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特許7499658プロセス近似とラムダ調整を有するプロセスコントローラの設計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】プロセス近似とラムダ調整を有するプロセスコントローラの設計
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20240607BHJP
【FI】
G05B13/02 A
【請求項の数】 46
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020152661
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2021057032
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】16/577,718
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512132022
【氏名又は名称】フィッシャー-ローズマウント システムズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】シュー・シュイ
(72)【発明者】
【氏名】マーク・ジェイ・ニクソン
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス・ビオール
(72)【発明者】
【氏名】テレンス・エル・ブレビンス
(72)【発明者】
【氏名】トッド・マラス
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-516190(JP,A)
【文献】特開2007-287153(JP,A)
【文献】特開2015-028804(JP,A)
【文献】国際公開第2018/034191(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108614432(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比例-積分-微分(PID)プロセスコントローラが入力/出力ネットワークを介してプロセスに接続されている場合にプロセスを制御するために使用する前記PIDプロセスコントローラを調整する方法であって、前記PIDプロセスコントローラ、前記入力/出力ネットワーク、およびプロセスがプロセスループを形成し、前記方法は、
前記PIDプロセスコントローラの実行率を判定することを含む、前記PIDプロセスコントローラの1つ以上の特性を判定することと、
前記プロセスの1つ以上の時定数と前記プロセスの1つ以上のプロセス不感時間を判定することを含む、前記プロセスの1つ以上の特性を判定することと、
少なくとも1つ以上の入力/出力デバイス走査レート、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の前記1つ以上のデバイスに関連付けられた1つ以上の入力/出力時定数、および前記入力/出力ネットワーク内の前記1つ以上のデバイスに関連付けられた1つ以上の入力/出力不感時間の少なくとも1つを判定することを含む、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の特性を判定することと、
定プロセスの1次および2次時定数を前記1つ以上のプロセス時定数および前記1つ以上の入力/出力時定数の関数として判定することと、前記推定プロセスの前記不感時間を、前記プロセスの前記1つ以上の不感時間、前記1つ以上のプロセス時定数、前記1つ以上の入力/出力時定数、前記1つ以上の入力/出力デバイス走査レート、前記PIDプロセスコントローラの前記実行率、および前記1つ以上の入力/出力不感時間の関数として判定することとを含む、2次プラス不感時間推定プロセスとして前記プロセス制御ループを推定することと、
前記推定プロセス時定数および前記推定プロセス不感時間からPIDプロセスコントローラ調整係数の集合を判定することと、
前記判定されたPIDプロセスコントローラ調整係数の集合を使用して前記PIDコントローラを調整することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記PIDプロセスコントローラ調整係数は、コントローラゲイン、リセット時定数、およびレート時定数を含む、請求項1に記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項3】
前記推定プロセス時定数および前記推定プロセス不感時間から前記PIDプロセスコントローラ調整係数の集合を判定することは、ラムダ調整方法を使用することを含む、請求項1または請求項2に記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項4】
ラムダ調整方法を使用することは、ユーザが前記ラムダ調整方法でラムダの値を選択することを可能にすることを含む、請求項3に記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項5】
ラムダ調整方法を使用することは、前記ラムダ調整方法で前記ラムダの値を自動的に選択することを含む、請求項3または請求項4に記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項6】
ラムダ調整方法を使用することは、前記ラムダ調整方法における前記ラムダの値を、係数に前記リセット時定数調整係数の最大値および前記推定プロセス不感時間を乗じたものとして使用することを含む、請求項3から請求項5のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項7】
前記係数は3である、請求項6に記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項8】
前記PIDプロセスコントローラの1つ以上の特性を判定することは、ユーザが前記PIDプロセスコントローラの前記1つ以上の特性を入力することを可能にすることを含む、請求項1から請求項7のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項9】
前記PIDプロセスコントローラの1つ以上の特性を判定することは、構成データベースから前記PIDプロセスコントローラの前記1つ以上の特性を取得することを含む、請求項1から請求項8のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項10】
前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の特性を判定することは、ユーザが、前記入力/出力ネットワーク内の前記1つ以上のデバイスの前記1つ以上の特性を入力することを可能にすることを含む、請求項1から請求項9のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項11】
前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の特性を判定することは、構成データベースから前記入力/出力ネットワーク内の前記1つ以上のデバイスの前記1つ以上の特性を判定することを含む、請求項1から請求項10のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項12】
前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の特性を判定することは、前記入力/出力ネットワーク内の前記1つ以上のデバイスからの前記入力/出力ネットワーク内の前記1つ以上のデバイスの前記1つ以上の特性を判定することを含む、請求項1から請求項11のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項13】
前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の特性を判定することは、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の前記1つ以上のデバイス内で1つ以上のフィルタに関連付けられた1つ以上の入力/出力時定数を判定することを含む、請求項1から請求項12のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項14】
前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の特性を判定することは、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のアクチュエータに関連付けられた1つ以上の入力/出力時定数を判定することを含む、請求項1から請求項13のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項15】
前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の特性を判定することは、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のバルブに関連付けられた1つ以上の入力/出力時定数を判定することを含む、請求項1から請求項14のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整する方方法。
【請求項16】
前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の特性を判定することは、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のアクチュエータに関連付けられた1つ以上の入力/出力不感時間を判定することを含む、請求項1から請求項15のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項17】
前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の特性を判定することは、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上の通信ネットワークに関連付けられた1つ以上の入力/出力不感時間を判定することを含む、請求項1から請求項16のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項18】
前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の特性を判定することは、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上の入力/出力マーシャリングデバイスに関連付けられた1つ以上の入力/出力不感時間を判定することを含む、請求項1から請求項17のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項19】
前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の特性を判定することは、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のフィルタに関連付けられた1つ以上の入力/出力不感時間を判定することを含む、請求項1から請求項18のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項20】
前記PID調整パラメータを使用して前記プロセスループ内の前記PIDコントローラの動作をモデル化して、前記プロセスループの1つ以上のプロセス制御特性を判定し、前記1つ以上のプロセス制御特性をユーザに提供することをさらに含む、請求項1から請求項19のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項21】
ユーザが、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上の前記デバイスを変更して、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の前記特性を変更して変更されたプロセスループを形成することを可能にすることと、前記変更されたプロセスループを2次プラス不感時間推定プロセスとして推定することと、前記変更されたプロセスループに対して新しいPIDプロセスコントローラ調整係数のセットを判定することと、前記新しいPID調整パラメータを使用して前記変更されたプロセスループの前記PIDプロセスコントローラの動作をモデル化して前記新しいプロセスループの1つ以上の新しいプロセス制御特性を判定することと、ユーザに前記1つ以上の新しいプロセス制御特性を提供することと、をさらに含む、請求項20に記載のPIDプロセスコントローラを調整する方法。
【請求項22】
比例-積分-微分(PID)プロセスコントローラが入力/出力ネットワークを介してプロセスに接続されている場合に、前記プロセスを制御するために使用する前記PIDプロセスコントローラを調整するためのシステムであって、前記PIDプロセスコントローラ、前記入力/出力ネットワークおよび前記プロセスがプロセスループを形成し、
前記PIDプロセスコントローラの実行率を含む、前記プロセスコントローラの1つ以上の特性を、コンピュータプロセッサを介して判定する第1の構成要素と、
前記プロセスの1つ以上の時定数と前記プロセスの1つ以上の不感時間を判定することを含む、前記プロセスの1つ以上の特性を、コンピュータプロセッサを介して判定する第2の構成要素と、
コンピュータプロセッサを介して、1つ以上の入力/出力デバイス走査レート、1つ以上の入力/出力時定数、および前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の前記1つ以上のデバイスに関連付けられた1つ以上の入力/出力不感時間のうちの少なくとも1つを判定することを含む、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の特性を判定する第3の構成要素と、
コンピュータプロセッサを介して、前記1つ以上のプロセス時定数と前記1つ以上の入力/出力時定数の関数として、定プロセスループの1次および2次の時定数を判定することと、前記1つ以上のプロセス時定数、前記1つ以上の入力/出力時定数、前記1つ以上の入力/出力デバイスの走査レート、前記PIDプロセスコントローラの前記実行率、前記1つ以上の入力/出力不感時間、および前記1つ以上のプロセス不感時間との関数として、前記推定プロセスループの不感時間を判定することと、によって、前記プロセスループの推定値を計算する第4の構成要素と、
コンピュータプロセッサを介して、前記推定プロセスループの時定数、および前記推定プロセスループの不感時間からPIDプロセスコントローラ調整係数の集合を判定する第5の構成要素と、
プロセスの動作中に、前記PIDコントローラによって使用される、前記PIDプロセスコントローラ調整係数の集合を前記PIDコントローラに提供する第6の構成要素と、を含むシステム。
【請求項23】
前記第5の構成要素は、前記PIDプロセスコントローラ調整係数を、コントローラゲイン、リセット時定数、およびレート時定数として判定する、請求項22に記載のPIDプロセスコントローラを調整するためのシステム。
【請求項24】
前記第5の構成要素は、ラムダ調整方法を使用して、前記推定プロセス時定数、および前記推定プロセス不感時間から、前記PIDプロセスコントローラ調整係数のセットを判定する、請求項22または請求項23に記載のPIDプロセスコントローラを調整するためのシステム。
【請求項25】
前記第5の構成要素は、ユーザが、前記ラムダ調整方法において、前記ラムダの値を選択することを可能にする、請求項24に記載のPIDプロセスコントローラを調整するためのシステム。
【請求項26】
前記第5の構成要素は、前記ラムダ調整方法において、ラムダのプリセット値を使用する、請求項24または請求項25に記載のPIDプロセスコントローラを調整するためのシステム。
【請求項27】
前記第5の構成要素は、前記ラムダ調整方法において、ラムダの値を、係数に前記リセット時定数調整係数の前記最大値および前記推定プロセスループ不感時間を乗じたものとして使用する、請求項24から請求項26のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整するためのシステム。
【請求項28】
前記第1の構成要素は、ユーザが前記PIDプロセスコントローラの1つ以上の特性を入力することを可能にすることによって、前記PIDプロセスコントローラの前記1つ以上の特性を判定する、請求項22から請求項27のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整するためのシステム。
【請求項29】
前記第3の構成要素は、ユーザが前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の特性を入力することを可能にすることによって、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の前記1つ以上のデバイスの前記1つ以上の特性を判定する、請求項22から請求項28のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整するためのシステム。
【請求項30】
前記第3の構成要素は、構成データベースから、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の特性を判定する、請求項22から請求項29のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整するためのシステム。
【請求項31】
前記第3の構成要素は、前記入力/出力ネットワーク内の前記1つ以上のデバイスから、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の特性を判定する、請求項22から請求項30のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整するためのシステム。
【請求項32】
前記PIDプロセスコントローラ調整パラメータを使用して前記プロセスループ内の前記PIDコントローラの前記動作をモデル化して前記プロセスループの1つ以上のプロセス制御特性を判定し、前記1つ以上のプロセスコントロール特性をユーザに提供する第7の構成要素をさらに含む、請求項22から請求項31のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整するためのシステム。
【請求項33】
前記第3の構成要素は、ユーザが、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の前記デバイスの1つ以上を変更して、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの前記特性の1つ以上を変更して、変更されたプロセスループを形成することを可能にし、前記第4の構成要素は、前記変更されたプロセスループを2次プラス不感時間推定プロセスとして推定し、前記第5の構成要素は、前記変更されたプロセスループ用の新しいPIDプロセスコントローラ調整係数のセットを判定し、前記第7の構成要素は、前記新しいPID調整パラメータを使用して前記変更されたプロセスループ内の前記PIDプロセスコントローラの前記動作をモデル化して、前記新しいプロセスループの1つ以上の新しいプロセス制御特性を判定し、ユーザに前記1つ以上の新しいプロセス制御特性を提供する、請求項32に記載のPIDプロセスコントローラを調整するためのシステム。
【請求項34】
前記第3の構成要素は、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の前記1つ以上のデバイス内で使用される1つ以上のフィルタに関連付けられた1つ以上の入力/出力時定数を判定することによって、前記プロセスループの前記入力/出力ネットワーク内の前記1つ以上のデバイスの前記1つ以上の特性を判定する、請求項22から請求項33のいずれかに記載のPIDプロセスコントローラを調整するためのシステム。
【請求項35】
プロセス制御ループを使用してプロセスの一部分を制御するためのプロセス制御システムであって、
比例-積分-微分(PID)プロセスコントローラと、
前記PIDプロセスコントローラと前記プロセスの間に接続され、1つ以上のプロセス変数を測定し、前記測定されたプロセス変数を前記PIDプロセスコントローラに通信し、前記PIDプロセスコントローラからの1つ以上の制御信号を前記プロセス内の制御対象デバイスに送信する、複数の入力/出力通信デバイスと、
プロセスコントローラチューナであって、
プロセッサと、
メモリに格納され、前記プロセッサで実行されて、
(1)前記プロセス制御ループを、
(a)前記推定プロセス制御ループの1次および2次時定数を、前記プロセスの前記動作に関連付けられた1つ以上のプロセス時定数および前記入力/出力通信デバイスの1つ以上の前記動作に関連付けられた1つ以上の入力/出力時定数の関数として判定することと、
(b)前記推定プロセス制御ループの前記不感時間を前記1つ以上のプロセス時定数と、前記1つ以上の入力/出力時定数と、1つ以上の入力/出力デバイス走査レートと、前記PIDプロセスコントローラの行レートと、1つ以上のプロセス不感時間と、前記入力/出力デバイスの1つ以上に関連付けられた1つ以上の入力/出力デバイス不感時間の関数として判定することと、によって、2次プラス不感時間プロセスとして推定し、
(2)前記第1および第2の推定プロセス制御ループ時定数および前記推定プロセス制御ループ不感時間からPIDプロセスコントローラ調整係数のセットを判定するように適合されたプロセスコントローラ調整ルーチンと、を含む、プロセスコントローラチューナと、を備えるプロセス制御システム。
【請求項36】
前記プロセスコントローラ調整ルーチンが、コントローラゲイン、リセット時定数、およびレート時定数として前記コントローラ調整係数を判定する、請求項35に記載のプロセス制御システム。
【請求項37】
前記プロセスコントローラ調整ルーチンが、ラムダ調整方法を使用して、前記第1および第2の推定プロセス制御ループ時定数および前記推定プロセス制御ループ不感時間から前記PIDプロセスコントローラ調整係数のセットを判定する、請求項35または請求項36に記載のプロセス制御システム。
【請求項38】
前記プロセスコントローラ調整ルーチンは、ユーザが前記ラムダ調整方法において、前記ラムダの値を選択することを可能にする、請求項37に記載のプロセス制御システム。
【請求項39】
前記プロセスコントローラ調整ルーチンは、前記ラムダ調整方法においてラムダのプリセット値を使用する、請求項37または請求項38に記載のプロセス制御システム。
【請求項40】
前記プロセスコントローラ調整ルーチンは、前記ラムダ調整方法における前記ラムダの値を、係数に、リセット時定数調整係数の前記最大値および前記推定プロセス制御ループ不感時間を乗じて計算する、請求項37から請求項39のいずれかに記載のプロセス制御システム。
【請求項41】
前記プロセスコントローラ調整ルーチンは、前記入力/出力デバイスの1つ以上の前記動作に関連付けられた前記1つ以上の入力/出力時定数の少なくとも1つを、前記1つ以上の入力/出力デバイスのうちの1つ内のフィルタの前記特性に基づいて判定する、請求項35から請求項40のいずれかに記載のプロセス制御システム。
【請求項42】
前記プロセスコントローラ調整ルーチンは、前記入力/出力デバイスの1つ以上の前記動作に関連付けられた前記1つ以上の入力/出力時定数の少なくとも1つを、前記1つ以上の入力/出力デバイスの1つ内のアナログデジタル変換機の前記特性に基づいて判定する、請求項35から請求項41のいずれかに記載のプロセス制御システム。
【請求項43】
前記プロセスコントローラ調整ルーチンは、前記入力/出力デバイスの1つ以上の前記動作に関連付けられた、前記1つ以上の入力/出力走査レートの少なくとも1つを、前記プロセス制御ループ内の測定デバイスのサンプリングレートに基づいて判定する、請求項35から請求項42のいずれかに記載のプロセス制御システム。
【請求項44】
前記プロセスコントローラ調整ルーチンは、前記入力/出力デバイスの1つ以上の前記動作に関連付けられた前記1つ以上の入力/出力走査レートの少なくとも1つを、前記プロセス制御ループ内の入力/出力信号マーシャリングデバイスの更新レートに基づいて判定する、請求項35から請求項43のいずれかに記載のプロセス制御システム。
【請求項45】
前記プロセスコントローラ調整ルーチンが、前記PIDプロセスコントローラ調整パラメータを使用して、前記プロセス制御ループ内の前記PIDプロセスコントローラの前記動作をさらにモデル化して、前記プロセス制御ループの1つ以上のプロセス制御特性を判定し、ユーザに前記1つ以上のプロセス制御特性を提供する請求項35から請求項44のいずれかに記載のプロセス制御システム。
【請求項46】
前記プロセスコントローラ調整ルーチンは、さらに、ユーザが、前記プロセス制御ループの前記入力/出力通信デバイスの1つ以上を変更して、前記入力/出力通信デバイスの1つ以上の前記特性の1つ以上を変更して、変更されたプロセス制御ループを形成することを可能にし、前記変更されたプロセス制御ループを2次プラス不感時間推定プロセスとして推定し、前記変更されたプロセス制御ループ用の新しいPIDプロセスコントローラ調整係数のセットを判定し、前記新しいPID調整パラメータを使用して前記変更されたプロセス制御ループの中の前記PIDプロセスコントローラの前記動作をモデル化して前記新しいプロセス制御ループの1つ以上の新しいプロセス制御特性を判定し、ユーザに前記1つ以上の新しいプロセス制御特性を提供する、請求項35から請求項45のいずれかに記載のプロセス制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、プロセス制御システムに関し、より具体的には、高度なプロセス近似法およびラムダ調整を使用する強化された比例-積分-微分(PID)コントローラの設計に関する。
【背景技術】
【0002】
化学品製造プロセス、石油精製プロセス、またはその他のプロセスにおいて使用されるような分散型またはスケーラブルプロセス制御システムなどのプロセス制御システムは、典型的に、アナログ、デジタル、またはアナログ/デジタル混在バスを介して、互いに、少なくとも1つのホストまたはオペレータワークステーションに、および1つ以上のフィールドデバイスに通信可能に連結される、1つ以上のプロセスコントローラを含む。フィールドデバイスは、例えば、バルブ、バルブポジショナ、スイッチ、および送信機(例えば、温度、圧力、流量センサ)などであり得、バルブの開閉およびプロセスパラメータの測定などのプロセス内における機能を実行する。プロセスコントローラは、フィールドデバイスによって作製されたプロセス測定値および/またはフィールドデバイスに関するその他の情報を示す信号を受信し、制御ルーチンを実施するためにこの情報を使用して、プロセスの動作を制御するためにバスを通じてフィールドデバイスに送信される制御信号を生成する。典型的に、フィールドデバイスおよびコントローラからの情報はオペレータワークステーションによって実行される1つ以上のアプリケーションで利用可能になっており、それによりオペレータが、プロセスの現状の表示、プロセスの動作の修正など、プロセスに関する所望の機能を行うことを可能にする。
【0003】
エマーソンオートメーションソリューションが販売するDeltaV(登録商標)システムのようないくつかのプロセス制御システムは、コントローラまたは異なるフィールドデバイスに位置するモジュールと呼ばれる機能ブロックまたは機能ブロックのグループを使用して、制御動作を行う。これらの場合、プロセスコントローラまたは他のデバイスは、1つ以上の機能ブロックまたはモジュールを含めて実行することができ、その各々が(同じデバイス内または異なるデバイス内で)他の機能ブロックから入力を受け取る、および/または、他の機能ブロックに出力を提供し、プロセスパラメータを測定または検出する、デバイスを制御する、または比例-積分-微分(PID)制御ルーチンの実装などのような制御動作を実行する、などのいくつかのプロセス動作を実行する。プロセス制御システム内の異なる機能ブロックおよびモジュールは、概して、(例えば、バスを介して)互いに通信して、1つ以上のプロセス制御ループを形成するように構成される。
【0004】
さらに、プロセスコントローラは、典型的には、フロー制御ループ、温度制御ループ、圧力制御ループなどのような、プロセスのために定義された、またはプロセス内に含まれる多数の異なるループの各々について、異なるアルゴリズム、サブルーチンまたは制御ループ(これらはすべて制御ルーチンまたは制御モジュールである)を実行するようにプログラムされている。概して言えば、各そのような制御ループは、アナログ入力(AI)機能ブロックなどの1つ以上の入力ブロックと、比例-積分-微分(PID)またはファジー論理制御機能ブロックなどの単一出力制御ブロックと、アナログ出力(AO)機能ブロックなどの1つ以上の出力ブロックとを含む。制御ルーチン、およびそのようなルーチンを実装する機能ブロックは、PID制御、ファジー論理制御、およびスミス予測器またはモデル予測制御(MPC)のようなモデルベースの技術を含む多くの既知の制御技術に従って構成される。
【0005】
制御ルーチンの実行をサポートするために、典型的な産業またはプロセスプラントは、1つ以上の分散プロセスコントローラ、および、同様に1つ以上のフィールドデバイスに接続されているプロセスI/Oサブシステムと通信可能に接続された集中制御室を有する。従来、アナログフィールドデバイスは、信号送信と電力供給の両方のために、2線式または4線式の電流ループによってプロセスコントローラに接続されていた。コントローラ(センサや送信機など)に信号を送信するアナログフィールドデバイスは、電流が検知されたプロセス変数に比例するように、電流ループを流れる電流を変調する。一方、制御ルーチンまたは制御モジュールの制御下でアクションを実行するアナログフィールドデバイスは、ループを流れる電流の大きさによって制御される。
【0006】
一部のフィールドデバイスは、アナログ信号の送信に使用される電流ループにデジタルデータを重畳するように構成されている。例えば、ハイウェイ・アドレッサブルリモートトランスデューサ(HART(登録商標))プロトコルは、アナログ信号を送受信するためにループ電流の大きさを使用するだけでなく、スマートフィールド機器との双方向フィールド通信を可能にする電流ループ信号にデジタル搬送波信号を重畳する。一般にFOUNDATION(登録商標)Fieldbusプロトコルと呼ばれる別のプロトコルは、ネットワークに結合されたフィールドデバイスに電力を供給しながら、異なるデータ転送レートをサポートする完全デジタルプロトコルを定義する。これらのタイプの通信プロトコルを使用すると、典型的にはすべてデジタルの性質を持つスマートフィールドデバイスは、古い制御システムでは提供されない多くのメンテナンスモードと拡張機能をサポートする。
【0007】
フィールドデバイスとプロセスコントローラ間のデータ転送量の増加に伴い、プロセス制御システム設計の特に重要な側面の一つは、フィールドデバイスが、プロセス制御システムまたはプロセスプラント内の他のシステムまたはデバイスと相互に、プロセスコントローラと通信可能に結合される様式に関係している。一般に、フィールドデバイスがプロセス制御システム内で機能することを可能にする様々な通信チャネル、リンク、およびパスは、共通してまとめて入力/出力(I/O)通信ネットワークと呼ばれる。
【0008】
I/O通信ネットワークのトポロジー、およびI/O通信ネットワークを実装するために使用される物理的な接続またはパスは、特にネットワークが不利な環境要因または過酷な条件にさらされている場合、フィールドデバイス通信の堅牢性または完全性にかなりの影響を与える可能性がある。これらの要因と条件は、1つ以上のフィールドデバイスとコントローラ間の通信の完全性を損なう可能性がある。制御ルーチンは、典型的には、制御ルーチンの反復ごとにプロセス変数の定期的な更新を必要とするため、コントローラとフィールドデバイス間の通信は、このような中断に特に敏感である。したがって、制御通信の侵害は、プロセス制御システムの効率および/または収益性の低下、機器の過度の摩耗や損傷、さらには潜在的に有害な障害を引き起こす可能性がある。
【0009】
堅牢な通信を確保するために、プロセス制御システムで使用されるI/O通信ネットワークは、歴史的に有線で接続されてきた。残念ながら、有線ネットワークには、多くの複雑さ、課題、制限が伴う。例えば、有線ネットワークの品質は、時間の経過と共に低下する可能性がある。さらに、有線I/O通信ネットワークは、特に、I/O通信ネットワークが大規模な産業プラントまたは大面積に分散した施設、例えば、数エーカーの土地を消費する石油精製所または化学プラントに関連付けられている場合には、典型的には設置に費用がかかる。必要な長い配線を設置するには、典型的には、かなりの労力、材料、および費用がかかり、配線のインピーダンスと電磁干渉によって信号の劣化が生じる可能性がある。これらの理由およびその他の理由により、有線I/O通信ネットワークは、一般に、再構成、修正、または更新が困難である。
【0010】
最近では、有線I/Oネットワークに関連付けられたいくつかの問題を軽減するために、無線I/O通信ネットワークが導入されている。このように、例えば、WirelessHART(登録商標)通信プロトコルは、プロセスコントローラとフィールドデバイスとの間の無線通信を行うために開発され、使用されている。これらの無線ネットワークは、有線I/O通信ネットワークとは異なり、いくつかの点でより複雑になる傾向がある。場合によっては、I/O通信ネットワークには、有線構成要素と無線構成要素の両方を含めることができる。
【0011】
重要なことに、最新のプロセス制御では、最適な制御レベルを達成するために、コントローラとフィールドデバイス間の信頼できるデータ通信が必要である。実際、一般的なプロセスコントローラは、制御アルゴリズムを高速で実行して、プロセス内の不要な偏差をすばやく修正し、または設定値の変更に対応することができる。残念ながら、環境要因やその他の条件により、断続的な干渉が発生し、そのような制御アルゴリズムの実行をサポートするために必要な高速通信が妨害または防止される場合がある。またさらに、最新のI/Oネットワークはさらに複雑化しているため、これらのI/Oネットワークは、プロセス制御ループ内のデータ通信に時間遅延、ジッタ、およびノイズをもたらす可能性がある。例えば、多くのフィールドデバイスまたはI/Oネットワークには、ローパスフィルタなどのアンチエイリアシングフィルタが含まれており、通信ネットワーク内の高周波ノイズとクロストーク(エイリアシング)を低減する。ただし、このようなフィルタは通信に時間遅延をもたらす。またさらに、通信プロトコル変換、A/D変換、無線から有線通信への変換などを実行するI/Oデバイスなど、I/O通信ネットワーク内でより複雑な入力/出力デバイスを使用しても、時間遅延が発生する。さらに、I/Oネットワークのデジタル通信構成要素は、それらの値を更新し、またはネットワーク内のデータを様々な異なる走査レートで送信し得るため、データ通信内でさらに時間遅延やジッタが発生する可能性がある。
【0012】
プラント内で異なるプロセス変数や機器を制御することにおける使用のためのプロセス制御ルーチンには、比例-積分-微分(PID)コントローラ(一般に比例(P)コントローラ、比例-微分(PD)コントローラ、比例-積分(PI)コントローラのサブカテゴリも含む)、モデルベースのプロセスコントローラ、ファジー論理コントローラなど、多くの異なるタイプのものがある。しかし、実際の化学プラントでは、PIDコントローラは産業制御アプリケーションの約98%を占めている。理論的には、PIDコントローラはプロセスの動作中に調整または再調整することができるため、用途が広く堅牢である。通常、PIDコントローラの調整には、比例コントローラ構成要素のゲイン、および積分および微分コントローラ構成要素の各々の時定数(リセットとレート)を含む、一連の調整係数の判定が含まれる。これらの調整係数の組み合わせは、PIDコントローラの応答特性に影響または判定し、もちろん、調整係数の最適なセットは、プロセスダイナミクスとプロセス制御ループの望ましい応答特性(例えば、望ましい応答時間)に大きく依存する。
【0013】
PIDプロセスコントローラの調整は、多くのプロセス制御ループで最適に実装することが少し複雑または難しい場合があるため、一般的な化学プラント内のすべてではないにしても多くのPIDコントローラでは、殆どの場合、共通してパフォーマンスが低下する(最適に調整されていない)。特に、PID制御(およびPIDコントローラの調整)の品質は、プラントで使用される入力/出力接続やネットワークのタイプ、プラントの入力/出力ネットワークで使用される走査レート、プロセス制御モジュールの実行レート、プロセスに存在するノイズエイリアシングや時間遅延など、多くの要因によって影響を受ける。さらに,高性能(高速でスムーズな設定点追従と外乱除去)と堅牢性(幅広いプロセス条件に適用可能)のトレードオフは、PID コントローラの調整をさらに複雑にし、多くのPID コントローラがデチューンされやすく、最適なレベルでの性能を発揮できないという状況を招いている。実際、オペレータはプロセスまたは負荷外乱の変化に応じて手動でPID調整係数(コントローラゲインなど)の1つを調整することが多いため、その結果、デチューンされた、または最適に調整されていないコントローラとなる。このようなパフォーマンスの低いプロセスコントローラは、プロセスの大幅な変動、低い生産効率と生産率、高いエネルギーコストにつながる可能性がある。
【0014】
上記のように、PIDプロセスコントローラの最適な調整はプロセスダイナミクスに依存する。しかし、上述した通信要因のため、実際の産業プロセスダイナミクスは複雑であり、高次プラス時間遅延の伝達関数で記述するのが最適であることが多い。結果として、2次以上のオリジナルのプロセス伝達関数に基づいて、PIDコントローラの最適な調整パラメータを数学的に選択することは困難である。
【0015】
さらに、他のプロセスコントローラと入力/出力ネットワークの設計パラメータは、PIDコントローラの適切な調整に影響を与える。特に、入力/出力ネットワークで使用される様々なサンプリングレートとプロセスコントローラの実行レートは、プロセスコントローラの調整において重要な要素となる可能性がある(これらの要素は、プロセス伝達関数に高次の効果をもたらすため)。したがって、例えば、デジタルコンピューターはプラント制御で一般的に使用されるため、連続測定はアナログデジタル変換器(ADC)によってデジタル形式に変換され、これらの連続測定はスキャナまたは測定デバイスによって異なるレートでサンプリングされる。またさらに、上述したように、これらの測定値は、I/O通信ネットワーク内の様々な異なるデバイス間で送信され、一般に、測定デバイスと1つ以上の入力/出力(I/O)マーシャリングデバイスとの間の送信、およびI/Oマーシャリングデバイスとプロセスコントローラとの間の送信を含む。またさらに、プラント内のデバイスに影響を与えるため(例えば、バルブの開閉、アクチュエータの移動など)に使用されるコントローラ出力または制御信号は、プロセスコントローラから、1つ以上の他のI/OマーシャリングデバイスおよびI/Oネットワーク通信経路を介して、制御アクションを実施するフィールドデバイスに送信される。I/Oマーシャリングデバイスは、あるプロトコルから別のプロトコルへの信号の変換、デジタル信号からアナログ信号への変換、またはその逆の変換、有線と無線ネットワークまたは信号経路間のゲートウェイとしての実行など、各々が何らかの機能を実行する多数の異なるデバイスを含むことができる。I/Oネットワーク内のこれらの各リンクは、異なる走査レートを使用することもできるため、一般にプロセス制御ループのパフォーマンスに信号送信遅延が発生する。同様に、一部のI/Oデバイスには、信号干渉(クロストーク)を減らしたり、他の通信特性を改善したりするために、ハイパスフィルタやローパスフィルタなどの切り替え可能なフィルタが含まれている。ただし、このようなフィルタは、さらに信号送信遅延を引き起こす可能性がある(したがって、プロセスネットワークの伝達関数に高次の影響をもたらす)。このような遅延(および高次の影響)は、特にコントローラの走査または実行レートが低い場合に、プロセス制御システムまたはループの安定性とダンピングを低下させるように作用する。一般的に言って、これらの遅延やその他の特性は、一般的なプロセス制御ループを設計または調整する場合には考慮することができない。
【発明の概要】
【0016】
PIDプロセスコントローラを設計および調整する方法は、プロセスを2次プロセスとして、但し、I/Oネットワーク内の様々な異なるデバイスによって導入された効果または特性を含む様式で近似し、ラムダ調整方法のような調整方法を使用して、PIDコントローラの調整パラメータまたは係数を判定することを含む。強化されたコントローラ設計と調整方法は、プロセス制御システム内でPIDコントローラのパフォーマンスを向上させる体系的な様式を提供し、従来および高度なI/Oマーシャリングアーキテクチャの両方の信号のエイリアシング、アンチエイリアシングフィルタリングの使用、および異なるI/O設定の影響から生じる課題の克服に効果的である。
【0017】
より具体的には、コントローラの設計および調整方法は、まず、不感時間プラス2次時定数近似を使用して、プロセスを近似するが、プロセス制御ループ内の様々な異なるI/Oデバイスの時間遅延(または時定数)および走査レートも含む「ハーフルール」近似法に基づいて産業プロセスを近似し、その結果得られる近似システムに基づいてラムダ調整ルールを設計する。重要なことに、プロセス近似法は、様々な異なるI/Oマーシャリングデバイスおよび通信ネットワークによってシステムに注入されたもの、アンチエイリアシングフィルタの使用、およびI/Oネットワーク構成要素およびプロセスコントローラによる異なる走査および異なる実行レートの使用など、様々な高次の時間遅延を、これらの構成要素に関連付けられた時間遅延を不感時間近似に、および2次プロセス近似の1次および2次の時定数の計算に含めることによって、考慮する。このコントローラの設計および調整方法により、PID制御を実行するために使用されるプロセスおよびI/O通信ネットワークのこれらの様々な異なる高次効果の存在下でも、PIDプロセスコントローラを最適に調整することが可能になり、したがって、PID制御ネットワークにおけるより良い、より効率的な、より堅牢な制御を導くことができる。
【0018】
一実施形態では、PIDプロセスコントローラが入力/出力ネットワークを介してプロセスに接続されているときに、プロセスを制御することにおける使用のための比例-積分-微分(PID)プロセスコントローラを調整する方法であって、PIDプロセスコントローラ、入力/出力ネットワークおよび前記プロセスは、プロセスループを形成し、PIDプロセスコントローラの実行レートを判定することによりPIDプロセスコントローラの1つ以上の特性を判定することと、プロセスの1つ以上の時定数およびプロセスの1つ以上のプロセス不感時間を判定することによりプロセスの1つ以上の特性を判定することと、を含む。この方法はまた、1つ以上の入力/出力デバイス走査レートおよびプロセスループの入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスに関連付けられた1つ以上の入力/出力時定数および入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスのうち、少なくとも1つを判定することを含む、プロセスループの入力/出力ネットワーク内の1つ以上のデバイスの1つ以上の特性を判定することを含む。次に、この方法は、1つ以上のプロセス時定数および1つ以上の入力/出力時定数の関数として、推定されたプロセスの1次および2次の時定数を判定し、1つ以上のプロセスの不感時間、1つ以上のプロセス時定数、1つ以上の入力/出力時定数、1つ以上の入力/出力デバイス走査レート、PIDプロセスコントローラの実行レート、および1つ以上の入入力/出力不感時間の関数としての推定されたプロセスの不感時間を判定することによって、プロセス制御ループを2次プラス不感時間推定プロセスとして推定する。またさらに、この方法は、推定プロセス時定数および推定プロセス不感時間からPIDプロセスコントローラ調整係数のセットを判定し、判定されたPIDプロセスコントローラ調整係数のセットを使用して、PIDコントローラを調整する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本明細書に記載されるコントローラの設計および調整プロセスを利用して1つ以上の制御ルーチンを実装するように構成されたコントローラを有するプロセス制御システムの略図である。
図2】PIDプロセス制御ループと、制御ループに導入される可能性のあるノイズおよび時間遅延の様々な原因を表す。
図3】制御ループ内の様々な異なる要素の存在と使用に基づいてプロセス制御ループモデルまたは伝達関数を展開した略図である。
図4図1のプロセス制御システム内で強化されたPIDコントローラの設計または調整手順を実装するために使用できるPIDコントローラの設計および/または調整システムのブロック図を示す。
図5図4のPIDコントローラの設計または調整システムによって実装することができる例示のユーザインターフェースを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本明細書で詳細に説明されるように、新しいPIDコントローラの設計および調整方法論を実装するために使用され得るプロセス制御システム10を示す。プロセス制御システム10は、データヒストリアン12aと、構成データベース12Bと、各々が表示画面14を有する1つ以上のホストワークステーションまたはコンピュータ13(パーソナルコンピュータ、ワークステーション等の任意のタイプのものであってもよい)に接続されたプロセスコントローラ11を含む。プロセスコントローラ11はまた、入力/出力(I/O)カード26および28を介してフィールドデバイス15~22に接続され、入力/出力カード68および70および無線送信機/アンテナ72と74を介して無線フィールドデバイス60~66のセットに接続される。データヒストリアン12は、データを記憶するための任意の所望のタイプのメモリ、および任意の所望のもしくは既知のソフトウェア、ハードウェア、またはファームウェアを有する、任意の所望のタイプのデータ収集ユニットであってもよい。データヒストリアン12は、(図1に示すように)ワークステーション13の1つから分離されてもよく、またはその一部であってもよい。またさらに、構成データベース12Bは、プロセス制御システム10内のデバイス(例えば、コントローラおよびフィールドデバイス)に関連する情報、プロセス制御システム10のデバイス内に格納され、実行されるソフトウェアまたはファームウェア、それらのデバイスおよびソフトウェアまたはファームウェア構成要素の設定または構成パラメータ、プロセス制御システム10のコントローラ内で実行される制御モジュール、プロセス制御システム10内の様々な制御ループの同一性などを含む、プロセス制御システム10およびその構成要素に関する構成データを格納してもよい。
【0021】
例として、エマソンオートメーションソリューションズから販売されているDeltaVコントローラであるコントローラ11は、例えばイーサネットバスまたは通信接続29または他の所望の通信ネットワークを介して、ホストコンピュータ13、データヒストリアン12A、および構成データベース12Bに通信可能に接続される。コントローラ11はまた、本明細書にさらに記載のように、有線または無線通信スキームのいずれかを使用して、フィールドデバイス15~22に通信可能に接続される。いずれの場合も、任意の所望のハードウェア、ソフトウェアおよびファームウェアは、例えば、標準的な4~20maデバイス(有線接続されている場合)および/またはFOUNDATION(登録商標)フィールドバスプロトコル、HART(登録商標)プロトコル、プロフィバスプロトコル、CANプロトコルなどのスマート通信プロトコルに関連付けられているコントローラ11の制御スキームを実装するために利用されてもよい。図1に示す例示的な実施形態では、コントローラ11とフィールドデバイス15~22との間の通信は、有線接続を含むが、代わりに、または追加的に、WirelessHART(登録商標)通信プロトコルを使用して、実装されたものなどの無線通信接続を含むことができる。
【0022】
一般に、フィールドデバイス15~22は、センサ、バルブ、送信機、ポジショナ等の任意のタイプのデバイスであってもよく、一方で、I/Oカード26および28は、任意の所望の通信またはコントローラプロトコルに適合する任意のタイプのI/Oデバイスであってもよい。図1に図示された実施形態では、フィールドデバイス15~18は、I/Oカード26へのアナログ線またはアナログとデジタルの組み合わせ線を介して通信する標準的な4~20maデバイスまたはHARTデバイスであり、フィールドデバイス19~22は、フィールドバスプロトコル通信を使用して、I/Oカード28へのデジタルバスを介して通信するフィールドバスフィールドデバイスなどのスマートデバイスである。もちろん、フィールドデバイス15~22は、今後開発される任意の規格またはプロトコルを含む、他の任意の所望の規格(複数可)またはプロトコルに準拠していてもよい。
【0023】
またさらに、無線フィールドデバイス60~67は、プロセス制御システム10内に配置され、そこで制御機能を実行し、少なくとも部分的には、WirelessHART(登録商標)通信プロトコルのような任意の所望のプロトコルに準拠してもよい無線通信を使用して、プロセスコントローラ11と通信するようになっている。図1の例では、入力/出力デバイス68、70は、送受信機65、67、70、74を介して、コントローラ11と、送信機(例えば、測定フィールドデバイス)として図示されている無線フィールドデバイス60~64のセットとに通信可能に結合されてもよい。この例では、モジュールまたはデバイス66は、送信機60がそれ自体のアンテナ65を有するスタンドアロンのフィールドデバイスである間に、送信機61~64のための無線通信をセット的に処理する無線ルータであってもよい。場合によっては、トランスミッタ60~64がプロセスセンサと制御室の間の唯一のリンクを構成するため、正確な信号を制御ネットワークに送信して、製品の品質とフローが損なわれないようにすることができる。したがって、しばしばプロセス変数トランスミッタ(PVT)と呼ばれるトランスミッタ60~64は、プロセス制御システム10において重要な役割を果たし得る。
【0024】
理解されるように、送信機60~64または他のフィールドデバイスの各々は、それぞれのプロセス変数(例えば、流量、圧力、温度またはレベル)を示すプロセス信号を、1つ以上の制御ループまたはルーチンで使用するためにコントローラ11に送信する。しかしながら、場合によっては、送信機60~64は、コントローラ11から制御信号を受信して、プロセスにおいて何らかの制御動作を実行することができる。一般的に言えば、コントローラ11は、無線通信、具体的にはプロセス信号の受信をサポートするように向けられたいくつかの要素を含むことができる。これらの要素は、例えば、メモリ24に格納されたソフトウェアルーチン、またはコントローラ11の他の場所に常駐するハードウェアまたはファームウェアを含む、または構成することができる。いずれの場合でも、無線通信が受信される様式(例えば、復調、復号など)は、任意の所望の形態をとることができ、本明細書では、一般的にのみ扱われるものとする。
【0025】
コントローラ11は、メモリ24に格納される1つ以上のプロセス制御ルーチン(または任意のモジュール、ブロック、またはそのサブルーチン)を実装または監督するプロセッサ23を含む。メモリ24に格納されたプロセス制御ルーチンは、プロセス制御システム10内で実施されている制御ループを含むか、またはそれに関連付けられてもよい。一般的に言えば、コントローラ11は、デバイス15~22および60~64、ホストコンピュータ13、データヒストリアン12Aおよび構成データベース12Bと通信して、任意の所望の様式でプロセスを制御する。本明細書に記載される任意の制御ルーチンまたはモジュールは、そのように所望される場合は、その部を異なるコントローラまたは他のデバイスによって実装または実行させてもよいことに留意されたい。同様に、プロセス制御システム10内に実装されるために本明細書に記載される制御ルーチンまたはモジュールは、ソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア等を含む任意の形態をとることができる。本考察の目的のために、制御モジュールは、例えば、ルーチン、ブロック、またはその要素を含むプロセス制御システムの任意の部または部分であってもよく、任意のコンピュータ可読媒体に格納されている。制御ルーチンは、オブジェクト指向プログラミング、ラダー論理、シーケンシャルファンクションチャート、機能ブロック図、または任意の他のソフトウェアプログラミング言語もしくは設計パラダイムを使用する等、任意の所望のソフトウェア形式において実装されてもよい。同様に、制御ルーチンは、例えば1つ以上のEPROM、EEPROM、特定用途向け集積回路(ASIC)、または任意の他のハードウェアもしくはファームウェア要素にハードコードされてもよい。またさらに、制御ルーチンは、グラフィカル設計ツールまたは他のタイプのソフトウェア/ハードウェア/ファームウェアのプログラミングまたは設計ツールを含む任意の設計ツールを使用して設計することができる。したがって、コントローラ11は、任意の所望の様式で制御ストラテジまたは制御ルーチンを実装するように構成することができる。同様に、図1には1つのプロセスコントローラ11のみが示されているが、多数のプロセスコントローラをプロセス制御システム10内の同じまたは異なるフィールドデバイスに接続して、本明細書に記載される制御を実行することができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、コントローラ11は、一般的に機能ブロックと呼ばれるものを使用して制御戦略またはスキームを実装し、各機能ブロックは、(リンクと呼ばれる通信を介して)他の機能ブロックと共に動作して、プロセス制御システム10内でプロセス制御ループを実装する、全体的な制御ルーチンのオブジェクトまたは他の部分(例えば、サブルーチン)である。機能ブロックは、典型的には、トランスミッタ、センサまたは他のプロセスパラメータ測定デバイスに関連付けられている入力機能、PID、ファジー論理等の制御を行う制御ルーチンに関連付けられている制御機能、またはバルブ等のいくつかのデバイスの動作を、プロセス制御システム10内のいくつかの物理的機能を実施するように制御する出力機能のうちの1つを実施する。もちろん、ハイブリッドおよび他のタイプの機能ブロックが存在し、本明細書において利用されてもよい。機能ブロックは、コントローラ11内に格納され、コントローラ11によって実行されてもよく、これは、典型的には、機能ブロックが、標準的な4~20maデバイスおよびHARTデバイスのようないくつかのタイプのスマートフィールドデバイスに使用されるか、またはそれに関連付けられている場合である。代替的または追加的に、機能ブロックは、フィールドバスデバイスの場合のように、フィールドデバイス自体に格納され、実装されてもよい。制御システム10の記述は、機能ブロック制御戦略を使用して本明細書に提供されるが、開示された技術およびシステムはまた、ラダー論理、シーケンシャル関数チャートなどの他の慣例、または任意の他の所望のプログラミング言語またはパラダイムを使用して実装または設計されてもよい。
【0027】
図1の分解ブロック30によって図示されるように、コントローラ11は、ルーチン32および34として図示される多数の単一ループ制御ルーチンを含んでもよく、所望により、制御ループ36として図示される1つ以上の高度な制御ループを実装してもよい。このような各制御ループは、典型的には、制御モジュールと呼ばれる。単ループ制御ルーチン32および34は、バルブのようなプロセス制御デバイス、温度および圧力トランスミッタのような測定デバイス、またはプロセス制御システム10内の任意の他のデバイスに関連付けられていてもよい適切なアナログ入力(AI)およびアナログ出力(AO)機能ブロックに接続された単入力/単出力PID制御ブロックを使用して単ループ制御を実行するように図示されている。しかしながら、PID制御ブロックは、必要に応じて他の入力を使用してもよく、本明細書で説明されるPID調整方法は、AOおよびAI入力/出力ブロックでの使用に限定されない。アドバンスト制御ループ36は、1つ以上のAI機能ブロックに通信可能に接続される入力および1つ以上のAO機能ブロックに通信可能に接続される出力を有する、アドバンスト制御ブロック38を含むように図示されるが、アドバンスト制御ブロック38の入力および出力は、他のタイプの入力を受信し、他のタイプの制御出力を提供するために、任意の他の所望される機能ブロックまたは制御要素に接続され得る。先進制御ブロック38は、任意のタイプの多重入力、多重出力制御スキームを実装してもよく、モデル予測制御(MPC)ブロック、ニューラルネットワークモデリングまたは制御ブロック、多変数ファジー論理制御ブロック、リアルタイム最適化ブロックなどを構成してもよく、または含んでもよい。図1に図示された機能ブロックは、コントローラ11によって実行されるか、または代替的に、ワークステーション13の1つまたはフィールドデバイス19~22、60~64の1つなどの任意の他の処理デバイス内に配置され、実行されることができることが理解されるであろう。
【0028】
上述したように、現在のプロセス制御システムは、制御を実行するために使用される様々な異なる入力/出力ネットワーク機器の使用と同様に、プロセスダイナミクス自体の変化によってもたらされる多くの複雑さを持っており、これらのすべてが、プロセス制御を実行するために使用されるプロセス制御信号に時間遅延とノイズを追加している。このような複雑さまたはノイズおよび遅延の原因としては、例えば、アナログデジタル変換器、アンチエイリアシングフィルタ、および入力/出力ネットワークチェーン内の様々な異なるデバイスを使用する様々な異なる入力/出力構成の使用、入力/出力ネットワーク内の様々な構成要素による異なる走査レートの使用などが挙げられる。これらの複雑さは、プロセス制御ループが単純な2次プラス不感時間システムとして記述することができると仮定しがちな現在の調整技術に基づいて、PIDプロセス制御ループを最適に調整することを非常に困難にしている。結果として、PID制御ループは最初に調整されている場合があり、一時的にうまく機能する場合もある。
【0029】
しかし、プロセスダイナミクスが変化する、プロセス制御ループ内のプロセス制御システムデバイスが劣化する(それによって時定数が変化する)、プロセス制御ループ内に新しい入力/出力デバイスが追加される、アンチエイリアシングフィルタがオンまたはオフになる、走査レートが変化する等の場合、これらのPID制御ループはデチューンされて最適ではなくなり、システムの変更(例えば、設定点の変更、負荷外乱除去など)に対するプロセスコントローラの性能と応答性の低下を引き起こす。例えば、プロセス制御ループは、定常状態の応答に到達するのに所望よりも長い時間を要し、新しい値に到達するのに所望よりも長い時間を要し、所望のプロセス値を許容できないほどオーバーシュートする可能性があり、過減衰になって所望のプロセス値に到達しない可能性があり、負荷外乱にうまく反応しない可能性がある。この最適でない動作に対応するために、プロセスオペレータは一般的に手動でPIDコントローラのゲインを調整してコントローラの応答を速くしたり遅くしたり、制御信号の最終的な安静点を変更したりする。この手動調整は、特定のプロセス制御ダイナミックを補正しながら、典型的には、プロセス制御ループを非最適状態にして、プロセス全体の出力または品質を低下させる。この品質と出力の低下は、プロセスで使用されているプロセス制御ループの多数のループが最適に設計または調整されていない場合に特に当てはまる。
【0030】
化学プロセスなどのプロセスにおけるPID制御ループのより最適な調整を提供するために、新規なPIDプロセスコントローラの設計および/または調整の方法論または技術は、まず、修正された形態、いわゆる「ハーフルール」プロセス近似に基づいて産業プロセス(およびそのプロセスを制御することにおける使用のための制御ループ)を近似し、その結果得られた近似システムに基づいて、ラムダ調整ルールなどの調整ルールを設計する。PIDコントローラの設計または調整方法またはシステムは、結果のルールを使用してPIDコントローラで使用される調整パラメータを判定し、プロセスの動作中に使用するためにこれらの調整パラメータをPIDコントローラに提供する。
【0031】
図2に示すように、実際の産業プロセスは、その個別の構成要素を定義またはモデル化することによってモデル化することができる。図2は、例えば、プロセス104を制御するためにプロセス104に結合されたPIDコントローラ102を含む単純なプロセス制御ループ100を示す。この場合、PIDコントローラ102は、制御変数(CV)、例えばバルブ位置に影響を与えるために制御信号Uをバルブ106に送り、制御変数CVの変化はプロセス104に影響を与える。一般的に言えば、プロセスの力学/化学104は、制御変数CVに基づいて伝達関数108を適用して、制御変数の変化に応答してプロセス変数(PV)の値を定義する。プロセス変数PVは、測定されたプロセス変数PVをコントローラ102に送信する送信機110として示される測定デバイスによって測定される。一般に、コントローラ102または制御ループには、測定されたPVを受信する入力/出力カード内にあるAI(アナログ入力)モジュールまたはカード111が含まれる(場合によっては、この信号を走査レートでデジタル化して、測定されたプロセス変数のデジタルバージョンを生成する)。カード11は、測定されたプロセス変数のデジタル値を、設定点SPとプロセス変数(PV)のフィードバック測定との間の誤差または差を示す誤差信号(e)を生成する設定点加算器112に供給する。誤差信号eは、誤差信号eをコントローラゲイン(K)で乗算し、修正された(ゲインされた)誤差信号を比例(P)、積分(I)および微分(D)コントローラ構成要素の各々に供給するゲインユニット114を含むPIDコントローラ構成要素のセットに供給される。P、I、Dコントローラコポーネントは、処理を実行し、一般的な意味で、得られた誤差信号に伝達関数を適用して、各々が制御信号の出力コポーネントを生成し、P、I、Dコントローラコポーネントの出力は、加算器116で合計されて、制御信号Uを生成する。制御信号Uは、制御信号Uをアナログ信号に変換し得るAOブロックまたはカード118(この例では)に送って、この信号をバルブ106に送り、制御されるプロセス変数PVに関してプロセス104の動作に影響を与えるか、または制御する。
【0032】
図2にも示されているように、プロセス制御ループ100に導入される誤差、外乱、時間遅延には様々な発生源がある。特に、測定されない負荷外乱Lは、加算器120によってモデル化されるように導入され得る。ノイズ、例えば、高周波ノイズは、プロセス変数PVに導入される可能性があり、加算器122によってモデル化される。同様に、AIおよびAOカード111および118、ならびにコントローラ102をバルブ106およびトランスミッタ110に接続する配線および他の物理層を含む入力/出力ネットワークは、プロセス制御ループ100に時間遅延を導入する。より具体的には、AIおよびAOカード111および118の走査レートまたはサンプリングレート、これらのカードの処理時間、ネットワーク通信時間などは、時間遅延をプロセス制御ループ100に導入する。特に、A/D変換器(AIカード111内または送信機110内)を通過した後、プロセス変数(PV)は、コントローラ102と通信するI/Oネットワークに送られる前に、ユーザ定義のレートで入力/出力スキャナによって走査される。例えば、スキャナレートが500ミリ秒に設定されている場合、カード111の入力/出力スキャナは、データベースを検索してPV値を更新する前に500ミリ秒ごとに待機する。同様に、走査レート設定に応じて、PIDコントローラ102は、100/500/…ミリ秒ごとに待機してから、制御の移動を更新する。これらの同じ種類の遅延は、AOカード118およびバルブ106によって導入され得る。これらの遅延は、AIまたはAOカード111、118がより複雑であり、例えば、互いに通信し、プロトコル変換を実行し、またはI/Oネットワークのゲートウェイまたはマルチプレクサとして機能し、アンチエイリアシングフィルタを含むか、または実装しなければならない様々なデバイスで構成されている場合には、増加する可能性がある。
【0033】
またさらに、負荷外乱Lは、これらの潜在的に異なる走査期間中のいつでも発生する可能性がある。したがって、PID閉ループ制御の品質は、I/Oタイプ、I/O走査レート、モジュール実行レート、ノイズエイリアシング、フィルタや通信パス構成要素によって導入される時間遅延など、多くの要因の影響を受ける可能性がある。同様に、プロセス104は一般に、それに伴う不感時間を有する。またさらに、コントローラ102が低速で実行される場合、このコントローラ102は、プロセス104内の高周波ノイズおよび外乱に効果的に応答することができない。
【0034】
上述したように、制御デバイス102の制御性能に影響を与える要因は、ノイズ、エイリアシング、通信経路遅延、アンチエイリアシングフィルタリングを含む多くの要因がある。さらに、送信機110によって行われる測定に影響を与えるプロセスおよび電気ノイズの多くの原因がある。例えば、不適切に取り付けられたオリフィスプレートを使用して流量が測定された場合、つまり上流を走る直管が不十分である場合、乱流は、流量測定に影響を与えるプロセスノイズの原因となる可能性がある。電力線が計装配線に近すぎると、計装配線によって運ばれる4~20 mA信号が歪んで、制御システムでノイズとして認識される可能性がある。エイリアスは通常、アナログ信号をデジタル化するときに最も顕著であるが、コントローラモジュールの実行がI/O走査より遅い場合など、デジタル信号が低速で再走査される場合にも発生する可能性がある。知られているように、PIDコントローラは、ナイキスト周波数(PID実行レートの1/2)未満で送信される情報を効果的に制御するだけである。一方では、高周波帯域での電気ノイズがナイキスト周波数以下の信号を歪め、制御動作の破損につながる可能性がある。この場合、信号が低周波数にエイリアスされるため、PIDコントローラ102は、PV測定におけるいくつかの重要な周波数成分に応答することができない。50~60 Hzの電気ノイズによるエイリアシングを防ぐために、多くの従来のアナログ入力カードやその他の入力/出力構成要素には、アンチエイリアシングフィルタが組み込まれている。例えば、従来のアナログ入力カードには、A/D変換器の前に2極RCフィルタ(約3Hzで-3dBの周波数)があり、フィールド配線で拾われる可能性のある電気ノイズを除去する。さらに、このハードウェアフィルタは、アナログ入力を使用するモジュールが100ミリ秒で実行するように構成されている場合、いくつかのプロセスノイズに対するアンチエイリアシング保護を提供する。その他のアナログ入力デバイスは、A/D変換器に統合されているFIRフィルタ(約14.8Hzで-3dBの周波数)を使用して電気ノイズを除去するように設計されていてもよい。ただし、これらのフィルタは、プロセス制御ダイナミクスに時間遅延と複雑性を追加する。
【0035】
いずれにしても、図3に示されるように、図2のプロセス制御ループ100は、高次プラス不感時間伝達関数(プロセス自体のための)、I/Oネットワーク経路で使用されるアンチエイリアシングフィルタのためのローパスフィルタ伝達関数、トランスポート遅延伝達関数などを含む一連の機能ブロックとして記述またはモデル化することができる。図3の例では、実際の産業プロセスおよびそれに関連するプロセス制御ネットワークの動作は、高次プラス不感時間伝達関数200(プロセス自体のための)、ローパスフィルタ伝達関数202および204(プロセス制御ループ内に配置された様々なローパスフィルタまたはアンチエイリアシングフィルタのための)、プロセスおよび通信不感時間206、他のプロセスダイナミクス208、およびトランスポート遅延210を含む一連の相互接続された機能ブロックによって記述することができる、特に今日使用されているより高度なまたは複雑な入力/出力ネットワークによって、例えばI/O通信ネットワークによって導入される。またさらに、プロセスコントローラ伝達関数212は、プロセス制御ループ100の動作に影響を与える。
【0036】
上述したように、この環境でPIDコントローラの一貫した設計と調整を行うために、調整方法とシステムは、まず、Skogestad,S.モデル削減とPIDコントローラ調整のためのシンプルな解析ルール(Simple Analytic Rules for Model Reduction and PID Controller Tuning.)によって提案された「ハーフルール」プロセス近似の適応に基づいて、プロセスを2次プラス不感時間モデルとして近似する。Journal of Process Control,13,291(2003).特に、プロセス(G)は、以下の式(1)を使用して、2次プラス不感時間プロセスとして推定することができる。
【数1】
式中、
【数2】

別のケースでは、プロセス(G)は、逆時間成分を含むように近似することができる。
【数3】
【0037】
いずれの場合も、時定数項τi0は、プロセス時定数(プロセス自体の動作に関連付けられた時定数)、入力/出力マーシャリングデバイス内のフィルタまたは他のデバイスに関連付けられた時定数、プロセス制御ループ内の送信機、バルブ、アクチュエータ等のダイナミクスに関連付けられた時定数等を含むプロセス制御ネットワークまたはループ内の様々なデバイスの時定数である。さらに、τi0項は、様々なシステム構成要素の時定数を降順(最大から最小まで、τ10が最大の時定数、τ20が2番目に大きい時定数など)で表している。またさらに、
【数4】
項は逆応答時間定数を表し、ρi項は、PIDプロセスコントローラの走査レート、I/Oマーシャリングデバイス(入力/出力カードまたはI/Oネットワーク内の他のデバイス、例えば、測定デバイスまたは送信機、バルブ入力走査レートなどを含む)、入力/出力デバイス内のA/D変換器などである。同様に、θ因子は、プロセス制御ループの不感時間であり、プロセス自体の伝達機能に伴う不感時間、入力/出力ループ内の入力/出力内のフィルタや走査デバイス、あるいはプロセス制御ループの構造などで導入される遅延(不感時間)を含むものである。例えば、送信機はサンプリング遅延、A/D変換器の遅延、または他の処理遅延に起因する不感時間を導入し、入力/出力マーシャリングデバイスは、プロトコル変換、サンプリング遅延、処理遅延、有線プロトコルから無線プロトコルへの変換、またはその逆の変換、複雑な無線ネットワークを介した信号の送信などの実行に関連した時間遅延に起因する不感時間を導入することがある。さらに、送信機やI/Oマーシャリングデバイス内のアンチエイリアシングフィルタなどのフィルタは、(時定数に加えて)それに関連した不感時間を持ってもよい。したがって、時定数τi0は、実際のプロセスダイナミクス、プロセス内のバルブやアクチュエータの操作、I/Oネットワークデバイス内のフィルタの操作などに由来する可能性がある。同様に、不感時間用語θは、プロセス制御I/Oネットワーク内のバルブ、アクチュエータ、フィルタ、I/Oマーシャリングデバイス、通信ネットワークなどの操作によって導入された実際のプロセス不感時間、不感時間から来ている可能性がある。さらに、走査レートの項ρは、I/Oネットワークデバイスの走査レート、デジタルコントローラの走査または更新レート、送信機の走査レート、I/Oマーシャリングデバイスの走査レートなどから来てもよい。
【0038】
また、式(1)によれば、プロセス近似の2次時定数τは、ループ全体の2番目に大きい時定数(τ20)に、ループ全体の3番目に大きい時定数(τ30)の2分の1を加えたものであり、これがこのプロセス近似のいわゆる「ハーフルール」の側面を生じさせていることにも留意されたい。さらに、プロセス不感時間は、I/Oネットワーク内の各構成要素の不感時間の和に、第3の最大時定数の2分の1と他のすべての高次時定数の和を加えたものであり、プロセス制御ループ内の異なるデバイスの各々の走査レートの和であることに留意されたい。
【0039】
上記の計算は、オリジナルのSkogestad論文とは異なり、走査デバイスおよび他の入力/出力デバイスの各々で使用されるフィルタ(例えば、アンチエイリアシングフィルタおよびローパスフィルタ)の各々の時定数、およびこれらのデバイスに関連付けられた他の時定数を、2次の時定数計算(tおよびt)および推定プロセス不感時間θの計算の両方に組み込んだものである。さらに、I/Oネットワーク内の様々なデバイスの多数のデバイスの不感時間と走査レートは、プロセス不感時間の近似で考慮されているか、または説明される。オリジナルのSkogestad論文では、異なるデバイスの多数の走査レートや不感時間を考慮しておらず、プロセスループまたはプロセスループの入力/出力ネットワーク内の入力/出力デバイスの、またはそれに関連付けられた、またはそれに導入された時定数を考慮しなかった。しかし、重要なことに、本明細書に記載されている調整方法は、I/Oネットワーク構成要素の時定数、不感時間、走査レートもまた、これらの時定数のいずれかが支配的であったり、プロセス制御ダイナミクスに否定的な影響を与えたりする可能性があるため、システム全体を調整する上で重要であるという事実を考慮に入れている。実際、この方程式では、1つ以上の入力/出力通信ネットワークデバイスの時定数が、プロセス近似の1次または2次の構成要素に現れ得る。すなわち、プロセス制御ループのI/O通信ネットワークにおいて使用されるアンチエイリアシングまたはローパスフィルタ時定数をτ10またはτ20またはτ30の因子(すなわち、プロセス制御ループ内の最高時間定数)とすることができる。さらに、不感時間と、これらのデバイスに関連付けられた、様々な入力/出力デバイスと時間遅延の走査レートは、ρの計算に含まれているため、プロセスの近似の不感時間の推定に影響を与え、ひいては貢献する。これらの要因は、オリジナルのSkogestad論文ではこのように存在または考慮されていなかった。したがって、本明細書に記載される調整方法は、アンチエイリアシングフィルタが使用されている場合、エイリアシングが存在する場合、入力/出力デバイスが比較的低いまたは遅い走査レートを有する場合、時間遅延を導入する無線通信が使用されている場合など、入力/出力ネットワークデバイスがフィードバックループに著しい負の影響を及ぼす場合に、適切な調整を可能にするためにうまく機能する、より正確でより良いプロセス近似を提供するものである。
【0040】
プロセスが近似された後、システムまたは方法は、次に、例えばラムダ調整方法を使用して、PIDコントローラの調整係数を判定してもよい。コントローラ調整には多くの異なるアプローチがあるが、単純なプロセスダイナミクスと複雑なプロセスダイナミクスの両方に対応し、理解と実装が最も簡単なため、この例ではラムダ(λ)調整が好ましいとされている。自己制御プロセスのラムダ調整では、「ラムダ」は制御ループのステップ設定点変化の閉ループ1次時定数である。ラムダ調整では、閉ループ時定数とも呼ばれる1つの数値λを用いて閉ループの挙動を特徴付けを可能にする。ループ(プロセス、測定、最終制御要素)のトータル不感時間は、ループの制御性能を制限する。ラムダを不感時間の倍数の因子として選択することで、不感時間の増加がループの潜在的な制御性能に与える負の影響を明らかにする一貫した調整方法を提供する。
【0041】
一例では、自己制御プロセスのために、設定点変化応答のための閉ループ伝達関数が、時定数λのローパス1次フィルタのものになるように、コントローラは調整されてもよい。
【数5】
【0042】
負荷外乱除去のための閉ループ伝達関数は、時定数λのハイパス1次フィルタのものに設定してもよい。
【数6】
【0043】
ラムダ調整の多くの利点の一つは、λの値を設定することで閉ループ性能を簡単に指定することを可能にすることである。さらに、この方法は、関連する制御ループの応答を調整し、ループ相互作用を最小化するために使用することができる。
【0044】
いずれにしても、式(1)で規定されるような2次プロセスプラス時間遅延モデルまたはプロセス近似の場合、PIDの標準形のラムダ調整式は、負荷阻止応答と設定点応答の両方について同様であり、以下のようになる。
【数7】
【0045】
ここでKcは比例コントローラ成分のコントローラゲイン、τrは積分コントローラ成分のリセット時定数、τdは微分コントローラ成分のレート時定数である。
【0046】
このように、ラムダの調整手順はかなり簡単である。まず、システムまたは方法は、標準的な手順(プロセスゲインKpについて)と、時定数(τ1、τ2)および不感時間(θd)についての式(1)を使用して、プロセスゲイン(Kp)、不感時間(θd)および時定数(τ1、τ2)を判定する。次いで、システムまたは方法は、式(5)および(6)を用いて、コントローラリセットおよびレート(τr、τd)、すなわち、積分(I)および微分(D)コントローラ成分のチューニング係数を計算する。次いで、システムまたは方法は、ラムダ(λ)の値を判定し、式(4)を使用してコントローラゲイン(Kc)を計算する。
【0047】
実際には、ループ応答を調整したり、相互作用を最小化したりする必要性を見送って、システムまたは方法は、堅牢性を確保するために、以下のラムダの初期選択を使用してもよい。
λ=3max(τr,θd)(7)
すなわち、この場合、ラムダ(λ)は、推定されたプロセス不感時間またはリセット時定数の3倍の大きさを選択してもよい。
【0048】
その後、システムまたは方法は、コントローラの調整パラメータKc、τr、τdをPIDコントローラに提供し、PIDコントローラは制御計算のためにこれらのチューニングパラメータを使用する。
【0049】
前に考察されたように、時間遅延はデジタル制御システムの安定性を損なう。本明細書に記載されている強化されたPID設計とチューニング戦略では、これらの遅延θiが不感時間近似項θdに直接追加される。これにより、プロセス制御システムのループ内の遅延が大きくなるほど、θdが大きくなり、その結果、式(4)に基づいて満足のいく制御性能を保証するために必要なコントローラゲインKcの設定がより保守的になることがわかるであろう。さらに、本明細書に記載されているような修正された「ハーフルール」プロセス近似を組み込むことで、強化されたPID設計および調整方法は、プロセスダイナミクスを単純化し、2次プラス時間遅延伝達関数を代替として使用する。結果として単純化された結果は、様々なプロセスダイナミクス(流量変化、バルブの動き、フィルタなど)を簡単に近似する方法を示すだけでなく、よりシンプルな調整方法論を提供することで、PIDコントローラの設計の基礎を築く。
【0050】
このように、本明細書に記載された新規かつ強化されたPIDコントローラの設計および調整方法は、プロセス制御システム内のPIDコントローラの性能向上を得るための体系的なツールを提供する。このような方法およびシステムは、信号のエイリアシングおよびアンチエイリアシングフィルタリングから生じる課題、および従来の入力/出力ネットワークと拡張または拡張された入力/出力ネットワークの両方の異なる構成および設定から生じる課題を克服することができる。さらに、この方法およびシステムは、異なるタイプのプロセス、サンプリングレートの異なるプロセス、時間遅延(ジッタ)の変動があるシステム、制御性能内にエイリアシングがあるプロセスに使用することができる。
【0051】
図4は、本明細書に記載されたコントローラの設計または調整方法を実装するために使用され得る例示的なPIDコントローラの設計または調整システムを示す図である。特に図4は、1つ以上のユーザインターフェース304と、構成データベース306とに通信可能に結合されたPIDプロセスコントローラの設計または調整アプリケーション302を含む構成システム300を図示している。さらに、アプリケーション302は、例えば、PIDプロセスコントローラまたはプロセスプラント内の1つ以上のプロセスループを制御することにおける使用のための制御モジュールであり得る1つ以上のプロセスコントローラ311に接続されてもよい。所望であれば、アプリケーション302は、例えば図1のワークステーションまたは他の構成デバイス13のメモリに格納されてもよく、コンピュータのプロセッサ上で実行されてもよい。さらに、ユーザインターフェースデバイス304は、図1のインターフェースデバイス14のようなプロセスプラント構成システムまたはオペレータシステムに関連付けられたインターフェースデバイスであってもよい。この場合、アプリケーション302は、1つ以上のPIDプロセスコントローラがプラント内で設計または実装されているプラント設計または構成システムの一部であってもよく、またはプラント運転制御システムの一部であってもよく、この場合、アプリケーション302は、プロセスプラント内で現在実行されている1つ以上のPIDコントローラ上で調整を実行するために使用されるか、または呼び出されてもよい。さらに、図1の構成データベース12Bであり得る構成データベース306は、プロセスプラントの構成、特に、プロセスプラント内のデバイスおよび論理要素(例えば、制御ルーチン、制御ループなど)に関する情報を格納してもよい。構成データベース306は、1つ以上のPID制御ルーチンまたは制御モジュールによって制御される1つ以上のプロセス制御ループ内の様々なデバイスの同一性、能力、構成および構成を示す情報を格納してもよい。このように、構成データベース306は、様々な送信機および入力/出力デバイスで使用される様々なアンチエイリアシングフィルタの同一性および構成、それらのフィルタがプラント内で現在使用されているかどうかなどに関連する情報を格納してもよい。さらに、構成データベース306は、様々なフィールドデバイス(例えば、バルブ、送信機など)がプロセス制御ループ内のプロセスコントローラに接続される様式を示す情報を格納してもよく、これには、接続を行うために使用される入力/出力デバイス、それらのデバイス内のA/D変換器、それらのデバイスの走査レート、それらのデバイスに関連付けられた輸送遅延、およびそれらのデバイスによって導入される可能性のある時間遅延またはノイズまたはジッタ、およびそれらのデバイスの動作に関連付けられた任意の時定数を示す他の情報が含まれる。同様に、構成データベース306は、プラント内のPIDプロセス制御ループで使用されるプロセスコントローラ、それらのコントローラまたは制御モジュールの走査レートなどに関連する情報を格納してもよい。また、構成データベース306は、プロセスの異なる制御ループのための様々なプロセス時定数や不感時間、プロセスゲインなど、制御されるプロセスダイナミクスに関する情報を格納してもよい。
【0052】
図4に図示されているように、アプリケーション302は、1つ以上のプロセスコントローラ311に接続され、これらのコントローラから情報を取得するためにこれらのコントローラ311と通信してもよく、またはこれらのコントローラに接続されたフィールドデバイスおよび入力/出力デバイスから情報を取得してもよく、またはこれらのデバイスに情報またはコマンドを送信してもよい。
【0053】
設計および調整アプリケーション302は、本明細書に記載されているようなPIDコントローラの設計または調整手順に関連付けられた、様々な動作を実行するサブルーチン、モジュールまたは構成要素を有してもよい。アプリケーション302は、例えば、プロセスに関連する,プロセスについて,またはプロセスを記述する情報(プロセス時定数,不感時間など)を取得または判定する、PIDコントローラに関連する、PIDコントローラについて、またはPIDコントローラを記述する情報(例えば、設計または調整されるPIDコントローラの同一性、PIDコントローラによってプロセスを制御することにおける使用のためのプロセスループおよびプロセスデバイス、PIDコントローラの更新レートまたは走査レートなど)を取得または判定する、そして制御されているプロセスループのI/Oネットワーク内のデバイス(例えば、走査レート、これらのデバイスの不感時間または遅延、ループ内のフィルタ、バルブ、アクチュエータなどに関連付けられた時定数など)を記述する情報を取得または判定する、1つ以上のルーチンまたはモジュールまたは構成要素を含むことができる。これらのルーチンは、ユーザがユーザインターフェースを介して、構成データベースから、または様々なデバイス自体から、この情報を入力することを可能にすることによって、この情報を取得または判定してもよい。アプリケーション302は、プロセスの動作を記述するパラメータまたは変数、PIDコントローラ、およびプロセス制御ループで使用されるI/Oネットワーク内のデバイスを使用して、プロセス制御ループ全体を2次プラス不感時間推定プロセスとして推定することを含む、その後、プロセス制御ループ全体を推定するサブルーチン、モジュールまたは構成要素を含んでもよい。アプリケーション302は、その後、推定されたプロセス変数を使用して調整方法を実行する1つ以上のサブルーチン、モジュール、または構成要素を有してもよく、例えば、推定されたプロセスに基づいてPIDコントローラの最適な調整パラメータを判定するためのラムダ調整方法を実装するモジュール(PIDコントローラ、プロセス、およびプロセス制御ループで使用されるI/Oネットワークからの要素を組み込んでいる)などが挙げられる。これらのルーチンまたはモジュールは、ユーザが調整方法を選択するか、またはラムダ調整方法におけるラムダの値を選択することを可能にし得、またはルーチンは、予め設定された値または方法論を使用してラムダの値を自動的に選択または計算してもよい。さらに、アプリケーション302は、計算された調整パラメータに基づいてプロセス制御ループの動作を推定し、この動作をユーザに表示または表示して、ユーザが設計および調整されたコントローラの特性を見ることを可能にし、必要に応じて調整パラメータまたは方法論を変更することを可能にする1つ以上のルーチンを含んでもよい。また、アプリケーション302は、プロセスの動作中に制御を実行する際にPIDコントローラによって使用するために、計算された調整パラメータをダウンロードするか、またはPIDコントローラに送信する1つ以上のルーチンを含んでもよい。
【0054】
このように、動作中、アプリケーション302は、プロセスプラントを構成するときやプロセスプラントに新しい制御ループを追加するときなど、PIDコントローラの設計を実装するために開始されてもよいし、コントローラのPID制御モジュールによって制御されているプロセス制御ループが良好に動作していないときなど、すでに設計されて設置されているPIDコントローラを調整するために開始されてもよい。いずれの場合も、アプリケーション302は、設計または調整される制御モジュールまたはPIDコントローラの同一性を要求してもよく、その情報を受信すると、構成データベース306と、ユーザインターフェース304を介してユーザ、または識別されたPID制御モジュールを格納して実装するプロセスコントローラ311と通信して、PID制御モジュールの走査レートまたは実行レート、PID制御モジュールによって制御されている接続またはプロセス変数、PID制御モジュールによって使用され制御されているプロセス制御ループを構成する入力/出力ネットワーク内のデバイスなどを含む、PIDコントローラおよび制御ループに関する情報を取得してもよい。もちろん、所望であれば、アプリケーション302は、ユーザ入力デバイス304の1つでのユーザ入力、構成データベース306からのユーザ入力、コントローラ311の1つでのコントローラ311からのユーザ入力、またはこれらのデバイスの任意の組み合わせを介して、ユーザから直接この情報を取得してもよい。
【0055】
作成または調整中のPIDプロセス制御モジュールに関する情報を受信し、プロセスモジュールに関連付けられたプロセス制御ループ内のデバイス(およびI/Oネットワーク)を判定すると、アプリケーション302は、ループ内のデバイスの各々を識別する特定の情報、およびデバイスの走査レート、デバイスまたはデバイスの構成要素(例えば、デバイス内のA/D変換器)のフィルタメイクまたは係数、アンチエイリアシングフィルタが係合しているか否か、およびこれらのフィルタのメイクアップまたは構成を含む、デバイスの各々の関連する特性の各々を取得してもよい。あるケースでは、アプリケーション302は、構成データベース306またはプロセスコントローラ311からこの情報を体系的かつ自動的に取得するか、ユーザインターフェース304の1つを介してユーザにこの情報をプロンプト表示する(例えば、構成データベース306で、またはコントローラ311から利用可能)。
【0056】
図5は、設計または調整されているプロセスモジュールまたはプロセス制御ループの識別情報を提供するようにユーザに要求するためにアプリケーション302によって提供されてもよい画面表示400を例示している(これは、所望であれば入力ボックス402でドロップダウンメニューを介して提供または選択されてもよい)。特定のPIDコントローラまたはループが選択されると、システムは、選択された制御ループ内の様々なデバイスまたは構成要素を(入力ボックス404で)表示し、ユーザがそれらのデバイスを変更し、ループ内に新しいデバイスを追加するなどを可能にしてもよい。これらのデバイスまたは構成要素は、プロセス構成要素、様々なI/Oデバイス構成要素、およびPIDコントローラ構成要素の仕様を含んでもよい。指定された構成要素の各々について、システムは、入力ボックス406で設計または調整されているプロセス制御ループ内の識別されたデバイスまたは構成要素の様々な時間遅延、時定数、フィルタ特性、走査レート、不感時間などを取得して表示してもよい。上述したように、入力情報の一部またはすべは、アプリケーション302によって、構成データベース306から、またはプロセスコントローラ311の1つから(またはプロセスコントローラ311に接続された入力/出力デバイスおよびフィールドデバイスから、あるいはフィールドデバイス自体からも)自動的に取得してもよく、または入力ボックス402、404、406内のユーザからの直接入力を介して取得してもよい。また、アプリケーション302は、ユーザがこれらの要素の各々に対して有し得る様々な選択肢を示すドロップダウンボックスまたはポップアップボックスをユーザに提供してもよく、これらの選択肢は、例えば、構成データベース306内のデバイス情報、またはプロセスコントローラ311内のデバイス情報、または入力/出力デバイス、またはフィールドデバイスから取得してもよい。
【0057】
一旦、アプリケーション302が、設計または調整されるプロセス制御ループ内のデバイスの各々に関連する情報を取得すると、アプリケーション302は、式(1)のハーフルール2次プラス不感時間近似を使用してプロセスを近似してもよい。ここで、アプリケーション302は、ループ内の入力/出力デバイス、プロセス、およびプロセスコントローラのフィルタおよび走査特性を含む、設計または調整されているプロセス制御ループに関する情報から、これらの式で使用するための最も支配的な時定数t10およびt20を判定してもよい。同様に、アプリケーション302は、プロセス制御ループが作成または調整されている様々なデバイスの走査レートおよび実行レートのすべてを使用して、高次の時定数を使用して、近似プロセスの不感時間を判定してもよい。
【0058】
さらに、推定プロセスループ計算、すなわち式(1)を使用するプロセスループの近似計算を実行する前または実行後に、アプリケーション302は、PIDコントローラの設計または調整パラメータを判定するために使用される特定の調整またはコントローラの設計方法を選択するようにユーザに要求してもよい。調整方法の選択は、図5の入力ボックス410によって提供されてもよい。いくつかの実施形態では、アプリケーション302は、単に上述したようなラムダ調整方法論を使用してもよいが、他の実施形態では、プロセス近似に基づいて使用することができる他の調整オプションまたは方法を(例えば、図5のドロップダウンボックスまたはポップアップボックスを介して)ユーザに提供してもよい。アプリケーション302がラムダ調整方法を使用するか、またはユーザがラムダ調整方法を選択する場合、アプリケーション302は、ボックス408内のラムダの値を指定するようにユーザに要求してもよく、または代替的に、例えば、上記の式(7)を用いてラムダの値を計算してもよい。いずれの場合でも、ユーザが計算調整ボタン412を押すと、アプリケーション302は、上述の式(4)~(6)を使用して、コントローラゲインKc、およびリセット時定数τrおよびレート時定数τdを含むPIDコントローラの設計または調整パラメータを計算してもよい。アプリケーション302は、ユーザが表示特性ボタン414を選択した場合、PIDコントローラ特性をモデル化してもよく、または(別の組のグラフまたはリストで)表示してもよい。さらに、アプリケーション302は、これらの設計パラメータまたは調整パラメータを、(例えば、ユーザによる承認に基づいて)PID制御ループを実装するプロセスコントローラ311内のPID制御モジュールに提供してもよい。次に、アプリケーション302は、プロセスプラント内またはプロセスプラントの一部分内の他の(例えば、他のすべての)PID制御モジュールまたはループに対して、これらのステップを繰り返してもよい。
【0059】
所望であれば、アプリケーション302は、設計されたまたは調整されたプロセスループのプロセス制御特性をモデル化または推定してもよく、これらの推定値を、例えば、ユーザが図5の表示特性ボタン414を押すか、または選択した後に、ユーザに(ユーザインターフェース400を介して)提供してもよい。これらのプロセス制御特性は、例えば設定点の変化および/または負荷外乱に対する調整したPIDコントローラの制御応答をユーザが見ることを可能にするために、因子および/または1つ以上のグラフとして提供されてもよい。次に、ユーザは、所望に応じて、計算に使用されるラムダを変更し、アプリケーション302は、ラムダの新しい値に基づいて、調整計算およびプロセスループ推定を再調整してもよい。さらに、または代替的に、ユーザは、例えば図5の画面400を介して、I/Oネットワーク内の新しいまたは異なるデバイスまたはデバイス機能、およびそれらの新しいまたは異なるデバイスまたはデバイス機能の不感時間、走査レート、および時定数を指定することによって、I/Oネットワーク内で使用されるI/Oデバイスのデバイスまたはデバイス機能を変更することができる。次に、調整または設計システムは、新しいプロセス制御ループ近似を計算し、その新しいプロセス制御ループ近似上で調整を実行し、モデルを実行または実行し(すなわち、新しく設計された制御ループの動作をモデル化する)、この新しいまたは異なるプロセスI/Oループによるプロセス制御特性を、例えば、グラフまたはチャートを介して例示することができる。例えば、ユーザは、図5の画面400を使用して、フィルタ設定を変更したり、様々なI/Oデバイスのフィルタをオン/オフに切り替えたり、I/Oデバイス(またはI/Oデバイスのタイプ、例えば、4~20maデバイスの使用からA/D変換器の使用を含まないスマートデバイスへの変更など)を変更したり、様々なアンチエイリアシングフィルタまたは他のデバイス特性の使用を追加または排除したり、デバイスの不感時間、走査レートなどを変更したりして、新たに設計されたプロセス制御ループが現在の設計よりも優れた性能を発揮するかどうかを判断したりすることができる。このように、ユーザは、デバイス、デバイス構成要素、およびフィルタ設定を変更すると、制御にどのような影響を与えるかを見ることができる。
【0060】
したがって、アプリケーション302は、この方法が、ループ入力/出力ネットワーク内の様々な異なるタイプのデバイスおよびフィルタを使用する複雑なプロセス制御システムにおいて、現在プロセス制御ループの性能に影響を与える要因のより広い配列を考慮に入れるので、より良いまたはより最適な制御を提供するプロセスプラント内のPID制御ループまたはモジュールを設計または調整するための、一貫性があり、使いやすい方法論を提供し、実施する。
【0061】
本明細書では、「フィールドデバイス」という用語は、多数のデバイスまたはデバイスの組み合わせ(すなわち、送信機/アクチュエータハイブリッドのような多数の機能を提供するデバイス)、および制御システムで機能を実行する他のデバイス(複数可)を含む広い意味で使用される。いずれにしても、フィールドデバイスは、例えば、入力デバイス(例えば、温度、圧力、流量などのプロセス制御パラメータを示す状態、測定、または他の信号を提供するセンサや計器などのデバイス)、およびコントローラおよび/または他のフィールドデバイスから受信したコマンドに応答して動作を実行する制御演算子またはアクチュエータを含むことができる。
【0062】
実装された場合、本明細書に記載されたソフトウェアのいずれかは、磁気ディスク、レーザーディスク(登録商標)、または他の記憶媒体、コンピュータまたはプロセッサのRAMまたはROMなどの任意のコンピュータ読み取り可能なメモリに格納されてもよい。同様に、このソフトウェアは、例えば、コンピュータ読み取り可能なディスクまたは他の輸送可能なコンピュータ記憶機構上で、または電話回線、インターネット、ワールドワイドウェブ、他のローカルエリアネットワークまたはワイドエリアネットワークなどの通信チャネルを介して、既知または所望の配信方法を使用して、ユーザ、プロセスプラントまたはオペレータのワークステーションに配信することができる(これらの配信は、輸送可能な記憶媒体を介してそのようなソフトウェアを提供するのと同じであるか、または交換可能であるとみなされる)。さらに、本ソフトウェアは、変調または暗号化なしで直接提供されてもよく、または通信チャネルを介して送信される前に、任意の好適な変調搬送波および/または暗号化技術を使用して変調および/または暗号化されてもよい。
【0063】
したがって、本発明は具体的な例に関して記載されてきたが、これらの例は例解的に過ぎず、本発明の限定であることを意図せず、変更、追加、または削除が、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、開示される実施形態に対して行われ得ることが当業者には明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5