(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】大型スポット網膜レーザ治療のための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
A61F 9/008 20060101AFI20240607BHJP
A61B 18/20 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
A61F9/008 120B
A61F9/008 120D
A61B18/20
(21)【出願番号】P 2021510880
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 US2019049107
(87)【国際公開番号】W WO2020047436
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-08-30
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514144674
【氏名又は名称】イリデックス・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ハワード
(72)【発明者】
【氏名】マルセリーノ,ジョージ
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0317570(US,A1)
【文献】特表2014-532514(JP,A)
【文献】特表2015-513947(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0008460(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0015553(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/008
A61B 18/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の眼に治療処置を提供するためのシステムであって、
前記システムは:
治療ビーム経路に沿って治療ビームを伝送するよう構成された治療ビーム源であって、前記治療ビームは、赤外波長と、1W~100Wのパワーとを有する、治療ビーム源;及び
前記治療ビーム源に結合されたプロセッサ
を備え、
前記プロセッサは:
前記治療ビームを前記患者の眼へと配向し;
前記治療ビームからの一連のパルスを網膜組織の第1の治療スポットに送達することによって、前記網膜組織を治療する
よう構成され、
前記第1の治療スポットは、直径1~6mmであり、
各前記パルスの前記持続時間は、視認可能な組織損傷を引き起こす網膜組織の光凝固の誘発を回避するために十分に短く;
前記第1の治療スポットへと配向される前記一連のパルスは、前記第1の治療スポットの治療的治癒の光活性化を誘発し、
照準ビームを照準ビーム経路に沿って伝送するよう構成された照準ビーム源を更に備え、
前記照準ビームは可視波長を有し、前記照準ビーム経路は前記治療ビーム経路に対して非同軸に延在し、前記プロセッサは前記照準ビーム源に結合され、
前記プロセッサは:
前記照準ビームを前記患者の眼の前記網膜組織の前記第1の治療スポットへと配向して、前記照準ビームによって、前記第1の治療スポットを取り囲む治療境界を、前記第1の治療スポットが前記治療境界内に配置されるように画定する
よう構成され、
前記患者と前記照準ビーム源との間に配置された凸レンズを更に備え、前記凸レンズは、前記照準ビームを、前記第1の治療スポットにおいて前記治療ビームを取り囲む前記網膜組織上の同心円上へと集束させるよう構成され、
前記治療ビーム源は、前記凸レンズと前記照準ビーム源との間に配置される、システム。
【請求項2】
前記治療ビーム源は、垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)である、請求項
1に記載のシステム。
【請求項3】
前記治療ビーム源は、前記患者を治療中に仰臥位とすることができるよう、前記治療ビームを前記患者の眼に向かって概ね下向きの方向に伝送するために、前記患者の上方に配置されるよう構成される、請求項1
または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1の治療スポットは、前記網膜組織の黄斑領域を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記治療ビームは、前記黄斑領域の80~100%へと配向されるよう構成される、請求項
4に記載のシステム。
【請求項6】
前記治療ビームは、前記第1の治療スポットにおいて前記網膜組織を50~55℃に加熱する、請求項1~
5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記照準ビーム源は、VCSELを含む、請求項
1~6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記治療境界は、リング状断面及び円形断面のうちの少なくとも一方を含む、請求項
1~7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記照準ビームは、1mW未満のパワーを有する、請求項
1~
8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
前記照準ビーム源と前記治療ビーム源との間に配置された凹レンズを更に備え、前記凹レンズは、前記照準ビームが前記治療ビーム源によって部分的にしか遮断されないように、前記照準ビームを前記治療ビーム源の周りに発散させるよう構成される、請求項
1~
9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記照準ビームは、前記患者の眼の網膜色素上皮上へと配向される、請求項
1~
10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
患者の眼に対して治療処置を提供するためのシステムであって、
前記システムは:
照準ビームを照準ビーム経路に沿って伝送するよう構成された、照準ビーム源;
治療ビームを、前記照準ビーム経路に対して非同軸に延在する治療ビーム経路に沿って伝送するよう構成された、治療ビーム源;
前記患者と前記治療ビーム源との間に配置された凸レンズ;
前記治療ビーム源と前記照準ビーム源との間に配置された凹レンズ;並びに
前記照準ビーム源及び前記治療ビーム源に結合されたプロセッサ
を含み、
前記プロセッサは:
前記照準ビームを前記患者の眼の網膜組織上へと集束させることによって前記網膜組織上に視認可能な治療境界を画定するよう構成された凸レンズを通して、前記照準ビームを配向する前に、前記照準ビームが前記治療ビーム源によって部分的にしか遮断されないように前記照準ビームを前記治療ビーム源の周りに発散させるよう構成された凹レンズを通して、前記照準ビームを配向し;
前記治療ビームを、前記患者の眼の網膜組織の、前記照準ビームによって形成された前記治療境界内に配置される第1の治療スポットに、配向する
よう構成される、システム。
【請求項13】
各前記パルスの持続時間は、パルスとパルスとの間に組織を冷却できる程度に十分に短く、これにより、前記組織における温度の上昇を制限し、眼底検査、蛍光眼底造影、及び自発蛍光撮像のうちの少なくとも1つによって視認可能な組織損傷をもたらす前記網膜組織の光凝固の誘発を回避し、
前記第1の治療スポットへと配向される前記一連のパルスは、網膜色素上皮細胞の細胞内・致死量未満の損傷を誘発し、網膜機能を改善する、請求項1~
12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記治療ビームは、前記患者の眼の前記網膜組織へと配向されるよう構成され、
前記一連のパルスは、前記網膜組織に対する損傷を最小限に抑えるために、細胞内・非致死的損傷を発生させる強度未満の強度で送達される、請求項
13に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
関連出願データの相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)の下で、2018年8月31日出願の米国仮特許出願第62/725,571号の優先権を主張するものであり、上記仮特許出願の全開示は、その全体が参照によりあらゆる目的のために本出願に援用される。
【背景技術】
【0002】
治療レーザは、眼の様々な状態の治療によく使用される。例えばこのようなレーザで治療できる特定のタイプの状態は、糖尿病性網膜症である。糖尿病性網膜症は、糖尿病の合併症による網膜への損傷である。糖尿病性網膜症は、治療せずに放置すると、最終的に失明につながる恐れがある。糖尿病性網膜症は典型的には、網膜の微小血管の変化に起因する。例えば、糖尿病によって誘発される影響は、眼の組織に損傷を与える可能性があり、これは血液網膜関門の形成を変化させて、網膜血管の透過性を上昇させる可能性がある。このような状態の治療では、1つ以上の光線を眼内及び/又は網膜組織上へと配向して組織の光凝固を引き起こし、眼の血管を微細に焼灼する及び/又は血管成長を防止することによって、様々な治療的利益を誘発できる。レーザ光凝固は一般に、網膜症の早期に用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、レーザ光凝固治療の提供においては、網膜中心窩、黄斑等といった眼の繊細な組織の損傷を回避することが重要である。特定の例では、このようなエリアに対する損傷の回避を保証しながら、これらのエリアのうちの1つ以上に近接した、又はこれらのエリアのうちの1つ以上にある、組織を治療することが望まれる場合がある。従来のレーザ光凝固技法は、このような繊細な組織に対する損傷の回避又は大幅な低減を保証しながら、このような組織に近接した又はこのような組織を有するエリアを治療するための、最適な解決策を提供できない。更に、黄斑領域等の比較的大きなエリアを、スキャナ等を用いた従来の技法で治療する、又は大きなエリアの中の複数の小さなスポットを治療すると、該エリアの治療に最適な、十分な、又は均一な加熱を提供できない場合があり、視力の更なる喪失を引き起こす可能性がある。従って、当該技術分野において、改善されたレーザ治療方法及びシステムに対する需要が存在し、上記方法及びシステムは、特に糖尿病性網膜症、中心性漿液性脈絡網膜症、並びに網膜静脈分枝閉塞症及び網膜中心静脈閉塞症といった疾患に関する、黄斑領域内の網膜色素上皮を含む網膜組織の、閾値下レーザ光活性化、又は低エネルギの・細胞内の・致死量未満の・眼底検査で視認できない治療を含む。これらの疾患の一般的な性質は黄斑の膨潤であり、これは最高矯正視力の低下を引き起こす。特に、黄斑領域を含む網膜の大きなエリア又はスポットを治療するための、改善された大型スポットレーザ治療システム及び方法に対する需要が存在し続けている。更に、このような大型スポットを、高出力の大型ビームレーザで治療することによって、上記大型スポットを、スキャナを用いずに均一に治療できるようにする、又は上記大型スポット内の複数の小さなスポットを治療できるようにすることが望ましい場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書に記載の発明の実施形態は、患者の眼の網膜組織及び/又は他のエリア、特に黄斑を含む大きなエリアを治療するための、システム及び方法を提供する。このような手順を用いて、糖尿病性黄斑浮腫、及び/又は眼の他の状態を治療できる。一態様によると、患者の眼に治療処置を提供するためのシステムは、治療ビーム経路に沿って治療ビームを伝送するよう構成された治療ビーム源を含み、上記治療ビームは、赤外波長と、1mW~10W又は1W~100Wのパワーとを有する。上記システムは更に、上記治療ビーム源に結合されたプロセッサを含み、上記プロセッサは、上記治療ビームを上記患者の眼へと配向し、上記治療ビームからの一連のパルスを上記網膜組織の第1の治療スポットに送達することによって、上記網膜組織を治療するよう構成される。上記第1の治療スポットは、直径1~6mmである。各上記パルスの持続時間は、パルスとパルスとの間に組織を冷却できる程度に十分に短くてよい。これにより、上記組織における温度の上昇を制限し、網膜の光凝固の誘発を回避する。光凝固と対照的に、これらの影響は、眼底検査、光干渉断層撮影、蛍光眼底造影、又は自発蛍光撮像で視認可能であり得る。上記治療スポットへと配向される上記一連のパルスは、網膜色素上皮細胞の細胞内・致死量未満の損傷を誘発でき、これは、細胞内治癒機序、例えばヒートショックプロテイン、サイトカイン、及び成長因子の上方制御を活性化する。これらの機序は、網膜色素上皮機能の回復及び改善、黄斑膨潤の低減、並びに最高矯正視力の改善をもたらす。いくつかの実施形態では、各上記パルスの上記持続時間は、視認可能な組織損傷を引き起こす網膜組織の光凝固の誘発を回避するために十分に短く、また上記治療スポットへと配向される上記一連のパルスは、上記治療スポットの治療的治癒の光活性化を誘発する。
【0005】
いくつかの実施形態では、上記治療ビームは、上記患者の眼の上記網膜組織上へと配向されて、走査を行わずに略均一に上記組織を加熱するよう構成される。上記治療ビーム源は、垂直共振器型面発光レーザであってよい。上記治療ビーム源は、上記患者の上方に配置されるよう構成でき、これにより、上記患者を治療中に仰臥位とすることができるよう、上記治療ビームを、角膜及び瞳孔を通して患者の網膜に向かって概ね下向きの方向に伝送する。更に上記治療ビームは、上記黄斑領域の80~100%へと配向されるよう構成できる。いくつかの実施形態では、上記治療ビームは、上記第1の治療スポットにおいて上記網膜組織を50~55℃の最高温度まで加熱する。いくつかの実施形態では、上記治療ビーム源はVCSELアレイを含んでよく、上記アレイは、個別に給電されるレーザ送達素子(例えばレーザダイオード)のセットを備える。これらの実施形態では、上記一連のパルスを上記治療スポットへと送達することは、上記レーザ送達素子によって、複数のレーザビームを上記治療スポット内の複数のサブスポットへと送達することを含んでよく、ここで上記レーザ送達素子のレーザ出力は、上記治療スポットの略均一な組織加熱を保証するために個別に調整される。
【0006】
特定の実施形態では、上記システムは更に、照準ビームを照準ビーム経路に沿って伝送するよう構成された照準ビーム源を含み、上記照準ビームは可視波長を有し、上記照準ビーム経路は上記治療ビーム経路に対して非同軸に延在し、上記プロセッサは上記照準ビーム源に結合される。上記プロセッサは、上記照準ビームを上記患者の網膜の上記網膜組織の上記第1の治療スポットへと配向して、上記照準ビームによって、上記第1の治療スポットを取り囲む治療境界を、上記第1の治療スポットが上記治療境界内に配置されるように画定するよう構成される。上記照準ビーム源は、垂直共振器型面発光レーザを含んでよい。上記治療境界は、リング状断面及び円形断面のうちの少なくとも一方を含んでよい。上記照準ビームは、1mW未満のパワーを有してよい。特定の実施形態では、上記患者と上記照準ビーム源との間に凸レンズが配置され、上記凸レンズは、上記照準ビームを、上記第1の治療スポットにおいて上記治療ビームを取り囲む上記網膜組織上の同心円上へと集束させるよう構成される。上記治療ビーム源は、上記凸レンズと上記照準ビーム源との間に配置してよい。上記照準ビーム源と上記治療ビーム源との間に凹レンズを配置してよく、上記凹レンズは、上記照準ビームが上記治療ビーム源によって部分的にしか遮断されないように、上記照準ビームを上記治療ビーム源の周りに発散させるよう構成される。
【0007】
別の態様によると、患者の網膜に治療処置を提供するための方法が提供される。上記方法は、レーザビームによって、上記患者の眼の網膜組織に治療処置を送達するステップを含む。送達される上記治療処置は、上記網膜組織に対する損傷を最小限に抑えるために、凝固性損傷をもたらす強度未満の強度の、上記網膜組織上の治療スポットを含む。上記治療ビームは、赤外波長で、100mW~10Wのパワーで、治療ビーム経路に沿って送達され、また上記治療スポットは直径が1~6mmである。
【0008】
従来の光凝固は、タンパク質を変性又はアンフォールドして機能を喪失させることによって致命的な損傷をもたらし、網膜に視認可能な熱傷をもたらす。いくつかの実施形態では、上記方法は更に、上記治療ビームからの一連のパルスを上記網膜組織の上記治療スポット上へと送達して、上記網膜組織に治療処置を施すステップを含み、ここで各上記パルスの持続時間は、上記網膜組織の光凝固を回避するよう、十分に短い。上記一連のパルスは治療エリアへと配向され、ここで各上記パルスの上記持続時間は、パルスとパルスとの間に組織を冷却できる程度に十分に短くてよい。これにより、上記組織における温度の上昇を制限し、網膜の光凝固の誘発を回避する。光凝固と対照的に、これらの効果は、眼底検査、眼底検査、光干渉断層撮影、蛍光眼底造影、又は自発蛍光撮像で視認可能である。上記治療スポットへと配向される上記一連のパルスは、網膜色素上皮細胞の細胞内・致死量未満の損傷を誘発し、これは、細胞内治癒機序、例えばヒートショックプロテイン、サイトカイン、及び成長因子の上方制御を活性化する。これらの機序は、網膜色素上皮機能、黄斑膨潤の低減、及び最高矯正視力を回復及び改善する。
【0009】
いくつかの実施形態では、上記治療処置は、上記網膜組織上の単一の治療スポットのみに送達される。いくつかの実施形態では、上記方法は更に、上記治療ビームの走査を行わずに、上記組織を上記治療スポットにおいて略均一に加熱するステップを含む。いくつかの実施形態では、上記治療ビーム源は垂直共振器型面発光レーザである。
【0010】
いくつかの実施形態では、上記方法は更に、上記患者を治療中に仰臥位とすることができるよう、上記治療処置を、概ね下向きの治療ビーム経路を介して上記患者の眼に向かって送達するステップを含む。いくつかの実施形態では、上記第1の治療スポットは、上記網膜組織の黄斑領域を含む。いくつかの実施形態では、上記方法は更に、上記治療処置を上記黄斑領域の80~100%へと送達するステップを含む。特定の実施形態では、上記方法は更に、上記第1の治療スポットにおいて上記網膜組織を50~55℃の最高温度まで加熱するステップを含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、上記方法は更に:照準ビーム源からの照準ビームを照準ビーム経路に沿って送達するステップであって、上記照準ビームは可視波長を有し、上記照準ビーム経路は上記治療ビーム経路に対して非同軸に延在する、ステップ;上記照準ビームを上記患者の眼の上記網膜組織の上記第1の治療スポットへと配向するステップ;及び上記照準ビームによって、上記第1の治療スポットを取り囲む治療境界を、上記第1の治療スポットが上記治療境界内に配置されるように画定するステップを含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、上記照準ビーム源は垂直共振器型面発光レーザである。いくつかの実施形態では、上記治療境界は、リング状断面及び円形断面のうちの少なくとも一方を含む。特定の実施形態では、上記照準ビームは、1mW未満のパワーを有する。
【0013】
いくつかの実施形態では、上記照準ビームを上記網膜組織へと配向する上記ステップは、上記照準ビームを、上記患者と上記照準ビーム源との間に配置された凸レンズを通して配向することにより、上記照準ビームを、上記第1の治療スポットを取り囲む上記網膜組織上の同心円上へと集束させるステップを含む。上記治療ビーム源は、上記凸レンズと上記照準ビーム源との間に配置してよい。上記照準ビームを上記網膜組織へと配向する上記ステップは、上記照準ビームを、上記照準ビーム源と上記治療ビーム源との間に配置された凹レンズを通して配向することにより、上記照準ビームが上記治療ビーム源によって部分的にしか遮断されないように、上記照準ビームを上記治療ビーム源の周りに発散させるステップを、上記照準ビームを上記凸レンズを通して配向する上記ステップの前に含む。
【0014】
本発明の別の態様によると、患者の眼に対して治療処置を提供するためのシステムが提供され、上記システムは:照準ビームを照準ビーム経路に沿って伝送するよう構成された、照準ビーム源と;治療ビームを、上記照準ビーム経路に対して非同軸に延在する治療ビーム経路に沿って伝送するよう構成された、治療ビーム源とを含む。上記システムは:上記患者と上記治療ビーム源との間に配置された凸レンズ;上記治療ビーム源と上記照準ビーム源との間に配置された凹レンズ;並びに上記照準ビーム源及び上記治療ビーム源に結合されたプロセッサを含む。上記プロセッサは、上記照準ビームを上記患者の眼の網膜組織上へと集束させることによって上記網膜組織上に視認可能な治療境界を画定するよう構成された凸レンズを通して、上記照準ビームを配向する前に、上記照準ビームが上記治療ビーム源によって部分的にしか遮断されないように上記照準ビームを上記治療ビーム源の周りに発散させるよう構成された凹レンズを通して、上記照準ビームを配向するよう構成される。上記プロセッサは、上記治療ビームを、上記患者の眼の網膜組織の、上記照準ビームによって形成された上記治療境界内に配置される第1の治療スポットに、配向するよう構成される。
【0015】
本発明の別の態様によると、患者の眼に対して治療処置を提供するための方法が提供され、上記方法は、照準ビーム源からの照準ビームを照準ビーム経路に沿って送達するステップを含み、上記照準ビームは、上記患者と治療ビーム源との間に配置された凸レンズを通過する前に、上記患者と上記照準ビーム源との間に配置され、かつ上記照準ビームが治療ビーム源によって部分的にしか遮断されないように上記照準ビームを上記治療ビーム源の周りに発散させるよう構成された、凹レンズを通過する。上記方法は、上記照準ビームによって、視認可能な治療境界を上記患者の網膜組織上に画定するステップを含み、上記照準ビームは上記凸レンズを通過して上記網膜組織上へと集束することにより、上記治療境界を画定する。上記方法は更に、上記治療ビーム源からの治療ビームによって、上記患者の眼の網膜組織に対して、上記治療境界内に配置された上記網膜組織上の治療スポットにおいて、治療処置を送達するステップを含み、上記治療ビームは、上記照準ビーム経路に対して非同軸に延在する治療ビーム経路に沿って送達される。
【0016】
本発明の別の態様によると、患者の眼の治療前評価を提供するための方法が提供される。上記方法の1つ以上のステップは、1つ以上のプロセッサによって実施できる。上記方法は、初期網膜電図(ERG)データを、患者上に位置決めされた1つ以上のERGセンサ(例えば電極)から受信するステップを含む。上記方法は、第1のERGセンサを上記患者の前頭部に位置決めするステップ、及び第2のERGセンサを上記眼の下方に位置決めするステップを含んでよい。光ビームの1つ以上の第1のパルスを上記眼の網膜に向かって送達してよく、ここで上記第1のパルスは、第1のパワーに設定される。上記ERGセンサから第1のERGデータを受信してよく、ここで上記第1のERGデータは、上記第1のパルスへの応答として網膜細胞が生成したERG信号を測定したものを反映したものである。レーザ治療を実施するために、1つ以上の最適なレーザパワー値を決定してよい。上記第1のパルスを、上記網膜上の第1の治療スポットへと送達してよく、上記第1の治療スポットは直径が1~6mmである。
【0017】
いくつかの実施形態では、上記初期ERGデータは、ベースラインERG信号を反映したものであってよい。他の実施形態では、上記方法は、光ビームの1つ以上の初期パルスを上記網膜に向かって送達するステップを含み、この場合、上記初期ERGデータは、上記初期パルスへの応答として網膜細胞が生成したERG信号を測定したものを反映したものとなり得る。
【0018】
いくつかの実施形態では、上記方法は、第1の最小二乗法フィッティングを上記初期ERGデータ及び上記第1のERGデータに対して実施して、上記初期ERGデータ及び上記第1のERGデータに対応する各波形を生成するステップを含む。いくつかの実施形態では、上記方法は、第2の最小二乗法フィッティングを、上記第1の最小二乗法フィッティングによって生成された上記波形に対して実施するステップを含み、上記第2の最小二乗法フィッティングは、上記第1の最小二乗法フィッティングによって生成された上記波形に基づいて線形表現を生成するよう構成され、ここで上記線形表現は、網膜温度とレーザパワー値との間の関係を記述する。上記線形表現は、式C=Xβ+εによって特性決定でき、ここでCは網膜温度であり、Xは治療レーザのパワー値であり、βは回帰係数であり、εは誤差項である。いくつかの実施形態では、上記方法は、レーザ出力値をERG信号データ又は網膜温度と相関させるルックアップテーブルを生成するステップを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、上記方法は、治療ビーム源によって、1つ以上の治療レーザビームを上記網膜上の第1の治療スポットへと送達するステップを含み、上記第1の治療スポットは直径が1~6mmであり、上記治療ビーム源は最適なレーザパワー値のうちの1つに設定される。いくつかの実施形態では、上記治療ビーム源は垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)アレイを含み、上記アレイは、個別に給電されるレーザ送達素子のセットを備える。いくつかの実施形態では、上記1つ以上のレーザビームを上記第1の治療スポットへと送達する上記ステップは、上記レーザ送達素子によって、複数のレーザビームを上記第1の治療スポット内の複数のサブスポットへと送達するステップを含み、ここで上記レーザ送達素子のレーザ出力は、上記治療スポットの略均一な組織加熱を保証するために個別に調整される。
【0020】
いくつかの実施形態では、光ビームの1つ以上の第2のパルスを上記眼の上記網膜に向かって送達するステップを含み、上記第2のパルスは第2のパワーに設定される。上記方法は、第2のERGデータを上記ERGセンサから受信するステップを含み、上記ERGデータは、上記第2のパルスへの応答として網膜細胞が生成したERG信号を測定したものを反映したものである。第1の最小二乗法フィッティングを上記初期ERGデータ、上記第1のERGデータ、及び上記第2のERGデータに対して実施して、上記初期ERGデータ、上記第1のERGデータ、及び上記第2のERGデータそれぞれに対応する波形を生成してよい。第2の最小二乗法フィッティングを、上記第1の最小二乗法フィッティングによって生成された上記波形に対して実施してよく、上記第2の最小二乗法フィッティングは、上記第1の最小二乗法フィッティングによって生成された上記波形に基づいて線形表現を生成するよう構成され、ここで上記線形表現は、網膜温度とレーザパワー値との間の関係を記述する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明のある実施形態による、大型スポット治療処置を提供するためのレーザ治療システムの概略図である。
【
図2A】
図2Aは、照準ビーム源を備えたレーザ送達システムを示す。
【
図2B】
図2Bは、照準リング内の複数のサブスポットを含む治療ビームの例を示し、上記治療ビームは、複数の対応するレーザ送達素子を備える治療ビーム源によって生成される。
【
図3】
図3は、本発明の更に別の実施形態による、
図1のレーザ治療システムの図である。
【
図4A】
図4Aは、マウス網膜の例示的な網膜電図(ERG)記録を示す。
【
図5】
図5は、例示的なERG測定システムの例示的な構成を示す。
【
図6】
図6は、治療前に生成され得る予測モデルを形成するための例示的なプロセスを示す。
【
図7】
図7は、例示的な治療処置プロセスを示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、例示的な治療処置プロセスを示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、患者の眼の治療前評価を提供する例示的な方法900を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書に記載の発明の実施形態は、患者の眼の網膜組織及び/又は他のエリア、特に黄斑を含む大きなエリアを治療するための、システム及び方法を提供する。このような手順を用いて、糖尿病性黄斑浮腫、及び/又は眼の他の状態を治療し、1つ以上の治療的利益を誘発できる。いくつかの実施形態では、一連の短持続時間光パルス(例えば5~30マイクロ秒、10~30マイクロ秒、又は5~15マイクロ秒)を網膜組織に送達してよく、ここで各パルス間に熱緩和時間遅延を設けて、標的網膜組織の温度上昇を制限することによって網膜色素上皮層のみに熱的効果を制限する。IRIDEX(登録商標)Corporationが販売するシステム及びデバイスのMicroPulse(商標) Laser Therapy等の短持続時間パルス治療(以下、手順の短持続時間パルス治療)は、網膜上に現れる視認可能なスポットをもたらす可能性がなく、組織全体に損傷(例えば視認可能な損傷)をわずかしか又は全くもたらし得ない。他の実施形態では、光凝固は、網膜に現れる一連の視認可能なスポットをもたらす場合がある。
【0023】
図1は、治療ビームを患者の眼110に送達するためのレーザ送達システム100の高レベルな概略図を示す。
図1~5を参照すると、本明細書に記載のレーザ送達機器又はレーザ治療システム100は、治療ビーム又はレーザを治療経路124に沿って伝送するよう構成された、レーザダイオード(例えば垂直共振器型面発光レーザ「VCSEL」)等の治療ビーム源102(例えばレーザ送達源)を含む。いくつかの実施形態では、レーザ治療システム100は、レーザ治療システムに関連するコストを大幅に削減するために、VCSELダイオードを受け入れるように適合されていてよい(VCSELダイオードは他の選択肢よりも大幅に安価である場合がある)。治療ビーム源102は、治療レーザを治療対象の患者の眼110の標的治療スポット又はエリア(例えば黄斑112)に向かって低損失で通過させる又は反射するための鏡104と位置合わせされていてよい。鏡104は、穴あきミラー、ハーフミラー、ダイクロイックミラー等であってよい。鏡104は透明又は半透明であってよく、これにより本明細書に記載されているように、一部の程度の光(例えば照明光又は照準レーザ)をカメラ106に戻るように送達できる。カメラ106、治療ビーム源102、又は照準ビーム源は、コンピュータ109(例えば計算システム、コントローラ)に動作可能に結合されることにより、本明細書に記載の治療処置プロセスで使用できる網膜のマッピング、トラッキング、及び/若しくは撮像を提供するか、又は治療レーザ若しくは照準レーザの送達を制御することができる。(例えば個別にレンズ108a、レンズ108bとして識別される)1つ以上のレンズを設けて、反射又は通過した光又はレーザを、標的位置(例えばカメラ106及び/又は患者の眼110)へと集束させることができる。例えばレンズ108a、108bは凸レンズであってよい。
【0024】
レーザ治療システム100の構成部品は、
図1では別個に、又は外部のものとして図示されているが、これらの構成部品のうちの1つ以上(例えば治療ビーム源102)を、(例えばアダプタのハウジング内で)内部に統合若しくはパッケージ化する、又は(例えば光ファイバを介して)アダプタに結合することもできる。アダプタ、又は上記構成部品のうちの1つ以上は、スリットランプ又は他の眼科用撮像機器と結合できる。本明細書に記載されているようにレーザ治療システム100と共に提供してよい、レーザ送達機器又はアダプタ、コントローラ、コンピュータ、若しくはプロセッサを含む他の様々な構成部品の例は、その全て又は一部が米国特許第9,707,129号に記載されており、上記特許の全開示は、その全体が参照によりあらゆる目的のために本出願に援用される。
【0025】
いくつかの実施形態では、治療ビーム源102又は照準ビーム源はまた、以下で更に詳細に説明されるように、コンピュータ109が治療レーザ又は照準レーザの送達を制御できるようにコンピュータ109と治療ビーム源102又は照準ビーム源との間で情報をルーティングするために、コンピュータ109又は他の外部若しくは内部コントローラに動作可能に結合された、計算デバイス及び/又はプロセッサを含んでよい。コンピュータ109は、別個の又は一体型のディスプレイインタフェースを含んでよく、これは、制御装置と、臨床医が調整できる様々な設定及び/又は動作を表示するためのディスプレイとを含む。例えばコンピュータ109は、治療ビーム源102を制御して、治療レーザを患者の眼の標的部位上へと、以下で更に詳細に説明されるような所望の治療パラメータ又は線量測定で送達できる。治療レーザは、指定されたサイズの標的部位を処置するためのレーザ密度若しくは強度、パワー、波長、及び/又は持続時間若しくはパルスで、画定された治療境界内に送達されるように制御できる。
【0026】
いくつかの実施形態では、上記治療レーザは、(例えばスキャナを用いずに、又は大型スポット内の複数の小さなスポットを処置するのではなく)直径が1~6mm(例えば5mm超)である単一の大型標的スポット(例えば黄斑)、位置、又は部位を処置して、該スポットを均一に加熱するように、制御又は送達してよい。このような大型スポットは、短持続時間の、10mW~10W、100mW~10W、又は1W~100W(例えば3W、4W、5W、2W超、5W超)という高パワーのパルスを用いて処置してよい。更に、各パルスの持続時間は、従来のような網膜組織の光凝固の誘発を回避するために十分に短いものであってよいが、各標的位置、スポット、又は部位において光活性化又は治療的治癒を略均一に誘発するために十分なものであってよい。いくつかの実施形態では、上記パルスは、糖尿病性網膜症、中心性漿液性脈絡網膜症、並びに網膜静脈分枝閉塞症及び網膜中心静脈閉塞症といった疾患に関する、黄斑領域内の網膜色素上皮を含む網膜組織の、低エネルギの・細胞内の・致死量未満の・眼底検査で視認できない治療を誘発できる。いくつかの実施形態では、標的部位の組織は、従来の光凝固によって発生する永久的な網膜損傷を回避又は低減しながら、光活性化、又は低エネルギの・細胞内の・致死量未満の・眼底検査で視認できない治療を誘発するように、50~55℃の範囲内で、又は50~55℃の最高温度まで、加熱してよい。治療レーザは、赤外スペクトル内で選択された波長(例えば808nm、810nm)を有してよい。特定の実施形態では、上記治療レーザは、患者の眼を予防的に処置するために、標的部位に送達できる。
【0027】
図2Aは、照準ビーム源120を備えたレーザ送達システム100を示す。
図2を参照すると、いくつかの実施形態では、レーザ送達システム100は、照準ビーム又はレーザを照準ビーム経路122に沿って伝送するよう構成された、コンピュータ109に動作可能に結合されたレーザダイオード(例えば垂直共振器型面発光レーザ「VCSEL」)等の照準ビーム源120を含んでよい。いくつかの実施形態では、照準ビーム経路122は、治療ビーム経路124と位置合わせされていなくてよく、又はこれと実質的に同軸でなくてよい。いくつかの実施形態では、照準ビーム経路122は、
図2に示されているように、治療ビーム経路124と位置合わせされるか、又はこれと略同軸であってよい。いくつかの実施形態では、
図2に示されているように、治療ビーム源102は、照準ビーム源120の経路内において、患者の眼の前方又は患者の眼の付近に位置決めされていてよく、これにより照準ビーム経路が部分的に遮断される。照準ビーム経路122が治療ビーム源102によって部分的にしか遮断されないように照準レーザを拡大する又は発散させるために、凹レンズ126を照準ビーム源120と治療ビーム源102との間に位置決めしてよい。照準ビーム又は治療ビームを患者の眼110の上の標的又は治療スポット上へと集束又は収束させるために、凸レンズ(例えば凸レンズ108b)を治療ビーム源102と患者の眼110との間に位置決め又は配置してよい。
【0028】
図示されているように、凸レンズは照準ビームを、患者の眼の治療スポットにおいて治療ビームを取り囲む同心の照準リング130上へと集束させるため、照準ビームは治療ビーム(例えば治療ビーム源102の入射スポット132)より常に大きい。照準ビームは、可視スペクトル(例えば600nm、650nm、700nm)の波長を有してよく、これにより、1mW以下のパワーで、患者の網膜上に視認可能な治療境界(例えば同心リング、中実の円形スポット、又は他の幾何学的形状)を提供できる。照準ビームによって提供される治療境界は、眼のレーザ治療に安全マージンを提供する。治療境界は、その内側では治療ビームによる治療処置が提供される又は提供可能であるが、その外側では治療処置が提供されない、エリア又は外周を画定する。更に、照準ビームによって提供される治療境界は、治療処置が望まれていない網膜の組織(例えば敏感な又は非標的組織)に隣接して位置決めされ得る。治療対象でない組織は治療境界の外側にあり、臨床医にとって視認可能である。これにより臨床医は、このような組織を治療しないことを保証しながら、所望の通りに治療境界をこのような組織に対して近接させて又は離間させて位置決めできる。治療ビームは、照準リング又は治療境界内に構成され、従って治療境界の外側の組織が治療されないことが保証される。
【0029】
図2Bは、照準リング130内に複数のサブスポット(例えばサブスポット210、サブスポット220)を含む、治療ビームの例を示し、ここで治療ビームは、複数の対応するレーザ送達素子(例えばレーザダイオードのアレイを備える治療ビーム源102によって生成される。いくつかの実施形態では、治療レーザ送達素子には、所望のエネルギ分布の送達にあたって微細な調整を可能とするために、個別に給電できる。例えば、アレイ内の各レーザ送達素子を(例えば各レーザ送達素子のパルス持続時間、周波数、パワー等を別個に制御することによって)個別に制御することにより、大型スポットによって画定された領域全体にわたって均一な組織加熱を発生させることができる。このような制御は、均一な組織加熱のために必要となり得る。というのは、例えばアレイ内のレーザ送達素子が、対応する隣接したサブスポットのアレイに向かって同一パラメータのビームを射出する場合、サブスポットのアレイの中心の方向の内側サブスポット(例えばサブスポット220)の付近の組織エリアは、サブスポットのアレイの外周の方向の外側サブスポット(例えばサブスポット210)の付近の組織エリアよりも強く加熱され得るためである。これは、内側サブスポット付近の組織エリアが、外側サブスポット付近の組織エリアに比べて、より多数の周囲のサブスポットからの複合エネルギに曝露され得、従ってより多数の周囲のサブスポットからの複合エネルギを蓄積し得るという事実によるものである。各サブスポットのパラメータを調整することによって、エネルギ曝露に関するこれらの差異を制御できる。例えば治療システムは、外側サブスポットに対応する治療レーザ送達素子が供給するエネルギのレベルと比較した場合に、内側サブスポットに対応する治療レーザ送達素子によって、比較的低いレベルのエネルギを供給できる。別の例として、治療システムは、各サブスポットの微細な制御(例えば組織の密度等の他の変数を考慮に入れるように各サブスポットを変化させること)によって、更に精密な均一性を提供できる。いくつかの実施形態では、同様の理由で、治療レーザ送達素子の複数のサブセットにグループとして共に給電することによって、別個に制御してよい。例えば10×10のアレイを10個の素子の10個のサブセットに分割してよい。この例では、10個のサブセットそれぞれに別個に給電できる。
【0030】
図3は、患者に対する使用時のレーザ治療システム100の例を示す。いくつかの実施形態では、
図3に示されているように、患者は仰臥位でレーザ治療システム100を用いて治療されてよい。このような実施形態では、レーザ治療システム100の構成部品のうちの1つ以上は、治療ビーム経路を患者の眼へと下向きに配向するように、スリットランプ128、又は他の眼科用撮像システム若しくは本明細書に記載のレーザ送達機器に動作可能に結合できる。例えば従来のスリットランプ又は他の眼科用撮像機器を、座位の患者の眼へと治療を配向する従来の位置から約90°回転させてよい。治療ビーム源102の光軸又は治療ビーム経路を垂直に位置合わせすることにより、治療レーザと患者の眼との間の距離の制御性が改善される。更にこれにより、より良好な患者の治療結果を実現できる。というのはこれにより、所与の治療期間中に治療ビームの不適切な標的設定を発生させ得る、(例えば患者に可能な自由度の低下による)患者の頭部の移動が減少するためである。これは、小児、又はじっと座っていることが困難な成人の治療において特に有利となり得る。いくつかの実施形態では、スリットランプ又は他の機器を、天井、又は患者若しくは手術台の上方の他の器具(例えばIVポール又は支持バー)に結合してよい。いくつかの実施形態では、(例えばIVポールに結合されている場合に)眼の治療中に更なる薬剤又は薬物を提供できる。
【0031】
図4Aは、マウス網膜の例示的な網膜電図(ERG)記録を示す。ERGは、(例えばレーザ等の光源からの)光といった励起刺激を受けたときに網膜の光受容体が生成する、電気信号の電圧(又は生体電位)を測定する。いくつかの実施形態では、ERGは、例えば皮膚に取り付けられる1つ以上のセンサ(例えば電極)を用いて、生成されたこれらの電圧の平均を記録する、非侵襲的技法であってよい。
図4A~4Bに示されているERG記録は、光源(例えばレーザ)によって網膜が照らされたときに測定された電圧を示す。ERGは従来、点滅パターン等の刺激に対する網膜の応答を測定するために採用されてきた。ERGを用いた、このような外的刺激に対する網膜の応答の測定に関する更なる情報は、米国特許第4,874,237号、米国特許第5,154,174号、及び米国特許第9,026,189号に見出すことができ、これらの特許はその全体が参照により本出願に援用される。マウスに関する最近の研究により、ERG信号がマウスの網膜において温度依存性である可能性があり、従ってレーザにさらされたマウスの網膜温度が、測定されたERG信号によって推測される可能性があることが示されている。この研究の結果は、Marja Pitkanenらの論文「ERG光応答に基づくマウス網膜温度決定のための新規の方法(A Novel Method for Mouse Retinal Temperature Determination Based on ERG Photoresponses)」(Ann. Biomed. Eng., Vol. 45, No. 10, Oct. 2017)において公開されており、上記論文はその全体が参照により本出願に援用される。
図4AのERGは、532nmのレーザビームをマウス網膜に射出したときに、37.0℃及び40.7℃の網膜温度に関して10msの間隔で得られたマウス網膜ERG測定を反映した波形を示す。身体が生成した電気信号は典型的には、2つの別個の波:a波410及びb波420を含む波形をもたらす。
図4Aに示されているように、2つの網膜温度(それぞれ37.0℃及び40.7℃)で測定されたERG波形430、440は一貫して異なっており、これは、これらの波形が温度依存性であることを示している。従ってこれらの波形は、網膜温度の推測に使用できる。
【0032】
図4Bは、Quinteros Quintanaら「網膜電図:網膜の機能/機能不全を評価するための生体電位(Electroretinography: A Biopotential to Assess the Function/Dysfunction of the Retina)」(J. Phys.: Conf. Ser. 705 (2016))から抜粋した、ヒト網膜の例示的なERG記録を示し、上記論文はその全体が参照により本出願に援用される。本開示の発明者らは、
図4Bに示されているヒト網膜のERG記録が、
図4Aに示されているマウス網膜のERG記録と極めて類似していることを観察した。例えば、a波415はa波410上にマッピングされ、b波425はb波420上にマッピングされる。この相関により、本開示の発明者らは、ERG記録を用いてヒト網膜温度を推測し、この特性を利用して本明細書に開示されるレーザ治療のための治療パラメータを決定するというアイデアに想到した。治療パラメータを決定するための従来の技法としては、視認可能な熱傷スポットが網膜上で観察されるまでレーザビーム源のパワーをゆっくりと漸増させながら設定して、最大パワー値限界を決定するというものが挙げられる。このような技法は、正しく実施したとしても、網膜に対するあるレベルの損傷を不可避的に引き起こし、これは望ましくない影響を有する可能性がある。その性質上、最大パワー値限界を確立しないまま網膜をレーザビームの標的とすると、一時的な、更には不可逆的な損傷のリスクが伴う。更に従来の技法は、最大パワー値限界を決定するための豊富な経験及び技能を与えられていなければならないオペレータによる、主観的な判断を必要とする。最後に、これらの従来の技法を用いた閾値の評価では、医師の側に追加の時間及び労力が要求される。本開示は、従来の漸増的設定による技法のこれらの欠点に対処できるような方法で、網膜の治療前測定を実施する際に使用するための、ERG測定を説明する。
【0033】
図5は、例示的なERG測定システムの例示的な構成を示す。図示されているERG測定システムは、光ビーム515を患者の眼110に向けるよう構成された光源510を含む。いくつかの実施形態では、光源510は、好適な波長(例えば532nm、577nm、810nm)を有するビームを放出するよう構成されたレーザであってよい。いくつかの実施形態では、ERG測定システムは、光ビーム515に応答して光受容体が生成する電圧を測定するための、少なくとも2つのセンサ(例えば電極)を含む。例えば
図5に示されているように、ERG測定システムは、患者の前頭部上に位置決めされた第1のセンサ520と、患者の眼110の下方に位置決めされた第2のセンサ530とを含んでよい。これらの第1のセンサ520及び第2のセンサ530は、好適な固定機構(例えば接着パッチ)を介して患者に固定できる。導電性クリーム又はゲルを各センサと患者との間に塗布することにより、より良好なERG信号の取得を実現できる。第1のセンサ520及び第2のセンサ530は、それぞれ矢印525、535で示されているように、(例えば有線又は無線接続を介して)プロセッサ540に結合されていてよい。プロセッサ540は、本明細書に記載の1つ以上の動作を実施して、治療レーザのパワーと温度との間の相関を予測するモデルをインテリジェントに決定できる。例えばプロセッサ540は、光ビーム515のパワーと網膜温度との間の相関を予測する予測モデルを生成できる。この予測モデルを用いて、網膜温度を所望量まで上昇させるために必要なパワー、及び/又は(例えば、技法の常用部分として視認可能な熱傷スポットを利用する場合がある従来の技法とは完全に対照的に)網膜に対して過度の損傷を引き起こすことなく可能な最高量まで網膜温度を上昇させるよう構成された最大パワー値限界を、予測できる。いくつかの実施形態では、プロセッサ540を、これらの予測をオペレータに対して示すディスプレイ又は他のインタフェース(例えば光ビーム515に関する最小及び最大パワー値を示すパワー範囲を表示するインタフェース)に(例えば有線又は無線接続を介して)結合してよい。いくつかの実施形態では、プロセッサを用いて光源510のパワーを制御できるように、(矢印545で示されているように)プロセッサ540を光源510に(例えば有線又は無線接続を介して)結合してよい。これらの実施形態では、プロセッサ540は、光源510に、異なるパワー値(例えば
図6を参照すると、ステップ620における最小パワー値、及びステップ635における比較的高いパワー)の複数の光ビーム515を眼110に配向させて、複数のERG測定を収集して予測モデルを改良できる。
【0034】
ERG測定は、大型スポットの治療を伴う治療に特に好適であり得る。いくつかの実施形態では、測定可能なERG応答は、多数の網膜細胞によって生成される大きな電気ERG信号であってよい。大型スポットの治療は、多数の網膜細胞を同時に刺激することによって、より大きな、従ってより測定可能なERG応答を動員するため、これらの測定に特に好適となり得る。
【0035】
図6は、(例えば
図5を参照するとプロセッサ540によって)治療前に生成できる予測モデルを形成するための、例示的なプロセスを示す。いくつかの実施形態では、このプロセスは、患者の眼の治療前評価を開始するための(例えばオペレータによる)入力610で開始できる。いくつかの実施形態では、プロセッサは、ステップ615に示されているように、ERGセンサ及び他のハードウェアが正しく設定されていることを(例えばERGセンサから受信するベースラインシグニチャを確認することによって)確認してよい。ステップ620では、レーザ源(又は他の光源)を、最小パワー値に設定してよい。ステップ625では、治療レーザを比較的低いパワー(例えば最小レーザパワー値)で射出してよい。いくつかの実施形態では、ステップ620、625をスキップしてもよい。ステップ630では、(例えばステップ625での治療レーザの射出中又はその直後に)患者上に配置されたセンサを用いてERG信号データを記録してよい。記録されたこれらのERG信号データは、最小パワー値(又は他の何らかの比較的低いパワー)の治療レーザに応答して網膜細胞が生成する電気的応答に対応し得る。ステップ620、625がスキップされる実施形態では、このERG波形は、眼が例えば環境光に曝露された場合に検出される信号を反映したものとなり得、この場合網膜温度はベースライン温度(例えば37℃)となり得る。ステップ635では、治療レーザを比較的高いパワー(例えば1W)に設定してよい。この比較的高いパワーは、網膜への損傷が発生する可能性がある予想最大パワー値限界未満であってよい。ステップ640では、治療レーザをこの比較的高いパワーで射出してよい。ステップ645では、(例えばステップ635での治療レーザの射出中又はその直後に)ERG信号データを再び記録してよく、上記ERG信号データは今回は、上記比較的高いパワーの治療レーザに応答して網膜細胞が生成する電気的応答に対応する。いくつかの実施形態では、ERG波形をアナログERG信号データからデジタル波形に変換してよい。ステップ650では、プロセッサを用いて、ステップ630、645で記録されたERG信号データに対して最小二乗法フィッティングを実施してよい。この最小二乗法フィッティングを実施することにより、測定されたERG信号データに基づいて、
図4Bに示されている波形と同様の波形を生成できる。例えば上記最小二乗法フィッティングは、ステップ630で記録された比較的低いパワーでの(又はベースライン)ERG信号データに対応する波形と、ステップ645で記録された比較的高いパワーでのERG信号データに対応する波形とを生成できる。ステップ655では、更なるこれらのスコアフィッティングを実施して、ステップ650の波形出力を線形化することにより、網膜温度とレーザパワー値との間の関係を記述してよい。例えばステップ655は、上記波形出力を線形化して、式C=Xβ+εによって記述される線形表現(例えば単一の直線)を生成でき、ここでCは網膜温度であり、Xは治療レーザのパワー値であり、βは回帰係数であり、εは誤差項である。ステップ660では、ステップ655の1次方程式に基づいてルックアップテーブルを生成してよい。上記ルックアップテーブルは、網膜温度を治療レーザのパワー値に相関させることができ、これによりオペレータは、特定のパワーのレーザの射出によって達成できる網膜温度を予想できる。いくつかの実施形態では、
図6で概略を示したステップのうちのいずれか又は全てを、1つ以上のプロセッサによって自動的に実施してよい。
図6は2つのERG測定のみを図示しているが、本開示は、いずれの好適な回数のERG測定を実施する実施形態(例えばレーザのパワー値を漸増させながら順次実施される一連のERG測定)を企図している。いくつかの実施形態では、システムは、被験者の群から得られた大きなデータセットを用いて訓練されたものであってよい機械学習モデルを利用して、より正確な予測モデルを生成できる。上記被験者はヒト患者であってよく、あるいはマウス等の動物被験体であってよく、そのa波及びb波を特定のヒト患者のベースラインERG測定と相関させることによって、この特定のヒト患者に関するルックアップテーブルの生成を支援できる。
【0036】
図6のステップ665では、レーザシステム100を、治療準備状態とすることができる。オペレータは上記ルックアップテーブルを考慮して、治療ビームを治療スポット(例えば直径が1mm~6mmの治療スポット)へと送達するための1つ以上の最適なパワー値を決定できる。本明細書中で既に上述したように、いくつかの実施形態では、治療ビーム源は複数のレーザ送達素子(例えば複数のレーザダイオード)を備えてよく、これらは、一体となって治療スポットを形成する複数のサブスポットに対応する。これもまた本明細書中で既に上述したように、これらの実施形態では、(例えば均一な加熱を保証するために)各レーザ送達素子(又はレーザ送達素子のサブセット)のレーザ出力を別個に制御し、調整してよい。これらの実施形態では、オペレータが治療ビーム源をある特定のパワーに設定すると、レーザシステム100は、複数のレーザ送達素子が送達するパワー値の合計が、オペレータが設定した上記特定のパワーと等しくなるか又はおおよそ等しくなるように、各レーザ送達素子に給電してレーザビームを送達する。VCSELアレイ(又は同様のアレイ)は、各レーザ送達素子の個別の制御を可能とすることができる点で、特に有利となり得る。
【0037】
上述のプロセスにおいて記載されているようにERG測定を使用することで、治療レーザのパワー値を最大パワー値限界まで―例えば視認可能な熱傷の痕跡が形成される(例えばそれによって最大パワー値限界が示される)点まで―ゆっくりと漸増させながら設定することを伴う従来のものに近い技法にオペレータが頼る(又はそれのみに頼る)必要をなくすことができる。代わりにオペレータは、十分に安全範囲内であるパワーレベルのレーザを用いて、最大パワー値限界を含む異なる複数のパワーレベルにおける眼への影響を予測できる。事実上、ERG信号に基づく予測は、熱傷の痕跡の代替となることができ、またそれ自体を記録してソフトウェアで処理できる。その結果、従来の漸増的設定技法に比べて安全な(例えば視認可能な熱傷の痕跡を形成する必要がない)治療前測定が得られる。更にERG測定プロセスは、網膜細胞応答を直接測定することによって、信頼できる温度の測定を提供し、これにより、間接的測定に依存する他のタイプの非侵襲的測定(例えば、複数の可変音響インピーダンスを介して伝播する音響信号に依存する必要がある、網膜のパルスレーザ加熱によって生成された音波の測定)に関連する誤差が排除される。更に、従来の技法とは対照的に、本記載のERG治療前測定プロセスは、主観的判断を行うための豊富な経験及び技能を必要としない。本記載のERG治療前測定プロセスはまた、主観的判断に依存しない(従ってヒューマンエラーの可能性が排除又は低減される)ため、従来の技法に比べてより正確であり、かつ高い感度を有することができる。最後に本記載のERG測定プロセスは、従来の漸増的設定技法と同等の時間及び労力を医師の側に要求しない。
【0038】
いくつかの実施形態では、ERG測定システムを網膜の治療中に使用して、フィードバック(例えば連続的又は半連続的フィードバック)をオペレータに提供してよい。例えば治療の進行中、リアルタイムERG測定を実施してよく、網膜温度が永久的な損傷を引き起こす上限を越えないことを保証するために、網膜温度を(例えば治療前に上述のようにして生成されたルックアップテーブルを用いて)決定してオペレータに対して表示してよい。いくつかの実施形態では、レーザ治療システムは、永久的な損傷の防止についてオペレータを支援するための警告システムを含んでよい。例えば警告システムはERG測定システムに結合されていてよく、ERG測定システムからのフィードバックデータを用いて、網膜温度が上限の閾値内であることを判定すると、警告システムは警告通知を生成してよく、又は(例えばフットスイッチ、若しくは治療レーザの他の操作手段を無効化することによって)治療レーザの動作を阻止してよい。いくつかの実施形態では、レーザ治療システムは、治療を開始できる前に必要な条件全てが満たされていることを保証するために、警告システムを含んでよい。例えば、ERG測定システムから導出された予測モデルは、治療レーザが3Wの最大パワー値限界に制限されることになることを指定する場合がある。この例では、オペレータが治療レーザを4Wのパワーに調整しようとすると、警告システムが警告通知を生成できるか、又は治療レーザの動作を阻止できる。
【0039】
図7、8は、患者の眼に対して治療処置を提供するための例示的な方法700、800を示す。ここで記載される方法のいずれのステップのうちの1つ以上は、削除、順序変更、置換、追加、又は修正が可能である。ステップ702では、治療処置を、治療ビーム源からの治療ビームによって、患者の眼の網膜組織へと送達してよい。送達される治療処置は、網膜組織への損傷を最小限に抑えるために、凝固による損傷を発生させる強度未満の強度の、網膜組織上の治療スポットを含んでよい。治療ビームは赤外波長において、1~100Wのパワーで、治療ビーム経路に沿って送達され、また治療スポットは直径が1~6mmである。方法800はステップ802において、照準ビーム源からの照準ビームを照準ビーム経路に沿って送達することを含み、この照準ビームは、患者と照準ビーム源との間に配置された凹レンズを通過し、この凹レンズは、患者と治療ビーム源との間に配置された凸レンズを通過する前に照準ビームが治療ビーム源によって部分的にしか遮断されないように、治療ビーム源の周りに照準ビームを発散させるよう構成される。ステップ804では、上記方法は、照準ビームによって、患者の網膜組織上に視認可能な治療境界を画定するステップを含み、上記照準ビームは上記凸レンズを通過して網膜組織上に集束することにより、上記治療境界を画定する。ステップ806では、上記方法は更に、治療ビーム源からの治療ビームによって、患者の眼の網膜組織の、上記治療境界内に配置された上記網膜組織の治療スポットに、治療処置を送達するステップを含み、上記治療ビームは、上記照準ビーム経路に対して非同軸に延在する治療ビーム経路に沿って送達される。
【0040】
図9は、患者の眼の治療前評価を提供するための例示的な方法900を示す。ここで記載される方法のいずれのステップのうちの1つ以上は、削除、順序変更、置換、追加、又は修正が可能である。ステップ902では、患者上に位置決めされた1つ以上のERGセンサから初期網膜電図(ERG)データを受信する。ステップ904では、光ビームの1つ以上の第1のパルスを、上記眼の網膜に向かって送達し、上記第1のパルスは第1のパワーに設定される。ステップ906では、ERGセンサから第1のERGデータを受信し、上記第1のERGデータは、上記第1のパルスへの応答として網膜細胞が生成したERG信号を測定したものを反映したものである。ステップ908では、レーザ治療を実施するために、1つ以上の最適なレーザパワー値を決定する。
【0041】
以上の記述では、本発明の様々な実施形態を記載した。説明を目的として、これらの実施形態の完全な理解を提供するために、具体的な構成及び詳細が記載されている。しかしながら、これらの具体的な詳細を用いずに本発明を実施できることも、当業者には明らかであろう。更に、記載されている実施形態を不明瞭にしないよう、公知の特徴は省略又は簡略化されている場合がある。本発明の主題は、ここでは具体的に記載されているが、請求対象の主題は他の方法で具体化されてもよく、異なる要素又はステップを含んでよく、既存の又は将来の他の技術と組み合わせて使用してもよい。
【0042】
本記述は、個々のステップの順序又は要素の配置が明らかに記載されている場合を除いて、様々なステップ又は要素間のいかなる特定の順序又は配置も暗示するものとして解釈してはならない。図示されている又は上述されている構成部品、並びに図示又は上述されていない構成部品及びステップの、異なる配置も可能である。同様に、一部の特徴及び部分的組み合わせが使用でき、これらを他の特徴及び部分的組み合わせに言及することなく採用してよい。本発明の実施形態は、限定を目的とせず例示のために記載されており、本特許の読者には代替実施形態が明らかになるだろう。従って本発明は、上述の又は図示されている実施形態に限定されず、以下の特許請求の範囲から逸脱することなく様々な実施形態及び修正形態を作成してよい。
【0043】
他の変形例も本発明の精神の範囲内である。従って、本発明は様々な修正形態及び代替構成を許容している中で、その特定の例示的実施形態が図面に図示され、上で詳細に説明されている。しかしながら、本発明をここで開示された1つ以上の具体的形態に限定することは意図されておらず、反対に、添付の特許請求の範囲において定義されるような本発明の精神及び範囲内にある全ての修正形態、代替構成、及び均等物を包含することが意図されていることを理解されたい。
【0044】
値の範囲が提供されている場合、文脈によって別段の指示が明確になされていない限り、該範囲の上限と下限との間の、下限の単位の1/10までの中間値それぞれも具体的に開示されているものと理解される。言明されている範囲内のいずれの言明されている値又は中間値と、この言明されている範囲内の他のいずれの言明されている値又は中間値との間の、より小さな各範囲も包含される。これらのより小さな範囲の上限及び下限は独立して、該範囲に含まれても該範囲から除外されてもよく、2つの限界値のうちの一方又は両方がこれらのより小さな範囲内に含まれている、あるいは2つの限界値のいずれもこれらのより小さな範囲内に含まれていないような各範囲も、いずれの特定の排除された限界値を、その言明されている範囲内にあるものと仮定して、本発明に包含される。言明されている範囲が上記2つの限界値のうちの一方又は両方を含む場合、これらの限界値のうちの一方又は両方を排除した範囲も含まれる。
【0045】
本発明を記述する文脈における(特に以下の特許請求の範囲の文脈における)、用語「ある(a、an)」、「その、上記/前記(the)」、及び類似の指示物の使用は、本明細書中に別段の指示がない限り、又は文脈によって明確に否定されていない限り、単数及び複数の両方を包含すると解釈されるものとする。2つ以上の項のリストについての言及中での用語「又は(or)」は、この単語の以下の解釈を全て包含する:リスト中の項目のうちのいずれか;リスト中の項目全て;及びリスト中の項目のいずれの組み合わせ。用語「…を備える/含む(comprising)」、「…を有する(having)」、「…を含む(including)」、「…を含有する(containing)」は、別段の記載がない限り、非制限的な用語(即ち「…を含むがそれに限定されない(including, but not limited to)」を意味する)として解釈されるものとする。用語「接続された(connected)」又は「取り付けられた(attached)」は、何らかの介在物が存在したとしても、その一部又は全体が「…の中に包含される(contained within)」、「…に結合される(coupled to)」、又は「一体として接合される(joined together)」として解釈されるものとする。本明細書における値の範囲の列挙は単に、本明細書中に別段の指示がない限り、該範囲内にある個々の値それぞれに個別に言及する簡略化された方法として機能することを意図したものであり、個々の値はそれぞれ、個別に本明細書中に記載されているかのように、本明細書に組み込まれる。本明細書に記載の全ての方法は、本明細書中に別段の指示がない限り、又は文脈によって明確に否定されていない限り、いずれの好適な順序で実施できる。本明細書中で提供されるいずれのあらゆる例、又は例示を表す語句(例えば「…等(such as)」)は単に、本発明の実施形態をより明らかにすることを意図したものであり、別段の主張がない限り、本発明の範囲に制限を課すものではない。本明細書中のいかなる語句も、請求対象となっていないいずれの要素を本発明の実施に必須のものとして指示するものとして解釈してはならない。
【0046】
本発明の実施に関して本発明者らが把握している最良の態様を含む、本発明の好ましい実施形態が、本明細書に記載されている。これらの好ましい実施形態の変形例は、以上の記述を読めば当業者には明らかとなり得る。本発明者らは、当業者がこれらの変形例を適宜採用することを期待し、また本発明者らは、本明細書に具体的に記載されている以外の方法で本発明が実施されることを意図している。従って本発明は、適用法によって許可されるような、本明細書に添付されている特許請求の範囲に列挙された主題の全ての修正形態及び均等物を含む。更に、本明細書中に別段の指示がない限り、又は文脈によって明確に否定されていない限り、上述の要素の、全ての可能な変形形態でのいずれの組み合わせが、本発明に包含される。
【0047】
刊行物、特許出願、及び特許を含む、本明細書で引用されている全ての文献は、各文献が参照により本出願に援用されることが別個にかつ具体的に指示され、またその全体が本明細書中に記載されているのと同程度に、参照により本出願に援用される。