限値を上回らないように、適宜、外気導入を行う。具体的には、AHUコントローラ21は、被空調空間RのCO2濃度を監視しながら、給気ファンF1および還気ファンF2の風量とダンパ開度を制御することで外気導入量を調節する。なお、被空調空間RのCO2濃度は、例えば室内に設置されたCO2濃度計CSを通じて取得される。
【0021】
FCUコントローラ31は、被空調空間Rにおいて予め設定された室内目標条件(例えば26℃/50%)のうち、目標湿度が達成されるように、室内への供給空気量を決定する。具体的には、FCUコントローラ31は、被空調空間Rにおける室内温湿度を温湿度センサS1から取得し、これが室内目標条件となるように室内への供給空気量を決定する。例えば、温湿度センサS1で計測された室内湿度が室内目標条件を大幅に上回っているときは、FCUコントローラ31は、室内の湿度を下げるべく、室内への供給空気量を増加させる。一方、室内湿度が室内目標条件に近いときは、FCUコントローラ31は、室内への供給空気量を低減させる。なお、室内への供給空気量は、ファンF11によって制御される。
【0022】
(熱源機制御装置の機能構成)
図3は、第1の実施形態に係る熱源機制御装置の機能構成を示す図である。
本実施形態に係る熱源機制御装置10は、CPU等のプロセッサを備え、所定のプログラムに従って動作する。
図3に示すように、熱源機制御装置10は、所定のプログラムに従って動作することで、設定部100、第1演算部101、第2演算部102、推定部103、導入量取得部104および全負荷取得部105としての機能を発揮する。
【0023】
設定部100は、熱源機1aの送水温度(冷水出口温度)を設定する。ここで、設定部100及び推定部103(後述)は、送水温度の設定値を変化させながら、その送水温度に応じて生じる総消費電力(熱源機側の消費電力と負荷側の消費電力を合わせた消費電力)を推定し、当該総消費電力の推定値が最小となる送水温度を探索する。このようにして、設定部100は、総消費電力が最小となる送水温度を設定する。総消費電力の推定方法については後述する。
【0024】
第1演算部101は、主に負荷側にて生じる動力(消費電力)を推定するために必要な情報を取得する。具体的には、第1演算部101は、設定部100で設定された送水温度に応じた負荷の室内への供給空気量を算出する。
【0025】
第2演算部102は、主に熱源機側にて生じる動力(消費電力)を推定するために必要な情報を取得する。具体的には、第2演算部102は、設定部100で設定された送水温度に応じた熱源機の送水流量を算出する。
【0026】
推定部103は、送水温度、室内への供給空気量および送水流量に応じた熱源機側および負荷側の総消費電力を推定する。
【0027】
導入量取得部104は、負荷2における外気導入量を取得する。
【0028】
全負荷取得部105は、負荷2の全負荷(外気導入負荷と室内負荷との総和)を取得する。
【0029】
記録媒体106は、いわゆるHDD(ハードディスクドライブ)、或いは、SSD(ソリッドステートドライブ)などの大容量補助記憶装置であって、熱源機制御装置10の処理に必要な各種情報が事前に記録されている。
具体的には、記録媒体106には、第1消費電力テーブルTB1と、第2消費電力テーブルTB2とが記録されている。第1消費電力テーブルTB1は、負荷側にて生じる消費電力を見積もる際に用いられる情報テーブルであって、室内への供給空気量と負荷側にて生じる消費電力との対応関係を示す情報テーブルである。また、第2消費電力テーブルTB2は、熱源機側の補機(ポンプP1、P2、冷却塔3等)にて生じる消費電力を見積もる際に用いられる情報テーブルであって、冷水の送水流量と熱源機側の補機にて生じる消費電力との対応関係を示す情報テーブルである。
【0030】
(熱源機制御装置の処理フロー)
図4は、第1の実施形態に係る熱源機制御装置の処理フローを示す図である。
図4に示す処理フローは熱源機1aで作製すべき、最適な冷水の温度(送水温度設定値)を決定するための処理フローである。空調システム1の運転中において、一定時間間隔で定常的に繰り返し実施される。
【0031】
まず、熱源機制御装置10の導入量取得部104は、負荷2における外気導入量を取得する(ステップS01)。ここで、導入量取得部104は、CO2濃度計CSを通じて被空調空間RにおけるCO2濃度を取得する。そして、導入量取得部104は、CO2濃度計CSを通じて取得したCO2濃度に応じた外気導入量を取得する。ここで、導入量取得部104は、AHUコントローラ21が外気導入量を決定する方法と同じ方法で外気導入量を取得する。例えば、AHUコントローラ21が、CO2濃度の移動平均の変化量が大きいほどより多くの外気を導入する場合、導入量取得部104も同様に、CO2濃度の移動平均の変化量に応じた外気導入量を取得する。
【0032】
次に、熱源機制御装置10の全負荷取得部105は、負荷2における全負荷を取得する(ステップS02)。ここで、「全負荷」とは、負荷2の全負荷量を示す値であって、本実施形態においては、外気の温湿度及び外気導入量に応じた負荷である外気導入負荷と、上述した室内負荷との総和である。ここで、全負荷取得部105は、ステップS01で特定された外気導入量と、温湿度センサS2によって計測された外気温湿度(例えば30℃/70%)とを取得し、外気導入負荷を算出する。
次に、全負荷取得部105は、例えば、被空調空間Rの中にいる従業員等の人数や電源がついているOA機器、及び、点灯状態となっている照明装置等の情報を取得して、室内負荷を算出する。被空調空間Rの中にいる従業員等の人数を取得するにあたっては、例えば、全負荷取得部105は、被空調空間Rの入退室管理情報などを参照してもよい。
【0033】
次に、熱源機制御装置10の設定部100は、熱源機1aが送水すべき冷水の温度(送水温度設定値)を、複数の異なる候補値のうちの一つに仮決定する。
熱源機制御装置10の第1演算部101は、熱源機1aの送水温度設定値を、当該仮決定したものとした場合に、ステップS02で算出した全負荷に対し、AHU20およびAHUコントローラ21、FCU30およびFCUコントローラ31によって制御される室内への供給空気量を算出する(ステップS03)。具体的には、第1演算部101は、AHU20の冷却コイルCCにて交換される熱量であるAHU熱交換量、FCU30の冷却コイルCCにて交換される熱量であるFCU熱交換量と、室内目標温度条件(例えば26℃/50%)とを参照して、AHU20およびAHUコントローラ21、FCU30およびFCUコントローラ31が達成すべき室内への供給空気量を算出する。
【0034】
更に、熱源機制御装置10の第2演算部102は、熱源機1aの送水温度設定値を、当該仮決定したものとした場合に、ステップS02で算出した全負荷に対し、熱源機1aが送水すべき流量(送水流量)を算出する(ステップS04)。ここで、第2演算部102は、設定部100によって仮決定された上記送水温度設定値の候補値と、上記全負荷とを参照することで、熱源機1aの送水流量を算出する。
【0035】
次に、推定部103は、上記仮決定した送水温度設定値の候補値に対応する総消費電力を推定する。ここで、推定部103は、まず、(1)負荷側にて生じる消費電力の推定値、(2)熱源機側にて生じる消費電力の推定値のそれぞれを算出する。総消費電力とは、上記(1)と(2)との総和である。
【0036】
推定部103は、(1)負荷側にて生じる消費電力の推定値を算出するにあたり、ステップS03にて算出された室内への供給空気量と、第1消費電力テーブルTB1(
図3)とを参照する。上述したように、第1消費電力テーブルTB1には、負荷側(AHU20及びAHUコントローラ21、FCU30及びFCUコントローラ31)が達成すべき室内への供給空気量ごとに、各種ファン(給気ファンF1、還気ファンF2等(
図2参照))で消費される総消費電力が記録されている。推定部103は、ステップS03にて算出された室内への供給空気量に対応する負荷側の消費電力を、第1消費電力テーブルTB1を参照して特定する。
【0037】
次に、推定部103は、(2)熱源機側にて生じる消費電力の推定値を算出するにあたり、(2a)熱源機1aにて生じる消費電力、(2b)熱源機側の補機(ポンプP1、P2、冷却塔3等)にて生じる消費電力をそれぞれ求める。
(2a)の熱源機1aにて生じる消費電力については、推定部103は、設定部100で仮決定された送水温度設定値に基づいて特定する。一般に、熱源機1aは、送水温度が低いほど消費電力が大きくなり、送水温度が高いほど消費電力が小さくなる傾向がある。推定部103は、熱源機1aにおける、送水温度設定値と消費電力との関係を予め把握しており、当該関係に基づいて、(2a)熱源機1aにて生じる消費電力を取得する。
(2b)の熱源機側の補機にて生じる消費電力については、推定部103は、ステップS04にて算出された送水流量と、第2消費電力テーブルTB2(
図3)とを参照する。上述したように、第2消費電力テーブルTB2には、熱源機側の補機が達成すべき送水流量ごとに、各種ポンプ(ポンプP1、P2等(
図1参照))及び冷却塔3で消費される総消費電力が記録されている。推定部103は、ステップS04にて算出された送水流量に対応する熱源機側の補機の消費電力を、第2消費電力テーブルTB2を参照して特定する。
推定部103は、(2a)熱源機1aにて生じる消費電力、(2b)熱源機側の補機にて生じる消費電力の総和を算出することで(2)熱源機側にて生じる消費電力の推定値を得る。
【0038】
推定部103は、以上のようにして算出した(1)負荷側にて生じる消費電力の推定値、および、(2)熱源機側にて生じる消費電力の推定値の総和を算出することで、仮決定した送水温度設定値の候補値に対応する総消費電力の推定値を算出する。
【0039】
設定部100は、異なる複数の送水温度設定値の候補値ごとに、ステップS03~S05の処理を行い、総消費電力の推定値を算出する。そして、設定部100は、これら複数の候補値の中から、最も小さい総消費電力が得られた送水温度設定値の候補値を、最適な送水温度設定値として決定する(ステップS06)。
【0040】
(作用、効果)
上述したように、送水温度設定値を下げると熱源機1aそのものの消費電力は増える。しかし、同一の負荷(全負荷)に対しては、熱源機1aの送水温度を低下させた分だけ、熱源機側での送水流量を減らすことができる。したがって、熱源機1aの送水温度設定値を下げることで熱源機側の補機の消費電力を低減することができる。また、AHU20やFCU30では、熱源機1aの送水温度を低下させた分だけ、AHU20やFCU30での交換熱量が増加し、室内空気を冷やす能力が高まる。したがって、熱源機1aの送水温度を低下させた分だけ、負荷側での室内への供給空気量も低減され、負荷側にて生じる消費電力も低下する。
したがって、熱源機1a自身の消費電力に対し、熱源機側の補機の消費電力および負荷側(AHU20及びFCU30)にて生じる消費電力の総和の比率が高い場合、本実施形態に係る熱源機制御装置10によれば、熱源機1aにて生じる消費電力が若干増えたとしても、システム全体としての総消費電力が最小となるように、送水温度設定値が決定される。
【0041】
以上、第1の実施形態に係る熱源機制御装置10によれば、負荷側で生じる消費電力を考慮した最適な熱源機の運転を実現することができる。
【0042】
また、第1の実施形態に係る熱源機制御装置10の第2演算部102は、負荷側での外気導入量を含む全負荷に基づいて、送水温度に応じた熱源機1aの送水流量を算出する。このようにすることで、被空調空間Rにおける外気導入量を加味した全負荷量を精度よく見積もることができる。
【0043】
また、第1の実施形態に係る熱源機制御装置10の推定部103は、負荷側の消費電力として少なくとも室内への供給空気量に応じたファンF1、F2、F11等の消費電力を算出し、熱源機側の消費電力として少なくとも送水流量に応じた補機(ポンプP1、P2、冷却塔3等)の消費電力を算出する。
このようにすることで、送水温度設定値(複数の候補値それぞれ)に応じた、負荷側にて生じる消費電力および熱源機側にて生じる消費電力を一層精度よく推定することができる。
【0044】
(その他の実施形態)
なお、第1の実施形態に係る導入量取得部104は、CO2濃度の移動平均の変化量に応じた外気導入量を取得するものとして説明したが、他の実施形態においてはこの態様に限定されない。例えば、他の実施形態に係る導入量取得部104は、CO2濃度の管理目標値との偏差の変化傾向に基づいて外気導入量を算出してもよい。
このようにすることで、現在のCO2濃度と管理目標値との偏差に余裕がある場合には、外気導入量を減らすことにより、負荷を下げた運転時間を長くとることができる。
【0045】
また、第1の実施形態に係る熱源機制御装置10は、被空調空間Rに設置されたCO2濃度計CSを通じて当該被空調空間RのCO2濃度を取得するものとして説明したが、他の実施形態においてはこの態様に限定されない。他の実施形態に係る熱源機制御装置10は、例えば、CO2濃度の計測の代わりに、在室人数によってCO2濃度を推定するものとしてもよい。このようにすることで、CO2濃度計が高価な場合、ビル管理システムなどで別途管理している在室人数を使って同等のことができる。
【0046】
また、外気導入量を、逐次計算するのではなく、あらかじめテーブル化しておき、解の算出に時間がかかる状況を回避するようにしてもよい。このようにすることで、計算時間がネックとなる場合や計算結果が多峰性を持つ場合であってもあらかじめ意図した動作を行うことが可能となる。
【0047】
また、完全に外気導入を止めてしまうとCO2濃度の変化傾向が捕捉できなくなるため、最低外気導入量を設けておいて、無人の状況でも管理目標値を逸脱しないようにしてもよい。このようにすることで、オフィスビルの業務開始時点などにおいて、「在室者なし」から「在室者あり」への変化時点であっても管理目標値を大幅に超える事態を避けることができる。
【0048】
また、CO2濃度の変化傾向を学習し、その予測値に基づいて外気導入量を決定するものとしてもよい。単なる変化傾向のみでは外気導入量が急激に増大する可能性があるが、変化傾向のパターンに合わせて換気量を制御することにより、無駄に換気量を増やさなくてもよくなる。
【0049】
また、他の実施形態に係る熱源機制御装置10は、全負荷を見積もるにあたり、室内負荷及び外気導入負荷のそれぞれを見積もってその総和を計算するのではなく、熱源機1aにおける冷水出口温度および冷水入口温度の温度差と、冷水流量との積に基づいて全負荷を見積もるものとしてもよい。
【0050】
また、熱源側機器における冷水供給を複数台の熱源機1aのみが行うのではなく、
図5に示すように蓄熱槽4を設置して、蓄熱槽4と熱源機1aで分担して冷水の供給を行うものとしてもよい。この場合、電力料金の体系に応じて、蓄熱を行う時間帯を変更することにより、消費電力量が同等となった場合であっても、ランニングコストを低減することができる。
【0051】
上述の実施形態においては、熱源機制御装置10の各種処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって上記各種処理が行われる。また、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0052】
上記プログラムは、上述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。更に、上述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0053】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0054】
<付記>
各実施形態に記載の空調システム制御装置(熱源機制御装置10)は、例えば以下のように把握される。
【0055】
(1)第1の態様に係る空調システム制御装置は、熱源機1aの送水温度を設定する設定部100と、送水温度に応じた負荷2の室内への供給空気量を算出する第1演算部101と、送水温度に応じた熱源機1aの送水流量を算出する第2演算部102と、送水温度、室内への供給空気量および送水流量に応じた熱源機側および負荷側の総消費電力を推定する推定部103と、を備える。設定部100は、推定された総消費電力が最小となる送水温度を設定する。
【0056】
(2)第2の態様に係る空調システム制御装置によれば、第1演算部101は、CO2濃度が規定上限値を超えない範囲で室内への供給空気量を算出する。
【0057】
(3)第3の態様に係る空調システム制御装置によれば、第1演算部101は、室内空気の相対湿度が規定上限値を超えない範囲で室内への供給空気量を算出する。
【0058】
(4)第4の態様に係る空調システム制御装置によれば、第2演算部102は、負荷側での外気導入量を含む全負荷に基づいて、送水温度に応じた熱源機の送水流量を算出する。
【0059】
(5)第5の態様に係る熱源機制御装置10によれば、推定部103は、負荷側の消費電力として少なくとも室内への供給空気量に応じたファン(給気ファンF1、還気ファンF2等)の消費電力を算出し、熱源機側の消費電力として少なくとも送水流量に応じた補機(ポンプP1、P2、冷却塔3等)の消費電力を算出する。
【0060】
(6)第6の態様に係る空調システム1は、上記(1)~(5)のいずれかの空調システム制御装置を備え、熱源機側を構成する機器として、熱源機1aに加えて蓄熱槽4を含む。
【0061】
(7)第7の態様に係る空調システム制御方法によれば、熱源機1aの送水温度を設定するステップと、送水温度に応じた負荷2の室内への供給空気量を算出するステップと、送水温度に応じた熱源機1aの送水流量を算出するステップと、送水温度、室内への供給空気量および送水流量に応じた熱源機側および負荷側の総消費電力を推定するステップと、を有する。熱源機1aの送水温度を設定するステップでは、推定された総消費電力が最小となる送水温度を設定する。
【0062】
(8)第8の態様に係るプログラムによれば、空調システム制御装置のコンピュータに、熱源機1aの送水温度を設定するステップと、送水温度に応じた負荷2の室内への供給空気量を算出するステップと、送水温度に応じた熱源機1aの送水流量を算出するステップと、送水温度、室内への供給空気量および送水流量に応じた熱源機側および負荷側の総消費電力を推定するステップと、を実行させる。熱源機1aの送水温度を設定するステップでは、推定された総消費電力が最小となる送水温度を設定する。
【符号の説明】
【0063】
1 空調システム
10 熱源機制御装置(空調システム制御装置)
100 設定部
101 第1演算部
102 第2演算部
103 推定部
104 導入量取得部
105 全負荷取得部
106 記録媒体
2 負荷
20 エアハンドリングユニット(AHU)
21 AHUコントローラ
30 ファンコイルユニット(FCU)
31 FCUコントローラ
4 蓄熱漕
TB1 第1消費電力テーブル
TB2 第2消費電力テーブル