(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】滑り免震装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20240607BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
F16F15/02 L
F16F15/02 E
E04H9/02 331E
(21)【出願番号】P 2020141685
(22)【出願日】2020-08-25
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 伸介
(72)【発明者】
【氏名】野呂 直以
(72)【発明者】
【氏名】田村 康行
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-037519(JP,A)
【文献】特許第6723426(JP,B1)
【文献】特開2007-271085(JP,A)
【文献】特開平10-219842(JP,A)
【文献】特開2000-074136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受け台と、
前記受け台の表面に配設されて第一凹球面を備えている球座と、
前記第一凹球面に収容される第一凸球面を備え、該第一凸球面の反対側に第二凸球面を備えている可動体と、
前記第二凸球面が摺動する第二凹球面を備えている沓と、を有し、
前記第一凹球面と前記第一凸球面のいずれか一方に、第一摩擦材が貼り付けられており、
前記第一摩擦材は、前記第一凹球面もしくは前記第一凸球面を展開した球面展開摩擦材を構成する
複数の
摩擦材により形成され
、
複数の前記摩擦材は、前記第一摩擦材として一体となる状態で、前記第一凹球面と前記第一凸球面のいずれか一方に貼り付けられていることを特徴とする、滑り免震装置。
【請求項2】
前記球面展開摩擦材における複数の前記
摩擦材は、以下のいずれか一種の形態であることを特徴とする、請求項1に記載の滑り免震装置。
(1)複数の平面視三角形もしくは略三角形の前記
摩擦材が周方向に並べられている形態、
(2)四角形以上の多角形である平面視n角形の前記
摩擦材をn+1枚有し、中央に配設された該
摩擦材の各辺と、他の該
摩擦材の
それぞれの一辺
とが
繋がっている形態、
(3)一つの平面視円形の前記
摩擦材と、長さの異なる複数の平面視矩形の前記
摩擦材とを有し、平面視円形の該
摩擦材の周囲に、長さの短い順に平面視矩形の該
摩擦材が並べられている形態。
【請求項3】
前記受け台に対して前記球座が着脱自在に配設されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の滑り免震装置。
【請求項4】
前記受け台が下部構造体の上に配設され、前記沓が上部構造体の下に配設されるようになっていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の滑り免震装置。
【請求項5】
前記受け台が上部構造体の下に配設され、前記沓が下部構造体の上に配設されるようになっていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の滑り免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地震国であるわが国においては、ビルや橋梁、高架道路、戸建の住宅といった様々な構造物に対して、地震力に抗する技術、構造物に入る地震力を低減する技術など、様々な耐震技術や免震技術、制震技術が開発され、各種構造物に適用されている。中でも免震技術は、構造物に入る地震力そのものを低減する技術であることから、地震時の構造物の振動は効果的に低減される。この免震技術を概説すると、下部構造物である基礎と上部構造物との間に免震装置を介在させ、地震による基礎の振動の上部構造物への伝達を低減し、上部構造物の振動を低減して構造安定性を保証するものである。尚、この免震装置は、地震時のみならず、構造物に対して常時作用する交通振動の上部構造物への影響低減にも効果を発揮する。
【0003】
免震装置には、鉛プラグ入り積層ゴム支承装置や高減衰積層ゴム支承装置、積層ゴム支承とダンパーを組み合わせた装置、滑り免震装置など、様々な形態の装置が存在している。その中で、滑り免震装置には平面滑り免震装置と球面滑り免震装置があり、平面滑り免震装置は復元力を有しないが、球面滑り免震装置は復元力を有し、地震時のセルフセンタリング機能を有する。
【0004】
ところで、滑り免震装置においては、片面のみが凹球面を備えた沓(滑り板)となっている片面滑り免震装置(シングルタイプの滑り免震装置)がある。この片面滑り免震装置では、可動体(摺動子、スライダー)がその上下に凸球面を備え、例えば第一凸球面が、受け台に設けられている第一凹球面に収容され、第一凹球面の内部で可動体が可動できるように構成されている。
【0005】
このような片面滑り免震装置に関し、メンテナンス性に優れた滑り免震装置が提案されている。具体的には、受け台に対して球座が着脱自在に配設され、第一凹球面と第一凸球面のいずれか一方に複数の油路が設けられており、複数の油路の格点に油溜まりが設けられ、球座の外周面もしくは可動体の外周面に油注入孔が設けられ、油注入孔が油路に連通している滑り免震装置である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の滑り免震装置によれば、可動体を収容する球座と受け台が分離され、受け台に対して球座が着脱自在に配設されていることにより、メンテナンスを要する球座のみを受け台から取り外してメンテナンスすることができるため、メンテナンス性が格段に向上する。また、特許文献1に記載の滑り免震装置によれば、可動体を球座から取り外すことなく、可動体の可動面(摺動面)の全域にグリースを行き渡らせることを可能にし、複数の油溜まりにはグリースを溜めておけることから、可動体の可動面に一度グリースを提供した後は、可及的長期に亘りグリースの再提供が不要になるといった効果も有している。可動体と球座の間にグリースが提供されることにより可動体の良好な可動が保証されることになるが、このようにグリースが提供される形態の他にも、球座の第一凹球面と可動体の第一凸球面のいずれか一方に摩擦材が貼り付けられている構成の滑り免震装置もある。
【0008】
球座もしくは可動体の可動面に摩擦材が貼り付けられている構成の滑り免震装置によれば、可動体の可動面へのグリースの提供を不要にしながら、可及的に長期間の摺動機能を担保することができる。このように球座もしくは可動体の湾曲状の可動面に摩擦材が貼り付けられている滑り免震装置において、例えば摩擦材が可動面に対して皺のある態様で貼り付けられていると、可動体の摺動耐久性を低下させる原因となる。さらに、湾曲状の可動面に摩擦材を皺無く貼り付ける製作には手間と時間を要し、貼り付け性が良好でないといった課題もある。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、球座もしくは可動体の湾曲状の可動面に摩擦材が貼り付けられている滑り免震装置に関し、可動面に摩擦材が皺の無い態様で貼り付けられ、また、可動面に対する摩擦材の貼り付け性が良好である、滑り免震装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による滑り免震装置の一態様は、
受け台と、
前記受け台の表面に配設されて第一凹球面を備えている球座と、
前記第一凹球面に収容される第一凸球面を備え、該第一凸球面の反対側に第二凸球面を備えている可動体と、
前記第二凸球面が摺動する第二凹球面を備えている沓と、を有し、
前記第一凹球面と前記第一凸球面のいずれか一方に、第一摩擦材が貼り付けられており、
前記第一摩擦材は、前記第一凹球面もしくは前記第一凸球面を展開した球面展開摩擦材を構成する、複数の摩擦材により形成され、
複数の前記摩擦材は、前記第一摩擦材として一体となる状態で、前記第一凹球面と前記第一凸球面のいずれか一方に貼り付けられていることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、球座の第一凹球面と可動体の第一凸球面(いずれも可動面)のいずれか一方の可動面に貼り付けられている第一摩擦材が、可動面を展開した球面展開摩擦材を形成する複数の摩擦材により構成されていることから、複数の摩擦材が皺の無い態様で貼り付けられている第一摩擦材を有する滑り免震装置が形成される。また、湾曲状の可動面に対して複数の摩擦材を順次貼り付けていくことにより第一摩擦材の全体が可動面に貼り付けられることから、可動面に対する摩擦材の貼り付け性は極めて良好になる。
【0012】
本態様の滑り免震装置は、球面滑り免震装置と平面滑り免震装置の双方が対象であり、受け台が例えば下部構造体の上に固定され、沓が上部構造体の下に固定されて(あるいは、その逆の形態であってもよい)、可動体に対して沓が摺動する、片面滑り免震装置である。ここで、可動体の第二凸球面には、第一摩擦材とは異なる別途の第二摩擦材が取り付けられているのがよい。第一摩擦材と第二摩擦材はいずれも、例えば、少なくともPTFE(polytetrafluoroethylene、ポリテトラフルオロエチレン)を素材とする摩擦材が適用される。
【0013】
また、本発明による滑り免震装置の他の態様において、前記球面展開摩擦材における複数の前記摩擦材は、以下のいずれか一種の形態であることを特徴とする。
(1)複数の平面視三角形もしくは略三角形の前記摩擦材が周方向に並べられている形態、
(2)四角形以上の多角形である平面視n角形の前記摩擦材をn+1枚有し、中央に配設された該摩擦材の各辺と、他の該摩擦材のそれぞれの一辺とが繋がっている形態、
(3)一つの平面視円形の前記摩擦材と、長さの異なる複数の平面視矩形の前記摩擦材とを有し、平面視円形の該摩擦材の周囲に、長さの短い順に平面視矩形の該摩擦材が並べられている形態。
【0014】
本態様によれば、三種の形態の摩擦材が適用されることにより、いずれの形態であっても、複数の摩擦材が皺の無い態様で可動面に貼り付けられている第一摩擦材を有する滑り免震装置となる。ここで、いずれの形態ともに、相互に完全に分離されている複数の摩擦材を可動面に貼り付けることにより第一摩擦材が形成されてもよいし、隣接する摩擦材の一部(もしくは一辺)が繋がっている複数の摩擦材を可動面に貼り付けることにより第一摩擦材が形成されてもよい。すなわち、摩擦材は、隣接する他の摩擦材と完全に分離されている形態と、一部が他の摩擦材と繋がっている形態の双方を含んでいる。
【0015】
ここで、(1)の第一形態では、平面視略三角形(例えば、二等辺三角形における底辺以外の二つの等辺がともに外側に湾曲状に若干膨らんだ形状)の摩擦材が湾曲状の可動面に周方向に並べられることにより、隣接する摩擦材の間に隙間の無い状態で第一摩擦材が形成される。尚、例えば八つの平面視二等辺三角形から第一摩擦材が形成される場合、球面展開摩擦材から一列に八つの平面視二等辺三角形を切断すると、球面展開摩擦材の残った部分は、別途の八つの平面視二等辺三角形の摩擦材となることから、材料歩留まりが向上して好ましい。
【0016】
また、本発明による滑り免震装置の他の態様は、前記受け台に対して前記球座が着脱自在に配設されていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、可動体を収容する球座と下部構造体もしくは上部構造体に取り付けられる受け台が分離され、受け台に対して球座が着脱自在に配設されていることにより、特にメンテナンスを要する球座のみを受け台から取り外してメンテナンスすることができるため、従来の滑り免震装置に比べてメンテナンス性が格段に向上する。また、可動体は収容されている球座から容易に取り外すことができるため、可動体の摺動面に取り付けられている第一摩擦材も容易にメンテナンスすることが可能になる。
【0018】
また、本発明による滑り免震装置の他の態様は、前記受け台が下部構造体の上に配設され、前記沓が上部構造体の下に配設されるようになっていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、下部構造体の上に受け台配設されて固定され、受け台の上に配設された球座の第一凹球面に可動体が収容されることから、滑り免震装置の取り付け性が良好となり、球座等のメンテナンス性が良好となる。
【0020】
また、本発明による滑り免震装置の他の態様は、前記受け台が上部構造体の下に配設され、前記沓が下部構造体の上に配設されるようになっていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、上部構造体の下に受け台が配設され、受け台の下方において下方に対向する球座の第一凹球面に可動体が収容されることから、可動体の摺動面となる第一凹球面に雨水等が浸入し難くなり、メンテナンス期間を長期化することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上の説明から理解できるように、本発明の滑り免震装置によれば、球座もしくは可動体の湾曲状の可動面に摩擦材が貼り付けられている滑り免震装置に関し、可動面に摩擦材が皺の無い態様で貼り付けられ、また、可動面に対する摩擦材の貼り付け性が良好である、滑り免震装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施形態に係る滑り免震装置の一例の分解斜視図である。
【
図2】実施形態に係る滑り免震装置の一例の縦断面図である
【
図3】(a)は、第一摩擦材を構成する球面展開摩擦材の一例を示す平面図であり、(b)は、球面展開摩擦材の一例の変形例を示す平面図であり、(c)は、第一摩擦材と球座の第一凹球面を分離して示した斜視図である。
【
図4】(a)は、第一摩擦材を構成する球面展開摩擦材の他の例を示す斜視図であり、(b)は、第一摩擦材と球座の第一凹球面を分離して示した斜視図である。
【
図5】(a)は、第一摩擦材を構成する球面展開摩擦材のさらに他の例を示す斜視図であり、(b)は、第一摩擦材と球座の第一凹球面を分離して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施形態に係る滑り免震装置について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0025】
[実施形態]
<滑り免震装置>
はじめに、
図1及び
図2を参照して、実施形態に係る滑り免震装置の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る滑り免震装置の一例の分解斜視図であり、
図2は、実施形態に係る滑り免震装置の一例の縦断面図である。
【0026】
滑り免震装置50は、受け台10と、受け台10の表面11に配設されて第一凹球面23を備えている球座20と、第一凹球面23に収容される第一凸球面31を備え、かつ第一凸球面31の反対側に第二凸球面32を備え、第二凸球面32の表面に第二摩擦材33が貼り付けられている可動体30と、第二凸球面32が摺動する第二凹球面42を下面41に備えている沓40とを有する。
【0027】
受け台10は、例えば平面視矩形(正方形を含む)を呈し、その中央に球座20の下端が嵌まり込む座ぐり溝12を有しており、座ぐり溝12に複数のボルト孔13が設けられている。尚、受け台10の平面視形状は図示例に限定されるものでなく、円形等であってもよい。
【0028】
また、受け台10は、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)、あるいはステンレス材(SUS材)や鋳鋼材、鋳鉄、鉄筋コンクリート、高硬度プラスチック等から形成されている。
【0029】
球座20は、平面視円形で座ぐり溝12に嵌まる底板21と、底板21から立設して切頭円錐状のテーパー本体22とを有し、テーパー本体22の頂面において所定の曲率を有する第一凹球面23が設けられている。
【0030】
底板21の周端には複数のボルト孔21aが設けられており、底板21が座ぐり溝12に落とし込まれた際に、それぞれのボルト孔13に対応する位置にボルト孔21aがあり、双方のボルト孔13,21aに対してボルト15が螺合されることにより受け台10に対して球座20が取り付けられる。すなわち、図示例の滑り免震装置50は、受け台10に対して球座20が着脱自在に取り付けられている。
【0031】
第一凹球面23には、複数の摩擦材26により形成される第一摩擦材24が貼り付けられている。尚、図示例は、球座20の第一凹球面23に対して複数の摩擦材26が貼り付けられることにより、第一摩擦材24が形成されている形態であるが、可動体30の第一凸球面31に対して複数の摩擦材26が貼り付けられることにより、第一摩擦材が形成されている形態であってもよい。ただし、第一凹球面23に摩擦材26が貼り付けられている図示例の形態は、運搬時に摩擦材26が擦れる等の課題が生じ難いことから好ましい。また、図示例では、第二凸球面32の表面に貼り付けられている第二摩擦材33が一枚の摩擦材により形成されているが、第二摩擦材も第一摩擦材と同様に複数の摩擦材から形成されてもよい。複数の摩擦材26により構成される第一摩擦材24については、以下で詳説する。
【0032】
第二凸球面32の表面に対する第二摩擦材33の貼り付けと、第一凹球面23に対する第一摩擦材24の貼り付けにおいては、一液性もしくは二液性のエポキシ樹脂系接着剤等の接着剤や、両面接着テープ等が適用される。例えば、第二凸球面32や第一凹球面23に接着剤を塗布した後、第二摩擦材33や第一摩擦材24を貼り付けていく。特に、複数の摩擦材26により形成される第一摩擦材24の貼り付けは、摩擦材26を周方向に順次貼り付けていくことにより行われる。
【0033】
可動体30は、第一凸球面31と第二凸球面32を備え、第二凸球面32の表面に第二摩擦材33が貼り付けられている。ここで、上記する球座20と可動体30は、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)、あるいはステンレス材(SUS材)や鋳鋼材、鋳鉄等から形成されており、面圧60N/mm2(60MPa)程度の耐荷強度を有している。
【0034】
図2に示すように、第一凸球面31と第一凸球面31が収容される第一凹球面23は同様の曲率を有しており、第二凸球面32と第二凸球面32が摺動する沓40の第二凹球面42も同様の曲率を有している。また、例えばステンレス面からなる第一凸球面31は、鏡面仕上げ面であるのが好ましい。
【0035】
第一摩擦材24と第二摩擦材33はいずれも、例えば、少なくともPTFEを素材とする摩擦材である。第一摩擦材24と第二摩擦材33は二重織物により形成され、二重織物は、PTFE繊維と、PTFE繊維よりも引張強度の高い繊維(高強度繊維)とにより形成される。ここで、「PTFE繊維よりも引張強度の高い繊維」としては、ナイロン6・6、ナイロン6、ナイロン4・6などのポリアミドやポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルやパラアラミドなどの繊維を挙げることができる。また、メタアラミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ガラス、カーボン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、LCP、ポリイミド、PEEKなどの繊維を挙げることができる。また、さらに、熱融着繊維や綿、ウールなどの繊維を適用してもよい。その中でも、耐薬品性、耐加水分解性に優れ、引張強度の極めて高いPPS繊維が望ましい。
【0036】
尚、少なくともPTFEを素材とする第一摩擦材24と第二摩擦材33としては、二重織物以外のPTFE繊維を含む織物でもよく、また、PTFEのみを素材とする摩擦材、PTFEと他の樹脂の複合素材からなる摩擦材、PTFEを素材とする摩擦材と他の樹脂を素材とする摩擦材との積層構造の摩擦材などであってもよい。
【0037】
沓40は平面視矩形を呈し、下面41に可動体30が摺動する第二凹球面42を有しており、受け台10や可動体30、及び球座20と同様の素材により形成されている。尚、沓40が平面視円形等、図示例以外の平面視形状を呈していてもよい。また、例えばステンレス面からなる第二凹球面42は、鏡面仕上げ面であるのが好ましい。
【0038】
図示を省略するが、鉄筋コンクリート製の立ち上り部と、立ち上り部の上面に配設されている鋼製のベースプレートとを有する下部構造体に対して、受け台10が複数のアンカーボルトを介して固定される。また、鉄筋コンクリート製もしくは鋼製の柱と柱の下面に配設されている鋼製のベースプレートとを有する上部構造体に対して、沓40が複数のアンカーボルトを介して固定されることにより、上部構造体と下部構造体の間に滑り免震装置50が取り付けられる。
【0039】
図示例の滑り免震装置50は片面の球面滑り免震装置であり、建物に地震力が作用した際に、球座20の第一凹球面23内で可動体30がX1方向に回動し、可動体30の第二凸球面32上において沓40がX2方向にスライドすることにより、地震力を低減する。
【0040】
滑り免震装置50のうち、特にメンテナンスや取り換えを要する部位は、回動する可動体30を収容する球座20や、可動体30の有する第二摩擦材33や第一摩擦材24である。滑り免震装置50においては、可動体30を収容する球座20と下部構造体に取り付けられる受け台10が分離され、受け台10に対して球座20が着脱自在に配設されていることにより、特にメンテナンスを要する球座20のみを受け台10から取り外してメンテナンスすることができるため、従来の滑り免震装置に比べてメンテナンス性が格段に向上する。また、可動体30は収容されている球座20から容易に取り外すことができるため、可動体30の摺動面に取り付けられている第二摩擦材33や第一摩擦材24も容易にメンテナンスすることができる。
【0041】
尚、図示例の滑り免震装置50は、下部構造体側から順に、受け台10、球座20、可動体30、沓40が配設され、沓40が上部構造体に取り付けられる形態であるが、完全に逆の構成であって、上部構造体側から順に、受け台10、球座20、可動体30、沓40が配設され、沓40が下部構造体に取り付けられる形態であってもよい。
【0042】
<第一摩擦材>
次に、
図3乃至
図5を参照して、複数の
摩擦材により形成される第一摩擦材について詳説する。
【0043】
(第一摩擦材の一例)
まず、
図3を参照して、第一摩擦材の一例について説明する。ここで、
図3(a)は、第一摩擦材を構成する球面展開摩擦材の一例を示す平面図であり、
図3(b)は、球面展開摩擦材の一例の変形例を示す平面図であり、
図3(c)は、第一摩擦材と球座の第一凹球面を分離して示した斜視図である。すなわち、
図3(c)は、第一凹球面に貼り付けられている第一摩擦材を、第一凹球面から取り外して示した図であり、以下、
図4(b)と
図5(b)も同様である。
【0044】
図3(a)に示す球面展開摩擦材25は、第一凹球面23を展開した摩擦材であり、平面視略三角形の複数(図示例は八つ)の
摩擦材26が直線状に併設されることにより形成されている。ここで、略三角形とは、二等辺三角形の二つの等辺が外側に若干湾曲状に張り出した形状のことである。図示例の球面展開摩擦材25では、隣接する
摩擦材26の一部(底辺近傍)同士が繋がっている形態であるが、各
摩擦材26が相互に完全に分離していてもよい。
【0045】
図3(c)に示す球座20の第一凹球面23に対して例えば接着剤が塗布され、球面展開摩擦材25を構成する各
摩擦材26が順に第一凹球面23に貼り付けられていき、この過程で隣接する
摩擦材26の側辺同士が当接するようにして貼り付けが行われる。
摩擦材26は、ある程度の変形性と伸縮性を有していることから、この貼り付けの過程で
摩擦材26が若干変形したり伸縮しながら、第一凹球面23の湾曲面に追随して貼り付けられていく。この製作方法により、第一凹球面23の表面において球面展開摩擦材25が
図3(c)に示す半球状となり、
図1に示す第一摩擦材24が形成される。
【0046】
球面展開摩擦材25では、摩擦材26が図示例のような平面視略三角形を呈していることにより、隣接する摩擦材26の各側辺の間に隙間が生じない態様で第一摩擦材24が形成される。
【0047】
球面展開摩擦材25を構成する各摩擦材26を第一凹球面23に貼り付けていくに当たり、第一凹球面23と各摩擦材26の密着効果を高めるべく、第一凹球面23に対応した湾曲状に加工されたラバー材等により、上方から各摩擦材26を押し付けるようにして貼り付けを行うのがよい。尚、可動体の第一凸球面に各摩擦材を貼り付ける場合は、第一凸球面に対応した凹状に加工されたラバー材に各摩擦材を嵌め込むようにして貼り付けを行うのがよい。
【0048】
また、接着剤として上記するエポキシ樹脂系接着剤等の熱硬化性樹脂を適用する場合は、ラバーヒーター等で摩擦材が貼り付けられている球座の全体を覆い、100℃乃至150℃程度の高温養生を行うことにより接着剤の硬化を促進させるのがよい。養生方法としては、このラバーヒーターによる被覆の他、摩擦材が貼り付けられている球座を熱風乾燥炉内に載置する方法もある。
【0049】
一方、
図3(b)に示す球面展開摩擦材25Aは、平面視三角形(二等辺三角形)の複数(図示例は八つ)の
摩擦材26Aが直線状に併設されることにより形成されている。
図3(b)には、一点鎖線で示す摩擦材シートSから一方の球面展開摩擦材25Aを切り出した状態を示している。
【0050】
球面展開摩擦材25Aが図示例のように平面視二等辺三角形の複数の摩擦材26Aを有していることにより、球面展開摩擦材25Aが切り出された後の残りの摩擦材シートSには、同形状で別途の八つの摩擦材26A'が直線状に併設されることにより構成されている球面展開摩擦材25A'が形成され、他の滑り免震装置用の球面展開摩擦材に適用することが可能になる。このように、図示例の球面展開摩擦材25Aを適用することにより、摩擦材シートSの材料歩留まりが向上する。
【0051】
尚、
図3(b)に示す球面展開摩擦材25Aを第一凹球面23に貼り付けていった際には、隣接する
摩擦材26Aの側辺の間に僅かな隙間が生じ得るが、第一摩擦材を構成する
摩擦材26Aの間に多少の隙間があっても第一摩擦材の摺動耐久性に問題はない。
【0052】
複数の摩擦材26、26Aを備えた球面展開摩擦材25、25Aを適用することにより、第一凹球面23に対して皺の無い態様で各摩擦材26、26Aを貼り付けることができ、皺の無い第一摩擦材24を形成することができる。また、複数の摩擦材26、26Aを順次貼り付けていくことから、第一凹球面23に対する摩擦材(摩擦材26、26A)の貼り付け性(製作性)が良好になる。
【0053】
(第一摩擦材の他の例)
次に、
図4を参照して、第一摩擦材の他例について説明する。ここで、
図4(a)は、第一摩擦材を構成する球面展開摩擦材の他例を示す斜視図であり、
図4(b)は、第一摩擦材と球座の第一凹球面を分離して示した斜視図である。
【0054】
図4(a)に示す球面展開摩擦材25Bは、平面視正五角形(平面視n角形の一例)の
摩擦材27を六枚(n+1枚)有し、中央に配設された一枚の
摩擦材27の五つの各辺と、他の五枚の
摩擦材27の一辺が連続している形態である。尚、六枚の
摩擦材27が相互に完全に分離している形態であってもよい。
【0055】
中央にある
摩擦材27と他の五枚の
摩擦材27の間にある辺(折り曲げ辺)を折り曲げながら、五枚の
摩擦材27を起立させていくことにより、隣接する
摩擦材27の側辺同士を当接させることができ、
図4(b)に示すように、六つの平面視正五角形からなる
摩擦材27により第一摩擦材24Bが形成される。尚、図示例以外にも、平面視正六角形の七枚の
摩擦材を備えている球面展開摩擦材、平面視正七角形の八枚の
摩擦材を備えている球面展開摩擦材等を用いて第一摩擦材が形成されてもよい。
【0056】
複数の摩擦材27を備えた球面展開摩擦材25Bを適用することによっても、第一凹球面23に対して皺の無い態様で各摩擦材27を貼り付けることができ、皺の無い第一摩擦材24Bを形成することができる。また、複数の摩擦材27を順次貼り付けていくことから、第一凹球面23に対する摩擦材(摩擦材27)の貼り付け性が良好になる。
【0057】
(第一摩擦材のさらに他の例)
次に、
図5を参照して、第一摩擦材のさらに他の例について説明する。ここで、
図5(a)は、第一摩擦材を構成する球面展開摩擦材のさらに他の例を示す斜視図であり、
図5(b)は、第一摩擦材と球座の第一凹球面を分離して示した斜視図である。
【0058】
図5(a)に示す球面展開摩擦材25Cは、一つの平面視円形の
摩擦材28Aと、長さの異なる複数(図示例は四つ)の平面視矩形の
摩擦材28B~28Eとを有している。
図5(b)に示すように、平面視円形の
摩擦材28Aの周囲に、長さの短い順に平面視矩形の
摩擦材28B~28Eが環状に変形されながら並べられることにより、第一摩擦材24Cが形成される。
【0059】
複数の摩擦材28A~28Eを備えた球面展開摩擦材25Cを適用することによっても、第一凹球面23に対して皺の無い態様で各摩擦材28A~28Eを貼り付けることができ、皺の無い第一摩擦材24Cを形成することができる。また、複数の摩擦材28A~28Eを順次貼り付けていくことから、第一凹球面23に対する摩擦材(摩擦材28A~28E)の貼り付け性が良好になる。
【0060】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0061】
10:受け台
11:上面(表面)
12:座ぐり溝
15:ボルト
20:球座
21:底板
22:テーパー本体
23:第一凹球面
24、24B,24C:第一摩擦材
25,25A,25A' ,25B,25C:球面展開摩擦材
26,26A,26A':摩擦材
27:摩擦材
28A~28E:摩擦材
30:可動体
31:第一凸球面
32:第二凸球面
33:第二摩擦材
40:沓
41:下面
42:第二凹球面
50:滑り免震装置
S:摩擦材シート