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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】弾性表面波素子
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20240607BHJP
   H03H 9/25 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
H03H9/145 C
H03H9/25 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020113124
(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2022011770
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】320009163
【氏名又は名称】NDK SAW devices株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 直人
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-081469(JP,A)
【文献】国際公開第2020/100949(WO,A1)
【文献】特開2020-088459(JP,A)
【文献】特開2004-007094(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003282(WO,A1)
【文献】特開2019-092095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145ー9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された一対のバスバーと、これらバスバーの各々から対向するバスバーに向かって互いに櫛歯状に伸び出す複数の電極指と、を備え、これら複数の電極指の並び方向に沿って見たとき、一方のバスバーに接続された電極指と、他方のバスバーに接続された電極指とが交差する領域である交差領域が形成された一対のIDT電極を備え、
前記交差領域の外側の非交差領域の全体に亘って前記電極指の厚みが、前記交差領域における当該電極指の厚みよりも小さいことを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
前記複数の電極指の並び方向に沿って見たとき、前記交差領域は、これら電極指の端部が含まれる領域である2つの端部領域を含み、これら端部領域は、その内側の交差領域よりも、弾性表面波の伝播速度が遅い低音速領域となっていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波素子。
【請求項3】
前記電極指は、前記非交差領域に設けられた第1電極指膜と、前記交差領域に設けられ、前記第1電極指膜よりも厚みが大きい第2電極指膜とを接続して構成されることと、
前記端部領域にて、前記第1電極指膜の前記バスバーに接続される端部とは反対側の端部である先端部と、前記第2電極指膜の前記第1電極指膜側の端部である基端部とを積層して接続すると共に、当該端部領域に含まれる前記第2電極指膜の前記基端部とは反対側の端部である先端部と、前記電極指の厚みを大きくして、前記弾性表面波の伝播速度を低速にするための伝播速度調節膜とを積層することにより、前記低音速領域を形成することと、を特徴とする請求項に記載の弾性表面波素子。
【請求項4】
圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された一対のバスバーと、これらバスバーの各々から対向するバスバーに向かって互いに櫛歯状に伸び出す複数の電極指と、を備え、これら複数の電極指の並び方向に沿って見たとき、一方のバスバーに接続された電極指と、他方のバスバーに接続された電極指とが交差する領域である交差領域が形成された一対のIDT電極を備え、
前記交差領域の外側の非交差領域における前記電極指の厚みが、前記交差領域における当該電極指の厚みよりも小さいことと、
前記複数の電極指の並び方向に沿って見たとき、前記交差領域は、これら電極指の端部が含まれる領域である2つの端部領域を含み、これら端部領域は、その内側の交差領域よりも、弾性表面波の伝播速度が遅い低音速領域となっていることと、
前記電極指は、前記非交差領域に設けられた第1電極指膜と、前記交差領域に設けられ、前記第1電極指膜よりも厚みが大きい第2電極指膜とを接続して構成されることと、
前記端部領域にて、前記第1電極指膜の前記バスバーに接続される端部とは反対側の端部である先端部と、前記第2電極指膜の前記第1電極指膜側の端部である基端部とを積層して接続すると共に、当該端部領域に含まれる前記第2電極指膜の前記基端部とは反対側の端部である先端部と、前記電極指の厚みを大きくして、前記弾性表面波の伝播速度を低速にするための伝播速度調節膜とを積層することにより、前記低音速領域を形成することと、を特徴とする弾性表面波素子。
【請求項5】
前記第1電極指膜は、前記圧電基板上の前記第2電極指膜の形成領域以外の領域に形成された誘電体からなる支持膜上に形成されていると共に、当該第1電極指膜の先端部は、前記第2電極指膜の基端部の上面側に積層されていることと、
前記伝播速度調節膜は、前記第2電極指膜の先端部の上面側に積層されていることと、を特徴とする請求項3または4に記載の弾性表面波素子。
【請求項6】
前記伝播速度調節膜は、前記非交差領域側の前記支持膜上に向けて延伸された延伸部を備えることを特徴とする請求項に記載の弾性表面波素子。
【請求項7】
前記非交差領域には、前記一対のバスバーの各々について、一方のバスバーに接続された複数の前記電極指の端部と、他方のバスバーとの間に、これらの端部から離れて、他方のバスバーから伸び出す複数のダミー電極指が形成されていることを特徴とする請求項3ないしのいずれか一つに記載の弾性表面波素子。
【請求項8】
前記ダミー電極指の厚みが、前記交差領域における前記電極指の厚みよりも小さいことを特徴とする請求項に記載の弾性表面波素子。
【請求項9】
前記第1電極指膜及び前記伝播速度調節膜の密度が、前記第2電極指膜よりも小さいことを特徴とする請求項3ないしのいずれか一つに記載の弾性表面波素子。
【請求項10】
前記IDT電極が形成された弾性表面波素子の上面側の少なくとも一部領域には、誘電体膜が形成されていることを特徴とする請求項1ないしのいずれか一つに記載の弾性表面波素子。
【請求項11】
前記圧電基板は、LiNbOであり、前記誘電体膜は、前記圧電基板の周波数温度特性とは反対の方向に周波数が変化する周波数温度特性を有する酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、またはフッ素ドープ酸化ケイ素からなる誘電体材料群から選択された材料により構成されることを特徴とする請求項10に記載の弾性表面波素子。
【請求項12】
前記圧電基板は、LiNbOであり、オイラー角(φ,θ,ψ)表記におけるそのカット角がφ、ψ=0±10°、θ=38±10°であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか一つに記載の弾性表面波素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は周波数信号を弾性表面波に変換する弾性表面波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信を用途とし、広帯域で急峻な遷移特性を有するフィルタやデュプレクサを構成するための共振子の開発が進められている。例えば圧電基板としてLiNbOを用い、圧電基板の表面に酸化ケイ素などからなる温度補償膜を設けたTC-SAW(Temperature Compensated-Surface Acoustic Wave)素子は、温度変化に伴う特性の変動が小さく、比較的高いQ値が得られることが知られている。
【0003】
一方で、増大し続ける通信トラフィックに対応するため、デュプレクサやフィルタには、さらに広帯域で急峻な遷移特性を有し、低損失である特性が求められている。このような要求に応えるうえで、共振子を構成するSAWのQ値は重要な指標の一つであり、これを改善するための様々な検討が行われている。
【0004】
特許文献1には、対向して配置された2つのバスバー間の領域について、バスバーが伸びる方向に沿って、電極指が交錯する中央励起領域、及びその両脇の内縁領域、さらに両脇の外縁領域の5つの領域を設けた電気音響変換器が記載されている。この電気音響変換器は、内縁領域に位置する電極指の幅を大きくしたり、狭くしたりすることなどにより、Q値が高くスプリアスの少ないピストンモードで動作する構成となっている。
【0005】
また、引用文献2には、IDT電極である第1の電極指と第2の電極指との交差領域を中央部とその両側の低音速部とに分け、低音速部よりも中央部電極指を厚くした弾性波装置が記載されている。
しかしながら、特許文献1、2のいずれにも、バスバーに接続された電極指が交差する領域の外側におけるこれら電極指の特徴に係る技術は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5503020号公報
【文献】国際公開第2018/088188号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、音響的な損失を低減し、よりQ値の高い弾性表面波素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の弾性表面波素子は、圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された一対のバスバーと、これらバスバーの各々から対向するバスバーに向かって互いに櫛歯状に伸び出す複数の電極指と、を備え、これら複数の電極指の並び方向に沿って見たとき、一方のバスバーに接続された電極指と、他方のバスバーに接続された電極指とが交差する領域である交差領域が形成された一対のIDT電極を備え、
前記交差領域の外側の非交差領域の全体に亘って前記電極指の厚みが、前記交差領域における当該電極指の厚みよりも小さいことを特徴とする。
第2の弾性表面波素子は、圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された一対のバスバーと、これらバスバーの各々から対向するバスバーに向かって互いに櫛歯状に伸び出す複数の電極指と、を備え、これら複数の電極指の並び方向に沿って見たとき、一方のバスバーに接続された電極指と、他方のバスバーに接続された電極指とが交差する領域である交差領域が形成された一対のIDT電極を備え、
前記交差領域の外側の非交差領域における前記電極指の厚みが、前記交差領域における当該電極指の厚みよりも小さいことと、
前記複数の電極指の並び方向に沿って見たとき、前記交差領域は、これら電極指の端部が含まれる領域である2つの端部領域を含み、これら端部領域は、その内側の交差領域よりも、弾性表面波の伝播速度が遅い低音速領域となっていることと、
前記電極指は、前記非交差領域に設けられた第1電極指膜と、前記交差領域に設けられ、前記第1電極指膜よりも厚みが大きい第2電極指膜とを接続して構成されることと、
前記端部領域にて、前記第1電極指膜の前記バスバーに接続される端部とは反対側の端部である先端部と、前記第2電極指膜の前記第1電極指膜側の端部である基端部とを積層して接続すると共に、当該端部領域に含まれる前記第2電極指膜の前記基端部とは反対側の端部である先端部と、前記電極指の厚みを大きくして、前記弾性表面波の伝播速度を低速にするための伝播速度調節膜とを積層することにより、前記低音速領域を形成することと、を特徴とする。
【0009】
上述の弾性表面波素子は、以下の構成を備えていてもよい。
(a)第1の弾性表面波素子において、前記複数の電極指の並び方向に沿って見たとき、前記交差領域は、これら電極指の端部が含まれる領域である2つの端部領域を含み、これら端部領域は、その内側の交差領域よりも、弾性表面波の伝播速度が遅い低音速領域となっていること。
(b)(a)において、前記電極指は、前記非交差領域に設けられた第1電極指膜と、前記交差領域に設けられ、前記第1電極指膜よりも厚みが大きい第2電極指膜とを接続して構成されることと、前記端部領域にて、前記第1電極指膜の前記バスバーに接続される端部とは反対側の端部である先端部と、前記第2電極指膜の前記第1電極指膜側の端部である基端部とを積層して接続すると共に、当該端部領域に含まれる前記第2電極指膜の前記基端部とは反対側の端部である先端部と、前記電極指の厚みを大きくして、前記弾性表面波の伝播速度を低速にするための伝播速度調節膜とを積層することにより、前記低音速領域を形成すること。
(c)第2の弾性表面波素子または(b)において、前記第1電極指膜は、前記圧電基板上の前記第2電極指膜の形成領域以外の領域に形成された誘電体からなる支持膜上に形成されていると共に、当該第1電極指膜の先端部は、前記第2電極指膜の基端部の上面側に積層されていることと、前記伝播速度調節膜は、前記第2電極指膜の先端部の上面側に積層されていること。さらに前記伝播速度調節膜は、前記非交差領域側の前記支持膜上に向けて延伸された延伸部を備えること。
(d)(b)、(c)において、前記非交差領域には、前記一対のバスバーの各々について、一方のバスバーに接続された複数の前記電極指の端部と、他方のバスバーとの間に、これらの端部から離れて、他方のバスバーから伸び出す複数のダミー電極指が形成されていること。また、前記ダミー電極指の厚みが、前記交差領域における前記電極指の厚みよりも小さいこと。
(e)(b)~()において、前記第1電極指膜及び前記伝播速度調節膜の密度が、前記第2電極指膜よりも小さいこと。
(f)前記IDT電極が形成された弾性表面波素子の上面側の少なくとも一部領域には、誘電体膜が形成されていること。このとき、前記圧電基板は、LiNbOであり、前記誘電体膜は、前記圧電基板の周波数温度特性とは反対の方向に周波数が変化する周波数温度特性を有する酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、またはフッ素ドープ酸化ケイ素からなる誘電体材料群から選択された材料により構成されること
(g)前記圧電基板は、LiNbOであり、オイラー角(φ,θ,ψ)表記におけるそのカット角がφ、ψ=0±10°、θ=38±10°であること。
【発明の効果】
【0010】
本弾性表面波素子によれば、圧電基板上に設けられた一対のIDT電極において、交差領域の外側の非交差領域における電極指の厚みが、交差領域における当該電極指の厚みよりも小さく構成されているので、弾性表面波の散乱に伴う損失が低減され、Q値をより高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係るSAW素子の構成図である。
図2】比較形態に係るSAW素子の構図である。
図3】第1実施形態及び比較形態に係るSAW素子の周波数-アドミタンス特性図である。
図4】第1実施形態及び比較形態に係るSAW素子の周波数-Bode Q値特性図である。
図5】ダミー電極指を設けたSAW素子の構成図である、
図6】第2実施形態に係るSAW素子の構成図である。
図7】第1実施形態及び第2実施形態に係るSAW素子の周波数-アドミタンス特性図である。
図8】第1実施形態及び第2実施形態に係るSAW素子の周波数-Bode Q値特性図である。
図9】第3実施形態に係るSAW素子の構成図である。
図10】第3実施形態に係るSAW素子の周波数-アドミタンス特性図である。
図11】第3実施形態に係るSAW素子の周波数-Bode Q値特性図である
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、第1実施形態に係る弾性表面波素子(SAW素子)の基本構成を示している。同図には、温度補償機能を備えたTC(Temperature Compensate)-SAW素子として構成されると共に、閉じ込めモードの一例として、ピストンモードで動作するSAW素子の構成例を示してある。
図1(a)はSAW素子に設けられるIDT電極の一部を拡大して模式的に示した拡大平面図、図1(b)は、図1(a)中、A-A’の破線で示す位置におけるSAW素子の縦断側面図である。さらに図1(c)は、図1(a)中に示すY軸方向に沿って見たSAWの伝播速度の分布図、図1(c)は、同方向に沿って見たSAWの振幅の分布図である。
【0013】
本例のSAW素子は、SAWを励振させる矩形状の圧電基板11上に形成されたIDT電極を備える。以下の説明では、矩形状の圧電基板11(但し、平面形状の記載は省略した)の長辺に沿った方向を縦方向(図1(a)中のX方向)、短辺に沿った方向を横方向(同図中のY方向)ともいう。
【0014】
IDT電極は、例えば圧電基板11の各長辺に沿って縦方向に伸びるように設けられ、各々信号ポート12a、12bに接続された2本のバスバー2a、2bと、各バスバー2a、2bから横方向に向けて伸びるように形成された多数本の電極指3a、3bとを備えている。
【0015】
圧電基板11を構成する圧電材料としては、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO)やタンタル酸リチウム(LiTaO)、窒化アルミニウム(AlN)、スカンジウム(Sc)ドープ窒化アルミニウムなどを用いる場合を例示することができる。
また、本実施の形態に係る圧電基板11には、(i)非圧電体材料からなる基板の表面に、圧電薄膜を形成したものや(ii)非圧電材料と圧電材料とを積層した積層基板が含まれる。(i)としては、非圧電材料であるサファイア基板の表面に、窒化アルミニウムの圧電薄膜を形成する場合が例示できる。また、(ii)としては、非圧電材料であるシリコン基板と圧電材料であるLiTaO基板とを積層した積層基板を例示できる。
【0016】
圧電材料としてLiNbOを用いる場合、オイラー角(φ,θ,ψ)表記におけるLiNbOのカット角はφ、ψ=0±10°、θ=38±10°であるもの、またはφ、ψ=0±10°、θ=-85±15°であるもの、またはφ、ψ=0±10°、θ=131±15°または、φ=0±10°、θ=-90±10°、ψ=-90±10°であるものを例示できる。
圧電材料としてLiTaOを用いる場合、オイラー角(φ,θ,ψ)表記におけるLiTaOのカット角はφ、ψ=0±10°、θ=132±15°であるもの、またはφ、ψ=0±10°、θ=-90±15°であるものを例示できる。
【0017】
図1(a)に示すように、一方のバスバー2aに接続された電極指3aは、対向する位置に配置されたバスバー2b側へ向けて伸び出すように設けられている。また他方のバスバー2bに接続された電極指3bは、前記一方のバスバー2aへ向けて伸び出すように設けられている。そして、電極指3a、3bの並び方向に沿って見たとき、一方のバスバー2aに接続された電極指3aと、他方のバスバー2bに接続された電極指3bとが互い違いに交差して配置されている。
【0018】
上述のように、電極指3a、3bが交差して配置された領域は、IDT電極の交差領域に相当する。また、交差領域から見て各バスバー2a、2b側には、一方のバスバー2a、2bに接続された電極指3a、3bの先端部が、他方のバスバー2b、2aに到達していないことにより、電極指3a、3bが交差していない領域が2つ形成されている。これらの領域は、非交差領域(「ギャップ領域」とも呼ぶ場合がある)RBに相当する。
【0019】
さらに、既述の交差領域は、これら電極指3a、3bの端部が含まれる領域である2つの端部領域EBを含む。図1図2、においては、交差領域のうち、これら端部領域EBを除いた領域に「ZAB」の符号を付してある(後述の図5図6図9において同じ)。
また、各バスバー2a、2bが形成されている2つの領域をバスバー領域SBとも呼ぶ。
【0020】
上述の構成を備える第1実施形態のSAW素子において、各電極指3a、3bは、非交差領域RBにおける電極指3a、3bの厚みが、交差領域ZABにおける当該電極指3a、3bの厚みよりも小さくなるように構成されている。
形成されている領域(交差領域ZAB、非交差領域RB)に応じて電極指3a、3bの厚みを相違させる手法として、例えば図1に示すSAW素子は、互いに厚みの異なる第1電極指膜31と第2電極指膜32とを接続して電極指3a、3bを形成した構成となっている。
【0021】
このとき、非交差領域RBに設けられた第1電極指膜31よりも、交差領域ZABに設けられた第2電極指膜32の厚みを大きくする(第2電極指膜32よりも第1電極指膜31の厚みを小さくする)ことにより、図1に示す構成の電極指3a、3bを構成することができる。第1電極指膜31と第2電極指膜32との厚みを相違させる理由については、後段で説明する。
【0022】
さらに図1に示すIDT電極においては、閉じ込めモードであるピストンモードにてSAW素子を動作させるため、2つの端部領域EBにおいて、その内側の交差領域ZABよりも、SAWの伝播速度が遅い低音速領域を設けている。
端部領域EBを低音速領域とする具体的な手法として、既述の第1電極指膜31と第2電極指膜32とを上下に積層して接続している。またこれらの電極膜31、32の接続位置とは反対側に設けられた第2電極指膜32の先端部には、電極指3a、3bの厚みを大きくするための伝播速度調節膜33が設けられている。
なお、SAW素子を閉じ込めモードで動作させるにあたり、ピストンモードを利用することは必須の要件ではない。
【0023】
以下の説明では、第1電極指膜31における、バスバー2a、2bに接続される一方側の端部を基端部、当該基端部とは反対側の端部を先端部と呼ぶ。また、第2電極指膜32における、第1電極指膜31と接続される一方側の端部を基端部、当該基端部とは反対側の端部を先端部と呼ぶ。
このとき、図1(a)、(b)に示すSAW素子は、第1電極指膜31の先端部と、第2電極指膜32の基端部とが上下に積層して接続され、当該積層された部分が既述の端部領域EBに設けられている。また第2電極指膜32の先端部は、電極指3a、3bの先端部の厚みを大きくして、SAWの伝播速度を低速にするための伝播速度調節膜33上に積層され、当該第2電極指膜32を積層した部分が端部領域EBに設けられている。
【0024】
このように、交差領域ZABの両脇に設けられた端部領域EBに、第1電極指膜31の先端部と第2電極指膜32の基端部、または第2電極指膜32の先端部と伝播速度調節膜33との積層構造を設け、交差領域ZABよりも電極指3a、3bの厚みが大きい領域を形成する。この結果、端部領域EBでのSAWの伝播速度を、交差領域ZABでのSAWの伝播速度より低速とすることができる。一方、非交差領域RBに設けられている第1電極指膜31の厚みは、交差領域ZABの第2電極指膜32、及び端部領域EBの積層部分の厚みより小さいのでこれらの領域ZAB、EBよりも伝播速度が高速となる。
上述の構成により、図1(c)に示すSAWの伝播速度の分布を形成することができ、この結果、図1(d)に示す振幅分布を有するピストンモードのSAWを励振することが可能である。
【0025】
また、図1に示す構成のSAW素子において、第1電極指膜31及び伝播速度調節膜33の密度が、第2電極指膜32よりも小さくなるように、これらの金属膜の材料を選定してもよい。
例えば、第1電極指膜31及び伝播速度調節膜33を構成する金属としてアルミニウム(Al)を選択したとき、伝播速度調節膜33を構成する金属としては、プラチナ(Pt)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)を選択する場合を例示することができる。
【0026】
また、第1電極指膜31及び伝播速度調節膜33を構成する金属が、第2電極指膜32を構成する金属(第1の金属)よりも密度の小さい金属(第2の金属)を用いた2種以上の金属からなる合金ないしは積層構造である場合は、第2の金属を体積比で50%以上含む主構成材料として第1電極指膜の実効的な密度を低減してもよい。
【0027】
さらにまた、後述のようにSAW素子に誘電体膜5を形成する場合には、第1電極指膜31、伝播速度調節膜33の密度が、誘電体膜5の密度に近い材料を使用することで、第1電極指膜31におけるSAWの反射が弱まるという効果も得られる。このような材料の例としては、誘電体膜5が酸化ケイ素(SiO)により構成されているとき、第1電極指膜31、伝播速度調節膜33をアルミニウム(Al)により構成する場合を例示できる。
なお、図1(a)においては記載を省略してあるが、圧電基板11とIDT電極(バスバー2a、2bや電極指3a、3bなど)との間には、これらのIDT電極の付着性を向上させるためのチタン(Ti)やクロム(Cr)からなる下地膜を設けてもよい。
【0028】
以上に説明した構成に加え、本例のSAW素子は、図1(a)に示すように、圧電基板11を構成する圧電材料の周波数温度特性の影響を補償する温度補償機能を備えたTC-SAW素子として構成してもよい。
TC-SAW素子においては、IDT電極(バスバー2a、2b、電極指3a、3b)が形成された圧電基板11の上面に、誘電体膜5が形成(「装荷」ともいう)されている。なお、図示内容が煩雑になることを避けるため、図1(a)などの平面図においては、誘電体膜5の記載を省略(誘電体膜5の下面側を透視した状態を記載)してある。
【0029】
TC-SAW素子に装荷される誘電体膜5は、圧電基板11の圧電材料とは反対の周波数温度特性を有するものが用いられる。例えば圧電基板11の圧電材料が、温度の上昇に伴って励振される周波数が低下する負の周波数温度特性を有している場合には、温度の上昇に伴って周波数が上昇する正の周波数温度特性を有する誘電体膜5が装荷される。反対に正の周波数温度特性を有する圧電材料からなる圧電基板11に対しては、負の周波数温度特性を有する誘電体膜5が装荷される。このように、圧電基板11とは反対の周波数温度特性を持つ誘電体膜5を装荷することにより、SAW素子の周囲の温度変化の影響を低減することができる。
【0030】
例えば既述のLiNbOは負の周波数温度特性を有する。そこで、LiNbOにより構成された圧電基板11に対しては、正の周波数温度特性を有する二酸化ケイ素、酸窒化ケイ素(化学量論比に特段の限定はなく、SiNOであってもよいし、SiOに窒素をドープしたものであってもよい)やフッ素をドープした二酸化ケイ素の誘電体膜5を装荷する場合を例示することができる。これらの材料からなる誘電体膜5は、CVD(Chemical Vapor Deposition)やスパッタリングなどの手法によって装荷することができる。
なお、SAW素子に温度補償機能を持たせることは必須の要件ではない。この場合には、圧電性を有さない窒化ケイ素などにより圧電基板11の表面を覆い、保護膜としてもよい。
【0031】
以上に説明した、厚みが異なる第1電極指膜31、第2電極指膜32により電極指3a、3bを構成し、端部領域EBにて第1電極指膜31と第2電極指膜32、第2電極指膜32と伝播速度調節膜33が積層されたSAW素子を製造する。具体例としては、これらを別々に成膜する場合を例示することができる。
【0032】
例えば圧電基板11の上面に、アルミニウムからなる所定の膜厚の金属膜を成膜した後、エッチングなどによりバスバー2a、2b、第1電極指膜31、伝播速度調節膜33をパターニングする。次いで、第1電極指膜31や伝播速度調節膜33などがパターニングされた圧電基板11の上面に端部領域EBにおける積層部分が残るように、リフトオフ法などを用いて前記アルミニウムの金属膜よりも膜厚の厚い銅の金属膜を、第2電極指膜32として成膜、パターニングする。
これにより、第1電極指膜31と、これよりも厚みが大きい第2電極指膜32とを接続して電極指3a、3bを構成することができる。また、端部領域EBに第1電極指膜31、第2電極指膜32及び第2電極指膜32、伝播速度調節膜33の積層部分を設けることにより、低音速領域を形成することができる。
【0033】
その他のSAW素子の概略の設計変数を示しておくと、SAW素子の設計周波数に対応する波長λに対し、電極指3a、3bの中心線間の距離dは、λ/2に設定される。また、音響エネルギーを十分に閉じ込める観点から非交差領域RBの幅寸法は、1.6d~6d(0.8λ~3λ)、好適には2d~4d(1λ~2λ)程度に設定されるのが好ましい。
ただし、音響エネルギーを閉じ込める高音速領域を形成できるようにバスバー2a、2bを例えば第1電極指膜31と同一の金属膜で形成することで、上記の制限を取り除き、非交差領域RBの幅寸法を0.1d~1d程度にすることも可能となる。
【0034】
以上に説明した構成のSAW素子において、第1電極指膜31、第2電極指膜32を接続することにより、非交差領域RBにおける電極指3a、3bの厚みが、交差領域ZABにおける当該電極指3a、3bの厚みよりも小さくなるように構成する理由について説明する。
図1(c)に示すピストンモードで動作するSAW素子は、基本的に導波路の幅を均一にすることが可能である。このため、従来のSAW素子にて採用されていた、電極指の長さを次第に変化させるアポダイゼーションの手法と比較して実効的電気機械結合係数の劣化が小さく、スプリアスを抑制できる利点がある。
【0035】
一方で、非交差領域RBは、IDT内部にSAWを閉じ込める役割を担うところ、当該非交差領域RBの構成を最適化する検討例は少ない。そこで本願発明者は、ピストンモードを含む閉じ込めモードで動作するSAW素子に好適な非交差領域RBの構造を検討した。
【0036】
圧電基板11の圧電材料が一般的な凸状のスローネスカーブを有している場合、IDTの交差領域ZABにて励振され、圧電基板11上を導波するSAWは、音速が早い領域である非交差領域RBに進入すると、音速の相違から反射される。この結果、IDTの交差領域ZAB内にSAWを閉じ込めることができる。
しかしながら、一般的に、構造的に不連続な部分で波動が反射される場合、反射と同時に散乱が生じることが知られている。上述のSAW素子においても、SAWが非交差領域RBにて反射される際の散乱の発生は、当該SAW素子の音響的な損失の増大につながる。
【0037】
そこで発明者は、非交差領域RBにおける電極指3a、3bの厚みに着目した。当該領域における電極指3a、3bの厚みを小さくすることにより、非交差領域RB内における電極指3a、3bが設けられている領域と、これら電極指3a、3bが設けられていない領域との構造的な相違を小さくすることができる。
この結果、非交差領域RBの構造的な対称性が高くなるため、当該構造により、SAWが非交差領域RBに進入する際の散乱が抑えられ、低損失のSAW素子を構成することができると考えられる。
【0038】
以上に説明した設計思想の妥当性を検証するため、図1(a)、(b)を用いて説明した構成のSAW素子のモデルを作成し、FEM(Finite Element Method)により特性解析を行った。
設計変数を列挙すると、IDTのピッチ4μm、交差領域ZABの幅51.4μm、端部領域EBの幅2.6μm、非交差領域RBの幅13μm、第1電極指膜31、第2電極指膜32の電極材料は銅(Cu)、第1電極指膜31、伝播速度調節膜33の厚み88nm、第2電極指膜32の厚み260nmであり、誘電体膜5として厚み1.4μmの酸化ケイ素(SiO)を装荷した。また圧電基板11の圧電材料は、126.5XYカット(オイラー角表記にて(φ,θ,ψ)=(0°,36.5°,0°))のLiNbOである。
【0039】
これに対する比較形態として、図2(a)、(b)に構成を示す、厚みの均一な電極指30a、30bを設けたSAW素子のモデルを作成し、同様のFEM解析を行った。電極指30a、30bの厚みは260nmで一定とした点と、その上面に厚み88nmの銅の伝播速度調節膜33を設けて端部領域EBを低音速領域とした点、以外の設計変数は、図1(a)、(b)に示す第1実施形態に係るSAW素子と同様である。
【0040】
第1実施形態及び比較形態に係るSAW素子のFEM解析の結果を図3図4に示す。
図3はSAWの周波数変化に対するアドミッタンスの変化を示し、図4はSAWの周波数変化に対するQ値の一種であるBode Qの変化を示している。
Bode Qは、以下の(1)式に基づき算出される。
Bode Q=(ω|S11|group_delay(S11))
/(1-|S11|) …(1)
ここでω|S11|はSAW素子の反射係数S11の角周波数、group_delay(S11)は反射係数S11の群遅延、|S11|は反射係数S11の振幅である。
【0041】
図3に示す結果によれば、第1実施形態に係るSAW素子は、従来構成である比較形態に係るSAW素子とほぼ同等のアドミタンス特性を示し、スプリアスが抑圧された良好な特性が得られることを確認できた。
一方、図4のBode Qの値については、その最大値が比較形態に係るSAW素子において約2400である一方、第1実施形態に係るSAW素子では約2500となった。このように、第1実施形態に係るSAW素子は、従来構成のものと比較して100程度のBode Qの改善が見られ、低損失のSAW素子であると言える。
【0042】
本実施の形態のSAW素子によれば以下の効果がある。圧電基板11上に設けられた一対のIDT電極において、交差領域ZABの外側の非交差領域RBにおける電極指3a、3bの厚みが、交差領域ZABにおける当該電極指3a、3bの厚みよりも小さく構成されているので、SAWの散乱に伴う損失が低減され、Q値をより高くすることができる。
【0043】
ここで図5に示すように、本例のSAW素子の非交差領域RBには、バスバー2a、2bの各々について、一方のバスバー2a、2bに接続された複数の電極指3a、3bの端部と、他方のバスバー2b、2aとの間に、これらの端部から離れて、他方のバスバー2b、2aから伸び出す複数のダミー電極指34を形成してもよい(後述の図6図9に示すSAW素子において同じ)。
このとき、非交差領域RBに設けられるダミー電極指34の厚みは、交差領域ZABにおける電極指3a、3bの厚み(図5に示す例では、第2電極指膜32の厚み)よりも小さくすることが好ましい。これにより、交差領域ZABに対して、高音速な領域が形成でき、かつ、構造の周期性も交差領域ZABと同等にすることが可能となる。
また、ダミー電極指34を交差領域ZABにおける電極指3a、3bの厚みより大きくした場合、弾性波が音速の異なる領域に侵入する際にも反射が生じるため、弾性波をより効果的に交差領域ZAB内に閉じ込めることが可能となる。
【0044】
次いで、図6(a)、(b)に示す第2実施形態に係るSAW素子の構成について説明する。第2実施形態に係るSAW素子においては、第2電極指膜32の基端部の上面側に第1電極指膜31の先端部が積層され、第2電極指膜32の先端部の上面側に伝播速度調節膜33が積層されている。この点において、各々、第1電極指膜31の先端部、伝播速度調節膜33が第2電極指膜32の下面側に積層された第1実施形態に係るSAW素子と異なる。
【0045】
より詳細には、圧電基板11上の第2電極指膜32の形成領域以外の領域には、温度補償膜である例えば酸化ケイ素(SiO)誘電体からなる支持膜6が形成されている。第1電極指膜31は、この支持膜6の上面側に形成され、バスバー2a、2bと第2電極指膜32との間をブリッジ状に接続する構成となっている。このとき、当該第1電極指膜31の先端部が、第2電極指膜32の基端部の上面側に積層された状態となる。
また、伝播速度調節膜33は、第2電極指膜32の先端部の上面側に直接、積層される。なお、第1電極指膜31伝播速度調節膜33の上面側に、窒化ケイ素などからなる保護膜を設けてもよい。
【0046】
例えば圧電基板11上の非交差領域RBに、直接、第1電極指膜31を設ける場合には、当該第1電極指膜31が第2電極指膜32の基端部と接触していることに伴う、微弱な励振の発生に伴う損失が生じるおそれがある。
これに対して図6(a)、(b)に示す第2実施形態のように、圧電性を有さない誘電体からなる支持膜6上に第1電極指膜31を設けることにより、上述の微弱な励振を抑圧し、さらなる損失の低減を図ることできる可能性がある。
【0047】
図7図8は、第2実施形態に係るSAW素子のモデルを作成し、FEM解析を行って、第1実施形態に係るSAW素子の特性と比較したものである。
図6(a)、(b)に示す構成上の相違を除いて、各設計変数は第1実施形態のシミュレーションモデルと同様である。
【0048】
図7に示す結果によれば、第2実施形態に係るSAW素子は、既述の第1実施形態に係るSAW素子とほぼ同等のアドミタンス特性を示し、スプリアスが抑圧された良好な特性が得られることを確認できた。
また、図8のBode Qの値についても、FEM解析上、第1、第2実施形態のいずれのSAW素子においてもその最大値が約2500となった。このように、第3実施形態に係るSAW素子は、第1実施形態に係るSAW素子と同等の特性を有し、図2図4を用いて説明した従来構成に係るSAW素子と比較して低損失の特性を有する。
【0049】
次いで図9に示す第3実施形態に係るSAW素子は、図6を用いて説明した第2実施形態に係るSAW素子に対し、IDT電極の電気機械結合係数の改善を図るための延伸部331を設けた構成である。
即ち、当該SAW素子においては、伝播速度調節膜33aが非交差領域RB側の支持膜6上に向けて延伸された延伸部331を備えている。
【0050】
当該延伸部331を設けると、非交差領域RBに設けられた第1電極指膜31との間で電位の異なる電極331、31が交互に並ぶことから静電容量が形成される。一方で、延伸部331は圧電性を持たない誘電体からなる支持膜6上に形成されるため、SAWを励振しない。
【0051】
このため、SAW共振子の静電容量のみを増大させることが可能となり、延伸部331がない場合と比較して容量比が大きくなり、実効的な電気機械結合係数を低下させることができる。
なお、延伸部331を圧電基板11上に形成した場合には、延伸部331にて生じるSAWの励振によって、スプリアス応答が生じるため、フィルタやデュプレクサの共振子として用いることが不適当なSAW素子となるおそれがある。
【0052】
図10図11は、第3実施形態に係るSAW素子のモデルを作成し、FEM解析を行って、図2に示す比較形態に係るSAW素子の特性と比較したものである。
延伸部331の長さを6.4μm(短)、12.8μm(長)と変化させた点を除いて、各設計変数は第3実施形態のシミュレーションモデルと同様である。
【0053】
図10に示す結果によれば、延伸部331を設けた第3実施形態に係るSAW素子は、いずれも比較形態に係るSAW素子と比べて、反共振点が共振点側に移動し、急峻な遷移特性を示すと共に、スプリアスが抑圧された良好な特性が得られることを確認できた。また、延伸部331を長くしていくと、反共振点は共振点側にさらに移動する傾向が見られた。
【0054】
また、Bode Qの値については、延伸部の長短に係わらず、第3実施形態に係るSAW素子では約2700となり、従来構成のものと比較して300程度のBode Qの改善が見られ、低損失のSAW素子が得られた。
【0055】
以上、図1図5図6図9を用いて説明した各実施形態に係るSAW素子において、温度変化に伴う膨張・伸縮の影響を抑制するため、圧電基板11の底面側に熱膨張率の小さい支持基板を貼り合わせてもよい。支持基板としてはシリコン(Si)、水晶(SiO)、ガラス、ダイヤモンド(C)、サファイア(Al)を例示することができる。さらに支持基板と圧電基板11との間に誘電体層(例えば二酸化ケイ素)や金属層を形成してもよい。
【0056】
さらにまた、非交差領域RBと交差領域ZABとの間で電極指3a、3bの厚み相違させる手法は、厚みの異なる第1電極指膜31と第2電極指膜32とを接続する手法を用いる場合に限定されない。
例えば厚みの均一な金属膜を形成し、電極指3a、3bをパターニングした後、非交差領域RBの電極指3a、3bの一部をエッチングにより一部削って、当該非交差領域RBの電極指3a、3bの厚みを小さくしてもよい。
【0057】
以上に説明したSAW素子は、図1図5図6図9に示す単体のSAW素子にて電子部品として利用することができる。また、圧電基板11を縦方向に広げ、IDT電極の前後に、グレーティング反射器を設けてもよい。
さらに当該SAW素子は、共通の圧電基板11に複数のIDT電極を設けた弾性波共振器や弾性波フィルタにも適用することができる。
【0058】
そしてフィルタ、デュプレクサ、クアッドプレクサ、その他フィルタ機能を有するデバイスに本例のSAW素子は用いることができる。また当該デバイスは、PAMiD、PAiD、PADなどと呼ばれるパワーアンプデュプレクサモジュール(Power Amp Integrated Duplexer)、DiFEMなどと呼ばれるダイバーシティ受信用モジュール(Diversity Front End Module)に組み込むことができる。
【符号の説明】
【0059】
ZAB 交差領域
EB 端部領域
RB 非交差領域
11 圧電基板
2a、2b バスバー
3a、3b 電極指
31 第1電極指膜
32 第2電極指膜
33 伝播速度調節膜
331 延伸部
5 誘電体膜
6 支持膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11