(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】乾燥炉
(51)【国際特許分類】
F26B 9/00 20060101AFI20240607BHJP
【FI】
F26B9/00 C
(21)【出願番号】P 2020020308
(22)【出願日】2020-02-10
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000110343
【氏名又は名称】トリニティ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】田村 諭
(72)【発明者】
【氏名】藤原 茂樹
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-222821(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00268691(EP,A1)
【文献】特開2008-232517(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173351(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0349151(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉の長手方向に沿って複数の乾燥エリアが連続して設けられ、炉殻内を前記長手方向に搬送される車両ボディに対し、前記乾燥エリアにて熱風を吹き付けて前記車両ボディに塗布された塗膜を乾燥させる乾燥炉であって、
前記複数の乾燥エリアは、最前段の乾燥エリアと、2段目以降の乾燥エリアとからなるとともに、各乾燥エリアの進行方向の長さは前記車両ボディの長さよりも大きく、
前記2段目以降の乾燥エリアは、
前記車両ボディの床裏レベルの位置、かつ前記炉殻における前記車両ボディの下部位置にて、斜め上方に前記熱風を吐出するように配設された第1熱風給気口と、
前記車両ボディの窓レベルの位置、かつ前記炉殻における前記第1熱風給気口よりも高い位置にて、斜め下方に前記熱風を吐出するように配設された第2熱風給気口と、
前記熱風を前記炉殻の外に排出するべく、前記炉殻において前記第1熱風給気口及び前記第2熱風給気口よりも低い位置に配設された排気口と
を備え、
前記最前段の乾燥エリアは、前記第1熱風給気口と前記排気口とを備える一方、車両ボディ上部の外部パーツの熱しすぎ防止のために前記第2熱風給気口が省略されており、
前記排気口は、前記車両ボディの幅寸法よりも幅狭の副空間に開口するように配設され、かつ前記車両ボディ直下の位置に配設されており、
前記第2熱風給気口からの給気量が、前記第1熱風給気口からの給気量と
同じかそれよりも少なめに設定されている
ことを特徴とする乾燥炉。
【請求項2】
前記第1熱風給気口及び前記第2熱風給気口はいずれもノズルを含んで構成されるとともに、前記第1熱風給気口を構成する第1のノズルは、前記第2熱風給気口を構成する第2のノズルよりも前記炉殻内における周囲の空気を巻き込む誘引作用に優れていることを特徴とする請求項1に記載の乾燥炉。
【請求項3】
前記第1熱風給気口及び前記第2熱風給気口はいずれもノズルを含んで構成されるとともに、前記第2熱風給気口を構成する第2のノズルは、前記第1熱風給気口を構成する第1のノズルよりも前記熱風を直進させる作用に優れていることを特徴とする請求項1または2に記載の乾燥炉。
【請求項4】
前記炉殻の内面と前記車両ボディとの距離が300mm以下となるように設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の乾燥炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乾燥炉に係り、特には炉の長手方向に沿って複数の乾燥エリアが連続して設けられた乾燥炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、自動車の塗装ラインでは、乾燥対象物である自動車ボディを搬送するコンベアラインに沿って、電着乾燥炉、シーラー乾燥炉、塗装乾燥炉を設置している。この種の乾燥炉は、自動車ボディをコンベアで搬送しながらその塗膜を乾燥硬化させるために、炉本体の両端に自動車ボディの出入口を設けたトンネル状に形成されている。通常、乾燥炉の内部には、炉の長手方向に沿って複数の乾燥エリアが連続して設けられている。具体的には、自動車ボディの濡れた塗膜を速やかに乾燥させてそのボディを設定温度まで加熱昇温させる乾燥エリア(昇温ゾーン)と、自動車ボディを設定温度に加熱保持する乾燥エリア(保持ゾーン)とが設けられている。ここで
図6、
図7に従来の乾燥炉111の一例を示す。
【0003】
図6、
図7に示す従来の乾燥炉111は、前段に3つの乾燥エリアA1、A2、A3からなる昇温ゾーン15を備え、かつ後段に1つの乾燥エリアA4からなる保持ゾーン16を備えている。各々の乾燥エリアA1~A4においては、熱風給気口41と排気口43とがそれぞれ設けられている。熱風給気口41は炉殻17における自動車ボディW1よりも低い位置に配置されており、熱風は吹き出しダクト23から熱風給気口41へ供給されるようになっている。排気口43は炉殻17において自動車ボディW1よりも高い位置に配置されており、熱風は排気口43から吸い込みダクト24へ排出されるようになっている。なお、これと同様の構造の乾燥炉111は、下記の文献においても開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-138037号公報(
図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車ボディの塗膜が硬化するのに必要な温度に達するまでの時間を「昇温時間」と呼んでいるが、通常、自動車ボディの搬送速度は一定であるため、昇温時間を長くしたい場合には炉長を長くする必要がある。つまり、乾燥炉の炉長は昇温時間によって決定されることとなる。
【0006】
また、昇温時間は自動車ボディにおける部位によっても異なる。例えば、外板を中心とする外部パーツと、内板を中心とする内部パーツとに区分すると、熱風が直接当たりやすい外部パーツに比べて、熱風が直接当たりにくい内部パーツのほうがどうしても昇温時間が長くなる。
図8のグラフは、横軸を時間、縦軸をボディ温度としたものであって、外部パーツの温度推移を実線で示し、内部パーツの温度推移を破線で示したものである。なお、同グラフの上側には乾燥炉111を対応させて図示してある。同グラフによると、外部パーツは比較的早め(20分以内)に設定温度である約160℃に達するのに対し、内部パーツは30分以上かかるため、昇温時間に差があることがわかる。このため、従来の乾燥炉では、内部パーツの加熱条件を優先させて昇温時間を十分に確保する必要があり、結果として乾燥炉長が長くなるという欠点があった。また、この場合には炉長が長くなることで、設備のイニシャルコストやランニングコストが高くなるため、炉長短縮に対する要望があった。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両ボディの外部パーツ及び内部パーツを効率よく均一に昇温させることが可能であり、炉長を短縮することができる乾燥炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、手段1に記載の発明は、炉の長手方向に沿って複数の乾燥エリアが連続して設けられ、炉殻内を前記長手方向に搬送される車両ボディに対し、前記乾燥エリアにて熱風を吹き付けて前記車両ボディに塗布された塗膜を乾燥させる乾燥炉であって、前記複数の乾燥エリアは、最前段の乾燥エリア(A1)と、2段目以降の乾燥エリア(A2~A4)とからなるとともに、各乾燥エリア(A1~A4)の進行方向の長さは前記車両ボディの長さよりも大きく、前記2段目以降の乾燥エリア(A2~A4)は、前記車両ボディの床裏レベルの位置、かつ前記炉殻における前記車両ボディの下部位置にて、斜め上方に前記熱風を吐出するように配設された第1熱風給気口と、前記車両ボディの窓レベルの位置、かつ前記炉殻における前記第1熱風給気口よりも高い位置にて、斜め下方に前記熱風を吐出するように配設された第2熱風給気口と、前記熱風を前記炉殻の外に排出するべく、前記炉殻において前記第1熱風給気口及び前記第2熱風給気口よりも低い位置に配設された排気口とを備え、前記最前段の乾燥エリア(A1)は、前記第1熱風給気口と前記排気口とを備える一方、車両ボディ上部の外部パーツの熱しすぎ防止のために前記第2熱風給気口が省略されており、前記排気口は、前記車両ボディの幅寸法よりも幅狭の副空間に開口するように配設され、かつ前記車両ボディ直下の位置に配設されており、前記第2熱風給気口からの給気量が、前記第1熱風給気口からの給気量と同じかそれよりも少なめに設定されていることを特徴とする乾燥炉をその要旨とする。
【0009】
従って、手段1に記載の発明によると、車両ボディの下部位置に配設した第1熱風給気口から斜め上方に熱風を吐出することにより、当該熱風が主として外部パーツに当たり、外部パーツの塗膜が効率よく昇温される。また、第1熱風給気口よりも高い位置に配設した第2熱風給気口から斜め下方に熱風を吐出することに加え、第1熱風給気口及び第2熱風給気口よりも低い位置に配設された排気口より熱風が排出されることにより、車両ボディの窓部を介して室内側に熱風が導入されやすくなる。その結果、第2熱風給気口からの熱風が主として内部パーツに当たり、内部パーツの塗膜が効率よく昇温される。従って、外部パーツ及び内部パーツの昇温時間が短縮化されるとともに、昇温時間の差が低減される。その結果、外部パーツ及び内部パーツを効率よく均一に昇温させることが可能となり、ひいては炉長を短縮することができる。
【0010】
上記発明では、前記第1熱風給気口は前記車両ボディの床裏レベルの位置に配設され、前記第2熱風給気口は前記車両ボディの窓レベルの位置に配設されている。
【0011】
従って、当該位置に配設した第1熱風給気口から斜め上方に熱風を吐出することにより、車両ボディの床部外側を含む主として外部パーツの塗膜が効率よく加熱されて昇温される。また、当該位置に配設した第2熱風給気口から斜め下方に熱風を吐出することで、車両ボディの窓部を介して室内側に熱風を導入することができる。よって、車両ボディの床部内側を含む主として内部パーツの塗膜が効率よく加熱されて昇温される。
【0012】
手段2に記載の発明は、手段1において、前記第1熱風給気口及び前記第2熱風給気口はいずれもノズルを含んで構成されるとともに、前記第1熱風給気口を構成する第1のノズルは、前記第2熱風給気口を構成する第2のノズルよりも前記炉殻内における周囲の空気を巻き込む誘引作用に優れていることをその要旨とする。
【0013】
従って、手段2に記載の発明によると、第1熱風給気口を構成するノズルが、炉殻内における周囲の空気を巻き込んで熱風を吐出する結果、車両ボディの床部外側に多量の熱風を当てることができる。よって、車両ボディの床部外側を含む主として外部パーツの塗膜がいっそう効率よく加熱され、より短時間で昇温される。
【0014】
手段3に記載の発明は、手段1または2において、前記第1熱風給気口及び前記第2熱風給気口はいずれもノズルを含んで構成されるとともに、前記第2熱風給気口を構成する第2のノズルは、前記第1熱風給気口を構成する第1のノズルよりも前記熱風を直進させる作用に優れていることをその要旨とする。
【0015】
従って、手段3に記載の発明によると、第2熱風給気口を構成する第2のノズルが、熱風を直進させて吐出する結果、車両ボディの窓部を介して室内側に確実に熱風を導入することができるとともに、比較的遠い位置にある車両ボディの床部内側まで熱風を到達させて加熱することができる。よって、車両ボディの床部内側を含む主として内部パーツの塗膜がいっそう効率よく加熱され、より短時間で昇温される。
【0016】
手段4に記載の発明は、手段1乃至3のいずれか1項において、前記炉殻の内面と前記車両ボディとの距離が300mm以下となるように設定されていることをその要旨とする。
【0017】
従って、手段4に記載の発明によると、炉殻内の余分な空間を減らすことができ、炉全体を小型化することができる。なお、前記第2熱風給気口を構成する前記第2のノズルは、全長の半分以上の長さが前記炉殻内に埋設されていることが好ましい。このような構成であると、第2熱風給気口を構成する第2のノズルの熱風直進作用を損なうことなく、第2のノズルの炉殻からの突出量を低減することができる。このため、炉殻における第2熱風給気口形成部位についても同様に車両ボディに接近させることができ、いっそう効率よく車両ボディを加熱して、より短時間で昇温することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上詳述したように、請求項1~4に記載の発明によると、車両ボディの外部パーツ及び内部パーツを効率よく均一に昇温させることが可能であり、炉長を短縮することができる乾燥炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明を具体化した実施形態の乾燥炉を示す概略縦断面図。
【
図3】本実施形態の乾燥炉における熱風の流れを説明するための概略断面図。
【
図4】自動車ボディが本実施形態の乾燥炉内を通過する際のボディ温度推移を示したグラフ。
【
図5】送気風量割合と、160℃まで昇温されるのに要する時間との関係を示すグラフ。
【
図8】自動車ボディが従来技術の乾燥炉内を通過する際のボディ温度推移を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した一実施形態の乾燥炉11及びそれを用いた塗装乾燥方法を
図1~
図5に基づき詳細に説明する。
【0023】
図1、
図2に示されるように、本実施形態の乾燥炉11は、乾燥対象物である自動車ボディW1の塗膜を熱風乾燥するために塗装ラインに設置された、いわゆる山型の塗装乾燥炉である。なお、塗膜としては特に限定されず任意のものであってよいが、本実施形態では電着により形成された電着塗膜のことを指している。よって、本実施形態の乾燥炉11はいわゆる電着乾燥炉である。
【0024】
この乾燥炉11を構成する炉本体12は断面矩形状かつトンネル状であって、炉の長手方向に沿って上り勾配の入口側通路12a、水平搬送通路12b及び下り勾配の出口側通路12cが配置されている。炉本体12の両端には入口13及び出口14が設けられている。つまり、この乾燥炉11は、炉の長手方向に沿って高低差が設けられており、炉中央にある水平搬送通路12bに比べて、炉両端にある入口13及び出口14が低い位置となるように形成されている。そして、自動車ボディW1は、入口13から炉本体12の内部に搬入され、出口14から搬出されるようになっている。
【0025】
炉本体12における水平搬送通路12bの前段には、入口13から搬入されてきた自動車ボディW1を熱風によって160℃程度に加熱昇温させる昇温ゾーン15が配置されている。水平搬送通路12bにおいて昇温ゾーン15の後段には、昇温ゾーン15を通過して昇温された自動車ボディW1の温度を保持しながら熱風によって乾燥する保持ゾーン16が配置されている。昇温ゾーン15は2つ以上の乾燥エリアにより構成され、保持ゾーン16は1つ以上の乾燥エリアにより構成されている。本実施形態において具体的には、昇温ゾーン15は3つの乾燥エリアA1、A2、A3により構成され、保持ゾーン16は1つの乾燥エリアA4により構成されている。
【0026】
図2に示されるように、乾燥炉11を構成する炉本体12の内部には、自動車ボディW1が搬送される空間を仕切るための炉殻17が設けられている。炉殻17内における上中部領域は、搬送時に自動車ボディW1が通過する主空間S1となっている。炉殻17内における下部領域は、自動車ボディW1を搬送するための搬送手段(コンベア21や台車22等)を配置するための副空間S2となっている。この副空間S2は、主空間S1よりも幾分狭くなっている。そして、本実施形態の炉殻17における主空間S1は、乾燥対象物である自動車ボディW1を前後方向から見たときの外形形状に近似した断面形状となるように形成されている。なお、炉殻17の内壁面と自動車ボディW1の外面との距離は比較的近く、本実施形態では例えば250mm~300mm程度となるように設計されている。
【0027】
図2に示されるように、炉本体12の炉殻17の外側における所定部位には、吹き出しダクト23及び吸い込みダクト24がそれぞれ設けられている。吹き出しダクト23には炉内に熱風を供給するための給気経路31が接続されている。この給気経路31には、外気を取り込んでバーナーで加熱することにより所定温度の熱風を発生する燃焼ユニット32が接続されている。吸い込みダクト24には、炉外に熱風を排出するための排気経路33が接続されている。この排気経路33の途中からは循環経路34が分岐しており、この循環経路34を介して一部の熱風が燃焼ユニット32に戻されて再び加熱されるようになっている。排気経路33において循環経路34の分岐部分よりも先の位置には、ファン35及び脱臭装置36が配設されている。このファン35は、排気経路33を介して排気した熱風(汚染空気)を脱臭装置36に導入するためのものである。従って、排気経路33内の熱風(汚染空気)は脱臭装置36の通過時に無臭化・無害化された後、屋外に排気されるようになっている。
【0028】
次に、本実施形態の乾燥炉11における第1熱風給気口41、第2熱風給気口42及び排気口43の配置関係について説明する。
【0029】
図1、
図2に示されるように、複数の乾燥エリアA1~A4では、炉殻17の外側における自動車ボディW1の下部位置に、第1熱風給気口用の吹き出しダクト23が左右一対で設けられている。それら吹き出しダクト23には、炉の長手方向に沿って複数の第1熱風給気口41が配設されている。複数の第1熱風給気口41には、第1のノズル41aが各々取り付けられている。これら第1のノズル41aは、具体的には自動車ボディW1の床裏レベルL1の位置にて、斜め上方に熱風を吐出するように配設されている。ここで、第1熱風給気口41を構成する第1のノズル41aとしては、内側面が先方に向かって拡開するホーン状であって、第1方向の開口幅に対する第2方向の開口幅を2~2.5倍とした構造であることが好適である(特開2018-155463号公報の技術を参照)。このような構造の第1のノズル41aは、炉殻17内における周囲の空気を巻き込む誘引作用に優れている。このため、穏やかな風速でも多くの風量の熱風を自動車ボディW1に吹き付けることができる。
【0030】
また、
図1、
図2に示されるように、複数の乾燥エリアA2~A4では、炉殻17の外側において第1熱風給気口41よりも高い位置に、第2熱風給気口用の吹き出しダクト23が左右一対で設けられている。それら吹き出しダクト23には、炉の長手方向に沿って複数の第2熱風給気口42が配設されている。複数の第2熱風給気口42には、第2のノズル42aが各々取り付けられている。これら第2のノズル42aは、具体的には自動車ボディW1の窓レベルL2の位置にて、斜め下方に熱風を吐出するように配設されている。ここで、第2熱風給気口42を構成する第2のノズル42aは、熱風を直進させる作用に優れたものであって、全長の半分以上の長さが炉殻17内(即ち炉殻17よりも外側となる領域)に埋設された構造となっている。また、炉殻17において第2熱風給気口42の形成部位と自動車ボディW1との距離が300mm以下となるように設定されている。なお、このような第2熱風給気口42は、最前段の乾燥エリアA1にも同様に配設しても勿論構わないが、例えば本実施形態のようにボディ上部の外部パーツの熱しすぎによる品質異常の発生を防止するために省略してもよい。
【0031】
また、
図1、
図2に示されるように、複数の乾燥エリアA1~A4では、炉殻17において第1熱風給気口41及び第2熱風給気口42よりも低い位置、具体的には自動車ボディW1の下方にある副空間S2に面した位置に、吸い込みダクト24が左右一対で設けられている。それら吸い込みダクト24には、炉の長手方向に沿って複数の排気口43が配設されている。つまり、排気口43は、自動車ボディW1の直下に位置する幅狭空間に配設されるとともに、その幅狭空間の両側から横方向に熱風を排出するようになっている。
【0032】
図3は、乾燥炉11における熱風の流れ(同図における矢印を参照)を説明するための概略断面図である。第1熱風給気口41を構成する第1のノズル41aは、自動車ボディW1の床部外側P1を狙って斜め上方に熱風を吐出する。その結果、自動車ボディW1の床部外側P1を含む主として外部パーツに熱風が吹き付けられ、外部パーツの塗膜が乾燥硬化される。一方、第2熱風給気口42を構成する第2のノズル42aは、自動車ボディW1の窓部P2及びその先にある床部内側P3(より具体的にはロッカー部のある箇所の内側)を狙って、斜め下方に熱風を吐出する。その結果、熱風が自動車ボディW1の窓部P2を介して室内側に導入されるとともに、床部内側P3を含む主として内部パーツに熱風が吹き付けられ、内部パーツの塗膜が乾燥硬化される。そして、炉殻17内の主空間S1に供給された熱風は、下側に位置する副空間S2に流れ込み、排気口43を介して炉殻17の外に排出される。
【0033】
図1に示されるように、乾燥炉11における入口側通路12aには、第1熱風給気口41と同様の構成の給気装置61が設けられている。その給気装置61に対しては、戻し給気経路62を介して水平搬送通路12b内の加熱空気が一部戻されて供給される。その結果、入口側通路12aにて自動車ボディW1が予備加熱されるようになっている。また、出口側通路12cには、出口側通路12c内の空気の一部を水平搬送通路12b内に戻して加熱するために、戻し給気経路63が設けられている。
【0034】
ここで、第
2熱風給気口
42からの給気量及び第
1熱風給気口
41からの給気量の割合(風量割合)は特に限定されず、任意に設定することが可能であるが、例えば3:7~5:5の範囲内で設定されることが好ましい。言い換えると、第2熱風給気口42からの給気量を、第1熱風給気口41からの給気量と同等かそれよりも少なめに設定することが好ましい。この範囲内であると、外部パーツ及び内部パーツの昇温時間の短縮化と、昇温時間の差の低減とが達成されやすくなるからである(
図5のグラフを参照)。
【0035】
次に、本実施形態の乾燥炉
11を用いて自動車ボディW1を熱風乾燥する方法について説明する。なお、
図4のグラフは、自動車ボディW1が乾燥炉11内を通過する際のボディ温度推移を示したものである。
【0036】
乾燥対象物である自動車ボディW1は、搬送手段によって入口13側から炉本体12の内部に一定速度で順次搬入されてくる。なお、本実施形態では自動車ボディW1は、ドアを少し開いた状態で搬入され、かつドアを少し開いた状態で乾燥炉11を通過、搬出される。入口側通路12aを通過する際に、自動車ボディW1は予備加熱される。このとき、自動車ボディW1の外部パーツ及び内部パーツは50℃~60℃程度まで昇温される(
図4参照)。
【0037】
昇温ゾーン15における最前段の乾燥エリアA1に到った自動車ボディW1は、第1熱風給気口41の第1のノズル41aから吐出される熱風に晒される。このとき、熱容量が大きい自動車ボディW1の床部外側P1がまず加熱されて昇温する。次に、乾燥エリアA2、A3に到った自動車ボディW1は、第1熱風給気口41の第1のノズル41aから吐出される熱風に加えて、第2熱風給気口42の第2のノズル42aから吐出される熱風にも晒される。その結果、床部外側P1を含む主として外部パーツばかりでなく、床部内側P3を含む主として内部パーツも加熱されて昇温する。このとき、自動車ボディW1の外部パーツ及び内部パーツは、ともに設定温度である160℃程度まで昇温される(
図4参照)。
【0038】
保持ゾーン16における乾燥エリアA4に到った自動車ボディW1も同様に、第1熱風給気口41の第1のノズル41aから吐出される熱風と、第2熱風給気口42の第2のノズル42aから吐出される熱風とに晒される。その結果、設定温度である160℃がキープされ、その間に塗膜が完全に乾燥硬化される。その後、自動車ボディW1は、出口側通路12cを通過した後、出口14から炉外に搬出される。
【0039】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0040】
(1)本実施形態の乾燥炉11では、複数の乾燥エリアA1~A4における上記のような異なる高さ位置に、それぞれ第1熱風給気口41、第2熱風給気口42及び排気口43を配設したことを特徴としている。従って、自動車ボディW1の下部位置に配設した第1熱風給気口41から斜め上方に熱風を吐出することにより、当該熱風が主として外部パーツに当たり、外部パーツの塗膜が効率よく昇温される。また、第1熱風給気口41よりも高い位置に配設した第2熱風給気口42から斜め下方に熱風を吐出することに加え、第1熱風給気口41及び第2熱風給気口42よりも低い位置に配設された排気口43より熱風が排出されることにより、自動車ボディW1の窓部P2を介して室内側に熱風が導入されやすくなる。その結果、第2熱風給気口42からの熱風が主として内部パーツに当たり、内部パーツの塗膜が効率よく昇温される。従って、外部パーツ及び内部パーツの昇温時間が短縮化されるとともに、昇温時間の差が低減される。その結果、外部パーツ及び内部パーツを効率よく均一に昇温させることが可能となり、ひいては炉長を短縮することができる。ちなみに本実施形態では、昇温時間が短縮化される結果、昇温ゾーン15の長さを10m~20mほど短くすることが可能となる。
【0041】
(2)本実施形態の乾燥炉11では、自動車ボディW1の床裏レベルL1の位置に配設した第1熱風給気口41から斜め上方に熱風を吐出することにより、自動車ボディW1の床部外側P1を含む主として外部パーツの塗膜が効率よく加熱されて昇温される。また、自動車ボディW1の窓レベルL2の位置に配設した第2熱風給気口42から斜め下方に熱風を吐出することで、自動車ボディW1の窓部P2を介して室内側に熱風を導入することができる。よって、自動車ボディW1の床部内側P3を含む主として内部パーツの塗膜が効率よく加熱されて昇温される。なお、排気口43は自動車ボディW1の床裏レベルL1よりもさらに低い位置に配設されているため、高温の空気が炉殻17内の上部に滞留することがない。ゆえに、自動車ボディW1の上側部分が昇温されすぎることにより発生する塗膜の品質異常を未然に防止することができる。
【0042】
(3)本実施形態の乾燥炉11では、第1熱風給気口41を構成する第1のノズル41aは、第2熱風給気口42を構成する第2のノズル42aよりも炉殻17内における周囲の空気を巻き込む誘引作用に優れている。従って、第1のノズル41aを使用することで、自動車ボディW1の床部外側P1に多量の熱風を当てることができる。よって、自動車ボディW1の床部外側P1を含む主として外部パーツの塗膜がいっそう効率よく加熱され、より短時間で昇温される。これに対し、第2熱風給気口42を構成する第2のノズル42aは、第1熱風給気口41を構成する第1のノズル41aよりも熱風を直進させる作用に優れている。従って、自動車ボディW1の窓部P2を介して室内側に確実に熱風を導入することができるとともに、比較的遠い位置にある自動車ボディW1の床部内側P3まで熱風を到達させて加熱することができる。よって、自動車ボディW1の床部内側P3を含む主として内部パーツの塗膜がいっそう効率よく加熱され、より短時間で昇温される。
【0043】
(4)本実施形態の乾燥炉11では、第2熱風給気口42を構成する第2のノズル42aは、全長の半分以上の長さが炉殻17内に埋設されており、炉殻17において第2熱風給気口42の形成部位と自動車ボディW1との距離が300mm以下となるように設定されている。このため、第2熱風給気口を構成する第2のノズル42aの熱風直進作用を損なうことなく、第2のノズル42aの炉殻17からの突出量を低減することができる。このため、炉殻17における第2熱風給気口形成部位を自動車ボディW1に接近させることができ、いっそう効率よく自動車ボディW1を加熱して、より短時間で昇温することができる。なお、本実施形態では、第2熱風給気口42の形成部位以外の箇所についても自動車ボディW1との距離が300mm以下となるように設定されている。このため、炉殻17内の余分な空間を減らすことができ、炉全体を小型化することができる。その結果、設備費を抑えることができ、イニシャルコストを抑えることが可能となる。また、炉全体の小型化によって、全体の給気風量も低減することができる。その結果、燃料費を節減することができ、ランニングコストを抑えることが可能となる。加えて、炉全体の小型化によれば、全体の排気風量も低減することができるため、二酸化炭素排出量の削減にもつながる。
【0044】
(5)本実施形態の乾燥炉11は、山型炉の構造を有しているとともに、給気装置61及び戻し給気経路62によって水平搬送通路12b内の加熱空気の一部を入口側通路12aに戻して予備加熱を行っている。従って、炉内の熱を効率よく利用することができ、燃料費を節減することができる。
【0045】
(6)本実施形態の乾燥炉11では、自動車ボディW1の窓レベルL2の位置に第2熱風給気口42を配設し、かつ斜め下向を向けて第2のノズル42aを配置しているので、ドアを少し開いたままの状態でも自動車ボディW1の窓部P2を介して室内側に確実に熱風を導入させることができる。このため、例えばドア開閉機構によって炉内でドアを開閉する必要がなく(例えば特開2005-138037号公報を参照)、また、偏向板を用いて熱風の流れ方向を変える必要もない(例えば特開2016-125783号公報を参照)。このことは、設備費の低減に貢献するばかりでなく、炉全体の小型化にも貢献する。
【0046】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
【0047】
・上記実施形態では、昇温ゾーン15を3つの乾燥エリアA1、A2、A3で構成し、保持ゾーン16を1つの乾燥エリアA4で構成したが、これに限定されるわけではない。例えば、昇温ゾーン15を2つまたは4つ以上の乾燥エリアで構成してもよく、保持ゾーン16を2つ以上の乾燥エリアで構成してもよい。
【0048】
・前記実施形態では、本発明の乾燥炉11を山型炉として具体化したが、例えば平型炉として具体化しても構わない。
【0049】
・前記実施形態では、自動車ボディW1を乾燥対象物としていたが、自動車ボディW1以外の車両ボディ(例えば電車ボディなど)を乾燥対象物としても勿論よい。
【0050】
・上記実施形態では、本発明の乾燥炉11を、電着塗膜を乾燥硬化させるための電着乾燥炉として具体化したが、例えば下塗り塗装後の塗膜を乾燥硬化させるためのシーラー炉として具体化してもよく、あるいは中塗り、下塗り、上塗り塗装後に塗膜を乾燥硬化させるための塗装乾燥炉として具体化してもよい。
【0051】
・上記実施形態では、第1熱風給気口41及び第2熱風給気口42を高さ方向に1段のみ配置したが、複数段配置してもよい。
【0052】
・上記実施形態では、第1熱風給気口41及び第2熱風給気口42としてノズルを用いたが、スリットを用いてもよい。
【0053】
・上記実施形態では、第1のノズル41a及び第2のノズル42aは、炉の長手方向を基準として左右対称に配置されていたが、左右非対称に配置されていてもよい。
【0054】
・第1のノズル41a及び第2のノズル42aは、炉内にて旋回流を作るために所定方向に所定角度をつけて配置されていてもよいし、あるいは対向流を作るために所定方向に所定角度をつけて配置されていてもよい。
【0055】
・上記実施形態では、乾燥対象物である自動車ボディW1を一定の速度で連続搬送したが、これに限定されずタクト搬送してもよい。また、そのように搬送する場合には、昇温時間が長い自動車ボディW1の床部外側P1等に対向させて第1のノズル41a配設するようにしてもよい。
【0056】
・上記実施形態では、炉の長手方向に連続的かつ規則的に給排気位置(第1熱風給気口41、第2熱風給気口42及び排気口43)を設けたが、選択的に給排気位置を設けない区間があってもよい。
【0057】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した各実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0058】
(1)請求項1乃至6のいずれか1項において、炉内は昇温ゾーンとそれに続く保持ゾーンとに区分され、前記昇温ゾーン内に前記2つ以上の乾燥エリアが属し、前記保持ゾーン内に1つ以上の乾燥エリアが属していること。
(2)請求項1乃至6のいずれか1項において、前記第2熱風給気口からの給気量及び前記第1熱風給気口からの給気量の割合(風量割合)は3:7~5:5の範囲内で設定されること。
(3)請求項1乃至6のいずれか1項において、前記排気口は、前記車両ボディ直下に位置する幅狭空間に配設されていること。
【符号の説明】
【0059】
11…乾燥炉
17…炉殻
41…第1熱風給気口
41a…第1のノズル
42…第2熱風給気口
42a…第2のノズル
43…排気口
A1~A4…乾燥エリア
L1…床裏レベル
L2…窓レベル
W1…車両ボディとしての自動車ボディ