(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】蒸気タービンプラントの起動前準備方法及び起動前準備システム
(51)【国際特許分類】
F22D 11/00 20060101AFI20240607BHJP
F01K 9/00 20060101ALI20240607BHJP
F28B 9/10 20060101ALI20240607BHJP
F22B 37/56 20060101ALN20240607BHJP
【FI】
F22D11/00 C
F01K9/00 G
F28B9/10
F22B37/56 Z
(21)【出願番号】P 2021012131
(22)【出願日】2021-01-28
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 彰弘
(72)【発明者】
【氏名】木戸 遥
(72)【発明者】
【氏名】市原 太郎
(72)【発明者】
【氏名】澤津橋 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】中土 雄太
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-054259(JP,A)
【文献】特開2018-009722(JP,A)
【文献】特開2003-097801(JP,A)
【文献】実開昭60-181577(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28B 9/10
F01K 9/00
F22D 11/00
F22B 37/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気タービンプラントの起動前準備方法であって、
前記蒸気タービンプラントの復水器内の復水を前記復水器から抜き出した後に再び前記復水器に戻すように前記復水を循環する循環ステップと、
前記循環ステップ中に前記復水器内を減圧する減圧ステップと、
前記減圧ステップ中に、前記復水にアルカリ性の薬品を供給して前記復水のpHが前記蒸気タービンプラントの定格運転時のpHである目標範囲よりも低い値になるように調整する第1pH調整ステップと
を含む、蒸気タービンプラントの起動前準備方法。
【請求項2】
前記減圧ステップは、前記復水の酸電気伝導率を測定し、該酸電気伝導率の測定値が予め設定された基準値以下となることを確認することを含む、請求項1に記載の蒸気タービンプラントの起動前準備方法。
【請求項3】
前記減圧ステップは、少なくとも予め決められた時間だけ継続する、請求項1または2に記載の蒸気タービンプラントの起動前準備方法。
【請求項4】
前記酸電気伝導率の測定値が前記基準値以下となったことを確認した後に、前記復水に供給される前記薬品の供給量を調節して前記復水のpHを前記目標範囲に上昇させる第2pH調整ステップをさらに含む、請求項2に記載の蒸気タービンプラントの起動前準備方法。
【請求項5】
前記薬品はアンモニア水である、請求項1~4のいずれか一項に記載の蒸気タービンプラントの起動前準備方法。
【請求項6】
蒸気タービンプラントの起動前準備システムであって、
前記蒸気タービンプラントが備える蒸気タービンの蒸気を冷却凝縮する復水器内の復水を、前記復水器から抜き出した後に再び前記復水器に戻すように前記復水を循環する復水循環系統と、
前記復水にアルカリ性の薬品を供給する供給装置と、
前記復水器内を減圧する減圧装置と、
前記復水のpHを測定するpH測定器を備える測定装置と、
制御装置と
を備え、
前記制御装置は、前記復水循環系統を前記復水が循環中に前記減圧装置を起動させて前記復水器内を減圧し、前記復水器内の減圧中に、前記復水に前記薬品を供給して前記復水のpHが前記蒸気タービンプラントの定格運転時のpHである目標範囲よりも低い値になるように調整する、蒸気タービンプラントの起動前準備システム。
【請求項7】
前記測定装置は、前記復水の酸電気伝導率を測定する電気伝導率計をさらに備え、
前記制御装置は、前記減圧装置の稼働中に、前記測定装置によって前記復水の酸電気伝導率を測定させ、該酸電気伝導率の測定値が予め設定された基準値以下となることを確認する、請求項6に記載の蒸気タービンプラントの起動前準備システム。
【請求項8】
前記制御装置は、前記酸電気伝導率の測定値が前記基準値以下となったことを確認した後に、前記復水に供給される前記薬品の供給量を調節して、前記復水のpHを前記目標範囲に上昇させる、請求項7に記載の蒸気タービンプラントの起動前準備システム。
【請求項9】
前記薬品はアンモニア水である、請求項6~8のいずれか一項に記載の蒸気タービンプラントの起動前準備システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蒸気タービンプラントの起動前準備方法及び起動前準備システムに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンプラントにおいて蒸気タービンを停止すると、真空破壊によって空気中の二酸化炭素が給水に溶解してpHが低下する。このような給水のpHの低下を防ぐために、特許文献1及び2には、空気から二酸化炭素を除去する装置を用いて、真空破壊時に流入する空気から二酸化炭素を除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3141964号公報
【文献】特許第5230239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された方法では、空気から二酸化炭素を除去する装置が必要になるため、蒸気タービンプラントの運転コストが上昇するといった問題点があった。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、蒸気タービンプラントの起動時に低コストで給水のpH調整が可能な蒸気タービンプラントの起動前準備方法及び起動前準備システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る蒸気タービンプラントの起動前準備方法は蒸気タービンプラントの起動前準備方法であって、前記蒸気タービンプラントの復水器内の復水を前記復水器から抜き出した後に再び前記復水器に戻すように前記復水を循環する循環ステップと、前記循環ステップ中に前記復水器内を減圧する減圧ステップと、前記減圧ステップ中に、前記復水にアルカリ性の薬品を供給して前記復水のpHが前記蒸気タービンプラントの定格運転時のpHである目標範囲よりも低い値になるように調整する第1pH調整ステップとを含む。
【0007】
また、本開示に係る蒸気タービンプラントの起動前準備システムは、蒸気タービンプラントの起動前準備システムであって、前記蒸気タービンプラントが備える蒸気タービンの蒸気を冷却凝縮する復水器内の復水を、前記復水器から抜き出した後に再び前記復水器に戻すように前記復水を循環する復水循環系統と、前記復水にアルカリ性の薬品を供給する供給装置と、前記復水器内を減圧する減圧装置と、前記復水のpHを測定するpH測定器を備える測定装置と、制御装置とを備え、前記制御装置は、前記復水循環系統を前記復水が循環中に前記減圧装置を起動させて前記復水器内を減圧し、前記復水器内の減圧中に、前記復水に前記薬品を供給して前記復水のpHが前記蒸気タービンプラントの定格運転時のpHである目標範囲よりも低い値になるように調整する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の蒸気タービンプラントの起動前準備方法及び起動前準備システムによれば、復水器内の減圧によって、復水に溶解する炭酸ガスが排気されることから、蒸気タービンプラントの既存の装置の操作のみで給水のpH調整を行うことができるので、蒸気タービンプラントの起動時に低コストで給水のpH調整が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係る起動前準備システムを含む蒸気タービンプラントの構成模式図である。
【
図2】二酸化炭素が水に溶解したときに、炭酸ガス、炭酸水素イオン、炭酸イオンのそれぞれの形態での存在割合のpHへの依存度を示すグラフである。
【
図3】復水に溶解した二酸化炭素の濃度の経時変化のモデルを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態による蒸気タービンプラントの起動前準備方法及び起動前準備システムについて、図面に基づいて説明する。かかる実施の形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0011】
<本開示の一実施形態に係る蒸気タービンプラントの起動前準備システムの構成>
図1に示されるように、蒸気タービンプラント1は、蒸気タービン2(高圧タービン、中圧タービン及び低圧タービンを含む)と、蒸気タービン2を駆動する蒸気を生成するためのボイラ3と、蒸気タービン2を駆動した蒸気を冷却凝縮する復水器4とを備えている。復水器4とボイラ3とはボイラ給水ライン11を介して接続されている。ボイラ3と蒸気タービン2とは、低圧蒸気供給ライン17、中圧蒸気供給ライン18及び高圧蒸気供給ライン19のそれぞれを介して接続されている。
【0012】
復水器4は、補給水ライン21を介して純水タンク22に接続されている。補給水ライン21には、純水タンク22からの給水量を調整するための給水弁23が設けられている。純水タンク22は、純水が製造される純水装置24に連通している。
【0013】
ボイラ給水ライン11には、復水器4からボイラ3へ復水を給水するための復水ポンプ25が設けられている。復水ポンプ25よりも下流側でボイラ給水ライン11にアンモニア水を供給するための供給装置であるアンモニア水供給装置26が設けられている。アンモニア水供給装置26は、復水のpHを調整するために復水にアンモニア水を供給するためのものであり、アンモニア水を貯留するタンク27と、一端がタンク27に接続されるとともに他端がボイラ給水ライン11に接続されるアンモニア水供給ライン28と、アンモニア水供給ライン28に設けられるアンモニア水供給ポンプ29とを備えている。
【0014】
アンモニア水供給ライン28とボイラ給水ライン11との接続箇所よりも下流側で一端がボイラ給水ライン11に接続されるとともに他端が復水器4に接続される復水循環ライン50が設けられている。復水循環ライン50には開閉弁51が設けられ、復水循環ライン50とボイラ給水ライン11との接続箇所よりも下流側においてボイラ給水ライン11に開閉弁52が設けられている。開閉弁51を開くとともに開閉弁52を閉じることにより、復水器4から流出してボイラ給水ライン11を流れる復水は復水循環ライン50を流れて復水器4に戻る。すなわち、復水が復水器4から抜き出された後に再び復水器4に戻すように循環するようになるので、復水循環ライン50及び開閉弁51,52は復水循環系統を構成する。
【0015】
復水器4には、復水器4内を減圧する減圧装置が設けられている。この減圧装置は、一端が復水器4に接続されるとともに他端が大気中に開口する減圧ライン53と、減圧ライン53に設けられた減圧ポンプ54とを備えている。
【0016】
蒸気タービンプラント1には、ボイラ給水ライン11において、復水ポンプ25よりも下流側、かつ、アンモニア水供給ライン28のボイラ給水ライン11との接続箇所よりも上流側の位置から復水をサンプリングできるサンプリング位置Pが設定されている。サンプリング位置Pには、サンプリングされた復水が流通する流通ライン60の一端が接続され、流通ライン60には、陽イオン交換器61と、陽イオン交換器61よりも下流側に位置する電気伝導率計62とを備える測定装置65が設けられている。また、測定装置65は、陽イオン交換器61及び電気伝導率計62をバイパスするバイパスライン63に設けられたpH測定器64も備えている。尚、陽イオン交換器61の構成は特に限定するものではなく、公知の陽イオン交換樹脂を備える交換器であってもよいし、電気式カチオン交換器であってもよい。
【0017】
復水ポンプ25と、アンモニア水供給ポンプ29と、開閉弁51,52と、減圧ポンプ54と、電気伝導率計62と、pH測定器64とのそれぞれに、有線又は無線で電気的に接続されるように制御装置55が設けられている。
【0018】
本開示の一実施形態に係る起動前準備システム100は、復水循環系統(復水循環ライン50及び開閉弁51,52)と、アンモニア水供給装置26と、減圧装置(減圧ライン53及び減圧ポンプ54)と、制御装置55とを必須の構成要件として備えている。起動前準備システム100は、測定装置65をさらに備えてもよい。起動前準備システム100を構成するこれらの構成要件はいずれも、蒸気タービンプラント1に通常設けられている既存の装置である。このため、このような起動前準備システム100を構成したとしても、蒸気タービンプラント1の運転コストの上昇にはつながらない。
【0019】
ボイラ3において、ボイラ給水ライン11には、低圧節炭器30が設けられている。ボイラ給水ライン11は、低圧節炭器30よりも下流側で低圧給水ライン12と中圧給水ライン13と高圧給水ライン14とに分岐している。低圧給水ライン12には、低圧ドラム31と低圧過熱器32とが、上流側から下流側に向かって順次設けられ、低圧過熱器32は低圧蒸気供給ライン17を介して蒸気タービン2の低圧タービンに接続されている。中圧給水ライン13には、中圧節炭器33と中圧ドラム34と中圧過熱器35とが、上流側から下流側に向かって順次設けられている。蒸気タービン2の高圧タービンは、高圧タービンで使用されて降圧された中圧蒸気を回収する中圧蒸気回収ライン15を介して再熱器41に接続され、再熱器41は、中圧蒸気供給ライン18を介して蒸気タービン2の中圧タービンに接続されている。中圧過熱器35は、中圧蒸気流通ライン16を介して再熱器41よりも上流側で中圧蒸気回収ライン15に接続されている。高圧給水ライン14には、高圧一次節炭器36と高圧二次節炭器37と高圧ドラム38と高圧一次過熱器39と高圧二次過熱器40とが、上流側から下流側に向かって順次設けられ、高圧二次過熱器40は高圧蒸気供給ライン19を介して蒸気タービン2の高圧タービンに接続されている。
【0020】
<本開示の一実施形態に係る蒸気タービンプラントの起動前準備システムの動作>
次に、本開示の一実施形態に係る蒸気タービンプラントの起動前準備システムの動作を、
図1に基づいて説明する。以下に説明する動作は、蒸気タービンプラント1を起動する前に行われる動作、すなわち蒸気タービンプラント1の起動前準備方法である。制御装置55は、蒸気タービンプラント1を起動する指令を受信したら、開閉弁51を開くとともに開閉弁52を閉じ、復水ポンプ25を起動する。そうすると、復水器4内の復水は、復水器4から流出してボイラ給水ライン11及び復水循環ライン50を流れた後に復水器4に戻る。すなわち、復水が復水循環系統を循環する(循環ステップ)。
【0021】
この循環ステップが始まったら、制御装置55は減圧ポンプ54を起動して復水器4内を減圧する(減圧ステップ)。復水器4内が減圧されると、復水に残存するアンモニアの一部と、蒸気タービンプラント1の停止中に復水に溶解した二酸化炭素の一部とが復水から放散し、減圧ライン53を介して大気中へ排気される。減圧ステップの間、連続的に又は間欠的にサンプリング位置Pから復水の一部が抜き出される。サンプリング位置Pから抜き出された復水は流通ライン60を流通して陽イオン交換器61に流入する。陽イオン交換器61では、復水中の水素イオン以外の陽イオンが水素イオンと交換される。陽イオン交換器61を通過した復水は電気伝導率計62に流入し、電気伝導率計62によって酸電気伝導率が測定される。また、流通ライン60を流通する復水の一部はバイパスライン63を流通し、pH測定器64によって復水のpHが測定される。測定された復水の酸電気伝導率及びpHは、制御装置55に伝送される。
【0022】
減圧ステップ中に、アンモニア水供給装置26から復水にアンモニア水を供給して復水のpHが蒸気タービンプラント1の定格運転時のpHである目標範囲(例えば9.8~10.1の範囲)よりも低い値(例えば9.4~9.6の範囲)になるように調整する(第1pH調整ステップ)。具体的には、制御装置55は、pH測定器64によって測定された復水のpHに基づいて、アンモニア水供給ポンプ29を制御して、復水へのアンモニア水の供給量を調節する。例えば、復水のpHが9.4未満のときのアンモニア水の供給量をQ1とし、復水のpHが9.4以上かつ9.6以下のときのアンモニア水の供給量をQ2とし、復水のpHが9.6を超えるときのアンモニア水の供給量をQ3とすると、制御装置55はQ3>Q2>Q1となるようにアンモニア水供給ポンプ29を制御する。減圧ステップ中は、復水に溶解するアンモニアも放散するので、通常はQ3もゼロではなく、アンモニア水は復水に常に供給されている。
【0023】
制御装置55は、復水のpHが目標範囲よりも低い値になったら、復水の酸電気伝導率が予め設定された基準値(例えば0.3μS/cm)以下であるかどうかを確認する。減圧ステップは少なくとも、復水の酸電気伝導率が基準値以下になったことを確認するまで継続する。
【0024】
制御装置55は、復水の酸電気伝導率が基準値以下になったことを確認したら、復水に供給されるアンモニア水の供給量を調節して、復水のpHを目標範囲に上昇させる(第2pH調整ステップ)。例えば、復水のpHが9.8未満のときのアンモニア水の供給量をQ4とし、復水のpHが9.8以上かつ10.1以下のときのアンモニア水の供給量をQ5とし、復水のpHが10.1を超えるときのアンモニア水の供給量をQ6とすると、制御装置55はQ6>Q5>Q4となるようにアンモニア水供給ポンプ29を制御する。
【0025】
制御装置55は、復水のpHが目標範囲となったことを確認したら、蒸気タービンプラント1の起動前準備を終了し、蒸気タービンプラント1の起動動作に移る。具体的には、制御装置55は、開閉弁51を閉じるとともに開閉弁52を開くことによって、復水循環系統を循環する復水を、ボイラ3に供給するようにする。ボイラ3に供給された復水は、高圧蒸気、中圧蒸気、低圧蒸気となって、蒸気タービン2の高圧タービン、中圧タービン、低圧タービンのそれぞれに供給されてこれらを駆動する。
【0026】
このように、復水器4内の減圧によって、復水に溶解する炭酸ガスが排気されることから、蒸気タービンプラント1の既存の装置の操作のみで給水のpH調整を行うことができるので、蒸気タービンプラント1の起動時に低コストで給水のpH調整が可能となる。
【0027】
<本開示の一実施形態に係る蒸気タービンプラントの起動前準備方法の作用効果>
本開示の一実施形態に係る蒸気タービンプラントの起動前準備方法では、復水のpHが蒸気タービンプラント1の定格運転時のpHである目標範囲(9.8~10.1)よりも低い値(9.4~9.6)となる条件で復水器4内を減圧して、復水から二酸化炭素を放散させることが特徴である。この特徴の有無による作用効果の違いを、復水のpHが9.5の状態で減圧する場合と、復水のpHが10の状態で減圧する場合とを比較することによって説明する。
【0028】
二酸化炭素が水に溶解すると、二酸化炭素は水中で、炭酸ガス(H2CO3)、炭酸水素イオン(HCO3
-)、炭酸イオン(CO3
2-)のいずれかの形態で存在する。炭酸水素イオン及び炭酸イオンは、二酸化炭素が水中のアンモニアと反応して形成されたものであるので、減圧によっては容易には放散せず、減圧によって放散されるのは主に炭酸ガスとして存在するものである。
【0029】
図2には、二酸化炭素が水に溶解したときに、炭酸ガス、炭酸水素イオン、炭酸イオンのそれぞれの形態での存在割合のpHへの依存度を示している。復水のpHが9.5の場合における炭酸ガスの形態での水中の存在割合は、蒸気タービンプラント1の定格運転時のpHである目標範囲内のpH10の場合と比べて約4倍となっている。
【0030】
ここで、復水循環系統を循環する復水の水量をVとし、復水に溶存する二酸化炭素(炭酸ガス、炭酸水素イオン、炭酸イオンの総量としての)の濃度をCとし、時間をtとすると、水中に溶存する二酸化炭素の減少の経時変化は下記式(1)で表される。式(1)中の定数aは、二酸化炭素が放散する速度定数である。
【数1】
【0031】
式(1)を時間tで積分すると、下記式(2)が得られる。式(2)中のC
0は、二酸化炭素の濃度Cの初期値、すなわち、t=0のときのCである。
【数2】
【0032】
式(2)を式(3)に変形する。
【数3】
図3に、式(3)の右辺の定数項(alog
10e/V)を1とした直線を実線で示し、式(3)の右辺の定数項を4とした直線を破線で示す。
【0033】
復水に溶解している炭酸ガスの分圧は、ヘンリーの法則により、溶解している炭酸ガスの濃度に比例する。このため、復水のpHが9.5の場合の分圧は復水のpHが10の場合の分圧の約4倍となる。この分圧の比は、復水のpHが9.5の場合の速度定数aと復水のpHが10の場合の速度定数aとの比に等しくなる。そうすると、
図3において実線で描かれた直線のモデルは、復水のpHが9.5の場合の二酸化炭素の濃度の経時変化に相当し、
図3において破線で描かれた直線のモデルは、復水のpHが10の場合の二酸化炭素の濃度の経時変化に相当する。このモデルによれば、例えば、
図3の縦軸が0から-2に変化する(濃度Cが初期値C
0の1/100になることに相当する)までにかかる時間は、pHが9.5のときは約1.1であるのに対し、pHが10のときは約4.4である。すなわち、減圧によって復水から二酸化炭素を放散させる時間は、復水のpHが10の場合に比べて復水のpHが9.5の場合は約1/4の時間となる。したがって、復水のpHが10の場合に比べて復水のpHが9.5の場合の方が、上記起動前準備方法の減圧ステップの時間を短くすることができるので、蒸気タービンプラント1の起動が速くなる。
【0034】
復水のpHが蒸気タービンプラント1の定格運転時のpHである目標範囲よりも低い値になっていない状態でアンモニア水を供給すると、アンモニア水と炭酸ガスとが反応し、復水中で炭酸ガスがイオン化してしまい、減圧ステップでは排気しにくくなってしまう。これに対し、上記起動前準備方法によれば、アンモニア水の供給による復水のpHの調整の前に炭酸ガスの排気を行うので、炭酸ガスの排気時間を短縮することができる。
【0035】
<蒸気タービンプラントの起動前準備方法の変形例>
上記実施形態では、復水のpHを調整するためにアンモニア水を供給していたが、アンモニア水に限定するものではない。アルカリ性の薬品であれば、蒸気タービンプラント1の各構成機器に悪影響を及ぼさない範囲で任意の薬品を使用することができ、薬品も1種類に限定されず、複数の種類の薬品を組み合わせて使用することもできる。
【0036】
上記実施形態では、復水の酸電気伝導率が基準値以下になったことを確認するまで減圧ステップを継続していたが、この形態に限定するものではない。復水の酸電気伝導率が基準値以下になったことを確認することに代えて、又は、これに加えて、予め決められた時間だけ(例えば1時間)減圧ステップを継続するようにしてもよい。減圧ステップにおいて復水のpHが蒸気タービンの定格運転時のpHである目標範囲よりも低い値になるまでの時間を確認しておけば、復水の酸電気伝導率を測定しなくても適切なタイミングで蒸気タービンプラントの起動前準備を終了することができ、また、復水の酸電気伝導率を測定する場合でも、復水の酸電気伝導率及び減圧ステップの継続時間の両方に基づいて復水のpHが蒸気タービンプラントの定格運転時のpHである目標範囲よりも低い値になることを確認することにより、より適切なタイミングで蒸気タービンプラントの起動前準備を終了することができる。
【0037】
上記実施形態において、蒸気タービンプラント1の定格運転時のpHである目標範囲と、この目標範囲よりも低い値と、復水の酸電気伝導率の基準値とのそれぞれについて具体的な数値を特定して説明したが、これらの数値はあくまでも例示であり、実際には蒸気タービンプラント1の仕様に基づいて変更してもよい。
【0038】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0039】
[1]一の態様に係る蒸気タービンプラントの起動前準備方法は、
蒸気タービンプラント(1)の起動前準備方法であって、
前記蒸気タービンプラント(1)の復水器(4)内の復水を前記復水器(4)から抜き出した後に再び前記復水器(4)に戻すように前記復水を循環する循環ステップと、
前記循環ステップ中に前記復水器(4)内を減圧する減圧ステップと、
前記減圧ステップ中に、前記復水にアルカリ性の薬品を供給して前記復水のpHが前記蒸気タービンプラント(1)の定格運転時のpHである目標範囲よりも低い値になるように調整する第1pH調整ステップと
を含む。
【0040】
本開示の蒸気タービンプラントの起動前準備方法によれば、復水器内の減圧によって、復水に溶解する炭酸ガスが排気されることから、蒸気タービンプラントの既存の装置の操作のみで給水のpH調整を行うことができるので、蒸気タービンプラントの起動時に低コストで給水のpH調整が可能となる。
【0041】
[2]別の態様に係る蒸気タービンプラントの起動前準備方法は、[1]の蒸気タービンプラントの起動前準備方法であって、
前記減圧ステップは、前記復水の酸電気伝導率を測定し、該酸電気伝導率の測定値が予め設定された基準値以下となることを確認することを含む。
【0042】
このような方法によれば、復水の酸電気伝導率に基づいて、復水のpHが蒸気タービンの定格運転時のpHである目標範囲よりも低い値になっていることを確認できるので、適切なタイミングで蒸気タービンプラントの起動前準備を終了することができる。
【0043】
[3]さらに別の態様に係る蒸気タービンプラントの起動前準備方法は、[1]または[2]の蒸気タービンプラントの起動前準備方法であって、
前記減圧ステップは、少なくとも予め決められた時間だけ継続する。
【0044】
減圧ステップにおいて復水のpHが蒸気タービンプラントの定格運転時のpHである目標範囲よりも低い値になるまでの時間を確認しておけば、復水の酸電気伝導率を測定しなくても適切なタイミングで蒸気タービンプラントの起動前準備を終了することができ、また、復水の酸電気伝導率を測定する場合でも、復水の酸電気伝導率及び減圧ステップの継続時間の両方に基づいて復水のpHが蒸気タービンプラントの定格運転時のpHである目標範囲よりも低い値になることを確認することにより、より適切なタイミングで蒸気タービンプラントの起動前準備を終了することができる。
【0045】
[4]さらに別の態様に係る蒸気タービンプラントの起動前準備方法は、[2]の蒸気タービンプラントの起動前準備方法であって、
前記酸電気伝導率の測定値が前記基準値以下となったことを確認した後に、前記復水に供給される前記薬品の供給量を調節して前記復水のpHを前記目標範囲に上昇させる第2pH調整ステップをさらに含む。
【0046】
復水のpHが蒸気タービンプラントの定格運転時のpHである目標範囲よりも低い値になっていない状態でアルカリ性の薬品を供給すると、この薬品と炭酸ガスとが反応し、復水中で炭酸ガスがイオン化してしまい、減圧ステップでは排気しにくくなってしまう。これに対し、上記[4]の方法によれば、アルカリ性の薬品の供給による復水のpHの調整の前に炭酸ガスの排気を行うので、炭酸ガスの排気時間を短縮することができる。
【0047】
[5]さらに別の態様に係る蒸気タービンプラントの起動前準備方法は、[1]~[4]のいずれかの蒸気タービンプラントの起動前準備方法であって、
前記薬品はアンモニア水である。
【0048】
このような方法によれば、アンモニア水の供給による復水のpHの調整の前に炭酸ガスの排気を行うので、炭酸ガスの排気時間を短縮することができる。
【0049】
[6]一の態様に係る蒸気タービンプラントの起動前準備システムは、
蒸気タービンプラント(1)の起動前準備システム(100)であって、
前記蒸気タービンプラント(1)が備える蒸気タービン(2)の蒸気を冷却凝縮する復水器(4)内の復水を、前記復水器(4)から抜き出した後に再び前記復水器(4)に戻すように前記復水を循環する復水循環系統(復水循環ライン50/開閉弁51,52)と、
前記復水にアルカリ性の薬品を供給する供給装置(アンモニア水供給装置26)と、
前記復水器内を減圧する減圧装置(減圧ライン53/減圧ポンプ54)と、
前記復水のpHを測定するpH測定器(64)を備える測定装置(65)と、
制御装置(55)と
を備え、
前記制御装置(55)は、前記復水循環系統(50/51,52)を前記復水が循環中に前記減圧装置(53/54)を起動させて前記復水器(4)内を減圧し、前記復水器(4)内の減圧中に、前記復水に前記薬品を供給して前記復水のpHが前記蒸気タービンプラント(1)の定格運転時のpHである目標範囲よりも低い値になるように調整する。
【0050】
本開示の蒸気タービンプラントの起動前準備システムによれば、復水器内の減圧によって、復水に溶解する炭酸ガスが排気されることから、蒸気タービンプラントの既存の装置の操作のみで給水のpH調整を行うことができるので、蒸気タービンプラントの起動時に低コストで給水のpH調整が可能となる。
【0051】
[7]別の態様に係る蒸気タービンプラントの起動前準備システムは、[6]の蒸気タービンプラントの起動前準備システムであって、
前記測定装置(65)は、前記復水の酸電気伝導率を測定する電気伝導率計(62)をさらに備え、
前記制御装置(55)は、前記減圧装置(53/54)の稼働中に、前記測定装置(65)によって前記復水の酸電気伝導率を測定させ、該酸電気伝導率の測定値が予め設定された基準値以下となることを確認する。
【0052】
このような構成によれば、復水の酸電気伝導率に基づいて、復水のpHが蒸気タービンプラントの定格運転時のpHである目標範囲よりも低い値になっていることを確認できるので、適切なタイミングで蒸気タービンプラントの起動前準備を終了することができる。
【0053】
[8]さらに別の態様に係る蒸気タービンプラントの起動前準備システムは、[7]の蒸気タービンプラントの起動前準備システムであって、
前記制御装置(55)は、前記酸電気伝導率の測定値が前記基準値以下となったことを確認した後に、前記復水に供給される前記薬品の供給量を調節して、前記復水のpHを前記目標範囲に上昇させる。
【0054】
復水のpHが蒸気タービンプラントの定格運転時のpHである目標範囲よりも低い値になっていない状態でアルカリ性の薬品を供給すると、この薬品と炭酸ガスとが反応し、復水中で炭酸ガスがイオン化してしまい、減圧ステップでは排気しにくくなってしまう。これに対し、上記[4]の方法によれば、アルカリ性の薬品の供給による復水のpHの調整の前に炭酸ガスの排気を行うので、炭酸ガスの排気時間を短縮することができる。
【0055】
[9]さらに別の態様に係る蒸気タービンプラントの起動前準備システムは、[6]~[8]のいずれかの蒸気タービンプラントの起動前準備システムであって、
前記薬品はアンモニア水である。
【0056】
このような構成によれば、アンモニア水の供給による復水のpHの調整の前に炭酸ガスの排気を行うので、炭酸ガスの排気時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 蒸気タービンプラント
2 蒸気タービン
4 復水器
26 アンモニア水供給装置(供給装置)
50 復水循環ライン(復水循環系統)
51 開閉弁(復水循環系統)
52 開閉弁(復水循環系統)
53 減圧ライン(減圧装置)
54 減圧ポンプ(減圧装置)
55 制御装置
62 電気伝導率計
64 pH測定器
65 測定装置
100 起動前準備システム