(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】風車翼、風車、及び、風車翼の製造方法
(51)【国際特許分類】
F03D 80/30 20160101AFI20240607BHJP
F03D 1/06 20060101ALI20240607BHJP
B29C 65/52 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
F03D80/30
F03D1/06 A
B29C65/52
(21)【出願番号】P 2020089895
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 健
(72)【発明者】
【氏名】太田 慶助
(72)【発明者】
【氏名】新藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹内 博晃
(72)【発明者】
【氏名】平野 敏行
(72)【発明者】
【氏名】湯下 篤
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-223325(JP,A)
【文献】特開2019-112051(JP,A)
【文献】特表2006-521485(JP,A)
【文献】特開2017-078187(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108843523(CN,A)
【文献】国際公開第2013/007267(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 80/30
F03D 1/06
B29C 65/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼本体と、
前記翼本体の前縁部を覆う導電板、及び、前記導電板に対して前記翼本体の翼コード方向に沿って接続され、前記翼本体を構成する外皮の厚さ方向に開口された複数の穴部を有する導電メッシュ部材を含む前縁プロテクタと、
を備え、
前記前縁プロテクタは、前記複数の穴部に対して、前記前縁プロテクタを前記外皮に接着するための接着剤が少なくとも部分的に入り込むことにより、前記外皮に固定される、風車翼。
【請求項2】
前記前縁プロテクタは、前記翼本体の翼長方向に沿って配置され、前記導電板及び前記導電メッシュ部材をそれぞれ有する複数のプロテクタ部材を含む、請求項1に記載の風車翼。
【請求項3】
前記複数のプロテクタ部材は、隣接する2つの前記プロテクタ部材の前記導電板がそれぞれ有する一対の端部が互いに重なるように配置される、請求項2に記載の風車翼。
【請求項4】
前記複数のプロテクタ部材は、隣接する2つの前記プロテクタ部材の前記導電メッシュ部材が導電部材を介して互いに電気的に接続される、請求項2又は3に記載の風車翼。
【請求項5】
前記前縁プロテクタが前記前縁部に対して複数積層される、請求項1から4のいずれか一項に記載の風車翼。
【請求項6】
複数の前記前縁プロテクタは、前記導電メッシュ部材の後縁側端部が互いに異なる位置になるように積層される、請求項5に記載の風車翼。
【請求項7】
前記前縁部と前記前縁プロテクタとの間に設けられた緩衝部材を更に備える、請求項1から6のいずれか一項に記載の風車翼。
【請求項8】
前記導電板は、
第1層と、
前記第1層のうち外部に対向する外表面上を少なくとも部分的に覆う第2層と、
を備え、
前記第2層は、前記第1層より硬度が高い材料を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の風車翼。
【請求項9】
前記導電板は、
第1層と、
前記第1層のうち外部に対向する外表面上を少なくとも部分的に覆う第2層と、
を備え、
前記第1層は、前記第2層より導電性に優れた材料を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の風車翼。
【請求項10】
前記導電メッシュ部材の後縁側端部を覆うように前記外皮に固定される補強部材を更に備える、請求項1から9のいずれか一項に記載の風車翼。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の風車翼を備える、風車。
【請求項12】
翼本体の前縁部に対応する形状を有する導電板、及び、前記導電板の端部に接続され、複数の穴部を有する導電メッシュ部材を備える前縁プロテクタを用意するステップと、
前記複数の穴部に対して、前記前縁プロテクタを前記
翼本体を構成する外皮に接着するための接着剤が少なくとも部分的に入り込むように、前記前縁プロテクタを前記翼本体に固定するステップと、
を備える、風車翼の製造方法。
【請求項13】
前記前縁プロテクタを用意するステップは、
平板形状を有する導電材料のうち前記導電メッシュ部材に対応する範囲に前記複数の穴部を形成するステップと、
前記導電材料のうち前記導電板に対応する範囲を、前記前縁部に対応するように曲げ加工するステップと、
を含む、請求項12に記載の風車翼の製造方法。
【請求項14】
前記前縁プロテクタを用意するステップは、
平板形状を有する導電材料を前記前縁部に対応するように曲げ加工することで、前記導電板を形成するステップと、
前記導電板の端部に、前記複数の穴部が形成された前記導電メッシュ部材を接続するステップと、
を含む、請求項12に記載の風車翼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、風車翼、風車、及び、風車翼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば風力発電装置等に利用される風車では、回転する風車翼の前縁部に対して、雨滴や砂塵等が繰り返し衝突することによってエロージョン損傷が生じる。近年、風車の大型化に伴って風車翼の翼先端部における周速が増加しており、風車の寿命に対するエロージョン損傷の影響が大きくなっている。
【0003】
このようなエロージョン損傷を抑制することを目的として、エロージョン損傷が発生しやすい風車翼の前縁部に対して前縁プロテクタ(LEP:Leading Edge Protector)が配置されることがある。例えば特許文献1では、風車翼の周速が大きくなる翼先端側において、風車翼の前縁部をシールド部材で覆うことにより、エロージョン損傷を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
風車翼は、運用時に高所に位置することから落雷を受けるおそれがあることから、耐雷性能が要求される。風車翼の耐雷性能を向上させるための手段として、例えば、エロージョン損傷を抑制するために風車翼に設けられる、前述のような前縁プロテクタを金属等の導電性材料から形成することが考えられる。この場合、導電性材料からなる前縁プロテクタを、例えば強化繊維プラスチックのように異なる材料から構成される翼本体の外皮に取り付ける必要が生じる。このように異なる材料を含む部材間の接続は強度確保が難しいため、前縁プロテクタの外皮への取り付け強度が低下し、前縁プロテクタの剥離などが生じるおそれがある。また従来、前縁プロテクタの外皮への取り付けは接着剤を用いて行われていた。しかしながら、接着剤は雨滴のような水分を含んだ場合に接着力が低下しやすく、前縁プロテクタの取り付け強度の確保が更に難しくなってしまう。
【0006】
本開示の少なくとも一態様は上述の事情を鑑みなされたものであり、良好な耐雷性能と耐エロージョン性能を両立可能な風車翼、風車、及び、風車翼の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の少なくとも一態様に係る風車翼は、上記課題を解決するために、
翼本体と、
前記翼本体の前縁部を覆う導電板、及び、前記導電板に対して前記風車翼の翼コード方向に沿って接続され、前記翼本体を構成する外皮の厚さ方向に開口された複数の穴部を有する導電メッシュ部材を含む前縁プロテクタと、
を備え、
前記前縁プロテクタは、前記複数の穴部に対して、前記外皮、又は、前記前縁プロテクタを前記外皮に接着するための接着剤が少なくとも部分的に入り込むことにより、前記外皮に固定される。
【0008】
本開示の少なくとも一態様に係る風車は、上記課題を解決するために、
本開示の少なくとも一態様に係る風車翼を備える。
【0009】
本開示の少なくとも一態様に係る風車翼の製造方法は、上記課題を解決するために、
翼本体の前縁部に対応する形状を有する導電板、及び、前記導電板の端部に接続され、複数の穴部を有する導電メッシュ部材を備える前縁プロテクタを用意するステップと、
前記複数の穴部に対して、前記翼本体を構成する外皮、又は、前記前縁プロテクタを前記外皮に接着するための接着剤が少なくとも部分的に入り込むように、前記前縁プロテクタを前記翼本体に固定するステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示の少なくとも一態様によれば、良好な耐雷性能と耐エロージョン性能を両立可能な風車翼、風車、及び、風車翼の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る風車を概略的に示す全体構成図である。
【
図2】一実施形態に係る風車翼の翼先端部側を示す模式図である。
【
図3】一実施形態に係る
図2のA-A線断面を含む前縁部近傍の斜視図である。
【
図4】他の実施形態に係る風車翼の翼先端部側を示す模式図である。
【
図5A】一実施形態に係る
図4のB-B線断面図である。
【
図5B】他の実施形態に係る
図4のB-B線断面図である。
【
図5C】他の実施形態に係る
図4のB-B線断面図である。
【
図6】
図4の前縁プロテクタを上方から示す平面図である。
【
図7】他の実施形態に係る
図2のA-A線断面図である。
【
図8】
図7の導電板の翼長方向に沿った断面図である。
【
図9】他の実施形態に係る
図2のA-A線断面を含む前縁部近傍の斜視図である。
【
図10】他の実施形態に係る
図2のA-A線断面を含む前縁部近傍の斜視図である。
【
図11】他の実施形態に係る
図2のA-A線断面図である。
【
図12】
図12は一実施形態に係る風車翼2の製造方法を工程毎に示すフローチャートである。
【
図13】
図12のステップS10の一実施形態を示すフローチャートである。
【
図14】
図12のステップS10の他の実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0013】
まず本開示の少なくとも一実施形態に係る風車1の構成について説明する。
図1は一実施形態に係る風車1を概略的に示す全体構成図である。
【0014】
風車1は、少なくとも1枚の風車翼2を備える。風車翼2は、ハブ4に対して取り付けられることによって、回転軸の周りに回転可能な風車ロータ6をハブ4とともに構成する。
図1に示す風車1の風車ロータ6では、ハブ4に対して回転軸の周りに等間隔で3枚の風車翼2が取り付けられている。各風車翼2は、ハブ4に連結される翼根部12と、翼長方向において翼根部12と反対側にある翼先端部14と、を有する。風車ロータ6は、タワー10上に旋回可能に設けられたナセル8に対して、回転可能に取り付けられる。このような構成を有する風車1は、風が風車翼2に当たると、風車翼2及びハブ4を含む風車ロータ6が、回転軸の周りで回転する。
【0015】
尚、風車1は例えば風力発電装置として構成されてもよい。この場合、ナセル8には、発電機と、風車ロータ6の回転を発電機に伝達するための動力伝達機構とが収容される。風車1では、風車ロータ6から動力伝達機構により発電機に伝達された回転エネルギーが、発電機によって電気エネルギーに変換される。
【0016】
図2は一実施形態に係る風車翼2の翼先端部14側を示す模式図であり、
図3は一実施形態に係る
図2のA-A線断面を含む前縁部20近傍の斜視図である。
【0017】
風車翼2は、翼本体18を有する。翼本体18は、翼長方向に沿って翼根部12(
図1を参照)から翼先端部14に向けて延在し、翼コード方向の前方側に設けられた前縁部20と、翼コード方向の後方側に設けられた後縁部22と、を有する。
【0018】
翼本体18は、繊維強化プラスチックを含む外皮を有する。外皮を構成する繊維強化プラスチックは、例えば、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Grass Fiber Reinforced Plastics)やカーボン繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)を用いることができる。
【0019】
本実施形態では、翼本体18は、互いに対向するように配置された背側外皮24及び腹側外皮26を含む。背側外皮24及び腹側外皮26は、翼本体18の前縁部20及び後縁部22において、互いに接続されることで、翼本体18の内部に、外皮によって囲まれる中空空間16が形成されている。
【0020】
尚、前縁部20及び後縁部22において、背側外皮24及び腹側外皮26は、例えば接着剤等によって接着されることで互いに固定される。
【0021】
中空空間16には、ダウンコンダクタ15が配置される。ダウンコンダクタ15は、導電性材料を含んで構成されており、風車1が落雷を受けた際に、風車翼2に生じる雷電流が流れる電路の少なくとも一部を構成する。ダウンコンダクタ15は、翼先端部14に設けられたチップレセプタ17から、中空空間16の内部を翼長方向に沿って延在し、翼根部12側に設けられた不図示のアース線に電気的に接続される。
【0022】
風車翼2は、前縁プロテクタ30を備える。前縁プロテクタ30は、前縁部20を覆うように設けられることで、風車1の運用時に、前縁部20を雨滴や砂塵等から保護することで、翼本体18をエロージョン損傷から保護する。前縁プロテクタ30は、
図3に示すように、導電板32と、導電メッシュ部材34とを含んで構成される。風車翼2では翼長方向の外側ほど周速が大きくなり、エロージョン損傷が生じやすくなるため、前縁プロテクタ30は、前縁部20のうち翼先端部14側の所定範囲にわたって設けられている。
【0023】
導電板32は、翼本体18の前縁部20を覆っており、前縁部20の形状に対応するように、前縁部20に沿った湾曲形状を有する。このような導電板32は、導電性を有し、且つ、耐エロージョン性に優れた金属等の材料を含んで、所定の厚さを有する板状部材として構成される。このような導電板32は、導電メッシュ部材34に比べて耐摩耗性に優れるため、前縁部20を覆うように配置されることで、エロージョン損傷を効果的に低減できる。また導電板32は導電性材料を含むことで、風車1の運用時に、風車翼2が落雷を受けた際に生じる雷電流の伝達経路の一部を構成し、風車翼2の耐雷性能の向上に貢献する。
【0024】
導電メッシュ部材34は、導電性材料に複数の穴部34aを有するメッシュ状部材である。導電メッシュ部材34に設けられた複数の穴部34aは、翼本体18を構成する背側外皮24及び腹側外皮26の厚さ方向に開口する。これらの穴部34aには、後述するように、翼本体18を構成する背側外皮24及び腹側外皮26、又は、前縁プロテクタ30を外皮に接着するための接着剤が少なくとも部分的に入り込むことで、導電メッシュ部材34が翼本体18に対して固定される。
【0025】
このような構成を有する導電メッシュ部材34は、導電板32に対して翼コード方向に沿って接続される。詳しくは、導電メッシュ部材34は、前縁部20に沿って湾曲された導電板32の2つの後縁側端部32a1、32a2から、翼本体18を構成する背側外皮24及び腹側外皮26の外表面に沿って後縁側に向けてそれぞれ延びるように接続される。
【0026】
また導電メッシュ部材34は、導電性材料を含んで形成されることで、前述の導電板32とともに、風車1の運用時に、風車翼2が落雷を受けた際に生じる雷電流の伝達経路を構成することで、風車翼2の耐雷性能の向上に貢献する。
【0027】
尚、導電板32を構成する導電性材料と導電メッシュ部材34を構成する導電性材料とは、同じ材料であってもよいし、異なってもよい。このような導電性材料として、耐エロージョン性能や導電性に優れた、例えばアルミニウム、鉄、銅又はステンレス等の金属材料を採用することができる。尚、前縁プロテクタ30において、導電板32及び導電メッシュ部材34は一体的に構成されていてもよし、別体的に構成されていてもよい。
【0028】
このように前縁プロテクタ30は導電性材料を含んでおり、繊維強化プラスチックからなる外皮とは異なる材料が用いられている。従来の前縁プロテクタは例えば接着剤によって外皮上に貼り付けられるが、異なる材料間では接着剤によって十分な強度が得られない場合がある。また接着剤は、雨滴等の水分にさらされた際に強度が低下するおそれもある。
【0029】
本実施形態の風車翼2では、前縁プロテクタ30を構成する導電メッシュ部材34の複数の穴部34aに対して、背側外皮24又は腹側外皮26を形成する繊維強化プラスチック、又は、前縁プロテクタ30を背側外皮24又は腹側外皮26に接着するための接着剤が少なくとも部分的に入り込むことで、前縁プロテクタ30が背側外皮24又は腹側外皮26に固定される。すなわち、導電メッシュ部材34の少なくとも一部が、背側外皮24又は腹側外皮26を構成する繊維強化プラスチック又は接着剤に埋め込まれる。ミクロな観点から言えば、このように導電メッシュ部材34に設けられた複数の穴部34aによって外皮材料や接着剤と前縁プロテクタ30との接触面積が広くなり、取り付け強度が向上する。またマクロな観点から言えば、導電メッシュ部材34に設けられた複数の穴部34aに対して、外皮材料や接着剤が引っかかりやすくなることで、取り付け強度が向上する。
【0030】
尚、例えば、翼コード長が50m以上の風車翼2では、
図3に示すように、前縁部20の頂部から外皮表面に沿った導電板32の長さL1は5~200mmの範囲であり、導電板32との境界から外皮表面に沿った導電メッシュ部材34の長さL2は10mm以上であることが好ましい。
【0031】
図4は他の実施形態に係る風車翼2の翼先端部14側を示す模式図であり、
図5A~
図5Cは幾つかの実施形態に係る
図4のB-B線断面図であり、
図6は
図4の前縁プロテクタ30を上方(
図4視において手前側)から示す平面図である。
図4に示すように、前縁プロテクタ30は、導電板32及び導電メッシュ部材34をそれぞれ有する複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・が翼本体18の翼長方向に沿って配置されることで構成されてもよい。近年、風車1の大型化に伴い、風車翼2の翼長が例えば数十メートルにも及ぶことがあり、単一部材の前縁プロテクタ30で上記構成を実現することが現実的でないことがある。このような場合であっても、複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・から前縁プロテクタ30を構成することで、広範囲にわたって前縁部20をエロージョン損傷から保護することができる。
【0032】
尚、
図4の実施形態では、隣接するプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・のうち隣接する2つのプロテクタ部材の境界ライン33は、翼コード方向に略平行に構成されている。
【0033】
前縁プロテクタ30を構成する各プロテクタ部材30a、30b、30c、・・・は、それぞれ前述の導電板32及び導電メッシュ部材34を含む。これらのプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・は、
図5A~
図5Cに示すように、隣接する2つのプロテクタ部材の導電板32がそれぞれ有する一対の端部44、46が互いに重なるように配置される。これにより、風車1の運用時に風車翼2に変形や熱伸びが生じることによって前縁プロテクタ30に生じ得るひずみを吸収し、隣接する2つのプロテクタ部材の間に隙間が生じることでエロージョン損傷が生じることを防止できる。
【0034】
また一対の端部44、46は、
図5A~
図5Cに示すように、互いに相補的形状を有してもよい。例えば
図5Aでは、プロテクタ部材30dの端部44は、部分的に厚さが小さくなるように上層側が部分的に切り欠かれた断面形状を有し、プロテクタ部材30eの端部46は部分的に厚さが小さくなるように下層側が部分的に切り欠かれた断面形状を有することにより、それぞれ相補的形状を有する。また
図5Bでは、プロテクタ部材30eの端部46が、プロテクタ部材30dの端部44の上層側を覆う構成を有する。また
図5Cでは、プロテクタ部材30dの端部44は下層側が平坦であり、且つ、先端側に向けて厚さが減少するテーパ形状を有し、プロテクタ部材30eの端部46は上層側が平坦であり、且つ、先端側に向けて厚さが減少するテーパ形状を有することにより、それぞれ相補的形状を有する。
尚、
図5A~
図5Cに示す一対の端部44、46の形状は一例に過ぎず、他の形状を有してもよい。
【0035】
また各プロテクタ部材は接着層29を介して翼本体18を構成する外皮に固定されており、当該接着層29は、
図5Bに示すように、一対の端部44、46の間に入り込むように構成されていてもよいし、
図5A及び
図5Cに示すように、一対の端部44、46の間に入り込まないように構成されていてもよい(この場合、一対の端部44、46は直接接触する)。
【0036】
また
図6に示すように、複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・は、隣接する2つのプロテクタ部材の導電メッシュ部材34が導電部材36を介して互いに電気的に接続されていてもよい。導電部材36は、例えば、導電メッシュ部材34と同様のメッシュ状に成型された導電性材料からなる部材である。このように導電部材36によって前縁プロテクタ30を構成する各プロテクタ部材30a、30b、30c、・・・を電気的に接続することで、前縁プロテクタ30の電気抵抗値を小さく抑え、良好な耐雷性能が得られる。
【0037】
図7は他の実施形態に係る
図2のA-A線断面図である。
図7に示すように、上記構成を有する前縁プロテクタ30は、前縁部20に対して複数積層されていてもよい。この例では、前縁プロテクタ30は、互いに積層された第1前縁プロテクタ30-1、第2前縁プロテクタ30-2、及び、第3前縁プロテクタ30-3を含む3層構造を有する。各層の第1前縁プロテクタ30-1、第2前縁プロテクタ30-2、及び、第3前縁プロテクタ30-3は、それぞれ前述した前縁プロテクタ30と同様の構成を有する。このように複数の前縁プロテクタ30を積層することにより、単体の前縁プロテクタ30に比べて、更に優れた耐エロージョン性能が得られる。
尚、
図7では構成をわかりやすく示すために、第1前縁プロテクタ30-1、第2前縁プロテクタ30-2、及び、第3前縁プロテクタ30-3を分離して示しているが、これらは互いに直接接触するように配置されていてもよい。
【0038】
この場合、複数の前縁プロテクタ30は、それぞれの導電板32が互いに重なるように積層されてもよい。導電板32は、穴部34aが形成された導電メッシュ部材34に比べてエロージョン損傷を効果的に抑えることができるため、各前縁プロテクタ30の導電板32を重ねることで、耐エロージョン性能をより効果的に向上できる。また、導電板32は所定の厚みを確保することにより、落雷時の昇温による溶融を防ぐことができるが、厚みが大きいと加工性が低下してしまうため、このように比較的薄い導電板32を複数重ねることで、必要な厚みを確保しつつ、加工しやすさも兼ね備えたものにできる。
【0039】
また
図7に示すように、第1前縁プロテクタ30-1、第2前縁プロテクタ30-2、及び、第3前縁プロテクタ30-3は、導電メッシュ部材34の後縁側端部34-1、34-2、34-3が互いに異なる位置になるように積層されてもよい。風車1の運用時には、導電メッシュ部材34の後縁側端部に応力が集中しやすいが、各前縁プロテクタ30の導電メッシュ部材34の後縁側端部を異ならせることで、このような応力を分散し、前縁プロテクタ30の外皮からの剥離を効果的に抑制できる。
【0040】
尚、
図7では、第1前縁プロテクタ30-1、第2前縁プロテクタ30-2、及び、第3前縁プロテクタ30-3において、上層側の前縁プロテクタ30の導電メッシュ部材34の後縁側端部の位置が前縁側になるように構成された場合が示されているが、上層側になるほど後縁側端部の位置が風車翼2の後縁側になるように構成してもよいし、第1前縁プロテクタ30-1、第2前縁プロテクタ30-2、及び、第3前縁プロテクタ30-3の後縁側端部の位置がそれぞれランダムに配置されるように構成してもよい。
【0041】
このように複数の前縁プロテクタ30が積層される場合には、
図8に示す断面構造を有してもよい。
図8は
図7の導電板32の翼長方向に沿った断面図である。この実施形態では、翼長方向に沿って配列された複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・のうち、隣接する2つのプロテクタ部材30d、30eの導電板32d、32eの間に存在する隙間37が、各層(第1前縁プロテクタ30-1、第2前縁プロテクタ30-2、及び、第3前縁プロテクタ30-3)で異なる位置になるように積層される。これにより、
図8に矢印Dで示すように、隣接する他の層に属する導電板32を介して、翼長方向に沿った導電経路を効率的に形成し、良好な耐雷性能が得られる。
【0042】
図9は他の実施形態に係る
図2のA-A線断面を含む前縁部近傍の斜視図である。
図9に示す実施形態では、前縁部20と前縁プロテクタ30との間に配置された緩衝部材40を更に備える。緩衝部材40は、前縁部20と前縁プロテクタ30との間に介在し、例えば、エラストマーや樹脂等の軟質材から形成される。これにより、前縁部20を覆う前縁プロテクタ30に雨滴や砂塵等が衝突した際の衝撃を吸収することで、前縁プロテクタ30の損傷を抑制し、より寿命の長い前縁プロテクタ30を構成できる。また風車1の運用時に、前縁プロテクタ30に生じるひずみを緩和し、より高強度の前縁プロテクタ30を構成できる。
【0043】
図10は他の実施形態に係る
図2のA-A線断面を含む前縁部近傍の斜視図である。
図10に示す実施形態では、前縁プロテクタ30を構成する導電板32は、第1層35aと、第1層35aのうち外部に対向する外表面上を少なくとも部分的に覆う第2層35bとを備えるハイブリッド構造を有する。
【0044】
第2層35bは、第1層35aより硬度が高い材料を含んでもよい。この場合、外部に対向する側に位置する第2層35bは、下層側に配置された第1層35aより硬度が高い材料を含むことで、第1層35aを保護し、良好な耐エロージョン性能が得られる。これにより、第2層35bによって保護される第1層35aの材料をより柔軟に選択することができる。
【0045】
また第1層35aは、第2層35bより導電性に優れた材料を含んでもよい。この場合、第2層35bによって耐エロージョン性能を確保しながら、第1層35aによって良好な導電性を得ることで、風車翼2の耐雷性能を向上できる。
【0046】
尚、前縁プロテクタ30を構成する第1層35a及び第2層35bは、例えば、接合圧延、レーザや電子ビーム等を用いた溶接や拡散接合等のような一般的な接合方法を用いて接合される。
【0047】
図11は他の実施形態に係る
図2のA-A線断面図である。
図11に示す実施形態では、風車翼2は、導電メッシュ部材34の後縁側端部を覆うように外皮に固定される補強部材42を更に備える。補強部材42は、例えば、翼本体18を構成する外皮と同じ材料(繊維強化プラスチック)によって形成される。これにより、導電メッシュ部材34は、上層側から補強部材42によって固定されるとともに、下層側から翼本体18を構成する背側外皮24又は腹側外皮26によって固定される。補強部材42、背側外皮24及び腹側外皮26はともに繊維強化プラスチックによって構成され、その少なくとも一部が、導電メッシュ部材34が有する複数の穴部34aに入り込むことで、導電メッシュ部材34は翼本体18に対して、より強固に固定されるため、前縁プロテクタ30の剥離が生じにくい、より信頼性の高い風車翼2が得られる。
【0048】
以上説明したように、上記各実施形態に係る風車翼2では、前縁プロテクタ30が導電メッシュ部材34に形成された複数の穴部34aに外皮又は接着剤が入り込むことで、優れた耐雷性能を確保しながらも、前縁プロテクタ30を外皮に対して信頼性の高い構成で固定することができる。
【0049】
続いて上記構成を有する風車翼2の製造方法について説明する。
図12は一実施形態に係る風車翼2の製造方法を工程毎に示すフローチャートである。
【0050】
まず翼本体18に取り付けられる前縁プロテクタ30を用意する(ステップS10)。前縁プロテクタ30は、前述したように、翼本体18の前縁部20に対応する形状を有する導電板32の端部に、複数の穴部34aを有する導電メッシュ部材34が接続された構成を有する。
【0051】
ここで
図13は
図12のステップS10の一実施形態を示すフローチャートである。ステップS10の一実施形態では、まず前縁プロテクタ30を形成するための材料として、平板形状を有する導電材料が用意される(ステップS11)。導電材料は、前縁プロテクタ30を構成する導電板32及び導電メッシュ部材34に成形される範囲がそれぞれ規定されており、導電材料のうち導電メッシュ部材34に対応する範囲に対して複数の穴部34aを形成する(ステップS12)。ステップS12における複数の穴部34aの形成は、例えばパンチング加工によって行われる。続いて平板材料のうち導電板32に対応する範囲を、前縁部20に対応するように曲げ加工する(ステップS13)。ステップS13の曲げ加工は、例えばプレス可能により行われる。このようにして、翼本体18に取り付けられる前縁プロテクタ30が作製される。
【0052】
尚、導電メッシュ部材34を導電板32より薄く形成する場合には、導電材料のうち導電メッシュ部材34となる範囲に対して必要に応じて切削加工を行ってもよい。
【0053】
また
図14は
図12のステップS10の他の実施形態を示すフローチャートである。ステップS10の他の実施形態では、まず前縁プロテクタ30のうち導電板32を形成するための材料として、平板形状を有する導電材料を用意し(ステップS11’)、前縁部20に対応するように曲げ加工する(ステップS12’)。ステップS12’における曲げ加工は、例えばプレス可能により行われる。続いて、曲げ加工がなされた導電板32の後縁側端部に対して、それぞれ複数の穴部34aが形成された導電メッシュ部材34を接続する(ステップS13’)。導電メッシュ部材34は、例えば、導電性材料からなる平板材料に対してパンチング加工等によって複数の穴部34aが形成されることで予め作製される。
【0054】
尚、
図14の実施形態では、平板形状を有する導電材料に対して導電メッシュ部材34を接続した後に、当該導電材料を曲げ加工することで、導電板32を形成するようにしてもよい。
【0055】
続いて
図12に戻って、ステップS10で用意された前縁プロテクタ30に対して前処理を実施する(ステップS20)。この前処理は、例えば、サンディング処理、エッチング処理、レーザ処理、プラズマ処理、メッキ処理等を含むことができる。サンディング処理では、前縁プロテクタ30の取付面に対して適度な凹凸を付与することができる。エッチング処理では、前縁プロテクタ30の取付面から汚れ除去するとともに、サンディング処理より細かな凹凸を付与することができる。レーザ処理では、前縁プロテクタ30の取付面から汚れ除去するとともに、汚れが除去されたクリーンな表面に対して酸化層を形成できる。プラズマ処理では、前縁プロテクタ30の取付面から汚れ除去するとともに、表面を活性化できる。メッキ処理では、前縁プロテクタ30の取付面にメッキ層を付与することで、翼本体18への接着を容易にできる。
【0056】
続いて、前縁プロテクタ30を翼本体18に固定する(ステップS20)。ステップS20の前縁プロテクタ30の固定は、前縁プロテクタ30のうち導電メッシュ部材34に形成された複数の穴部34aに対して、翼本体18を構成する外皮、又は、前縁プロテクタ30を外皮に接着するための接着剤が少なくとも部分的に入り込むように行われる。
【0057】
ステップS20における前縁プロテクタ30の固定は、例えば、翼本体18の成型と一体的に行われてもよい。具体的に説明すると、例えば、翼本体18を構成する背側外皮24及び腹側外皮26に対応する型を用意し、当該型に対して前縁プロテクタ30を配置する。そして、前縁プロテクタ30が配置された型に対して、背側外皮24及び腹側外皮26を構成する繊維材料(外皮がGFRPの場合にはガラス繊維材、CFRPの場合にはカーボン繊維材)を積層し、液状樹脂を注入・含浸させる。このとき液状樹脂は、型に配置された前縁プロテクタ30のうち導電メッシュ部材34が有する複数の穴部34aに入り込むように含浸する。その後、液状樹脂を硬化させ、型から取り出すことで風車翼2が完成する。
尚、このような翼本体18の成型には、例えば、真空含浸成形(VaTRM工法)を用いることができる。
【0058】
以上説明した製造方法によれば、導電板32及び導電メッシュ部材34からなる前縁プロテクタ30が、導電メッシュ部材34に形成された複数の穴部34aに外皮又は接着剤が少なくとも部分的に入り込むことで、翼本体18に対して固定された風車翼2を製造することができる。
【0059】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0060】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0061】
(1)一態様に係る風車翼(例えば上記実施形態の風車翼2)は、
翼本体(例えば上記実施形態の翼本体18)と、
前記翼本体の前縁部(例えば上記実施形態の前縁部20)を覆う導電板(例えば上記実施形態の導電板32)、及び、前記導電板に対して前記風車翼の翼コード方向に沿って接続され、前記翼本体を構成する外皮(例えば上記実施形態の背側外皮24又は腹側外皮26)の厚さ方向に開口された複数の穴部(例えば上記実施形態の複数の穴部34a)を有する導電メッシュ部材(例えば上記実施形態の導電メッシュ部材34)を含む前縁プロテクタ(例えば上記実施形態の前縁プロテクタ30)と、
を備え、
前記前縁プロテクタは、前記複数の穴部に対して、前記外皮、又は、前記前縁プロテクタを前記外皮に接着するための接着剤が少なくとも部分的に入り込むことにより、前記外皮に固定される。
【0062】
上記(1)の態様によれば、前縁プロテクタの導電メッシュ部に設けられた複数の穴部に外皮又は接着剤が入り込むことで、前縁プロテクタを翼本体の前縁部に強固に固定できる。これにより、導電性材料からなる前縁プロテクタを前縁部に備えることで、良好な耐雷性能と耐エロージョン性能を有する風車翼を信頼性の高い構成で実現できる。
【0063】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記前縁プロテクタは、前記翼本体の翼長方向に沿って配置され、前記導電板及び前記導電メッシュ部材をそれぞれ有する複数のプロテクタ部材(例えば上記実施形態のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・)を含む。
【0064】
上記(2)の態様によれば、前縁プロテクタが、導電板及び導電メッシュ部材を備える複数のプロテクタ部材から構成される。これにより、サイズが大きな風車翼においても、良好な耐雷性能を確保しながら、広範囲にわたって前縁部をエロージョン損傷から保護することができる。
【0065】
(3)他の態様では、上記(2)の態様において、
前記複数のプロテクタ部材は、隣接する2つの前記プロテクタ部材の前記導電板がそれぞれ有する一対の端部(例えば上記実施形態の一対の端部44、46)が互いに重なるように配置される。
【0066】
上記(3)の態様によれば、前縁プロテクタを構成する複数のプロテクタ部材は、隣接する2つのプロテクタ部材の導電板同士が互いに重なるように配置される。これにより、風車翼に変形や熱伸びが生じることによって前縁プロテクタに生じ得るひずみを吸収し、隣接する2つのプロテクタ部材の間に隙間が生じることでエロージョン損傷が生じることを防止できる。
【0067】
(4)他の態様では、上記(2)又は(3)の態様において、
前記複数のプロテクタ部材は、隣接する2つの前記プロテクタ部材の前記導電メッシュ部材が導電部材(例えば上記実施形態の導電部材36)を介して互いに電気的に接続される。
【0068】
上記(4)の態様によれば、導電部材によって前縁プロテクタを構成する各プロテクタ部材の導電メッシュ部材を電気的に接続することで、前縁プロテクタの電気抵抗値を小さく抑えることができ、風車翼の耐雷性能を効果的に向上できる。
【0069】
(5)他の態様では、上記(1)から(4)のいずれか一態様において、
前記前縁プロテクタが前記前縁部に対して複数積層される。
【0070】
上記(5)の態様によれば、前縁部に複数の前縁プロテクタを積層することで、より優れた耐エロージョン性能が得られる。
【0071】
(6)他の態様では、上記(5)の態様において、
複数の前記前縁プロテクタは、前記導電メッシュ部材の後縁側端部が互いに異なる位置になるように積層される。
【0072】
上記(6)の態様によれば、積層された各前縁プロテクタの後縁側端部の位置を異ならしめることで、風車翼の運用時に後縁側端部に作用しやすい応力を分散し、前縁プロテクタが外皮から剥離することを効果的に抑制できる。
【0073】
(7)他の態様では、上記(1)から(6)のいずれか一態様において、
前記前縁部と前記前縁プロテクタとの間に設けられた緩衝部材(例えば上記実施形態の緩衝部材40)を更に備える。
【0074】
上記(7)の態様によれば、前縁部と導電板との間に緩衝部材を配置することで、エロージョン損傷となる雨滴や砂塵等が前縁プロテクタに衝突した際の衝撃を吸収できる。これにより、前縁プロテクタの磨耗を軽減し、より長寿命な風車翼を実現できる。
【0075】
(8)他の態様では、上記(1)から(7)のいずれか一態様において、
前記導電板は、
第1層(例えば上記実施形態の第1層35a)と、
前記第1層のうち外部に対向する外表面上を少なくとも部分的に覆う第2層(例えば上記実施形態の第2層35b)と、
を備え、
前記第2層は、前記第1層より硬度が高い材料を含む。
【0076】
上記(8)の態様によれば、前縁プロテクタを構成する導電板のうち外部に対向する側に位置する第2層は、下層側に配置された第1層より硬度が高い材料を含むことで、第1層を保護し、良好な耐エロージョン性能が得られる。これにより、第2層によって保護される第1層の材料をより柔軟に選択することができる。
【0077】
(9)他の態様では、上記(1)から(8)のいずれか一態様において、
前記導電板は、
第1層(例えば上記実施形態の第1層35a)と、
前記第1層のうち外部に対向する外表面上を少なくとも部分的に覆う第2層(例えば上記実施形態の第2層35b)と、
を備え、
前記第1層は、前記第2層より導電性に優れた材料を含む。
【0078】
上記(9)の態様によれば、これにより、第2層によって耐エロージョン性能を確保しながら、第1層によって良好な導電性を得ることで、風車翼の耐雷性能を向上できる。
【0079】
(10)他の態様では、上記(1)から(9)のいずれか一態様において、
前記導電メッシュ部材の後縁側端部を覆うように前記外皮に固定される補強部材(例えば上記実施形態の補強部材)を更に備える。
【0080】
上記(10)の態様によれば、導電メッシュ部材の後縁側端部を補強部材で覆うことにより前縁プロテクタが外皮に固定される。これにより、前縁プロテクタを外皮により強固に固定でき、前縁プロテクタの剥離が生じにくい、より信頼性の高い風車翼が得られる。
【0081】
(11)一態様に係る風車は、
上記(1)から(10)のいずれか一態様に係る風車翼を備える。
【0082】
上記(11)の態様によれば、優れた耐雷性能を確保しながら、エロージョン損傷を効果的に抑制可能な風車翼を備えることで、メンテナンス負担が少なく、信頼性の高い風車を実現できる。
【0083】
(12)一態様に係る風車翼の製造方法は、
翼本体の前縁部に対応する形状を有する導電板、及び、前記導電板の端部に接続され、複数の穴部を有する導電メッシュ部材を備える前縁プロテクタを用意するステップ(例えば上記実施形態のステップS10)と、
前記複数の穴部に対して、前記翼本体を構成する外皮、又は、前記前縁プロテクタを前記外皮に接着するための接着剤が少なくとも部分的に入り込むように、前記前縁プロテクタを前記翼本体に固定するステップ(例えば上記実施形態のステップS20)と、
を備える。
【0084】
上記(12)の態様によれば、導電板及び導電メッシュ部材からなる前縁プロテクタが、導電メッシュに形成された複数の穴部に外皮又は接着剤が少なくとも部分的に入り込むことで、翼本体に対して固定された風車翼を製造することができる。
【0085】
(13)他の態様では、上記(12)の態様において、
前記前縁プロテクタを用意するステップは、
平板形状を有する導電材料のうち前記導電メッシュ部材に対応する範囲に前記複数の穴部を形成するステップ(例えば上記実施形態のステップS11)と、
前記導電材料のうち前記導電板に対応する範囲を、前記前縁部に対応するように曲げ加工するステップ(例えば上記実施形態のステップS12)と、
を含む。
【0086】
上記(13)の態様によれば、前縁部に取り付けられる前縁プロテクタの用意は、平板形状を有する導電材料のうち導電メッシュ部材に対応する範囲に複数の穴部を形成し、その後、導電板に対応する範囲を曲げ加工することにより行われる。
【0087】
(14)他の態様では、上記(12)の態様において、
前記前縁プロテクタを用意するステップは、
平板形状を有する導電材料を前記前縁部に対応するように曲げ加工することで、前記導電板を形成するステップ(例えば上記実施形態のステップS11’)と、
前記導電板の端部に、前記複数の穴部が形成された前記導電メッシュ部材を接続するステップ(例えば上記実施形態のステップS12’)と、
を含む。
【0088】
上記(14)の態様によれば、前縁部に取り付けられる前縁プロテクタの用意は、平板形状を有する導電材料を曲げ加工して形成される導電板に対して、導電メッシュを接続することにより行われる。
【符号の説明】
【0089】
1 風車
2 風車翼
4 ハブ
6 風車ロータ
8 ナセル
10 タワー
12 翼根部
14 翼先端部
15 ダウンコンダクタ
16 中空空間
17 チップレセプタ
18 翼本体
20 前縁部
22 後縁部
24 背側外皮
26 腹側外皮
29 接着層
30 前縁プロテクタ
30a~30i プロテクタ部材
32 導電板
33 境界ライン
34 導電メッシュ部材
34a 穴部
35a 第1層
35b 第2層
36 導電部材
37 隙間
40 緩衝部材
42 補強部材
44,46 端部