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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】積層体、模型眼、及び眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20240607BHJP
【FI】
A61B3/10 100
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020052505
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021151323
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】大久保 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 崇
(72)【発明者】
【氏名】山口 達夫
(72)【発明者】
【氏名】新田 将
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-235084(JP,A)
【文献】特開2011-053462(JP,A)
【文献】特表2004-524872(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0021397(US,A1)
【文献】Jigesh Baxi,Retina-simulating phantom for optical coherence tomography,Journal of Biomedical Optics,Vol.19(2),2014年02月,1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
G09B 23/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科分野で用いられる積層体であって、
基板と、
前記基板上に形成された複数の層と
前記複数の層のうち前記基板に最も近い層である最下層と、前記基板との間に設けられた反射防止層と
を含み、
前記複数の層は、互いに異なる散乱特性と、互いに略等しい屈折率とを有する、
積層体。
【請求項2】
前記基板の屈折率は、前記複数の層の屈折率に略等しい、
請求項1の積層体。
【請求項3】
前記反射防止層は、屈折率整合層を含む、
請求項1又は2の積層体。
【請求項4】
前記反射防止層は、光吸収層を含む、
請求項1~3のいずれかの積層体。
【請求項5】
前記基板は、予め決められた第1の閾値を超える厚さを有する、
請求項1~のいずれかの積層体。
【請求項6】
ヒト眼底からデータを取得するための眼科装置の性能評価に用いられ、
前記第1の閾値は、前記眼科装置がデータを取得可能な深さレンジに基づき決定される、
請求項の積層体。
【請求項7】
前記複数の層のうち前記基板から最も遠い層である最上層の表面は、予め決められた第2の閾値よりも高い面精度を有する、
請求項1~のいずれかの積層体。
【請求項8】
ヒト眼底から光学的にデータを取得するための眼科装置の性能評価に用いられ、
前記第2の閾値は、前記眼科装置がデータを取得するために用いる光の波長に基づき決定される、
請求項の積層体。
【請求項9】
前記複数の層の屈折率は、ヒト眼底の屈折率又はヒト眼底のサブ組織の屈折率にしたがって決定される、
請求項1~のいずれかの積層体。
【請求項10】
前記ヒト眼底のサブ組織は、ヒト網膜又はヒト網膜のサブ組織を含む、
請求項の積層体。
【請求項11】
前記ヒト眼底のサブ組織は、ヒト脈絡膜又はヒト脈絡膜のサブ組織を含む、
請求項又は10の積層体。
【請求項12】
前記複数の層のそれぞれは、有機ケイ素化合物を含む、
請求項1~11のいずれかの積層体。
【請求項13】
前記複数の層のそれぞれは、フッ素化合物を含む、
請求項1~12のいずれかの積層体。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかの積層体と、
前記積層体に焦点を形成可能なレンズと
を含む、模型眼。
【請求項15】
眼のデータを光学的に取得するためのデータ取得部と、
前記データ取得部の評価のための模型眼と
を含む眼科装置であって、
前記模型眼は、積層体を含み、
前記積層体は、
基板と、
前記基板上に形成された複数の層と、
前記複数の層のうち前記基板に最も近い層である最下層と、前記基板との間に設けられた反射防止層と
を含み、
前記複数の層は、互いに異なる散乱特性と、互いに略等しい屈折率とを有する、
眼科装置。
【請求項16】
前記データ取得部により前記模型眼から取得されたデータに基づいて評価情報を生成する評価部を更に含む、
請求項15の眼科装置。
【請求項17】
前記データ取得部は、光学系を含み、
所定位置に設置された模型眼に対して前記光学系のアライメントを行うアライメント系を更に含み、
前記評価部は、前記アライメントの後に前記データ取得部により前記模型眼から取得されたデータに基づいて前記評価情報の生成を行う、
請求項16の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層体、模型眼、及び眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科診療では各種の装置が用いられ、典型的な眼科装置として撮影装置や測定装置がある。撮影装置は被検眼の画像を取得するための眼科装置であり、その例として、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)装置、眼底カメラ、走査型レーザ検眼鏡(SLO)などがある。測定装置は被検眼の特性を測定するための眼科装置であり、その例として、眼屈折測定装置(レフラクトメータ、ケラトメータ)、眼圧計、スペキュラーマイクロスコープ、ウェーブフロントアナライザなどがある。
【0003】
これらの眼科装置は極めて精密な光学機器であり、その性能を十分に発揮させるためには、厳密な評価に基づく調整や校正が必要である。眼科装置の評価には様々な方法があるが、模型眼を用いる方法が広く行われている。
【0004】
眼底のデータを取得可能な眼科装置の性能評価に用いられる模型眼には、眼底を模した積層構造体(積層体)が設けられている。従来の積層体には、評価を妨げる反射が発生するという問題があった。この反射は、層表面、層境界、層-基板境界などにおいて発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-110575号公報
【文献】特開2019-76181号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Jigesh Baxi 外7名、「Retina-simulating phantom for optical coherence tomography」、Journal of Biomedical Optics、2014年2月発行、Vol.19、No.2、021106-1~021106-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の目的は、積層体からの有害な反射を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
幾つかの例示的な態様は、眼科分野で用いられる積層体であって、基板と、前記基板上に形成された複数の層とを含み、前記複数の層は、互いに異なる散乱特性と、互いに略等しい屈折率とを有する。
【0009】
幾つかの例示的な態様において、前記基板の屈折率は、前記複数の層の屈折率に略等しい。
【0010】
幾つかの例示的な態様において、前記複数の層のうち前記基板に最も近い層である最下層と、前記基板との間に、反射防止層が設けられている。
【0011】
幾つかの例示的な態様において、前記反射防止層は、屈折率整合層を含む。
【0012】
幾つかの例示的な態様において、前記反射防止層は、光吸収層を含む。
【0013】
幾つかの例示的な態様において、前記基板は、予め決められた第1の閾値を超える厚さを有する。
【0014】
幾つかの例示的な態様において、前記積層体は、ヒト眼底からデータを取得するための眼科装置の性能評価に用いられ、前記第1の閾値は、前記眼科装置がデータを取得可能な深さレンジに基づき決定される。
【0015】
幾つかの例示的な態様において、前記複数の層のうち前記基板から最も遠い層である最上層の表面は、予め決められた第2の閾値よりも高い面精度を有する。
【0016】
幾つかの例示的な態様において、前記積層体は、ヒト眼底から光学的にデータを取得するための眼科装置の性能評価に用いられ、前記第2の閾値は、前記眼科装置がデータを取得するために用いる光の波長に基づき決定される。
【0017】
幾つかの例示的な態様において、前記複数の層の屈折率は、ヒト眼底の屈折率又はヒト眼底のサブ組織の屈折率にしたがって決定される。
【0018】
幾つかの例示的な態様において、前記ヒト眼底のサブ組織は、ヒト網膜又はヒト網膜のサブ組織を含む。
【0019】
幾つかの例示的な態様において、前記ヒト眼底のサブ組織は、ヒト脈絡膜又はヒト脈絡膜のサブ組織を含む。
【0020】
幾つかの例示的な態様において、前記複数の層のそれぞれは、有機ケイ素化合物を含む。
【0021】
幾つかの例示的な態様において、前記複数の層のそれぞれは、フッ素化合物を含む。
【0022】
幾つかの例示的な態様は、いずれかの例示的な態様の積層体と、前記積層体に焦点を形成可能なレンズとを含む、模型眼である。
【0023】
幾つかの例示的な態様は、眼のデータを光学的に取得するためのデータ取得部と、前記データ取得部の評価のための模型眼とを含む眼科装置であって、前記模型眼は、基板と前記基板上に形成された複数の層とを含む積層体を含み、前記複数の層は、互いに異なる散乱特性と、互いに略等しい屈折率とを有する。
【0024】
幾つかの例示的な態様において、前記データ取得部により前記模型眼から取得されたデータに基づいて評価情報を生成する評価部を更に含む。
【0025】
幾つかの例示的な態様において、前記データ取得部は、光学系を含み、
所定位置に設置された模型眼に対して前記光学系のアライメントを行うアライメント系を更に含み、
前記評価部は、前記アライメントの後に前記データ取得部により前記模型眼から取得されたデータに基づいて前記評価情報の生成を行う。
【発明の効果】
【0026】
幾つかの例示的な態様によれば、積層体からの有害な反射を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】例示的な態様に係る眼科装置の構成を表す概略図である。
図2】例示的な態様に係る眼科装置の構成を表す概略図である。
図3A】例示的な態様に係る眼科装置の構成を表す概略図である。
図3B】例示的な態様に係る眼科装置の構成を表す概略図である。
図4A】例示的な態様に係る眼科装置の構成を表す概略図である。
図4B】例示的な態様に係る眼科装置の構成を表す概略図である。
図5】例示的な態様に係る模型眼の構成を表す概略図である。
図6】例示的な態様に係る積層体の構成を表す概略図である。
図7】例示的な態様に係る積層体の構成を表す概略図である。
図8A】例示的な態様に係る眼科装置の構成を表す概略図である。
図8B】例示的な態様に係る眼科装置の構成を表す概略図である。
図9】例示的な態様に係る眼科装置が実行可能な動作を表すフローチャートである。
図10】例示的な態様に係る積層体のOCT画像である。
図11】例示的な態様に係る積層体の製造方法を表すフローチャートである。
図12】例示的な態様に係る積層体と従来の積層体との比較例である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
実施形態に係る積層体、模型眼、及び眼科装置について、幾つかの例示的な態様を説明する。例示的な態様に係る積層体を用いて模型眼を作成することができる。また、例示的な態様に係る模型眼を含む眼科装置を構成することができる。また、例示的な態様に係る模型眼を用いて眼科装置の性能評価を行うことができる。
【0029】
以下に説明する例示的な態様に係る眼科装置は、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)装置と眼底カメラとの組み合わせであるが、例示的な態様に係る眼科装置はこれに限定されず、眼を検査(撮影、測定等)する機能を有する任意の眼科装置であってよい。幾つかの例示的な態様に係る眼科装置は、アライメント機能及び性能評価機能の少なくとも一方を有している。幾つかの例示的な態様の眼科装置は、性能評価のための模型眼を含んでいる。一方、幾つかの例示的な態様の眼科装置は、性能評価のための模型眼を含んでいない。
【0030】
以下に説明する例示的な態様の眼科装置に含まれるOCT装置にはスペクトラルドメインOCTが採用されているが、例示的な態様に係る眼科装置に適用可能なOCTの種別はスペクトラルドメインOCTに限定されず、例えばスウェプトソースOCTであってもよい。
【0031】
ここで、スペクトラルドメインOCTは、低コヒーレンス光源からの光を測定光と参照光とに分割し、被検物からの測定光の戻り光を参照光と重ね合わせて干渉光を生成し、この干渉光のスペクトル分布を分光器で検出し、検出されたスペクトル分布にフーリエ変換等を施して画像を形成する手法である。
【0032】
これに対し、スウェプトソースOCTは、波長可変光源からの光を測定光と参照光とに分割し、被検物からの測定光の戻り光を参照光と重ね合わせて干渉光を生成し、この干渉光をバランスドフォトダイオード等の光検出器で検出し、波長の掃引及び測定光のスキャンに応じて収集された検出データにフーリエ変換等を施して画像を形成する手法である。
【0033】
このように、スペクトラルドメインOCTは空間分割でスペクトル分布を取得するOCT手法であり、スウェプトソースOCTは時分割でスペクトル分布を取得するOCT手法である。なお、タイムドメインOCTなどの他のOCT手法を用いてもよい。
【0034】
本明細書において、特に言及しない限り、「画像データ」と、それに基づく視覚的情報である「画像」とを区別しない。また、特に言及しない限り、被検眼の部位又は組織と、それに対応する模型眼の部分とを区別しない。更に、特に言及しない限り、被検眼の部位又は組織とその画像とを区別せず、模型眼の部分とその画像とを区別しない。
【0035】
〈眼科装置の構成〉
例示的な態様の眼科装置を図1に示す。眼科装置1は、眼底カメラユニット2、OCTユニット100、及び演算制御ユニット200を含む。眼底カメラユニット2には、被検眼Eの正面画像を取得するための光学系や機構と、OCTを実行するための光学系や機構とが設けられている。OCTユニット100には、OCTを実行するための光学系や機構が設けられている。演算制御ユニット200は、各種の処理(演算、制御等)を実行するように構成された1以上のプロセッサを含んでいる。更に、眼科装置1は、互いに異なる2つの方向から前眼部を撮影するための2つの前眼部カメラ300を備えている。
【0036】
眼底カメラユニット2には、被検者の顔を保持するための顎受けと額当てが設けられている。顎受け及び額当ては、図4A及び図4Bに示す顔保持部450に相当する。ベース310には、駆動機構や演算制御回路が格納されている。ベース310上に設けられた筐体320には、光学系が格納されている。筐体320の前面に突出して設けられたレンズ収容部330には、対物レンズ22が収容されている。
【0037】
更に、眼科装置1は、OCTが適用される部位を切り替えるためのレンズユニットを備えている。具体的には、眼科装置1は、前眼部にOCTを適用するための前眼部OCT用アタッチメント400を備えている。前眼部OCT用アタッチメント400は、例えば、特開2015-160103号公報に開示された光学ユニットと同様に構成されていてよい。
【0038】
図1に示すように、前眼部OCT用アタッチメント400は、対物レンズ22と被検眼Eとの間に配置可能である。前眼部OCT用アタッチメント400が光路に配置されているとき、眼科装置1は前眼部にOCTスキャンを適用することが可能である。他方、前眼部OCT用アタッチメント400が光路から退避されているとき、眼科装置1は後眼部にOCTスキャンを適用することが可能である。前眼部OCT用アタッチメント400の移動は、手動又は自動で行われる。
【0039】
幾つかの態様において、アタッチメントが光路に配置されているときに後眼部にOCTスキャンを適用可能であり、且つ、アタッチメントが光路から退避されているときに前眼部にOCTスキャンを適用可能であってよい。また、アタッチメントにより切り替えられる測定部位は後眼部及び前眼部に限定されず、眼の任意の部位であってよい。なお、OCTスキャンが適用される部位を切り替えるための構成はこのようなアタッチメントに限定されず、例えば、光路に沿って移動可能なレンズを備えた構成、又は、光路に対して挿脱可能なレンズを備えた構成を採用することも可能である。
【0040】
本明細書に開示された要素の機能の少なくとも一部は、回路構成(circuitry)又は処理回路構成(Processing circuitry)を用いて実装される。回路構成又は処理回路構成は、開示された機能の少なくとも一部を実行するように構成及び/又はプログラムされた、汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、従来の回路構成、及びそれらの任意の組み合わせのいずれかを含む。プロセッサは、トランジスタ及び/又は他の回路構成を含む、処理回路構成又は回路構成とみなされる。本開示において、回路構成、ユニット、手段、又はこれらに類する用語は、開示された機能の少なくとも一部を実行するハードウェア、又は、開示された機能の少なくとも一部を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されたハードウェアであってよく、或いは、記載された機能の少なくとも一部を実行するようにプログラム及び/又は構成された既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが或るタイプの回路構成とみなされ得るプロセッサである場合、回路構成、ユニット、手段、又はこれらに類する用語は、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせであり、このソフトウェアはハードウェア及び/又はプロセッサを構成するために使用される。
【0041】
〈眼底カメラユニット2〉
眼底カメラユニット2には、被検眼Eの眼底Ef(及び前眼部)を撮影するための光学系が設けられている。取得される眼底Efのデジタル画像(眼底像、眼底写真等と呼ばれる)は、一般に、観察画像、撮影画像等の正面画像である。観察画像は、近赤外光を用いた動画撮影により得られる。撮影画像は、可視領域のフラッシュ光を用いた静止画像である。
【0042】
眼底カメラユニット2は、照明光学系10と撮影光学系30とを含む。照明光学系10は、被検眼Eに照明光を照射する。撮影光学系30は、被検眼Eに照射された照明光の戻り光を検出する。OCTユニット100からの測定光は、眼底カメラユニット2内の光路を通じて被検眼Eに導かれる。被検眼E(例えば、眼底Ef)に投射された測定光の戻り光は、眼底カメラユニット2内の同じ光路を通じてOCTユニット100に導かれる。
【0043】
照明光学系10の観察光源11から出力された光(観察照明光)は、凹面鏡12により反射され、集光レンズ13を経由し、可視カットフィルタ14を透過して近赤外光となる。更に、観察照明光は、撮影光源15の近傍にて一旦集束し、ミラー16により反射され、リレーレンズ系17、リレーレンズ18、絞り19、及びリレーレンズ系20を経由して孔開きミラー21に導かれる。そして、観察照明光は、孔開きミラー21の周辺部(孔部の周囲の領域)にて反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて被検眼E(眼底Ef)を照明する。観察照明光の被検眼Eからの戻り光は、対物レンズ22により屈折され、ダイクロイックミラー46を透過し、孔開きミラー21の中心領域に形成された孔部を通過し、ダイクロイックミラー55を透過し、撮影合焦レンズ31を経由し、ミラー32により反射される。更に、この戻り光は、ハーフミラー33Aを透過し、ダイクロイックミラー33により反射され、結像レンズ34によりイメージセンサー35の受光面に結像される。イメージセンサー35は、所定のフレームレートで戻り光を検出する。なお、撮影光学系30のフォーカスは、眼底Ef若しくはその近傍に合致するように調整可能であり、且つ、前眼部若しくはその近傍に合致するように調整可能である。
【0044】
撮影光源15から出力された光(撮影照明光)は、観察照明光と同様の経路を通って眼底Efに照射される。被検眼Eからの撮影照明光の戻り光は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってダイクロイックミラー33まで導かれ、ダイクロイックミラー33を透過し、ミラー36により反射され、結像レンズ37によりイメージセンサー38の受光面に結像される。
【0045】
液晶ディスプレイ(LCD)39は固視標(固視標画像)を表示する。LCD39から出力された光束は、その一部がハーフミラー33Aに反射され、ミラー32に反射され、撮影合焦レンズ31及びダイクロイックミラー55を経由し、孔開きミラー21の孔部を通過する。孔開きミラー21の孔部を通過した光束は、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに投射される。固視標は、典型的には、視線の誘導及び固定に利用される。被検眼Eの視線が誘導(及び固定)される方向、つまり被検眼Eの固視が促される方向は、固視位置と呼ばれる。
【0046】
LCD39の画面上における固視標画像の表示位置を変更することで固視位置を変更することができる。固視位置の例として、黄斑を中心とする画像を取得するための固視位置や、視神経乳頭を中心とする画像を取得するための固視位置や、黄斑と視神経乳頭との間の位置(眼底中心)を中心とする画像を取得するための固視位置や、黄斑から大きく離れた部位(眼底周辺部)の画像を取得するための固視位置などがある。
【0047】
このような典型的な固視位置の少なくとも1つを指定するためのグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)等を設けることができる。また、固視位置(固視標の表示位置)をマニュアルで移動するためのGUI等を設けることができる。また、固視位置を自動で設定する構成を適用することも可能である。
【0048】
固視位置の変更が可能な固視標を被検眼Eに提示するための構成は、LCD等の表示デバイスには限定されない。例えば、複数の発光部(発光ダイオード等)がマトリクス状に配列されたデバイス(固視マトリクス)を、表示デバイスの代わりに採用することができる。この場合、複数の発光部を選択的に点灯させることにより、固視標による被検眼Eの固視位置を変更することができる。他の例として、移動可能な1以上の発光部を備えたデバイスによって、固視位置の変更が可能な固視標を生成することができる。
【0049】
アライメント光学系50は、被検眼Eに対する光学系のアライメントに用いられるアライメント指標を生成する。発光ダイオード(LED)51から出力されたアライメント光は、絞り52、絞り53、及びリレーレンズ54を経由し、ダイクロイックミラー55により反射され、孔開きミラー21の孔部を通過し、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22を介して被検眼Eに投射される。アライメント光の被検眼Eからの戻り光は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってイメージセンサー35に導かれる。その受光像(アライメント指標像)に基づいてマニュアルアライメントやオートアライメントを実行することができる。
【0050】
なお、例示的な態様に適用可能なアライメント手法は、このようなアライメント指標を用いたものに限定されず、前眼部カメラ300を利用した手法や、角膜に正面から光束を投射することで形成される角膜反射像(プルキンエ像)を利用した手法や、角膜に斜方から光束を投射して反対方向にて角膜反射光を検出する光テコを利用した手法など、任意の公知の手法であってよい。
【0051】
フォーカス光学系60は、被検眼Eに対するフォーカス調整に用いられるスプリット指標を生成する。撮影光学系30の光路(撮影光路)に沿った撮影合焦レンズ31の移動に連動して、フォーカス光学系60は照明光学系10の光路(照明光路)に沿って移動される。反射棒67は、照明光路に対して挿脱される。フォーカス調整を行う際には、反射棒67の反射面が照明光路に傾斜配置される。LED61から出力されたフォーカス光は、リレーレンズ62を通過し、スプリット指標板63により2つの光束に分離され、二孔絞り64を通過し、ミラー65により反射され、集光レンズ66により反射棒67の反射面に一旦結像されて反射される。更に、フォーカス光は、リレーレンズ20を経由し、孔開きミラー21に反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22を介して被検眼Eに投射される。フォーカス光の被検眼Eからの戻り光(眼底反射光等)は、アライメント光の戻り光と同じ経路を通ってイメージセンサー35に導かれる。その受光像(スプリット指標像)に基づいてマニュアルフォーカシングやオートフォーカシングを実行できる。
【0052】
孔開きミラー21とダイクロイックミラー55との間の撮影光路に、視度補正レンズ70及び71を選択的に挿入することができる。視度補正レンズ70は、強度遠視を補正するためのプラスレンズ(凸レンズ)である。視度補正レンズ71は、強度近視を補正するためのマイナスレンズ(凹レンズ)である。
【0053】
ダイクロイックミラー46は、眼底撮影用光路とOCT用光路(測定アーム)とを合成する。ダイクロイックミラー46は、OCTに用いられる波長帯の光を反射し、眼底撮影用の光を透過させる。測定アームには、OCTユニット100側から順に、コリメータレンズユニット40、リトロリフレクタ41、分散補償部材42、OCT合焦レンズ43、光スキャナ44、及びリレーレンズ45が設けられている。
【0054】
リトロリフレクタ41は、これに入射する測定光LSの光路に沿って移動可能とされ、それにより測定アームの長さが変更される。測定アーム長の変更は、例えば、眼軸長に応じた光路長補正や、干渉状態の調整などに利用される。
【0055】
分散補償部材42は、参照アームに配置された分散補償部材113(後述)とともに、測定光LSの分散特性と参照光LRの分散特性とを合わせるよう作用する。
【0056】
OCT合焦レンズ43は、測定アームのフォーカス調整を行うために測定アームに沿って移動される。なお、撮影合焦レンズ31の移動、フォーカス光学系60の移動、及びOCT合焦レンズ43の移動を連係的に制御することができる。
【0057】
光スキャナ44は、実質的に、被検眼Eの瞳孔と光学的に共役な位置に配置される。光スキャナ44は、測定アームにより導かれる測定光LSを偏向する。光スキャナ44は、例えば、2次元走査が可能なガルバノスキャナである。典型的には、光スキャナ44は、測定光を±x方向に偏向するための1次元スキャナ(x-スキャナ)と、測定光を±y方向に偏向するための1次元スキャナ(y-スキャナ)とを含む。この場合、例えば、これら1次元スキャナのいずれか一方が瞳孔と光学的に共役な位置に配置されるか、或いは、瞳孔と光学的に共役な位置がこれら1次元スキャナの間に配置される。
【0058】
〈OCTユニット100〉
図2に示す例示的なOCTユニット100には、スペクトラルドメインOCTを実行するための光学系が設けられている。この光学系は干渉光学系を含む。この干渉光学系は、低コヒーレンス光源(広帯域光源)からの光を測定光と参照光とに分割し、被検眼Eに投射された測定光の戻り光と参照光路を経由した参照光とを重ね合わせて干渉光を生成する。干渉光学系により生成された干渉光のスペクトル分布が分光器で検出する。干渉光のスペクトル分布の検出により得られたデータ(検出信号)は、演算制御ユニット200に送られる。
【0059】
光源ユニット101は、広帯域の低コヒーレンス光L0を出力する。低コヒーレンス光L0は、例えば、近赤外領域の波長帯(800ナノメートル~900ナノメートル程度)を含み、数十マイクロメートル程度の時間的コヒーレンス長を有する。なお、低コヒーレンス光L0は、人眼では視認できない波長帯、例えば1040~1060ナノメートル程度の中心波長を有する近赤外光であってもよい。光源ユニット101は、スーパールミネセントダイオード(SLD)、LED、半導体光増幅器(SOA)等の光出力デバイスを含む。
【0060】
なお、スウェプトソースOCTが採用される場合、光源ユニットは、例えば、出射光の波長を高速で変化させる近赤外波長可変レーザーを含む。
【0061】
光源ユニット101から出力された低コヒーレンス光L0は、光ファイバ102により偏波コントローラ103に導かれてその偏光状態が調整される。偏光状態が調整された光L0は、光ファイバ104によりファイバカプラ105に導かれて測定光LSと参照光LRとに分割される。測定光LSを導く光路は測定アーム(sample arm)などと呼ばれ、参照光LRを導く光路は参照アーム(reference arm)などと呼ばれる。
【0062】
ファイバカプラ105により生成された参照光LRは、光ファイバ110によりコリメータ111に導かれて平行光束に変換され、光路長補正部材112及び分散補償部材113を経由し、リトロリフレクタ114に導かれる。光路長補正部材112は、参照光LRの光路長と測定光LSの光路長とを合わせるよう作用する。分散補償部材113は、測定アームに配置された分散補償部材42とともに、参照光LRと測定光LSとの間の分散特性を合わせるよう作用する。リトロリフレクタ114は、これに入射する参照光LRの光路に沿って移動可能であり、それにより参照アームの長さが変更される。参照アーム長の変更は、例えば、眼軸長に応じた光路長補正や、干渉状態の調整などに利用される。
【0063】
リトロリフレクタ114を経由した参照光LRは、分散補償部材113及び光路長補正部材112を経由し、コリメータ116によって平行光束から集束光束に変換され、光ファイバ117に入射する。光ファイバ117に入射した参照光LRは、偏波コントローラ118に導かれてその偏光状態が調整され、光ファイバ119を通じてアッテネータ120に導かれてその光量が調整され、光ファイバ121を通じてファイバカプラ122に導かれる。
【0064】
一方、ファイバカプラ105により生成された測定光LSは、光ファイバ127を通じてコリメータレンズユニット40に導かれて平行光束に変換され、リトロリフレクタ41、分散補償部材42、OCT合焦レンズ43、光スキャナ44、及びリレーレンズ45を経由し、ダイクロイックミラー46により反射され、対物レンズ22により屈折されて被検眼Eに投射される。測定光LSは、被検眼Eの様々な深さ位置において散乱・反射される。測定光LSの被検眼Eからの戻り光は、測定アームを逆向きに進行してファイバカプラ105に導かれ、光ファイバ128を経由してファイバカプラ122に到達する。
【0065】
ファイバカプラ122は、光ファイバ128を介して入射された測定光LSと、光ファイバ121を介して入射された参照光LRとを重ね合わせて干渉光LCを生成する。
【0066】
ファイバカプラ122により生成された干渉光LCは、光ファイバ129を通じて分光器130に導かれる。分光器130は、例えば、入射された干渉光LCをコリメータレンズによって平行光束に変換し、平行光束に変換された干渉光LCを回折格子によってスペクトル成分に分解し、回折格子により分解されたスペクトル成分をレンズ114によってイメージセンサーに投射する。このイメージセンサーは、例えばラインセンサーであり、干渉光LCの複数のスペクトル成分を検出して電気信号(検出信号)を生成する。生成された検出信号は、演算制御ユニット200に送られる。
【0067】
なお、スウェプトソースOCTが採用される場合、測定光と参照光とを重ね合わせて生成された干渉光が所定の分岐比(例えば1:1)で分岐されて一対の干渉光を生成し、生成された一対の干渉光が光検出器に導かれる。光検出器は、例えばバランスドフォトダイオードを含む。バランスドフォトダイオードは、一対の干渉光をそれぞれ検出する一対のフォトディテクタを含み、これらにより得られた一対の検出信号の差分を出力する。光検出器は、この出力(差分信号等の検出信号)をデータ収集システム(DAQ)に送る。データ収集システムには、光源ユニットからクロックが供給される。クロックは、光源ユニットにおいて、波長可変光源により所定の波長範囲内で掃引される各波長の出力タイミングに同期して生成される。光源ユニットは、例えば、各出力波長の光を分岐して2つの分岐光を生成し、これら分岐光の一方を光学的に遅延させ、これら分岐光を合成し、得られた合成光を検出し、その検出信号に基づいてクロックを生成する。データ収集システムは、光検出器から入力される検出信号(差分信号)のサンプリングをクロックに基づいて実行する。このサンプリングで得られたデータが画像構築などの処理に供される。
【0068】
図1及び図2に示す眼科装置1には、測定アーム長を変更するための要素(例えば、リトロリフレクタ41)と、参照アーム長を変更するための要素(例えば、リトロリフレクタ114、又は参照ミラー)との双方が設けられているが、幾つかの例示的な態様ではこれら要素のうちの一方のみが設けられる。測定アーム長と参照アーム長とを相対的に変化させることにより(つまり、測定アームと参照アームとの間の光路長差を変更することにより)、コヒーレンスゲート位置が変更される。光路長差を変更するための要素は本態様に開示された要素には限定されず、任意の要素(光学部材、機構など)であってよい。
【0069】
〈演算制御ユニット200〉
演算制御ユニット200は、眼科装置1の各部の制御を実行する。また、演算制御ユニット200は、各種の演算を実行する。例えば、演算制御ユニット200は、分光器130により取得されたスペクトル分布にフーリエ変換等の信号処理を施すことによって、各Aラインにおける反射強度プロファイルを形成する。更に、演算制御ユニット200は、各Aラインの反射強度プロファイルを画像化することによって画像データを形成する。そのための演算処理は、従来のスペクトラルドメインOCTと同様である。
【0070】
演算制御ユニット200は、例えば、プロセッサ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスクドライブ、通信インターフェイスなどを含む。ハードディスクドライブ等の記憶装置には各種のコンピュータプログラムが格納されている。演算制御ユニット200は、操作デバイス、入力デバイス、表示デバイスなどを含んでいてもよい。
【0071】
図3Aに示すように、ユーザーインターフェイス240は、表示部241と操作部242とを含む。表示部241は、例えば表示装置3を含む。操作部242は、各種の操作デバイスや入力デバイスを含む。ユーザーインターフェイス240は、例えばタッチパネルのような表示機能と操作機能とが一体となったデバイスを含んでいてもよい。幾つかの例示的な態様に係る眼科装置は、ユーザーインターフェイスの少なくとも一部を含まなくてよい。例えば、表示デバイス及び/又は操作デバイスは、眼科装置の周辺機器であってよい。
【0072】
〈前眼部カメラ300〉
前眼部カメラ300は、被検眼Eの前眼部を異なる2以上の方向から撮影する。前眼部カメラ300は、CCDイメージセンサー又はCMOSイメージセンサーなどの撮像素子を含む。本態様では、眼底カメラユニット2の前面(被検者に向く面)に2台の前眼部カメラ300が設けられている(図4Aに示す前眼部カメラ300A及び300Bを参照)。図1及び図4Aに示すように、前眼部カメラ300A及び300Bは、対物レンズ22を通過する光路から外れた位置に設けられている。本開示では、前眼部カメラ300A及び300Bの一方を符号300で示すことがあり、また双方をまとめて符号300で示すことがある。また、前眼部カメラ300A及び300Bの代わりに採用可能な前眼部カメラを符号300で示すことがある。
【0073】
本態様では、2台の前眼部カメラ300A及び300Bが設けられているが、前眼部カメラ300の個数は1以上の任意の個数であってよい。後述の演算処理を考慮すると、異なる2方向から前眼部を撮影可能な構成であれば十分である(しかし、これに限定されるものではない)。或いは、移動可能な前眼部カメラ300を設け、互いに異なる2以上の位置から順次に前眼部撮影を行うようにしてもよい。
【0074】
本態様では照明光学系10及び撮影光学系30とは別個に2つの前眼部カメラ300が設けられているが、例えば撮影光学系30を用いて前眼部撮影を行うことができる。すなわち、2以上の前眼部カメラ300のうちの1つは、撮影光学系30であってよい。本態様に係る前眼部カメラ300は、互いに異なる2(以上の)方向から前眼部を撮影可能であればよい。
【0075】
前眼部を照明するための構成が設けられていてもよい。この前眼部照明手段には、例えば、1以上の光源が含まれる。典型的には、2以上の前眼部カメラ300のそれぞれの近傍に少なくとも1つの光源(例えば、赤外光源)を設けることができる。
【0076】
典型的には、互いに異なる2以上の方向からの前眼部撮影は、実質的に同時に実行される。「実質的に同時」とは、互いに異なる2以上の方向からの前眼部撮影のタイミングが同時である場合に加え、例えば、眼球運動を無視できる程度のタイミング差が介在する場合も許容されることを示す。このような実質的同時撮影によって、被検眼Eが実質的に同じ位置及び向きにあるときに、互いに異なる2以上の方向から前眼部を撮影することが可能である。
【0077】
互いに異なる2以上の方向からの前眼部撮影は、動画撮影でも静止画撮影でもよい。動画撮影の場合、例えば、2以上の前眼部カメラ300による撮影開始タイミングを合わせるよう制御したり、フレームレートや各フレームの取得タイミングを制御したりすることによって、上記のような実質的に同時の前眼部撮影を実現することができる。一方、静止画撮影の場合、例えば、2以上の前眼部カメラ300による撮影タイミングを合わせるよう制御を行うことによって、実質的に同時の前眼部撮影を実現することができる。
【0078】
なお、後述のように模型眼を撮影する場合には、このような実質的同時撮影を行う必要はない。
【0079】
〈制御系〉
眼科装置1の制御系(処理系)の構成の例を図3A及び図3Bに示す。制御部210、画像形成部220、及びデータ処理部230は、例えば演算制御ユニット200に設けられる。
【0080】
〈制御部210〉
制御部210は、プロセッサを含み、眼科装置1の各部を制御する。制御部210は、主制御部211と記憶部212とを含む。
【0081】
〈主制御部211〉
主制御部211は、プロセッサを含み、眼科装置1の各要素(図1図3Bに示された要素を含む)を制御する。主制御部211は、例えば、回路を含むハードウェアと、制御ソフトウェアとの協働により実現される。
【0082】
撮影光路に配置された撮影合焦レンズ31と照明光路に配置されたフォーカス光学系60とは、主制御部211の制御の下に、図示しない撮影合焦駆動部によって、一体的に又は連係的に移動される。測定アームに設けられたリトロリフレクタ41は、主制御部211の制御の下に、リトロリフレクタ(RR)駆動部41Aによって移動される。測定アームに配置されたOCT合焦レンズ43は、主制御部211の制御の下に、OCT合焦駆動部43Aによって移動される。なお、OCT合焦レンズ43の移動を、撮影合焦レンズ31及びフォーカス光学系60の移動と連係的に行うことができる。参照アームに配置されたリトロリフレクタ114は、主制御部211の制御の下に、リトロリフレクタ(RR)駆動部114Aによって移動される。ここに例示した機構のそれぞれは、典型的には、主制御部211の制御の下に動作するパルスモータ等のアクチュエータを含む。測定アームに設けられた光スキャナ44は、主制御部211の制御の下に動作する。更に、主制御部211は、偏波コントローラ103、偏波コントローラ118、アッテネータ120、各種光源、各種光学要素、各種デバイス、各種機構など、眼科装置1に含まれる任意の要素を制御することができる。また、主制御部211は、眼科装置1に接続された任意の周辺機器(装置、機器、デバイス等)の制御や、眼科装置1によりアクセス可能な任意の装置、機器、デバイス等の制御を実行可能であってよい。
【0083】
移動機構150は、例えば、少なくとも眼底カメラユニット2を3次元的に移動する。典型的な例において、移動機構150は、±x方向(左右方向)に移動可能なxステージと、xステージを移動するx移動機構と、±y方向(上下方向)に移動可能なyステージと、yステージを移動するy移動機構と、±z方向(奥行き方向)に移動可能なzステージと、zステージを移動するz移動機構とを含む。これら移動機構のそれぞれは、主制御部211の制御の下に動作するパルスモータ等のアクチュエータを含む。
【0084】
〈記憶部212〉
記憶部212は各種のデータを記憶する。記憶部212に記憶されるデータとしては、例えば、OCT画像の画像データ、眼底像の画像データ、被検眼情報などがある。被検眼情報は、患者IDや氏名などの被検者情報や、左眼/右眼の識別情報や、電子カルテ情報などを含む。
【0085】
〈画像形成部220〉
画像形成部220は、分光器130により取得されたデータに基づいてOCT画像データを形成する。画像形成部220は、プロセッサを含む。画像形成部220は、例えば、回路を含むハードウェアと、画像形成ソフトウェアとの協働により実現される。
【0086】
画像形成部220は、分光器130により取得されたデータに基づいて断面像データを形成する。この画像形成処理は、従来のスペクトラルドメインOCTと同様に、サンプリング(A/D変換)、ノイズ除去(ノイズ低減)、フィルタ処理、高速フーリエ変換(FFT)などの信号処理を含む。
【0087】
画像形成部220により形成される画像データは、OCTスキャンが適用されたエリアに配列された複数のAライン(z方向に沿うスキャンライン)における反射強度プロファイルを画像化することによって形成された一群の画像データ(一群のAスキャン画像データ)を含むデータセットである。
【0088】
画像形成部220により形成される画像データは、例えば、1以上のBスキャン画像データ、又は、複数のBスキャン画像データを単一の3次元座標系に埋め込んで形成されたスタックデータである。画像形成部220は、スタックデータにボクセル化処理を施してボリュームデータ(ボクセルデータ)を構築することも可能である。スタックデータ及びボリュームデータは、3次元座標系により表現された3次元画像データの典型的な例である。
【0089】
画像形成部220は、3次元画像データを加工することができる。例えば、画像形成部220は、3次元画像データにレンダリングを適用して新たな画像データを構築することができる。レンダリングの手法としては、ボリュームレンダリング、最大値投影(MIP)、最小値投影(MinIP)、サーフェスレンダリング、多断面再構成(MPR)などがある。また、画像形成部220は、3次元画像データをz方向(Aライン方向、深さ方向)に投影してプロジェクションデータを構築することができる。また、画像形成部220は、3次元画像データの一部(3次元部分画像データ)をz方向に投影してシャドウグラムを構築することができる。なお、3次元部分画像データは、例えば、3次元画像データにセグメンテーションを適用することによって設定される。
【0090】
〈データ処理部230〉
データ処理部230は、各種のデータ処理を実行する。例えば、データ処理部230は、OCT画像データに画像処理や解析処理を適用することや、観察画像データ又は撮影画像データに画像処理や解析処理を適用することが可能である。データ処理部230は、プロセッサを含む。データ処理部230は、例えば、回路を含むハードウェアと、データ処理ソフトウェアとの協働により実現される。
【0091】
次に、図1図3Aに示す要素(ハードウェア要素、ソフトウェア要素)により実現される眼科装置1の機能的構成について説明する。眼科装置1の機能的構成の一例を図3Bに示す。本例は、模型眼500を用いて眼科装置1の評価を行うための構成を提供している。
【0092】
〈模型眼500〉
模型眼500は、例示的な態様に係る模型眼であり、眼科装置1の性能評価のために、アタッチメント460を介して顔保持部450に装着される。本態様では、被検眼Eと同様の位置に模型眼500が配置される。これにより、眼科装置1のアライメント機能を利用して模型眼500に対するデータ取得光学系410の位置合わせ(アライメント)を行って評価作業の容易化を図ることができ、更に、データ取得光学系410により取得されるデータの品質の評価だけでなく、アライメント系420により行われるアライメントの品質の評価も可能となる。
【0093】
模型眼500の例示的な構成を図5に示す。本例の模型眼500は、角膜に相当する角膜部510(角膜相当レンズ)と、虹彩に相当する虹彩部520と、水晶体に相当する水晶体部550(水晶体相当レンズ)と、硝子体に相当する硝子体部560と、眼底に相当する眼底部570とを含む。模型眼500に含まれる要素の個数(例えば、レンズの枚数)は任意である。
【0094】
虹彩部520は、瞳孔に相当する開口540を形成する。また、虹彩部520は、開口540の大きさ(開口径)を変化させるための可変部530が設けられていてよい。可変部530は、例えば、虹彩部520に対して着脱可能であり、異なる開口径に対応する複数の部材が選択的に適用される。或いは、可変部530は、虹彩部520に対して移動可能に構成される。なお、開口540のサイズは固定であってもよい。硝子体部560には、例えば、オイル等の液体が充填されている。なお、硝子体部560に充填される物質は任意であり、例えば、任意の気体、任意の液体、及び任意の固体のいずれかであってよい。角膜部510と水晶体部550との間の空間には、典型的には、気体(空気)が存在する。なお、角膜部510と水晶体部550との間の空間に設けられる物質は任意であり、例えば、任意の気体、任意の液体、及び任意の固体のいずれかであってよい。
【0095】
眼底部570は、人眼の眼底に応じた積層構造を備えている。例えば、眼底部570は、人眼の眼底の任意の組織に相当する1以上の層を備えている。眼底の組織としては、内境界膜、神経線維層、神経節細胞層、内網状層、内顆粒層、外網状層、外顆粒層、外境界膜、視細胞層、網膜色素上皮層、ブルッフ膜、脈絡膜、強膜などがある。眼底部570の各層の厚さや屈折率は、対応する1又は2以上の組織の厚さや屈折率と同等であってよい。眼底部570の形状は、図5のような平板形状には限定されず、球面形状又は楕円形状などの曲面形状であってもよい。また、眼底部570は、人眼の任意の部位や組織に相当する構造を備えていてよい。例えば、眼底部570は、黄斑部に相当する構造、視神経乳頭に相当する構造、血管に相当する構造などを備えていてよい。また、眼底部570は、任意の疾患や任意の病態や任意の病変に相当する構造を備えていてもよい。例えば、加齢黄斑変性状(AMD)に相当する構造(ドルーゼン等)、網膜剥離に相当する構造、出血に相当する構造、腫瘍に相当する構造、萎縮に相当する構造などを備えていてよい。
【0096】
模型眼500のパラメータの値は、人眼と同等又は類似の値に設計されていてよい。模型眼500のパラメータの値は、例えば、標準的な模型眼又は臨床データから得られる。標準的な模型眼としては、Gullstrand模型眼、Navarro模型眼、Liou-Brennan模型眼、Badal模型眼、Arizona模型眼、Indiana模型眼、任意の規格化模型眼、及び、これらのいずれかと同等の模型眼などがある。また、模型眼500は、強度近視などの疾患を有する眼に基づいて設計されてもよい。また、模型眼500は、任意の疾患や任意の病態や任意の病変に相当する構造を備えていてもよい。例えば、模型眼500は、任意の角膜疾患、任意の水晶体疾患などに相当する構造を備えていてよい。また、模型眼500は、人工物に相当する構造を備えていてよい。例えば、模型眼500は、眼内レンズ(IOL)又はこれに相当する構造を備えていてもよい。
【0097】
角膜部510の前面の中心位置(角膜頂点に相当する位置)と眼底部570の前面との間の距離は、人眼の眼軸長に基づき設計されていてよい。また、角膜部510、水晶体部550、及び硝子体部560の全体としての焦点距離は、人眼の焦点距離と同等の値に設計されていてよい。例えば、水晶体部550と眼底部570との間の光学距離を変更するための手段(例えば、スペーサー)を有していてよい。これにより、模型眼500の屈折力を変化させることが可能となり、例えば、眼軸長が長い眼に対する撮影や測定の評価を行うことが可能である。
【0098】
虹彩部520(可変部530)の前面(角膜部510側の面)の反射率は、人眼のそれと同等の反射率に設計されていてよい。この反射率は、例えば赤外波長の反射率であってよい。同様に、角膜部510の前面などについても、人眼のそれと同等の反射率に設計することが可能である。また、虹彩部520(可変部530、開口540)の入射瞳が、人眼の虹彩の入射瞳と同等の位置に配置されるように、模型眼500を設計してもよい。
【0099】
データ取得光学系410により用いられる光(本態様では測定光LS)や、アライメント系420により用いられる光(本態様では、前眼部カメラ300により検出される波長帯(例えば赤外波長))が模型眼500内において多重反射することを防止するために、レンズ等に反射防止膜を設けることや、内部部材に反射防止塗料を塗布することが可能である。
【0100】
本態様の眼科装置1のように2以上の前眼部カメラ300(赤外波長に感度を有するカメラ)を用いてアライメントを行う場合、例えば次のようなパラメータ値を設定することができる。まず、開口540の入射瞳は、角膜部510から略3.06ミリメートル離れた位置に配置されていてよい。また、開口540の径は、2~10ミリメートルの範囲内の値に設定されていてよい。更に、虹彩部520(可変部530)の赤外光反射率は、2.0~2.5パーセントの範囲内の値に設定されていてよい。このような設計により、人眼の瞳孔を基準としてアライメントを行う場合と同様に、開口540を基準として模型眼500に対するアライメントを行うことが可能になる。
【0101】
他のアライメント手法が用いられる場合においても、その手法に応じて模型眼500のパラメータ値が設定される。例えば、角膜反射像(プルキンエ像)を利用してアライメントを行う場合、角膜部510の曲率半径(角膜相当レンズの前面の曲率半径)は、略7.7ミリメートルに設定されてよい。また、光テコを利用してアライメントを行う場合も同様に、角膜部510の曲率半径(角膜相当レンズの前面の曲率半径)を略7.7ミリメートルに設定することができる。
【0102】
眼底部570は積層体を用いて構成される。眼底部570に適用可能な積層体の幾つかの例示的な態様を説明する。例示的な態様に係る積層体の構成を図6及び図7に示す。本例の積層体600は、互いに異なる散乱特性を有する複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nを含む。ここで、Nは2以上の整数である。複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nのうちの任意の1つを620-nで表すことがある(n=1、2、・・、N)。
【0103】
層620-nの形状は任意であり、例えば平板状又は曲板状に形成されていてよい。また、複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nのうち互いに隣接する2つの層は、一方の層が硬化された後に他方の層が形成される。これにより、これら2つの層の材料が混ざり合うことがなく、それぞれの層の意図した特性が発揮される。このような積層体を製造する方法の例が後述される。
【0104】
複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nは、基板610上に形成されている。複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nと基板610とは一体的に構成されている。すなわち、複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nのうち基板610に最も近い層(最下層)620-Nの下面と、基板610の上面とは、直接的に又は間接的に結合されている。
【0105】
最下層620-Nと基板610とが直接的に結合(接合)される場合、例えば、基板610の屈折率を、最下層620-Nの屈折率(よって、複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nの屈折率)に略一致させることができる。これにより、最下層620-Nと基板610との境界での反射を防止することが可能となる。
【0106】
最下層620-Nと基板610とが間接的に結合される場合、例えば、最下層620-Nと基板610との間に、最下層620-Nと基板610との境界での反射を防止する作用を有する層(反射防止層)を設けることができる。
【0107】
反射防止層は、例えば、屈折率整合層を含んでいてよい。屈折率整合層が設けられる場合、最下層620-Nの屈折率と基板610の屈折率とは実質的に相違していてよい。最下層620-Nに近い屈折率整合層の部分(第1の部分)の屈折率は最下層620-Nの屈折率と実質的に等しく、基板610に近い屈折率整合層の部分(第2の部分)の屈折率は基板の屈折率と実質的に等しく、第1の部分から第2の部分まで屈折率が連続的又は段階的に変化している。つまり、屈折率整合層は、最下層620-Nの屈折率と基板610の屈折率とを実質的に滑らかにつなげる作用を有する。このような屈折率整合層を設けることで、最下層620-Nと基板610との間での反射を防止することが可能となる。
【0108】
他の例として、反射防止層は、光吸収層を含んでいてよい。光吸収層が設けられる場合、最下層620-Nの屈折率と基板610の屈折率とは実質的に相違していてもよいし、互いに実質的に等しくてもよい。光吸収層は、高い吸光度を有する任意の素材で形成されてよい。このような屈折率整合層を設けることで、最下層620-Nと基板610との間での反射を防止することが可能となる。なお、光吸収層を設けた場合、眼科装置1により得られる積層体600の画像には、基板610の像は(ほぼ)描出されない。
【0109】
また、基板610の厚さを十分に大きくしてもよい。例えば、基板610の厚さは、眼科装置1がデータを取得可能な深さレンジに基づき決定されてよい。この深さレンジは、OCTのAスキャンの長さ(z方向における画像化範囲)に相当する。基板610は、Aスキャンの長さに基づき決定された閾値を超える厚さを有していてよい。例えば、基板610から最も遠い層(最上層)620-1の上面から基板610の下面までの距離(つまり積層体600の厚さ)がAスキャンの長さよりも大きくなるように、基板610の厚さを設定することができる。これにより、積層体600のOCT画像に基板610の下面の像が描出されることがなくなり、基板610の下面での反射の影響を排除することが可能となる。
【0110】
層620-nは、ヒト眼底の幾つかの組織(層状組織、膜状組織)を模擬した特徴(構成、機能、特性)を有する。例えば、層620-nは、ヒト眼底の1つの組織、1つの組織の1つのサブ組織、1つの組織の2以上のサブ組織の組み合わせ、2以上の組織の組み合わせ、又は、これらのうちのいずれか2つ以上の組み合わせに相当した特徴(構成、機能、特性)を有する。
【0111】
層620-nは、少なくとも、基材と、この基材中に分散された微粒子とによって形成されている。幾つかの例示的な態様において、複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nにおける複数の基材は、互いに(実質的に)等しい屈折率を有している。この基材屈折率は、ヒト眼底の屈折率又はヒト眼底の1以上のサブ組織の屈折率にしたがって決定される。
【0112】
基材屈折率がヒト眼底の屈折率にしたがって決定される場合、基材屈折率は、例えば、ヒト眼底の全体としての標準屈折率又はこれに近似した屈折率であってよい。或いは、基材屈折率は、ヒト眼底の複数のサブ組織に対応する複数の標準屈折率から統計的に算出された屈折率(統計値:平均値、中央値など)又はこれに近似した屈折率であってもよい。或いは、基材屈折率は、ヒト眼底の所定の代表サブ組織の標準屈折率又はこれに近似した屈折率であってもよい。標準屈折率は、例えば、標準的な模型眼又は臨床データから得られる。
【0113】
基材屈折率がヒト眼底の1以上のサブ組織の屈折率にしたがって決定される場合、基材屈折率は、例えば、ヒト眼底の所定部分(1以上のサブ組織)の標準屈折率又はこれに近似した屈折率であってよい。或いは、基材屈折率は、ヒト眼底の2以上のサブ組織に対応する2以上の標準屈折率から統計的に算出された屈折率(統計値:平均値、中央値など)又はこれに近似した屈折率であってもよい。或いは、基材屈折率は、ヒト眼底の所定の代表サブ組織の標準屈折率又はこれに近似した屈折率であってもよい。標準屈折率は、例えば、標準的な模型眼又は臨床データから得られる。基材屈折率を決定するために参照されるヒト眼底の1以上のサブ組織は、ヒト網膜又はヒト網膜の1以上のサブ組織を含んでいてよく、及び/又は、ヒト脈絡膜又はヒト脈絡膜の1以上のサブ組織を含んでいてよい。
【0114】
例えばヒト網膜の屈折率は1.38程度であり、ヒト眼底と同等の基材屈折率を実現するためには1.40程度又はそれ以下の値を達成する必要があると考えられる。そのために、基材の材料として有機ケイ素化合物を用いることができる。これにより、基材屈折率を1.41程度まで減少させることができる。また、基材の材料としてフッ素化合物を採用することで、基材屈折率を1.40未満まで減少させることができる。
【0115】
複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nの設計において考慮される特性は、屈折特性(屈折率)に限定されない。例えば、透過特性(透過率、透過度)、拡散特性(拡散率、拡散係数、拡散度)などの任意の光学特性を考慮することができる。
【0116】
また、複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nの設計には散乱特性(散乱度、散乱強度、散乱係数)が考慮される。前述したように、複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nは、互いに異なる散乱特性を有する。層620-nの散乱特性は、層の特性、基材の特性、微粒子の特性、及び、基材と微粒子との組み合わせ的な特性のいずれか1つ以上にしたがって設計、調整、制御される。層620-nの散乱特性を決定するために、例えば、微粒子の種類、寸法及び添加量のうちの少なくとも1つが参照される。
【0117】
層620-nの散乱特性が少なくとも微粒子の添加量にしたがって決定される場合、微粒子の添加量を、基材に対する微粒子の重量パーセントとして、例えば0.001重量パーセント~20重量パーセントの範囲内に設定することができるが、これに限定されるものではない。幾つかの例示的な態様において、微粒子の添加量は、0.04重量パーセント~4重量パーセントの範囲内に設定されてよい。
【0118】
層620-nの散乱特性を決定するために層620-nの厚さが参照される場合、5マイクロメートル~500マイクロメートルの範囲内に層厚を設定することができるが、これに限定されるものではない。
【0119】
層620-nの散乱特性を決定するために、微粒子の材料として、酸化アルミニウム(Al)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、炭酸カルシウム(CaCO)、硫酸バリウム(BaSO)、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、及び、ポリカーボネート樹脂のうちの少なくとも1つを採用することができるが、これに限定されるものではない。
【0120】
層620-nの散乱特性を決定するために、微粒子の粒径を、10ナノメートル~100マイクロメートルの範囲内に設定することができるが、これに限定されるものではない。
【0121】
層620-nの散乱特性を決定するために、微粒子の形状として、真球状、球状、針状、及び星状のうちの少なくとも1つを採用することができるが、これに限定されるものではない。
【0122】
このようにして構成された積層体中の2つの層の概略構成の例を図7に示す。図7の層620-nは、図6の複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nのいずれか1つに相当し、層620-nは他の1つの層に相当する。層620-nの基材621-nの屈折率と、層620-nの基材621-nの屈折率とは、互いに等しい。また、2つの層620-n、620-nは、互いに異なる散乱特性を有する。このような散乱特性の制御のために、層620-n中の微粒子622-nと、層620-n中の微粒子622-nとは、少なくとも寸法及び添加量の双方において互いに異なっている。
【0123】
積層体600の表面(複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nのうち基板610から最も遠い層である最上層620-1の上面(表面))での反射の影響を防止(抑制)するために、最上層620-1の表面の面精度を十分に高くすることができる。例えば、眼科装置1がデータを取得するために用いる光(低コヒーレンス光L0)の波長に基づき決定された閾値よりも高い面精度を有するように、最上層620-1の表面に加工を施すことが可能である。これにより、積層体600の表面(最上面)での測定光LSの乱反射を抑制することができ、その影響を排除することが可能となる。
【0124】
ここに例示した積層体600の幾つかの特徴を以下に記載する。まず、複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nが互いに異なる散乱特性を有している。なお、複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nのうちのいずれか2つの層が実質的に等しい散乱特性を有していてもよい。
【0125】
また、積層体600の複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nは、等しい屈折率を有する基材を用いて形成されている。各層620-nを形成するために基材に微粒子が添加されるが、これによる屈折率の変化は無視できるほど小さい。したがって、複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nは、互いに実質的に等しい屈折率を有している。よって、隣接する2つの層の境界での反射はほとんど発生しない。一方、複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nが互いに異なる散乱特性を有しているため、層境界は明瞭に描出される。したがって、層境界での有害な反射を防止しつつ各層(よって層境界)をはっきりと表現することが可能である。
【0126】
また、積層体600において、基板610の屈折率を、複数の層620-1、620-2、・・・、620-Nの屈折率に略等しくすることができる。これにより、層-基板境界での有害な反射を防止することが可能となる。
【0127】
また、積層体600において、最下層620-Nと基板611との間に反射防止層(例えば、屈折率整合層、光吸収層)を設けることができる。これによっても、層-基板境界での有害な反射を防止することが可能である。
【0128】
また、積層体600において、十分な厚さを有する基板610を採用することにより、基板610の下面での有害な反射の影響を回避することが可能である。
【0129】
また、積層体600において、最上層620-1の上面の面精度を十分に高くすることにより、積層体600の最上面での有害な反射を抑制することが可能である。
【0130】
〈顔保持部450、アタッチメント460〉
顔保持部450は、被検眼Eの位置を固定するために被検者の顔を保持する部材である。一般的な眼科装置には顎受けや額当てが設けられる(例えば、特開2010-200905号公報、特開2015-139527号公報を参照)。顎受けには、被検者の顎が載置される。額当てには、被検者の額があてがわれる(当接される)。
【0131】
アタッチメント460は、模型眼500を眼科装置1に装着するための部材である。典型的には、アタッチメント460は、模型眼500と眼科装置1との間に介在する。幾つかの例示的な態様において、模型眼500とアタッチメント460とが一体的に構成されていてもよいが、本態様では模型眼500はアタッチメント460に着脱可能される。例えば、模型眼500がアタッチメント460に装着され、アタッチメント460が顔保持部450に装着される。換言すると、模型眼500は、アタッチメント460を介して眼科装置1に間接的に装着される。
【0132】
なお、模型眼500(アタッチメント460)が装着される眼科装置1の箇所は顔保持部450に限定されない。例えば、データ取得光学系410を収容する筐体外面に模型眼500を装着する構成を採用することや、筐体に模型眼500を内蔵した構成を採用することが可能である。筐体に模型眼500が内蔵される場合、模型眼500は、データ取得光学系410の光路に挿入可能に構成されてもよいし、データ取得光学系410の光路から分岐した光路に配置されてもよい。後者の場合、例えば、模型眼500を用いた性能評価を行うときに、データ取得光学系410の光路に全反射ミラー又はビームスプリッタを挿入し、当該分岐光路を介してデータ取得光学系410からの光(例えば測定光LS)を模型眼500に導く。
【0133】
〈データ取得光学系410〉
データ取得光学系410は、被検眼Eのデータを取得するための光学系である。眼科装置1の評価を行うときには、データ取得光学系410は、被検眼Eからデータを取得する場合と同じ要領で模型眼500からデータを取得する。例えば、本態様の眼科装置1は、模型眼500にOCTスキャンを適用して眼底部570からデータを取得することができる。また、本態様の眼科装置1は、眼底カメラユニット2を用いて模型眼500の眼底部570を撮影することができる。
【0134】
〈アライメント系420〉
アライメント系420は、所定位置に設置された模型眼500に対してデータ取得光学系410のアライメントを行うように構成されている。
【0135】
本態様において、アライメント系420は、2つの前眼部カメラ300と、処理部430と、移動機構150とを含む。前述したように、2つの前眼部カメラ300は、赤外波長に感度を有する撮像素子を含み、所定位置に設置された模型眼500を異なる2つの方向から撮影するように構成されている。また、移動機構150は、データ取得光学系410を移動するように構成されている。
【0136】
〈処理部430〉
処理部430は、2つの前眼部カメラ300により取得された模型眼500の2以上の画像に基づいて移動機構150を制御する。
【0137】
処理部430は、例えば、本出願人による特開2013-248376号公報に記載された処理を実行するように構成される。より具体的には、処理部430は、まず、2つの前眼部カメラ300により取得された模型眼500の2つの画像のそれぞれを解析することで、各画像中の瞳孔領域を特定する。
【0138】
次に、処理部430は、2つの画像から特定された2つの瞳孔領域に基づいてデータ取得光学系410の3次元移動量を算出する。この演算には三角法が利用される。
【0139】
更に、処理部430は、算出された3次元移動量に基づいて移動機構150を制御する。より具体的には、処理部430は、算出された3次元移動量(x方向の移動量、y方向の移動量、z方向の移動量)だけデータ取得光学系410を移動するように移動機構150の制御を行う。
【0140】
処理部430が実行する処理の詳細については、例えば特開2013-248376号公報や特開2014-113385号公報など、2以上の前眼部カメラを用いた発明に関する本出願人による一連の文献を参照されたい。処理部430は、例えば、主制御部211とデータ処理部230とによって実現される。
【0141】
なお、本態様の眼科装置1は、アライメント光学系50を用いて、模型眼500に対するデータ取得光学系410のアライメントを行ってもよい。この場合、アライメント指標を用いたオートアライメント(前述)が模型眼500に対して適用される。
【0142】
幾つかの例示的な態様の眼科装置は、本出願人による特開2018-164616号公報に記載されたXYアライメント及び/又はZアライメントを実行可能であってよい。XYアライメントは角膜反射像(プルキンエ像)を利用したアライメント手法であり、Zアライメントは光テコを利用したアライメント手法である。
【0143】
角膜反射像(プルキンエ像)を利用した手法を模型眼500に対するデータ取得光学系410のアライメントに適用する場合、図3Bに示す構成の代わりに、例えば図8Aに示す構成を採用することができる。図8Aに示す構成例では、図3Bに示すアライメント系420がアライメント系420Aに置換されている。図8Aに示された要素のうち図3Bと同様の要素は同じ符号で示されており、特に言及しない限り、その要素の説明は繰り返さない。
【0144】
本例の模型眼500は、角膜に相当する角膜部(510)を少なくとも含み、この角膜部の曲率半径は略7.7ミリメートルに設定されている。
【0145】
アライメント系420Aは、投射部421Aと、撮影部422Aと、処理部430Aと、移動機構150とを含む。
【0146】
投射部421Aは、模型眼500に光束を投射する。特に、投射部421Aは、模型眼500に正面から光束を投射する。典型的には、投射部421Aは、データ取得光学系410の光路の一部を通じて模型眼500に平行光束を投射するように構成される。これにより、模型眼500の角膜部に輝点像(角膜反射像、プルキンエ像)が形成される。
【0147】
撮影部422Aは、投射部421Aにより光束が投射されている状態の模型眼500を撮影する。撮影部422Aにより得られる模型眼500の画像には角膜反射像が描出されている。撮影部422Aにより得られた模型眼500の画像は処理部430Aに入力される。撮影部422Aは、複数の受光素子(光電変換素子)が2次元的に配列されたエリアセンサーである。
【0148】
処理部430Aは、撮影部422Aにより取得された模型眼500の画像を解析して角膜反射像を特定する。この解析は、例えば、輝度値の変化に基づく画像処理(例えば、エッジ検出)を含む。
【0149】
更に、処理部430Aは、模型眼500の画像から特定された角膜反射像に基づいて移動機構150を制御する。例えば、処理部430Aは、所定の基準位置(例えば、データ取得光学系410の光軸に対応する位置)に対する角膜反射像の偏位を算出し、この偏位を打ち消すように(角膜反射像が基準位置に配置されるように)移動機構150を制御する。これにより、模型眼500の角膜部の頂点位置にデータ取得光学系410の光軸を誘導することができる。
【0150】
処理部430Aが実行する処理の詳細については、例えば特開2018-164616号公報や特開平10-024019号公報などを参照されたい。処理部430Aは、例えば、主制御部211とデータ処理部230とによって実現される。
【0151】
光テコを利用した手法を模型眼500に対するデータ取得光学系410のアライメントに適用する場合、図3Bに示す構成の代わりに、例えば図8Bに示す構成を採用することができる。図8Bに示す構成例では、図3Bに示すアライメント系420がアライメント系420Bに置換されている。図8Bに示された要素のうち図3Bと同様の要素は同じ符号で示されており、特に言及しない限り、その要素の説明は繰り返さない。
【0152】
本例の模型眼500は、角膜に相当する角膜部(510)を少なくとも含み、この角膜部の曲率半径は略7.7ミリメートルに設定されている。
【0153】
アライメント系420Bは、投射部421Bと、撮影部422Bと、処理部430Bと、移動機構150とを含む。
【0154】
投射部421Bは、模型眼500に光束を投射する。特に、投射部421Bは、模型眼500に斜方から光束を投射する。典型的には、投射部421Bは、データ取得光学系410の光路から外れた位置から模型眼500に平行光束を投射するように構成される。これにより、模型眼500の角膜部に投射された光束は、角膜部の表面にて反射される。
【0155】
撮影部422Bは、データ取得光学系410の光軸に関して、投射部421Bによる光束の投射方向に略対称な方向に配置されている。典型的には、投射部421Bと撮影部422Bとは、データ取得光学系410の光軸を基準として互いに略対称な位置に配置されている。撮影部422Bは、典型的には、複数の受光素子が1次元的に配列されたラインセンサーである。なお、撮影部422Bは、複数の受光素子が2次元的に配列されたエリアセンサーであってもよい。模型眼500とデータ取得光学系410との間の距離が所定範囲内にあるとき、投射部421Bから出射された光束の角膜部による反射光(角膜反射光)は、撮影部422Bに検出される。角膜反射光が撮影部422Bに検出されないとき、撮影部422Bにより得られる画像は全面黒の画像である。一方、角膜反射光が撮影部422Bに検出されるとき、撮影部422Bにより得られる画像には輝点像が含まれる。撮影部422Bにより得られた画像は処理部430Bに入力される。
【0156】
処理部430Bは、撮影部422Bにより取得された画像を解析して輝点像の有無を判定し、輝点像が無い場合には所定の制御信号を移動機構150に送る。一方、輝点像が有る場合、処理部430Bは、輝点像の位置を特定し、所定の基準位置に対する輝点像の位置の偏位を求める。換言すると、処理部430Bは、撮影部422Bの複数の受光素子のうち、角膜反射光を検出した受光素子のアドレスを特定し、この受光素子のアドレスと所定の基準アドレスとの間の偏位を求める。
【0157】
更に、処理部430Bは、このようにして特定された偏位に基づいて移動機構150を制御する。例えば、処理部430Bは、この偏位を打ち消すように(角膜反射光が基準アドレスの受光素子に検出されるように)移動機構150を制御する。これにより、模型眼500とデータ取得光学系410との間の距離を所定の作動距離(ワーキングディスタンス)に誘導することができる。
【0158】
処理部430Bが実行する処理の詳細については、例えば特開2018-164616号公報や特開2015-146859号公報などを参照されたい。処理部430Bは、例えば、主制御部211とデータ処理部230とによって実現される。
【0159】
〈評価部440〉
例えばアライメント系420(420A、420B)によりアライメントが実行された後、データ取得光学系410は、模型眼500のデータを取得する。例えば、眼科装置1は、アライメント系420によって模型眼500に対するデータ取得光学系410のアライメントを行った後、データ取得光学系410によって模型眼500にOCTスキャンを適用する。
【0160】
評価部440は、アライメント後に取得された模型眼500のデータに基づいて評価情報を生成する。例えば、評価部440は、データ取得光学系410により取得されるデータの品質を示すデータ品質評価情報を生成するように構成されてよい。また、評価部440は、アライメント系により行われるアライメントの品質を示すアライメント品質評価情報を生成するように構成されてよい。
【0161】
データ品質評価情報を生成する場合、評価部440は、所定のデータ品質評価処理を実行する。例えば、前述したように、模型眼500の眼底部570が、人眼の眼底に応じた積層構造を備えている場合、眼科装置1は、データ取得光学系410によって眼底部570にOCTスキャンを適用する。画像形成部220は、データ取得光学系410により取得されたOCTデータから眼底部570の画像を形成する。評価部440は、例えば、形成された眼底部570の画像を所定の評価用画像と比較する。この評価用画像は、例えば、高いデータ品質の眼底部570の画像である。評価部440は、眼底部570の画像と評価用画像との比較の結果に基づいて、データ品質評価情報を生成することができる。
【0162】
データ品質評価情報の生成の他の例として、評価部440は、データ取得光学系410により取得されたデータを解析することで、データ品質を表す所定の評価パラメータの値を求めることができる。この評価パラメータは、例えば、コントラストやSN比などの画像品質評価パラメータであってよい。また、評価パラメータは、例えば、測定確度パラメータや測定精度パラメータなどの測定品質評価パラメータであってよい。
【0163】
アライメント品質評価情報を生成する場合、評価部440は、所定のアライメント品質評価処理を実行する。例えば、評価部440は、アライメントに掛かった時間や処理内容や結果に基づいてアライメント品質を評価することができる。
【0164】
幾つかの例示的な態様において、評価部440は、アライメントの開始から好適なアライメント状態(例えば、アライメント誤差が所定範囲内にある状態)に到達するまでの時間(アライメント時間)の長さに基づいてアライメント品質評価情報を生成することができる。例えば、評価部440は、アライメント時間を所定の閾値と比較し、アライメント時間が閾値を超える場合には「低品質」と評価し、アライメント時間が閾値以下の場合には「高品質」と評価することができる。或いは、評価部440は、所定の複数のレンジ(高品質レンジ、許容可能レンジ、不良レンジ)のうちのいずれのレンジにアライメント時間が属するか判定し、アライメント時間が属するレンジに基づいてアライメント品質評価情報を生成するように構成されてもよい。
【0165】
幾つかの例示的な態様において、評価部440は、アライメント系420(420A、420B)が実行した処理の内容に基づきアライメント品質評価情報を生成することができる。例えば、評価部440は、アライメントの開始から好適なアライメント状態に到達するまでに実行された、アライメント動作の反復回数に基づいてアライメント品質評価情報を生成することができる。アライメント動作は、例えば、処理部430(430A、430B)が前眼部カメラ300からの画像を処理した回数である。例えば、評価部440は、アライメント動作の反復回数を所定の閾値と比較し、反復回数が閾値を超える場合には「低品質」と評価し、反復回数が閾値以下の場合には「高品質」と評価することができる。或いは、評価部440は、所定の複数のレンジ(高品質レンジ、許容可能レンジ、不良レンジ)のうちのいずれのレンジに反復回数が属するか判定し、反復回数が属するレンジに基づいてアライメント品質評価情報を生成するように構成されてもよい。
【0166】
幾つかの例示的な態様において、評価部440は、アライメント系420(420A、420B)が実行した処理の結果に基づきアライメント品質評価情報を生成することができる。例えば、評価部440は、アライメント系420が所定時間にわたってアライメント動作を行って到達したアライメント状態(例えば、アライメント誤差)を求め、このアライメント誤差に基づいてアライメント品質評価情報を生成することができる。例えば、評価部440は、アライメント誤差を所定の閾値と比較し、アライメント誤差が閾値を超える場合には「低品質」と評価し、アライメント誤差が閾値以下の場合には「高品質」と評価することができる。或いは、評価部440は、所定の複数のレンジ(高品質レンジ、許容可能レンジ、不良レンジ)のうちのいずれのレンジにアライメント誤差が属するか判定し、アライメント誤差が属するレンジに基づいてアライメント品質評価情報を生成するように構成されてもよい。
【0167】
〈動作〉
本態様に係る眼科装置1の動作の例を説明する。眼科装置1の動作の一例を図9に示す。
【0168】
まず、模型眼500を、眼科装置1を評価するための所定位置に設置する(S1)。本態様では、例えば、アタッチメント460を用いて2つの模型眼500(左模型眼、右模型眼)を顔保持部450に装着する。なお、模型眼500を顎受けに直接的に装着することや、模型眼500を額当てに直接的又は間接的に装着することや、模型眼500を眼科装置1の他の箇所に直接的又は間接的に装着することが可能であってもよい。
【0169】
模型眼500が眼科装置1に装着された後、眼科装置1は、模型眼500に対するアライメントを開始する(S2)。このアライメントは、例えば、図3Bのアライメント系420、図8Aのアライメント系420A、及び、図8Bのアライメント系420Bのいずれかを用いて実行される。
【0170】
アライメントは、例えば、好適なアライメント状態が達成されるまで実行される。又は、アライメントは、所定時間にわたって実行される。或いは、アライメントは、アライメント動作の反復回数が所定回数に達するまで実行される。
【0171】
アライメントが終了すると(S3)、眼科装置1は、模型眼500に対してOCTスキャンを適用する(S4)。このOCTスキャンは、眼底部570に対するOCTスキャンである。なお、前眼部に相当する部分(角膜部510、虹彩部520、可変部530、開口540、及び水晶体部550のうちのいずれか1つ以上)に対するOCTスキャンを行ってもよい。
【0172】
眼科装置1は、評価部440によって評価情報を生成する(S5)。例えば、眼科装置1は、評価部440により、ステップS4のOCTスキャンで取得されたOCTデータに基づいてデータ品質評価情報を生成することができる。また、眼科装置1は、評価部440により、ステップS3のアライメントについて得られたデータに基づいてアライメント品質評価情報を生成することができる。
【0173】
ステップS5で生成された評価情報は、例えば、表示部241に表示される。また、ステップS5で生成された評価情報は、眼科装置1から外部装置に送信される。また、ステップS5で生成された評価情報は、記録媒体に記録される。以上で本動作例の工程は終了である。
【0174】
〈積層体のOCT画像〉
図10は、例示的な態様に係る3つの積層体のOCT画像(Bスキャン画像)710、720、730を表す。図10から分かるように、例示的な態様に係る積層体によれば、ヒト眼底のOCT画像と類似のOCT画像が得られる。すなわち、少なくともOCTで感受可能な特性について、例示的な態様に係る積層体は、ヒト眼底に近似した特性を有していると言える。
【0175】
〈積層体の製造方法〉
例示的な態様に係る積層体製造方法を説明する。図11に示す例において、製造される積層体に含まれる層の個数は、予め設定されているものとする。なお、層の個数は予め設定されていなくてもよく、例えば、層厚や特性(物理的特性等)に応じて層の個数を決定するようにしてもよい。
【0176】
また、各層の形状や寸法(面積、厚さ、体積等)についても予め設定されていてよい。なお、各層の形状や寸法は予め設定されていなくてもよく、例えば、形成された層の状態に応じて層の形状や寸法を決定・調整するようにしてもよい。本例では、目的の積層体に含まれる複数の層のそれぞれについて、ステップS11-1で取り分けられる基材の量と、ステップS11-2で取り分けられる微粒子の量とは、予め設定されている(例えば、前述した微粒子の添加量を参照)。
【0177】
本例の積層体製造方法では、まず、基板上に最初の層を形成するための材料の計量が行われる(S11)。本例では、最初の層について、基材の計量(S11-1)と、それに添加される微粒子の計量(S11-2)とが行われる。これらにより、最初の層を形成するために使用される所定量の基材と所定量の微粒子とが得られる。
【0178】
次に、ステップS11-1で取得された所定量の基材に、ステップS11-2で取得された所定量の微粒子が投入される(S12)。
【0179】
次に、ステップS12において微粒子が投入された基材を攪拌し、且つ、基材に溶存している気体を取り除くための脱胞(脱気)が行われる(S13)。攪拌や脱泡には、任意の公知の手法が用いられる。これにより、基材中の不要な気体が取り除かれ、且つ、基材中に微粒子が分散される。
【0180】
次に、ステップS13で得られた混合物(少なくとも基材と微粒子とを含む物質)を層状に加工する(S14)。この層状加工には、任意の公知の手法が用いられ、例えばスピンコート法が適用されてよい。
【0181】
次に、ステップS14で層状に加工された混合物を硬化させる(S15)。この硬化処理には、例えば、加熱等による物理的硬化法、又は、所定の物質を用いた科学的硬化法が用いられる。これにより、最初の層の形成が完了する。
【0182】
事前に設定された個数の層のうちの最後の層が直前のステップS15で形成された場合(S16:Yes)、目的の積層体は完成となる(エンド)。
【0183】
他方、直前のステップS15で形成された層が既定数の層のうちの最後の層でない場合(S16:No)、次の層の形成に移行する(S17)。そして、ステップS11~S15が再度行われ、次の層が形成される。
【0184】
ステップS11~S15は、ステップS16で「Yes」と判断されるまで繰り返し実行される。つまり、ステップS11~S15は、事前に設定された層の個数と同じ回数だけ繰り返し実行される。これにより、事前に設定された個数の層が重なった積層体が得られる。
【0185】
このような積層体製造方法によれば、それぞれ所定の特性を備えた所定個数の層を含む積層体を容易且つ確実に作成することが可能である。特に、一つの層を硬化させてから次の層の形成工程に移行するように構成されているため、高い容易性及び高い確実性で目的の積層体を製造することが可能である。
【0186】
なお、積層体が2以上の層を含む場合において、全ての層に対して同一の基材を用いてもよいし、2以上の基材を使い分けてもよい。なお、全ての層に対して同一の基材を用いることで、全ての層が同等の屈折率を有するような積層体が得られる。
【0187】
全ての層に対して同一の微粒子を用いてもよいし、2以上の微粒子を使い分けてもよい。また、同一の散乱特性を有する2以上の層を連続して形成し、これら2以上の層を単一の層として扱うことが可能である。
【0188】
基板と最下層との間に反射防止層(例えば、屈折率整合層、光吸収層)を設ける場合、例えば、ステップS11の前に、基板上に反射防止層が形成される。
【0189】
積層体の表面(最上層の上面)の面精度を高くする場合、例えば、ステップS16で「Yes」と判断された後に、最後に形成された層(最上層)の上面の面精度を高めるための処理(例えば、研磨加工及び面精度測定)が行われる。
【0190】
〈特徴、作用、効果〉
以上に開示された例示的な態様の積層体、積層体の製造方法、模型眼、及び眼科装置について、幾つかの特徴、幾つかの作用、及び幾つかの効果を説明する。
【0191】
幾つかの例示的な態様の積層体(600)は、眼科分野で用いられ、基板(610)と、この基板上に形成された複数の層(620-1~620-N)とを含んでいる。複数の層は、互いに異なる散乱特性を有し、且つ、互いに略等しい屈折率を有している。
【0192】
このような構成を有する例示的な態様の積層体は、ヒト眼底と同様に、互いに異なる散乱特性を有する複数の層を有しており、この構造によってヒト眼底の複数の層組織を模擬している。更に、複数の層が互いに等しい屈折率を有するため、隣接する2つの層の間における屈折率の差がほとんど無い。よって、層境界が屈折率境界として作用せず、有害な反射を防止することが可能である。また、構造や製造方法の簡易化を図ることも可能となる。
【0193】
従来の積層体と例示的な態様に係る積層体との比較例を図12に示す。符号810は従来の積層体のOCT画像(Bスキャン画像)を示し、符号820は例示的な態様の積層体のOCT画像(Bスキャン画像)を示している。従来の積層体のOCT画像810には、最上面の面精度の低さ(面の粗さ)に起因する乱反射の像811と、基板と最下層との境界面での反射の像812と、基板と最下層との密着性不足に起因する像(アーティファクト)とが描出されている。このようなOCT画像が得られてしまう従来の積層体では、眼科装置の性能評価などを正しく行うことはできない。これに対し、例示的な態様に係る積層体のOCT画像820には、これらの有害な像が描出されていないため、眼科装置の性能評価を正しく行うことが可能である。
【0194】
このような例示的な態様による作用や効果の更なる向上を図るために、及び/又は、他の作用や効果を得るために、以下に記載する様々な構成や特徴を任意的に採用することが可能である。
【0195】
幾つかの例示的な態様において、基板(610)の屈折率は、複数の層(620-1~620-N)の屈折率に略等しくてもよい。これにより、複数の層と基板との間(境界)での有害な反射を防止することが可能となる。
【0196】
幾つかの例示的な態様において、複数の層(620-1~620-N)のうち基板(610)に最も近い層である最下層(620-N)と、この基板との間に、反射防止層が設けられていてもよい。反射防止層は、屈折率整合層及び光吸収層の少なくとも1つを含んでいてよい。この構成によれば、最下層(複数の層)と基板との間での有害な反射を防止することが可能となる。
【0197】
幾つかの例示的な態様において、基板(610)は、予め決められた第1の閾値を超える厚さを有していてよい。ヒト眼底からデータを取得するための眼科装置の性能評価に積層体が用いられる場合、この眼科装置がデータを取得可能な深さレンジに基づいて第1の閾値を決定することができる。このように十分な厚さを有する基板を用いることで、眼科装置により取得されるデータから、基板の下面での反射の影響を除外することが可能になる。
【0198】
幾つかの例示的な態様において、複数の層(620-1~620-N)のうち基板(610)から最も遠い層である最上層(620-1)の表面は、予め決められた第2の閾値よりも高い面精度を有していてよい。ヒト眼底から光学的にデータを取得するための眼科装置の性能評価に積層体が用いられる場合、眼科装置がデータを取得するために用いる光の波長に基づいて第2の閾値を決定することができる。この構成によれば、最上層の表面での乱反射を抑制することが可能となる。
【0199】
幾つかの例示的な態様において、積層体(600)の第1の層が硬化された後に、この第1の層に隣接する第2の層が形成されてよい。これにより、これら2つの層の材料が混ざり合うことがなく、それぞれの層の意図した特性が発揮される。また、双方の層の屈折率が略等しいこととの組み合わせにより、層境界での有害な反射を防止する機能の更なる向上を図ることが可能である。
【0200】
幾つかの例示的な態様において、積層体(600)の複数の層(620-1~620-N)の屈折率は、ヒト眼底の屈折率又はヒト眼底のサブ組織の屈折率にしたがって決定されてよい。ここで、ヒト眼底のサブ組織は、ヒト網膜又はヒト網膜のサブ組織であってよく、及び/又は、ヒト脈絡膜又はヒト脈絡膜のサブ組織であってもよい。
【0201】
幾つかの例示的な態様において、積層体の複数の層(620-1~620-N)の互いに異なる散乱特性は、微粒子の種類、寸法及び添加量のうちの少なくとも1つにしたがって決定されてよい。少なくとも微粒子の添加量にしたがって散乱特性が決定される場合、この添加量は、基材に対する微粒子の重量パーセントとして、0.001重量パーセント~20重量パーセントであってよく、より好ましくは、0.04重量パーセント~4重量パーセントであってよい。
【0202】
幾つかの例示的な態様において、積層体(600)の複数の層(620-1~620-N)の互いに異なる散乱特性は、各層の厚さ(層厚)にしたがって決定されてよい。この層厚は、5マイクロメートル~500マイクロメートルであってよい。
【0203】
幾つかの例示的な態様において、積層体(600)の複数の層(620-1~620-N)のそれぞれ(その基材)は、有機ケイ素化合物を含んでいてよく、及び/又は、フッ素化合物を含んでいてよい。
【0204】
幾つかの例示的な態様において、積層体(600)の複数の層(620-1~620-N)に用いられる微粒子は、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、及び、ポリカーボネート樹脂のうちの少なくとも1つを含んでいてよい。また、積層体の複数の層に用いられる微粒子の粒径(寸法)は、10ナノメートル~100マイクロメートルであってよい。また、積層体の複数の層に用いられる微粒子の形状は、真球状、球状、針状、及び星状のうちの少なくとも1つであってよい。
【0205】
幾つかの例示的な態様において、積層体(600)の複数の層(620-1~620-N)のうちの少なくとも1つは、平板状に形成されていてよい。また、積層体(600)の複数の層(620-1~620-N)のうちの少なくとも1つは、曲板状に形成されていてよい。
【0206】
幾つかの例示的な態様は、眼科分野で用いられる積層体を製造する方法を提供する。この積層体製造方法は、以下の工程を含む。まず、本製造方法は、所定の屈折率を有する第1の基材と第1の微粒子との混合物である第1の混合物を準備する(S11~S13)。次に、本製造方法は、第1の混合物による第1の薄膜を基板上に形成する(S14)。次に、本製造方法は、第1の薄膜を硬化させて、第1の散乱特性を有する第1の層を形成する(S15)。次に、本製造方法は、第1の基材と等しい屈折率を有する第2の基材と、第2の微粒子との混合物である第2の混合物を準備する(S11~S13)。次に、本製造方法は、第2の混合物による第2の薄膜を第1の層の上に形成する(S14)。次に、本製造方法は、第2の薄膜を硬化させて、第1の散乱特性と異なる第2の散乱特性を有する第2の層を形成する(S15)。同じ要領で所定数の層を順次に形成することによって眼科用積層体を製造することができる。なお、幾つかの例示的な態様は、基板上に反射防止層を形成する工程や、最上層の表面の面精度を高める工程を含んでいてもよい。
【0207】
このような積層体製造方法によれば、隣接する2つの層の材料が混ざり合うことがなく、それぞれの層の意図した特性が発揮される。また、全ての層の基材は等しい屈折率を有しているので、層境界や基板-層境界での有害な反射の発生を防止することが可能である。
【0208】
例示的な態様に係る積層体製造方法はこれに限定されず、工程の順序の置換や、工程の並行化などの変形を施すことが可能である。例えば、第1の混合物の準備と第2の混合物の準備とを最初に行うことが可能である。また、第1の薄膜を硬化する工程と、第2の混合物を準備する工程とを並行して行うことが可能である。例示的な態様に係る積層体製造方法は、このような任意の変形を含むものである。また、上記の例示的な態様において開示された任意の事項を例示的な積層体製造方法に組み合わせることが可能である。
【0209】
例示的な態様に係る模型眼(500)は、いずれかの例示的な態様に係る積層体(570;600)と、この積層体に焦点を形成可能なレンズ(510、550)とを含む。
【0210】
例示的な態様に係る模型眼(500)は、いずれかの例示的な態様に係る積層体製造方法により製造された積層体(570;600)と、この積層体に焦点を形成可能なレンズ(510、550)とを含む。
【0211】
これらの例示的な態様に係る模型眼は、眼底に相当する要素として、簡易的な構造でヒト眼底に近似した特性を有する積層体を含んでいる。このような積層体を含む模型眼を用いることで、ヒト眼底を想定した眼科装置評価を好適に行うことが可能である。また、上記の例示的な態様において開示された任意の事項を例示的な態様の模型眼に組み合わせることが可能である。
【0212】
例示的な態様に係る眼科装置(1)は、データ取得部と、模型眼とを含む。データ取得部(2、100、210、220;410)は、眼のデータを光学的に取得するための構成を有する。模型眼(500)は、データ取得部の評価に用いられる。模型眼は、基板(610)とこの基板上に形成された複数の層(620-1~620-N)を含む積層体(600)を含んでいる。複数の層は、互いに異なる散乱特性と、互いに略等しい屈折率とを有している。
【0213】
このような模型眼を備えた眼科装置によれば、ヒト眼底に近似した特性を有する積層体を用いて眼科装置評価を好適に行うことが可能である。
【0214】
幾つかの例示的な態様の眼科装置(1)は、評価部(440)を更に含んでいてよい。評価部は、データ取得部により模型眼から取得されたデータに基づいて評価情報を生成するように構成されている。
【0215】
このような態様によれば、眼科装置自身で性能評価を行うことができるので、例えば、医療機関等に設置後における調整や校正を容易に行うことが可能である。また、定期的な品質評価と、メンテナンスサーバーへの評価結果の送信とを自動的に行うように構成することで、リモートメンテナンスサービスの提供が可能となる。評価結果の利用方法はこれらに限定されない。
【0216】
幾つかの例示的な態様の眼科装置(1)において、データ取得部は、光学系(2、100;410)を含んでいてよい。この眼科装置は、アライメント系(420、420A、420B)を更に含んでいてよい。アライメント系は、所定位置に設置された模型眼(500)に対して光学系のアライメントを行うように構成されている。加えて、評価部(440)は、アライメントの後にデータ取得部により模型眼から取得されたデータに基づいて評価情報の生成を行うように構成されてよい。
【0217】
このような態様によれば、模型眼を用いた眼科装置の評価作業の容易化を図ることが可能である。すなわち、模型眼を用いた評価を適切に行うためには、評価対象の眼科装置の光学系に対して模型眼を正確に配置する必要があるが、本態様の眼科装置によれば、模型眼の位置の調整を手作業で行うといった煩雑な作業が必要なくなる。
【0218】
また、本態様によれば、好適なアライメント状態に模型眼が設置された状態で眼科装置の評価を行うことができる。よって、眼科装置の評価を適切に行うことが可能である。例えば、本態様によれば、眼科装置の評価における確度や精度や再現性の向上を図ることが可能である。
【0219】
また、本態様によれば、眼科装置の撮影性能評価や測定性能評価だけでなく、アライメント性能評価も行うことが可能である。
【0220】
なお、上記の例示的な態様において開示された任意の事項を、例示的な態様の模型眼や例示的な態様の眼科装置に組み合わせることが可能である。
【0221】
以上の開示は、この発明の実施の例示に過ぎない。この発明を実施しようとする者は、この発明の要旨の範囲内における任意の変形(省略、置換、付加等)を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0222】
600 積層体
610 基板
620-n(n=1、2、・・・、N:Nは2以上の整数) 層

図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12