(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】複数のセンサからの測定データを使用した医療システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0215 20060101AFI20240607BHJP
A61B 5/028 20060101ALI20240607BHJP
A61B 5/029 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
A61B5/0215 B
A61B5/028
A61B5/029
(21)【出願番号】P 2021536171
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(86)【国際出願番号】 US2019068277
(87)【国際公開番号】W WO2020132669
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-08-17
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-14
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391028362
【氏名又は名称】ダブリュ.エル.ゴア アンド アソシエイツ,インコーポレイティド
【氏名又は名称原語表記】W.L. GORE & ASSOCIATES, INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド ジェイ.マイナー
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン エム.トラップ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー ジェイ.ベッキオ
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】伊藤 幸仙
【審判官】石井 哲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/054343(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0024042(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0032734(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0098772(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0221551(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0069778(US,A1)
【文献】特許第7231742(JP,B2)
【文献】特許第7377269(JP,B2)
【文献】特許第7248800(JP,B2)
【文献】米国特許第11540731(US,B2)
【文献】田中 光 他、「心臓の病気と治療薬」、[online]、2006年8月23日、インターネット<URL: https://web.archive.org/web/20060823022639/https://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/shinkin/medicine/medicine-1-2-1.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 - 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者への薬物の投与を決定するための医療システムであって、
心臓の右側で生理学的測定の第一のセット及び心臓の左側で生理学的測定の第二のセットを行うように構成された複数のセンサ、
生理学的測定の第一のセット及び第二のセットに関する測定データを受信および患者が左心不全、右心不全または両心室不全の少なくとも1つの病歴を有するかどうかを表す患者の病歴デー
タを受信するように構成されたレシーバ、
受信された測定データおよび前記受信された患者の病歴データを格納するように構成されたメモリユニット、
表示デバイス、及び、
前記受信された測定データに基づいて、測定の第一のセット及び第二のセットのそれぞれが、正常レベルより低い傾向であるか、前記正常レベルでの傾向であるか、又は前記正常レベルより高い傾向であるかを含む測定の傾向を決定し、
前記決定された測定の傾向および前記患者の病歴データを表示デバイスに表示し、および、
前記生理学的測定の前記第一のセット及び前記第二のセットがどのように傾向を示しているかの前記決定および前記患者の病歴データに基づいて、どの推奨投薬及びその投与量であるかを決定しおよび表示するように構成されたコントローラ、を含む、医療システム。
【請求項2】
前記コントローラは、前記生理学的測定の前記第一のセット及び前記第二のセットがどのように傾向を示しているかの前記決定に基づいて前記投薬及びその投与量を変更するかどうかを決定するようにさらに構成されている、請求項1記載の医療システム。
【請求項3】
前記コントローラはインプラント可能な測定デバイスに結合されている、請求項1~2のいずれか1項記載の医療システム。
【請求項4】
前記コントローラは、患者の外部に配置されるように構成されたモニタリングシステムに関連付けられている、請求項1~3のいずれか1項記載の医療システム。
【請求項5】
前記生理学的測定は血圧測定を含む、請求項1~4のいずれか1項記載の医療システム。
【請求項6】
前記生理学的測定は血液温度及び酸素飽和度測定うちの少なくとも1つを含む、請求項1~5のいずれか1項記載の医療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2018年12月21日に出願された仮出願第62/783,902号、2018年12月21日に出願された仮出願第62/783,935号、2019年5月9日に出願された仮出願第62/845,386号、2019年8月30日に出願された仮出願第62/894,260号及び2019年9月16日に出願された仮出願第62/901,105号の利益を主張し、これらをすべて、あらゆる目的のためにその全体の参照により本明細書に取り込む。
【0002】
分野
本開示は、患者を治療するためのシステム、より具体的には、生理学的測定を使用して薬物の投与を決定するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
過去10年の間に、米国における冠状動脈死の数は、医学及び治療の進歩のおかげで着実に減少したが、心不全による死亡の相対的な数は増加し、より多くの人々がこれまで以上に心不全の高いリスクとともに生きていることを示している。一般に、心不全は心臓が体に十分な血液を供給できないときに発生する。その結果、体積排出量が少ないと、排出力の不足を補うのを支援するために左心の充満圧が高くなる。より少量の体積排出量はまた、腎臓又は腎臓の灌流の減少を含む、より低い臓器灌流を引き起こす。腎臓の灌流が減少すると、過剰な流体が保持されることがありうる。急性代償不全発症は、体液レベルが上昇したり、及び/又は、血管の血液分布が低下したりして、患者が倦怠感及び呼吸困難(呼吸困難)を経験し、病院に送る状態になることである。治療せずに放置すると、深刻な合併症を引き起こし、死に至る可能性がある。
【0004】
心不全は、主に左側の心臓の問題の結果として始まることが観察されている。正常な健康な心臓において、酸素化された血液は最初に肺静脈から左心房を通って左心室、そして大動脈に運ばれ、その後、血液は全身に運ばれる。その後に、脱酸素化された血液は、2つの大静脈から右心房、右心室を通して、肺動脈に運ばれ、その後に、肺動脈は酸素化のために血液を肺に運ぶ。左心室のポンプ性能は、左心室壁の肥厚/薄化、又は、大動脈/僧帽弁の損傷によって影響を受ける可能性があり、体の残りの部分にポンプされる血液が少なくなる。
【0005】
心不全には少なくとも2つのカテゴリーがある:HFrEF(駆出率が低下した心不全)及びHFpEF(駆出率が保存された心不全)。HFrEFにおいて、左心室は十分な血液で満たされているが、心筋の収縮が不十分なため、十分な血液を送り出すことができない。これは収縮期心不全とも呼ばれる。HFpEFにおいて、心臓は正常に血液を送り出すことができるが、心筋の弛緩が不十分なために左心室を満たす血液が少なくなり、心室内の血液体積が少なくなる。これは拡張期心不全とも呼ばれる。どちらの場合でも、一般的に体に送り出される十分な血液がない。あまり一般的ではないが、左心が体に十分な血液を送り出すことができず、右心が肺に十分な血液を送り出すことができないときに、両心室不全が発生することがある。
【0006】
薬理学的治療は、心臓圧を低下させ、急性代償不全発症を予防するために一般的に採用されている。遠隔的に、使用される特定の薬剤は、体重増加などの兆候/症状を使用した試行錯誤のアプローチ、又は、単一心臓内血圧測定によって決定されることがよくある。心臓の圧力を下げ、急性非代償性心不全発症を防ぐために今日使用されている薬剤は、主に利尿薬及び血管拡張薬(硝酸塩、ヒドララジン、エース阻害薬など)が挙げられ、一方、他の薬剤としては、ベータ遮断薬、変力薬などであることができる。利尿薬は、主に過剰な流体の蓄積(体液貯留)を対象とし、腎臓により多くのナトリウムを尿に放出させるようにすることで機能する。次に、ナトリウムは血流から水分を取り、それによって血管を流れる体液の量を減らし、最終的に血圧を下げる。慢性心不全で一般的なループ利尿薬も、静脈血管系に血管拡張作用を及ぼし、静脈容量の増加を引き起こすことも知られている。したがって、利尿薬は主に循環からの血液体積を減らすことによって心臓に対する前負荷を下げるのに役立つ。
【0007】
血管拡張薬は、血管を開放又は拡張する薬剤であり、幾つか例を挙げると、硝酸塩、ヒドララジン、ace阻害剤及びアンジオテンシン受容体遮断薬が挙げられる。その結果、血液は血管、主に動脈抵抗血管を通ってより簡単に流れ、心臓はそれほど強く送り出す必要がないため、心臓内の血圧が低下する。例えば、硝酸塩は非常に低い初期用量では静脈拡張剤であるが、主に中用量から高用量(心不全の典型的な用量)では動脈拡張にますます影響を及ぼす。利尿薬とは異なり、血管拡張療法は主に血管抵抗及び心臓に対する後負荷を軽減するために使用され、これにより、1回拍出量及び心拍出量が向上し、左心室の前負荷及び静脈圧が二次的に低下し、左側の充満圧が低下する。ベータ遮断薬は、心臓のポンプを遅くするように機能し、すなわち、心拍数を下げ、力を弱め、それによって血圧を下げる。変力物質は、心室収縮の強さを増加させ、したがって心拍数を増加させるように機能する。この薬は、灌流が非常に悪く、心室補助デバイス(VAD)又は心臓移植が必要な重症の場合に使用できる。一般に、遠隔モニタリングシステムが心臓内圧の上昇を示すときに、上昇は、心臓内血液充満圧を低下させるために、上述の薬剤の1つを添加するか、又は前記薬剤の投与量を増加させる必要があることを示す。心臓内充満圧が高くなりすぎる前にそれを抑えるために薬剤の投与量を増やすことは、入院の数を減らすための鍵であると考えられる。
【0008】
早期の予防分析は、心不全による再入院を減らすのに効果的であることが証明されている。
図1Aに示すように、予測バイオマーカーを監視し、適切な早期介入を実行することにより、患者の再入院のリスクが大幅に低下する。例えば、心臓が血行動態的に安定している潜在的な入院事象に先立つ初期段階において、測定デバイスを使用して心臓の充満圧の上昇を測定することで、最も初期の症状を治療することができる。その後に、心臓が発症前のうっ血を経験すると、胸腔内インピーダンスが変化する。その後に、突然の体重増加、足及び足首の腫れ、脱力感又は息切れ(呼吸困難)、尿の頻度の変化などの他の症状は、体が体液を保持していることを示す。しかし、この段階で、病気はすでに後の段階にあり、多くの場合に腎臓を含む体内の重要な臓器の代償不全に危険なほど近づいている。 したがって、患者が代償不全発症の前に発生する後期の症状を経験するときに、それは手遅れであり、臓器に恒久的な損傷がすでになされている可能性があるため、最も初期の症状を治療することが最善である。
【0009】
患者の心不全を理解及び治療するために、病院は、様々な測定手段を使用して多くの急性分析を行う。これらには、非侵襲的測定と、医療サービス提供者が患者の病気をよりよく理解できるような侵襲的測定が挙げられる。非侵襲的測定には、病気の診断、血流の監視及び生理学の変化の視覚化に使用される心エコー図、体液貯留の変化を決定する体重増加、体液貯留状態を決定する頸静脈の目視検査、体の血流を評価する血圧測定、心拍数、心電図検査(ECG)及び酸素飽和度が挙げられる。侵襲的測定には、右心カテーテル検査及び左心カテーテル検査が挙げられる。
【0010】
スワンガンツカテーテル法を使用して実施される右心臓カテーテル法は、中心静脈圧、右心房圧(RAP)、右心室拡張期圧及び収縮期圧、肺動脈拡張期圧及び収縮期圧、ならびに肺動脈楔入圧(PAWP)を測定することができる。また、この方法では、患者の酸素状態、体温及び心拍数を測定することができ、また、心拍出量、全身血管抵抗及び肺血管抵抗を計算することもできる。右心カテーテル法は、主に心臓の圧力、心拍出量、抵抗及び体液の状態をチェックするために使用される。左心カテーテル法は左心房圧を測定することができ、また、左心室の拡張期圧及び収縮期圧も測定することができる。右心カテーテル法は、医療サービス提供者が薬剤を使用して患者の心臓内血液充満圧を許容レベルに戻そうとする間に、患者に数日間放置することができる。これは、急性状況で効果的な方法である。ESCAPEの臨床試験中に、圧力測定の使用は、例えば、≦8mmHgのRAP及び≦15mmHgのPAWPをターゲットにすることにより、急性の状況で患者の全体的な状態を改善するための実行可能な手段として決定された。しかしながら、それは継続的な解決策ではなく、したがって、退院後比較的すぐに圧力が変化すると想定されたため、再入院を防ぐことはできなかった。したがって、右心カテーテルは主に、急性期の症状及び圧力を軽減するための治療をガイドするために使用される。
【0011】
したがって、心臓内の血圧を測定するための、より便利であるが正確な手段が必要である。この分野の現状技術は、急性及び遠隔の2つの大きな状況に分けることができる。急性状況は、患者が病院にいて、上記のように様々な方法(侵襲的又は非侵襲的)を使用して評価される1回限りの事象であり、ここで、患者はこれらの試験及び測定が行われる間に静かに座り又は横になっている。遠隔状況は、患者の圧力読み値が自宅などの病院外で行われ、この状況で投薬が調整される。
【0012】
急性状況において、右心カテーテル法は、症状を軽減するために患者に正しい薬物を選択するために必要な情報を医療サービス提供者に提供する。これは、主に、体液貯留及び体液分布の影響を分離するのに非常に役立つ。これは、PAWP及び右心房圧の両方を一緒に観察することによって行われる。医療サービス提供者は、絶対値及び比率を調べて、特に左心不全の2つの問題を区別し、これにより、体液がいつオフロードされるかがわかり、血液分布の状態を判断できる。現在の診療において、心臓内の様々な場所からの圧力読み値が同時に考慮されるため、急性状況では心臓の健康状態を最も正確に測定できる。対照的に、現在市販されている遠隔心臓圧力センサは、単一の圧力測定のみを報告する。
【0013】
図1Bは、右心カテーテル法がどのように実施されるかを例示している。測定デバイス40は、右心房1、三尖弁7、右心室2を通過し、肺動脈弁58を通って、肺動脈16に入る肺動脈カテーテル18の端部に取り付けられており、ここで、デバイス40は、脱酸素化された血液が肺22内に運ばれるときの血圧の測定を取る。次に、新鮮な空気は、気管23から肺22内に運ばれ、その後に、酸素化された血液は肺静脈17、左心房3、僧帽弁6、左心室4及び大動脈弁57を通って運ばれる。カテーテル18はまた、冷生理食塩水ボーラス20を右心房に注入する近位注入ポート、及び、カテーテルの遠位端に配置されて、肺動脈16の血液の温度を測定するサーミスタ21を有する。この測定方法は熱希釈として知られており、循環血液に冷生理食塩水ボーラスを加えると、血流速度が時間の経過に伴う冷生理食塩水ボーラスから得られる血液温度の変化率に反比例するという前提に基づいて血流を測定する。これは心拍出量の測定値を提供する。
【0014】
肺動脈楔入圧及び肺動脈拡張期圧は、心不全における典型的な懸念領域である左心室内の圧力のための代理測定値である。肺動脈及び左心室の充満圧は、原発性肺動脈性肺高血圧症などの特定の併存疾患を除いて、ほとんどの場合に相関することが示されていた。このような圧力は、循環体積の増加(体液貯留)又は左心室のポンプ効率の低下(例えば、末梢抵抗血管の肥厚、拡張又は血管収縮)のために変化する。
【0015】
より効果的な薬理学的治療プログラムを特定するために、心臓圧を遠隔モニターするための様々な試みがなされてきた。これらのシステムは、心不全の既往歴のある患者に、差し迫った急性代償不全の早期予測を提供するために、心臓内圧のモニター増加を求める(例えば、体重増加、胸部インピーダンスなどの他の測定値よりもはるかに信頼性の高い指標として)。例えば、アボットによるCardioMEMS(商標)心不全モニタリングシステムは肺動脈内に存在し、左心房圧の代理として肺動脈圧を効果的にモニタリングしようとする。
【0016】
当該技術で知られている遠隔モニタリングシステムの他の例は、MedthronicによるChronicle(登録商標)及びAbbot/St.JudeによるHeartPOD(商標)が挙げられる。これらの従来技術デバイスの各々の短い概要を以下に提供する。
【0017】
Chronicle(登録商標)では、測定デバイスは右心室に存在し、推定肺動脈拡張期圧(ePAD)を受け取りデバイスに報告する。測定値は、右心室拡張期血圧、右心室収縮期血圧及びePADの間で相関関係を示し、これらすべての圧力読み値の増加が差し迫った入院の指標として機能すると述べられている。
【0018】
HetartPOD(商標)は、中隔穿刺法による測定デバイスのデリバリーを伴うリードアンドカン設計を使用し、測定デバイスは心房中隔に留まり、左心房圧を測定する。
【0019】
過去数十年にわたって、従来技術は、差し迫った入院事象の信頼できる予測因子を見つけることに焦点を合わせてきた。左側充満圧力及び代理指標を測定することは、差し迫った入院事象を予測するための最も予測可能で有効な手段であることが実証されている。しかしながら、従来技術は、予測と並んで患者の有効な管理に取り組んでいなかった。信頼できる兆候及び症状がなければ、薬及び他の治療法で患者を効果的に治療するために、他の追加の測定が必要である。上記の従来技術の各場合のデバイスは、各測定が「何か」が変化していることを示すために圧力の初期上昇を示すことができるが、測定自体は「何」が変化しているかを具体的に規定するには不十分であるため、単一の区別できない測定を作成する。これらの従来技術のデバイスでは、問題の原因を遠隔でより正確に検出するのに十分なデータが提供されていないため、これは急性右心カテーテル法とは対照的である可能性がある。この区別できない測定により、医療サービス提供者には、薬を使って試行錯誤する以外に他の選択肢がない。その結果、治療が無効になり、患者の健康に深刻な合併症を引き起こす可能性がある。また、急性状況で何が起こっているのかを理解し、問題に対処するための右心カテーテル検査手順につながる可能性がある。
【0020】
例えば、医療サービス提供者は、圧力の上昇が体液貯留の問題によるものであると想定されるならば、最初に利尿薬を試みて圧力を低下させる。これがうまくいかないならば、利尿薬の投与量を再び増加させることができる。それでもうまくいかなければ、医療サービス提供者は、問題が体液貯留ではなく、体液分布にあると判断し、その後、血管拡張薬及び最終的に変力薬などの薬物の使用を試みる。言い換えれば、この方法は、最終的に正しい診断につながる可能性のある医療サービス提供者の直感に大きく依存しているが、そうするためにより長い時間を費やすことを犠牲にしている。
【0021】
上記の試行錯誤の方法には幾つかの欠点がある。心不全代償不全は時間基準の事象であり、これは血圧が時間とともに上昇して入院事象につながることを意味するため、投薬の変更を試みるたびに、結果として生じる圧力の変化から数日の応答時間があり、エラーに比較的に小さいウィンドーを残す。また、システムに十分な体液がないときに利尿薬を適用すると(医療サービス提供者が誤った推測をした場合に)、過剰利尿につながり、血液量減少状態を引き起こし、腎臓に害を及ぼすことがある。医療サービス提供者は、腎臓の健康状態を評価するためのクレアチニンテストのために患者をラボに送ることがよくあり、クレアチニンレベルが健康な腎臓の正常範囲外であるならば、医療サービス提供者は腎臓に対する損傷が関与している可能性があり、あまりにも多くの利尿を行ったことを知る。さらに重要なことに、圧力が高いままである時間が長いほど、患者の体にさらなる損傷が発生する可能性が高くなる。例えば、右心不全が加速し、左心不全が加速し、心臓内の弁は損傷され、腎不全は加速する可能性がある。
【0022】
一般的に言えば、実施された生理学的測定に基づいて心不全入院のリスクがある患者のための適切な治療計画を支援するための改善された診断システムに対する継続的な必要性がある。
【発明の概要】
【0023】
要旨
本明細書に開示されるのは、行われた測定に基づいて患者への薬物の投与を決定するための医療システム及び方法である。
【0024】
例1において、患者への薬物の投与を決定するための医療システムは、心臓の右側で生理学的測定の第一のセット及び心臓の左側で生理学的測定の第二のセットを行うように構成された複数のセンサ、及び、生理学的測定の第一のセット及び第二のセットに関する測定データを受信し、受信された測定データを表示デバイスに出力するように構成されたレシーバを含む。
【0025】
例2において、例1の医療システムは、受信された測定データを格納するように構成されたメモリユニット、及び、受信された測定データに基づいて、測定の第一のセット及び第二のセットのそれぞれが、より低い傾向であるか又はより高い傾向であるかを決定するように構成されたコントローラをさらに含む。
【0026】
例3において、例2の医療システムであって、前記コントローラは、受信された測定データに基づいて薬理学的治療計画を変更するかどうかを決定するようにさらに構成されている。
【0027】
例4において、例2又は3のいずれかの医療システムであって、前記コントローラはインプラント可能な測定デバイスに関連付けられている。
【0028】
例5において、例2~4のいずれか1つの医療システムであって、前記コントローラは、患者の外部に配置されるように構成されたモニタリングシステムに関連付けられている。
【0029】
例6において、例1~5のいずれか1つの医療システムであって、前記生理学的測定は血圧測定を含む。
【0030】
例7において、例1~6のいずれか1つの医療システムであって、前記生理学的測定は血液温度及び酸素飽和度測定うちの少なくとも1つを含む。
【0031】
例8において、患者の心不全状態を評価する方法であって、前記方法は、患者の心臓の右側で行われる生理学的測定の第一のセットに基づく第一の測定データを受信すること、ここで、前記第一の測定データは、インプラントされた測定システムから送信される、心臓の左側で行われる生理学的測定の第二のセットに基づく第二の測定データを受信すること、ここで、前記第二の測定データは、インプラントされた測定システムから送信される、及び、受信された第一の測定データ及び第二の測定データを表示デバイスに出力することを含む。
【0032】
例9において、例8の方法であって、前記第一の測定データ及び第二の測定データに基づいて、生理学的測定の第一のセット及び第二のセットのそれぞれがより低い傾向であるか又はより高い傾向であるかを決定することをさらに含む。
【0033】
例10において、例8~9のいずれか1つの方法であって、受信された第一の測定データ及び第二の測定データに基づいて薬理学的治療計画を変更するかどうかを決定することをさらに含む。
【0034】
例11において、例8~10のいずれか1つの方法であって、インプラントされた測定システムは複数のセンサを含み、生理学的測定の第一のセット及び第二のセットは前記複数のセンサを使用して行われる。
【0035】
例12において、例8~11のいずれか1つの方法であって、前記生理学的測定は血圧測定を含む。
【0036】
例13において、例8~12のいずれか1つの方法であって、前記生理学的測定は血液温度及び酸素飽和度測定のうちの少なくとも1つを含む。
【0037】
例14において、例12~13のいずれか1つの方法であって、前記センサは左心房及び右心房において血圧測定を行う。
【0038】
例15において、例8~14のいずれかの方法であって、前記生理学的測定の第一のセット及び第二のセットがどのように傾向を示しているかの決定に基づいて、どの推奨投薬及びその投与量であるかについての指示を表示することをさらに含む方法。
【0039】
例16において、患者の薬理学的管理への変更を通知する方法は、患者の心臓の右側充満圧を表す血行動態的測定の第一のセットに基づいて第一の測定データを取得すること、ここで、前記第一の測定データは、インプラントされた測定システムから送信される、患者の心臓の左側充満圧を表す血行動態的測定の第二のセットに基づいて第二の測定データを取得すること、ここで、前記第二の測定データは、インプラントされた測定システムから送信される、及び、前記第一の測定データ及び第二の測定データに基づいて、生理学的測定の第一のセット及び第二のセットのそれぞれが、より低い傾向であるか又はより高い傾向であるかを決定することを含む。
【0040】
例17において、例16の方法であって、患者は心不全、腎不全又はその両方に罹患している。
【0041】
上述の例はまさに実施例であり、本開示によって他の方法で提供される本発明の概念のいずれかの範囲を制限又は他の方法で狭めるように読まれるべきではない。複数の例が開示されているが、さらに他の実施形態は、例示的な実施例を示して記載する以下の詳細な説明から当業者に明らかになるであろう。したがって、図面及び詳細な説明は、本質的に限定的なものではなく、本質的に例示的なものと考えられるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図面の簡単な説明
添付の図面は、本開示のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に取り込まれ、その一部を構成し、実施形態を示し、記載とともに、本開示の原理を説明するのに役立つ。
【0043】
【
図1A】
図1Aは、起こり得る再入院事象に先行する様々な段階における患者の心臓の健康の症状及び測定方法を示す時系列の図である。
【0044】
【
図1B】
図1Bは、本明細書で論じられるように、従来技術の測定デバイス(スワンガンツ右心臓カテーテル)を使用する患者の心臓及び肺の概略図である。
【0045】
【
図2】
図2は、幾つかの実施形態による測定デバイスを使用する心臓の断面図である。
【0046】
【
図3】
図3は、幾つかの実施形態による測定デバイスを使用する心臓の断面図である。
【0047】
【0048】
【0049】
【
図6】
図6は、幾つかの実施形態による、測定デバイスを使用する患者の心臓及び肺の概略図である。
【0050】
【
図7】
図7は、幾つかの実施形態による、別の測定デバイスを使用する患者の心臓及び肺の概略図である。
【0051】
【
図8】
図8は、幾つかの実施形態による測定デバイスの拡大図である。
【0052】
【
図9】
図9は、
図8の測定デバイスにおける右心房電子機器の内容物の断面図である。
【0053】
【
図10】
図10は、
図8の測定デバイスにおける左心房電子機器の内容物の断面図である。
【0054】
【
図11】
図11は、幾つかの実施形態による測定デバイスの拡大図である。
【0055】
【
図12】
図12は、
図11の測定デバイスにおける右心房電子機器の内容物の2つの例の断面図である。
【0056】
【0057】
【
図14】
図14は、幾つかの実施形態による測定デバイスを使用する心臓の断面図であり、ここで、測定デバイスの一部は経中隔針によって穿刺されている。
【0058】
【0059】
【
図16】
図16は、幾つかの実施形態による別の測定デバイスの拡大図であり、ここで、測定デバイスの一部は経中隔針によって穿刺されている。
【0060】
【
図17】
図17は、幾つかの実施形態による測定デバイスで使用されるメッシュ構成の拡大図である。
【0061】
【
図18】
図18は、幾つかの実施形態による、測定デバイス用の外部リーダーデバイス用のウェアラブルハーネスの概略図である。
【0062】
【
図19】
図19は、幾つかの実施形態による、ワイヤにつながれたセンサを含む針を備えた注射器又はカテーテルの概略図である。
【0063】
【
図20】
図20は、幾つかの実施形態による、皮下インプラントに接続されたセンサの概略図である。
【0064】
【
図21】
図21は、幾つかの実施形態による、プレジェットを使用してインプラントされそして固定化されたセンサを備えた心臓の断面図である。
【0065】
【
図22】
図22は、幾つかの実施形態による、患者の体内における皮下インプラントの位置の1つの例を示す。
【0066】
【
図23】
図23は、幾つかの実施形態による、圧力測定に基づいて取られる必要がある行動を決定するための方法のブロック図を示す。
【0067】
【
図24】
図24は、
図23の方法によって実施されるとおりの2セットの測定データを使用する薬物投与参照表を示す。
【発明を実施するための形態】
【0068】
詳細な説明
定義及び用語
本開示は、限定的な方法で読まれることを意図するものではない。例えば、本出願で使用される用語は、その分野の用語がそのような用語に帰する意味の文脈で広く読まれるべきである。
【0069】
測定範囲に関して本明細書で使用される用語として、「約」及び「ほぼ」は、交換可能に、記載された測定値を含み、また、記載された測定値に合理的に近い測定値を含む測定値を指すために使用されうるが、測定誤差、測定及び/又は製造装置の校正の違い、測定値の読み取り及び/又は設定の人的誤差、他の構成要素に関連する測定値の違いを考慮して性能及び/又は構造パラメータを最適化するために行われた調整、特定の実装シナリオ、人又は機械による対象の不正確な調整及び/又は操作などに起因することが、関連技術の当業者によって理解され、容易に確認されるように合理的に少量だけ異なることができる。
【0070】
本明細書では、便宜上、特定の用語を使用している。例えば、「上(top)」、「下(bottom)」、「上(upper)」、「下(lower)」、「左(left)」、「右(right)」、「水平(horizontal)」、「垂直(vertical)」、「上向き(upward)」、「下向き(downward)」などの単語は、図面に示される構成又は取り付け位置での部品の向きを単に説明するものである。実際、参照される構成要素は、任意の方向に向けることができる。同様に、プロセス又は方法が示され又は記載される本開示全体を通して、方法は最初に実行される特定の動作に依存することが文脈から明らかでない限り、方法は任意の順序で又は同時に行われることができる。
【0071】
様々な実施形態の説明
本開示の様々な態様は、心臓の左側及び右側で生理学的測定を行うためのデバイスなどのインプラント可能なメディカルデバイスを対象とする。特定の例において、本開示の様々な態様は、圧力測定を行うための方法及び装置に関する。さらに、本開示はまた、行われる測定に基づいて患者への薬物の投与を決定するための医療システムを含む。
【0072】
先行技術の測定デバイスにおいて、心臓の左側の内部に測定センサをインプラントすることに関連するリスクのために、左心室を直接測定する代わりに代理測定を選択する。心臓の左側は肺から酸素化された血液を取り、それを体の残りの部分に分配し、一方、心臓の右側は脱酸素化された血液を体から肺に運ぶ。センサが心臓内にインプラントされると、インプラントされたセンサの表面に血餅が形成されることがある。血管内に形成された血餅は血栓と呼ばれる。時折、血栓が壊れて体の異なる部分に移動することがある。血栓が小さすぎて通過できない血管に留まり、その中の血流を遮断するときに、留まった血栓は塞栓と呼ばれる。塞栓によりなされる損傷は、その場所によって異なる。センサが心臓の右側にあるならば、塞栓は肺に移動するであろうが、センサが左側にあるならば、塞栓は体の任意の部分に移動する可能性がある。この状況での最悪のシナリオの中には、塞栓が脳につながる動脈に留まり、血流を遮断して、アテローム血栓性脳卒中を引き起こす場合がある。さらに、上記の従来技術のデバイスはいずれも、心臓の2つの異なる部分の圧力を同時に測定することができないようであり、代わりに、測定デバイスが実装されている単一の領域の圧力のみを測定する。そのため、より安全でより正確な測定デバイスが必要とされてきた。
【0073】
図2は、本開示による測定デバイス41の実施形態を示している。測定デバイスは、右側感知要素10及び左側感知要素11を有し、これらは両方とも、それらが統合されているそれぞれの側における圧力レベルを感知及び測定する。例えば、この例において、右側感知要素10は、右心房1の圧力レベルを測定し、一方、左側感知要素11は、患者の心臓の左心房3の圧力レベルを測定する。圧力感知要素10、11は、心臓内圧力レベルを測定するために、MEMS技術又は他の圧力測定手段を適宜に組み込むことができる。
【0074】
示されるように、測定デバイス41は、測定デバイス41を所定の位置に保持するのを助けるために一緒に働く、右側固定ディスク8及び左側固定ディスク9を有する。図に示されているように、2つのディスク8、9は、2つの心房1、3の間に心房中隔5を挟むように設計されている(例えば、互いに向かい合って両側に能動的に係合するか又は接触するかのいずれか)。測定デバイス41の配置は、カテーテル処置及び中隔穿刺とともに達成することができる。感知要素10、11は、心房中隔に固定され、心房中隔を横切って延在する様々なデバイスとともに利用されうる。適切な例は、US9949728「センタリングメカニズムを備えた中隔閉鎖デバイス」、US20170042705「改善された水性界面特性を備えたインプラント可能な製品及びそれを製造及び使用するための方法」、US9861346「直線的に伸びる花びらを備えた卵円孔開存(PFO)閉鎖デバイス」、 US9636094「シーリングデバイス及びデリバリーシステム」及びUS20170105711「シーリングデバイス及びデリバリーシステム」を含む、出願人の様々な特許開示に見出すことができる。
【0075】
図2の例において、測定デバイス41は、固定ディスク8、9がオクルーダとして機能するために、手術後に穴を残さない。測定デバイス41は、より良い組織統合、減少した侵食、減少した血栓形成又は他の有益な特徴を含む様々な理由のいずれかのために、組織の内部成長(例えば、固定ディスク8、9中へ)を促進するように構成されうる。血栓形成の軽減は、心臓の左側で特に重要になる可能性がある。幾つかの構成において、測定デバイス41は、左側感知要素11が比較的に低プロファイルである(例えば、プロファイルが比較的に平坦である)ように構成される。比較的に低プロファイルであることは、血栓形成の可能性を減らすのに役立つことができる。幾つかの例において、左側感知要素11の適切な機能を依然として可能にしながら、センサ上のある程度の組織の過形成も許容されうる。例えば、左側(例えば、左心房)の圧力は、必要ならば、組織の比較的に薄い層を通して読むことができる。
【0076】
図3は、本開示による測定デバイス42の別の実施形態を示している。
図2に示される固定ディスク8、9及び感知要素10、11に加えて、それぞれの心室内に延在する感知テザー12、14も存在する。具体的には、右心室感知テザー12は、測定デバイス42の右側から(例えば、右側感知要素10から)右心室内に延在している。遠隔右心室感知要素13は、右心室壁に取り付けられることができる(例えば、軟組織アンカー及び/又は組織内部成長特徴部を使用して)。遠隔右心室感知要素13は、右心室内の圧力を測定するように構成されている。
【0077】
同様に、左心室感知テザー14は、測定デバイス42の左側から(例えば、左側感知要素11から)左心室内に延在している。遠隔左心室感知要素15は、左心室壁に取り付けられることができる(例えば、軟組織アンカー及び/又は組織内部成長特徴部を使用して)。遠隔左心室感知要素15は、左心室内の圧力を測定するように構成されている。
【0078】
遠隔感知要素13、15は、感知要素10、11とは心臓の異なる部分の圧力を測定するように構成されている。少なくともこのように、測定デバイス42は、分析のために追加の測定データ(例えば、左心室圧データ及び右心室圧データ)を提供するように構成されている。感知テザー12、14は、右心房と右心室との間に存在する弁(三尖弁)及び左心房と左心室との間に存在する弁(僧帽弁)の交連を通って延在するように構成又はさもなければ配置されうる。
図4及び5は、感知テザー12、14の任意選択的な位置を示し、これは、感知テザー12、14がそれぞれの心室に到達するように延在する三尖弁7(
図4)又は僧帽弁6(
図5)の弁尖の間に位置する交連59に隣接する位置を含む。様々な例において、交連59に隣接してテザー12、14を配置することにより、弁機能及びI又は血栓形成の可能性に対するテザーの影響を低減することができる。
【0079】
1つの例において、追加のセンサを感知テザー12、14に組み込むことができる。別の例において、追加のセンサは、テザー12、14にかかる力、すなわち引張応力を測定するために、テザー取り付け点で測定デバイス42の他の要素に実装されうる。テザー12、14にかかる力は、心臓内の局所血流速度の指標として使用することができ、この測定データは、それ自体で、又は他の測定パラメータと組み合わせて使用して、患者の心機能を評価することができる。テザー12、14に対するそのような力を測定することの利点は、僧帽弁流入速度、三尖弁流及び潜在的な逆流の重大度などの心機能に関連する指標として機能するデータを取得することができる能力を含み、それらは他の測定手段を使用して検出することが困難である場合がる。この力を正確に測定するために、この例のテザー12、14及び遠隔感知要素13、15は、少なくとも部分的に自由に浮遊している(すなわち、心房又は心室の壁に取り付けられていない)。圧力及び/又は力を測定することに加えて、又はその代わりに、様々な感知要素は温度を測定するように構成されうる(例えば、1つ以上のサーミスタ要素を含むことによる)。温度感知能力を含めることにより、冷ボーラス(例えば、流体)を心臓系に導入することができ、温度均等化の速度を使用して、心臓内の様々な位置での心拍出量を決定することができる。冷液ボーラスを利用する方法とは対照的に、様々な例としては、肺から戻る血液から温度が等しくなる速度を測定するために、肺に冷気ボーラスを使用することが挙げられる。
【0080】
図6は、心拍出量がどのように影響を受けるかを示し、したがって、幾つかの実施形態により、冷気ボーラス及び左心房センサ又はサーミスタ21を用いた熱希釈によって測定することができるかを示す。最初に、冷気ボーラス24を肺22に注入する(例えば、患者の気管23を介して冷気のボーラスの吸入を肺に導入することによる)。次に、より暖かい脱酸素化された血液26が肺動脈16を通って肺に入り、次に、酸素化中に冷気ボーラス24によって冷却されるときに、熱交換25が行われる。その後に、より冷たい酸素化された血液27は、肺静脈17を通って肺を出て左心房3に入り、そこで、左側固定ディスク9を使用して固定化されたサーミスタ21は、左心房3内の温度を測定する。より多くの血液が流れると、左心房3内の温度は血流が少ないときよりも早く正常温度に戻る。したがって、この場合の冷気の吸入は、左心房3内の血液温度の初期低下を決定するために使用でき、これを使用して、温度が正常に戻るまでの時間と相関させる。温度が正常に戻る速度は心拍出量と相関関係がある。
【0081】
さらなる追加又は代替の特徴として、1つ以上の02センサは、感知要素10、11の第一の対及び感知要素13、15の遠隔の第二の対のうちの1つ以上に含まれることができる。
図7は、肺を通る心臓の右側から左側への血流の図を示しており、0
2血液飽和センサ28、29を介して(例えば、フィックの法則を使用して)心拍出量を測定する方法を記載するために使用できる。様々な例によれば、右0
2飽和センサ28は、右心房1に配置され(例えば、右側固定ディスク8を使用して固定化された感知要素10に関連する)、左0
2飽和センサ29は、左心房3に配置され(例えば、左側固定ディスク9を使用して固定化された感知要素11に関連する)、それぞれの測定領域におけるSv0
2及びSa0
2レベルを測定する。
【0082】
フィックの法則は、患者の心臓への血流は、マーカー物質、この例においては酸素(02)を使用して計算できることを示している。このような計算を行うために必要なデータとしては、単位時間あたりに心臓が取り込む酸素の量、肺動脈の02血中飽和度及び肺静脈の02血中飽和度が挙げられる。この例において、肺動脈16の02血中飽和度は右心房1で測定され、肺静脈17の02血中飽和度は左心房3で測定される。計算のための他のデータとしては、最大酸素摂取量(V02 max)を挙げることができ、これは増分運動中に測定される酸素消費の最大速度であり、ヘモグロビンテストは、動脈及び静脈百分率と組み合わせて酸素濃度を決定する。
【0083】
上記に説明したように、本明細書に開示される実施形態では、様々なセンサ(例えば、圧力、流量、温度及び/又は02)を実装することができ、各測定値は、患者の心臓の健康に関する重要なデータに寄与する。センサ自体は、当業者によって適切であると見なされるように、患者の心臓内に実装されるべき様々な形状及びサイズにすることができる。
【0084】
図8~10は、可能なセンサ要素構成の追加の詳細を示している。
図8に示されるように、測定デバイス43は、右心房電子機器37に含まれる右心房感知要素30と、左心房電子機器38に含まれる左心房感知要素31とを有する。
図8に示されるように、電子機器37、38はそれぞれの固定ディスク8、9に取り付けられている。
図9は、電子機器37、38の両方が、固定ディスク8、9に対して、ケース36の近位部分34に制御モジュール33(例えば、プリント回路基板)を含むことを示している。ケース36は、チタン、ステンレス鋼又は他の適切な材料から作られていることができる。右心房電子機器37は、右心房感知要素30及びアンテナコイル35をさらに含む。左心房電子機器38は、左心房感知要素31及び電源32(例えば、電池及び/又は誘導電源)をさらに含む。この構成において、
図18の外部充電器及び通信リレー70などの外部リーダーデバイスは、電源32を充電するとともに、電子機器37、38と通信して、制御モジュール33に実装されたメモリに格納された測定データを取得する。
【0085】
制御モジュール33は、測定が血圧、温度及び/又は酸素飽和度測定であるかどうかにかかわらず、心臓の異なる部分(例えば、各チャンバ)内で測定を行うための一連の工程を実施するように構成され、そして外部リーダーデバイスがデータにアクセス(通常はワイヤレス)できるようになるまでデータを格納するように設計できる。さらに、電源32は、この実装で使用することができる任意の適切な電源であることができる。例えば、電源は、外部リーダーデバイスが患者の体外から電源を遠隔的に充電できるように、電源の誘導充電を可能にする充電コイルに結合することができ、これにより、一度電力が不足したときに、電源を交換する必要性が低減する。例えば、アンテナコイル35は、リレー/通信機能を行うことに加えて、充電コイルとして使用されることができる。
【0086】
図11~13は、様々な例で使用できる様々な構成を示している。示されるように、測定デバイス44の左心房電子機器38は、左心房感知要素31(例えば、温度及び/又は0
2を感知する)のみを含む。デバイスの左側にある構成要素/要素の数を最小限に抑えると、デバイスの全体的なサイズと、それに関連する左心房内の異物の量を最小限に抑えるのを支援することができる。上記のように、これは血栓形成及び異物反応の可能性を減らすことができる。したがって、様々な例において(例えば、構成39Bの挿入図に示されるように)、右心房電子機器37は、感知要素31、任意の関連するデータ格納要素、より一般的には制御モジュール33に電力を供給するための電源32を含む。
図12の挿入図の構成39Aに示されるような別の例において、右心房電子機器37はオンボード電源を含まない。そのような実施形態において、測定データは、外部リーダーデバイスが測定デバイス44に電力を供給するために係合されているときにのみ取得されうる(例えば、誘導電力を使用して感知要素30、31及び制御モジュール33を活性化する)。
【0087】
様々な例において、1つ以上の測定デバイス41、42、43、44(例えば、固定ディスク8、9の一方又は両方)は、有窓であるか、又は、移植後の外科用器具(例えば、経中隔針)により交差されるように構成されている。
図14及び15は、固定ディスク8、9の表面を貫通するカテーテルシース50の端部に取り付けられた穿刺針51を示しており、測定デバイス45が再交差可能であることを示している(例えば、針、次いでシースにより貫通可能である)。
【0088】
特定の手順又は操作中、測定デバイス45が心房1、3の間の心房中隔5に実装される場合でも、左心房3に入ることは必須である可能性がある。そのような例において、測定デバイス45は、穿刺針51が手順を行うためにこれらの表面を貫通することができるように、固定ディスク8、9に再交差可能な表面を有するように構成されている。
図14は、下大静脈53から右心房1に入る針51及びカテーテルシース50を示しているが、幾つかの例において、必要に応じて上大静脈52から右心房1に入ることができる。この実施形態において、固定ディスク8、9の表面は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)膜54などの安全に貫通できる材料を含むが、他の適切な材料を実装して再交差能力を提供することができる。固定ディスク9の外縁は、左側感知要素11から外縁まで半径方向に拡張するニチノールフレーム55によって画定されるが、他の適切な材料も同様にフレームに使用されうる。針51は、カテーテルシース50が通過することを可能にするために、膜54に穿刺穴56を形成する。
【0089】
図16は、測定デバイス46の左側感知要素60が左側固定ディスク9の一部に配置されている、本明細書に開示されるとおりの別の実施形態を示す。例えば、左側感知要素60は、左側固定ディスク9のフレーム(例えば、中央アイレット又は外側フレーム)とは対照的に、左側固定ディスク9の膜材料(例えば、ePTFE膜54)上に配置されうる。この実施形態において、左側感知要素60は、膜54に結合されて、感知要素60が隔壁から外向きに突出するのを防ぐのを支援するか、又は、左側感知要素60が測定デバイス46から隔壁から突出する量を減らすのを支援する。この実施形態において、アンテナコイル61は、固定ディスク9に実装されている。示されるように、感知要素60は、アンテナコイル61に取り付けられ、アンテナコイル61は、ePTFE膜54の周りに巻き付けられて、左側固定ディスク9の外縁を形成し、それによって、左側固定ディスク9の周囲を画定する。追加の実施形態は、左側感知要素60が隔壁から突出する量をさらに減らすことができる。例えば、1つの実施形態において、左側固定ディスク9は、左側感知要素60の外面を周囲の隔壁の表面と実質的に同一平面上に位置合わせするのに役立つ小さな組織固定構造と交換することができ、その結果、感知要素60は、隔壁から目に見えて突出しない。例えば、小さなフック又は他の適切な構造を実装して、左側感知要素60を所定の位置に保持することができる。別の実施形態において、カバー又は他の同様の構成要素を左側感知要素60の上に使用して、感知要素が実質的に左心房に突出するのを防ぐことができる。カバーは、低温等方性(LTI)カーボン及びダイヤモンド様カーボン(DLC、又は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、延伸PTFE、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリマーなどの化学的に不活性な材料から作られることができる。幾つかの例において、カバーは、感知要素上の組織の内部成長を促進するために、左側感知要素60の上に配置された薄いフィルムであることができる。
【0090】
図17は、左側固定ディスク62が、左及び/又は右ディスクを画定するメッシュ設計に構成されたフレーム(例えば、ニチノール)を使用する、メディカルデバイス46の別の可能性のある構成を示している。
図17の構成は、カバー又は膜54(例えば、ePTFE)を使用しても又はしなくてもよい。再交差可能な表面は、フレーム要素の間に適合するのに適したフレンチゲージ(例えば、最大24Fr)を備えたカテーテルが、電子機器に干渉することなく、固定ディスクを通り抜けることができるように設計されている。また、図に示される固定ディスクは、構造が比較的に平坦で円形であるが、本明細書に記載の固定ディスク構成のいずれも、他の形状(例えば、矩形、三角形など)を使用することもできることを理解されたい。さらに、固定ディスクは、固定ディスクが係合される心臓内の表面を画定する様々な輪郭に対応するために、湾曲した側面プロファイル(例えば、凹面及び/又は凸面)で構成されうる。
【0091】
1つの実施形態において、測定デバイス45、46はまた、心房内シャント、制御可能な心房内シャント、心房中隔欠損症(ADS)などのためのオクルーダなどの治療デバイスとして機能することができる。測定デバイス45、46は、左心房と右心房との間の心房中隔に位置し、膜54は、介入的又は非侵襲的手順を介して開くことができるので、そのような制御可能なシャントとして機能することができる。したがって、膜54は、制御可能なシャントを作動させるための異なる手順中に適切なツールを使用して、拡張、収縮、開放、閉鎖、開窓、密封、穿刺、再密封、横断又は交差されることができる。上記のように膜54に穿刺穴56を作るための針の使用は、介入手順の一例である。他の介入手順としては、機械的、熱的、レーザ、超音波及び誘導法が挙げられる。一方、穴の開放は、誘導エネルギー伝達及び超音波エネルギー伝達を含む、ワイヤレスの体外エネルギー供給によってトリガーされうる。1つの実施形態において、膜54を熱又は超音波エネルギーに、すなわち熱活性化を介して曝露した後に、膜54を溶融して開口部を形成することができる。膜54に開口部を有することの利点としては、測定デバイス45、46が左心房と右心房との間に配置されているときに、左心房圧を、生命を脅かすレベルに上昇したときに低下させることが挙げられる。この構成の1つの利点は、開口部が形成された後でも、測定デバイス45、46が2つの心房内で測定を継続できることである。シャントのサイズは、必要な圧力解放の程度に基づいて調整できる。例えば、圧力が正常レベルよりも有意に高く、圧力を即座に下げなければならないならば、シャントを大きく開くことができる。シャントが機械的穿刺又は熱アブレージョンによって開かれると、塞栓形成も防ぐことができる。さらに、膜54が閾値圧力レベルを超えてシャントを形成するために開くように、感圧弁を測定デバイス45、46に実装することができる。別の例において、弁はまた、その状態(すなわち、シャントが弁内で開いているか又は閉じているか、ならびにシャント内の開放の程度)を追跡及び送信することができ、それは心臓内の圧力差の指標として機能することができる。したがって、弁からデータを受信する遠隔モニタリングシステム(例えば、
図18の遠隔デバイス72)は、弁の状態データを使用して、左心房と右心房との間の圧力差を決定することができる。
【0092】
図18は、幾つかの例による外部充電及び通信リレーの例を示している。示されるように、外部充電器及び通信リレー70は、電磁誘導を介して測定デバイスの電源(例えば、測定デバイス43、44の電池32)を充電し又はそれに電力供給することができ、また、測定データを取得するための測定デバイス43又は44と通信することができるデバイスである。外部充電器及び通信リレー70は、充電器及びリレー70の位置が、充電器及びリレー70を充電して測定デバイスからデータを取得するための動作可能な位置に配置されるように(例えば、ハーネス71を使用して)装着されうる。スマートフォンなどのスマートデバイスであることができるモニタリングシステム72は、モニタリングシステム中のアプリケーションソフトウェアを介して測定データに関する情報を受信するために、患者又は他の当事者(例えば、医療サービス提供者又は遠隔モニタリング施設)によって使用されうる。例えば、遠隔デバイス72は、単純でユーザーフレンドリーなインターフェースで、血圧、温度及び/又は酸素飽和度を視覚的に示すことができる。患者が視覚障害を持っているか又は音声通知を好む場合に、遠隔デバイス72は、センサ測定が、患者の心臓が急性代償不全発症のリスクがある可能性があることを示した場合に患者に警告する音声出力を提供し、それにより、患者がさらなる検査のために病院に行くことができる。遠隔デバイス72はまた、測定データをサーバー(図示せず)にアップロードして、医療サービス提供者又はデータベースによって収集され、患者の心臓の状態を遠隔的にモニタリングすることができる。
【0093】
少なくとも上述に基づいて、様々なセンサ位置が考えられ、任意の組み合わせで実施されうることが理解されるべきである。
【0094】
例えば、左心室圧を測定するために、テザー付きセンサを、左側固定ディスクから僧帽弁尖の間に、そして左心室に送ることができ、そこで組織の内部成長は左心室の壁にセンサを実装させることができる。センサは左心室の収縮期血圧及び拡張期血圧を直接測定し、それは、また、収縮期の全身血圧の直接的な指示を与える。
【0095】
大動脈圧を測定するために、テザー付きセンサを、左側固定ディスクから僧帽弁尖の間、大動脈弁を通って大動脈に送ることができ、そこでセンサは大動脈の壁に固定される。この配置により、収縮期血圧及び拡張期血圧の直接的な指示を与える大動脈圧の直接測定が可能になる。
【0096】
右心室圧を測定するために、テザー付きセンサを、右側固定ディスクから三尖弁尖の間に、そして右心室に送ることができ、そこで組織の内部成長は右心室の壁にセンサを実装させることができる。センサは、収縮期及び拡張期の右心室圧の直接的な指示を与える右心室圧を直接測定する。
【0097】
肺動脈圧を測定するために、テザー付きセンサを、右側固定ディスクから三尖弁尖の間、肺動脈弁を通って、肺動脈に送ることができ、それはそこで固定される。この配置により、肺の収縮期圧及び拡張期圧を介した肺の状態の直接的な指示を与える肺動脈圧の直接測定が可能になる。
【0098】
さらに、左心房圧及び右心房圧を測定するインプラント済みのデバイスは、他のメディカルデバイスと組み合わせて使用することができる。そのようなメディカルデバイスの例としては、限定するわけではないが、幾つか例を挙げると、血圧計カフ、パルスオキシメータ、体重計、クレアチニン検査機器、スマートデバイス及びウェアラブル医療追跡デバイスが挙げられる。測定デバイス41はまた、心室補助デバイス(VAD)、ドラッグデリバリーシャント又はシステム、又は、他のデバイスなどの他のインプラント可能なデバイスと組み合わせることができる。測定デバイス41は、閉ループ又は開ループフィードバックシステムの一部として、他のインプラント可能なデバイスにフィードバックを提供することができる。
【0099】
図19~22は、追加のセンサ要素の例、ならびに関連するデリバリーシステム及び方法を示している。示されるように、左側感知要素11はテザー80と結合されることができ、センサ要素11及びテザー80は、
図19に概略的に示される針デリバリーシステム81を介してデリバリーされるように構成されている。一般に、デリバリーシステム81は、カテーテル及び前記カテーテルの遠位端の関連するデリバリー針82を含むことができ、それは、(例えば、超音波、レントゲン写真、光学的又は他のガイダンスを介して)体内の標的領域にアクセスするために使用される。例えば、針は、心臓の壁(例えば、左心房壁)を穿刺するために使用されることができ、そして左側感知要素11は、針82を通って標的空間(例えば、左心房)に進められることができる。次に、針82を後退させることができ、そして感知要素11を心臓の内壁(例えば、左心房を画定する内壁)に対して引っ張り、又は張力をかけることができる。プレジェット又は他のアンカー84は、感知要素11から心臓壁の反対側の位置(例えば、感知要素11の位置に近接した心臓の外壁上の位置)まで(例えば、テザー80を越えて)前進させることができ、それにより、感知要素11を所定の位置に固定するのを支援することができる(例えば、
図21に示されるとおり)。テザー80は、
図20に示されるように、電力、信号処理及びデータ送信機能を取り扱う皮下インプラント83に接続されうる。
【0100】
皮下インプラント83は、データ収集及び通信機能を制御するのを支援するために、電池、アンテナ及び制御モジュール(例えば、マイクロチップ)を含むことができる。1つの例において、測定デバイス47は、針82によって残された開窓を充填するのを支援するために、感知要素11とプレジェット84との間に配置されるプラグ85を含むことができる。
【0101】
図22は、感知要素11の反対側のテザー80のもう一方の端にある皮下インプラント83を示している。左側感知要素11と同様の複数のセンサ要素は、医療サービス提供者によって適切であると認められるように、心臓の任意の異なる部分に配置されうる。例えば、左側感知要素11が左心房に配置された後に、右側感知要素10などの別の感知要素は、感知要素11を左心房に配置するために使用されるのと同一の技術を用いて、右心房に実装されうる。別の同様の感知要素は、所望に応じて、左心室、右心室又は心臓又は血管系の他の任意の位置にインプラントされうる。したがって、心臓の壁を貫通することによって任意の数のセンサ要素を実装することができ、心臓の任意のチャンバ又は関連する血管系における測定(圧力、温度及び/又は酸素飽和度)を行うことができる。
【0102】
センサ要素に関連するテザーは、所望に応じて、同じ皮下インプラント又は異なる皮下インプラントに結合されうる。データ受信及び通信機能を備えた単一の皮下インプラントであろうと、又は、様々な皮下インプラントであろうと、任意の位置の組み合わせ(例えば、左心房、右心房、左心室及び/又は右心室)での測定(圧力、温度及び/又は酸素飽和度)の任意の組み合わせが、
図19~22に関連して記載されたテザー付きセンサ要素を使用して実現されうることを理解されたい。
【0103】
本明細書に記載の感知要素10、11、13、15を使用して得られた圧力測定データは、患者の心拍出量を測定するために使用される別の方法であるパルス輪郭法を行うために使用することができる。この方法は、連続圧力測定データを使用して患者の心臓の圧力対時間のグラフをプロットし、その後に、圧力積分、つまり圧力対時間のグラフ上にプロットされた線の下の面積を使用して、測定されている心臓の部分の心拍出量(SV)を決定する。SVに心拍数を掛けた値が心拍出量である。
【0104】
図23は、例えば、測定デバイス41又は本明細書に記載の任意のセンサ要素から受信した測定データを使用して、モニタリングシステム72などの1つ以上の電子デバイスを使用して実施できる遠隔医療モニタリング方法99を示すフローチャートである。幾つかの例において、方法99は、左心不全の病歴を有する患者に使用され、測定された右心及び左心の生理学的測定基準(例えば、圧力、温度及び/又は酸素飽和度)によって導かれる治療プロトコルを決定する。
【0105】
関係なく、幾つかの実施形態において、任意選択的な第一の工程90において、サービス提供者は、治療を受けている患者が左心(LH)又は右心(RH)/両心室不全のいずれかの病歴を有するかどうかを決定する。方法99は、病歴に関係なく、医療サービス提供者によって決定して、LH又はRH/両心室不全のリスクを有する患者に使用することができる。任意選択的な工程91において、医療サービス提供者は、患者に対して様々な試験を行って、現在の患者の状態に基づいて何が正常なレベル(圧力、心拍出量及び/又は酸素飽和度)を決定することにより、急性状況で適用可能な生理学的測定基準(例えば、左心房圧及び右心房圧)のベースライン「正常」レベルを設定する。次に、ベースライン値をシステムに入力することができ、前記システムはデータをモニタリングシステム72に転送する。この図に示される例において、測定される圧力は、左心房圧(LAP)及び右心房圧(RAP)である。他の実施形態は、医療サービス提供者によって適切であると認められるとおりの心臓の他の部分の他の測定を含むことができる。
【0106】
幾つかの例において、モニタリングシステム72は、工程92で、右側感知要素10及び左側感知要素11などのセンサからRAP及びLAP測定値を受信する。1つの実施形態において、測定は、右心房及び左心房の圧力値が、正常レベルより下、正常レベル又は正常レベルより上に傾向があるかどうかを含む。別の例において、この方法はまた、全体的な評価への追加の入力として、圧力値が増加しているか、減少しているか又は安定したままであるかどうかを考慮することができる。
【0107】
任意選択的な工程93において、モニタリングシステム72は、患者がLH又はRH /両心室不全の病歴を有するかどうかを確認する。モニタリングシステム72は、場合により、
図24の薬物投与参照表100を使用して、工程94で、特定の薬剤の投与量を増やす必要があるか又は減らす必要があるかを判断しそして示す。あるいは、医療サービス提供者(例えば、医師)は、場合により、データを直接使用して、適切な治療計画(例えば、薬理学的)が何であるかを表100の方法論を使用したデータに基づいて評価する。
【0108】
示されるように、表100は、3つの列及び3つの行を有し、列は「正常より低い傾向のRAP」101、「正常の傾向のRAP」102及び「正常より高い傾向のRAP」103に関係し、列は 「正常より低い傾向のLAP」104、「正常の傾向のLAP」105及び「正常より高い傾向のLAP」106に関係する。例えば、もしRAPが正常より低い傾向にあるが、LAPが正常より高い傾向にあるならば、方法は、表100に従って「血管拡張薬の増加」という工程を含む。自動化されたならば、一貫した「メッセージ」又は通信がモニタリングシステムのユーザに中継されうる。一方、RAPも正常より高い傾向にあるならば、方法は「利尿薬の増加」という工程を含む。この場合も、自動化されているならば、一貫した「メッセージ」又は通信がモニタリングシステムのユーザに中継されうる。LAP値及びRAP値が両方とも正常レベル(すなわち、「LAP正常」行及び「RAP正常」列で定義されたボックス)にあるならば、1つの方法は薬剤を全く変更しないことを含むことに留意されたい。
【0109】
当初投薬が行われた後に、方法99は、工程95において、RAPが依然として正常よりも高い傾向にあるかどうか、及びRAP値が利尿薬の影響を受けないかどうかを確認することを含む。これは上記の第二の例で起こることができ、ここで、LAP及びRAPはどちらも正常よりも高い傾向にあるため、患者に投与される利尿薬の量を増加するが、その後のRAPの測定は、この圧力が依然として正常より高いことを示す。この例において、モニタリングシステム72は、工程96で指示を表示することができ、RH不全の潜在的な診断のために患者を連れてくるように医療サービス提供者に指示する(又は医療サービス提供者は、データに基づいて工程96を実行することができる)。高RAPの他の考えられる原因の中には、原発性肺動脈性肺高血圧症がある。医療サービス提供者がこれらの状態の可能な診断について患者を試験するときに、医療サービス提供者は「RAP正常」レベルの新しいベースライン値範囲を設定し、RH/両心室不全の病歴があるとして患者のステータスを更新して先に進めることができ、この方法は、将来、工程95ではなく工程97に進む。さもなければ、もしRAPが正常レベルに低下するならば、モニタリングシステム72は、場合により、工程92に戻って、後続のRAP及びLAP測定を行う。
【0110】
工程93に戻り、もしモニタリングシステム72(又は医療サービス提供者)が、患者がRH/両心室不全の病歴を有することを確認したならば、方法99は、表100に示した分析に基づいて、どの薬剤を増加又は減少させるかを決定した後に、工程97に進む。工程97において、方法99は、工程94で投与された薬物が有効であるかどうかを決定することを含む。例えば、方法99は、以前のLAP及びRAP値を、薬物が投与された後に取られた新しいLAP及びRAP値と比較することを含むことができる。比較の結果、投与された薬剤が無効であることを示すように状況の変化が不十分であることが示されたならば(例えば、LAP又はRAPが依然として正常よりも低く、薬物療法がそれを正常レベルに向かって増加させないならば、又は、LAP又はRAPが依然として正常よりも高く、薬物療法がそれを正常レベルに向かって低下させないならば)、医療サービス提供者は、調整治療のために患者を連れて来ることができ、及び/又は、モニタリングシステム72は、メッセージ又は他の通信を提供することができ、工程98でさらなる診断/治療が必要であることを指示する。薬物の有効性の欠如の可能性は、緊急性の増加の兆候であるか、さもなければ即時の医療処置が必要である可能性がある。そうでなければ、投与された薬物がLAP及びRAPを公称レベル又は所望レベルに向かって動かすのに明らかな有効性を示しているならば、方法は工程92に戻り、モニタリングシステム72は、患者の健康を評価するための新しい測定値を受け取り、評価し続ける。
【0111】
心機能を評価する際に少なくとも2セットの測定データ(この例において、LAP及びRAP測定)を使用することは様々な理由で1セットの測定データのみを用いた従来の方法よりも有利であり、第二のセットはより正確な根本原因の診断及び治療を促進するのに役立つことを含む。
【0112】
別の実施形態において、方法99は、実際に測定されたLAP及びRAP値を使用する代わりに、LAP/RAPの比(又はRAP/LAPの比)を使用して、どの薬物をどの量で投与するかを決定できるようにプログラムされうる。この方法は、左心房及び右心房内の圧力が健康な心臓に望ましい比率(例えば、2:1のLAP:RAP)に対応するべきであるという理解に基づくことができ、したがって、LAP/RAPの理想的な比率を決定することができ(例えば、2:1の圧力の理想的な比率が望ましい)、そして所望の比率(例えば、2:1)よりも有意に小さい又は大きい任意の比率は、患者の健康に脅威をもたらすであろう。
【0113】
幾つかの例において、LAP/RAPの比がしきい値を超え(すなわち、LAPがRAPよりはるかに高い)、LH不全の病歴を有する患者において増加し続けるならば、この方法は、投与される血管拡張剤の量を増加させるべきであるという決定を含むことができる。そのような決定をトリガーするLAP/RAPのしきい値比率値は、医療サービス提供者によって決定されそして定期的に更新されることができる(例えば、患者に対して行う検査の後)。言い換えれば、様々な方法は、「正常な」ベースライン比の範囲を決定する1人以上の医療サービス提供者を含み、それは次に、投薬管理参照表で使用される。あるいは、適切なベースラインに関して、一般化された一連のガイドラインは医療サービス提供者に提供されうる。
【0114】
方法99は、薬理学的又は投薬計画をどれだけ増加又は減少させる必要があるかに関してより具体的に調整することができ、これはLAP及びRAPがどれだけ正常レベルより高い又は低い傾向にあるかに基づいて変化されうる。これは、投与される薬剤の量を示す別の表又は表100内の一連のガイドラインを実施することによって行うことができる(例えば、直接の医療サービス提供者の介入を必要とせずに患者に合わせて治療投与量を調整できるようにする)。表100は、例えば、特定のセットの生理学的測定及び表100の関連するガイダンスによって示されるように、ベータ遮断薬及び変力薬などの様々な医学的推奨/指示のいずれかを含むことができる。選択する薬剤及びその投与量、投与する必要のある薬剤の種類(例えば、利尿剤又は血管拡張剤)及びその投与量は、例えば、コンピューターのスクリーン又は患者により使用されるスマートフォンのディスプレイ上に表示されうる。
【0115】
上で参照したように、測定データ及び関連するモニタリング及び治療方法は、必ずしもLAP及びRAP測定に限定されない。幾つかの例において、追加又は代替の場所(例えば、肺動脈、心室、肺静脈、大動脈など)及び/又は追加又は代替の測定基準(例えば、温度及び/又は酸素飽和度)を、モニタリング及び治療方法、例えば、方法99の実施に利用することができる。
【0116】
上記に説明したように、方法99は、手動で行うことができ、又は、測定デバイス41から測定データを受信及び処理することができる任意のデバイスを使用して部分的又は完全に自動化することができる。例えば、方法99は、測定システム41からLAP及びRAP測定データを受信した後にすべての比較、計算及び決定を行うモニタリングシステム72(例えば、スマートデバイス)において全体として行うことができる。幾つかの例において、この方法は、モニタリングシステム72において部分的に、そして通信リレー70において部分的に行われることができ、前記通信リレーはセンサからLAP及びRAP測定データを受信し、LAP及びRAPが正常レベルより高い/正常レベルである/正常レベルより低いかどうか、そして減少/定常/増加しているかどうかを決定し、次いでこの情報を遠隔デバイス72に送信して、残りの方法を行うための処理ユニットを含むことができる。さらに別の例において、皮下インプラント83は、方法の一部又は全体を行うようにプログラムされうる。
【0117】
さらに別の例において、方法99は、方法の結果に従って患者が薬物を投与することを可能にするユーザインターフェースを備えたデバイスにおいて実施されうる。この方法は、各患者の必要な記録を追跡し続ける医療サービス提供者の電子健康記録(EHR)又は電子医療記録(EMR)システムにおいて行うこともできる。そのため、EHR又はEMRシステムは、局所又は遠隔データベースを使用して、とりわけ、患者のLH又はRH/両心室不全の履歴及び医療サービス提供者が患者をそのような不全のリスクがあると認められたかどうかにアクセスできる。この方法から得られたデータは、ユーザ(例えば、患者及び医療サービス提供者)の複数の選択肢とともに、ユーザインターフェースのダッシュボードに表示され、これは、LAPとRAPの平均、傾向矢印、経時的な線グラフ、波形などを含み、また、患者が取った薬物の履歴などを含むことができる。ダッシュボードはまた、ユーザが最初に平均及び傾向などの最も意味のある情報を引き出し、次に、波形などのさらに詳細な分析を掘り下げることができるように構成されうる。これは、各選択肢の重要性に基づいて階層的に複数の選択肢を編成することで行うことができる。1つの例において、選択肢のこの階層的順序は、最も好ましい情報を最初に引き出すことができるように、ユーザの選好に従ってカスタマイズ可能である。
【0118】
当業者は、本開示の様々な態様が、意図された機能を発揮するように構成された任意の数の方法及び装置によって実現されうることを容易に理解するであろう。本明細書で参照される添付の図面は、必ずしも一定の縮尺で描かれているわけではなく、本開示の様々な態様を例示するために誇張されていることがあり、その点で、図面は限定として解釈されるべきではないことにも留意されたい。
【0119】
本出願の発明は、一般的に及び特定の実施形態に関して両方で上記に記載されてきた。本開示の範囲から逸脱することなく、実施形態において様々な変更及び変形を行うことができることは当業者に明らかであろう。したがって、実施形態は、それらが添付の特許請求の範囲及びそれらの均等形態の範囲内に入るかぎり、本発明の変更及び変形を網羅することが意図されている。
(態様)
(態様1)
患者への薬物の投与を決定するための医療システムであって、
心臓の右側で生理学的測定の第一のセット及び心臓の左側で生理学的測定の第二のセットを行うように構成された複数のセンサ、及び、
生理学的測定の第一のセット及び第二のセットに関する測定データを受信し、受信された測定データを表示デバイスに出力するように構成されたレシーバ、
を含む、医療システム。
(態様2)
受信された測定データを格納するように構成されたメモリユニット、及び、
受信された測定データに基づいて、測定の第一のセット及び第二のセットのそれぞれが、より低い傾向であるか又はより高い傾向であるかを決定するように構成されたコントローラ、
をさらに含む、態様1記載の医療システム。
(態様3)
前記コントローラは、受信された測定データに基づいて薬理学的治療計画を変更するかどうかを決定するようにさらに構成されている、態様2記載の医療システム。
(態様4)
前記コントローラはインプラント可能な測定デバイスに結合されている、態様2~3のいずれか1項記載の医療システム。
(態様5)
前記コントローラは、患者の外部に配置されるように構成されたモニタリングシステムに関連付けられている、態様2~4のいずれか1項記載の医療システム。
(態様6)
前記生理学的測定は血圧測定を含む、態様1~5のいずれか1項記載の医療システム。
(態様7)
前記生理学的測定は血液温度及び酸素飽和度測定うちの少なくとも1つを含む、態様1~6のいずれか1項記載の医療システム。
(態様8)
患者の心不全状態を評価する方法であって、
患者の心臓の右側で行われる生理学的測定の第一のセットに基づく第一の測定データを受信すること、
心臓の左側で行われる生理学的測定の第二のセットに基づく第二の測定データを受信すること、及び、
受信された第一の測定データ及び第二の測定データを表示デバイスに出力すること、
を含み、
前記第一の測定データは、インプラントされた測定システムから送信され、
前記第二の測定データは、インプラントされた測定システムから送信される、方法。
(態様9)
前記第一の測定データ及び第二の測定データに基づいて、生理学的測定の第一のセット及び第二のセットのそれぞれがより低い傾向であるか又はより高い傾向であるかを決定することをさらに含む、態様8記載の方法。
(態様10)
受信された第一の測定データ及び第二の測定データに基づいて薬理学的治療計画を変更するかどうかを決定することをさらに含む、態様8~9のいずれか1項記載の方法。
(態様11)
インプラントされた測定システムは複数のセンサを含み、生理学的測定の第一のセット及び第二のセットは前記複数のセンサを使用して行われる、態様8~10のいずれか1項記載の方法。
(態様12)
前記生理学的測定は血圧測定を含む、態様8~11のいずれか1項記載の方法。
(態様13)
前記生理学的測定は血液温度及び酸素飽和度測定のうちの少なくとも1つを含む、態様8~12のいずれか1項記載の方法。
(態様14)
前記センサは左心房及び右心房において血圧測定を行う、態様12~13のいずれか1項記載の方法。
(態様15)
前記生理学的測定の第一のセット及び第二のセットがどのように傾向を示しているかの決定に基づいて、どの推奨投薬及びその投与量であるかについての指示を表示すること、をさらに含む、態様8~14のいずれか1項記載の方法。
(態様16)
患者の薬理学的管理への変更を通知する方法であって、
患者の心臓の右側充満圧を表す血行動態的測定の第一のセットに基づいて第一の測定データを取得すること、
患者の心臓の左側充満圧を表す血行動態的測定の第二のセットに基づいて第二の測定データを取得すること、及び、
前記第一の測定データ及び第二の測定データに基づいて、生理学的測定の第一のセット及び第二のセットのそれぞれが、より低い傾向であるか又はより高い傾向であるかを決定すること、
を含み、
前記第一の測定データは、インプラントされた測定システムから送信され、
前記第二の測定データは、インプラントされた測定システムから送信される、方法。
(態様17)
患者は心不全、腎不全又はその両方に罹患している、態様16記載の方法。