(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】分散液製造装置
(51)【国際特許分類】
B01F 35/22 20220101AFI20240607BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20240607BHJP
B01F 23/50 20220101ALI20240607BHJP
【FI】
B01F35/22
B01J13/00 B
B01F23/50
(21)【出願番号】P 2020037097
(22)【出願日】2020-03-04
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】久保 秀平
(72)【発明者】
【氏名】森 剛志
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-084655(JP,A)
【文献】特開2007-121463(JP,A)
【文献】特開2006-247484(JP,A)
【文献】特開平09-187731(JP,A)
【文献】特開2008-259946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 23/00-35/95
B01J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定粒径以下の粒子が分散媒に分散した粒子分散液を製造する分散液製造装置において、
前記分散媒中で所定粒径を超えて前記粒子が凝集したものを粒子凝集体とし、前記分散媒中の前記粒子凝集体を解砕する解砕手段と、前記分散媒中の前記粒子と前記粒子凝集体とを分級する分級手段と、前記解砕手段と前記分級手段との間で前記粒子と前記粒子凝集体との少なくともいずれか一方を含む分散媒を循環させる循環ラインとを備え、
前記解砕手段から前記分級手段に向かう循環ラインを一次ラインと、前記分級手段から
前記解砕手段に向かう循環ラインを二次ラインとし、また、前記分級
手段で分級された粒子凝集体を含む分散媒を分散未達成液及び更なる解砕を必要としない前記粒子を含む分散媒を分散達成液として、前記分級手段は、前記分散未達成液のみを二次ラインに戻すように構成され、
前記分級手段から前記解砕手段を経由せずに前記一次ラインに前記分散達成液を戻すバイパスラインを更に備えることを特徴とする分散液製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定粒径以下の粒子が分散媒に分散した粒子分散液を製造する分散液製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチックフィルム等の基材の表面に所謂機能性塗膜を形成したものがあり、このような機能性塗膜の形成(塗工)には、その機能に応じて選択される所定粒径以下の粒子が分散媒に分散した粒子分散液が利用される。ここで、機能性塗膜の想定組成比に応じて、分散媒中に所定量(仕込み比量)の粒子を混合したとき、分散媒中で粒子が凝集して所定粒径を超える粒子凝集体を形成することがある。このような粒子凝集体の存在は、粘着力や破断強度といった機能性塗膜の性能の低下を招くため、粒子凝集体のない粒子分散液を如何に得るかが重要となる。
【0003】
上記粒子分散液を製造する分散液製造装置は例えば特許文献1で知られている。このものは、分散媒中の粒子凝集体を解砕する撹拌手段(解砕手段)と、分散媒を循環させる循環ラインと、循環ラインに設けられるフィルターとを備える。そして、フィルターにより分散媒中の粒子凝集体を捕捉して除去することで、粒子凝集体のない粒子分散液が得られるようにしている。然し、上記従来例のように、粒子凝集体を捕捉して除去したのでは、粒子分散液中に含まれる粒子の量が仕込み量よりも少なくなってしまい、仕込み比量と機能性塗膜の想定組成比とが一致しないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、仕込み比量と機能性塗膜の想定組成比とを略一致させることできるという機能を損なうことなく、粒子凝集体のない粒子分散液を製造することができる分散液製造装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、所定粒径以下の粒子が分散媒に分散した粒子分散液を製造する本発明の分散液製造装置は、前記分散媒中で所定粒径を超えて前記粒子が凝集したものを粒子凝集体とし、前記分散媒中の前記粒子凝集体を解砕する解砕手段と、前記分散媒中の前記粒子と前記粒子凝集体とを分級する分級手段と、前記解砕手段と前記分級手段との間で前記粒子と前記粒子凝集体との少なくともいずれか一方を含む分散媒を循環させる循環ラインとを備え、前記解砕手段から前記分級手段に向かう循環ラインを一次ラインと、前記分級手段から解砕手段に向かう循環ラインを二次ラインとし、また、前記分級手段で分級された粒子凝集体を含む分散媒を分散未達成液及び更なる解砕を必要としない前記粒子を含む分散媒を分散達成液として、前記分級手段は、前記分散未達成液のみを二次ラインに戻すように構成され、前記分級手段から前記解砕手段を経由せずに前記一次ラインに前記分散達成液を戻すバイパスラインを更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
以上によれば、分級手段から、更なる解砕を必要とする粒子凝集体を含む分散媒(分散未達成液)のみが二次ラインを経て解砕手段に戻され、分散媒中の粒子凝集体に対する解砕が更に施される。その後、一次ラインにより分級手段へと送られる。そして、分級手段から送られる、更なる解砕を必要としない粒子を含む分散媒(分散達成液)と合流された後、再び分級手段へと送られる。分級手段から解砕手段へと戻される分散媒中に粒子凝集体が含まれなくなるまで、この操作を繰り返すことで、所定粒径以下の粒子が分散媒に分散した粒子分散液が得られる。このように本発明では、分級手段を設けて分散未達成液のみが解砕手段に戻される構成を採用することで、粒子凝集体の解砕処理が効率的に実施できる。このとき、得られた粒子分散液は、上記従来例のように粒子凝集体を捕捉して除去したものではないため、粒子分散液中に含まれる粒子の量を仕込み量と同等にでき、結果として、得られた粒子分散液を利用して機能性塗膜を形成したときにはその機能性塗膜の想定組成比を仕込み比量と略一致させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態の分散液製造装置を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、所定粒径以下の粒子が分散媒に分散した粒子分散液を製造するものを例に、本発明の実施形態の分散液製造装置を説明する。
【0010】
図1を参照して、MSは、分散液製造装置であり、分散液製造装置MSは、分散媒中で所定粒径を超えて粒子が凝集したものを粒子凝集体とし、この分散媒中の粒子凝集体を解砕する解砕手段1を備える。解砕手段1としては、例えば高速撹拌機、ロータ・ステータ型分散機、ジェットミル及びビーズミル等の中から選択される少なくとも1つを単独でまたは組み合わせて用いることができる。以下、解砕手段1として高速撹拌機を用いる場合を例に説明する。この高速撹拌機1は、上部が解放された所定容積の撹拌槽11と、撹拌槽11の底壁及び側壁に設けられた排出口12a及び供給口12bと、撹拌槽11内に設けられる、図外の駆動部により回転可能な高速撹拌翼13とを備える。撹拌槽11内には、粒子と分散媒とが所定の仕込み比量で夫々投入されるか、あるいは、予め分散媒に所定の仕込み量で粒子を混合(調製)したものが投入される。また、撹拌槽11には、図示省略する温度制御手段が付設され、高速撹拌翼13を回転させて粒子凝集体を解砕する間、分散媒の温度を所定温度に制御できるようになっている。高速撹拌機1を含めて解砕手段としては公知のものを用いることができるため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0011】
上記分散液製造装置MSは、分散媒中の粒子と粒子凝集体とを分級する分級手段2と、高速撹拌機1と分級手段2との間で粒子と粒子疑集体との少なくともいずれか一方を含む分散媒を循環させる循環ライン3とを更に備える。分級手段2としては、例えば自由渦型や強制渦型の湿式分級機を用いることができ、このような湿式分級機は公知であるため、これ以上の詳細な説明を省略する。循環ライン3は、高速撹拌機1から湿式分級機2に向かう一次ライン31と、湿式分級機2から高速撹拌機1に向かう二次ライン32とを有し、湿式分級機2と一次ライン31とを接続するバイパスライン33を更に有する。一次ライン31のバイパスライン33との合流箇所の下流側には送液用のポンプ4が設けられている。ポンプ4としては公知のものを用いることができるため、ここでは詳細な説明を省略する。このような構成を採用することで、湿式分級機2は、分級した粒子凝集体を含む分散媒(分散未達成液)を二次ライン32に戻すことができる一方で、分級した粒子を含む分散媒(分散達成液)をバイパスライン33を介して一次ライン31に戻すことができるようになっている。また、一次ライン31のバイパスライン33との合流箇所の下流側には、バルブ35が介設された分岐ライン34が接続されており、バルブ35を開くことで、分岐ライン34を介して粒子分散液が得られるようになっている。以下、上記分散液製造装置MSを用い、粒子分散液を製造する粒子分散液の製造方法について説明する。
【0012】
先ず、分散媒中に所定の仕込み比量で粒子を予め混合したものを高速撹拌機1の撹拌槽11内に投入する(あるいは、撹拌槽11内に分散媒と粒子とを所定の仕込み比量で別々に投入する。この場合、撹拌槽11内で分散媒中に粒子が混合される)。分散媒としては、樹脂を溶媒で希釈することで得た樹脂溶液(ポリマー溶液)を用いることができる。樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体や(メタ)アクリル酸エステル共重合体のようなアクリル系樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体,塩化ビニル,塩化ビニル・アクリロニトリル共重合体,エチレン・酢酸ビニル共重合体等のビニル系共重合体、ポリエチレン,ポリプロピレンのようなポリオレフィン樹脂を例示することができる。溶媒としては、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル等の有機溶剤を例示することができる。粒子としては、機能性塗膜の機能に応じて適宜選択することができ、シリカ、二酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ガラスのような無機粒子(無機フィラー)や、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネイト、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、シリコーン、メラミン・シリカ複合樹脂のような有機粒子の中から選択される少なくとも1種を単独でまたは組み合わせて用いることができる。また、粒子としては、フュームドシリカのように非常に小さな一次粒子が凝集して二次粒子を形成するものでもよい。
【0013】
このように分散媒中に粒子を混合すると、混合直後に粒子が分散媒中で均一に分散するのではなく、分散媒中で粒子が凝集して所定粒径を超える粒子凝集体が形成されることがある。この粒子凝集体を解砕して粒子とするため、撹拌槽11内の高速撹拌翼13を所定回転数(例えば1000~20000rpm)で回転させる。これと併せて、ポンプ4を稼働させると、撹拌槽11の排出口12aから排出された粒子凝集体と粒子とを含む分散媒が一次ライン31を介して湿式分級機2へと送られ、湿式分級機2により分散媒に含まれる粒子と粒子凝集体とが分級される。
【0014】
湿式分級機2により分級された粒子凝集体は更なる解砕を必要とするため、この粒子凝集体を含む分散媒(分散未達成液)が二次ライン32を経て高速撹拌機1に戻され、分散媒中の粒子凝集体に対する解砕が更に施され、その後、一次ライン31に送られる。そして、湿式分級機2からバイパスライン33を介して送られる、更なる解砕を必要としない粒子を含む分散液(分散達成液)と合流された後、湿式分級機2へと送られる。湿式分級機2から高速撹拌機1へと戻される分散媒中に粒子凝集体が含まれなくなるまで(つまり解砕処理の終点まで)、この操作を繰り返すことで、所定粒径以下の粒子が分散媒に分散した粒子が得られる。尚、解砕処理の終点は、撹拌槽11から分散媒をサンプリングし、このサンプリングしたものの粒度分布を公知の粒度分布計を用いて測定し、その測定値が許容範囲内である場合に判定することができる。解砕処理が終了したと判定された場合、バルブ35を開き、分岐ライン34から粒子分散液を得ることができる。
【0015】
このように本実施形態では、湿式分級機2を設けて分散未達成液のみが高速撹拌機1に戻される構成を採用することで、粒子凝集体の解砕処理が効率的に実施できる。このとき、得られた粒子分散液は、上記従来例のように粒子凝集体を捕捉して除去したものではないため、粒子分散液中に含まれる粒子の量を仕込み比量と同等にでき、結果として、得られた粒子分散液を利用して機能性塗膜を形成したときにはその機能性塗膜の想定組成比を仕込み比量と略一致させることできる。
【0016】
次に、本発明の実施例について説明する。尚、表1には、各実施例及び後述する各比較例における液条件、分級機条件や結果の一部を示す。
【0017】
【0018】
(実施例1)
本実施例1では、アクリル酸2-エチルヘキシル80質量部とアクリル酸5質量部とメタクリル酸n-ブチル15質量部とを溶液重合法により共重合させてアクリル系樹脂としての(メタ)アクリル酸エステル重合体を得て、この(メタ)アクリル酸エステル重合体をメチルエチルケトンで希釈することで、分散媒としての樹脂溶液を得た。この樹脂溶液に粒子としての所定の一次粒径(0.6μm)を持つシリカ(デンカ社製、商品名「SFP-30M」)を混合した。シリカを混合した樹脂溶液の量は2000ml、樹脂溶液全体に対する(メタ)アクリル酸エステル重合体の含有量は21質量%、シリカの含有量は15質量%とした。このようにシリカを混合した樹脂溶液を解砕手段1としてのロータ・ステータ型分散機(プライミクス社製、商品名「ネオミクサー」)の槽内に投入した。投入直後に樹脂溶液中のシリカはシリカ凝集体を形成しており(このときのメジアン径D50は5.4μm)、ロータ・ステータ型分散機(以下「分散機」という)1を所定回転数(10000rpm)で回転させることでシリカ凝集体の解砕処理を実施した。解砕処理中、温度調節設備を用いて槽内の樹脂溶液の温度を20℃に維持した。これと併せて、分級手段2としての湿式分級機(佐竹化学機械工業社製、商品名「SATAKE i Classifier」)により、樹脂溶液に含まれるシリカとシリカ凝集体とを分級した。湿式分級機2の回転数は3000rpm、液処理量(湿式分級機2から流出する樹脂溶液の総量)は10L/hrとした。湿式分級機2により分級されたシリカ凝集体を含む樹脂溶液(分散未達成液)は二次ライン32を介して分散機1に戻した。湿式分散機2の槽内から定期的に樹脂溶液をサンプリングし、その粒度分布をレーザー回折式の粒度分布計(マルバーン社製、商品名「Mastersizer3000」)により測定し、測定される全ての粒径が目標粒径である0.8μm(一次粒径0.6μm+0.2μm)以下となった時間(分散達成時間)を求めたところ、分散達成時間は20分であり(このときのメジアン径d50は0.62μm)、分散機1によりシリカ凝集体を効率的に解砕できることが判った。以上のようにして得られた粒子分散液に架橋剤としてのイソシアネート化合物(トーヨーケム株式会社製、商品名「BHS-8515」)を添加し、ロールナイフ方式で乾燥膜厚5μmとなるようにプラスチックフィルムの表面に塗工して機能性塗膜を得た。得られた機能性塗膜の塗工面を目視で観察したところ、凝集物欠点が無く、また、この機能性塗膜の断面を光学顕微鏡(倍率100倍)で観察したところ、膜厚よりも大きい凝集体がなく、粒子分散液にシリカ凝集体がないことが確認された。また、本実施例1で得られた粒子分散液10gを電気炉で800℃の温度で24時間加熱して灰分を分離し、この灰分の重量(最終粒子重量)を求めた。求めた最終粒子重量(1.5067g)と、シリカの含有量(仕込み比量)から求めた初期粒子重量(1.5068g)とを下式に代入して粒子減少率を求めたところ、目標値(1%)よりも小さい0・01%未満(表1には0%と示す。)であり、粒子分散液中に含まれる粒子の量を仕込み比量と同等にできることが確認された。
粒子減少率(%)=(初期粒子重量-最終粒子重量)/初期粒子重量×100
【0019】
(実施例2)
本実施例2では、上記実施例1と同じ樹脂溶液を用い、混合するシリカの量を変えて樹脂溶液全体に対するシリカの含有量を20質量%とした点を除いて、上記実施例1と同様の方法で粒子分散液を得た。シリカ含有量を上記実施例1よりも高くしたが、分散達成時間は上記実施例1と同等の20分であった。尚、投入直後のシリカ凝集体のメジアン径D50は6.1μm、分散達成時のシリカのメジアン径d50は0.62μmであり、上記実施例1と略同等の値であった。また、上記実施例1と同様にして機能性塗膜を得て、その塗工面や断面を観察したところ、粒子分散液にシリカ凝集体がないことが確認された。また、上記実施例1と同様にして粒子減少率を求めたところ、目標値(0.1%)よりも小さい0.01%であり、粒子分散液中に含まれる粒子の量を仕込み比量と同等にできることが確認された。
【0020】
(実施例3)
本実施例3では、上記実施例1と同じ樹脂溶液を用い、混合するシリカの量を変えて樹脂溶液全体に対するシリカの含有量を30質量%とした点を除いて、上記実施例1,2と同様の方法で粒子分散液を得た。シリカ含有量を上記実施例2よりも更に高くしたため(投入直後のシリカ凝集体のメジアン径D50は6.6μm)、分散達成時間は上記実施例1,2よりも長い30分であったものの、分散達成時のシリカのメジアン径d50は上記実施例1と同等の0.63μmであった。また、上記実施例1と同様にして機能性塗膜を得て、その塗工面や断面を観察したところ、粒子分散液にシリカ凝集体がないことが確認された。また、上記実施例1と同様にして粒子減少率を求めたところ、目標値(0.1%)よりも小さい0.01%であり、粒子分散液中に含まれる粒子の量を仕込み比量と同等にできることが確認された。
【0021】
(実施例4)
本実施例4では、粒子を所定の一次粒径(0.6μm)を持つ硫酸バリウム(堺化学工業社製、商品名「BARIACE-55」)とし(樹脂溶液全体に対する硫酸バリウムの含有量は15質量%)、湿式分級機2の液処理量を20L/hrとした点を除いて、上記実施例1と同様の方法で粒子分散液を得た。分散達成時間(全ての粒子の粒径が一次粒径+0.2μmである0.8μm以下となった時間)は、上記実施例1と同等の20分であった。尚、投入直後に樹脂溶液中の硫酸バリウムは硫酸バリウム凝集体を形成しており、このときのメジアン径D50は5.8μm、分散達成時の硫酸バリウムのメジアン径d50は0.60μmであり、上記実施例1と略同等の値であった。また、上記実施例1と同様にして機能性塗膜を得て、その塗工面や断面を観察したところ、粒子分散液に硫酸バリウム凝集体がないことが確認された。また、上記実施例1と同様にして粒子減少率を求めたところ、目標値(0.1%)よりも小さい0.01%未満であり、粒子分散液中に含まれる粒子の量を仕込み比量と同等にできることが確認された。
【0022】
(実施例5)
本実施例5では、粒子を所定の一次粒径(0.7μm)を持つアルミナとし(樹脂溶液全体に対するアルミナの含有量は15質量%)、湿式分級機2の液処理量を20L/hrとした点を除いて、上記実施例1と同様の方法で粒子分散液を得た。分散達成時間(全ての粒子の粒径が一次粒径+0.2μmである0.9μm以下となった時間)は、上記実施例1と同等の20分であった。尚、投入直後に樹脂溶液中のアルミナはアルミナ凝集体を形成しており、このときのメジアン径D50は6.1μm、分散達成時のアルミナのメジアン径d50は0.74μmであった。また、上記実施例1と同様にして機能性塗膜を得て、その塗工面や断面を観察したところ、粒子分散液にアルミナ凝集体がないことが確認された。また、上記実施例1と同様にして粒子減少率を求めたところ、目標値(0.1%)よりも小さい0.01%であり、粒子分散液中に含まれる粒子の量を仕込み比量と同等にできることが確認された。
【0023】
(実施例6)
本実施例6では、粒子を所定の一次粒径(1μm以下)を持つシリコーン微粒子(タナック社製、商品名「XC99-A8808」)とし(樹脂溶液全体に対するシリコーン微粒子の含有量は15質量%)、湿式分級機2の回転数を500rpm、液処理量を20L/hrとした点を除いて、上記実施例1と同様の方法で粒子分散液を得た。分散達成時間(全ての粒子の粒径が一次粒径+0.2μmである1.2μm以下となった時間)は、上記実施例1と同等の20分であった。尚、投入直後に樹脂溶液中のシリコーンはシリコーン凝集体を形成しており、このときのメジアン径D50は3.8μm、分散達成時のシリコーン微粒子のメジアン径d50は1μmであった。また、上記実施例1と同様にして機能性塗膜を得て、その塗工面や断面を観察したところ、粒子分散液にシリコーン凝集体がないことが確認された。また、上記実施例1と同様にして粒子減少率を求めたところ、目標値(0.1%)よりも小さい0.01%であり、粒子分散液中に含まれる粒子の量を仕込み比量と同等にできることが確認された。
【0024】
(実施例7)
本実施例7では、粒子を所定の一次粒径(0.5μm)を持つメラミン樹脂・シリカ複合粒子(日産化学社製、商品名「オプトビーズ500SL」)とし(樹脂溶液全体に対するメラミン樹脂・シリカ複合粒子の含有量は15質量%)、湿式分級機2の回転数を500rpm、液処理量を20L/hrとした点を除いて、上記実施例1と同様の方法で粒子分散液を得た。分散達成時間(全ての粒子の粒径が一次粒径+0.2μmである0.7μm以下となった時間)は、上記実施例1と同等の20分であった。尚、投入直後に樹脂溶液中のメラミン樹脂・シリカ複合粒子は凝集体を形成しており、このときのメジアン径D50は2.9μm、分散達成時のメラミン樹脂・シリカ複合粒子のメジアン径d50は0.51μmであった。また、上記実施例1と同様にして機能性塗膜を得て、その塗工面や断面を観察したところ、粒子分散液に凝集体がないことが確認された。また、上記実施例1と同様にして粒子減少率を求めたところ、目標値(0.1%)よりも小さい0.02%であり、粒子分散液中に含まれる粒子の量を仕込み比量と同等にできることが確認された。
【0025】
(実施例8)
本実施例8では、粒子をフュームドシリカ(日本アエロジル社製、商品名「AEROSIL(登録商標)R972」)とした(樹脂溶液全体に対するフュームドシリカの含有量は5質量%)点を除いて、上記実施例1と同様の方法で粒子分散液を得た。上記実施例1と同様に粒度分布を測定し、測定される全ての粒径が目標粒径(10μm)以下となった時間(分散達成時間)は20分であり(このときのメジアン径d50は8μm)、分散機により効率的に解砕できることが判った。尚、投入前のフュームドシリカはその複数が凝集して凝集体となっており、投入直後の樹脂溶液中のフュームドシリカ凝集体のメジアン径D50は上記実施例1~7よりも一桁大きい15μmであった。また、上記実施例1と同様にして機能性塗膜を得て、その塗工面や断面を観察したところ、投入直後に観察されたようなフュームドシリカ凝集体が粒子分散液中に存在しないことが確認された。また、上記実施例1と同様にして粒子減少率を求めたところ、目標値(0.1%)よりも小さい0.08%であり、粒子分散液中に含まれる粒子の量を仕込み比量と同等にできることが確認された。
【0026】
次に、上記実施例に対する比較例について説明する。
【0027】
(比較例1)
本比較例1では、分級機を用いない点(つまり、分散機1のみを用いて分散処理を実施する点)を除き、上記実施例1と同様の方法で粒子分散液を得た。分散達成時間は上記実施例1の4.5倍の90分であった。これは、分級機を用いないため、分散機によりシリカ凝集体を効率的に解砕できないためであると考えられる。尚、投入時のシリカ凝集体のメジアン径D50は5.4μm、分散達成時のシリカのメジアン径d50は0.67μmであり、上記実施例1と略同等の値であった。
【0028】
(比較例2)
本比較例2では、上記比較例1と同様に分級機を用いない点を除き、上記実施例4と同様の方法で粒子分散液を得た。分散達成時間は上記実施例4の5倍の100分であり、これは、上記比較例1と同様、分散機により硫酸バリウム凝集体を効率的に解砕できないためであると考えられる。尚、投入時の硫酸バリウム凝集体のメジアン径D50は5.8μm、分散達成時の硫酸バリウムのメジアン径d50は0.63μmであり、上記実施例4と略同等の値であった。
【0029】
(比較例3)
本比較例3では、上記比較例1と同様に分級機を用いない点を除き、上記実施例5と同様の方法で粒子分散液を得た。分散達成時間は上記実施例5の5倍の100分であり、これは、上記比較例1と同様、分散機によりアルミナ凝集体を効率的に解砕できないためであると考えられる。尚、投入時のアルミナ凝集体のメジアン径D50は6.1μm、分散達成時のアルミナのメジアン径d50は0.72μmであり、上記実施例5と略同等の値であった。
【0030】
(比較例4)
本比較例4では、上記比較例1と同様に分級機を用いない点を除き、上記実施例6と同様の方法で粒子分散液を得た。分散達成時間は上記実施例6の6倍の120分であり、これは、上記比較例1と同様、分散機によりシリコーン凝集体を効率的に解砕できないためであると考えられる。尚、投入時のシリコーン凝集体のメジアン径D50は3.8μm、分散達成時のシリコーン微粒子のメジアン径d50は1μmであり、上記実施例6と略同等の値であった。
【0031】
(比較例5)
本比較例5では、上記比較例1と同様に分級機を用いない点を除き、上記実施例7と同様の方法で粒子分散液を得た。分散達成時間は上記実施例7の6倍の120分であり、これは、上記比較例1と同様、分散機により凝集体を効率的に解砕できないためであると考えられる。尚、投入時の凝集体のメジアン径D50は2.9μm、分散達成時のメラミン樹脂・シリカ複合粒子のメジアン径d50は0.53μmであり、上記実施例7と略同等の値であった。
【0032】
(比較例6)
本比較例6では、上記比較例1と同様に分級機を用いない点を除き、上記実施例8と同様の方法で粒子分散液を得た。分散達成時間は上記実施例8の7.5倍の150分であり、これは、上記比較例1と同様、分散機により凝集体を効率的に解砕できないためであると考えられる。尚、投入時の凝集体のメジアン径D50は15μm、分散達成時のフュームドシリカのメジアン径d50は8μmであり、上記実施例8と略同等の値であった。
【0033】
以上の実施例及び比較例によれば、分級手段2としての分級機を用いることで、粒子凝集体のない粒子分散液が得られることが判った。また、粒子減少率は1%未満であり、仕込み比量と機能性塗膜の想定組成比とが略一致することが判った。尚、比較例のように分級機を用いないと、解砕手段により効率的に解砕することができず、分散達成時間が大幅に長くなり、粒子分散液の製造(量産)に適さないことが判った。
【0034】
以上本発明の実施形態及び実施例について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態及び実施例では、解砕手段1として高速撹拌機及びロータ・ステータ型分散機を用いる場合を例に説明したが、ジェットミルやビーズミルを用いることができる。但し、ビーズミルを用いると、ビーズが粒子凝集体と衝突することで生じる欠片が粒子分散液ひいては機能性塗膜に混入する所謂コンタミネーションが生じる場合がある。
【符号の説明】
【0035】
MS…分散液製造装置、1…高速撹拌機,分散機(解砕手段)、2…湿式分級機(分級手段)、3…循環ライン、31…一次ライン、32…二次ライン。