(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】電力変換制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/22 20160101AFI20240607BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20240607BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240607BHJP
【FI】
H02P21/22
H02P27/06
H02M7/48 E
(21)【出願番号】P 2020115039
(22)【出願日】2020-07-02
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】柏▲ざき▼ 貴司
(72)【発明者】
【氏名】赤間 貞洋
(72)【発明者】
【氏名】塚本 康裕
(72)【発明者】
【氏名】岡田 浩幸
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-004670(JP,A)
【文献】特開2015-154579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/22
H02P 27/06
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源部(11)からの直流電力を交流電力に変換してモータ(12)に供給する電力変換部(30)と、前記電源部から前記電力変換部に供給される直流電流を平滑化する平滑コンデンサ(21)とを有する電力変換装置(13)に適用され、前記電力変換部の制御を行う電力変換制御装置(40)であって、
前記モータにおいて複数相の巻線(12a)を流れる電流をdq座標系におけるd軸電流(Id)とq軸電流(Iq)とに変換する座標変換部(42)と、
前記モータが回転しており且つ前記電源部と前記平滑コンデンサとの導通が遮断された状態にある場合に、前記モータの巻線(12a)にて生じる磁界が前記モータの界磁により生じる界磁磁束を弱める弱め界磁が生じるように、前記d軸電流の指令値であるd軸電流指令値(Id*)を前記モータの回転数(Nm)に応じて設定する弱め界磁設定部(S108)と、
前記モータが回転しており且つ前記電源部と前記平滑コンデンサとの導通が遮断された状態にある場合に、前記平滑コンデンサの電圧であるコンデンサ電圧(Vc)の増加を抑制するように前記q軸電流の指令値であるq軸電流指令値(Iq*)を設定する抑制設定部(S109)と、
ゼロよりも大きいあらかじめ定められた特定値を前記q軸電流指令値として設定する特定設定部(71)と、
を備えている、電力変換制御装置。
【請求項2】
前記抑制設定部は、
前記コンデンサ電圧があらかじめ定められたコンデンサ閾値(Vcx)以上である場合に、前記コンデンサ電圧が前記コンデンサ閾値よりも小さいコンデンサ指令値(Vc*)になるようにフィードバック制御により前記q軸電流指令値を設定するフィードバック設定部(53)、を有している、請求項1に記載の電力変換制御装置。
【請求項3】
前記モータの回転数(Nm)を取得する回転取得部(S106)を備え、
前記抑制設定部は、
前記コンデンサ電圧があらかじめ定められた閾値(Vcx)以上である場合に、前記モータの回転数と前記q軸電流との相関を示す相関情報(63)を用いて、前記回転取得部により取得された前記モータの回転数から前記q軸電流指令値を設定する相関設定部(62)、を有している、請求項
1に記載の電力変換制御装置。
【請求項4】
前記モータの温度(Tm)を取得する温度取得部(61)を備え、
前記相関情報は、前記回転数と前記q軸電流と前記モータの温度との相関を示し、
前記相関設定部は、前記回転取得部により取得された前記モータの回転数と、前記温度取得部により取得された前記モータの温度との両方から前記q軸電流指令値を設定する、請求項3に記載の電力変換制御装置。
【請求項5】
前記抑制設定部は、前記モータの回転数があらかじめ定められた終了閾値(Nb,Nx)よりも小さくなった場合に前記q軸電流指令値の設定を終了する、請求項1~
4のいずれか1つに記載の電力変換制御装置。
【請求項6】
前記抑制設定部は、前記モータの回転数があらかじめ定められた開始閾値(Nb)以上である場合に前記q軸電流指令値の設定を開始する、請求項1~
5のいずれか1つに記載の電力変換制御装置。
【請求項7】
前記開始閾値は、前記モータの回転数について、前記モータの逆起電圧が前記電力変換部への印加電圧の上限値以下になる回転数である、請求項
6に記載の電力変換制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、電力変換制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、直流電力を交流電力に変換して3相モータに供給するインバータと、このインバータの制御を行う電子制御ユニットと、が搭載された車両について開示されている。この車両においては、バッテリからインバータに供給される直流電流を平滑化する平滑コンデンサがインバータに対して設けられている。
【0003】
電子制御ユニットは、車両の衝突発生時に、バッテリを平滑コンデンサ等から電気的に切り離した上で、モータの逆起電力が平滑コンデンサに供給されないようにインバータを制御する。この制御として、各相の上アームトランジスタを全てオフし、且つ各相の下アームトランジスタを全てオンする、という処理(以下、アクティブショートサーキットという)が行われる。アクティブショートサーキットが行われることで、モータの逆起電力による電流が平滑コンデンサに流れず、平滑コンデンサの過電圧が生じるということが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、アクティブショートサーキットが行われると、モータから平滑コンデンサへの逆起電力の供給が規制される一方で、下アームトランジスタには電流が流れることになる。このため、モータの逆起電力がある程度大きいと、下アームトランジスタ等に流れる電流が大きくなり、下アームトランジスタ等の発熱に伴ってインバータが発熱する、ということが懸念される。例えば、モータの高出力化を図る場合には、モータの逆起電力が増加してインバータが発熱しやすくなると考えられる。
【0006】
本開示の主な目的は、インバータの発熱を抑制しつつ平滑コンデンサの過電圧を抑制できる電力変換制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この明細書に開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。また、特許請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例であって、技術的範囲を限定するものではない。
【0008】
上記目的を達成するため、開示された1つの態様は、
電源部(11)からの直流電力を交流電力に変換してモータ(12)に供給する電力変換部(30)と、電源部から電力変換部に供給される直流電流を平滑化する平滑コンデンサ(21)とを有する電力変換装置(13)に適用され、電力変換部の制御を行う電力変換制御装置(40)であって、
モータにおいて複数相の巻線(12a)を流れる電流をdq座標系におけるd軸電流(Id)とq軸電流(Iq)とに変換する座標変換部(42)と、
モータが回転しており且つ電源部と平滑コンデンサとの導通が遮断された状態にある場合に、モータの巻線(12a)にて生じる磁界がモータの界磁により生じる界磁磁束を弱める弱め界磁が生じるように、d軸電流の指令値であるd軸電流指令値(Id*)をモータの回転数(Nm)に応じて設定する弱め界磁設定部(S108)と、
モータが回転しており且つ電源部と平滑コンデンサとの導通が遮断された状態にある場合に、平滑コンデンサの電圧であるコンデンサ電圧(Vc)の増加を抑制するようにq軸電流の指令値であるq軸電流指令値(Iq*)を設定する抑制設定部(S109)と、
ゼロよりも大きいあらかじめ定められた特定値をq軸電流指令値として設定する特定設定部(71)と、
を備えている、電力変換制御装置である。
【0009】
上記態様によれば、モータが回転しており且つ電源部と平滑コンデンサとの導通が遮断された状態にある場合に、モータの回転数に合わせた弱め界磁が行われるようにd軸電流指令値が設定される。このため、モータの逆起電力を低減するために弱め界磁を有効に活用することができる。
【0010】
しかも、平滑コンデンサの電圧であるコンデンサ電圧の増加を抑制するようにq軸電流指令値が設定される。この構成では、モータの逆起電力のうち実効電力が平滑コンデンサに供給されないようにq軸電流指令値が設定されることになるため、モータの逆起電力により平滑コンデンサの過電圧が生じるということをより確実に抑制できる。
【0011】
一方で、モータの逆起電力のうち無効電力は電力変換部を介してモータと平滑コンデンサとの間で授受される。無効電力は電気的な損失を生じさせないため、無効電力が電力変換部を通っても電力変換部の発熱は生じない。また、上述したようにモータの逆起電力自体が弱め界磁により低減されているため、仮にモータの逆起電力に平滑コンデンサに供給される実効電力が含まれていたとしても、この実効電力を、電力変換部にとって異常にならないような小さな熱しか発生しない程度に低減できる。
【0012】
以上により、電力変換部の発熱を抑制しつつ平滑コンデンサの過電圧を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態における駆動システムの構成を示す図。
【
図4】オープン指令部の電気的な構成を示すブロック図。
【
図6】第2実施形態におけるオープン指令部の電気的な構成を示すブロック図。
【
図7】第3実施形態におけるオープン指令部の電気的な構成を示すブロック図。
【
図8】第4実施形態におけるオープン指令部の電気的な構成を示すブロック図。
【
図9】第5実施形態における指令処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0015】
<第1実施形態>
図1に示す駆動システム10は、例えば電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)、燃料電池車などの車両に搭載されている。駆動システム10は、バッテリ11、モータ12、電力変換装置13を有している。駆動システム10は、モータ12を駆動して車両の駆動輪を駆動するシステムである。
【0016】
バッテリ11は、充放電可能な2次電池で構成された直流電圧源であり、電力変換装置13を介してモータ12に電力を供給する電源部に相当する。2次電池は、たとえばリチウムイオン電池、ニッケル水素電池である。バッテリ11は、インバータ30に高電圧(たとえば数100V)を供給する。
【0017】
モータ12は、3相交流方式の回転電機である。モータ12は、3相としてU相、V相、W相を有している。モータ12は、車両の走行駆動源である電動機として機能する。モータ12は、回生時に発電機として機能する。モータ12は、界磁を形成する永久磁石と、電機子を形成する巻線12aとを有している。このモータ12では、永久磁石を含んで回転子が構成され、巻線12aを含んで固定子が構成されている。なお、モータ12をモータジェネレータや電動モータと称することもできる。
【0018】
電力変換装置13は、バッテリ11とモータ12との間で電力変換を行う。電力変換装置13は、平滑コンデンサ21、インバータ30、制御装置40を有している。
【0019】
平滑コンデンサ21は、バッテリ11から供給される直流電圧を平滑化する。平滑コンデンサ21は、高電位側の電力ラインであるPライン25と低電位側の電力ラインであるNライン26とに接続されている。Pライン25はバッテリ11の正極に接続され、Nライン26はバッテリ11の負極に接続されている。平滑コンデンサ21の正極は、バッテリ11とインバータ30との間において、Pライン25に接続されている。また、平滑コンデンサ21の負極は、バッテリ11とインバータ30との間において、Nライン26に接続されている。平滑コンデンサ21は、バッテリ11に並列に接続されている。電力変換装置13においては、Pライン25、Nライン26がバスバー等により形成されている。
【0020】
電力変換装置13において、平滑コンデンサ21とバッテリ11との間には開閉器22が設けられている。開閉器22は、開状態と閉状態とに移行可能なスイッチやリレー等により形成されており、Pライン25及びNライン26のそれぞれに設けられている。Pライン25においては、バッテリ11の正極と平滑コンデンサ21の正極との間に開閉器22が設けられ、Nライン26においては、バッテリ11の負極と平滑コンデンサ21の負極との間に開閉器22が設けられている。開閉器22が閉状態になると、バッテリ11が平滑コンデンサ21及びインバータ30に電気的に接続される。開閉器22が開状態になると、バッテリ11が平滑コンデンサ21及びインバータ30から電気的に遮断される。
【0021】
開閉器22は、基本的に、イグニッションスイッチ等の車両スイッチがオン状態である場合に閉状態になっており、車両スイッチがオフ状態である場合に開状態になっている。例えば、車両が走行状態にある場合には開閉器22は基本的に閉状態になっている。なお、開閉器22をシステムメインリレーと称することができる。また、開閉器22については、閉状態を導通状態と称し、開状態を遮断状態と称することもできる。さらに、開閉器22が閉状態にある場合、バッテリ11と平滑コンデンサ21とが導通された状態にあり、開閉器22が開状態にある場合、バッテリ11と平滑コンデンサ21との導通が遮断された状態にある。
【0022】
本実施形態では、開閉器22が電力変換装置13に含まれているが、開閉器22は、電力変換装置13に含まれていなくてもよい。例えば、開閉器22は、電力変換装置13とバッテリ11との間に設けられていてもよい。また、開閉器22は、Pライン25だけに設けられていてもよい。すなわち、開閉器22は、Pライン25及びNライン26のうち少なくともPライン25に設けられていればよい。
【0023】
電力変換装置13には、バッテリ電圧センサ23及びコンデンサ電圧センサ24が設けられている。バッテリ電圧センサ23は、バッテリ11の電圧を検出するセンサであり、バッテリ11の電圧に応じた検出信号を制御装置40に対して出力する。バッテリ電圧センサ23は、バッテリ11と平滑コンデンサ21との間に設けられており、Pライン25及びNライン26のそれぞれに接続されている。コンデンサ電圧センサ24は、平滑コンデンサ21の電圧を検出するセンサであり、平滑コンデンサ21の電圧に応じた検出信号を制御装置40に対して出力する。コンデンサ電圧センサ24は、平滑コンデンサ21とインバータ30との間に設けられており、Pライン25及びNライン26のそれぞれに接続されている。
【0024】
インバータ30は、DC-AC変換回路である。インバータ30は、3相分の上下アーム回路31を備えて構成されている。上下アーム回路31は、レグと称されることがある。上下アーム回路31は、上アーム31aと、下アーム31bをそれぞれ有している。上アーム31aと下アーム31bは、上アーム31aをPライン25側として、Pライン25とNライン26との間で直列接続されている。上アーム31aと下アーム31bとの接続点は、モータ12における対応する相の巻線12aに出力ライン27を介して接続されている。上下アーム回路31及び出力ライン27は、モータ12のU相、V相、W相のそれぞれに対して設けられている。インバータ30は、上アーム31a及び下アーム31bを3つずつ有している。電力変換装置13においては、出力ライン27がバスバー等により形成されている。
【0025】
アーム31a,31bは、スイッチング素子であるnチャネル型のIGBT32と、還流用のダイオード33(以下、FWD33という)とをそれぞれ有している。FWD33は、IGBT32に逆並列に接続されている。上アーム31aにおいて、IGBT32のコレクタが、Pライン25に接続されている。下アーム31bにおいて、IGBT32のエミッタが、Nライン26に接続されている。そして、上アーム31aにおけるIGBT32のエミッタと、下アーム31bにおけるIGBT32のコレクタが相互に接続されている。FWD33のアノードは対応するIGBT32のエミッタに接続され、カソードはコレクタに接続されている。
【0026】
インバータ30は、図示しない半導体装置により構成される。半導体装置は、半導体モジュールと称されることがある。半導体装置は、複数の半導体素子を有している。半導体素子では、シリコン(Si)、シリコンよりもバンドギャップが広いワイドバンドギャップ半導体などを材料とする半導体基板に素子が形成されている。半導体素子は、素子が形成された半導体チップである。ワイドバンドギャップ半導体は、たとえばシリコンカーバイド(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)、ダイヤモンドである。
【0027】
本実施形態において、1つの半導体素子に、1つのアームを構成するIGBT32およびFWD33が形成されている。すなわち、RC(Reverse Conducting)-IGBTが形成されている。半導体装置は、各アームを構成する6つの半導体素子を有している。
【0028】
インバータ30は、制御装置40によるスイッチング制御にしたがって直流電圧を交流電圧に変換し、モータ12へ出力する。これにより、モータ12は所定の回転トルクを発生するように動作する。すなわち、インバータ30は、バッテリ11からの直流電力を3相交流電力に変換し、電力変換部に相当する。インバータ30は、車両の回生制動時、駆動輪からの回転力を受けてモータ12が発電した交流電圧を、制御装置40によるスイッチング制御にしたがって直流電圧に変換し、Pライン25へ出力する。このように、インバータ30は、バッテリ11とモータ12との間で双方向の電力変換を行う。
【0029】
制御装置40は、例えばECUであり、インバータ30の駆動を制御する。ECUは、Electronic Control Unitの略称である。制御装置40は、例えばプロセッサ、メモリ、I/O、これらを接続するバスを備えるマイクロコンピュータ(以下、マイコン)を主体として構成される。制御装置40は、メモリに記憶された制御プログラムを実行することで、インバータ30の駆動に関する各種の処理を実行する。ここで言うところのメモリは、コンピュータによって読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。また、非遷移的実体的記憶媒体は、半導体メモリ又は磁気ディスクなどによって実現される。
【0030】
制御装置40は、車両に搭載された統合ECUなどの上位ECUから入力される信号や、バッテリ電圧センサ23などの各種センサから入力される信号を用いて駆動指令を生成し、この駆動指令に応じてIGBT32にオン駆動やオフ駆動を行わせる。なお、制御装置40が電力変換制御装置に相当する。
【0031】
制御装置40には、各種センサとして、バッテリ電圧センサ23、コンデンサ電圧センサ24、電流センサ28、回転センサ29が電気的に接続されている。なお、これらセンサ23,24,28,29は駆動システム10に含まれている。これらセンサ23,24,28,29のうち電圧センサ23,24及び電流センサ28は電力変換装置13に含まれている。
【0032】
電流センサ28は、モータ12に流れる3相電流を検出する電流検出部である。電流センサ28は、3相の巻線12aのそれぞれに流れる電流に応じた検出信号を制御装置40に対して出力する。本実施形態の電流センサ28は、出力ライン27に対して設けられていることで巻線12aに対して設けられており、出力ライン27を流れる電流を検出することで巻線12aを流れる電流を検出する。電流センサ28は、巻線12aに流れる電流を所定のサンプリング周期で離散的にサンプリングしており、離散信号を検出信号として出力する。なお、巻線12aに流れる電流を電機子電流と称することもできる。
【0033】
回転センサ29は、モータ12に設けられており、モータ12の回転数を検出する回転検出部である。回転センサ29は、モータ12の回転数に応じた検出信号を制御装置40に対して出力する。回転センサ29は、例えばエンコーダやレゾルバなどを含んで構成されている。
【0034】
図2に示す制御装置40は、インバータ30を介してモータ12のベクトル制御を行う。ベクトル制御では、U相、V相、W相により示される3相交流座標を、d軸及びq軸により示されるdq座標に変換する。dq座標は、例えば回転子のS極からN極に向かう方向をd軸とし、このd軸に直交する方向をq軸として、これらd軸及びq軸によって定義される回転座標である。
【0035】
制御装置40は、機能ブロックとして、3相2相変換部42、d軸減算部43、q軸減算部44、電流制御部45、2相3相変換部46、電流指令部50を有している。これら機能ブロックは、少なくとも1つのIC等によりハードウェア的に構成されていてもよく、プロセッサによるソフトウェアの実行とハードウェアとの組み合わせにより実行されていてもよい。
【0036】
3相2相変換部42には、電流センサ28により検出されたU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwが入力される。これら相電流Iu,Iv,Iwは、モータ12において各相の巻線12aを実際に流れる電流の検出値である。なお、制御装置40は、電流センサ28の検出信号を用いて各相電流Iu,Iv,Iwを取得する電流取得部を有している。この電流取得部は3相2相変換部42に含まれていてもよい。
【0037】
3相2相変換部42には、回転センサ29により検出されたモータ回転数Nmが入力される。このモータ回転数Nmは、モータ12の実際の回転数を示す検出値である。モータ回転数Nmは、例えば単位時間当たりのモータ12の回転数であり、回転速度を示す値である。
【0038】
3相2相変換部42は、3相交流座標系のU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwをdq座標に座標変換して、dq座標系のd軸電流Id及びq軸電流Iqを算出する。d軸電流Idはdq座標においてd軸方向の成分であり、q軸電流Iqはdq座標においてq軸方向の成分である。3相2相変換部42は、各相電流Iu,Iv,Iwに加えてモータ回転数Nmを用いてd軸電流Id及びq軸電流Iqを算出する。例えば、3相2相変換部42は、モータ回転数Nmを基準として、各相電流Iu,Iv,Iwをdq座標に変換してd軸電流Id及びq軸電流Iqを算出する。d軸電流Id及びq軸電流Iqはd軸減算部43に入力される。
【0039】
なお、3相2相変換部42が座標変換部に相当する。また、d軸電流Id及びq軸電流Iqを、検出値である各相電流Iu,Iv,Iwを座標変換した実電流であるとして実d軸電流や実q軸電流と称することもできる。さらに、d軸電流Idを界磁電流と称し、q軸電流を駆動電流と称することもできる。
【0040】
電流指令部50は、機能ブロックとして通常指令部51及びオープン指令部52を有している。これら指令部51,52は、いずれもd軸電流Id及びq軸電流Iqのそれぞれについて目標にするべき値をd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*として設定する。指令部51,52により設定された指令値Id*,Iq*については、d軸電流指令値Id*がd軸減算部43に入力され、q軸電流指令値Iq*がq軸減算部44に入力される。
【0041】
通常指令部51には、モータ12が発生するべき回転トルクとしてトルク指令値が上位ECUからの信号として入力される。通常指令部51は、バッテリ11からモータ12への電力供給が行われている場合に、トルク指令値に応じて指令値Id*,Iq*を設定する。一方、オープン指令部52は、バッテリ11からモータ12への電力供給が行われていない場合に、指令値Id*,Iq*を設定する。オープン指令部52についての詳細説明は後述する。
【0042】
d軸減算部43は、d軸電流指令値Id*とd軸電流Idとの偏差をd軸電流偏差として算出する。q軸減算部44は、q軸電流指令値Iq*とq軸電流Iqとの偏差をq軸電流偏差として算出する。これらd軸電流偏差及びq軸電流偏差は電流制御部45に入力される。
【0043】
電流制御部45は、dq座標系について、d軸電流偏差及びq軸電流偏差がゼロになるようにd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。電流制御部45は、d軸電流Idがd軸電流指令値Id*に一致するように且つq軸電流Iqがq軸電流指令値Iq*に一致するようにフィードバック制御を行ってd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。電流制御部45は、フィードバック制御として例えばPI制御を行う。d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*は2相3相変換部46に入力される。
【0044】
2相3相変換部46は、dq座標系のd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を3相交流座標に座標変換して、3相座標系のU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*及びW相電圧指令値Vw*を算出する。これら電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は、3相の巻線12aのそれぞれに出力するべき電圧値であり、駆動指令に含まれる情報である。これら電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を含む駆動指令がインバータ30に入力される。
【0045】
制御装置40は、機能ブロックとして、図示しないPWM信号生成部を有している。PWM信号発生部は、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を用いて、IGBT32を駆動するためのPWM信号を生成する。制御装置40は、このPWM信号に応じてIGBT32にオン駆動やオフ駆動が行わせることで、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応する電圧をU相、V相、W相のそれぞれの巻線12aに印加する。
【0046】
駆動システム10では、車両走行時などにバッテリ11からの電力供給によりモータ12が駆動回転している状態で、開閉器22のオープン異常が発生した場合、バッテリ11からモータ12への給電が停止する。このようにオープン異常が発生した場合、モータ12の逆起電力が回生電力としてインバータ30や平滑コンデンサ21に供給されることがある。この場合、回生電力によるインバータ30への印加電圧が過剰に大きくなることや、回生電力が平滑コンデンサ21に過剰に溜まって平滑コンデンサ21の過電圧が生じることなどが懸念される。本実施形態では、モータ12が駆動回転している状態で、意図せずに開閉器22が開状態になり且つその開状態が保持されていることをオープン異常と称する。
【0047】
これに対して、電流指令部50は、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を設定するための指令処理を実行する。この指令処理により、開閉器22のオープン異常が発生したとしても、インバータ30への過電圧や平滑コンデンサ21の過電圧が抑制される。この指令処理について、
図3のフローチャートを参照しつつ説明する。なお、電流指令部50は指令処理を所定周期で繰り返し実行する。この所定周期は、例えば電流センサ28のサンプリング周期に応じて設定されている。
【0048】
図3において、ステップS101では、開閉器22のオープン異常が発生したか否かを判定する。ここでは、車両スイッチがオン状態であるにもかかわらず開閉器22が開状態に移行したか否かの判定や、開閉器22が開状態にて保たれている継続時間が所定時間に達したか否かの判定などを行う。開閉器22が開状態に移行したか否かの判定は、例えば、開閉器22に設けられたセンサからの検出信号や上位ECUからの信号を用いて行う。なお、制御装置40におけるステップS101の処理を実行する機能は電流指令部50に含まれている。
【0049】
開閉器22のオープン異常が発生していない場合、ステップS102にて、トルク指令値に応じてd軸電流指令値Id*を設定し、ステップS103にて、トルク指令値に応じてq軸電流指令値Iq*を設定する。このように、ステップS102,S103にて指令値Id*,Iq*を設定した場合、制御装置40は、通常のベクトル制御によりインバータ30の駆動制御を行うことになる。なお、制御装置40におけるステップS102,S103の各処理を実行する機能は通常指令部51に含まれている。そして、制御装置40は、ステップS102,S103にて設定された指令値Id*,Iq*を用いてインバータ30の駆動制御を行う。
【0050】
一方、開閉器22のオープン異常が発生した場合、ステップS104~S110の各処理を行うことで、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を設定する。なお、制御装置40におけるステップS104~S110の各処理を実行する機能はオープン指令部52に含まれている。
【0051】
ステップS104では、コンデンサ電圧センサ24の検出信号を用いて平滑コンデンサ21の両端電圧をコンデンサ電圧Vcとして取得する。このコンデンサ電圧Vcは、平滑コンデンサ21の両端電圧を検出した検出値である。制御装置40におけるステップS104の処理を実行する機能が電圧取得部に相当する。
【0052】
ステップS105では、コンデンサ電圧Vcがあらかじめ定められたコンデンサ閾値Vcx以上であるか否かを判定する。コンデンサ閾値Vcxは、例えば平滑コンデンサ21の最大許容電圧や定格電圧に応じて設定されている。コンデンサ閾値Vcxは、インバータ30への印加電圧の上限値よりも小さい値になっている。インバータ30への印加電圧の上限値は、例えばインバータ30の定格値や最大許容電圧に応じて設定されている。コンデンサ閾値Vcxは、試験やシミュレーション等により取得された情報であり、制御装置40においてメモリ等の記憶部に記憶されている。
【0053】
なお、インバータ30への印加電圧の上限値を耐電圧値と称することもできる。インバータ30の耐電圧値としては、インバータ30において最も耐電圧値の低い部品や機器の耐電圧値が設定されている。例えば、インバータ30において最も耐電圧値の低い部品がIGBT32であれば、IGBT32の定格値や最大許容電圧に応じて耐電圧値が定められ、この耐電圧値に応じてコンデンサ閾値Vcxが設定されている。
【0054】
コンデンサ電圧Vcがコンデンサ閾値Vcxに達していない場合、平滑コンデンサ21の過電圧が発生する可能性が低いとして、ステップS110に進む。ステップS110では、インバータ30の駆動制御を停止する制御停止処理を行う。この制御停止処理では、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*の設定や、インバータ30を駆動させるためのPWM信号の生成を停止する。制御停止処理を行うことで、例えば、各相の上アーム31a及び下アーム31bのそれぞれのIGBT32の駆動状態といったインバータ30の状態がオープン異常発生時の状態に維持される。なお、制御停止処理では、インバータ30の全てのIGBT32をオフ駆動させてもよく、上アーム31a及び下アーム31bのうち一方について3相全てのIGBT32をオン駆動させ且つ他方について3相全てのIGBT32をオフ駆動させてもよい。
【0055】
一方、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ閾値Vcxに達した場合、平滑コンデンサ21の過電圧が発生する可能性があるとして、ステップS106に進む。ステップS106では、回転センサ29の検出信号を用いてモータ回転数Nmを取得する。制御装置40におけるステップS106の処理を実行する機能が回転取得部に相当する。
【0056】
ステップS107では、モータ回転数Nmがあらかじめ定められた回転閾値Nb以上であるか否かを判定する。回転閾値Nbは、試験やシミュレーション等により取得された情報であり、制御装置40の記憶部に記憶されている。モータ回転数Nmが回転閾値Nbに達していない場合、平滑コンデンサ21の過電圧が発生する可能性が低いとして、ステップS110にて制御停止処理を行う。
【0057】
モータ12においては、モータ回転数Nmが大きいほど逆起電力が大きくなる。これに対して、モータ12の逆起電力による電圧を逆起電圧と称すると、ステップS107では、回転閾値Nbがモータ12の逆起電圧がインバータ30への印加電圧の上限値以下になる回転数に設定されている。また、回転閾値Nbは、モータ12の逆起電力によるコンデンサ電圧Vcの上昇が過剰にならない程度の回転数になっている。このため、ステップS105にてコンデンサ電圧Vcがコンデンサ閾値Vcx以上であると判断された場合でも、モータ回転数Nmが回転閾値Nbに達していなければ、平滑コンデンサ21の過電圧が生じにくくなっている。なお、上述したように、インバータ30の耐電圧値としては、インバータ30において最も耐電圧値の低い部品や機器の耐電圧値が設定されており、この耐電圧値に応じて回転閾値Nbが設定されている。
【0058】
モータ回転数Nmが回転閾値Nbに達した場合、ステップS108,S109の処理を行う。
【0059】
ステップS108では、モータ12において弱め界磁が生じるように、モータ回転数Nmに応じてd軸電流指令値Id*を設定する、という弱め界磁設定処理を行う。この弱め界磁設定では、モータ12において固定子の巻線12aに流れる電流により生じる磁界が回転子の永久磁石による界磁磁束を弱めるように、d軸電流指令値Id*を設定する。例えば、モータ回転数Nmが大きいほど、弱め界磁により発生する磁界が強くなるようにd軸電流指令値Id*を設定する。これにより、モータ回転数Nmが増加しても、モータ12の起電力が増加しにくくなり、モータ12からの回生電力が平滑コンデンサ21に供給されるということが抑制される。なお、制御装置40におけるステップS108の処理を実行する機能が弱め界磁設定部に相当する。
【0060】
ステップS109ではフィードバック設定処理によりq軸電流指令値Iq*を設定する。このフィードバック設定処理では、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ指令値Vc*になるようにフィードバック制御によりq軸電流指令値Iq*を設定する。コンデンサ指令値Vc*は、例えば平滑コンデンサ21の最大許容電圧や定格電圧に応じてあらかじめ定められており、コンデンサ閾値Vcxよりも小さい値になっている。コンデンサ指令値Vc*は、試験やシミュレーション等により取得された情報であり、制御装置40の記憶部に記憶されている。
【0061】
制御装置40におけるステップS109のフィードバック設定処理を実行する機能が、
図4に示すフィードバック設定部53に相当する。フィードバック設定部53は、オープン指令部52に含まれている。オープン指令部52には、フィードバック設定部53に加えて、弱め界磁設定部が含まれている。
【0062】
フィードバック設定部53は、コンデンサ減算部54及びコンデンサ制御部55を有している。コンデンサ減算部54には、記憶部から読み込まれたコンデンサ指令値Vc*と、コンデンサ電圧センサ24により検出されたコンデンサ電圧Vcとが入力される。コンデンサ減算部54は、コンデンサ指令値Vc*とコンデンサ電圧Vcとの偏差をコンデンサ偏差として算出する。このコンデンサ偏差はコンデンサ制御部55に入力される。
【0063】
コンデンサ制御部55は、コンデンサ偏差がゼロになるようにq軸電流指令値Iq*を算出する。コンデンサ制御部55は、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ指令値Vc*に一致するようにフィードバック制御を行ってq軸電流指令値Iq*を算出する。コンデンサ制御部55は、フィードバック制御として例えばPI制御を行う。コンデンサ制御部55により設定されたq軸電流指令値Iq*は、d軸減算部43に入力される。なお、コンデンサ減算部54及びコンデンサ制御部55は機能ブロックである。そして、制御装置40は、ステップS108,S109にて設定された指令値Id*,Iq*を用いてインバータ30の駆動制御を行う。
【0064】
上述したようにコンデンサ指令値Vc*がコンデンサ閾値Vcxよりも小さい値になっているため、フィードバック設定部53は、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ閾値Vcxよりも大きくならないようにq軸電流指令値Iq*を設定することになる。このため、フィードバック設定部53は、コンデンサ電圧Vcの増加を抑制するようにq軸電流指令値Iq*を設定する抑制設定部の一例である。この抑制設定部は、制御装置40におけるステップS109の処理を実行する機能でもある。
【0065】
図3の説明に戻り、ステップS108,S109にて指令値Id*,Iq*を設定した後は、再びステップS106,S107の処理を行う。そして、モータ回転数Nmが回転閾値Nbより小さくなるまでステップS108,S109にて指令値Id*,Iq*の設定処理を繰り返し行う。その後、モータ回転数Nmが回転閾値Nbより小さくなった場合、ステップS110に進み、制御停止処理を行う。なお、回転閾値Nbは、ステップS109のフィードバック設定処理を開始する開始閾値と、ステップS109のフィードバック設定処理を終了する終了閾値との両方に相当する。
【0066】
次に、開閉器22のオープン異常が発生した場合のコンデンサ電圧Vcの変化について、
図5を参照しつつ説明する。
【0067】
図5に示すタイミングt1は、モータ12が回転駆動している状態が保たれたまま開閉器22が閉状態から開状態に切り替わったタイミングである。タイミングt1では、モータ12から平滑コンデンサ21への回生電力の供給が開始されたことに伴って、コンデンサ電圧Vcが上昇し始める。
【0068】
図5では、開閉器22がタイミングt1の後も閉状態に復帰せず、制御装置40は、開閉器22が閉状態に復帰しないことをオープン異常の発生として判断する。そして、制御装置40は、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ閾値Vcx以上であり、且つモータ回転数Nmが回転閾値Nb以上である場合に、弱め界磁設定処理及びフィードバック設定処理による指令値Id*,Iq*の設定を開始する。これにより、タイミングt2にて、コンデンサ電圧Vcが低下し始め、その後、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ閾値Vcxに一致する値や近い値で保たれている。
【0069】
ここまで説明した本実施形態によれば、開閉器22のオープン異常が発生した場合に、モータ回転数Nmに合わせた弱め界磁が行われるようにd軸電流指令値Id*が設定される。このため、モータ12の逆起電力を低減するために弱め界磁を有効に活用することができる。
【0070】
ここで、開閉器22のオープン異常が発生した場合、モータ12の逆起電力のうち実効電力が平滑コンデンサ21に供給されると、この実効電力が平滑コンデンサ21に溜まることで平滑コンデンサ21の過電圧が生じやすくなる。そこで、モータ12の逆起電力に含まれる実効電力がゼロになるようにq軸電流指令値Iq*をゼロにすることが考えられる。しかしながら、各相電流Iu,Iv,Iwと共にq軸電流Iqが離散的なサンプリング値になっていることに起因して、このq軸電流Iqとq軸電流指令値Iq*との間に位相差が生じることがある。このようにq軸電流指令値Iq*をゼロに設定したとしても、q軸電流Iqがq軸電流指令値Iq*に一致せずに負の値になってモータ12の逆起電力が回生電力として平滑コンデンサ21に供給される、ということが懸念される。この場合、モータ12からの回生電力が平滑コンデンサ21に溜まってコンデンサ電圧Vcが上昇すると、平滑コンデンサ21の過電圧が生じやすくなってしまう。
【0071】
これに対して、フィードバック設定部53は、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ指令値Vc*に一致するようにフィードバック制御によりq軸電流指令値Iq*を設定する。このように、制御装置40では、q軸電流Iqをゼロにするための処理が行われるのではなく、コンデンサ電圧Vcをコンデンサ指令値Vc*に維持するための処理が行われる。このため、仮にq軸電流Iqとq軸電流指令値Iq*との間に位相差が生じていたとしても、モータ12の逆起電力のうち実効電力が平滑コンデンサ21に供給されるということが生じにくくなっている。この場合、コンデンサ電圧Vcの管理精度が向上するため、各相電流Iu,Iv,Iwのサンプリング周期を短くするなどしてq軸電流Iqとq軸電流指令値Iq*との間の位相差を低減する、という応答性が低下するような対策を行う必要がない。したがって、コンデンサ電圧Vcの増加を抑制するようにコンデンサ電圧Vcを管理する上で、q軸電流Iqの取得に関する応答性など制御装置40の応答性を高めることができる。
【0072】
一方で、モータ12の起電力のうち無効電力はインバータ30を介してモータ12と平滑コンデンサ21との間で授受される。無効電力は電気的な損失を生じさせないため、無効電力がインバータ30を通っても上アーム31aや下アーム31bのIGBT32などでは発熱が生じない。例えば、q軸電流Iqがゼロより小さい負の値になっていることで回生電力になる実効電力がモータ12の逆起電力に含まれていた場合を想定する。この場合でも、上述したようにモータ12の逆起電力自体が弱め界磁で低減されているため、q軸電流Iqが十分に小さな値になっており、この回生電力を、インバータ30にとって異常にならないような小さな熱しか発生しない程度に低減できる。
【0073】
以上のように、本実施形態によれば、インバータ30でのIGBT32等の発熱を抑制すること、及び平滑コンデンサ21の過電圧を抑制することの両方を実現できる。
【0074】
モータ12にて発生する電力については、下記式1、式2、式3の関係が成立する。これら式は、モータ12のU相を一例として示しており、V相、W相についても同様の式が成立する。なお、下記式においては、界磁電圧をVfとし、モータ12にて発生する電力をPmとし、U相電圧VuとU相電流Iuとの位相差をθとする。
【0075】
Vu=Vf×sinθ …式1
Iu=Id×cosθ-Iq×sinθ …式2
Pm=Vu×Iu=Vf×Id×sinθcosθ …式3
上記式3は、モータ12にて発生する電力Pmについて、q軸電流Iqがゼロの場合を想定している。このため、式3においては、無効電力を示す項を記載している一方で、実効電力を示す項は記載していない。式3は、無効電力が時間平均で0[W]であることを示している。なお、q軸電流Iqがゼロよりも大きい正の値になった場合には、モータ12が力行していることになり、式3には実効電力を示す項としてモータ12の力行を示す項が残る。一方、q軸電流Iqがゼロよりも小さい負の値になった場合には、モータ12が回生していることになり、式3には実効電力を示す項としてモータ12の回生を示す項が残る。
【0076】
開閉器22のオープン異常が発生した場合に、本実施形態とは異なり、例えばインバータ30についてアクティブショートサーキットが行われる構成を想定する。アクティブショートサーキットは、制御装置40が、上アーム31a及び下アーム31bのうち一方について3相全てのIGBT32をオン駆動し、他方について3相全てのIGBT32をオフ駆動することで実現される。アクティブショートサーキットが行われると、モータ12と平滑コンデンサ21とを電気的に接続する経路が遮断された状態になるため、モータ12の逆起電力が平滑コンデンサ21に供給されることが規制される。
【0077】
一方で、モータ12の逆起電力による電流が上アーム31aや下アーム31bのIGBT32を流れる。この場合、モータ12の高出力化が図られると、モータ12にて発生する界磁磁束である鎖交磁束が増加するため、アクティブショートサーキットが行われた状態ではIGBT32を流れる電流が鎖交磁束に比例して増加する。このため、IGBT32を流れる電流によりインバータ30において発生する熱が過剰に大きくなることが懸念される。この結果、インバータ30の冷却が発熱に追い付かなくなるという「熱成立しない状態」になってしまう。
【0078】
これに対して、本実施形態によれば、上述したように、モータ12の逆起電力には実効電力が含まれていない。仮にモータ12の逆起電力に実効電力が含まれていたとしても、この実効電力を十分に低減することができる。したがって、インバータ30が「熱成立しない状態」になることを抑制できる。
【0079】
本実施形態によれば、フィードバック設定部53がコンデンサ電圧Vcを用いたフィードバック制御によりq軸電流指令値Iq*を設定するため、q軸電流指令値Iq*の制御精度を高めることができる。しかも、フィードバック設定部53は、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ閾値Vcx以上である場合にq軸電流指令値Iq*の設定を開始する。このため、コンデンサ電圧Vcが適正な値であるにもかかわらず、コンデンサ電圧Vcを更に小さくするための処理を行うということを回避できる。これにより、制御装置40の処理負担を低減できる。
【0080】
本実施形態によれば、フィードバック設定部53によるq軸電流指令値Iq*の設定が、モータ回転数Nmが回転閾値Nbより小さくなった場合に終了される。このため、平滑コンデンサ21の過電圧を抑制するという観点でモータ12の逆起電力が十分に小さくなったにもかかわらず、フィードバック設定部53によるq軸電流指令値Iq*の設定が継続して行われる、ということを回避できる。これにより、制御装置40の処理負担を低減できる。
【0081】
本実施形態によれば、フィードバック設定部53によるq軸電流指令値Iq*の設定が、モータ回転数Nmが回転閾値Nb以上になった場合に開始される。このため、平滑コンデンサ21の過電圧が懸念されるほどにモータ回転数Nmが増加してモータ12の逆起電力が大きい場合に、平滑コンデンサ21の過電圧が発生しないように、q軸電流指令値Iq*を用いてモータ12の起電力を適正に管理することができる。
【0082】
本実施形態によれば、モータ回転数Nmについて回転閾値Nbは、モータ12の逆起電力がインバータ30への印加電圧の上限値以下になるような回転数に設定されている。このため、インバータ30にとって過剰に大きな電圧がモータ12の逆起電力により印加される、ということをより確実に抑制できる。これにより、インバータ30の過電圧によりインバータ30にて異常が生じるということを回避できる。
【0083】
<第2実施形態>
上記第1実施形態では、オープン指令部52がフィードバック設定部53を有していたが、第2実施形態では、オープン指令部52がフィードバック設定部53に代えて相関設定部62を有している。本実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については上記第1実施形態と同様である。本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0084】
図6に示すように、制御装置40は、機能ブロックとしてモータ温度取得部61を有している。モータ温度取得部61は、上位ECUや各種センサから入力された信号を用いて、モータ12の温度であるモータ温度Tmを検出値として取得する。例えば、温度を検出するサーミスタ等の温度センサがモータ12の周囲に設けられており、モータ温度取得部61は、この温度センサからの検出信号を用いてモータ温度Tmを算出して取得する。なお、モータ温度取得部61は、検出値としての各相電流Iu,Iv,Iwや各相電圧Vu,Vv,Vwなどを用いてモータ温度Tmを推定して取得してもよい。また、モータ温度取得部61は、d軸電流Idやq軸電流Iq、d軸電圧Vd、q軸電圧Vqなどを用いてモータ温度Tmを推定して取得してもよい。さらに、モータ温度取得部61が温度取得部に相当し、モータ温度Tmが取得値に相当する。
【0085】
モータ温度Tmは相関設定部62に入力される。相関設定部62は、オープン指令部52に含まれている。相関設定部62には、モータ温度Tmに加えて、上記第1実施形態のステップS106にて取得されたモータ回転数Nmが入力される。相関設定部62は、相関マップ63を用いてモータ回転数Nm及びモータ温度Tmからq軸電流指令値Iq*を設定する。
【0086】
相関マップ63は、モータ回転数Nmとモータ温度Tmとq軸電流Iqとコンデンサ電圧Vcとの相関関係を示す相関情報である。相関マップ63は、試験やシミュレーション等により取得された情報であり、制御装置40の記憶部に記憶されている。なお、相関マップ63には、少なくともモータ回転数Nmとモータ温度Tmとq軸電流Iqとをパラメータとしてこれらパラメータの相関関係が含まれていれば、コンデンサ電圧Vcはパラメータとして含まれていなくてもよい。
【0087】
相関マップ63には、モータ回転数Nmやモータ温度Tmに対して、モータ12の逆起電力が発生する可能性が高いq軸電流Iqの値や、モータ12の逆起電力が発生しない可能性が高いq軸電流Iqの値などの情報が含まれている。また、相関マップ63には、モータ回転数Nmやモータ温度Tmに対して、モータ温度Tmが低下しやすいq軸電流Iqの値や、モータ回転数Nmが変動しにくいq軸電流Iqの値などの情報が含まれている。相関設定部62は、相関マップ63を用いて、モータ12の逆起電力が発生しないように都度のモータ回転数Nmやモータ温度Tmに応じてq軸電流指令値Iq*を設定する。この場合、相関設定部62はフィードフォワード制御を行うことになる。
【0088】
本実施形態によれば、相関設定部62は、相関マップ63を用いてq軸電流指令値Iq*を設定するため、フィードバック制御を行う必要がない。このため、相関設定部62がq軸電流指令値Iq*を設定する処理について応答性を高めることができる。これにより、コンデンサ電圧Vcを管理する上で、コンデンサ電圧Vcの増減やモータ回転数Nmの変化に対する制御装置40の応答性を高めることができる。
【0089】
本実施形態によれば、モータ回転数Nm及びモータ温度Tmに応じてq軸電流指令値Iq*が設定される。モータ12の逆起電力は、モータ回転数Nm及びモータ温度Tmの両方に応じて変化しやすいため、これらモータ回転数Nm及びモータ温度Tmの両方に応じてq軸電流指令値Iq*を設定することで、モータ12の逆起電力を適正に管理できる。この結果、コンデンサ電圧Vcの管理精度が向上するため、平滑コンデンサ21の過電圧が生じることをより確実に抑制できる。なお、相関設定部62は、コンデンサ電圧Vcの増加を抑制するようにq軸電流指令値Iq*を設定しており、上記第1実施形態のフィードバック設定部53と同様に抑制設定部の一例である。
【0090】
<第3実施形態>
オープン指令部52は、上記第1実施形態ではフィードバック設定部53を有し、第2実施形態では相関設定部62を有しているが、第3実施形態では、オープン指令部52がフィードバック設定部53及び相関設定部62の両方を有している。本実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については上記第2実施形態と同様である。本実施形態では、上記第2実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0091】
図7に示すように、オープン指令部52は、フィードバック設定部53及び相関設定部62に加えて、総合設定部65を有している。総合設定部65には、フィードバック設定部53及び相関設定部62のそれぞれが設定したq軸電流指令値Iq*が入力される。フィードバック設定部53によるq軸電流指令値Iq*を第1指令値と称し、相関設定部62によるq軸電流指令値Iq*を第2指令値と称すると、総合設定部65は、これら第1指令値及び第2指令値を用いてq軸電流指令値Iq*を設定する。総合設定部65が設定したq軸電流指令値Iq*は、第1指令値及び第2指令値から総合的に設定された総合指令値であり、d軸減算部43に入力される。
【0092】
総合設定部65は、例えば、第1指令値と第2指令値との平均値を算出し、この平均値をq軸電流指令値Iq*として設定する。なお、総合設定部65は、第1指令値及び第2指令値のうち一方を優先的に用いてq軸電流指令値Iq*を設定してもよい。例えば、総合設定部65は、コンデンサ電圧Vcについて管理精度と応答性とのいずれを優先するのかを判定し、管理精度を優先すると判断した場合にフィードバック設定部53による第1指令値をq軸電流指令値Iq*としてそのまま設定する。一方、総合設定部65は、応答性を優先すると判断した場合に相関設定部62による第2指令値をq軸電流指令値Iq*としてそのまま設定する。
【0093】
<第4実施形態>
上記第1実施形態では、オープン指令部52がフィードバック設定部53を有していたが、第4実施形態では、オープン指令部52がフィードバック設定部53に代えて特定設定部71を有している。本実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については上記第1実施形態と同様である。本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0094】
図8に示す特定設定部71は、オープン指令部52に含まれた機能ブロックである。特定設定部71は、あらかじめ定められた特定値をq軸電流指令値Iq*として設定する。特定値は、ゼロより大きい正の値であり、モータ12についてモータ回転数Nmやモータ温度Tmなどの運転状態に関係なく、モータ12が回生しない値になっている。すなわち、特定値は、モータ12の運転状況に関係なくモータ12が力行するように十分に大きな値になっている。特定値は、試験やシミュレーション等により取得された情報であり、制御装置40の記憶部に記憶されている。
【0095】
本実施形態によれば、特定設定部71がゼロより大きい正の特定値をq軸電流指令値Iq*として設定する。これは、q軸電流Iqとq軸電流指令値Iq*との間に位相差が生じていたとしても、モータ12について回生よりも力行が生じやすくなるようにq軸電流指令値Iq*を設定することになる。モータ12の力行が行われた場合には、平滑コンデンサ21の電力がモータ12の力行で消費されることになるため、平滑コンデンサ21の過電圧が生じるということをより確実に抑制できる。
【0096】
<第5実施形態>
上記第1実施形態では、モータ回転数Nmについて、ステップS109のフィードバック設定処理を開始するための判断基準である開始閾値と、このフィードバック設定処理を終了するための判断基準である終了閾値とが、いずれも回転閾値Nbになっていた。これに対して、第5実施形態では、開始閾値と終了閾値とが互いに異なる値に設定されている。本実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については上記第1実施形態と同様である。本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0097】
電流指令部50が実行する指令処理について、
図9に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0098】
図9において、ステップS101~S107では、上記第1実施形態のステップS101~S107と同じ処理を実行する。ステップS107において、モータ回転数Nmが回転閾値Nb以上であると判断された場合、ステップS121に進む。モータ回転数Nmが回転閾値Nb以上である場合、ステップS109がフィードバック設定処理を開始することになる。このため、回転閾値Nbが開始閾値に相当する。
【0099】
ステップS121では、モータ回転数Nmがあらかじめ定められた終了閾値Nxより小さいか否かを判定する。終了閾値Nxは、回転閾値Nbより小さい値に設定されている。このため、モータ回転数Nmが回転閾値Nb以上であるとして、ステップS106からステップS107に進んできた場合には、モータ回転数Nmが終了閾値Nxより大きいことになるため、ステップS108,S109の処理を行う。終了閾値Nxは、試験やシミュレーションにより取得された情報であり、制御装置40の記憶部に記憶されている。
【0100】
モータ回転数Nmが回転閾値Nb以上であるとしてステップS108にて弱め界磁設定処理が行われた場合、モータ12の逆起電力が生じにくく、且つモータ回転数Nmがある程度大きい、という状態になっていることがある。この状態で、オープン異常が解消されるなどして開閉器22が開状態から閉状態に移行すると、バッテリ11からの電力供給に伴ってモータ12に大電流が流れてモータ12の回転が急加速することが懸念される。これに対して、終了閾値Nxは、モータ回転数Nmについて、開閉器22が閉状態に移行してもモータ12の急加速が生じにくくなる程度に小さな回転数に設定されている。
【0101】
本実施形態では、ステップS108の弱め界磁設定処理とステップS109のフィードバック設定処理を行った後、ステップS107ではなくステップS121に進む。そして、ステップS108,S109の後、ステップS121に戻る前の段階で、ステップS122にて禁止処理を行う。この禁止処理では、開閉器22が開状態から閉状態に移行することを禁止する。例えば、開閉器22に対して禁止部が設けられた構成とする。禁止部は、開閉器22について閉状態への移行を禁止する禁止状態と、閉状態への移行を許可する許可状態とに移行可能になっている。この禁止処理では、禁止部を許可状態から禁止状態に移行させる。
【0102】
このため、ステップS108,S109の弱め界磁設定処理及びフィードバック設定処理は、モータ回転数Nmが終了閾値Nxより小さくなるまで繰り返し実行される。つまり、開閉器22が閉状態に移行したとしてもモータ12の急加速が生じにくくなる程度にモータ回転数Nmが十分に小さくなったら、弱め界磁設定処理及びフィードバック設定処理が終了される。
【0103】
モータ回転数Nmが終了閾値Nxより小さくなった場合、ステップS110にて制御停止処理を行う。この制御停止処理では、禁止部を禁止状態から許可状態に移行させる処理を行う。これにより、例えばオープン異常が既に解消していた場合であれば、開閉器22が開状態から閉状態に移行可能になる。そして、仮に開閉器22が閉状態に移行したとしても、モータ回転数Nmが十分に小さくなっているため、モータ12の急加速が生じにくくなっている。
【0104】
<他の実施形態>
この明細書の開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品、要素の組み合わせに限定されず、種々変形して実施することが可能である。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品、要素が省略されたものを包含する。開示は、一つの実施形態と他の実施形態との間における部品、要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示される技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0105】
上記第1実施形態において、コンデンサ指令値Vc*は、コンデンサ閾値Vcxより小さい値ではなく、コンデンサ閾値Vcxと同じ値に設定されていてもよい。この構成でも、ステップS109のフィードバック設定処理が、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ閾値Vcxより大きくなることを抑制する処理であることには変わりがない。
【0106】
上記各実施形態において、ステップS109のフィードバック設定処理を実行するか否かの判断基準としては、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ閾値Vcx以上であること、及びモータ回転数Nmが回転閾値Nb以上であること、のうち一方が用いられてもよい。例えば、モータ12が回転している状態で開閉器22が開状態に移行した場合には、コンデンサ電圧Vc及びモータ回転数Nmのいずれにも関係なくステップS109のフィードバック設定処理が実行される、という構成になっていてもよい。
【0107】
上記各実施形態において、ステップS109のフィードバック設定処理を繰り返し実行するか否かの判断基準として用いるパラメータは、コンデンサ電圧Vcであってもよい。例えば、
図3のフローチャートにおいて、ステップS109のフィードバック設定処理を行った後、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ閾値Vcx以上であるか否かを判定し、以上である場合にフィードバック設定処理を再び行う、という構成とする。この構成では、コンデンサ電圧Vcについて、ステップS109のフィードバック設定処理を開始するか否かの判断基準に用いる開始閾値と、終了するか否かの判断基準に用いる終了閾値とは、同一の値でもよく、互いに異なる値でもよい。コンデンサ電圧Vcの過電圧を抑制するという観点では、開始閾値がコンデンサ閾値Vcxであれば、終了閾値はコンデンサ閾値Vcxよりも小さい値に設定されることが好ましい。
【0108】
上記各実施形態において、ステップS109では、コンデンサ電圧Vcを用いてq軸電流指令値Iq*を設定する処理を、フィードバック制御とは異なるシーケンス制御やフィードフォワード制御などの制御則により実行してもよい。この構成でも、コンデンサ電圧Vcがコンデンサ指令値Vc*になるようにq軸電流指令値Iq*を設定することは可能である。
【0109】
上記第2実施形態において、相関設定部62がq軸電流指令値Iq*を設定するために用いる相関情報としては、相関マップ63の他に、関数やテーブルなどを採用することができる。
【0110】
上記第2実施形態において、相関設定部62は、モータ回転数Nm及びモータ温度Tmのうち一方だけを用いてq軸電流指令値Iq*を設定してもよい。例えば、相関設定部62が、少なくともモータ回転数Nmとq軸電流Iqとの相関関係を示す相関マップ等の相関情報を用いて、モータ回転数Nmからq軸電流指令値Iq*を設定する。また、相関設定部62が、モータ温度Tmからq軸電流指令値Iq*を設定する構成であれば、この設定には、少なくともモータ温度Tmとq軸電流Iqとの相関関係を示す相関マップ等の相関情報が用いられる。
【0111】
上記第1~第4実施形態において、オープン指令部52は、フィードバック設定部53、相関設定部62及び特定設定部71のうち少なくとも2つを有していてもよい。例えば、第3実施形態の総合設定部65が、フィードバック設定部53、相関設定部62及び特定設定部71のそれぞれにより設定されたq軸電流指令値Iq*から総合的にq軸電流指令値Iq*を設定してもよい。
【0112】
上記第1~第3実施形態において、フィードバック設定部53及び相関設定部62がq軸電流指令値Iq*をゼロよりも大きい正の値に設定してもよい。例えば、フィードバック設定部53において、コンデンサ制御部55により設定されたq軸電流指令値Iq*がゼロ以下の場合に、q軸電流指令値Iq*がゼロよりも大きい値になるようにコンデンサ制御部55によりq軸電流指令値Iq*の設定を再び行う。この構成によれば、モータ12により回生ではなく力行が行われるため、平滑コンデンサ21の過電圧をより確実に抑制できる。
【0113】
上記各実施形態において、駆動システム10の開閉器22は、Pライン25及びNライン26のうち一方だけに設けられていてもよい。すなわち、開閉器22がバッテリ11と平滑コンデンサ21との導通を遮断可能な構成であればよい。
【0114】
上記各実施形態において、バッテリ11と平滑コンデンサ21との導通が遮断された状態にある場合としては、開閉器22が開状態にある場合の他に、バッテリ11と平滑コンデンサ21との間にてPライン25やNライン26の切断が生じた場合などが挙げられる。
【0115】
上記各実施形態において、電流センサ28は、巻線12aを流れる電流を3相の全てについて検出していなくてもよい。例えば、電流センサ28が3相のうち2相について検出信号を出力し、制御装置40の電流算出部が検出信号に対応した2相について各相電流を算出し、残り1相の各相電流については2相の各相電流から推定してもよい。
【0116】
上記各実施形態において、コンデンサ閾値Vcxや回転閾値Nbは、インバータ30の耐電圧値に応じて設定されるのではなく、平滑コンデンサ21の耐電圧値や、駆動システム10の耐電圧値に応じて設定されていてもよい。平滑コンデンサ21や駆動システム10については、それぞれの定格値や最大許容電圧に応じて、これら平滑コンデンサ21や駆動システム10への印加電圧の上限値が耐電圧値として設定されている。例えば、駆動システム10において最も耐電圧の低い部品や機器の耐電圧値が駆動システム10の耐電圧値として設定されている。
【0117】
上記各実施形態において、制御装置40は、少なくとも1つのコンピュータを含む制御システムによって提供される。制御システムは、ハードウェアである少なくとも1つのプロセッサ(ハードウェアプロセッサ)を含む。ハードウェアプロセッサは、下記(i)、(ii)、又は(iii)により提供することができる。
【0118】
(i)ハードウェアプロセッサは、ハードウェア論理回路である場合がある。この場合、コンピュータは、プログラムされた多数の論理ユニット(ゲート回路)を含むデジタル回路によって提供される。デジタル回路は、プログラム及びデータの少なくとも一方を格納したメモリを備える場合がある。コンピュータは、アナログ回路によって提供される場合がある。コンピュータは、デジタル回路とアナログ回路との組み合わせによって提供される場合がある。
【0119】
(ii)ハードウェアプロセッサは、少なくとも1つのメモリに格納されたプログラムを実行する少なくとも1つのプロセッサコアである場合がある。この場合、コンピュータは、少なくとも1つのメモリと、少なくとも1つのプロセッサコアとによって提供される。プロセッサコアは、例えばCPUと称される。メモリは、記憶媒体とも称される。メモリは、プロセッサによって読み取り可能な「プログラム及びデータの少なくとも一方」を非一時的に格納する非遷移的かつ実体的な記憶媒体である。
【0120】
(iii)ハードウェアプロセッサは、上記(i)と上記(ii)との組み合わせである場合がある。(i)と(ii)とは、異なるチップの上、又は共通のチップの上に配置される。
【0121】
すなわち、制御装置40が提供する手段及び機能の少なくとも一方は、ハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、又はそれらの組み合わせにより提供することができる。
【0122】
上記各実施形態において、インバータ30を構成するスイッチング素子は、IGBT32に限定されない。例えばMOSFETなどを用いてもよい。
【0123】
上記各実施形態では、モータ12において、界磁を形成する永久磁石を含んで固定子が構成されていてもよく、電機子を形成する巻線12aを含んで回転子が構成されていてもよい。また、モータ12は、複数相の交流モータであれば、3相の交流モータでなくてもよい。例えば、モータ12として、2相の交流モータや、4相以上の交流モータが用いられてもよい。
【0124】
上記各実施形態において、電力変換装置13が搭載された車両としては、乗用車やバス、建設作業車、農業機械車両などがある。また、車両は移動体の1つであり、電力変換装置13が搭載される移動体としては、車両の他に電車や飛行機などある。電力変換装置13としては、インバータ装置やコンバータ装置などがある。このコンバータ装置としては、交流入力直流出力の電源装置、直流入力直流出力の電源装置、交流入力交流出力の電源装置などがある。
【符号の説明】
【0125】
11…電源部としてのバッテリ、12…モータ、12a…巻線、13…電力変換装置、21…平滑コンデンサ、30…電力変換部としてのインバータ、40…制御装置、42…座標変換部としての3相2相変換部、53…フィードバック設定部、61…温度取得部としてのモータ温度取得部、62…相関設定部、63…相関情報としての相関マップ、71…特定設定部、Id…d軸電流、Id*…d軸電流指令値、Iq…q軸電流、Iq*…q軸電流指令値、Nb…開始閾値及び終了閾値としての回転閾値、Nm…回転数としてのモータ回転数、Nx…終了閾値としての回転閾値、Tm…温度としてのモータ温度、Vc…コンデンサ電圧、Vcx…閾値としてのコンデンサ閾値、Vc*…コンデンサ指令値、S106…回転取得部、S108…弱め界磁設定部、S109…抑制設定部。