(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】金(III) 錯体、金(III) 錯体のコンジュゲート、金(III) 錯体を含む医薬組成物、金(III) 錯体を生成する方法とその使用。
(51)【国際特許分類】
C07F 19/00 20060101AFI20240607BHJP
C07D 295/088 20060101ALI20240607BHJP
C07D 215/56 20060101ALI20240607BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240607BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240607BHJP
A61K 31/662 20060101ALI20240607BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20240607BHJP
C07F 1/12 20060101ALI20240607BHJP
C07F 9/28 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
C07F19/00 CSP
C07D295/088
C07D215/56
A61P31/00
A61P31/04
A61K31/662
A61K31/675
C07F1/12
C07F9/28
(21)【出願番号】P 2021510529
(86)(22)【出願日】2019-04-29
(86)【国際出願番号】 EP2019060879
(87)【国際公開番号】W WO2019211222
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-03-26
(32)【優先日】2018-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520428144
【氏名又は名称】ユニベルシダト デ アルメリア
(73)【特許権者】
【識別番号】520428155
【氏名又は名称】ファンダシオン プリヴァーダ インスチツート デ サルード グローバル バルセロナ
(74)【代理人】
【識別番号】100081053
【氏名又は名称】三俣 弘文
(72)【発明者】
【氏名】ソト ゴンザレズ,サラ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ラティア ロンカン,カルロス
(72)【発明者】
【氏名】セパス ロペス,ビリジニオ
(72)【発明者】
【氏名】ロペス クビロス,ユリ
(72)【発明者】
【氏名】ロペス オルティス,フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】イグレシアス バルデシロス,マリア ホセ
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス ソエンガス,ラクエル マリア
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】PARISH, R. et al.,Chemicaland Biological Studies of Dichloro(2-((dimethylamino)methyl)phenyl)gold(III),InorganicChemistry,1996年,Vol.35, No.6,pp.1659-1666 ,DOI:10.1021/ic950343b
【文献】SHAIK, N. et al.,Synthesisof Apoptosis-Inducing Iminophosphorane Organogold(III) Complexes and Study ofTheir Interactions with Biomolecular Targets ,Inorganic Chemistry,2009年,Vol.48, No.4,pp.1577-1587,DOI: 10.1021/ic801925k
【文献】FRIK, M. et al.,CyclometalatedIminophosphorane Gold(III) and Platinum(II) Complexes. A Highly PermeableCationic Platinum(II) Compound with Promising Anticancer Properties,Journal ofMedicinal Chemistry ,2015年,Vol.58, No.15,pp.5825-5841 ,DOI: 10.1021/acs.jmedchem.5b00427
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式(I)の金(III)錯体の薬学的に許容可能な塩において、
ここで、
R
1は、アリールとアミノアルキルから独立して選択され、
R
2は、アルキルとシクロアルキルから独立して選択され、
R
3は、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アルキル、アルキルオキシ、アルキルアミノ、ヒドロキシアルキル、トリアルキルシリル、アルキルチオから独立して選択され、
R
4は、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリールから独立して選択され、
前記薬学的に許容される塩は、塩化物、臭化物、マロン酸塩、ピルビン酸塩、ヘキサフルオロホスフェートからなる群から独立して選択される
ことを特徴とする前記化学式(I)を有する金(III)錯体の薬学的に許容可能な塩。
【請求項2】
R
1はフェニルであり、
R
2はアルキル又はシクロアルキルから独立して選択され、
R
3は水素であり、
R
4は脂肪族アミンである
ことを特徴とする請求項1記載の金(III)錯体の薬学的に許容可能な塩。
【請求項3】
前記脂肪族アミンは、NMe
2,NEt
2,N(CH
2Ph)
2,ピロリジル、ピペリジニル、及びアゼパニル結合又はピペラジニル又はモルホリニルを含む複素環式
からなる群から独立して選択される
ことを特徴とする請求項
2記載の金(III)錯体の薬学的に許容可能な塩。
【請求項4】
請求項
1-3のいずれかに記載の金(III)錯体の薬学的に許容可能な塩と、
薬学的に許容可能な医薬坦持体
を含むことを特徴とするコンジュゲート。
【請求項5】
請求項
1-3のいずれかに記載の金(III)錯体の薬学的に許容可能な塩と、
薬学的に許容可能な賦形剤
を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項6】
請求項
1-3のいずれかに記載の金(III)錯体の薬剤として使用。
【請求項7】
請求項1記載の金(III)錯体の薬学的に許容可能な塩を製造する方法において、
(A)下記の化学式(V)の化合物と化学式(VI)の化合物とを反応させるステップと、
(B)前記ステップ(A)で得られた錯体を、酸又はそれに対応する塩で処理することにより、薬学的に安定な塩又はソルバントを形成するステップと、
を含み、ここで、
X
1は、ハロゲン、水酸化物、又はアセトキシから独立して選択され、
X
2は、ハロゲン、水酸化物、又はアセトキシから独立して選択され、
R
1は、アリールとアミノアルキルから独立して選択され、
R
2は、アルキルとシクロアルキルから独立して選択され、
R
3は、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アルキル、アルキルオキシ、アルキルアミノ、ヒドロキシアルキル、トリアルキルシリル、アルキルチオから独立して選択され、
R
4は、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリールから独立して選択される
ことを特徴とする請求項1記載の金(III)錯体を製造する方法。
【請求項8】
R
1はフェニルであり、
R
2はアルキル又はシクロアルキルから独立して選択され、
R
3は水素であり、
R
4は脂肪族アミンである
ことを特徴とする請求項
7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に医薬化合物に関し、特に、化学式(I)を有する金(III) 錯体であって、抗生物質又は抗バイオフィルム剤として使用されるものに関する。
【背景技術】
【0002】
バクテリアや他の微生物の急速な出現は、抗生物質の有効性を危機にさらしている。抗生物質は、医学を変え、何百万もの人と動物の命を救ってきた。多剤耐性菌は、世界的な脅威であり、毎年70万人が死亡すると推定されている。2050年までに、世界中で毎年1千万人が細菌感染症で亡くなるであろう。その数は、癌による180万の死者数をこえる。最近、WHOは、多剤耐性菌のあるグループを特定した。その多剤耐性菌のグループとは、全ての既知の抗生物質の殺菌作用から逃れることができ、特に懸念される病原菌、感染菌、耐性菌の新しいパラダイムを表す。その多剤耐性菌の一例は、Enterococcus faecium, Staphylococcus aureus, Klebsiella pneumoniae, Acinetobacter baumannii, Pseudomonas aeruginosa (PAO) , Enterobacteriaceae speciesである。
【0003】
金(I)錯体は、歴史的に抗菌剤として研究されてきた。それに関連する例は、金(I)錯体オーラノフィン(auranofin)である。これは、当初抗リューマチ剤として承認され、潜在的に強い抗菌活性も持っている薬剤である。
【文献】Glisic, BD, et al., Dalton Trans. 2014, 43, 5950
【文献】Oña-Burgos, P, Fernández, I, Roces, L, Torre-Fernández, L, García-Granda, S, López-Ortiz, F,Organometallics 2009, 28, 1739-1747
【文献】Sánchez, EB, Iglesias, MJ, el Hajjouji, H, Roces, L, García-Granda, S, Villuendas, P, Urriolabeitia, EP, López-Ortiz, F, Organometallics 2017, 36, 1962-1973,
【文献】Ronconi, L et al., Adv. Anticancer Agents Med. Chem. 2013, 2, 130-172.
【文献】e.g., tetrachlorides, carboxylates, etc. Borhade, S, Int. Res. J. Pharm. 2012, 3, 189-193. Al-Khodir, F.A.I, Refat, M.S. J. Pharm. Innov. 2015, 10, 335-347. Glisic, BD., et al MedChemComm 2016, 7, 1356-1366
【文献】Glisic, BD., Djuran, MI, Dalton Trans. 2014, 43, 5950-5969. Pintus, A, et al. J. Inorg. Biochem. 2017, 170, 188-194. Mignani, SM, et al. Mol. Pharmaceutics 2017, 14, 4087-4097.
【文献】Savic, ND, et al. RSC Advances 2016, 6, 13193-13206
【文献】Radulovic, NS, et al. Polyhedron 2018, 141, 164-180
【文献】Shaik, N et al. Inorg. Chem. 2009, 48, 1577-1587. L. Vela et al. J. Inorg. Biochem. 2011, 105, 1306.
【文献】Parish, RV, Inorg. Chem. 1996, 35, 1659
【文献】Viente, J, Arcas, A, Marc, M, J. Organomet. Chem 1986, 309, 3689-378,
【文献】Hofer, M., Gomez-Bengoa, E, Nevado, C, Organometallics 2014, 33, 1328-1332
【文献】Winston, MS, Wolf, WJ, Toste, FD, J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 7777-7782
【文献】Price, GA, et al. Dalton Trans., 2011, 40, 11696-11697
【文献】Betteridge, PW, Carruthers, JR, Cooper, RI, Prout, K, Watkin, DJ, J. Appl. Cryst. 2003 36, 1487
【文献】Kilpin, K.J. et al. Dalton Trans. 2010, 39, 1855-1864
【文献】Flower, KR, et al. Dalton Transactions 2010, 39, 3509-3520
【文献】Pena-López, M, et al Org. Biomol. Chem. 2012, 10, 1686-1694
【文献】Espinet, P, Organometallics, 2000, 19, 290-295
【0004】
これに対し、金(III)錯体は、抗腫瘍剤の可能性があるとして集中的に研究されてきた。その理由は白金(II)錯体に類似するためである。近年まで、その抗菌活性に関する言及はあまり無かった。近年になって、抗生物質耐性のある「スーパーバグ」の深刻な脅威により実証されるようになった(非特許文献1)。+3酸化状態の安定化は、あらゆるタイプの生物活性化を観測するために最重要である。それ以外の場合は、金属中心(metal center)の点に関し、有機金属シクロメタル化金化合物(organometallic cyclometalated gold compounds)の利点は、その大きな安定性にある。
【0005】
このシクロオーレート化錯体(cycloaurated complexes)の有望な生物学的プロファイルを考慮に入れて、本発明者らは、金(III)錯体の新たなクラスの合理的設計の研究・調査を開始した。この金(III)錯体においては、金属中心は、C,Y-メタラサイクル(Y=S、O)に統合される。この概念を用いて、本発明者は、(O^O)-と(S^C)-のシクロオーレート化錯体の合成を報告した。これらの合成は、それぞれ、オルト置換ホスフィン酸(ortho-substituted phosphinic)(非特許文献2)又はチオホスフィンアミドフレームワーク(thiophosphinic amide frameworks)(非特許文献3)に基づき、対応するオルトクロロジメチルスタニル誘導体(ortho chlorodimethylstannyl derivatives)のスズ(IV)-金(III)交換金属化(tin(IV)-gold(III) trans-metalation)を介して行われていることを報告した。
【0006】
それに加えて、金(III)錯体の治療への応用は主に抗癌特性に焦点を当てている(非特許文献4)。抗生物質耐性の脅威の高まりにつれ、この化合物クラスの抗菌特性にますます注目が集まっている。
【0007】
金(III) 錯体で抗菌活性についてテストされたものは、Au(III)の 単純な塩(非特許文献5)かC^Nキレート化配列子(C^N chelating ligand,)を含むシクロメタレート(cyclometalates)通常は芳香属窒素含有複素環(aromatic nitrogen-containing heterocycles)のいずれかである。後者の一例は、2,2’-ピピリジン(2,2′-bipyridine),2,2’:6’,2”-ターピリジン(2,2′:6′,2″-terpyridine)、キノリン(quinoline,)、1,10-フェナントロリン(1,10-phenanthroline)等(非特許文献6)である。
【0008】
つい最近、抗バイオフィルム剤としての、NHet・AuCl3(NHet=ピラジン(pyrazine)、ピリミジン(pirimidine)、ピリダジン(piridazine)、キノキサリン(quinoxaline)、フェナジン(phenazine))(非特許文献7)と、C^N-安定化金(III) シクロメタレート(cyclometalates)(非特許文献8)の錯体の作用・反応が報告されている。
【0009】
ジチオカルバメート部分(dithiocarbamate moiety)を含む金(III) 錯体に関しては、ホスファゼン(phosphazenes)に由来する対応するシクロ金酸塩(cycloaurate)は、HeLaヒト子宮頸癌とJurkat-T急性リンパ芽球性白血病細胞に対するin vitroでの耐癌活性を示すと記載されている(非特許文献9)。
【0010】
それとは別に、ここに1つのレポートがある。同レポートでは、C^N-安定化金(III) シクロメタレート(ジオチルカルバネメート配位子(dithiocarbamate ligand)を坦持するキレート化配位子2-((ジメチルアミノ)メチル)フェニルを含む3つの例がある)を、抗生物質と抗真菌剤として調査している。この錯体は、対照抗生物質であるシプロフロキサシン(ciprofloxacin)とアンホテリシン(amphotericin)より活性度が低かった(非特許文献10)。化学式(I)の金(III)錯体の抗菌性と抗バイオフィルム治療特性に関する従来例は存在しない。同化学式(I)では、Au(III)は、C-C-P-S-Auメタラサイクル(C-C-P-S-Au metallacycle)の一部である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、様々な微生物に対し有効で低毒性の安定したシクロメタレートされた金(III)錯体(cyclometalated gold(III) complexes)を提供することである。
【0012】
1,1-ジチオ配位子(1,1-dithio ligand)を有する(S^C)-シクロメタレートされた金(III)錯体のグループは、化学式(I)で表されるが、プランクトン状態、バイオフィルム状態の多剤耐性微生物に対して、抗菌活性(即ち細菌のバイオフィルムの形成を回避する活性、又は既成のバイオフィルムを除去する活性)を示す。多剤耐性微生物の一例は、S. aureus, S. maltophilia, PAO, H. influenziae がある。従って、本発明により、これらの菌により引き起こされる感染症を治療する新規な治療ツールが提供される。
【0013】
更に、化学式(I)の化合物は、非常に高い活性状態(in vitro 試験で決定された)にあり、かつ生理学的条件下でも非常に安定している。それらは、in vivo でも同様に抗菌活性を維持することが期待される。更に、in vitro とin vivoでのアッセイでは、化学式(I)の化合物は、低毒性であることを示す。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、第1の態様によれば、化学式(I)を含む金(III)錯体に関する。
ここで、
R
1は、アリール(aryl)とアミン(amine)から独立して選択され、
R
2は、アルキル(alkyl)とシクロアルキル(cycloarkyl)から独立して選択され、
R
3は、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ(cyano)、アルキル(alkyl)、アルキルオキシ(alkyloxy)、アルキルアミノ(alkylamino)、アミノジアルキル(aminodialkyl)、ヒドロキシアルキル(hydroxyalkyl)、トリアルキルシリル(trialkylsilyl)、アリールジアルキルシリル(aryldialkylsilyl)、 アルキルチオ(alkylthio)、シクロアルキル(cycloalkyl)、アリール(aryl)、複素環(heterocycle),多環(polycycle)、アミノ酸(amino acid)、ペプチド(peptide)、炭水化物誘導体(carbohydrate derivative)から独立して選択され、
R
4は、アルキル、シクロアルキル、アルキルアルコキシ(alkylalkoxy)、アルキルアミノ(alkylamino)、ジアルキルアミノ(dialkylamino)、アルキルチオ(alkylthio)、トリアルキルホスヒノ(trialkylphosphino)、ジアルキルアリールホスフィノ(dialkylarylphosphino)、アルキルジアリールホスフィノ(alkyldiarylphosphino)、トリアリールホスフィノ(triarylphosphino)、アリール、複素環、多環、アミノ酸、ペプチド、炭水化物誘導体から独立して選択される。
【0015】
一実施例においては、本発明には、化学式(I)に類似したバイ(二)核錯体(binuclear complexes)が含まれる。この点に関し、ピペラジン環(piperazine ring)により結合された2つの化学式(I)構造を有する錯体が使用される。同様に、ホモとヘテロのバイ核の錯体(homo and heterobinuclear complexes)が使用できる。それらは、他の金属への配位位置を有するR4置換基を用いて製造される錯体を含む。
【0016】
一実施例において、使用可能なラジカルは以下のとおりである。
R1=フェニル,N(R2)2、R2=ジアルキル(dialkyl)(即ち、N(R2)2、=N(iPr)2、N(Et)2)ピペラジン(piperazine)、
R3=水素、
R4=脂肪族アミン(aliphatic amine)、その一例は、NMe2,NEt2,N(CH2Ph)2,ピロリジル(pyrrolidyl)結合、ピペリジニル(piperidinyl)結合、アゼパニル(aziperaepany)結合、又はピペラジニル(piperazinyl )又はモルホリニル(morpholinyl)を含む複素環式である。
R4は、二核錯体(dinuclear complexes)の配位子として、例えば、ピペラジン(piperazine)即ちホモ核錯体(homonuclear complex)である。アミンは、2番目の電子供与原子を含むよう変更できる。これの最も簡単な方法は、ピリジン(pyridine)やアゾ-ル(azoles)のような複素環系のアミンを使用することである。これにより、他の金属が配位される2番目の位置が残る。他の金属の一例は、AuCl-L(L=Ph3P、テトラヒドロチオフェン(tetrahydrothiophene))、AuCl3、銅塩である。
【0017】
本発明の他の態様によれば、本発明はコンジュゲート(conjugate)に関し、このコンジュゲートは、化学式(I)の金(III) 錯体と、少なくとも1つの坦持体(好ましくは医薬坦持体)を含む。
【0018】
本発明の他の態様によれば、本発明は医薬組成物に関する。この医薬組成物は、化学式(I)の金(III)錯体又は前記のコンジュゲートと、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0019】
一実施例においては、前記の金(III)錯体、前記のコンジュゲート、又は医薬生成物が、医薬品の製造の為に 例えば細菌感染症の治療薬として使用される。
【0020】
一実施例においては、前記の金(III)錯体、前記のコンジュゲート、又は医薬生成物が、多剤耐性細菌又は他の微生物により引き起こされる細菌感染症の治療薬又は予防薬として使用される。
【0021】
他の実施例においては、前記の金(III)錯体、前記のコンジュゲート、又は医薬生成物を用いて、バイオフィルムの形成又は発達を阻害し、成熟したバイオフィルムを排除し、バイオフィルム・バイオマスを減少させる。
【0022】
本発明の他の態様によれば、本発明は、請求項1記載の金(III) 錯体を製造する方法において、
(A) 化学式(V)
の化合物と化学式(VI)の化合物
とを反応させるステップと、その後、
(B) 有機酸又は無機酸又はそれらに対応する塩で処理することにより、得られた錯体の薬学的に安定な塩又はソルバントを形成するステップと、
を含む。
X
1は、ハロゲン、水酸化物、又はアセトキシ(acetoxy)から独立して選択され、
X
2は、ハロゲン、水酸化物、又はアセトキシから独立して選択され、
R
1は、アリールとアミンから独立して選択され、
R
2は、アルキルとシクロアルキルから独立して選択され、
R
3は、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アルキル、アルキルオキシ、アルキルアミノ、アミノジアルキル、ヒドロキシアルキル、トリアルキルシリル、アリールジアルキルシリル、 アルキルチオ、シクロアルキル、アリール、複素環、多環、アミノ酸、ペプチド、炭水化物誘導体から独立して選択され、
R
4は、アルキル、シクロアルキル、アルキルアルコキシ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキルチオ、トリアルキルホスヒノ、ジアルキルアリールホスフィノ、アルキルアリールホスフィノ、トリアリールホスフィノ、アリール、複素環、多環、アミノ酸、ペプチド、炭水化物誘導体から独立して選択される
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図5】錯体2gの分子構造を示し、部分的な原子標識スキームと50%の確率レベルで描かれた変位楕円体(displacement ellipsoids)を表す図。
【
図7】錯体2bの
1H-NMRスペクトルを表すグラフ。
【
図8】錯体2bの
13C-NMRスペクトルを表すグラフ。
【
図9】錯体2bの
31P-NMRスペクトルを表すグラフ。
【
図10】錯体2gの
1H-NMRスペクトルを表すグラフ。
【
図11】錯体2gの
13C-NMRスペクトルを表すグラフ。
【
図12】錯体2gの
31P-NMRスペクトルを表すグラフ。
【
図13】溶解直後にとられた、37℃で、0.25mLのCD
3CN/0.25mL中のリン酸緩衝液中の錯体2fの
31P-NMRスペクトルを表すグラフ。
【
図14】溶解3日後にとられた、37℃で、0.25mLCD3CN/0.25mL中のリン酸緩衝液中の錯体2fの
31P-NMRスペクトルを表すグラフ。
【
図15】0.25mLCD
3CNと0.25mLのD
2O中のISO培養ブロス(culture broth)中の錯体2fの
31P-NMRスペクトルを表すグラフ。
【
図16】0.25mLCD
3CNと0.25mLのH
2O中の1等量のグルタチオン(glutathione)中の錯体2fの
31P-NMRスペクトルを表すグラフ。
【
図17】0.25mLCD
3CNと0.25mLのH2O中の1等量のアスコルビン酸(ascorbic acid )中の錯体2fの
31P-NMRスペクトルを表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、第1実施例では、化学式(I)を有する金(III)錯体に関する。
ここで、
R
1は、アリールとアミンから独立して選択され、
R
2は、アルキルとシクロアルキルから独立して選択され、
R
3は、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アルキル、アルキルオキシ、アルキルアミノ、アミノジアルキル、ヒドロキシアルキル、トリアルキルシリル、アリールジアルキルシリル、 アルキルチオ、シクロアルキル、アリール、複素環、多環、アミノ酸、ペプチド、炭水化物誘導体から独立して選択され、
R
4は、アルキル、シクロアルキル、アルキルアルコキシ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキルチオ、トリアルキルホスヒノ、ジアルキルアリールホスフィノ、アルキルジアリールホスフィノ、トリアリールホスフィノ、アリール、複素環、多環、アミノ酸、ペプチド、炭水化物誘導体から独立して選択される。
【0025】
化学式(I)の化合物は、正電荷を含み、有機酸又は無機酸の塩を形成できる。そのため、化学式(I)の化合物の薬学的に許容される塩も本発明に含まれる。本明細書に記載されている化学式(I)の化合物への言及は、この化学式(I)の化合物の薬学的に許容される塩への言及を含む。本明細書に記載されている「薬学的に許容される塩」は、無制限にあらゆる塩を含む。ただし、患者への投与が許容されることが条件である。「薬学的に許容される塩」の一例は、塩化物、臭化物、マロン酸塩(malonate)、ピルビン酸塩(pyruvate)等を含む。ヘキサフルオロホスフェート(hexafluorophosphate)が好ましい。
【0026】
他の実施例において、本発明は化学式(I)の化合物に関する。その化合物の最小抑制濃度(MIC:Minimum Inhibitory Concentration )は、黄色ブドウ球菌(S. aureus)に対しては0.125-0.5 mg/L、エスマルトフィリア(S. maltophilia)に対して は2-4 mg/L,インフルエンザ菌(influenziae,)に対しては1-2 mg/L である。これらの値は、これらの微生物が引き起こす感染症の治療で使用される他の抗生物質のMICより低い。このことは黄色ブドウ球菌の実験例2に記載されている。実施例に示されているように、本発明の化合物は、メチシリン(methicillin)、クリンダマイシン(clindamycin)、エリスロマイシン(erythomycin)、シプロフロキシサン(ciprofloxacin)に耐性を有する一連の菌株(strains)に対し高い抗菌活性を示す。そのMICの値は、テストされた全ての化合物に対し0.5mg/L以下である。
【0027】
従って、本発明は、化学式(I)の化合物を提供し、又は薬剤の製造に際しその化合物を使用して薬学的に許容可能な塩を提供し、微生物感染症を治療する又は予防することができる。
【0028】
他の実施例においては、本発明は、化学式(I)の化合物を、多剤耐性微生物の感染に苦しむ人間又は動物の治療用の抗菌剤として使用することに関する。この治療は患者に化学式(I)の化合物を含有する医薬化合物の有効量を投与することを含む。実施例3に示すように、化学式(I)の化合物は、その活性時の濃度より遙かに高い5mg/kg(重量)を超えるドーズ量でも、マウスにおいて極低毒性(low-null toxicity)を示す。
【0029】
他の実施例においては、多剤耐性微生物に対する化学式(I)の化合物の高活性度故、これらの化合物は、他の抗菌剤-典型的には広域抗生物質(broad spectrum antibiotics)と組み合わせて、使用することができる。これにより治療の際の抗菌効果を高めることができる。化学式(I)の化合物は、治療で使用される任意の抗菌剤と組み合わせることができる。この抗菌剤の一例は、これに限定されないが、バンコマイシン(vancomycin)、ダプトマイシン(daptomycin)、ホスホマイシン(fosfomycin)、シプロフロキサシン(ciprofloxacin)、イミペネム(imipenem)がある。
【0030】
化学式(I)の化合物と追加の抗菌剤との組み合わせは、両物質を、医薬投与形態で所定ドーズ量の組み合わせで投与することにより、達成できる。或いは、両方の医薬を、組み合わせ治療の手順に従って、独立して投与することもできる。
【0031】
別法として、化学式(I)の化合物は、他の抗菌剤と組み合わせることもできる。これは、両方の化合物を共有結合して単一分子を形成することにより、行われる。例えば、化学式(I)の化合物は、
図18に示す化学式(II-IV)に従って、フルオロキノロン(fluoroquinolone)、カルバペネミック(carbapenemic)、又は
ペニシリン(penicillin)の誘導体の抗菌化合物に結合することができる。
【0032】
他の実施例においては、化学式(I)の化合物の抗菌活性に関与する生合成経路が研究されている。以下の作用/現象におけるそれらの可能な役割が、プロテオミクス(proteomics)、ゲノミクス(genomics)、顕微鏡を用いて研究されている。前記の作用/現象は、細胞内タンパクと酵素の相互作用、様々な細胞内プロセスの触媒作用、細菌DNAを変異させる能力、遺伝子とその結果生じるタンパク質の過剰発現又は抑制である。
【0033】
他の実施例においては、本発明は医薬組成物に関する。この医薬組成物は、化学式(I)の化合物と、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤又は坦持体を含む。
【0034】
本発明の他の実施例は、本発明の化合物の使用に関する。この使用により、バイオフィルムの形成又は発達を阻害し、存在するバイオフィルムを排除し、バイオフィルム・バイオマスを減少させる。
【0035】
本発明は、バイオフィルムの形成を阻止する方法も提案する。この方法は、形成されたバイオフィルムを、有効量の本発明の化合物に晒し、根絶することを含む。かくして実施例4に示すように、化学式(I)の化合物の最小バイオフィルム抑制濃度(MBIC)は、これらの感染症の治療に使用される抗生物質のそれよりも低い。これは黄色ブドウ球菌の場合と同様である。
【0036】
ある実施例においては、本発明の化合物は、バイオフィルム形成しやすい表面に含浸又は堆積される。
【0037】
この表面は医療機器の表面である。その一例は、手術器具、インプラント又はプロテーゼ、カテーテル(尿道用、静脈用)、ステント、ペースメーカー、透析装置、心臓弁と医療用固定器具(プレート、ねじ、、釘等)である。
【0038】
本発明の他の実施例は、化学式(I)の化合物を生成する方法に関する。本発明の方法は、ステップ(A)(B)を有する。
(A) 化学式(V)の化合物
と化学式(VI)の化合物
とを反応させるステップ、
(B) 得られた錯体の薬学的に安定な塩又は溶融化合物(solvate)を、有機酸又は無機酸又はそれらに対応する塩で処理することにより、形成するステップ。
ここで、
X
1は、ハロゲン(halogen)、水酸化物(hydroxide)、又はアセトキシ(acetoxy)から独立して選択され、
X
2は、ハロゲン、水酸化物、又はアセトキシから独立して選択され、
R
1は、アリールとアミンから独立して選択され、
R
2は、アルキルとシクロアルキルから独立して選択され、
R
3は、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アルキル、アルキルオキシ(alkyloxy)、アルキルアミノ(alkylamino)、アミノジアルキル(aminodialkyl)、ヒドロキシアルキル(hydroxyalkyl)、トリアルキルシリル(trialkylsilyl)、アリールジアルキルシリル(aryldialkylsilyl)、 アルキルチオ(alkylthio)、シクロアルキル(cycloalkyl)、アリール、複素環、多環、アミノ酸、ペプチド、炭水化物誘導体から独立して選択され、
R
4は、アルキル、シクロアルキル、アルキルアルコキシ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキルチオ、トリアルキルホスヒノ、ジアルキルアリールホスフィノ、アルキルジアリールホスフィノ、トリアリールホスフィノ、アリール、複素環、多環、アミノ酸、ペプチド、炭水化物誘導体から独立して選択される。
【0039】
【0040】
本発明は、化合物(V)の調整/製造方法に関する。この方法は、(A) チオホスフィン(thiophosphinic)又はチオホスホン(thiophosphonic)アミド・フレームワークのオルトメタル化(ortho-metallation)ステップと、それに続く、(B)金(I) 塩との金属交換反応(transmetallation with a gold(I) salt)と金(III) への酸化ステップからなる。これをスキームIIに示す。
ここで、
Lは、三級ホスフィン(tertiary phosphine)(非特許文献17)、三次アルシン(tertiary arsine)(非特許文献18)、チオエーテル(thioether)(非特許文献19)から独立して選択される。
【0041】
注意すべき点として、化合物Vの誘導体(ここではR1=Net2,N(R2)2=Net2、R3=H, X1=X2=Cl)は、非特許文献16の方法でHg(II)/Au((III) 交換を介して既に合成されている。即ちこのHg(II)/Au((III) 交換は、本明細書の記載した方法(Sn(IV)/Au((III)交換)とは異なる。
【0042】
酸化剤は、X2(非特許文献11),PhIX2(非特許文献12),又はCF3I(非特許文献13)から選択される。
【0043】
別法として、化合物(V)は、ホウ素/Au(III)メタセシス反応(metathetical reaction)により調整される。これは、ホスフィノチオイックアミドVII(phosphinothioic amide VII)の対応するオルトホウ素化誘導体(ortho borinated derivative)を用いて行われる(非特許文献14)。
【0044】
本発明の化合物と中間体は、本明細書に記載した方法又はそのわずかな変形方法により、又は代替方法で調整・準備できる。
【0045】
本発明の更なる態様は、生理学的条件下かつ従来の還元剤とヒト血清アルブミンの存在下での化学式(I)の化合物の安定性に関する。
【0046】
実施例
本発明の実施例を、金(III) 錯体の合成と評価の為のプロトコルを含めて、記載する。
【0047】
金(III) 錯体の合成
全ての反応は、不活性雰囲気中で予め乾燥させたシュレンク(Schlenks)内で実施した。CH3CNは、P2O5の存在下で蒸発され脱気して使用した。市販の試薬は納入されたまま使用した。
【0048】
錯体2の合成:CH
3CN (6 mL)中のAu(III) 錯体 1 (0.20 mmol)の溶液に、対応するジチオカルバメート塩(dithiocarbamate salt) (0.20 mmol) を加えた。反応混合液を室温で12時間撹拌した。飽和ヘキサフルオロリン酸カリウム水溶液(aqueous saturated potassium hexafluorophosphate)を添加した後、得られた固体を濾過し、残留物を水とジエチルエーテル(diethyl ether)で洗浄し、錯体2が明るい黄色の固体として生成された。選択された金(III) 錯体の最も関連する解析データを表1(
図19.20)に示す。
【0049】
NMR実験
NMRスペクトルが、Bruker Avance III HD 300 (1H 300.13 MHz; 13C 75.47 MHz; 31P 121.49 MHz) とBruker Avance III HD 500 (1H 500.13 MHz; 13C125.76 MHz; 31P202.46 MHz)で得られた。化学シフトは、内部基準として1Hと13Cに対してはテトラメチルシラン(TMS)を用いて、外部基準として31Pに対しては85%H3PO4を用いて、ppmで与えられる。1H{31P}と31PのNMRスペクトルは、溶媒としてCDCl3又はCD3CNの全ての反応原物(reaction crudes)から得られた。以下の略号を使用して複数の信号を示す。s:一重項(singlet)、d:二重項(doublet)、t:三重項(triplet)、q:四重項(quartet)、sep:セプレット(septet)。全てのNMRスペクトルは、合成化合物の構造を支持している。
【0050】
質量分析
高解像度質量スペクトル(HRMS)が、Agilent Technologies社製のLC/MSD-TOF とHP 1100 MSD分光計に、電子スプレイ・イオン化技術を用いて、記録された。
【0051】
オウラサイクリック錯体(auracyclic complexes)2は、電子スプレイ・イオン化質量分析(ESI-MS)で特徴づけられ、金カチオンによる強いピークを示した。計算上の同位体クラスターは、実験値と良く一致していた。これを表1に示す。表1の前半部分であるFig.1と2は
図19に記載している。表1の後半部分であるFig.3と4は以下である。
【0052】
代表例として、化合物2b、2gのNMRスペクトルのコピーを
図7-12に示す。即ち、化合物2bについては、
1H-NMRスペクトル(
図7)、
13C-NMRスペクトル(
図8)、
31P-NMRスペクトル(
図9)を示す。化合物2bについては、
1H-NMRスペクトル(
図10)、
13C-NMRスペクトル(
図11)、
31P-NMRスペクトル(
図12)を示す。
【0053】
X線回折
単一結晶のX線回折のデータを、CuKα放射線(λ=1.54178A)を用い、100Kで、Bruker社製のD8Ventureの回析計で収集した。Aはオングストロームである。データ収集と セルの改良は、Bruker社のインスツメント・サービスv4.2.2で行われた。同等の反射を用いた経験的なマルチスキャン吸収補正は、SADABSプログラムを用いて行われた。構造回折とF^2をベースにした完全行列最小二乗法による改良は、CRYSTALS(非特許文献15)により行われた。
【0054】
水素を除く全ての原子は異方的に精製された。水素原子は、独立した精製と制約された精製の組み合わせにより処理された。化合物2gの結晶データと精製の詳細の概要は、表2(
図21)に示す。
図5は、プログラムPLATONを用いて描かれた。
【0055】
選択された結合距離と結合角を表3(
図22)に示す。
【0056】
金(III) 錯体2の安定性の検証
CD
2CN (0.25 mL)中の化合物2fの溶液を、D
2O中の0.25mLの生理食塩水リン酸塩の緩衝液(saline phosphate buffer)(pH 7.4)と混合した。この混合物を、3日間に渡って、37℃で
1Hと
31PのNMR分光計を介してモニターした。
図13,14に示すように、錯体の
31PNMR信号は、3日間に渡って変化しなかった。この観察は、生理的条件下での金(III)錯体2の安定性の証拠を示す。
【0057】
錯体2も、生物活性アッセイで使用される条件下で安定である。この証拠は、CD
2CN (0.25 mL)と0.25mLのISOセンシテスト培養液の中の化合物2fの溶液の
31PNMRスペクトルで示されている。両液ともD
2O中で用意された(
図15)。
【0058】
これらの金(III) 化合物2の安定性と溶液挙動をより完全に把握するために、スペクトル変化も、従来の還元剤即ちグルタチオン(glutathione:GSH)とアスコロビン酸(ascorbic acid:AsAc)を添加して、調べた。かくして、CD
3CN (0.25 mL)中の化合物2fの溶液に、0.25mLの水中のGSH又はAsAcのいずれかを含む溶液と混合した。
31PNMRスペクトルは、金錯体はその化学的完全性を維持していることを、明白に示している。その証拠は
図16,17に示すNMRスペクトルである。
【0059】
実験例2:抗菌作用を表4(
図22)に示す。
MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant S. aureus;)、Cip: シプロフロキサシン(ciprofloxacin),Cli: クリダマシン(clindamycin)、Eri: エリスロマイシン(erithromycin)、Pen: ペニシリン(penicillin)、LVX: レボフロカサシン(levofloxacin)、Gen: ゲンタマイシン(gentamicin)
【0060】
この実施例は、化学式(I)の化合物により示された抗菌活性は、シプロフロキサシン(Cip)とレボプロファイル(Lvx)より高いことを示した。両方ともMRSAにより引き起こされる感染症の治療に用いられる抗菌剤である。この実施例の化合物は、これらの抗菌剤よりも9倍低い濃度まで活性である。化学式(I)の化合物のMICが0.25mg/Lであるのに対し、シプロフロキサシン(Cip)のMICは128mg/Lである。
【0061】
実験例3:in vivo 毒性アッセイ
治療:化合物2(即ち化学式(I))の2-10 mg/kgの一回の静脈投与(100μL)とビークル対照群DMSO
発育/展開:動物を、接種後、2週間にわたりモニタした。毒性の兆候 例えば、体重減少、剛毛のコート(bristly coat)、動きの減少、流涙症(ocular epiphora)が、確認された。動物は、実験の終了まで、毎日体重を測定した。マウスの初期体重の80%の減少を最終基準とした。
結論:体重の有意差は、対照群と比較して、分子の2mg/kgの投与量では観測されなかった。
図6を参照のこと。
【0062】
実施例4,抗バイオフィルム活性を表5(
図22)に示す。
MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant S. aureus;)、Cip: シプロフロキサシン(ciprofloxacin),Cli: クリダマシン(clindamycin)、Eri: エリスロマイシン(erithromycin)、Pen: ペニシリン(penicillin)、LVX: レボフロカサシン(levofloxacin)、Gen: ゲンタマイシン(gentamicin)
【0063】
この実施例では、化学式(I)の化合物により示される高い抗バイオフィルム活性を、シプロフロキサシン(Cip),レボプロファイル(Lvx)と比較して、明らかにした。この化合物は、これらの抗菌剤よりも8倍低い濃度まで、活性である。化学式(I)の化合物のMBICが1mg/Lであるのに対し、シプロフロキサシン(Cip)のMICは256mg/Lである。
【0064】
上記の実施例とその結果に加えて、ここに提案した金(III) 錯体は、コリスチン(colistine)との相乗効果も示す。グラム陰性菌(Gram-negative)における金(III) 錯体とコリスチンの組み合わせのMICは、各抗生物質で別々に得られたそれよりも、遙かに低い。かくして、A.バウマニイ(A. baumannii)に対する金(III) 錯体のMICは4mg/Lであり、コリスチンのMICは64mg/Lである。しかし、それらを組み合わせた場合は、各抗生物質のMICは、それぞれ0.25mg/Lと、1mg/Lに減少する。
【0065】
また、MRSAの感受性菌を、様々の濃度の金(III) 錯体に30日間に渡って曝した。毎日、菌の増殖を示すチューブを、寒天のプレートに広げ、コロニーをテストして、金(III) 錯体に対する耐性を得た。ダプトマイシン(Daptomycin)が、耐性獲得の対照として使用された。実験は複製によって行われた。30日後、MICの増加は見られなかった。それ故、金(III) 錯体は、耐性を生成しない。
【0066】
in vitroの毒性アッセイが行われた。ジュルカット(Jurkat)E6.1細胞を、様々な濃度の金(III) 錯体に曝した。IC50(即ち細胞の50%を死滅させる濃度)が計算された。金(III) 錯体は、3.77mg/LのIC50を示した。MRSAのMICは、0.06-0.5mg/Lであることを考慮にいれると、この毒性値は非毒性の範囲に入る。
【0067】
金(III) 錯体が全ての菌を殺す時間も計算された。他の抗生物質を対照として使用した。この分子は、全ての菌を2xMICで4~8時間で殺した。
【0068】
細菌感染を治療する金(III) 錯体の有効性もテストされた。黄色ブドウ球菌による敗血症の感染モデルが確立された。臨床株S54F9が感染に用いられた。マウス1匹当たり6x106cfu(6x106 cfu/mice)が接種された(又は感染した、以下同じ)。5匹のマウスからなる群が使用された。(i)感染したが治療していない対照マウス、(ii)5mg/kgを1回の接種で治療したマウス、(III)24時間毎に5mg/kgの複数回の接種で治療したマウスである。対照群のマウス(i)は接種後48時間後に死亡した。1回の接種のマウス(ii)は投与後5日後に死亡した。複数回の投与のマウス(III)は投与後4日後に死亡した。
【0069】
明細書中の元素の特性表示において、元素の質量数(即ち元素記号の前方かつ上部に半角で記載されている数字)は、元素記号の前に全角で表示されている場合もある。例えば31Pは31Pと同じである。これ以外の記号R,Xに付いても同様である。即ち、例えばR1はR1、X1はX1である。
【0070】
以上の説明は、本発明の一実施例に関するもので、この技術分野の当業者であれば、本発明の種々の変形例を考え得るが、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。特許請求の範囲の構成要素の後に記載した括弧内の番号は、図面の部品番号に対応し、発明の容易なる理解の為に付したものであり、発明を限定的に解釈するために用いてはならない。また、同一番号でも明細書と特許請求の範囲の部品名は必ずしも同一ではない。これは上記した理由による。用語「又は」に関して、例えば「A又はB」は、「Aのみ」、「Bのみ」ならず、「AとBの両方」を選択することも含む。特に記載のない限り、装置又は手段の数は、単数か複数かを問わない。