(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】トラクタ
(51)【国際特許分類】
A01B 59/042 20060101AFI20240607BHJP
【FI】
A01B59/042 A
(21)【出願番号】P 2021073413
(22)【出願日】2021-04-23
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】藤本 真士
(72)【発明者】
【氏名】岡本 尚也
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-15311(JP,U)
【文献】実開昭55-164907(JP,U)
【文献】特開2005-218315(JP,A)
【文献】実開昭50-139612(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0245416(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 59/042
A01B 59/043
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走可能に構成された走行機体と、
作業装置が連結されるリンク部材を有したリンク機構と、
前記リンク機構を前記走行機体の前後方向の一端部に取り付けるリンク取付機構と、
トランスミッションケースと、
前記走行機体における前後方向の一端部のうち、前記リンク取付機構が設けられた側の端部にヒッチと、
前記ヒッチを支持するヒッチ取付部材と、が備えられ、
前記リンク取付機構に、前記リンク部材における前記走行機体側の端部を左右方向に沿う軸心回りで回動可能に枢支する支軸と、前記走行機体に設けられ、前記支軸を支持する支持部と、前記支持部に対する前記支軸の左右方向移動を固定、及び固定解除可能な固定具と、が備えられ、
前記固定具による固定が解除されるに伴って、前記支持部に対する前記支軸の左右方向での抜き差しが可能とな
り、
前記支持部は、前記走行機体に備えた側部ブラケット、及び前記トランスミッションケースの下部から後方へ延出された前記ヒッチ取付部材に設けられ、
左右方向で前記走行機体の中央側から前記走行機体の外側へ前記ヒッチ取付部材、前記側部ブラケット、前記リンク部材の順で配置されているトラクタ。
【請求項2】
前記支持部が、前記ヒッチの下端よりも高い位置に前記支軸を支持している請求項1記載のトラクタ。
【請求項3】
前記側部ブラケットは、前記トランスミッションケースの左右両横側部に備えられ、
前記ヒッチ取付部材の後方に前記ヒッチが脱着可能に設けられている請求項
1記載のトラクタ。
【請求項4】
前記走行機体に左右の前輪と左右の後輪とが備えられ、
前記支軸は、前記後輪のハブに形成されている凹入部と側面視で重複する位置にある請求項1~
3のいずれか一項記載のトラクタ。
【請求項5】
左右の前記リンク部材よりも、左右方向で
前記走行機体の中央側に位置する状態で、左右のスタビライザが配置され、前記リンク部材及び前記スタビライザが、同一軸心回りで上下揺動可能に前記支軸に支持されている請求項1~
4のいずれか一項記載のトラクタ。
【請求項6】
自走可能に構成された走行機体と、
作業装置が連結されるリンク部材を有したリンク機構と、
前記リンク機構を前記走行機体の前後方向の一端部に取り付けるリンク取付機構と、
インプルメン
トを前記走行機体の所定位置に連結するためのサブフレームと
、が備えられ、
前記リンク取付機構に、前記リンク部材における前記走行機体側の端部を左右方向に沿う軸心回りで回動可能に枢支する支軸と、前記走行機体に設けられ、前記支軸を支持する支持部と、前記支持部に対する前記支軸の左右方向移動を固定、及び固定解除可能な固定具と、が備えられ、
前記固定具による固定が解除されるに伴って、前記支持部に対する前記支軸の左右方向での抜き差しが可能となり、
前記支軸は、前記走行機体に装着された前記サブフレームと側面視で重複しない位置に設けられてい
るトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体の前後方向の一端部に備えたリンク機構を脱着可能に構成したトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のトラクタにおいて、従来では、走行機体の後部に設けた後連結フレームの下部に、ロアリンクの支軸となる左右一対のロアリンクピンを、軸線方向で対向する突き合わせ状態で、かつ、ロアリンクピン同士の突き合わせ端部間に所定の間隔を設けた構造のものがある。このような構造においては、ロアリンクピン同士の対向間隔を通してロアリンクをロアリンクピンに嵌合させることにより、ロアリンクの装着を行うようにしていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来構成では、ロアリンクをロアリンクピンに対して抜き差しすることで、ロアリンクの脱着を行える。これによって、リンク機構の全体を取り外した状態で、バックホー等の他装置を支障なく脱着操作でき、トラクタの汎用性を高め得る点で有用なものである。
しかしながら、この構造においては、狭い対向間隔を通してロアリンクピンにロアリンクの基部を嵌合させるには、重いロアリンクを支持した状態で、ロアリンクの基部を上下方向及び水平方向に移動させながら、かなり緻密な位置合わせ作業を要し、多くの時間と労力を要する点で改善の余地があった。
【0005】
本発明は、比較的簡単な作業で、走行機体に対するリンク機構の脱着操作を行い易くしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るトラクタの特徴構成は、
自走可能に構成された走行機体と、
作業装置が連結されるリンク部材を有したリンク機構と、
前記リンク機構を前記走行機体の前後方向の一端部に取り付けるリンク取付機構と、
トランスミッションケースと、
前記走行機体における前後方向の一端部のうち、前記リンク取付機構が設けられた側の端部にヒッチと、
前記ヒッチを支持するヒッチ取付部材と、が備えられ、
前記リンク取付機構に、前記リンク部材における前記走行機体側の端部を左右方向に沿う軸心回りで回動可能に枢支する支軸と、前記走行機体に設けられ、前記支軸を支持する支持部と、前記支持部に対する前記支軸の左右方向移動を固定、及び固定解除可能な固定具と、が備えられ、
前記固定具による固定が解除されるに伴って、前記支持部に対する前記支軸の左右方向での抜き差しが可能となり、
前記支持部は、前記走行機体に備えた側部ブラケット、及び前記トランスミッションケースの下部から後方へ延出された前記ヒッチ取付部材に設けられ、
左右方向で前記走行機体の中央側から前記走行機体の外側へ前記ヒッチ取付部材、前記側部ブラケット、前記リンク部材の順で配置されている点にある。
【0007】
本発明によれば、リンク機構を走行機体の前後方向の一端部に取り付けるリンク取付機構として、リンク部材の走行機体側の端部を左右方向に沿う軸心回りで回動可能に枢支する支軸と、その支軸を走行機体に支持させるための支持部と、支持部に対する支軸の左右方向移動を固定、及び固定解除可能な固定具と、を採用している。
これによって、固定具による固定を解除することで、支軸を支持部に対して挿抜することができる。このように、位置固定されている支軸に対してリンク部材の端部を位置合わせするのではなく、支軸を支持部に対して挿抜するものであるから、リンク機構の取り外しに際しては、固定具による固定を解除して支軸を左右方向に抜き出すだけの簡単な作業で短時間に行うことができる。
そして、リンク機構の取り付けの際には、リンク部材と支持部との位置合わせが必要であるが、リンク部材端部の移動方向としては、支軸の突き合わせ端部同士の間隔を通すような作業が不要であるため、リンク部材端部の左右方向での位置調節操作は必要なくなる。これにより、リンク部材端部の上下方向高さ位置を支持部の高さに調節する操作を行うことで、支軸の差し込みを容易に行うことができる。
その結果、走行機体に対するリンク部材の脱着操作を伴う、リンク機構の取り付け、取り外し作業を、比較的簡単な作業で、短時間で行い易いトラクタを得られる。
また、牽引負荷に耐えられる高強度メンバーであるところのヒッチ取付部材に支持部が設けられているので、支持部として強度の高い構造を得易い。
【0008】
本発明においては、前記支持部が、前記ヒッチの下端よりも高い位置に前記支軸を位置させるように支持していると好適である。
【0009】
本構成によれば、リンク部材の支軸がヒッチよりも高い位置にあるので、リンク部材の支軸位置をできるだけ低い位置に定めて、リンク機構による上限高さを低くすることで、走行機体全体の安定性を増すことができる。
それでいて、最低地上高に相当する高さ位置近くに設けられる傾向があるヒッチよりも、支軸の位置は高く保たれていて、ヒッチの下端よりも下方へ突出するものではないので、最低地上高を下げてしまうことはなく、他物との接触機会を増大する虞も回避できる。
【0010】
【0011】
【0012】
本発明においては、前記側部ブラケットは、前記トランスミッションケースの左右両横側部に備えられ、前記ヒッチ取付部材の後方に前記ヒッチが脱着可能に設けられていると好適である。
【0013】
本構成によれば、リンク部材の支軸は、トランスミッションケースの左右両横側部に備えた側部ブラケット、及び前記トランスミッションケースの下部から後方へ延出されたヒッチ取付部材に設けられた支持部で支持される。このように、トラクタの強度メンバーであるトランスミッションケースやヒッチ取付部材によってリンク部材の支軸を強固に支持することができる。
【0014】
本発明においては、前記走行機体に左右一対の前輪と左右一対の後輪とが備えられ、前記支軸は、前記後輪のハブに形成されている凹入部と側面視で重複する位置にあると好適である。
【0015】
本構成によれば、後輪のハブに形成されている凹入部を、支軸の挿抜時の移動可能空間、及び作業領域として有効利用できるので、より一層支軸の挿抜を行い易くなった。
【0016】
本発明においては、左右の前記リンク部材よりも、左右方向で走行機体の中央側に位置する状態で、左右のスタビライザが配置され、前記リンク部材及び前記スタビライザが、同一軸心回りで上下揺動可能に前記支軸に支持されていると好適である。
【0017】
本構成によれば、リンク部材の左右方向での外方側にスタビライザを配置する場合に比べて、スタビライザの配置スペースを容易に確保し易い。つまり、リンク部材はできるだけ左右方向で幅広く作業装置を支持して、作業装置の昇降動作を安定良く行えるようにするために、左右方向で幅広く配設されている。このため、リンク部材の左右方向での外方側にスタビライザを配置しようとすれば、リンク部材の横外側に存在する後輪との間の狭い隙間が配設用空間となるため、他物との接触の可能性が増すなどして、好ましくないが、本発明では、内側に配置しているので、そのような虞がない。
【0018】
本発明に係るトラクタの特徴構成は、
自走可能に構成された走行機体と、
作業装置が連結されるリンク部材を有したリンク機構と、
前記リンク機構を前記走行機体の前後方向の一端部に取り付けるリンク取付機構と、
インプルメントを前記走行機体の所定位置に連結するためのサブフレームと、が備えられ、
前記リンク取付機構に、前記リンク部材における前記走行機体側の端部を左右方向に沿う軸心回りで回動可能に枢支する支軸と、前記走行機体に設けられ、前記支軸を支持する支持部と、前記支持部に対する前記支軸の左右方向移動を固定、及び固定解除可能な固定具と、が備えられ、
前記固定具による固定が解除されるに伴って、前記支持部に対する前記支軸の左右方向での抜き差しが可能となり、
前記支軸は、前記走行機体に装着された前記サブフレームと側面視で重複しない位置に設けられている点にある。
【0019】
本構成によれば、支軸は、走行機体に装着されるサブフレームと側面視で重複しない位置に設けられているので、サブフレームの存在が支軸の挿抜操作を妨げるものではない。換言すれば、走行機体に装着されたサブフレームを脱着する必要が無いので、インプルメントの装着及び取り外し作業が簡素化される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】走行機体の後部に対するリンク機構の取付状態を示す平面図である。
【
図3】走行機体の後部に対するリンク機構の取付状態を示す側面図である。
【
図4】走行機体の後部に対するリンク機構の取付状態を示す背面図である。
【
図5】走行機体の後部に対するリンク機構の取付状態を示す底面図である。
【
図7】バックホー装着状態のトラクタの全体側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態の一例を図面に基づいて説明する。
尚、本実施形態では、本発明に係るトラクタの作業走行時における前進側の進行方向(
図1,2における矢印F参照)が「前側」、後進側への進行方向(
図1,2における矢印B参照)が「後側」である。又、その前後方向での前向き姿勢を基準としての右側に相当する方向(
図2における矢印R参照)が「右側」、同様に左側に相当する方向(
図2における矢印L参照)が「左側」である。
図1及び
図3における矢印Uが「上方」、同図の矢印Dが「下方」を示している。
【0022】
〔全体構成〕
図1に示すように、本実施形態で例示するトラクタは、車体フレーム10の前半部に原動部が設けられ、車体フレーム10の後半部に搭乗運転部が設けられた走行機体1を備えている。そして、原動部の左右に駆動可能な操舵輪としての前輪1Fを配備し、搭乗運転部の左右に非操舵輪であり、かつ駆動可能に構成された駆動輪としての後輪1Rを配備してある。走行機体1は、これらの前輪1F及び後輪1Rを備えて自走可能な4輪駆動型に構成されている。
【0023】
車体フレーム10は、前フレーム部10Fの後部に水冷式のディーゼルエンジン(以下、エンジンと称する)11を連結し、このエンジン11の後下部にクラッチハウジング12を連結している。クラッチハウジング12の後部に、中間フレーム部13を介してトランスミッションケース14を連結することにより、トラクタの前後のほぼ全体にわたるモノコック構造に構成されている。
【0024】
原動部は、ボンネット16により形成されたエンジンルームに、エンジン11等が配備されている。搭乗運転部には、前輪操舵用のステアリングホイール17及び運転座席18などが配備されている。運転座席18の後部を跨ぐ状態で正面視門形のロプス19が、車体フレーム10の後部から立設されている。
【0025】
エンジン11からの動力は、クラッチハウジング12の内部に備えた主クラッチ(図示せず)などを介して、トランスミッションケース14の前部に連結した静油圧式無段変速装置(以下、HSTと称する)15の入力軸(図示せず)に伝達している。HST15の出力軸(図示せず)からの動力を、走行用として、トランスミッションケース14の内部に備えたギヤ式変速装置(図示せず)に伝達し、ギヤ式変速装置からの動力を、トランスミッションケース14の内部において前輪駆動用と後輪駆動用とに分岐している。
【0026】
前輪駆動用の動力は、トランスミッションケース14の内部から左右の前輪1Fにわたる前輪伝動系(図示せず)を介して左右の前輪1Fに伝達している。後輪駆動用の動力は、トランスミッションケース14の内部から左右の後輪1Rにわたる後輪伝動系(図示せず)を介して左右の後輪1Rに伝達している。
【0027】
HST15の入力軸に伝えられた動力は、作業用にも分配されている。つまり、HST15からトランスミッションケース14に入力された動力は、トランスミッションケース14の内部に備えた作業伝動系(図示せず)に伝えられる。この作業伝動系において適宜に変速され、トランスミッションケース14の後端部に備えた後向きの第一動力取出軸14aと、トランスミッションケース14の底部に備えた前向きの第二動力取出軸14bと、に分岐して出力される。
図3及び
図4に示すように、第一動力取出軸14aの上方、及び左右両側方は、PTOカバー14cによって覆われている。
トランスミッションケース14の左右両側部には、後輪駆動軸(図示せず)を内装する後車軸ケース14A,14Aが、左右横外方へ向けて延出されている。この後車軸ケース14A,14Aは、トランスミッションケース14と一体に鋳造されているが、別体で構成して連結するようにしてもよい。
【0028】
〔昇降駆動機構〕
図1乃至
図4に示すように、トランスミッションケース14の上部には、後述する昇降リンク機構3(リンク機構に相当する)の昇降作動させるための昇降駆動機構2が設けられている。
トランスミッションケース14の上部にシリンダブロック14Bが取り付けられている。このシリンダブロック14Bに、昇降駆動機構2を構成するところの、左右一対のリフトアーム26と、それらのリフトアーム26を揺動駆動するための単動型の油圧シリンダで構成されたリフトシリンダ25と、が備えられている。
【0029】
リフトアーム26はシリンダブロック14Bの左右両側に設けられ、横軸心x3回りで上下揺動可能に構成されている。リフトシリンダ25はシリンダブロック14B内に装備されて、リフトアーム26の基端部を揺動操作する。リフトアーム26の遊端部は、リフトロッド27を介して昇降リンク機構3のロアリンク30(リンク部材に相当する)と連結されている。これにより、リフトアーム26とロアリンク30は、リフトアーム26の上下揺動に伴ってロアリンク30が上下揺動するように連係されている。
【0030】
昇降リンク機構3におけるロアリンク30及びトップリンク31は、遊端側が連結対象の作業装置、例えばロータリ耕耘装置(図示せず)に連結される。そして、リフトアーム26の昇降作動に伴って、ロアリンク30及びトップリンク31も同方向に昇降作動し、遊端側に連結されている作業装置の上下昇降作動が行われる。
【0031】
〔リンク機構〕
図1乃至
図4に示すように、走行機体1の後部に備えた昇降リンク機構3は、左右一対のロアリンク30と、平面視で左右のロアリンク30,30の中間に位置する一本のトップリンク31と、を備えた三点リンク機構によって構成されている。
このロアリンク30及びトップリンク31の走行機体1への取り付けは、後述するリンク取付機構4を介して行われる。
【0032】
ロアリンク30は、上下揺動支点となる下部支軸40(支軸に相当する)に対して、ラジアル方向及びスラスト方向の外力を受け止める球面軸受30aを介して嵌合している。これにより、ロアリンク30は、下部支軸40に対して相対回動自在に、かつ、下部支軸40の軸心x1に対する平面視での交差角度Θ1を所定範囲内で変更可能に支持されている。
そして、同じ下部支軸40に対して、ロアリンク30よりも走行機体1の左右方向での中央側に相当する箇所には、ロアリンク30の左右揺動(ヨーイング)を抑制するためのスタビライザ32が備えられている。
【0033】
スタビライザ32は、角筒状に形成された基端側部材32Aと、その角筒状に形成された基端側部材32Aに対して挿抜可能に構成された板状の遊端側部材32Bとの二部材が組み合わせられている。この構造では、角筒状の基端側部材32Aに挿入した板状の遊端側部材32Bを、基端側部材32Aの長さ方向にスライド移動させ、適正位置で固定することによって、スタビライザ32の長さを変更調節することができる。基端側部材32Aと遊端側部材32Bとのそれぞれに、長さ方向に並ぶ多数の連結用孔32Aa,32Baが形成されている。それぞれの連結用孔32Aa,32Baを選択し、ボルト・ナット(図示せず)等の連結具を挿通して連結することにより、スタビライザ32の長さを固定することができる。
【0034】
スタビライザ32のうち、基端側部材32Aの基端部は、
図4乃至
図6に示すように、下部支軸40に取り付けられた取付部材33に対して、連結ピン33cを介して左右揺動可能に連結されている。
取付部材33は、下部支軸40に外嵌する筒部材33aと、その筒部材33aに溶接固定されたU字状の連結ブラケット33bと、を備えている。基端側部材32Aの基端部を、連結ブラケット33bのU字状部分に挟んで、連結ピン33cが連結ブラケット33bと基端側部材32Aとを貫通する状態に刺すことにより、取付部材33に対してスタビライザ32が連結される。
【0035】
スタビライザ32の遊端側は、その遊端部に備えた連結金具34を介して、ロアリンク30の遊端部近くに連結されている。
連結金具34は、ロアリンク30の連結孔30bに対して挿抜可能な係止ピン34aと、その係止ピン34aが溶接固定されたU字状ブラケット34bと、を備えている。U字状ブラケット34bが遊端側部材32Bに連結ピン34cで連結されている。
連結金具34を介して遊端側をロアリンク30に連結されたスタビライザ32は、ロアリンク30と同様に、下部支軸40に対して相対回動可能に、かつ、下部支軸40の軸心x1に対する交差角度Θ2を前記連結ピン33c回りで変更可能に支持されている。
【0036】
トップリンク31は、ロアリンク30よりも高い位置で走行機体1の後端部に基端側を枢支され、遊端側がロアリンク30とともに、連結対象の作業装置、例えばロータリ耕耘装置(図示せず)に連結される。
図3に示されるように、トップリンク31の上下揺動支点となる上部支軸41は、ロアリンク30,30の揺動支点となる下部支軸40よりも高い位置にある。トップリンク31の前後方向長さは、ロアリンク30,30の前後方向長さよりも少し短く設定されている。
上部支軸41に対するトップリンク31の取付箇所においても、ラジアル方向及びスラスト方向の外力を受け止める球面軸受30aが用いられている。これにより、トップリンク31は、上部支軸41に対して相対回動自在に支持され、かつ、上部支軸41の軸心x2に対する平面視での交差角度を所定範囲内で変更可能に支持されている。
【0037】
〔リンク取付機構〕
昇降リンク機構3を走行機体1の後部に連結するためのリンク取付機構4は次のように構成されている。
図3乃至
図6に示されるように、リンク取付機構4は、ロアリンク30を走行機体1に取り付けるための下部取付機構4Aと、トップリンク31を走行機体1に取り付けるための上部取付機構4Bと、を備えている。
【0038】
下部取付機構4Aは、ロアリンク30における走行機体1側の端部を左右方向に沿う軸心x1回りで回動可能に枢支する左右一対の下部支軸40,40と、下部支軸40を走行機体1に支持させるための支持部42と、支持部42に対する下部支軸40の左右方向移動を固定、及び固定解除可能な固定具46と、が備えられている。
【0039】
支持部42は、トランスミッションケース14の左右両横側部に備えた側部ブラケット43と、トランスミッションケース14の下部から後方へ延出されたヒッチ取付部材44と、を備えている。つまり、側部ブラケット43に下部支軸40の挿通孔43aが形成されており、ヒッチ取付部材44にも、下部支軸40の端部を挿入可能な挿通孔44aが形成されている。これらの挿通孔43a,44aに下部支軸40を挿通した状態で、ロアリンク30の基端部、及びスタビライザ32の基端部が下部支軸40に支持され、走行機体1に連結された状態となる。
【0040】
固定具46は、下部支軸40の走行機体1の中央側の端部に形成された止め孔40aに対して挿入可能な止めボルトによって構成されたものである。
図4乃至
図6に示すように、ヒッチ取付部材44の底面側に、上向き開放のチャンネル状に形成された固定用ブラケット45の底板部分45aが固定されている。この固定用ブラケット45は、ヒッチ取付部材44の左右方向幅よりも幅広に形成されている。そして、固定用ブラケット45の底板部分45aのうち、幅広に形成されてヒッチ取付部材44の横外側にはみ出した部分に、固定具46の挿入用孔(図示せず)が形成されるとともに、その挿入用孔に挿入される固定具46に螺合する固定ナット45bが溶接固定されている。
【0041】
上記の固定ナット45bに固定具46を螺合させて、固定用ブラケット45の底板部分45aを貫通して起立する固定具46を、下部支軸40の止め孔40aに挿入することによって、下部支軸40の左右方向移動を固定することができる。そして、下部支軸40の止め孔40aから固定具46を抜き出すことにより、下部支軸40の移動固定が解除され、下部支軸40を左右方向で横外方へ抜き出すことができる。
【0042】
固定用ブラケット45の左右両側部には、底板部分45aの両端から上方へ立ち上がる起立側板45c,45cが設けられている。この起立側板45c,45cには、下部支軸40が挿通可能な透孔45d,45dが形成されている。
したがって、下部支軸40は、側部ブラケット43に形成された挿通孔43aと、ヒッチ取付部材44に形成された挿通孔44aと、起立側板45cに形成された透孔45dと、の三箇所で支持された状態となる。
下部支軸40のうち、ロアリンク30よりも左右方向での横外方箇所には、ロアリンク30が下部支軸40から抜け落ちることを阻止するように、ピン孔40bと、そのピン孔40bに対して挿抜される抜け止めピン40cと、が設けられている。
【0043】
前記ヒッチ取付部材44には、走行機体1における前後方向の一端部で、図示しない作業装置等を牽引するための牽引用のヒッチ47が取り付けられている。このヒッチ47は、ヒッチ取付部材44に対して前後方向にスライドして取り付け位置を変更可能、及び、ヒッチ取付部材44に対して脱着可能に支持されている。
そして、下部支軸40の位置は、ヒッチ47の下端よりも高い位置であるように、支持部42を構成する側部ブラケット43、及びヒッチ取付部材44の位置が定められている。このように下部支軸40の高さ位置がヒッチ47の下端高さとの位置関係で定められると、走行機体1の最低地上高に近い高さ位置で、かつ頑丈に形成されるものであるヒッチ47よりも高い位置にあることで、他物との接触を回避し易くなる。
【0044】
トップリンク31を走行機体1に取り付けるための上部取付機構4Bは、トップリンク31における走行機体1側の端部を左右方向に沿う軸心x2回りで回動可能に枢支する上部支軸41と、その上部支軸41を走行機体1側に支持させる支持部として、左右一対の取付ブラケット48,48を備えている。
取付ブラケット48,48は、トランスミッションケース14の上側に固定されたシリンダブロック14Bの後面に取り付けられたサブフレーム支持部材50の後面側に溶接固定されている。
サブフレーム支持部材50は、後述する左右一対のサブフレーム5,5同士を連結する部材で、左右方向での中間部がシリンダブロック14Bの後面に取り付けられ、左右方向の両端部が左右のサブフレーム5,5の上部に連結されている。
【0045】
上部支軸41は、取付ブラケット48に上下方向で並ぶ状態に形成された三個の取付孔48aのいずれかを選択して、挿通された状態で支持される。
上部支軸41は、一端部にフランジ状の頭部41aを備え、他端部に抜け止め孔41b、及び抜け止めピン41cを備えている。抜け止めピン41cを取り外すことで上部支軸41を抜き出し、トップリンク31を取り外すことができる。
【0046】
〔サブフレーム〕
図2乃至
図4に示されるように、支持部42に装着されている下部支軸40の左右方向での横外方の端部よりもさらに横外方位置に、走行機体1に取り付けて使用することのできるインプルメント6としてのバックホー(
図7参照)を装着固定するためのサブフレーム5が取り付けられている。
尚、サブフレーム5は、バックホーをトラクタに連結する際に用いられるものであり、機能的にはインプルメント6に属するものであるが、本発明では、インプルメント6のうち、トラクタに対して脱着されて作業を行うものをインプルメント本体60と称し、そのインプルメント本体60をトラクタに取り付けるために用いられる部位をサブフレーム5と称する。
【0047】
このサブフレーム5は、
図3において二点鎖線で示すように、トランスミッションケース14の左右両側部から横外方へ向けて延出された後車軸ケース14A,14Aの左右方向での中途部に形成された段部14Aaに対して横外方側から当接し、固定ボルト51によって連結固定されている。さらに、サブフレーム5は、後車軸ケース14A,14Aの下方に延設されている車体フレーム10に対しても、下端部が連結固定されている。この連結は、溶接、あるいはリベットによる固定、またはボルト・ナットによる脱着可能な固定であってもよい。
つまり、サブフレーム5が車体フレーム10と一体化され、後車軸ケース14A,14Aと連結されている。そして、サブフレーム5の上部は、前述したように、中間部がシリンダブロック14Bの後面に取り付けられたサブフレーム支持部材50の左右方向の両端部に連結固定されている。
【0048】
このサブフレーム5の左右方向位置は、
図4及び
図5に示されるように、トランスミッションケース14の横側面に取り付けられた側部ブラケット43との間における左右方向間隔が、下部支軸40の左右方向長さよりも短い範囲に設定されている。つまり、下部支軸40を支持部42から完全に抜き出す際に、左右方向でサブフレーム5の存在箇所を通り越す必要がある。
このため、
図3に示すように、サブフレーム5のうち、下部支軸40の抜き出しの際に対向する部位の一部に凹入部52を形成してある。この凹入部52が存在することによって、下部支軸40が側面視でサブフレーム5と重複する状態とはならず、支持部42から抜き出される下部支軸40の抜き出し方向への移動が、サブフレーム5の存在によって阻害されるおそれはない。
【0049】
また、下部支軸40は、支持部42への装着状態において、側面視で後輪1Rのハブに形成されている凹入部s1と重複する位置にあるように設けられている。
したがって、下部支軸40は、凹入部s1の存在する空間の左右方向幅分だけ、より横外方へ引き出すことができるので、後輪1Rを取り外さなくとも支持部42から抜き出すことができる。
【0050】
上記のように構成された本発明のトラクタでは、下部支軸40及び上部支軸41を支持部42及び取付ブラケット48から抜き出すことにより、ロアリンク30、スタビライザ32、及びトップリンク31を走行機体1から取り外すことができる。
これらのロアリンク30、スタビライザ32、及びトップリンク31を走行機体1から取り外した状態で、
図7に示すように、インプルメント6としてのバックホーをサブフレーム5に取り付けることにより、バックホー作業を行うことができる。
尚、詳述はしないが、前述した運転座席18は前後に向き変更可能であり、バックホー作業の際には、後方に向いた状態で運転座席18に塔座し、バックホーの操作装置を操作することができる。
【0051】
そして、インプルメント6のうち、インプルメント本体60としてのバックホーを取り外すと、サブフレーム5は走行機体1側に残ることになるが、このサブフレーム5の存在によって、ロアリンク30、スタビライザ32、及びトップリンク31の作動が妨げられることはない。
また、下部支軸40及び上部支軸41を支持部42及び取付ブラケット48から抜き出す際にも、サブフレーム5の存在が邪魔にはならないので、サブフレーム5は走行機体1に装着されたままの状態で用いることになる。このように、サブフレーム5が走行機体1に常備された状態とすることで、インプルメント本体60の脱着操作に、サブフレーム5の脱着操作が含まれずに済み、インプルメント6としてのバックホーの脱着操作を簡略化することができる。
【0052】
上記のサブフレーム5は、走行機体1に常備された状態でもうけられ、かつ、その位置が、
図3に示すように、トランスミッションケース14の後端部に備えた後向きの第一動力取出軸14aよりも後方側へ突出した状態で設けられている。この後方への突出位置は、PTOカバー14cの後方側への突出端位置と同程度の位置であるため、PTOカバー14cとともに、第一動力取出軸14aが他物と接触する可能性を低減する上で有用である。
【0053】
〔別実施形態の1〕
上記の実施形態では、昇降リンク機構3として、トップリンク31と左右一対のロアリンク30とを用いた三点リンク機構を例示したが、必ずしも、この構造に限定されるものではない。例えば、図示はしないが、ロアリンクに相当する左右一対のリンク部材を用いた二点リンク機構を採用したものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0054】
〔別実施形態の2〕
上記の実施形態では、昇降リンク機構3及びリンク取付機構4が、走行機体1の後端部に備えられた構造のものを例示したが、必ずしも、この構造に限定されるものではない。例えば、図示はしないが、昇降リンク機構3及びリンク取付機構4が、走行機体1の前端部に備えられたものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0055】
〔別実施形態の3〕
上記の実施形態では、前輪1F及び後輪1Rを備えた構造のトラクタを例示したが、必ずしも、この構造に限定されるものではない。例えば、図示はしないが、前輪1F又は後輪1Rの何れかに代えてクローラ走行装置を採用したものであって良い。この場合、下部支軸40を抜き出すための凹入部s1は、前輪1F又は後輪1R、あるいはクローラ走行装置の何れに設けてもよい。前輪1F又は後輪1Rを用いずに、走行装置全体をクローラ走行装置とする場合には、下部支軸40を抜き出すための凹入部s1が、クローラ走行装置のクローラベルトにおける巻回範囲の外側の空間であるように構成してもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0056】
〔別実施形態の4〕
上記の実施形態では、左右の下部支軸40,40のそれぞれを、横外方へ抜き出す構造のものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではない。例えば、下部支軸40を支持する位置が、サブフレーム5や、後輪1Rなどの存在箇所から外れた位置にある場合には、左右のロアリンク30にわたる一本の長い下部支軸40を用いて、左右いずれかの方向に抜き出す構造を採用してもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0057】
〔別実施形態の5〕
上記の実施形態では、ロアリンク30の姿勢規制を行うものとしてスタビライザ32を備えた構造のものを例示したが、必ずしも、この構造に限定されるものではない。例えば、図示はしないが、スタビライザ32に代えて、チェックチェーンを採用したものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0058】
〔別実施形態の6〕
上記の実施形態では、支持部42として、トランスミッションケース14の左右両横側部に備えた側部ブラケット43と、トランスミッションケース14の下部から後方へ延出されたヒッチ取付部材44と、を用いたものであるが、必ずしも、この構造に限定されるものではない。例えば、図示はしないが、側部ブラケット43をトランスミッションケース14の横側部から離れた後車軸ケース14A部分に設けたり、左右方向での二箇所のみならず、三箇所以上の複数箇所に設けたり、してもよい。
また、側部ブラケット43とヒッチ取付部材44とを一連の部材で構成したり、あるいは、ヒッチ取付部材44とは異なる全く別の支持部材を設けるなど、適宜の構成を採用することができる。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0059】
〔別実施形態の7〕
上記の実施形態では、下部支軸40の抜け止めを行う構成として、下部支軸40の走行機体1の中央側の端部に形成された止め孔40aに対して挿入可能な止めボルトによって構成されたものを例示したが、必ずしもこの構造に限られるものではない。
例えば、下部支軸40を径方向外方から抱き込んだり、下部支軸40の抜き出し方向の出口部分にストッパーを設けるなど、適宜の構造を採用しても良い。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0060】
〔別実施形態の8〕
上記の実施形態では、インプルメント6として、バックホーが連結される場合を例示したが、必ずしもバックホーに限られるものではなく、例えば、スクレーパーなど、三点リンク機構には連結できない構造の作業機を連結するようにしてもよい。この場合に、三点リンク機構を取り外し易くしたものである。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0061】
〔別実施形態の9〕
上記の実施形態では、サブフレーム5を走行機体1に常時装着した状態で用いる構造のものを例示したが、サブフレーム5の全体、もしくは一部を脱着可能に構成して、必要に応じてサブフレーム5を脱着するようにしてもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係るトラクタは、支軸の挿抜を可能にして、リンク機構の脱着を簡便に行えるようにしたものであり、搭乗運転部にロプスを備えたものに限らず、運転キャビン、あるいはキャノピーを備えたものであってもよく、また、そのようなロプスや運転キャビン、キャノピー、等を備えていないものにも適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 走行機体
1R 後輪
3 リンク機構
4 リンク取付機構
5 サブフレーム
6 インプルメント
14 トランスミッションケース
30 リンク部材(ロアリンク)
32 スタビライザ
40 支軸
42 支持部
43 側部ブラケット
44 ヒッチ取付部材
46 固定具
47 ヒッチ
60 インプルメント本体
x1 軸心
s1 凹入部