(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与したプロバイオティクス組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/744 20150101AFI20240607BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20240607BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240607BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240607BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20240607BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240607BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240607BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240607BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240607BHJP
A61K 35/745 20150101ALI20240607BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20240607BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20240607BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240607BHJP
A23L 29/256 20160101ALI20240607BHJP
A23L 29/238 20160101ALI20240607BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20240607BHJP
【FI】
A61K35/744
A61K35/74 A
A61K47/36
A61K9/14
A61P1/14
A61P31/04
A61P31/12
A61P37/04
A61P35/00
A61K35/745
A61K35/747
A23L33/135
A23L2/00 F
A23L2/52
A23L29/256
A23L29/238
A23L29/269
(21)【出願番号】P 2020569650
(86)(22)【出願日】2020-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2020002995
(87)【国際公開番号】W WO2020158737
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2019014548
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】今岡 麻記
(72)【発明者】
【氏名】神村 篤
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0175389(US,A1)
【文献】特表2005-528324(JP,A)
【文献】HOLKEM AT. et al.,Production of microcapsules containing Bifidobacterium BB-12 by emulsification/internal gelation.,LWT - Food Science and Technology,2017年,Vol.76,pp.216-221
【文献】WANG SY. et al.,Food Microbiology,2015年,Vol.46,pp.494-500
【文献】DEMITRI C. et al.,Encapsulation of Lactobacillus kefiri in alginate microbeads using a double novel aerosol technique.,Materials Science and Engineering C,2017年,Vol.77,pp.548-555
【文献】ESHRATI M. et al.,Langmuir,2018年,Vol.34,pp.11167-11175
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/764
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A23L 5/00- 5/49
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤
の粉体と、(B)結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類
の粉体とを
混合処理することにより、該プロバイオティクスと該増粘多糖類とが接触状態で共存す
る粉体混合物
として調製したプロバイオティクス組成物
(カプセル化形態は除く)を飲食品に適用することを特徴とする嚥下困難者用食品の製造方法。
【請求項2】
プロバイオティクス組成物が、プロバイオティクスと該増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して調製された粉体混合物を含有する飲食品であるか、或いは、プロバイオティクスと該増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して調製された粉体混合物を含有する飲食品調製用組成物であることを特徴とする請求項1に記載の
嚥下困難者用食品の製造方法。
【請求項3】
プロバイオティクス組成物において、(A)のプロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤におけるプロバイオティクスの乾燥菌体重量1重量部に対して、(B)の増粘多糖類を0.1重量部以上配合したことを特徴とする請求項1又は2に記載の
嚥下困難者用食品の製造方法。
【請求項4】
(B)の増粘多糖類が、平均粒子径30~200μmの増粘多糖類であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の
嚥下困難者用食品の製造方法。
【請求項5】
プロバイオティクスと増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して調製した粉体混合物を、更に造粒して調製したことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の
嚥下困難者用食品の製造方法。
【請求項6】
プロバイオティクス組成物
が、(1)(A)プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、(B)結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類とを、(A)のプロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤における乾燥菌体重量1重量部に対して、(B)の増粘多糖類が0.1重量部以上となるように混合処理することにより、該プロバイオティクスと該増粘多糖類とを、接触状態で共存する粉体混合物として調製する工程、及び、(2)該粉体混合物をプロバイオティクス組成物原料に配合する工程
により製造されることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の
嚥下困難者用食品の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、(1)の工程で得られた粉体混合物を、更に、造粒工程に付すことを特徴とする
嚥下困難者用食品の製造方法。
【請求項8】
プロバイオティクス組成物の製造方法が、プロバイオティクスと増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して調製された粉体混合物、或いは、該粉体混合物を更に造粒したものを、飲食品調製用原材料に配合するか、又は、飲食品調製用組成物の原材料に配合することにより、保存安定性と、耐胃液分解安定性を保持したプロバイオティクス飲食品、或いは、保存安定性と、耐胃液分解安定性を保持した飲食品調製用プロバイオティクス組成物を製造するものであることを特徴とする、請求項6又は7に記載の
嚥下困難者用食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与したプロバイオティクス組成物を提供すること、特に、飲食品や、飲食品調製用組成物のような形態で提供されるプロバイオティクス組成物において、流通、保存時での保存安定性と、該プロバイオティクス組成物を摂取した場合の胃液による分解作用に対するプロバイオティクスの安定性、すなわち、保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与、保持したプロバイオティクス組成物を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
“プロバイオティクスProbiotics”は、1989年、英国の微生物学者Fullerによって「腸内フローラのバランスを改善することにより人に有益な作用をもたらす生きた微生物」として定義され、プロバイオティクスの製品コンセプトとしては、「生体内、特に腸管内の正常細菌叢に作用し、そのバランスを改善することにより生体に利益をもたらす生きた微生物及び微生物代謝物を含む製品」と定義され、提供されている。「プロバイオティクス」の人に有益な作用としては、整腸作用、腸内細菌叢の維持、改善、有害菌やウイルスなどの増殖抑制、免疫賦活作用、発がん性物質の生成抑制など多くの作用が報告され、広く医薬品、食品などに利用されている。
【0003】
プロバイオティクスを食品のような形態で、摂取し、プロバイオティクスの有用な機能をもたらすには、プロバイオティクス製品の製造、流通保存時の安定性と同時に、摂取されたプロバイオティクスが腸内に達する前の胃液による分解作用等に対する安定性、すなわち、耐胃液分解安定性の問題があり、プロバイオティクスの有効な機能を発揮するためには、該分解作用に対するハードルをクリアーすることが重要となる。
【0004】
プロバイオティクスに利用される微生物(細菌、酵母、及び真菌)としては、Lactobacillus, Enterococcus, Lactococcusなどのような乳酸産生菌、Bifidobacterium, 酵母(Saccharomyces)、真菌(Aspergillus oryzae)、芽胞酸性菌(Bacillus, Clostridium)等、多種の微生物が利用されるが、飲食品等においては、Lactobacillus, Enterococcus,Lactococcusなどのような乳酸産生菌の利用が主力となっている。
【0005】
乳酸菌の生菌を利用した製品においては、該製品中の生菌(乳酸菌)の保存安定性や、胃酸耐性を付与する方法として、従来、各種の方法が開示されている。例えば、引用文献1には、乳酸菌の生菌粉末と、添加剤とを混合し、製造した錠剤に、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、セルロースアセテートフタレート、又は、メタクリル酸コポリマーのような脂溶性物質を用いてコーティングすることにより、生菌の保存安定性と、胃酸耐性を有する乳酸菌錠剤を提供する方法が、引用文献2には、乳酸菌や、ビフィズス菌のような菌体粉末のような被造粒物を、(A)小麦、大豆、米、コラーゲンや、ゼラチン由来の含水アルコール可溶性蛋白質、若しくは、ツェインの少なくとも一つと、油脂及び賦形剤を含有する層と、(B)小麦、大豆、米、コラーゲンや、ゼラチン由来の含水アルコール可溶性蛋白質、若しくは、ツェインの少なくとも一つを含有してなる層との2層よりなる造粒物とすることにより、該造粒物を摂取した場合に、胃では溶解せず、腸管において初めて溶解する構造とすることによって、胃液中の分解を防止する方法が、開示されている。
【0006】
また、引用文献3には、乳酸菌菌体を、ソフトカプセルのようなカプセルに、ゼラチンと脂溶加剤を配合した皮膜により形成した脂溶性カプセルの中に封入することにより、乳酸菌の効果を高める方法が、引用文献4には、乳酸菌を、(a)アルギン酸ナトリウムでコーティングして、1次コーティングを形成し、(b)該1次コーティングを、トウモロコシ蛋白抽出物、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、及びシェラックの中から選ばれる1種以上の放出制御型コーティング基剤でコーティングして、2次コーティングを形成する構造とすることにより、摂取に際しての胃酸からの乳酸菌の保護を行う方法が、引用文献5、引用文献6には、生きた状態の乳酸菌を、チョコレートのような油脂組成物と混合し、摂取時の胃酸による乳酸菌の死滅を防止する方法が、開示されている。
【0007】
更に、引用文献7には、プロバイオティクス製剤において、乾燥安定化した微生物(プロバイオティクス)と、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びその誘導体、メタアクリル酸誘導体及びガラクトマンナン、及びその混合物からなる胃液分解抵抗物質とを、該微生物(プロバイオティクス)と胃液分解抵抗物質とのマトリクス構成成分として含有することにより、胃液の分解作用に対して安定化したプロバイオティクス製剤を提供することが開示されている。
【0008】
一方で、嚥下困難者用食品のような食品分野で、プロバイオティクスを栄養成分等の一つとして添加し、利用する試みもなされている。例えば、引用文献8には、嚥下困難者用栄養製品を、キサンタンガム、ゲランガム、カードランのような微生物親水コロイド等の食品用バイオポリマー水溶液を含む栄養製品として調製して、嚥下困難者のための安全な嚥下を促進するように改善した嚥下困難者用栄養製品において、該栄養製品の栄養成分の一つとして、プロバイオティクスを含有させたものが、引用文献9、引用文献10には、カラギーナン、澱粉、及び、栄養剤を配合し、該栄養配合物の粘度を調整した増粘剤配合物を嚥下困難者用の増粘剤配合物として調製して、該食品の冷蔵貯蔵温度での栄養組成物の粘度の増加を最小限にし、長期の貯蔵期間中及び異なる温度で、栄養組成物の一貫した粘度を提供するように改善した嚥下困難者用の増粘剤配合物について開示されており、該増粘剤配合物の調製に際しては、栄養成分として配合される炭水化物、蛋白質、脂肪、植物栄養素、ビタミン、ミネラル等の成分の一つとして、プロバイオティクスを配合したものが開示されている。しかし、これらの嚥下困難者用栄養製品や、嚥下困難者用の増粘剤配合物は、その配合物の一つとして、プロバイオティクスを配合することは示されているが、特に、プロバイオティクスの安定性、すなわち、プロバイオティクスを含有する製品中のプロバイオティクスの安定性や、該栄養製品や配合物を摂取後に問題となる、プロバイオティクスの胃液分解作用に対する安定性等の配慮がなされている訳ではない。
【0009】
以上のとおり、プロバイオティクス製品において、プロバイオティクスの有用な機能を利用するためには、プロバイオティクスの流通、保存時の安定性とともに、プロバイオティクス組成物を摂取した場合の胃液等による分解作用に対するプロバイオティクスの安定性の保持が重要な課題となり、該課題に対する各種の方法が開示されているが、例えば、飲食品等の各種プロバイオティクス製品への適用に際して、現状では、用いる材料、製品形態上の制約や、プロバイオティクスの保存安定性、耐胃液分解安定性等のプロバイオティクス機能の有効性において、各種のプロバイオティクス製品に対応できる方法として、必ずしも、十分なものとなっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平4-41434号公報
【文献】特開平5-186335号公報
【文献】特開平11-199494号公報
【文献】特表2002-505251号公報:WO99/020745)
【文献】WO2016/194366
【文献】特許第6181254号公報
【文献】WO97/16198
【文献】特表2015-505851号公報
【文献】特表2013-508416号公報
【文献】特開2015-091808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与したプロバイオティクス組成物を提供すること、特に、飲食品や、飲食品調製用組成物のような形態で提供されるプロバイオティクス組成物において、流通、保存時での保存安定性と、該プロバイオティクス組成物を摂取した場合の胃液による分解作用に対するプロバイオティクスの安定性、すなわち、保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与、保持したプロバイオティクス組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、先に、嚥下困難者用食品の調製に際して、該食品にプロバイオティクスの機能を付与し、嚥下困難者に投与したプロバイオティクスを生菌のまま腸まで送達させることのできる、有用なプロバイオティクスの機能を有する嚥下困難者用食品を提供することを課題とし、該課題を解決すべく、鋭意検討する中で、プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、キサンタンガム及び/又はグアーガムを混合し、プロバイオティクスと、キサンタンガム及び/又はグアーガムを接触状態で共存させた粉体混合物として調製することにより、プロバイオティクス含有増粘組成物中で、該プロバイオティクスを安定的に保持することができ、しかも、該プロバイオティクスが胃液の分解作用に対する安定性を具備することを見出し、嚥下困難者用増粘組成物におけるプロバイオティクスの安定性の確保とともに、該嚥下困難者用食品を摂取した後のプロバイオティクスの胃液分解作用に対する安定性を確保した、嚥下困難者用食品の提供に成功し、該発明について特許出願をなした(特願2017-147942号)。
【0013】
そこで、該嚥下困難者用食品の知見を、更に進め、各種プロバイオティクス組成物に適用することが可能な、保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与したプロバイオティクス組成物を提供することを課題とする、上記課題を解決すべく、鋭意検討する中で、(A)プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、(B)結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類とを、該プロバイオティクスと該増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して調製された粉体混合物とし、該粉体混合物を配合することにより、保存安定性と、耐胃液分解安定性を保持したプロバイオティクス組成物を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、(A)プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、(B)結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類とを、該プロバイオティクスと該増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して調製された粉体混合物を配合したことを特徴とする、保存安定性と、耐胃液分解安定性を保持したプロバイオティクス組成物からなる。本発明のプロバイオティクス組成物は、各種プロバイオティクス組成物に適用することが可能であり、保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与したプロバイオティクス調製品を提供することができる。
【0015】
本発明のプロバイオティクス組成物は、各種プロバイオティクス組成物に適用することが可能であるが、特に、(A)プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、(B)結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類とを、該プロバイオティクスと該増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して調製された粉体混合物を配合して調製された飲食品や、飲食品調製用組成物として、保存安定性と、耐胃液分解安定性を保持したプロバイオティクス組成物を提供することができる。
【0016】
本発明のプロバイオティクス組成物においては、(A)のプロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤に対する、(B)の増粘多糖類の混合割合としては、(A)のプロバイオティクスの乾燥菌体重量1重量部に対して、(B)の増粘多糖類を0.1重量部以上配合することによって、保存安定性と、耐胃液分解安定性を保持したプロバイオティクス組成物を提供することができるが、該増粘多糖類は0.1~3000重量部の範囲で混合することができ、特に、飲食品や、飲食品調製用組成物の調製に際して、該増粘多糖類の増粘性(粘度)をそのまま利用する場合には、高混合量の増粘多糖類を混合することができる。
【0017】
本発明のプロバイオティクス組成物において、(B)の増粘多糖類は、平均粒子径30~200μmの増粘多糖類であることが好ましい。本発明のプロバイオティクス組成物においては、プロバイオティクスと増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して調製した粉体混合物を、更に造粒して調製し、該粉体混合物の造粒物のような形態で用いることができる。
【0018】
本発明は、プロバイオティクス組成物の製造工程において、(1)(A)プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、(B)結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類とを、(A)のプロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤における乾燥菌体重量1重量部に対して、(B)の増粘多糖類が0.1重量部以上となるように混合処理することにより、該プロバイオティクスと該増粘多糖類とを、接触状態で共存する粉体混合物として調製する工程、及び、(2)該粉体混合物をプロバイオティクス組成物原料に配合する工程を有することを特徴とする、保存安定性と、耐胃液分解安定性を保持したプロバイオティクス組成物の製造方法を包含する。
【0019】
本発明のプロバイオティクス組成物の製造方法においては、(1)の工程で得られた粉体混合物を、更に、造粒工程に付すことにより、粉体混合物の造粒物のような形態で調製し、実施することができる。
【0020】
本発明は、本発明のプロバイオティクス組成物の製造方法において、プロバイオティクスと増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して調製された粉体混合物、或いは、該粉体混合物を更に造粒したものを、飲食品調製用原材料に配合するか、又は、飲食品調製用組成物の原材料に配合することにより、保存安定性と、耐胃液分解安定性を保持したプロバイオティクス飲食品、或いは、保存安定性と、耐胃液分解安定性を保持した飲食品調製用プロバイオティクス組成物を製造するプロバイオティクス組成物の製造方法を包含する。
【0021】
また、本発明は、プロバイオティクス組成物において、(A)プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、(B)結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類とを、該プロバイオティクスと該増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して粉体混合物として調製することにより、プロバイオティクス組成物中のプロバイオティクスに保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与する方法の発明を包含する。
【0022】
更に、本発明は、プロバイオティクス組成物中のプロバイオティクスに保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与する方法において、プロバイオティクスと増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して調製された粉体混合物を、更に、造粒することにより、粉体混合物を造粒物として用いる、プロバイオティクス組成物中のプロバイオティクスに保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与する方法を包含する。
【0023】
すなわち、具体的には、本発明は、以下の発明よりなる。
[1](A)プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、(B)結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類とを、該プロバイオティクスと該増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して調製された粉体混合物を配合したことを特徴とする、保存安定性と、耐胃液分解安定性を保持したプロバイオティクス組成物(ただし、キサンタンガムを含有する嚥下困難者用増粘組成物の場合を除く)。
[2]プロバイオティクス組成物が、プロバイオティクスと該増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して調製された粉体混合物を含有する飲食品であるか、或いは、プロバイオティクスと該増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して調製された粉体混合物を含有する飲食品調製用組成物であることを特徴とする上記[1]に記載のプロバイオティクス組成物。
[3]プロバイオティクス組成物において、(A)のプロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤におけるプロバイオティクスの乾燥菌体重量1重量部に対して、(B)の増粘多糖類を0.1重量部以上配合したことを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のプロバイオティクス組成物。
[4](B)の増粘多糖類が、平均粒子径30~200μmの増粘多糖類であることを特徴とする、上記[1]~[3]のいずれかに記載のプロバイオティクス組成物。
[5]プロバイオティクスと増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して調製した粉体混合物を、更に造粒して調製したことを特徴とする上記[1]~[4]のいずれかに記載のプロバイオティクス組成物。
[6]プロバイオティクス組成物の製造工程において、(1)(A)プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、(B)結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類とを、(A)のプロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤における乾燥菌体重量1重量部に対して、(B)の増粘多糖類が0.1重量部以上となるように混合処理することにより、該プロバイオティクスと該増粘多糖類とを、接触状態で共存する粉体混合物として調製する工程、及び、(2)該粉体混合物をプロバイオティクス組成物原料に配合する工程を有することを特徴とする、保存安定性と、耐胃液分解安定性を保持したプロバイオティクス組成物の製造方法。
[7]上記[6]のプロバイオティクス組成物の製造方法において、(1)の工程で得られた粉体混合物を、更に、造粒工程に付すことを特徴とするプロバイオティクス組成物の製造方法。
[8]プロバイオティクス組成物の製造方法が、プロバイオティクスと増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して調製された粉体混合物、或いは、該粉体混合物を更に造粒したものを、飲食品調製用原材料に配合するか、又は、飲食品調製用組成物の原材料に配合することにより、保存安定性と、耐胃液分解安定性を保持したプロバイオティクス飲食品、或いは、保存安定性と、耐胃液分解安定性を保持した飲食品調製用プロバイオティクス組成物を製造するものであることを特徴とする、上記[6]又は[7]に記載のプロバイオティクス組成物の製造方法。
[9]プロバイオティクス組成物において、(A)プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、(B)結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類とを、該プロバイオティクスと該増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して粉体混合物として調製することにより、プロバイオティクス組成物中のプロバイオティクスに保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与する方法。
[10]プロバイオティクス組成物中のプロバイオティクスに保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与する方法において、プロバイオティクスと増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して調製された粉体混合物を、更に、造粒することを特徴とする、上記[9]に記載のプロバイオティクス組成物中のプロバイオティクスに保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与する方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、各種プロバイオティクス組成物に適用して、保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与したプロバイオティクス組成物を提供する、特に、飲食品や、飲食品調製用組成物のような形態で提供されるプロバイオティクス組成物において、流通、保存時での保存安定性と、該プロバイオティクス組成物を摂取した場合の胃液による分解作用に対する安定性、すなわち、保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与、保持したプロバイオティクス組成物を提供する。本発明において、プロバイオティクス組成物に、保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与するために用いる、粉体混合物或いはその造粒物は、(A)プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、(B)結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類との混合物として調製できるため、飲食品等の各種プロバイオティクス製品への適用に際して、用いる材料、製品形態上の制約もなく、広い範囲のプロバイオティクス製品の調製に適用して、有効な保存安定性、耐胃液分解安定性等のプロバイオティクス機能を有するプロバイオティクス製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、プロバイオティクス組成物において、(A)プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、(B)結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類とを、該プロバイオティクスと該増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して、粉体混合物を調製し、プロバイオティクス組成物に該粉体混合物を配合することによって、保存安定性と、耐胃液分解安定性を保持したプロバイオティクス組成物を提供することからなる。
【0026】
本発明において、プロバイオティクス組成物に含有させるプロバイオティクスは、「腸内フローラのバランスを改善することにより人に有益な作用をもたらす生きた微生物」として定義されるもので、該プロバイオティクスとしては、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属等の属に属する微生物を挙げることができる。
【0027】
これらの属に属する微生物としては、次のような微生物を挙げることができる:ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する微生物としては、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム ロングム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム インファンチス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム アドレッセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム カテヌラツム(Bifidobacterium catenulatum)等があげられ、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する微生物としては、ラクトバチルス アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス ラクティス(Lactobacillus lactis)、ラクトバチルス デルブリュッキ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)等があげられ、エンテロコッカス(Enterococcus)属に属する微生物としては、エンテロコッカス フェーカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス フェシウム(Enterococcus faecium)等に属する微生物があげられ、ラクトコッカス(Lactococcus)属に属する微生物としては、ラクトコッカス プランタラム(Lactococcus plantarum)、ラクトコッカス ラフィノラクティス(Lactococcus raffinolactis)等に属する微生物を挙げることができる。本発明におけるプロバイオティクスは、上記微生物のいずれであってもよいが、ラクトバチルス属、エンテロコッカス属及びラクトコッカス属に分類される微生物がより好ましく用いられ、ラクトバチルス属及びエンテロコッカス属に属する微生物が更に好ましく用いられる。
【0028】
本発明に用いられるプロバイオティクスは、その元来の定義にかかわらず死菌であってもよいが、増殖可能な状態にある菌体又は増殖可能な状態に遷移可能な菌体、すなわち生菌であることが好ましい。プロバイオティクスは、野生のものを分離し、公知の方法に準じて培養して得られた培養液をそのまま、若しくは該培養液から調製したものを用いてもよいし、市販のものを用いてもよい。本発明の増粘組成物においては、プロバイオティクスは、乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤として混合されるが、乾燥菌体としては、プロバイオティクス菌体を凍結乾燥等の乾燥処理に供して得られる乾燥菌体が好ましく用いられる。該乾燥菌体を澱粉等の賦形剤等を含む乾燥菌体製剤として用いることもできる。
本発明の増粘組成物は、(A)プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、(B)結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類とを混合し、接触状態で共存させた粉体混合物として調製される。
【0029】
本発明に用いられる増粘多糖類は、結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類であり、多糖類の構成糖の結合様式として、少なくとも1か所以上はβ-1,4結合が含まれている多糖類であって、かつ増粘性の多糖類であればいずれの多糖類でもよい。例えば、微生物であるキサントモナス キャンペストリス(Xanthomonas campestris)が産生する増粘多糖類であるキサンタンガム、アルカリゲネス(Alcaligenes)属に属するアルカリゲネス エスピー(Alcaligenes sp.)ATCC-31555株 が産生する増粘多糖類であるウェランガム、シュードモナス エロデア(Pseudomonas elodea)が産生する増粘多糖類であるジェランガム、アルカリゲネス属に属するATCC-31961株が産生する増粘多糖類であるラムザンガム、珪藻類に含まれる増粘多糖類であるカラギーナン、グアーの種子の胚乳部分に含まれる増粘多糖類であるグアーガム、カロブの種子に含まれる増粘多糖類であるローカストビーンガム、昆布、ワカメ、ヒジキ等の褐藻類に含まれる増粘多糖類であるアルギン酸、コンニャクイモに含まれる増粘多糖類であるグルコマンナン等があげられる。
【0030】
本発明のプロバイオティクス組成物は、飲食品組成物及び医薬品組成物におけるプロバイオティクス組成物に適用することができるが、特に、飲食品分野におけるプロバイオティクス組成物として、有利に適用することができる。本発明において、プロバイオティクス組成物に配合される増粘多糖類は、結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類が用いられるが、該多糖類は、単独又は組み合わせて用いることができ、該増粘多糖類は、その対象とするプロバイオティクス組成物により、その種類、組み合わせ、用量等を選択することができる。例えば、プロバイオティクス組成物を飲食品用プロバイオティクス組成物として適用する場合には、対象とする飲食品の種類や、目的とする組成物の組成に応じて、適宜、調整することができ、例えば,飲食品用増粘組成物である場合には、増粘多糖類の増粘性(粘度)をそのまま利用することができる。
【0031】
本発明のプロバイオティクス組成物は、飲食品分野におけるプロバイオティクス組成物として、有利に適用することができる。該飲食品プロバイオティクス組成物における飲食品としては、例えば、飲料水、牛乳、乳飲料、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、菜汁飲料、茶飲料、スポーツ飲料、機能性飲料、ビタミン補給飲料、栄養補給バランス飲料、コンソメスープ、ポタージュスープ、クリームスープ、中華スープ等の各種スープ、味噌汁、清汁、胃瘻に使用可能な液状栄養剤等を挙げることができる。
【0032】
飲食品プロバイオティクス組成物において、用いる増粘多糖類と飲食品との組み合わせとしては、例えば、増粘組成物の使用目的が、嚥下困難者用の飲食品の調製である場合は、キサンタンガム及びグアーガムを、単独で、または組み合わせて用いることができるが(先の出願)、増粘組成物の使用目的が、嚥下困難者用以外、又は、嚥下困難者用飲食品としても用いることができるが汎用性をより重視した飲食品である場合は、キサンタンガム、グアーガムを用いてもよいが、ウェランガム、ローカストビーンガム、ジェランガム及びカラギーナンがより好ましく用いられ、ウェランガム及びローカストビーンガムがさらに好ましく用いられる。
【0033】
本発明に用いられる増粘多糖類は、酸或いは酵素を用いて加水分解した加水分解物であってもよい。加水分解の方法は酸分解と酵素分解のいずれの方法でもよいが、食品用の増粘組成物として用いる場合には、酵素を用いて、加水分解した加水分解物であることが好ましい。
【0034】
本発明に用いられる増粘多糖類は、粒子径の小さい粉体状のものが好ましく、平均粒子径は30~200μmのものが好ましく、50~180μmのものがより好ましい。
【0035】
本発明のプロバイオティクス組成物の調製に際しては、該増粘組成物を用いてプロバイオティクス組成物を製造する際の組成物の溶解・混合等を促進する意味で、本発明の効果を阻害しない範囲、例えば、人工胃液又は胃液中でのプロバイオティクスの生残に悪影響のない範囲で、公知の溶解・混合の促進方法を併用することができる。
【0036】
本発明のプロバイオティクス組成物の製造方法としては、プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、本発明に用いられる増粘多糖類を混合し、プロバイオティクスと、該増粘多糖類とを接触状態で共存させることができれば、通常のプロバイオティクス組成物の製造方法に用いられる方法により製造することができる。プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、本発明に用いられる増粘多糖類とを接触状態で共存させる方法は、特に限定されないが、プロバイオティクスの粉体と該増粘多糖類を混合する方法が採用され、プロバイオティクスと増粘多糖類とを混合し、該混合物を、更に造粒する方法等を採用することができる。前記のとおり、プロバイオティクスと増粘多糖類とを造粒する方法においては、プロバイオティクスと、該増粘多糖類とをあらかじめ混合した後に造粒することが好ましい。また、プロバイオティクスの粉体と該増粘多糖類の粉体とを混合する手段は、プロバイオティクスの粉体と増粘多糖類の粉体とが、均一となるように十分に混合できる手段であれば、公知のいずれの方法、装置を用いてもよい。
【0037】
本発明のプロバイオティクス組成物において、プロバイオティクスと増粘多糖類とを造粒する方法において、該造粒方法としては、公知の方法を用いることができるが、噴霧造粒、真空凍結造粒、流動層造粒、転動式造粒、攪拌造粒等が好ましく用いられる。これらの方法を用いるにあたっては、上記の原料以外に水や増粘多糖類を含有する水等をバインダーとして用いることができる。造粒条件は、それぞれの造粒方法により適宜選択、設定すればよいが、プロバイオティクスの生残に悪影響を及ぼさないように過剰な加熱や発熱を伴わない条件が好ましく、熱によるプロバイオティクスの失活を避けるために、常温以下で造粒する方法を用いることが好ましい。該造粒に際しては、ダマ形成を抑制するために、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等の食品に添加可能な金属塩を含有する澱粉分解物を含有させて造粒する方法を採用することができる(特開2016-26507号公報)。
【0038】
本発明のプロバイオティクス組成物において、該プロバイオティクス組成物に含有させるプロバイオティクスの量は、投与するプロバイオティクスの種類や期待する活性によって適宜設定すればよいが、本発明の組成物1g中、生菌数として、通常1×106CFU以上含有され、好ましくは1×107CFU以上含有され、更に、好ましくは1×108CFU以上含有されることが好ましい。
【0039】
本発明のプロバイオティクス組成物において、プロバイオティクスと共存させる、本発明に用いられる増粘多糖類の量は、使用目的により適宜設定すればよいが、通常、プロバイオティクスの乾燥菌体重量1重量部に対して、通常0.1重量部以上、更に好ましくは0.2重量部以上、特に好ましくは1重量部以上、最も好ましくは10重量部以上である。該に上限はないが、上限はプロバイオティクスの乾燥菌体重量1重量部に対して、3000重量部以下、好ましくは2500重量部以下、より好ましくは2000重量部以下である。本発明のプロバイオティクス組成物の調製に際して、対象とする飲食品において、増粘多糖類の増粘性(粘度)を、飲食品組成物の増粘性(粘度)に利用して、飲食品用増粘組成物として調製する場合には、高重量部の増粘多糖類を用いることができる。
【0040】
本発明のプロバイオティクス組成物においては、本発明に用いられる増粘多糖類以外に、プロバイオティクスの生残に悪影響のない限り、必要に応じて、プロバイオティクス組成物に一般的に使用される賦形剤、糖類、タンパク質、ビタミン類、ミネラル、着色料、香料等を用いることができる。
【0041】
本発明のプロバイオティクス組成物は、目的とする対象によって、適宜の製品形態で、提供することができるが、例えば、飲食品を対象とする場合は、プロバイオティクス飲食品自体、又は、飲食品調製用プロバイオティクス組成物として提供することができる。該飲食品用、プロバイオティクス組成物は、通常の飲食品と同様に飲食できるが、例えば、特殊の場合として、嚥下困難者用飲食品のような場合には、胃瘻による経管投与のような投与方法も挙げることができる。
【0042】
摂取された飲食品は、プロバイオティクスの生残には過酷な胃内環境を経た後、腸に送達されるが、胃内pHは、通常1~2であるが、食後すぐに4~5となり、2~3時間後には再び低下することが知られている。食物での胃内での滞留時間は、食物の種類にもよるが、飲食品の滞留時間は2時間程度であるとすれば、実施例に示されるように、胃内環境を模した人工胃液中で、本発明のプロバイオティクス組成物中のプロバイオティクスの生残率を少なくとも1時間程度、向上させることにより、有効なプロバイオティクスの効果の発揮を達成できることとなる。
【0043】
以上の態様のとおり、本発明のプロバイオティクス組成物においては、(A)プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、(B)結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類とを、該プロバイオティクスと該増粘多糖類とが接触状態で共存するように混合処理して、粉体混合物を調製し、プロバイオティクス組成物に該粉体混合物を配合することによって、プロバイオティクスの保存安定性と、耐胃液分解安定性を保持したプロバイオティクス組成物を提供することを可能とした。
【0044】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
<実験条件1:人工胃液の調製、試験>
本発明における人工胃液としては、酵母エキス0.03重量%、ペプトン0.06重量%、ラクトース0.01重量%、ポリソルベート80(Tween80ともいう)0.01重量%、システイン塩酸塩0.001重量%、塩化ナトリウム0.03重量%を含有する水溶液であって、pH2.7~4.0、好ましくはpH2.8~3.5、より好ましくはpH2.9~3.2の溶液を用いた。また、人工胃液中での保持時間は1~2時間とした。
【0046】
<実験条件2:プロバイオティクスの生菌残存率(生残率)>
本発明において、プロバイオティクスの生菌残存率(生残率)は、プロバイオティクスを含む組成物を希釈液に溶解又は懸濁させた液を、希釈液、及び人工胃液にそれぞれ添加し、混合し、所定の時間経過後、希釈液にて適宜希釈した後、該プロバイオティクスを検出可能な培地(例えばMRS培地)に混釈し、該プロバイオティクスが生育可能な温度(例えば、37℃)及び条件(必要に応じて嫌気条件等)で2~3日間培養する方法において、人工胃液処理0分で生育したコロニー数に対する人工胃液で60~120分処理した試験区で生育したコロニー数の百分率として求めた。
【0047】
<実験条件3:プロバイオティクス組成物の使用量>
本発明のプロバイオティクス組成物の使用量は、飲食品の種類や飲食品に付与する粘度の度合い等にもよるが、摂取するプロバイオティクスの量を指標とする場合は、通常、1回の投与につき少なくとも1×107CFU、好ましくは1×108CFU、より好ましくは3×108CFUのプロバイオティクスを摂取できる量を用いる。
【0048】
[試験例]
【0049】
(1)エンテロコッカス フェーカリスを含有する増粘組成物の調製
市販の、エンテロコッカス フェーカリス(Enterococcus faecalis)(以下、単にフェーカリスともいう。)の製剤(120×108CFU以上/gの菌体の他、95重量%のデンプンを含有。)、ウェランガム、λ-カラギーナン、ローカストビーンガム、及びデキストリンを用い、第1表記載の配合で各増粘組成物を、計量後、均一になるまで混合して粉体組成物として調製した(ただし、#1である比較区は増粘剤組成物に該当しない)。表中、各成分の配合量は、菌体製剤中の乾燥菌体重量を1重量部とした場合の重量部として表示した。また、菌体製剤中の賦形剤であるデンプン及びグアーガム製剤中のデキストリンも配合成分として表示した。
【0050】
(2)人工胃液を用いたフェーカリスの耐酸性試験
上記(1)で調製した各増粘組成物を0.1g秤量し、40mlの希釈液(リン酸二水素カリウム0.45重量%、リン酸水素二ナトリウム0.6重量%、システイン塩酸塩0.05重量%、ポリソルベート80(Tween80)0.05重量%、寒天0.1重量%を含有)を加え、十分に混合し、これを試験用原液とした。一方、酵母エキス0.03重量%、ペプトン0.06重量%、ラクトース0.01重量%、ポリソルベート80(Tween80)0.01重量%、システイン塩酸塩0.001重量%、塩化ナトリウム0.03重量%を含有する水溶液を調製し、pHを2.5に調整してこれを人工胃液とした。
【0051】
用いたフェーカリスの製剤中の菌数を考慮し、試験用原液に希釈液を加えて菌数が120,000個/mlとなるよう希釈し、更に人工胃液を加えて、菌数が12,000個/mlとなるように希釈後、0.1Nまたは1.0N塩酸でpH3.2に調整し、さらに、適宜希釈液で希釈したものを人工胃液処理区とした。なお、人工胃液処理区のpHは、菌を摂取した後、pH3.2に調整した。人工胃液処理区の溶液の一部は調製後すぐに容器ごと37℃の恒温槽に移し、60分間又は120分間静置し、それぞれ人工胃液処理区60分、及び人工胃液処理区120分とした。
【0052】
また、人工胃液処理区の残りの溶液から1ml採取し、シャーレに塗布後、4%加塩MRS寒天培地(日本ベクトン ディッキンソン社製のMRS培地に4重量%となるように塩化ナトリウムを添加し、更に1.4重量%となるように寒天を添加した培地)を20ml加え、シャーレ内で固めた。該シャーレを37℃で好気条件下、48時間インキュベートした(人工胃液処理区0分)。また、人工胃液処理区で60分間又は120分間処理した試験区についても、同様な操作を行った。
【0053】
培養後、シャーレ中の寒天培地に生育したコロニー数を計数した。人工胃液処理区0分のCFUを100として、人工胃液処理区60分及び人工胃液処理区120分のCFUを人工胃液処理後の生残率として算出した。各試験区の内容を表1に示し、試験結果を表2に示す。
【0054】
【0055】
【0056】
表2に示したとおり、各増粘多糖類によるフェーカリスの菌体保護効果が認められた。
【0057】
(3)人工胃液を用いたアシドフィラスの耐酸性試験
上記試験での被験菌であるフェーカリスに変えて、ラクトバチルス アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus:以下、単にアシドフィラスともいう)製剤を用いて同様な試験を行った。なお、用いたアシドフィラス製剤は、アシドフィラスとフェーカリスの両方の菌を含有するものであったため、生残率の測定のためのアシドフィラスの生菌数は、アシドフィラスとフェーカリスの両方が生育可能なMRS寒天培地と、フェーカリスのみ生育可能な4%の塩化ナトリウムを添加したMRS寒天培地を用い、差分を算出することで推定した。また、アシドフィラスの菌体保護効果を調べるための人工胃液のpHは2.5に調整し、菌体接種後にpH2.9に調整した。
【0058】
各試験区の内容を表3に示し、試験結果を表4に示す。
【0059】
【0060】
【0061】
表4に示すとおり、被験菌をフェーカリスからアシドフィラスに変えた試験においても、多糖類による人工胃液における菌体保護効果は認められた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、各種プロバイオティクス組成物に適用して、保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与したプロバイオティクス組成物を提供する。特に、飲食品や、飲食品調製用組成物のような形態で提供されるプロバイオティクス組成物において、流通、保存時での保存安定性と、該プロバイオティクス組成物を摂取した場合の胃液による分解作用に対する安定性、すなわち、保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与、保持したプロバイオティクス組成物を提供する。本発明において、プロバイオティクス組成物に、保存安定性と、耐胃液分解安定性を付与するために用いる、粉体混合物或いはその造粒物は、(A)プロバイオティクスの乾燥菌体或いは乾燥菌体製剤と、(B)結合様式として少なくともβ-1,4結合を有する増粘多糖類との混合物として調製できるため、飲食品等の各種プロバイオティクス製品への適用に際して、用いる材料、製品形態上の制約もなく、広い範囲のプロバイオティクス製品の調製に適用して、有効な保存安定性、耐胃液分解安定性等のプロバイオティクス機能を有するプロバイオティクス製品を提供することができる。