(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】アイリス及びレーザ発振器
(51)【国際特許分類】
H01S 3/106 20060101AFI20240607BHJP
【FI】
H01S3/106
(21)【出願番号】P 2020119131
(22)【出願日】2020-07-10
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】河村 譲一
(72)【発明者】
【氏名】田中 研太
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-342681(JP,A)
【文献】特開2020-098814(JP,A)
【文献】実開昭49-037894(JP,U)
【文献】特開2017-064757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光共振器に閉じ込められたレーザビームの経路に配置されるアイリスであって、
前記光共振器に閉じ込められたレーザビームが通過する通過領域と、前記通過領域の周囲に配置された遮光領域とを画定し、前記光共振器の光軸に対して直交する平面内で相互に直交する二方向の前記通過領域の寸法の比である縦横比が可変であ
り、
前記光共振器に閉じ込められたレーザビームはパルスレーザビームであり、レーザビームのパルスの繰り返し周波数に基づいて、前記通過領域の縦横比が調整されるアイリス。
【請求項2】
前記光共振器の光軸に対して直交する平面内で相互に直交する二方向のうち第1方向の前記通過領域の寸法が可変であり、前記第1方向と直交する第2方向の前記通過領域の寸法が固定である請求項1に記載のアイリス。
【請求項3】
大きさが不変の開口が設けられた第1部材と、
前記第1部材に対して前記第1方向に移動可能に支持され、前記第1方向に移動することによって前記第1部材の開口の縁から内側に入り込んだ一部の領域を塞ぐ第2部材と
を含み、
前記第1部材の開口のうち前記第2部材で塞がれていない領域が前記通過領域となる請求項2に記載のアイリス。
【請求項4】
前記第2部材は、前記第1方向に分割された2つのパーツを含み、前記第2部材の2つのパーツは、前記第1部材の開口の一部分を、前記第1方向の両側から塞ぐ請求項3に記載のアイリス。
【請求項5】
レーザビームを閉じ込める光共振器と、
前記光共振器に閉じ込められたレーザビームが通過する通過領域と、前記通過領域の周囲に配置された遮光領域を画定し、前記光共振器の光軸に対して直交する平面内で相互に直交する二方向の前記通過領域の寸法の比である縦横比が可変であるアイリスと、
前記光共振器、前記アイリス、及びレーザ媒質ガスを収容するチェンバと、
前記アイリスの前記通過領域の縦横比を、前記チェンバの外から操作して変更する縦横比変更機構と
を有
し、
前記光共振器に閉じ込められたレーザビームはパルスレーザビームであり、レーザビームのパルスの繰り返し周波数に基づいて、前記通過領域の縦横比が調整されるレーザ発振器。
【請求項6】
前記光共振器の光軸に対して直交する平面内で相互に直交する二方向のうち第1方向の前記通過領域の寸法が可変であり、前記第1方向と直交する第2方向の前記通過領域の寸法が固定されている請求項5に記載のレーザ発振器。
【請求項7】
前記アイリスは、
大きさが不変の開口が設けられた第1部材と、
前記第1部材に対して前記第1方向に移動可能に支持され、前記第1方向に移動することによって前記第1部材の開口の縁から内側に入り込んだ一部の領域を塞ぐ第2部材と
を含み、
前記縦横比変更機構は、前記第2部材を前記第1部材に対して前記第1方向に移動させる請求項6に記載のレーザ発振器。
【請求項8】
前記第2部材は、前記第1方向に分割された2つのパーツを含み、前記第2部材の2つのパーツは、前記第1部材の開口を、前記第1方向の両側から塞ぎ、
前記縦横比変更機構は、前記第2部材の2つのパーツをそれぞれ前記第1方向に移動させる請求項7に記載のレーザ発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光共振器内に配置されるアイリス、及びアイリスを搭載したレーザ発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ発振器は、フロントミラー及びリアミラーで構成される光共振器、及び放電電極等の励起機構を含む。一般的に、光共振器の光軸上にフロントアイリス、リアアイリス、またはその両方が配置される。アイリスを配置することにより、ビーム断面を真円に整形し、広がり角を抑制し、及び寄生発振を抑制することができる。円形のビーム断面のレーザビームを取り出すために、アイリスとして、真円の開口が設けられた金属板が使用される(例えば、下記の特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
真円の開口を持つアイリスを用いてビーム断面を整形しても、レーザ発振器から出力されたレーザビームのビーム断面の形状が真円から崩れて楕円状になる場合がある。
【0005】
本発明の目的は、ビーム断面の、真円からの崩れを抑制することが可能なアイリスを提供することである。本発明の他の目的は、ビーム断面の、真円からの崩れを抑制することが可能なレーザ発振器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
光共振器に閉じ込められたレーザビームの経路に配置されるアイリスであって、
前記光共振器に閉じ込められたレーザビームが通過する通過領域と、前記通過領域の周囲に配置された遮光領域とを画定し、前記光共振器の光軸に対して直交する平面内で相互に直交する二方向の前記通過領域の寸法の比である縦横比が可変であり、
前記光共振器に閉じ込められたレーザビームはパルスレーザビームであり、レーザビームのパルスの繰り返し周波数に基づいて、前記通過領域の縦横比が調整されるアイリスが提供される。
【0007】
本発明の他の観点によると、
レーザビームを閉じ込める光共振器と、
前記光共振器に閉じ込められたレーザビームが通過する通過領域と、前記通過領域の周囲に配置された遮光領域を画定し、前記光共振器の光軸に対して直交する平面内で相互に直交する二方向の前記通過領域の寸法の比である縦横比が可変であるアイリスと、
前記光共振器、前記アイリス、及びレーザ媒質ガスを収容するチェンバと、
前記アイリスの前記通過領域の縦横比を、前記チェンバの外から操作して変更する縦横比変更機構と
を有し、
前記光共振器に閉じ込められたレーザビームはパルスレーザビームであり、レーザビームのパルスの繰り返し周波数に基づいて、前記通過領域の縦横比が調整されるレーザ発振器が提供される。
【発明の効果】
【0008】
アイリスの通過領域の縦横比を変化させることにより、ビーム断面の形状を調整し、真円からの崩れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施例によるレーザ発振器を搭載したレーザ加工装置の概略図である。
【
図2】
図2は、実施例によるレーザ発振器の光軸を含む断面図である。
【
図3】
図3は、実施例によるレーザ発振器の光軸に垂直な断面図である。
【
図4】
図4は、放電電極、電極ボックス、及びアイリスを正面から見たときの位置関係を示す図である。
【
図6】
図6は、パルスの繰り返し周波数を変化させて、レーザ発振器の光透過窓から一定の光路長だけ進んだ位置でレーザビームのビームスポットのビーム径を測定する評価実験の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、他の実施例によるレーザ発振器の光軸に垂直な断面図である。
【
図8】
図8は、さらに他の実施例によるレーザ発振器に用いられるアイリスの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1~
図6を参照して、一実施例によるレーザ発振器について説明する。
図1は、本実施例によるレーザ発振器を搭載したレーザ加工装置の概略図である。レーザ加工装置は、レーザ発振器12、及び加工装置80を含む。
【0011】
レーザ発振器12は架台11の上に支持されており、架台11は共通ベース100に固定されている。加工装置80は、ビーム整形光学系81及びステージ82を含む。ステージ82の上に加工対象物90が保持される。ビーム整形光学系81及びステージ82は、共通ベース100に固定されている。レーザ発振器12とビーム整形光学系81との間のレーザビームの経路に、ビームプロファイラ50を配置することができる。レーザ加工中は、ビームプロファイラ50がレーザビームの経路から退避される。共通ベース100は、例えば床である。
【0012】
レーザ発振器12はパルスレーザビームを出力する。レーザ発振器12として、例えば炭酸ガスレーザ発振器が用いられる。なお、レーザ発振器12としてその他のガスレーザ発振器、例えばエキシマレーザ発振器を用いてもよい。レーザ発振器12から出力されたパルスレーザビームがビーム整形光学系81によってビームプロファイルを整形され、加工対象物90に入射する。
【0013】
図2は、実施例によるレーザ発振器12の光軸を含む断面図である。レーザ発振器12は、レーザ媒質ガス及び光共振器20等を収容するチェンバ15を含む。チェンバ15の内部空間が、相対的に上側に位置する光学室16と、相対的に下側に位置するブロワ室17とに区分されている。光学室16とブロワ室17とは、上下仕切り板18で仕切られている。なお、上下仕切り板18には、レーザ媒質ガスを光学室16とブロワ室17との間で流通させる開口が設けられている。ブロワ室17の側壁から光学室16の底板19が、光共振器20の光軸20Aの方向に張り出しており、光学室16の光軸方向の長さが、ブロワ室17の光軸方向の長さより長くなっている。
【0014】
チェンバ15の底板19が、4個の支持箇所45で架台11(
図1)に支持されている。4個の支持箇所45は、平面視において長方形の4個の頂点に相当する位置に配置されている。
【0015】
光学室16内に、一対の放電電極21及び一対の共振器ミラー25が配置されている。一対の放電電極21は、それぞれ電極ボックス22に固定されている。一対の電極ボックス22は複数の電極支持部材23を介して底板19に支持されている。一対の放電電極21は、上下方向に間隔を隔てて配置され、両者の間に放電領域24が画定される。放電電極21は放電領域24に放電を生じさせることにより、レーザ媒質ガスを励起させる。一対の共振器ミラー25は、放電領域24を通る光軸20Aを持つ光共振器20を構成する。後に
図3を参照して説明するように、放電領域24を
図2の紙面に垂直な方向にレーザ媒質ガスが流れる。
【0016】
一対の共振器ミラー25は、光学室16内に配置された共通の共振器ベース26に固定されている。共振器ベース26は、光軸20Aの方向に長い板状の部材であり、複数の光共振器支持部材27を介して底板19に支持されている。
【0017】
放電領域24で発生した光が一対の共振器ミラー25の間で反射を繰り返し、一対の共振器ミラー25の間の領域20Bに、共振器ミラー25の間の光路長に応じた波長の定在波が生じる。このようにして、一対の共振器ミラー25の間の領域20Bにレ―ザビームが閉じ込められる。光共振器20に閉じ込められたレーザビームの一部は、一方の共振器ミラー25(
図2において左側の共振器ミラー25)を透過して外部に出力される。光共振器20に閉じ込められたレーザビームの経路に、2つのアイリス60、70が配置されている。アイリス60、70は共振器ベース26に支持されている。2つのアイリス60、70は、放電領域24を光軸20Aの方向に挟む位置に配置されている。
【0018】
光共振器20の光軸20Aを一方向(
図1において左方向)に延伸させた延長線と光学室16の壁面との交差箇所に、レーザビームを透過させる光透過窓28が取り付けられている。光共振器20内で励振されたレーザビームが光透過窓28を透過して外部に放射される。光透過窓28側に配置されたアイリス60をフロントアイリスといい、他方のアイリス70をリアアイリスという場合がある。
【0019】
ブロワ室17にブロワ29が配置されている。ブロワ29は、光学室16とブロワ室17との間でレーザ媒質ガスを循環させる。
【0020】
図3は、実施例によるレーザ発振器12の光軸20A(
図2)に垂直な断面図である。
図2を参照して説明したように、チェンバ15の内部空間が上下仕切り板18により、上方の光学室16と下方のブロワ室17とに区分されている。光学室16内に、一対の放電電極21及び共振器ベース26が配置されている。一対の放電電極21は、それぞれ電極ボックス22に固定されている。電極ボックス22は、複数の電極支持部材23によってチェンバ15の底板19(
図2)に支持されている。一対の放電電極21の間に放電領域24が画定される。共振器ベース26は、複数の光共振器支持部材27によってチェンバ15の底板19(
図2)に支持されている。電極支持部材23及び光共振器支持部材27は、
図3に示した断面からずれた位置に配置されているため、
図3において電極支持部材23及び光共振器支持部材27を破線で表している。
【0021】
光学室16内に仕切り板40が配置されている。仕切り板40は、上下仕切り板18に設けられた開口18Aから放電領域24までの第1ガス流路41、放電領域24から上下仕切り板18に設けられた他の開口18Bまでの第2ガス流路42を画定する。レーザ媒質ガスは、放電領域24を、光軸20A(
図2)に対して直交する方向に流れる。放電方向は、レーザ媒質ガスが流れる方向、及び光軸20Aの両方に対して直交する。ブロワ室17、第1ガス流路41、放電領域24、及び第2ガス流路42によって、レーザ媒質ガスが循環する循環路が形成される。ブロワ29は、この循環路をレーザ媒質ガスが循環するように、矢印で示したレーザ媒質ガスの流れを発生させる。
【0022】
ブロワ室17内の循環路に、熱交換器43が収容されている。放電領域24で加熱されたレーザ媒質ガスが熱交換器43を通過することによって冷却され、冷却されたレーザ媒質ガスが放電領域24に再供給される。
【0023】
図4は、放電電極21、電極ボックス22、及びアイリス60を正面から見たときの位置関係を示すである。
図4において電極ボックス22にハッチングを付している。上下方向に対向する一対の放電電極21が、それぞれ電極ボックス22に固定されている。電極ボックス22に取り付けられた仕切り板40によって、レーザ媒質ガスの第1ガス流路41及び第2ガス流路42が画定される。なお、
図3は、仕切り板40を模式的に示しており、
図4に示した仕切り板40の形状は、
図3に模式的に示した仕切り板40の形状と異なっている。
【0024】
レーザ媒質ガスが、第1ガス流路41から一対の電極ボックス22の間の空間を経由し、第2ガス流路42に向かって流れる。
図4において、レーザ媒質ガスの流れを矢印で示している。一対の電極ボックス22の間の空間に放電領域24が含まれている。一対の電極ボックス22の間の空間へのレーザ媒質ガスの流入端に整流板44が配置されている。
【0025】
放電領域24と重なる位置にアイリス60が配置されている。正面から見てアイリス60は、レーザビームが通過する通過領域60Aと、その周囲に配置された遮光領域60Bとを含む。通過領域60Aは、正面から見て放電領域24に包含されている。光共振器20の光軸20A(
図2)に直交する平面内で相互に直交する二方向の、通過領域60Aの寸法の比が可変である。なお、もう一方のアイリス70(
図2)の通過領域は真円であり、その大きさは不変である。
【0026】
例えば、レーザ媒質ガスが流れる方向(
図4において横方向)を第1方向D1と定義し、一対の放電電極21が隔たる方向(
図4において縦方向)を第2方向D2と定義する。通過領域60Aの第1方向D1の寸法が可変であり、第2方向D2の寸法が固定されている。通過領域60Aの第1方向D1の寸法が変化すると、通過領域60Aの第1方向D1の寸法と第2方向D2の寸法との比(以下、縦横比という。)が変化する。
図4において、実線で示した通過領域60Aに対して第1方向D1の寸法が小さくなった通過領域60Aを破線で示している。
【0027】
次に、
図5A~
図5Cを参照してアイリス60の構成について説明する。
図5Aは、アイリス60の斜視図である。アイリス60は、第1部材61及び第2部材62を含む。第2部材62は、2つのパーツ62A、62Bを含む。第1部材61は、光共振器20(
図2)の光軸20Aに対して垂直に配置された板材(例えば金属板)であり、この板材にレーザビームの経路と重なる開口63が設けられている。開口63の大きさは不変である。
【0028】
第2部材62の2つのパーツ62A、62Bは、正面から見て光軸20Aを第1方向D1に挟む位置に配置されている。2つのパーツ62A、62Bの各々は、光軸20Aに対して垂直に配置された板材である。2つのパーツ62A、62Bの相互に対向する縁が、内側に向かって窪むように湾曲している。
【0029】
第2部材62の2つのパーツ62A、62Bは、スライド機構65によって第1方向D1に移動可能に支持されている。スライド機構65の案内面は共振器ベース26(
図2)に固定されている。2つのパーツ62A、62Bは、第1方向D1に独立に移動可能である。2つのパーツ62A、62Bを第1方向D1に移動させると、正面から見て第1部材61の開口63と、2つのパーツ62A、62Bとの相対位置関係が変化する。2つのパーツ62A、62Bが開口63と重なっていない状態から、2つのパーツ62A、62Bを光軸20Aに近づく向きに移動させると、2つのパーツ62A、62Bが開口63の一部分と重なり、開口63の一部分を第1方向D1の両側から塞ぐ。例えば、2つのパーツ62A、62Bは、開口63の縁から内側に入り込んだ領域を塞ぐ。開口63の塞がれた領域の面積は、第2部材62の2つのパーツ62A、62Bを移動させることによって変化する。
【0030】
図5B及び
図5Cは、第1部材61及び第2部材62の正面図である。
図5Bは、第2部材62の2つのパーツ62A、62Bが第1部材61の開口63と重なっていない状態を示している。このとき、第1部材61の開口63が、アイリス60の通過領域60Aに一致する。
【0031】
図5Cは、第2部材62の2つのパーツ62A、62Bが第1部材61の開口63の一部と重なった状態を示している。開口63のうち第2部材62と重なっていない領域が、アイリス60の通過領域60Aに一致する。第2部材62の2つのパーツ62A、62Bが開口63の一部分を塞ぐことにより、通過領域60Aの第1方向D1の寸法が小さくなる。通過領域60Aの第2方向D2の寸法は開口63の第2方向D2の寸法と等しく、不変である。
【0032】
次に、上記実施例の優れた効果について説明する。
レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームを加工対象物に入射させて複数の穴を形成する加工を行う場合、穴を形成すべき複数の位置にパルスレーザビームを順番に入射させる。直前に加工した穴から、次に加工すべき穴までの距離が長くなると、パルスレーザビームの入射位置の移動距離が長くなり、直前のショットから次のショットまでの時間が長くなる場合がある。このため、形成すべき穴の分布の影響を受けて、パルスの繰り返し周波数が変動する。形成する穴の形状を均一にするために、パルスの繰り返し周波数が変動してもビームスポットの形状が変わらないことが好ましい。
【0033】
本願の発明者らは、レーザ発振器12のパルスの繰り返し周波数を変化させて、レーザ発振器12の光透過窓28(
図2)から一定の光路長だけ進んだ位置でレーザビームのビームスポットの形状を観測する評価実験を行った。評価実験においては、アイリス60の通過領域60Aを真円とした。
【0034】
図6は、評価実験の結果を示すグラフである。横軸はパルスの繰り返し周波数を単位「kHz」で表し、縦軸は第1方向D1及び第2方向D2のビームスポットの寸法を相対値で表す。グラフ中の丸記号及び三角記号が、それぞれ第1方向D1の寸法及び第2方向D2寸法を示す。パルスの繰り返し周波数がいずれの値の場合でも、ビーム断面の第1方向D1の寸法が第2方向D2の寸法より大きい。このように、通過領域が真円のアイリス60、70を用いているにもかかわらず、ビーム断面は真円にならず、横長になる。これは、レーザ媒質ガスの流れと、放電の空間的不均一さの影響を受けて、第1方向D1と第2方向D2とで発振の状況が異なるためである。
【0035】
パルスの繰り返し周波数を低下させると、ビーム断面の寸法が大きくなる。ただし、第1方向D1の寸法の増加量が、第2方向D2の寸法の増加量より大きい。これは、レーザ媒質ガスの流れの方向(第1方向D1)に関する放電状態の不均一さが、第2方向D2に関する放電状態の不均一さに比べて、パルスの繰り返し周波数の変化の影響をより大きく受けるためである。パルスの繰り返し周波数が低下すると、ビーム断面の形状の、真円からの崩れが大きくなる。
【0036】
本実施例では、アイリス60の通過領域60Aの第1方向D1の寸法を変化させることにより、ビーム断面の形状を真円に近付けることができる。例えば、パルスの繰り返し周波数を低下させてビーム断面が第1方向D1に長くなったとき、通過領域60Aの第1方向D1の寸法を小さくすればよい。
【0037】
パルスの繰り返し周波数に応じて通過領域60Aの縦横比を調整することにより、パルスの繰り返し周波数を変えても、ビーム断面がほぼ真円の状態を維持することができる。
【0038】
さらに、本実施例では、第1部材61の開口63(
図5A)の一部分を第1方向D1の両側から塞ぐため、通過領域60Aの第1方向D1の寸法を変化させても、通過領域60Aの幾何学的中心位置は移動しない。このため、通過領域60Aの第1方向D1の寸法を変化させても、レーザビームの中心軸のずれは生じない。
【0039】
次に、上記実施例の変形例について説明する。
上記実施例ではフロント側のアイリス60(
図2)の通過領域60A(
図4)の縦横比を可変としたが、リア側のアイリス70の通過領域の縦横比を可変としてもよい。さらに、2つのアイリス60、70の通過領域の縦横比を可変としてもよい。
【0040】
上記実施例では、アイリス60の通過領域60Aの第2方向D2の寸法を固定し、第1方向D1の寸法を可変にしているが、その逆に第1方向D1の寸法を固定し、第2方向D2の寸法を可変にしてもよい。この場合、第1部材61に設けられた開口63(
図5A)を第2方向D2に長い楕円とし、第2部材62を第2方向に分割された2つの部材で構成するとよい。パルスの繰り返し周波数を低下させるにしたがって、通過領域60Aの第2方向D2の寸法を大きくすればよい。これにより、ビーム断面の真円からの崩れを低減させることができる。
【0041】
また、通過領域60Aの第1方向D1の寸法と第2方向D2の寸法との両方を可変にしてもよい。これにより、ビーム断面の形状の調整の自由度を高めることができる。
【0042】
上記実施例では、一対の共振器ミラー25で1本の直線状の光軸20A(
図2)を持つ光共振器20を構成しているが、さらに他の種々の反射鏡を配置して折返し光共振器を構成してもよい。この場合には、光共振器は例えば折れ線状の光軸を持ち、両端の一対の共振器ミラーの間の折れ線状の光軸に沿ってレーザビームが閉じ込められる。アイリスは、光共振器に閉じ込められている折れ線状のレーザビームの経路のいずれかの位置に配置すればよい。
【0043】
次に、
図7を参照して他の実施例によるレーザ発振器について説明する。以下、
図1~
図6に示した実施例によるレーザ発振器と共通の構成については説明を省略する。
【0044】
図7は、本実施例によるレーザ発振器の光軸20Aに垂直な断面図である。アイリス60の第1部材61が共振器ベース26に固定されている。第2部材62の2つのパーツ62A、62Bが、スライド機構65を介して共振器ベース26に支持されている。第2部材62の2つのパーツ62A、62Bに、それぞれロッド66A、66Bが接続されている。ロッド66A、66Bは、それぞれ2つのパーツ62A、62Bから第1方向D1に延び、チェンバ15の側壁を貫通してチェンバ15の外側まで引き出されている。ロッド66A,66Bの各々がチェンバ15の側壁を貫通する箇所は、Oリングを含む密封構造67A、67Bによって気密性が確保されている。
【0045】
ロッド66A、66Bをチェンバ15の外から操作して第1方向D1に移動させると、第2部材62の2つのパーツ62A、62Bが第1方向D1に移動する。これにより、通過領域60Aの縦横比が変化する。ロッド66A、66Bは、通過領域60Aの縦横比を変化させる縦横比変更機構としての機能を有する。
【0046】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、チェンバ15の外側からロッド66A、66Bを介して第2部材62の2つのパーツ62A、62Bを第1方向D1に移動させることができる。このため、レーザ発振器12を発振させた状態で、ビームプロファイラ50(
図1)でビーム断面の形状を観察しながら、アイリス60の通過領域60Aの縦横比を調整することができる。これにより、ビーム断面を真円に近付けるための調整を容易に行うことができる。
【0047】
次に、
図8を参照してさらに他の実施例によるレーザ発振器について説明する。以下、
図1~
図6に示した実施例によるレーザ発振器と共通の構成については説明を省略する。
【0048】
図8は、本実施例によるレーザ発振器に用いられるアイリス60の斜視図である。
図1~
図6に示した実施例では、第2部材62(
図5A)が第1方向D1に二分割されている。これに対して本実施例では、第1部材61及び第2部材62のいずれも分割されていない。第2部材62は第1部材61と同様に、開口64が設けられた板材で構成される。第1部材61及び第2部材62は、スライド機構65によって第1方向D1に独立に移動可能に支持されている。
【0049】
アイリス60を正面から見て第1部材61の開口63と第2部材62の開口64とが重なっている領域が、アイリス60の通過領域60Aに一致する。第1部材61と第2部材62との第1方向D1の相対位置関係を変化させると、通過領域60Aの第1方向D1の寸法が変化する。なお、通過領域60Aの第2方向D2の寸法も変化するが、その変化量はわずかであるため、通過領域60Aの縦横比が変化する。また、第1部材61と第2部材62とを相互に反対向きに等距離だけ移動させれば、通過領域60Aの中心位置が固定された状態で、通過領域60Aの第1方向の寸法が変化する。
【0050】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例においても、アイリス60の通過領域60Aの縦横比を変化させることにより、
図1~
図6に示した実施例と同様に、パルスの繰り返し周波数を変えても、ビーム断面がほぼ真円の状態を維持することができる。
【0051】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0052】
11 架台
12 レーザ発振器
15 チェンバ
16 光学室
17 ブロワ室
18 上下仕切り板
18A、18B 開口
19 底板
20 光共振器
20A 光軸
20B 一対の共振器ミラーの間の光が閉じ込められる領域
21 放電電極
22 電極ボックス
23 電極支持部材
24 放電領域
25 共振器ミラー
26 共振器ベース
27 光共振器支持部材
28 光透過窓
29 ブロワ
40 仕切り板
41 第1ガス流路
42 第2ガス流路
43 熱交換器
44 整流板
45 支持箇所
50 ビームプロファイラ
60 アイリス
60A 通過領域
60B 遮光領域
61 第1部材
62 第2部材
62A、62B 第2部材のパーツ
63 第1部材の開口
64 第2部材の開口
65 スライド機構
66A、66B ロッド
67A、67B 密封構造
70 アイリス
80 加工装置
81 ビーム整形光学系
82 ステージ
90 加工対象物
100 共通ベース