(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
F15B 20/00 20060101AFI20240607BHJP
B66C 13/20 20060101ALI20240607BHJP
B66C 15/00 20060101ALI20240607BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20240607BHJP
G01F 1/26 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
F15B20/00 D
B66C13/20
B66C15/00 A
E02F9/26 B
G01F1/26
(21)【出願番号】P 2020523200
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2019022697
(87)【国際公開番号】W WO2019235610
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2018110566
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503032946
【氏名又は名称】住友重機械建機クレーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 宏之
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-189223(JP,A)
【文献】特開昭49-048350(JP,A)
【文献】特開2013-076444(JP,A)
【文献】特開2014-105766(JP,A)
【文献】特開昭61-024805(JP,A)
【文献】特開2012-041767(JP,A)
【文献】特開2005-330935(JP,A)
【文献】特開昭59-083811(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0011076(US,A1)
【文献】国際公開第2016/155693(WO,A1)
【文献】特開昭59-083813(JP,A)
【文献】中国実用新案第204253470(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第106197623(CN,A)
【文献】中国実用新案第205937273(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 20/00;11/00-11/22
B66C 13/20;15/00
E02F 9/26
G01F 1/26- 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと、前記油圧ポンプから供給される作動油により駆動される第1油圧アクチュエータおよび第2油圧アクチュエータと、を有する油圧装置を備えた建設機械であって、
前記第1油圧アクチュエータから排出されるドレン作動油の流量を検出する第1流量検出器と、
前記第2油圧アクチュエータから排出されるドレン作動油の流量を検出する第2流量検出器と、
前記第1流量検出器からの検出信号に基づき前記第1油圧アクチュエータの異常を判断し、前記第2流量検出器からの検出信号に基づき前記第2油圧アクチュエータの異常を判断する異常判断部と、を備え、
前記第1流量検出器および前記第2流量検出器は、それぞれ、ドレン作動油の流路内に配置されてドレン作動油の流れを阻止する方向に付勢される移動体と、前記移動体の移動量に応じた検出信号を出力する出力部と、を有し、
前記第1流量検出器は、前記第1油圧アクチュエータから排出されるドレン作動油を通過させ且つ可撓性を有する第1管を介して、前記第1油圧アクチュエータに接続されており、
前記第2流量検出器は、前記第2油圧アクチュエータから排出されるドレン作動油を通過させ且つ可撓性を有する第2管を介して、前記第2油圧アクチュエータに接続されており、
前記第1油圧アクチュエータから排出されるドレン作動油が通過する第1流路と、前記第2油圧アクチュエータから排出されるドレン作動油が通過する第2流路と、前記第1流路及び前記第2流路を合流させるドレン合流部とを備え、
前記第1流量検出器は、前記第1流路上に配置され、
前記第2流量検出器は、前記第2流路上に配置され、
前記第1流量検出器、前記第2流量検出器、及び前記ドレン合流部は、前記第1管および前記第2管より剛性が高いことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、
前記第1油圧アクチュエータから排出されるドレン作動油の温度を検出する第1温度検出器と、前記第2油圧アクチュエータから排出されるドレン作動油の温度を検出する第2温度検出器と、を備え、
前記異常判断部は、前記第1流量検出器にて検出されたドレン作動油の流量と、前記第1温度検出器にて検出されたドレン作動油の温度とに基づいて、前記第1油圧アクチュエータの異常を判断し、前記第2流量検出器にて検出されたドレン作動油の流量と、前記第2温度検出器にて検出されたドレン作動油の温度とに基づいて、前記第2油圧アクチュエータの異常を判断することを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項2に記載の建設機械において、
前記異常判断部は、ドレン作動油の温度とドレン作動油の流量との関係が予め定められたテーブルに基づいて、前記第1流量検出器または前記第2流量検出器で検出されたドレン作動油の流量を補正することを特徴とする建設機械。
【請求項4】
請求項2または3に記載の建設機械において、
前記第1温度検出器は、前記第1流量検出器よりドレン作動油の流れの下流側に配置されることを特徴とする建設機械。
【請求項5】
請求項1に記載の建設機械において、
前記第1油圧アクチュエータから排出されたドレン作動油と前記第2油圧アクチュエータから排出されたドレン作動油とが合流した後の合流ドレン作動油の温度を検出する合流温度検出器を有し、
前記異常判断部は、前記第1流量検出器にて検出されたドレン作動油の流量と、前記合流温度検出器にて検出された合流ドレン作動油の温度とに基づいて、前記第1油圧アクチュエータの異常を判断し、前記第2流量検出器にて検出されたドレン作動油の流量と、前記合流温度検出器にて検出された合流ドレン作動油の温度とに基づいて、前記第2油圧アクチュエータの異常を判断する建設機械。
【請求項6】
請求項5に記載の建設機械において、
前記第1油圧アクチュエータおよび前記第2油圧アクチュエータに供給される作動油を貯留すると共に、合流ドレン作動油が流入する作動油タンクを備え、
前記合流温度検出器は、前記作動油タンクの作動油の温度を検出することを特徴とする建設機械。
【請求項7】
請求項2に記載の建設機械において、
前記第1温度検出器及び前記第2温度検出器は、ドレン作動油の流路内に突出するプローブを有し、
前記第1温度検出器は、前記第1流量検出器よりドレン作動油の流れの下流側に配置され、
前記第2温度検出器は、前記第2流量検出器よりドレン作動油の流れの下流側に配置されていることを特徴とする建設機械。
【請求項8】
請求項1に記載の建設機械において、
前記ドレン合流部は、前記建設機械本体に支持され、
前記第1流量検出器は、前記第1流路上に配置されて、前記ドレン合流部に支持され、
前記第2流量検出器は、前記第2流路上に配置されて、前記ドレン合流部に支持されていることを特徴とする建設機械。
【請求項9】
請求項8に記載の建設機械において、
前記第1流量検出器は、前記第1流路の縦方向に延設された部分に配置されていることを特徴とする建設機械。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の建設機械において、
前記第1油圧アクチュエータは、油圧モータであり、
前記異常判断部は、前記油圧モータが回転を開始してから所定時間が経過した後の前記第1流量検出器からの検出信号に基づいて、前記油圧モータの異常を判断することを特徴とする建設機械。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の建設機械において、
前記第1油圧アクチュエータは、油圧モータであり、
前記異常判断部は、前記油圧モータから排出されるドレン作動油の単位時間当たりの流出量の変動幅が閾値未満である定常期間における前記第1流量検出器からの検出信号に基づいて、前記油圧モータの異常を判断することを特徴とする建設機械。
【請求項12】
請求項11に記載の建設機械において、
前記油圧モータの回転数を検出する回転数検出器をさらに備え、
前記異常判断部は、前記回転数検出器にて検出された回転数の変動幅が閾値未満の期間を、前記定常期間として特定することを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン等の建設機械に関し、特に油圧アクチュエータが異常であるか否かを判断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、例えば特許文献1には、「各油圧アクチュエータのいずれか1つだけが操作されている場合、CPUが、流量センサで検出されるドレンの流量が、あらかじめ定められたしきい値を超えたか否かを判断し、検出されるドレンの流量がしきい値を超えていると判断すると、当該操作されている油圧アクチュエータに異常があるものと判断する」構成の油圧装置が記載されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、複数の油圧アクチュエータのドレンが合流するドレン流路に1つの流量センサが設けられる構成であるため、複数の油圧アクチュエータが同時に駆動されているとき(複合操作時)には、何れの油圧アクチュエータが異常であるかを判断できない。
【0005】
本発明は、複数の油圧アクチュエータのうち何れが異常であるかを判断することのできる建設機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、代表的な本発明は、油圧ポンプと、前記油圧ポンプから供給される作動油により駆動される第1油圧アクチュエータおよび第2油圧アクチュエータと、を有する油圧装置を備えた建設機械であって、前記第1油圧アクチュエータから排出されるドレン作動油の流量を検出する第1流量検出器と、前記第2油圧アクチュエータから排出されるドレン作動油の流量を検出する第2流量検出器と、前記第1流量検出器からの検出信号に基づき前記第1油圧アクチュエータの異常を判断し、前記第2流量検出器からの検出信号に基づき前記第2油圧アクチュエータの異常を判断する異常判断部と、を備え、前記第1流量検出器および前記第2流量検出器は、それぞれ、ドレン作動油の流路内に配置されてドレン作動油の流れを阻止する方向に付勢される移動体と、前記移動体の移動量に応じた検出信号を出力する出力部と、を有し、前記第1流量検出器は、前記第1油圧アクチュエータから排出されるドレン作動油を通過させ且つ可撓性を有する第1管を介して、前記第1油圧アクチュエータに接続されており、前記第2流量検出器は、前記第2油圧アクチュエータから排出されるドレン作動油を通過させ且つ可撓性を有する第2管を介して、前記第2油圧アクチュエータに接続されており、前記第1油圧アクチュエータから排出されるドレン作動油が通過する第1流路と、前記第2油圧アクチュエータから排出されるドレン作動油が通過する第2流路と、前記第1流路及び前記第2流路を合流させるドレン合流部とを備え、前記第1流量検出器は、前記第1流路上に配置され、前記第2流量検出器は、前記第2流路上に配置され、前記第1流量検出器、前記第2流量検出器、及び前記ドレン合流部は、前記第1管および前記第2管より剛性が高いことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、複数の油圧アクチュエータのうち何れが異常であるかを判断することができる。なお、上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る建設機械の一例である移動式クレーンの外観側面図。
【
図3(a)】ドレン流量センサの構造と動作原理を示す図であって、ドレン配管内をドレン作動油が流れていない状態を示す図。
【
図3(b)】ドレン流量センサの構造と動作原理を示す図であって、ドレン配管内をドレン作動油が流れている状態を示す図。
【
図4】ドレン流量センサ及びドレン温度センサの構成を示す図。
【
図5】油圧モータから作動油タンクに至るドレン作動油の流路の構成を示す図。
【
図7】油圧装置の異常判定処理の手順を示すフローチャート。
【
図10】故障予知診断処理の手順を示すフローチャート。
【
図13】モータ回転数とドレン流量との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は本発明に係る建設機械の一例である移動式クレーンの外観側面図である。
図1に示すように、移動式クレーン(以下、単にクレーンと呼ぶ)1は、履帯式の下部走行体101と、旋回輪110を介して下部走行体101上に旋回可能に搭載された上部旋回体102と、上部旋回体102に起伏可能に支持されたブーム103とを有する。上部旋回体102には巻上ドラム105が搭載され、巻上ドラム105の駆動により巻上ロープ104が巻き上げまたは巻き下げられ、吊り荷106が昇降する。また、上部旋回体102には起伏ドラム107が搭載され、起伏ドラム107の駆動により起伏ロープ108が巻き上げまたは巻き下げられ、ブーム103が起伏される。なお、符号109は、上部旋回体102に設けられたクレーン1の運転室である。
【0011】
図2はクレーン1の内部構成を示す図である。
図2に示すように、クレーン1は、エンジン11と、エンジン11で駆動される油圧ポンプ12と、作動油が貯留される作動油タンク13と、油圧ポンプ12から供給される圧油(作動油)で駆動される各油圧アクチュエータ(走行モータ17,起伏モータ18、巻上モータ19)と、各油圧アクチュエータ17,18,19と油圧ポンプ12との間に設けられ、作動油の流れ方向を切り換えるコントロールバルブ14,15,16と、を備えている。なお、
図2において、旋回輪110を駆動する油圧モータである旋回モータ等の図示は省略している。
【0012】
油圧ポンプ12は可変容量型の油圧ポンプであり、傾転角度制御装置(レギュレータ)によって傾転角度が制御されることでポンプ容量が制御される。
【0013】
走行モータ17は、クレーン1を走行させるための油圧モータであり、走行モータ用コントロールバルブ14で流れが制御された油圧ポンプ12からの圧油によって駆動される。起伏モータ18は、起伏ドラム107を駆動させるための油圧モータであり、起伏モータ用コントロールバルブ15で流れが制御された油圧ポンプ12からの圧油によって駆動される。巻上モータ19は、巻上ドラム105を駆動させるための油圧モータであり、巻上モータ用コントロールバルブ16で流れが制御された油圧ポンプ12からの圧油によって駆動される。
【0014】
走行モータ用コントロールバルブ14(以下、コントロールバルブ14と略記)は、運転室109内に設けられた走行モータ用操作レバー21(以下、操作レバー21と略記する)の操作方向および操作量に応じて制御される。起伏モータ用コントロールバルブ15(以下、コントロールバルブ15と略記)は、運転室109内に設けられた起伏モータ用操作レバー22(以下、操作レバー22と略記する)の操作方向および操作量に応じて制御される。巻上モータ用コントロールバルブ16(以下、コントロールバルブ16と略記)は、運転室109内に設けられた巻上モータ用操作レバー23(以下、操作レバー23と略記する)の操作方向および操作量に応じて制御される。
【0015】
すなわち、コントロールバルブ14は、操作レバー21の操作方向および操作量に応じて操作されるパイロット弁21aを介して供給される不図示のパイロットポンプからのパイロット圧油により制御される。コントロールバルブ15は、操作レバー22の操作方向および操作量に応じて操作されるパイロット弁22aを介して供給される不図示のパイロットポンプからのパイロット圧油により制御される。コントロールバルブ16は、操作レバー23の操作方向および操作量に応じて操作されるパイロット弁23aを介して供給される不図示のパイロットポンプからのパイロット圧油により制御される。
【0016】
油圧ポンプ12、走行モータ17、起伏モータ18、および巻上モータ19の各ドレンポート(図示せず)には、ドレン作動油の流路であるドレン配管L1,L2,L3,L4が接続されている。ドレン配管L1~L4はドレン合流配管L5に接続されており、ドレン合流配管L5が作動油タンク13と接続されている。よって、油圧ポンプ12から排出されたドレン作動油はドレン配管L1を流れ、ドレン合流配管L5に合流した後、合流ドレン作動油として作動油タンク13に流入する。走行モータ17、起伏モータ18、および巻上モータ19のそれぞれから排出されたドレン作動油もドレン配管L2~L4をそれぞれ流れ、同様にドレン合流配管L5を経由して作動油タンク13に戻される。
【0017】
なお、
図2中で上記の各機器を接続している線は、実線がメイン油圧配管、一点鎖線がパイロット油圧配管、破線がドレン(作動油)配管を示している。
【0018】
各操作レバー21~23の各パイロット弁21a~23aと、各コントロールバルブ14~16とを結ぶパイロット油圧配管L11~L13には、それぞれ操作レバー圧力センサ24~26が設けられている。操作レバー圧力センサ24~26は、各操作レバー21~23の操作状態を検出するための手段である。すなわち、操作レバー圧力センサ24はコントロールバルブ14に供給されるパイロット圧油の圧力を検出し、操作レバー圧力センサ25はコントロールバルブ15に供給されるパイロット圧油の圧力を検出し、操作レバー圧力センサ26はコントロールバルブ16に供給されるパイロット圧油の圧力を検出する。
【0019】
また、コントロールバルブ14と走行モータ17との間、コントロールバルブ15と起伏モータ18との間、およびコントロールバルブ16と巻上モータ19との間には、それぞれ圧油(作動油)の圧力を検出するための複数の作動油圧力センサが設けられている。
【0020】
作動油圧力センサ47a,47bは、走行モータ17に供給される圧油の圧力を検出する。作動油圧力センサ48a,48bは、起伏モータ18に供給される圧油の圧力を検出する。作動油圧力センサ49a,49bは、巻上モータ19に供給される圧油の圧力を検出する。なお、走行モータ17は正逆に回転するため、走行モータ17に圧油が入出する2つのポートにそれぞれ接続される2本の配管のうち、一方の配管に作動油圧力センサ47aが設けられ、他方の配管に作動油圧力センサ47bが設けられている。起伏モータ18および巻上モータ19も同様に正逆に回転するため、それぞれ一方の配管に作動油圧力センサ48a,49aが設けられ、他方に作動油圧力センサ48b,49bが設けられている。
【0021】
油圧ポンプ12、走行モータ17、起伏モータ18、および巻上モータ19からの各ドレン配管L1,L2,L3,L4には、各ドレン配管L1,L2,L3,L4内を流れるドレン作動油の流量を検出するドレン流量センサ12v,17v,18v,19vと、ドレン作動油の温度を検出するドレン温度センサ12t,17t,18t,19tが取り付けられている。なお、流量とは、単位時間あたりに流れる作動油の体積または質量であり、例えばl/minで表される。
【0022】
なお、ドレン流量センサ12v,17v,18v,19vのいずれか2つが、本発明の「第1流量検出器」、「第2流量検出器」に相当し、ドレン温度センサ12t,17t,18t,19tのいずれか2つが、本発明の「第1温度検出器」、「第2温度検出器」に相当する。
【0023】
また、油圧ポンプ12、走行モータ17、起伏モータ18、および巻上モータ19には、それぞれ自身の回転数を検出する回転数センサ12r,17r,18r,19r、および自身の内部圧力を検出する内部圧力センサ12p,17p,18p,19pが設けられている。
【0024】
また、上記したセンサ以外に、油圧ポンプ12の吐出圧力を検出するポンプ吐出圧力センサ42、作動油タンク13の温度を検出する作動油タンク温度センサ(合流温度検出器)43、エンジン11の回転数を検出するエンジン回転数センサ51、油圧ポンプ12のポンプ傾転の角度を検出する傾転角センサ52が設けられている。
【0025】
本実施形態では、ドレン流量センサ12v,17v,18v,19vの構造に特徴があるため、
図3(a)、(b)を参照して詳細に説明する。
図3(a)、(b)は本実施形態に用いられるドレン流量センサの構造と動作原理を示す図であって、(a)はドレン配管内をドレン作動油が流れていない状態を示す図、(b)はドレン配管内をドレン作動油が流れている状態を示す図である。なお、本実施形態で用いられるドレン流量センサ12v,17v,18v,19vは何れも同じ構造であるため、ドレン流量センサ12vを例に挙げて説明する。
【0026】
図3(a)に示すように、ドレン流量センサ12vは、円柱状のステム(移動体)61と、ステム61の先端に設けられる傘状の弁体(移動体)62と、弁座63と、弁体62を弁座63に押圧する方向(ドレン作動油の流れを阻止する方向)に付勢するバネ64と、弁体62の移動量に基づく信号を外部に出力する出力部65とがケーシング66内に収容されて一体化されたユニット構造から成り、ドレン配管L1にねじ込みにより接続されている。
【0027】
ドレン配管L1にドレン作動油が流れていない状態では、
図3(a)に示すように、弁体62がバネ64により押圧されて、弁座63を閉塞している。ドレン配管L1に油圧ポンプ12から排出されたドレン作動油が流れると、
図3(b)に示すように、ドレン作動油によって弁体62がバネ64の付勢力に抗してステム61の軸方向に沿って図中のX方向に移動し、弁座63と弁体62の間に隙間が生じる。ドレン作動油は、この隙間を通過して図中の白抜き矢印の方向に流れる。この際の弁体62の移動量が流量へと換算され、流量検出信号として出力部65から後述するコントローラ31に出力される。具体的には、弁体62の移動量に応じた大きさの電圧(電流)がコントローラ31に出力される。クレーン1のコントローラ31は、電圧(電流)で外部信号を受信する形式が多いため、電圧(電流)方式の出力とすることで、コントローラ31のインターフェースの改変が不要である。
【0028】
図4は、ドレン流量センサ12v及びドレン温度センサ12tの詳細な構成を示す図である。
図4に示すように、ドレン温度センサ12tは、ドレン配管L1内に突出するプローブ71と、プローブ71で検出したドレン作動油の温度を示す信号を外部に出力する出力部72とを主に備える。プローブ71及び出力部72は、ケーシング73に収容されてユニット化されている。そして、ドレン温度センサ12tは、ドレン作動油にプローブ71を接触させて温度を測定し、測定した温度を示す信号を出力部72を通じてコントローラ31に出力する。
【0029】
そして、ドレン流量センサ12v及びドレン温度センサ12tは、ドレン配管L1上において直列に配置されている。より詳細には、ドレン温度センサ12tは、ドレン流量センサ12vよりドレン配管L1を流れるドレン作動油の流れの下流側に配置されている。
【0030】
なお、
図4の構成は、ドレン流量センサ12v、17v、18v、19vとドレン温度センサ12t、17t、18t、19tとの一部或いは全部に適用可能である。また、
図5の構成を一部にのみ適用する場合、例えば、振動の大きい油圧アクチュエータに接続されるセンサに適用するのが望ましい。
【0031】
ドレン配管L1内を流れるドレン作動油がプローブ71と接触すると、ドレン作動油の流れが乱される。そこで、ドレン流量センサ12v及びドレン温度センサ12tを
図4の配置にすることによって、ドレン作動油の流れがプローブ71で乱される前に、ドレン作動油の流量を計測することができる。
【0032】
なお、ドレン作動油の温度は、ドレン配管L1を通過する過程で変化する。そこで、ドレン作動油の流量及び温度を適切に計測する観点から、ドレン流量センサ12v及びドレン温度センサ12tは、ドレン配管L1上において近接して配置されるのが望ましい。
【0033】
また、ドレン温度センサ12tのケーシング73は、ドレン流量センサ12vのケーシング66と一体化されていてもよいし、ドレン流量センサ12vのケーシング66とアダプタ(図示省略)を介して連結されていてもよい。または、ドレン温度センサ12tは、ドレン流量センサ12vに内蔵されていてもよい。
【0034】
図5は、油圧モータ17、18、19から作動油タンク13に至るドレン作動油の流路の構成を示す図である。ドレン配管L2は、可撓性を有するホース(管)17sと、ドレン流量センサ17vと、ドレン温度センサ17tとで構成されている。より詳細には、ホース17sは、例えば、一端がねじ込み式管継手(図示省略)を介して走行モータ17のドレンポートに接続され、他端がねじ込み式管継手(図示省略)を介してドレン流量センサ17vに接続されている。すなわち、ドレン流量センサ17vは、可撓性を有するホース17sを介して、走行モータ17に接続されている。
【0035】
また、ドレン流量センサ17v及びドレン温度センサ17tは、ドレン配管L2の縦方向に延びる部分に配置されている。換言すれば、ケーシング66、73内におけるドレン作動油の流通方向は、縦方向である。さらに、ドレン流量センサ17v及びドレン温度センサ17tは、縦方向に並べて配置されている。なお、本明細書における「縦方向」とは、鉛直方向とのなす角が45°未満、好ましくは30°未満の方向を指す。
【0036】
また、合流配管L5は、建設機械本体の一例である上部旋回体102に支持されて概ね水平方向に延設されている。また、合流配管L5は、ドレン配管L2、L3、L4が接続されるアダプタ17a、18a、19aを有する。すなわち、合流配管L5は、ドレン配管L2、L3、L4を合流させるドレン合流部として機能する。
【0037】
さらに、ドレン流量センサ17vのケーシング66、ドレン温度センサ17tのケーシング73、アダプタ17a、及び合流配管L5は、ホース17sより剛性の高い材料で構成されている。そして、ドレン温度センサ17tは、合流配管L5のアダプタ17aに接続されている。すなわち、ドレン流量センサ17v及びドレン温度センサ17tは、合流配管L5のアダプタ17aに支持されている。換言すれば、ドレン流量センサ17v及びドレン温度センサ17tの重量は、合流配管L5によって支持されている。
【0038】
また、ドレン配管L3は、可撓性を有するホース(管)18sと、ドレン流量センサ18vと、ドレン温度センサ18tとで構成されている。さらに、ドレン配管L4は、可撓性を有するホース(管)19sと、ドレン流量センサ19vと、ドレン温度センサ19tとで構成されている。ドレン配管L3、L4の各構成要素の配置は、ドレン配管L2と共通するので、再度の説明は省略する。ドレン配管L2、L3、L4のうちの1つが第1流路であり、他の1つが第2流路である。
【0039】
図5の構成によれば、走行モータ17とセンサ17v、17tとが可撓性を有するホース17sを介して接続されているので、走行モータ17の振動がセンサ17v、17tに伝搬するのを抑制できる。また、ケーシング66、73、アダプタ17a、及び合流配管L5の剛性を、ホース17sより高くしている。これにより、センサ17v、17tの寿命低下や誤計測を防止することができる。
【0040】
また、
図5の構成によれば、センサ17v、17tの重量がホース17sに負荷されない。その結果、片持ち梁状態の配管L2が、センサ17v、17tの重量及び走行モータ17の振動によって、ホース17sと走行モータ17との結合部(ねじ込み式管継手)から破損するのを防止することができる。
【0041】
また、
図5の構成によれば、ドレン流量センサ17v及びドレン温度センサ17t内の流路を縦方向にしたので、油圧モータ17の振動によって、ドレン流量センサ17v及びドレン温度センサ17tが片持ち梁のように振動するのを抑制できる。
【0042】
なお、
図5の構成は、ドレン流量センサ12v、17v、18v、19vとドレン温度センサ12t、17t、18t、19tとの一部或いは全部に適用可能である。また、
図5の構成を一部にのみ適用する場合、例えば、振動の大きい油圧アクチュエータに接続されるセンサに適用するのが望ましい。
【0043】
図6はコントローラ31の入出力を示すブロック図である。コントローラ31は、クレーン1の各部を制御するコンピュータであり、
図6に示すように、CPU31aや記憶部31b、その他周辺機器等を有する。
【0044】
コントローラ31には、上述した操作レバー圧力センサ24~26と、ポンプ吐出圧力センサ42と、作動油タンク温度センサ43と、作動油圧力センサ47a,47b,48a,48b,49a,49bと、ドレン流量センサ12v,17v,18v,19vと、ドレン温度センサ12t,17t,18t,19tと、回転数センサ12r,17r,18r,19rと、内部圧力センサ12p,17p,18p,19pと、エンジン回転数センサ51と、傾転角センサ52とが入力側に接続されている。また、コントローラ31には、報知装置32が出力側に接続されている。
【0045】
コントローラ31は、各種センサからの検出信号を入力し、後述する処理によって油圧ポンプ12、走行モータ17、起伏モータ18、巻上モータ19等の異常の有無を判断し、異常の場合には、報知装置32に異常信号を出力する。
【0046】
報知装置32は、油圧ポンプ12、走行モータ17、起伏モータ18、巻上モータ19を含む油圧装置に異常があるか否かをオペレータに報知するための装置で、例えば表示モニタ、スピーカから成る。この報知装置32は運転室109内に設けられる。
【0047】
次に、コントローラ31が行う油圧装置の異常判定処理について説明する。
図7は油圧装置の異常判定処理の手順を示すフローチャートである。なお、
図7に示す処理は、エンジン11の図示しないキースイッチがオンになったことを契機に開始され、所定の周期毎(例えば1秒毎)に繰り返し実行される。
【0048】
図7に示すように、コントローラ31は、各種センサからのデータを取得する(ステップS1)。具体的には、コントローラ31は、ドレン流量センサ12v,17v~19vからのドレン流量データVd、ドレン温度センサ12t,17t~19tからのドレン温度データTd、回転数センサ12r,17r~19rからの回転数データRa、内部圧力センサ12p,17p~19pからの内部圧力データPiを取得する。
【0049】
次いで、コントローラ31は、取得したドレン流量データVdとドレン温度データTdとから、補正値テーブル70を参照して温度補正後のドレン流量、すなわちドレン流量補正値Qを算出する(ステップS2)。
【0050】
図8は補正値テーブル70の構成図である。
図8に示すように、補正値テーブル70は、ドレン流量データVdとドレン温度データTdとに対するドレン流量補正値Qが規定されている。具体的には、ドレン流量データVd=V1に対して、ドレン温度データTdがT1の場合のドレン流量補正値Q=Q11、Td=T2の場合のドレン流量補正値Q=Q12といったように、補正値テーブル70には、ドレン流量データVdとドレン温度データTdとドレン流量補正値Qとが予め対応付けられている。よって、ドレン流量センサ12v、17v~19vからドレン流量データVdを取得し、ドレン温度センサ12t,17t~19tからドレン温度データTdを取得すれば、コントローラ31は、補正値テーブル70を参照してドレン流量補正値Qを一意に算出することができる。
【0051】
なお、コントローラ31に入力されたドレン温度データTdが補正値テーブル70に規定されていない温度である場合、例えば、ドレン温度データTdがT4とT5の間の値であるT4~5で、ドレン流量データVdがV2とV3の間の値であるV2~3の場合には、コントローラ31は、以下の数1式に従ってドレン流量補正値Qを算出すれば良い。
【0052】
【0053】
なお、ドレン流量補正値Qの算出方法は、ドレン流量データVdに基づいていればどのような方法であってもよい。他の例として、コントローラ31は、ドレン流量と作動油の粘度との対応関係を規定する粘度テーブルに基づいて、ドレン流量データVdに対応する粘度を特定してもよい。そして、コントローラ31は、粘度とドレン流量補正値Qとの対応関係を規定する補正値テーブルに基づいて、作動油の粘度に対応するドレン流量補正値Qを特定してもよい。
【0054】
なお、前述の粘度テーブル及び補正値テーブルは、例えば、記憶部31bに記憶されている。また、記憶部31bには、作動油の種類に対応する複数の粘度テーブルが記憶されていてもよい。そして、コントローラ31は、オペレータによって指定された作動油の種類に対応する粘度テーブルを用いて、ドレン流量補正値Qを特定してもよい。
【0055】
次いで、コントローラ31は、ステップS1で取得した各種センサデータとステップS2で算出したドレン流量補正値Qとを用いてデータシートDS1を作成し、そのデータシートDS1を記憶部31bに記憶する。
【0056】
図9は本実施形態で作成されるデータシートDS1の構成図である。
図9に示すように、データシートDS1には、対象機器(油圧ポンプ12、走行モータ17など)毎にドレン温度センサ、ドレン流量補正値、回転数センサ、内部圧力センサのデータを書き込む空欄が設けられている。コントローラ31は、処理時刻(時刻t1、t2・・・)毎に空欄にデータ(例えば、Td11,Qp11など)を書き込むことでデータシートDS1が作成される。なお、データシートDS1には、ドレン流量補正値に対する許容値(後述)が予め設定されている。
【0057】
図7に戻って、コントローラ31は、ドレン流量補正値Qと閾値Qcとを比較することにより、ドレン流量補正値Qの異常判定を行う(ステップS4)。ここで、閾値Qcは、油圧ポンプ12、走行モータ17、起伏モータ18、巻上モータ19等の仕様に応じて、対象機器毎に予め定められる。例えば、巻上モータ19に対しては、巻上モータ19のドレン排出量の設計値の110%を閾値Qcに設定している。そして、ドレン流量補正値Qが閾値Qcを超えている場合(ステップS5/Yes)、コントローラ31は報知装置32に異常信号を出力し、報知装置32が例えばモニタ上に故障である旨を表示する(ステップS6)。
【0058】
一方、ドレン流量補正値Qが閾値Qc以下である場合(ステップS5/No)、コントローラ31は、故障予知診断処理を実行する(ステップS7)。
図10は故障予知診断処理の手順を示すフローチャートである。
図10に示すように、故障予知診断処理が開始されると、コントローラ31は前回作成したデータシートDS1を記憶部31bから読み出して(ステップS71)、前回と今回のドレン流量補正値Qの差分ΔQを算出し(ステップS72)、差分ΔQと許容値ΔQcとの大小を比較する(ステップS73)。
【0059】
許容値ΔQcは、差分ΔQと比較可能な値であれば、固定値でも可変値でもよい。一例として、許容値ΔQcは、事前に実施した実験やシミュレーションによって決定された固定値であってもよい。すなわち、コントローラ31は、ステップS73において、予め記憶部31bに記憶された許容値ΔQcを読み出して、差分ΔQと比較すればよい。
【0060】
他の例として、コントローラ31は、内部圧力センサ17p,18p,19pにて検出される内部圧力、回転数センサ17r,18r,19rにて検出される回転数、油圧ポンプ12の傾転角、温度センサ12t,17t,18t,19t,43にて検出される作動油の温度(換言すれば、作動油の粘度)の少なくとも1つに基づいて、許容値ΔQcを決定すればよい。
【0061】
より詳細には、コントローラ31は、内部圧力が高いほど許容値ΔQcを大きくし、回転数が高いほど許容値ΔQcを大きくし、傾転角が小さいほど許容値ΔQcを大きくし、温度が高い(すなわち、粘度が低い)ほど許容値ΔQcを大きくすればよい。
【0062】
パラメータ(内部圧力、回転数、傾転角、温度)と許容値ΔQcとの関係は、テーブルの形式或いは関数の形式で記憶部31bに記憶されている。そして、コントローラ31は、テーブル或いは関数を用いて、現在のパラメータ(内部圧力、回転数、傾転角、温度)に対応する許容値ΔQcを特定し、特定した許容値ΔQcと差分ΔQとを比較すればよい。
【0063】
差分ΔQが許容値ΔQcを超えている場合(ステップS74/Yes)、コントローラ31は、その他のデータである回転数センサ12r,17r~19rからの回転数データRa、および内部圧力センサ12p,17p~19pからの内部圧力データPiに基づき差分ΔQの妥当性を判断する(ステップS75)。なお、具体的な判断については後述する。
【0064】
差分ΔQが妥当でないと判断された場合(ステップS76/No)、コントローラ31は、近い将来、機器が故障する可能性が高い旨の信号を報知装置32に出力し、報知装置32が故障予知の表示を行う(ステップS77)。一方、差分ΔQが許容値ΔQc以下の場合(ステップS74/No)、および差分ΔQが妥当であると判断された場合(ステップS76/Yes)には、機器の故障の可能性は低いため故障予知診断処理を終了する。
【0065】
上記した一連の処理を、巻上モータ19の異常判定を行う場合を例に挙げて説明すると、コントローラ31は、ドレン流量センサ19v、ドレン温度センサ19t、回転数センサ19r、内部圧力センサ19pからの各センサデータを取得し(ステップS1)、補正値テーブル70を参照してドレン流量補正値Qwを算出する(ステップS2)。
【0066】
次いで、コントローラ31は、データシートDS1の時刻t2(今回の処理時刻)のドレン流量補正値Qwの空欄に、算出したドレン流量補正値Qw42を書き込むほか、ドレン温度センサ19tからのドレン温度Td42、回転数センサ19rからの回転数Ra42、内部圧力センサ19pからの内部圧力Pi42もデータシートDS1の該当する欄に書き込む。そして、時刻t2における各データがデータシートDS1に書き込まれると、コントローラ31はこのデータシートDS1を記憶部31bに記憶する(ステップS3)。次いで、コントローラ31は、ドレン流量補正値Qw42が予め定められた閾値Qcwを超えているか否かを判断し(ステップS4)、超えている場合(ステップS5/Yes)には、報知装置32に巻上モータ19が故障している旨を報知する(ステップS6)。
【0067】
一方、ドレン流量補正値Qw42が閾値Qcw以下の場合(ステップS5/No)、巻上モータ19のドレン流量補正値Qw42は正常の範囲であるため、故障である旨の報知は行わないが、近い将来、故障の可能性があるか否かの判断を行う(ステップS7)。具体的には、コントローラ31は、前回の処理時刻である時刻t1においてデータシートDS1に記憶されたドレン流量補正値Qw41を読み出し(ステップS71)、前回の時刻t1におけるドレン流量補正値Qw41と今回の時刻t2にて算出されたドレン流量補正値Qw42との差分ΔQwを求める(ステップS72)。次いで、コントローラ31は、その差分ΔQwが許容値ΔQcwを超えているか否かを比較し(ステップS73)、差分ΔQwが許容値ΔQcwを超えている場合(ステップS74/Yes)には、差分ΔQwの妥当性について判断し(ステップS75)、差分ΔQwが許容値ΔQwc以下の場合(ステップS74/No)には故障予知診断処理を終了する。
【0068】
ステップS75において、コントローラ31は、時刻t1(前回)におけるドレン温度Td41、回転数Ra41、内部圧力Pi41と、時刻t2(今回)におけるドレン温度Td42、回転数Ra42、内部圧力Pi42との変化を考慮して、差分ΔQwが妥当であるか否かを判断する。例えば、クレーン1の作業負荷が急激に変化すると、巻上モータ19から排出されるドレン作動油の温度、巻上モータ19の回転数および内部圧力が急激に変化することも想定される。この場合、差分ΔQwが許容値ΔQcwを超えたとしても巻上モータ19の故障の可能性は低い。このような場合に、コントローラ31は、差分ΔQは妥当であると判断し(ステップS76/Yes)、故障予知診断処理を終了する。
【0069】
一方、差分ΔQが妥当でないと判断された場合(ステップS76/No)、コントローラ31は、報知装置32を介してオペレータに巻上モータ19が近い将来故障する可能性が高い旨を報知する(ステップS77)。なお、ステップS4、S5の異常判定、ステップS7の故障予知診断ともに、油圧アクチュエータの異常を判断する処理に該当するが、いずれか一方しか実施しなくても良い。
【0070】
以上説明したように、本実施形態によれば、ドレン配管L1,L2,L3,L4にそれぞれドレン流量センサ12v,17v,18v,19v、およびドレン温度センサ12t,17t,18t,19tを設けているので、クレーン1の単独操作時だけでなく複合操作時であっても、油圧ポンプ12、走行モータ17、起伏モータ18、巻上モータ19の何れが異常であるかを判断することができる。
【0071】
また、ドレン流量センサ12v,17v,18v,19vは、
図3(a),(b)に示すように弁体62が弁座63に対して垂直に移動するシンプルな構成であるため、ドレン流量センサ12v,17v,18v,19vを小型化でき、しかも安価である。また、ドレン流量センサ12v,17v,18v,19vは、その構造上、回転体を持たないため、ドレン作動油中に少量の固形物が含まれても流量の検出精度に大きな影響を受けず、ストレーナ等をドレン配管L1~L4内に設ける必要がない。よって、配管設計の自由度が高まる。また、日常的なメンテナンスも特に必要としないことから、メンテナンスコストの低減も見込める。
【0072】
ここで、流量センサの種類には、本実施形態で採用される形式のほか、例えば歯車式や羽根車式があるが、これらは高価であるうえ、コンタミによる故障を防止するため、流量センサの上流側にストレーナを設ける必要があるなどの理由により、本発明において適用することは実用上困難である。この点、本実施形態にて採用されるドレン流量センサ12v,17v,18v,19vは、歯車式や羽根車式に比べて構造がシンプルで故障が少なく、かつ安価であるため有利である。
【0073】
また、ドレン作動油は温度によって粘性が大きく変動するが、本実施形態ではドレン流量センサ12v,17v,18v,19vにて検出されたドレン流量に対して温度補正を行っているため、ドレン作動油の流量を精度良く検出でき、油圧ポンプ12、走行モータ17、起伏モータ18、巻上モータ19の異常を高精度で判断できる。しかも補正値テーブル70を用いて補正を行っているため、ドレン流量補正値の算出が簡単である。
【0074】
また、データシートDS1を作成して、前回と今回のドレン流量補正値を比較して故障予知を行う構成としているため、事前に油圧ポンプ12、走行モータ17、起伏モータ18、巻上モータ19の異常の可能性を判断することができる。そして、早期にメンテナンス等の対策を講じることにより、油圧ポンプ12、走行モータ17、起伏モータ18、巻上モータ19の寿命を延ばすことができる。
【0075】
(変形例1)
上記した実施形態では、ステップS1において、コントローラ31はドレン温度センサ12t,17t~19tからのドレン温度データTdを取得したが、これに代えて、作動油タンク温度センサ43からの作動油タンク温度データを取得し、作動油タンク温度データに基づいて各機器に対するドレン流量補正値Qを算出するようにしても良い。作動油タンク13には油圧ポンプ12、走行モータ17、起伏モータ18、巻上モータ19からのドレン作動油が流入しているため、作動油タンク温度Tsにて作動油タンク内の作動油温度を検出することで、各機器のドレン作動油の温度の間接的に検出することができる。この場合、コントローラは、作動油タンク温度Tsを時刻毎にデータシートDS2(
図11参照)に書き込めば良い。この変形例では、データシートDS2に書き込んで記憶するデータ量が少なくて済むため、記憶部31bのメモリ容量を小さくできる。
【0076】
(変形例2)
また、データシートDS1の構成は、
図9の例に限定されない。例えば、ドレン温度センサ、ドレン流量補正値、回転数センサ、内部圧力センサのデータ書き込み欄の一部が省略されてもよい。また、前述の書き込み欄の他に、作動油圧力センサのデータ書き込み欄をさらに設けてもよい。
【0077】
(変形例3)
また、上記の実施形態では、ドレン流量補正値Qが閾値Qcを超えている場合に異常と判定する例を説明したが、異常か否かの判定基準はこれに限定されない。他の例として、ドレン排出量の設計値の90%を閾値Qcに設定し、ドレン流量補正値Qが閾値Qcを下回る場合に、異常と判定してもよい。
【0078】
(変形例4)
次に、
図12及び
図13を参照して、本発明の変形例4を説明する。
図12は、ロギング処理のフローチャートである。
図13は、モータ回転数とドレン流量との関係を示す図である。なお、上記の実施形態との共通点の詳細な説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0079】
変形例4に係るコントローラ31は、例えばエンジン11が始動したことに応じて、操作レバー21の操作を監視する(S81)。より詳細には、コントローラ31は、操作レバー21が中立位置から操作されたか否かを判断する。操作レバー21が操作されたか否かは、例えば、圧力センサ24によって検出される油圧に基づいて判断してもよいし、操作レバー21に取り付けたセンサ(図示省略)の検出結果に基づいて判断してもよい。
【0080】
次に、コントローラ31は、操作レバー21が中立位置から操作されたと判断した場合に(S81:Yes)、回転数センサ17rにて検出された走行モータ17の回転数(以下、「モータ回転数」と表記する。)を取得する(S82)。そして、コントローラ31は、取得したモータ回転数を記憶部31bに記憶させる。
【0081】
ステップS82~S85の処理が繰り返し実行されることによって、記憶部31bには、複数のモータ回転数が記憶される。例えば、ステップS82の処理が0.1秒間隔で繰り返し実行され、直近10個のモータ回転数が記憶部31bに記憶される。そして、新たにステップS82の処理を実行すると、最も古いモータ回転数が削除され、新たなモータ回転数が記憶される。
【0082】
次に、コントローラ31は、記憶部31bに記憶されたモータ回転数に基づいて、単位時間当たりのモータ回転数の変動幅ΔRを算出する(S83)。より詳細には、コントローラ31は、直近のn個(換言すれば、直近の所定時間内)のモータ回転数のうち、最大のモータ回転数と最小のモータ回転数との差を、変動幅ΔRとして算出する。例えば、n=10とすると、単位時間(所定時間)は1秒となる。
【0083】
次に、コントローラ31は、ステップS83で算出した変動幅ΔRが閾値Rth未満か否かを判断する(S84)。閾値Rthは、走行モータ17の回転が安定していると判断できる変動幅ΔRの上限値である。閾値Rthは、例えば、予め実施された実験やシミュレーションによって決定され、記憶部31bに記憶されている。
【0084】
次に、コントローラ31は、変動幅ΔRが閾値R
th未満だと判断した場合に(S84:Yes)、ロギングを実行する(S85)。より詳細には、コントローラ31は、ステップS85において、
図7のステップS1~S3の処理を実行する。すなわち、ステップS85を実行する度に、記憶部31bにデータシートDS1が1つ追加される。一方、コントローラ31は、変動幅ΔRが閾値R
th以上だと判断した場合に(S84:No)、ステップS85の処理を実行せずに、ステップS86に進む。
【0085】
次に、コントローラ31は、操作レバー21が中立位置に戻されたか否かを判断する(S86)。具体的な判断の方法は、例えば、ステップS81と同様である。そして、コントローラ31は、操作レバー21が中立位置に戻されていない(すなわち、操作レバー21の操作が継続している)と判断した場合に(S86:No)、ステップS82以降の処理を再び実行する。
【0086】
一方、コントローラ31は、操作レバー21が中立位置に戻された(すなわち、操作レバー21の操作が終了した)と判断した場合に(S86:Yes)、ロギング処理を終了する。すなわち、ステップS82~S85の処理は、操作レバー21の操作が開始されてから中立位置に戻るまでの間、繰り返し実行される。
【0087】
図13の下段に示すように、中立位置の操作レバー21の操作を開始すると、モータ回転数が徐々に増加すると共に、走行モータ17から排出されるドレン作動油の排出量が一時的に急上昇する(起動時ドレン)。また、操作レバー21を中立位置に戻すと、モータ回転数が徐々に減少すると共に、走行モータ17から排出されるドレン作動油の排出量が一時的に急上昇する(停止時ドレン)。
【0088】
さらに、
図13の上段に示すように、操作レバー21の操作量を変化させると、モータ回転数が変動(増加或いは減少)すると共に、ドレン作動油の排出量が一時的に急上昇する(操作時ドレン)。一方、操作レバー21の操作量が一定の間は、モータ回転数及びドレン流量の変動幅が小さい(定常期間)。
【0089】
そのため、
図13に示す起動時ドレン、停止時ドレン、及び操作時ドレンのタイミングで作成されたデータシートDS1に基づいて異常判定をすると、誤判定の原因となり得る。一方、定常期間に作成されたデータシートDS1に基づいて異常判定をすれば、適切な判定結果が期待できる。
【0090】
そこで、
図12に示すロギング処理を実行することにより、定常期間にのみデータシートDS1が作成され、定常期間以外の期間にデータシートDS1が作成されない。そして、コントローラ31は、操作レバー21が中立位置に戻された後に、記憶部31bに記憶されたデータシートDS1(すなわち、定常期間のセンサ17v、17t、17r、17pからの検出信号)に基づいて、
図7のステップS4~S7の処理を実行する。これにより、誤判定を防止することができる。
【0091】
なお、ステップS72における「前回」及び「今回」の時間差は、ステップS83における「単位時間」より十分に長いのが望ましい。すなわち、単位時間当たりのモータ回転数の変動幅ΔRは、モータ回転数の短期間(例えば、数msec~数sec)のばらつきを示す。一方、ステップS72における差分ΔQは、ある程度の期間(例えば、数十sec~数hour)を隔てたドレン流量補正値Qの差を示す。
【0092】
また、変形例4では、モータ回転数の単位時間当たりの変動幅ΔRが閾値Rth未満の期間を、定常期間として特定する例を説明した。しかしながら、ドレン流量の単位時間当たりの流出量の変動幅が閾値未満の期間を特定できれば、定常期間の具体的な特定方法は前述の例に限定されない。他の例として、コントローラ31は、ドレン流量センサ17vで検出されるドレン流量の単位時間当たりの変動幅ΔVが閾値Vth未満の場合に、ステップS85の処理を実行してもよい。
【0093】
さらに他の例として、コントローラ31は、操作レバー21の操作が開始(すなわち、走行モータ17が回転を開始)されてから所定の時間が経過した後にステップS85の処理を所定の時間間隔で繰り返し実行し、操作レバー21が中立位置に戻されたタイミングでステップS85の処理を終了してもよい。これにより、起動時ドレン及び停止時ドレンの影響を少なくとも排除することができる。
【0094】
なお、変形例4では、操作レバー21が中立位置に戻された後に、
図7のステップS4~S7の処理を実行する例を説明した。しかしながら、
図7のステップS4~S7の実行タイミングは、前述の例に限定されない。他の例として、コントローラ31は、ステップS85において、
図7のステップS4~S7の処理を実行してもよい。これにより、走行モータ17の異常判定をリアルタイムに行うことができる。
【0095】
また、変形例4では、走行レバー21が中立位置から操作されたタイミングでロギング処理を開始し、操作レバー21が中立位置に戻されたタイミングでロギング処理を終了する例を説明した。しかしながら、ロギング処理は、自動運転や遠隔運転機能を搭載した建設機械にも適用することができる。この場合、コントローラ31は、例えば、アクチュエータの駆動開始信号を受信したタイミングでロギング処理を開始し、アクチュエータの停止信号を受信したタイミングでロギング処理を終了すればよい。
【0096】
さらに、変形例4では走行モータ17の異常を判定する処理を説明したが、
図12に示すロギング処理は、起伏モータ18、巻上モータ19、及びその他のアクチュエータの異常を判定するのにも適用できる。
【0097】
なお、
図12のステップS82~S84の処理は、
図10の故障予知診断処理にも適用することができる。例えば、コントローラ31は、クレーン1の稼働中に、所定の時間間隔毎にデータシートDS1を作成し、記憶部31bに記憶させていてもよい。
【0098】
コントローラ31は、ステップS71において、記憶部31bに記憶されている複数のデータシートDS1のうち、単位時間当たりのモータ回転数の変動幅ΔRが閾値Rth未満である定常期間に作成された2つのデータシートDS1を選択すればよい。そして、コントローラ31は、選択した2つのデータシートDS1を用いて、ステップS72以降の処理を実行すればよい。なお、選択する2つのデータシートDS1は、作成された時間の間隔が前述の「単位時間」より十分に長いことが望ましい。
【0099】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【0100】
例えば、補正値テーブル70を用いてドレン流量補正値Qを算出したが、コントローラ31は、取得したセンサデータを所定の数式に代入して毎回、ドレン流量補正値Qを算出しても良い。また、本発明を実施する場合において、
図7のステップS7における故障予知診断処理は必ずしも必須ではない。
【0101】
また、上述の説明では、建設機械の一例である移動式クレーンを挙げているが、本発明はこれに限定されず、油圧ショベルやホイールローダなどの他の建設機械にも適用可能である。また、油圧アクチュエータの例として、走行モータ17、起伏モータ18、および巻上モータ19を挙げているが、本発明は建設機械に搭載される各種油圧アクチュエータに適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0102】
1 クレーン(建設機械)
12 油圧ポンプ
13 作動油タンク
17 走行モータ(油圧アクチュエータ)
18 起伏モータ(油圧アクチュエータ)
19 巻上モータ(油圧アクチュエータ)
12t,17t,18t,19t ドレン温度センサ(第1流量検出器、第2流量検出器)
12v,17v,18v,19v ドレン流量センサ(第1温度検出器、第2温度検出器)
31 コントローラ(異常判定部)
43 作動油タンク温度センサ(合流温度検出器)
61 ステム(移動体)
62 弁体(移動体)
63 弁座
64 バネ
65 出力部
66 ケーシング